(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20240422BHJP
G03G 21/00 20060101ALI20240422BHJP
H05B 3/00 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
G03G15/20 505
G03G21/00 398
H05B3/00 335
H05B3/00 310C
(21)【出願番号】P 2020112788
(22)【出願日】2020-06-30
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安川 航司
【審査官】三橋 健二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-072512(JP,A)
【文献】特開2018-097273(JP,A)
【文献】特開2015-084084(JP,A)
【文献】特開2016-024435(JP,A)
【文献】特開2010-213443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
G03G 21/00
H05B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源に接続され、通電により発熱するヒータと、
前記ヒータに接している状態で配置された導電性を有する導電部材と、
内面において前記導電部材と摺動しながら回転する筒状のフィルムと、
前記フィルムを挟んで前記導電部材と圧接し、前記導電部材との間にニップ部を形成する加圧部材と、
を有し、前記ニップ部で記録材を挟持して搬送しながら記録材上のトナー画像を加熱して記録材に定着させる定着装置であって、
前記交流電源から供給される交流電圧がピーク値となるときに当該ピーク値とは逆極性の電圧値となる波形の交流電圧を前記導電部材に印加する電圧印加手段をさらに有する、
ことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記電圧印加手段が前記導電部材に印加する交流電圧は、前記交流電源から供給される交流電圧と同周波数であって、前記交流電源から供給される交流電圧とは逆位相である、
ことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記電圧印加手段は、オペアンプを備えた反転増幅器を含み、前記交流電源から供給される交流電圧から前記反転増幅器によって生成した電圧を前記導電部材に印加する、
ことを特徴とする請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記電圧印加手段が前記導電部材に印加する交流電圧は、前記交流電源から供給される交流電圧とは異なる周波数であって、前記交流電源から供給される交流電圧の周波数の奇数倍の周波数である、
ことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項5】
前記電圧印加手段は、前記交流電源から供給される交流電圧のゼロクロス信号を基準として前記導電部材に印加する交流電圧の同期を取る、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項6】
前記ヒータは、基板と、前記基板上に形成された発熱抵抗体と、前記発熱抵抗体を覆う絶縁性の保護層と、を有し、前記保護層と前記導電部材とが接している、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項7】
前記フィルムの外周側から前記ヒータ及び前記導電部材を見た場合に、前記ニップ部の長手方向に関して前記導電部材は前記フィルムより長く構成され、かつ、前記長手方向に垂直な短手方向に関して前記導電部材は前記ヒータより長く構成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項8】
回転する像担持体と、
転写電圧を印加されることで、前記像担持体の表面に担持されたトナー像を記録材に転写する転写手段と、
前記転写手段によって記録材に転写されたトナー像を記録材に定着させる請求項1乃至7のいずれか1項に記載の定着装置と、
