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特許7476039半導体装置の検査装置、及び、半導体装置の検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】半導体装置の検査装置、及び、半導体装置の検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2055 20180101AFI20240422BHJP
   G01N 23/207 20180101ALI20240422BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
G01N23/2055 310
G01N23/207
H01L21/66 L
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020147461
(22)【出願日】2020-09-02
(65)【公開番号】P2022042175
(43)【公開日】2022-03-14
【審査請求日】2023-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久下 宣仁
(72)【発明者】
【氏名】藤原 稔久
(72)【発明者】
【氏名】藤原 唯
(72)【発明者】
【氏名】臼井 千咲
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/012527(WO,A1)
【文献】特開平6-258260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
H01L 21/64-H01L 21/66
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に所定のパターンが形成された半導体基板である半導体装置を被検体とし、単色X線を所定の入射角度で前記被検体に斜入射させるX線照射部と、
前記単色X線が斜入射されることにより前記被検体から観測される観測X線を、2次元に配置された複数の光検出素子により検出する検出部と、
前記観測X線を光電変換して得られるX線回折像を生成する解析部と、
前記X線照射部を制御して前記被検体に対する前記単色X線の入射角度を変更し、また、前記検出部における前記複数の光検出素子の前記観測X線の検出角度を前記入射角度に応じて変更する制御部と、
を備えた検査装置において、
前記入射角度が変更される都度前記検出部は前記観測X線を検出し、前記解析部は、前記入射角度が変更される都度前記X線回折像を取得し、更に、前記解析部は、前記X線回折像を構成する画素ごとに、複数の前記X線回折像の中から前記観測X線の強度が最大となる前記X線回折像を強度最大画像として特定し、少なくとも前記特定された前記強度最大画像を含むX線回折像の取得条件であって、前記画素毎に取得した前記観測X線の最大強度が得られた前記入射角度であるピーク角度を、前記画素間で比較する、
半導体装置の検査装置。
【請求項2】
表面に所定のパターンが形成された半導体基板である半導体装置を被検体とし、単色X線を所定の入射角度で前記被検体に斜入射させるX線照射部と、
前記単色X線が斜入射されることにより前記被検体から観測される観測X線を、2次元に配置された複数の光検出素子により検出する検出部と、
前記観測X線を光電変換して得られるX線回折像を生成する解析部と、
前記X線照射部を制御して前記被検体に対する前記単色X線の入射角度を変更し、また、前記検出部における前記複数の光検出素子の前記観測X線の検出角度を前記入射角度に応じて変更する制御部と、
を備えた検査装置において、
前記入射角度が変更される都度前記検出部は前記観測X線を検出し、前記解析部は、前記入射角度が変更される都度前記X線回折像を取得し、更に、前記解析部は、前記X線回折像を構成する画素ごとに、複数の前記X線回折像の中から前記観測X線の強度が最大となる前記X線回折像を強度最大画像として特定し、少なくとも前記特定された前記強度最大画像を含むX線回折像の取得条件であって、前記画素毎に算出した前記観測X線の最大強度を含むX線回折のロッキングカーブの半値幅角度を、前記画素間で比較する、
半導体装置の検査装置。
【請求項3】
表面に所定のパターンが形成された半導体基板である半導体装置を被検体とし、単色X線を所定の入射角度で前記被検体に斜入射し、
前記単色X線が斜入射されることにより前記被検体から観測される観測X線を、2次元に配置された複数の光検出素子により検出し、
前記観測X線を光電変換して得られるX線回折像を生成する半導体装置の検査方法において、
前記入射角度は可変であり、前記入射角度を変更する都度前記観測X線の検出角度を前記入射角度に応じて変更し、前記入射角度を変更する都度、前記入射角度に応じた前記X線回折像を生成し、更に前記X線回折像を構成する画素ごとに、複数の前記X線回折像の中から前記観測X線の強度が最大となる前記X線回折像を強度最大画像として特定し、少なくとも前記強度最大画像を含むX線回折像の前記画素ごとの取得条件であって、画素ごとに取得した前記観測X線の最大強度が得られた前記入射角度であるピーク角度に基づいて前記被検体の応力分布を推定する、半導体装置の検査方法。
【請求項4】
表面に所定のパターンが形成された半導体基板である半導体装置を被検体とし、単色X線を所定の入射角度で前記被検体に斜入射し、
