(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】樹脂組成物および熱伝導性改善方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240422BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240422BHJP
C08K 5/20 20060101ALI20240422BHJP
C09K 5/14 20060101ALI20240422BHJP
C07C 237/20 20060101ALN20240422BHJP
C07D 295/192 20060101ALN20240422BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/013
C08K5/20
C09K5/14 E
C07C237/20
C07D295/192
(21)【出願番号】P 2020107114
(22)【出願日】2020-06-22
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】大内 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】塚田 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】立川 友晴
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 智也
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-203975(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105968340(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103937170(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、熱伝導性フィラーと、下記式(1)
【化1】
[式中、R
1は
炭化水素基を示し、kは0~8の整数を示し、
R
2a、R
2b、R
2cおよびR
2dはそれぞれ独立して水素原子または
炭化水素基を示し、
R
3aおよびR
3bはそれぞれ独立して水素原子または
炭化水素基を示し、
X
1aおよびX
1bはそれぞれ独立して下記式(X1)
【化2】
(式中、R
4およびR
5は、それぞれ独立して水素原子もしくは炭化水素基を示すか、R
4とR
5とが互いに結合して隣接する窒素原子とともに複素環を形成する。)
で表される基を示す。]
で表される化合物とを含む樹脂組成物。
【請求項2】
前記式(1)において、R
4およびR
5のうち、少なくとも一方が水素原子である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記式(1)において、R
4およびR
5のうち、一方が水素原子、他方が炭化水素基である請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱伝導性フィラーが、窒素化合物である請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂が、硬化性樹脂を含む請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記式(1)で表される化合物の割合が、前記樹脂100質量部に対して、5~15質量部であり、
前記熱伝導性フィラーの割合が、前記樹脂100質量部に対して、40~100質量部であり、
前記式(1)で表される化合物と前記熱伝導性フィラーとの割合が、前者/後者(質量比)=1/99~20/80である請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項5または6記載の樹脂組成物が硬化した硬化物。
【請求項8】
請求項1記載の式(1)で表される化合物および熱伝導性フィラーを樹脂に添加して、樹脂の熱伝導性を向上する方法。
【請求項9】
樹脂の熱伝導性を向上させる添加剤であって、請求項1記載の式(1)で表される化合物および熱伝導性フィラーを含む熱伝導性向上剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性フィラーを含む樹脂組成物および熱伝導性の改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオレン誘導体は、その独特な化学構造に基づく優れた特徴を活かし、有機半導体や光学部材などを形成するための材料などとして様々な分野に展開されており、通常、フルオレン誘導体をモノマー成分とした樹脂として利用されることが多い。米国特許第2299948号明細書(特許文献1)には、合成樹脂を調製するための中間体として、下記式で表される9,9-ジ-(β-カルバモイル-エチル)フルオレンが有用であることが記載されている。
【0003】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の実施例では、9,9-ジ-(β-シアノエチル)フルオレンと硫酸とを所定の条件下で反応させて、上記9,9-ジ-(β-カルバモイル-エチル)フルオレンが調製されている。
【0006】
しかし、特許文献1では、9,9-ジ-(β-カルバモイル-エチル)フルオレンを樹脂の添加剤として利用すること、特に、樹脂の熱伝導性を改善するための添加剤として利用することについて何ら記載も示唆もされていない。
【0007】
従って、本発明の目的は、高い熱伝導性を示す樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、特定の化学構造を有するフルオレン誘導体を熱伝導性フィラーとともに樹脂に添加すると、熱伝導性を大きく向上できることを見いだし、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の樹脂組成物は、樹脂と、熱伝導性フィラーと、下記式(1)で表される化合物(フルオレン誘導体)とを含んでいる。
【0010】
【0011】
[式中、R1は置換基を示し、kは0~8の整数を示し、
R2a、R2b、R2cおよびR2dはそれぞれ独立して水素原子または置換基を示し、
R3aおよびR3bはそれぞれ独立して水素原子または置換基を示し、
X1aおよびX1bはそれぞれ独立して下記式(X1)で表される基を示す
【0012】
【0013】
(式中、R4およびR5は、それぞれ独立して水素原子もしくは炭化水素基を示すか、R4とR5とが互いに結合して隣接する窒素原子とともに複素環を形成する)]。
【0014】
前記式(1)または(X1)において、R4およびR5のうち、少なくとも一方が水素原子であってもよい。より好ましくは、R4およびR5のうち、一方が水素原子、他方が炭化水素基であってもよい。
【0015】
前記熱伝導性フィラーは、窒素化合物であってもよい。また、前記樹脂は、硬化性樹脂を含んでいてもよい。前記式(1)で表される化合物の割合は、前記樹脂100質量部に対して、5~15質量部程度であってもよく、前記熱伝導性フィラーの割合は、前記樹脂100質量部に対して、40~100質量部程度であってもよく、前記式(1)で表される化合物と前記熱伝導性フィラーとの割合は、前者/後者(質量比)=1/99~20/80程度であってもよい。
【0016】
本発明は、前記樹脂が前記硬化性樹脂を含む樹脂組成物(硬化性組成物)において、硬化性組成物が硬化した硬化物を包含する。
【0017】
また、本発明は、前記式(1)で表される化合物および前記熱伝導性フィラーを前記樹脂に添加して、熱伝導性を向上する方法を包含する。さらに、本発明は、樹脂の熱伝導性を向上させる添加剤(熱伝導性向上剤)として、前記式(1)で表される化合物および熱伝導性フィラーを含む熱伝導性向上剤も包含する。
【0018】
なお、本発明では、従たる目的として、以下の課題を解決してもよい。
【0019】
すなわち、本発明の他の目的は、樹脂の熱伝導性を向上させる方法を提供することにある。
【0020】
本発明のさらに他の目的は、樹脂の熱伝導性を向上させる添加剤(熱伝導性向上剤)を提供することにある。
【0021】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、置換基の炭素原子の数をC1、C6、C10などで示すことがある。例えば、炭素数が1のアルキル基は「C1アルキル」で示し、炭素数が6~10のアリール基は「C6-10アリール」で示す。
【発明の効果】
【0022】
本発明の樹脂組成物は、特定の化学構造を有するフルオレン誘導体と、熱伝導性フィラーと、樹脂とを含むため、高い熱伝導性(または放熱性)を示す。また、本発明は、前記フルオレン誘導体および熱伝導性フィラーを含む熱伝導性向上剤、およびこの熱伝導性向上剤を用いて、熱伝導性を向上する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、合成例1で得られたDEAA-FLの
1H-NMRスペクトルである。
【
図2】
図2は、合成例2で得られたDMAA-FLの
1H-NMRスペクトルである。
【
図3】
図3は、合成例3で得られたNIPAM-FLの
1H-NMRスペクトルである。
【
図4】
図4は、合成例4で得られたAAD-FLの
1H-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
樹脂組成物は、樹脂と、熱伝導性フィラーと、下記式(1)で表される化合物(以下、フルオレン誘導体ともいう)とを少なくとも含んでおり、フルオレン誘導体および熱伝導性フィラーは、熱伝導性向上剤(または放熱性向上剤)として機能する。
【0025】
[フルオレン誘導体]
【0026】
【0027】
[式中、R1は置換基を示し、kは0~8の整数を示し、
R2a、R2b、R2cおよびR2dはそれぞれ独立して水素原子または置換基を示し、
R3aおよびR3bはそれぞれ独立して水素原子または置換基を示し、
X1aおよびX1bはそれぞれ独立して下記式(X1)で表される基を示す
【0028】
【0029】
(式中、R4およびR5は、それぞれ独立して水素原子もしくは炭化水素基を示すか、または、R4とR5とが互いに結合して隣接する窒素原子とともに複素環を形成する)]。
【0030】
前記式(1)において、基R1としては、反応に不活性な非反応性置換基であってもよく、例えば、シアノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子;アルキル基、アリール基などの炭化水素基などが挙げられる。前記アリール基としては、フェニル基などのC6-10アリール基などが挙げられる。好ましい基R1としては、シアノ基、ハロゲン原子、アルキル基であり、特にアルキル基が好ましい。
【0031】
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などのC1-12アルキル基、好ましくはC1-8アルキル基、特にメチル基などのC1-4アルキル基が挙げられる。
【0032】
なお、基R1の置換数kが複数(2以上)である場合、フルオレン環を構成する2つのベンゼン環のうち、同一のベンゼン環に置換する2以上の基R1の種類は、同一または異なっていてもよく、異なるベンゼン環に置換する2以上の基R1の種類は同一または異なっていてもよい。また、基R1の結合位置(置換位置)は、フルオレン環の1~8位である限り特に制限されず、例えば、フルオレン環の2位、7位、2,7位などが挙げられる。
【0033】
置換数kは、例えば0~6程度の整数であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、0~4、0~3、0~2の整数であり、好ましくは0または1、特に0である。なお、フルオレン環を構成する2つのベンゼン環において、基R1のそれぞれの置換数は、互いに異なっていてもよいが、通常、同一である。
【0034】
R2a、R2b、R2cおよびR2dで表される置換基としては、反応に不活性な非反応性置換基であってもよく、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基などが挙げられる。
