(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】コードレスアイロン
(51)【国際特許分類】
D06F 75/14 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
D06F75/14 Z
(21)【出願番号】P 2020070643
(22)【出願日】2020-04-09
【審査請求日】2023-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】390010168
【氏名又は名称】東芝ホームテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】庭山 晃一
(72)【発明者】
【氏名】栗林 正人
(72)【発明者】
【氏名】三宅 一也
(72)【発明者】
【氏名】高木 均
(72)【発明者】
【氏名】小俣 汐生
【審査官】粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-309299(JP,A)
【文献】特開2000-093699(JP,A)
【文献】特開2019-097751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06F 75/00-77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を気化させる気化室を有するベースと、
前記ベースの底面に具備され、スチームの噴出孔を有するベースプレートと、を備え、
前記ベースと共に前記気化室を加熱して、当該気化室で生成したスチームを前記噴出孔から噴出させるコードレスアイロンにおいて、
前記ベースの下面の範囲全体に対して、当該ベースと前記ベースプレートとが接触している部分の比率を50%以下となるように構成され、
前記ベースは、周縁部と、前記周縁部に囲まれる一部の範囲とにおいて、前記ベースプレートと接触しており、
前記噴出孔は前記ベースプレートの略全域に分散して形成され、少なくとも一部が前記周縁部よりも中央寄りに、前記周縁部に沿って形成され
、
前記ベースの全長に対する中心線を境に前記ベースの前側の部分を前側部、前記ベースの後側の部分を後側部とした場合、前記ベースと前記ベースプレートとが接触している部分は、前記前側部が前記後側部よりも少なく、
前記ベースには、加熱手段となるヒータが、略U字状となるように前側を屈曲させて配置され、
前記ベースは、下面視で前記ヒータの屈曲した先端部が配置された部分において、前記ベースプレートと接触していないことを特徴とするコードレスアイロン。
【請求項2】
前記周縁部に沿って形成されている前記噴出孔と連通している、前記ベースと前記ベースプレートとの接触していない部分が連通した空間であることを特徴とする請求項1に記載のコードレスアイロン。
【請求項3】
前記ベースプレートには、略平坦な掛け面と、当該掛け面の後端から上方に傾斜する傾斜面と、が形成され、
前記傾斜面に対応する部分で前記ベースプレートが前記ベースと接触していることを特徴とする請求項
1または2に記載のコードレスアイロン。
【請求項4】
前記ベースの上部に設けられ、前記液体を貯留するタンクと、
前記タンクの後方に設けられ、側面から見て前端および後端を接続した略O字状に形成された把手とをさらに備え、
前記タンクは、上面から見た形状が略U字状で、その両側部が前記把手の前端部側から後端部側にかけて跨るように配置され、その中央部が上側部から下側部にかけて前方に突出する形状であり、前記上側部が前記前端部の前方に配置されて前記前端部よりも前方にある一方で前記下側部の後端が前記把手の下方に位置して前記前端部よりも後方になるように配置されることを特徴とする請求項
1~3のいずれか1項に記載のコードレスアイロン。
【請求項5】
前記ベースおよび前記気化室の加熱を制御する制御手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記ベースプレートの温度が180℃、200℃に設定可能なことに加えて、110℃~150℃の間で少なくとも3段階以上に温度調整が可能な構成としたことを特徴とする請求項