を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真式画像形成装置等に用いられる定着装置、及びこの定着装置を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式のプリンタや複写機に搭載される熱定着方式の定着装置として、セラミックス製等の基板上に発熱抵抗体を有するヒータと、ヒータに接触しつつ移動する定着フィルムと、定着フィルムを介してヒータに対向する加圧ローラを有するものがある。未定着トナー像を担持する記録材は、定着フィルムと加圧ローラの間のニップ部(定着ニップ部)で挟持搬送されつつ加熱され、これにより記録材上のトナー像は記録材に加熱定着される。
【0003】
ところで、上述した熱定着方式の定着装置においては、高温高湿環境に長時間放置されることで吸湿し電気抵抗が低下した記録材を用いた場合等に、ACバンディングと呼ばれる現象が発生する可能性がある。トナー像の転写が行われている状態で記録材が定着ニップ部に挟持されると、ヒータを発熱させるために商用電源等から供給される交流電圧が記録材を介して転写ニップ部に伝わり、転写部材に印加されている転写電圧に重畳してしまう。ACバンディングとは、転写部材と像担持体との間に流れる転写電流が記録材を介して伝播する交流電圧の波形成分によって振れてしまい、転写性にムラが生じ、結果として画像の副走査方向に濃淡ムラの画像不良が現れることを指す。特許文献1には、記録材に接する絶縁性のフィルムとヒータとの間に接地された導電部材を配置し、導電部材及びフィルムとを介して間接的に記録材上の画像を加熱することでヒータから記録材に印加される交流電圧を抑制する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記技術をさらに発展させたものであり、ACバンディングの発生を抑制可能な定着装置の新たな構成を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、交流電源に接続され、通電により発熱するヒータと、前記ヒータに接している状態で配置された導電性を有する導電部材と、内面において前記導電部材と摺動しながら回転する筒状のフィルムと、前記フィルムを挟んで前記導電部材と圧接し、前記導電部材との間にニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部で記録材を挟持して搬送しながら記録材上のトナー画像を加熱して記録材に定着させる定着装置であって、前記交流電源から供給される交流電圧がピーク値となるときに当該ピーク値とは逆極性の電圧値となる波形の交流電圧を前記導電部材に印加する電圧印加手段をさらに有する、ことを特徴とする定着装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ACバンディングの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1に係る画像形成装置の構成を示す図。
【
図4】実施例1に係る定着装置への給電構成を示す図。
【
図5】交流電圧が転写電圧に重畳するメカニズムを説明するための図。
【
図8】ACバンディングの発生を説明するための図。
【
図9】ACバンディングが発生した際の画像を説明するための図。
【
図10】実施形態に係る交流電圧が転写電圧に重畳する経路の等価回路図。
【
図11】比較例における交流電圧発生経路の等価回路図。
【
図12】実施例1に係る導電板に電圧を印加する駆動回路の構成を示す図。
【
図13】実施例1に係る導電板に印加する電圧波形を説明するための図。
【
図14】実施例2に係る導電板に電圧を印加する駆動回路の構成を示す図。
【
図15】実施例2に係る導電板に印加する電圧波形を説明するための図(a~e)。
【
図16】実施例2に係る導電板に印加する電圧波形を説明する図(a~c)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0010】
(画像形成装置)
図1は実施例1に係る定着装置2を備えた画像形成装置として、電子写真技術を用いたレーザビームプリンタ(以下、単にプリンタ100とする)の断面図である。以下、プリンタ100の構成及び動作を簡単に説明する。
【0011】
プリンタ100は、プリント指示を受けると、スキャナユニット15が画像情報に応じたレーザ光Lを像担持体としての感光体601に照射する。帯電ローラ4によって予め所定の極性に帯電させられた感光体601はレーザ光Lによって走査され、これにより感光体601の表面には画像情報に応じた静電潜像が形成される。その後、現像器6が感光体601にトナーを供給して静電潜像を現像し、トナー画像として可視化する。感光体601の回転により、トナー画像は、感光体601と転写手段としての転写ローラ5との間に形成される転写部(転写ニップ部T)に搬送される。
