(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】記録媒体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B41M 5/50 20060101AFI20240422BHJP
B41M 5/52 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
B41M5/50 120
B41M5/52 100
(21)【出願番号】P 2020114745
(22)【出願日】2020-07-02
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】荒木 和彦
(72)【発明者】
【氏名】野口 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】竹田 翔一
(72)【発明者】
【氏名】宮本 洋雄
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-011485(JP,A)
【文献】特開2004-330435(JP,A)
【文献】特開2003-094800(JP,A)
【文献】特開2004-074534(JP,A)
【文献】特開2010-100045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/50-5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その表面のマルテンス硬さが30N/mm
2以上
59N/mm
2
以下の支持体と、前記支持体の表面上に設けられたインク受容層と、を有する記録媒体であって、
すべての端面が、傾斜刃面を有する片刃型の断裁刃の前記傾斜刃面が当接した状態で、前記インク受容層の表面側から断裁されて形成された断裁端面であり、
前記インク受容層の表面と、前記断裁端面を構成する、前記支持体に含まれるマルテンス硬さが最も大きい層の端面との交差角である断裁角度が、94°以上130°以下であることを特徴とする記録媒体。
【請求項2】
前記支持体が、ポリエチレンテレフタレート層を含む請求項1に記載の記録媒体。
【請求項3】
前記支持体が、前記インク受容層が設けられる表面側から、前記ポリエチレンテレフタレート層、第1ポリエチレン層、基紙、及び第2ポリエチレン層の順に積層された積層体であり、
前記インク受容層の表面と、前記断裁端面を構成する、前記ポリエチレンテレフタレート層の端面との交差角である断裁角度Aが、95°以上125°以下であり、
前記インク受容層の表面と、前記断裁端面を構成する、前記基紙の端面との交差角である断裁角度Bが、95°以上110°以下である請求項2に記載の記録媒体。
【請求項4】
前記断裁角度Aに対する、前記断裁角度Bの比(B/A)の値が、0.89以上0.98以下である請求項3に記載の記録媒体。
【請求項5】
前記支持体の表面のマルテンス硬さが、35N/mm
2以上
59N/mm
2以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の記録媒体。
【請求項6】
前記支持体の表面のマルテンス硬さが、40N/mm
2
以上55N/mm
2
以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の記録媒体。
【請求項7】
前記インク受容層の表面と、前記支持体に含まれるマルテンス硬さが最も大きい層の端面との交差角である断裁角度が、103°以上107°以下である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の記録媒体。
【請求項8】
前記インク受容層が、無機粒子及びバインダを含有する請求項1乃至
7のいずれか1項に記載の記録媒体。
【請求項9】
その表面のマルテンス硬さが30N/mm
2以上
59N/mm
2
以下の支持体と、前記支持体の表面上に設けられたインク受容層と、を有する積層体を準備する工程と、
傾斜刃面を有する片刃型の断裁刃を使用して前記積層体を断裁し、所定の大きさの記録媒体を得る工程と、を有し、
得られる前記記録媒体のすべての端面が、前記断裁刃の前記傾斜刃面が当接した状態で、前記インク受容層の表面側から断裁されて形成された断裁端面であり、
前記インク受容層の表面と、前記断裁端面を構成する、前記支持体に含まれるマルテンス硬さが最も大きい層の端面との交差角である断裁角度が、94°以上130°以下であることを特徴とする記録媒体の製造方法。
【請求項10】
前記傾斜刃面の傾斜角度が21°以上25°以下である前記断裁刃を使用する請求項
9に記載の記録媒体の製造方法。
【請求項11】
前記傾斜刃面の傾斜角度が22°以上24°以下である前記断裁刃を使用する請求項9に記載の記録媒体の製造方法。
【請求項12】
前記支持体が、ポリエチレンテレフタレート層を含む請求項
9乃至11のいずれか1項に記載の記録媒体の製造方法。
【請求項13】
前記支持体が、前記インク受容層が設けられる表面側から、前記ポリエチレンテレフタレート層、第1ポリエチレン層、基紙、及び第2ポリエチレン層の順に積層された積層体であり、
前記インク受容層の表面と、前記断裁端面を構成する、前記ポリエチレンテレフタレート層の端面との交差角である断裁角度Aが、95°以上125°以下であり、
前記インク受容層の表面と、前記断裁端面を構成する、前記基紙の端面との交差角である断裁角度Bが、95°以上110°以下である請求項
12に記載の記録媒体の製造方法。
【請求項14】
前記断裁角度Aに対する、前記断裁角度Bの比(B/A)の値が、0.89以上0.98以下である請求項
13に記載の記録媒体の製造方法。
【請求項15】
前記支持体の表面のマルテンス硬さが、35N/mm
2以上
59N/mm
2以下である請求項
9乃至
14のいずれか1項に記載の記録媒体の製造方法。
【請求項16】
前記支持体の表面のマルテンス硬さが、40N/mm
2
以上55N/mm
2
以下である請求項9乃至14のいずれか1項に記載の記録媒体の製造方法。
【請求項17】
前記支持体に含まれるマルテンス硬さが最も大きい層の端面との交差角である断裁角度が、103°以上107°以下である請求項9乃至16のいずれか1項に記載の記録媒体の製造方法。
【請求項18】
前記インク受容層が、無機粒子及びバインダを含有する請求項
9乃至
17のいずれか1項に記載の記録媒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
記録媒体は、断裁刃を備えた断裁機を使用し、原紙である大判の記録媒体を所定の大きさに断裁することで製造される。このような断裁機に備わる断裁刃としては、通常、被断裁物である原紙(記録媒体)の表面と直交する刃面(垂直刃面)と、この垂直刃面に所定の傾斜角度で交差する傾斜刃面とを有する、いわゆる片刃が用いられている。
【0003】
