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特許7476063二次電池、電池パック、車両及び定置用電源
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】二次電池、電池パック、車両及び定置用電源
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/36 20100101AFI20240422BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240422BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20240422BHJP
   H01M 50/249 20210101ALI20240422BHJP
   H01M 50/251 20210101ALI20240422BHJP
   H01M 50/284 20210101ALI20240422BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20240422BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20240422BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240422BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240422BHJP
【FI】
H01M10/36 Z
H01M4/48
H01M4/485
H01M10/36 A
H01M50/249
H01M50/251
H01M50/284
H01M50/443 M
H01M50/446
H01M50/489
H01M50/434
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020155674
(22)【出願日】2020-09-16
(65)【公開番号】P2022049455
(43)【公開日】2022-03-29
【審査請求日】2022-08-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】関口 裕実子
(72)【発明者】
【氏名】堀田 康之
(72)【発明者】
【氏名】松野 真輔
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-038818(JP,A)
【文献】国際公開第2017/135323(WO,A1)
【文献】特開2019-121537(JP,A)
【文献】特開2018-160342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00 -10/39
H01M 4/00 - 4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン含有酸化物を含む負極と、
正極と、
前記負極と前記正極との間に位置する疎水性であるセパレータと、
前記負極に保持され亜鉛イオンを0.001質量%以上0.5質量%以下含む第1水系電解質と、
前記セパレータに保持され疎水部と親水部とを有する第1化合物を1質量%以上5質量%以下含む第2水系電解質と、
前記正極に保持され前記第2水系電解質とは異なる第3水系電解質と、
を具備する二次電池。
【請求項2】
前記第1化合物は、非イオン性界面活性剤である、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記非イオン性界面活性剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含む、請求項2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記非イオン性界面活性剤は、200以上4000以下の範囲内の分子量を有する請求項2又は3に記載の二次電池。
【請求項5】
前記セパレータの透気係数は1×10-14以下である、請求項1から4の何れか1項に記載の二次電池。
【請求項6】
前記セパレータはリチウムイオン伝導性を有する、請求項1から5の何れか1項に記載の二次電池。
【請求項7】
前記セパレータは、無機固体粒子と疎水性高分子とを含んだ膜を含む、請求項5又は6に記載の二次電池。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1項に記載の二次電池を具備した電池パック。
【請求項9】
通電用の外部端子と、保護回路とを更に含む、請求項8に記載の電池パック。
【請求項10】
複数の前記二次電池を具備し、前記複数の二次電池が、直列、並列、又は直列及び並列を組み合わせて電気的に接続されている、請求項8又は9に記載の電池パック。
【請求項11】
請求項8から10の何れか1項に記載の電池パックを具備した車両。
