(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】電子写真感光体、プロセスカートリッジ及び電子写真装置
(51)【国際特許分類】
G03G 5/147 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
G03G5/147 503
(21)【出願番号】P 2020071958
(22)【出願日】2020-04-13
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】関戸 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】西 将史
【審査官】高草木 綾音
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-229495(JP,A)
【文献】特開2018-194799(JP,A)
【文献】特開2015-114453(JP,A)
【文献】特開2020-034903(JP,A)
【文献】特開2018-141974(JP,A)
【文献】特開2009-003235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 5/00-5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と導電層と感光層と保護層とをこの順に有する電子写真感光体であって、
該保護層が、結着樹脂及び金属酸化物粒子を含有し、
該保護層の全体積に占める、該金属酸化物粒子の含有量が、33体積%以上であり、
該金属酸化物粒子が酸化チタンを含有する芯材と、該芯材を被覆する酸化チタンを含有する被覆層とを有し、
該被覆層がさらにニオブを含有し、
前記被覆層の全質量に対するニオブの存在比率が、前記芯材の全質量に対するニオブの存在比率より高いことを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
前記金属酸化物粒子の前記ニオブの含有量が前記金属酸化物粒子の全質量に対して2.6重量%以上である請求項1
に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記芯材が含有する前記酸化チタンが、アナターゼ型酸化チタン又はルチル型酸化チタンである請求項1
又は2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の電子写真感光体と帯電手段、現像手段及びクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段と、を一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項5】
請求項1~
3いずれか1項に記載の電子写真感光体、並びに、帯電手段、露光手段、現像手段及び転写手段を有することを特徴とする電子写真装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真感光体、該電子写真感光体を有するプロセスカートリッジ及び電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置に用いられる電子写真感光体において、電子写真感光体の長寿命化や繰り返し使用時の高画質化を目的として、機械的耐久性(耐摩耗性)の向上のために、保護層を設けることが知られている。
【0003】
この様な保護層を用いた電子写真感光体の電気特性を改善するため、保護層中に酸化チタンを添加する事が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの検討によると、特許文献1に記載の電子写真感光体では、繰り返し使用時の帯電能の維持に改善の余地がある事が分かった。
【0006】
したがって、本発明の目的は繰り返し使用時の帯電能維持が可能な電子写真感光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。
即ち、本発明の第一の態様は、
支持体と導電層と感光層と保護層とをこの順に有する電子写真感光体であって、
該保護層が、結着樹脂及び金属酸化物粒子を含有し、
該保護層の全体積に占める、該金属酸化物粒子の含有量が、33体積%以上であり、
該金属酸化物粒子が酸化チタンを含有する芯材と、該芯材を被覆する酸化チタンを含有する被覆層とを有し、
該被覆層がさらにニオブを含有し、
前記被覆層の全質量に対するニオブの存在比率が、前記芯材の全質量に対するニオブの存在比率より高いことを特徴とする電子写真感光体。
【0008】
又、本発明の第二の態様は、
支持体と導電層と感光層と保護層とをこの順に有する電子写真感光体であって、
該保護層が、結着樹脂及び金属酸化物粒子を含有し、
該金属酸化物粒子が酸化チタンを含有する芯材と、該芯材を被覆する酸化チタンを含有する被覆層とを有し、
該金属酸化物粒子の酸素欠損率をA(%)、該芯材の酸素欠損率をB(%)、該被覆層の酸素欠損率をC(%)としたときに下記式(1)及び式(2)を満足することを特徴とする電子写真感光体。
A≦2.0 (1)
10×B<C (2)
【発明の効果】
【0009】
本発明の第一の態様又は第二の態様によれば、良好な帯電能を有する電子写真感光体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、好適な実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。
