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特許7475942二次電池、電池パック、車両、及び定置用電源
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】二次電池、電池パック、車両、及び定置用電源
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/36 20100101AFI20240422BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20240422BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20240422BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240422BHJP
【FI】
H01M10/36 A
H01M4/485
H01M50/451
H01M50/489
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020072134
(22)【出願日】2020-04-14
(65)【公開番号】P2021051990
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2019170917
(32)【優先日】2019-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100111121
【弁理士】
【氏名又は名称】原 拓実
(74)【代理人】
【識別番号】100149629
【弁理士】
【氏名又は名称】柘 周作
(74)【代理人】
【識別番号】100200148
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100139538
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 航介
(74)【代理人】
【識別番号】100200115
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 元勇
(74)【代理人】
【識別番号】100200137
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 良介
(72)【発明者】
【氏名】関 隼人
(72)【発明者】
【氏名】海野 航
(72)【発明者】
【氏名】堀田 康之
(72)【発明者】
【氏名】松野 真輔
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-183182(JP,A)
【文献】特開2010-165591(JP,A)
【文献】特開2018-156837(JP,A)
【文献】国際公開第2020/218456(WO,A1)
【文献】特開2020-149930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00 -10/39
H01M 50/40 -50/497
H01M 4/00 - 4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
前記正極に保持される第1水系電解質と、
負極と、
前記負極に保持される第2水系電解質と、
前記正極と前記負極との間に介在するセパレータと、
を備え、
前記第1水系電解質の浸透圧(N/m)と前記第2水系電解質の浸透圧(N/m
との差は前記第1水系電解質の前記浸透圧と前記第2水系電解質の前記浸透圧のいずれか
大きい方に対して90%以下(0%を含む)であり、
前記セパレータは、多孔質自立膜の主面の少なくとも一方に固体電解質層を備えるもの
であり、
前記セパレータは透気係数が1×10-14以下であり、
前記負極が備える負極活物質は、チタン酸化物、リチウムチタン酸化物、およびリチウ
ムチタン複合酸化物からなる群より選択される少なくとも1種である二次電池。
【請求項2】
前記第1水系電解質の浸透圧と前記第2水系電解質の浸透圧との差は前記第1水系電解
質の前記浸透圧と前記第2水系電解質の前記浸透圧のいずれか大きい方に対して80%以
下である請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
前記第1水系電解質の浸透圧と前記第2水系電解質の浸透圧との差は前記第1水系電解質
の前記浸透圧と前記第2水系電解質の前記浸透圧のいずれか大きい方に対して50%以下
である請求項1または2記載の二次電池。
【請求項4】
前記第1水系電解質と前記第2水系電解質の少なくとも一方に浸透圧を調整可能な化合
物を含む請求項1ないし3のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項5】
前記浸透圧を調整可能な化合物は無機化合物、有機化合物及び界面活性剤の少なくとも
1つを含む請求項4に記載の二次電池。
【請求項6】
前記第1水系電解質と前記第2水系電解質の界面張力のいずれか大きいほうの界面張力
は50mN/m以下である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項7】
請求項1ないしのいずれか1項に記載の二次電池を具備する電池パック。
【請求項8】
通電用の外部端子と、
保護回路とをさらに含む請求項に記載の電池パック。
【請求項9】
複数の前記二次電池を具備し、前記二次電池が直列、並列、又は直列及び並列を組み合
わせて電気的に接続されている請求項ないしのいずれか1項に記載の電池パック。
【請求項10】
請求項ないしのいずれか1項に記載の電池パックを搭載した車両。
【請求項11】
請求項ないしのいずれか1項に記載の電池パックを具備した定置用電源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、二次電池、電池パック、車両、及び定置用電源に関する。
【背景技術】
【0002】
負極活物質として炭素材料やリチウムチタン酸化物を、正極活物質としてニッケル、コバルト、マンガン等を含有する層状酸化物用いた非水電解質電池、特に二次電池が幅広い分野における電源として既に実用化されている。その一方で、有機溶媒の多くは可燃性物質であり、二次電池の安全性は、水溶液を用いた二次電池に比べて原理的に劣りやすい。有機溶媒系の電解質を用いた二次電池の安全性を向上させるために種々の対策がなされているものの、必ずしも十分といえない。また、非水系の二次電池は、製造工程において、ドライ環境が必要になるため、製造コストが必然的に高くなる。そのほか、有機溶媒系の電解質は導電性が劣るので、非水系の二次電池の内部抵抗が高くなりやすい。このような課題は、電池安全性や電池コストが重要視される電気自動車やハイブリッド電気自動車、さらには電力貯蔵向けの大型蓄電池用途においては、大きな課題となっている。非水系二次電池の課題を解決させるために、水系電解質を用いた二次電池が提案されている。水系電解質では、電池の充放電を実施する電位範囲を、溶媒として含まれている水の電気分解反応が起こらない電位範囲に留める必要がある。例えば、正極活物質としてリチウムマンガン酸化物および負極活物質としてリチウムバナジウム酸化物を用いることで、水溶媒の電気分解を回避できる。これらの組み合わせでは、1~1.5V程度の起電力が得られるものの、電池として十分なエネルギー密度が得られにくい。
【0003】
十分な起電力を得るために、正極活物質や負極活物質の組み合わせを工夫しても、水系電解質においては、リチウムチタン酸化物のリチウム挿入脱離の電位は、リチウム電位基準にて約1.5V(vs.Li/Li)であるため、水系電解質の電気分解が起こりやすく、その影響で集電体から活物質が容易に剥離し得る。そのため、このような電池では動作が安定せず、満足な充放電が困難であった。
【0004】
先行技術では、集電体に亜鉛を含ませることで十分なエネルギー密度を有し、貯蔵性能及びサイクル特性に優れ、且つ安価で安全性の高いリチウム二次電池を提供することができたが、貯蔵性能及びサイクル特性の点については改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6383038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、水系電解質を用いた二次電池における貯蔵性能及びサイクル特性に優れた二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の二次電池は、正極と、正極に保持される第1水系電解質と、負極と、負極に保持される第2水系電解質と、正極と負極との間に介在するセパレータと、を備える。第1水系電解質の浸透圧(N/m)と第2水系電解質の浸透圧(N/m)との差は第1水系電解質の浸透圧と第2水系電解質の浸透圧のいずれか大きい方に対して90%以下(0%を含む)である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態に係る二次電池の一例を概略的に示す断面図。
図2】第1の実施形態に係る二次電池の他の例を概略的に示す断面図。
図3図2のA部の拡大断面図。
図4】第2の実施形態に係る組電池の一例を示す斜視図。
図5】第3の実施形態に係る電池パックの一例を示す斜視図。
図6】第3の実施形態に係る電池パックの他の例の分解斜視図。
図7図6の電池パックの電気回路を示すブロック図。
図8】第4の実施形態に係る一例の車両を概略的に示す断面図。
図9】第4の実施形態に係る他の例の車両を概略的に示した図。
図10】第5実施形態に係る定置用電源を含むシステムの一例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施の形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術とを参酌して、適宜設計変更することができる。なお、特に記載が無い限り、25℃、1気圧(大気)における値を示している。
【0010】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る二次電池は正極と、正極に保持される第1水系電解質と、負極と、負極に保持される第2水系電解質と、正極と負極との間に介在するセパレータとを備え、第1水系電解質の浸透圧(N/m)と第2水系電解質の浸透圧(N/m)との差は第1水系電解質の浸透圧と第2水系電解質の浸透圧のいずれか大きい方に対して90%以下である。これは例えば、小さい浸透圧の方の水系電解質を第1水系電解質、大きい浸透圧の方の水系電解質を第2水系電解質とすると、((第1水系電解質の浸透圧と第2水系電解質の浸透圧の差の絶対値)÷(第2水系電解質の浸透圧))×100%としてあらわすことができる。
【0011】
本実施形態に係る二次電池は、さらに浸透圧を調整可能な化合物を備えても良い。浸透圧を調整可能な化合物は便宜上、浸透圧調整剤と記載する場合もある。浸透圧を調整可能な化合物の具体的な例は後述する。浸透圧を調整可能な化合物を用いることで、第1水系電解質と第2水系電解質の濃度を調整することができ、第1水系電解質と第2水系電解質の浸透圧差を低下させることができ、第1水系電解質と第2水系電解質が混ざることを防ぐことができる。このように水系電解質が混ざることを防ぐことができると、二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0012】