前記単色X線が斜入射されることにより前記被検体から観測される観測X線を、2次元に配置された複数の光検出素子により検出し、
前記観測X線を光電変換して得られるX線回折像を生成する半導体装置の検査方法において、
前記入射角度は可変であり、前記入射角度を変更する都度前記観測X線の検出角度を前記入射角度に応じて変更し、前記入射角度を変更する都度、前記入射角度に応じた前記X線回折像を生成し、更に前記X線回折像を構成する画素ごとに、複数の前記X線回折像の中から前記観測X線の強度が最大となる前記X線回折像を強度最大画像として特定し、少なくとも前記強度最大画像を含むX線回折像の前記画素ごとの取得条件であって、画素ごとに算出した前記観測X線の最大強度を含むX線回折のロッキングカーブの半値幅角度に基づいて前記被検体の応力分布を推定する、半導体装置の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、半導体装置の検査装置、及び、半導体装置の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不揮発性メモリなど半導体素子が形成された半導体基板の応力を検査する装置として、ラマン分光法を用いた検査装置や、X線回折を用いた検査装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2020/0087776号明細書
【文献】特許2008-082939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本実施形態は、半導体装置が形成された半導体基板における応力を、非破壊かつ高分解能で検査することができる、半導体装置の検査装置、及び、半導体装置の検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態の半導体装置の検査装置は、表面に所定のパターンが形成された半導体基板である半導体装置を被検体とし、単色X線を所定の入射角度で前記被検体に斜入射させるX線照射部と、前記単色X線が斜入射されることにより前記被検体から観測される観測X線を、2次元に配置された複数の光検出素子により検出する検出部とを有する。また、前記観測X線を光電変換して得られるX線回折像を生成する解析部と、前記X線照射部を制御して前記被検体に対する前記単色X線の入射角度を変更し、また、前記検出部における前記複数の光検出素子の前記観測X線の検出角度を前記入射角度に応じて変更する制御部とを有する。前記入射角度が変更される都度前記検出部は前記観測X線を検出し、前記解析部は、前記入射角度が変更される都度前記X線回折像を取得し、更に、前記解析部は、前記X線回折像を構成する画素ごとに、複数の前記X線回折像の中から前記観測X線の強度が最大となる前記X線回折像を強度最大画像として特定し、少なくとも前記特定された前記強度最大画像を含むX線回折像の取得条件であって、前記画素毎に取得した前記観測X線の最大強度が得られた前記入射角度であるピーク角度を前記画素間で比較する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態にかかる検査装置の構成例を示すブロック図。
図2】X線照射ユニット、被検体、及び、X線検出カメラの位置関係を説明する概略図。
図3】X線の入射角に対する回折光強度の変化を説明する図。
図4】歪みによる被検体の結晶構造の変化を説明する図。
図5】歪みによる被検体の結晶構造の変化を説明する図。
図6】被検体のX線回折画像の一例を示す図。
図7】被検体となる半導体装置(不揮発性メモリ)の構成例を示すブロック図。
図8】3次元構造のNANDメモリセルアレイの一部領域の断面図。
図9】NANDメモリのメモリセルアレイとその周辺の一部領域の断面図。
図10図9に示す半導体装置を被検体とするX線の入射角に対する回折光強度の変化を説明する図。
図11図9に示す半導体装置を被検体とするX線の入射角に対する回折光強度の変化を説明する図。
図12図9に示す半導体装置を被検体とするX線の入射角に対する回折光強度の変化を説明する図。
図13】実施形態にかかる半導体装置の検査方法の手順の一例を説明するフローチャート。
図14】被検体の検査対象領域におけるX線回折画像を取得する手順の一例を説明するフローチャート。
図15】被検体の検査対象領域における回折光強度の変化特性を取得する手順の一例を説明するフローチャート。
図16】回折光強度のピーク位置と半値幅とを取得する手順の一例を説明するフローチャート。
図17】ピーク位置に関する応力マッピング画像のイメージの一例を説明する図。
図18】半値幅に関する応力マッピング画像のイメージの一例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0008】
図1は、実施形態にかかる検査装置の構成例を示すブロック図である。本実施形態の検査装置1は、X線回折測定装置10と、解析装置20とを備え、被検体40である半導体装置(例えば、3次元構造のNANDメモリのメモリセルアレイなど、パターンが形成されたシリコンウェハ)における応力分布を計測し、2次元マッピング情報として観察するために用いられる。なお、計測された応力分布に関する情報(例えば、応力等の2次元マッピング画像など)や、測定中に取得したデータ等を表示させる表示装置30を更に備えてもよい。
【0009】