1~3のいずれか1項に記載のコードレスアイロン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチーム機能を備えたコードレスアイロンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のコードレスアイロンは多数存在し、例えば本願出願人は、特許文献1においてベースと共に気化室を加熱して、当該気化室で生成したスチームを噴出孔から噴出させるコードレスアイロンを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願出願人が、コードレスアイロンのアイロン本体の重量、スチーム量およびスチーム持続時間、および液体を貯蓄するタンクの容量をモニター試験で分析した結果、コードレスアイロンのアイロン本体の重量は液体である水を貯留しない状態で0.9kg以下、水をタンクに満杯に注水した状態で1.1kg以下が最も使い勝手が良く、またアイロン本体のスチーム性能は、13ml/min以上の水を気化したスチームを180秒以上噴出できるのが最も使い勝手が良い、との結果になった。また、タンクの容量は少なくとも120ml、好ましくは140ml以上であれば、水をタンクに満杯に注水した状態で一回のアイロン掛けに十分な量であり、スチーム量が3mlに満たないとアイロン掛け性能が不足し、さらにタンク容量が140ml未満だと水の量が少ない、との結果になった。
【0005】
しかしながら、スチーム発生量に対する持続時間は、気化手段であるアルミニウムなどのアイロンベースの熱容量に左右し、重量を重くすれば持続時間は長くなり、また重量を軽くすれば持続時間が短くなり、実用的な本体重量とスチーム発生性能には二律背反の関係にあった。そのため従来のコードレスアイロンでは、160mlの容量のタンクを備えるものはスチーム量が13ml/minの水を気化したスチームを180秒噴出でき、アイロン掛けには十分な量を確保できる一方で、アイロン本体の重量が水を貯留しない状態で1.1kg、水をタンクに満杯に注水した状態で1.26kgであり、使い勝手が悪かった。またアイロン本体の重量が水を貯留しない状態で0.9kgのものも存在したが、軽量である一方で水を気化するための熱容量が少なく、かつタンクの容量が80ml程度の容量と少ないために、水を気化したスチームを150秒程度しか噴出できず、また頻繁にタンクへの注水を必要としており実用上の課題があった。
【0006】
そこで本発明は上記事情に鑑み、軽量でありながらアイロン掛けに必要なスチーム量およびスチーム持続時間を備えたアイロンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のコードレスアイロンは、液体を気化させる気化室を有するベースと、前記ベースの底面に具備され、スチームの噴出孔を有するベースプレートと、を備え、前記ベースと共に前記気化室を加熱して、当該気化室で生成したスチームを前記噴出孔から噴出させ、前記ベースの下面の範囲全体に対して、当該ベースと前記ベースプレートとが接触している部分の比率を50%以下となるように構成され、前記ベースは、周縁部と、前記周縁部に囲まれる一部の範囲とにおいて、前記ベースプレートと接触しており、前記噴出孔は前記ベースプレートの略全域に分散して形成され、少なくとも一部が前記周縁部よりも中央寄りに、前記周縁部に沿って形成され、前記ベースの全長に対する中心線を境に前記ベースの前側の部分を前側部、前記ベースの後側の部分を後側部とした場合、前記ベースと前記ベースプレートとが接触している部分は、前記前側部が前記後側部よりも少なく、前記ベースには、加熱手段となるヒータが、略U字状となるように前側を屈曲させて配置され、前記ベースは、下面視で前記ヒータの屈曲した先端部が配置された部分において、前記ベースプレートと接触していないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ベースとベースプレートとの間により多くの空気層を作成して断熱性を向上させ、ベースをより高温に加熱することができ、ベース側の高温化を図ってアイロン本体の蓄熱性を向上させることができる。そのため軽量でありながらアイロン掛けに必要なスチーム量およびスチーム持続時間を備えたコードレスアイロンを提供できる。またベースとベースプレートとが接触していない個所に噴出孔を設置する必要があるため、噴出孔の設置個所の自由度が向上し、設計に幅が出る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態におけるアイロン本体の平面図である。
【
図3】同上、アイロン本体および載置台の縦断面図である。
【
図5】本発明の実施形態のアイロンと従来のアイロンとのベースとベースプレートとの接触範囲を比較した下面透視図である。
【
図7】本発明の実施形態におけるアイロンの温度上昇時のベースプレートの温度分布図である。
【
図9】同上、掛け面の温度とヒータの電力の計測結果をグラフで示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましいコードレスアイロンの一実施形態について、添付図面を参照しながら説明 する。