本発明者らが検討したところ、従来技術で用いられている酸化チタンを含有する金属酸化物粒子が保護層中に添加された感光体は、繰り返し使用時の帯電能の維持に改善の余地がある事が分かった。
【0012】
上記従来技術で発生していた技術課題を解決するために、検討を行った所、本発明の第一の態様で示したように、芯材と被覆層に酸化チタンを含有する金属酸化物粒子において、被覆層にニオブを含有することで技術課題が解決できることが分かった。
【0013】
また、本発明の第二の態様に示したように、芯材と被覆層に酸化チタンを含有する金属酸化物において、酸素欠損率が特定の関係を有する場合、従来技術で発生していた技術課題を解決できることが分かった。
この理由は明確には明らかになっていないが、本発明者は次の様に考えている。
【0014】
第一の態様のように、一般的に酸化チタンを含有する金属酸化物粒子は、原子価の価数が異なる他元素であるニオブを含有した場合、導電性が向上するが、ニオブが存在する部位は、極性が強い部位となる。そのためニオブが多く存在するとトラップとして働き、残電等の電気特性が悪化する場合がある。
しかし、酸化チタンを含有する金属酸化物粒子の被覆層に、ニオブが優先的に存在する(芯材より被覆層におけるニオブの存在比率が高い)金属酸化物粒子を保護層が有する事で、保護層中における導電パスが繋がり易くなる。その結果、保護層中に電荷が残留し難くなるため、帯電能低下が防止できる。
【0015】
また、第二の態様のように、一般的に酸化チタンを含有する金属酸化物粒子は、結晶構造中に酸素欠損を有する場合、導電性が向上するが、酸素欠損を有する部位は、極性が強い部位となるため、多く存在するとトラップとして働き、残電等の電気特性が悪化する。
しかし、酸化チタンを含有する金属酸化物粒子、その芯材及びその被覆層の酸素欠損率を特定の関係を有する金属酸化物粒子を保護層が有することで、保護層中における導電パスが繋がり、保護層中に電荷が残留し難くなるため、帯電能低下が防止できる。
【0016】
また、本発明の金属酸化物粒子が、芯材と被覆層にそれぞれ酸化チタンを含有することは、個々の粒子が作用する導電パス性能の安定性及び均一性の観点から必要であると考えている。
【0017】
以上のメカニズムのように、各構成が結着樹脂を有する保護層中において、有機的に作用し合うことによって、本発明の効果を達成することが可能となる。
【0018】
[電子写真感光体]
本発明の電子写真感光体は、支持体と導電層と、感光層と、保護層とを有することを特徴とする。
【0019】
本発明の電子写真感光体を製造する方法としては、後述する各層の塗布液を調製し、所望の層の順番に塗布して、乾燥させる方法が挙げられる。このとき、塗布液の塗布方法としては、浸漬塗布、スプレー塗布、インクジェット塗布、ロール塗布、ダイ塗布、ブレード塗布、カーテン塗布、ワイヤーバー塗布、リング塗布などが挙げられる。これらの中でも、効率性及び生産性の観点から、浸漬塗布が好ましい。
以下、各層について説明する。
【0020】
<支持体>
本発明において、電子写真感光体は、支持体を有する。本発明において、支持体は導電性を有する導電性支持体であることが好ましい。また、支持体の形状としては、円筒状、ベルト状、シート状などが挙げられる。中でも、円筒状支持体であることが好ましい。また、支持体の表面に、陽極酸化などの電気化学的な処理や、ブラスト処理、切削処理などを施してもよい。
支持体の材質としては、金属、樹脂、ガラスなどが好ましい。
金属としては、アルミニウム、鉄、ニッケル、銅、金、ステンレスや、これらの合金などが挙げられる。中でも、アルミニウムを用いたアルミニウム製支持体であることが好ましい。
また、樹脂やガラスには、導電性材料を混合又は被覆するなどの処理によって、導電性を付与してもよい。
【0021】
<導電層>
本発明において、支持体の上に、導電層を有する。導電層を設けることで、支持体表面の傷や凹凸を隠蔽することや、支持体表面における光の反射を制御することができる。
導電層は、導電性粒子と、樹脂と、を含有することが好ましい。
【0022】
導電性粒子の材質としては、金属酸化物、金属、カーボンブラックなどが挙げられる。
金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化インジウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化ビスマスなどが挙げられる。金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀などが挙げられる。
これらの中でも、導電性粒子として、金属酸化物を用いることが好ましく、特に、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛を用いることがより好ましい。
導電性粒子として金属酸化物を用いる場合、金属酸化物の表面をシランカップリング剤などで処理したり、金属酸化物にリンやアルミニウムなど元素やその酸化物をドーピングしたりしてもよい。
また、導電性粒子は、芯材粒子と、その粒子を被覆する被覆層とを有する積層構成としてもよい。芯材粒子としては、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛などが挙げられる。被覆層としては、酸化スズなどの金属酸化物が挙げられる。
また、導電性粒子として金属酸化物を用いる場合、その体積平均粒子径が、1nm以上500nm以下であることが好ましく、3nm以上400nm以下であることがより好ましい。