【0012】
カセット7からは、給送ローラ8によって記録材Pが一枚ずつ分離しながら給送され、搬送ローラ対9を経てレジストレーションローラ対10に送られる。レジストレーションローラ対10は、記録材Pの所定の位置(搬送方向の位置)に画像を形成するために、感光体601に形成されたトナー画像と同期するように記録材Pを転写ニップ部Tに搬送する。記録材Pは転写ニップ部Tに挟持されて搬送されている間に、トナーと逆極性の転写バイアスが印加された転写ローラ5により、感光体601からトナー画像を転写される。転写ニップ部Tを通過した記録材Pは定着装置2へ搬送され、定着装置2によって定着処理を受けた後、排出ローラ対12によって排出トレイ13上に排出される。
【0013】
なお、記録材Pとしては、普通紙及び厚紙等の紙、プラスチックフィルム、布、コート紙のような表面処理が施されたシート、封筒やインデックス紙等の特殊形状のシート等、サイズ及び材質の異なる多様なシート材を使用可能である。また、ここでは感光体601から記録材Pにトナー像を直接転写する方式を挙げたが、感光体に形成したトナー像を中間転写ベルト等の中間転写体を介して記録材に転写する方式の画像形成装置に対して以下で説明する技術を適用してもよい。
【0014】
(定着装置)
図2を用いて本実施例に係る定着装置2の構成を説明する。本実施例において、定着装置2は、筒状のフィルムを介して記録材上のトナー画像を加熱するフィルム加熱方式の像加熱装置である。定着装置2は、筒状のフィルム23と、フィルム23の内面に接触する導電部材としての導電板26と、導電板26と接触するヒータ22と、ヒータ22を保持する保持部材21と、を有する。また、定着装置2は、フィルム23を介して導電板26に圧接され、導電板26との間に定着ニップ部Nを形成する加圧部材としての加圧ローラ24を有する。
【0015】
以下、定着ニップ部Nにおける記録材の搬送方向に対して垂直に細長く延びているヒータ22の長手方向(フィルム23及び加圧ローラ24の回転軸線の方向、定着ニップ部Nを通過する記録材Pの幅方向)を、定着装置2の長手方向とする。
図2は、長手方向に垂直な仮想平面で切断した定着装置2の断面を長手方向に見た図である。
【0016】
ヒータ22と導電板26は、筒状のフィルム23の内部に配置されており、記録材P上のトナー画像は、ヒータ22によって加熱された導電板26によって、周方向に回転するフィルム23を介して加熱される。なお、導電板26の材質としては、熱伝導性、加工容易性、入手性の観点で、アルミニウムを好適に用いることができる。また、フィルム23は可撓性を有したポリイミドを主材とし、導電性カーボンからなる高熱伝導フィラーを添加することで熱伝導率を向上させるとともに、導電性を付与したものを用いている。フィルム23は、内面(内周面)において導電板26と摺動しながら回転する。
【0017】
ヒータ22及び導電板26は、保持部材21の下面(加圧ローラ24に対向する対向面)に設けられた溝に嵌め込まれることで、保持部材21に保持(支持)される。この溝は、嵌め込まれたヒータ22及び導電板26の長手方向が記録材Pの搬送方向に直交する方向と一致するように形成される。また、保持部材21は、フィルム23の回転を案内するガイドの機能も有している。ヒータ22と導電板26とは、熱伝導性を良くするために、高熱伝導性シリコーン系接着剤によって接着されている。
【0018】
ヒータ22のフィルム23の内面と対向する対向面(
図2で下側の面)とは反対側には、温度検知素子であるサーミスタ25が取り付けられており、サーミスタ25の検知温度に応じて発熱抵抗体33への通電が制御される。また、加圧ローラ24は、モータMから動力を受けて矢印b方向に回転する。そして、加圧ローラ24が回転することによってフィルム23が従動して矢印c方向に回転する。記録材Pが定着ニップ部Nにおいて矢印aの方向に搬送されることにより、記録材上のトナー画像は加熱及び加圧されて記録材Pに定着する。
【0019】
(ヒータ)
