(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】装置、X線CT装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20240422BHJP
A61B 6/42 20240101ALI20240422BHJP
G01T 1/17 20060101ALI20240422BHJP
G01T 1/24 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
A61B6/03 573
A61B6/03 550F
A61B6/42 530R
G01T1/17 F
G01T1/24
(21)【出願番号】P 2020098400
(22)【出願日】2020-06-05
【審査請求日】2023-04-25
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジエン ジョウ
(72)【発明者】
【氏名】シャオホイ ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ ユウ
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-193174(JP,A)
【文献】特開2016-127907(JP,A)
【文献】特開2018-140165(JP,A)
【文献】国際公開第2014/171539(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 - 6/58
G01T 1/00 - 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体を透過し、光子計数検出器素子で検出された放射線の、エネルギービンごとに記録された計数を含む投影データを取得する取得部と、
前記投影データの記録された計数と、順モデルから計算された計数とに基づいて構成された目的関数の値を最適化することにより、物質弁別された物質ごとの投影長を決定し、前記投影データを2以上の物質成分に分解する算出部とを備え、
前記順モデルは、入力として投影長を受け取り、計数率の関数であるパイルアップ項を含む被積分関数に基づいて、パルスパイルアップの影響を受けた計数を出力する、装置。
【請求項2】
前記被積分関数は、前記パイルアップ項および線形スペクトル応答項の両方を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記線形スペクトル応答項は、パイルアップ効果に依存しない検出器応答関数を含む積分からなる、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記パイルアップ項は、基底関数と、
前記基底関数に対応する
関数であって、パラメータ化された計数率の関数との積を、足し合わせたものからなる、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記取得部は、前記光子計数検出器素子で検出された放射線を表す計数を含む較正データを更に取得し、
与えられた投影長のもとで、前記較正データと、前記順モデルから計算された計数とに基づいて前記順モデルにおける係数を決定する較正部を更に備える、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記計数率のパラメータ化された関数は、前記計数率に関する多項式関数である、請求項4に記載の装置。
【請求項7】
前記計数率は、各エネルギービンごとの計数率の和、または一つのエネルギービンの計数率である、請求項4に記載の装置。
【請求項8】
前記目的関数は、ポアソン尤度関数、最小二乗差分関数、および重み付き最小二乗差分関数のうちの一つである、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記線形スペクトル応答項は、弁別物質の減衰係数に投影長を乗じた値に基づいて減衰される減衰X線スペクトルを含む、請求項2に記載の装置。
【請求項10】
前記装置はX線CT装置であり、
前記投影長に基づいて、弁別された物質ごとのコンピュータ断層撮影
(Computed Tomography:CT)画像を再構成する再構成部を更に備える、
請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記光子計数検出器素子はテルル化カドミウム(CdTe)、テルル化カドミウム亜鉛(CZT)、シリコン(Si)、ヨウ化水銀(HgI
2)、および砒素化ガリウム(GaAs)のうちの1以上を含む半導体検出器である、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
被検体を収容するように構成された開口部の周りを回転する回転部材を含むガントリーと、
前記回転部材に固定され、前記開口部に向かってX線を放射するX線源と、
光子計数検出器素子により前記X線を検出するX線検出器と、
前記X線検出器で検出された放射線の、エネルギービンごとに記録された計数を含む投影データを取得する取得部と、
前記投影データの記録された計数と、順モデルから計算された計数とに基づいて構成された目的関数の値を最適化することにより、物質弁別された物質ごとの投影長を決定し、前記投影データを2以上の物質成分に分解する算出部と、
前記投影長に基づいて、弁別された物質ごとのコンピュータ断層撮影
(Computed Tomography:CT)画像を再構成する再構成部とを備え、
前記順モデルは、入力として投影長を受け取り、計数率の関数であるパイルアップ項を含む被積分関数に基づいて、パルスパイルアップの影響を受けた計数を出力する、X線CT(Computed Tomography)装置。
【請求項13】
医用診断装置によって実行される方法であって、
物体を透過し、光子計数検出器素子で検出された放射線の、エネルギービンごとに記録された計数を含む投影データを取得し、
前記投影データの記録された計数と、順モデルから計算された計数とに基づいて構成された目的関数の値を最適化することにより、物質弁別された物質ごとの投影長を決定し、前記投影データを2以上の物質成分に分解し、
前記順モデルは、入力として投影長を受け取り、計数率の関数であるパイルアップ項を含む被積分関数に基づいて、パルスパイルアップの影響を受けた計数を出力する、方法。
【請求項14】
物体を透過し、光子計数検出器素子で検出された放射線の、エネルギービンごとに記録された計数を含む投影データを取得するステップと、
前記投影データの記録された計数と、順モデルから計算された計数とに基づいて構成された目的関数の値を最適化することにより、物質弁別された物質ごとの投影長を決定し、前記投影データを2以上の物質成分に分解するステップとを、コンピューターに実行させ、
