(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】画像処理装置、その制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
B41J2/01 205
B41J2/01 207
(21)【出願番号】P 2020063628
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武末 直也
(72)【発明者】
【氏名】石川 尚
【審査官】佐藤 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-071568(JP,A)
【文献】特開平06-297728(JP,A)
【文献】特開2012-045831(JP,A)
【文献】特開2012-061663(JP,A)
【文献】特開2003-136764(JP,A)
【文献】特開2005-014617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するノズルが一方向に複数配列されたノズル列を備えた記録ヘッドを用いて記録媒体上に印刷を行うための画像処理装置であって、
前記ノズル列を構成するノズルのうちインクを正常に吐出できない不吐ノズルを検出する検出手段と、
入力階調値における目標濃度を実現するための出力階調値をノズル毎に規定する濃度補正情報であって、前記
検出手段により前記不吐ノズルが検出されない状態で取得された各ノズルの濃度補正情報を保持する保持手段と、
前記濃度補正情報で規定されている出力階調値のうち、
前記検出手段により検出された前記不吐ノズルと前記不吐ノズルと前記不吐ノズルに隣接するノズルとに対応する出力階調値を、前記不吐ノズルと前記不吐ノズルに隣接するノズルとによる記録に対応する前記記録媒体上の領域の平均濃度が目標濃度に近づくよう変更する変更手段と、
前記変更された濃度補正情報を用いて、印刷対象の画像データの階調値
または閾値マトリクスの閾値を補正する補正手段と、
を備えたことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記
不吐ノズルに隣接するノズルは、
前記検出手段により検出された前記不吐ノズルに隣接する左右のノズルであり、
前記変更手段は、前記濃度補正情報で規定されている出力階調値のうち、前記
検出手段により検出された前記不吐ノズルに対応する出力階調値を0に変更し、
当該不吐ノズルに割り当てられていた出力階調値を、前記左右のノズルの出力階調値に分配する、
ことを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記変更手段は、階調値に応じた分配比率を規定する分配比率情報に基づいて、前記分配を行うことを特徴とする請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記分配比率情報においては、前記記録ヘッドを用いて出力されたチャートのスキャン画像に対して空間フィルタを適用した場合の濃度が均一となるように、階調値に応じた分配比率が規定されている、ことを特徴とする請求項3に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記チャートは、
異なる階調の、前記ノズル列の方向に延びる複数のパッチを含み、
各パッチには、前記ノズル列における特定のノズルに対応する位置においてドットが形成されない部分を少なくとも含む、
ことを特徴とする請求項4に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記検出手段による検出結果に基づき、前記印刷の結果においてオブジェクトの形状が維持されるように、前記印刷対象の画像データにおける
前記検出手段により検出された前記不吐ノズルに対応する画素ラインの画素値を、当該不吐ノズルに隣接する代替ノズルに対応する画素ラインの画素値と交換する交換手段をさらに備え、
前記補正手段は、前記交換手段によって画素値交換がなされた後の印刷対象の画像データに対し、前記補正を行う、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記代替ノズルは、前記
検出手段により検出された前記不吐ノズルに隣接する左右のノズルのうちいずれか一方のノズルであることを特徴とする請求項6に記載の画像処理装置。
【請求項8】
インクを吐出するノズルが一方向に複数配列されたノズル列を備えた記録ヘッドを用いて記録媒体上に印刷を行う画像形成装置のための画像処理装置であって、
前記ノズル列を構成するノズルのうちインクを正常に吐出できない不吐ノズルを検出する検出手段と、
前記画像形成装置から出力された複数のパッチからなる第1チャートのスキャン画像に基づき、各ノズルの特性を示すノズル列特性を取得する取得手段と、
前記画像形成装置から出力された複数のパッチからなる第2チャートのスキャン画像に基づき、前記
不吐ノズルの発生によって濃度が低下する度合を示すテンプレートを作成する作成手段と、
前記印刷における濃度ムラを低減させるための濃度補正情報を生成する生成手段と、
前記濃度補正情報を用いて、印刷対象の画像データの階調値
または閾値マトリクスの閾値を補正する補正手段と、
を備え、
前記第1チャート及び前記第2チャートは、異なる階調の、前記ノズル列の方向に延びる複数のパッチを含み、
前記第2チャートの各パッチには、前記ノズル列における特定のノズルに対応する位置においてドットが形成されない部分を少なくとも含み、
前記生成手段は、
前記取得手段が取得したノズル列特性に対し、前記検出手段が検出した不吐ノズルの位置に応じて前記テンプレートを適用して、前記
不吐ノズルの発生による濃度が低下する度合いを含むノズル列特性を取得し、
取得した前記
不吐ノズルの発生による濃度が低下する度合いを含むノズル列特性に基づき、入力階調値における目標濃度を実現するための出力階調値をノズル毎に規定する濃度補正情報を生成する、
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項9】
前記生成手段は、
前記テンプレートを、前記取得手段が取得したノズル列特性に足し合わせることで、前記検出手段が検出した不吐ノズルの影響を含んだノズル列特性を取得し、
取得したノズル列特性から前記濃度補正情報を生成する、
ことを特徴とする請求項8に記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記ノズル列特性が規定する各ノズルの特性は濃度特性であり、
前記テンプレートでは、前記不吐ノズルに対する相対的なノズル位置と濃度低下量とが対応付けられており、
前記生成手段は、
前記取得手段が取得したノズル列特性にてその濃度特性が規定される各ノズルに対し、前記検出手段によって不吐ノズルとして検出されたノズルとの相対的な位置関係に基づき、対応付けられている濃度低下量だけ濃度を低下させたノズル列特性を求め、
求めたノズル列特性から前記濃度補正情報を生成する、
こと特徴とする請求項9に記載の画像処理装置。
【請求項11】
前記第2チャートには、前記不吐ノズルを検出するためのパターンをさらに含み、
前記検出手段は、前記画像形成装置から出力された前記第2チャートのスキャン画像における前記パターンを解析して前記不吐ノズルを検出し、
前記作成手段は、前記検出手段にて検出された不吐ノズルに基づき、前記テンプレートを作成する、
ことを特徴とする請求項8乃至10のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項12】
インクを吐出するノズルが一方向に複数配列されたノズル列を備えた記録ヘッドを用いて記録媒体上に印刷を行う画像形成装置のための画像処理装置であって、
前記ノズル列を構成するノズルのうちインクを正常に吐出できない不吐ノズルを検出する検出手段と、
前記画像形成装置から出力された、複数のチャートのスキャン画像に基づき、各ノズルの特性を示すノズル列特性、及び、前記不吐ノズルが及ぼす影響を示すテンプレートを作成する作成手段と、
前記印刷における濃度ムラを低減させるための濃度補正情報を生成する生成手段と、
前記濃度補正情報を用いて、印刷対象の画像データの階調値を補正する補正手段と、
を備え、
前記複数のチャートそれぞれは、異なる階調の、前記ノズル列の方向に延びる複数のパッチを含み、
各パッチには、前記ノズル列における特定のノズルに対応する位置においてドットが形成されない部分を少なくとも含み、
前記ドットが形成されない部分は、前記複数のチャートそれぞれで異なっており、
前記生成手段は、
前記複数のチャートのスキャン画像それぞれから、各ノズルの特性を示すノズル列特性を取得し、
取得した複数のノズル列特性からノズル毎に最も濃い濃度特性を選択、あるいは、ノズル毎に濃度が濃い方から順に所定の数だけ平均することによって、不吐ノズルの影響を含まないノズル列特性を生成し、
生成した前記不吐ノズルの影響を含まないノズル列特性に対し、前記検出手段が検出した不吐ノズルの位置に応じて前記テンプレートを適用して、前記不吐ノズルの影響を含むノズル列特性を取得し、
取得した前記不吐ノズルの影響を含むノズル列特性に基づき、入力階調値における目標濃度を実現するための出力階調値をノズル毎に規定する濃度補正情報を生成する、
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項13】
インクを吐出するノズルが一方向に複数配列されたノズル列を備えた記録ヘッドを用いて記録媒体上に印刷を行うための画像処理装置の制御方法であって、
前記画像処理装置は、入力階調値における目標濃度を実現するための出力階調値をノズル毎に規定する濃度補正情報であって、
インクを正常に吐出できない不吐ノズルが検出されない状態で取得された各ノズルの濃度補正情報を保持しており、
前記ノズル列を構成するノズルのうちインクを正常に吐出できない不吐ノズルを検出する検出ステップと、
前記濃度補正情報で規定されている出力階調値のうち、
前記検出ステップにて検出された前記不吐ノズルと前記不吐ノズルと前記不吐ノズルに隣接するノズルとに対応する出力階調値を、前記不吐ノズルと前記不吐ノズルに隣接するノズルとによる記録に対応する前記記録媒体上の領域の平均濃度が目標濃度に近づくよう変更する変更ステップと、
前記変更された濃度補正情報を用いて、印刷対象の画像データの階調値