X線回折測定装置10は、単色化された平行性のよいX線を、被検体40の検査領域へ照射し、被検体40から生成される回折X線の強度(回折光強度)をX線カメラで測定する。X線の入射角度をスキャンしながら測定することにより、入射角に対する回折光強度の変化特性(ロッキングカーブ)をX線カメラの画素ごとに取得することができる。X線回折測定装置10は、X線照射ユニット11と、検体ステージ12と、ステージ駆動部13と、X線検出カメラ14と、制御部15とを有する。
【0010】
X線照射ユニット11は、X線源111と、多層膜集光ミラー112と、モノクロメータ113と、スリット114とから主に構成される。X線源111は、例えば、回転陰極式のターゲット(例えば、CuやMoなど)と、電子線発生の為のフィラメントを有する。ターゲットにフィラメントから発生して高電圧で加速された電子線が照射されることで、ターゲット金属からX線が発せられる。多層膜集光ミラー112は、X線源111から射出されたX線を単色化し、平行化し、強度を強める。モノクロメータ113は、例えば二結晶分光器であり、測定対象となる元素の格子間隔を取得可能な程度まで、多層膜集光ミラー112から入射されたX線の平行度をさらに高める。スリット114は、モノクロメータ113から入射されたX線が被検体40へ照射される範囲を限定する。具体的には、被検体40へ照射するX線の範囲を、幅方向Hi、奥行き方向Liに限定する。すなわち、被検体40に対するX線の照射角度をθsとすると、被検体40においてX線が照射される範囲(照射領域)は、x方向がHi/sinθs、y方向がLi、の矩形領域となる。なお、以下において、X線照射ユニット11は、被検体40に対するX線の入射角度θsを所定の範囲で変更可能な構成を有する。図2は、X線照射ユニット、被検体、及び、X線検出カメラの位置関係を説明する概略図である。図2に示すように、X線照射ユニット11は、例えば、被検体40におけるX線の照射領域の中心位置を中心とし、スリット114から被検体40における照射領域の中心位置までの距離Diを一定として、xz平面内で回動可能になされている。
【0011】
X線検出カメラ14は、被検体40から発生した回折X線を受光し、受光した回折光の強度に応じた信号を生成する。X線検出カメラ14は、例えば、2次元のアレイ状に配置された複数個の半導体検出素子(固体撮像素子等)で構成される。半導体検出素子としては、例えば、CCD(電荷結合素子)や、CMOSイメージセンサが用いられる。被検体40の照射領域において照射X線により生成された回折X線は、X線検出カメラ14の投影領域に配置された半導体検出素子により光電変換され、撮像信号として出力される。
【0012】
図2に示すように、X線検出カメラ14は、例えば、被検体40におけるX線の照射領域の中心位置を中心とし、被検体40における照射領域の中心位置からX線検出カメラ14の投影領域までの距離Dоを一定として、xz平面内で回動可能になされている。具体的には、被検体40の照射されるX線の方向と、被検体40におけるX線の照射領域の中心位置からX線検出カメラ14の投影領域の中心位置を結ぶ線との角度θcが一定角度になるように、X線照射ユニット11の回動状態に合わせてX線検出カメラ14の位置が調整される。
【0013】
検体ステージ12は、モータなどのステージ駆動部13により、検体ステージ12表面と平行な直行する2方向(x方向、y方向)に移動することができる。x方向、及び/または、y方向に検体ステージ12を移動させることで、被検体40の照射領域を走査させることができる。また、図2に示すように、検体ステージ12は、xy平面内において所定の角度φで回動可能になされている。
【0014】
制御部15は、X線回折測定装置10全体の動作を制御する。具体的には、例えば、入射角θsの変更に伴ってX線照射ユニット11のX線の回動を制御したり、X線照射ユニット11のX線の回動に伴いX線検出カメラ14の回動を制御したりする。また、X線照射ユニット11を構成する各部位のパラメータなどを制御したり、さらに、被検体40にX線が入射される位置を調整するため、ステージ駆動部13に対してステージ位置の移動(xy平面内での平行移動)や回転(xy平面内での回転移動)を指示したりする。
【0015】
制御部15は、解析装置20に対し、検体ステージ12の位置情報、すなわち、被検体40におけるX線の入射位置(座標)を送信する。そして、応力検査のための初期設定情報や、各ステップにおける設定内容の変更情報を、解析装置20から受信する。
【0016】
解析装置20は、例えばコンピュータであり、中央演算処理装置(CPU)21と、RAM22と、メモリ23とを備えている。解析装置20は、X線回折測定装置10から入力されるデータ(X線検出カメラ14から画素ごとに出力される回折光の検出強度に応じた大きさを有する電気信号、及び、制御部15から出力される被検体40におけるX線の入射位置(座標、入射角度θs)を分析し、被検体40の応力分布を2次元で検出する。また、X線回折測定装置10に対し、応力分析のための指示を出力する。
【0017】
CPU21は、メモリ23に記憶されたプログラムに従って動作し、解析装置20の各部を制御する。RAM22は、X線回折測定装置10から入力されるデータを格納したり、後述のプログラムを実行した結果を格納したりする。
【0018】
