IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ プレス工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-自動車用防音カバー構造 図1
  • 特許-自動車用防音カバー構造 図2
  • 特許-自動車用防音カバー構造 図3
  • 特許-自動車用防音カバー構造 図4
  • 特許-自動車用防音カバー構造 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】自動車用防音カバー構造
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20240422BHJP
   B62D 25/20 20060101ALI20240422BHJP
   B32B 3/12 20060101ALI20240422BHJP
   B32B 27/04 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
G10K11/16 120
G10K11/16 150
B62D25/20 N
B32B3/12
B32B27/04 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020066071
(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公開番号】P2021162769
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-12-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390001579
【氏名又は名称】プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【弁理士】
【氏名又は名称】柱山 啓之
(72)【発明者】
【氏名】濱田 紀彦
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-161282(JP,A)
【文献】特開2006-315443(JP,A)
【文献】特開昭50-138615(JP,A)
【文献】特開2010-031582(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0027629(US,A1)
【文献】特開2016-018211(JP,A)
【文献】国際公開第97/24496(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/16-11/172
B62D 25/20
B32B 3/12
B32B 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状に形成され騒音源に対向して配置されるカバー本体と、
前記カバー本体の騒音源側に設けられる吸音材と、
前記カバー本体及び前記吸音材間に形成される背後空気層とを備え、
前記カバー本体には、板状のリブが、前記吸音材側に延びて設けられると共に、前記背後空気層を複数の小部屋に仕切るように設けられ、
前記カバー本体には、前記騒音源からの騒音を前記リブに向けて反射させるための傾斜面が、前記小部屋毎に形成され、
前記傾斜面は、
前記小部屋の中心位置で最も窪むように前記カバー本体を前記騒音源の反対側に断面V字状に窪ませることにより形成される
ことを特徴とする自動車用防音カバー構造。
【請求項2】
前記リブの厚さは、前記カバー本体の厚さより薄く設定された
請求項1に記載の自動車用防音カバー構造。
【請求項3】
前記カバー本体は、ファイバーを含有する樹脂で構成され、
前記リブは、ファイバーを含有しない樹脂で構成される
請求項1または2に記載の自動車用防音カバー構造。
【請求項4】
前記リブは、容積が異なる複数種類の前記小部屋を形成するように前記カバー本体に設けられる
請求項1から3のいずれか一項に記載の自動車用防音カバー構造。
【請求項5】
前記小部屋の断面形状が、六角形、四角形、三角形または円形である
請求項1から4のいずれか一項に記載の自動車用防音カバー構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はエンジン、変速機等の騒音源の周囲に設けられる自動車用防音カバー構造に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン、変速機等の騒音源の周囲には、騒音源から発生する騒音を吸収するための自動車用防音カバーが設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-302717号公報