このような片刃型の断裁刃で原紙を断裁して得られる記録媒体は、一方の断裁面が垂直刃面で断裁された面であり、他方の断裁面が傾斜刃面で断裁された面である。すなわち、垂直刃面で断裁された記録媒体の端面の微細形状は、傾斜刃面で断裁された記録媒体の端面の微細形状と相違する。例えば、カッター刃の裏面(垂直刃面に相当する刃面)で断裁された端部を有する、端部におけるインク受理層の剥離を抑制したインクジェット用の記録シートが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インクジェット記録方法に用いられる記録媒体に対しては、高い平滑性を有することが求められている。平滑性の高い記録媒体には、立体感や奥行き感などの視認性が向上した画像を記録することができるため、写真展示会などで好ましく用いられる。平滑性の高い記録媒体を提供する方法としては、平滑性の高い延伸フィルムなどの硬い支持体を用いる方法がある。
【0006】
しかし、特許文献1で提案されたような、カッター刃の裏面(片刃の垂直刃面)によって延伸フィルムなどの硬い支持体を備えた記録媒体を断裁すると、得られる記録媒体の端面においてインク受容層が剥離したり、紙粉が発生したりすることが判明した。このように記録媒体に画像を記録すると、インク受容層が剥離した箇所ではインクが吸収されにくくなるので、画像に白点などの不具合が生ずることがある。
【0007】
また、このような記録媒体をインクジェット記録装置の給紙部からインク付与部へと搬送(給紙)すると、位置決め部材や搬送部材との接触によって、記録媒体の端面に付着していたインク受容層の剥離片や紙紛が脱落することがある。インクジェット記録装置の給紙部では、記録媒体と搬送部材などの各部材との摩擦力を利用することで、積層した記録媒体の分離や給紙を行っている。しかし、これらの部材に脱落したインク受容層の剥離片や紙粉が付着すると摩擦力が失われていまい、正確に給紙されなくなる場合がある。また、インク受容層の剥離片や紙粉が記録媒体の記録媒体に付着した状態のまま画像を記録すると、記録後に紙粉などが脱落して画像に白点が生じてしまい、画像の品位が低下することがあった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、インク受容層の剥離や紙紛の脱落が抑制され、インクジェット記録装置での給紙が容易であるとともに、白点の入らない高品位な画像を記録可能な記録媒体を提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記の記録媒体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明によれば、その表面のマルテンス硬さが30N/mm2以上59N/mm
2
以下の支持体と、前記支持体の表面上に設けられたインク受容層と、を有する記録媒体であって、すべての端面が、傾斜刃面を有する片刃型の断裁刃の前記傾斜刃面が当接した状態で、前記インク受容層の表面側から断裁されて形成された断裁端面であり、前記インク受容層の表面と、前記断裁端面を構成する、前記支持体に含まれるマルテンス硬さが最も大きい層の端面との交差角である断裁角度が、94°以上130°以下であることを特徴とする記録媒体が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インク受容層の剥離や紙紛の脱落が抑制され、インクジェット記録装置での給紙が容易であるとともに、白点の入らない高品位な画像を記録可能な記録媒体を提供することができる。また、本発明によれば、上記の記録媒体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の記録媒体の一実施形態を模式的に示す部分断面図である。
【
図3】片刃型の断裁刃を使用して積層体を断裁する状態の一例を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、さらに本発明を詳細に説明する。硬度の高い支持体の表面上にインク受容層を設けた記録媒体を断裁する場合、断裁刃の進入によって支持体及びインク受容層に強い歪みが生ずる。これにより、脆いインク受容層にひび割れが生じてしまい、支持体から剥離しやすくなることが、本発明者らの検討の結果、判明した。
【0013】
上記のような技術課題を解決すべく、本発明者らは、支持体の硬さ、断裁刃の刃面、断裁刃の角度、及び断裁時の記録媒体の向き(表裏面)などについて種々検討した。
その結果、以下に示す(i)~(iii)の構成とすることで、インク受容層の剥離や紙紛の脱落が抑制され、インクジェット記録装置での給紙が容易であるとともに、白点の入らない高品位な画像を記録可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
(i)その表面のマルテンス硬さが30N/mm2以上の支持体と、支持体の表面上に設けられたインク受容層と、を有する記録媒体である。
(ii)記録媒体のすべての端面が、傾斜刃面を有する片刃型の断裁刃の傾斜刃面が当接した状態で、インク受容層の表面側から断裁されて形成された断裁端面である。
(iii)インク受容層の表面と、断裁端面を構成する、支持体に含まれるマルテンス硬さが最も大きい層の端面との交差角である断裁角度が、94°以上130°以下である。
【0014】
片刃型の断裁刃を用いて表面のマルテンス硬さが30N/mm2以上の支持体を断裁する場合、断裁刃は、その傾斜刃面に沿って支持体に進入する。これにより、支持体及びインク受容層に対する応力や物理的歪みが緩和される。また、表面のマルテンス硬さが30N/mm2以上の支持体とすることで、インク受容層の角が潰されることによる支持体からのインク受容層の剥離が生じにくくなると考えられる。
【0015】
断裁刃は、その傾斜刃面に沿って支持体に進入する。これにより、インク受容層の表面側から断裁刃を進入させて断裁する場合、インク受容層の表面と、断裁端面を構成する、支持体に含まれるマルテンス硬さが最も大きい層の端面との交差角である断裁角度は、鈍角(90°超)となる。さらに、支持体表面のマルテンス硬さが30N/mm2以上であると、断裁刃の進入時に刃の先端に生ずる抵抗が大きくなるので、断裁角度は94°以上となる。そして、形成される断裁端面におけるインク受容層と支持体との接着面積が増加し、インク受容層の剥離が抑制されると考えられる。
【0016】
なお、複数の層が積層された積層体である支持体を断裁する場合、支持体に含まれる最も硬い層の断裁角度が、断裁刃の抵抗によって最も大きくなる。これにより、断裁角度がより小さくなる基紙を断裁する際に、傾斜刃面が基紙を構成する繊維を引き摺りにくくなり、紙粉やバリの発生を抑制することができる。さらに、支持体が(i)延伸フィルム単体、又は(ii)延伸フィルムを樹脂ラミネートした積層体である場合には、断裁によって紙粉が生ずることもない。
【0017】
<記録媒体>
図1は、本発明の記録媒体の一実施形態を模式的に示す部分断面図である。