メモリ23には、X線回折測定装置10を動作させて所望の応力分布計測を実現するための歪み解析ソフトウェア231が格納されている。歪み解析ソフトウェア231がRAM22に読み出されて展開され、CPU21において実行されることにより、被検体40における応力分布が計測され、2次元マッピング情報として観察される。なお、歪み解析ソフトウェア231によって実現される動作を、ハードウェアとして構成された1つ以上の図示しないプロセッサが行うように、解析装置20を構成してもよい。歪み解析ソフトウェア231によって実現される動作を行うプロセッサとしては、例えば、電子回路として構成されたプロセッサであっても構わないし、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路で構成されたプロセッサであってもよい。
【0019】
次に、本実施形態における被検体40の応力分布計測の原理について説明する。図3は、X線の入射角に対する回折光強度の変化を説明する図である。図3は、X線検出カメラ14における任意の一画素における計測結果を示している。また、図4図5は、歪みによる被検体の結晶構造の変化を説明する図である。図4は、歪みがない状態における被検体の結晶構造を説明する図であり、図5は、歪みが生じた状態における被検体の結晶構造を説明する図である。図4に示すように、被検体40を構成する結晶41中では、歪みのない状態では結晶を構造する原子(または分子)410は、所定の間隔を有し規則正しく配列している。例えば、被検体40がシリコン単結晶である場合、反射面(422)におけるシリコン原子の格子間隔(面間隔)は1.1085Åである。被検体40の格子面に単色X線を入射した場合、入射X線の波長(λ)と、被検体の結晶面の面間隔(d)と、X線の入射角(θs)が、2dsinθs=nλを満たすようなθsにおいて、被検体40の格子面から反射されるX線の干渉は強度を強め合う。従って、θsにおいて回折光強度のピークが観測される。すなわち、回折光強度のピークが観測される角度θs(ブラッグ角)は、被検体の結晶構造と単色X線の波長とによって、一意に決まる。
【0020】
図5に示すように、歪みのない結晶41の表面に、結晶41とは別の構造を有する膜42が成膜されている場合、表面に形成された膜42の応力によって、結晶41中の原子410の間隔が変化する。例えば、シリコン単結晶の表面に、シリコン酸化膜などの膜を成膜すると、シリコン単結晶中のシリコン原子の間隔は変化する(d→d´)。すなわち、被検体の結晶面の面間隔が変化するため、回折光強度のピーク位置が変化する。具体的には、図5に示すように、一定方向の応力によって格子間隔が全体的に一定量変化している場合(単結晶と比べて格子間隔は変化しているが、一画素あたりの計測領域内において変化量が一定である場合)、回折光強度のピーク位置のシフトが生じる。一方、複数方向から応力が加えられるなどして、格子間隔が不規則に変化したり部分的に変化したりしている場合、一画素あたりの計測領域内において、回折光強度のピーク位置のばらつきが生じるため、回折光強度の半値幅が増大する。
【0021】
図6は、被検体のX線回折画像の一例を示す図である。図6は、半導体装置が形成された半導体基板を被検体とし、同じ被検体を異なる入射角で計測した場合の5枚のX線回折画像(画像X1~X5)を示している。画像X1は、図3において点P1を取得した入射角θsによる計測の結果得られた画像である。同様に、画像X2、画像X3、画像X4、画像X5は、それぞれ、図3における点P2、P3、P4、P5を取得した入射角θsによる計測の結果得られた画像である。図6に示すX線回折画像は、被検体40の照射領域から得られた回折光の強度分布を、輝度で表現している。すなわち、画像中において、大きな回折光強度が計測された画素は明るい画素(輝度が高い画素)で示されており、小さな回折光強度が計測された画素は暗い画素(輝度が低い画素)で示されている。半導体装置は、様々な種類の膜が様々なパターンで半導体基板表面に成膜されているため、表面の構造に応じて半導体基板に加えられる応力の大きさや方向が異なってくる。従って、X線の入射角をスキャンして回折光の強度を2次元測定した場合、場所によって回折光強度の変化が異なる。これを利用し、本実施形態では、入射角をスキャンして回折光強度の変化を2次元で測定することにより、被検体の歪みの分布を推定する。
【0022】
ここで、実施形態の検査装置1の計測対象となる半導体装置の一例を説明する。図7は、被検体となる半導体装置(不揮発性メモリ)の構成例を示すブロック図である。不揮発性メモリ200は、NAND I/Oインターフェイス210、制御部220、プレーン260を備えている。プレーン260は、独立して読み出し動作、書き込み動作、及び消去動作を実行することが可能な単位であり、不揮発性メモリ200内に1つ以上のプレーン260が配置される。図7は、不揮発性メモリ200に4つのプレーン260が配置されている場合について示している。プレーン260Aは、NANDメモリセルアレイ(メモリセル部)230A、センスユニット240A、及び、ロウデコーダ250Aを備える。プレーン260B、260C、260Dも、同様に、NANDメモリセルアレイ230B、230C、230D、センスユニット240B、240C、240D、及び、ロウデコーダ250B、250C、250Dをそれぞれ備える。不揮発性メモリ200は、半導体基板(例えば、シリコン基板)上に形成された複数の半導体チップを、スクライブラインで分割して製造される。なお、スクライブラインとは、半導体基板上に形成された複数の半導体チップを分割するための切断領域であり、半導体チップ間に設けられた「のりしろ」のような領域である。スクライブラインは、おおむね100μm以下の幅を有する。
【0023】
