(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】バルブプレート、シリンダブロック、油圧モータ
(51)【国際特許分類】
F03C 1/253 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
F03C1/253
(21)【出願番号】P 2020154113
(22)【出願日】2020-09-14
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 光孝
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-008366(JP,A)
【文献】特開2003-161268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03C 1/00-99/00
F04B 1/00- 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸心を中心とする円周上に第1圧力ポート及び第2圧力ポートを有するとともに、これらの第1圧力ポート及び第2圧力ポートよりも外周部分に無端状となるように設けた第1油溝と前記第1油溝から外周に向かう複数の第2油溝とを有し、シリンダブロックの端面に当接した状態で前記回転軸心を中心として双方向に相対回転することにより前記シリンダブロックに設けたシリンダボアに対して前記第1圧力ポート及び前記第2圧力ポートが交互に連通される油圧モータのバルブプレートであって、
前記第2油溝の相互間において前記シリンダブロックの端面に当接するパッド領域には、前記第1圧力ポート及び前記第2圧力ポートの外周部に前記第1油溝に連通し、かつ前記シリンダブロックの端面に向けて開口する複数のパッド油溝が設けられ、
前記複数のパッド油溝は、前記シリンダブロックの端面に対する開口面積の割合が、相対回転の周方向において前記第2油溝から離隔する中央部分に比べて前記第2油溝に近接した2つの端部部分が大きくなるように設けられていることを特徴とするバルブプレート。
【請求項2】
前記複数のパッド油溝は、前記第1油溝からの延在長さ及び前記シリンダブロックの端面に対する開口幅が互いに同一となるものであり、前記パッド領域において両側の前記端部部分から前記中央部分に向けて相互間隔が漸次大きくなるように不等ピッチで設けられていることを特徴とする請求項1に記載のバルブプレート。
【請求項3】
前記複数のパッド油溝は、外周側端部が閉塞されていることを特徴とする請求項1に記載のバルブプレート。
【請求項4】
前記複数のパッド油溝は、前記パッド領域を相対回転の周方向に2等分する仮想の平面に対して互いに対称となるように設けられていることを特徴とする請求項1に記載のバルブプレート。
【請求項5】
前記複数のパッド油溝は、それぞれが直線状に延在し、前記回転軸心を中心とする半径方向に対して傾斜していることを特徴とする請求項1に記載のバルブプレート。
【請求項6】
前記パッド領域を相対回転の周方向に2等分する仮想の平面に対して一方の半領域部分に設けた複数のパッド油溝は、前記回転軸心を中心とする半径方向に対して互いに同じ向きに傾斜していることを特徴とする請求項5に記載のバルブプレート。
【請求項7】
前記仮想の平面に対して一方の半領域部分に設けた複数のパッド油溝と、他方の半領域部分に設けた複数のパッド油溝とは、互いに逆向きに傾斜していることを特徴とする請求項4または請求項6に記載のバルブプレート。
【請求項8】
前記仮想の平面に対して一方の半領域部分に設けた複数のパッド油溝と、他方の半領域部分に設けた複数のパッド油溝とは、互いに同じ向きに傾斜していることを特徴とする請求項6に記載のバルブプレート。
【請求項9】
回転軸心の周囲に複数のシリンダボアを有するとともに、これら複数のシリンダボアが開口する端面において前記シリンダボアよりも外周部分に無端状となるように設けた第1油溝と前記第1油溝から外周に向かう複数の第2油溝とを有し、端面をバルブプレートに当接した状態で双方向に相対回転することにより、前記複数のシリンダボアが前記バルブプレートに設けた第1圧力ポート及び第2圧力ポートに交互に連通される油圧モータのシリンダブロックであって、
前記第2油溝の相互間において前記バルブプレートに当接するパッド領域には、前記第1油溝に連通し、かつ前記バルブプレートに向けて開口する複数のパッド油溝が設けられ、
前記複数のパッド油溝は、前記バルブプレートに対する開口面積の割合が、相対回転の周方向において前記第2油溝から離隔する中央部分に比べて前記第2油溝に近接した2つの端部部分が大きくなるように設けられていることを特徴とするシリンダブロック。
【請求項10】
前記複数のパッド油溝は、前記第1油溝からの延在長さ及び前記バルブプレートの端面に対する開口幅が互いに同一となるものであり、前記パッド領域において両側の前記端部部分から前記中央部分に向けて相互間隔が漸次大きくなるように不等ピッチで設けられていることを特徴とする請求項9に記載のシリンダブロック。
【請求項11】
前記複数のパッド油溝は、外周側端部が閉塞されていることを特徴とする請求項9に記載のシリンダブロック。
【請求項12】
前記複数のパッド油溝は、前記パッド領域を相対回転の周方向に2等分する仮想の平面に対して互いに対称となるように設けられていることを特徴とする請求項9に記載のシリンダブロック。
【請求項13】
前記複数のパッド油溝は、それぞれが直線状に延在し、前記回転軸心を中心とする半径方向に対して傾斜していることを特徴とする請求項9に記載のシリンダブロック。
【請求項14】
前記パッド領域を相対回転の周方向に2等分する仮想の平面に対して一方の半領域部分に設けた複数のパッド油溝は、前記回転軸心を中心とする半径方向に対して互いに同じ向きに傾斜していることを特徴とする請求項13に記載のシリンダブロック。
【請求項15】
前記仮想の平面に対して一方の半領域部分に設けた複数のパッド油溝と、他方の半領域部分に設けた複数のパッド油溝とは、互いに逆向きに傾斜していることを特徴とする請求項12または請求項14に記載のシリンダブロック。
【請求項16】
前記仮想の平面に対して一方の半領域部分に設けた複数のパッド油溝と、他方の半領域部分に設けた複数のパッド油溝とは、互いに同じ向きに傾斜していることを特徴とする請求項14に記載のシリンダブロック。
【請求項17】
請求項1~請求項8のいずれか一つに記載したバルブプレートを備えることを特徴とする油圧モータ。
【請求項18】