図1に示すように、本実施形態の記録媒体100は、その表面のマルテンス硬さが30N/mm
2以上の支持体30と、この支持体30の表面上に設けられたインク受容層40とを有する、インクジェット記録用として好適な記録媒体である。
図2は、片刃型の断裁刃の一例を示す模式図である。
図1及び2に示すように、記録媒体100のすべての端面は、傾斜刃面2を有する片刃型の断裁刃10の傾斜刃面2が当接した状態で、インク受容層40の表面側から断裁されて形成された断裁端面15である。そして、インク受容層40の表面と、断裁端面15を構成する、支持体30に含まれるマルテンス硬さが最も大きい層の端面との交差角である断裁角度は、94°以上130°以下である。なお、本明細書における「記録媒体」には、画像記録前の記録媒体だけでなく、画像記録後の記録媒体も含まれる。
【0018】
(支持体)
支持体の表面のマルテンス硬さは、30N/mm2以上であり、好ましくは35N/mm2以上65N/mm2以下である。表面のマルテンス硬さが30N/mm2以上の支持体とすることで、断裁刃の進入時に刃の先端に生ずる抵抗を適度に大きくすることが可能となり、断裁角度を所定の範囲とすることができる。本明細書における「マルテンス硬さ」は、ISO 14577-1に準拠して測定される値をいう。
【0019】
インク受容層の表面と、断裁端面を構成する、支持体に含まれるマルテンス硬さが最も大きい層の端面との交差角である断裁角度は、94°以上130°以下であり、好ましくは99°以上120°以下である。断裁角度を上記の範囲とすることで、前述の通り、断裁端面におけるインク受容層と支持体との接着面積が増加するので、インク受容層の剥離を抑制することができる。なお、断裁角度は、光学顕微鏡によって断裁端面を観察して測定することができる。
【0020】
支持体は、インク受容層が設けられる表面のマルテンス硬さが30N/mm2以上である限り、単一の材料で構成される単層体であってもよく、複数の層が積層された積層体であってもよい。以下、支持体の層構成などについて説明する。
【0021】
[延伸フィルム層]
支持体は、延伸フィルムによって形成される、平滑性に優れた延伸フィルム層を含むことが好ましい。延伸フィルムを用いることで、支持体の表面を平滑にすることが可能となり、写像性に優れた記録媒体とすることができる。延伸フィルム層は、透明であっても、不透明であってもよい。また、延伸フィルム層は着色されていてもよい。すなわち、延伸フィルム層は顔料などの着色剤を含んでいてもよい。さらに、延伸フィルム層は空隙を含んでいてもよい。また、延伸フィルム層は多層構造を有していてもよい。延伸フィルム層を形成するための延伸フィルムとしては、一軸延伸樹脂フィルムや二軸延伸樹脂フィルムを用いることができる。より具体的には、縦方向及び横方向のそれぞれの延伸倍率が2倍以上10倍以下の二軸延伸樹脂フィルムが好ましい。
【0022】
延伸フィルムの構成材料としては、熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン樹脂(AS)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などを挙げることができる。延伸フィルムは、白色度を調整するために、無機微粒子、有機微粒子、蛍光増白剤などを含んでもよい。さらに、延伸フィルムは、帯電防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、軟化剤、スリップ防止剤などの添加物を含んでもよい。
【0023】
延伸フィルム層を形成するための延伸フィルムとしては、二軸延伸ポリエステルフィルムが好ましい。二軸延伸ポリエステルフィルムは耐熱性が比較的高く、基紙との貼り合わせ加工時やインク受容層形成時の熱変形が少ないため、平滑性を高めることができる。
【0024】
[基紙]
支持体は、基紙を含むことが好ましい。基紙としては、パルプを含むシート状の基紙を用いることができる。パルプとしては、天然パルプ、再生パルプ、合成パルプなどを1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。基紙には、パルプ以外にも、一般的に製紙で用いられるサイズ剤、紙力増強剤、填料、帯電防止剤、蛍光増白剤、染料などの添加剤が含まれていてもよい。基紙の表面には、表面サイズ剤、表面紙力剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、染料、アンカー剤などが塗工されていてもよい。
【0025】
基紙は、表面平滑性の観点から、紙を抄造中又は抄造後に、カレンダーなどにより圧力が付与されて圧縮されるなどの表面処理が施された基紙であることが好ましい。JIS P 8118:2014で規定される基紙の紙密度は、0.6g/cm3以上1.2g/cm3以下であることが好ましく、0.7g/cm3以上1.2g/cm3以下であることがさらに好ましい。
【0026】
基紙は、その表面に塗工層が形成されていることが、平滑性の観点から好ましい。塗工層は、例えば、接着剤と、必要に応じて配合される顔料とを含有する。接着剤としては、例えば、スチレン-ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート-スチレン-ブタジエン共重合体、酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂などの重合体又は共重合体のエマルジョンを1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。さらに、ポリビニルアルコール、澱粉、カゼインなどの水溶性高分子接着剤を用いることができる。また、トルエンなどの有機溶剤に可溶な高分子接着剤を用いることもできる。
【0027】
顔料としては、印刷用コート紙などに一般的に用いられる、カオリンなどの各種のクレー、炭酸カルシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、サチンホワイト、タルク、亜硫酸カルシウム、焼成クレー、微粉末シリカ、有機フィラーなどの白色顔料を挙げることができる。また、塗工層は、消泡剤、分散剤、導電剤、濡れ剤などを適宜含有してもよい。
【0028】
[接着層]
延伸フィルム層と基紙とを張り合わせた支持体を用いる場合、延伸フィルム層と基紙との間に接着層を設けることが、延伸フィルム層の基紙への接着性が向上するために好ましい。延伸フィルム層を基紙に貼り合わせる方法としては、例えば、ドライラミネート法、両面粘着剤シートを介して貼り合わせる方法、押出サンドウィッチラミネーション法などを挙げることができる。なかでも、押出サンドウィッチラミネーション法によって延伸フィルム層を基紙に貼り合わせることが、平滑性をより高めることができるために好ましい。
【0029】