詳しく説明すると、水系電解質が用いられる場合は、水の電気分解が、水系電解質の副反応として起こり得る。水の電気分解では、負極において式(1)に示す化学反応が起こり、正極において式(2)で示す化学反応が起こる。
2H +2e ⇒ H (1)
2O2- ⇒ O +2e (2)
【0013】
また、水の電気分解等の水系電解質の酸化還元反応では、酸化反応による分解が発生しない電位窓、及び、還元反応による分解が発生しない電位窓が、存在する。例えば、水の電気分解では、ネルンストの式から、負極の電位E1に関して式(3)で示す関係が成立すると、還元反応によって負極において水素が発生し易くなる。そして、正極の電位E2に関して式(4)で示す関係が成立すると、酸化反応によって正極において酸素が発生し易くなる。ここで、式(3)及び式(4)においてpHは、水系電解質のpHを示す。
E1 < -0.059 × pH (3)
E2 > 1.23 - 0.059 × pH (4)
【0014】
式(3)及び式(4)から、負極側と正極側とで水系電解質が隔離されない場合は、水系電解質のpHがいずれであっても、負極と正極との間の電圧が1.23Vより大きくなると、熱力学的に水の電気分解が起こり易くなる。セパレータに透気性の低いものを用いたとしても、完全に水系電解質の移動を防げば陽イオンの移動も妨げることになり、二次電池性能を低下させてしまう。
【0015】
また、正極側水系電解質と負極側水系電解質とでリチウム塩濃度が異なると、水の移動がさらに生じやすくなり、上記式で表される反応が生じ、二次電池の性能を低下させやすくなる。
【0016】
そのため、水系電解質の移動を抑制するために第1水系電解質と第2水系電解質の少なくとも一方が浸透圧調整剤を備え、第1水系電解質の浸透圧と第2水系電解質の浸透圧との差は第1水系電解質の浸透圧と第2水系電解質の浸透圧のいずれか大きい方に対して90%以下(0%を含む)とすることで水系電解質の移動を抑制し、水の電気分解を抑制することができる。浸透圧差が浸透圧の大きな側の90%より大きいと浸透圧による正極側と負極側の水系電解質の混合が激しくなり、好ましくない。
【0017】
また、水系電解質の移動により、第1水系電解質と第2水系電解質のいずれかの塩濃度が高まることにより、電極に塩が析出することも抑制することができる。二次電池がこのような構成となることで塩析出に伴う抵抗上昇、長期サイクル試験時の容量劣化を抑制することができ、貯蔵性能を向上させることができる。貯蔵性能が向上することで、クーロン効率も向上させることができる。これは、クーロン効率が自己放電の傾きを表しているためである。そのため、クーロン効率が良ければ、つまり高ければ貯蔵性能も良い。
【0018】
さらに、第1水系電解質の浸透圧と第2水系電解質の浸透圧との差は第1水系電解質の浸透圧と第2水系電解質の浸透圧のいずれか大きい方に対して80%以下とすることで、浸透圧差による正負極の水系電解質混合を速度論的に十分抑制できるため、より好ましい。
【0019】
さらにより好ましくは50%以下である。この範囲であることで、浸透圧による水系電解質の混合を長期的に抑制することができるため貯蔵性能が向上し、クーロン効率も向上させることができる。さらに、これによりサイクル寿命が大きく向上させることができるためである。
【0020】
第1水系電解質の浸透圧と第2水系電解質の浸透圧との差は、第1水系電解質の浸透圧と第2水系電解質の浸透圧のいずれか大きい方に対して90%以下とすることで、正極側水系電解質及び負極側水系電解質として、互いに対してpHが異なる水系電解質や種類が異なる水系電解質を用いることができる。ここで、正極側水系電解質として、負極側水系電解質よりpHが小さい水系電解質を用いることにより、負極と正極との間の電圧が1.23Vより大きくなっても、水の電気分解が起こり難くなる。例えば、正極側水系電解質としてpHが1の水系電解質を用い、負極側水系電解質としてpHが14の水系電解質を用いた場合、負極と正極との間の電圧が2V程度にまで上昇しない限りは、水の電気分解が起こり難いと考えられる。
【0021】
第1の実施例に係る二次電池において用いることができる各部材の材料について詳しく説明する。
【0022】
(水系電解質)
水系電解質には、水系溶媒と第1の電解質とを含む水系電解液と、この水系電解液に高分子材料を複合化したゲル状水系電解質が挙げられる。水系電解液とゲル状水系電解質を総称するために用いた水系電解質と、溶質としての電解質を区別するために便宜上溶質としての電解質を第1の電解質と称している。前述の高分子材料としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキサイド(PEO)等を挙げることができる。水系電解質は、NO 、Cl、LiSO 、SO 2-、およびOHからなる群より選択される少なくとも1種のアニオンを含む。水系電解質中に含まれるこれらのアニオンは、1種でもよく、或いは、2種以上のアニオンが含まれていてもよい。
【0023】
水系溶媒としては、水を含む溶液を用いることができる。ここで、水を含む溶液とは、純水であってもよく、或いは水と水以外の物質との混合溶液や混合溶媒であってもよい。
【0024】
上記水系電解質は、溶質となる塩1molに対し、水溶媒量(例えば水系溶媒中の水量)が1mol以上であることが好ましい。さらに好ましい形態は、溶質となる塩1molに対する水溶媒量が3.5mol以上である。
【0025】
第1の電解質としては、水系溶媒に溶解したときに解離して上記アニオンを生じさせるものを用いることができる。特に、Liイオンと上記アニオンとに解離するリチウム塩が好ましい。このようなリチウム塩としては、例えばLiNO、LiCl、LiSO、LiOHなどを挙げることができる。
【0026】
また、Liイオンと上記アニオンへと解離するリチウム塩は、水系溶媒における溶解度が比較的高い。そのため、アニオンの濃度が1-10Mと高く、Liイオン拡散性が良好である水系電解質を得ることができる。
【0027】
NO3-及び/又はClを含む電解質は、0.1-10M程度の幅広いアニオン濃度の範囲で用いることができる。イオン伝導度と、リチウム平衡電位の両立の観点から、これらのアニオンの濃度が3-12Mと高いことが好ましい。NO3-及び/またはClを含む水系電解質のアニオン濃度が8-12Mであることがより好ましい。
【0028】
LiSO 及び/又はSO 2-を含む水系電解質は、0.05-2.5M程度のアニオン濃度の範囲で用いることができる。イオン伝導度の観点から、これらのアニオンの濃度が1.5-2.5Mと高いことが好ましい。
【0029】
具体的に述べると、正極側水系電解質のアニオン濃度は、NO3-、Cl、LiSO 、SO 2-の1種以上を含む水系電解質の場合、0.5-3M程度が好ましい。これよりもリチウム塩濃度が高いと、リチウム挿入脱離電位が貴な方向へシフトし、副反応が激しくなるため好ましくない。また、負極側水系電解質のアニオン濃度は、NO3-、Cl、LiSO 、SO 2-の1種以上を含む水系電解質の場合、6-13M程度が好ましい。これよりもリチウムイオン濃度が低いと、リチウム挿入脱離の電位が卑な方へシフトし、副反応が激しくなるので好ましくない。
【0030】
水系電解質中のOH濃度は、10-10-0.1Mであることが望ましい。
【0031】
また、水系電解質はリチウムイオンとナトリウムイオンとの両方を含むことができる。
【0032】
水系電解質のpHは、正極の水系電解質のpHは1以上7以下であることが好ましい。正極の水系電解質のpHが8以上となると水の電気分解に起因する酸素発生反応が有利に進み、pH1未満だと活物質の分解が進行するため、好ましくない。負極の水系電解質はpH7以上、14以下であることが好ましく7未満では水の電気分解に起因する水素発生反応が有利に進むため、好ましくない。 水系電解質中の溶質、即ち第1の電解質は、例えばイオンクロマトグラフ法により定性および定量することができる。イオンクロマトグラフ法は、感度が高いため、分析手法として特に好ましい。
イオンクロマトグラフ法による電解質に含まれる溶質の定性定量分析の具体的な測定条件の例を以下に示す:
システム: Prominence HIC-SP
分析カラム: Shim-packIC-SA3
ガードカラム: Shim-packIC-SA3(G)
溶離液: 3.6 mmol/L 炭酸ナトリウム水溶液
流量: 0.8 mL/min
カラム温度: 45℃
注入量: 50μL
検出: 電気伝導度
【0033】
水系電解質中に水が含まれているかは、ガスクロマトグラフィー質量分析(Gas Chromatography - Mass Spectrometry;GC-MS)測定により確認できる。また、水系電解質中の水含有量の算出は、例えば誘導結合プラズマ(ICP:InductivelyCoupled Plasma)の発光分析などで測定することができる。水系電解質の比重を測定することで、溶媒のモル数を算出できる。水系電解質は正極側と負極側で同じものを用いてもよいし、異なるものを用いてもよい。
【0034】
正極側の水系電解質には、浸透圧調整剤として無機化合物や有機化合物を用いることができる。無機化合物としては酸化物または塩化物イオン(Cl-)、フッ化物イオン(F-)、ヨウ化物イオン(I-)、過塩素酸イオン(ClO -)、ギ酸イオン(HCO -)、酢酸イオン(C -)、水和物イオン(OH-)、シュウ酸イオン(C -)、硝酸イオン(NO3-)、亜硝酸イオン(NO -)、硫酸イオン(SO 2-)、チオ硫酸イオン(S 2-)亜硫酸イオン(SO 2-)、炭酸イオン(CO 2-)、炭酸水素イオン(HCO 2-)、チオシアン酸イオン(SCN-)、アンモニウムイオン(NH +)、リン酸イオン(PO 3-)及びリン酸水素イオン(HPO 2-)からなる群れの少なくとも1種を含む化合物が水系電解質に溶解するが、反応や酸化はしない点から好ましい。例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化亜鉛、フッ化ナトリウム、フッ化カルシウム、過塩素酸カルシウム、ギ酸アンモニウム、ギ酸カリウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、シュウ酸、シュウ酸カリウム、シュウ酸アンモニウム、硝酸、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸、チオ硫酸アンモニウム、チオ硫酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素カリウム、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸カリウム、リン酸アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸水素カリウムが挙げられる。
【0035】