請求項9~請求項16のいずれか一つに記載したシリンダブロックを備えることを特徴とする油圧モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端面がバルブプレートに当接した状態で回転するシリンダブロックを備えた油圧モータと、油圧モータに適用されるバルブプレート及びシリンダブロックとに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の油圧モータには、バルブプレートとシリンダブロックの端面との間に環状油溝及び複数の放射状油溝を設けたものがある。環状油溝は、バルブプレートに設けられた2つの圧力ポートよりも外周となる部分に無端の環状となるように構成された空所である。放射状油溝は、環状油溝から径方向に沿って外周に延在するもので、互いに等間隔となる複数箇所に設けられている。この油圧モータでは、バルブプレートとシリンダブロックの端面との間の油が環状油溝及び放射状油溝を介してケースの内部に排出されるようになる。このため、環状油溝よりも外周となる領域(以下、パッド領域という)においては、バルブプレートとシリンダブロックの端面との間に油膜を維持することが困難となる懸念がある。こうした問題を解決するため、従来においては、環状油溝よりも外周となる部分に油溜め部を形成し、パッド領域の潤滑を図るようにしたものも提供されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、昨今の油圧モータには、高圧高速化の要求がある。高圧高速化した油圧モータにあっては、上述した油溜め部を設けた場合にもパッド領域に油膜を維持することが難しく、バブルプレートとシリンダブロックの端面との間に焼き付きやかじり等の問題を生じるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みて、高圧高速の状況下にあってもバブルプレートとシリンダブロックの端面との間に焼き付きやかじり等の問題が発生する事態を防止することのできるバルブプレート、シリンダブロック、油圧モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係るバルブプレートは、回転軸心を中心とする円周上に第1圧力ポート及び第2圧力ポートを有するとともに、これらの第1圧力ポート及び第2圧力ポートよりも外周部分に無端状となるように設けた第1油溝と前記第1油溝から外周に向かう複数の第2油溝とを有し、シリンダブロックの端面に当接した状態で前記回転軸心を中心として双方向に相対回転することにより前記シリンダブロックに設けたシリンダボアに対して前記第1圧力ポート及び前記第2圧力ポートが交互に連通される油圧モータのバルブプレートであって、前記第2油溝の相互間において前記シリンダブロックの端面に当接するパッド領域には、前記第1圧力ポート及び前記第2圧力ポートの外周部に前記第1油溝に連通し、かつ前記シリンダブロックの端面に向けて開口する複数のパッド油溝が設けられ、前記複数のパッド油溝は、前記シリンダブロックの端面に対する開口面積の割合が、相対回転の周方向において前記第2油溝から離隔する中央部分に比べて前記第2油溝に近接した2つの端部部分が大きくなるように設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第1油溝の油がパッド油溝を通じてパッド領域に供給されるため、高圧高速化した場合にもバルブプレートとシリンダブロックの端面との間に油膜が確保されることになり、焼き付きやかじり等の問題が発生する事態を防止することが可能となる。しかも、パッド油溝は、シリンダブロックの端面に対する開口面積の割合が、相対回転の周方向において第2油溝から離隔する中央部分に比べて第2油溝に近接した2つの端部部分が大きくなるように設けられている。換言すれば、パッド領域の中央部分には、シリンダブロックとの摺動部分が確保された状態にある。従って、パッド油溝を設けることに起因してシリンダブロックの回転が不安定になる懸念がなく、高圧高速化を具現化することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1である油圧モータを示すもので、(a)は回転軸心を含む面で破断した断面図、(b)は回転軸心を含み、かつ(a)の破断面に直交する面で破断した断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した油圧モータの構成要素を示すもので、(a)はシリンダブロックにおいてバルブプレートとの当接面を示す端面図、(b)はバルブプレートにおいてシリンダブロックとの当接面を示す端面図である。
【
図3】
図3は、
図2(b)に示したバルブプレートの要部拡大図であり、(a)はほぼ1/4となる部分の拡大図、(b)はパッド領域及びパッド油溝の拡大図である。
【
図4】
図4は、
図2(b)に示したバルブプレートにおいて2つの圧力ポートの圧力状態及びそのときのパッド領域の要潤滑部分を示すもので、(a)はシリンダブロックが左回転で起動しているときの端面図、(b)はシリンダブロックが左回転で制動しているときの端面図、(c)はシリンダブロックが右回転で起動しているときの端面図、(d)はシリンダブロックが右回転で制動しているときの端面図である。
【
図5】
図5は、変形例1のバルブプレートの端面図である。
【
図6】
図6は、
図5に示したバルブプレートの要部拡大図である。
【
図7】
図7は、変形例2のバルブプレートの端面図である。
【
図8】
図8は、
図7に示したバルブプレートの要部拡大図である。
【
図9】
図9は、変形例3のバルブプレートの端面図である。
【
図11】
図11は、変形例4のバルブプレートの端面図である。
【
図13】
図13は、シリンダブロックの回転数領域に対するパッド油溝の傾斜角度とパッド領域の油量との関係を示した図表である。
【
図14】
図14は、変形例5のバルブプレートの端面図である。
【
図16】
図16は、変形例6のバルブプレートの端面図である。
【
図18】
図18は、本発明の実施の形態2である油圧モータの構成要素を示すもので、(a)はシリンダブロックの端面図、(b)はバルブプレートにおいてシリンダブロックとの当接面を示す端面図である。
【
図20】