【請求項12】
前記車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構を含む、請求項11に記載の車両。
【請求項13】
請求項8から10の何れか1項に記載の電池パックを具備した定置用電源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、二次電池、電池パック、車両及び定置用電源に関する。
【背景技術】
【0002】
負極活物質として炭素材料又はリチウムチタン酸化物を、正極活物質としてニッケル、コバルト及びマンガン等を含有する層状酸化物を用いた非水電解質電池、特にリチウム二次電池が、幅広い分野における電源として既に実用化されている。このような非水電解質電池の形態は、各種電子機器用などの小型の物から、電気自動車用などの大型の物まで多岐にわたる。これらリチウム二次電池の電解液には、ニッケル水素電池又は鉛蓄電池と異なり、エチレンカーボネートやメチルエチルカーボネートなどが混合された非水系の有機溶媒が用いられている。これらの溶媒を用いた電解液は、水溶液電解液よりも耐酸化性および耐還元性が高く、溶媒の電気分解が起こりにくい。そのため、非水系のリチウム二次電池では、2V~4.5Vの高い起電力を実現することができる。
【0003】
一方で、有機溶媒の多くは可燃性物質であるため、有機溶媒を用いた二次電池の安全性は、水溶液を用いた二次電池に比べて原理的に劣りやすい。有機溶媒を含む電解液を用いたリチウム二次電池の安全性を向上させるために種々の対策がなされているものの、必ずしも十分とはいえない。また、非水系のリチウム二次電池は、製造工程において、ドライ環境が必要になるため、製造コストが必然的に高くなる。そのほか、有機溶媒を含む電解液は導電性が劣るので、非水系のリチウム二次電池の内部抵抗が高くなりやすい。このような課題は、電池安全性及び電池コストが重要視される電気自動車又はハイブリッド電気自動車、更には電力貯蔵向けの大型蓄電池用途においては、大きな欠点となっている。
【0004】
非水系二次電池の課題を解決するために、水溶液電解質を用いた二次電池が提案されている。しかし、水溶液電解質の電気分解により、集電体から活物質が容易に剥離し得るため、二次電池の動作が安定せず、満足な充放電を行うには課題があった。満足な充放電を行うために、水溶液電解質を使用する場合、電池の充放電を実施する電位範囲を、溶媒として含まれている水の電気分解反応が起こらない電位範囲に留める必要がある。例えば、正極活物質としてリチウムマンガン酸化物を使用し、負極活物質としてリチウムバナジウム酸化物を用いることで、水溶媒の電気分解を回避できる。これらの組み合わせの場合、1V~1.5V程度の起電力が得られるものの、電池として十分なエネルギー密度は得られにくい。
【0005】
他の組み合わせとして、正極活物質としてリチウムマンガン酸化物を使用し、負極活物質としてLiTi24、Li4Ti512などといったリチウムチタン酸化物を用いると、理論的には2.6V~2.7V程度の起電力が得られ、エネルギー密度の観点からも魅力的な電池になりうる。このような正負極材料の組み合わせを採用した非水系のリチウムイオン電池では優れた寿命性能が得られ、このような電池は既に実用化されている。
【0006】
しかしながら、水溶液電解質においては、リチウムチタン酸化物のリチウム挿入脱離の電位は、リチウム電位基準にて約1.5V(vs.Li/Li+)であるため、水溶液電解質の電気分解が起こりやすい。特に負極においては、負極集電体、又は負極と電気的に接続されている金属製の外装缶の表面での電気分解による水素発生が激しく、その影響で集電体から活物質が容易に剥離し得る。そのため、このような電池では動作が安定せず、満足な充放電が不可能であった。
【0007】
スピネル型リチウムチタン酸化物Li4Ti512(LTO)を含め、多くのチタン含有酸化物の動作電位が水の電解電位よりも低い。そのため、例えば、LTOなどのチタン含有酸化物を負極活物質として用い且つ電解液に水を多く含む二次電池では、水の電気分解で発生した水素の気泡により負極活物質が剥離するだけでなく、負極活物質へのキャリア(例えば、リチウムイオン等のアルカリ金属イオン)の挿入反応と水の電気分解によるプロトン(水素カチオン;H)の還元反応とが競合する。その結果、二次電池の充放電効率や放電容量が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2002-231306号公報
【文献】特開2013-125629号公報
【文献】国際公開第2017/135323号公報