有機化合物としては、無機化合物と同様に水系電解質に溶解するが反応や酸化はしない化合物が好ましい。例としてはメタノール、エタノール、ブタノール、イソブタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ターシャリーブタノール、セカンダリーブチルアルコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-エチル-1-ヘキサノール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコールなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸アミル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、乳酸メチル、乳酸ブチル、3-エトキシプロピオン酸エチルなどのエステル類、イソプロピルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルターシャリーブチルエーテルなどのエーテル類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチルカルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテートなどのグリコール類、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、メチルトリグリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、ヘキシルジグリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、ジプロピレングリコールメチルエーテルなどのグリコールエーテル類、モノグライム、ジグライム、エチルグライム、エチルジグライム、トリグライム、ブチルジグライム、テトラグライム、ジプロピレングリコールジメチルエーテルなどのグライム類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリル、イソバレロニトリル、ラウロニトリル、2-メチルブチロニトリル、トリメチルアセトニトリル、ヘキサンニトリル、シクロペンタンカルボニトリル、シクロヘキサンカルボニトリル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、クロトノニトリル、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクタムなどの非プロトン性極性溶媒、ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン、ガンマカプロラクトン、イプシロンカプロラクトンなどの環状カルボン酸エステル類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n-プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート化合物、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミンなどのアミン系溶媒などの水と混和性のある有機化合物が用いられる。
【0036】
また、浸透圧調整剤として水系電解質には界面活性剤を添加することができる。界面活性剤は、例えばポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、チオ尿素、3、3‘-ジチオビス(1-プロパンホス酸) 2ナトリウム、ジメルカプトチアジアゾール、ホウ酸、シュウ酸、マロン酸、サッカリン、ナフタレンスルホン酸ナトリウム、ゼラチン、硝酸カリウム、芳香族アルデヒド、複素環アルデヒドなどの非イオン性界面活性剤などが挙げられる。界面活性剤は単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。これら浸透圧調整剤は、無機化合物、有機化合物、界面活性剤を問わず、水系電解質に対して1種のみ用いても2種以上を混合して用いても良い。これらを加えることで、負極側の水系電解質との浸透圧の調整を行うことができる。また、負極側の浸透圧調整剤として、正極と同様の浸透圧調整剤を用いることができる。
【0037】
このように浸透圧調整剤と加えることで、2つの電解質の浸透圧差を、浸透圧の大きい側の浸透圧の90%以下の範囲に調整することができる。
【0038】
ここで、浸透圧Π(N/m)は、以下のようにして算出される。すなわち、電解質(電解液)における溶媒の体積をV(m)、電解質での溶質の物質量(全モル数)をn(mol)、気体定数をR(m・kg/(s・K・mol))、電解質の絶対温度をT(K)とすると、浸透圧Πは、以下の式(5)のようにして算出される。
Π = (n・R・T)/ V (5)
【0039】
ここで、水系電解質が水系電解液である場合、水系電解液の溶質(第1の電解質)は、無機塩及び有機化合物等である。無機塩についてはICP発光分析により、構造を同定し、有機化合物についてはフーリエ変換赤外分光法(FTIR:FourierTransform Infrared Spectroscopy)により、構造を同定する。そして、電解質(水系電解液)を分留することにより、水系電解液の濃度を算出し、水系電解液中の無機塩及び有機化合物等の物質量を算出する。なお、物質量nは、溶質の全モル数であり、溶質の電離も考慮する。実際に、溶質が無機塩及び有機化合物等である場合、これらの溶質は、水系電解液中で全て電離していると考える。例えば、溶質がアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩等である場合、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類イオンは、アニオンに対して全て電離していると考え、物質量nを算出する。例えば、溶質としてLiClを12mol/L溶解させた場合は、水系電解液中ではLi及びClに電離するため、濃度は24mol/Lと考える。
【0040】
浸透圧調整剤は、正極側水系電解質と負極側水系電解質のいずれか一方に加えればよく、両方に含ませてもよい。水系電解質に含まれる浸透圧調整剤のmol濃度は、正極側水系電解質に浸透圧調整剤を加える場合では、例えば2mol/L以上8mol/L以下である。正極側水系電解質の浸透圧調整剤のmol濃度がこの範囲にあることで二次電池の動作を妨げずに浸透圧差を備えることができる。より好ましくは2.5mol/L以上7mol/L以下である。
【0041】
また、負極側水系電解質に浸透圧調整剤を加える場合では、浸透圧調整剤のmol濃度は、例えば0.1mol/L以上5mol/L以下である。この範囲にあることで、水系電解質の抵抗を上昇させることなく、浸透圧差を低下させることができる。好ましくは、0.5mol/L以上、4mol/L以下、より好ましくは、0.7mol/L以上、3mol/L以下の範囲である。
【0042】
界面活性剤が水系電解質中に含まれているかは、先述したGC-MSを用いて調べることができる。例えば、水系電解質をヘキサンで抽出し、水系電解質中の有機溶媒を取り分ける。この取り分けた有機溶媒に対してGC-MSと核磁気共鳴測定(NMR)を行うことにより特定することができる。
【0043】
また界面活性剤の分子量は、MALDI-TOF-MS(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization Time-of-Flight Mass Spectrometry)分析により測定できる。装置としては、例えば、日本電子社(JEOL)製JMS-S3000 Spiral TOFを用いることができる。データ解析には、例えば、日本電子社製MS Tornado Analysisを用いることができる。質量構成の外部標準には、ポリメタクリル酸メチル(サイズ排除クロマトグラフィー用分子量標準)が用いられる。
【0044】
測定により得られるMALDI-MSスペクトルにおけるピークトップの位置の値を、分子量として記録する。
【0045】
水系電解質の界面張力は80mN/m以下、例えば55mN/m未満であることが好ましい。この範囲であることで、セパレータの内部に染み込むことができる。水系電解質がセパレータへよく染み込むことができることで、セパレータの抵抗を下げることができ、また初回充放電時のクーロン効率を上昇させることができ、電池設計時の正極と負極の容量比率を1に近づけることができる。そのため、容量ロスの少ない電池設計が可能となる。より好ましくは50mN/m以下であり、さらにより好ましくは40mN/m以下である。界面活性剤は水系電解質に対して1種でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
界面張力の測定方法は下記の通りである。
【0047】
<水系電解質の界面張力の測定方法>
水系電解質の界面張力は、例えば、懸滴法を用いて求めることができる。測定装置としては、例えば、協和界面科学社製、自動接触角計Dme-201を用いることができる。測定条件としては、例えば、下記表1に示す条件を用いる。
【表1】
【0048】
界面張力の算出には懸滴法を用い、下記式(6)から水系電解質の界面張力を算出する。
界面張力(mN/M)=Δρgde(1/H)・・・(6)
式(6)における各記号は、次の通りである:
Δρ:密度差、g:重力加速度、de:懸滴の最大径、1/H:補正係数。
例えば、測定を5回行い、その平均値を界面張力とみなす。
【0049】
<水系電解質の接触角の測定方法>
水系電解質の接触角は、例えば、液滴法により求めることができる。測定装置としては、例えば、協和界面科学社製、自動接触角計Dme-201を用いることができる。測定条件としては、例えば、下記表2に示す条件を用いる。
【表2】
【0050】
(セパレータ)
正極と負極との間にはセパレータを配置することができる。セパレータを絶縁材料で構成することで、正極と負極とが電気的に接触することを防止することができる。また、正極と負極との間を電解質が移動可能な形状のものを使用することが望ましい。以下の例では、セパレータは透気性を有する。セパレータの例に、不織布、フィルム、紙などが含まれる。セパレータの構成材料の例に、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、セルロースが含まれる。好ましいセパレータの例に、セルロース繊維を含む不織布、ポリオレフィン繊維を含む多孔質フィルムを挙げることができる。
【0051】
セパレータの透気係数は1×10-14以下であることが好ましい。1×10-14より大きいと、正極側水系電解質と負極側水系電解質が混合してしまい、浸透圧の小さいほうの水系電解質が液枯れを起こしやすくなるため好ましくない。透気係数が1×10-15以下であることがより好ましく、1×10-16以下であることがさらにより好ましい。このような透気係数を有するセパレータであることで、正極側水系電解質と負極側水系電解質の混合を速度論的に十分抑制することがでるためにクーロン効率が良くなるため好ましい。セパレータに水系電解質が十分に染み込み、セパレータの抵抗は低くイオン電導性が高くなることにより、レート特性がよくなるためである。水系電解質はセパレータによく染み込むが、水系電解質が正極側と負極側で混ざるほどではない。
【0052】
セパレータの透気係数KT(m)は次のように測定する。
透気係数KTの算出では、例えば、厚さL(m)のセパレータを測定対象とする場合、測定面積A(m)の範囲に、粘性係数σ(Pa・s)の気体を透過させる。この際、投入される気体の圧力p(Pa)が互いに対して異なる複数の条件で、気体を透過させ、複数の条件のそれぞれにおいて、セパレータを透過した気体量Q(m/s)を測定する。そして、測定結果から、圧力pに対する気体量Qをプロットし、傾きであるdQ/dpを求める。そして、厚さL、測定面積A、粘性係数σ及び傾きdQ/dpから、式(7)のようにして、透気係数KTが算出される。
KT =((σ・l)/A)×(dQ/dp) (7)
【0053】