【0013】
まず、
図1~
図4に基づいて本実施形態のアイロンの全体構成から説明すると、1はアイロン本体であり、このアイロン本体1は載置台2に着脱自在に載置される。アイロン本体1の後部には凹状の受電部3が設けられ、アイロン本体1を載置台2に載置して、受電部3を載置台2の給電部4に嵌合させたときに、載置台2からの電源電圧が受電部3を通してアイロン本体1に供給される構成となっている。なお、本実施形態は載置台を中継してアイロン本体1に給電を行なうコードレス式のアイロンであるが、載置台2を用いずに電源電圧をアイロン本体1に直接供給するコード付きのアイロンでも構わない。
【0014】
アイロン本体1は、加熱手段としてヒータ5を埋設した金属製のベース6を下部に備えている。ベース6はダイキャスト成形品であり、底面に板状のベースプレート7が具備された構成を有し、ベースプレート7に固着された締結部材8によって、ベース6に密着固定される。ベース6の内部には、ヒータ5の近傍に位置して蒸気室すなわち気化室9が形成され、この気化室9に連通する噴出孔10が、ベース6の下面に取付けられたベースプレート7に開口形成される。なお、ベース6とその周辺の構成については、後程詳しく説明する。
【0015】
11はベース6の上面側を覆うように設けられた樹脂製のカバーであり、12はカバー11の上方に固定して設けられ、側面から見て前端および後端を接続した略O字状に形成された把手である。把手12の前方でベース6の上部には、液体を貯留するタンクとしてのタンク組立体13が、アイロン本体1に対して着脱可能に設けられる。アイロン本体1に備えたタンク組立体13は、例えば合成樹脂で形成され、上面から見た形状が略U字状で、その両側部が把手12の前端部側から後端部側にかけて跨るように配置され、その中央部が上側部から下側部にかけて突出する形状であり、当該上側部が把手12の前端よりも前方にある一方で当該下側部が把手12の前端よりも後方になるように配置されているため、後述する貯留室39の容量を160mlまで拡大させている。またタンク組立体13が拡大した分、把手12とカバー11との接続が弱くなるが、本実施形態では把手12が側面から見て略O字状に形成されているため、側面から見て略横U字状に形成された従来のアイロンの把手と比較して、後端を接続した分接続が強固になっている。14はタンク組立体13の前部に設けられた開閉自在な注水口蓋であり、ここからタンク組立体13内に液体である水を収容したり、タンク組立体13内の不要水を廃棄したりすることが可能になる。
【0016】
アイロン本体1に対するタンク組立体13のロック機構は、タンク組立体13の一側面にタンクロック釦(図示せず)を設け、タンク組立体13の内部で上下動する昇降体16が、弾性部材であるスプリング17により常時上方に付勢され、昇降体16の上部に突設したロック部18が、把手12の前部に形成した孔部19に係止することで構成される。これにより、スプリング17の付勢に抗してタンクロック釦を押動操作すると、昇降体16が押し下げられてロック部18と孔部19との係止状態が解除され、アイロン本体1からタンク組立体13を離脱させることが可能になる。なお、本実施形態では着脱式のカセットタンクとなるタンク組立体13について説明しているが、ロック機構を備えていない固定式のタンクであってもよい。
【0017】
タンク組立体13の前面には、注液口としての注水口21が開口形成され、この注水口21に臨んで、ヒンジ22を中心として回動する開閉可能な注水口蓋14が設けられる。注水口蓋14の下端部とタンク組立体13の前面との間には、注水口蓋14を指で開けやすくするのに凹状の指掛け部23が形成される。そして、この指掛部23に指を差し入れて、ヒンジ22を中心として注水口蓋14をタンク組立体13の前方に回動させると、開放した注水口21からタンク組立体13の内部に液体である水を適宜注入したり、タンク組立体13内の不要水を廃棄したりすることができるようになる。また、その後で注水口蓋14を反対側に回動させると、注水口蓋14が注水口21を密着状態で塞ぐことにより、注水口21からの水の漏出を防止する構成となっている。
【0018】