【文献】特開2004-316368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動車用防音カバーは、樹脂で形成されたカバー本体に吸音材を固定して構成される。そのため、吸音性能は吸音材の特性に依存する。一般に、高い周波数帯(概ね1250Hz~)の吸音に用いられる吸音材は安価である反面、低い周波数帯(400Hz~1250Hz:以下、低周波数帯という)における吸音性能が低い。このため、低周波数帯の騒音を発生させるトラックには、低周波数帯における吸音性能が高い高価な吸音材が用いられている。
【0005】
また、特許文献1、2には、カバー本体と吸音材の間に背後空気層を設けて低周波数帯における吸音効果を高める技術が記載されている。この技術によれば、背後空気層の厚さに応じて低周波数帯の吸音効果が向上する。しかし、自動車用防音カバーの設置スペースは限られている。このため、安価な吸音材では低周波数帯における十分な吸音効果を得ることが難しいという課題がある。
【0006】
そこで本開示は、かかる事情に鑑みて創案され、その目的は、低周波数帯における吸音効果を高めることができる自動車用防音カバー構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一の態様によれば、
板状に形成され騒音源に対向して配置されるカバー本体と、
前記カバー本体の騒音源側に設けられる吸音材と、
前記カバー本体及び前記吸音材間に形成される背後空気層とを備え、
前記カバー本体には、板状のリブが、前記吸音材側に延びて設けられると共に、前記背後空気層を複数の小部屋に仕切るように設けられた
ことを特徴とする自動車用防音カバー構造が提供される。
【0008】
好ましくは、前記小部屋を区画する前記カバー本体には、前記騒音源からの騒音を前記リブに向けて反射させるための傾斜面が形成される。
【0009】
好ましくは、前記リブの厚さは、前記カバー本体の厚さより薄く設定される。
【0010】
好ましくは、前記カバー本体は、ファイバーを含有する樹脂で構成され、前記リブは、ファイバーを含有しない樹脂で構成される。
【0011】
また、前記リブは、容積が異なる複数種類の前記小部屋を形成するように前記カバー本体に設けられてもよい。
【0012】
また、前記小部屋の断面形状が、六角形、四角形、三角形または円形であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
上記の態様によれば、低周波数帯における吸音効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示の一実施の形態に係るエンジンルームの背面断面図である。
図2】自動車用防音カバーの斜視図である。
図3図2のA-A線矢視断面図である。
図4図3のB-B線矢視断面図である。
図5】自動車用防音カバーの吸音効果を示す折れ線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を説明する。なお、後述する実施の形態における前後左右上下の各方向は、車両の各方向をいうものとする。ただし、本実施の形態における各方向は、説明の便宜のために用いるものであり、後述する部材間の相対的な位置関係を表す。
【0016】
図1は本実施の形態に係るトラック1のエンジンルーム2を後方から視た断面図である。なお、エンジンルーム2はトラック1以外のものであってもよい。例えば、エンジンルーム2は、バス等の他の大型車のものであってもよい。
【0017】
図1に示すように、騒音源たるエンジン3は、左右のサイドメンバ4L、4R間に配置される。エンジンルーム2は、エンジン3の上下左右を隔壁5a、5b、5c、5d、5e、5fで囲むことで形成される。また、エンジン3を囲む隔壁5a、5b、5c、5d、5e、5fのうち、エンジン3の鉛直上方に配置される上隔壁5cと、左側のサイドメンバ4L及び上隔壁5c間に配置される上部左隔壁5aと、右側のサイドメンバ4R及び上隔壁5c間に配置される上部右隔壁5bは、本実施の形態に係る自動車用防音カバー構造を備える。
【0018】