図20は、変形例7のシリンダブロックの端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係るバルブプレート、シリンダブロック、油圧モータの好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0010】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1である油圧モータを示したものである。ここで例示する油圧モータは、図には明示していないが、油圧ショベル等の作業機械を走行させる走行用モータとして好適な、双方向に回転駆動するアキシャル型のものである。すなわち、実施の形態1の油圧モータにおいては、油の供給源となる油圧ポンプ1との間に切替弁2が設けてあり、油の供給方向を切り替えることで、後述するケース10に対する出力軸20の回転方向を変更することが可能である。
【0011】
ケース10は、ケース本体11とポートブロック12とを有し、互いの間に収容室13を構成したものである。出力軸20は、ケース10の収容室13を横断するように配設した柱状部材であり、一方の端部がケース本体11に回転可能に支持させてあり、他方の端部がポートブロック12に回転可能に支持させてある。出力軸20の一方の端部は、油圧モータの出力端部としてケース本体11の外部に突出し、例えば作業機械の走行駆動系に連結してある。出力軸20の他方の端部は、ポートブロック12の内部で終端している。この出力軸20には、収容室13に収容される部分の外周に斜板30及びシリンダブロック40が設けてある。
【0012】
斜板30は、ポートブロック12に対向する側に平坦な摺動面31を有した板状部材であり、中心部分に設けた開口30aに出力軸20を貫通させた状態でケース本体11の内壁面11aに近接した位置に配設してある。この斜板30は、略半球状を成す2つのボールリテーナ32を介してケース本体11の内壁面11aに支持させてあり、出力軸20に対して摺動面31を傾動させることが可能である。図中の符号33は、ケース本体11に設けたサーボ機器である。このサーボ機器33は、出力軸20の軸心(以下、回転軸心20Cという)に沿って移動可能、かつ傾動部材34を介して斜板30に当接した油圧シリンダである。パイロット圧や油圧ポンプ1からの供給圧等の油圧によってサーボ機器33が伸縮動作した場合には、ボールリテーナ32の球面に沿って斜板30が移動し、出力軸20の回転軸心20Cに対する斜板30の傾転角を変更することが可能である。
【0013】
シリンダブロック40は、中心孔41を有した円柱状部材であり、中心孔41に出力軸20を貫通させた状態でポートブロック12と斜板30との間に配設してある。シリンダブロック40の中心孔41と出力軸20の外周面との間には、シリンダブロック40が出力軸20と一体に回転するようにスプラインが設けてある。つまり、シリンダブロック40は、ケース10に対して出力軸20を中心に双方向に回転することが可能である。
【0014】
このシリンダブロック40には、出力軸20の回転軸心20Cを中心とした円周上に複数のシリンダボア42が形成してある。シリンダボア42は、出力軸20の回転軸心20Cに平行となるように形成した円柱状の空所であり、周方向に沿って互いに等間隔となるように配置してある。
図2(a)に示すように、本実施の形態1では、シリンダブロック40に9本のシリンダボア42が設けてある。個々のシリンダボア42は、斜板30に対向した端面に開口する一方、ポートブロック12に近接した端部がシリンダブロック40の内部で終端し、断面積の減少した連絡ポート43を介してシリンダブロック40の端面40aに開口している。
【0015】
図1に示すように、シリンダブロック40のシリンダボア42には、それぞれピストン44が配設してある。ピストン44は、横断面が円形の柱状を成すもので、シリンダボア42の内部にそれぞれ軸心に沿って移動可能となる状態で嵌合している。それぞれのピストン44において斜板30に対向する端部には、ピストンシュー45が設けてある。ピストンシュー45は、ピストン44に対して傾動可能、かつ斜板30の摺動面31に対して摺動可能となるように構成したものである。本実施の形態1では、球状部45a及び摺動部45bを有し、球状部45aを介して個々のピストン44の先端部に傾動可能に支持させるようにしたピストンシュー45を例示している。ピストン44に対してピストンシュー45を傾動可能に支持させる構成としては、ピストン44の端部に球状部を設けるようにしても良い。
【0016】
それぞれのピストンシュー45は、押圧プレート46を介して斜板30の摺動面31に押圧してある。押圧プレート46は、シリンダブロック40とほぼ同じ外径を有した平板状部材であり、中心部に押圧孔46aを有し、かつそれぞれのピストン44に対応する部分に装着孔46bを有している。装着孔46bは、ピストンシュー45の球状部45aを挿通可能、かつ摺動部45bを挿通不可とする内径の開口である。この押圧プレート46は、押圧孔46aに出力軸20を貫通させ、かつ個々の装着孔46bにピストンシュー45を挿通させた状態でシリンダブロック40と斜板30との間に配設してある。
【0017】
押圧プレート46に形成した押圧孔46aは、内周面が球状を成すもので、その内部にリテーナガイド47を備えている。リテーナガイド47は、押圧プレート46の押圧孔46aに嵌合する外径の半球状を成したもので、その中心部に出力軸20を貫通させ、かつ球状部分を押圧プレート46の押圧孔46aに当接させた状態で押圧プレート46とシリンダブロック40との間に配設してある。リテーナガイド47と出力軸20の外周面との間は、リテーナガイド47が出力軸20と一体に回転し、かつ出力軸20の回転軸心20Cに沿って移動可能となるようにスプラインによって結合してある。このリテーナガイド47には、シリンダブロック40の中心部に内蔵した押圧スプリング48の押圧力が伝達ロッド49を介して常時与えられている。リテーナガイド47に与えられた押圧スプリング48の押圧力は、押圧プレート46を介してピストンシュー45に与えられ、ピストンシュー45の摺動部45bをそれぞれ斜板30の摺動面31に常時当接させるように作用している。
【0018】
一方、ポートブロック12には、シリンダブロック40の連絡ポート43に対向する部分にバルブプレート50が設けてある。バルブプレート50は、
図2(b)に示すように、第1圧力ポート51及び第2圧力ポート52を有した円形の板状部材であり、シリンダブロック40の連絡ポート43が第1圧力ポート51及び第2圧力ポート52に交互に連通可能となる状態でシリンダブロック40の端面40aに摺動可能に当接している。すなわち、第1圧力ポート51及び第2圧力ポート52は、出力軸20の回転軸心20Cを中心とする同一の円周上に設けた貫通孔であり、それぞれが円弧状を成している。上述の例では、バルブプレート50においてピストン44が上死点に位置したシリンダボア42Tの軸心42Ctと、ピストン44が下死点に位置したシリンダボア42Bの軸心42Cbとを含む仮想の平面Aに対して互いに対称となるように第1圧力ポート51及び第2圧力ポート52が形成してある。これらの第1圧力ポート51及び第2圧力ポート52は、ピストン44が上死点に位置したシリンダボア42Tの連絡ポート43及びピストン44が下死点に位置したシリンダボア42Bの連絡ポート43の双方に連通しないように周方向の長さ及び位置が設定してある。