【文献】特開2020-38818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、優れた充放電効率および放電容量を示す二次電池、この二次電池を備えた電池パック、並びに、この電池パックを備えた車両および定置用電源を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態によれば、チタン含有酸化物を含む負極と、正極と、負極と正極との間に位置するセパレータと、第1水系電解質と、第2水系電解質と、第3水系電解質と、を具備する二次電池が提供される。第1水系電解質は、負極に保持され、亜鉛イオンを0.001質量%以上0.5質量%以下含む。第2水系電解質は、セパレータに保持され、疎水部と親水部とを有する第1化合物を1質量%以上5質量%以下含む。第3水系電解質は、正極に保持され、第2水系電解質とは異なる。セパレータは、疎水性である。
【0011】
他の実施形態によれば、上記実施形態に係る二次電池を具備する電池パックが提供される。
【0012】
さらに他の実施形態によれば、上記実施形態に係る電池パックを具備する車両が提供される。
【0013】
またさらに他の実施形態によれば、上記実施形態に係る電池パックを具備する定置用電源が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一例の化学式を用いてポリオキシエチレンアルキルエーテルのHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)値の算出方法を説明する図。
図2】一例の化学式を用いてポリオキシアルキレンアルキルエーテルのHLB値の算出方法を説明する図。
図3】他の例の化学式を用いてポリオキシアルキレンアルキルエーテルのHLB値の算出方法を説明する図。
図4】実施形態に係る二次電池の一例を概略的に示す断面図。
図5図4に示す二次電池のV-V線に沿った断面図。
図6】実施形態に係る二次電池の他の例を概略的に示す部分切欠斜視図。
図7図6に示す二次電池のB部を拡大した断面図。
図8】実施形態に係る二次電池の更に他の例を概略的に示す断面図。
図9】実施形態に係る組電池の一例を概略的に示す斜視図。
図10】実施形態に係る電池パックの一例を概略的に示す斜視図。
図11】実施形態に係る電池パックの他の例を概略的に示す分解斜視図。
図12図11に示す電池パックの電気回路の一例を示すブロック図。
図13】実施形態に係る車両の一例を概略的に示す断面図。
図14】実施形態に係る定置用電源を含むシステムの一例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態について適宜図面を参照して説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施の形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術とを参酌して、適宜設計変更することができる。
【0016】
[第1実施形態]
第1実施形態によると、負極と、正極と、セパレータと、第1水系電解質と、第2水系電解質と、第3水系電解質と、を具備する二次電池が提供される。負極は、チタン含有酸化物を含む。セパレータは、負極と正極との間に位置する。第1水系電解質は、負極に保持される。第1水系電解質は、亜鉛イオンを0.001質量%以上0.5質量%以下含む。第2水系電解質は、セパレータに保持される。第2水系電解質は、第1化合物を1質量%以上5質量%以下含む。第1化合物は、疎水部と親水部とを有する。第3水系電解質は、正極に保持される。
【0017】
係る二次電池では、負極に含まれる第1水系電解質が亜鉛イオンを0.001質量%以上0.5質量%以下含む。セパレータに含まれる第2水系電解質は、単一分子内に疎水部と親水部とを有する第1化合物を1質量%以上5質量%以下含む。ここでいう亜鉛イオン及び第1化合物の含有量(濃度)は、第1水系電解質および第2水系電解質としての水溶液の質量に対する質量割合にそれぞれ対応する。セパレータは、疎水性であることが望ましい。また、正極が含む第3水系電解質は、第1水系電解質と同様に、亜鉛イオンを0.001質量%以上0.5質量%以下含み得る。
【0018】
電極での水分解を抑制する方法の1つとして、電極の活物質含有層表面に被膜を形成する方法が挙げられる。被膜としては、水素発生過電圧が高い金属を含む金属被膜が知られている。水素発生過電圧が高い金属としては、例えば、亜鉛を挙げることができる。しかしながら、金属被膜は密度が高い、即ち、緻密な傾向があるため、厚すぎるとリチウムイオン伝導やナトリウムイオン伝導を妨げてしまい、電池性能を低下させる可能性がある。それ故、金属被膜は薄膜であることが望ましいが、薄い金属被膜を活物質含有層の表面に均一に形成することは比較的困難である。
【0019】
本発明者らは、薄い金属被膜を活物質含有層の表面に形成するべく鋭意研究した結果、実施形態に係る二次電池を見いだした。
【0020】
第1水系電解質が含む亜鉛イオンの量が0.001質量%以上0.5質量%以下の範囲内にあることで、リチウムイオンやナトリウムイオン等のキャリアイオンの伝導を妨げない、適切な厚さの亜鉛含有被膜が負極に形成される。そのため、充放電性能を損なわずに水の電気分解を抑制することができる。第1水系電解質が含む亜鉛イオンの量のより好ましい下限値は、0.05質量%である。第1水系電解質が含む亜鉛イオンの量のより好ましい上限値は、0.45質量%である。第1水系電解質が含む亜鉛イオンの量が0.05質量%以上0.45質量%以下の範囲内にあることがさらに好ましい。