または閾値マトリクスの閾値を補正する補正ステップと、
を含むことを特徴とする制御方法。
【請求項14】
コンピュータを、請求項1乃至12の何れか一項に記載の画像処理装置の各手段として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出して画像を形成する際に生じる濃度ムラやスジを低減するための画像処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のインク吐出口(ノズル)が配列されたノズル列を有する記録ヘッドと記録媒体とを相対移動させつつ、個々のノズルからインク滴を吐出することで、記録媒体上に所望の画像を形成するインクジェット記録装置が用いられている。インクジェット記録装置で用いられる記録ヘッドは、その製造上の誤差などの原因によって複数のノズル間で吐出量にばらつきを持つことがある。このような吐出量のばらつきがあると、形成される画像に濃度ムラが生じる場合がある。
【0003】
従来、このような濃度ムラを低減する処理として、HS(Head Shading)技術が知られている。HS技術では、ノズル個々の吐出量に関する情報(ノズル特性)に応じて、最終的に形成されるインクドットの数あるいはサイズを増加または減少させ、形成画像に生じる濃度ムラを低減する。上記ノズル特性を取得する際には、例えば、階調毎の均一濃度のパッチから成るチャートを紙面上に印刷し、印刷結果をスキャナで読み取り、読み取った画像を解析する方法が一般的に用いられる。
【0004】
一方、記録ヘッド内の複数のノズルにおいて、インク滴を吐出不能な不吐ノズルが発生することがある。このような不吐ノズルに起因する画像上の白スジを抑制する技術として、不吐補完処理が知られている。不吐補完処理では、不吐ノズルが形成するべきインク滴を他のノズルで補って形成することで、白スジを抑制する。特許文献1には、取得したノズル特性に基づき、不吐ノズルの分をその周辺ノズルによって補完する技術が記載されている。
【0005】
上記濃度ムラ補正処理と不吐補完処理はそれぞれ独立した処理であるところ、不吐ノズルとその周辺ノズルに対応する領域において両処理が重複する結果、当該領域において補正が過剰となり、黒スジや濃度ムラが発生することが知られている。この点、特許文献2には、不吐ノズルの情報に基づいて濃度分布測定用チャートの読み取りデータを修正し、修正後の読み取りデータに基づいて濃度ムラ補正のための補正値を算出することで、黒スジや濃度ムラを抑制する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-71474号公報
【文献】特開2012-147126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
不吐ノズルは、メンテナンスモード等において記録ヘッドのクリーニング処理を行うことで、正常ノズルへと回復する場合がある。その一方で、印刷処理の実行中に不吐ノズルが突発的に発生することもある。そのため、上記特許文献2の手法で良好な印刷結果を維持しようとした場合には、不吐ノズルを考慮した濃度ムラ補正のための補正値算出を頻繁に行う必要がある。しかしながら、上記補正値算出には多くの時間と手間を要すため、これを頻繁に行うと印刷の生産性が低下してしまうことになる。
【0008】
そこで本開示の技術は、濃度ムラ補正のための補正値算出に伴う印刷の生産性低下を抑制しつつ、高精度な濃度ムラ補正を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る画像処理装置は、インクを吐出するノズルが一方向に複数配列されたノズル列を備えた記録ヘッドを用いて記録媒体上に印刷を行うための画像処理装置であって、前記ノズル列を構成するノズルのうちインクを正常に吐出できない不吐ノズルを検出する検出手段と、入力階調値における目標濃度を実現するための出力階調値をノズル毎に規定する濃度補正情報であって、前記検出手段により前記不吐ノズルが検出されない状態で取得された各ノズルの濃度補正情報を保持する保持手段と、前記濃度補正情報で規定されている出力階調値のうち、前記検出手段により検出された前記不吐ノズルと前記不吐ノズルと前記不吐ノズルに隣接するノズルとに対応する出力階調値を、前記不吐ノズルと前記不吐ノズルに隣接するノズルとによる記録に対応する前記記録媒体上の領域の平均濃度が目標濃度に近づくよう変更する変更手段と、前記変更された濃度補正情報を用いて、印刷対象の画像データの階調値または閾値マトリクスの閾値を補正する補正手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本開示の技術によれば、濃度ムラ補正のための補正値算出に伴う印刷の生産性低下を抑制しつつ、高精度な濃度ムラ補正を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】画像形成システムのハードウェア構成を示す図
【
図4】不吐ノズル検出処理の流れを示すフローチャート
【
図6】実施形態1に係る、濃度補正情報生成処理の流れを示すフローチャート
【
図8】補正テーブル作成処理の流れを示すフローチャート
【
図9】(a)及び(b)は、入力階調値に対する補正値の導出方法を説明する図
【
図10】画像形成システムにおける印刷処理の流れを示すフローチャート
【
図11】(a)及び(b)は、補正テーブルの変更を説明する図
【
図13】補正値の分配比率決定処理の流れを示すフローチャート
【
図15】階調値に応じた分配比率の一例を示すグラフ
【
図17】(a)は不吐影響取得用チャートの一例を示す図、(b)は不吐影響テンプレートの特性の一例を示す図
【
図18】実施形態3に係る、画像形成システムにおける全体の処理の流れを示すフローチャート
【
図20】(a)は不吐影響テンプレートを適用する前のノズル列特性を示す図、(b)は不吐影響テンプレートを適用した後のノズル列特性の一例を示す図
【
図22】実施形態5に係る、印刷処理の流れを示すフローチャート
【
図23】画素値交換処理の詳細を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施形態について、図面を参照して説明する。尚、以下の実施形態は本発明を必ずしも限定するものではない。また、本実施形態において説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0013】
[実施形態1]
本実施形態においては、不吐ノズルを検出可能なパターンを付した所定チャートを用い、不吐ノズルが検出されなくなるまで、記録ヘッドのクリーニング処理と当該所定チャートの出力を繰り返して、不吐ノズルの影響を含まない補正テーブルを得る。そして、印刷処理を実行する際には所定のタイミングで不吐ノズル検出処理を行い、不吐ノズルが検出された場合には補正テーブルを適宜修正することで、不吐ノズルによる白スジの発生を抑制する。
【0014】
<画像形成システムのハードウェア構成>
図1は、本実施形態に係る、画像形成システム10のハードウェア構成を示す図である。本実施形態における画像形成システム10は、画像処理装置11、画像形成装置12、入力装置13、表示装置14、外部記憶装置15を有する。以下、画像形成システム10の構成要素について説明する。
【0015】
画像処理装置11は、CPU100、RAM101、ROM102、画像処理モジュール106、外部I/F(インタフェース)110、バス111を備え、いわゆる画像処理コントローラとして機能する。また、画像処理装置11は、外部I/F110を介して入力装置13、表示装置14、外部記憶装置15に接続される。
【0016】
CPU(Central Processing Unit)100は、入力されたデータやRAM101、ROM102に格納されているコンピュータプログラムを用いて、画像形成システム10全体の動作を制御する。なお、ここでは、CPU100が画像形成システム10全体を制御する場合をその一例として説明するが、複数のハードウェアが処理を分担することにより、画像形成システム10全体を制御するようにしてもよい。
【0017】
RAM(Random Access Memory)101は、外部記憶装置15から読み取ったコンピュータプログラムやデータ、外部I/F110を介して外部から受信したデータを一時的に記憶する。また、RAM101は、CPU100が各種の処理を実行するときに用いる記憶領域や画像処理モジュール106が画像処理を実行するときに用いる記憶領域として使用される。ROM(Read Only Memory)102は、画像処理装置11内各部の設定パラメータやブートプログラム等を記憶する。
【0018】
画像処理モジュール106は、コンピュータプログラムを実行可能なプロセッサや専用の画像処理回路によって実現され、印刷対象として入力された画像データを画像形成装置12が出力可能な画像データに変換するための各種画像処理を実行する。なお、画像処理モジュール106として専用のプロセッサを用意するのではなく、CPU100が画像処理モジュール106として各種画像処理を行う構成でもよい。
【0019】
外部I/F110は、画像処理装置11と、画像形成装置12、入力装置13、表示装置14および外部記憶装置15とを接続するためのインタフェースである。また、外部I/F110は、赤外線通信や無線LAN或いはインターネット等を用いて不図示の外部装置とデータのやりとりをするための通信インタフェースとしても機能する。
【0020】
入力装置13は、例えばキーボードやマウス等であり、操作者による操作(指示)を受け付ける。操作者は、入力装置13を介して、各種指示をCPU100に対して入力することができる。表示装置14は、例えばCRTや液晶ディスプレイ等であり、CPU100による処理結果を画像や文字等で表示する。なお、表示装置14がタッチ操作を検知可能なタッチパネルである場合、表示装置14が入力装置13の一部として機能してもよい。
【0021】
外部記憶装置15は、例えばHDDやSSDといった大容量情報記憶装置である。外部記憶装置15には、OSやCPU100に各種処理を実行させるためのコンピュータプログラムやデータ等が保存されている。また、外部記憶装置15は、入出力される画像データや各部の処理によって生成される一時的なデータを記憶する他、各種テーブル等の保持も行う。例えば、画像処理モジュール106で用いられる色変換テーブル、閾値マトリクス、各ノズルのインク吐出に関する情報、濃度特性取得用及び不吐ノズル検出用の各チャート画像データ等が保持される。外部記憶装置15に記憶されているコンピュータプログラムや各種データは、CPU100による制御に従って適宜読み取られ、RAM101に記憶されてCPU100による処理対象となる。
