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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】三次元積層造形装置
(51)【国際特許分類】
   B22F 12/44 20210101AFI20240422BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240422BHJP
   B22F 12/41 20210101ALI20240422BHJP
【FI】
B22F12/44
B33Y30/00
B22F12/41
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020149659
(22)【出願日】2020-09-07
(65)【公開番号】P2022044168
(43)【公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津田 貴
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/088101(WO,A1)
【文献】特開2001-323369(JP,A)
【文献】特開2017-160505(JP,A)
【文献】特開2009-117133(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0311759(US,A1)
【文献】特開2016-006214(JP,A)
【文献】国際公開第2018/193744(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 10/00-12/90
B33Y 10/00-99/00
B29C 64/00-64/40
H01J 37/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形物の原材料となる粉末が敷き詰められるステージと、
前記ステージ上に敷き詰められる前記粉末にビームを照射するとともに、前記ビームが出射されるビーム出射口を有するビーム照射装置と、
前記ステージと前記ビーム照射装置との間に配置され、前記粉末に前記ビームを照射した際に発生する輻射熱をシールドする輻射シールド部と、
前記輻射シールド部と前記ビーム照射装置との間に配置され、前記粉末に前記ビームを照射した際に発生する蒸発物質が前記ビーム出射口の開口エッジに付着することを抑制する付着抑制部と、
を備え
前記付着抑制部は、前記ビームが通る筒穴を有する筒状に形成されており、
前記付着抑制部の前記ビーム出射口側の開口径は、前記ビーム出射口の開口径よりも小さく、
前記付着抑制部は、前記粉末に前記ビームを照射した際に発生する輻射熱で高温に加熱される
三次元積層造形装置。
【請求項2】
前記輻射シールド部と前記付着抑制部とが別体構造になっている
請求項に記載の三次元積層造形装置。
【請求項3】
前記輻射シールド部と前記付着抑制部とが一体構造になっている
請求項に記載の三次元積層造形装置。
【請求項4】
前記輻射シールド部と前記付着抑制部とが接触している
請求項に記載の三次元積層造形装置。
【請求項5】
前記ビーム出射口は、前記ビームの進行方向の上流側から下流側に向かって徐々に直径が大きくなるラッパ状であり、
前記ビーム照射装置は、前記ビーム出射口の形状に合わせてラッパ状に形成され、前記ビーム出射口の内側を覆うカバー部材を備える
請求項1~4のいずれか一項に記載の三次元積層造形装置。
【請求項6】
前記カバー部材は、前記ビーム照射装置の前記ビーム出射口に対して着脱自在に構成されている
請求項に記載の三次元積層造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元積層造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ステージ上に敷き詰められた金属の粉末に電子ビームを照射して粉末を溶融および凝固させるとともに、凝固させた層をステージの移動により順に積層させて三次元の造形物を形成する三次元積層造形装置が知られている(たとえば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/163404号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
