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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】トナーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/08 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
G03G9/08 381
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020128788
(22)【出願日】2020-07-30
(65)【公開番号】P2022025737
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 陽介
(72)【発明者】
【氏名】山下 大輔
(72)【発明者】
【氏名】土川 黎
(72)【発明者】
【氏名】岡村 竜次
(72)【発明者】
【氏名】田村 順一
(72)【発明者】
【氏名】三浦 正治
(72)【発明者】
【氏名】大浦 智也
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】溝尾 祐一
【審査官】高草木 綾音
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-173046(JP,A)
【文献】特開2003-088770(JP,A)
【文献】特開2005-021768(JP,A)
【文献】特開2010-036071(JP,A)
【文献】実開昭63-043643(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/00- 9/16
B02C 13/00-13/31
B02C 18/00-18/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂および着色剤を含有する混合物を溶融混練する溶融混練工程、
得られた混練物を冷却する冷却工程、
冷却物を粗粉砕する粗粉砕工程、および
粗粉砕物を微粉砕手段によって微粉砕する微粉砕工程
を有するトナーの製造方法であって、
該粉砕手段は、該粗粉砕物を粉砕手段内に供給するための粉体供給口Aと、
内周面に複数の凸部と凹部とを有する固定子と、
中心回転軸に取り付けられ、外周面に複数の凸部と凹部とを有する回転子と、
粉砕された粉体を排出するための粉体排出口と、
を有し、
該固定子は該回転子を内包しており、該固定子の表面と該回転子の表面とが所定の間隙を有して対向して、微粉砕を行う処理部が形成されており、
該粉体供給口Aには、内部を気流が流れる配管Aが接続されており、
該配管Aにおける該粉体供給口Aより上流側には、配管A内に該粗粉砕物を投入するための粉体投入口Bが設けられており、
該微粉砕工程においては、該配管Aを流れる気流に、該粉体投入口Bから該粗粉砕物が投入され、形成された粗粉砕物を含む気流を、該微粉砕手段の該粉体供給口Aから微粉砕手段内に取り込み、気流を維持したまま該処理部に該粗粉砕物を供給して、回転する回転子により微粉砕が行われるものであり、
該粉体投入口Bから該配管Aを流れる気流に該粗粉砕物を投入する角度を変化させながら該粗粉砕物の投入が行われることを特徴とするトナーの製造方法。
【請求項2】
該粉体投入口Bから該配管Aを流れる気流に該粗粉砕物を投入する角度を20°以上160°以下(但し、該配管Aの長手方向の角度を0°とする。)に変化させながら該粗粉砕物の投入が行われる請求項1に記載のトナーの製造方法。
【請求項3】
該粉体投入口Bと該回転子の中心回転軸との距離が2m以下である請求項1または2に記載のトナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真、静電荷像を顕像化するための画像形成方法及びトナージェットに使用されるトナーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真、静電荷像を顕像化するための画像形成方法では、静電荷像を現像するためのトナーが使用される。トナーの製造法としては粉砕法および重合法に大別され、簡便な製造方法としては粉砕法が挙げられる。粉砕法の一般的な製造方法としては、結着樹脂と着色剤及び必要に応じて荷電制御剤、離型剤、流動性付与剤、磁性材料を加えて混合し、溶融混練し、冷却固化した後、混練物を粉砕手段により微細化する。その後、必要に応じて所望の粒度分布に分級する工程や流動化剤などを添加する工程を経て、画像形成に供するトナーとしている。また、二成分現像方法に用いるトナーの場合には、各種磁性キャリアと上記トナーを混合した後、画像形成に供する。