前記順モデルは、入力として投影長を受け取り、計数率の関数であるパイルアップ項を含む被積分関数に基づいて、パルスパイルアップの影響を受けた計数を出力する、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、装置、X線CT装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
光子計数検出器に基づくCTシステム(Photon-Counting-Detector Based CT System:PCCT)は、高空間分解能等、X線診断において大きな利点を有する。
【0003】
しかしながら、検出器に入射するX線のフラックスが高い場合、検出器にパイルアップが発生し、測定された計数が真の計数から逸脱する可能性がある。従って、検出器応答について、補正処理が行われるのが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2017/0231584号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書及び図面の開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、検出器応答を補正することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る装置は、取得部と、算出部とを備える。取得部は、物体を透過し、光子計数検出器素子で検出された放射線の、エネルギービンごとに記録された計数を含む投影データを取得する。算出部は、前記投影データの記録された計数と、順モデルから計算された計数とに基づいて構成された目的関数の値を最適化することにより、物質弁別された物質ごとの投影長を決定し、前記投影データを2以上の物質成分に分解する。順モデルは、入力として投影長を受け取り、計数率の関数であるパイルアップ項を含む被積分関数に基づいて、パルスパイルアップの影響を受けた計数を出力する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1A】
図1Aは、実施形態に係る背景について説明した図である。
【
図1B】
図1Bは、実施形態に係る背景について説明した図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る装置が行う処理の流れについて説明したフローチャートである。
【
図3A】
図3Aは、実施形態に係る処理について説明した図である。
【
図3B】
図3Bは、実施形態に係る処理について説明した図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る処理について説明した図である。
【
図6A】
図6Aは、実施形態に係る装置が生成したCT画像の一例である。
【
図7A】
図7Aは、関連する方法を用いて生成したCT画像の一例である。
【
図8】
図8は、実施形態に係るCT装置の構成の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、装置、X線CT装置、方法及びプログラムの実施形態について詳細に説明する。
【0009】
まず、はじめに、
図8を用いて、実施形態に係る装置の全体構成について説明する。
【0010】
図8は、第3世代の幾何学的配置に設けられたエネルギー積分検出器と、第4世代の幾何学的配置に設けられたPCDの両方を有するコンピュータ断層撮影(CT)スキャナ900を示す。
図8に示されているのは、CTスキャナシステムにおいて、所定の第3世代幾何学的配置の検出器ユニット903と組み合わせて、所定の第4世代幾何学的配置にPCDを設けるための実施形態である。この図は、X線源912、コリメータ/フィルタ914、X線検出器903、および光子計数検出器PCD1~PCDNの間の相対位置を示している。投影データ104は、CTスキャナ900を使用して取得することができ、また投影データ104は、検出器ユニット903が、CTスキャナ900を使用して取得することができる。
【0011】
図8に示すX線源912、並びに検出器ユニット903およびPCDを含む検出器の構成に加えて、X線検出器およびX線源の他のタイプおよび組み合わせを使用して投影データを取得することができる。例えば、
図8に示すスキャナから検出器ユニット903またはPCDを省略したとしても、当該スキャナは、
図8に示す完全なシステムを使用して取得した投影データとは異なるものの、未だ投影データを取得できるであろう。特定の実施形態において、PCDは、最初にシンチレーション光子を生成することなく、半導体を使用して、X線を直接に光電子へと変換する直接X線検出器である。更に、特定の実施形態では、スペクトル分解X線検出器と共に広帯域X線源を使用できる。これらのスペクトル分解X線検出器には、任意の構成(例えば、所定の第3世代幾何学的配置もしくは所定の第4世代配置)のPCD、または各スペクトルフィルタに続くエネルギー積分型検出器を含めることができる。特定の実施形態において、X線源は、デュアルソースCTスキャナ等の複数の狭帯域X線源を含むことができる。一般に、X線源の既知のタイプまたは組み合わせと、検出器のタイプおよび構成の既知の組み合わせを使用して、投影データを生成することができる。
【0012】
図8に戻ると、X線投影データを取得、保存、処理、および配信するための回路およびハードウェアもまた示されている。この回路およびハードウェアは、プロセッサ970、ネットワークコントローラ980、メモリ978、およびデータ取得システム976を含んでいる。
【0013】
1代替実施形態において、CTスキャナはPCDを含むが、エネルギー積分検出器ユニット903は含まない。
【0014】
X線源912および検出器ユニット903がガントリー940に収容され、それぞれ円形経路910および930の周りを回転するときに、光子計数検出器PCDおよび検出器ユニット903は、それぞれデータ取得中に透過X線放射を検出する。光子計数検出器PCD1~PCDNは、送信されたX線放射を断続的に検出し、所定のエネルギービンの各々について、光子の数を表す計数値を個別に出力する。一方、検出器ユニット903の検出素子は、透過したX線を連続的に検出し、検出器ユニット903の回転に伴って検出信号を出力する。一実施形態において、検出器ユニット903は、検出器ユニット表面上の所定のチャネル方向およびセグメント方向に密集して配置されたエネルギー積分検出器を有する。
【0015】