【0035】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-10アルキル基が挙げられ、好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基、さらに好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基である。
【0036】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC5-10シクロアルキル基が挙げられる。
【0037】
アリール基としては、例えば、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基などのC6-12アリール基が挙げられる。アルキルフェニル基としては、例えば、メチルフェニル基(またはトリル基)、ジメチルフェニル基(またはキシリル基)などのモノないしトリC1-4アルキル-フェニル基が挙げられる。
【0038】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基が挙げられる。
【0039】
R2a、R2b、R2cおよびR2dで表される好ましい置換基としてはアルキル基が挙げられ、好ましいアルキル基としては、以下段階的に、C1-6アルキル基、C1-5アルキル基、C1-4アルキル基、C1-3アルキル基であり、さらに好ましくはC1-2アルキル基であり、特にメチル基である。
【0040】
好ましいR2a、R2b、R2c、R2dとしては、水素原子または炭化水素基であり、より好ましくは水素原子またはアルキル基であり、さらに好ましくは水素原子である。なお、少なくともR2cおよびR2dが水素原子であるのが好ましく、このような態様における好ましいR2aおよびR2bは、水素原子または炭化水素基であり、さらに好ましくは水素原子またはアルキル基であり、特に水素原子(すなわち、R2a、R2b、R2cおよびR2dがいずれも水素原子)であるのが好ましい。
【0041】
また、R2a、R2b、R2c、R2dの種類は、互いに異なっていてもよいが、R2aおよびR2bが同一であり、R2cおよびR2dが同一であるのが好ましい。
【0042】
R3aおよびR3bで表される置換基としては、反応に不活性な非反応性置換基であってもよく、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基などが挙げられる。これらの炭化水素基としては、例えば、前記R2aおよびR2bで表される置換基として例示した炭化水素基と同様の基が挙げられる。
【0043】
R3aおよびR3bで表される置換基のうち、好ましい置換基はアルキル基であり、好ましいアルキル基としては、以下段階的に、C1-6アルキル基、C1-5アルキル基、C1-4アルキル基、C1-3アルキル基であり、さらに好ましくはC1-2アルキル基であり、特にメチル基である。
【0044】
また、好ましいR3aおよびR3bとしては、水素原子またはアルキル基であり、さらに好ましくは水素原子またはメチル基であり、特に水素原子が好ましい。
【0045】
X1aおよびX1b(または式(X1))において、R4およびR5で表される炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、これらを複数組み合わせた基などが挙げられる。
【0046】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-12アルキル基などが挙げられる。
【0047】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC5-10シクロアルキル基などが挙げられる。
【0048】
アリール基としては、例えば、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基などのC6-12アリール基が挙げられる。アルキルフェニル基としては、例えば、メチルフェニル基(またはトリル基)、ジメチルフェニル基(またはキシリル基)などのモノないしトリC1-4アルキル-フェニル基が挙げられる。
【0049】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基が挙げられる。
【0050】
R4およびR5で表される炭化水素基のうち、好ましくは直鎖状または分岐鎖状アルキル基であり、さらに好ましくは、以下段階的に、直鎖状または分岐鎖状C1-8アルキル基、直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基、直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基であり、なかでも、メチル基、エチル基、イソプロピル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-3アルキル基が好ましく、樹脂に対する分散性(または相溶性)がより優れる点からは、直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキル基が好ましく、さらに好ましくは直鎖状または分岐鎖状C2-3アルキル基である。R4およびR5の双方が炭化水素基である場合、R4およびR5の種類は互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。
【0051】
また、R4とR5とが互いに結合して、隣接する窒素原子[すなわち、R4、R5およびカルボニル基と結合してアミド基(アミド結合またはカルボン酸アミド)を形成する窒素原子]とともに形成してもよい複素環(N含有複素環)は、ヘテロ原子として前記窒素原子を含んでいればよく、必要に応じて、前記窒素原子に加えて、さらに1以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。さらに含んでいてもよいヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子などが挙げられ、これらから選択された少なくとも1つのヘテロ原子を含んでいてもよく、少なくとも酸素原子を含むのが好ましい。前記複素環を構成するヘテロ原子の数は、例えば1~3個程度であってもよく、好ましくは1~2個であり、さらに好ましくは2個である。前記複素環は、例えば5~7員環(5~7員複素環)であることが多く、好ましくは5または6員環であり、さらに好ましくは6員環である。また、前記複素環は、芳香族性であってもよいが、非芳香族性であるのが好ましい。
【0052】
代表的な複素環としては、例えば、ピロリジン環、ピペリジン環、ホモピペリジン環(アゼパン環、ヘキサヒドロアゼピン環またはヘキサメチレンイミン環)などの1または複数の窒素原子を含む複素環、モルホリン環などの窒素原子と異種のヘテロ原子とを含む複素環などが挙げられ、好ましくはモルホリン環などの窒素原子と異種のヘテロ原子、特に酸素原子とを含む非芳香族性の5~7員複素環である。
【0053】
式(X1)において、窒素原子に隣接するR4およびR5は、双方が水素原子であってもよく;一方が水素原子で他方が炭化水素基であってもよく;R4およびR5の双方が炭化水素基であるか、または互いに結合して複素環を形成してもよい。すなわち、基[-C(=O)-X1a]、[-C(=O)-X1b]が、無置換アミド基(第一級アミド基)であってもよく;一置換アミド基(またはN-置換アミド基)であってもよく;二置換アミド基(またはN,N-二置換アミド基)であってもよい。
【0054】
なお、基[-C(=O)-X1a]、[-C(=O)-X1b]が二置換アミド基である場合、R4およびR5の双方が脂肪族炭化水素基であるのが好ましい。また、X1aおよびX1bの種類は、互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。
【0055】
熱伝導性を有効に向上できる観点から、R4およびR5のうち、少なくとも一方が水素原子(すなわち、基[-C(=O)-X1a]、[-C(=O)-X1b]が、無置換アミド基または一置換アミド基)であるのが好ましく、さらに好ましくは、R4およびR5のうち、一方が水素原子、他方が炭化水素基(すなわち、基[-C(=O)-X1a]、[-C(=O)-X1b]が、一置換アミド基)である。また、基[-C(=O)-X1a]、[-C(=O)-X1b]が一置換アミド基である場合、R4またはR5のいずれか一方で表される炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基などの脂肪族炭化水素基であるのが好ましく、より好ましくはアルキル基であり、さらに好ましくはメチル基、エチル基、イソプロピル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基であり、なかでも直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキル基が好ましく、特にイソプロピル基などの直鎖状または分岐鎖状C3アルキル基が好ましい。
【0056】
フルオレン誘導体を添加することにより熱伝導性が向上する理由は定かではないが、無置換アミド基、一置換アミド基などの基[-C(=O)-X1a]、[-C(=O)-X1b]の極性と、無機化合物などで形成される熱伝導性フィラーの極性との関係性が、樹脂組成物中に熱伝導性フィラーを適度に分散させるのに適しているためか、熱伝導パス(または経路)を効率よく形成できるものと推測される。
【0057】
前記式(1)で表される代表的な化合物としては、例えば、式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5の双方が水素原子である化合物、具体的には、例えば、9,9-ビス(2-カルバモイルエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルバモイルプロピル)フルオレンなどの9,9-ビス(2-カルバモイル)C2-3アルキル」フルオレンなど;式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5のうちの一方が水素原子で他方がアルキル基である化合物、具体的には、例えば、9,9-ビス[2-(N-メチルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N-メチルカルバモイル)プロピル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N-エチルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N-イソプロピルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N-イソプロピルカルバモイル)プロピル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N-ブチルカルバモイル)エチル]フルオレンなどの9,9-ビス[2-(N-C1-6アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンなど;式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5がアルキル基である化合物、具体的には、例えば、9,9-ビス[2-(N,N-ジメチルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N,N-ジメチルカルバモイル)プロピル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N,N-ジエチルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N,N-ジエチルカルバモイル)プロピル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N,N-ジイソプロピルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N,N-ジブチルカルバモイル)エチル]フルオレンなどの9,9-ビス[2-(N,N-ジC1-6アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンなど;式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4とR5とが互いに結合して、アミド基を構成する窒素原子に加えて、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選択された少なくとも1つのヘテロ原子をさらに含んでいてもよい5~7員複素環を形成する化合物、具体的には、例えば、9,9-ビス[2-(モルホリン-4-イル-カルボニル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(モルホリン-4-イル-カルボニル)プロピル]フルオレン、9,9-ビス[2-(ピロリジン-1-イル-カルボニル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(ピペリジン-1-イル-カルボニル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(ホモピペリジン-1-イル-カルボニル)エチル]フルオレンなどの9,9-ビス[2-(N含有複素環-N-イル-カルボニル)C2-3アルキル]フルオレンなどが挙げられる。