接着層は、接着性を有する樹脂で形成することが好ましい。接着層を形成する樹脂としては、生産性及びコストの観点から、ポリオレフィンが好ましい。本明細書における「ポリオレフィン」とは、モノマーとしてオレフィンを用いて得られる重合体を意味する。具体的には、エチレン、プロピレン、イソブチレンなどの単独重合体や共重合体を挙げることができる。なかでも、低密度ポリエチレン(LDPE)や高密度ポリエチレン(HDPE)などのポリエチレンが好ましい。ポリオレフィンの密度は、0.85g/cm3以上0.98g/cm3以下であることが好ましく、0.90g/cm3以上0.95g/cm3以下であることがさらに好ましい。
【0030】
接着層の厚さは、5μm以上100μm以下であることが好ましく、10μm以上60μm以下であることが好ましい。ポリオレフィンで接着層を形成する場合、ポリオレフィンの融点が低いほどラミネート温度を下げることができ、延伸フィルム層の熱収縮を抑制することができる。その結果、支持体がカールするのを抑制することができる。ポリオレフィンの融点は、80℃以上160℃以下であることが好ましく、95℃以上140℃以下であることがさらに好ましい。
【0031】
接着層を形成する樹脂として、ポリオレフィンと、ポリオレフィン以外の熱可塑性樹脂とを併用することもできる。ポリオレフィン以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリウレタン系樹脂などを挙げることができる。また、接着層は、白色度を調整するために、無機微粒子、有機微粒子、蛍光増白剤などを含んでもよい。さらに、接着層は、帯電防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、光安定剤などの添加物を含んでもよい。
【0032】
[裏面樹脂層]
基紙の一方の面上にのみ延伸フィルム層が配置されている場合、支持体のカールを抑制する観点から、基紙の他方の面(裏面)上に裏面樹脂層を設けることが好ましい。裏面樹脂層を形成する樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体などを挙げることができ、なかでもポリオレフィン樹脂が好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを挙げることができ、なかでも、低密度ポリエチレン(LDPE)や高密度ポリエチレン(HDPE)などのポリエチレンが好ましい。裏面樹脂層の厚さは、20μm以上60μm以下であることが好ましく、35μm以上50μm以下であることがさらに好ましい。
【0033】
図1に示すように、本実施形態の記録媒体100を構成する支持体30は、ポリエチレンテレフタレート層32を含むことが好ましい。さらに、支持体30は、インク受容層40が設けられる表面側から、ポリエチレンテレフタレート層32、第1ポリエチレン層34、基紙36、及び第2ポリエチレン層38の順に積層された積層体であることが好ましい。また、インク受容層40の表面と、断裁端面15を構成する、ポリエチレンテレフタレート層32の端面との交差角である断裁角度Aが、95°以上125°以下であることが好ましく、99°以上120°以下であることがさらに好ましい。そして、インク受容層40の表面と、断裁端面15を構成する、基紙36の端面との交差角である断裁角度Bが、95°以上110°以下であることが好ましく、97°以上107°以下であることがさらに好ましい。支持体の層構成を上記のようにするとともに、断裁角度A及び断裁角度Bをそれぞれ上記の範囲内とすることで、インク受容層の剥離や紙紛の脱落をさらに抑制することができる。
【0034】
また、断裁角度Aに対する、断裁角度Bの比(B/A)の値は、0.89以上0.98以下であることが好ましく、0.92以上0.97以下であることがさらに好ましい。B/Aの値を上記の範囲内とすることで、インク受容層の剥離や紙紛の脱落をさらに抑制することが可能となり、インクジェット記録装置での給紙がさらに容易であるとともに、より高品位な画像を記録可能な記録媒体とすることができる。
【0035】
(インク受容層)
前述の支持体の表面は凹凸が少ないため、この支持体の表面上に設けられるインク受容層の表面における凹凸も抑制されうる。このため、本発明の記録媒体は、紙の風合いが維持されているとともに、高い写像性を有する。インク受容層は、単層であっても、2層以上の複層であってもよい。インク受容層は、支持体の一方の表面のみに設けられてもよく、他方の表面(裏面)にさらに設けられてもよい。インク受容層の厚さは、15μm以上60μm以下であることが好ましく、30μm以上45μm以下であることがさらに好ましい。
【0036】
[無機粒子]
インク受容層は、無機粒子を含有することが好ましい。無機粒子の平均一次粒子径は、50nm以下であることが好ましく、1nm以上30nm以下であることがさらに好ましく、3nm以上10nm以下であることが特に好ましい。無機粒子の平均一次粒子径は、電子顕微鏡で観察したときの無機粒子の一次粒子の投影面積と等しい面積を有する円の直径の数平均(100点以上の平均値)である。
【0037】
インク受容層中の無機粒子の含有量(質量%)は、インク受容層全質量を基準として、50.0質量%以上98.0質量%以下であることが好ましく、70.0質量%以上96.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0038】
インク受容層は、例えば、インク受容層に含有される材料を含む塗工液を調製し、調製した塗工液を塗工及び乾燥することで形成することができる。無機粒子は、分散剤によって分散されている状態で、インク受容層用の塗工液に用いられることが好ましい。分散状態での無機粒子の平均二次粒子径は、0.1nm以上500nm以下であることが好ましく、1nm以上300nm以下であることがさらに好ましく、10nm以上250nm以下であることが特に好ましい。分散状態での無機粒子の平均二次粒子径は、動的光散乱法により測定することができる。
【0039】
インク受容層を形成する際に塗布する無機粒子の塗布量(g/m2)は、8g/m2以上45g/m2以下であることが好ましい。無機粒子の塗布量を上記の範囲とすることで、好ましい膜厚のインク受容層を容易に形成することができる。
【0040】
無機粒子としては、アルミナ水和物、アルミナ、シリカ、コロイダルシリカ、二酸化チタン、ゼオライト、カオリン、タルク、ハイドロタルサイト、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウムなどを挙げることができる。なかでも、インク吸収性に優れた多孔質構造を形成しうる、シリカ、アルミナ、アルミナ水和物が好ましい。
【0041】
[1]シリカ
