IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ローランド株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-効果装置および効果処理プログラム 図1
  • 特許-効果装置および効果処理プログラム 図2
  • 特許-効果装置および効果処理プログラム 図3
  • 特許-効果装置および効果処理プログラム 図4
  • 特許-効果装置および効果処理プログラム 図5
  • 特許-効果装置および効果処理プログラム 図6
  • 特許-効果装置および効果処理プログラム 図7
  • 特許-効果装置および効果処理プログラム 図8
  • 特許-効果装置および効果処理プログラム 図9
  • 特許-効果装置および効果処理プログラム 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】効果装置および効果処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   G10H 1/12 20060101AFI20240422BHJP
   G10H 1/043 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
G10H1/12
G10H1/043 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020110180
(22)【出願日】2020-06-26
(65)【公開番号】P2022007288
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000116068
【氏名又は名称】ローランド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】冨田 真司
【審査官】大野 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-208173(JP,A)
【文献】特開2005-037760(JP,A)
【文献】特表2013-520697(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0294459(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00-1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
楽音信号を入力する入力手段と、
その入力手段で入力された楽音信号を所定の周波数帯域毎に通過させる通過手段と、
その通過手段で通過させた周波数帯域毎の楽音信号の出力レベルを検出するレベル検出手段と、
前記通過手段で通過させた周波数帯域毎に、その周波数帯域よりも低い周波数帯域の前記レベル検出手段で検出された出力レベルの総和である個別総和を算出する個別総和算出手段と、
その個別総和算出手段で算出された周波数帯域毎の個別総和の中で、個別総和が所定値より小さい周波数帯域に該当する楽音信号を前記通過手段で通過させた周波数帯域毎の楽音信号の中から抽出することで、前記入力手段で入力された楽音信号における低い音の楽音信号を抽出する抽出手段と、
その抽出手段で抽出された楽音信号に、その楽音信号を1オクターブ低い音高とした楽音信号に変換する音響効果を付加して出力する付加手段とを備えていることを特徴とする効果装置。
【請求項2】
前記周波数帯域は、音高毎に設定されることを特徴とする請求項1記載の効果装置。
【請求項3】
前記個別総和算出手段で算出された周波数帯域毎の個別総和と、該当する周波数帯域の前記レベル検出手段で検出された出力レベルとの比である総和レベル比を算出する総和レベル比算出手段を備え、
前記抽出手段は、前記総和レベル比算出手段で算出された周波数帯域毎の総和レベル比に応じて、前記通過手段で通過させた周波数帯域毎の楽音信号の中から前記入力手段で入力された楽音信号における低い音の楽音信号を抽出することを特徴とする請求項1又は2に記載の効果装置。
【請求項4】
前記総和レベル比算出手段は、前記個別総和算出手段で算出された周波数帯域毎の個別総和を、該当する周波数帯域の前記レベル検出手段で検出された出力レベルでそれぞれ除算することで総和レベル比を算出するものであり、
前記抽出手段は、前記総和レベル比算出手段で算出された総和レベル比が所定以下である周波数帯域の楽音信号を前記通過手段で通過させた周波数帯域毎の楽音信号の中から抽出することで、前記入力手段で入力された楽音信号における低い音の楽音信号を抽出することを特徴とする請求項3記載の効果装置。
【請求項5】
前記通過手段で通過させた周波数帯域毎の楽音信号に、該当する周波数帯域の前記総和レベル比算出手段で算出された総和レベル比が小さいほど楽音信号の出力レベルを大きくする係数である出力係数を適用することで、その楽音信号の出力レベルを調整するレベル調整手段を備え、
前記抽出手段は、そのレベル調整手段で出力レベルが調整された全ての周波数帯域の楽音信号を加算することで、前記入力手段で入力された楽音信号における低い音の楽音信号を抽出することを特徴とする請求項4記載の効果装置。
【請求項6】
前記出力係数には、
前記総和レベル比が第1所定比よりも小さい場合に、前記通過手段で通過させた楽音信号をそのままの出力レベルとする係数が設定され、
前記総和レベル比が第2所定比よりも大きい場合に、前記通過手段で通過させた楽音信号を遮断する係数が設定され、