図3を用いて、ヒータ22について説明を行う。ヒータ22は、アルミナ等のセラミック材を用いた細長薄板形状のヒータ基板32に、通電により発熱する発熱体としての発熱抵抗体33と、発熱抵抗体33に電圧を印加するための導電部109と、が形成されている。ヒータ基板32において発熱抵抗体33が形成された領域は、発熱抵抗体33に印加される商用電源電圧に対し基礎的な絶縁をするための保護層であるコーティングガラス34によってコーティングされている。なお、ヒータ基板32としてステンレス等の金属材料を使用し、ヒータ基板32上に絶縁層を形成し、さらに絶縁層の上に発熱抵抗体33を配置してもよい。また、保護層を形成する絶縁性の材料はガラスには限られない。
【0020】
図4はヒータ22に導電板26及びフィルム23をセットした状態における、フィルム23の外周側から見た部材間の長手方向の位置関係と、ヒータ22及び導電板26への給電方法を示している。ヒータ22の長手方向に関して、フィルム23よりも導電板26及びヒータ22の方が長く構成されており、フィルム23の回転軸線に垂直な方向から見て導電板26及びヒータ22の長手方向の端部はフィルム23から露出する。従って、加圧ローラ24に従動してフィルム23が回転する領域の長手方向の外側で、ヒータ22及び導電板26に給電することが可能である。
【0021】
また、ヒータ22の短手方向(ヒータ基板32の主面に沿った方向であって長手方向に垂直な方向)に関しては、ヒータ22よりも導電板26の方が少し長く(言い換えると幅広に)構成されている。このため、ヒータ22のコーティングガラス34がフィルム23の内面と接しないようになっている。
【0022】
給電コネクタ27はヒータ22の導電部109と当接圧をもって接触し、発熱抵抗体33へ商用電源から供給される交流電圧を供給する。導電板26に対しては、コの字型に曲げられた金属板であるヒータクリップ28が取り付けられる。ヒータクリップ28は、導電板26及びヒータ基板32を挟持して保持部材21に保持する機能と共に、束線29を通じて導電板26へ後述の交流電圧を供給する機能を有する。
【0023】
ここで、仮にACバンディング対策として導電板26ではなくフィルム23へ給電を行う場合、フィルム23は回転する部材であるため、回転を許容しつつフィルム23との安定した電気的接続を実現する接点構成は煩雑なものとなり、コストも増加する。本実施例のように、導電板26とヒータクリップ28を用いることで簡易な構成で導電板26へ安定した給電を行うことができる。
【0024】
なお、本実施例ではヒータ基板32に絶縁のセラミック材を用いているが、ヒータ基板32がステンレス等の導電材料である場合、交流電圧の給電を導電板26のみに行うよう、導電板26への給電時にヒータ基板32との絶縁を考慮する必要がある。例えば、ヒータクリップ28を用いずに導電板26のみに束線29を溶接する等の手段をとることができる。
【0025】
(ACバンディング)
次に、ACバンディングについて、
図5~
図9を用いて説明する。
図5にACバンディングの発生メカニズムを説明するための模式図を示す。定着装置2のヒータ22には交流電源としての商用電源65から交流電圧が印加される。また、転写ローラ5には転写電源61から転写電圧が印加され、転写ニップ部Tにおいて転写ローラ5から感光体601に流れる電流を検知回路62によって検知可能である。
【0026】
ACバンディングが発生するタイミングの例は、吸湿した記録材Pが転写ニップ部Tにて感光体601からトナー像を転写されている状態で記録材Pが定着ニップ部Nに挟持されているときである。このとき、商用電源65からヒータ22に交流電圧が印加され、トライアック68によって交流電圧の波形制御が行われる。定着ニップ部Nに挟持された記録材Pは、フィルム23と接触している。また、画像形成装置の小型化のため、転写ニップ部Tと定着ニップ部Nの距離は一般的な記録材Pの搬送方向長さよりも短くなっており、一枚の記録材Pが転写ニップ部Tと定着ニップ部Nに同時に挟持されているものとする。
【0027】
図6は、商用電源65の交流電圧が転写ニップ部Tにおける転写電圧Vtに重畳された際に検知回路62によって検知される電流を示す模式的なグラフである。
図7は、
図6におけるAC波形成分によって振れた電流の波形を拡大した模式的なグラフである。
図6の時刻T1は、記録材Pの先端が転写ニップ部Tに突入する時刻であり、時刻T2は記録材Pの先端が定着ニップ部Nに突入する時刻である。
【0028】
時刻T2よりも前の状態においては、記録材Pが転写ニップ部Tと定着ニップ部Nの両方によって挟持されていない状態であるため、商用電源65の交流電圧は記録材Pを介して転写電圧Vtに重畳されることはない。一方で、記録材Pが転写ニップ部Tと定着ニップ部Nの両方によって挟持される時刻T2以降に関しては、商用電源65の交流電圧が記録材Pを介して転写電圧Vtに重畳され、AC波形成分によって電流値が振れる。これにより、