【0022】
画像形成装置12は、印刷モジュール107、イメージセンサ108、メンテナンスモジュール109、外部I/F112、バス113、RAM114を備える。
【0023】
外部I/F112は、画像形成装置12を画像処理装置11に接続するためのインタフェースである。RAM114は、処理中のデータ等の記憶に使用され、例えば画像処理装置11から取得した印刷出力用の画像データ(ハーフトーン画像データ)を一時的に記憶する。印刷モジュール107は、RAM114に記憶されたハーフトーン画像データに基づいて、インクジェット方式にて記録媒体上に画像を形成する。ハーフトーン画像データは、画像処理装置11の画像処理モジュール106から直接、あるいは外部記憶装置15から読み込んで取得する。印刷モジュール107が備える記録ヘッドは、インクを吐出可能なノズル(記録素子)を一方向に複数配列した、インク色に応じた数のノズル列(記録素子列)を有する。
図2は、記録ヘッドの構成例を示す図である。なお、カラー印刷に対応した画像形成システムの場合、記録ヘッドは典型的にはシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の各インクに対応した4つのノズル列を搭載する。
図2では、説明の簡易化のため、ブラック(K)のノズル列のみ図示されている。
図2に示す記録ヘッドは、ノズル列平行方向(x方向)に、描画領域の全幅をカバーする長尺のラインヘッドである。記録ヘッドは駆動信号に基づき、記録媒体をノズル列平行方向と垂直なノズル列垂直方向(y方向)に相対移動させつつインク滴を吐出してドットを生成することにより、記録媒体上に画像を形成する。
図2では、ノズル位置番号が7番のノズルが不吐ノズルとなったことを×印で表している。なお、本明細書において、用語「不吐ノズル」はインクを正常に吐出できない状態のノズル全般を意味するものとし、目詰まり等によってインクを全く吐出できない状態のノズルに加え、適切な量のインクを適切な位置に吐出できないノズルを含むものとする。
【0024】
イメージセンサ108は、印刷モジュール107によって記録媒体上に形成された画像を撮像するためのセンサであり、例えばラインセンサやエリアセンサである。イメージセンサ108は、撮像画像から不吐ノズルを検出する手段及び各ノズルのインク吐出特性を取得する手段として機能する。なお、イメージセンサ108は画像形成装置12内に設けられている必要はなく、例えば、画像処理装置11の外部I/F110を介して接続された不図示のインラインスキャナやオフラインスキャナであってもよい。
【0025】
メンテナンスモジュール109は、印刷モジュール107が備える記録ヘッドのノズル目詰まりを除去して回復させるためのクリーニング処理を行う。クリーニング処理の方法には、例えば、記録ヘッドを廃インクの吸収体(スポンジなど)がある位置まで移動させて、ノズル列内の各ノズルから一定量のインクを強制的に吐出させるといった方法がある。また、インクタンク側からインクを加圧して強制的にインクを押し出す方法がある。あるいは、ノズルの外部から負圧を与えてインクを強制的に吸引して目詰まりを除去する方法がある。本実施形態の画像形成装置12は、上記いずれかの方法による自動クリーニング機構を備えているものとする。
【0026】
<画像処理モジュール106の機能構成>
次に、
図3を用いて、画像処理モジュール106の機能構成について説明する。画像処理モジュール106は、色変換処理部301、補正処理部302、HT処理部303、不吐ノズル検出部304、濃度補正値導出部305を有する。なお、画像処理モジュール106において扱われる画像データの解像度は記録ヘッドのノズル配置の解像度と同一であり、例えば1200dpiである。以下、各部について説明する。
【0027】
色変換処理部301は、外部記憶装置15からの入力画像データを、印刷モジュール107の色再現域に対応した画像データに変換する。入力画像データは、本実施形態では、モニタの表現色であるsRGB等の色空間座標中の色座標(R,G,B)を示す8ビットの画像データである。色変換処理部301は、RGB各8ビットの入力画像データを、プリンタの色再現域に対応したR’G’B’各8ビットの画像データに変換する。この変換には、マトリクス演算処理や三次元ルックアップテーブルを用いた処理等の公知の手法を用いることができる。さらに、色変換処理部301は、変換後のR’G’B’各8ビットの画像データに対して、プリンタで用いる複数のインクに対応した色信号に変換する変換処理を行う。印刷モジュール107が、例えばブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)のインクを用いる場合には、CMYK各8ビットの画像データに変換される。この色変換も、上述のRGBからR’G’B’への変換と同様、三次元ルックアップテーブルに補間演算を併用して行う。なお、他の変換の手法として、上述と同様、マトリクス演算処理等の手法を用いることもできる。
【0028】
補正処理部302は、ノズル単位の濃度補正情報に基づき、色変換処理後のCMYKの色版毎の画像データに対して、ノズル特性の違いによる濃度ムラ、不吐ノズルによる白スジの両方を低減するための補正処理を行う。補正処理の詳細は後述する。
【0029】
HT処理部303は、補正処理後の画像データあるいは外部記憶装置15に記憶された多階調の画像データに対して、印刷モジュール107が表現可能な階調数への変換、並びにドット配置を決定するためのハーフトーン処理を行う。本実施形態のHT処理部303は、1画素当たり8ビットの画像データを、画素毎に“0”か“1”のいずれかの値を有する1ビット2値のハーフトーン画像データ(出力画像データ)に変換する。このハーフトーン画像データにおいて、画素値(出力値)が“0”である画素はドットのオフを、画素値(出力値)が“1”である画素はドットのオンを表す。なお、ハーフトーン処理には誤差拡散法やディザ法といった公知の手法を適用可能である。ハーフトーン処理によって生成されたハーフトーン画像データは、直接、あるいはRAM101や外部記憶装置15を介して、画像形成装置12内の印刷モジュール107へと順次受け渡される。
【0030】
不吐ノズル検出部304は、印刷モジュール107から出力された不吐ノズル検出用チャートの印刷結果に基づき、各ノズル列においてインクの吐出不良が生じている不吐ノズル(そのノズル位置番号)を特定する。なお、不吐ノズル検出用チャートは、インク色毎(すなわち、ノズル列毎)に印刷出力される。例えば、印刷モジュール107がCMYKの4種類のインクを用いる場合には、各インクについて不吐ノズル検出用チャートをそれぞれ出力し、CMYKの色毎(ノズル列毎)に不吐ノズルを特定する。不吐ノズルを検出する処理の詳細は後述する。各インク色で処理内容は共通であるため、以下では、Kインクのノズル列を例に説明を行うものとする。
【0031】
濃度補正情報生成部305は、濃度特性取得用チャートを読み取ったスキャン画像に基づき、印刷結果において濃度ムラが低減されるような入力階調値に対する出力階調値(濃度補正値)を、ノズル列を構成するノズル単位で規定した濃度補正情報を生成する。ここで、濃度特性取得用チャートには、ノズル毎の特性を取得するための、濃度を段階的に異ならせた均一濃度のパッチが少なくとも含まれる。なお、この濃度特性取得用チャートも、インク色毎に印刷出力される。例えば、印刷モジュール107がCMYKの4種類のインクを用いる場合には、各インク色について専用チャートをそれぞれ出力し、CMYKそれぞれのノズル列におけるノズル毎に補正値が導出されて、濃度補正情報が生成されることになる。濃度補正情報生成処理の詳細は後述する。濃度補正情報生成処理も不吐ノズル検出処理と同様、各インク色(各ノズル列)で処理内容は共通であるため、以下では、Kインクのノズル列を例に説明を行うものとする。
【0032】
なお、画像処理モジュール106の構成要素は上述したものに限定されない。例えば、実施形態2における分配比率情報の生成、実施形態3における不吐影響テンプレートの作成、実施形態5における画素値の交換といった各処理を実行する専用の機能部を追加的に備えていてもよい。
【0033】
<不吐ノズル検出処理>
続いて、不吐ノズル検出部304によって実行される、各ノズル列における不吐ノズルを検出する処理の詳細について、
図4のフローチャートを参照して説明する。
【0034】
まず、S401にて、ハーフトーン処理済みの不吐ノズル検出用チャート画像のデータが外部記憶装置15から取得され、その印刷指示と共に印刷モジュール107に送信される。印刷指示を受けた印刷モジュール107では、チャート画像を用紙上に形成して出力する。
図5(a)は、不吐ノズル検出用チャート画像の一例を示している。
図5(a)のチャート画像は縦16画素×横16画素の構成であり、各画素の数値(“0”又は“255”)は階調値を示している。また、チャート画像の上部に付された0~15までの数字は各画素列に対応するノズル位置番号を示しており、
図2に示す記録ヘッドが備える各ノズル列におけるノズル位置番号との対応が取れているものとする。不吐ノズル検出用チャートは、ノズル単位でのインクの吐出の有無が判別可能なように、ライン状の矩形(
図5(a)の例では4画素で構成)が配置されている。
【0035】
次に、S402にて、印刷モジュール107から出力された不吐ノズル検出用チャートが、イメージセンサ108で読み取られる。
【0036】
そして、S403にて、S402で得られた不吐ノズル検出用チャートの読み取り画像(スキャン画像)に基づき、不吐ノズルの位置が特定される。
図5(b)は、ノズル位置が7番のノズルが不吐ノズルとして検出された場合のスキャン画像を模式的に示した図である。
図5(b)に示すように、不吐ノズルが存在すると、そのノズル位置において本来は形成されるべきラインが形成されない。このように形成されなかったラインについてノズル位置番号との対応を取ることで、各ノズル列における不吐ノズルの位置を特定することができる。
【0037】
以上が、不吐ノズル検出処理の内容である。
【0038】
<濃度補正情報生成処理>