前記総和レベル比が第1所定比から第2所定比の間の場合は、前記総和レベル比が大きいほど前記通過手段で通過させた楽音信号の出力レベルを低くする係数が設定されることを特徴とする請求項5記載の効果装置。
【請求項7】
前記入力手段で入力される楽音信号が出力される楽器を選択する選択手段を備え、
前記第1所定比および/または前記第2所定比を、その選択手段で選択された楽器に応じて変更することを特徴とする請求項6記載の効果装置。
【請求項8】
コンピュータに、入力された楽音信号に所定の音響効果を適用する効果処理を実行させる効果処理プログラムであって、
楽音信号を入力する入力ステップと、
その入力ステップで入力された楽音信号を所定の周波数帯域毎に通過させる通過ステップと、
その通過ステップで通過させた周波数帯域毎の楽音信号の出力レベルを検出するレベル検出ステップと、
前記通過ステップで通過させた周波数帯域毎に、その周波数帯域よりも低い周波数帯域の前記レベル検出ステップで検出された出力レベルの総和である個別総和を算出する個別総和算出ステップと、
その個別総和算出ステップで算出された周波数帯域毎の個別総和の中で、個別総和が所定値より小さい周波数帯域に該当する楽音信号を前記通過ステップで通過させた周波数帯域毎の楽音信号の中から抽出することで、前記入力ステップで入力された楽音信号における低い音の楽音信号を抽出する抽出ステップと、
その抽出ステップで抽出された楽音信号に、その楽音信号を1オクターブ低い音高とした楽音信号に変換する音響効果を付加して出力する付加ステップと、
を前記コンピュータに実行させることを特徴とする効果処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、効果装置および効果処理プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、入力された楽音信号を1オクターブ低い音高の楽音信号に変換し、入力された楽音信号と加算して出力する効果装置が開示されている。演奏者は、かかる効果装置に1の音高の楽音信号を入力するだけで、その楽音信号を1オクターブ低い音高の楽音信号と入力された元の楽音信号とによる1オクターブを隔てた2の音高の音を容易に出力できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-37760号公報(例えば、段落0020-0023、図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の効果装置に和音による楽音信号を入力すると、和音を構成する各音は1オクターブ低い音高とした楽音信号に変換される。ここで特許文献1の効果装置では、入力された楽音信号に含まれる音の高低に依らず、一律に入力された楽音信号を1オクターブ低い音高の楽音信号に変換する。
【0005】
従って、1オクターブ低下させた楽音信号による和音のうち低い音の音高は、入力された楽音信号による和音のいずれにも重複しない一方で、1オクターブ低下させた楽音信号による和音のうち高い音の音高は、入力された楽音信号による和音のいずれかと重複することがある。かかる場合に、入力された楽音信号と1オクターブ低下させた楽音信号とを加算すると、同一の音高の音が2種類混合されることになり、その音高の音が滲んでしまうという問題点があった。
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、入力された楽音信号における低い音による楽音信号を抽出し、所定の音響効果を付加できる効果装置および効果処理プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために本発明の効果装置は、楽音信号を入力する入力手段と、その入力手段で入力された楽音信号を所定の周波数帯域毎に通過させる通過手段と、その通過手段で通過させた周波数帯域毎の楽音信号の出力レベルを検出するレベル検出手段と、前記通過手段で通過させた周波数帯域毎に、その周波数帯域よりも低い周波数帯域の前記レベル検出手段で検出された出力レベルの総和である個別総和を算出する個別総和算出手段と、その個別総和算出手段で算出された周波数帯域毎の個別総和の中で、個別総和が所定値より小さい周波数帯域に該当する楽音信号を前記通過手段で通過させた周波数帯域毎の楽音信号の中から抽出することで、前記入力手段で入力された楽音信号における低い音の楽音信号を抽出する抽出手段と、その抽出手段で抽出された楽音信号に、その楽音信号を1オクターブ低い音高とした楽音信号に変換する音響効果を付加して出力する付加手段とを備えている。
【0008】
また本発明の効果処理プログラムは、コンピュータに、入力された楽音信号に所定の音響効果を適用する効果処理を実行させるプログラムであって、楽音信号を入力する入力ステップと、その入力ステップで入力された楽音信号を所定の周波数帯域毎に通過させる通過ステップと、その通過ステップで通過させた周波数帯域毎の楽音信号の出力レベルを検出するレベル検出ステップと、前記通過ステップで通過させた周波数帯域毎に、その周波数帯域よりも低い周波数帯域の前記レベル検出ステップで検出された出力レベルの総和である個別総和を算出する個別総和算出ステップと、その個別総和算出ステップで算出された周波数帯域毎の個別総和の中で、個別総和が所定値より小さい周波数帯域に該当する楽音信号を前記通過ステップで通過させた周波数帯域毎の楽音信号の中から抽出することで、前記入力ステップで入力された楽音信号における低い音の楽音信号を抽出する抽出ステップと、その抽出ステップで抽出された楽音信号に、その楽音信号を1オクターブ低い音高とした楽音信号に変換する音響効果を付加して出力する付加ステップと、を前記コンピュータに実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)は、効果装置の使用形態を表す図であり、(b)は、効果装置の上面図である。