【0058】
これらのフルオレン誘導体は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのフルオレン誘導体のうち、式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5の双方が水素原子である化合物(無置換アミド化合物);式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5のうち、一方が水素原子で他方がアルキル基である化合物(N-アルキル置換化合物);式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5の双方がアルキル基である化合物(N,N-ジアルキル置換化合物)が好ましい。このようなフルオレン誘導体のうち、熱伝導性を有効に向上できる点から、無置換アミド化合物、N-アルキル置換化合物が好ましく、N-アルキル置換化合物がさらに好ましい。
【0059】
好ましい無置換アミド化合物としては、9,9-ビス(2-カルバモイルエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルバモイルプロピル)フルオレンなどの9,9-ビス(2-カルバモイルC2-3アルキル)フルオレンが挙げられる。
【0060】
好ましいN-アルキル置換化合物としては、9,9-ビス[2-(N-C1-6アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンが挙げられ、さらに好ましくは9,9-ビス[2-(N-C2-5アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンが挙げられ、なかでも、9,9-ビス[2-(N-イソプロピルカルバモイル)エチル]フルオレンなどの9,9-ビス[2-(N-C2-4アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンが好ましい。
【0061】
[フルオレン誘導体の製造方法]
前記式(1)で表される化合物の製造方法は特に制限されないが、例えば、下記式(2)で表される化合物と、下記式(3a)および(3b)で表される化合物とを反応(マイケル付加反応)させることによって調製してもよい。
【0062】
【0063】
(式中、R1およびkは、それぞれ好ましい態様を含めて前記式(1)に同じ)。
【0064】
【0065】
(式中、R2a、R2b、R2cおよびR2d、R3aおよびR3b、X1aおよびX1bは、それぞれ好ましい態様を含めて前記式(1)に同じ)。
【0066】
前記式(2)で表される代表的な化合物としては、9H-フルオレンなどが挙げられる。
【0067】
また、前記式(3a)および(3b)で表される化合物において、R2a、R2b、R2cおよびR2dの種類に応じて、E体またはZ体のいずれであってもよい。
【0068】
前記式(3a)および(3b)で表される代表的な化合物としては、例えば、前記式(1)で表される化合物として具体的に例示した化合物に対応して、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5の双方が水素原子である化合物、具体的には(メタ)アクリルアミドなど;R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5のうち一方が水素原子で他方がアルキル基である化合物、具体的には、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミドなどのN-C1-6アルキル-(メタ)アクリルアミドなど;R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5の双方がアルキル基である化合物、具体的には、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドなどのN,N-ジC1-6アルキル-(メタ)アクリルアミド;R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5が互いに結合し、アミド基を構成する窒素原子に加えて、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選択された少なくとも1つのヘテロ原子をさらに含んでいてもよい5~7員複素環を形成する化合物、具体的には、N-(メタ)アクリロイルモルホリンなどのN-(メタ)アクリロイルN含有複素環などが挙げられる。なお、前記式(3a)および(3b)で表される化合物は、同一の化合物であるのが好ましい。
【0069】
前記式(2)で表される化合物の量と、前記式(3a)および(3b)で表される化合物の合計量との割合は、例えば、前者/後者(モル比)=1/2~1/10程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、1/2~1/5、1/2.01~1/3、1/2.03~1/2.1である。
【0070】
反応は、通常、塩基の存在下で行ってもよい。塩基としては、例えば、金属水酸化物、金属炭酸塩または炭酸水素塩、金属アルコキシドなどが挙げられる。
【0071】
金属水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物などが挙げられる。
【0072】
金属炭酸塩または炭酸水素塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩または炭酸水素塩などが挙げられる。
【0073】
金属アルコキシドとしては、例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドなどが挙げられる。
【0074】
これらの塩基は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの塩基のうち、金属水酸化物が好ましく、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物が更に好ましい。塩基の割合は、前記式(2)で表される化合物1モルに対して、例えば0.001~0.1モル程度であってもよく、好ましくは0.01~0.05モルである。
【0075】
反応は、相間移動触媒の存在下または非存在下で行ってもよい。相間移動触媒としては、例えば、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)、トリオクチルメチルアンモニウムクロリドなどのテトラアルキルアンモニウムハライドなどが挙げられる。これらの相間移動触媒は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの相間移動触媒のうち、TBABが好ましい。相間移動触媒の割合は、前記式(2)で表される化合物1モルに対して、例えば0.001~0.1モル程度であってもよく、好ましくは0.01~0.05モルである。
【0076】
反応は、反応に不活性な溶媒の非存在下または存在下で行ってもよい。溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノールなどのアルコール類;環状エーテル、鎖状エーテルなどのエーテル類;ジメチルスルホキシド(DMSO)などのスルホキシド類;脂肪族炭化水素類、脂環族炭化水素類、芳香族炭化水素類などの炭化水素類などが挙げられる。
【0077】
環状エーテルとしては、例えば、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。鎖状エーテルとしては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのジアルキルエーテル、グリコールエーテル類などが挙げられる。前記グリコールエーテル類としては、例えば、メチルセロソルブ、メチルカルビトールなどの(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル、ジメトキシエタンなどの(ポリ)アルキレングリコールジアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0078】
脂肪族炭化水素類としては、例えば、ヘキサン、ドデカンなどが挙げられる。脂環族炭化水素類としては、シクロヘキサンなどが挙げられる。芳香族炭化水素類としては、例えば、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
【0079】
これらの溶媒は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの溶媒のうち、水と、DMSOなどのスルホキシド類と、トルエンなどの芳香族炭化水素類との混合溶媒が好ましい。なお、水は前述の塩基の水溶液の形態で添加してもよい。溶媒の使用量は反応の進行を妨げない限り特に制限されず、前記式(2)、(3a)および(3b)で表される化合物の総量100gに対して、例えば10~500mL程度であってもよく、好ましくは50~200mLである。
【0080】
反応は、不活性ガス雰囲気下、例えば、窒素;ヘリウム、アルゴンなどの希ガスなどの雰囲気下で行ってもよい。反応温度は、例えば50~200℃、好ましくは80~100℃である。反応時間は特に制限されず、例えば0.5~10時間程度であってもよい。
【0081】
反応終了後、必要に応じて、反応混合物を、慣用の分離精製方法、例えば、中和、洗浄、抽出、ろ過、デカンテーション、濃縮、脱水、乾燥、晶析、クロマトグラフィー、これらを組み合わせた方法などにより分離精製してもよい。
【0082】
(フルオレン誘導体の特性)
上述のようにして得られるフルオレン誘導体は、結晶または非晶の形態であってもよく、結晶の形態である場合、融点は、基[-C(=O)-X1a]、[-C(=O)-X1b]が無置換アミド基である場合、例えば200~300℃程度であってもよく、好ましくは230~280℃、さらに好ましくは240~270℃であり、基[-C(=O)-X1a]、[-C(=O)-X1b]が一置換アミド基である場合、例えば150~300℃程度であってもよく、好ましくは200~270℃、さらに好ましくは220~250℃であり、基[-C(=O)-X1a]、[-C(=O)-X1b]が二置換アミド基である場合、例えば50~200℃程度であってもよく、好ましくは70~180℃、さらに好ましくは80~160℃である。
【0083】
また、フルオレン誘導体の5%質量減少温度は、例えば200~400℃程度であってもよく、好ましくは、以下段階的に、230~380℃、250~360℃、280~350℃、300~340℃、310~330℃である。このように、フルオレン誘導体は高い耐熱性を備えているため、高温環境下であっても、熱伝導性向上剤として有効に利用できる。
【0084】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、融点、5%質量減少温度は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0085】