図7に示すように、転写ローラ5に流れる電流は商用電源65の電源周波数周期で振れてしまう。
【0029】
図8は、転写ニップ部Tにおける電流値が振れる状況がACバンディングとして顕在化する場合について説明するための模式図である。
図9は、ACバンディングが生じた画像の模式図である。
【0030】
図8に示すように、転写電圧Vtを転写電源61から転写ローラ5に印加した際に、商用電源65の交流電圧が転写電圧Vtに重畳すると、転写ローラ5から感光体601に流れる電流はAC波形成分によって振れてしまう。この時、転写ローラ5から感光体601に流れる電流が商用電源65の電源周波数周期で振れることにより、
図8における波形の谷部が、吸湿紙にトナー像を転写する際の電流の適正範囲を下回ってしまう。その結果、商用電源65の電源周波数周期で電流が不足し、
図9に示すように、記録材Pが定着ニップ部Nfに突入した以降に感光体601から記録材Pに転写された画像の部分に、商用電源65の電源周波数周期に相当する間隔で濃度ムラが現れる。このような商用電源65の電源周波数周期に相当する間隔で画像の濃度ムラが生じる現象をACバンディングと呼ぶ。
【0031】
(等価回路図を用いた本実施例の利点の説明)
図10は、本実施例を採用した場合に、ACバンディングに関与する電流経路(
図5の構成)を模式化した等価回路図である。本図において、商用電源65から発熱抵抗体33へ印加される交流電圧により、定着ニップ部N、記録材Pの抵抗成分Rp、転写ニップ部Tを経由して転写ローラ5の抵抗成分Rtへ流れる交流電流が、ACバンディングの原因となる。
【0032】
図10において、C34はコーティングガラス34の容量成分であり、C23はフィルム23の容量成分である。交流電源70は、後述するように導電板26に交流電圧を印加する本実施例の電圧印加手段であり、商用電源65の交流電圧とは位相が反転した交流電圧を導電板26に印加する。本実施例では、C34の値は250pF、C23の値は1000pFとする。高温高湿環境下ではRpは120MΩ程度、Rtは20MΩ程度になる。発熱抵抗体33から転写ローラ5の抵抗成分Rtまでの合成インピーダンスZ1の絶対値は以下の式(1)で表される。
【0033】
【0034】
fは商用電源周波数であり、f=50[Hz]とすると、Z1は約142MΩとなる。交流電源70から交流電圧を印加しない場合、商用電源65が100Vrmsとすると、Z1、Rp、Rtの分圧計算より定着ニップ部Nには約98Vrms、転写ニップ部Tには約14Vrmsの交流電圧が重畳される。
【0035】
本実施例では、交流電源70から導電板26に商用電源65とは異なる交流電圧を印加することで、合成された交流電圧波形の振幅を抑え、上記転写ニップ部Tに重畳される交流電圧を14Vrmsより低下させることでACバンディングの抑制が可能となる。なお、RpやRtは記録材Pの種類(材質、サイズ等)や温湿度条件によって変動するため、より商用電源65に近いポイントで交流電源70を印加した方が安定してACバンディングの発生を抑えることができる。また、商用電源65から供給される電源電圧は導電板26のポイントではコーティングガラス34の容量成分であるC34の分、ドロップした電圧となる。このため交流電源70は、そのドロップした電圧に対して交流電圧を打ち消す効果が得られるので、効率よく交流電圧を抑えることができる。
【0036】
ここで
図11を用いて、交流電源70を設けない比較例の構成における課題を説明する。比較例の構成は、導電板26を直接接地(又は低抵抗を介して接地)させる以外は、実施例1と同様であるものとする。導電板26を単に接地させることでも、接地電位から供給される電荷によって商用電源65の交流電圧が相殺され、定着ニップ部Nや転写ニップ部Tに伝わるAC波形成分は小さくなる。その一方で、フィルム23内のインピーダンスが低いため、記録材Pが定着ニップ部Nに突入した時に転写電圧Vtがドロップしやすいという課題がある。なお、導電板26を用いずに、フィルム23の内面やコーティングガラス34の表面を接地(又は低抵抗を介して接地)させた場合も同様の現象が生じる。合成インピーダンスZ2の絶対値は以下の式(2)で表される。
【0037】
【0038】