【0023】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂などが挙げられる。
また、導電層は、シリコーンオイル、樹脂粒子、酸化チタンなどの隠蔽剤などを更に含有してもよい。
【0024】
導電層の平均膜厚は、1μm以上50μm以下であることが好ましく、3μm以上40μm以下であることが特に好ましい。
【0025】
導電層は、上述の各材料及び溶剤を含有する導電層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。導電層用塗布液中で導電性粒子を分散させるための分散方法としては、ペイントシェーカー、サンドミル、ボールミル、液衝突型高速分散機を用いた方法が挙げられる。
【0026】
<下引き層>
本発明において、導電層の上に、下引き層を設けてもよい。下引き層を設けることで、層間の接着機能が高まり、電荷注入阻止機能を付与することができる。
【0027】
下引き層は、樹脂を含有することが好ましい。また、重合性官能基を有するモノマーを含有する組成物を重合することで硬化膜として下引き層を形成してもよい。
【0028】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、アルキッド樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエチレンオキシド樹脂、ポリプロピレンオキシド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド酸樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、セルロース樹脂などが挙げられる。
【0029】
重合性官能基を有するモノマーが有する重合性官能基としては、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基、メチロール基、アルキル化メチロール基、エポキシ基、金属アルコキシド基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、カルボン酸無水物基、炭素-炭素二重結合基などが挙げられる。
【0030】
また、下引き層は、電気特性を高める目的で、電子輸送物質、金属酸化物、金属、導電性高分子などを更に含有してもよい。これらの中でも、電子輸送物質、金属酸化物を用いることが好ましい。
電子輸送物質としては、キノン化合物、イミド化合物、ベンズイミダゾール化合物、シクロペンタジエニリデン化合物、フルオレノン化合物、キサントン化合物、ベンゾフェノン化合物、シアノビニル化合物、ハロゲン化アリール化合物、シロール化合物、含ホウ素化合物などが挙げられる。電子輸送物質として、重合性官能基を有する電子輸送物質を用い、上述の重合性官能基を有するモノマーと共重合させることで、硬化膜として下引き層を形成してもよい。
金属酸化物としては、酸化インジウムスズ、酸化スズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素などが挙げられる。金属としては、金、銀、アルミなどが挙げられる。
また、下引き層は、添加剤を更に含有してもよい。
【0031】
下引き層の平均膜厚は、0.1μm以上50μm以下であることが好ましく、0.2μm以上40μm以下であることがより好ましく、0.3μm以上30μm以下であることが特に好ましい。
【0032】
下引き層は、上述の各材料及び溶剤を含有する下引き層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥及び/又は硬化させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
【0033】
<感光層>
電子写真感光体の感光層は、主に、(1)積層型感光層と、(2)単層型感光層とに分類される。(1)積層型感光層は、電荷発生物質を含有する電荷発生層と、電荷輸送物質を含有する電荷輸送層と、を有する。(2)単層型感光層は、電荷発生物質と電荷輸送物質を共に含有する感光層を有する。
【0034】
(1)積層型感光層
積層型感光層は、電荷発生層と、電荷輸送層と、を有する。
【0035】
(1-1)電荷発生層
電荷発生層は、電荷発生物質と、樹脂と、を含有することが好ましい。
【0036】
電荷発生物質としては、アゾ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、インジゴ顔料、フタロシアニン顔料などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、フタロシアニン顔料が好ましい。フタロシアニン顔料の中でも、オキシチタニウムフタロシアニン顔料、クロロガリウムフタロシアニン顔料、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料が好ましい。
【0037】
電荷発生層中の電荷発生物質の含有量は、電荷発生層の全質量に対して、40質量%以上85質量%以下であることが好ましく、60質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。
【0038】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリビニルブチラール樹脂がより好ましい。
【0039】