[熱伝導性フィラー]
高い熱伝導性を示す熱伝導性フィラーとしては、通常、絶縁性の高い無機化合物のフィラーであることが多く、例えば、炭化ケイ素、炭化フッ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステン、ダイヤモンド、カーボンナノチューブ、グラファイトなどの炭素化合物;窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化炭素、窒化チタン、窒化ガリウムなどの窒素化合物(または窒化物);酸化ケイ素(またはシリカ)、酸化アルミニウム(またはアルミナ)、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ベリリウムなどの酸素化合物(または金属酸化物);リン化ホウ素、リン化アルミニウム、リン化ガリウムなどのリン化合物などが挙げられる。
【0086】
これらの熱伝導性フィラーは、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの熱伝導性フィラーのうち、熱伝導性に優れる点から、窒化ホウ素や窒化アルミニウムなどの窒素化合物が好ましく、窒化ホウ素が特に好ましい。窒化ホウ素は、グラファイトと類似の結晶構造を有する六方晶窒化ホウ素(h-BN)であってもよく、ダイヤモンド構造を有する立方晶窒化ホウ素(c-BN)であってもよいが、六方晶系がより好ましい。
【0087】
熱伝導性フィラーの形状は、例えば、粒子状(または粉末状)、板状(または鱗片状)、繊維状、不定形状などが挙げられる。これらの形状のうち、板状(鱗片状)フィラーが好ましい。これらの粒子の形状は、一次粒子の形状であってもよく、一次粒子が凝集した二次粒子の形状であってもよい。
【0088】
熱伝導性フィラーの平均粒子径D50は、例えば0.05~50μm程度の範囲から適宜選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、1~50μm、10~45μm、20~40μm、25~35μmである。また、熱伝導性フィラーの平均一次粒子径は、例えば0.05~50μm程度の範囲から適宜選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、1~50μm、10~45μm、20~40μm、25~35μmである。なお、本明細書および特許請求の範囲において、平均粒子径D50および平均一次粒子径は、体積基準などであってもよい。熱伝導性フィラーが板状である場合、前記平均粒径は、板面の平均径(板面における長軸と短軸との平均値)であってもよい。また、前記板面の平均径と厚みとのアスペクト比(板面の平均径/厚み)は、例えば2~100程度であってもよい。
【0089】
熱伝導性フィラーのBET比表面積(単位:m2/g)は、例えば0.1~30程度であってもよく、好ましくは0.5~10、さらに好ましくは1~5である。
【0090】
熱伝導性フィラーのかさ密度(単位:g/cm3)は、例えば0.2~1程度であってもよく、好ましくは0.3~0.8、さらに好ましくは0.5~0.7である。
【0091】
[樹脂]
樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂(熱または光硬化性樹脂)などが挙げられる。これらの樹脂は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0092】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂(PC)、ポリアミド系樹脂(PA)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリエーテルケトン系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、ポリスルホン系樹脂、セルロース誘導体、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、熱可塑性エラストマー(TPE)などが挙げられる。
【0093】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などの鎖状オレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂などが挙げられる。
【0094】
スチレン系樹脂としては、例えば、一般用ポリスチレン(GPPS)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)などのポリスチレン(PS)、スチレン系共重合体などが挙げられる。スチレン系共重合体としては、例えば、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体(MS樹脂)、スチレン-アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、ゴム成分含有スチレン系樹脂またはゴムグラフトスチレン系共重合体などが挙げられる。ゴム成分含有スチレン系樹脂またはゴムグラフトスチレン系共重合体としては、例えば、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、AXS樹脂、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS樹脂)などが挙げられる。AXS樹脂としては、例えば、アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル-塩素化ポリエチレン-スチレン共重合体(ACS樹脂)、アクリロニトリル-(エチレン-プロピレン-ジエンゴム)-スチレン共重合体(AES樹脂)などが挙げられる。
【0095】
(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体などの(メタ)アクリル系単量体の単独または共重合体などが挙げられる。
【0096】
酢酸ビニル系樹脂としては、例えば、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセタールなどが挙げられる。ポリビニルアセタールとしては、例えば、ポリビニルホルマール(PVF)、ポリビニルブチラール(PVB)などが挙げられる。
【0097】
塩化ビニル系樹脂としては、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂などが挙げられる。塩化ビニル樹脂としては、例えば、塩化ビニル単独重合体(PVC);塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体などの塩化ビニル共重合体などが挙げられる。塩化ビニリデン樹脂としては、例えば、塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体などの塩化ビニリデン共重合体などが挙げられる。
【0098】
フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)などが挙げられる。
【0099】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリアルキレンアリレート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、液晶性ポリエステル(LCP)などが挙げられる。ポリアルキレンアリレート系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ1,4-シクロヘキシルジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリエチレンナフタレートなどが挙げられる。
【0100】
ポリカーボネート系樹脂(PC)としては、例えば、ビスフェノールA型ポリカーボネート系樹脂などのビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂などが挙げられる。
【0101】
ポリアミド系樹脂(PA)としては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド66などの脂肪族ポリアミド樹脂、ポリm-フェニレンイソフタルアミド、ポリp-フェニレンテレフタルアミドなどの芳香族ポリアミド樹脂またはアラミド樹脂などが挙げられる。
【0102】
ポリエーテルケトン系樹脂としては、例えば、ポリエーテルケトン樹脂(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)などが挙げられる。
【0103】
ポリケトン樹脂としては、例えば、脂肪族ポリケトン樹脂などが挙げられる。
【0104】
ポリスルホン系樹脂としては、例えば、ポリスルホン樹脂(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)などが挙げられる。
【0105】
セルロース誘導体としては、例えば、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどのセルロースエステル、エチルセルロースなどのセルロースエーテルなどが挙げられる。
【0106】
熱可塑性ポリイミド樹脂としては、例えば、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミドなどが挙げられる。
【0107】
熱可塑性エラストマー(TPE)としては、例えば、ポリスチレン系TPE、ポリオレフィン系TPE(TPO)、ポリジエン系TPE、塩素系TPE、フッ素系TPE、ポリウレタン系TPE(TPU)、ポリエステル系TPE(TPEE)、ポリアミド系TPE(TPA)などが挙げられる。
【0108】
これらの熱可塑性樹脂は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0109】
硬化性樹脂としては、例えば、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂などのフェノール樹脂;ユリア樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂などのアミノ樹脂;フラン樹脂;不飽和ポリエステル樹脂;ジアリルフタレート樹脂;ビニルエステル樹脂(またはエポキシ(メタ)アクリレート樹脂);多官能(メタ)アクリレート系樹脂;エポキシ樹脂;ウレタン樹脂;ビスマレイミド系樹脂などのポリイミド樹脂;シリコーン樹脂などが挙げられる。
【0110】
これらの硬化性樹脂は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0111】
樹脂組成物は、これらの樹脂のうち、硬化性樹脂を少なくとも含む硬化性組成物であるのが好ましい。硬化性組成物において、硬化性樹脂の割合は、樹脂全体に対して、例えば1質量%程度以上の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、10質量%以上、30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、特に実質的に100質量%であるのが好ましい。
【0112】
また、硬化性樹脂のなかでも、エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂としては、2以上のエポキシ基を有する化合物である限り特に制限されず、慣用のエポキシ樹脂が利用してもよく、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、環状脂肪族型エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、含臭素エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0113】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、ビまたはビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂;1,6-ビス(グリシジルオキシ)ナフタレンなどの縮合多環式芳香族炭化水素変性エポキシ樹脂;テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタンなどのテトラキスフェノール型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0114】
グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、ジグリシジルフタレートなどの芳香族ジカルボン酸のジグリシジルエステル;ジグリシジルテトラヒドロフタレート、ジグリシジルヘキサヒドロフタレートなどの芳香族ジカルボン酸の水添物のジグリシジルエステルなどが挙げられる。
【0115】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジル-m-アミノフェノール、テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサンなどが挙げられる。
【0116】
環状脂肪族型エポキシ樹脂としては、例えば、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-8,9-エポキシ-2,4-ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、4-ビニルシクロヘキセンジオキシドなどが挙げられる。
【0117】
複素環式エポキシ樹脂としては、例えば、トリグリシジルイソシアネートなどのイソシアヌレート型エポキシ樹脂、ジグリシジルヒダントインなどのヒダントイン型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0118】
含臭素エポキシ樹脂としては、例えば、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とテトラブロモビスフェノールAとの反応物、臭素化フェノールノボラック樹脂とエピクロロヒドリンとの反応物、ジグリシジルトリブロモアニリンなどが挙げられる。
【0119】
これらのエポキシ樹脂は、単量体であってもよく、二量体、三量体などの多量体であってもよい。また、これらのエポキシ樹脂は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのエポキシ樹脂のうち、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましく、ビまたはビスフェノール型エポキシ樹脂がさらに好ましい。
【0120】
ビまたはビスフェノール型エポキシ樹脂を形成するビまたはビスフェノール類としては、例えば、ビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、ビス(ヒドロキシアリール)-アリールアルカン類、ビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、ビス(ヒドロキシアリール)エーテル類、ビス(ヒドロキシアリール)ケトン類、ビス(ヒドロキシアリール)スルフィド類、ビス(ヒドロキシアリール)スルホキシド類、ビス(ヒドロキシアリール)スルホン類、9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類などのビスフェノール類;ビフェノール類;およびこれらのアルキレンオキシド(アルキレンカーボネートまたはハロアルカノール)付加体などが挙げられる。
【0121】
ビス(ヒドロキシアリール)アルカン類としては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールAD)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン(ビスフェノールB)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタンなどのビス(ヒドロキシフェニル)C1-6アルカン;2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン(ビスフェノールG)などのビス(ヒドロキシ-C1-6アルキル-フェニル)C1-6アルカン;2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)プロパンなどのビス(ヒドロキシ-フェニルフェニル)C1-6アルカンなどが挙げられる。
【0122】
ビス(ヒドロキシアリール)-アリールアルカン類としては、例えば、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(ビスフェノールAP)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-ジフェニルメタン(ビスフェノールBP)などのビス(ヒドロキシフェニル)-モノまたはジフェニル-C1-6アルカンなどが挙げられる。
【0123】
ビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類としては、例えば、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)などのビス(ヒドロキシフェニル)C5-10シクロアルカン;1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(ビスフェノールTMC)などのビス(ヒドロキシフェニル)-モノないしトリC1-6アルキル-C5-10シクロアルカンなどが挙げられる。
【0124】
ビス(ヒドロキシアリール)エーテル類としては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテルなどのビス(ヒドロキシフェニル)エーテルなどが挙げられる。
【0125】
ビス(ヒドロキシアリール)ケトン類としては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトンなどのビス(ヒドロキシフェニル)ケトンなどが挙げられる。
【0126】
ビス(ヒドロキシアリール)スルフィド類としては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィドなどのビス(ヒドロキシフェニル)スルフィドなどが挙げられる。
【0127】
ビス(ヒドロキシアリール)スルホキシド類としては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシドなどのビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシドなどが挙げられる。
【0128】
ビス(ヒドロキシアリール)スルホン類としては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)などのビス(ヒドロキシフェニル)スルホンなどが挙げられる。
【0129】
9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類としては、例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン;9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシ-モノまたはジC1-6アルキル-フェニル)フルオレン;9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシ-モノまたはジC6-10アリールフェニル)フルオレン;9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(5-ヒドロキシ-1-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレンなどが挙げられる。
【0130】
ビフェノール類としては、例えば、o,o’-ビフェノール、m,m’-ビフェノール、p,p’-ビフェノールなどが挙げられる。
【0131】
ビスフェノール類またはビフェノール類のアルキレンオキシド(アルキレンカーボネートまたはハロアルカノール)付加体としては、例えば、エチレンオキシド付加体などのC2-4アルキレンオキシド付加体などが挙げられる。アルキレンオキシド(アルキレンカーボネートまたはハロアルカノール)の付加モル数としては、ビスフェノール類またはビフェノール類1モルに対して、例えば2~20モル程度であってもよい。
【0132】
ビまたはビスフェノール型エポキシ樹脂は、これらのビまたはビスフェノール類を単独でまたは2種以上組み合わせて形成されていてもよい。これらのビまたはビスフェノール類のうち、ビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が好ましく、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールAなどのビス(ヒドロキシフェニル)C1-4アルカンがさらに好ましく、ビスフェノールAが特に好ましい。
【0133】
代表的なビまたはビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂などのビス(ヒドロキシアリール)アルカン類(またはそのアルキレンオキシド付加体)のジグリシジルエーテル;ビスフェノールS型エポキシ樹脂などのビス(ヒドロキシアリール)スルホン類(またはそのアルキレンオキシド付加体)のジグリシジルエーテル;9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有するエポキシ樹脂;p,p’-ビフェノールなどのビフェノール類(またはそのアルキレンオキシド付加体)のジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0134】
9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有するエポキシ樹脂としては、例えば、9,9-ビス(4-グリシジルオキシ-フェニル)フルオレン、9,9-ビス(6-グリシジルオキシ-2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(5-グリシジルオキシ-1-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(グリシジルオキシアリール)フルオレン;9,9-ビス[4-(2-グリシジルオキシエトキシ)-フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-グリシジルオキシプロポキシ)-フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-(2-グリシジルオキシエトキシ)エトキシ)-フェニル]フルオレン、9,9-ビス[6-(2-グリシジルオキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレンなどの9,9-ビス[グリシジルオキシ(ポリ)アルコキシアリール]フルオレンなどが挙げられる。なお、本明細書および特許請求の範囲において、「(ポリ)アルコキシ」とは、アルコキシ基およびポリアルコキシ基の双方を含む意味に用いる。
【0135】
これらのビまたはビスフェノール型エポキシ樹脂は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのビまたはビスフェノール型エポキシ樹脂のうち、ビスフェノールA型エポキシ樹脂などのビス(ヒドロキシアリール)アルカン類のジグリシジルエーテルが好ましい。
【0136】
[他の成分]
なお、樹脂組成物は、必要に応じて、他の成分、例えば、硬化剤、硬化促進剤、溶媒などを含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
【0137】
(硬化剤)
樹脂が硬化性樹脂を含む場合、硬化性樹脂を硬化するための硬化剤を含んでいてもよい。硬化剤は、硬化性樹脂の種類に応じて適宜選択でき、硬化性樹脂がフェノール樹脂である場合、例えば、ヘキサメチレンテトラミン(ヘキサミン)、パラホルムアルデヒド、1,3,5-トリオキサンなどのホルムアルデヒド誘導体、ホルマリンなどが挙げられる。