透気係数KTが算出方法のある一例では、それぞれに直径10mmの孔が開いた一対のステンレス板でセパレータを挟み込む。そして、一方のステンレス板の孔から空気を圧力pで送り込む。そして、他方のステンレス板の孔から漏れる空気の気体量Qを測定する。したがって、孔の面積(25πmm)が測定面積Aとして用いられ、粘性係数σとしては0.000018Pa・sが用いられる。また、気体量Qは、100秒の間に孔から漏れる量δ(m)を測定し、測定された量δを100で割ることにより算出する。
【0054】
そして、圧力pが互いに対して少なくとも1000Pa離れる4点で、前述のようにして圧力pに対する気体量Qを測定する。例えば、圧力pが1000Pa、2500Pa、4000Pa及び6000Paとなる4点のそれぞれで、圧力pに対する気体量Qを測定する。そして、測定した4点について圧力pに対する気体量Qをプロットし、直線フィッティング(最小二乗法)によって圧力pに対する気体量Qの傾き(dQ/dp)を算出する。そして、算出した傾き(dQ/dp)に(σ・L)/Aを乗算することにより、透気係数KTを算出する。
【0055】
なお、セパレータの透気係数の測定においては、電池から分解し、セパレータを電池の他の部品から分離する。セパレータは、純水で両面を洗い流した後、純水に浸漬させて48時間以上放置する。その後、さらに純水で両面を洗い流し、100℃の真空乾燥炉にて48時間以上乾燥させた後に、透気係数の測定を行う。また、セパレータにおいて任意の複数箇所で、透気係数を測定する。そして、任意の複数箇所の中で透気係数が最も低い値になる箇所での値を、セパレータの透気係数とする。
【0056】
セパレータの気孔率は60%以上にすることが好ましい。また、繊維径は10μm以下が好ましい。繊維径を10μm以下にすることで、電解質に対するセパレータの親和性が向上するので電池抵抗を小さくすることができる。繊維径のより好ましい範囲は3μm以下である。気孔率が60%以上のセルロース繊維含有不織布は、電解質の含浸性が良く、低温から高温まで高い出力性能を出すことができる。また、長期充電保存、フロート充電、過充電においても負極と反応せず、リチウム金属のデンドライト析出による負極と正極の短絡が発生しない。より好ましい範囲は62%~80%である。
【0057】
また、セパレータとして、固体電解質を使用することもできる。固体電解質としてはNASICON型骨格を有するLATP(Li1+xAlxTi2-x(PO);0.1≦x≦0.4)、アモルファス状のLIPON(Li2.9PO3.30.46)、ガーネット型のLLZ(LiLaZr12)などの酸化物が好ましい。
【0058】
また、βアルミナ、Na1+xZrSix3-x12(0≦x≦3)、NaAlSiなどもあげることができる。
【0059】
セパレータとしては、さらに多孔質自立膜の主面の少なくとも一方に固体電解質層を備えるものを用いることもできる。この固体電解質層の備える固体電解質は、前述のLATPなどを用いることができる。
【0060】
セパレータは、厚さが20μm以上100μm以下、密度が0.2g/cm以上0.9g/cm以下であることが好ましい。この範囲であると、機械的強度と電池抵抗の軽減のバランスを取ることができ、高出力で内部短絡が抑制された二次電池を提供することができる。また、高温環境下でのセパレータの熱収縮が少なく、良好な高温貯蔵性能を出すことが出来る。
【0061】
(負極)
負極は、負極集電体と、負極集電体上に配置されている負極活物質層とを含む。負極活物質層は、負極集電体の少なくとも1つの面上に配置されている。例えば、負極集電体上の1つの面に負極活物質層が配置されていてもよく、または負極集電体上の1つの面とその裏面とに負極活物質層が配置されていてもよい。
【0062】
負極活物質層は、チタン酸化物、リチウムチタン酸化物、およびリチウムチタン複合酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含む負極活物質を含む。これら酸化物は1種類で用いることもできるし、複数種類を用いても良い。これらの酸化物では、リチウム電位基準にて1V以上2V以下(vs.Li/Li)の範囲内でLi挿入脱離反応が起こる。そのため、二次電池の負極活物質としてこれらの酸化物を用いた場合には、充放電に伴う体積膨張収縮変化が小さいことから長寿命を実現することができる。
【0063】
負極集電体には、Zn、Ga、In、Bi、Tl、Sn、Pb、Ti、Alから選ばれる少なくとも1種の元素を集電体内に含むことが好ましい。これらの元素は以後、元素Aとも称する。これらの元素は、これらの1種類で用いることもできるし、複数種類の元素を用いても良く、金属または金属合金として含むことができる。このような金属および金属合金は、単独で含まれていてもよく、或いは2種以上を混合して含んでいてもよい。これらの元素を集電体内に含んだ場合、集電体の機械的強度が高められ、加工性能が向上する。さらに、水系溶媒の電気分解を抑制し、水素発生を抑制させる効果が増加する。上記元素のなかでも、Zn、Pb、Ti、Alがより好ましい。
【0064】
集電体は、例えばこれらの金属からなる金属箔である。また、集電体は、例えばこれらの金属を含んだ合金からなる箔である。このような箔は、元素A以外に他の元素、例えばCuを以上含み得る。金属体の形状としては、箔以外にも、例えばメッシュや多孔体などが挙げられる。エネルギー密度や出力向上のためには、体積が小さく、表面積が大きい箔の形状が望ましい。
【0065】
また、負極集電体は、元素Aとは異なる金属を含んだ基板を含むことができる。このような場合、この基板の表面の少なくとも一部に元素Aを含む化合物が存在することで、水素発生を抑制できる。表面に存在する元素Aを含む化合物は、負極活物質層と接するように配置されていることが望ましい。例えば基板に元素Aのメッキを施して、基板の表面に元素Aを含む化合物を存在させることができる。または、基板の表面に元素Aを含む合金を用いたメッキ処理を施すことができる。
【0066】
集電体は、元素Aからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含んでいてもよい。これら元素Aの酸化物、および/または元素Aの水酸化物、および/または元素Aの塩基性炭酸化合物、および/または元素Aの硫酸化合物は、集電体の表面領域の少なくとも一部において、表面から深さ方向へ5nm以上1μm以下までの深さ領域において含まれていることが好ましい。なお、元素Aの酸化物の例としてはZnO、元素Aの水酸化物の例としてはZn(OH)、元素Aの塩基性炭酸化合物の例としては2ZnCO3・3Zn(OH)、元素Aの硫酸化合物の例としては、ZnSO4・7HOなどが挙げられる。
【0067】
集電体の表層部分に元素Aの酸化物、元素Aの水酸化物、元素Aの塩基性炭酸化合物、および元素Aの硫酸化合物の何れかが少なくとも1種存在すると、水素発生を抑制することができる。また、これらの化合物が集電体の表層部分に存在すると、集電体、活物質、導電助剤、バインダーそれぞれとの密着性が向上し、電子伝導のパスを増やすことができることからサイクル特性の向上と、低抵抗化が可能である。
【0068】
基板は、Al、Fe、Cu、Ni、Tiから選択される少なくとも1種の金属を含むことが好ましい。これらの金属は、合金として含むこともできる。また、基板は、このような金属および金属合金を単独で含むことができ、或いは2種以上を混合して含むことができる。軽量化の観点から、基板がAl、Ti、またはこれらの合金を含むことが好ましい。
【0069】
集電体に元素Aからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含んでいるかどうかは、先述したように電池を分解し、その後、誘導結合プラズマICP発光分析を行うことで、調べることができる。
【0070】
負極活物質は、チタン酸化物、リチウムチタン酸化物、およびリチウムチタン複合酸化物からなる群より選択される1種類又は2種類以上の化合物を含む。リチウムチタン複合酸化物の例に、ニオブチタン酸化物およびナトリウムニオブチタン酸化物が含まれる。これらの化合物のLi吸蔵電位は、1V(vs.Li/Li+)以上3V(vs.Li/Li+)以下の範囲であることが望ましい。
【0071】
チタン酸化物の例に、単斜晶構造のチタン酸化物、ルチル構造のチタン酸化物、アナターゼ構造のチタン酸化物が含まれる。各結晶構造のチタン酸化物は、充電前の組成がTiO、充電後の組成がLixTiO(xは0≦x)で表すことができる。また、単斜晶構造のチタン酸化物の充電前構造をTiO(B)と表すことができる。
【0072】
リチウムチタン酸化物の例に、スピネル構造リチウムチタン酸化物(例えば一般式Li4+xTi12(xは-1≦x≦3))、ラムスデライト構造のリチウムチタン酸化物(例えば、Li2+xTi(-1≦x≦3))、Li1+xTi(0≦x≦1)、Li1.1+xTi1.8(0≦x≦1)、Li1.07+xTi1.86(0≦x≦1)、LixTiO(0<x)などが含まれる。
【0073】
ニオブチタン酸化物の例に、LiTiMNb2±β7±σ(0≦a≦5、0≦b≦0.3、0≦β≦0.3、0≦σ≦0.3、MはFe、V、Mo及びTaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素)で表されるものが含まれる。
【0074】
ナトリウムニオブチタン酸化物の例に、一般式Li2+vNa2-wM1xTi6-y-zNbyM2z14+δ(0≦v≦4、0<w<2、0≦x<2、0<y<6、0≦z<3、y+z<6、-0.5≦δ≦0.5、M1はCs、K、Sr、Ba、Caより選択される少なくとも1つを含み、M2はZr、Sn、V、Ta、Mo、W、Fe、Co、Mn、Alより選択される少なくとも1つを含む)で表される斜方晶型Na含有ニオブチタン複合酸化物が含まれる。
【0075】
負極活物質として好ましい化合物に、アナターゼ構造のチタン酸化物、単斜晶構造のチタン酸化物、スピネル構造のリチウムチタン酸化物が含まれる。各化合物は、Li吸蔵電位が1.4V(vs.Li/Li+)以上2V(vs.Li/Li+)以下の範囲であるため、例えば正極活物質としてのリチウムマンガン酸化物と組み合わせることで、高い起電力を得ることができる。これらの中でも、スピネル構造のリチウムチタン酸化物は、充放電反応による体積変化が極めて少ないため、より好ましい。
【0076】
負極活物質は、粒子の形態で負極活物質層に含有され得る。負極活物質粒子は、単独の一次粒子、一次粒子の凝集体である二次粒子、あるいは、単独の一次粒子と二次粒子の混合物であり得る。粒子の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、球状、楕円形状、扁平形状、繊維状等にすることができる。
【0077】
負極活物質の二次粒子の平均粒子径(直径)が、3μm以上であることが好ましい。より好ましくは5μm以上20μm以下である。この範囲であると、活物質の表面積が小さいため、水素発生を抑制する効果を高めることができる。
【0078】
二次粒子の平均粒子径が3μm以上の負極活物質は、例えば、次の方法で得られる。先ず、活物質原料を反応合成して平均粒子径1μm以下の活物質前駆体を作製する。その後、活物質前駆体に対し焼成処理を行い、ボールミルやジェトミルなどの粉砕機を用いて粉砕処理を施す。次いで焼成処理において、活物質前駆体を凝集して粒子径の大きい二次粒子に成長させる。
【0079】
負極活物質の一次粒子の平均粒子径は1μm以下とすることが望ましい。これにより、活物質内部でのLiイオンの拡散距離が短くなり、比表面積が大きくなる。そのため、優れた高入力性能(急速充電性能)が得られる。一方、平均粒子径が小さいと、粒子の凝集が起こりやすくなり、電解質の分布が負極に偏って正極での電解質の枯渇を招く恐れがあることから、下限値は0.001μmにすることが望ましい。さらに好ましい平均粒子径は、0.1μm以上0.8μm以下である。