また、電荷発生層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤を更に含有してもよい。具体的には、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、硫黄化合物、リン化合物、ベンゾフェノン化合物、などが挙げられる。
【0040】
電荷発生層の平均膜厚は、0.1μm以上1μm以下であることが好ましく、0.15μm以上0.4μm以下であることがより好ましい。
【0041】
電荷発生層は、上述の各材料及び溶剤を含有する電荷発生層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
【0042】
(1-2)電荷輸送層
電荷輸送層は、電荷輸送物質と、樹脂と、を含有することが好ましい。
【0043】
電荷輸送物質としては、例えば、多環芳香族化合物、複素環化合物、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、エナミン化合物、ベンジジン化合物、トリアリールアミン化合物や、これらの物質から誘導される基を有する樹脂などが挙げられる。これらの中でも、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物が好ましい。
電荷輸送層中の電荷輸送物質の含有量は、電荷輸送層の全質量に対して、25質量%以上70質量%以下であることが好ましく、30質量%以上55質量%以下であることがより好ましい。
【0044】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂が好ましい。ポリエステル樹脂としては、特にポリアリレート樹脂が好ましい。
電荷輸送物質と樹脂との含有量比(質量比)は、4:10~20:10が好ましく、5:10~12:10がより好ましい。
【0045】
また、電荷輸送層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、レベリング剤、滑り性付与剤、耐摩耗性向上剤などの添加剤を含有してもよい。具体的には、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、硫黄化合物、リン化合物、ベンゾフェノン化合物、シロキサン変性樹脂、シリコーンオイル、フッ素樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子、ポリエチレン樹脂粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子、窒化ホウ素粒子などが挙げられる。
【0046】
電荷輸送層の平均膜厚は、5μm以上50μm以下であることが好ましく、8μm以上40μm以下であることがより好ましく、10μm以上30μm以下であることが特に好ましい。
【0047】
電荷輸送層は、上述の各材料及び溶剤を含有する電荷輸送層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。これらの溶剤の中でも、エーテル系溶剤又は芳香族炭化水素系溶剤が好ましい。
【0048】
(2)単層型感光層
単層型感光層は、電荷発生物質、電荷輸送物質、樹脂及び溶剤を含有する感光層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。電荷発生物質、電荷輸送物質、樹脂としては、上記「(1)積層型感光層」における材料の例示と同様である。
【0049】
<保護層>
本発明において、感光層の上に、保護層を設ける。
保護層は、結着樹脂と本発明の第一の態様又は第二の態様に係る金属酸化物粒子を有する。更に好ましくは、第二の態様であって、さらに金属酸化物粒子の被覆層にニオブを含有する場合である。
【0050】
本発明の第一の態様において、被覆層にはニオブを含有する必要がある。
金属酸化物粒子の芯材にはニオブが含有されていなくても良く、ニオブが金属酸化物粒子全体に均等に存在すると、電荷トラップとして働き、帯電能を低下させてしまう。従って被覆層の全質量に対するニオブ含有比率は、芯材の全質量に対するニオブの含有比率よりも高い必要がある。その場合、被覆層全質量に対するニオブ含有率は、芯材の全質量に対するニオブの含有比率は10倍以上が好ましい。その含有量は、被覆層の全質量に対して、0.5質量%以上である事が好ましく、2.0質量%以上である事がさらに好ましい。5.0質量%以上15.0%質量以下であるとさらに好ましい。
【0051】
また、金属酸化物粒子のニオブの含有量は、金属酸化物粒子の全質量に対して2.6重量%以上である事が好ましい。より好ましくは2.6重量%以上~10.0重量%以下である。
【0052】
上記式(1)及び式(2)を満足する粒子である場合、本発明において、金属酸化物粒子全体の酸素欠損率Aは、1.0%以下であるとより好ましく、0.5%以下であるとより好ましい。
【0053】
本発明の金属酸化物粒子において、被覆層の酸素欠損率が高い程、つまり、C/Bの値が大きい程、被覆層がより選択的に酸素欠損していることを表している。
【0054】
酸素欠損が金属酸化物粒子全体に均等に存在すると、電荷トラップとして働き、帯電能を低下させてしまう事を考えると、本発明の効果を発揮するためには、C/Bは10より大きい必要があり、20以上の場合がさらに好ましい。金属酸化物粒子の芯材は全く酸素欠損されていなくても構わない。
【0055】
本発明において、金属酸化物粒子の被覆層のニオブ量や金属酸化物粒子の芯材の酸素欠損率と被覆層の酸素欠損率との比率は、エネルギー分散形X線分析(EDX)により測定可能である。
【0056】