次に、濃度補正情報生成部305によって実行される、濃度ムラを抑制するための補正処理で用いる補正テーブルを生成する処理の詳細を、
図6のフローチャートを参照して説明する。ここでは濃度補正情報として、段階的に変化する複数の入力階調値と補正値(出力階調値)とを対応付けたLUT(ルックアップテーブル)形式の補正テーブルを生成する場合を例に説明を行うものとする。ただし、LUT形式は一例であってこれに限定されず、ある入力階調値に対する補正値を数式や関数を用いて決めるような濃度補正情報であってもよい。
【0039】
まず、S601にて、ハーフトーン処理済みの濃度特性取得用チャート画像のデータが外部記憶装置15から取得され、その印刷指示と共に印刷モジュール107に送信される。印刷指示を受けた印刷モジュール107では、濃度特性取得用チャート画像を用紙上に形成して出力する。
図7は、本実施形態に係る濃度特性取得用チャートの一例を示している。本実施形態における濃度特性取得用チャート画像は、不吐検出領域701と濃度パッチ領域702の2種類の画像領域で構成される。不吐検出領域701は、不吐ノズルがあった場合にそのノズル位置番号を検出するための画像領域であり、例えば、前述の不吐検出用チャートと同一チャートであってもよい。濃度パッチ領域702は、記録ヘッドを構成する各ノズル列におけるノズル毎の濃度特性を取得するための画像領域である。
図7に示す濃度パッチ領域702では、濃度を9段階で異ならせた、均一濃度の9種類の矩形パッチが形成されることになる。
【0040】
次に、S602にて、印刷モジュール107から出力された濃度特性取得用チャートが、イメージセンサ108で読み取られる。濃度特性取得用チャートの読み取り画像(スキャン画像)の色空間は任意であるが、ここではRGBの3チャンネルの画像とする。そして、RGB3チャンネルのスキャン画像は、イメージセンサ108の読み取り特性に合わせて事前に用意された色変換テーブルにより1チャンネルのスキャン画像に変換されるものとする。ここで、色変換テーブルは、例えばCIEXYZ色空間におけるY値やCIEL*a*b*色空間におけるL*値といった、濃度に線形な値に変換するテーブルである。また、印刷出力されたチャート上の各パッチが、シアン、マゼンタ、イエロー等のカラーインクで形成されている場合には、明るさに相当する値ではなく彩度に相当する値を用いてもよい。例えば、シアン、マゼンタ、イエローそれぞれの補色に対応する値として、RGB値を用いてもよい。なお、本実施形態においてスキャン解像度は、記録ヘッドのノズル配置の解像度と同じ1200dpiとする。
【0041】
次に、S603にて、S602で得られた読み取り画像(スキャン画像)上の不吐検出領域701を解析し、不吐ノズルが検出されればそのノズル位置が特定される。不吐ノズルが検出された場合には、当該ノズルのノズル位置番号が不吐ノズル情報として外部記憶装置15に記憶される。なお、スキャン画像から不吐検出領域701を抽出する際には、例えば、パターンマッチングの手法や、位置マーカー(不図示)を用いた手法など公知の手法を適用すればよい。
【0042】
S604では、S603での不吐検出領域の解析結果に基づき、次の処理内容が決定される。解析の結果、不吐ノズルが検出された場合はS605へ進み、不吐ノズルが検出されなかった場合はS606に進む。
【0043】
S605では、メンテナンスモジュール109に対し、記録ヘッドを回復させるためのクリーニング処理の実行が指示される。そして、当該指示を受けたメンテナンスモジュール109において、クリーニング処理が実施される。それと共に、S602にて読み取った専用チャートのスキャン画像データが破棄される。クリーニング処理が終わると、S601へと戻り、S601~S604までの処理を再度繰り返す。すなわち、濃度特性取得用チャートの出力を行う都度、クリーニング処理を実行して不吐ノズルの回復が図られる。なお、S605におけるクリーニング処理の実行回数をカウントしておき、規定回数を超えた場合にエラーをユーザに通知し、例えば記録ヘッドを交換するまで濃度補正情報生成処理を停止するような構成としてもよい。
【0044】
S606では、S602で取得したスキャン画像に基づき、入力階調値に対応する補正値をノズル単位で算出し、不吐ノズルの影響を排除した補正テーブルを作成する処理が実行される。
図8は、補正テーブル作成処理の詳細を示すフローチャートである。以下、
図8のフローに沿って説明する。
【0045】
まずS801では、S602で取得した濃度特性取得用チャートのスキャン画像から濃度パッチ領域702が検出される。続くS802では、検出された濃度パッチ領域702から、各ノズルに対応する測定曲線が取得される。ここで測定曲線とは、スキャン画像上での各ノズルに対応する階調値と測定信号値との対応関係を示す曲線である。
図9(a)に測定曲線の例を示す。
図9(a)において横軸は濃度パッチ領域702の入力信号値(入力階調値)であり、縦軸はスキャン画像から測定された信号値(厳密には、RGB3チャンネルを、濃度を示す1チャンネルに変換後の値。以下、「測定値」と表記。)である。また、
図9(a)において破線901は横軸の上限値を示し、8bitの入力信号値であれば“255”である。そして、
図9(a)における曲線902が、濃度パッチ領域702の各階調値に対応する測定値とその補間演算の結果から得られた測定曲線を示している。本実施形態では補間方法として区分線形補間を用いる。ただし、補間方法は任意であり、公知のスプライン曲線などを用いてもよい。測定曲線902は、画素位置xに対応するノズルの濃度特性を表しており、濃度特性取得用のチャート画像を用紙上に形成する際に用いたノズル数分だけ得られることになる。ノズル毎に異なる測定曲線が得られ、インク吐出量の少ないノズルでは測定曲線が上方向に(明るい方向に)シフトし、インク吐出量の多いノズルでは測定曲線が下方向に(暗い方向に)シフトすることになる。次のS803では、各ノズルに対応する目標特性が取得される。ここで目標特性とは、各ノズルの測定曲線に応じて予め定められた目標となる濃度特性である。
図9(a)における直線903(階調に対して線形となる測定値の集合)が目標特性を示している。
【0046】
そして、S804にて、S802で取得した測定曲線とS803で取得した目標特性に基づいて、各階調値に応じた補正値が、ノズル単位で決定される。
図9(b)は、補正値の求め方を説明する図である。まず、導出対象となる注目ノズルのノズル位置番号と、補正値を求めたい入力階調値を取得する。
図9(b)において、横軸上の点904が入力階調値を示している。次に、入力階調値904に対応する目標濃度値を、目標特性903から求める、
図9(b)において、縦軸上の点905が、入力階調値904と目標特性903とから求めた目標濃度値を示している。そして、注目ノズルの測定曲線902から、目標濃度値905に対応する階調値を求め、入力階調値904に対応する補正値(出力階調値)として決定する。
図9(b)において、横軸上の点906が、入力階調値904に対応する補正値(出力階調値)906を示している。このような処理を予め定めた複数の階調値について行うことで、所定の入力階調値に出力階調値(補正値)を対応付けた、注目ノズルについての補正テーブルが得られる。なお、0~255のすべての入力階調値に対応する個別の補正値を求める代わりに、代表的な階調値(例えば濃度パッチに対応した9個の階調値)に対応する補正値だけを求めてもよい。その場合には、補正テーブルを使用した補正処理を行う際に、テーブル内に規定されていない入力階調値については、補間処理によって対応する補正値を求めればよい。
【0047】
上述の処理が各ノズル列のすべてのノズルについて完了すると、作成された補正テーブルが外部記憶装置15に記憶され、本処理を終了する。
【0048】
以上が、濃度補正情報生成処理の内容である。補正テーブルの作成は、ユーザ指示に基づく印刷処理の実行開始前に終了しておく必要があり、システム出荷時や記録ヘッド取り付け時に行われる。また、記録ヘッド交換時などユーザが指定する所定のタイミングで補正テーブルの作成・更新が行われる。あるいは、任意のタイミングで補正テーブルの評価を行い、ノズル特性が変化するなどして適正な補正値からずれが生じていたら補正テーブルを更新するようにしてもよい。
【0049】
<印刷処理の流れ>
続いて、画像形成システム10における印刷処理の流れについて、
図10に示すフローチャートに沿って説明する。この印刷処理の過程で、上述の方法で作成された補正テーブルを用いた補正処理が実行されることになる。
図10のフローに沿った詳細説明に入る前に、本実施形態に係る印刷処理の設計思想を説明しておく。
【0050】
不吐ノズルに起因する白抜けは、ノズル特性の違いによる濃度ムラに比べ、知覚的に目立ちやすい。そのため、発生後は速やかに検出して補完することが好ましい。また、不吐ノズルの検出はインク吐出の有無を判断するだけでよいため、専用チャートの出力枚数や不吐ノズル検出に要する処理時間が、濃度補正情報生成処理に比べて少ない。一方、濃度ムラは、記録ヘッドの製造時の吐出特性(吐出量/吐出方向/吐出速度)のばらつき、記録ヘッド取り付け時のヘッドの傾き、記録ヘッド駆動時のクロストーク等に起因し、経時的に変化することは少ない。ただし、ノズル毎の特性は入力レベルに対して線形でないため、専用チャートの出力枚数や補正値の導出に要する処理時間が、不吐ノズルの検出に比べて多くなる。そのため、処理負荷の大きい濃度補正情報生成処理の実行頻度はできるだけ少なくすることが望ましい。その一方で、処理負荷の小さい不吐ノズル検出処理についてはその頻度を高くして、印刷画質の品質が保持されるようにすることが好ましい。以上のような基本思想に基づき設計された印刷処理がユーザ指示に基づき実行される。なお、
図10のフローに示す一連の処理は、ユーザが入力装置13を介して、印刷対象となる画像データのファイル名と印刷枚数を指定してその実行を指示することで開始される。
【0051】
まず、S1001では、画像処理装置11において、印刷準備処理が実行される。具体的には、まず、印刷対象の画像データが、ユーザが指定したファイル名を基に外部記憶装置15から読み込まれ、画像処理モジュール106に送られ、色変換処理部301にて色変換処理が実行される。また、ユーザが指定した出力枚数NがRAM101等に設定され、さらに、印刷出力された枚数を係数するカウンタCn_pが初期化(カウント値=0)される。印刷準備処理が完了するとS1002に進む。