粉砕手段としては各種粉砕装置が用いられるが、特に近年、CO2排出量削減への対応から、装置の省エネルギー化が求められており、電力消費の少ない機械式粉砕機が用いられることが多い。例えば、被粉砕物の投入口および排出口を有するケーシング内に、中心回転軸に支持され、外周面に複数の凸部と凹部とを有する回転子と、この回転子の外側に、この回転子の外周面と所定の間隙を設けて配置され、その内周面に複数の凸部と凹部とを有する固定子とを備え、投入口から排出口を流れる気流にのって回転子と固定子とが対向する処理部を被粉砕物が通過する際に、回転子もしくは固定子の凸部もしくは凹部に衝突することで被粉砕物を粉砕する機械式粉砕機が知られている。
近年、高画質化の観点でトナーの小粒径化が求められている。トナーの小粒径化のためには、上記のような機械式粉砕機においては、回転子を高速回転させることや回転子と固定子の間隔を狭めることが有効になる。しかしながら、回転子を高速回転させた場合、粉砕時の摩擦熱等によって被粉砕物の温度や粉砕室内の空気等の温度が上昇し、機内融着が発生しやすくなる。また、回転子と固定子の間隔を狭めた場合も機内融着が発生しやすくなる。
より小粒径のトナー粒子の製造のため、固定子の溝の形状を工夫した機械式粉砕機が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-21768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の機械式粉砕機は、固定子の溝の形状を工夫することにより、より小粒径のトナー粒子を製造することができる。
しかしながら、特許文献1に記載の機械式粉砕機は、より小粒径のトナー粒子を製造する際の機内融着の抑制という観点では改善の余地があることがわかった。
トナー粒子をより小粒径に粉砕し、微粉砕品を得るために回転子の回転数を増大させた場合や、生産性向上のための手段として、単位時間当たりの被粉砕物の投入量を増やした場合に、機内の温度及び被粉砕物の温度上昇がより顕著となるため、機内融着が発生しやすくなる。
また、機内の温度及び被粉砕物の温度上昇が顕著になると、被粉砕物の表面が部分的に溶け、被粉砕物同士が結合してしまい、微粉砕品の粒径が安定しない場合がある。
本発明は上述した課題を解決する為になされるものであり、より小粒径のトナー粒子を製造する際に、機内融着を抑制することができ、かつ、トナーの生産性の向上を達成するトナー粒子の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、結着樹脂および着色剤を含有する混合物を溶融混練する溶融混練工程、
得られた混練物を冷却する冷却工程、
冷却物を粗粉砕する粗粉砕工程、および粗粉砕物を微粉砕手段によって微粉砕する微粉砕工程を有するトナーの製造方法であって、
該粉砕手段は、該粗粉砕物を粉砕手段内に供給するための粉体供給口Aと、
内周面に複数の凸部と凹部とを有する固定子と、中心回転軸に取り付けられ、外周面に複数の凸部と凹部とを有する回転子と、粉砕された粉体を排出するための粉体排出口と、を有し、
該固定子は該回転子を内包しており、該固定子の表面と該回転子の表面とが所定の間隙を有して対向して、微粉砕を行う処理部が形成されており、
該粉体供給口Aには、内部を気流が流れる配管Aが接続されており、
該配管Aにおける該粉体供給口Aより上流側には、配管A内に該粗粉砕物を投入するための粉体投入口Bが設けられており、
該微粉砕工程においては、該配管Aを流れる気流に、該粉体投入口Bから該粗粉砕物が投入され、形成された粗粉砕物を含む気流を、該微粉砕手段の該粉体供給口Aから微粉砕手段内に取り込み、気流を維持したまま該処理部に該粗粉砕物を供給して、回転する回転子により微粉砕が行われるものであり、
該粉体投入口Bから該配管Aを流れる気流に該粗粉砕物を投入する角度を変化させながら該粗粉砕物の投入が行われることを特徴とするトナーの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、より小粒径のトナー粒子を製造する際に、機内融着を抑制することができ、かつ、トナーの生産性の向上を達成するトナー粒子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明に用いられる機械式粉砕機の概略図である。