三次元積層造形装置において、金属の粉末に電子ビームを照射すると、溶融した金属の一部が蒸発物質となって霧状に立ち昇る。その際、蒸発物質は、ステージの上方に存在する輻射シールド部の開口を通過してビーム照射装置のビーム出射口に到達し、ビーム出射口の内周面に付着する。これにより、ビーム出射口の内周面には、金属の蒸着物が付着した状態になる。蒸着物は、造形プロセス中に成長して被膜を形成し、この被膜にひび割れ等が生じると、蒸着物が自重で落下する。落下した蒸着物は造形面の上に落ちる。その結果、蒸着物が造形途中の造形物に取り込まれ、造形物に欠陥が生じるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、造形面上への蒸着物の落下を抑制することができる三次元積層造形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る三次元積層造形装置は、造形物の原材料となる粉末が敷き詰められるステージと、ステージ上に敷き詰められる粉末にビームを照射するとともに、ビームが出射されるビーム出射口を有するビーム照射装置と、ステージとビーム照射装置との間に配置され、粉末にビームを照射した際に発生する輻射熱をシールドする輻射シールド部と、輻射シールド部とビーム照射装置との間に配置され、粉末にビームを照射した際に発生する蒸発物質がビーム出射口の開口エッジに付着することを抑制する付着抑制部と、を備える。付着抑制部は、ビームが通る筒穴を有する筒状に形成されている。付着抑制部のビーム出射口側の開口径は、ビーム出射口の開口径よりも小さい。付着抑制部は、粉末にビームを照射した際に発生する輻射熱で高温に加熱される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、造形面上への蒸着物の落下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置の構成を概略的に示す側断面図である。
図2図1に示す三次元積層造形装置の一部を拡大した図である。
図3】本発明の第2実施形態に係る三次元積層造形装置の構成を概略的に示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本明細書および図面において、実質的に同一の機能または構成を有する要素については、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0010】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置の構成を概略的に示す側断面図である。以降の説明では、三次元積層造形装置の各部の形状や位置関係などを明確にするために、図1の左右方向をX方向、図1の奥行き方向をY方向、図1の上下方向をZ方向とする。X方向、Y方向およびZ方向は、互いに直交する方向である。また、X方向およびY方向は水平方向に平行な方向であり、Z方向は鉛直方向に平行な方向である。
【0011】
図1に示すように、三次元積層造形装置10は、真空チャンバー12と、ビーム照射装置14と、粉末供給装置16と、造形テーブル18と、造形ボックス20と、ステージ22と、ステージ移動装置24と、輻射シールド部40と、付着抑制部42と、を備えている。
【0012】
真空チャンバー12は、図示しない真空ポンプによってチャンバー内の空気を排気することにより、真空状態を作り出すためのチャンバーである。真空チャンバー12は、上壁12a、側壁12bおよび底壁12cを有している。上壁12aおよび底壁12cは、Z方向で対向している。
【0013】
ビーム照射装置14は、造形面32aに電子ビーム15を照射する装置である。造形面32aは、ステージ22上に敷き詰められる粉末32の上面に相当する。ビーム照射装置14は、電子ビームの発生源となる電子銃26と、電子銃26が発生した電子ビーム15を制御する光学系27とを備える。
【0014】
光学系27は、集束レンズ28と、対物レンズ29と、偏向レンズ30とを備えている。集束レンズ28は、電子銃26が発生する電子ビーム15を集束させるレンズである。対物レンズ29は、集束レンズ28で集束させた電子ビーム15を造形面32aに合焦させるレンズである。偏向レンズ30は、対物レンズ29によって合焦させた電子ビーム15を造形面32a上で走査させるために電子ビーム15を偏向するレンズである。なお、ビームは電子ビームに限らず、レーザービームであってもよい。また、光学系27における各レンズ28,29,30の配置は必要に応じて変更可能であり、光学系27の構成についても必要に応じて変更可能である。
【0015】