図2は、上部左隔壁5aを斜め上方から視た斜視図であり、図3図2のA-A線矢視断面図である。図2及び図3に示すように、自動車用防音カバー構造は、板状に形成されエンジン3に対向して配置されるカバー本体7と、カバー本体7のエンジン3側に設けられる吸音材8と、カバー本体7及び吸音材8間に形成される背後空気層9とを備える。
【0019】
カバー本体7は、グラスファイバーを含有する樹脂、すなわち、ガラス繊維強化樹脂で構成される。これにより、カバー本体7は、軽量かつ高剛性に形成され、騒音を反射し易くなっている。カバー本体7を高剛性にできるため、カバー本体7をトラック1に取り付ける際のハンドリング性を向上できる。なお、カバー本体7は、炭素ファイバー等の他のファイバーを含有する繊維強化樹脂(FRP:Fiber Reinforced Plastics)で構成されてもよい。
【0020】
吸音材8は、シート状の不織布で構成される。不織布で構成される吸音材8は、比較的安価である。吸音材8は、クリップ13にてカバー本体7に留められる。なお、吸音材8は、シート状のグラスウールで構成されてもよい。この場合、吸音材8のコストは上昇するものの、低周波数帯においてより高い吸音効果が得られる。
【0021】
ところで、特許文献1、2には、吸音材とカバー本体との間に背後空気層を設ける技術が記載されている。この技術によれば、低周波数帯における吸音材の吸音性能を向上させることができる。しかし、自動車用防音カバーの設置スペースは限られている。このため、安価な吸音材では大型車のエンジン、変速機から発せられる低周波数帯における十分な吸音効果を得ることが難しいという課題がある。
【0022】
そこで、本実施の形態では、背後空気層9を複数の小部屋に仕切るようにカバー本体7に板状のリブ10を設ける。リブ10はカバー本体7に、吸音材8側に延びて設けられる。
【0023】
図3及び図4に示すように、リブ10は、吸音材8の外周を囲む外枠部10aと、外枠部10aで囲まれるエリアに配設される仕切部10bとを備える。外枠部10aの延長長さaは、仕切部10bの延長長さbより長く設定される。これにより、仕切部10bの先端は吸音材8の裏面8aに当接され、外枠部10aは吸音材8の裏面8aよりエンジン3側に延びる。また、外枠部10aは、吸音材8の外周を全周に亘って囲むように形成されており、吸音材8の外周に当接される。仕切部10bは、断面ハニカム状に形成される。すなわち、仕切部10bで区画される小部屋11の断面形状は、それぞれ六角形である。
【0024】
なお、小部屋11の断面形状は六角形に限られない。小部屋11の断面形状は、四角形であってもよく、三角形であってもよく、円形であってもよい。小部屋11の断面形状を変えることにより、吸音特性(吸音周波数)を変えることができる。また、小部屋11の大きさや、小部屋11を仕切る壁間の間隔を変えることによっても吸音特性を変えることができる。
【0025】
外枠部10a及び仕切部10bは、一定の厚さtに設定され、カバー本体7は、一定の厚さTに設定される。外枠部10a及び仕切部10bの厚さtは、カバー本体7の厚さTより薄く設定される。例えば、外枠部10a及び仕切部10bの厚さtは、0.5mm以上、0.8mm以下(0.5mm≦t≦0.8mm)の範囲内に設定される。また、外枠部10a及び仕切部10bは、グラスファイバーを含有しない樹脂で構成される。これにより、外枠部10a及び仕切部10bは、騒音を受けたとき振動しやすくなっており、騒音の音エネルギーを吸収しやすい。
【0026】
カバー本体7及びリブ10は、グラスファイバーを含有する熱可塑性樹脂(ガラスマット強化熱可塑性プラスチック)を用いて一体にプレス成形される。グラスファイバーは、一定以上の板厚を有しない部分には、行き渡らない性質がある。このため、外枠部10a及び仕切部10bの厚さtを調節することにより、カバー本体7のみにグラスファイバーを行き渡らせ、外枠部10a及び仕切部10bにはグラスファイバーを行き渡らせないことができる。なお、外枠部10a及び仕切部10bは、予めカバー本体7とは別体で形成され、カバー本体7に接着剤等で取り付けられるものであってもよい。
【0027】
また、小部屋11を区画するカバー本体7には、騒音源からの騒音をリブ10に向けて反射させるための傾斜面12が形成される。傾斜面12は、リブ10の基端から離間されたカバー本体7をエンジン3とは反対側に窪ませることで形成される。具体的には、傾斜面12は、小部屋11の中心位置で最も窪むようにカバー本体7をすり鉢状もしくは断面V字状に窪ませることにより立体的に形成される。これにより、リブ10はより大きな音エネルギーを受けることとなる。そしてこれにより、リブ10をより大きく振動させることができ、騒音をより効率よく吸収できる。