図2】効果装置の機能ブロック図である。
図3】効果装置の電気的構成を示すブロック図である。
図4】DSPの機能ブロック図である。
図5】総和レベル比と出力係数との関係を表すグラフである。
図6】(a)は、効果装置に入力される楽音信号の周波数スペクトルを表す図であり、(b)は、効果装置から出力される楽音信号の周波数スペクトルを表す図である。
図7】変形例におけるDSPの機能ブロック図である。
図8】別の変形例におけるDSPの機能ブロック図である。
図9】変形例におけるメイン処理のフローチャートである。
図10】変形例における総和レベル比算出処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、好ましい実施例について、添付図面を参照して説明する。図1を参照して、本実施形態の効果装置1の概要を説明する。図1(a)は、効果装置1の使用形態を表す図であり、図1(b)は、効果装置1の上面図である。効果装置1は、エレキギターGやエレキベース等の電気楽器から入力された楽音信号Sin(図4参照)と、その入力された楽音信号Sinの音高を1オクターブ低下させる音響効果を付加した楽音信号とを加算した楽音信号である楽音信号Sout(図4参照)を出力する装置(エフェクタ)である。以下、楽音信号Sinに1オクターブ低下させる音響効果を付加することを「オクターブ処理」という。
【0011】
効果装置1には、エレキギターGやエレキベース等の電気楽器が接続され該電気楽器からの楽音信号Sinが入力される入力端子2と、その入力端子2から入力された楽音信号Sinにオクターブ処理を付加した楽音信号Soutが出力される出力端子3と、ペダルスイッチ4と、出力端子3から出力される楽音信号Soutの出力レベル等が設定される操作子5と、入力端子2に接続された電気楽器の種類を選択する切替スイッチ6とが設けられる。
【0012】
ペダルスイッチ4は、入力端子2から入力された楽音信号Sinに音響効果を付加する/付加しないを切り替えるスイッチである。演奏者Hの足で踏まれる等してペダルスイッチ4が押し込まれた場合に、楽音信号Sinにオクターブ処理が付加され、演奏者Hがペダルスイッチ4から離す等してペダルスイッチ4への押し込みが解除された場合に、楽音信号Sinへのオクターブ処理の付加が停止される。
【0013】
本実施形態の効果装置1では、入力された楽音信号Sinにおける音高毎の楽音信号にオクターブ処理が付加され、オクターブ処理が付加された楽音信号のうち、低い音高の楽音信号の出力レベルが高く設定され、高い音高の楽音信号の出力レベルが低く設定される。これによってオクターブ処理が付加された楽音信号のうち低い音高の楽音信号が抽出され、抽出された楽音信号と、入力された楽音信号Sinと加算され、楽音信号Soutとして出力される。出力された楽音信号Soutは、スピーカSに出力されて楽音として出力(放音)される他、ディレイ等の他の音響処理を行う他の効果処理に出力される。
【0014】
この際、エレキギターG等のコード演奏によって和音による楽音信号Sinが入力端子2に入力された場合、その入力された和音による楽音信号Sinと、その楽音信号Sinにおける低い音高に該当する楽音信号にオクターブ処理した楽音信号とが、加算されて出力される。従って、オクターブ処理された楽音信号による音と入力された楽音信号Sinによる和音とに、同一の音高の音が含まれるのを抑制できる。
【0015】
これにより、出力端子3から出力される楽音信号Soutによる楽音は、入力端子2に入力された楽音信号Sinによる和音と、その楽音信号Sinをオクターブ処理した楽音信号による和音とが加算(混合)されながらも、滲みや歪みが抑制された音とすることができる。
【0016】
次に図2を参照して、効果装置1の機能を説明する。図2は、効果装置1の機能ブロック図である。図2に示すように、効果装置1は、入力手段200と、通過手段210と、レベル検出手段220と、個別総和算出手段230と、抽出手段240と、付加手段250とを有する。
【0017】
入力手段200は、楽音信号を入力する手段であり、入力端子2と図3で後述のADC11とで実現される。通過手段210は、入力手段200で入力された楽音信号を所定の周波数帯域毎に通過させる手段であり、図3,4で後述のDSP10で実現される。レベル検出手段220は、通過手段210で通過させた周波数帯域毎の楽音信号の出力レベルを検出する手段であり、DSP10で実現される。個別総和算出手段230は、通過手段210で通過させた周波数帯域毎に、その周波数帯域よりも低い周波数帯域の出力レベルの総和である個別総和を算出する手段であり、DSP10で実現される。
【0018】
抽出手段240は、個別総和算出手段230で算出された周波数帯域毎の個別総和の中で、個別総和が所定値より小さい周波数帯域に該当する楽音信号を通過手段210で通過させた周波数帯域毎の楽音信号の中から抽出することで、入力手段200で入力された楽音信号における低い音の楽音信号を抽出する手段であり、DSP10で実現される。付加手段250は、抽出手段240で抽出された楽音信号に所定の音響効果を付加して出力する手段であり、DSP10で実現される。
【0019】