ビーム照射装置14は、真空チャンバー12の上壁12aに取り付けられている。ビーム照射装置14は、電子銃26および光学系27の中心軸31がZ方向と平行となるように配置されている。ビーム照射装置14の下端部にはビーム出射口34が設けられている。ビーム出射口34は、光学系27によって制御された電子ビーム15を出射させる開口である。すなわち、電子ビーム15は、このビーム出射口34から出射される。ビーム出射口34は、電子ビーム15を制御する光学部品(レンズ等)に形成されていてもよいし、光学部品を保持する筐体に形成されていてもよい。
【0016】
ビーム出射口34は、光学系27の中心軸方向から見て円形に形成されている。ビーム出射口34は、電子ビーム15の進行方向の上流側から下流側に向かって徐々に直径が大きくなる形状、すなわちラッパ状に形成されている。ビーム出射口34をラッパ状に形成する理由は、偏向レンズ30による電子ビーム15の偏向を許容するためである。具体的には、ビーム出射口34は、偏向レンズ30によって電子ビーム15を偏向するときに、電子ビーム15がビーム出射口34の内周面34aに干渉(接触)しないよう、その内周面34aが中心軸31に対して所定の角度で傾斜している。
【0017】
ビーム照射装置14はカバー部材36を備えている。カバー部材36は、ビーム出射口34の内周面34aを覆う部材であり、ビーム出射口34の形状にあわせてラッパ状に形成されている。カバー部材36は、後述する蒸発物質がビーム出射口34の内周面34aに付着することを防止する部材である。カバー部材36は、内周面34aの全面を覆っている。光学系27を構成する部品は耐熱温度に制限があるため、あまり高温にすることはできない。これに対し、ビーム出射口34の内周面34aをカバー部材36によって覆った場合は、光学系27に対してカバー部材36が断熱(遮熱)効果を発揮する。このため、光学系27の構成部品を熱から保護することができる。
【0018】
カバー部材36は、たとえば、金属製の薄い板を曲げ成形することによって得られる部材であり、ビーム出射口34に対して着脱可能に構成されている。ビーム出射口34に対してカバー部材36を着脱するための構成としては、たとえば図示はしないが、カバー部材36の円周方向の一箇所に細い切れ目を形成し、カバー部材36を構成する金属材料(たとえば、ステンレス鋼)の弾性を利用してカバー部材36を径方向に伸縮させる構成が考えられる。この構成を採用した場合は、ビーム出射口34にカバー部材36を装着するときは、外力によりカバー部材36を径方向に縮めた状態でカバー部材36をビーム出射口34に挿入した後、外力の解放によりカバー部材36が径方向に拡がる力を利用してカバー部材36をビーム出射口34の内周面34aに圧着させる。これにより、ビーム出射口34にカバー部材36を取り付けることができる。この場合、ビーム出射口34からカバー部材36が脱落しないよう、図示しないストッパーをビーム出射口34に設けてもよい。一方、ビーム出射口34からカバー部材36を取り外す場合は、ビーム出射口34の内周面34aに対するカバー部材36の圧着力よりも強い力でビーム出射口34からカバー部材36を引き込む。これにより、ビーム出射口34からカバー部材36を取り外すことができる。
【0019】
粉末供給装置16は、造形物38の原材料となる金属の粉末32を造形テーブル18上に供給する装置である。粉末供給装置16は、ホッパー16aと、粉末投下器16bと、アーム16cとを有している。ホッパー16aは、粉末を貯蔵するための容器である。粉末投下器16bは、ホッパー16aに貯蔵されている粉末を造形テーブル18上に投下する機器である。粉末投下器16bは、予め決められた量の粉末を造形テーブル18の端に投下する。アーム16cは、Y方向に長い長尺状の部材である。アーム16cは、粉末投下器16bによって投下された粉末を造形テーブル18上に敷き詰める。アーム16cは、造形テーブル18の全面に粉末を均一に敷き詰めるために、X方向に移動可能に設けられている。
【0020】
造形テーブル18は、真空チャンバー12の内部に水平に配置されている。造形テーブル18は、粉末供給装置16よりも下方に配置されている。造形テーブル18の中央部には開口部18aが形成されている。開口部18aは、平面視円形または平面視四角形に形成される。本実施形態においては、一例として、開口部18aが平面視円形に形成されているものとする。
【0021】
造形ボックス20は、造形テーブル18の開口部18aの下方に造形用の空間を形成するボックスである。造形ボックス20の上端部は、開口部18aの縁で造形テーブル18の下面に接続されている。造形ボックス20の下端部は、真空チャンバー12の底壁12cに接続されている。
【0022】