【0052】
S1002では、前述の不吐ノズル検出処理(
図4のフローを参照)が実行される。不吐ノズル検出処理の結果は不吐ノズル情報として、外部記憶装置15に保存される。
【0053】
続くS1003では、S1002で生成された不吐ノズル情報に基づき、補正テーブルにおける不吐ノズルに対応する補正値が変更される。具体的には、補正テーブルでノズル位置番号と対応付けて規定されている階調値毎の補正値のうち、見つかった不吐ノズルとその周辺ノズルに対応する補正値を、不吐ノズルによって生じる白抜けが知覚されにくくなるよう変更する。ここで、具体例を用いてさらに詳しく説明する。
図11(a)は、濃度補正情報生成処理によって得られていた変更前の補正テーブルを示している。
図11(a)の補正テーブルには、9階調×ノズル数分の補正値が格納されている。例えば、印刷対象画像の入力階調値が“32”の場合、ノズル位置番号が1番に対応する補正値(出力階調値)は“34”である。ここで、上述のS1002における不吐ノズル検出処理において、ノズル位置番号がn番のノズルが不吐ノズルとして検出されたとする。
図11(b)は、このときの変更後の補正テーブルを示している。
図11(b)に示すように、変更後の補正テーブルでは、不吐ノズルであるn番目のノズルのすべての補正値が“0”に変更されている。あるノズルの補正値を“0”に変更することは、当該ノズルについてインクを吐出しないように制御することを意味する。このように補正値を変更することで、印刷処理中に不吐ノズルが意図せず回復した場合でも、黒スジが発生するのを抑制することができる。また、
図11(b)に示す例では、n+1番、n-1番のノズルの補正値I’がI+Ix/2に変更されている。ここで、Iは変更前の補正値を表し、Ixは変更前の不吐出となったノズルnの補正値を表す。ただし、I’が階調値の最大値(
図11の例では255)を超える場合には、I’を最大値にクリッピングされる。不吐ノズルが担うはずであった濃度に相当する分を、不吐ノズルに隣接する周辺ノズルで補うようにその補正値が変更される。その結果、不吐ノズル周辺のドット数もしくはドットサイズが増加し、不吐ノズルによる白抜けを抑制できる。なお、変更後の補正値I’が階調値の最大値を超えてI’を最大値にクリッピングする際に、クリッピングされた分の階調値を不吐ノズルに割り当ててもよい。この場合、不吐ノズルが自然回復しても、濃度が不足している部分にのみドットが生成されるので、黒スジは発生しない。一方、不吐ノズルはマスクされずに駆動されることになるので、自然回復する可能性が高まる。
【0054】
次に、S1004では、色変換後の印刷対象画像に対し、変更後の補正テーブルを用いた補正処理が、補正処理部302にて実行される。この補正処理の詳細については後述する。続くS1005では、補正後の印刷対象画像に対し、HT処理部303にてハーフトーン処理が実行される。そして、生成されたハーフトーン画像データは、外部I/F110及び112を介して画像形成装置12へと送られる。
【0055】
次に、S1006では、画像形成装置12の印刷モジュール107にて、画像処理装置11から受け取ったハーフトーン画像データを用いた印刷が実行され、ユーザ指定の画像が用紙上に形成される。この際、前述のカウンタCn_pの値がインクリメント(+1)される。1枚分の印刷出力が済むとS1007へ進む。
【0056】
そして、S1007では、S1001にて設定された出力枚数Nの印刷がすべて完了したか否かが判定される。具体的には、カウンタCn_pの値が、出力枚数Nの値と等しいか否かが判定される。カウンタCn_pの値が出力枚数Nの値と等しい場合には、本印刷処理を終了する。一方、カウンタCn_pの値と出力枚数Nの値とが等しくない場合には、S1008へと進む。
【0057】
S1008では、カウンタCn_pの値が、予め定めた所定枚数に達しているか否かが判定される。ここで、閾値となる所定枚数は、例えば200の倍数などである。カウンタCn_pの値が所定枚数に達していれば、S1002へと戻り、不吐ノズルの検出、補正テーブルの変更、変更後の補正テーブルに基づく補正処理を再度実行する。一方、カウンタCn_pの値が、所定枚数に達していない場合には、S1006へと戻り、印刷を継続する。
【0058】
以上が、本実施形態に係る印刷処理の内容である。一定枚数を印刷する毎に不吐ノズル検出処理を実行することで、印刷中に不吐ノズルが発生したとしても間を置かずに対応することができる。また、予め不吐ノズルの影響を含まないように補正テーブルを作成しているため、不吐ノズルが回復した場合に、補正テーブルを再作成しなくても該ノズルとその周辺ノズルが担う濃度分を補正できる。
【0059】
なお、補正テーブルを作成する濃度補正情報生成処理は、印刷処理の開始前に実施しておくことが前提となっているが、ユーザによる印刷指示の入力に先立って毎回実行する必要はなく、一定時間の経過や一定処理枚数に達したタイミングで実行すればよい。あるいは、記録ヘッドの交換時や画像形成システムの電源オン/オフなど、所定のイベントに基づいて実行するようにしてもよい。また、指定された出力枚数が膨大な場合には、一定時間(例えば2時間)の経過や一定処理枚数(例えば1000枚)に到達した時点で割り込み処理として実行してもよい。
【0060】
<濃度補正処理>
次に、上述の補正処理(S1004)の詳細について、
図11(b)に示す変更後の補正テーブルを用いた場合を例に説明する。
図12は、補正処理部402における処理の流れを示すフローチャートである。以下、
図12のフローに従って詳しく説明する。
【0061】
まず、S1201では、処理対象となる色変換後の画像データにおける注目する画素位置が初期化される。これにより、例えば、色変換後の画像における座標(x,y)=(0,0)の画素が最初の注目画素として決定される。
【0062】
次に、S1202では、注目画素に対応するノズル位置番号xが取得される。例えば、注目画像位置(x,y)=(1,1)のドットがノズル位置番号1番のノズルによって形成されるとすると、対応するノズル位置番号x=0が取得されることになる。
【0063】
次に、S1203では、色変換後の画像データから、注目画素の階調値iが取得される。続くS1204では、注目画素の補正値(出力階調値)i’が、変更後の補正テーブルに基づき決定される。具体的には、S1202で取得したノズル位置番号xとS1203で取得した階調値iとに対応する補正値i’が、変更後の補正テーブルを参照して決定される。ここで、注目画素の階調値i=32であったとする。いま、
図11(b)の補正テーブルに従うので、ノズル位置番号x=1であれば補正値i’=34となり、ノズル位置番号x=nであれば補正値i’=0となる。なお、例えばi=48のように、補正テーブル内に対応する階調値が存在しないときは、線形補間処理を行ってi’=52のように決定すればよい。
【0064】
次に、S1204では、処理対象となる色変換後の画像データにおける全画素について補正値が決定されたか否かが判定される。全画素についての補正値が決定済みである場合には、本補正処理を終了する。一方、補正値が未決定の画素が存在する場合には、S1206に進んで注目画素位置が更新される。更新後はS1202へと戻り、新たな注目画素についての補正値の決定を続行する。
【0065】
以上が、補正テーブルに基づく補正処理の内容である。
【0066】
以上のとおり本実施形態においては、不吐ノズルが検出されなくなるという条件を満たすまで濃度特性取得用チャートの出力を複数回実行する。こうして不吐ノズルが検出されなくなるまでチャート出力を繰り返し行うことにより、ノズル列を構成する全てのノズルについての適切な補正値を得て、不吐ノズルの影響を含まない補正テーブルを作成する。出来上がった補正テーブルが不吐ノズルの影響を含まないことから、不吐ノズルが回復した場合にも補正テーブルを再度作成する必要がなく、ダウンタイムの抑制、専用チャート出力に要するインクや用紙の節約に繋がる。
【0067】
[実施形態2]
実施形態1では、不吐ノズルの補正値を当該不吐ノズルに隣接する左右のノズル(以下、「隣接ノズル」と表記)の補正値に分配することで、濃度ムラと不吐ノズルによる白抜けの双方を抑制できるようにしていた。実施形態2では、不吐ノズルの階調値に応じた補正値の分配比率を事前に決定してテーブル等の形式で保持しておくことで、より適切な濃度補正処理を実現する。なお、システムの基本構成など実施形態1と共通する内容については説明を省略ないしは簡略化することとし、以下では本実施形態の特徴である分配比率決定処理の内容を中心に説明を行うこととする。
【0068】
<分配比率決定処理>
本実施形態においては、前述の濃度補正情報生成処理に続いて、補正値の分配比率を決定する処理が画像処理モジュール106内の分配比率情報生成部(不図示)によって実行される。以下、
図13に示すフローチャートに沿って詳しく説明する。
【0069】
まず、S1301にて、ハーフトーン処理済みの分配比率取得用チャート画像のデータが外部記憶装置15から取得され、その印刷指示と共に印刷モジュール107に送信される。印刷指示を受けた印刷モジュール107では、分配比率取得用チャート画像を用紙上に形成して出力する。
図14は、本実施形態に係る分配比率取得用チャートの一例を示している。本実施形態における分配比率取得用チャート画像は、不吐検出領域1401と分配比率導出領域1402の2種類の画像領域で構成される。不吐検出領域1401は、不吐ノズルがあった場合にそのノズル位置番号を検出するための画像領域であり、例えば、前述の不吐検出用チャートと同一チャートであってもよい。分配比率導出領域1402は、階調毎に最適な分配比率を決定するための画像領域である。
図14に示す分配比率導出領域1402では、異なる階調の均一濃度のパッチに対し、一定の間隔で意図的に、所定のノズル位置番号のノズルの階調値に“0”を割り当て、当該階調値が“0”のノズルにおいてドットが形成されないようにしている。以下、階調値を意図的に“0”にしたノズル位置番号のノズルを「意図的な不吐ノズル」と呼ぶこととする。さらに、意図的な不吐ノズルの両隣のノズルにおいて、異なる分配比率(ここでは4段階)で階調値が変更されている。このように、分配比率取得用チャートでは、濃度を複数段階で異ならせた、均一濃度の矩形パッチに対して一定の間隔で意図的に不吐ノズルを出現させている。
【0070】