シリカは、その製法により湿式法と乾式法(気相法)に大別される。湿式法としては、ケイ酸塩の酸分解により生成した活性シリカを適度に重合させ、凝集沈降させて含水シリカを得る方法が知られている。一方、乾式法(気相法)としては、ハロゲン化珪素の高温気相加水分解による方法(火炎加水分解法)や、ケイ砂とコークスとを電気炉中でアークによって加熱還元気化し、これを空気で酸化する方法(アーク法)によって無水シリカを得る方法が知られている。なかでも、乾式法(気相法)により得られるシリカ(気相法シリカ)を用いることが好ましい。気相法シリカは比表面積が特に大きいので、インクの吸収性を向上させることができる。また、気相法シリカは屈折率が低いので、インク受容層の透明性を高めることができ、画像の発色性をより向上させることができる。気相法シリカの市販品としては、以下商品名で、アエロジル(日本アエロジル製);レオロシールQSタイプ(トクヤマ製)などを挙げることができる。
【0042】
BET法により算出される気相法シリカの比表面積は、50m2/g以上400m2/g以下であることが好ましく、200m2/g以上350m2/g以下であることがさらに好ましい。BET法は、気相吸着法による粉体の表面積測定法の一種であり、吸着等温線から1gの試料の総表面積、すなわち比表面積を求める方法である。BET法では、通常、吸着気体として窒素ガスが用いられ、吸着量を被吸着気体の圧力又は容積の変化から測定する方法が最も多く用いられる。この際、多分子吸着の等温線を表すものとして最も著名なものは、Brunauer、Emmett、Tellerの式であって、BET式と呼ばれ、比表面積決定に広く用いられている。BET法では、BET式に基づいて吸着量を求め、吸着分子1個が表面で占める面積を掛けることにより比表面積を得ることができる。BET法では、窒素吸着脱離法の測定において、ある相対圧力における吸着量の関係を数点測定し、最小二乗法によりそのプロットの傾き、切片を求めることで比表面積を導き出す。本発明では、相対圧力と吸着量の関係を5点測定し、比表面積を導き出す。
【0043】
気相法シリカは、分散剤で分散された状態でインク受容層用の塗工液に用いられることが好ましい。
【0044】
[2]アルミナ
アルミナとしては、γ-アルミナ、α-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナ、χ-アルミナなどを挙げることができる。なかでも、画像の光学濃度やインク吸収性の観点から、γ-アルミナが好ましい。γ-アルミナとしては、気相法アルミナを用いることが好ましい。気相法アルミナの市販品としては、以下商品名で、AEROXIDE;Alu C、Alu130、Alu65(以上、EVONIK製)などを挙げることができる。
【0045】
BET法により算出される気相法アルミナの比表面積は、50m2/g以上150m2/g以下であることが好ましく、80m2/g以上120m2/g以下であることがさらに好ましい。
【0046】
[3]アルミナ水和物
アルミナ水和物は、下記一般式(X)で表されるものが好ましい。
Al2O3-n(OH)2n・mH2O ・・・(X)
【0047】
一般式(X)中、nは0~3の整数であり、mは0~10、好ましくは0~5である。但し、mとnが同時に0となる場合はない。mH2Oは、多くの場合、結晶格子の形成に関与しない脱離可能な水相を表す。このため、mは整数でなくてもよい。アルミナ水和物を加熱すると、mが0となる場合がある。
【0048】
アルミナ水和物の結晶構造としては、熱処理する温度に応じて、非晶質、ギブサイト型、及びベーマイト型などがある。アルミナ水和物の結晶構造は、X線回折法により分析することができる。アルミナ水和物としては、ベーマイト型のアルミナ水和物、又は非晶質のアルミナ水和物が好ましい。アルミナ水和物の具体例としては、特開平7-232473号公報、特開平8-132731号公報、特開平9-66664号公報、及び特開平9-76628号公報などに記載されたアルミナ水和物を挙げることができる。アルミナ水和物の市販品としては、以下商品名で、Disperal HP14(以上、サソール製)などを挙げることができる。
【0049】
アルミナ水和物は、そのアスペクト比が2以上である板状のアルミナ水和物であることが好ましい。シート状のアルミナ水和物のアスペクト比は、特公平5-16015号公報に記載された方法により求めることができる。すなわち、アスペクト比は、粒子の「厚さ」に対する「直径」の比で示される。「直径」は、アルミナ水和物を電子顕微鏡で観察したときの粒子の投影面積と等しい面積を有する円の直径(円相当径)である。
【0050】
BET法により算出されるアルミナ水和物の比表面積は、100m2/g以上200m2/g以下であることが好ましく、125m2/g以上175m2/g以下であることがさらに好ましい。
【0051】
アルミナ水和物は、米国特許第4,242,271号明細書、同第4,202,870号明細書に記載されているような、アルミニウムアルコキシドを加水分解する方法やアルミン酸ナトリウムを加水分解する方法などの公知の方法で製造することができる。また、特公昭57-447605号公報に記載されているような、アルミン酸ナトリウムなどの水溶液に、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウムなどの水溶液を加えて中和する方法などの公知の方法でも製造することができる。
【0052】
アルミナ水和物及びアルミナは、分散剤で分散された水分散液の状態でインク受容層用の塗工液に混合されることが好ましく、分散剤として酸を用いることが好ましい。酸としては、下記一般式(Y)で表されるスルホン酸を用いることが、画像の滲みを抑制する効果が得られるため好ましい。
R-SO3H ・・・(Y)
【0053】
一般式(Y)中、Rは水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、又は炭素数1以上4以下のアルケニル基を表す。Rは、オキソ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、及びアシル基で置換されていてもよい。酸の含有量は、アルミナ水和物及びアルミナの合計の含有量に対して、1.0質量%以上2.0質量%以下であることが好ましく、1.3質量%以上1.6質量%以下であることがさらに好ましい。
【0054】
[バインダ]
インク受容層は、バインダを含有することが好ましい。バインダは、無機粒子を結着して被膜を形成しうる材料である。インク受容層中のバインダの含有量は、インク吸収性の観点から、無機粒子の含有量に対して、50.0質量%以下であることが好ましく、30.0質量%以下であることがさらに好ましい。また、インク受容層中のバインダの含有量は、インク受容層の結着性の観点から、無機粒子の含有量に対して、5.0質量%以上であることが好ましく、8.0質量%以上であることがさらに好ましい。
【0055】