【0080】
負極活物質粒子は、N析出によるBET法での比表面積が3m/g以上200m/g以下の範囲であることが望ましい。これにより、負極と電解質との親和性をさらに高くすることができる。
【0081】
負極活物質層(集電体を除く)の比表面積は、3m/g以上50m/g以下の範囲であることが望ましい。比表面積のより好ましい範囲は、5m/g以上50m/g以下である。負極活物質層は、集電体上に担持された負極活物質、導電剤及び結着剤を含む多孔質の層であり得る。
【0082】
負極の多孔度(集電体を除く)は、20~50%の範囲にすることが望ましい。これにより、負極と電解質との親和性に優れ、かつ高密度な負極を得ることができる。多孔度のさらに好ましい範囲は、25~40%である。
【0083】
導電剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、コークス、炭素繊維、黒鉛などの炭素材料やニッケル、亜鉛などの金属粉末を挙げることができる。導電剤の種類は1種類または2種類以上にすることができる。炭素材料は、それ自身から水素が発生するため、導電剤には金属粉末を使用することが望ましい。
【0084】
結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム、エチレン-ブタジエンゴム、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリイミド(PI)、ポリアクリルイミド(PAI)などが挙げられる。結着剤の種類は1種類または2種類以上にすることができる。
【0085】
負極活物質、導電剤及び結着剤の負極活物質層における配合比については、負極活物質は70重量%以上95重量%以下、導電剤は3重量%以上20重量%以下、結着剤は2重量%以上10重量%以下の範囲にすることが好ましい。導電剤の配合比が3重量%以上であれば負極の導電性を良好にすることができ、20重量%以下であれば導電剤表面での電解質の分解を低減することができる。結着剤の配合比が2重量%以上であれば十分な電極強度が得られ、10重量%以下であれば電極の絶縁部を減少させることが出来る。
【0086】
負極は、例えば次のようにして作製することができる。先ず、負極活物質、導電剤及び結着剤を適切な溶媒に分散させてスラリーを調製する。このスラリーを集電体に塗布し、塗膜を乾燥させることで集電体上に負極活物質層を形成する。ここで、例えばスラリーを集電体上の1つの面に塗布してもよく、またはスラリーを集電体上の1つの面とその裏面とに塗布してもよい。次いで、集電体と負極活物質層とに対し、例えば加熱プレスなどのプレスを施すことにより負極を作製することができる。
【0087】
(正極)
この正極は、正極集電体と、正極集電体の片面もしくは両面に担持され、活物質、導電剤および結着剤を含む正極層とを有することができる。
【0088】
正極集電体としてはステンレス、Al、Tiなどの金属からなる箔、多孔体、メッシュを用いることが好ましい。集電体と電解質との反応による集電体の腐食を防止するため、集電体表面を異種元素で被覆してもよい。
【0089】
正極活物質には、リチウムやナトリウムを吸蔵放出可能なものが使用され得る。正極は、1種類の正極活物質を含んでも良く、或いは2種類以上の正極活物質を含むことができる。正極活物質の例には、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルトアルミニウム複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物、リチウムマンガンコバルト複合酸化物、リチウム鉄酸化物、リチウムフッ素化硫酸鉄、オリビン結晶構造のリン酸化合物(例えば、LixFePO(0≦x≦1)、LixMnPO(0≦x≦1))などが含まれる。オリビン結晶構造のリン酸化合物は、熱安定性に優れている。
【0090】
高い正極電位の得られる正極活物質の例を以下に記載する。例えばスピネル構造のLixMn(0<x≦1)、LixMnO(0<x≦1)などのリチウムマンガン複合酸化物、例えばLixNi1-yAly(0<x≦1、0<y≦1)などのリチウムニッケルアルミニウム複合酸化物、例えばLixCoO(0<x≦1)などのリチウムコバルト複合酸化物、例えばLixNi1-y-zCoyMnz(0<x≦1、0<y≦1、0≦z≦1)などのリチウムニッケルコバルト複合酸化物、例えばLixMnyCo1-y(0<x≦1、0<y≦1)などのリチウムマンガンコバルト複合酸化物、例えばLixMn2-yNiy(0<x≦1、0<y<2)などのスピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物、例えばLixFePO(0<x≦1)、LixFe1-yMnyPO(0<x≦1、0≦y≦1)、LixCoPO(0<x≦1)などのオリビン構造を有するリチウムリン酸化物、フッ素化硫酸鉄(例えばLixFeSOF(0<x≦1))が挙げられる。
【0091】
また、ナトリウムマンガン複合酸化物、ナトリウムニッケル複合酸化物、ナトリムコバルト複合酸化物、ナトリムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、ナトリウム鉄複合酸化物、ナトリウムリン酸化物(例えば、ナトリウムリン酸鉄、ナトリウムリン酸バナジウム)、ナトリウム鉄マンガン複合酸化物、ナトリウムニッケルチタン複合酸化物、ナトリウムニッケル鉄複合酸化物、ナトリウムニッケルマンガン複合酸化物などが含まれる。
【0092】
好ましい正極活物質の例に、鉄複合酸化物(例えばNayFeO、0≦y≦1)、鉄マンガン複合酸化物(例えばNayFe1-xMnx、0<x<1、0≦y≦1)、ニッケルチタン複合酸化物(例えばNayNi1-xTix、0<x<1、0≦y≦1)、ニッケル鉄複合酸化物(例えばNayNi1-xFex、0<x<1、0≦y≦1)、ニッケルマンガン複合酸化物(例えばNayNi1-xMnx、0<x<1、0≦y≦1)、ニッケルマンガン鉄複合酸化物(例えばNayNi1-x-zMnxFez、0<x<1、0≦y≦1、0<z<1、0<1-x-z<1)、リン酸鉄(例えばNayFePO、0≦y≦1)が含まれる。
【0093】
正極活物質の粒子は、単独の一次粒子、一次粒子の凝集体である二次粒子、または単独の一次粒子と二次粒子の双方を含むものであり得る。正極活物質の一次粒子の平均粒子径(直径)は10μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm~5μmである。正極活物質の二次粒子の平均粒子径(直径)は100μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μm~50μmである。
【0094】
正極活物質の粒子表面の少なくとも一部が炭素材料で被覆されていることが好ましい。炭素材料は、層構造、粒子構造、あるいは粒子の集合体の形態をとり得る。
【0095】
正極層の電子伝導性を高め、集電体との接触抵抗を抑えるための導電剤としては、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛、平均繊維径1μm以下の炭素繊維等を挙げることができる。導電剤の種類は1種類又は2種類以上にすることができる。
【0096】
活物質と導電剤とを結着させるための結着剤は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム、エチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリイミド(PI)、ポリアクリルイミド(PAI)を含む。結着剤の種類は1種類又は2種類以上にすることができる。
【0097】
正極活物質、導電剤及び結着剤の正極層における配合比については、正極活物質は70重量%以上95重量%以下、導電剤は3重量%以上20重量%以下、結着剤は2重量%以上10重量%以下の範囲にすることが好ましい。導電剤の配合比が3重量%以上であれば正極の導電性を良好にすることができ、20重量%以下であれば導電剤表面での電解質の分解を低減することができる。結着剤の配合比が2重量%以上であれば十分な電極強度が得られ、10重量%以下であれば電極の絶縁部を減少させることが出来る。
【0098】
正極は、例えば次のようにして作製することができる。先ず、正極活物質、導電剤及び結着剤を適切な溶媒に分散させてスラリーを調製する。このスラリーを集電体に塗布し、塗膜を乾燥させることで集電体上に正極層を形成する。ここで、例えばスラリーを集電体上の1つの面に塗布してもよく、またはスラリーを集電体上の1つの面とその裏面とに塗布してもよい。次いで、集電体と正極層とに対し、例えば加熱プレスなどのプレスを施すことにより正極を作製することができる。
【0099】
(容器)
正極、負極及び電解質が収容される容器には、金属製容器や、ラミネートフィルム製容器、ポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂容器を使用することができる。
【0100】
金属製容器としては、ニッケル、鉄、ステンレス、元素Aなどからなる金属缶で角形、円筒形の形状のものが使用できる。
【0101】
樹脂製容器、金属製容器それぞれの板厚は、1mm以下にすることが望ましく、さらに好ましい範囲は0.5mm以下である。さらに好ましい範囲は0.3mm以下である。また、板厚の下限値は、0.05mmにすることが望ましい。
【0102】
ラミネートフィルムとしては、例えば、金属層を樹脂層で被覆した多層フィルムなどを挙げることができる。金属層の例に、ステンレス箔、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔が含まれる。樹脂層には、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの高分子を用いることができる。ラミネートフィルムの厚さの好ましい範囲は、0.5mm以下である。より好ましい範囲は0.2mm以下である。また、ラミネートフィルムの厚さの下限値は、0.01mmにすることが望ましい。
【0103】
実施形態に係る二次電池は、角形、円筒形、扁平型、薄型、コイン型等の様々な形態の二次電池に適用することが可能である。さらにバイポーラ構造を有する二次電池であることが好ましい。これにより複数直列のセルを1個のセルで作製できる利点がある。
【0104】
図1は、実施形態に係る二次電池の一例を概略的に示す断面図である。
図1に示す二次電池10は、負極集電体3a及び負極活物質層3bを含んだ負極3、正極集電体5a及び正極活物質層5bを含んだ正極5、正極と接している第1水系電解質11、負極と接している第2水系電解質12、並びに外装部材2を備えている。負極活物質層3bは、負極集電体3aの両面の一部に設けられている。正極活物質層5bは、正極集電体5aの両面の一部に設けられている。負極集電体3aのうち、負極活物質層3bが設けられていない箇所は、負極タブ3cとして機能する。正極集電体5aのうち、正極活物質層5bが設けられていない箇所は、正極タブ5cとして機能する。負極3と正極5の間にセパレータ4が存在している。
【0105】
正極5は、正極タブ5cが外部に突出した状態で外装部材2に収容されている。負極3は、負極タブ3cが外部に突出した状態で外装部材2に収容されている。第1水系電解質11及び第2水系電解質12は、外装部材2に収容されている。
【0106】