制御部220は、図示しないメモリコントローラから入力されたリクエスト等に基づいて、NAND I/Oインターフェイス210経由で不揮発性メモリ200の動作を制御する。以下、プレーン260Aに対して読み書きが行われる場合を一例として、動作を説明する。具体的には、制御部220は、書き込みリクエストが入力された場合、書き込み対象となるデータをNANDメモリセルアレイ230A上の指定されたアドレスへ書き込むよう、ロウデコーダ250Aとセンスユニット240Aを制御する。また、制御部220は、読み出しリクエストが入力された場合、読み出し対象となるデータをNANDメモリセルアレイ230Aから読み出してNAND I/Oインターフェイス210経由でメモリコントローラ(不図示)へ出力するよう制御する。
【0024】
ロウデコーダ250Aは、制御部220から入力されたロウアドレスに基づいて、NANDメモリセルアレイ230Aをブロック単位で選択するとともに、ワード線に所望の電圧を印加する。
【0025】
センスユニット240Aは、データの読み出し時において、NANDメモリセルアレイ230Aから読み出したデータを検知する。また、センスユニット240Aは、データの書き込み時において、外部のメモリコントローラから入力された書き込みデータを一時的に格納し、NANDメモリセルアレイ230Aに転送する。
【0026】
図8は、3次元構造のNANDメモリセルアレイの一部領域の断面図である。以下の説明では、半導体基板71表面と平行な平面にあって、ビット線BLの延伸する方向をD1とする。また、半導体基板71表面と平行かつD1と直交する方向をD2とする。また、半導体基板71表面と直交する方向をD3とする。
【0027】
メモリセルアレイ230は、3次元構造を有する。図8に示すように、p型ウェル領域(P-well)上に複数のNANDストリングNSが形成されている。すなわち、p型ウェル領域上には、セレクトゲート線SGSとして機能する複数の配線層633、ワード線WLiとして機能する複数の配線層632、およびセレクトゲート線SGDとして機能する複数の配線層631が積層されている。なお、図8においては、ワード線WLiとして機能する配線層632が8層積層された構造を示しているが、近年では、48層、64層、96層など更に多層の配線層632が積層されたNANDストリングNSが用いられている。
【0028】
そして、これらの配線層633、632、631を貫通してp型ウェル領域に達するメモリホール634が形成されている。メモリホール634の側面には、ブロック絶縁膜635、電荷蓄積層636、およびゲート絶縁膜637が順次形成され、更にメモリホール634内に導電体柱638が埋め込まれている。導電体柱638は、例えばポリシリコンからなり、NANDストリングNSに含まれるメモリセルトランジスタMT並びに選択トランジスタST1及びST2の動作時にチャネルが形成される領域として機能する。
【0029】
各NANDストリングNSにおいて、p型ウェル領域上に選択トランジスタST2、複数のメモリセルトランジスタMT、及び選択トランジスタST1が形成されている。導電体柱638よりも上側には、ビット線BLとして機能する配線層が形成される。導電体柱638の上端には、導電体柱638とビット線BLとを接続するコンタクトプラグ639が形成されている。
【0030】
さらに、p型ウェル領域の表面内には、n+型不純物拡散層およびp+型不純物拡散層が形成されている。n+型不純物拡散層上にはコンタクトプラグ640が形成され、コンタクトプラグ640上には、ソース線SLとして機能する配線層が形成される。
【0031】
以上の図8に示した構成が、図8の紙面の奥行き方向(D2方向)に複数配列されており、奥行き方向に一列に並ぶ複数のNANDストリングの集合によって、1つのストリングユニットSUが形成される。
【0032】
図9は、NANDメモリのメモリセルアレイとその周辺の一部領域の断面図である。上述のように、一般的に、半導体装置を製造する際には、1枚の半導体基板71上に複数の半導体装置が形成される。半導体装置の形成が終了すると、半導体装置間を切断して個々の半導体装置を得る。従って、半導体基板71上には、半導体装置が形成される領域(メモリ形成領域)600の周囲を囲むように、ダイシング領域800(隣り合う半導体装置を切断するためにダイシングソーで切削される領域、スクライブラインと同義)が設けられる。
【0033】
図9は、メモリ形成領域600とダイシング領域800とがD1方向において隣り合うように配置されている領域を示している。すなわち、D1方向に2つの半導体装置200が隣り合うように配置されており、2つの半導体装置200の間にD2方向に延伸するスクライブラインが形成されているパターンにおける、1つの半導体装置200の一部領域とスクライブラインの一部領域とを図示したものである。
【0034】
メモリ形成領域600は、メモリセルアレイ領域610と、階段領域620とを有する。メモリセルアレイ領域610は、図8に示すような3次元構造を有するメモリセルアレイ230が形成される。すなわち、メモリセルアレイ領域610は、D3方向において複数の異なる膜が多層積層して形成されている。また、D3方向に垂直な平面においては、特定のパターン(例えば、メモリホール634)が周期的に配置されている。
【0035】