上記と同様にRpは120MΩとして、本実施例のような熱伝導性を上げたフィルム23(容量成分C23が1000pF)を用いた場合、C23のインピーダンスは無視できるほど小さく、Z2は約120MΩとなる。一方、転写電源61は転写プロセスにおいて転写ニップ部Tに一定の電流が流れるように定電流制御を行っている。転写ニップ部Tに流れる電流の目標値を50μAに設定して制御を行う場合、転写電圧Vtは転写ローラ5の抵抗成分Rtの20MΩを掛けて次の式(3)で表される。
Vt=50[μA]×20[MΩ]=1000[V] ・・・(3)
【0039】
この状態で記録材Pが定着ニップ部Nに突入すると、転写ニップ部Tでは上記の合成インピーダンスZ2と転写ローラ5の抵抗成分Rtが並列に見えてしまい、これらの合成インピーダンスは、次の式(4)で表される。
Z2//Rt=(Z2×Rt)/(Z2+Rt)≒17MΩ ・・・式(4)
【0040】
転写ニップ部Tでは50μAで定電流制御を行っているため、このとき転写電圧Vtは、次の式(5)から850Vとなる。
Vt=50[μA]×17[MΩ]=850[V] ・・・式(5)
【0041】
つまり、定着ニップ部突入前の転写電圧Vtの値1000Vに対し150Vドロップした電圧が印加されることになり、転写抜け(転写不良)を起こしてしまう可能性がある。そこで、従来はフィルム23の絶縁性を高めて転写抜けを抑制していたが、その代わりにフィルム23の熱伝導性を高めることが難しくなっていた。本実施例では、熱伝導性を高めたフィルム23を用いるとともに、定着装置内のインピーダンスを下げることもないため、上記のような転写抜けを発生させることなく、ACバンディング対策を行うことが可能である。
【0042】
(導電板に印加する交流電源)
本実施例の交流電源70が導電板26に印加する交流電圧について、
図12、
図13を用いて説明する。まず商用電源65の電圧に対し、感電に対する基礎的な絶縁が可能な抵抗101を用いる。かつ、抵抗101及び抵抗102で商用電源65の電圧Vacを分圧して+Vcc、-Vee以下の電圧V’とし、両電源オペアンプ106に入力する。その際+Vccは不図示のダイオードブリッジなどを用いて生成し、-Veeは不図示の不電源出力のDCコンバータなどを用いて生成する。次に抵抗103と抵抗104の値を揃えることにより、V’の位相を反転した電圧を出力してゲイン-1の反転増幅器105を形成する。つまり、本実施例における交流電源70とは、商用電源65から供給される電圧によって駆動され、商用電源65とは逆位相かつ同周波数の電圧Vbを出力する回路を指す。一方、発熱抵抗体33については、不図示のCPUがトライアック68をオンオフ制御することで商用電源65から発熱抵抗体33への電力供給の通電/遮断を切り替えている。
【0043】
図13に発熱抵抗体33に印加される商用電源65の電圧Vac、導電板26に印加される交流電源70の電圧Vb、及びフィルム23の外面に発生する電圧Vfの波形を示す。反転増幅器105により商用電源65と逆位相の電圧Vbを導電板26に印加することにより、フィルム23外面に誘起される電圧Vfが小さくなる、即ち、及び記録材Pを介して転写電圧Vtに重畳されるAC波形成分が小さくなることが分かる。つまり、本実施例の構成により、ACバンディングを効果的に抑制できることが分かる。
【0044】
なお、本実施例では商用電源65と逆位相の電圧を導電板26に印加する電圧印加手段として、オペアンプを用いた反転増幅器105を含む交流電源70を用いたが、他の回路構成により同様の逆位相電圧を生成してもよい。
【実施例2】
【0045】
実施例2に係る定着装置について、
図14~
図16を用いて説明する。
図14は実施例2におけるヒータ22の駆動回路構成を表す。
図15(a~e)は実施例2におけるヒータ22に印加される交流電圧の生成過程を説明するためのグラフである。
図16(a~c)は本実施例においてフィルム23外面に誘起される電圧Vfについて説明するためのグラフである。ヒータ22の駆動回路の構成を除き、実施例2におけるプリンタ1及び定着装置2は実施例1と同様の構成を採用するため、実施例1と共通の参照符号を付して説明を省略する。
【0046】
実施例1との主たる相違点は、導電板26に印加する電圧の周波数を商用電源65と異なる周波数としている点である。
【0047】
図14及び
図15(a~e)を用いて本実施例の電圧印加回路の説明をする。商用電源65の交流電圧V1(
図15(a))のゼロクロス点をゼロクロス検知回路205が検知し、同時にフォトカプラ203で一次と二次の絶縁を取り、ゼロクロス信号V23(