図1に示す二次電池10が含む第1水系電解質11は、ゲル状水系電解質である。第2水系電解質12は液状水系電解質である。図示していないが、第1水系電解質11が液状水系電解質であり、第2水系電解質12がゲル状水系電解質であってもよいし、第1水系電解質11と第2水系電解質12の両方が液状水系電解質であっても、両方がゲル状水系電解質であってもよい。
【0107】
図2及び図3を参照しながら、本実施形態に係る二次電池の他の一例について説明する。
【0108】
図2は、実施形態に係る二次電池の他の例を示す概略的に示す断面図である。図3は、図2のA部の拡大断面図である。
【0109】
図2及び図3に示す二次電池10は、扁平状の捲回電極群1を具備する。
捲回電極群1は、図3に示すように、負極3、セパレータ4、正極5及び第1水系電解質11を備える。第1水系電解質11は、正極5の両面に設けられている。セパレータ4は、第1水系電解質11と、負極3との間に介在している。この捲回電極群1は、負極3、セパレータ4、及び、両面に第1水系電解質11が設けられた正極5を積層して形成した積層物を、図3に示すように負極3を外側にして渦巻状に捲回し、プレス成型することにより形成できる。
【0110】
負極3は、負極集電体3aと負極活物質層3bとを含む。最外殻の負極3は、図3に示すように負極集電体3aの内面側の片面のみに負極活物質層3bを形成した構成を有する。その他の負極3は、負極集電体3aの両面に負極活物質層3bが形成されている。
【0111】
正極5は、正極集電体5aの両面に正極活物質層5bが形成されている。正極5aの両面に形成された正極活物質層5b上に、第1水系電解質11が積層されている。
【0112】
図2及び図3に示すように、捲回電極群1の外周端近傍において、負極端子6が最外殻の負極3の負極集電体3aに接続され、正極端子7が内側の正極5の正極集電体5aに接続されている。
【0113】
捲回型電極群1は、2枚の樹脂層の間に金属層が介在したラミネートフィルムからなる外装部材(袋状容器)2内に収納されている。
【0114】
負極端子6及び正極端子7は、袋状容器2の開口部から外部に延出されている。例えば液状の第2水系電解質(図示していない)が、袋状容器2の開口部から注入されて、袋状容器2内に収納されている。
【0115】
袋状容器2の開口部を負極端子6及び正極端子7を挟んでヒートシールすることにより、捲回電極群1及び第2水系電解質が完全密封されている。図2及び図3に示す二次電池10において、正極5は第1水系電解質と接しており、負極3は第2水系電解質と接している。
【0116】
以上に説明した実施形態によれば、第1の実施形態に係る二次電池は、正極と、正極に保持される第1水系電解質と、負極と、負極に保持される第2水系電解質と、正極と負極との間に介在するセパレータとを備え、第1水系電解質の浸透圧と第2水系電解質の浸透圧との差は第1水系電解質の浸透圧と第2水系電解質の浸透圧のいずれか大きい方に対して90%以下である。このような構成であることで、第1水系電解質と第2水系電解質が混ざることを防ぐことができ、それぞれの水系電解質を適正なpHに保つことができ、水系電解質に含まれる水の電気分解を防ぐことができる。そのため、貯蔵性能及びサイクル特性に優れた二次電池を提供することができる。
【0117】
(第2の実施形態)
第2の実施形態によれば、二次電池を単位セルとする組電池を提供することができる。二次電池には、第1の実施形態の二次電池を用いることができる。
【0118】
組電池の例には、電気的に直列又は並列に接続された複数の単位セルを構成単位として含むもの、電気的に直列接続された複数の単位セルからなるユニットまたは電気的に並列接続された複数の単位セルからなるユニットを含むもの等を挙げることができる。
【0119】
組電池は、筐体に収容されていても良い。筐体は、アルミニウム合金、鉄、ステンレスなどからなる金属缶、プラスチック容器等が使用できる。また、容器の板厚は、0.5mm以上にすることが望ましい。
【0120】
二次電池の複数個を電気的に直列又は並列接続する形態の例には、それぞれが容器を備えた複数の二次電池を電気的に直列又は並列接続するもの、共通の筐体内に収容された複数の電極群を電気的に直列又は並列接続するものが含まれる。前者の具体例は、複数個の二次電池の正極端子と負極端子を金属製のバスバー(例えば、アルミニウム、ニッケル、銅)で接続するものである。後者の具体例は、1個の筐体内に複数個の電極群を隔壁により電気化学的に絶縁した状態で収容し、これら電極群を電気的に直列接続するものである。電気的に直列接続する電池個数を5~7の範囲にすることにより、鉛蓄電池との電圧互換性が良好になる。鉛蓄電池との電圧互換性をより高くするには、単位セルを5個または6個直列接続した構成が好ましい。
【0121】
組電池の一例を、図4を参照して説明する。図4に示す組電池31は、第1の実施形態に係る角型の二次電池(例えば図1図2)32~32を単位セルとして複数備える。電池32の正極導電タブ8と、その隣に位置する電池32の負極導電タブ9とが、リード33によって電気的に接続されている。さらに、この電池32の正極導電タブ8とその隣に位置する電池32の負極導電タブ9とが、リード33によって電気的に接続されている。このように電池32~32間が直列に接続されている。
【0122】
第2の実施形態の組電池によれば、第1の実施形態に係る二次電池含んでいるため、貯蔵性能及びサイクル特性に優れた組電池を提供することができる。
【0123】
(第3の実施形態)
第3の実施形態によれば、電池パックが提供される。この電池パックは、第1の実施形態に係る二次電池具備している。
【0124】
第3の実施形態に係る電池パックは、先に説明した第1の実施形態に係る二次電池(単位セル)を1個または複数個具備することができる。第3の実施形態に係る電池パックに含まれ得る複数の二次電池は、電気的に直列、並列、又は直列および並列を組み合わせて接続されることができる。また、複数の二次電池は、電気的に接続された組電池を構成することもできる。複数の二次電池から組電池を構成する場合、第2の実施形態の組電池を使用することができる。
【0125】
第3の実施形態に係る電池パックは、保護回路をさらに具備することができる。保護回路は、二次電池の充放電を制御するものである。或いは、電池パックを電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を、電池パックの保護回路として使用することができる。
【0126】
また、第3の実施形態に係る電池パックは、通電用の外部端子をさらに具備することもできる。通電用の外部端子は、二次電池からの電流を外部に出力するため、及び/又は単位セル51に電流を入力するためのものである。言い換えれば、電池パックを電源として使用する際、電流が通電用の外部端子を通して外部に供給される。また、電池パックを充電する際、充電電流(自動車などの動力の回生エネルギーを含む)は通電用の外部端子59を通して電池パックに供給される。
【0127】
第3の実施形態に係る電池パックの例を、図5を参照して説明する。図5は、電池パックの一例を示す模式的な斜視図である。
【0128】
電池パック40は、図3、5に示す二次電池からなる組電池を備える。電池パック40は、筐体41と、筐体41内に収容された組電池42とを含む。組電池42は、複数(例えば5個)の二次電池43~43が電気的に直列に接続されたものである。二次電池43~43は、厚さ方向に積層されている。筐体41は、上部及び4つの側面それぞれに開口部44を有している。二次電池43~43の正負極端子12、13が突出している側面が、筐体41の開口部44に露出している。組電池42の出力用正極端子45は、帯状をなし、一端が二次電池43~43のいずれかの正極端子13と電気的に接続され、かつ他端が筐体41の開口部44から突出して筐体41の上部から突き出ている。一方、組電池42の出力用負極端子46は、帯状をなし、一端が二次電池43~43のいずれかの負極端子12と電気的に接続され、かつ他端が筐体41の開口部44から突出して筐体41の上部から突き出ている。
【0129】
第3の実施形態に係る電池パックの別の例を図6および図7を参照して詳細に説明する。図6は、第3の実施形態に係る他の例の電池パックの分解斜視図である。図7は、図6の電池パックの電気回路を示すブロック図である。
【0130】
扁平型の二次電池から構成される複数の単位セル51は、外部に延出した負極端子52および正極端子53が同じ向きに揃えられるように積層され、粘着テープ54で締結することにより組電池55を構成している。これらの単位セル51は、図7に示すように互いに電気的に直列に接続されている。
【0131】
プリント配線基板56は、負極端子52および正極端子53が延出する単位セル51側面と対向して配置されている。プリント配線基板56には、図7に示すようにサーミスタ57、保護回路58及び通電用の外部端子59が搭載されている。なお、組電池55と対向するプリント配線基板56の面には組電池55の配線と不要な接続を回避するために絶縁板(図示せず)が取り付けられている。
【0132】
正極リード60は、組電池55の最下層に位置する正極端子53に接続され、その先端はプリント配線基板56の正極コネクタ61に挿入されて電気的に接続されている。負極リード62は、組電池55の最上層に位置する負極端子52に接続され、その先端はプリント配線基板56の負極側コネクタ63に挿入されて電気的に接続されている。これらのコネクタ61、63は、プリント配線基板56に形成された配線64、65を通して保護回路58に接続されている。
【0133】
サーミスタ57は、単位セル51の温度を検出し、その検出信号は保護回路58に送信される。保護回路58は、所定の条件で保護回路58と通電用の外部端子59との間のプラス配線66aおよびマイナス配線66bを遮断できる。所定の条件とは、例えばサーミスタ57の検出温度が所定温度以上になったときである。また、所定の条件とは単位セル51の過充電、過放電、過電流等を検出したときである。この過充電等の検出は、個々の単位セル51もしくは組電池55について行われる。個々の単位セル51を検出する場合、電池電圧を検出してもよいし、正極電位もしくは負極電位を検出してもよい。後者の場合、個々の単位セル51中に参照極として用いるリチウム電極が挿入される。図6および図7の場合、単位セル51それぞれに電圧検出のための配線67を接続し、これら配線67を通して検出信号が保護回路58に送信される。
【0134】
正極端子53および負極端子52が突出する側面を除く組電池55の三側面には、ゴムもしくは樹脂からなる保護シート68がそれぞれ配置されている。
【0135】
組電池55は、各保護シート68およびプリント配線基板56と共に収納容器69内に収納される。すなわち、収納容器69の長辺方向の両方の内側面と短辺方向の内側面それぞれに保護シート68が配置され、短辺方向の反対側の内側面にプリント配線基板56が配置される。組電池55は、保護シート68およびプリント配線基板56で囲まれた空間内に位置する。蓋70は、収納容器69の上面に取り付けられている。
【0136】
なお、組電池55の固定には粘着テープ54に代えて、熱収縮テープを用いてもよい。この場合、組電池の両側面に保護シートを配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて組電池を結束させる。
【0137】
図6図7では単位セル51を直列接続した形態を示したが、電池容量を増大させるためには並列に接続してもよい。或いは、直列接続と並列接続とを組み合わせてもよい。さらに、組み上がった電池パックを直列および/または並列に接続することもできる。