【0138】
また、硬化性樹脂が、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂(エポキシ(メタ)アクリレート樹脂)、多官能性(メタ)アクリレート樹脂などの重合性不飽和結合を有する樹脂である場合、例えば、熱重合開始剤(熱ラジカル発生剤)、光重合開始剤(光ラジカル発生剤)などの重合開始剤が挙げられる。
【0139】
熱重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物、アゾ化合物などが挙げられる。有機過酸化物としては、例えば、ジ-t-ブチルパーオキシドなどのジアルキルパーオキシド類;ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシドなどのジアシルパーオキシド類;t-ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、過酢酸t-ブチルなどの過酸(又は過酸エステル)類;ケトンパーオキシド類;パーオキシカーボネート類;パーオキシケタール類が挙げられる。アゾ化合物としては、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)などのアゾニトリル化合物、アゾアミド化合物、アゾアミジン化合物などが挙げられる。
【0140】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン類、具体的には、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテルなどのベンゾインアルキルエーテル類など;アセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンなどのアセトフェノン類;2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノアミノプロパノン-1などのアミノアセトフェノン類;アントラキノン、2-メチルアントラキノンなどのアントラキノン類;2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-クロロチオキサントンなどのチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなどのケタール類;ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;キサントン類などが挙げられる。また、光重合開始剤は、光増感剤と組み合わせてもよく、光増感剤として代表的には、第3級アミン類、例えば、トリアルキルアミン;トリエタノールアミンなどのトリアルカノールアミン;ジアルキルアミノ安息香酸アルキルエステル、具体的には、p-(ジメチルアミノ)安息香酸エチルなどのN,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルや、p-(ジメチルアミノ)安息香酸アミルなどのN,N-ジメチルアミノ安息香酸アミルなど;4,4-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンなどのビス(ジアルキルアミノ)ベンゾフェノン;4-(ジメチルアミノ)ベンゾフェノンなどのジアルキルアミノベンゾフェノンなどの慣用の光増感剤が挙げられる。
【0141】
硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合、例えば、アミン系硬化剤、ポリアミノアミド系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール樹脂系硬化剤などの慣用のエポキシ樹脂用硬化剤が挙げられる。
【0142】
アミン系硬化剤としては、通常、第1級アミンが好ましく、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどの鎖状脂肪族ポリアミン;単環式、多環式、架橋環式またはスピロ環式脂肪族ポリアミンなどの環状脂肪族アミン;キシリレンジアミンなどの芳香脂肪族ポリアミン;メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホンなどの芳香族アミンなどが挙げられる。なお、単環式脂肪族ポリアミンとしては、例えば、メンセンジアミン、イソホロンジアミンなどが挙げられ、多環式脂肪族ポリアミンとしては、例えば、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタンなどが挙げられ、架橋環式脂肪族ポリアミンとしては、例えば、ノルボルナンジアミンなどが挙げられ、スピロ環式脂肪族ポリアミンとしては、例えば、3,9-ビス(3-アミノプロピル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンなどが挙げられる。
【0143】
ポリアミノアミド系硬化剤としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンヘキサミンなどのポリエチレンポリアミン類と、ダイマー酸と、必要に応じて脂肪酸との縮合物などが挙げられる。
【0144】
酸無水物系硬化剤としては、例えば、ドデセニル無水コハク酸、ポリアジピン酸無水物などの脂肪族系酸無水物;テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルハイミック酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物などの脂環族系酸無水物;無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物などの芳香族系酸無水物などが挙げられる。
【0145】
フェノール樹脂系硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂などのノボラック型フェノール樹脂;レゾール型フェノール樹脂;フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂などのアラルキル型フェノ-ル樹脂;エポキシ化またはブチル化した変性ノボラック型フェノール樹脂;エポキシ化したノボラック型フェノール樹脂などのエポキシ変性フェノール樹脂;ブチル化(またはブチルエーテル化)したノボラック型フェノール樹脂などのブチル変性フェノ-ル樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂;パラキシレン変性フェノール樹脂;トリフェノールアルカン型フェノール樹脂などの多官能型フェノール樹脂などが挙げられる。
【0146】
これらの硬化剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの硬化剤のうち、エポキシ樹脂の硬化剤が好ましく、フェノールノボラック樹脂などのフェノール樹脂系硬化剤がさらに好ましい。
【0147】
硬化剤の割合は、硬化性樹脂や硬化剤の種類に応じて適宜選択してもよい。例えば、エポキシ樹脂の硬化剤である場合、硬化性樹脂であるエポキシ樹脂のエポキシ当量に応じて、硬化剤の割合を選択してもよく、具体的には、エポキシ樹脂のエポキシ基1モルに対して、硬化剤の反応性官能基または活性水素の割合が、例えば0.5~1.5モル、好ましくは0.8~1.2モル、さらに好ましくはほぼ等モルとなるように硬化剤を配合してもよい。
【0148】
また、硬化剤の割合は、硬化性樹脂100質量部に対して、例えば10~100質量部、好ましくは30~80質量部、さらに好ましくは50~60質量部である。硬化性樹脂がエポキシ樹脂を含む場合、エポキシ樹脂のエポキシ当量と硬化剤の活性水素当量とが、例えば、前者/後者(当量比)=1/0.8~1/1.2程度であってもよく、好ましくは1/0.9~1/1.1、さらに好ましくは1/0.95~1/1.05、特に実質的に1/1となるように硬化剤を添加するのが好ましい。
【0149】
(硬化促進剤)
樹脂が硬化性樹脂を含む場合、硬化を促進するための硬化促進剤を含んでいてもよい。硬化促進剤も硬化性樹脂の種類に応じて適宜選択してもよい。代表的な硬化促進剤としては、エポキシ樹脂の硬化促進剤、例えば、アミン類;アルカリ金属又はアルカリ土類金属アルコキシド;ホスフィン類;ダイマー酸ポリアミドなどのアミド化合物;3フッ化ホウ素・エチルアミン錯体などのルイス酸錯体化合物;ポリサルファイド、メルカプタン化合物(チオール化合物)など)の硫黄化合物;フェニルジクロロボランなどのホウ素化合物;有機チタン化合物、有機アルミニウム化合物などの縮合性有機金属化合物;1,3-ビス(フェニルアミノカルボニルオキシ)ベンゼンなどのウレタン類;マンガン錯体;スルホン酸エステルなどが挙げられる。
【0150】
アミン類としては、第3級アミン類、イミダゾール類およびその誘導体などが挙げられる。第3級アミン類としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(DBN)などが挙げられる。イミダゾール類としては、2-メチル-4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾールなどのアルキルイミダゾール;2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシイミダゾールなどのアリールイミダゾール;2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[1,2-a]ベンズイミダゾールなどのベンズイミダゾール;2,4-ジシアノ-6-[2-メチルイミダゾ-1-イル]エチルトリアジンなどが挙げられる。誘導体としては、例えば、フェノール塩、フェノールノボラック塩、炭酸塩、ギ酸塩などの塩であってもよい。
【0151】
ホスフィン類としては、有機ホスフィン化合物、例えば、第1ホスフィン類、第2ホスフィン類、第3ホスフィン類などが挙げられる。第1ホスフィン類としては、例えば、エチルホスフィン、ブチルホスフィンなどのアルキルホスフィン;フェニルホスフィンなどのアリールホスフィンなどが挙げられる。第2ホスフィン類としては、例えば、ジメチルホスフィン、ジプロピルホスフィン、メチルエチルホスフィンなどのジアルキルホスフィン;ジフェニルホスフィンなどのジアリールホスフィンなどが挙げられる。第3ホスフィン類としては、例えば、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィンなどのトリアルキルホスフィン;トリフェニルホスフィンなどのトリアリールホスフィンなどが挙げられる。
【0152】
スルホン酸エステルとしては、p-トルエンスルホン酸ネオペンチルエステルなどのC1-10アルキルエステル、この化合物に対応するベンゼンスルホン酸エステル、ナフタレンスルホン酸エステルなどのアレーンスルホン酸アルキルエステル、p-トルエンスルホン酸シクロヘキシルエステルなどのC3-10シクロアルキルエステル、この化合物に対応するベンゼンスルホン酸エステル、ナフタレンスルホン酸エステルなどのアレーンスルホン酸シクロアルキルエステルなどが挙げられる。
【0153】
これらの硬化促進剤は、単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。これらの硬化促進剤のうち、第3ホスフィン類などのホスフィン類が好ましく、さらに好ましくはトリフェニルホスフィンなどのトリアリールホスフィンである。
【0154】
硬化促進剤の割合は、硬化性樹脂100質量部に対して、例えば0.01~30質量部、好ましくは0.05~20質量部、さらに好ましくは0.1~10質量部、特に0.5~5質量部である。
【0155】
(溶媒)