【0019】
図1(b)に示すように、第1圧力ポート51及び第2圧力ポート52には、ポートブロック12に形成した個別の給排通路12a,12bが連通し、さらに切替弁2を介して油圧ポンプ1が接続してある。
図2(b)中の符号53は、それぞれの圧力ポートに設けたノッチである。これらのノッチ53は、バルブプレート50においてシリンダブロック40との当接面にのみ開口するものである。なお、図面においては便宜上、シリンダブロック40とバルブプレート50との当接部分にはそれぞれドットが施してある。
【0020】
また、バルブプレート50には、環状油溝(第1油溝)54及び複数の放射状油溝(第2油溝)55が設けてある。環状油溝54は、第1圧力ポート51及び第2圧力ポート52よりも外周となる部分に設けた無端環状の凹所である。この環状油溝54は、例えば断面が一定半径の略半円形状を成しており、シリンダブロック40の端面40aに対向する面にのみ開口している。放射状油溝55は、環状油溝54から外周に向けて延在した直線状を成す凹所であり、周方向に沿って互いに等間隔となる位置に形成してある。これらの放射状油溝55は、例えば断面が一定半径の略半円形状を成しており、シリンダブロック40の端面40aに対向する面に開口し、かつ外周側の端部がバルブプレート50の外周面に開口している。本実施の形態1では、環状油溝54よりも外周側となる部分に6本の放射状油溝55が回転軸心20Cを中心とする半径r方向に沿って放射状となるように形成してある。特に図示の例では、上述した仮想の平面Aで2等分される2つの領域にそれぞれ3つの放射状油溝55が互いに対称となるように設けてある。放射状油溝55の最も外周側となる部分は、相互間が周方向に延在する最外周溝56によって互いに連通している。
【0021】
さらに、バルブプレート50には、
図2(b)及び
図3に示すように、環状油溝54よりも外周となる部分において放射状油溝55の間に構成されるパッド領域57にパッド油溝58が設けてある。パッド油溝58は、一端が環状油溝54に連通し、かつ他端が閉塞した直線状を成す凹所である。図示の例では、第1圧力ポート51の外周に位置する2つのパッド領域57及び第2圧力ポート52の外周に位置する2つのパッド領域57に、それぞれ複数本ずつ互いに同一の配置状態となるようにパッド油溝68が形成してある。これらのパッド油溝58は、例えば断面が一定半径の略半円形状を成し、シリンダブロック40の端面40aに対向する面に開口したものである。パッド油溝58の幅は、放射状油溝55よりも小さい。パッド油溝58の長さは、環状油溝54からパッド領域57の径方向に沿った寸法のほぼ1/2となる部分までの間となるように設けてある。図からも明らかなように、複数のパッド油溝58は、回転軸心20Cを中心とするシリンダブロック40との相対回転の周方向において両側の放射状油溝55に近接した端部部分からそれぞれ中央部分に向けて相互間隔が漸次大きくなるように不等ピッチで設けてある。特に、実施の形態1においては、パッド領域57を相対回転の周方向に2等分する仮想の平面Bに対してそれぞれの半領域部分57a,57bに設けたパッド油溝58が互いに対称となるように構成してある。具体的に説明すると、相対回転の周方向において放射状油溝55に最も近接した端部部分のパッド油溝58から中央部分に向けてα1=約6.4°、α2=約9.5°の位置にそれぞれパッド油溝58が配置してある。仮想の平面Bを境界としたそれぞれの半領域部分57a,57bにおいて放射状油溝55から最も離隔した中央部分に位置するパッド油溝58は、相互間がα3=約12.8°となっている。これにより、シリンダブロック40の端面40aに対するパッド油溝58の開口面積の割合は、パッド領域57において両側2つの放射状油溝55から離隔した中央部分に比べてそれぞれの放射状油溝55に近接した2つの端部部分が大きくなっている。
【0022】
さらに、それぞれのパッド油溝58は、回転軸心20Cを中心とする半径r方向に対して傾斜している。図示の例では、仮想の平面Bを境界とした半領域部分57a,57bで互いに逆向きとなるようにパッド油溝58が傾斜して設けてある。パッド油溝58の傾斜角度βは、互いに同一であり、回転軸心20Cを中心とする半径r方向に対して約30°に設定してある。パッド油溝58の傾斜方向は、それぞれの半領域部分57a,57bにおいて外周に向けて放射状油溝55に漸次近接する向きである。
図3(b)からも明らかなように、半径r方向に対して傾斜したパッド油溝58は、回転の外周側となる辺58aの長さが、環状油溝54に近接した内周側となる辺58bの長さよりも大きくなっている。
【0023】
上記のように構成した油圧モータでは、例えば、
図1(b)において切替弁2を中立位置からa位置に操作することにより、上方の給排通路12aに油圧ポンプ1を接続する一方、下方の給排通路12bを油タンクTに接続する。この状態から油圧ポンプ1を駆動すると、
図2(b)において上方に配置された第1圧力ポート51に油が供給され、さらに連絡ポート43を介してシリンダボア42に油が供給される。これにより、上死点に配置されたピストン44が順次下死点に向けて移動し、シリンダブロック40が
図2(b)において回転軸心20Cを中心に左回りに回転する。換言すれば、出力軸20の一方の端部側からバルブプレート50を見た場合、切替弁2をa位置に操作すると、シリンダブロック40が回転軸心20Cを中心に左回りに回転する。これに伴って出力軸20も同方向に回転するため、例えば作業機械が前方に向けて走行するようになる。なお、この間、第2圧力ポート52に接続された下方の給排通路12bにおいては、ピストン44が下死点から上死点に移動することで、シリンダボア42に供給された油が排出され、切替弁2を介して油タンクTに排出される。
【0024】
一方、
図1(b)において中立位置からb位置に操作し、下方の給排通路12bに油圧ポンプ1を接続する一方、上方の給排通路12aを油タンクTに接続する。この状態から油圧ポンプ1を駆動すると、
図2(b)において下方に配置された第2圧力ポート52に油が供給され、さらに連絡ポート43を介してシリンダボア42に油が供給される。これにより、上死点に配置されたピストン44が順次下死点に向けて移動し、シリンダブロック40が