【0028】
次に本実施の形態の作用について述べる。
【0029】
図3に示すように、エンジン3から発生した騒音は、吸音材8を通過する際に、空気の粘性摩擦や、空気及び吸音材8間の摩擦等により減衰される。これにより騒音は吸収されて小さくなる。
【0030】
また、カバー本体7の傾斜面12に当たった騒音は、リブ10に向けて反射される。騒音を受けたリブ10は、騒音を反射させるとき、その音圧で僅かに撓み、振動する。これにより、傾斜面12から反射された騒音は更に減衰されて小さくなる。このとき、吸音材8とカバー本体7との間には、背後空気層9が形成されている。このため、低周波数帯の騒音も効率よく吸収されて小さくなる。また、騒音を受けて振動するリブ10が吸音材8と摩擦されることによっても騒音は吸収される。
【0031】
この後、騒音は、吸音材8のカバー本体7側からエンジン3側に通過して更に減衰される。
【0032】
図5は、自動車用防音カバー構造の吸音効果を示す折れ線グラフである。図中太い実線は本実施の形態に係る自動車用防音カバー構造(小部屋11の断面形状が六角形)の吸音率を表し、太い破線は小部屋11の断面形状を四角形にした場合の吸音率を表し、細い破線は従来構造(小部屋11を有しない)の吸音率を表す。
【0033】
図5に示すように、本実施の形態に係る自動車用防音カバー構造によれば、400Hz~1250Hzの低周波数帯の吸音率(太い実線)が、従来構造の吸音率(細い破線)より向上することが確認された。
【0034】
また、小部屋11の断面形状を四角形にした場合であっても、低周波数帯の吸音率(太い破線)が、従来構造の吸音率(細い破線)より向上することが確認された。また、小部屋11の断面形状が四角形である場合、六角形である場合より400Hz、800Hz及び1250Hz付近の吸音率が高くなり、500Hz及び1000Hz付近の吸音率が低くなるように吸音特性が変わることが確認された。
【0035】
このように、カバー本体7には、リブ10が背後空気層9を複数の小部屋11に仕切るように設けられるため、低周波数帯における吸音効果を高めることができる。そして、低周波数帯における吸音性能が低い安価な吸音材を用いても低周波数帯の騒音を良好に吸音でき、コストを低減できる。
【0036】
また、自動車用防音カバー構造がリブ10を備えるため、カバー本体7の剛性を向上させることができ、遮音性能を向上させることができる。そして、カバー本体7の厚さTを低減させることができ、軽量化と材料費削減ができる。
【0037】
また、小部屋11の断面形状や大きさ等を変えることで吸音特性を調整することができ、騒音の特性に応じたチューニングが容易にできる。
【0038】
以上、本開示の実施形態を詳細に述べたが、本開示は以下のような他の実施形態も可能である。
【0039】
(1)上述の実施の形態では、同一形状、同一容積の小部屋11を複数形成するようにカバー本体7に設けられるリブ10について説明したが、これに限られない。リブ10は、形状及び容積が異なる複数種類の小部屋11を形成するようにカバー本体7に設けられるものであってもよい。これにより、吸音特性を変えることができる。そして、騒音の特性に合うように吸音特性を調整することにより、騒音を効率よく吸収できる。
【0040】
(2)リブ10が一定の厚さtに設定される場合について説明したが、これに限られない。リブ10の厚さtは、部分的に異なっていてもよい。これにより、吸音特性を変えることができる。
【0041】
(3)外枠部10aの延長長さaは一定に設定され、仕切部10bの延長長さbも一定に設定されるものについて説明したが、これに限られない。外枠部10aの延長長さaや仕切部10bの延長長さbを部分的に変えることで吸音特性を変えることができる。
【0042】
(4)傾斜面12は、小部屋11の中心位置で最も窪むようにカバー本体7をすり鉢状に窪ませることにより立体的に形成されるものとしたが、これに限られない。例えば、傾斜面12は、小部屋11の中心位置で最もエンジン3側に隆起するようにカバー本体7を円錐状に隆起させることにより立体的に形成されるもの(図示せず)であってもよい。また、傾斜面12は、一方方向に波打たせることにより形成されるもの(図示せず)であってもよい。
【符号の説明】
【0043】
3 エンジン(騒音源)
7 カバー本体
8 吸音材
9 背後空気層
10 リブ
11 小部屋
12 傾斜面
図1
図2
図3
図4
図5