図2】本発明に用いられる機械式粉砕機の粉体投入口近傍の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において、数値範囲を表す「○○以上××以下」や「○○~××」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。
【0009】
本発明のトナー粒子の製造方法は、
結着樹脂および着色剤を含有する混合物を溶融混練する溶融混練工程、
得られた混練物を冷却する冷却工程、
冷却物を粗粉砕する粗粉砕工程、および
粗粉砕物を微粉砕手段によって微粉砕する微粉砕工程
を有するトナーの製造方法であって、
該粉砕手段は、該粗粉砕物を粉砕手段内に供給するための粉体供給口Aと、
内周面に複数の凸部と凹部とを有する固定子と、
中心回転軸に取り付けられ、外周面に複数の凸部と凹部とを有する回転子と、
粉砕された粉体を排出するための粉体排出口と、
を有し、
該固定子は該回転子を内包しており、該固定子の表面と該回転子の表面とが所定の間隙を有して対向して、微粉砕を行う処理部が形成されており、
該粉体供給口Aには、内部を気流が流れる配管Aが接続されており、
該配管Aにおける該粉体供給口Aより上流側には、配管A内に該粗粉砕物を投入するための粉体投入口Bが設けられており、
該微粉砕工程においては、該配管Aを流れる気流に、該粉体投入口Bから該粗粉砕物が投入され、形成された粗粉砕物を含む気流を、該微粉砕手段の該粉体供給口Aから微粉砕手段内に取り込み、気流を維持したまま該処理部に該粗粉砕物を供給して、回転する回転子により微粉砕が行われるものであり、
該粉体投入口Bから該配管Aを流れる気流に該粗粉砕物を投入する角度を変化させながら該粗粉砕物の投入が行われることを特徴とする。
【0010】
本発明者らの検討によれば、上記製造方法により、より小粒径のトナー粒子を製造する際に、機内融着を抑制することができ、かつ、トナーの生産性の向上を達成するトナー粒子の製造方法を提供することができる。
【0011】
該トナー粒子の製造方法が、従来にない優れた効果を得られる理由は以下のように考えている。
【0012】
図1に示した機械式粉砕機の粉体供給口101へ所定量の粗砕物が投入されると、粗砕物は、該粉体供給口に連通した渦巻室1201を通り、回転子103と固定子104との間隙である粉砕処理室(微粉砕を行う処理部)に導入される。そして、中心回転軸107に取り付けられ該粉砕処理室内で高速回転する外周面に複数の凸部と凹部が設けられている回転子103と、内周面に複数の凸部と凹部が設けられている固定子104との間に発生する衝撃によって瞬間的に粉砕される。その後、粉体排出口106を通り、排出される。
【0013】
ここで、粉体供給口から投入された被粉砕物は、粉体供給口から粉体排出口に向かう気流により中心回転軸と並行する力と回転子の凸部および凹部との衝突により回転子の外周の法線方向の力を受ける。その結果として被粉砕物は、粉体供給口近傍の回転子と固定子の間隙内を起点とし、粉体排出口近傍を終点とする、回転子の回転方向に向けた一筋の“螺旋軌道”をとって移動しながら粉砕されると考えられる。
【0014】
上記知見に基づき、図2に示すように、本発明においては、粉体供給口A101には、内部を気流が流れる配管A201が接続され、該配管における該粉体供給口より上流側には、配管内に粗粉砕物を投入するための粉体投入口B202が設けられている。そして、本発明は、該粉体投入口から該配管を流れる気流に該粗粉砕物を投入する角度203を変化させながら該粗粉砕物の投入が行われることにより、より小粒径のトナー粒子を製造する際に、機内融着を抑制することができ、かつ、トナーの生産性の向上を達成するトナー粒子の製造方法を提供することができる。
【0015】
粉体投入口から配管を流れる気流に粗粉砕物を投入する角度を変化させることにより、配管を流れる被粗粉砕物の軌道が変化する。該被粗粉砕物の軌道が変化すると、被粗粉砕物が粉砕処理室に入る際の回転子の回転方向の位置が変化する。これにより、粉体供給口近傍の回転子と固定子の間隙内を起点とし、粉体排出口近傍を終点とする、回転子の回転方向に向けた一筋の螺旋軌道が変化する。すなわち、粉体投入口から配管を流れる気流に粗粉砕物を投入する角度を変化させることにより、粉砕処理室内での被粗粉砕物の軌道を変化させることができる。そのため、被粗粉砕物が粉砕処理室内の固定子と回転子の面の多くの部分を通過し、局所的な通過を少なくすることができ、粉砕機の機内温度及び粗砕物の顕著な温度上昇を抑制させることができる。
【0016】