図2(b)において回転軸心20Cを中心に右回りに回転する。換言すれば、出力軸20の一方の端部側からバルブプレート50を見た場合、切替弁2をb位置に操作すると、シリンダブロック40が回転軸心20Cを中心に右回りに回転する。これに伴って出力軸20も同方向に回転するため、例えば作業機械が後方に向けて走行するようになる。
【0025】
上述した動作の間、サーボ機器33に対してパイロット圧や油圧ポンプ1からの供給圧等の油圧を供給し、これに応じて斜板30の傾転角が変更されると、ピストン44の工程距離が変化する。このため、シリンダブロック40の回転数が変化し、作業機械の前進速度や後退速度を変更することが可能となる。
【0026】
図1、
図2(b)、
図3に示すように、シリンダブロック40とバルブプレート50との間においては、シリンダブロック40の端面40aがバルブプレート50に当接することにより、環状油溝54によってシリンダブロック40との間に無端環状油路54Aが構成される。また、シリンダブロック40とバルブプレート50との間には、放射状油溝55によって無端環状油路54Aから収容室13に開口する複数の放射状油路55Aが構成される。従って、シリンダブロック40の端面40aとバルブプレート50とが相対的に摺動している間においては、圧力ポート51,52から漏出した油が、シリンダブロック40とバルブプレート50との間の潤滑を図ることになる。シリンダブロック40とバルブプレート50との間の潤滑を図った後の油は、無端環状油路54A及び放射状油路55Aを介してケース10の収容室13に排出される。また、放射状油路55Aを通過する油の一部は、シリンダブロック40の回転に伴ってパッド領域57に到達し、シリンダブロック40とバルブプレート50との間の潤滑を図るようになる。従って、無端環状油路54Aよりも内周側となる部分及びパッド領域57において相対回転の上流側となる放射状油路55Aに近接した端部部分については、高圧高速化した場合にも十分に油膜を確保することができる。これにより、油切れに起因した焼き付きやかじり等の問題が生じるおそれはない。
【0027】
これに対して、パッド領域57において相対回転の下流側となる端部部分については、放射状油路55Aからの油が到達しにくい。このため、特に高圧側となる圧力ポート51,52の外周部においては放射状油路55Aを通過する油のみによっては十分に油膜を確保することも難しい状況となる懸念がある。
【0028】
図4は、油圧ポンプ1から油が供給されている間において第1圧力ポート51及び第2圧力ポート52に生じる圧力状態の変化を示したものである。いま、
図4(a)及び
図4(b)中の矢印Dで示すように、出力軸20の一方の端部側からバルブプレート50を見た場合に出力軸20(シリンダブロック40)が左回転し、作業機械が前進しているとする。作業機械が定速走行や加速走行で前進している場合には、
図4(a)中のハッチングで示すように、油圧ポンプ1(
図1(b)参照)に接続された第1圧力ポート51が高圧側となる。従って、この状態では、第1圧力ポート51の外周に位置するパッド領域57において相対回転の下流側となる周方向の左側端部部分(
図4(a)中の領域E)に油切れが招来される懸念がある。これに対して、出力軸20(シリンダブロック40)が左回転して前進している場合にも、減速走行となっている間においては、
図4(b)中のハッチングで示すように、油タンクT(
図1(b)参照)に接続された第2圧力ポート52が高圧側となる。従って、この状態では、第2圧力ポート52の外周に位置するパッド領域57において相対回転の下流側となる周方向の右側端部部分(
図4(b)中の領域E)に油切れが招来される懸念がある。
【0029】
一方、
図4(c)及び
図4(d)中の矢印Dで示すように、出力軸20の一方の端部側からバルブプレート50を見た場合に出力軸20(シリンダブロック40)が右回転し、作業機械が後退しているとする。作業機械が定速走行や加速走行で後退している場合には、
図4(c)中のハッチングで示すように、油圧ポンプ1(
図1(b)参照)に接続された第2圧力ポート52が高圧側となる。従って、この状態では、第2圧力ポート52の外周に位置するパッド領域57において相対回転の下流側となる周方向の左側端部部分(
図4(c)中の領域E)に油切れが招来される懸念がある。これに対して、出力軸20(シリンダブロック40)が右回転して後退している場合にも、減速走行となっている間においては、
図4(d)中のハッチングで示すように、油タンクT(
図1(b)参照)に接続された第1圧力ポート51が高圧側となる。従って、この状態では、第1圧力ポート51の外周に位置するパッド領域57において相対回転の下流側となる周方向の右側端部部分(
図4(d)中の領域E)に油切れが招来される懸念がある。
【0030】
しかしながら、上述した油圧モータにおいては、第1圧力ポート51の外周に位置するパッド領域57及び第2圧力ポート52の外周に位置するパッド領域57に対して、それぞれ相対回転の周方向において放射状油溝55に近接した両方の端部部分にパッド油溝58が設けてある。これらのパッド油溝58は、バルブプレート50にシリンダブロック40が当接した場合、無端環状油路54Aとパッド領域57の端部部分とを連通するパッド油路58Aを構成することになる。これにより、無端環状油路54Aの油がパッド油路58Aを通じてパッド領域57の端部部分に供給される。従って、油圧モータを高圧高速化した場合にも、シリンダブロック40の端面40aとバルブプレート50との相対的に摺動している部分に油切れを招来するおそれがなくなり、焼き付きやかじり等の問題が生じる懸念もない。つまり、
図4に示したすべての回転状態において油切れの懸念となる端部部分に予めパッド油溝58が形成してあるため、油切れに起因した問題を未然に防止することができる。しかも、シリンダブロック40の外周部が当接するパッド領域57については、圧力ポート51,52の外周部にのみパッド油溝58を形成し、
図4において左右に位置した圧力ポート51,52の外周部に位置していないパッド領域57にはパッド油溝58を設けていない。さらに、パッド油溝58を設けたパッド領域57においても、シリンダブロック40の端面40aに対する開口面積の割合が、中央部分に比べて端部部分が大となるようにパッド油溝58を設けるようにしている。このため、圧力ポート51,52の外周部以外のパッド領域57及び圧力ポート51,52の外周に位置するパッド領域57の中央部分には、シリンダブロック40との当接部分を確保することができる。これらの結果、パッド油溝58を設けることに起因してシリンダブロック40の回転が不安定になる懸念がなく、油圧モータの高圧高速化を具現化することができる。
