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  • 特許-病院の消火システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】病院の消火システム
(51)【国際特許分類】
   A62C 35/58 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
A62C35/58
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020069596
(22)【出願日】2020-04-08
(62)【分割の表示】P 2017138950の分割
【原出願日】2016-07-13
(65)【公開番号】P2020110664
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2020-04-09
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】390010342
【氏名又は名称】エア・ウォーター防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 秀晃
【合議体】
【審判長】山本 信平
【審判官】河端 賢
【審判官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-45557(JP,A)
【文献】特開2010-101070(JP,A)
【文献】特開2004-283329(JP,A)
【文献】特開2013-253761(JP,A)
【文献】国際公開第00/61238(WO,A1)
【文献】特開2018-8062(JP,A)
【文献】特開2013-128547(JP,A)
【文献】特開平10-306493(JP,A)
【文献】特開2011-110295(JP,A)
【文献】特開2009-100824(JP,A)
【文献】実開平1-130756(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 2/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者が入室可能な病院の消火システムであって、
スプリンクラーヘッドと、前記スプリンクラーヘッドに水を供給するためのスプリンクラー用配管とを有し、前記スプリンクラー用配管が常態で負圧状態に維持されている負圧スプリンクラーシステムと、
前記スプリンクラー用配管に負圧を供給するための負圧装置とを備え、
前記スプリンクラーヘッドが設けられる部屋に設けられ、前記スプリンクラーヘッド以外の場所で前記負圧装置の負圧を利用して空気を吸引する手段をさらに備え、
前記スプリンクラー用配管内に常態で水が充填されており負圧状態に保たれており、
前記負圧装置は、液体状態の水を吸引することが可能な負圧ポンプを有する、病院の消火システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病院の消火システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、病院では湿式加圧スプリンクラーシステムが消火システムとして用いられていた。なお、湿式スプリンクラーは、特許第3264939号に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3264939号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のスプリンクラーシステムでは、スプリンクラーヘッドが故障した場合に、スプリンクラーヘッドから水が放出されるという問題があった。そこで、この発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、スプリンクラーヘッドの損傷時に水が放出されない病院の消火システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に従った病院の消火システムは、スプリンクラーヘッドと、スプリンクラーヘッドに水を供給するためのスプリンクラー用配管とを有し、スプリンクラー用配管が常態で負圧状態に維持されている負圧スプリンクラーシステムと、病院内で用いる負圧を供給するための負圧用配管と、スプリンクラー用配管と負圧用配管に負圧を供給するための負圧装置とを備える。なお、常態とは、平常状態をいい、火災が発生していない状態をいう。
【0006】
このように構成された病院の消火システムでは、負圧スプリンクラーシステムを用いているため、仮にスプリンクラーヘッドが損傷したとしても、スプリンクラーヘッドから水が放出されることがない。病院において天井から水が放出されると、患者は、その水を医療排液と誤認してしまう可能性がある。医療排液には病原菌やウイルスが含まれていることがあるため、人体に有害である。このような誤認は病院にとって深刻な、かつ病院特有の問題である。このような噂が広まると、風評被害が発生する。
【0007】
これに対して負圧スプリンクラーシステムにおいてスプリンクラーヘッドが損傷すれば、その損傷したスプリンクラーヘッドが空気を吸い込むため吸込音が発生するが、水は放出されない。病院には通常負圧用配管が張り巡らされており、吸引などの作業を負圧を用いて行うため、空気の吸込音は病院の至る所で発生している。損傷したスプリンクラーヘッドから吸込音が発生したとしても、それは病院の至る所で発生している音であり、患者は不安を感じることは無い。
【0008】
好ましくは、病院の消火システムは、病院のある区画内に設けられてスプリンクラー用配管と負圧用配管とを接続する接続管をさらに備える。この場合、ある区画内でスプリンクラー用配管と負圧用配管を接続するだけで負圧のスプリンクラーシステムを実現することができる。
【0009】