次にS1302にて、印刷モジュール107から出力された分配比率導出用チャートが、イメージセンサ108で読み取られる。分配比率取得用チャートの読み取り画像(スキャン画像)の色空間も例えばRGBの3チャンネルの画像であり、事前に用意された色変換テーブルにより1チャンネルのスキャン画像に変換されるものとする。
【0071】
次に、S1303にて、S1302で得られた読み取り画像(スキャン画像)上の不吐検出領域1401を解析し、不吐ノズルが検出されればそのノズル位置が特定される。不吐ノズルが検出された場合には、当該ノズルのノズル位置番号が不吐ノズル情報として外部記憶装置15に記憶される。
【0072】
S1304では、S1303での不吐検出領域の解析結果に基づき、次の処理内容が決定される。解析の結果、不吐ノズルが検出された場合はS1305へ進み、不吐ノズルが検出されなかった場合はS1306に進む。
【0073】
S1305では、メンテナンスモジュール109に対し、記録ヘッドを回復させるためのクリーニング処理の実行が指示される。そして、当該指示を受けたメンテナンスモジュール109において、クリーニング処理が実施される。それと共に、S1302にて読み取った専用チャートのスキャン画像データが破棄される。クリーニング処理が終わると、S1301へと戻り、S1301~S1304までの処理を再度繰り返す。すなわち、分配比率取得用チャートの出力を行う都度、クリーニング処理を実行して不吐ノズルの回復が図られる。なお、S1305におけるクリーニング処理の実行回数をカウントしておき、規定回数を超えた場合にエラーをユーザに通知し、例えば記録ヘッドを交換するまで分配比率決定処理を停止するような構成としてもよい。
【0074】
S1306では、S1302で取得されたスキャン画像に基づき、階調値に応じた分配比率が決定される。分配比率の決定においては、例えば、スキャン画像に対して公知の空間フィルタを掛けた場合に濃度が最も均一となるような分配比率が階調値毎に選択される。この際、使用する記録媒体の種類(普通紙、光沢紙、マット紙など)やインクの性質などによっても、適切な分配比率は異なることになる。公知の空間フィルタとしては、ガウスフィルタや人間の目の知覚感度に相当するVTFフィルタなどを使用すればよい。
図15のグラフは、分配比率と階調値との関係を示している。
図15のグラフにおいて、横軸は階調値を表し、縦軸は分配比率を表し、曲線1501は階調値に応じて分配比率がどう変化するかを表している。分配比率の値が例えば“2.0”であれば、不吐ノズルが担う予定であった濃度分の階調値が、不吐ノズルの左右の隣接ノズルそれぞれに対して割り当てられることになる。こうして決定された分配比率は、例えば入力階調値と分配比率とを対応付けたLUT形式の分配比率情報として、外部記憶装置15に記憶される。なお、濃度補正処理で用いる補正テーブルの場合と同様、0~255のすべての入力階調値に対応する個別の分配比率を求める代わりに、代表的な階調値に対応する分配比率だけを求めてもよい。その場合には、テーブル内に規定されていない入力階調値については、補間処理によって対応する分配比率を求めればよい。
【0075】
以上が、補正値の分配比率を決定する処理の内容である。なお、
図15に示した例では、分配比率と階調値との関係を表す曲線は1本となっている。これは、意図的に設けたすべての不吐ノズルそれぞれから得られた分配比率を平均した結果を、全ノズルに共通の分配比率としているためである。しかしながら、これに限定されるものではなく、例えばすべてのノズルを意図的に不吐出として分配比率を求め、各ノズルについて分配比率を求めてもよい。あるいは、ノズルをその特徴に応じてグループ分けをし、グルーブ毎に平均された分配比率を分配比率情報としてもよい。例えば、記録ヘッドが複数のノズル列の組み合わせで構成される場合、ノズル列毎にグループ化してもよい。あるいは、複数のノズル列間でノズル位置番号が共通のノズル同士をグループ化してもよい。
【0076】
また、上述の例では、出力された専用チャートのスキャン画像から分配比率を決定しているがこれに限定されない。例えば、出力された分配比率取得用チャートをオペレータが目視にて確認し、不吐ノズルの影響が最も知覚されにくいような分配比率を複数の選択肢の中から選ぶ、あるいは、知覚されにくいと予想する分配比率を直接入力・設定するような構成でもよい。
【0077】
<補正テーブルの変更>
本実施形態の場合、前述の
図10に示した印刷処理の補正テーブルの変更(S1003)において、以下のように不吐ノズルとその隣接ノズルの補正値が変更されることになる。いま、不吐ノズル検出処理(S1002)において、ノズル位置番号がn番のノズルが不吐ノズルとして検出されていたとする。このとき、ノズル位置番号がn番のノズルに対応する補正値として、すべての入力階調値に対して“0”が新たに格納される。また、n+1番、n-1番のノズルの補正値I’がI+k×Ix/2に更新される。ここで、Iは変更前の補正値、I’は変更後の補正値、Ixは変更前の不吐ノズルnの補正値を表す。また、kは不吐ノズルの変更前のIxに対応する分配比率を表す。あるいは、不吐ノズルの変更前のIxに対応する分配比率ではなく、変更前の3ノズル(不吐ノズルとその左右の隣接ノズル)の平均階調値に対応する分配比率を用いてもよい。すなわち、n番のノズルが不吐の場合に、(I(n-1)+I(n)+I(n+1))/3に対応するk_aveを分解比率として取得してもよい。ただし、I(x)は変更前のx番目のノズルの補正値とする。このとき、n+1番のノズルの補正値I´(n+1)はI(n+1)+k_ave×I(n)/2に更新される。たとえば、不吐出ノズルの階調値が36で、その左右のノズルの階調値がいずれも120であるとする。この場合に、不吐出ノズルの階調値である36に対応した分解比率kを取得するのではなく、3ノズルの平均値である(36+120+120)/3=92に対応する分配比率k_aveを用いて左右ノズルに階調値を分配してもよい。このように平均階調値を用いて分解比率を算出することで、上述の例のように変更前の不吐ノズルとその左右の隣接ノズルと間で階調値に差がある場合により好適に不吐による白スジを抑制できる。
【0078】
上記のように不吐ノズルに隣接する左右のノズルの補正値を変更することで、不吐ノズルが担う予定の濃度(ドット数もしくはドットサイズ)が不吐ノズルの階調値に応じた比率でその隣接ノズルに分配されることになる。そのため、不吐ノズルの補正値を単純に左右に分配すると補正不足となって白スジが知覚されたり過補正となって黒スジが生じたりする場合でも、適切に不吐ノズルによる白抜けを抑制できる。
【0079】
また、本実施形態では、「不吐ノズルの影響のない補正テーブル」、「不吐ノズルが発生した場合の補正量」、「不吐補正を行うノズル位置」をそれぞれ独立して取得・更新することができる。
【0080】
[実施形態3]
実施形態1及び2では、不吐ノズルの補正値をその両隣にある隣接ノズルに振り分けるように補正テーブルを変更することで白スジを抑制した。実施形態3では、左右の隣接ノズルだけではなく、さらに広範囲の周辺ノズルの補正値を変更することで、白スジ(あるいは白スジの抑制によるパターンの変化)が知覚されにくくする。なお、以下では、先行する実施形態1及び2との共通する内容については説明を省略ないしは簡略化し、以下では差異点を中心に説明を行うこととする。
【0081】
図16は、本実施形態における考え方を説明する図である。
図16において、上段のグラフの横軸はノズル列における各ノズルの位置を示し、縦軸は所定階調の濃度パッチを出力した場合の紙面上の濃度(前述の測定値)を示している。そして、
図16において、折れ線1601が、ノズル列全体の濃度特性(以下、「ノズル列特性」と呼ぶ。)を表している。ここ、ノズル列特性1601は、前述の
図6のフローチャートで示す濃度補正情報生成処理に従って取得されているものとする。そして、いま、ノズル列特性1601の取得時に、×印で示した位置のノズルに吐出不良が検知されたとする。このとき、本実施形態では、
図16の中段において、V字型の線分1602によって表される不吐影響テンプレートをノズル列特性1601に足し合わせることで、
図16の下段のグラフが示す、×印で示した位置のノズルが不吐となった場合のノズル列特性1603を動的に生成する。そして、動的に生成したノズル列特性から補正テーブルを作成し、当該補正テーブルを用いて補正処理を実行する。ここで、不吐影響テンプレートは、例えば
図17(a)に示す不吐影響取得用チャートから作成される。
図17(a)に示す不吐影響取得用チャートも、前述の
図7に示す濃度特性取得用チャートと同様、不吐検出領域1701と濃度パッチ領域1702とからなる。ただし、不吐影響取得用チャートの濃度パッチ領域1702では、上述の「意図的な不吐ノズル」に対応するいくつかのノズル位置において、すべての階調値を“0”にした部分1703が存在している。不吐影響取得用チャートを印刷モジュール107から出力後、それをイメージセンサ108で読み取って得たスキャン画像から、意図的な不吐ノズルが影響を与える範囲、例えば不吐ノズルを挟んで左右それぞれ5個分のノズルの濃度を取得する。さらに、不吐ノズルの影響のない部分の平均濃度を求める。そして、取得した左右5個のノズルそれぞれの濃度から平均濃度を減算することで、
図17(b)に示すような特性を持つ不吐影響テンプレートが得られる。
図17(a)に示す濃度パッチ領域702には濃度が9段階に変化する9種類の濃度パッチが存在しているので、
図17(b)に示すように、9つの線分で示す特性を持った9つの不吐影響テンプレートが得られることになる。この例では、濃度の薄いパッチから得られるテンプレートのV字が最も浅く、最も濃いパッチから得られるテンプレートのV字が最も深くなっている。そして、V字が浅いほど濃度低下量が小さく、深いほど濃度低下量が大きいことを意味している。なお、
図17(b)は一例であって、例えばある濃度パッチを境にして、濃度パッチの階調値が大きくなるにつれてテンプレートのV字が浅くなる場合もある。なお、こうして得られた不吐影響テンプレートは、それぞれの元となった濃度パッチの階調値と対応付けられ、外部記憶装置15に記憶・保持される。
【0082】
このようにして、不吐ノズルの影響を含むノズル列特性に基づき作成した補正テーブルを用いて補正処理を行うことで、不吐ノズルの周辺ノズルにおいて、その影響分だけドット数(或いはドットサイズ)が増加し、不吐ノズルの発生による白スジが抑制される。なお、