25は、前記把手12と、把手12の上部に配置される把手カバー26との二部品からなる握り部である。把手部に相当する棒状の握り部25は、アイロン本体1の腹部27との間に空洞28を有しており、この空洞28に手を差し入れて、握り部27を手で握ることができるように形成される。つまり、ここでいう腹部27とは、タンク組立体13の両側を除く握り部25に対向したアイロン本体1の平坦状の中央上面部を指すものであり、本実施形態では、カバー11上に取付けられる把手12の基部12Aとして形成される。把手12は、この基部12Aの他に、基部12Aの前側でU字状に立上がる前方連結部12Bと、前方連結部12Bより後側に延び、握り部27の下面部を形成する延設部12Cと、基部12Aの後側でU字状に立上がり、延設部12Cの後側に接続される後方連結部12Dとからなり、延設部12Cを把手カバー26で覆うことで、アイロン本体1の握り部25が構成される。
【0019】
31は、アイロン本体1の上部に設けられた操作部で、これはスチーム/ドライ切替レバー31Aや、増量スチーム用のショットボタン31Bや、霧吹き用のミストボタン31Cや、温度設定/切ボタン31Dにより構成される。また、握り部25の上部前側には、表示部として複数のLEDを並べた温度表示ランプ32が設けられており、温度設定/切ボタン31Dによる設定温度や、温度検知手段83(
図8参照)で検知されるベース6の温度などが温度表示ランプ32で表示される。
【0020】
タンク組立体13には、スチーム/ドライ切替レバー31Aに連動する弁装置36に加えて、ショットボタン31Bに連動するポンプ装置(図示せず)や、ミストボタン31Cに連動するミスト噴出装置37が組み込まれる。注水口21の下方には、ミスト噴出装置37の噴出口38が配置され、ミストボタン31Cを押動操作する毎に、タンク組立体13内の水が霧状のミストとして噴出口38から噴出される。またポンプ装置は、ショットボタン31Bの押動操作に連動して、一時的に多量の液体を気化室9へ送り込む液体供給装置として、タンク組立体13の内部に設けられる。
【0021】
タンク組立体13の内部には、注水口21からの水を収容する貯留室39と、温度設定/切ボタン31Dを除く操作部31やその可動機構を収容する機構可動室40とを上下に区画する仕切部材41が設けられる。液体の貯留空間となる貯留室39は、平面視で略U字状をなすタンクケース42と、このタンクケース42の下面開口を塞ぐ平板状のタンクベース43とにより形成され、タンク組立体13の前側で仕切部材41がタンクケース42と一体的に形成される。
【0022】
弁装置36は、スチーム/ドライ切替レバー31Aの操作に伴い、タンク組立体13の内部で仕切部材41を水密状態で貫通して鉛直方向に可動するニードル機構45と、このニードル機構45の下端に位置してタンクベース43に装着されたバルブ46とを主な構成要素とする。バルブ46はタンク組立体13の底部に設けられていて、このバルブ46に開口形成した小孔状の流出口となる滴下口を、開閉装置であるニードル機構45の先端の開閉杆により開閉し、気化室9への水の供給を制御する構成となっている。このニードル機構45の先端の開閉杆は、スチーム/ドライ切替レバー31Aの操作と連携してバルブ46の滴下口を開閉するように、仕切部材41に形成した筒状の支持体50に沿って上下動する。
【0023】
弁装置36の下部には、気化室9に連通する導液路58が設けられる。導液路58はカバー11の上面側に配置され、導液路58とベース6との間には、ベース6からの熱を遮断する遮熱板59が介在する。この遮熱板59の下方には、気化室9の上面開口部を覆う気化室9の蓋60が設けられる。導液路58を開閉する開閉弁62が、前記遮熱板59に設けられた開口部63より、ベース4の上面側に形成した凹状のバイメタル収納部64に向けて下方に突出している。バイメタル収納部64には、感熱応動体に相当する反転式のバイメタル65が収容され、バイメタル収納部64の近傍にある気化室9が所定温度に達すると、バイメタル65がバイメタル収納部64の内部で反転し、図示されないスプリングの付勢に抗して開閉弁62を押し上げることにより、導液路58を開く構成となっている。
【0024】
前述の導液路58は、タンク組立体13内部の水を気化室9に導くために、ベース6とカバー11との間に配設されるもので、タンク組立体13をカバー11に装着したときに、タンク組立体13のバルブ46の滴下口と導液路58とが連通する。導液路58の流入口には、開口したバルブ46の滴下口に密着当接する弾性部材としてのオートバルブ68を備える一方で、導液路58の流出口が気化室9に開口する構成となっている。
【0025】
握り部25の内部に設けた温度制御装置33は、温度設定/切ボタン31Dを構成する設定釦76のスイッチ部77や、温度表示ランプ32に相当する複数の発光ダイオードすなわちLED78の他に、現在の設定温度を記憶保持し、設定釦76の設定を可能にするコンデンサなどの蓄電装置79などを、パターン配線を施した基板81の上面に実装して構成される。LED78の光は、握り部25の表面に貼付されたシート状の温度表示銘板82を透過し、現在の設定温度を表示する構成となっている。また温度制御装置33は、LED78の表示動作を制御し、そして温度検知手段83(