一実施形態において、X線源912、PCD、および検出器ユニット903は、半径が異なる3つの所定の円形経路を集合的に形成する。少なくとも1つのX線源912は第1の円形経路910に沿って回転し、光子計数検出器は第2の円形経路920に沿ってまばらに配置される。更に、検出器ユニット903は、第3の円形経路930に沿って移動する。前記第1の円形経路910、第2の円形経路920、および第3の円形経路930は、ガントリー940に回転可能に取り付けられる環状リングによって決定され得る。すなわち、ガントリー940は、被検体を収容するように構成された開口部の周りを回転する回転部材を含む。X線源912は、当該回転部材に固定され、開口部に向かってX線を放射する。X線検出器としての検出器ユニット903は、光子計数検出器素子によりX線を検出する。加えて、前記CTスキャナ内の所定の第3世代幾何学的配置の検出器ユニットと組み合わせて、所定の第4世代幾何学的配置の光子計数検出器を配置するための代替実施形態を構成することができる。
【0016】
検出器ユニット903は、シンチレータ素子と相互作用するX線放射に起因したシンチレーション事象から生じるシンチレーション光子を検出するために、光電子増倍管またはアバランシェフォトダイオードを備えたシンチレーション素子等のエネルギー積分検出器を使用することができる。当該シンチレータ素子は、結晶、有機液体、プラスチック、またはその他の既知のシンチレータであることができる。
【0017】
PCDとしては、テルル化カドミウム(CdTe)、テルル化カドミウム亜鉛(CZT)、シリコン(Si)、ヨウ化水銀(HgI2)、砒素化ガリウム(GaAs)のような半導体に基づく、直接X線放射検出器を使用してもよい。すなわち、光子計数検出器素子は、テルル化カドミウム(CdTe)、テルル化カドミウム亜鉛(CZT)、シリコン(Si)、ヨウ化水銀(HgI2)、および砒素化ガリウム(GaAs)のうちの1以上を含む半導体検出器であってもよい。
【0018】
CTスキャナはまた、光子計数検出器および検出器ユニット903からの投影測定結果を、データ取得システム976、プロセッサ970、メモリ978、ネットワークコントローラ980へと送るためのデータチャネルを含んでいる。データ取得システム976は、検出器からの投影データの取得、デジタル化、およびルーティングを制御する。データ取得システム976は、取得部の一例である。データ取得システム976はまた、環状回転フレーム910および930の回転を制御するための放射線撮影制御回路をも含んでいる。一実施形態において、データ取得システム976はまた、ベッド916の移動、X線源912の動作、およびX線検出器903の動作も制御する。データ取得システム976は、集中処理システムであることができ、或いは分散システムであることもできる。一実施形態において、データ取得システム976はプロセッサ970と統合される。プロセッサ970は、投影データからの画像の再構成、投影データの再構成前処理、および画像データの再構成後処理を含む機能を実行する。プロセッサ970はまた、本明細書で説明した機能および方法を実行する。プロセッサ970は、較正部、算出部及び再構成部の一例である。
【0019】
投影データの再構成前処理には、検出器の較正、検出器の非線形性、極性効果、ノイズバランシング、および物質弁別を補正することを含むことができる。加えて、再構築前処理は、プロセス110および120を含めて、方法100の種々のステップを実行することを含むことができる。
【0020】
再構成後処理には、必要に応じて、画像のフィルタリングおよび平滑化、ボリュームレンダリング処理、および画像差分処理が含まれる。例えば、方法100の様々なステップ(例えばプロセス140)を使用して、再構成後処理を実行することができる。
【0021】
画像再構成プロセスは、フィルタ処理された逆投影法、反復画像再構成法、または確率的画像再構成法を使用して実行できる。加えて、画像再構成処理は、方法100の様々なステップ(例えば、プロセス130)を使用して、再構成された画像を再構成およびノイズ除去する複合プロセスを含むことができる。
【0022】
プロセッサ970およびデータ取得システム976の両者は、メモリ978を使用して、例えば、投影データ104、再構成画像、較正データ106、様々な他のパラメータ、およびコンピュータプログラムを保存することができる。
【0023】
プロセッサ970は、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA)または他の複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)のような、個別の論理ゲートとして実装可能なCPUを含むことができる。FPGAまたはCPLDの実装はVHDL、Verilog、またはその他のハードウェア記述言語でコード化でき、このコードはFPGAまたはCPLD内の電子メモリに直接保存し、または個別の電子メモリとして保存できる。更に、メモリは、ROM、EPROM、EEPROM、またはフラッシュメモリのように不揮発性であってよい。当該メモリはまた、スタティックRAMまたはダイナミックRAMのような揮発性であってよく、また電子メモリ、並びにFPGAまたはCPLDと前記メモリの間の相互作用を管理するために、マイクロコントローラやマイクロプロセッサ等のプロセッサが提供されてもよい。
【0024】
或いは、再構成プロセッサのCPUは、本明細書に記載の機能を実行する1組のコンピュータ可読命令を含むコンピュータプログラムを実行してよく、当該プログラムは上記の非一時的電子メモリおよび/またはハードディスクドライブ、CD、DVD、フラッシュドライブ、またはその他の既知のストレージメディアの何れかに保存される。更に、前記コンピュータ可読命令は、インテル・オブ・アメリカのXenon(登録商標)プロセッサまたはAMDオブアメリカのOpteron(登録商標)プロセッサ、並びにマイクロソフトVISTA(登録商標)、UNIX(登録商標)、Solaris(登録商標)、LINUX(登録商標)、Apple(登録商標)、MAC-OS(登録商標)および当業者に知られている他のオペレーティングシステムのようなプロセッサと連動して実行されるユーティリティアプリケーション、バックグラウンドデーモン、またはオペレーティングシステムのコンポーネント、またはそれらの組み合わせとして提供されてよい。更に、CPUは、前記命令を実行するために並行して協調動作する複数のプロセッサとして実装することができる。
【0025】
一実施形態では、再構成された画像をディスプレイに表示することができる。このディスプレイは、LCDディスプレイ、CRTディスプレイ、プラズマディスプレイ、OLED、LED、または当技術分野で知られた他のディスプレイであり得る。
【0026】
メモリ978は、ハードディスクドライブ、CD-ROMドライブ、DVDドライブ、フラッシュドライブ、RAM、ROM、または当技術分野で知られている他の任意の電子記憶装置であることができる。
【0027】