効果装置1においては、入力手段200で入力された楽音信号の所定の周波数帯域毎の出力レベルが検出され、周波数帯域毎にその周波数帯域よりも低い周波数帯域の出力レベルの総和である個別総和が算出される。かかる周波数帯域毎の個別総和の中で、個別総和が所定値より小さい周波数帯域に該当する楽音信号が抽出され、抽出された楽音信号に所定の音響効果が付加されて出力される。これにより、入力手段200で入力された楽音信号から低い音による楽音信号を抽出でき、抽出された楽音信号に所定の音響効果を付加することができる。
【0020】
次に、図3を参照して効果装置1の電気的構成を説明する。図3は、効果装置の電気的構成を示すブロック図である。効果装置1には、楽音信号に関する各種の処理が行われるDigital Signal Processor10(以下「DSP10」と称す)が設けられる。DSP10内には、図示しないプログラムを記憶するROMと一時記憶するRAMとが設けられる。
【0021】
DSP10には、アナログデジタルコンバータ(ADC)11と、デジタルアナログコンバータ(DAC)12と、CPU13と、ROM14と、RAM15と、上記したペダルスイッチ4、操作子5及び切替スイッチ6とが接続される。
【0022】
ADC11は、上記した入力端子2に接続され、入力端子2を介してエレキギターG等の電気楽器から入力された電気信号(アナログ信号)である楽音信号Sinを、デジタル信号(例えば16ビット)に変換する装置である。ADC11で変換された楽音信号SinはDSP10に入力される。DAC12は、上記した出力端子3に接続され、DSP10から出力された楽音信号Soutを電気信号(アナログ信号)に変換する装置である。ADC11で電気信号に変換された楽音信号Soutは、出力端子3を介してスピーカSや、他の効果装置に出力される。
【0023】
CPU13は、接続された各部を制御する演算装置である。ROM14は、CPU20により実行されるプログラムや固定値データ等を格納した書き換え不可能な不揮発性の記憶装置であり、RAM15は、CPU13がプログラムの実行時に各種のワークデータやフラグ等を書き換え可能に記憶するメモリである。
【0024】
次に図4~6を参照して、DSP10の処理を説明する。図4は、DSP10の機能ブロック図である。ADC11からDSPに入力された楽音信号Sinは、バンドパスフィルタ(BPF)10a1~10a33にそれぞれ入力される。BPF10a1~10a33は、所定の周波数帯域の楽音信号を通過させるフィルタである。以下、BPF10a1~10a33を通過した楽音信号のことを、それぞれ「通過楽音信号S1~S33」という。
【0025】
本実施形態において、BPF10a1は、中心周波数が55Hz(A1)に設定され、その前後それぞれ1半音分に該当する周波数帯域、即ち51.9Hz(G#1)~58.3Hz(A#1)が通過帯域に設定される。これによりBPF10a1では、ADC11から入力された楽音信号のうち、51.9Hz(G#1)~58.3Hz(A#1)の周波数帯域の楽音信号が通過楽音信号S1として出力される。
【0026】
同様に、BPF10a2は、中心周波数が61.7Hz(B1)に設定され、その前後それぞれ1半音分(即ち58.3Hz(A#1)~65.4Hz(C2))が通過帯域に設定され、BPF10a32は、中心周波数が1975Hz(B6)に設定され、その前後それぞれ1半音分(即ち1864.7Hz(A#6)~2093Hz(C7))が通過帯域に設定され、BPF10a33は、中心周波数が2217Hz(C#7)に設定され、その前後それぞれ1半音分(即ち2093Hz(C7)~2349.3Hz(D7))が通過帯域に設定される。
【0027】
即ちBPS10a1~10a33による通過帯域は、58.3Hz(A#1)~2349.3Hz(D7)までの間に、切れ目(谷間)がないように設定される。これにより、ADC11から入力された楽音信号Sinが所定の音高の音のみで構成された場合だけでなく、エレキギターGでチョーキング奏法する等して、楽音信号Sinが音高と音高との中間の音で構成された場合も、これらの音をBPS10a1~10a33による通過楽音信号S1~S33に含むことができる。このような通過楽音信号S1~S33に基づいて、後述のOct処理部10b1~10b33によって1オクターブ低下された音が出力されるので、音楽的なバランスを崩すことなく、楽音信号Sinを1オクターブ低下させた音に変換できる。
【0028】
なお、BPF10a1~10a33の中心周波数は、上記した音高毎の周波数に限られず、他の周波数を用いても良い。また通過帯域も中心周波数のそれぞれ前後1半音に該当する周波数帯域に限られず、1半音以上に該当する周波数帯域でも良いし、1半音以下に該当する周波数帯域でも良い。
【0029】
通過楽音信号S1~S33は、それぞれオクターブ(Oct)処理部10b1~10b33に入力される。Oct処理部10b1~10b33はそれぞれ、入力された楽音信号を1オクターブ低い音高の楽音信号に変換するものである。通過楽音信号S1~S33がOct処理部10b1~10b33に入力されることで、それぞれ1オクターブ低い音高の楽音信号であるOct楽音信号Se1~Se33に変換されて出力される。
【0030】
本実施形態では、ADC11から入力された楽音信号Sinと、Oct楽音信号Se1~Se33とを後述の加算器10iで加算することで楽音信号Soutが生成される。この際、Oct楽音信号Se1~Se33の出力レベルをそれらの元となる通過楽音信号S1~S33の出力レベルに応じて調整することで、Oct楽音信号Se1~Se33のうちの低い音高の楽音信号が抽出されて加算器10iに入力される。次に、かかるOct楽音信号Se1~Se33の出力レベルの調整について説明する。
【0031】