階段領域620は、メモリセルアレイ230を構成する配線層632と図示しない配線層とを接続するコンタクトプラグCPが形成される領域である。D3方向からみた場合に、それぞれのワード線WLiに接続されるコンタクトプラグCPを重ならないように配置するため、下層に位置するワード線WL0から上層に位置するワード線WL7に向かって端部の長さが短くなるように、配線層632はパターニングされている。すなわち、ワード線WLiの上面には、ワード線WL(i+1)が積層されていない領域(ステップ)が形成されており、該ステップにコンタクトプラグCPが接続されている。階段領域620は、メモリセルアレイ領域610と同様に、D3方向において複数の異なる膜が多層積層して配置されているが、各層の面積は上層ほど小さくなされている。D1方向でみた場合、メモリセルアレイ領域610に近いほど多数の膜が積層されており、ダイシング領域800に近いほど積層される膜の数が少なくなされている。
【0036】
ダイシング領域800は、半導体基板71が露出しており、D3方向において膜が形成されていない。または、ダイシング領域800では、半導体基板71上にメモリセルアレイ領域610とは異なる膜が形成されていてもよい。
【0037】
図10~12は、図9に示す半導体装置を被検体とするX線の入射角に対する回折光強度の変化を説明する図である。図10は、メモリセルアレイ領域610における回折光強度変化を示している。また、図11は、階段領域620における回折光強度変化を示している。更に、図12は、ダイシング領域800における回折光強度変化を示している。
【0038】
図10に示すように、メモリセルアレイ領域610における回折光強度のピーク角度をθp、半値幅をLhとする。図11に示すように、階段領域620では、回折光強度のピーク角度θpsが、メモリセルアレイ領域610におけるピーク角度θpに対して正方向にずれている。また、図12に示すように、ダイシング領域800では、半値幅Lhdが、メモリセルアレイ領域610における半値幅Lhよりも大きくなっている。
【0039】
このように、半導体装置200には、積層された膜の種類、数、及び、パターンが異なる領域が形成されている。そして、これらの領域では、半導体基板71に生じる歪みの大きさや方向が異なるため、異なる回折光強度の変化特性(ロッキングカーブ)が検出される。実施形態の検査装置1は、回折光強度の変化特性を、2次元領域において高分解能かつ非破壊で測定することができるので、半導体装置200が形成された半導体基板71の応力の検査に好適である。
【0040】
次に、実施形態における半導体装置の検査方法の手順について、図13を用いて説明する。図13は、実施形態にかかる半導体装置の検査方法の手順の一例を説明するフローチャートである。検査に先立ち、被検体40において測定対象とする結晶面を決定する。また、照射する単色X線(波長)を決定する。例えば、被検体40が、半導体装置200が形成されている(シリコン単結晶からなる)半導体基板71である場合、基板面に平行な方向であるD1方向やD2方向の応力を測定する際には、結晶面として(422)面が測定対象とされる。シリコンの(100)面の歪みの測定に適した波長を有する単色X線としては、例えば、CuのKα1や、Kα2が選択される。
【0041】
なお、シリコン(422)面を測定対象とする場合、D1方向の歪みとD2方向の歪みを切り分けて測定することができる。すなわち、D1方向の歪みを測定対象とする場合、被検体40のD1方向が、入射X線の方向と平行な方向であるx方向と一致するように、被検体40を検体ステージ12にセットする。また、D2方向の歪みを測定対象とする場合、被検体40のD2方向が、x方向と一致するように、被検体40を検体ステージ12にセットする。
【0042】
まず、被検体40の検査対象領域に対し、入射角度をスキャンしながらX線を照射し、X線回折像を取得する(S1)。S1の具体的な手順について、図14を用いて説明する。図14は、被検体の検査対象領域におけるX線回折画像を取得する手順の一例を説明するフローチャートである。
【0043】
解析装置20において、X線の入射角をスキャンする際のステップ角θaが設定される(S11)。次に、X線の入射角のスキャン幅(測定開始角度θ1、及び、測定終了角度θ2)が設定される(S12)。通常、測定開始角度θ1と測定終了角度θ2との間に、被検体40の測定対象となる結晶面のブラッグ角が含まれるように、角度θ1、θ2は設定される。
【0044】
次に、X線の入射角度θsが角度θ1になるように、X線照射ユニット11の位置が設定され、また、X線照射ユニット11の回動状態に合わせてX線検出カメラ14の位置が設定される。そして、解析装置20は、これから取得するX線回折画像の画像番号XRIを1にセットする(S13)。続いて、X線照射ユニット11から被検体40に対してX線を照射し、被検体40から生成された回折光をX線検出カメラ14の撮像素子で受光する。X線検出カメラ14において検出された回折光強度に応じた大きさを有する電気信号は、解析装置20に入力される。解析装置20において、入力された電気信号に基づきX線回折画像が生成される(S14)。
【0045】
解析装置20は、次のX線回折画像を取得するためのX線の入射角度θsをセットする。具体的には、現在設定されている入射角度θsに、S11で設定したステップ角θaを加算し、次の入射角度θsとする(S15)。解析装置20は、S15で設定した次の入射角度θsと、測定終了角度θ2とを比較し、入射角度θsが測定終了角度θ2よりも大きい場合(S16、YES)、X線回折画像の取得を終了する。
【0046】
一方、入射角度θsが測定終了角度θ2以下である場合(S16、NO)、これから取得するX線回折画像の画像番号XRIをインクリメントし(S17)、S14に戻って、X線回折測定を継続する。以上の手順により、入射角度θ1からθ2までの間、ステップ角θaごとに、被検体40のX線回折画像が取得される。