インテルコーポレーション・オブ・アメリカのインテルイーサネット(登録商標)PROネットワークインターフェイスカードのようなネットワークコントローラ980は、CTスキャナの様々な部分をインターフェイスすることができる。加えて、ネットワークコントローラ980は、外部ネットワークとインターフェイスすることもできる。理解できるように、外部ネットワークは、インターネットのようなパブリックネットワーク、またはLANまたはWANネットワークのようなプライベートネットワーク、またはそれらの任意の組み合わせであることができ、またPSTNまたはISDNサブネットワークも含まれ得る。外部ネットワークは、イーサネット(登録商標)ネットワークのような有線であってもよく、EDGE、3G、および4Gワイヤレスセルラーシステムを含むセルラーネットワークのような無線であることもできる。無線ネットワークはまた、WiFi、ブルートゥース(登録商標)(Bluetooth(登録商標))、またはその他の既知のワイヤレス形式の通信であることもできる。
【0028】
続いて、実施形態に係る背景について説明する。投影データは、コンピュータ断層撮影、X線撮影、マンモグラフィー、およびトモシンセシスを含む多くの用途に使用できる。投影データは、対象物に放射線を透過させ、当該対象物がビーム経路に存在する場合と当該対象物が存在しない場合とで透過した放射線を比較して、当該透過した放射線に対する対象物の影響を検出することにより、対象物の内部構造を明らかにする。吸収イメージングにおいて、投影データは、放射により追跡される放射線に沿った減衰のラドン変換である。コンピュータ断層(CT:Computed Tomography)においては、一連の投影角度について取得された投影データを用いて、そこから対象物の内部構造の画像を再構成できるサイノグラムを生成する。例えば、フィルタ補正逆投影法または反復再構成法のような再構成アルゴリズムを、逆ラドン変換に近似するように使用して、異なる投影角度で取得された一連の投影画像から体積画像を再構成することができる。
【0029】
CTイメージングシステムおよび方法は、医用イメージングおよび診断のために広範に使用されている。典型的には、X線源は身体の長手軸の周りを回転するガントリー上に登載される。X線検出器素子のアレイは、X線源に対向してガントリーに搭載される。一連のガントリー回転角において投影減衰測定を行い、得られた投影データを、CT再構成アルゴリズムを用いて処理することにより、身体の断面画像が得られる。
【0030】
幾つかのCTスキャナは、CT投影データを測定するために、エネルギー積算検出器を使用する。別の例として、X線を光電子に変換して個々のX線とそのエネルギーを迅速かつ直接検出できる、テルル化カドミウム亜鉛(Cadmium Zinc Telluride:CZT)のような半導体を使用した光子計数検出器(Photon-Counting Detector:PCD)が開発されている。これらの半導体を使用することは、スペクトルCTに有利である。スペクトル分解された投影データを得るために、PCDは、X線ビームをスペクトルビン(エネルギー成分とも呼ばれる)に分割し、各ビンの光子数を計数する。多くの臨床応用は、例えば、より良好な物質弁別およびビームハードニング補正の改善により、スペクトルCT技術の恩恵を受けることができる。
【0031】
スペクトルCT、および一般的なスペクトルX線イメージングの利点の1つは、原子番号Zが異なる原子を有する物質はまた、減衰について異なるスペクトルプロファイルを有することである。従って、複数のX線エネルギーでの減衰を測定することによって、構成原子のスペクトル吸収プロファイル(即ち、物質の有効Z)に基づいて物質を区別することができる。この方法で物質を識別することにより、スペクトル領域から物質領域へのマッピングが可能になり、これは物質弁別と称される。
【0032】
スペクトルCTデータの物質弁別が可能であるのは、生体物質のX線の減衰が2つの物理的プロセス、即ち、光電散乱およびコンプトン散乱によって支配されるからである。従って、エネルギーの関数としての減衰係数は、分解した以下の式(1)によって近似できる。
【0033】
【0034】
ここで、μPE(E,x,y)は光電減衰であり、μC(E,x,y)はコンプトン減衰である。この減衰係数の分解は、代わりに、骨のような高Z物質である物質1と水のような低Z物質である物質2の2つの物質成分への分解に再編成できる。従って、減衰分解は次の式(2)のように表現できる。
【0035】
【0036】
ここで、c1,2(x,y)は、位置(x,y)にある物質1および物質2の濃度を記述する空間関数である。なお、画像の再構成と物質弁別の順序は入れ替えることができる。画像の再構成の前に物質弁別が実行されると、画素におけるスペクトル分解減衰が物質の投影長に分解される結果、i番目の物質成分による光子計数検出器(PCD)での総減衰は、投影長Liと、事前に定義された密度でのi番目の物質成分の減衰係数μiとの積である。
【0037】
半導体ベースのPCDは、スペクトルCTのための独自の利点を有するが、独自の課題も生じる。例えば、検出器応答の非線形性とスペクトルシフトを補正しないと、半導体ベースのPCDから再構築された画像の画質が低下する可能性がある。検出器応答補正には、パイルアップ、バリスティック欠損効果、極性効果、特性X線エスケープ、および空間電荷効果の補正を含めることができる。検出器応答補正と物質弁別の組み合わせは、複雑な問題を生じる。従って、PCDのスペクトルおよび非線形検出器の応答を補正して、高品質の再構成画像を確保するためには、計算効率の高い方法が望まれる。
【0038】
すなわち、光子計数検出器に基づくCTシステム(Photon-Counting-Detector Based CT System:PCCT)は多くの利点を有しており、これにはX線放射をスペクトル分解できること、高空間分解能であること、低電子ノイズであることが含まれる。しかし、高いX線フラックス率では、光子計数検出器はパイルアップを受ける可能性がある。即ち、既存のASICおよび半導体検出器技術の計数率制限に起因して、入射フラックスが十分に高く、複数のX線光子が検出時間窓内で各検出器素子に頻繁に入射するときには、測定された計数は真の計数から逸脱する可能性がある。
【0039】
次に、図面を参照すると、ここでは幾つかの図を通して同様の参照番号には同一または対応する部分を示しており、パイルアップ効果が
図1Aおよび1Bに示されている。これらは、1次および高次パイルアップにおいて、記録/測定されたスペクトルが、検出時間窓の間に特定の検出器素子内でのX線パルス/信号間の重なりおよび相互作用の結果として、検出器素子に入射するX線の実際のスペクトルに対してシフトし得ることを示している。例えば、理想的な非麻痺型(Nonparalyzable:NP)検出器(