本発明では、金属酸化物粒子断面に対するSEM-EDX分析により、金属酸化物粒子の被覆層のニオブ量や、金属酸化物粒子の芯材の酸素欠損率と被覆層の酸素欠損率との比率を測定した。
【0057】
また、本発明において、金属酸化物粒子の酸素欠損率は、熱重量測定(TG)により求めることが可能である。本発明の金属酸化物粒子は、酸素雰囲気下で加熱すると、昇温開始直後は金属酸化物粒子表面に吸着した水分等の脱離の影響で質量は減少し、その後、ある温度から質量が増加する。質量が減少から増加に転じた時点の質量を最小質量とし、その後の加熱の中での最大質量との差分を得た。この差分は、酸化チタン粒子の酸素欠損部位が酸素と結合したことによるものである。
【0058】
本発明では、金属酸化物粒子の酸素欠損率を、熱重量測定装置(商品名:Q5000IR、ティー・エイ・インスツルメント製)を用いて測定した。測定時の昇温レートは10℃/分であり、酸素気流下で測定を行った。300℃から900℃の範囲で、質量が増加に転じた温度での質量を最小質量とし、最小質量とその後の加熱の中での最大質量から、酸素欠損率Aを求めた。
【0059】
また、金属酸化物粒子の芯材に含まれるチタン元素の割合(質量%)は、芯材に用いた粒子と同じ材料の粉末に対してICP発光分析を行うことでも求めることが可能である。この材料を硫酸などの酸で溶解させて得られる溶液について測定を行う。
【0060】
本発明において、金属酸化物粒子の芯材は、球体状、多面体状、楕円体状、薄片状、針状といった種々の形状のものを用いることができる。これらの中でも、黒ポチなどの画像欠陥が少ないという観点から、球体状、多面体状、楕円体状の芯材を用いることが好ましい。更に、芯材は、球体状又は球体状に近い多面体状であることがより好ましい。金属酸化物粒子の芯材として、酸化チタン粒子が好ましく用いることができる。
【0061】
本発明において、芯材及び被覆層としては、アナターゼ型酸化チタン又はルチル型酸化チタンを含有することが好ましい。更には、芯材及び被覆層は、アナターゼ型酸化チタンを含有することがより好ましく、アナターゼ型酸化チタンから構成されることが特に好ましい。アナターゼ型酸化チタンを用いることで、明部電位の変動がより生じにくくなる。
【0062】
本発明において、金属酸化物粒子の平均一次粒径は、30nm以上500nm以下であることが好ましい。金属酸化物粒子の平均一次粒径が30nm以上であれば、保護層用塗布液を調製した後に粒子の再凝集が起こりにくくなる。もし、粒子の再凝集が起こると、保護層用塗布液の安定性が低下したり、形成される保護層の表面にクラックが発生したりしやすくなる。金属酸化物粒子の平均一次粒径が500nm以下であれば、保護層の表面が荒れにくくなる。もし、保護層の表面が荒れると像露光が散乱され、画質の悪化が生じやすくなる。
【0063】
更に、本発明において、金属酸化物粒子の平均一次粒径は、30nm以上400nm以下であることがより好ましい。
【0064】
本発明において、金属酸化物粒子の平均一次粒径D1は、走査型電子顕微鏡を用いて、以下のようにして求めた。日立製作所製の走査型電子顕微鏡S-4800を用いて測定対象の粒子を観察し、観察して得られた画像から、粒子100個の個々の粒径を測定し、それらの算術平均を算出して平均一次粒径D1とした。個々の粒径は、一次粒子の最長辺をaとし、最短辺をbとしたときの(a+b)/2とした。尚、針状の金属酸化物粒子又は薄片状の酸化チタン粒子においては、長軸径と短軸径のそれぞれについて平均粒径を算出し、平均一次粒子径を求めた。
【0065】
本発明において、金属酸化物粒子の表面をシランカップリング剤などで処理してもよい。
【0066】
本発明において、保護層の全体積に占める、金属酸化物粒子の含有量は、33体積%以上であることが好ましく、50体積%以上であることがより好ましい。
これらの範囲を満たすと、保護層中の金属酸化物粒子同士の接触確率が増大するので、被覆層中のニオブや酸素欠損による導電パスが繋がり易くなることで、電荷滞留の防止効果が上がる。
【0067】
本保護層は電荷輸送物質を含有しても良く、電荷輸送物質としては、多環芳香族化合物、複素環化合物、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、エナミン化合物、ベンジジン化合物、トリアリールアミン化合物や、これらの物質から誘導される基を有する樹脂などが挙げられる。これらの中でも、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物が好ましい。
【0068】
結着樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。中でも、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂が好ましい。
【0069】
また、保護層は、重合性官能基を有するモノマーを含有する組成物を重合することで硬化膜として形成してもよい。その際の反応としては、熱重合反応、光重合反応、放射線重合反応などが挙げられる。重合性官能基を有するモノマーが有する重合性官能基としては、アクリル基、メタクリル基などが挙げられる。重合性官能基を有するモノマーとして、電荷輸送能を有する材料を用いてもよい。
【0070】
本保護層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、レベリング剤、滑り性付与剤、耐摩耗性向上剤、などの添加剤を含有してもよい。具体的には、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、硫黄化合物、リン化合物、ベンゾフェノン化合物、シロキサン変性樹脂、シリコーンオイル、フッ素樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子、ポリエチレン樹脂粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子、窒化ホウ素粒子などが挙げられる。