図8参照)からの信号を受けてヒータ5を適宜通断電制御することにより、温度設定/切ボタン31Dにより設定された所定の温度にベース6を維持するように制御している。
【0026】
ベース6には、加熱手段となるヒータ5が上面から見て略U字状に屈曲して埋設され、ベース6の上面側には、スチームを発生させるための気化室9が、ヒータ5の近傍に形成される。気化室9は、ベース6の上面に形成した凹部の上部開口を蓋60で覆うことで密閉して形成される。気化室9の出口には、ベース6とベースプレート7との間の蒸気空間72に連通して、一乃至複数の蒸気排出孔(図示せず)が形成される。ベースプレート7の裏面側には、図示しない布地などに当接する水平で略平坦な掛け面73と、この掛け面73の後端から上方に傾斜する傾斜面74とが形成される。蒸気空間72に連通する噴出孔10は、掛け面73のほぼ全域に分散して、ベースプレート7に複数開口形成される。
【0027】
図5および
図6は、本実施形態のコードレスアイロンとしてのアイロン本体1と従来のコードレスアイロンとのベース6とベースプレート7との接触範囲を比較した比較図であり、(A)がアイロン本体1、(B)が従来のコードレスアイロンを示しており、
図5が比較図、
図6(a)が下面透視図、
図6(b)が上面透視図を示している。また色の濃い個所がベース6とベースプレート7とが接触している範囲であり、アイロン本体1および従来のコードレスアイロンの両方において、ベース6の周縁部および中央部と、傾斜面74に対応する部分とが、ベースプレート7に主に接触していることが分かる。ここで、アイロン本体1ではベース6の下面の範囲全体の面積が141cm
2であり、下面の範囲全体の面積が171cm
2である従来のコードレスアイロンと比較してコンパクトになっており、ベース6の体積を減少させてベース6の重量を397gにまで減少させることでアイロン本体1の重量を0.9kgにまで減少させている。
【0028】
またアイロン本体1ではベース6の下面の範囲全体に対して、ベース6とベースプレート7とが接触している接触範囲の全体の比率を50%以下に抑えている。そのため、当該比率が50%を超えている従来のコードレスアイロンと比較して、ベース6とベースプレート7との間により多くの空気層を作成しており断熱性を向上させている。この構成により、従来のコードレスアイロンと比較してベース6をより高温に加熱することができ、ベース6側の高温化を図ってアイロン本体1の蓄熱性を向上させている。またベース6とベースプレート7とが接触していない個所に噴出孔10を設置する必要があるため、噴出孔10の設置個所の自由度が向上し、設計に幅が出る。
【0029】
ここでアイロン本体1および従来のコードレスアイロンでは、ヒータ5にシーズヒータを採用しており、当該シーズヒータが上述したように上面から見て略U字状に屈曲してベース6に埋設されると、ベース6の前側部に対応するシーズヒータの屈曲部である先端部の方がシーズヒータの2つの末端部と比較して温度上昇が早い、という特性を有している。しかしながら、ベース6の全長に対する中心線を境にベース6の前側部、後側部と定義した場合、アイロン本体1では、前側部が後側部よりも上述した接触範囲を少なくするように構成されており、温度上昇の早いシーズヒータの先端部に対応するベース6の前側部の上述した接触範囲を抑えることで、上述したベース6側の高温化をさらに図ることができ、またベースプレート7の掛け面73に対する温度分布の改善を図ることができる。
図7は、本実施形態におけるアイロン本体1の温度上昇時のベースプレート7の温度分布図を示しているが、温度の高い白色の部分がベースプレート7の掛け面73の略全体に広がっていることが理解されよう。
【0030】
次に、温度制御装置33の制御系統について、
図8を参照しながら説明する。同図において、温度制御装置33は、気化室9、すなわちベース6の温度を検知する温度検知手段83からの温度検知信号と、受電部3における電力の供給を検知する通電検知手段84からの通電検知信号と、操作部31の温度設定/切ボタン31
Dからの制御信号とを受けて、通電時にベース6を加熱するヒータ5を制御すると共に、上述したLED78すなわち温度表示ランプ32の動作を制御する。アイロン本体1では、これらの制御は電力が供給される通電状態時に行なわれ、アイロン本体1を載置台2から離脱させた使用時には、温度制御装置33による制御が行なわれないように構成される。
【0031】