図1Aの「理想的事象」)では、検出窓の間に到達する複数の光子による高計数率の影響は、当該検出窓の間に検出された最高のエネルギーを有する1つのX線光子として計数される複数の光子として現れる。従って、この「理想的な」場合でさえも、出力計数はもはや真の計数を正確には反映せず、検出されたスペクトルは実際のスペクトルに対して歪んでいる。この影響は、パルスパイルアップとして知られている。
【0040】
更に、非理想的な検出器の場合、例えば光-電子間の電荷相互作用、空乏、飽和効果等に起因する物理的影響は、
図1Aに示す「観測されたパルス列」および「記録された計数/エネルギー」の例に示すように、真のスペクトルに対する測定スペクトルの更なる歪みを生じる可能性がある。従って、パルスパイルアップの実際の影響は、
図1Bに示すように、真のエネルギースペクトルに対する記録/測定されたエネルギースペクトルのシフトである。
【0041】
補正しないままにしておくと、検出器の応答により、光子計数検出器に実際に蓄積されるエネルギーの分布が決定され、不正確な応答モデルによって光子エネルギー分布に誤差が生じ、分解結果が不正確になる。幾つかの戦略により、パイルアップの影響を打ち消すか、さもなければ最小限に抑えることができる。例えば、検出素子の面積を小さくすれば、パイルアップが問題になる前にフラックス閾値は高くなるが、この高いフラックス閾値を超えた場合は、やはりパイルアップ効果を修正しなければならない。画素サイズが減少し、面積あたりのフラックス率が一定に保たれている場合、画素当たりの計数率は、検出器面積の減少に比例して減少する。従って、小さな画素の設計は、パイルアップの問題をある程度緩和するが、完全な解決策ではない。更に、画素サイズを小さくすると、電荷共有効果の増加のような他の困難な問題が発生し、これはまた、パイルアップと同様にスペクトル歪みを引き起こし、画質およびイメージングシステムの性能を低下させる。
【0042】
更に、解析モデルを使用してパイルアップ効果を推定し、次いで補正することができる。しかし、解析モデルは、
図1Aに示した理想的なNP検出器の分析パルス形状に基づいており、実際の検出器応答を表していないという事実によって制限され、物質弁別や画像再構成のような後続の処理ステップの精度に影響し得るモデルの不一致を導く。更に、スペクトル補正に解析モデルを使用してから物質弁別を行うには、完全なパイルアップ応答関数の評価が必要になる。これは、保存および計算の両方の面で資源を大量に消費する。例えば、解析モデルの事前計算および保存には大量の保存スペースが必要とされ、特に、完全なパイルアップ応答関数が検出器アレイの素子毎に異なる場合には実用的でない。また、これらの計算には時間がかかるため、オンザフライでパイルアップ応答関数を計算することもまた現在実際的ではない。
【0043】
検出器応答を補正するために、ニューラルネットワークのようなヒューリスティックモデルを使用することにも欠点がある。例えば、これらの方法では、モデルパラメータを推定するために大量の訓練データが必要とされる。しかし、訓練に使用される目的関数は非凸関数であり、ニューラルネットワークを使用してパイルアップを補正する際に安定性および堅牢性を維持する上で障害となるため、訓練データのセットが大きい場合でも、訓練はグローバルな最小値を保証しない。また、現実的な検出器を使用したパイルアップ補正にニューラルネットワーク法を使用することは、十分に理解されていない未開発の分野である。
【0044】
上記の困難な問題は、理想的でない検出器とパイルアップ効果の組み合わせから生じる。これらの課題に対処するために、ここで説明する方法では、計数率に依存する項Qb(U,cτ)を含む一般化された順モデルを使用して、パルスパイル効果(Pulse Pile Effect:PPE)を以下の式(3)でモデル化する。
【0045】
【0046】
ここで、ybはb番目のエネルギービンで検出されたガンマ線の数、Qb(U,cτ)はエネルギーUおよび計数率cτの関数である一般化スペクトル歪み補正関数、R(U,E)は線形検出器応答関数、Φ0(E)は入力スペクトルであり、検出器効率の影響を含めることができ、μm(E)はm番目の基底物質の線形減衰係数である。計数率cτは、測定されたビン計数率、総計数率(例えば、ビン計数率または計数率から派生した別の値を合計することによる、計数率の関数、または計数率に関連したその他の値であることができる。換言すると、計数率は、各エネルギービンごとの計数率の和であってもよいし、一つのエネルギービンの計数率であってもよい。
【0047】
本明細書で説明する方法は、
図2に示す方法100の非限定的なフローチャートを考慮することによって、より良好に理解することができる。方法100のフローチャートは、PCCTパイルアップ補正、物質弁別、および画像再構成の全体的なワークフローを表す。本明細書で説明する方法の上記の改善および利点は、プロセス110および120の実施形態に多様に含まれている。これらの改善及び利点は、パイルアップを補正するために、実際のパイルアップ効果および較正データ106中の測定された検出器応答を表す順モデルを生成すること、並びに物質弁別を実行することと関係する。即ち、光子計数検出器(PCD)を使用するスペクトルCTでは、画像再構成プロセス130の前に、検出器応答および物質弁別の補正を含む前処理ステップが先行して行われる。
【0048】
図2は、異なる投影方向で実行される対象物OBJの一連の投影測定(即ち、投影測定を使用するコンピュータ断層撮影(CT))に基づいて、対象物OBJの画像を再構成する方法100のフローチャートを示す。当該データ処理は、較正データ106および投影データ104の2つの入力を使用して実行される。前記投影データは複数のスペクトル成分を有しており、高Z物質および低Z物質の異なるスペクトル吸収特性に基づく物質弁別に関する適合性を有している。
図2における非限定的な例で示すように、CTアプリケーションに適用できるだけでなく、プロセス110および120は、X線撮影、マンモグラフィー、トモシンセシス等の投影測定を含む非CTアプリケーションにも適用でき、当業者が理解するように、これらは本明細書で説明される装置および方法の範囲内であり、本開示の精神から逸脱するものではない。
【0049】
画像再構成方法100のプロセス110は、パイルアップを含む実際の検出器応答の投影データを補正する。これは、種々の較正データ106を使用してフィードフォワードモデルを事前に計算することを含むことができる。すなわち、はじめに、取得部としての
データ取得システム9796は、光子計数検出器素子で検出された放射線を表す計数を含む較正データを取得する。続いて、較正部としてのプロセッサ970は、与えられた投影長さのもとで、較正データと、順モデルから計算された計数とに基づいて、順モデルにおける係数を決定する。この順モデルは、後述するように、入力として投影長を受けており、計数率の関数であるパイルアップ項を含む被積分関数に基づいて、パルスパイルアップの影響を受けた計数を出力する。
【0050】