バインダとしては、酸化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉などの澱粉誘導体;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体;カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白、ポリビニルアルコール、及びそれらの誘導体;ポリビニルピロリドン、無水マレイン酸樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体などの共役重合体ラテックス;アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの重合体などのアクリル系重合体ラテックス;エチレン-酢酸ビニル共重合体などのビニル系重合体ラテックス;上記の重合体のカルボキシ基などの官能基含有単量体による官能基変性重合体ラテックス;カチオン基を用いて上記の重合体をカチオン化したもの;カチオン性界面活性剤を用いて上記の重合体の表面をカチオン化したもの;カチオン性ポリビニルアルコール下で上記の重合体を構成するモノマーを重合し、重合体の表面にポリビニルアルコールを分布させたもの;カチオン性コロイド粒子の懸濁分散液中で上記の重合体を構成するモノマーを重合し、重合体の表面にカチオン性コロイド粒子を分布させたもの;メラミン樹脂、尿素樹脂などの熱硬化合成樹脂などの水性バインダ;ポリメチルメタクリレートなどのアクリル酸エステルやメタクリル酸エステルの重合体及び共重合体;ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、アルキッド樹脂などの合成樹脂を挙げることができる。
【0056】
なかでも、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルアルコール誘導体(PVA誘導体)をバインダとして用いることが好ましい。PVA誘導体としては、カチオン変性PVA、アニオン変性PVA、シラノール変性PVA、ポリビニルアセタールなどを挙げることができる。カチオン変性PVAとしては、例えば、特開昭61-10483号公報に記載されているような、ポリビニルアルコールの主鎖又は側鎖にアミノ基などを有するものが好ましい。
【0057】
ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをけん化して合成することができる。ポリビニルアルコールのけん化度は、80.0mol%以上100.0mol%以下であることが好ましく、85.0mol%以上98.0mol%以下であることがさらに好ましい。ポリビニルアルコールのけん化度は、ポリビニルアルコール中のアセチルオキシ基とヒドロキシ基の合計に対する、ヒドロキシ基の割合(mol%)である。本明細書におけるポリビニルアルコールのけん化度は、JIS K 6726:1994に準拠した方法により測定した値である。
【0058】
ポリビニルアルコールの重合度は、2,000以上であることが好ましく、2,000以上5,000以下であることがさらに好ましい。本明細書におけるポリビニルアルコールの重合度は、JIS K 6726:1994に準拠した方法により測定される粘度平均重合度である。
【0059】
インク受容層用の塗工液を調製する際には、ポリビニルアルコールやポリビニルアルコール誘導体を水溶液の状態で用いることが好ましい。水溶液中のポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール誘導体の固形分の含有量は、水溶液全質量を基準として、3.0質量%以上20.0質量%以下であることが好ましい。
【0060】
[架橋剤]
インク受容層は、架橋剤を含有することが好ましい。架橋剤としては、アルデヒド系化合物、メラミン系化合物、イソシアネート系化合物、ジルコニウム系化合物、アミド系化合物、アルミニウム系化合物、ホウ酸、及びホウ酸塩などを挙げることができる。ポリビニルアルコールやポリビニルアルコール誘導体をバインダとして用いる場合には、ホウ酸やホウ酸塩を架橋剤として用いることが好ましい。
【0061】
ホウ酸としては、オルトホウ酸(H3BO3)、メタホウ酸、ジホウ酸などを挙げることができる。ホウ酸塩としては、ホウ酸の水溶性塩が好ましい。ホウ酸の水溶性塩としては、ホウ酸のナトリウム塩やカリウム塩などのホウ酸のアルカリ金属塩;ホウ酸のマグネシウム塩やカルシウム塩などのホウ酸のアルカリ土類金属塩;ホウ酸のアンモニウム塩などを挙げることができる。なかでも、オルトホウ酸を用いることが、塗工液の経時安定性が向上するとともに、クラックの発生が抑制される点から好ましい。
【0062】
架橋剤の量は、製造条件などに応じて適宜調整することができる。インク受容層中の架橋剤の含有量は、バインダの含有量に対して、1.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以上40.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0063】
バインダがポリビニルアルコールであり、かつ、架橋剤がホウ酸及びホウ酸塩の少なくとも一方である場合を想定する。このような場合、インク受容層中のポリビニルアルコールの含有量に対する、ホウ酸とホウ酸塩の合計含有量は、5.0質量%以上30.0質量%以下であることが好ましい。
【0064】
[その他の添加剤]
インク受容層には、上述の各種成分以外のその他の添加剤を含有させてもよい。その他の添加剤としては、pH調整剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、界面活性剤、離型剤、浸透剤、着色顔料、着色染料、蛍光増白剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、耐水化剤、染料定着剤、硬化剤、耐候材料などを挙げることができる。
【0065】
(下塗り層)
支持体とインク受容層との間に、下塗り層を配置することができる。下塗り層を設けることで、支持体とインク受容層との密着性(接着性)を向上させることができる。
下塗り層は、通常、樹脂を含有する。下塗り層に用いる樹脂としては、水溶性ポリエステル樹脂、ゼラチン、ポリビニルアルコールなどを挙げることができる。下塗り層の厚さは、0.01μm以上5μm以下であることが好ましい。
【0066】
(バックコート層)
支持体のインク受容層が設けられる面と反対側の面に、ハンドリング性、搬送適性、多数枚積載での連続印字時の耐搬送擦過性を向上すべく、バックコート層を設けることが好ましい。バックコート層は、白色顔料やバインダなどを含有することが好ましい。バックコート層の厚さは、乾燥塗工量が1g/m2以上25g/m2以下となる厚さであることが好ましい。
【0067】
<記録媒体の製造方法>
本発明の記録媒体は、以下の各工程を有する製造方法にしたがって製造することができる。すなわち、本発明の記録媒体の製造方法は、所定の積層体を準備する工程(積層体準備工程)と、準備した積層体を断裁し、所定の大きさの記録媒体を得る工程(断裁工程)とを有する。
【0068】
(積層体準備工程)