図17(a)の例では、意図的な不吐ノズルを一定間隔で設けているがランダムに設けてもよい。
【0083】
<システム全体の処理フロー>
次に、本実施形態に係る、画像形成システム10における全体の処理の流れを、
図18のフローチャートを参照して説明する。
図18に示す通り、本処理フローは、ノズル列特性取得処理(S1801~S1806)、不吐影響テンプレート作成処理(S1807~S1812)、印刷処理(S1813~S1821)の3つに大別できる。以下、各処理単位で詳しく説明することとする。
【0084】
≪ノズル列特性取得処理≫
ノズル列特性取得処理は画像処理モジュール106内の濃度補正情報生成部305によって実行される。S1801~S1805の各処理は、実施形態1の濃度補正情報処理の流れを示す
図6のフローチャートにおけるS601~S605にそれぞれ対応し特に異なるところはないので説明を省く。不吐ノズルが検出されなかった場合のS1806では、記録ヘッドを構成する各ノズル列についての濃度特性(前述のノズル列特性1601を参照)が取得される。すなわち、本ステップでは、実施形態1のS606の場合と異なり、ノズル列を構成するノズル毎の測定曲線(前述の測定曲線902を参照)を取得するに留め、補正テーブルの作成までは行わない。
【0085】
ここまでの処理により、不吐ノズルの影響を含まないノズル列特性が取得されることになる。ノズル列特性の取得が完了すると、不吐影響テンプレート作成処理へと移行する。
【0086】
≪不吐影響テンプレート作成処理≫
不吐影響テンプレート作成処理は画像処理モジュール106内の不吐影響情報生成部(不図示)によって実行される。S1807~S1811の各処理は、上述のノズル列特性取得処理におけるS1801~S1805にそれぞれ準じた処理となる。すなわち、ハーフトーン処理済みの不吐影響取得用チャート画像のデータがその印刷指示と共に、濃度補正情報生成部305から印刷モジュール107に送信され、不吐影響取得用チャートが出力される(S1807)。次に、出力された不吐影響取得用チャートのスキャン画像がイメージセンサ108によって取得されると(S1808)、当該スキャン画像の不吐検出領域を対象とした不吐ノズルの検出処理がなされる(S1809)。そして、不吐ノズルが検出されれば(S1810でYes)、クリーニング処理が実行され(S1811)、不吐ノズルが検出されなくなると、S1812に進む。なお、不吐影響テンプレートの作成時とノズル列特性取得時とで環境や条件が違うと、作成した不吐影響テンプレートの適用において当該違いを吸収するための追加的な処理が必要になる場合がある。そのため、不吐影響取得用チャートの出力及びその読み取りは、濃度特性取得用チャートの出力及びその読み取りと同一の環境・条件で行うことが望ましい。
【0087】
不吐ノズルが検出されなかった場合のS1812では、S1808で読み取った不吐影響取得用チャートのスキャン画像に基づき、前述した手法にて不吐影響テンプレートが作成される。
【0088】
ここまでの処理により、不吐ノズルがその周辺ノズルの濃度特性に与える影響を示す不吐影響テンプレートが得られることになる。なお、S1801~S1812までの処理は、後述の印刷処理の開始前に終了しておく必要があり、例えば、システム出荷時や記録ヘッドの取り付け時に実行される。また、記録ヘッド交換時やユーザからの明示の指示に従って、或いは一定枚数や一定時間が経過する毎に、S1801~S1812までの処理を再度実行し、ノズル列特性と不吐影響テンプレートを更新するように構成してもよい。さらには、一定枚数や一定時間が経過する度に、後述のS1816にて作成される補正テーブルの評価を行い、補正が不十分であると判断された場合に、S1801~S1812までの処理の再実行と更新を行うようにしてもよい。
【0089】
≪印刷処理≫
S1813及びS1814の各処理は、実施形態1の印刷処理の流れを示す
図10のフローチャートにおけるS1001及びS1002にそれぞれ対応する。すなわち、印刷準備処理と不吐ノズル検出処理が実行される。両処理の内容については説明済みであるため省略する。
【0090】
次に、S1815では、補正処理部302によって、S1806にて取得されたノズル列特性に対し不吐影響テンプレートを適用する処理が、S1814にて検出された不吐ノズルのノズル位置番号に基づき実行される。ここで、具体例を用い、テンプレート適用処理について詳しく説明する。
図19は、S1812にて作成された、テーブル形式の不吐影響テンプレートの一例を示した図である。
図19に示すテーブルの各列は不吐ノズルからの相対的な位置関係を示し、各行は対応する濃度パッチの階調値を示す。
図19に示す不吐影響テンプレートの場合、例えば階調値が“64”の濃度パッチ上で、不吐ノズルの左隣のノズル(相対ノズル位置が“-1”のノズル)の濃度は、不吐がない場合の濃度から0.148を減算した値となることを示している。なお、
図19の不吐影響テンプレートでは、不吐ノズルが影響を与える範囲を、当該不吐ノズルの左右それぞれ3つのノズルまでとしている。これは、相対ノズル位置が+4或いは-4以上離れたノズル位置に不吐ノズルが与える影響が0.001以下であり、その影響を十分に無視できると判断したためである。
図20(a)は、S1806にて取得されたノズル列特性の一例をテーブル形式で示した図である。
図20(a)に示すテーブルにおいて、各列はノズルそれぞれの絶対位置を示すノズル位置番号に対応し、各行は濃度パッチの階調値に対応している。
図20(a)に示すノズル列特性の場合、階調値が“64”の濃度パッチ上で、ノズル位置番号が“97”のノズルに対応する濃度は“0.472”となる。ここで、S1814の不吐検出処理により、ノズル位置番号が“97”のノズルが不吐ノズルとして検出されたとする。このとき、ノズル位置番号“97”が、
図19の不吐影響テンプレートにおける「相対ノズル位置“0”」となる。この場合、
図20(a)のノズル列特性のテーブルにおけるノズル位置番号“97”に対応する列に格納された各値に対し、
図19に示す不吐影響テンプレートの「相対ノズル位置“0”」に対応する列に格納された各値を足し合わせることになる。これにより、ノズル位置番号“97”のノズルが不吐ノズルとなった場合の、当該ノズルにおける濃度が求まる。同様に、ノズル位置番号“97+n”に対応する列に格納された各値に対し、
図19の「相対ノズル位置n」に対応する列に格納された各値を足し合わせることで、ノズル位置番号“97+n”のノズルが不吐ノズルとなった場合の、当該ノズルにおける濃度が求まる。なお、このようにして足し合わせた結果が“0”を下回ることになる場合は、該ノズルについてのテンプレート適用後の値を“0”とすればよい。
図20(b)は、
図20(a)のノズル列特性に対して
図19の不吐影響テンプレートを適用した後のノズル列特性を示している。例えば、ノズル位置番号“97”の列を見ると、階調値“32”については適用前の値“0.228”が、適用後は“-0.112”を足し合わせた値“0.116”に変化している。同様に、階調値“64”については適用前の値“0.472”が、適用後は“-0.321”を足し合わせた値“0.151”に変化している。そして、同様の変化が、ノズル位置番号“97”を中心として±3の範囲の隣接ノズル(すなわち、ノズル位置番号“94~96”及び“98~100”の6つのノズル)についても生じることになる。
【0091】
S1816では、濃度補正情報生成部305によって、不吐影響テンプレート適用後のノズル列特性に基づき補正テーブルが作成される。具体的な処理内容は、実施形態1の
図8のフローにおけるS803及びS804と同様である。すなわち、まず、目標特性903が取得され、そこから入力階調値904に対応する目標濃度値905を求め、注目ノズルの測定曲線902から目標濃度値905に対応する階調値を決定して、注目ノズルの補正値(出力階調値)906とすればよい。このとき、不吐ノズルの影響を受ける周辺ノズルについては、不吐ノズルの影響を考慮したノズル列特性を用いて補正値が導出されることになる。例えば、目標濃度値が“0.2”となるような階調値を補正値とする場合、
図20(a)に示す不吐ノズルの影響を含まないノズル列特性を用いると、ノズル位置番号“96”における補正値は“27”となる。一方、
図20(b)に示す、ノズル位置番号“97”のノズルが不吐ノズルである場合のテンプレート適用後のノズル列特性を用いると、ノズル位置番号“96”における補正値は“35”となる。このように、不吐の影響を受けるノズルでは、不吐がない場合に比べ、大きな補正値が得られる。そして、不吐の影響を受けるノズルの補正値が大きくなることで、該ノズルで吐出されるドットの数が増え(或いはドットサイズが大きくなり)、その結果、不吐ノズルによる白スジの影響が抑制される。
【0092】
S1817~S1821は、実施形態1の印刷処理の流れを示す
図10のフローチャートにおけるS1004~S1008にそれぞれ対応し特に異なるところはないので説明を省く。
【0093】
以上が、本実施形態に係る、画像形成システム10における全体の処理の流れである。上述したS1814~S1816を含む一連の印刷処理によって、印刷前に発生している不吐ノズルや印刷中に発生した不吐ノズルにより生じる白抜けが動的に抑制されることになる。そして、印刷中に不吐ノズルが新たに発生したり、不吐ノズルが回復したりした場合にも、ノズル列特性取得処理と不吐影響テンプレート作成処理を再度繰り返す必要がないので、システムのダウンタイム抑制にも繋がる。
【0094】
<変形例>
上述の例では、印刷中にも出力枚数に応じて不吐ノズルの検出をオンラインで行うことを想定し、印刷処理を構成する一連の処理の中に不吐検出処理(S1814)が組み込まれている。ただし、不吐ノズルの検出タイミングはこれに限定されるものではなく、例えば、不吐影響テンプレート作成処理(S1812)と印刷準備処理(S1813)との間に行う構成でもよい。
【0095】
また、不吐ノズルについては、補正テーブル作成後にその補正値をすべて“0”とすることで、インク吐出を行わないようにしてもよい。あるいは、ハーフトーン処理で用いる閾値マトリクスにおける不吐ノズルに対応する閾値をすべて“255”以上としたり、その入力階調値を“0”にしたり、HT画像の画素値を“0”にマスクする等によってインク吐出を禁止してもよい。そのようにすることで、印刷中に不吐ノズルが意図せず回復した場合に黒スジ等が発生することを抑制できる。
【0096】