粉体投入口から配管を流れる気流に粗粉砕物を投入する角度を変化させない場合、被粗粉砕物の螺旋軌道が一定のまま変化せずに粉砕さるため、粉砕処理室内での被粗粉砕物の流れが局所的になる。そのため、粗砕物が粉砕されると、粉砕時の摩擦熱により、粉砕機の機内温度及び粗砕物の顕著な温度上昇が起こる場合がある。その結果、温度上昇部を起点にトナーの機内融着が発生する場合や、被粗粉砕物の表面が部分的に溶け、被粗粉砕物どうしが結合してしまい、微粉砕品の粒径が安定しない場合がある。
【0017】
本発明において、粉体投入口から配管を流れる気流に該粗粉砕物を投入する角度を、連続的に変化させても良いし、非連続的に変化させても良い。
【0018】
本発明において、粉体投入口Bから配管Aを流れる気流に粗粉砕物を投入する角度(図2中の203)が20°以上160°以下(但し、該配管Aの長手方向の角度を0°とする。)であることが好ましい。
【0019】
該角度を上記範囲に制御することで、被粗砕物が粉砕処理室内の固定子と回転子の面の多くの部分を通過することができる。そのため、より小粒径のトナー粒子を製造する際に、機内融着を抑制することができ、かつ、トナーの生産性の向上を達成するトナー粒子の製造方法を提供することができる。
【0020】
本発明において、粉体投入口Bから配管Aを流れる気流に粗粉砕物を投入する角度を20°以上変化させながら粗粉砕物の投入が行われることが好ましく、70°以上変化させながら粗粉砕物の投入が行われることがより好ましく、140°以上変化させながら粗粉砕物の投入が行われることが更に好ましい。
【0021】
該角度を上記範囲に制御することで、粗砕物が粉砕処理室内の固定子と回転子の面の多くの部分を通過することができる。そのため、より小粒径のトナー粒子を製造する際に、機内融着を抑制することができ、かつ、トナーの生産性の向上を達成するトナー粒子の製造方法を提供することができる。
【0022】
本発明において、粉体投入口と回転子の中心回転軸との距離(図2中の204)が2m以下であることが好ましい。該粉体投入口と該回転子の中心回転軸との距離を上記範囲に制御することで、粗砕物が粉砕処理室内の固定子と回転子の面の多くの部分を通過することができる。そのため、より小粒径のトナー粒子を製造する際に、機内融着を抑制することができ、かつ、トナーの生産性の向上を達成するトナー粒子の製造方法を提供することができる。
【0023】
本発明において、粗粉砕物の体積平均粒径が65μm以下であることが好ましい。粗粉砕物の体積平均粒径を65μm以下にすることにより、被粉砕物の温度上昇を抑えることができる。そのため、より小粒径のトナー粒子を製造する際に、機内融着を抑制することができ、かつ、トナーの生産性の向上を達成するトナー粒子の製造方法を提供することができる。
【0024】
次に、本発明の製造方法で、トナー粒子を製造する手順について説明する。
【0025】
まず、原料混合工程では、トナー内添剤として、少なくとも結着樹脂、着色剤を所定量秤量して配合し、混合する。必要に応じて、トナーの加熱定着時にホットオフセットの発生を抑制する離型剤、該離型剤を分散させる分散剤、帯電制御剤などを混合してもよい。混合装置の一例としては、ダブルコン・ミキサー、V型ミキサー、ドラム型ミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー等がある。
【0026】
更に、上記で配合し、混合したトナー原料を溶融混練して、樹脂類を溶融し、その中の着色剤等を分散させる。該溶融混練工程では、例えば、加圧ニーダー、バンバリィミキサー等のバッチ式練り機や、連続式の練り機を用いることができる。近年では、連続生産できる等の優位性から、1軸または2軸押出機が主流となっており、例えば、神戸製鋼所社製KTK型2軸押出機、東芝機械社製TEM型2軸押出機、ケイ・シー・ケイ社製2軸押出機、ブス社製コ・ニーダー、池貝社製PCM型2軸押出機等が一般的に使用される。更に、トナー原料を溶融混練することによって得られる着色樹脂組成物は、溶融混練後、2本ロール等で圧延され、水冷等で冷却する冷却工程を経て冷却される。
【0027】
上記で得られた着色樹脂組成物の冷却物は、次いで、粉砕工程で所望の粒径にまで粉砕される。粉砕工程では、まず、クラッシャー、ハンマーミル、フェザーミル等で粗粉砕される。更に、イノマイザー(ホソカワミクロン社製)、クリプトロン(川崎重工社製)、スーパーローター(日清エンジニアリング社製)、ターボミル(ターボ工業社製)等の機械式粉砕機で微粉砕される。粉砕工程では、このように段階的に所定のトナー粒度まで粉砕される。
【0028】
次に、本発明で使用する結着樹脂及び着色剤を少なくとも含むトナー粒子の原材料について説明する。
【0029】
<結着樹脂>