次に上記構成における作用を説明する。先ず、注水口蓋14を開けて、所定量の水を注水口21から貯留室39に収容し、注水口蓋12を閉める。アイロン本体1では、従来のコードレスアイロンと比較してベース6の体積を減少させることでアイロン本体1の重量を減少させており、貯留室39に水を満杯に収容した状態で1.1kg以下になるように構成している。またアイロン本体1では、把手12を略O字状に形成しており、略横U字状に形成された従来のコードレスアイロンと比較して、後方連結部12Dが存在する分、前方連結部12Aを薄くすることができ、その分タンク組立体13の貯留室39の容量を拡大させることができる。そのため80mlの貯留室39の容量である従来のコードレスアイロンと比較して、貯留室39の容量を160mlにまで拡大させることができ、スチーム発生の持続時間を従来よりも延ばすことができる構成にしている。
【0032】
続いて、アイロン本体1を載置台2に載置して受電部3を載置台2の給電部4に嵌合させ、載置台2の図示しない電源プラグをコンセントに差し込むと、載置台2から給電部4経由で、電力が受電部3を通してアイロン本体1に供給される。この給電状態の時には蓄電装置79にも電力が供給され、蓄電装置79は供給された電力を蓄積して各部に動作電圧を供給し、LED78などの温度制御装置33が駆動可能になる。このとき、操作部31のスチーム/ドライ切替レバー31Aは「ドライ」側になっており、ニードル機構45によりバルブ46の滴下口が閉塞されている。
【0033】
ここで操作部31の温度設定/切ボタン31Dを押動操作し、アイロン掛けの対象物となる布地に合わせた温度を設定すると、その操作信号が温度制御装置33に受け入れられ、温度制御装置33はベース6の温度が設定された所定の温度となるように、温度検知手段83からの温度検知信号を基にヒータ5を通断電制御して、気化室9を含むベース6を加熱する。なお温度制御装置33は、この温度検知信号を基に、ベース6の温度が所定の温度に達するまで温度表示ランプ32を点滅表示させるように制御してもよい。
【0034】
従来のコードレスアイロンにおいて掛け面73の温度は、JISなどで設定された、布地の種類に応じた温度設定である120℃、160℃、200℃の3種類が推奨されていた。また掛け面73の温度が120℃、140℃、155℃、180℃、200℃の5種類で設定可能なアイロンも知られている。そして、衣類スチーマーなどのスチームアイロンは主にスチームで衣類の皺をのばしている一方で、例えばワイシャツの襟や袖口を手軽にアイロン掛けするために掛け面を備えたものも存在し、当該スチームアイロンのベース6の温度は150℃以下程度に抑制されているため、化織に掛け面73が接触した場合における、溶解などの不具合を防止することが考慮されている。しかしながら布地の生地によっては、150℃以下が望ましい布地や、アイロン掛け不要である形状記憶布地がある一方で、襟や裾をパリッとさせたいというユーザーからの要望があった。そこで本実施形態のアイロンでは、掛け面73の温度が180℃、200℃に設定可能なことに加えて、110℃~150℃の間で少なくとも3段階以上に温度調整が可能な構成としており、より布地の生地やアイロン掛けの種類に合った温度調整ができ、このユーザーの要望に応えている。
【0035】
ヒータ5によりベース6への加熱を開始した直後は、ベース6が水の気化温度にまで到達しておらず、かつベース6のバイメタル収納部64に収納されたバイメタル65が復帰状態にあって、導液路58が開閉弁62により閉塞されている。そのため、仮にスチーム/ドライ切替レバー31Aを「スチーム」側に切替操作しても、タンク組立体13内からの水の流通は導液路58で遮断されて気化されず、そこから先の噴出孔10から湯滴が噴出することを防止できる。
【0036】
その後温度制御装置33は、ベース6の温度が所定の温度に達したことを温度検知手段83からの温度検知信号で検知すると、LED78を点灯表示させるように制御する。そのため使用者は、温度表示ランプ32を確認すれば、アイロン本体1の使用可否の目安を一目で理解することができる。なおアイロン本体1がブザーなどの報知手段を備えてもよく、温度制御装置33が、上述した点灯表示と併せて、この報知手段で報知するように構成されてもよい。そしてユーザーは、スチーム/ドライ切替レバー31Aを切替えずに「ドライ」側のままにして、握り部25を手で握って、アイロン本体1を載置台2より離脱する。ここでドライアイロンとしてアイロン本体1を使用する場合、アイロン掛けの対象物となる布地に掛け面73を接触させることにより使用することができる。
【0037】