ステージ22は、金属の粉末32を用いて造形物38を形成するためのステージである。ステージ22は、造形テーブル18の開口部18aの形状にあわせて平面視円形に形成されている。ステージ22は、上面22aおよび下面22bを有する。三次元積層造形装置10によって造形物38を形成する場合、ステージ22の上面22aには所定の厚さ(一層分の厚さ)で粉末32が敷き詰められる。ステージ22の上面22aは、Z方向においてビーム照射装置14と対向するように配置されている。ステージ22の下面22bは、Z方向において、真空チャンバー12の底壁12cと対向するように配置されている。
【0023】
ステージ移動装置24は、ステージ22を上下方向に移動させる装置である。ステージ移動装置24は、シャフト24aと、駆動機構部24bとを備えている。シャフト24aは、ステージ22の下面22bに接続されている。駆動機構部24bは、図示しないモータを駆動源として駆動することにより、シャフト24aと一体にステージ22を上下方向に移動させる。
【0024】
輻射シールド部40は、Z方向において、ステージ22とビーム照射装置14との間に配置されている。輻射シールド部40は、ビーム照射装置14によって粉末32に電子ビーム15を照射した際に発生する輻射熱をシールドする部分である。ここで、図2に示すように、金属の粉末32に電子ビーム15を照射すると粉末32が溶融するが、このとき粉末32から放射される熱、すなわち輻射熱が真空チャンバー12内に広く拡散してしまうと熱効率が悪くなる。これに対し、ステージ22の上方に輻射シールド部40を配置した場合は、粉末32から放射される熱(輻射熱)が輻射シールド部40によってシールドされるとともに、シールドされた熱が輻射シールド部40により反射されてステージ22側に戻される。このため、電子ビーム15の照射によって発生する熱を効率良く利用することができる。
【0025】
輻射シールド部40は、ステンレス鋼などの金属によって構成されるとともに、ブラケット44によって真空チャンバー12の上壁12aに取り付けられている。輻射シールド部40は、真空チャンバー12の内部で、かつ造形面32aの上方に配置されている。造形面32aに電子ビーム15を照射すると、溶融した金属の一部が霧状の蒸発物質46(図2参照)となって造形面32aから立ち昇る。輻射シールド部40は、ステージ22と対向する状態で造形面32aの上方空間を覆うことにより、蒸発物質46が真空チャンバー12の内壁に付着(蒸着)することを抑制する機能を果たす。
【0026】
輻射シールド部40は、電子ビーム15の進行方向の上流側から下流側に向かって徐々に径が大きくなる形状に形成されている。輻射シールド部40は、上部開口40aおよび下部開口40bを有する筒状の部材によって構成されている。下部開口40bは、上部開口40aよりも大きく形成されている。下部開口40bの口径は、ステージ22の径と同等か、それよりも大きく設定されている。なお、光学系27の中心軸方向から輻射シールド部40を見たときの形状は、円形でもよいし、四角形などの角形でもよい。本実施形態では、造形テーブル18の開口部18aおよびステージ22の形状にあわせて輻射シールド部40の開口形状が円形に形成されているものとする。
【0027】
付着抑制部42は、Z方向において、輻射シールド部40とビーム照射装置14との間に配置されている。付着抑制部42は、図2に示すように、ビーム照射装置14によって粉末32に電子ビーム15を照射した際に発生する蒸発物質46がビーム照射装置14のビーム出射口34の開口エッジ34bに付着することを抑制する機能を果たす。蒸発物質46は、電子ビーム15の照射によって溶融した金属の一部が霧状の物質となって造形面32aから立ち昇ったものである。付着抑制部42は、ステンレス鋼などの金属によって構成されている。また、輻射シールド部40と付着抑制部42とは別体構造になっている。そして、輻射シールド部40の上面と付着抑制部42の下面とを密着(接触)させることにより、輻射シールド部40と付着抑制部42とが熱的に接続されている。付着抑制部42は、たとえばネジ止めなどによって輻射シールド部40上に固定される。
【0028】
ここで、造形面32aから立ち昇る蒸発物質46は、水平方向に少し広がりながら上方に移動する。このため、ビーム出射口34の開口エッジ34bに蒸発物質46が付着しないようにするには、ビーム照射装置14の下端部に付着抑制部42を近づけて配置することが好ましい。そこで本実施形態において、付着抑制部42の上端部はビーム照射装置14の下端部に近接して配置されている。
【0029】
付着抑制部42の上端部とビーム照射装置14の下端部との近接距離Lは、好ましくは26mm以下であり、より好ましくは13mm以下である。また、付着抑制部42の上端部は、ビーム照射装置14の下端部と同じ高さ位置に配置されていてもよい。この場合、近接距離Lはゼロとなる。