通過楽音信号S1~S33は、Oct処理部10b1~10b33と共に、レベル検出部10c1~10c33にも入力される。レベル検出部10c1~10c33は、入力された通過楽音信号S1~S33の出力レベルであるレベルL1~L33を検出するものである。
【0032】
レベル検出部10c1~10c32で検出されたレベルL1~L32から、個別総和算出部10e1~10e32によって個別総和A1~A32がそれぞれ算出される。個別総和A1~A32は、該当する通過楽音信号S1~S32よりも低い周波数帯域(即ち音高)のレベルL1~L32の総和である。
【0033】
具体的に、個別総和A1~A32の取得方式を説明する。まず通過楽音信号S1は、最低の音高の楽音信号なので、レベル検出部10c1で検出されたレベルL1がそのまま該当する個別総和A1として取得される。通過楽音信号S2に該当する個別総和A2は、レベルL1とレベルL2とを加算した値であるので、加算器10d2でレベルL1とレベルL2とを加算した値とされる。
【0034】
通過楽音信号S3に該当する個別総和A3は、レベルL1,L2,L3をそれぞれ加算した値なので、レベルL1とレベルL2とを加算器10d2で加算された値(即ち個別総和A2)と、レベルL3とを加算器10d3で加算した値とされる。同様に、通過楽音信号S4~S33に該当する個別総和A4~A32が算出される。これら個別総和A1~A32が、個別総和算出部10e1~10e32で取得される。
【0035】
本実施形態では、個別総和A1~A32に加え、個別総和算出部10e0によって出力レベル「0.0」による個別総和A0(即ち個別総和A0の値は「0.0」)が取得される。これは、後述の乗算器10h1~10h33によるOct楽音信号Se1~Se33の出力レベルの調整が、それぞれの周波数帯域よりも低い出力レベルの個別総和に基づいて行われるからである。ここでOct楽音信号Se2~Se33においては、それぞれの周波数帯域よりも低いレベルL1~L32が存在するので個別総和A1~A32は取得できるが、Oct楽音信号Se1は、最低の音高であるのでそれよりも周波数帯域の低い出力レベルが存在せず、個別総和が取得できない。そこで本実施形態では、個別総和算出部10e0によって出力レベル「0.0」による個別総和A0を取得し、個別総和A0をOct楽音信号Se1の出力レベルの調整に用いる。
【0036】
これら個別総和A0~A32と、レベル検出部10c1~10c33で検出されたレベルL1~L33とが、それぞれ総和レベル比算出部10f1~10f33に入力される。総和レベル比算出部10f1~10f33は、それぞれ個別総和A0~A32を、レベルL1~L33で除算した総和レベル比D1~D33を算出するものである。即ち総和レベル比算出部10f1では、個別総和A0をレベルL1で除算した総和レベル比D1が算出され、同様に、総和レベル比算出部10f2では、個別総和A1をレベルL2で除算した総和レベル比D2が算出され、総和レベル比算出部10f32では、個別総和A31をレベルL32で除算した総和レベル比D32が算出され、総和レベル比算出部10f33では、個別総和A32をレベルL33で除算した総和レベル比D33が算出される。
【0037】
総和レベル比D1~D33は、該当する音高よりも低い音高の個別総和A0~A32を、該当する音高のレベルL1~L33で除算した値なので、その値が小さい程、その音高はADC11から入力された楽音信号Sinに含まれる音高のうちの低いものとされ、総和レベル比D1~D33が大きい程、その音高は高いものとされる。
【0038】
また総和レベル比D1~D33は、該当する音高よりも低い音高の個別総和A0~A32及びレベルL1~L33に基づくので、該当する音高よりも高い音のレベルL1~L33及び個別総和A0~A32には依存しない。例えば、エレキギターGで6弦のみが発音されている状態において、6弦の音に該当する総和レベル比D1~D33は、1~5弦の音よりも小さくなる。この状態で、6弦よりも音高の高い1弦を6弦と同じレベルL1~L33で演奏した場合、6弦の音に該当する総和レベル比D1~D33は、新たに発音された1弦の音のレベルL1~L33及び個別総和A0~A32に依存して変化しない。
【0039】
また、1弦の音に該当するレベルL1~L33は6弦の音と同一である一方、1弦の音に該当する個別総和A0~A32には、発音している6弦の音に該当するレベルL1~L33が加算されるので、6弦の音に該当する個別総和A0~A32よりも大きくなる。これによって1弦の音に該当する総和レベル比D1~D33は、6弦の音よりも大きいままとなる。この際、発音しない2~5弦に該当する総和レベル比D1~D33も、1弦の音に依存して変化しないので、これらも6弦の音に該当する総和レベル比D1~D33よりも大きいままとなる。よって、発音している音の中で最も低い6弦の音に該当する総和レベル比D1~D33が他の音のものよりも小さくなる。従って、低い音を発音中に、それよりも高い音が発音された場合でも、総和レベル比D1~D33の大小の状態を、実際に発音されている音の音高の状態と合致させることができる。
【0040】
これにより、総和レベル比D1~D33の大小を比較することで、入力された楽音信号Sinに含まれる通過楽音信号S1~S33の中から、低い音高の音を正確に特定することができる。
【0041】
このように総和レベル比算出部10f1~10f33で算出された総和レベル比D1~D33が、それぞれ出力関数10g1~10g33に入力される。出力関数10g1~10g33は、それぞれ入力された総和レベル比D1~D33等に応じて、楽音信号の出力レベルを調整する係数である出力係数を出力するものである。以下、出力関数10g1から出力される出力係数を出力係数C1といい、出力関数10g2~10g33から出力される出力係数をそれぞれ出力係数C2~C33という。