図15(b))をCPU204に入力する。一方、画像形成装置の電源スイッチ201が投入されると、電源オン信号V22がCPU204に入力される。CPU204は電源オン信号V22(
図15(c))が立ち上がってから次のゼロクロス信号V23の立ち上がりまでの時間t1及び一定の時間t2経過後に三角波起動信号V24を立ち上げる(
図15(d))。
【0048】
三角波起動信号V24が三角波起動回路221に入力されてロードスイッチ222がオンになると、電源電圧+Vccが三角波生成部220に入力され、三角波生成部220が三角波V26(
図15(e))を生成する。ここで、コンデンサ224でカップリングしV26を生成するとともに付加的な絶縁を確保し、導電板26と回路の絶縁を行う。三角波V26は商用電源周波数よりも高周波のため、容量が小さいコンデンサ224でカップリング及び絶縁を行うことができる。以上のように、商用電源65の交流電圧V1の立ち上がりから時間t2経過後に三角波V26が導電板26に印加される。三角波起動回路221及び三角波生成部220からなる交流電源70Aは、本実施例の電圧印加手段として機能する。
【0049】
図16(a)は商用電源65の交流電圧V1を表し、
図16(b)は導電板26に印加される三角波V26を表し、
図16(c)はフィルム23外面に誘起される電圧Vfを表している。本実施例では商用電源65のピーク電圧が三角波V26によって抑えられるように時間t2を商用電源65の電源周波数周期の1/4周期分とし、かつ三角波V26を商用電源65の3倍の周波数となるように三角波生成部220で設定した。
【0050】
このように重畳する波(ここでは三角波)を基準となる周波数(商用電源)の奇数倍の周波数に設定し、かつ時間t2を調整することで、合成波であるAC波形成分(Vf)の最大振幅(ピークトゥピーク値)を抑制する。言い換えると、商用電源65から供給される交流電圧V1がピーク値となる各時点で、基板22aに印加される交流電圧(V26)はV1とは反対極性の電圧値となるように、V26の周波数及び位相が設定されている。これにより、ACバンディングを顕在化しにくくすることができる。
【0051】
なお、本実施例において、フォトカプラ203のフォトトランジスタ側から三角波生成部220の出力側までの回路が二次回路となっているため、より安全性に優れている。また、本実施例では商用電源65とは別の付加的な電源を使用せずに導電板26に印加する電圧を生成しているため、簡易な構成でACバンディング対策を行うことができる。
【0052】
なお、本実施例では交流電圧として比較的簡易に生成できる三角波を採用し、また三角歯の周波数を商用電源の周波数の3倍に設定したが、他の波形や周波数を採用してもよい。また、ヒータ22の基板22aに重畳する交流電圧の波形を、例えばコンバータ回路及びインバータ回路によって商用電源から直接生成してもよい。
【0053】
以上説明した実施例1、2によれば、導電板26に、発熱抵抗体33に印加される商用電源65とは異なる交流成分を持った電圧を印加する。これにより、定着装置2のヒータ22に印加される交流電圧に起因し、記録材Pを介して転写電圧Vtに重畳されるAC波形成分(Vf)を低減できるため、ACバンディングの発生を抑制することが可能となる。
【0054】
なお、実施例1、2では導電部材の例として板状の導電板26を例示したが、より薄く柔軟性を有するシート状の部材(例えば、鉄合金又はアルミのシート材)であってもよい。実施例1、2ではヒータ22を商用電源65に接続する簡易な構成を採用しているが、ヒータ22が商用電源とは異なる交流電源から給電されて発熱する構成でも本技術の構成は適用可能である。
【0055】
(その他の実施形態)
以上、例示的な実施形態により本開示に係る技術を説明したが、ここに挙げた実施形態は例示に過ぎない。即ち、実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、配置並びに装置の動作態様等は、本技術が適用される条件により適宜変更されるべきものであり、特許請求の範囲に記載された内容は実施形態に限定して解釈すべきものではない。
【符号の説明】
【0056】
1:画像形成装置(プリンタ)/2:定着装置/5:転写手段(転写ローラ)/22:ヒータ/23:フィルム/24:加圧部材(加圧ローラ)/26:導電板(導電部材)/33:発熱抵抗体/34:絶縁層(ガラスコーティング)/65:交流電源(商用電源)/70,70A:電圧印加手段(交流電源)/601:像担持体(感光体)