また、付着抑制部42の上端部は、ビーム照射装置14の下端部よりも上側に配置されていてもよい。この場合、付着抑制部42の上端部は、ビーム出射口34の内部に配置される。
【0030】
付着抑制部42は、電子ビーム15の進行方向の上流側から下流側に向かって徐々に径が大きくなる形状に形成されている。付着抑制部42は、上部開口42aおよび下部開口42bを有する筒状の部材によって構成されている。下部開口42bは、上部開口42aよりも大きく形成されている。下部開口42bの口径は、輻射シールド部40の上部開口40aの口径よりも小さく設定されている。また、図2に示すように、ビーム照射装置14におけるビーム出射口34の大径側の開口径をD1(mm)とし、付着抑制部42の上端の開口径である上部開口42aの開口径をD2(mm)とすると、開口径D1,D2の大小関係は、D1>D2の条件を満たしている。開口径D1,D2の寸法比は、付着抑制部42が電子ビーム15の偏向を阻害しない条件の下で、好ましくは、0.9D1≧D2であり、より好ましくは、0.8D1≧D2である。
【0031】
続いて、三次元積層造形装置10の動作について説明する。
まず、ステージ22の上面22aを造形テーブル18の上面よりも所定量だけ下げた状態で、粉末供給装置16により造形テーブル18上に粉末32を供給する。その際、ホッパー16aに貯蔵されている粉末は、粉末投下器16bによって造形テーブル18上に投下される。造形テーブル18上に投下された粉末32は、アーム16cの移動によって造形テーブル18上に敷き詰められる。アーム16cは、移動中にステージ22の上を通過する。このため、ステージ22上にも粉末32が敷き詰められる。
【0032】
次に、ビーム照射装置14によって電子ビーム15を照射することにより、ステージ22上の粉末32を溶融および凝固させる。その際、ビーム照射装置14は、目的とする造形物の三次元CAD(Computer-Aided Design)データを一定の厚みにスライスした2次元データに基づいて電子ビーム15を走査することにより、ステージ22上の粉末32を選択的に溶融する。電子ビーム15の照射によって溶融した粉末32は、電子ビーム15が通過した後に凝固する。これにより、一層分の造形が完了する。
【0033】
次に、ステージ22は、ステージ移動装置24の駆動によって一層分だけ下方に移動する。次に、上記同様に、粉末供給装置16によって造形テーブル18上に粉末32を供給するとともに、ビーム照射装置14によって電子ビーム15を照射する。以降は、このような動作を所定の層数分だけ繰り返すことにより、目的とする造形物38が得られる。
【0034】
上述した三次元積層造形装置10の動作においては、ステージ22上の粉末32に電子ビーム15を照射した際に粉末32から立ち昇る霧状の蒸発物質46は、まず、ステージ22の上方空間を覆っている輻射シールド部40の内面に付着する。これにより、蒸発物質46の多くは輻射シールド部40によって捕捉される。ただし、蒸発物質46の一部は、輻射シールド部40の上部開口40aを通過する。
【0035】
次に、輻射シールド部40の上部開口40aを通過した蒸発物質46は、付着抑制部42の下部開口40bを通して付着抑制部42の内部に進入する。輻射シールド部40とビーム照射装置14との間では、蒸発物質46の上方への移動を許容する空間が付着抑制部42によって狭められている。このため、蒸発物質46は付着抑制部42の内面に付着する。これにより、蒸発物質46が付着抑制部42によって捕捉される。ただし、蒸発物質46の一部は、付着抑制部42の上部開口42aを通過する。
【0036】
本発明の第1実施形態において、付着抑制部42の上部開口42aは、ビーム照射装置14のビーム出射口34よりも小さく絞られている。このため、付着抑制部42の上部開口42aを通過した蒸発物質46は、ビーム出射口34の開口エッジ34bよりも中心軸31(図1参照)に近い位置を通って上方に移動し、カバー部材36の内面に付着する。これにより、ビーム出射口34の開口エッジ34bに蒸発物質46が付着することを抑制できる。
【0037】
ここで、蒸着物の落下は、主としてビーム出射口34の開口エッジ34bの部分で発生する。このため、ビーム出射口34の開口エッジ34bの部分に蒸発物質46が付着しないよう、輻射シールド部40とビーム照射装置14との間に付着抑制部42を配置することにより、蒸着物の落下を効果的に抑制することができる。以下、更に詳しく説明する。
【0038】
まず、蒸着物は、被蒸着部材に蒸発物質46が付着することによって生成される物質である。蒸着物は被蒸着部材の表面に被膜を形成し、この被膜がひび割れ等によって剥がれると、蒸着物が落下する。また、被膜は、蒸発物質46の温度と、この蒸発物質46が付着する被蒸着部材の表面温度との差が大きい箇所で、ひび割れを起こしやすくなる。