【0071】
保護層の平均膜厚は、0.3μm以上10μm以下であることが好ましく、0.5μm以上7μm以下であることが好ましい。
【0072】
保護層は、上述の各材料及び溶剤を含有する保護層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥及び/又は硬化させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、スルホキシド系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。
【0073】
[プロセスカートリッジ、電子写真装置]
本発明のプロセスカートリッジは、これまで述べてきた電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、転写手段及びクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であることを特徴とする。
【0074】
また、本発明の電子写真装置は、これまで述べてきた電子写真感光体、帯電手段、露光手段、現像手段及び転写手段を有することを特徴とする。
【0075】
図1に、電子写真感光体を備えたプロセスカートリッジを有する電子写真装置の概略構成の一例を示す。
1は円筒状の電子写真感光体であり、軸2を中心に矢印方向に所定の周速度で回転駆動される。電子写真感光体1の表面は、帯電手段3により、正又は負の所定電位に帯電される。尚、図においては、ローラ型帯電部材によるローラ帯電方式を示しているが、コロナ帯電方式、近接帯電方式、注入帯電方式などの帯電方式を採用してもよい。帯電された電子写真感光体1の表面には、露光手段(不図示)から露光光4が照射され、目的の画像情報に対応した静電潜像が形成される。電子写真感光体1の表面に形成された静電潜像は、現像手段5内に収容されたトナーで現像され、電子写真感光体1の表面にはトナー像が形成される。電子写真感光体1の表面に形成されたトナー像は、転写手段6により、転写材7に転写される。トナー像が転写された転写材7は、定着手段8へ搬送され、トナー像の定着処理を受け、電子写真装置の外へプリントアウトされる。電子写真装置は、転写後の電子写真感光体1の表面に残ったトナーなどの付着物を除去するための、クリーニング手段9を有していてもよい。また、クリーニング手段を別途設けず、上記付着物を現像手段などで除去する、所謂、クリーナーレスシステムを用いてもよい。電子写真装置は、電子写真感光体1の表面を、前露光手段(不図示)からの前露光光10により除電処理する除電機構を有していてもよい。また、本発明のプロセスカートリッジを電子写真装置本体に着脱するために、レールなどの案内手段12を設けてもよい。
【0076】
本発明の電子写真感光体は、レーザービームプリンター、LEDプリンター、複写機、ファクシミリ、及び、これらの複合機などに用いることができる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。尚、以下の実施例の記載において、「部」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。また、実施例10、20、24~33は参考例である。
【0078】
[金属酸化物粒子の製造]
(製造例1)
(金属酸化物粒子A1)
芯材の二酸化チタンは公知の硫酸法で製造することができる。即ち、硫酸チタン、硫酸チタニルを含む溶液を加熱して加水分解させメタチタン酸スラリーを作製し、該メタチタン酸スラリーを脱水焼成して得られる。
芯材粒子として、ニオブが検出されない平均一次粒径が150nmのアナターゼ型酸化チタン粒子を使用した。この芯材100gを水に分散させ、1Lの水懸濁液とし、60℃に加温した。五塩化ニオブ(NbCl5)3.1gを11.4モル/L塩酸100mLに溶解させたニオブ溶液と、Tiとして33.7gを含む硫酸チタン溶液600mLを混合したチタンニオブ酸液と、10.7モル/L水酸化ナトリウム溶液とを、懸濁液のpHが2~3となるように3時間かけて同時に滴下(並行添加)した。滴下終了後、pHを中性付近に調整し、凝集剤を添加して固形分を沈降させた。上澄みを除去し、残部をろ過、その残渣を洗浄し、110℃で乾燥し、凝集剤由来の有機物をC換算で0.1wt%含有する中間体を得た。この中間体を窒素ガス中800℃で、平均一次粒径190nmの金属酸化物粒子A1を作製した。
【0079】
(金属酸化物粒子A2~A9,B1~B6、C1~C6)
金属酸化物粒子1の製造において、用いる芯材及び被覆時の条件を変えた以外は、製造例1と同様の方法で酸化チタンを有する金属酸化物粒子A2~A9、B1~B6、C1~C6を製造した。
【0080】
(比較製造例1)
特開2007-334334号公報を参考に、平均一次粒径200nmのルチル型酸化チタン粒子である酸化チタンを有する粒子R1の粉末を得た。
【0081】
(比較製造例2) 特開2005-17470号公報を参考に、平均一次粒径180nm、ニオブ含有量が1.0wt%のアナターゼ型酸化チタン粒子である酸化チタンを有する粒子R2の粉末を得た。
【0082】
【0083】
[保護層用塗布液の製造]
(保護層用塗布液1)