【0047】
図12に戻り、S1が終了すると、解析装置20は、画素位置ごとに回折光のピーク位置と半値幅とを算出する(S2)。S2の具体的な手順について、図15を用いて説明する。図15は、被検体の検査対象領域における回折光強度の変化特性を取得する手順の一例を説明するフローチャートである。
【0048】
まず、解析装置20において、S1において取得したX線回折画像を全て読み出す(S21)。次に、S1において取得したX線回折画像の枚数Ia、画像の横方向(x方向)の画素数Px、縦方向(y方向)の画素数Pyを取得する(S22)。そして、回折光強度の変化特性の算出対象画素Pcをセットする(S23)。例えば、最初の特性算出対象画素として、x=0、y=0の座標にある画素をセットする(Pc(x、y)=(0、0))。なお、X線回折画像は、例えば、左上を原点、x方向は右が増加方向、y方向は下が増加方向とする。
【0049】
次に、特性算出対象画素について、回折光強度のピーク位置と、半値幅とを算出する(S24)。S24の具体的な手順について、図16を用いて説明する。図16は、回折光強度のピーク位置と半値幅とを取得する手順の一例を説明するフローチャートである。
【0050】
まず、図15のS21において読み出された全ての画像について、特性算出対象画素Pcの最大輝度値を取得する。また、最大輝度値を取得したX線回折画像の画像番号を取得する(S241)。例えば、S21において、60枚の画像(画像番号XRI=1~60)を取得し、特性算出対象画素Pcとして(0、0)がセットされている場合、60枚の画像において画素位置(0、0)の画素の輝度値を取得する。60枚の画像における画素位置(0、0)について輝度値を比較し、画像番号XRI=30の画像における輝度値が最大である場合、最大輝度値を取得した画像番号XRIpxy=30とする。
【0051】
次に、S241で取得した最大輝度値を2で割り、輝度半値を算出する(S242)。続いて、ピーク左側で輝度半値になる画素番号(XRIhxyl)を取得する(S243)。具体的には、画像番号XRIpxyよりも画像番号が小さい画像において、特性算出対象画素Pcの輝度値がS242で算出した輝度半値と略等しい画像を抽出する。抽出した画像の画像番号を、XRIhxylにセットする。また、ピーク右側で輝度半値になる画素番号(XRIhxyr)を取得する(S244)。具体的には、画像番号XRIpxyよりも画像番号が大きい画像において、特性算出対象画素Pcの輝度値がS242で算出した輝度半値と略等しい画像を抽出する。抽出した画像の画像番号を、XRIhxyrにセットする。
【0052】
次に、特性算出対象画素Pcの半値幅θhxyを算出する(S245)。具体的には、S244で取得した画像番号XRIhxyrから、S243で取得した画像番号XRIhxylを減算し、これにステップ角θaを乗じることにより半値幅θhxyを算出する。最後に、ピーク角度θxyを算出する(S246)。具体的には、S241で取得した画像番号XRIpxyを計測したときのX線の入射角θsを算出する。すなわち、XRIpxyから1減算した値にステップ角θaを乗じ、測定開始角度θ1に加算することによりピーク角度θxyを算出する(S247)。
【0053】
図15に戻り、S24が終了すると、特性算出対象画素Pcとして次の画素をセットする。例えば、X線回折画像を左上から右下までラスタスキャンしながら特性を算出する場合、現在の特性算出対象画素Pcのx座標に1を加えた座標の画素を、次の特性算出対象画素Pcとする(S25)。ただし、次の特性算出対象画素が、X線回折画像の範囲内に存在しない場合(、換言すると、現在の特性算出対象画素Pcが、当該画素が属する行の右端に位置する場合)(S26、YES)、次の行の1列目の画素を、次の特性算出対象画素Pcとする(S27)。一方、次の特性算出対象画素Pcが、X線回折画像の範囲内である場合(S26、NO)、次の特性算出対象画素PcについてS24を実行し、回折光強度のピーク位置と、半値幅とを算出する。
【0054】
S27において、次の特性算出対象画素Pcとされた画素が、X線回折画像の範囲内である場合(S28、NO)、次の特性算出対象画素PcについてS24を実行し、回折光強度のピーク位置と、半値幅とを算出する。一方、S27において、次の特性算出対象画素Pcとされた画素が、X線回折画像の範囲内に存在しない場合(、換言すると、現在の特性算出対象画素Pcが、X線回折画像の最下列に位置する場合)(S28、YES)、図15に示す一連の手順、すなわち、図13におけるS2を終了する。
【0055】
図13に戻り、最後に、S2において算出した値を用い、被検体40の検査対象領域における応力マッピング画像を生成する(S3)。図17は、ピーク位置に関する応力マッピング画像のイメージの一例を説明する図である。また、図18は、半値幅に関する応力マッピング画像のイメージの一例を説明する図である。応力マッピング画像は、例えば、画像全体の平均値など、基準となる値に対する差分の大きさを輝度値で表現することができる。図17に示すピーク位置に関する画像であれば、例えば、X線回折画像内の全ての画素のピーク位置の平均(平均ピーク位置)を算出し、平均ピーク位置に対する各画素のピーク位置の差分の大きさを輝度値で表す。ピークシフト量が大きいほど、輝度値が大きく表現される。図18に示す半値幅に関する画像も同様に、例えば、X線回折画像内の全ての画素の半値幅の平均(平均半値幅)を算出し、平均半値幅に対する各画素の半値幅の差分の大きさを輝度値で表す。半値幅が増大しているほど、輝度値が大きく表現される