【0021】
第2水系電解質が含む第1化合物の量が1質量%以上5質量%以下の範囲内にあることで、セパレータが、第1水系電解質、第2水系電解質、及び第3水系電解質を含めた電解質に対する適正な濡れ性を得ることができ、キャリアイオン伝導が促進される。
【0022】
また、負極側の第1水系電解質に含まれる亜鉛イオンの含有量が0.001質量%以上0.5質量%以下の範囲内にあるとともに、セパレータ内の第2水系電解質に含まれる第1化合物の量が1質量%以上5質量%以下の範囲内にあると、第1水系電解質中の亜鉛イオンがセパレータを透過しない。従って、負極側の亜鉛イオン濃度が上記範囲内に保たれ、負極に適切な厚さの亜鉛含有被膜が形成される。第1化合物と亜鉛イオンとの相互作用は強いため、セパレータ表面に第1化合物と亜鉛イオンによる複合体被膜が形成される。それに従って亜鉛イオンはセパレータ内部を通過できなくなるものと推測される。このとおり、負極側の亜鉛イオン濃度は、少なくとも検出可能なレベルでは変動しない。
【0023】
つまり、係る二次電池では、キャリアイオン伝導が促進されるのみならず、負極における水の電気分解も抑制することができるため、優れた充放電効率、および高い放電容量を達成することができる。
【0024】
以下、実施形態に係る二次電池を詳細に説明する。
【0025】
当該二次電池は、例えば、リチウム二次電池(リチウムイオン二次電池)であり得る。また、二次電池は、ナトリウム二次電池(ナトリウムイオン二次電池)であり得る。二次電池には、水系電解質(例えば、水溶液電解質)を含んだ水系電解質二次電池が含まれる。つまり二次電池は、水系電解質リチウムイオン二次電池または水系電解質ナトリウムイオン二次電池であり得る。
【0026】
係る二次電池において、負極、正極、及びセパレータは、電極群を構成することができる。二次電池は、電極群および水系電解質(第1水系電解質、第2水系電解質、及び第3水系電解質を含む)を収容可能な外装部材を更に具備することができる。また、二次電池は、負極に電気的に接続された負極端子及び正極に電気的に接続された正極端子を更に具備することができる。
【0027】
以下、負極、正極、セパレータ、水系電解質(第1、第2、及び第3水系電解質を含む)、外装部材、負極端子及び正極端子について詳細に説明する。以降、第1水系電解質、第2水系電解質、及び第3水系電解質をそれぞれ特定せずに“水系電解質”と表現する場合、そのように呼称される“水系電解質”は、これら第1乃至第3水系電解質を含め、水系電解質全般を指す。
【0028】
(1)負極
負極は、チタン含有酸化物を含む。負極は、負極集電体と負極活物質含有層とを含むことができる。チタン含有酸化物は、負極活物質として負極活物質含有層に含まれ得る。
【0029】
負極活物質含有層は、例えば、負極集電体の少なくとも1つの面上に設けられている。負極集電体上の1つの主面に負極活物質含有層が設けられていてもよく、負極集電体上の1つの主面とその裏側の主面とに負極活物質含有層が配置されていてもよい。
【0030】
負極活物質含有層は、負極活物質の他に、導電剤及び結着剤などを含んでいてもよい。導電剤は、負極の集電性能を高め、且つ活物質と集電体との接触抵抗を抑えるために、必要に応じて配合される。結着剤は、活物質、導電剤及び集電体を結着させる作用を有する。
【0031】
負極活物質含有層の表面の少なくとも一部は、金属亜鉛又は亜鉛化合物から選択される少なくとも一つからなる亜鉛含有被膜を備え得る。負極活物質含有層の表面の全面が亜鉛含有被膜により被覆されていてもよい。上述したとおり負極が含む第1水系電解質に亜鉛イオンを0.001質量%以上0.5質量%以下の範囲内で含むことで、負極に適切な厚さの亜鉛含有被膜が形成される。亜鉛化合物は、例えば、亜鉛の酸化物、亜鉛の水酸化物、亜鉛の塩基性炭酸化合物、又は亜鉛の硫酸化合物を含み得る。亜鉛の酸化物の例としてはZnO、亜鉛の水酸化物の例としてはZn(OH)、亜鉛の塩基性炭酸化合物の例としては2ZnCO・3Zn(OH)、亜鉛の硫酸化合物の例としてはZnSO・7HOなどが挙げられる。
【0032】
一方では、第1水系電解質中の亜鉛イオン濃度が0.001質量%以上であることで、負極上に形成される亜鉛含有被膜の厚さが充分になり、水分解を抑制する効果が発揮される。他方、第1水系電解質中の亜鉛イオン濃度が0.5質量%以下に留まることで、亜鉛含有被膜が厚くなり過ぎず、負極活物質含有層でのリチウムイオンの挿入脱離が妨げられることがない。そのため、第1水系電解質における亜鉛イオン濃度が上記範囲内にあることで、充放電容量および充放電効率を高く維持したまま、水系電解質における水の電気分解を抑制し、ひいては水素発生や自己放電を抑えることができる。
【0033】