【0138】
また、電池パックの態様は用途により適宜変更される。電池パックの用途としては、大電流での充放電が望まれるものが好ましい。具体的には、デジタルカメラの電源用や、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車、鉄道用車両等の車両の車載用、並びに定置用電池としての用途が挙げられる。特に、車載用が好適である。
【0139】
第3の実施形態に係る電池パックを搭載した自動車等の車両において、電池パックは、例えば車両の動力の回生エネルギーを回収するものである。
【0140】
以上説明した第3の実施形態の電池パックによれば、第1の実施形態の二次電池を含むため、貯蔵性能及びサイクル特性に優れた電池パックを提供することができる。
【0141】
(第4の実施形態)
第4の実施形態によると、車両が提供される。この車両は、第3の実施形態に係る電池パックを搭載している。
【0142】
第4の実施形態に係る車両において、電池パックは、例えば、車両の動力の回生エネルギーを回収するものである。
【0143】
第4の実施形態に係る車両の例としては、例えば、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車、及び鉄道用車両が挙げられる。
【0144】
第4の実施形態に係る車両における電池パックの搭載位置は、特には限定されない。例えば、電池パックを自動車に搭載する場合、電池パックは、車両のエンジンルーム、車体後方又は座席の下に搭載することができる。
【0145】
次に、第4の実施形態に係る車両の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0146】
図8は、第4の実施形態に係る車両の一例を概略的に示す断面図である。
【0147】
図8に示す車両200は、車両本体201と、電池パック202とを含んでいる。電池パック202は、第3の実施形態に係る電池パックであり得る。
【0148】
図8に示す車両200は、四輪の自動車である。車両200としては、例えば、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車、及び鉄道用車両を用いることができる。
【0149】
この車両200は、複数の電池パック202を搭載してもよい。この場合、電池パック202は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されてもよい。
【0150】
電池パック202は、車両本体201の前方に位置するエンジンルーム内に搭載されている。電池パック202の搭載位置は、特に限定されない。電池パック202は、車両本体201の後方又は座席の下に搭載してもよい。この電池パック202は、車両200の電源として用いることができる。また、この電池パック202は、車両200の動力の回生エネルギーを回収することができる。
【0151】
次に、図9を参照しながら、第4の実施形態に係る車両の実施態様について説明する。
【0152】
図9は、第4の実施形態に係る車両の他の例を概略的に示した図である。図9に示す車両300は、電気自動車である。
【0153】
図9に示す車両300は、車両本体301と、車両用電源302と、車両用電源302の上位制御手段である車両ECU(ECU:ElectricControl Unit;電気制御装置)380と、外部端子(外部電源に接続するための端子)370と、インバータ340と、駆動モータ345とを備えている。
【0154】
車両300は、車両用電源302を、例えばエンジンルーム、自動車の車体後方又は座席の下に搭載している。なお、図9に示す、車両300では、車両用電源302の搭載箇所については概略的に示している。
【0155】
車両用電源302は、複数(例えば3つ)の電池パック312a、312b及び312cと、電池管理装置(BMU:Battery Management Unit)311と、通信バス310と、を備えている。
【0156】
3つの電池パック312a、312b及び312cは、電気的に直列に接続されている。電池パック312aは、組電池314aと組電池監視装置(VTM:VoltageTemperature Monitoring)313aと、を備えている。電池パック312bは、組電池314bと組電池監視装置313bと、を備えている。電池パック312cは、組電池314cと組電池監視装置313cと、を備えている。電池パック312a、312b、及び312cは、それぞれ独立して取り外すことが可能であり、別の電池パック312と交換することができる。
【0157】
組電池314a~314cのそれぞれは、直列に接続された複数の単電池を備えている。複数の単電池の少なくとも1つは、第1の実施形態に係る二次電池である。組電池314a~314cは、それぞれ、正極端子316及び負極端子317を通じて充放電を行う。
【0158】
電池管理装置311は、車両用電源302の保全に関する情報を集めるために、組電池監視装置313a~313cとの間で通信を行い、車両用電源302に含まれる組電池314a~314cに含まれる単電池の電圧、及び温度などに関する情報を収集する。
【0159】
電池管理装置311と組電池監視装置313a~313cとの間には、通信バス310が接続されている。通信バス310は、1組の通信線を複数のノード(電池管理装置と1つ以上の組電池監視装置と)で共有するように構成されている。通信バス310は、例えばCAN(ControlArea Network)規格に基づいて構成された通信バスである。
【0160】
組電池監視装置313a~313cは、電池管理装置311からの通信による指令に基づいて、組電池314a~314cを構成する個々の単電池の電圧及び温度を計測する。ただし、温度は1つの組電池につき数箇所だけで測定することができ、全ての単電池の温度を測定しなくてもよい。
【0161】
車両用電源302は、正極端子316と負極端子317との接続を入り切りするための電磁接触器(例えば図9に示すスイッチ装置333)を有することもできる。スイッチ装置333は、組電池314a~314cへの充電が行われるときにオンするプリチャージスイッチ(図示せず)、及び電池出力が負荷へ供給されるときにオンするメインスイッチ(図示せず)を含んでいる。プリチャージスイッチおよびメインスイッチは、スイッチ素子の近傍に配置されたコイルに供給される信号によりオン又はオフされるリレー回路(図示せず)を備えている。
【0162】
インバータ340は、入力された直流電圧を、モータ駆動用の3相の交流(AC)の高電圧に変換する。インバータ340の3相の出力端子は、駆動モータ345の各3相の入力端子に接続されている。インバータ340は、電池管理装置311あるいは車両全体動作を制御するための車両ECU380からの制御信号に基づいて、出力電圧を制御する。
【0163】
駆動モータ345は、インバータ340から供給される電力により回転する。この回転は、例えば差動ギアユニットを介して車軸および駆動輪Wに伝達される。
【0164】
また、図示はしていないが、車両300は、回生ブレーキ機構を備えている。回生ブレーキ機構は、車両300を制動した際に駆動モータ345を回転させ、運動エネルギーを電気エネルギーとしての回生エネルギーに変換する。回生ブレーキ機構で回収した回生エネルギーは、インバータ340に入力され、直流電流に変換される。直流電流は、車両用電源302に入力される。
【0165】
車両用電源302の負極端子317には、接続ラインL1の一方の端子が、電池管理装置311内の電流検出部(図示せず)を介して接続されている。接続ラインL1の他方の端子は、インバータ340の負極入力端子に接続されている。
【0166】
車両用電源302の正極端子316には、接続ラインL2の一方の端子が、スイッチ装置333を介して接続されている。接続ラインL2の他方の端子は、インバータ340の正極入力端子に接続されている。
【0167】
外部端子370は、電池管理装置311に接続されている。外部端子370は、例えば、外部電源に接続することができる。
【0168】
車両ECU380は、運転者などの操作入力に応答して他の装置とともに電池管理装置311を協調制御して、車両全体の管理を行なう。電池管理装置311と車両ECU380との間では、通信線により、車両用電源302の残容量など、車両用電源302の保全に関するデータ転送が行われる。
【0169】
第4の実施形態に係る車両は、第3の実施形態に係る電池パックを具備している。即ち、貯蔵性能及びサイクル特性に優れた電池パックを備えているため、第4の実施形態に係る車両は貯蔵性能及びサイクル特性に優れており、且つ電池パックが寿命性能に優れているため、信頼性が高い車両を提供することができる。
【0170】
(第5の実施形態)
第5の実施形態によると、定置用電源が提供される。この定置用電源は、第3の実施形態に係る電池パックを搭載している。なお、この定置用電源は、第3の実施形態に係る電池パックの代わりに、第2の実施形態に係る組電池又は第1の実施形態に係る二次電池を搭載していてもよい。
【0171】
第5の実施形態に係る定置用電源は、第3の実施形態に係る電池パックを搭載している。したがって、第5の実施形態に係る定置用電源は、長寿命を実現することができる。
【0172】
図10は、第5実施形態に係る定置用電源を含むシステムの一例を示すブロック図である。図10は、第3の実施形態に係る電池パック40A、40Bの使用例として、定置用電源112、123への適用例を示す図である。図10に示す一例では、定置用電源112,123が用いられるシステム110が示される。システム110は、発電所111、定置用電源112、需要家側電力系統113及びエネルギー管理システム(EMS)115を備える。また、システム110には、電力網116及び通信網117が形成され、発電所111、定置用電源112、需要家側電力系統113及びEMS115は、電力網116及び通信網117を介して、接続される。EMS115は、電力網116及び通信網117を活用して、システム110全体を安定化させる制御を行う。
【0173】
発電所111は、火力及び原子力等の燃料源によって、大容量の電力を生成する。発電所111からは、電力網116等を通して電力が供給される。また、定置用電源112には、電池パック40Aが搭載される。電池パック40Aは、発電所111から供給される電力等を蓄電できる。また、定置用電源112は、電池パック40Aに蓄電された電力を、電力網116等を通して供給できる。システム110には、電力変換装置118が設けられる。電力変換装置118は、コンバータ、インバータ及び変圧器等を含む。したがって、電力変換装置118は、直流と交流との間の変換、互いに対して周波数が異なる交流の間の変換、及び、変圧(昇圧及び降圧)等を行うことができる。このため、電力変換装置118は、発電所111からの電力を、電池パック40Aへ蓄電可能な電力に変換できる。
【0174】
需要家側電力系統113には、工場用の電力系統、ビル用の電力系統、及び、家庭用の電力系統等が、含まれる。需要家側電力系統113は、需要家側EMS121、電力変換装置122及び定置用電源123を備える。定置用電源123には、電池パック40Bが搭載される。需要家側EMS121は、需要家側電力系統113を安定化させる制御を行う。
【0175】