積層体準備工程では、その表面のマルテンス硬さが30N/mm2以上の支持体と、支持体の表面上に設けられたインク受容層とを有する積層体を準備する。積層体準備工程は、さらに、支持体を製造する工程(支持体製造工程)と、支持体の表面上にインク受容層を設ける工程(インク受容層形成工程)とを含むことが好ましい。
【0069】
[支持体製造工程]
支持体が基紙を含む場合、この基紙を作製する方法としては、抄紙装置などを使用する一般的な抄紙方法を適用することができる。抄紙装置としては、例えば、長網抄紙機、丸網抄紙機、円胴、ツインワイヤーなどを挙げることができる。得られる基紙の表面平滑性を高めるために、抄紙工程中又は抄紙工程後に、熱及び圧力を加える表面処理を施してもよい。具体的な表面処理としては、マシンカレンダーやスーパーカレンダーなどを使用するカレンダー処理を挙げることができる。
【0070】
基紙の上に樹脂層(延伸フィルム層、接着層、裏面樹脂層)を設ける方法、すなわち、基紙を樹脂で被覆する方法としては、溶融押出法、ウェットラミネーション、ドライラミネーションなどを挙げることができる。なかでも、基紙の片面又は両面に溶融した樹脂を押し出しコーティングする溶融押出法が好ましい。例えば、搬送されてきた基紙と、押出ダイから押し出された樹脂とを、ニップローラと冷却ローラーとの間のニップ点において接触させ、ニップで圧着して樹脂層を基紙上にラミネートする方法(押出コーティング方法)が広く採用されている。溶融押出法により樹脂層を設ける際には、基紙と樹脂層がより強固に接着するように、前処理を施してもよい。前処理としては、硫酸クロム酸混液による酸エッチング処理、ガス炎による火炎処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、グロー放電処理、アルキルチタネートなどによるアンカーコート処理などを挙げることができる。なかでも、コロナ放電処理が好ましい。樹脂層に白色顔料を含有させる場合には、樹脂と白色顔料を含有する樹脂組成物で基紙を被覆すればよい。
【0071】
支持体の表面上にインク受容層を設ける前に、支持体を巻芯にロール状に巻き取ることが好ましい。巻芯の直径は、50mm以上300mm以下であることが好ましい。巻き取る際の張力は、50N/m以上800N/m以下とすることが好ましい。巻き取る際の張力は、巻き始めから巻き終わりまで一定でもよい。また、巻き始めの圧力集中を緩和するために、巻き始めから巻き終わりにかけて徐々に張力を低下させてもよい。
【0072】
[インク受容層形成工程]
インク受容層形成工程では、例えば、インク受容層用の塗工液を調製する。そして、調製した塗工液を支持体上に塗工及び乾燥することで、支持体の表面上にインク受容層を設けた積層体を得ることができる。
【0073】
支持体上に塗工液を塗布するには、ロールコーター、ブレードコーター、バーコーター、エアーナイフコーター、グラビアコーター、リバースコーター、トランスファーコーター、ダイコーター、キスコーター、ロッドコーター、カーテンコーター、エクストルージョン方式を用いたコーター、スライドホッパー方式を用いたコーターなどを用いることができる。なお、適度に加温した塗工液を塗布してもよい。
【0074】
支持体上に塗工液を塗布して形成した塗工層を乾燥することで、支持体の表面上にインク受容層を形成することができる。塗工層を乾燥するには、直線トンネル乾燥機、アーチドライヤー、エアループドライヤー、サインカーブエアフロートドライヤーなどの熱風乾燥機を使用することができる。また、赤外線、加熱ドライヤー、マイクロ波などを利用した乾燥機などを使用することもできる。
【0075】
(断裁工程)
断裁工程では、
図2に示すような、被断裁物である積層体の表面と直交する垂直刃面5と、この垂直刃面5に所定の傾斜角度で交差する傾斜刃面2とを有する片刃型の断裁刃10を使用して積層体を断裁する。使用する断裁刃10の傾斜刃面2の傾斜角度Xは、21°以上25°以下であることが好ましく、22°以上24°以下であることがさらに好ましい。傾斜刃面の傾斜角度が上記の範囲内である断裁刃を使用して積層体を断裁することで、断裁角度が所定の範囲内である記録媒体をより効率的に得ることができる。
【0076】
図3は、片刃型の断裁刃を使用して積層体を断裁する状態の一例を説明する模式図である。
図3に示すように、本実施形態の製造方法では、傾斜刃面2を、得ようとする記録媒体の側に向けた状態で、インク受容層40の表面側に断裁刃10の刃先をあてる。この状態で矢印方向に断裁刃10を移動させて、積層体20の端部を断裁して除去し、断裁端面15(
図1)を形成する。そして、すべての端面について同様に操作することで、
図1に示すような、断裁角度Aが94°以上130°以下である記録媒体100を得ることができる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは、特に断らない限り質量基準である。
【0078】
<基紙の製造>
濾水度450mLCSF(Canadian Standarad Freeness)の広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)と、濾水度480mLCSFの針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を用意した。LBKP80.0部、NBKP20.0部、カチオン化澱粉0.6部、重質炭酸カルシウム10.0部、軽質炭酸カルシウム15.0部、アルキルケテンダイマー0.1部、及びカチオン性ポリアクリルアミド0.03部を混合した。次いで、固形分の含有量が3%となるように水を添加して紙料を得た。得られた紙料を長網抄紙機で抄造し、3段のウエットプレスを行った後、多筒式ドライヤーで乾燥した。サイズプレス装置を使用し、塗工量が1.0g/m2となるように酸化澱粉水溶液を含浸させた後、乾燥した。次いで、マシンカレンダー仕上げをして、坪量170g/m2、ステキヒトサイズ度100秒、透気度50秒、ベック平滑度30秒、ガーレー剛度11.0mN、厚さ100μmの基紙を得た。
【0079】
<支持体の用意及び製造>
(支持体1)
厚さ75μmの延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム(商品名「トレファン♯30-2548」、東レ製、68g/m2)を用意し、これを「支持体1」とした。
【0080】
(支持体2)
厚さ100μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名「Melinex329」、帝人デュポンフィルム製)を用意し、これを「支持体2」とした。
【0081】
(支持体3)
厚さ100μmの二軸延伸PETフィルム(商品名「Melinex329」、帝人デュポンフィルム製)を用意した。このPETフィルムの裏面に、低密度ポリエチレン(LDPE)40部及び高密度ポリエチレン(HDPE)60部からなる樹脂組成物を、乾燥塗工量が30g/m2となるように塗工し、裏面樹脂層を形成した。裏面樹脂層が形成された面を支持体の裏面とする。さらに、PETフィルムの表面上に、乾燥塗工量が20g/m2となるようにLDPEを押出ラミネートして配設し、支持体3を得た。