次に、方法100はプロセス120に進み、ここではフィードフォワードモデルを使用してパルスパイルアップを説明するためにスペクトル分解された投影データが補正され、また様々な他の較正が、投影データを補正するために適用され得る(例えば、ノイズ除去、バックグラウンドの差し引き、非線形検出器応答のための補正等)。当該補正は、未だ投影領域にある間(即ち、画像再構成の前)に、スペクトル成分を物質成分に弁別する前、後、または弁別と同時に適用することができる。すなわち、取得部としてのデータ取得システム976は、物体を透過し、光子計数検出素子で検出された放射線の、エネルギービンごとに記録された計数を含む投影データを取得する。続いて、算出部としてのプロセッサ970は、後述するように、投影データの記録された計数と、順モデルから計算された計数とに基づいて構成された目的関数の値を最適化することにより、物質弁別された物質ごとの投影長を決定し、投影データを2以上の物質成分に分解する。
【0051】
対象物OBJの画像は、本開示の精神から逸脱することなく、投影データのスペクトル成分から再構築することができ、その後、これらのスペクトル成分画像の画像領域において物質弁別が実行されるが、処理ステップのこの別の例における順序は、
図2に示す非限定的な例には記載しない。
【0052】
プロセス120の後、方法100はプロセス130に進み、そこでは画像再構成プロセス(例えば、逆ラドン変換)を使用して複数の画像が再構成される。すなわち、X線CT装置における再構成部としてのプロセッサ970は、プロセス120で決定された投影長に基づいて、弁別された物質ごとのコンピュータ断層撮影画像を再構成する。この画像再構成は、逆投影法、フィルタリングされた逆投影法、フーリエ変換ベースの画像再構成法、反復画像再構成法(例えば、代数的再構成技術等)、マトリックス反転画像再構成法、または統計的画像再構成法を使用して実行できる。非CTアプリケーション(例えば、X線撮影、マンモグラフィー、およびトモシンセシス)の場合、プロセス130は省略され、非CTアプリケーションはプロセス120からプロセス140またはプロセス150へと直接進むことができる。
【0053】
プロセス130の後、方法100はプロセス140に進み、ボリュームレンダリング、平滑化、ノイズ除去、フィルタリング、および物理的概念を反映するために物質画像を組み合わせる様々な方法(例えば、減衰、密度、または有効Z密度のマップ)を含む後処理ステップが、前記データに対して実行される。
【0054】
ノイズ除去方法の例には、線形平滑化フィルタ、異方性拡散、非局所的手段、または非線形フィルタが含まれる。線形平滑化フィルタは、ローパスフィルタまたは平滑化操作を代表する畳み込みカーネルで元の画像を畳み込むことにより、ノイズを除去する。例えば、ガウス畳み込みカーネルは、ガウス関数により決定される要素で構成される。この畳み込みは、各画素の値を、隣接する画素の値とより厳密に一致させる。異方性拡散は、熱方程式に似た平滑化偏微分方程式の下で画像を進化させることにより、シャープなエッジを維持しながらノイズを除去する。中央値フィルタは非線形フィルタの例であり、適切に設計されれば、非線形フィルタはエッジを保持してぼけを防ぐこともできる。中央値フィルタは、ランク条件付きランク選択(Rank-Conditioned Rank-Selection:RCRS)フィルタの一例であり、これを適用すると、画像に著しいぼけのアーチファクトを生じることなく、ごま塩ノイズを除去できる。加えて、画像化された領域が、均一な領域間の鋭い境界で区切られた大きな領域にわたる均一性の仮定を満たす場合には、総変動(Total-Variation:TV)最小化正則化項を使用するフィルタを適用できる。TVフィルタは、非線形フィルタの別の例である。更に、ノンローカルミーンフィルタリングは、画像内の同様のパッチの加重平均を使用して、ノイズを除去した画素を決定する例示的な方法である。
【0055】
最後に、方法100のステップ150では、ユーザに画像が提示される。この画像の提示は、画像をデジタル画面(LCDモニター等)に表示することにより、適切な媒体(紙やX線フィルム等)に画像を印刷することにより、またはコンピュータ読み取り可能な媒体に画像を保存することにより実行できる。
【0056】
本明細書での議論は、主にプロセス110およびプロセス120に焦点が当てられる。上述のように、これらのプロセスは、CTおよび非CT(X線撮影、マンモグラフィー、およびトモシンセシスを含む)の両方のアプリケーションに適用可能であり、当業者が理解するように、これらは本明細書に記載の方法の適用範囲内である。
【0057】
要約すると、非限定的実施形態によれば、方法100は、プロセス110において、順モデルの低次元パルスパイルアップモデル/パラメータを生成することを含み、これは実際の検出器応答を有する較正データ106から事前に計算され、CT装置の非一時的コンピュータ可読媒体に保存される。更に、方法100は、プロセス120において、事前に計算されたパイルアップモデルの適用後または適用と同時に、光子計数検出器(PCD)からの投影データ104に物質弁別を適用して、実際のPCCT測定から異なる物質の経路長を計算することを含む。プロセス130において、方法100は、プロセス120で生成された物質成分経路長から物質画像を再構成することを含む。プロセス130で使用される再構成方法は、分析的再構成方法および反復再構成方法を含む任意の既知の方法であり得る。プロセス140において、方法100は、画像品質を更に改善するために適用されるアーチファクト低減技術のような後処理を含む。
【0058】
以下の議論は、主にプロセス110およびプロセス120に焦点を当てている。上記のように、これらのプロセスはCTおよび非CTアプリケーションの両方に適用でき、これには放射線撮影、マンモグラフィー、およびトモシンセシスが含まれ、当業者が理解するように、これらは本開示の精神の範囲内である。
【0059】
プロセス110に戻ると、投影データ補正は、検出器に入射するX線のエネルギースペクトルSin(U)から導かれた記録/測定されたエネルギーSout(U)により表すことができ、ここでの前記検出器応答関数の実装は次式の式(4)により与えられる。
【0060】
【0061】
ここで、R0は線形応答関数、R1は1次パイルアップを表す2次応答関数、τは、検出器の不感時間である。測定されたエネルギースペクトルSout(U)は、2次パイルアップ等を含む高次項にも依存する。また、入力スペクトルΦ0(E)は以下の式(5)である。
【0062】
【0063】
ここでのg(E)は、特定の実施形態では1であり、他の実施形態の場合、g(E)は、検出器の効率/損失を説明する関数(例えば、検出器における量子効率のエネルギー依存性、および空気-検出器境界でのフレネル反射による損失を表す)。前記入射スペクトルSin(E)は次式の式(6)によって与えられる。
【0064】