需要家側電力系統113には、発電所111からの電力、及び、電池パック40Aからの電力が、電力網116を通して供給される。電池パック40Bは、需要家側電力系統113に供給された電力を蓄電できる。また、電力変換装置122は、電力変換装置118と同様に、コンバータ、インバータ及び変圧器等を含む。したがって、電力変換装置122は、直流と交流との間の変換、互いに対して周波数が異なる交流の間の変換、及び、変圧(昇圧及び降圧)等を行うことができる。このため、電力変換装置122は、需要家側電力系統113に供給された電力を、電池パック40Bへ蓄電可能な電力に変換できる。
【0176】
なお、電池パック40Bに蓄電された電力は、例えば、電気自動車等の車両の充電等に用いることができる。また、システム110には、自然エネルギー源が設けられてもよい。この場合、自然エネルギー源は、風力及び太陽光等の自然エネルギーによって、電力を生成する。そして、発電所111に加えて自然エネルギー源からも、電力網116を通して、電力が供給される。
【0177】
以下に実施例を説明するが、実施形態は、以下に掲載される実施例に限定されるものではない。
【0178】
水系電解質を用いた二次電池では、1種の電解質を用いただけでは発生する電圧を上げることができない。以下の実施例では、正極側の水系電解質、負極側の水系電解質の濃度を変えながら実験を行った。
【0179】
(実施例1)
以下の手順で二次電池を作製した。
【0180】
<正極の作製>
以下のようにして正極を作製した。
正極活物質としてLiMn(5g)、導電剤としてアセチレンブラック(0.25g)、及び、結着剤(バインダー樹脂)としてPVDF分散液(固形分率8%のNMP溶液, 6.25g)を混練機を用いて3分間混合して、粘稠性スラリーを得た。このスラリーを、Ti箔の片面上に塗布した。その後、120℃で溶媒を留去して積層体を得た。次いで、この積層体を、ロールプレスを用いて、圧延した。その後、この積層体を乾燥させた後、直径10mmの円形に打ち抜いた。得られた正極の目付は、116g/mであった。
【0181】
<負極の作製>
負極活物質としてLiTi12(10g)、導電剤としてグラファイト(1g)、結着剤(バインダー樹脂)としてPTFE分散液(固形分40重量%, 1g)、及び、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)8gを混練機を用いて3分間混合して、スラリーを得た。このスラリーを、Zn箔の片面上に塗布した。その後、120℃で溶媒を留去して積層体を得た。次いで、この積層体を、ロールプレスを用いて、圧延した。その後、この積層体を乾燥させた後、直径10mmの円形に打ち抜いた。得られた負極の目付は、35g/mであった。
【0182】
<水系電解質の調整>
正極側水系電解質及び負極側水系電解質を表1記載の正極側、負極側水系電解質のリチウム塩濃度、浸透圧調整剤、界面活性剤を用いて調整した。
【0183】
<界面活性剤>
非イオン性界面活性剤の具体例として、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、C1225O(CHCHO)nH;0.9<n≦2.1)及びポリオキシアルキレンアルキルエーテル(例えば、C1225O[(CHCH(CH)O)m・(CHCHO)n]H;0<n≦35、0<m≦40、或いは、CO(CHCHO)n[(CHCH(CH)O)m]H;0<n≦35、0<m≦28)からなる群より選択される1以上を挙げることができる。なお、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの化学式C1225O(CHCHO)nHにおける添字nについての上記数値範囲は、0.89<n≦2.1を含む。また、化学式C1225O[(CHCH(CH)O)m・(CHCHO)n]Hで表すポリオキシアルキレンアルキルエーテルの具体例として、添字n及びmがそれぞれ1.4≦n≦35及び8.4≦m≦40である化合物を挙げることができる。実施例ではポリオキシアルキレンアルキルエーテル(C1225O[(CHCH(CH)O)m・(CHCHO)n]H;0<n≦35、0<m≦40)を用い、分子量2000、n=10、m=40の界面活性剤をA、分子量500、n=1.4、m=8.4の界面活性剤をB、分子量3238、n=35、m=28の界面活性剤をC、分子量2000、n=10、m=30の界面活性剤をDとして界面活性剤を用いた。実施例1では、界面活性剤Aを用いた。
【0184】
<試験用電池の作製>
プラスチック板上に、陽極酸化処理されたアルミニウム板を固定し、その上に負極を固定した。別のプラスチック板上にTi板を固定し、その上に正極を固定した。負極の上に、作製した負極側水系電解質を滴下し、その上にセパレータを置き、密着させた。セパレータの逆側に、正極側水系電解質を滴下し、その上から正極を置いて密着させ、さらにねじで固定した。
【0185】
作製した二次電池に対して以下の測定を行った。
【0186】
<浸透圧測定>
定電流充放電試験を終えた電池の浸透圧を測定した。電解質の溶媒の体積V(m)、電解質での溶質の物質量(全モル数)をn(mol)、気体定数をR(m・kg/(s・K・mol))、電解質の絶対温度をT(K)とし、浸透圧を算出した。その結果は表1に示した。
【0187】
<透気係数測定>
電池から分解し、セパレータを電池の他の部品から分離した。セパレータは、純水で両面を洗い流した後、純水に浸漬させて48時間以上放置した。その後、さらに純水で両面を洗い流し、100℃の真空乾燥炉にて48時間以上乾燥させた後に、透気係数の測定を行った。このように取り出したセパレータの4箇所で、セパレータの厚さ(m)を測定した。測定個所4点それぞれで、直径10mmの孔が開いた一対のステンレス板でセパレータを挟み込み、一方のステンレス板の孔から空気を圧力pで送り込む。圧力pは1000Pa、2500Pa、4000Pa及び6000Paを用いた。そして、他方のステンレス板の孔から漏れる空気の気体量Qを測定した。孔の面積(25πmm)が測定面積Aとし、粘性係数σとして0.000018Pa・sを用いた。気体量Qは、100秒の間に孔から漏れる量δ(m)を測定し、測定された量δを100で割ることにより算出した。
【0188】
測定した4箇所について圧力pに対する気体量Qをプロットし、直線フィッティング(最小二乗法)によって圧力pに対する気体量Qの傾き(dQ/dp)を算出した。そして、算出した傾き(dQ/dp)に(σ・L)/Aを乗算し、透気係数KTを算出した。そして、4箇所の中で透気係数が最も低い値になる箇所での値を、セパレータの透気係数とし、表1に記載した。
【0189】
表3には正極側水系電解質、負極側水系電解質のリチウム塩の種類及び濃度、浸透圧調整剤の種類及び濃度、界面活性剤の種類及び濃度を記載し、表5には正極側水系電解質、負極側水系電解質の界面張力(mN/m)及び浸透圧(N/m)セパレータの透気係数(m)、浸透圧差(%)、サイクル特性(回)、クーロン効率(%)を記載した。後述する実施例2-38及び比較例1-2についても実施例1と同様に測定を行った。
【0190】
<定電流充放電試験>
各実施例および各比較例について、試験用電池作製後、待機時間無しで速やかに試験を開始した。充電及び放電のいずれも0.5Cレートで行った。また、充電時は、電流値が0.25Cになるまで、充電時間が130分間になるまで、充電容量が170mAh/gになるまで、のいずれか早いものを終止条件とした。放電時は130分後を終止条件とした。
【0191】
上記充電を1回行い、上記放電を1回行うことを充放電の1サイクルとし、50サイクル目の放電容量を100%とし、サイクルを繰り返して放電容量が50サイクルに対して80%となるサイクル数をサイクル特性とした。また、50サイクル目の充電容量と放電容量から以下の方法でクーロン効率を算出した。クーロン効率が良ければ、貯蔵性能も良いため、クーロン効率を用いて貯蔵性能を測定した。50サイクル目でクーロン効率が安定するため、50サイクル目を用いた。
クーロン効率(%)=100×(放電容量/充電容量)
【0192】
実施例2-20は表3に記載の通りにそれぞれ正極側、負極側水系電解質のリチウム塩濃度、浸透圧調整剤(浸透圧を調整可能な化合物)、界面活性剤を用いて調整し、実施例1と同様に二次電池を作製し、界面張力測定、浸透圧測定、浸透圧差測定、サイクル特性、クーロン効率の評価を行った。評価の結果は表5に記載した。実施例21-44及び比較例1、2については表4に記載の通りにそれぞれ正極側、負極側水系電解質のリチウム塩濃度、浸透圧調整剤、界面活性剤を用いて調整し、実施例1と同様に二次電池を作製し、界面張力測定、浸透圧測定、浸透圧差測定、サイクル特性、クーロン効率の評価を行った。実施例21-44及び比較例1、2評価結果は表6に記載した。表中の「-」は加えていないことを示している。
【表3】

【表4】

【表5】

【表6】
【0193】
実施例1-44及び比較例1、2を比べると、浸透圧差が90%より大きくなるとサイクル特性及びクーロン効率が低下したことがわかる。これは正極側水系電解質と負極側水系電解質が混合してしまったため、水系電解質が適切なpHの範囲にならず水の電気分解が生じたためと考えられる。
【0194】
また、実施例37、38は、浸透圧差は90%以下ではあるが、他の実施例と比較してサイクル特性とクーロン効率が悪かった。これは、実施例37では界面張力が50mN/mより大きいため、セパレータに染み込むことが難しかったためと考えられる。実施例38では、セパレータの透気係数が1×10-14よりも大きいため、他の実施例と比較して水系電解質が混合したためと考えられる。
【0195】
実施例をみても、浸透圧差は50%以下であるほうが高いサイクル特性とクーロン効率を実現できることがわかる。 以上に説明した少なくとも1つの実施形態及び実施例によると、二次電池が提供される。この二次電池は、正極と、正極に保持される第1水系電解質と、負極と、負極に保持される第2水系電解質と、正極と負極との間に介在するセパレータとを備え、第1水系電解質の浸透圧と第2水系電解質の浸透圧との差は第1水系電解質の浸透圧と第2水系電解質の浸透圧のいずれか大きい方に対して90%以下である。そのため、貯蔵性能及びサイクル特性に優れた二次電池を提供することができる。
【0196】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0197】
1…電極群、2…容器(外装部材)、3…正極、3a…正極集電体、3b…正極層、4…負極、4a…負極集電体、4b…負極層、5…セパレータ、6…正極リード、7…負極リード、8…正極導電タブ、9…負極導電タブ、10…封口板、11…絶縁部材、12…負極端子、13…正極端子、31…組電池、32~32、43~43…二次電池、33…リード、40、40A、40B…電池パック、41…筐体、42…組電池、44…開口部、45…出力用正極端子、46…出力用負極端子、51…単位セル、55…組電池、56…プリント配線基板、57…サーミスタ、58…保護回路、59…通電用の外部端子、110…システム、111…発電所、112…定置用電源、113…需要家側電力系統、116…電力網、117…通信網、118…電力変換装置、121…電力変換装置、122…電力変換装置、123…定置用電源、200…車両、201…車両本体、202…電池パック、300…車両、301…車両本体、302…車両用電源、310…通信バス、311…電池管理装置、312a~312c…電池パック、313a~313c…組電池監視装置、314a~314c…組電池、316…正極端子、317…負極端子、333…スイッチ装置、340…インバータ、345…駆動モータ、370…外部端子、380…車両ECU、L1、L2…接続ライン、W…駆動輪。
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