下記構造式(1)で示される化合物22部を、2-プロパノール144部とテトラヒドロフラン16部の混合溶剤と混合し、この溶液に金属酸化物粒子A1を100部加え、撹拌した。
これらを、平均粒径1.0mmのガラスビーズ200部を用いた縦型サンドミルに入れ、分散液温度23±3℃、回転数1500rpm(周速5.5m/s)の条件で2時間分散処理を行い、分散液を得た。
この分散液からメッシュでガラスビーズを取り除いた後の分散液を、PTFE濾紙(商品名:PF060、アドバンテック東洋製)を用いて加圧ろ過し、保護層用塗布液A1を調製した。
【化1】
【0084】
(保護層用塗布液A2~A13、B1~B10、C1~C10及びR1~R2)
保護層用塗布液1の調製の際に用いた金属酸化物粒子の種類、質量(部数)を、それぞれ表2に示すようにした以外は、保護層用塗布液1の調製と同様の操作で、保護層用塗布液A2~A13、B1~B10、C1~C10及びR1~R2を調製した。
【0085】
(保護層用塗布液A14)
上記構造式(1)で示されるアクリルモノマー22部、光開始剤として2-メチルチオキサントン7部、金属酸化物粒子A1を100部、エタノール160部を用い、保護層用塗布液1と同様に分散処理を行い、保護層用塗布液A14を調製した。
【0086】
【0087】
[電子写真感光体の製造]
(電子写真感光体1)
直径24mm、長さ257.5mmのアルミニウムシリンダー(JIS-A3003、アルミニウム合金)を支持体(導電性支持体)とした。
長さ260.5mm及び直径30mmのアルミニウムシリンダー(JIS-A3003、アルミニウム合金)を支持体(導電性支持体)とした。
【0088】
次に、酸素欠損型酸化スズが被覆されている酸化チタン粒子(粉体抵抗率:120Ω・cm、酸化スズの被覆率:40%)50部、フェノール樹脂(プライオーフェンJ-325、大日本インキ化学工業(株)製、樹脂固形分:60%)40部、メトキシプロパノール55部を、直径1mmのガラスビーズを用いたサンドミルに入れ、3時間分散処理することによって、導電層用塗布液を調製した。
この導電層用塗布液における酸素欠損型酸化スズが被覆されている酸化チタン粒子の平均粒径を、(株)堀場製作所製の粒度分布計(商品名:CAPA700)を用い、テトラヒドロフランを分散媒とし、回転数5000rpmにて遠心沈降法で測定した。その結果、平均粒径は0.30μmであった。
この導電層用塗布液を支持体上に浸漬塗布し、得られた塗膜を30分間160℃で乾燥させることによって、膜厚が30μmの導電層を形成した。
【0089】
次に、下記の材料を、1-メトキシ-2-プロパノール50部とテトラヒドロフラン5
0部の混合溶媒に溶解した。
式(2)で表される化合物 3.36部
ポリオレフィン樹脂としてスチレン-アクリル樹脂(商品名:UC-3920、東亞合
成(株)製) 0.35部
イソシアネート化合物としてブロックされたイソシアネート化合物(商品名:SBB-
70P、旭化成(株)製) 6.40部
この溶液にイソプロピルアルコールに分散されたシリカスラリー(製品名:IPA-S
T-UP、日産化学工業(株)製、固形分濃度:15質量%、粘度:9mPa・s)1.
8部を加え、1時間撹拌した。その後、ADVANTEC製のポリテトラフルオロエチレ
ン製フィルター(製品名:PF020)を用いて加圧濾過した。
こうして得られた下引き層用塗布液を導電層の上に浸漬塗布し、得られた塗膜を170℃で40分間加熱し、硬化(重合)させることによって、膜厚0.7μmの下引き層を形成した。
【化2】
【0090】
次に、CuKα特性X線回折におけるブラッグ角(2θ±0.2°)の7.5°、9.9°、12.5°、16.3°、18.6°、25.1°及び28.3°にピークを有する結晶形のヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶(電荷発生物質)を用意した。このヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶8部、ポリビニルブチラール(商品名:エスレックBX-1、積水化学工業(株)製)4部及びシクロヘキサノン250部を、直径1mmのガラスビーズを用いたサンドミルに入れ、2時間分散処理した。次に、これに酢酸エチル250部を加えることによって、電荷発生層用塗布液を調製した。
この電荷発生層用塗布液を、下引き層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を10分間95℃で乾燥させることによって、膜厚が0.2μmの電荷発生層を形成した。
【0091】
次に、下記式(3)で示されるアミン化合物(正孔輸送物質)6部、(4)で示されるアミン化合物(正孔輸送物質)2部ならびに、下記式(5)及び(6)で示される構造単位を5/5の割合で有している、重量平均分子量(Mw)が100,000であるポリエステル樹脂10部を、ジメトキシメタン40部及びクロロベンゼン60部の混合溶剤に溶解させることによって、電荷輸送層用塗布液を調製した。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
この電荷輸送層用塗布液を、電荷発生層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を40分間120℃で乾燥させることによって、膜厚が22μmの電荷輸送層を形成した。
【0092】