なお、平均値に対する差分の正負を色分けして表示することも可能である。例えば、平均値よりもピーク位置が小さい場合は青色、平均値よりもピーク位置が大きい場合は赤色と、色分けして表示することにより、被検体40の平均的な面間隔と比べて、赤色の部分は面間隔が伸びる方向に応力が働いており、青色の部分は面間隔が縮む方向に応力が働いていることが一目で識別できる。
【0056】
図17図18は、図9に示す構造を有する半導体装置200を被検体40として検査した場合のイメージを示しており、図中において、点線で囲んだ領域がメモリセルアレイ領域610に対応し、一点鎖線で囲んだ領域が階段領域620に対応し、二点鎖線で囲んだ領域がダイシング領域800に対応する。図17図18に示すように、半導体装置200の構造(膜構造、パターン構造)に応じて歪みが生じており、ピークシフトが起きている領域や、半値幅が増大している領域が局在していることがわかる。例えば、階段領域620は、x方向の一方側のみにステップが形成されているため、応力が一定方向(x方向)にかかっている。従って、階段領域620はピークシフト量が大きい。これに対し、ダイシング領域800は、表面にパターンが形成されておらず、周辺に形成されるパターンに応じて格子間隔が不規則に歪む。従って、半値幅が増大する。
【0057】
なお、応力マッピング画像を作成する際には、面内の相対的な歪みの比較であれば、ピーク位置や半値幅を角度として算出した値を用いるのではなく、ピーク位置が検出された画像番号(図16のS241で取得した画像番号XRIpxy)や、半値幅の範囲内に含まれる画像の枚数(図16のS245で算出されたXRIhxyr-XRIhxyl)を用いてもよい。
【0058】
また、応力が加えられてない標準試料(例えば、半導体装置200形成前のシリコン単結晶からなる半導体基板)における回折光強度のピーク角度を測定し、このピーク角度と被検体40の各画素における回折光強度のピーク角度とを比較することで、被検体40の各領域に加えられている応力が、引っ張り応力であるか、圧縮応力であるかを切り分けて評価することも可能である。すなわち、引っ張り応力であれば、結晶格子の面間隔が広くなるため、ピーク角度が小さくなる。圧縮応力であれば、結晶格子の面間隔が狭くなるため、ピーク角度が大きくなる。応力マッピング画像において、例えば、引っ張り応力と圧縮応力を色分けして表示することにより、応力の大きさの分布だけでなく、応力の種類を視覚的にわかりやすくすることができる。
【0059】
更に、応力の大きさが既知である標準試料を用いてピーク角度と応力の大きさとの関係を事前に取得しておけば、実施形態の検査装置で取得した画素ごとのピーク角度を応力の大きさに変換することも可能である。
【0060】
以上のように、本実施形態によれば、半導体装置200が形成された半導体基板71における応力を、非破壊かつ高分解能で検査することができる検査装置1、及び、検査方法を提供することができる。
【0061】
なお、上述の説明においては、シリコンの結晶面(422)を用い、被検体40から反射する回折光強度を、反射法により測定する場合について説明したが、例えば、D3方向に平行な結晶面(200)を用い、透過法を用いて回折光強度を測定してもよい。結晶面(200)を用いる場合、D3方向の成分を含まない応力を測定することができるので、基板71の表面に平行な方向(D1方向)のみの応力を検査することができる。また、結晶面(200)を用いると、基板71の表面から深さ方向の応力マッピング画像を生成することができる。更に、X線を照射するD1方向の位置を移動させながら応力マッピング画像を複数生成することで、生成した画像をスタッキングすることにより3次元応力マッピング画像を生成することも可能である。
【0062】
また、被検体40である半導体装置の構造は、上述の構造に限定されない。実施形態の検査装置1は、様々な構造の半導体装置の検査に適用可能である。
【0063】
本発明の実施形態を説明したが、本実施形態は一例として示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
1…検査装置、10…X線回折測定装置、11…X線照射ユニット、12…検体ステージ、13…ステージ駆動部、14…X線検出カメラ、15…制御部、20…解析装置、21…CPU、22…RAM、23…メモリ、30…表示装置、40…被検体、41…結晶、42…膜、71…半導体基板、111…X線源、112…多層膜集光ミラー、113…モノクロメータ、114…スリット、200…半導体装置(不揮発性メモリ)、210…NANDインターフェイス、220…制御部、230…メモリセルアレイ、231…解析ソフトウェア、240…センスユニット、250…ロウデコーダ、260…プレーン、410…原子、600…メモリ形成領域、610…メモリセルアレイ領域、620…階段領域、631、632、633…配線層、634…メモリホール、635…ブロック絶縁膜、636…電荷蓄積層、637…ゲート絶縁膜、638…導電体柱、639、640…コンタクトプラグ、800…ダイシング領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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