電子写真に用いられるトナーに用いられる結着樹脂としては、一般的な樹脂を用いることができる。例えば、ポリエステル樹脂、スチレン-アクリル酸共重合体、ポリオレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂など。この中でも、低温定着性を良好にするという観点から非晶性ポリエステル樹脂が用いられ、低温定着性と耐ホットオフセット性の両立の観点から、低分子量ポリエステルと高分子量ポリエステルを併用することが知られている。また、さらなる低温定着性の向上と保管時の耐ブロッキング性の観点から結晶性ポリエステルを可塑剤として用いることもある。
【0030】
<着色剤>
トナーに含有できる着色剤としては、以下のものが挙げられる。
【0031】
該着色剤としては、公知の有機顔料若しくは油性染料、カーボンブラック、又は磁性体などが挙げられる。
【0032】
シアン系着色剤としては、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アントラキノン化合物、塩基染料レーキ化合物などが挙げられる。
【0033】
マゼンタ系着色剤としては、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、ペリレン化合物などが挙げられる。
【0034】
イエロー系着色剤としては、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、アリルアミド化合物などが挙げられる。
【0035】
黒色系着色剤としては、カーボンブラック、磁性体、又は、前記イエロー系着色剤、マゼンタ系着色剤、及びシアン着色剤を用い黒色に調色されたものが挙げられる。
【0036】
該着色剤は、一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0037】
<離型剤>
必要に応じて、トナーの加熱定着時にホットオフセットの発生を抑制する離型剤を用いてもよい。該離型剤としては、低分子量ポリオレフィン類、シリコーンワックス、脂肪酸アミド類、エステルワックス類、カルナバワックス、炭化水素系ワックスなどが一般的に例示できる。
【0038】
<トナー粒子の粒度分布の測定方法>
トナー粒子の粒度分布は以下のように測定する。
【0039】
測定装置として、50μmのアパーチャーチューブを備えた細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置「コールター・カウンタ Multisizer 3」(登録商標、ベックマン・コールター社製)を用いる。測定条件の設定及び測定データの解析は、付属の専用ソフト「ベックマン・コールター Multisizer 3 Version3.51」(ベックマン・コールター社製)を用いる。なお、測定は実効測定チャンネル数2万5千チャンネルで行う。
【0040】
測定に使用する電解水溶液は、特級塩化ナトリウムをイオン交換水に溶解して濃度が約1質量%となるようにしたもの、例えば、「ISOTON II」(ベックマン・コールター社製)が使用できる。
【0041】
なお、測定及び解析を行う前に、以下のように専用ソフトの設定を行う。
【0042】
専用ソフトの「標準測定方法(SOM)を変更」画面において、コントロールモードの総カウント数を50000粒子に設定し、測定回数を1回、Kd値は「標準粒子10.0μm」(ベックマン・コールター社製)を用いて得られた値を設定する。
【0043】
「閾値/ノイズレベルの測定ボタン」を押すことで、閾値とノイズレベルを自動設定する。また、カレントを1600μAに、ゲインを2に、電解水溶液をISOTON IIに設定し、「測定後のアパーチャーチューブのフラッシュ」にチェックを入れる。
【0044】
専用ソフトの「パルスから粒径への変換設定」画面において、ビン間隔を対数粒径に、粒径ビンを256粒径ビンに、粒径範囲を1μmから30μmまでに設定する。
【0045】
具体的な測定法は以下の通りである。
(1)Multisizer 3専用のガラス製250mL丸底ビーカーに電解水溶液約200mLを入れ、サンプルスタンドにセットし、スターラーロッドの撹拌を反時計回りで24回転/秒にて行う。そして、専用ソフトの「アパーチャーのフラッシュ」機能により、アパーチャーチューブ内の汚れと気泡を除去しておく。
(2)ガラス製の100mL平底ビーカーに電解水溶液約30mLを入れる。この中に分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)をイオン交換水で約3質量倍に希釈した希釈液を約0.3mL加える。