次に、保護層用塗布液A1を電荷輸送層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を6分間50℃で乾燥させた。その後、窒素雰囲気下にて、加速電圧70kV、ビーム電流2.0mAの条件で支持体(被照射体)を300rpmの速度で回転させながら、1.6秒間電子線を塗膜に照射した。電子線照射における酸素濃度は810ppmであった。次に、大気中において、塗膜の温度が25℃になるまで自然冷却した後、塗膜の温度が120℃になる条件で1時間加熱処理を行い、膜厚3μmの保護層を形成した。このようにして、実施例1の保護層を有する円筒状(ドラム状)の電子写真感光体を作製した。
【0093】
(電子写真感光体2~33、電子写真感光体R1~R2)
電子写真感光体の製造の際に用いた保護層用塗布液を、保護層用塗布液1から、それぞれ保護層用塗布液A2~A14、B1~B10、C1~C10、R1~R2に変更した以外は実施例1と同様に電子写真感光体を作製した。
【0094】
(電子写真感光体34)
保護層用塗布液34を使用し、これを電荷輸送層上に浸漬塗布し、乾燥後、高圧水銀灯にて250W/cm2の光強度で60秒間紫外線照射した後、120℃で2時間熱風乾燥して膜厚3μmの保護層を形成した以外は実施例1と同様に電子写真感光体を作製した。
【0095】
(電子写真感光体の保護層の分析)
上記で製造した電子写真感光体から、5mm四方の切片を5つ切り出し、観察用サンプル片を各電子写真感光体につき5つずつ用意した。
先ず、各電子写真感光体について、それぞれ1つのサンプル片を用いて、集束イオンビーム加工観察装置(商品名:FB-2000A、日立ハイテクマニファクチャ&サービス製)を用い、FIB-μサンプリング法により、保護層を厚み:150nmに薄片化し、電界放出型電子顕微鏡(HRTEM)(商品名:JEM-2100F、日本電子製)及びエネルギー分散形X線分析装置(EDX)(商品名:JED-2300T、日本電子製)を用い、保護層の組成分析を行った。なお、EDXの測定条件は、加速電圧:200kV、ビーム径:1.0nmである。
【0096】
得られたEDX像から、金属酸化物粒子100個の個々の粒子に関し、芯材の直径と被覆層の層厚を求め、それらの算術平均から芯材の平均一次粒径と被覆層の平均層厚の比率を算出した。従って、被覆層の平均膜厚が20nmで、芯材の平均一次粒径が150nmの金属酸化物粒子の平均一次粒径は190nmとなる。
【0097】
次に、各電子写真感光体について、それぞれ残りの4つのサンプル片を用いて、FIB-SEMのSlice&Viewで保護層の2μm×2μm×2μmの3次元化を行った。FIB-SEMのSlice&Viewのコントラストの違いから、保護層の全体積に占める、粒子の含有量を算出した。本実施例においては、Slice&Viewの条件は以下のようにした。
分析用試料加工:FIB法
加工及び観察装置:SII/Zeiss製NVision40
スライス間隔:10nm
観察条件:
加速電圧:1.0kV
試料傾斜:54°
WD:5mm
検出器:BSE検出器
パーチャー:60μm、high current
ABC:ON
画像解像度:1.25nm/pixel
【0098】
解析領域は縦2μm×横2μmで行い、断面ごとの情報を積算し、縦2μm×横2μm×厚み2μm(8μm3)当たりの体積Vを求める。また、測定環境は、温度:23℃、圧力:1×10-4Paである。なお、加工及び観察装置としては、FEI製のStrata400S(試料傾斜:52°)を用いることもできる。また、断面ごとの情報は、特定した本発明の酸化チタン粒子又は比較例に用いた酸化チタン粒子の面積を画像解析して得た。画像解析は、画像処理ソフト:Media Cybernetics製、Image-Pro Plusを用いて行った。
得られた情報を基に、4つのサンプル片のそれぞれにおいて、2μm×2μm×2μmの体積(単位体積:8μm3)中の本発明の酸化チタン粒子又は比較例に用いた酸化チタン粒子の体積Vを求めた。そして、(Vμm3/8μm3×100)を算出した。4つのサンプル片における(Vμm3/8μm3×100)の値の平均値を、保護層の全体積に対する保護層中の本発明の酸化チタン粒子又は比較例に用いた酸化チタン粒子の含有量[体積%]とした。結果を表3に示す。
【0099】
<評価>
まず、作製した電子写真感光体1~34、R1~R2の感光体を使用して、以下の条件で繰り返し使用時の帯電能を評価した。
帯電能が悪化すると、暗部電位(Vd)が低下し、カブリが増加する。
電子写真装置には、ヒューレットパッカード社製のレーザービームプリンター、商品名HP LaserJet Enterprise Color M553dnの改造機を使用した。評価に使用した電子写真装置は、像露光量、現像バイアスの、調節及び測定ができるように改造した。
最初に実施例及び比較例の電子写真感光体を明部電位が-180Vになるよう、露光量を調整し、その後暗部電位(Vd)を測定した。
その後、現像バイアスVdcが-450Vとなるように調整し電子写真装置のシアン色のカートリッジに装着した。
その後、温度23℃/相対湿度50%の環境下にてA4サイズ普通紙上にシアン単色にてベタ白画像の出力を行った。
カブリ評価は、白色光度計(商品名;REFLECTMETER TC-6DS/A、東京電色製)にて、上記の画像の白部及び未使用紙の反射率を測定し、両者の差をカブリとした。未使用紙反射率-画像白部の反射率=カブリ%として、カブリ2.0%以上はNGとして評価した。結果を表3に示す。
【0100】
【符号の説明】
【0101】
1 電子写真感光体
2 軸
3 帯電手段
4 露光光
5 現像手段
6 転写手段
7 転写材
8 定着手段
9 クリーニング手段
10 前露光光
11 プロセスカートリッジ
12 案内手段