【0065】
ここでのμmは物質弁別のm番目の基底物質の減衰係数であり、lmはm番目の基底物質の投影長であり、Sairは減衰対照物OBJがない場合に検出器に入射するX線放射(即ち、全てのmについてlm=0)である。また、b番目のエネルギービンの計数Nbは以下の式(7)であることができる。
【0066】
【0067】
ここでのΔTは積分時間であり、wb(E)は光子計数検出器におけるb番目のエネルギービンのスペクトル関数である。例えば、前記スペクトル関数は長方形状の関数(即ち、ゼロ次スプライン関数)である可能性があり、これは以下の式(8)として定義される。
【0068】
【0069】
ここに記載する方法は、一般的な順モデルを使用して、b番目のエネルギービンでの計数を、次式の式(9)で与えられる値ybで近似する。
【0070】
【0071】
ここで、ybはb番目のエネルギービンで検出されたガンマ線の数であり、Qb(U,cτ)は一般化されたスペクトル歪み補正関数であり、これはエネルギーUおよび計数率cτの関数であり、R(U,E)は線形検出器応答関数であり、Φ0(E)は入力スペクトルであり、検出器効率の影響を含めることができ、μm(E)はm番目の基底物質の線形減衰係数である。ybを計算するための順モデルは、内部積分(即ち、エネルギー変数E上の積分)の被積分関数が、kエスケープのような線形スペクトル応答効果(SRE)をモデル化するのに対して、外部積分(即ち、エネルギー変数U上の積分)の被積分関数は、パルスパイルアップ効果(PPE)およびその他の非線形検出器応答をモデル化することを考慮していることを考えると更に良く理解できる。従って、当該順モデルは、線形SREが最初にモデル化され、次いでこのSREモデルの結果が非線形PPEをモデル化するための入力として適用されるカスケードプロセスと一致している。すなわち、この順モデルは、入力として投影長lmを受け取り、計数率cτの関数であるパイルアップ項Qb(U,cτ)を含む被積分関数に基づいて、パルスパイルアップの影響を受けた計数ybを出力する。
【0072】
較正データは、各PCDによる非線形性を最適に補正する計数依存補正項Qb(「一般化されたスペクトル歪み補正関数」とも呼ばれる)における係数を学習するために使用できる。例えば、パルスパイル効果(PPE)計数に依存する補正項Qbは、基底関数の線形結合であることができる。特定の実施形態において、計数依存性の補正項Qbは、限定されるものではないが、下記の式(10)のような形式をとることができる。
【0073】
【0074】
ここで、fi(cτ|θbi)は、エネルギービンbのi番目の計数率関数であり、ここでの、θbi(ベクトル量であり、式(10)においては太字により示されている)は学習係数であり、cτは入力変数であり、またφi(U)はビンbのi番目の基底エネルギー関数である。関数fi(cτ|θbi)は、計数率のパラメータ化された関数とも呼ばれ、ここでのθbiはベクトル量のパラメータである。係数ベクトルθbiは、以下で更に詳細に説明するように、較正訓練データから学習される値の配列(例えば、θbi={abi,0,abi,1, abi,2})である。非限定的な一実施形態において、計数率cτのパラメータ化された関数fi(cb|θbi)は下記の式(11)のような計数率の多項式関数であることができる。
【0075】
【0076】
ここでは、θbi={abi,0,abi,1, abi,2})である。
【0077】
図3Aおよび3Bは、基底エネルギー関数φ
i(U)の2つの例を示している。
図3Aにおいて、基底エネルギー関数φ
i(U)は多項式である。例えば、この関数φ
i(U)はエネルギービン(即ち、U∈[U
1、U
max])に亘るドメイン上のラゲール多項式であることができる。別の実施形態では、基底エネルギー関数φ
i(U)は、
図3Bに示すように、ゼロ次スプライン関数であることができる。ここで、ビンiの基底エネルギー関数は次の式(12)のように与えられる。
【0078】
【0079】
ベクトル係数θbiを決定するために、それについての投影長(後述の式(14)において、lm
(n)にハット記号が付された量に対応する)が既知である較正データ106が取得される。例えば、較正データ106は、既知のサイズ、形状、および物質タイプのファントムを使用して取得することができる。既知の投影長(これは、後述の式(14)において、lm
(n)にハット記号が付された量に対応する)が与えられれば、ベクトル量であるモデル係数θbiは、式(13)で与えられる、次の重み付き最小二乗関数L(θbi)を最小化することによって推定できる。
【0080】
【0081】
ここで、Nb
(n)はn番目の較正データのb番目のエネルギービンの計数である。また、次の式(14)が成り立つ。
【0082】
【0083】
ここでの下付き文字および上付き文字のnは、n番目の較正データを示す。例えば、cτ
(n)は、n番目の較正データの計数率であり、wb
(n)は、n番目の較正データのb番目のエネルギービンの重みである(例えば、当該重みは、n番目の較正データの信号ノイズ比(SNR)または品質/信頼性の他の指標に基づくことができる)。当該n番目の較正データは、n番目のファントムを使用して実行されるn番目のCTスキャンまたは投影測定である。重み付き最小二乗関数L(θbi)を使用すれば、ベクトル量であるモデル係数(式15において、θbiにハット記号が付された量で表される)は、以下の式(15)で与えられる最適化問題を解くことによって推定される。
【0084】
【0085】
以上、まとめると、順モデルは、入力として投影長(式14において、lm
(n)にハット記号が付された量に対応する量)を受け取り、計数率cτの関数であるパイルアップ項Qb(U,cτ)を含む被積分関数に基づいて、順モデルにおける係数(式15の左辺において、θbiにハット記号が付された量)を決定する。なお、上述の式においては、パイルアップ項Qb(U,cτ)をエネルギーに依存する基底エネルギー関数φi(U)で展開して係数fi(cb|θbi)を得ており、パイルアップ項Qb(U,cτ)のうちエネルギーに依存する基底エネルギー関数φi(U)のみがUに関する積分に係る被積分関数に含まれている。なお、順モデルにおける被積分関数は、パイルアップ項(Qb(U,cτ)の積分に係る項)及び線形スペクトル応答項(パイルアップ効果に依存しない検出器応答関数R(U,E)を含む積分)の両方を含む。線形スペクトル応答項は、弁別物質の減衰係数μm(E)に投影長lmを乗じた値に基づいて減衰される減衰X線スペクトルを含む。パイルアップ項Qb(U,cτ)は、基底関数φi(U)と、対応するパラメータ化された計数率cτの関数fi(cτ|θbi)との積を、足し合わせたものからなる。
【0086】
ステップ120では、ベクトル量であるモデル係数θbiが固定され、また最適化問題は、前記重み付き最小二乗関数を最小化する投影長lmを解くことであり、ここでは下付き文字の実数は実際の測定を示す。ここで、以下の式(16)が成り立つ。