【0031】
なお、上述した実施の形態1では、斜板30の傾転角を変更できるものを例示しているが、必ずしも斜板30の傾転角が変更できる必要はない。また、シリンダブロック40に9本のシリンダボア42が設けられたものを例示しているが、シリンダボア42の数もこれに限らない。さらに、放射状油溝55が直線状で6本設けられたものを例示しているが、放射状油溝55の形状や数は実施の形態1のものに限らない。
【0032】
また、上述した実施の形態1では、回転軸心20Cを中心とする半径r方向に対してパッド油溝58を傾斜させ、相対回転の下流側となる端部部分においてはパッド油溝58において下流側に位置する辺が内周側に位置するようにしている。従って、シリンダブロック40が2300rpmを超える比較的高速で回転している状況下にあっても、パッド油路58Aにおいて内周側の辺からパッド領域57に供給された油が迂回しながら外周に到達するため、パッド領域57に油が留まる時間が長くなり、潤滑性の点で有利となる。しかしながら、パッド油溝58の延在方向はこれに限定されず、回転軸心20Cを中心とする半径r方向に沿ってパッド油溝58を設けても良い。また、回転軸心20Cを中心とする半径r方向に対してパッド油溝58を傾斜させる場合には、
図5及び
図6に示す変形例1、
図7及び
図8に示す変形例2、
図9及び
図10に示す変形例3、
図11及び
図12に示す変形例4のように構成することも可能である。
【0033】
すなわち、
図5及び
図6に示す変形例1のバルブプレート501では、回転軸心20Cを中心とした半径r方向に対するパッド油溝581の傾斜角度β1が、実施の形態1とは逆方向に約30°となっている。パッド領域57を相対回転の周方向に2等分する仮想の平面Bに対してそれぞれの半領域部分57a,57bに設けたパッド油溝581は、互いに対称である。パッド油溝581を形成するピッチは、実施の形態1と同様である。この変形例1によれば、相対回転の下流側となる端部部分においては、パッド油溝581において下流側に位置する辺の長さが内周側となる辺の長さよりも長く、しかも外周側に位置することになる。従って、シリンダブロック40が1000rpm等の比較的低速で回転している状況下にあっても、パッド油路581Aにおいて外周側の長い辺の部分からパッド領域57に油が供給されることになり、潤滑性の点で有利となる。なお、変形例1において実施の形態1と同様の構成については同一の符号が付してある。また、実施の形態1と同様、バルブプレート501においてシリンダブロック40との当接部分にはドットが施してある。
【0034】
図7及び
図8に示す変形例2のバルブプレート502では、パッド領域57を仮想の平面Bで相対回転の周方向に2等分した半領域部分57a,57bに対して、それぞれ傾斜方向が互いに逆向きとなる2種類のパッド油溝58,581を設けるようにしている。つまり、変形例2では、パッド領域57のそれぞれの半領域部分57a,57bに、外周に向けて放射状油溝55に漸次近接する向きに傾斜したパッド油溝58と、外周に向けて放射状油溝55から漸次離隔する向きに傾斜したパッド油溝581とが交互に設けてある。仮想の平面Bに対してそれぞれの半領域部分57a,57bに設けたパッド油溝58,581は、互いに対称である。この変形例2によれば、実施の形態1で有利となる比較的高速回転と、変形例1で有利となる比較的定速回転との双方で潤滑性を向上させることが可能となる。なお、変形例2において実施の形態1及び変形例1と同様の構成については同一の符号が付してある。また、実施の形態1と同様、バルブプレート502においてシリンダブロック40との当接部分にはドットが施してある。
【0035】
図9及び
図10に示す変形例3のバルブプレート503では、それぞれのパッド領域57のすべての部分においてパッド油溝582が同一方向に向けて傾斜している。
図11及び
図12に示す変形例4のバルブプレート504では、それぞれのパッド領域57のすべての部分においてパッド油溝583が同一方向に向けて傾斜している。変形例3と変形例4とでは、パッド油溝582の傾斜角度β2とパッド油溝583の傾斜角度β3とが共に30°であり、傾斜方向が互いに逆向きとなっている。パッド油溝582,583を形成するピッチは実施の形態1と同様である。
【0036】
図13は、シリンダブロック40の回転数領域に対するパッド油溝58,581,582,583の傾斜角度とパッド領域57内の油量との関係を示したものである。傾斜角度については回転軸心20Cを中心として半径r方向が0°である。パッド領域57においてシリンダブロック40との相対回転の下流側となる端部部分、つまり
図4中の領域Eで示すように、パッド油溝の外周側端部が下流側となるように傾斜している場合は「+」としてある。
図13中の2点鎖線で示すように、シリンダブロック40が1000rpm程度の比較的低速で回転する場合には、パッド油溝58,581,582,583が+5°~-10°の範囲を除く角度で回転軸心20Cを中心とした半径r方向に対して傾斜していることが好ましい。一方、
図13中の実線や1点鎖線で示すように、シリンダブロック40が2300rpm(実線)や5400rpm(1点鎖線)等の比較的高速で回転する場合には、パッド油溝58,581,582,583が+5°~-25°の範囲を除く角度で回転軸心20Cを中心とした半径r方向に対して傾斜していることが好ましい。すなわち、
図13中の矢印X、矢印Yで示すように、シリンダブロック40の回転が高速になるに従って、パッド領域57内の油量が最少となる位置が、傾斜角度の「-」側に移行する傾向がある。従って、パッド油溝58,581,582,583を相互干渉することなく傾斜させる条件としては、シリンダブロック40が比較的低速で回転する場合、
図13において-10°よりも左側の範囲となるように設定することが好ましい。またシリンダブロック40が比較的高速で回転する場合には、
図13において+5°よりも右側の範囲となるようにパッド油溝58,581,582,583の傾斜角度を設定することが好ましい。
【0037】
また、上述した実施の形態1、変形例1~変形例4では、いずれもパッド油溝58,581,582,583の外周側端部を閉塞するようにしているが、本発明はこれに限定されない。例えば、
図14及び
図15に示す変形例5や
図16及び
図17に示す変形例6のように構成することも可能である。
【0038】
すなわち、
図14及び