本発明の樹脂組成物は、溶媒(溶剤または分散媒)を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。溶媒としては、樹脂などの樹脂組成物の構成成分を溶解または分散可能な限り特に制限されず、例えば、炭化水素類、具体的には、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素など;塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノールなどのアルコール類;エチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのグリコール類(または(ポリ)アルキレングリコール);グリコールエーテル類、具体的には、エチレングリコールモノメチルエーテル(またはメチルセロソルブ)、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ類、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(またはメチルカルビトール)、エチルカルビトールなどのカルビトール類、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテルなどの(ポリ)アルキレングリコール(モノまたはジ)アルキルエーテルなど;グリコールエーテルアセテート類、具体的には、メチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどの(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートなど;エーテル類、具体的には、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのジアルキルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテルなど;ケトン類、具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの鎖状ケトン類、シクロヘキサノンなどの環状ケトン類など;エステル類、具体的には、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類;アセトニトリルなどのニトリル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類などが挙げられる。
【0156】
これらの溶媒は単独で使用してもよく、2種以上組み合わせて混合溶媒として使用することもできる。溶媒を含む場合、樹脂組成物の固形分濃度は特に制限されず、所望の流動性を示すよう調整してもよく、例えば0.1~70質量%程度であってもよい。
【0157】
(添加剤)
樹脂組成物は、さらに、慣用の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、慣用の添加剤、例えば、シリカ、タルク、マイカなどの充填剤または補強剤;染顔料などの着色剤;リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤などの難燃剤;難燃助剤;可塑剤;滑剤;酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などの安定剤;離型剤;導電剤;帯電防止剤;界面活性剤;分散剤;流動調整剤;レベリング剤;消泡剤;表面改質剤;低応力化剤;炭素材;抗菌剤;防腐剤などが挙げられる。これらの添加剤は単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。これらの添加剤の割合は、樹脂組成物(固形分)全体に対して、例えば10質量%以下、好ましくは3質量%以下である。また、前記割合は、例えば0.01~5質量%程度、好ましくは0.1~1質量%であってもよい。
【0158】
[樹脂組成物における好ましい割合]
前記式(1)で表されるフルオレン誘導体の割合は、前記樹脂100質量部に対して、例えば1~20質量部程度の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、3~18質量部、5~15質量部、6~12質量部であり、さらに好ましくは7~10質量部である。また、前記式(1)で表されるフルオレン誘導体の割合は、樹脂組成物中の熱伝導性フィラーを除く成分の総量に対して、例えば1~20質量%、好ましくは2~10質量%、さらに好ましくは3~8質量%、特に4~6質量%である。なお、前記「樹脂組成物中の熱伝導性フィラーを除く成分の総量」は、例えば、樹脂、前記フルオレン誘導体、および硬化剤、硬化促進剤、慣用の添加剤などの前述の添加剤の総量、すなわち、樹脂組成物から熱伝導性フィラーおよび溶媒を除いた成分(または固形分)の総量であってもよい。前記式(1)で表されるフルオレン誘導体の割合が少なすぎると、熱伝導性を有効に向上できないおそれがあり、逆に多すぎると、硬化物の機械的特性などの物性が低下するおそれがある。
【0159】
前記熱伝導性フィラーの割合は、前記樹脂100質量部に対して、例えば10~500質量部程度の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、30~300質量部、40~100質量部、50~90質量部、60~80質量部であり、さらに好ましくは65~75質量部である。また、熱伝導性フィラーの割合は、樹脂組成物全体に対して、例えば1~70質量%、好ましくは10~50質量%、さらに好ましくは20~40質量%、特に25~35質量%である。なお、前記「樹脂組成物全体」は、例えば、樹脂組成物から溶媒を除いた成分(または固形分)の総量であってもよい。熱伝導性フィラーの割合が少なすぎると、熱伝導性を有効に向上できないおそれがあり、逆に多すぎると、硬化物の機械的特性などの物性、例えば、柔軟性(靭性)などが低下するおそれがある。
【0160】
前記式(1)で表されるフルオレン誘導体と前記熱伝導性フィラーとの割合は、例えば、前者/後者(質量比)=0.1/99~30/70程度の範囲から選択してもよく、1/99~20/80、5/95~15/85であり、さらに好ましくは7/93~13/87、特に8/92~12/88である。前記式(1)で表されるフルオレン誘導体の割合が少なすぎると、熱伝導性を有効に向上できないおそれがあり、熱伝導性フィラーの割合が少なすぎても、熱伝導性を有効に向上できないおそれがある。なお、前記割合は、フルオレン誘導体および熱伝導性フィラーを含む熱伝導性向上剤(または放熱性向上剤)における割合であってもよい。
【0161】
上記のような割合で、フルオレン誘導体、熱伝導性フィラーおよび樹脂を組み合わせて含むと、樹脂(または樹脂組成物、特に硬化性組成物)中における熱伝導性フィラーの分散状態がフルオレン誘導体によって調整され、熱伝導パス(または経路)が効率よく形成されるためか(熱伝導パスの形成に適切な分散状態となるためか)、熱伝導性を有効に向上できる。
【0162】
[樹脂組成物の製造方法]
本発明の樹脂組成物は、前記樹脂と、前記熱伝導性フィラーと、前記式(1)で表されるフルオレン誘導体と、必要に応じて前述の他の成分とを、混合機(または混練機)または攪拌機で混合して分散させる混合工程を含む方法により調製できる。なお、混合(または混練)は、乾式混合、溶融混練などの慣用の方法であってもよく、得られる樹脂組成物はペレットなどの形態であってもよい。
【0163】
混合機(または混練機)または攪拌機としては、例えば、ロール(ミキシングロール)、ボールミル、タンブルミキサー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、ニーダー、バンバリーミキサーなどが挙げられる。これらのうち、ミキシングロールで混合するのが好ましい。
【0164】
ミキシングロールで混合(混練)する場合、ロール回転数は、例えば10~50rpm程度であってもよく、好ましくは15~30rpm、さらに好ましくは20~25rpmである。2つのロール間のロール回転数は異なっている場合が多く、フロントとバックとのロール回転数の差は、例えば1~10rpm程度であってもよく、好ましくは1.5~5rpm、さらに好ましくは2~3rpmである。
【0165】
混合(混練)温度は、例えば10~200℃、好ましくは50~150℃、さらに好ましくは80~120℃であり、混合(混練)時間は、例えば1~10分程度であってもよい。また、樹脂が硬化性樹脂を含む場合、硬化性樹脂が完全には硬化しない温度および時間であればよい。
【0166】
樹脂組成物は熱伝導性に優れた成形体を形成できる。成形体の形状は、特に限定されず、用途に応じて選択でき、例えば、線状、糸状などの一次元的構造、フィルム状、シート状、板状などの二次元的構造、ブロック状、棒状、管状またはチューブ状などの中空状などの三次元的構造などであってもよい。
【0167】
成形体は、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、キャスティング成形法などの慣用の成形法を利用して製造してもよい。
【0168】
[硬化物]
(硬化物の製造方法)
樹脂組成物が硬化性組成物である場合(樹脂が硬化性樹脂を含む場合)、前記硬化性組成物は、活性エネルギー(または活性エネルギー線)を付与して硬化処理することで、高い熱伝導性を示す硬化物を調製できる。前記活性エネルギーは、熱エネルギーおよび/または光エネルギーであってもよい。
【0169】
熱エネルギー(加熱)により硬化処理を行う場合、加熱温度としては、硬化性樹脂の種類などに応じて適宜選択でき、例えば80~300℃、好ましくは120~250℃、さらに好ましくは150~200℃、特に170~190℃である。加熱時間は、例えば1分~12時間程度の範囲から選択してもよく、好ましくは5~60分、さらに好ましくは10~20分である。
【0170】
また、紫外線、X線などの光エネルギーを利用して光照射する場合、光照射エネルギー量は、用途に応じて適宜選択でき、例えば50~10000mJ/cm2、好ましくは100~5000mJ/cm2、さらに好ましくは500~3000mJ/cm2である。
【0171】
硬化処理は、プレス機などにより加圧(プレス成形)しながら行ってもよい。成形圧力は、例えば0.1~15MPa、好ましくは0.5~10MPaである。また、プレス成形後に後硬化(またはポストベーク)してもよく、後硬化における加熱温度としては、硬化性樹脂の種類などに応じて適宜選択でき、例えば80~300℃、好ましくは120~250℃、さらに好ましくは150~200℃、特に170~190℃である。後硬化における加熱時間は、例えば0.5~24時間程度の範囲から選択してもよく、好ましくは1~12時間、さらに好ましくは2~6時間である。
【0172】
硬化物の形状は、特に制限されず、ブロック状、棒状、管状、複雑形状などの三次元構造の硬化物であってもよく、フィルム状、シート状、板状などの二次元構造の硬化物(または硬化膜)、線状または繊維状などの一次元構造の硬化物であってもよい。
【0173】
硬化物は、その形状に応じて、前記硬化性組成物を成形または所定の型内に注型(注入)した後、硬化処理(加熱および/または光照射)して製造してもよい。また、二次元構造の硬化物の場合、例えば、前記硬化性組成物を基材または基板、例えば、アルミニウムなどの金属;酸化チタン、ガラス、石英などの無機材料またはセラミックス;環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂など有機材料またはプラスチック;木材などの多孔質体などに塗布してフィルム状の塗膜(または薄膜)を形成した後、硬化処理を施すことにより製造してもよい。
【0174】
(樹脂組成物または硬化物の特性)
このようにして得られる樹脂組成物または硬化物は、高い熱伝導性を備えている。そのため、樹脂組成物または硬化物の熱伝導率は、例えば0.3~3W/(m・K)、好ましくは0.5~1.5W/(m・K)、さらに好ましくは0.9~1.2W/(m・K)、特に0.95~1.1W/(m・K)である。なお、本明細書および特許請求の範囲において、熱伝導率は、ASTM E1530に準じて、円板熱流計法により温度23℃で測定でき、具体的には後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【実施例】
【0175】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下に、評価方法、用いた試薬の詳細などについて示す。
【0176】
[評価方法]
(HPLC)
HPLC(高性能または高速液体クロマトグラフ)装置として(株)島津製作所製「LCMS―2020」を用い、カラムとして(株)島津製作所製「KINTEX XB-C18」を用いて、移動相:アセトニトリル/水(体積比)=50/50から95/5まで10分間かけて変化させ、その後95/5で5分間保持の条件で測定した。