好ましくは、前記スプリンクラー用配管内に常態で水が充填されており負圧状態に保たれている。この場合、火災時に即座にスプリンクラーヘッドから水を放出することができ
る。
【0010】
好ましくは、前記スプリンクラー用配管内に常態で水が充填されておらず負圧状態に保たれている。この場合、複数のスプリンクラーヘッドが損傷したとしても、それらのスプリンクラーヘッドから水が放出されることがない。
【0011】
好ましくは、温度が0℃超に保たれている区画内に前記スプリンクラーヘッドが設置される。
【発明の効果】
【0012】
この発明に従えば、スプリンクラーヘッドが損傷した場合にでも、スプリンクラーヘッドから水が放出されない病院の消火システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態1に従った病院の消火システムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施の形態1)
(病院の消火システムの構成)
図1は、実施の形態1に従った病院の消火システムの模式図である。図1で示すように、病院の消火システム1は、病院の建物10に設けられる。建物10は、下層階である第一区画11と、上層階である第二区画とを有する。
【0015】
負圧スプリンクラーシステム100は、一次配管101と、一次配管101に接続された二次配管102と、二次配管102に設けられたスプリンクラーヘッド103と、一次配管101と二次配管102との境界に設けられたバルブ105と一次配管101に水を送るための水ポンプ106とを有する。
【0016】
一次配管101には水が充填されている。この水は、水ポンプ106により加圧されている。水ポンプ106には消火水槽(図示せず)から水が供給される。建物10の最上階の高架水槽から水ポンプ106に水が供給されてもよい。
【0017】
一次配管101は、水ポンプ106から建物10の最上部まで垂直に立ち上がり、各階で分岐されている。この実施の形態では2階建ての建物10を記載しているが、建物10の階は2階に限定されない。
【0018】
一次配管101の水は、バルブ105で止められており、バルブ105が開くことで一次配管101の水が二次配管102へ送られる。バルブ105の開閉は、コンピューター302により制御される。
【0019】
二次配管102はバルブ105に接続されている。二次配管102は第二区画12に配置されている。なお、この実施の形態ではバルブ105が第二区画12に配置されている例を示しているが、バルブ105が第一区画11に配置されていてもよい。
【0020】
二次配管102は第二区画12の天井に配置されている。二次配管102には複数のスプリンクラーヘッド103が設けられている。スプリンクラーヘッド103の数は、第二区画12の広さによって決定される。
【0021】
この実施の形態では、第二区画12にスプリンクラーヘッド103が設けられる例を示しているが、第一区画11に二次配管102およびスプリンクラーヘッド103が配置さ
れていてもよい。
【0022】
スプリンクラーヘッド103は、閉鎖型のスプリンクラーヘッドであり、水を放出する孔が複数設けられている。スプリンクラーヘッド103は感熱機構(可溶金属片)を有する。常態では、水を放出する孔と、一次配管101との間はスプリンクラーヘッド103内で遮蔽されている。感熱機構が火災時の火炎により溶融すると遮断が開放されて一次配管101を経由して水がスプリンクラーヘッド103の孔から放出される。
【0023】
負圧システム200は、負圧用配管201と、負圧用配管201内を負圧にする負圧ポンプ204と、負圧用配管201に接続されるアウトレット203と、負圧用配管201と二次配管102とを接続する接続管205とを有する。
【0024】
負圧ポンプ204は第一区画11に設けられて負圧を発生させる。負圧ポンプ204は真空ポンプにより構成される。この実施の形態では、水ポンプ106および負圧ポンプ204は同じ第一区画11に設置されているが、これらが互いに異なる区画に設けられてもよい。
【0025】
負圧ポンプ204(吸引ポンプ)は主機および予備機により構成されてもよい。この場合には、故障時、メンテナンス時にも病院全体の使用量を賄える。吸引された細菌およびバクテリアを含む空気は大気を汚染しないよう、吸引フィルターによってこれらが採集される。
【0026】
負圧ポンプ204に接続された負圧用配管201は負圧ポンプ204から建物10の最上階まで垂直に立ち上がり、各階で分岐されている。各階において負圧用配管201が分岐して各部屋に負圧用配管201が張り巡らされている。
【0027】
病院の建物10には、病室、スタッフステーション、共用部、手術室などの区画(部屋)があり、それぞれの区画に負圧用配管201が到達している。病室、手術室では、たとえば患者の痰を吸引するために負圧が用いられる。スタッフステーションおよび共用部では、負圧が発生しているかどうかをモニターする圧力モニターに負圧用配管201が接続されている。
【0028】
アウトレット203は第二区画12に設けられている。アウトレット203に負圧用配管201が接続されている。
【0029】
なお、吸引用のアウトレット203に隣接して、酸素、笑気、空気、窒素、二酸化炭素などの医療ガス用のアウトレットが設けられてもよい。これらの配管は、中央配管(セン
トラルパイピング)とすることにより、維持管理の集中化が図れるとともに、壁裏、天井
裏に配管することで、スペースを有効活用できる上、衛生的で経済的である。
【0030】
負圧用配管201と二次配管102とは接続管205により接続されている。接続管205と二次配管102とは接続点202で接続されている。これにより、常態において、二次配管102内は負圧とされている。
【0031】
常態では、二次配管102内が負圧とされ、水が存在しない。負圧とすることで、二次配管102内に水が滞留することを防止できる。仮に二次配管102内に水が滞留したとしても、負圧下では、水の沸点は低くなる。そのため、二次配管102内の水が沸騰して接続管205を介して負圧ポンプ204で吸引される。