図15に示す変形例5のバルブプレート505では、放射状油溝55と同様に、パッド油溝584の外周側端部をバルブプレート505の外周面に開口させるようにしている。図示の例では、パッド領域57を仮想の平面Bで2等分したそれぞれの半領域部分57a,57bに対して、互いに逆向きとなるようにパッド油溝584が傾斜して設けてある。パッド油溝584の傾斜角度β4は、互いに同一であり、回転軸心20Cを中心とする半径r方向に対して約30°に設定してある。パッド油溝584の傾斜方向は、それぞれの半領域部分57a,57bにおいて外周に向けて放射状油溝55に漸次近接する方向である。パッド油溝584を形成するピッチは、実施の形態1と同様である。なお、変形例5において実施の形態1と同様の構成については同一の符号が付してある。また、実施の形態1と同様、バルブプレート505においてシリンダブロック40との当接部分にはドットが施してある。
【0039】
図16及び
図17に示す変形例6のバルブプレート506では、変形例5に記載したパッド油溝584を途中で屈曲させ、パッド油溝585の外周側となる部分を内周側とは反対側に傾斜させるようにしている。回転軸心20Cを中心とした半径r方向に対するパッド油溝585の傾斜角度は、内周側となる部分がβ5=約30°である。内周側となる部分と外周側となる部分との屈曲角度β6=約60°である。パッド油溝585の屈曲位置は、回転軸心20Cからほぼ同じ距離である。なお、変形例6において実施の形態1と同様の構成については同一の符号が付してある。また、実施の形態1と同様、バルブプレート506においてシリンダブロック40との当接部分にはドットが施してある。
【0040】
これらの変形例5及び変形例6によれば、パッド油溝584,585の外周側端部が開口しているため、比較的低速で回転している状況下であっても環状油溝54からパッド油溝58に対する油の供給が促進されるようになり、潤滑性の点で有利となる。加えて変形例6においては、パッド油溝58の傾斜角度が回転軸心20Cを中心とした半径r方向に対して途中で逆となる。このため、比較的低速回転で駆動する場合及び比較的高速回転で駆動する場合の双方で潤滑性を向上させることが可能となる。
【0041】
(実施の形態2)
図18及び
図19は、本発明の実施の形態2である油圧モータに適用するシリンダブロック410及びバルブプレート510を示したものである。ここで例示するシリンダブロック410及びバルブプレート510は、実施の形態1と同様、油圧ショベル等の作業機械を走行させる走行用モータとして好適な、双方向に回転駆動するアキシャル型のものである。実施の形態2のシリンダブロック410及びバルブプレート510は、環状油溝(第1油溝)411、放射状油溝(第2油溝)412及びパッド油溝413をシリンダブロック410に形成した点で実施の形態1と相違している。以下、実施の形態1と相違する部分について説明し、共通する構成については同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0042】
図18(b)に示すように、実施の形態2では、バルブプレート510に第1圧力ポート511、第2圧力ポート512及びノッチ513が設けてあるとともに、最も外周側となる部分に最外周溝516が設けてある。
【0043】
これに対してシリンダブロック410には、
図18(a)に示すように、環状油溝411及び複数の放射状油溝412が設けてある。環状油溝411は、シリンダボア42の連絡ポート43よりも外周となる部分に設けた無端環状の凹所である。この環状油溝411は、例えば断面が一定半径の略半円形状を成しており、バルブプレート510の端面510aに対向する面にのみ開口している。放射状油溝412は、環状油溝411から外周に向けて延在した直線状を成す凹所であり、周方向に沿って互いに等間隔となる位置に形成してある。これらの放射状油溝412は、例えば断面が一定半径の略半円形状を成しており、バルブプレート510の端面510aに対向する面に開口し、かつ外周側の端部がシリンダブロック410の外周面に開口している。本実施の形態2では、環状油溝411よりも外周側となる部分に6本の放射状油溝412が回転軸心20Cを中心とする半径r方向に沿って放射状に形成してある。
【0044】
また、シリンダブロック410には、環状油溝411よりも外周となる部分において放射状油溝412の間に構成されるパッド領域414のすべてにパッド油溝413が設けてある。パッド油溝413は、一端が環状油溝411に連通し、かつ他端が閉塞した直線状を成す凹所であり、6つのパッド領域414のすべてにそれぞれ複数本ずつ形成してある。これらのパッド油溝413は、例えば断面が一定半径の略半円形状を成し、バルブプレート510の端面510aに対向する面に開口したものである。パッド油溝413の幅は、放射状油溝412よりも小さい。パッド油溝413の長さは、環状油溝411からパッド領域414の径方向に沿った寸法のほぼ1/2となる部分までの間となるように設けてある。
図19からも明らかなように、複数のパッド油溝413は、回転軸心20Cを中心とするバルブプレート510との相対回転の周方向において両側の放射状油溝412に近接した端部部分からそれぞれ中央部分に向けて相互間隔が漸次大きくなるように不等ピッチで設けてある。特に、実施の形態2においては、パッド領域414を相対回転の周方向に2等分する仮想の平面Bに対してそれぞれの半領域部分414a,414bに設けたパッド油溝413が互いに対称となっている。具体的に説明すると、相対回転の周方向において放射状油溝412に最も近接した端部部分のパッド油溝413から中央部分に向けてα1=約6.4°、α2=約9.5°の位置にそれぞれパッド油溝413が配置してある。仮想の平面Bを境界としたパッド領域414のそれぞれの半領域部分414a,414bにおいて放射状油溝412から最も離隔した中央部分に位置するパッド油溝413は、相互間がα3=約12.8°となっている。これにより、バルブプレート510の端面510aに対するパッド油溝413の開口面積の割合は、パッド領域414において両側2つの放射状油溝412から離隔した中央部分に比べてそれぞれの放射状油溝412に近接した2つの端部部分が大きくなっている。
【0045】
さらに、それぞれのパッド油溝413は、回転軸心20Cを中心とする半径r方向に対して傾斜している。図示の例では、仮想の平面Bを境界としたパッド領域414の半領域部分414a,414bで互いに逆向きとなるようにパッド油溝413が傾斜して設けてある。パッド油溝413の傾斜角度β7は、互いに同一であり、回転軸心20Cを中心とする半径r方向に対して約30°に設定してある。パッド油溝413の傾斜方向は、それぞれの半領域部分414a,414bにおいて外周に向けて放射状油溝412から漸次離隔する向きである。