【0177】
(1H-NMR)
試料を、内部標準物質としてテトラメチルシランを含む重溶媒(CDCl3)に溶解し、核磁気共鳴装置(BRUKER社製「AVANCE III HD」)を用いて、1H-NMRスペクトルを測定した。
【0178】
(融点)
BUCHI社製「Melting point M-565」を使用して、温度50℃から昇温速度0.5℃/分の条件で測定した。
【0179】
(5%質量減少温度)
熱重量測定-示差熱分析装置(TG-DTA)(パーキンエルマー社製「TGA-4000」)を使用して、窒素雰囲気下、測定温度範囲50~400℃、昇温速度10℃/分の条件下で、試料の質量が5質量%減少した温度を測定した。
【0180】
(熱伝導率)
ASTM E1530に準じて、試験片形状:円板(Φ50mm×厚み約4mm)、測定温度:23℃、測定数:n=1の条件で、TAインスツルメンツ社製「DTC-300型」を使用し、円板熱流計法で測定した。
【0181】
[試薬など]
(原料)
N,N-ジエチルアクリルアミド:KJケミカルズ(株)製「DEAA(登録商標)」
N,N-ジメチルアクリルアミド:KJケミカルズ(株)製「DMAA(登録商標)」
N-イソプロピルアクリルアミド:KJケミカルズ(株)製「NIPAM(登録商標)」
N-アクリロイルモルホリン:KJケミカルズ(株)製「ACMO(登録商標)」
アクリルアミド:富士フイルム和光純薬(株)製
(その他)
DMSO:ジメチルスルホキシド、関東化学(株)製
トルエン:関東化学(株)製
TBAB:テトラブチルアンモニウムブロミド、東京化成工業(株)製
KOH:水酸化カリウム、関東化学(株)製
イソプロパノール:関東化学(株)製
(硬化性樹脂)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂:三菱ケミカル(株)製「jER828」
(硬化剤)
ノボラックフェノール樹脂:群栄化学工業(株)製「PSM-4261」
(硬化促進剤)
TPP:トリフェニルホスフィン、関東化学(株)製
(熱伝導性フィラー)
窒化ホウ素:Dandong Chemical Engineering Institute Co.社製「六方晶窒化ホウ素(H-BN) グレードHSL」、鱗片形状品、平均粒子径D50:30μm、平均一次粒子径:30μm、比表面積(BET):2m2/g、かさ密度:0.6g/cm3。
【0182】
[合成例1]
磁気撹拌子および三方コックを装着した反応器に9H-フルオレン(19.4g;0.117mol)、DMSO(30mL)、トルエン(30mL)、TBAB(0.6g;0.0019mol)、N,N-ジエチルアクリルアミド(30.5g;0.24mol)を仕込んで窒素置換した後、65℃まで昇温し、完全に溶解したことを確認した。得られた溶液に、48質量%KOH水溶液(0.56g;KOH換算で0.0048mol(4.8mmol))を投入し、90℃まで昇温し、2時間加熱撹拌した。HPLCにて、9H-フルオレンの消失を確認した時点で反応終了とした。得られた反応液を50℃まで冷却し、10質量%HCl水溶液(0.9g;HCl換算で0.0025mol(2.5mmol))およびイオン交換水(17mL)を加えて攪拌して中和処理した後、トルエン(18.1g)、および飽和食塩水(36.1g×3回)を加えて抽出操作を行った。得られた抽出液を0℃まで冷却しながら一晩静置したところ、白色の結晶物が析出したため、結晶物を濾別し、イオン交換水(37.3mL)、およびイソプロパノール(10mL)にて洗浄を行ったところ、下記式(1-1)で表される目的物(DEAA-FL、30.2g;収率61.4%)が得られた。
【0183】
得られたDEAA-FLの融点は87~89℃であり、5%質量減少温度は294℃であった。また、得られたDEAA-FLの
1H-NMRの結果を以下および
図1に示す。
【0184】
【0185】
1H-NMR(CDCl3、300MHz):δ(ppm)=7.69-7.72(2H、m)、7.27-7.43(6H、m)、3.18(4H、q)、2.79(4H、q)、2.42-2.48(4H、m)、1.47-1.53(4H、m)、0.96(6H、t)、0.76(6H、t)。
【0186】
[合成例2]
磁気撹拌子および三方コックを装着した反応器に9H-フルオレン(19.4g;0.117mol)、DMSO(30mL)、トルエン(30mL)、TBAB(0.6g;0.0019mol)、N,N-ジメチルアクリルアミド(23.8g;0.24mol)を仕込んで窒素置換した後、65℃まで昇温し、完全に溶解したことを確認した。得られた溶液に、48質量%KOH水溶液(0.56g;KOH換算で0.0048mol(4.8mmol))を投入し、90℃まで昇温し、2時間加熱撹拌した。HPLCにて、9H-フルオレンの消失を確認した時点で反応終了とした。得られた反応液を50℃まで冷却し、10質量%HCl水溶液(0.9g;HCl換算で0.0025mol(2.5mmol))およびイオン交換水(17mL)を加え、攪拌したところ、徐々に白色の結晶が析出し、白色の懸濁液となった。懸濁液を濾別し、熱水(77.7mL)およびイソプロパノール(15mL)にて洗浄を行ったところ、下記式(1-2)で表される目的物(DMAA-FL、30.0g;収率82.4%)が得られた。
【0187】
得られたDMAA-FLの融点は158~159℃であり、5%質量減少温度は318℃であった。また、得られたDMAA-FLの
1H-NMRの結果を以下および
図2に示す。
【0188】
【0189】
1H-NMR(CDCl3、300MHz):δ(ppm)=7.70-7.71(2H、m)、7.27-7.41(6H、m)、2.74(6H、s)、2.51(6H、s)、2.42-2.47(4H、m)、1.48-1.54(4H、m)。
【0190】
[合成例3]
磁気撹拌子および三方コックを装着した反応器に9H-フルオレン(19.4g;0.117mol)、DMSO(30mL)、トルエン(30mL)、TBAB(0.6g;0.0019mol)、N-イソプロピルアクリルアミド(27.2g;0.24mol)を仕込んで窒素置換した後、65℃まで昇温し、完全に溶解したことを確認した。得られた溶液に、48質量%KOH水溶液(0.56g;KOH換算で0.0048mol(4.8mmol))を投入し、90℃まで昇温し、2時間加熱撹拌した。HPLCにて、9H-フルオレンの消失を確認した時点で反応終了とした。得られた反応液を50℃まで冷却し、10質量%HCl水溶液(0.9g;HCl換算で0.0025mol(2.5mmol))およびイオン交換水(17mL)を加え、攪拌したところ、徐々に白色の結晶が析出し、白色の懸濁液となった。懸濁液を濾別し、熱水(77.7mL)およびイソプロパノール(15mL)にて洗浄を行ったところ、下記式(1-3)で表される目的物(NIPAM-FL、32.8g;収率71.4%)が得られた。
【0191】
得られたNIPAM-FLの融点は235~237℃であり、5%質量減少温度は257℃であった。また、得られたNIPAM-FLの
1H-NMRの結果を以下および
図3に示す。
【0192】
【0193】
1H-NMR(CDCl3、300MHz):δ(ppm)=7.68-7.71(2H、m)、7.32-7.42(6H、m)、4.73(2H、m)3.84(2H、m)、2.42(4H、m)、1.33(4H、m)、0.97(12H、d)。
【0194】
[合成例4]
磁気撹拌子および三方コックを装着した反応器に9H-フルオレン(19.4g;0.117mol)、DMSO(30mL)、トルエン(30mL)、TBAB(0.6g;0.0019mol)、アクリルアミド(17.0g;0.24mol)を仕込んで窒素置換した後、65℃まで昇温し、完全に溶解したことを確認した。得られた溶液に、48質量%KOH水溶液(0.56g;KOH換算で0.0048mol(4.8mmol))を投入し、90℃まで昇温し、2時間加熱撹拌した。HPLCにて、9H-フルオレンの消失を確認した時点で反応終了とした。得られた反応液を50℃まで冷却し、10質量%HCl水溶液(0.9g;HCl換算で0.0025mol(2.5mmol))およびイオン交換水(17mL)を加え、攪拌したところ、徐々に白色の結晶が析出し、白色の懸濁液となった。懸濁液を濾別し、熱水(77.7mL)およびイソプロパノール(15mL)にて洗浄を行ったところ、下記式(1-4)で表される目的物(AAD-FL、31.8g;収率88.4%)が得られた。
【0195】
得られたAAD-FLの融点は254~259℃であり、5%質量減少温度は320℃であった。また、得られたAAD-FLの
1H-NMRの結果を以下および
図4に示す。
【0196】
【0197】
1H-NMR(DMSO-d6、300MHz):δ(ppm)=7.82-7.84(2H、m)、7.47-7.49(2H、m)、7.35-7.40(4H、m)、6.97(2H、s)、6.52(2H、s)、2.24(4H、m)、1.26(4H、m)。
【0198】
[合成例5]
磁気撹拌子および三方コックを装着した反応器に9H-フルオレン(19.4g;0.117mol)、DMSO(30mL)、トルエン(30mL)、TBAB(0.6g;0.0019mol)、N-アクリロイルモルホリン(33.8g;0.24mol)を仕込んで窒素置換した後、65℃まで昇温し、完全に溶解したことを確認した。得られた溶液に、48質量%KOH水溶液(0.56g;KOH換算で0.0048mol(4.8mmol))を投入し、90℃まで昇温し、2時間加熱撹拌した。HPLCにて、9H-フルオレンの消失を確認した時点で反応終了とした。得られた反応液を50℃まで冷却し、10質量%HCl水溶液(0.9g;HCl換算で0.0025mol(2.5mmol))およびイオン交換水(17mL)を加え、攪拌したところ、徐々に白色の結晶が析出し、白色の懸濁液となった。懸濁液を濾別し、熱水(77.7mL)およびイソプロパノール(15mL)にて洗浄を行ったところ、下記式(1-5)で表される目的物(ACMO-FL)が得られた。
【0199】
【0200】
[実施例1~2、比較例1]
表1に記載の割合で、硬化性樹脂としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂、硬化剤としてのノボラックフェノール樹脂、硬化促進剤としてのTPP、合成例で得られたフルオレン誘導体および窒化ホウ素を混練して硬化性組成物を調製した(比較例1ではフルオレン誘導体を添加することなく混練した)。すなわち、実施例および比較例の硬化性組成物において、フルオレン誘導体の割合は、窒化ホウ素を除いた成分(硬化性樹脂、硬化剤、硬化促進剤およびフルオレン誘導体)の総量に対して5質量%に;窒化ホウ素の割合は、硬化性組成物全体に対して30質量%に;エポキシ樹脂と硬化剤とは、エポキシ当量比1:1となるように;硬化促進剤は、エポキシ樹脂100質量部に対して2質量部となるようにそれぞれ調製した。
【0201】
また、混練は、(株)ダイハン製「6インチミキシングロール DY6-15」を用いて、温度:100℃、時間:5分、ロール回転数:(フロント)23.0rpm/(バック)20.7rpm、仕込み量:約100g/1バッチの条件で行った。
【0202】
得られた硬化性組成物を、離型剤(ダイキン工業(株)製「ダイフリーGF500」)を塗布したΦ50mm押込み金型に入れ、(有)東邦プレス製作所製「26トン油圧式成型機」を用いて、成形温度:180℃、成形時間:15分、成形圧力:約5MPaの条件でプレス成形した。得られた成形体を、熱風循環式オーブン中、180℃、4時間の条件で後硬化(ポストベーク)して試験片(硬化物)を調製した。得られた試験片を用いて熱伝導率を測定した結果を表1に示す。
【0203】
【0204】
表1の結果から明らかなように、実施例では比較例に比べて熱伝導率が大きく向上した。特に、NIPAM-FLを添加した実施例2ではより顕著に向上した。
【産業上の利用可能性】
【0205】
本発明の樹脂組成物は、熱伝導性に優れるため、様々な用途に利用してもよく、例えば、放熱シート(または放熱フィルム)などの放熱材料、電気用積層板、絶縁ワニスなどの電気・電子分野の成形体、層間絶縁膜、異方性導電膜などの絶縁膜、透明プラスチック基板、光導波路などの光学材料、樹脂改質剤、封止剤、接着剤、フィルム、基地局アンテナ用材料などに利用できる。