(3)発振周波数50kHzの発振器2個を、位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispersion System Tetora150」(日科機バイオス社製)を準備する。超音波分散器の水槽内に約3.3Lのイオン交換水を入れ、この水槽中にコンタミノンNを約2mL添加する。
(4)前記(2)のビーカーを超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の電解水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
(5)前記(4)のビーカー内の電解水溶液に超音波を照射した状態で、トナー約10mgを少量ずつ電解水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。なお、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となるように適宜調節する。
(6)サンプルスタンド内に設置した前記(1)の丸底ビーカーに、ピペットを用いてトナーを分散した前記(5)の電解水溶液を滴下し、測定濃度が約5%となるように調整する。そして、測定粒子数が50000個になるまで測定を行う。
(7)測定データを装置付属の専用ソフトにて解析を行ない、重量平均粒径(D4)を算出する。なお、専用ソフトでグラフ/体積%と設定したときの、「分析/体積統計値(算術平均)」画面の「平均径」が重量平均粒径(D4)である。
【0046】
<粗粉砕粒子の粒度分布の測定方法>
粗粉砕物の粒度分布の測定として、粒度分布測定装置LA-950V2(堀場製作所製)を用いた。この装置はレーザー散乱法を用いて、0.01μm~3000μmまでの粒径が測定可能である。この装置を用いて湿式測定により粗粉砕物の粒径を測定した。湿式測定の方法としては水媒体に粗粉砕物を交ぜ、上記コールターカウンタ同様に分散剤として「コンタミノンN」を用いて超音波分散させたものを装置内に導入させた。試料(粗粉砕物)の屈折率の値として1.53、分散媒の屈折率の値として1.33を用いて測定を行った。
【実施例
【0047】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
<非晶性ポリエステル樹脂Lの製造例>
・ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン:72.0質量部(0.20モル;多価アルコール総モル数に対して100.0mol%)
・テレフタル酸:
28.0質量部(0.17モル;多価カルボン酸総モル数に対して100.0mol%)
・2-エチルヘキサン酸錫(エステル化触媒):0.5質量部
冷却管、撹拌機、窒素導入管、及び、熱電対のついた反応槽に、上記材料を秤量した。次にフラスコ内を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら徐々に昇温し、200℃の温度で撹拌しつつ、4時間反応させた。
【0049】
さらに、反応槽内の圧力を8.3kPaに下げ、1時間維持した後、180℃まで冷却し、大気圧に戻した。
・無水トリメリット酸:
3質量部(0.01モル;多価カルボン酸総モル数に対して4.0mol%)
・tert-ブチルカテコール(重合禁止剤):0.1質量部
その後、上記材料を加え、反応槽内の圧力を8.3kPaに下げ、温度180℃に維持したまま、1時間反応させ、ASTM D36-86に従って測定した軟化点が90℃に達したことを確認してから温度を下げて反応を止め、結着樹脂として非晶性ポリエステル樹脂Lを得た。
【0050】
<非晶性ポリエステル樹脂Hの製造例>
・ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン:72.3質量部(0.20モル;多価アルコール総モル数に対して100.0mol%)
・テレフタル酸:
18.3質量部(0.11モル;多価カルボン酸総モル数に対して65.0mol%)
・フマル酸:
2.9質量部(0.03モル;多価カルボン酸総モル数に対して15.0mol%)
・2-エチルヘキサン酸錫(エステル化触媒):0.5質量部
冷却管、撹拌機、窒素導入管、及び、熱電対のついた反応槽に、上記材料を秤量した。次にフラスコ内を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら徐々に昇温し、200℃の温度で撹拌しつつ、2時間反応させた。
【0051】
さらに、反応槽内の圧力を8.3kPaに下げ、1時間維持した後、180℃まで冷却し、大気圧に戻した。
・無水トリメリット酸:
6.5質量部(0.03モル;多価カルボン酸総モル数に対して20.0mol%)
・tert-ブチルカテコール(重合禁止剤):0.1質量部
その後、上記材料を加え、反応槽内の圧力を8.3kPaに下げ、温度160℃に維持したまま、15時間反応させ、ASTM D36-86に従って測定した軟化点が137℃に達したのを確認してから温度を下げて反応を止め、結着樹脂として非晶性ポリエステル樹脂Hを得た。
【0052】
<結晶性ポリエステル樹脂>
・1,6-ヘキサンジオール:
34.5質量部(0.29モル;多価アルコール総モル数に対して100.0mol%)
・ドデカン二酸:
65.5質量部(0.28モル;多価カルボン酸総モル数に対して100.0mol%)
・2-エチルヘキサン酸錫:0.5質量部
冷却管、撹拌機、窒素導入管、及び、熱電対のついた反応槽に、上記材料を秤量した。フラスコ内を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら徐々に昇温し、140℃の温度で撹拌しつつ、3時間反応させた。
【0053】
次に、上記材料を加え、反応槽内の圧力を8.3kPaに下げ、温度200℃に維持したまま、4時間反応させた。
【0054】
さらに、反応槽内の圧力を序々に開放して常圧へ戻した後、脂肪族モノカルボン酸及び脂肪族モノアルコールからなる群より選ばれた1種以上の脂肪族化合物を、原料モノマー100.0mol%に対し7.0mol%加え、常圧下にて200℃で2時間反応させた。
【0055】
その後、再び反応槽内を5kPa以下へ減圧して200℃で3時間反応させることにより、結晶性ポリエステル樹脂を得た。
【0056】
<トナーの製造例>
・非晶性ポリエステル樹脂L 80質量部
・非晶性ポリエステル樹脂H 20質量部
・結晶性ポリエステル樹脂 5質量部
・フィッシャートロプシュワックス(炭化水素ワックス、最大吸熱ピークのピーク温度90℃) 5質量部
・C.I.ピグメントブルー15:3 7質量部
上記材料をヘンシェルミキサー(FM-75型、三井鉱山(株)製)を用いて、回転数20s-1、回転時間5minで混合した後、二軸混練機(PCM-30型、株式会社池貝製)にて混練した。混練時のバレル温度は、混練物の出口温度が120℃になるよう設定した。混練物の出口温度は、安立計器社製ハンディタイプ温度計HA-200Eを用い直接計測した。得られた混練物を冷却し、ピンミルにて体積平均粒径60μmに粗粉砕し、トナー粗砕物1を得た。
【0057】
なお、以下の実施例及び比較例で得られた微粉砕品の重量平均粒径はトナー粒子の重量平均粒径(D4)の測定方法に従い行った。
【0058】
〔実施例1〕
本実施例においては、粉砕装置図1図2に示したものを用いる。
【0059】
図1図2に示す粉砕装置の構成は、機械式粉砕機(ターボ工業社製ターボミルT250-CRS-ローター形状RS型)において、粉体供給口A(粉体供給口101)に、内部を気流が流れる配管A(配管201)が接続されており、該配管Aにおける該粉体供給口Aより上流側に、配管A内に該粗粉砕物を投入するための粉体投入口B(粉体投入口202)を設けた。また、粉体投入口Bの角度を変化させることができるように改造した。
【0060】
実施例1では、粉体投入口Bの角度を20°から160°まで10°/1secの速度で連続的に変化させながら粉砕を行った。このとき、該配管Aの長手方向の角度を0°とした。粉体投入口Bの角度は、20°から160°に到達した後は、160°から20°まで10°/1secの速度で変化させ、その後は再び20°から160°まで10°/1secの速度で変化させ、粉砕が終了するまで、20°から160°を往復するように変化させた。
【0061】
以下、粉体投入口Bの角度(粉体投入口の角度203)を〇〇°から××°へ変化させる場合、〇〇°から××°の変化の後は、××°から〇〇°へ、〇〇°から××°へ変化させたのと同じ速度で変化させ、その後、再び〇〇°から××°へ変化させる往復運動を繰り返すものとする。
【0062】
また、該粉体投入口Bと回転子の中心回転軸との距離(粉体投入口と回転子の中心回転軸の距離204)を2mとした。
【0063】
上記機械式粉砕機を用い、トナー原料(粗砕物)の製造例で得たトナー粗砕物1を用い以下に示す条件にて微粉砕品を製造した。
【0064】
<条件1>
図1図2に示す粉砕装置を用い、粉体投入口Bから粗砕物1を30kg/h、冷風を風量8m3/min流入させ、回転子と固定子とギャップ1.0mm、冷風温度-10℃、の条件で粗砕物1の粉砕を行った。
【0065】