【0046】
上記のように構成した油圧モータでは、シリンダブロック410の端面がバルブプレート510に当接することにより、環状油溝411によってバルブプレート510との間に無端環状油路411Aが構成される。同様に、放射状油溝412によってバルブプレート510との間に、無端環状油路411Aから収容室13に開口する複数の放射状油路412Aが構成される。従って、シリンダブロック410が回転している間においては、圧力ポート511,512から漏出した油が、シリンダブロック410とバルブプレート510との間の潤滑を図ることになる。シリンダブロック410とバルブプレート510との間の潤滑を図った後の油は、無端環状油路411A及び放射状油路412Aを介して収容室13に排出されることになる。また、放射状油路412Aを通過する油の一部は、シリンダブロック410の回転に伴ってパッド領域414に到達し、シリンダブロック410とバルブプレート510との間の潤滑を図るようになる。従って、無端環状油路411Aよりも内周側となる部分及びパッド領域414において相対回転の上流側となる放射状油路412Aに近接した部分については、十分に油膜を確保することができ、油切れに起因した焼き付きやかじり等の問題が生じるおそれはない。
【0047】
これに対して、パッド領域414において相対回転の下流側となる部分については、放射状油路412Aからの油が到達しにくい。このため、放射状油路412Aを通過する油のみによっては十分に油膜を確保することも難しい状況となる。しかしながら、上述した油圧モータにおいては、パッド領域414において放射状油路412Aに近接した両側の端部部分にパッド油溝413が設けてある。このパッド油溝413は、シリンダブロック410がバルブプレート510に当接した場合、無端環状油路411Aとパッド領域414の両側端部部分とを連通するパッド油路413Aを構成することになる。これにより、無端環状油路411Aの油がパッド油路413Aを通じてパッド領域414において相対回転の下流側となる部分に供給される。従って、油圧モータを高圧高速化した場合にも、油切れを招来するおそれがなくなり、焼き付きやかじり等の問題が生じる懸念もない。しかも、シリンダブロック410の外周部が当接するパッド領域414については、バルブプレート510の端面510a(
図18参照)に対する開口面積の割合が、中央部分に比べて端部部分が大となるようにパッド油溝413を設けるようにしている。このため、パッド領域414の中央部分には、シリンダブロック410との当接部分を確保することができる。この結果、パッド油溝413を設けることに起因してシリンダブロック410の回転が不安定になる懸念がなく、油圧モータの高圧高速化を具現化することができる。
【0048】
なお、上述した実施の形態2では、シリンダブロック410に9本のシリンダボア42が設けられ、かつ放射状油溝412が直線状で6本設けられたものを例示しているが、シリンダボア42の数並びに放射状油溝412の形状や数は実施の形態2のものに限らない。
【0049】
また、上述した実施の形態2では、回転軸心20Cを中心とする半径r方向に対してパッド油溝413を傾斜させるようにしているが、回転軸心20Cを中心とする半径r方向に沿ってパッド油溝413を設けても良い。また、
図20及び
図21に示す変形例7のシリンダブロック420のように、実施の形態2とは逆向きに、つまりパッド領域414を仮想の平面Bで相対回転の周方向に2等分したそれぞれの半領域部分414a,414bに対して、外周に向けて放射状油溝412から漸次離隔する向きに傾斜するようにパッド油溝423を設けても良い。図示の例では、仮想の平面Bに対してそれぞれの半領域部分414a,414bに設けたパッド油溝423は、互いに対称である。回転軸心20Cを中心とした半径r方向に対するパッド油溝423の傾斜角度β8は、実施の形態2とは逆方向に約30°である。なお、変形例7において実施の形態2と同様の構成については同一の符号が付してある。また、実施の形態2と同様、シリンダブロック420においてバルブプレート510との当接部分にはドットが施してある。また、実施の形態1の変形例2~変形例6として記載したパッド溝をシリンダブロックに適用することも可能である。
【0050】
またさらに、上述した実施の形態1、変形例1~変形例6、実施の形態2及び変形例7では、いずれも環状油溝と放射状油溝とを同一の部材に設けるようにしている。しかしながら、放射状油溝とパッド油溝とが同一の部材に設けられていれば、環状油溝と放射状油溝とが別の部材に設けてあっても構わない。
【0051】
さらに、同一の寸法を有したパッド油溝を不等ピッチで設けることにより、相対回転の上流側と下流側とでパッド油溝の開口面積の割合を変化させるようにしているが、本発明はこれに限定されない。例えば互いに開口幅の異なる複数のパッド油溝や互いに延在長さの異なる複数のパッド油溝を等間隔に設けることによっても相対回転の上流側と下流側とでパッド油溝の開口面積の割合を変化させることは可能である。また、回転軸心を中心とする半径方向に対して複数のパッド油溝を傾斜させる場合に同一の角度で傾斜させるようにしているが、複数のパッド油溝の傾斜角度が互いに異なっていても構わない。
【0052】
さらにまた、上述した実施の形態1、変形例1~変形例6、実施の形態2及び変形例7では、いずれもシリンダブロックとバルブプレートとが互いに平坦面を介して摺接するものを例示しているが、本発明はこれに限定されない。例えばバルブプレートを凸状の球面に構成するとともに、シリンダブロックの対向する端面を凹状の球面に構成し、互いにこれらの球面を介してシリンダブロックとバルブプレートとが摺接するように構成したものにも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0053】
20C 回転軸心
40,410,420 シリンダブロック
40a シリンダブロックの端面
42(42B,42T) シリンダボア
50,501,502,503,504,505,506,510 バルブプレート
51,511 第1圧力ポート
52,512 第2圧力ポート
54,411 環状油溝
55,412 放射状油溝
57,414 パッド領域
57a,57b,414a,414b 半領域部分
58,413,423,581,582,583,584,585 パッド油溝
510a バルブプレートの端面
B パッド領域を相対回転の周方向に2等分する仮想の平面