ここでユーザーがスチーム機能を利用する場合、ユーザーがスチーム/ドライ切替レバー31Aを「スチーム」側に切替えると、それに連動してニードル機構45の開閉杆がバルブ46の滴下口から離れ、この滴下口が開状態になる。このときに気化室9がある一定の温度以上に達している場合は、バイメタル65が反転して開閉弁62を押し上げ、導液路58が開状態になっている。そして貯留室39内の水が弁装置36から導液路58を通して気化室9に滴下する。そのため、加熱された気化室9で水が気化され、ベース6の掛け面73から噴出孔10を通して、通常量のスチームが噴出される。
【0038】
またスチームの噴出を一時的に増量させる、いわゆるショット噴出を行なうには、上述の気化室9がある一定の温度以上に達している状態で、タンク組立体13の上部に突出した増量スチーム用のショットボタン31Bを押動操作する。ショットボタン31Bが押し上げられた状態では、タンク組立体13の内部で、貯留室39に貯留した水がポンプ装置(図示せず)の内部に吸込まれており、そこからユーザーがショットボタン31Bを押動操作してポンプ装置を手動で動作させると、このポンプ装置の内部に吸込まれた水が、導液路58を通して一気に気化室9に吐出される。これにより、加熱した気化室9でポンプ装置からの水が一気に気化され、ベース6の掛け面73から噴出孔10を通して、通常スチームよりも勢いのある多量のスチーム(増量スチーム)を噴出させることができる。
【0039】
アイロン本体1の使用中、経時変化と共にベース6の温度が低下していく。そして気化室9が上述のある一定の温度未満になるとバイメタル65が反転状態から復帰し、開閉弁62が下がって導液路58が閉状態になる。これにより、タンク組立体13内からの水の流通は導液路58で遮断されるため、タンク組立体13内からの水が気化されずに噴出孔10から湯滴が噴出することを防止できる。その後ユーザーがアイロン本体1を載置台2に載置して受電部3を載置台2の給電部4に嵌合させると、載置台2から給電部4経由で、電力が受電部3を通してアイロン本体1に再度供給され、温度制御装置33はベース6の温度が設定された所定の温度となるように、温度検知手段83からの温度検知信号を基にヒータ5を通断電制御してベース6を再度加熱する。
【0040】
図9は、アイロン本体1における掛け面73の温度とヒータ5の電力の計測結果をグラフで示した図である。同図において、Tは掛け面73の温度の推移、Wはヒータ5の電力の推移を示しており、掛け面73の温度が194℃に達した点T
1のときにアイロン本体1を載置台2から離脱させ、13ml/minの量のスチームを噴出させ続けてその後の経時変化を計測している。
【0041】
上述したとおり本実施形態のアイロン本体1は、ベース6とベースプレート7とが接触している接触範囲の全体の比率を50%以下に抑えているため、ベース6とベースプレート7との間により多くの空気層を作成しており断熱性を向上させ、ベース6をより高温に加熱させてアイロン本体1の蓄熱性を向上させている。そのためアイロン本体1を載置台2から離脱させ、ヒータ電力Wの値が0W程度に低下した直後は、加熱されたベース6の温度により掛け面73の温度Tが離脱時の温度T1よりもさらに上昇し、205℃前後にまでオーバーシュートしており、それから低下して再度194℃に達する点T2まで略40秒間経過している。本実施形態のアイロン本体1において、再度194℃に達する点T2は掛け面73の温度の下限となっており、従来のアイロンよりもT1からT2までの時間が長く、これがスチーム噴出の持続時間の増加に繋がっている。
【0042】
その後の時間の経過と共に、アイロン本体1は噴出孔10からスチームを噴出させつつベース6の温度が低下していき、そのため掛け面73の温度TがT2から低下していく。しかしながら上述したように、本実施形態のアイロン本体1は断熱性および蓄熱性を向上させているため、同程度の重量の従来のアイロンよりも掛け面73の温度Tの下がり方が遅くなっていることが理解されよう。
【0043】
そして掛け面73の温度Tが点T3に低下するまでベース6の温度が低下すると、ベース6のバイメタル収納部64に収納されたバイメタル65が復帰状態になり、導液路58が開閉弁62により閉塞されてスチームの噴出が停止する。その後、アイロン本体1を載置台2に載置して受電部3を載置台2の給電部4に嵌合させるとヒータ電力Wの値が0.2W程度に上昇しており、載置台2から給電部4経由で、電力が受電部3を通してヒータ5に再度供給されていることが分かる。
【0044】
図9において、掛け面73の温度Tが離脱時の温度T
1からスチーム噴出を停止する温度T
3になるまでアイロン本体1でスチームを噴出しており、点T
1から点T