【0087】
【0088】
ここで、上付き文字のsは、投影データ104を取得するためのスキャン中に生成された値を示し、Nb
(s)は、投影データの特定の画素のb番目のエネルギービンで検出されたX線の数であり、l={l1、…、lm}は、投影データ内の指定された画素の全ての投影長のベクトルであり、順モデルを使用して計算されるX線の数(式(17)の左辺に示されている、yb(l|θbi)において、θにハット記号が付されたもの)は、以下の式(17)で与えられる。
【0089】
【0090】
ここでのcb
(s)は計数率(指定された画素から独立であり得る)であり、Φ0
(s)(E)は 、画像化された対象物(Object:OBJ)がない場合の特定の画素に対応するスキャン中のエネルギースペクトルである。投影の長さl={l1、…、lM}は、以下の式(18)で与えられる最適化問題を解くことにより見出すことができる。
【0091】
【0092】
一般的に、目的関数を最適化する引数に繰り返し収束するために、任意の既知の方法を使用することができる。例えば、目的関数は、最急降下法、勾配ベースの方法、遺伝的アルゴリズム、シミュレーテッドアニーリング法、または目的関数を最適化する引数を探索する他の既知の方法のような最適化探索を使用して最適化することができる。更に、最適化探索で使用される引数は、スペクトル分解された計数率または物質コンポーネントの投影長である。
【0093】
上記の例では、目的関数のための重み付き最小二乗関数として使用しているが、ここで説明する方法は、目的関数のための他の関数形式を使用して実装できる。例えば、最適な投影長さl={l1、…、lM}の決定は、以下で説明する目的関数L(l)(なお、ここで、lはベクトル量である)を最適化することによって実行できる。
【0094】
一実施形態において、目的関数は、測定された計数Nb
(s)と順モデルから計算された計数(式17において、yb(l|θbi)のθにハット記号が付された量)の間の差の最小二乗、即ち、以下の式(19)で与えられる。
【0095】
【0096】
一実施形態において、目的関数は、測定された計数Nb
(s)と順モデルから計算された計数(式17において、yb(l|θbi)のθにハット記号が付された量)の間の差の重み付き最小二乗、即ち、式(20)で与えられる。
【0097】
【0098】
ここで、σmは、検出器のm番目のエネルギービンの測定の不確かさの尺度である。
【0099】
一実施形態において、目的関数はポアソンの尤度関数、即ち、次の式(21)で与えられる。
【0100】
【0101】
以上のように、目的関数は、ポアソン尤度関数、最小二乗差分関数、および重み付き最小二乗差分関数のうちいずれであってもよい。
【0102】
図4は、60個のパラメーター(即ち、θ
bi={a
bi,0,a
bi,1, a
bi,2}))を決定するのに使用された投影長l
1とl
2の7つの組み合わせのプロットが、を示しており、ここで、b={1、…5}およびi={1、…、4}である。較正データには、X線管の4つの異なる電流設定(つまり、200、400、600、および800mA)を使用して取得されたこれら7組の投影長の測定値が含まれており、60のパラメータ(式15において、θ
biにハット記号が付された量)を解くための140の測定値をもたらす(即ち、5つのエネルギービン×投影長の7つの組み合わせ×4つの現在設定は、5×7×4=140となる)。
図5および6Aを比較することで明らかなように、較正データのこれら140の測定値は、良好なモデルを生成するためには十分である。
【0103】
図5は、CT画像のための参照画像(即ち、ここで説明する方法を比較できるゴールドスタンダード)を示している。
図6Aは、ここに記載した順モデルを使用して再構成されたCT画像を示している。
図6Bは、
図5のCT画像から
図6AのCT画像を差し引いた差分画像を示している。
図6Bの差分画像に重ねられた正方形領域において、平均値は1.0ハンスフィールド単位(HU)である。これは、検出器の非線形性を補正するための関連方法と比較することができ、当該関連方法は文献[J. Dickmann, et al, “A count rate-dependent method for spectral distortion correction in photon counting CT,” Proc. SPIE 10573, Medical Imaging 2018: Physics of Medical Imaging, 1057311 (9 March 2018)]に記載されている。
【0104】
図7Aは、上記の関連方法を使用して再構成されたCT画像を示している。
図7Bは、
図5のCT画像から
図7AのCT画像を減算して得られた差分画像を示している。
図7Bの差分画像に重ねられた正方形の領域において、平均値は18.5HUである。従って、本明細書に記載の順モデルを使用すると、上記の関連方法に比べて桁違いの改善が得られる。
【0105】
なお、実施形態に係る装置について説明したが、実施形態はこれに限られない。例えば、実施形態に係る方法は、医用診断装置によって実行される方法であって、物体を透過し、光子計数検出器素子で検出された放射線の、エネルギービンごとに記録された計数を含む投影データを取得し、投影データの記録された計数と、順モデルから計算された計数とに基づいて構成された目的関数の値を最適化することにより、物質弁別された物質ごとの投影長を決定し、投影データを2以上の物質成分に分解する。ここで、順モデルは、入力として投影長を受け取り、計数率の関数であるパイルアップ項を含む被積分関数に基づいて、パルスパイルアップの影響を受けた計数を出力する。
【0106】
また、実施形態に係るプログラムは、物体を透過し、光子計数検出器素子で検出された放射線の、エネルギービンごとに記録された計数を含む投影データを取得するステップと、投影データの記録された計数と、順モデルから計算された計数とに基づいて構成された目的関数の値を最適化することにより、物質弁別された物質ごとの投影長を決定し、前記投影データを2以上の物質成分に分解するステップとを、コンピュータに実行させる。
順モデルは、入力として投影長を受け取り、計数率の関数であるパイルアップ項を含む被積分関数に基づいて、パルスパイルアップの影響を受けた計数を出力する。
【0107】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、検出器応答を補正することができる。
【0108】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0109】
970 プロセッサ
976 データ取得システム
978 メモリ
980 ネットワークコントローラ