また、不吐影響テンプレートは、例えば、
図16の線分1602’のようにW字型で示すものでもよい。この場合、不吐ノズル位置(相対ノズル位置=0)における濃度低下量を“0”とし、その周辺ノズルの濃度低下量を、線分1602が表す面積と線分1602’が表す面積(すなわち、積分値)とが等しくなるように変更することで得ることができる。例えば、不吐ノズル位置の濃度低下量を、他の各ノズル位置の濃度低下量の比に応じて分配してもよい。あるいは、ノズル列特性に公知の空間フィルタを適用してから不吐影響テンプレートを作成してもよい。さらには、上述の例では不吐影響テンプレートをテーブル形式で保持しているが、不吐ノズルによる影響を関数(例えば、ガウス関数)で近似し、その関数式を保持してもよい。
【0097】
また、上述の例では、ノズル列特性と不吐影響テンプレートとを印刷処理前に用意・保持しておき、不吐影響テンプレート適用後のノズル列特性に基づいて補正テーブルを作成していたがこれに限定されない。例えば、補正テーブルと該補正テーブルに対する不吐影響テンプレートとを保持しておき、検出された不吐ノズルを中心として不吐影響テンプレートを加算する構成も可能である。なお、不吐影響テンプレートを加算する構成に代えて、予め不吐の影響を抑制するノズル列特性をテンプレートとして保持しておき、不吐ノズルが発生した場合に、該テンプレートに置き換える構成も可能である。しかしながら、置き換える構成では、ノズル毎に異なるはずの濃度ムラ抑制のための濃度補正量をテンプレートが上書きすることとなる。特に不吐ノズルから離れたノズルでは不吐の影響が少なく濃度ムラ補正を優先すべきところ、テンプレートで上書きしてしまうとその効果が得られなくなる。また、不吐の影響範囲内に別の不吐ノズルが発生する場合もあり得る。この場合、置き換え構成で対応するには、複数の不吐ノズルの位置関係それぞれに対してテンプレートを保持しておく必要が生じる。この点、テンプレートを加算する構成であれば、不吐ノズルが発生した位置毎にテンプレートを適用するだけ済むため、置き換える構成よりも優れているといえる。
【0098】
また、クリーニング処理を繰り返し行っても不吐ノズルが解消されないこともある。この場合は、不吐影響テンプレートの符号(プラスとマイナス)を反転し、これをノズル列特性に足すことで、不吐の影響を含まない補正テーブルを作成してもいい。
【0099】
[実施形態4]
実施形態3では、濃度特性取得用チャートと不吐影響取得用チャートとが別々のチャートであった。また、両チャートには不吐検出領域を含んでおり、該領域の読み取り結果に基づき不吐検出処理を行っていた(S1803、S1809)。次に、不吐検出領域を含まない共通のチャートを用いて、不吐検出処理を行うことなく、ノズル列特性の取得と不吐影響テンプレートの作成までを行う態様を、実施形態4として説明する。なお、以下では、先行する実施形態1~3との共通する内容については説明を省略ないしは簡略化し、以下では差異点を中心に説明を行うこととする。
【0100】
図21に示す3つのチャート2101~2103は、本実施形態で使用するチャートの一例である。それぞれのチャート画像には前述の
図17(a)に示す不吐検出領域1701を含まず、かつ、チャート画像間で意図的な不吐ノズルの位置が異なるように作成されている。また、
図21における3つの折れ線2111~2113は、印刷出力された上記3つのチャート2101~2103の各スキャン画像から得られるノズル列特性の一部をそれぞれ示している。なお、図中の×印は意図的な不吐ノズルに対応する位置を示している。ここで、不吐ノズルが発生した場合には、該ノズルとその周辺ノズルの濃度は低く(=明るく)なることが明らかである。したがって、複数のチャートの出力結果から得られた複数のノズル列特性からノズル毎に最も濃い濃度特性を選択することで、不吐ノズルの影響を含まないノズル列特性を得ることができる。あるいは、ノズル毎に濃度が濃い方から順に、チャートの数よりも少ない数だけ平均することによっても不吐ノズルの影響を含まないノズル列特性を得ることができる。なお、平均する数は不吐ノズルの発生確率に基づいて決定すればよく、例えば統計的に99%以上の確率で不吐ノズルを含まなくなる最大の出力枚数を、平均する数とすればよい。上記のようにして、異なるチャート出力の結果からノズル毎に濃度特性を選択・算出することで、意図しない不吐ノズルの影響も除外できる。例えば、
図21における折れ線2113’の「!」印で示す位置に意図的に作出していない不吐ノズルが発生したとする。この場合でも、折れ線2111と折れ線2112のいずれかを用いて、あるいは曲線1901と1902との平均値を用いてノズルの濃度特性を求めることで、不吐ノズルの影響を含まないノズル列特性が得られる。
【0101】
また、不吐影響テンプレートについては、
図21に示すような複数のチャート2101~2113に対して、前述のS1812で述べた処理を施すことで作成することができる。ただし、意図的な不吐ノズルの影響が及ぶ範囲内に、意図しない不吐ノズルが発生した場合には、意図的な不吐ノズルについては除外して不吐影響テンプレートを作成するようにする。例えば、
図21における折れ線2111’のように、意図的な不吐ノズルの影響が及ぶ範囲内に×印で示す別の頂点が存在する場合に除外すればよい。
【0102】
上述のような手法によっても、実施形態3と同様の効果を得ることができる。
【0103】
[実施形態5]
実施形態1~4では、不吐ノズルが発生した場合に生じる白抜けを、その周辺ノズルに不吐ノズル分の濃度を分配することで白スジの抑制を図っている。実施形態5では、白スジの抑制に加え、印刷対象画像内のオブジェクトの形状が毀損しないように処理を行う。なお、以下では、先行する実施形態1~4との共通する内容については説明を省略ないしは簡略化し、以下では差異点を中心に説明を行うこととする。
【0104】
図22は、本実施形態に係る、印刷処理の流れを示すフローチャートである。実施形態1に係る
図10のフローチャートとの違いは、不吐ノズルを検出するステップ(S2202)と補正テーブルを変更するステップ(S2204)との間に、画素値を交換するステップ(S2203)が挿入されている点である。つまり、
図22のフローチャートのS2201及びS2201は前述のS1001及びS1002に、S2204~S2209はS1003~S1008にそれぞれ対応し、特に異なるところはない。ただし、S2205における補正処理では、上記画素値交換がなされた後の印刷対象画像がその対象となる。以下、本実施形態の特徴である画素値交換処理について詳しく説明する。
【0105】
<画素値交換処理>
画素値交換処理は画像処理モジュール106内の画素値交換部(不図示)によって実行される。
図23は、S2203における画素値交換処理の詳細を示すフローチャートである。以下、
図23に沿って説明する。
【0106】
S2301では、S2202で生成された不吐ノズル情報に基づき、検出された不吐ノズルのうち注目する不吐ノズルに対応する画素ラインが印刷対象画像の各画素ラインの中から特定される。
【0107】
次に、S2302では、S2301で特定された画素ラインの画素の階調値(画素値)と、注目不吐ノズルの左隣り又は右隣りのノズル(以下、「代替ノズル」と呼ぶ。)に対応する画素ラインの画素値とが比較される。このとき、ノズル位置番号に依らず、注目不吐ノズルの右隣りもしくは左隣りに代替ノズルを固定し、一方向に優先的に画素値を交換することが好ましい。比較の結果、注目不吐ノズルに対応する画素ラインの画素値の方が大きい場合は、S2303に進み、比較された隣り合う画素値が交換される。一方、注目不吐ノズルに対応する画素ラインの画素値が代替ノズルの画素ラインの画素値以下の場合は、S2304に進む。
【0108】
S2304では、すべての代替ノズル(n)を対象として、画素値の比較及び画素値の交換が完了したか否かが判定される。未処理の代替ノズルがあれば、S2302に戻り、nを更新して次の代替ノズルを対象とした画素値の比較及び画素値の交換が繰り返される。なお、繰り返し処理において、S2302で比較する注目不吐ノズルに対応する画素ラインの画素値は、その直近のS2303において交換された後の画素値である。一方、すべての代替ノズル(n)を対象として、画素値の比較及び画素値の交換が完了していれば、S2305に進む。
【0109】
S2305では、S2202で生成された不吐ノズル情報に含まれるすべての不吐ノズルを対象として、上記S2302~S2304の処理が完了したか否かが判定される。未処理の不吐ノズルがあれば、S2301に戻り、次の注目不吐ノズルを決定して、上記S2302~S2304の処理を繰り返す。一方、すべての不吐ノズルについて完了している場合は、本フローを終了する。
【0110】
以上が画素値交換処理の内容である。この処理により、不吐ノズルが形成予定であった細線等のオブジェクトが毀損してしまうのを防ぐことができる。なお、記録ヘッドが、同一位置を重畳的に描画するノズルを備えたノズル列で構成されるいわゆる多列ヘッドである場合も、本実施形態は適用可能である。この場合は、不吐ノズルが属するノズル列とは異なるノズル列にて同一位置を描画するノズルを、不吐ノズルの代替ノズルとして上述の処理を行えばよい。
【0111】
[その他の実施形態]
各実施形態においては、ノズル特性として濃度特性を用い、補正テーブルも濃度に基づいて作成したが、例えばノズル毎にCIEXYZ色空間のYやCIELab*のL*の特性を用い、補正テーブルも当該特性に基づいて作成してもよい。
【0112】
なお、イメージセンサ108のスキャン解像度が記録ヘッドのノズル配置の解像度と異なる場合には、スキャン画像をノズル配置の解像度と一致させるように変換することが好ましい。変換には公知の補間方法を用いることができ、例えばニアレストネイバー法やバイリニア法、バイキュービック法などを用いてノズル配置の解像度へ拡大もしくは縮小できる。
【0113】
また、各実施形態においては濃度補正処理を、印刷対象画像の階調値を対象として行う例を説明したが、同様の考え方に基づき閾値マトリクスの閾値を対象として濃度補正処理を行う構成でもよい。これによっても、各実施形態の効果を得ることができる。
【0114】
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0115】
11 画像処理装置
106 画像処理モジュール
302 補正処理部
304 不吐ノズル検出部
305 濃度補正情報生成部