【0082】
(支持体4)
基紙の裏面に、LDPE40部及びHDPE60部からなる樹脂組成物を、乾燥塗工量が40g/m2となるように塗工し、裏面樹脂層を形成した。裏面樹脂層が形成された面を支持体の裏面とする。さらに、基紙の表面上に、乾燥塗工量が20g/m2となるようにLDPEを押出ラミネートして配設した。次いで、厚さ12μmの二軸延伸PETフィルム(商品名「Melinex329」、帝人デュポンフィルム製)を、押出ラミネートされたLDPEの表面上に貼り合わせて、支持体4を得た。
【0083】
(支持体5)
厚さ36μmの二軸延伸PETフィルムを用いたこと以外は、前述の支持体4の場合と同様にして、支持体5を得た。
【0084】
(支持体6)
厚さ50μmの二軸延伸PETフィルムを用いたこと以外は、前述の支持体4の場合と同様にして、支持体6を得た。
【0085】
(支持体7)
厚さ100μmの二軸延伸PETフィルムを用いたこと以外は、前述の支持体4の場合と同様にして、支持体7を得た。
【0086】
(支持体8)
厚さ175μmの二軸延伸PETフィルムを用いたこと以外は、前述の支持体4の場合と同様にして、支持体8を得た。
【0087】
(支持体9)
厚さ250μmの二軸延伸PETフィルムを用いたこと以外は、前述の支持体4の場合と同様にして、支持体9を得た。
【0088】
(支持体10)
厚さ330μmの二軸延伸PETフィルムを用いたこと以外は、前述の支持体4の場合と同様にして、支持体10を得た。
【0089】
(支持体11)
基紙(厚さ100μm)を「支持体11」とした。
【0090】
(支持体12)
基紙の裏面に、LDPE40部及びHDPE60部からなる樹脂組成物を、乾燥塗工量が35g/m2となるように塗工し、裏面樹脂層を形成した。裏面樹脂層が形成された面を支持体の裏面とする。さらに、基紙の表面上に、乾燥塗工量が20g/m2となるようにLDPEを押出ラミネートして配設し、支持体12を得た。
【0091】
(支持体の表面のマルテンス硬さの測定方法)
微小硬さ試験機(商品名「ピコデンターHM500、フィッシャー・インストルメンツ製)を使用し、ISO 14577-1に準拠して、支持体の表面のマルテンス硬さ(HM)を測定した。結果を表1に示す。
[測定条件]
・ビッカースダイヤモンド圧子:正四角錐
・荷重:0~300mN
・印加時間:20秒
・最大荷重保持(クリープ)時間:5秒
・印加戻し時間:20秒
【0092】
【0093】
<無機粒子分散液の調製>
イオン交換水333部にメタンスルホン酸1.5部を溶解させて水溶液を調製した。調製した水溶液に、ホモミキサーを使用して3,000rpmで撹拌しながらアルミナ水和物100部を少量ずつ添加した。ホモミキサーとしては、商品名「T.K.ホモミクサーMARKII2.5型」(特殊機化工業製)を使用した。また、アルミナ水和物としては、商品名「DISPERAL HP14」(サソール製)を使用した。アルミナ水和物の添加終了後、さらに30分間撹拌して、固形分の含有量が23%の無機粒子分散液であるアルミナ水和物分散液を得た。得られたアルミナ水和物分散液中のアルミナ水和物の平均一次粒子径は、130nmであった。
【0094】
<インク受容層用の塗工液の調製>
アルミナ水和物分散液441部、ポリビニルアルコ-ル水溶液(重合度3,500、けん化度88mol%、固形分8%)125部、及びオルトホウ酸水溶液(固形分5%)20部を混合した。ポリビニルアルコ-ル水溶液としては、商品名「PVA235」(クラレ製)を使用した。固形分の含有量が18%となるように水を添加した後、界面活性剤(商品名「サーフィノール465」、日信化学工業製)を0.1%となるようにさらに添加して、インク受容層用の塗工液を得た。
【0095】
<積層体の製造>
(積層体1~12)
インク受容層用の塗工液を各支持体の表面に、乾燥塗工量が30g/m2となるように塗工して塗工層を形成した。次いで、100℃の熱風により塗工層を乾燥してインク受容層を形成し、積層体1~12を得た。
【0096】
<記録媒体の製造>
各積層体50枚を重ねてクランプ圧10kNで固定し、表2-1~2-3に示す条件で断裁して記録媒体を得た。得られた記録媒体の諸特性を表2-1~2-3に示す。断裁には、ギロチン断裁機(商品名「eRC-100DX」、イトーテック製)を使用した。光学顕微鏡を使用して得られた記録媒体の断裁端面を観察し、インク受容層の表面と、支持体に含まれる各層の端面との交差角を測定した。そして、任意の3点について測定した交差角の平均値を断裁角度(°)とした。
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
<評価>
以下に示す各項目の評価基準において、「A」、「B」、及び「C」を好ましいレベルとし、「D」及び「E」を許容できないレベルとした。評価結果を表3に示す。
【0101】
(インク受容層の耐剥離性)
記録媒体の断裁端面を目視にて確認し、以下に示す評価基準にしたがってインク受容層の耐剥離性を評価した。
A:インク受容層の剥離が認められなかった。
B:幅0.1mm以下かつ断裁端面の長さの20%以下の範囲内でインク受容層の剥離が認められた。
C:幅0.3mm以下かつ断裁端面の長さの20%以下の範囲内でインク受容層の剥離が認められた。
D:幅0.5mm未満の範囲内でインク受容層の剥離が認められた。
E:幅0.5mm以上の範囲内でインク受容層の剥離が認められた。
【0102】
(紙粉の発生しにくさ)
記録媒体(A4サイズ)50枚を重ねた積層物とし、この積層物を、高さ15cmの位置から木製の机の上に、積層物の積層端面が机上面と平行となるように自重で落下させた。四つの積層端面について各10回、計40回落下させた後、落ちた紙粉を回収した。回収した紙粉の質量を電子天秤で測定し、以下に示す評価基準にしたがって紙粉の発生しにくさを評価した。
A:紙粉の質量が0g以上0.001g未満であった。
B:紙粉の質量が0.001g以上0.002g未満であった。
C:紙粉の質量が0.002g以上0.003g未満であった。
D:紙粉の質量が0.003g以上であった。
【0103】
(本体搬送性)
インクジェット記録装置(商品名「TS9030」、キヤノン製)を使用し、23℃、相対湿度50%RHの環境下、合計1,000枚の記録媒体を通した。その後、事故シート(不送、斜行、頭出し不良)の枚数を計測し、以下に示す評価基準にしたがって本体搬送性を評価した。
A:1,000枚あたりの事故シートの枚数が0~2枚であった。
B:1,000枚あたりの事故シートの枚数が3~5枚であった。
C:1,000枚あたりの事故シートの枚数が6~8枚であった。
D:1,000枚あたりの事故シートの枚数が9~14枚であった。
E:1,000枚あたりの事故シートの枚数が15枚以上であった。
【0104】