負極集電体は、例えば、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、及び亜鉛(Zn)からなる群より選択される少なくとも1つを含む箔であることが好ましい。負極集電体の形態としては、箔以外にも、例えばメッシュ及び多孔体などが挙げられる。エネルギー密度及び出力向上のためには、体積が小さく、表面積が大きい箔の形態が望ましい。
【0034】
負極集電体の厚さは、5μm以上20μm以下であることが好ましい。このような厚さを有する集電体は、電極の強度と軽量化のバランスをとることができる。
【0035】
また、負極集電体は、その表面に負極活物質含有層が設けられていない部分を含むことができる。この部分は、負極集電タブとして働くことができる。或いは、負極集電体とは別体の負極集電タブを負極に電気的に接続してもよい。
【0036】
負極集電体表面の少なくとも一部には、金属亜鉛又は亜鉛化合物からなる亜鉛含有被膜が存在し得る。負極集電体がその表面に有し得る亜鉛含有被膜は、負極活物質含有層の表面に存在し得る亜鉛含有被膜と同様の被膜であり得る。
【0037】
負極活物質に用いるチタン含有酸化物としては、リチウムイオン挿入-脱離電位が、リチウムの酸化-還元電位を基準とする電位で1V(vs.Li/Li)以上3V以下(vs.Li/Li)である化合物を用いることができる。実施形態に係る二次電池では、負極活物質含有層の表面の少なくとも一部に亜鉛含有被膜が形成されるため、負極活物質が、上記のような低い電位を有するチタン含有酸化物を含んでいても、水系電解質中で適切に充放電を行うことができる。
【0038】
チタン含有酸化物としては、チタン酸化物、リチウムチタン複合酸化物、単斜晶型ニオブチタン複合酸化物、ナトリウムニオブチタン複合酸化物などを使用することができる。負極活物質は、チタン含有酸化物を1種、又は2種以上含むことができる。
【0039】
チタン酸化物は、例えば、単斜晶構造のチタン酸化物、ルチル構造のチタン酸化物、アナターゼ構造のチタン酸化物を含む。各結晶構造のチタン酸化物は、充電前の組成をTiO2、充電後の組成をLixTiO2(添字xは0≦x≦1)で表すことができる。また、単斜晶構造のチタン酸化物の充電前構造をTiO(B)と表すことができる。
【0040】
リチウムチタン酸化物は、例えば、スピネル構造のリチウムチタン酸化物(例えば一般式Li4+x2Ti512で表され-1≦x2≦3である化合物)、ラムスデライト構造のリチウムチタン酸化物(例えば、Li2+x2Ti37で表され-1≦x2≦3である化合物)、Li1+xTi24で表され0≦x≦1である化合物、Li1.1+xTi1.84で表され0≦x≦1である化合物、Li1.07+xTi1.864で表され0≦x≦1である化合物、LikTiO2で表され0<k≦1である化合物などを含む。また、リチウムチタン酸化物は、異種元素が導入されているリチウムチタン複合酸化物であってもよい。
【0041】
単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の例として、LiwTi1-yM1yNb2-zM2z7+δで表される化合物が挙げられる。ここで、M1は、Zr,Si,及びSnからなる群より選択される少なくとも1つである。M2は、V,Ta,及びBiからなる群より選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦w≦5、0≦y<1、0≦z<2、-0.3≦δ≦0.3である。単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の具体例として、LiwNb2TiO7(0≦w≦5)が挙げられる。
【0042】
単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の他の例として、LiwTi1-yM3y+zNb2-z7-δで表される化合物が挙げられる。ここで、M3は、Mg,Fe,Ni,Co,W,Ta,及びMoより選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦w≦5、0≦y<1、0≦z<2、-0.3≦δ≦0.3である。
【0043】
単斜晶型ニオブチタン複合酸化物のさらに他の例として、例えば、Nb2TiO7、Nb2Ti29、Nb10Ti229、Nb14TiO37及びNb24TiO62を挙げることができる。単斜晶型ニオブチタン複合酸化物は、Nb及び/又はTiの少なくとも一部が異種元素に置換された置換ニオブチタン複合酸化物であってもよい。置換元素の例は、Na、K、Ca、Co、Ni、Si、P、V、Cr、Mo、Ta、Zr、Mn、Fe、Mg、B、Pb及びAlなどである。置換ニオブチタン複合酸化物は、1種類の置換元素を含んでいてもよく、2種類以上の置換元素を含んでいてもよい。
【0044】