【0042】
出力関数10g1~10g33から出力された出力係数C1~C33を、それぞれOct楽音信号Se1~Se33の出力レベルに乗じることで、Oct楽音信号Se1~Se33の出力レベルが調整される。ここで図5を参照して、出力関数10g1~10g33で取得される出力係数C1~C33を説明する。
【0043】
図5は、総和レベル比Dと出力係数Cとの関係を表すグラフである。図5では、総和レベル比D1~D33をまとめて「総和レベル比D」といい、出力係数C1~C33をまとめて「出力係数C」という。本実施形態では出力係数Cとして、図5に示す通り、総和レベル比Dが「0」から「0.75」の間は、出力係数Cに「1.0」が設定される。これによって、総和レベル比Dがかかる範囲の場合は、該当するOct楽音信号Se1~Se33の出力レベルが維持されたまま、図4の加算器10iに出力される。このように出力係数Cが「1.0」となる総和レベル比Dの範囲のことを「通過域」という。
【0044】
総和レベル比Dが0.75から1.0の間では、総和レベル比Dの大きさに応じて出力係数Cが1.0から0に低減される。これによって、総和レベル比Dがかかる範囲に該当する場合は、その総和レベル比Dの大きさに応じて、該当するOct楽音信号Se1~Se33の出力レベルが低下されて加算器10iに出力される。このような出力係数Cが取得される総和レベル比の範囲のことを「減衰域」という。
【0045】
そして、総和レベル比Dが1.0より大きい場合は、出力係数Cに「0」が設定される。これによって、総和レベル比Dがかかる範囲に該当する場合は、楽音信号の出力レベルが「0」となり、該当するOct楽音信号Se1~Se33は加算器10iに出力されない。このような出力係数Cが「0.0」となる総和レベル比の範囲を「阻止域」という。
【0046】
総和レベル比Dが通過域および減衰域である0.0~1.0の場合は、該当する個別総和A0~A32が、該当するレベルL1~L33の1音分の出力レベル未満であり、それよりも低い音高のOct楽音信号Se1~Se33の中から、低い音高の音が十分に抽出されていない場合である。このような場合に、該当するOct楽音信号Se1~Se33の出力レベルをそのまま又は減衰された状態で加算器10iに出力することで、Oct楽音信号Se1~Se33の中から低い音高の音を抽出できる。
【0047】
また、総和レベル比Dが0.75~1.0の間の減衰域が設けられる。これにより、最低の音高の周波数帯域が幅広く、その一部が2番目に低い音高の音の周波数帯域と重なっている場合でも、最低の音高のみによるOct楽音信号Se1~Se33を抽出しつつも、2番目に低い音高と重なっている部分のOct楽音信号Se1~Se33が減衰されて抽出される。これにより、最低の音高を構成するOct楽音信号Se1~Se33を欠落させることなく抽出できるので、かかる音の聴感上の違和感を最小限に抑制できる。
【0048】
このように、出力関数10g1~10g33において総和レベル比Dに応じた出力係数Cの通過域、減衰域および阻止域を設定することで、Oct楽音信号Se1~Se33の中から低い音高の音を容易に抽出できる。
【0049】
なお、図5の出力関数10g1~10g33において、通過域を総和レベル比Dが0~0.75の範囲に、減衰域を総和レベル比Dが0.75~1.0の範囲に、阻止域を総和レベル比Dが1.0より大きい範囲にそれぞれ設定したが、これらに限られず、任意の範囲を設定しても良い。また、切替スイッチ6で選択されている電気楽器の種類(エレキギターG又はエレキベース等)に応じて、通過域、減衰域および阻止域における総和レベル比Dの範囲を変更しても良い。
【0050】
図4に戻る。このような出力関数10g1~10g33から取得された出力係数C1~C33を、乗算器10h1~10h33によってOct楽音信号Se1~Se33の出力レベルに乗じることで、Oct楽音信号Se1~Se33の出力レベルが調整される。これらOct楽音信号Se1~Se33と、ADC11から入力される楽音信号Sinとを加算器10iで加算することで楽音信号Soutが生成され、DAC12に出力される。
【0051】
この際、上記した通り、個別総和算出部10e0には「0.0」の個別総和A0が取得され、総和レベル比算出部10f1では、個別総和A0をレベルL1で除算した「0.0」である総和レベル比D1が出力関数10g1に入力される。これにより、最低の音高である通過楽音信号S1を通過域として扱うことができるので、通過楽音信号S1から生成されるOct楽音信号Se1を確実に加算器10iへ入力できる。
【0052】
Oct楽音信号Se1~Se33のうち、総和レベル比D1~D33が通過域または減衰域であるものが、出力レベルが維持または調整されて加算器10iに入力される楽音信号として抽出される。一方で、総和レベル比D1~D33が阻止域であるOct楽音信号Se2~Se33は出力レベルが「0」となるので、加算器10iから遮断される。
【0053】
これによって、総和レベル比D1~D33に応じて加算器10iに出力されるOct楽音信号Se1~Se33が抽出されるので、ADC11から入力された楽音信号Sinに含まれる音の最低の周波数や、楽音信号Sinに含まれる音の全体の周波数のレンジ(幅)によることなく、楽音信号Sinに基づくOct楽音信号Se2~Se33から低い音高のものを抽出し、加算器10iに出力できる。ここで図6を参照して、効果装置1から出力される楽音信号Soutを説明する。
【0054】