条件1の製造方法では、まず微粉砕品の重量平均粒径が5.0~5.2μmの範囲になるように回転子の周速度を設定し、その後同一条件で連続10時間製造を行い約300kgの微粉砕品を得た。
【0066】
<条件2>
図1図2に示す粉砕装置を用い、粉体投入口Bから粗砕物1を30kg/h、冷風を風量8m3/min流入させ、回転子と固定子とギャップ1.0mm、冷風温度-10℃、の条件で粗砕物1の粉砕を行った。
【0067】
条件2の製造方法では、まず微粉砕品の重量平均粒径が4.0~4.2μmの範囲になるように回転子の周速度を設定し、その後同一条件で連続10時間製造を行い約300kgの微粉砕品を得た。
【0068】
なお、本条件の設定粒径は、条件1で示した設定粒径(5.0~5.2μm)に対してより小粒径であるため、回転子の周速度を増大させたものとなった。
【0069】
[機内融着性の評価]
連続10時間の製造後装置を停止し、回転子及び固定子のトナーの付着度合い(汚れ)を目視で確認した。
【0070】
評価ランクは以下とする。
A・・・付着はほとんどなくり非常に優れている。
B・・・若干付着は認められるが実用上問題のないレベルである。
C・・・付着が認められ実用上問題がある。
【0071】
[粒径安定性の評価]
製造した微粉砕品を2時間毎にサンプリングし、重量平均粒径(D4)を測定し、微粉砕品の粒径安定性の評価を行った。
【0072】
評価ランクは以下とする。
A・・・設定範囲内の粒径が得られており非常に優れている。
B・・・設定値から外れるが0.3μm以内であり実用上問題のないレベルである。
C・・・設定値から0.3μm以上外れ実用上問題がある。
【0073】
以上の各評価項目において、実施例1の製造方法では全てA判定であった。
【0074】
〔実施例2〕
トナー原料(粗砕物)の製造例で得たトナー粗砕物を体積平均粒径が100μmになるように粗粉砕し、評価条件は条件2のみ評価した以外は実施例1と同様の方法で評価を実施した。
【0075】
〔実施例3〕
該粉体投入口Bと回転子の中心回転軸との距離を3mとした以外は実施例2と同様の方法で評価を実施した。
【0076】
〔実施例4〕
粉体投入口Bの角度を20°から160°まで1°/1secの速度で連続的に変化させながら粉砕を行った以外は実施例3と同様の方法で評価を実施した。
【0077】
〔実施例5〕
粉体投入口Bの角度を20°から160°まで1°/1minの速度で変化(1分毎に1°の非連続的変化)させながら粉砕を行った以外は実施例3と同様の方法で評価を実施した。
【0078】
〔実施例6〕
粉体投入口Bの角度を20°から160°まで10°/10minの速度で変化(10分毎に10°の非連続的変化)させながら粉砕を行った以外は実施例3と同様の方法で評価を実施した。
【0079】
〔実施例7〕
粉体投入口Bの角度を20°から90°まで10°/10minの速度で変化(10分毎に10°の非連続的変化)させながら粉砕を行った以外は実施例3と同様の方法で評価を実施した。
【0080】
〔実施例8〕
粉体投入口Bの角度を20°から40°まで10°/10minの速度で変化(10分毎に10°の非連続的変化)させながら粉砕を行った以外は実施例3と同様の方法で評価を実施した。
【0081】
〔実施例9〕
粉体投入口Bの角度を140°から160°まで10°/10minの速度で変化(10分毎に10°の非連続的変化)させながら粉砕を行った以外は実施例3と同様の方法で評価を実施した。
【0082】
〔実施例10〕
粉体投入口Bの角度を10°から20°まで10°/10minの速度で変化(10分毎に10°の非連続的変化)させながら粉砕を行った以外は実施例3と同様の方法で評価を実施した。
【0083】
〔実施例11〕
粉体投入口Bの角度を160°から170°まで10°/10minの速度で変化(10分毎に10°の非連続的変化)させながら粉砕を行った以外は実施例3と同様の方法で評価を実施した。
【0084】
実施例2~11の評価結果を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
〔比較例1〕
該粉体投入口Bの角度を90°に固定し、評価条件を条件1と条件2で評価した以外は実施例3と同様の方法で評価を実施した。
【0087】
比較例1の結果を表2に示す。
【0088】
【表2】
【符号の説明】
【0089】
101:粉砕供給口A、1021:渦巻室、1022:渦巻室出口部、103:回転子、104:固定子、105:後室、106:粉体排出口、107:回転軸、108:冷風発生装置、109:冷水供給口、110:冷水排出口、201:配管A、202:粉体投入口B、203:粉体投入口の角度、204:粉体投入口と回転子の中心回転軸の距離
図1
図2