3までの時間181秒が、本実施形態のアイロン本体1で13ml/minの量のスチームを噴出させ続けるスチーム噴出の持続時間であるという結果となった。また掛け面73の温度の下限である再度194℃に達する点T
2からスチーム噴出を開始してもスチーム噴出の持続時間が140秒であるという結果となった。
【0045】
通常はベース6の体積を減少させると、その分アイロン本体1の蓄熱性が低下してスチーム噴出の持続時間が低下する。しかしながら
図9の計測結果のグラフから、本実施形態のアイロン本体1は、ベース6の体積を減少させることでアイロン本体1の重量を0.9kgにまで減少させつつ、貯留室39の容量を160mlにまで拡大させ、貯留室39に水を満杯に収容した状態で1.1kg以下になるような構成で、かつ断熱性および蓄熱性を向上させる構成により、アイロン本体1のスチーム噴出の持続時間が181秒、掛け面73の温度の下限からのスチーム噴出の持続時間が140秒であるため、スチーム噴出の持続時間が135秒以上という規格を満足していることが分かった。したがって本実施形態のアイロン本体1は、本願出願人が分析したモニター試験の要件をいずれも満足しており、アイロン本体の重量、水を貯留するタンクの容量、スチーム量およびスチーム持続時間のすべての点で有位性が得られることが分かった。
【0046】
以上のように、本実施形態のコードレスアイロンとしてのアイロン本体1は、液体としての水を気化させる気化室9を有するベース6と、ベース6の底面に具備され、スチームの噴出孔10を有するベースプレート7と、を備え、ベース6と共に気化室9を加熱して、当該気化室9で生成したスチームを噴出孔10から噴出させ、ベース6の下面の範囲全体に対して、当該ベース6とベースプレート7とが接触している接触範囲の全体の比率を50%以下となるように構成されている。そのため、ベース6とベースプレート7との間により多くの空気層を作成して断熱性を向上させ、ベース6をより高温に加熱することができ、ベース6側の高温化を図ってアイロン本体1の蓄熱性を向上させることができる。したがって、ベース6を397gまでコンパクトにしても13ml/minの量のスチームを181秒噴出させ続けることができ、スチーム持続時間を長くすることができるため、アイロン本体1の重量が0.9kgと軽量でありながらアイロン掛けに必要なスチーム量およびスチーム持続時間を備えたアイロン本体1を提供できる。またベース6とベースプレート7とが接触していない個所に噴出孔10を設置する必要があるため、噴出孔10の設置個所の自由度が向上し、設計に幅が出る。
【0047】
また本実施形態のアイロン本体1は、ベース6の上部に設けられ、水を貯留するタンクとしてのタンク組立体13と、タンク組立体13の後方に設けられ、側面から見て前端および後端を接続した略O字状に形成された把手12とをさらに備え、タンク組立体13は、上面から見た形状が略U字状で、その両側部が把手12の前端部側から後端部側にかけて跨るように配置され、その中央部が上側部から下側部にかけて突出する形状であり、前記上側部が前記把手の前記前端よりも前方にある一方で前記下側部が前記把手の前記前端よりも後方になるように配置される。そのため、タンク組立体13の貯留室39の容量を160mlにまで拡大させることができ、アイロン掛けに必要な貯留室39の容量を確保できる一方で、把手12の接続が弱くなることを防止できる。
【0048】
また本実施形態のアイロン本体1は、ベース6および気化室9を加熱するヒータ5を制御する制御手段としての温度制御装置33をさらに備え、温度制御装置33は、ベースプレート7の温度が180℃、200℃に設定可能にヒータ5を制御することに加えて、110℃~150℃の間で少なくとも3段階以上に温度調整が可能にヒータ5を制御する構成としており、より布地の生地やアイロン掛けの種類に合った温度調整ができる。
【0049】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更可能である。例えば本実施形態では、アイロン本体1に通電検知手段84を設けているが、温度制御装置33への電力の供給の有無により、受電部3における電力の供給の有無を判断するように構成してもよい。また本実施例の構成や形状は、図示したものに限定されず、適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 アイロン本体(コードレスアイロン)
5 ヒータ
6 ベース
7 ベースプレート
9 気化室
10 噴出孔
12 把手
13 タンク組立体(タンク)
33 温度制御装置(制御手段)
72 蒸気空間(ベースとベースプレートとの接触していない部分)
73 掛け面
74 傾斜面