図6(a)は、効果装置1に入力される楽音信号Sinの周波数スペクトルを表す図であり、図6(b)は、効果装置1から出力される楽音信号Soutの周波数スペクトルを表す図である。まず、図6(a),(b)においては楽音信号Sinとして、100Hz、200Hz、400Hzの音による和音が入力されるものとする。これによって、図6(a)に示す通り、楽音信号Sinの音による周波数スペクトルとして100Hzの音によるスペクトルP1と、200Hzの音によるスペクトルP2と、400Hzの音によるスペクトルP3とが出力される。
【0055】
このような楽音信号Sinを、効果装置1に入力することでオクターブ処理をした場合の楽音信号Soutは、図6(b)に示す通り、楽音信号SinによるスペクトルP1~P4の音に加え、100Hzの音を1オクターブ低下させた音によるスペクトルPo1と、200Hzの音を1オクターブ低下させた音によるスペクトルPo2と、400Hzの音を1オクターブ低下させた音によるスペクトルPo3とが出力される。
【0056】
楽音信号Sinに含まれる最低の音高の音である100Hzの音は通過域に該当するので元となる100Hzの音の出力レベルがそのままに、100Hzの音を1オクターブ低下させた音として出力される。これにより、楽音信号Sinのうち最低の音高である100Hzの音を適切に抽出し、その音を1オクターブ低下させた音を出力できる。
【0057】
また、楽音信号Sinに含まれる200Hz又は400Hzの音は、減衰域に該当するので、200Hz又は400Hzの音の出力レベルが減衰された状態で、200Hz又は400Hzの音を1オクターブ低下された音が出力される。
【0058】
200Hz又は400Hzを1オクターブ低下させた音(即ち図6(b)のスペクトルPo2又はPo3)は、楽音信号Sinにおける100Hz又は200Hzの音(即ち図6(b)のスペクトルP1又はP2)とそれぞれ重複する周波数帯域ではあるが、200Hz又は400Hzの音を1オクターブ低下された音の出力レベルは、楽音信号Sinにおける100Hz又は200Hzの音よりも小さい。これにより、楽音信号Soutに、楽音信号Sinに含まれる和音と楽音信号Sinを1オクターブ低下させた和音とに重複した音高の音がある場合でも、出力される楽音信号Soutによる音の滲みや歪みの発生を最小限に抑制できるので、かかる音に対する聴感上の違和感を抑制できる。
【0059】
以上、上記実施形態に基づき説明したが、種々の改良変更が可能であることは容易に推察できるものである。
【0060】
上記実施形態では、図4のOct処理部10b1~10b33によって、通過楽音信号S1~S33の音高をそれぞれ1オクターブ低下させた上で、出力係数C1~C33を乗じてそれらの出力レベルを調整し、調整した楽音信号と楽音信号Sinとを加算器10iで加算して楽音信号Soutを生成した。しかし、これに限られず、図7のDSP100のように、通過楽音信号S1~S33に出力係数C1~C33を乗じてそれらの出力レベルを調整した上で、Oct処理部10b1~10b33によって音高を1オクターブ低下させたOct楽音信号Se1~Se33をそれぞれ生成し、生成されたOct楽音信号Se1~Se33と楽音信号Sinとを加算器10iで加算することで、楽音信号Soutを生成しても良い。
【0061】
また、図8のDSP110のように、通過楽音信号S1~S33に出力係数C1~C33を乗じてそれらの出力レベルを調整し、調整された通過楽音信号S1~S33を加算器10iで加算し、加算された楽音信号をOct処理部10bによって音高を1オクターブ低下させた楽音信号を生成した上で、その楽音信号とADC11から入力された楽音信号Sinとを加算器10jで加算することで、楽音信号Soutを生成しても良い。
【0062】
上記実施形態では、入力された楽音信号Sinの音高を1オクターブ低下させるオクターブ処理(効果処理)を、DSP10で実行した。しかし、オクターブ処理を実行するのはDSP10に限られず、ROM14(図3参照)に記憶されたプログラムである効果処理プログラム(図示せず)を、CPU13(図3参照)で実行することで、オクターブ処理を実行しても良い。
【0063】
具体的には、CPU13によって効果処理プログラムが実行されることで、図9のメイン処理が実行される。そのメイン処理ではまず、楽音信号SinをADC11(図3参照)から入力する(St1)。St1の処理の後、入力された楽音信号Sinから、音高毎の楽音信号である通過楽音信号S1~S33を取得する(St2)。St2の処理の後、通過楽音信号S1~S33のそれぞれの出力レベルである、レベルL1~L33を検出する(St3)。
【0064】
St3の処理の後、総和レベル比算出処理(St4)を実行する。ここで図10を参照して、総和レベル比算出処理を説明する。
【0065】
図10は、変形例における総和レベル比算出処理のフローチャートである。総和レベル比算出処理は、通過楽音信号S1~S33毎に、該当する周波数帯域よりも低いレベルL1~L33の総和である個別総和A0~A32を該当するレベルL1~L33で除算した、総和レベル比D1~D33を算出する処理である。
【0066】
総和レベル比算出処理はまず、個別総和A0に「0.0」を設定する(St20)。図4で上記した通り、通過楽音信号S1に該当する個別総和A0においては、通過楽音信号S1よりも低い周波数帯域の出力レベルが存在しないので、個別総和A0に「0.0」が設定される。
【0067】