【0032】
検知システム300は、火災検知器301およびコンピューター302を有する。第二
区画12内で火災が発生すると、その熱または煙を火災検知器301が検知する。コンピューター302とバルブ105とが信号線311により接続されている。コンピューター302と水ポンプ106とが信号線312により接続されている。
【0033】
上記の病院の消火システム1は、スプリンクラーヘッド103と、スプリンクラーヘッド103に水を供給するためのスプリンクラー用配管としての二次配管102とを有し、二次配管102が常態で負圧状態に維持されている負圧スプリンクラーシステム100と、病院内で用いる負圧を供給するための負圧用配管201と、二次配管102と負圧用配管201に負圧を供給するための負圧装置としての負圧ポンプ204とを備える。病院の消火システム1は、病院の第二区画12内に設けられて二次配管102と負圧用配管201とを接続する接続管205をさらに備える。負圧用配管201内に常態で水が充填されておらず負圧状態に保たれている。温度が0℃超に保たれている第二区画12内にスプリンクラーヘッド103が設置される。負圧スプリンクラーシステム100は乾式の負圧スプリンクラーシステムである。
【0034】
(病院の消火システムの動作)
第二区画12で火災が発生すると、火災による熱または煙を火災検知器301が検知する。検知された情報は火災検知器301からコンピューター302に送られる。コンピューター302はバルブ105を開くようにバルブ105に信号を与える。コンピューター302は水ポンプ106を駆動させるか、水ポンプ106の駆動力を増大させる。これにより、常態では水が存在せず負圧状態であった二次配管102内に水が充填される。
【0035】
火災による熱は、スプリンクラーヘッド103の感熱機構を溶融させる。これにより、スプリンクラーヘッド103の水放出用の孔と二次配管102とが接続される。スプリンクラーヘッド103の水放出用の孔からは水が放出されて消火することができる。
【0036】
(効果)
このように構成された病院の消火システム1では、負圧ポンプ204は吸引用のポンプであり、かつ、二次配管102を負圧にするポンプでもある。吸引用のポンプは本来病院に備わっているものであるため、新たな装備を追加することなく、二次配管102内を負圧にすることができる。
【0037】
常態においてスプリンクラーヘッド103が損傷して水放出用の孔が二次配管102に連通すると、その孔は第二区画12内の空気を吸引して音を発生させる。病院では吸引などの作業を負圧を用いて行うため、空気の吸込音は病院の至る所で発生している。損傷したスプリンクラーヘッド103から吸込音が発生したとしても、それは病院の至る所で発生している音であり、患者は不安を感じることは無い。
【0038】
接続管205は、負圧用配管201および二次配管102が設けられる第二区画12に設けられる。そのため、負圧用配管201および二次配管102の接続管205を短くすることができ、施工コストを低下させることができる。
【0039】
さらに、常態において二次配管内が常圧の乾式スプリンクラーシステム(予作動式スプリンクラーシステム)と比較して、実施の形態1に従った負圧スプリンクラーシステム100(病院の消火システム1)は以下の効果がある。常圧乾式スプリンクラーシステムでは、火災時にポンプが作動して二次配管内に水が充填されるが、この時、二次配管内の空気が水で圧縮されるため、スムーズに(短時間で)二次配管内に水が充填されない。これに対して、負圧スプリンクラーシステム100では二次配管102内が負圧であるため、二次配管102内にスムーズに水が充填される。そのため、従来の乾式のスプリンクラー(予作動式スプリンクラー)の欠点であった、スプリンクラーヘッドからの水の散水が遅
れるという問題を解決することができる。
【0040】
(実施の形態2)
実施の形態2の病院の消火システム1では、負圧用配管201に常態で水が充填されており負圧状態に保たれている。その他の構成は、実施の形態1の病院の消火システム1と共通している。
【0041】
すなわち、実施の形態2に従った負圧スプリンクラーシステム100は、湿式の負圧スプリンクラーシステムである。負圧用配管201内の圧力が低いため、負圧用配管201内の水が蒸発しやすい。負圧用配管201内の水が蒸発して減少すると、減少した水を補充するシステムが採用される。たとえば、負圧用配管201の水が減少すれば、水の減少をセンサで検知し、センサがコンピューター302へ信号を送り、コンピューター302がバルブ105を少し開いて負圧用配管201内に水を補給してもよい。
【0042】
1つのスプリンクラーヘッド103が損傷したとする。この場合、接続管205による吸引力が、損傷したスプリンクラーヘッド103から水が漏れようとする力よりも強いので、損傷したスプリンクラーヘッド103から水が放出されない。多数のスプリンクラーヘッド103が同時に損傷した場合には、損傷したスプリンクラーヘッド103から水が放出されるが、同時に多数のスプリンクラーヘッド103が損傷する可能性は極めて低い。
【0043】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0044】
この発明は病院の消火システムの分野において用いることができる。
【符号の説明】
【0045】
1 病院の消火システム、10 建物、11 第一区画、12 第二区画、100 負圧スプリンクラーシステム、101 一次配管、102 二次配管、103 スプリンクラーヘッド、105 バルブ、106 水ポンプ、200 負圧システム、201 負圧用配管、202 接続点、203 アウトレット、204 負圧ポンプ、205 接続管、300 検知システム、301 火災検知器、302 コンピューター、311,312 信号線。
図1