【0039】
輻射シールド部40は、造形面32aから放射される熱で高温に加熱され、かつ高温状態に維持される。このため、蒸発物質46の温度と輻射シールド部40の表面温度との差は小さくなる。したがって、輻射シールド部40に蒸発物質46が付着しても、輻射シールド部40の表面では被膜のひび割れが発生しにくい状況となる。このため、輻射シールド部40から蒸着物が落下することはほとんどない。
【0040】
付着抑制部42は、造形面32aから放射される熱で高温に加熱され、かつ、輻射シールド部40とは熱的に接続されているため、輻射シールド部40と同様に高温状態に維持される。このため、蒸発物質46の温度と付着抑制部42の表面温度との差は小さくなる。したがって、付着抑制部42に蒸発物質46が付着しても、付着抑制部42の表面では被膜のひび割れが発生しにくい状況となる。このため、付着抑制部42から蒸着物が落下することはほとんどない。
【0041】
一方、カバー部材36は、造形面32aから放射される熱で高温に加熱されるが、ビーム出射口34の開口エッジ34bの部分では熱が逃げやすくなる。このため、ビーム出射口34の開口エッジ34bの部分では、蒸発物質46の温度とカバー部材36の表面温度との差が大きくなる。したがって、ビーム出射口34の開口エッジ34bの部分は、被膜のひび割れが発生しやすい箇所になる。
【0042】
本発明の第1実施形態においては、ビーム出射口34の開口エッジ34bの部分を覆っているカバー部材36の表面に蒸発物質46が付着しないよう、輻射シールド部40の上方空間において蒸発物質46が通過できる領域を付着抑制部42によって狭めている。このため、ビーム出射口34の開口エッジ34bを覆っているカバー部材36の表面に蒸発物質46が付着することはなく、仮に付着しても極少量にとどまる。したがって、開口エッジ34bを覆っているカバー部材36の表面には、蒸着物の成長によって被膜が形成されることがなくなる。よって、開口エッジ34bを覆っているカバー部材36の表面から蒸着物が落下することはほとんどない。一方、開口エッジ34b以外の部分を覆っているカバー部材36の表面は、造形面32aからの輻射熱によって高温状態に維持される。このため、開口エッジ34b以外の部分を覆っているカバー部材36の表面では、被膜のひび割れが発生しにくい状況となる。したがって、開口エッジ34b以外の部分を覆っているカバー部材36からも蒸着物が落下することはほとんどない。
【0043】
したがって、本発明の第1実施形態によれば、造形面32a上への蒸着物の落下を抑制することができる。その結果、造形途中の造形物38に蒸着物が混入して欠陥が発生することを未然に防ぐことができる。
【0044】
なお、上記第1実施形態において、ビーム照射装置14は、ビーム出射口34の内周面34aを覆うカバー部材36を備えた構成になっているが、付着抑制部42の存在による蒸着物の落下抑制効果は、カバー部材36を備えない構成でも得られる。ただし、光学系27の構成部品を熱から保護し、かつ蒸着物の落下をより効果的に抑制するうえでは、カバー部材36を備えた構成を採用することが好ましい。
【0045】
<第2実施形態>
図3は、本発明の第2実施形態に係る三次元積層造形装置の構成を概略的に示す側断面図である。
本発明の第2実施形態に係る三次元積層造形装置は、上記第1実施形態に係る三次元積層造形装置10と比較して、輻射シールド部40と付着抑制部42とが一体構造になっている点が異なる。輻射シールド部40と付着抑制部42との境界部分には段付き部43が形成されており、この段付き部43を境に輻射シールド部40と付着抑制部42とが区分されている。具体的には、段付き部43よりも下側の部分が輻射シールド部40を構成し、段付き部43よりも上側の部分が付着抑制部42を構成している。
【0046】
このように輻射シールド部40と付着抑制部42とを一体構造とした場合でも、上記第1実施形態と同様に、造形面上への蒸着物の落下を抑制し、造形物における欠陥の発生を未然に防ぐことができる。また、輻射シールド部40と付着抑制部42とを一体構造とすることで、部品点数を削減することができる。
【0047】
なお、上記第2実施形態においては、輻射シールド部40と付着抑制部42との境界部分に段付き部43を形成したが、本発明はこれに限らず、輻射シールド部40と付着抑制部42とを段付き部なしの一体構造としてもよい。
【符号の説明】
【0048】
10…三次元積層造形装置
14…ビーム照射装置
22…ステージ
32…粉末
34…ビーム出射口
34a…内周面
34b…開口エッジ
36…カバー部材
40…輻射シールド部
42…付着抑制部
図1
図2
図3