St20の処理の後、カウンタ変数Nに1を設定する(St21)。St21の処理の後、総和レベル比D(N)に、個別総和A(N-1)をレベルL(N)で除算した値を設定する(St22)。ここで「総和レベル比D(N)」は、N番目の総和レベル比D1~D33を表し、例えば、Nが「1」の場合は「総和レベル比D1」を表す。「個別総和A(N-1)」は、N-1番目の個別総和A0~A32を表し、例えば、Nが「1」の場合は「個別総和A0」を表す。また「レベルL(N)」は、N番目のレベルL1~L33を表し、例えば、Nが「1」の場合は「レベルL1」を表す。
【0068】
St22の処理の後、カウンタ変数Nが32より大きいかを確認する(St23)。St23の処理において、カウンタ変数Nが32以下の場合は(St23:No)、個別総和A(N)に、個別総和A(N-1)とレベルL(N)とを加算した値を設定する(St24)。St24の処理の後、カウンタ変数Nに1を加算し(St25)、St22以下の処理を繰り返す。一方で、St23の処理において、カウンタ変数Nが32より大きい場合は(St23:Yes)、総和レベル比算出処理を終了する。
【0069】
即ち通過楽音信号S1に該当する総和レベル比D1は、通過楽音信号S1よりも低い音高の出力レベルの個別総和とされる個別総和A0を、通過楽音信号S1に該当するレベルL1で除算した値とされる。通過楽音信号S2に該当する総和レベル比D2は、通過楽音信号S2よりも低い音高の出力レベルによる個別総和A1を、通過楽音信号S2に該当するレベルL2で除算した値とされ、以下同様に、個別総和A2~A32をレベルL3~L33で除算した値が、それぞれ総和レベル比D3~D33とされる。
【0070】
図9に戻る。St4の総和レベル比算出処理の後、総和レベル比D1~D33を出力関数(図5参照)に入力し、それぞれによる出力係数C1~C33を算出する(St5)。St5の処理の後、通過楽音信号S1~S33をそれぞれ1オクターブ音高を低下させた楽音信号である、Oct楽音信号Se1~Se33を生成する(St6)。St6の処理の後、生成されたOct楽音信号Se1~Se33の出力レベルに、出力係数C1~C33をそれぞれ乗算することで、Oct楽音信号Se1~Se33の出力レベルを調整する(St7)。
【0071】
St7の処理の後、出力レベルが調整されたOct楽音信号Se1~Se33とSt1の処理で入力された楽音信号Sinとを加算した楽音信号である、楽音信号Soutを生成する(St8)。St8の処理の後、生成された楽音信号SoutをDAC12(図3参照)に出力し(St9)、St1以下の処理を繰り返す。
【0072】
また、かかる効果処理プログラムは、効果装置1で実行するものに限られず、PCや携帯端末等のコンピュータ(情報処理装置)で実行しても良い。
【0073】
上記実施形態では、総和レベル比D1~D33を、個別総和A0~A32をレベルL1~L33で除算することで算出した。しかし、これに限られず、総和レベル比D1~D33を、レベルL1~L33を個別総和A0~A32で除算して算出しても良い。この場合、出力関数10g1~10g33の通過域、減衰域および阻止域を、図5を反転させたもの、例えば、総和レベル比D1~D33が「0」から「1.0」までの範囲を阻止域、「1.0」から「1.33」までの範囲を減衰域、そして「1.33」より大きい範囲を通過域とすれば良い。
【0074】
また、総和レベル比D1~D33を算出する代わりに、個別総和A0~A32をレベルL1~L33の平均値でそれぞれ除算した総和比E1~E33を算出し、かかる総和比E1~E33に基づいて出力係数C1~C33を出力しても良い。この場合、出力関数10g1~10g33を、総和比E1~E33に応じた出力係数C1~C33が出力されるように構成すれば良い。また、総和比E1~E33は、個別総和A0~A32をレベルL1~L33の平均値で除算するものに限られず、個別総和A0~A32をレベルL1~L33の最大値や最小値、中央値等で除算することで算出しても良い。
【0075】
上記実施形態では、図5の出力関数において通過域、減衰域および阻止域をそれぞれ設ける構成としたが、これに限られない。例えば、出力関数から減衰域を省略しても良いし、通過域を省略しても良い。また、出力関数を総和レベル比Dの全域に亘る減衰域のみで構成しても良い。
【0076】
上記実施形態では、入力された楽音信号Sinに付加される音響効果としてオクターブ処理を例示した。しかし、付加される音響効果はオクターブ処理に限られず、ディストーションやディレイ、リバーブ等の他の音響効果でも良い。また、入力された楽音信号Sinに含まれる最低の音高の音のみを出力することで、和音演奏した場合のルート音(根音)を取得(検出)するように構成しても良い。
【0077】
上記実施形態に挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 効果装置
2 入力端子(入力手段の一部)
11 ADC(入力手段の一部)
6 切替スイッチ(選択手段)
Sin 楽音信号
10a1~10a33 BPF(通過手段)
10b1~10b33 Oct処理部(付加手段)
L1~L33 レベル(出力レベル)
10c1~10c33 レベル検出部(レベル検出手段)
A0~A32 個別総和
10e0~10e32 個別総和算出部(個別総和算出手段)
10g1~10g33 出力関数(レベル調整手段、抽出手段の一部)
D1~D33 総和レベル比
10f1~10f33 総和レベル比算出部(総和レベル比算出手段)
10h1~10h33 乗算器(レベル調整手段、抽出手段の一部)
St1 入力ステップ
St2 通過ステップ
St3 レベル検出ステップ
St20,St24 個別総和算出ステップ
St5,St7 抽出ステップ
St6,St9 付加ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10