ナトリウムニオブチタン複合酸化物は、例えば、一般式Li2+dNa2-eM4fTi6-g-hNbgM5hO14+δで表され、0≦d≦4、0≦e<2、0≦f<2、0<g<6、0≦h<3、g+h<6、-0.5≦δ≦0.5、M4はCs,K,Sr,Ba,Caより選択される1以上を含み、M5はZr,Sn,V,Ta,Mo,W,Fe,Co,Mn,Alより選択される1以上を含む直方晶(orthorhombic)型Na含有ニオブチタン複合酸化物を含む。
【0045】
負極活物質としては、アナターゼ構造のチタン酸化物、単斜晶構造のチタン酸化物、スピネル構造のリチウムチタン酸化物又はこれらの混合物を用いることが好ましい。これらの酸化物を負極活物質として用いた負極を、例えば、正極活物質としてリチウムマンガン複合酸化物を用いた正極と組み合わせることで、高い起電力を得ることができる。
【0046】
負極活物質は、例えば、粒子の形態で負極活物質含有層に含まれている。負極活物質粒子は、一次粒子、一次粒子の凝集体である二次粒子、あるいは、単独の一次粒子及び二次粒子の混合物であり得る。粒子の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、球状、楕円形状、扁平形状、及び繊維状などにすることができる。
【0047】
負極活物質の一次粒子の平均粒子径(直径)は3μm以下であることが好ましく、より好ましい平均一次粒子径は0.01μm以上1μm以下である。負極活物質の二次粒子の平均粒子径(直径)は30μm以下であることが好ましく、より好ましい平均二次粒子径5μm以上20μm以下である。
【0048】
この一次粒子径及び二次粒子径は、レーザー回折式の粒度分布測定装置により求めた粒度分布において、体積積算値が50%となる粒径を意味している。レーザー回折式の粒度分布測定装置としては、例えば、島津SALD-300を用いる。測定に際しては、2秒間隔で64回光度分布を測定する。この粒度分布測定を行う際の試料としては、負極活物質粒子の濃度が0.1質量%乃至1質量%となるようにN-メチル-2-ピロリドンで希釈した分散液を用いる。あるいは、測定試料としては、0.1gの負極活物質を、界面活性剤を含む1ml-2mlの蒸留水に分散させたものを用いる。
【0049】
導電剤は、集電性能を高め、且つ、活物質と集電体との接触抵抗を抑えるために配合される。導電剤の例には、気相成長カーボン繊維(Vapor Grown Carbon Fiber;VGCF)、アセチレンブラックなどのカーボンブラック及び黒鉛のような炭素質物が含まれる。その他、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーなどといった繊維状炭素材料を、導電剤として用いることができる。これらの1つを導電剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて導電剤として用いてもよい。あるいは、導電剤を用いる代わりに、活物質粒子の表面に、炭素コートや電子導電性無機材料コートを施してもよい。
【0050】
結着剤は、分散された活物質の間隙を埋め、また、活物質と負極集電体とを結着させるために配合される。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、スチレンブタジェンゴム、ポリアクリル酸化合物、イミド化合物、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose;CMC)、及びCMCの塩が含まれる。その他、後述する疎水性高分子と同様の高分子材料を結着剤として用いることができる。このような高分子材料としては、例えば、ポリビニルホルマール、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリメタクリル酸メチル、ポリフッ化ビニリデン、及びポリテトラフルオロエチレンを挙げることができる。これらの1つを結着剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて結着剤として用いてもよい。
【0051】
負極活物質含有層中の負極活物質、導電剤、及び結着剤の配合割合は、負極活物質が70質量%以上95質量%以下、導電剤が3質量%以上20質量%以下、結着剤が2質量%以上10質量%以下の範囲であることが好ましい。導電剤の配合割合が3質量%以上であると、負極活物質含有層の集電性能を向上させることができる。また、結着剤の配合割合が2質量%以上であると、十分な電極強度が得られる。結着剤は、絶縁体として機能し得る。そのため、結着剤の配合割合が10質量%以下であると電極内の絶縁部を減少させることができる。
【0052】
負極活物質含有層の密度(集電体を含まず)は、1.8g/cm3以上2.8g/cm3以下であることが好ましい。負極活物質含有層の密度がこの範囲内にある負極は、エネルギー密度と第1水系電解質の保持性とに優れている。負極活物質含有層の密度は、2.1g/cm3以上2.6g/cm3以下であることがより好ましい。
【0053】
負極は、例えば、次の方法により作製することができる。先ず、負極活物質、導電剤及び結着剤を溶媒に懸濁してスラリーを調製する。このスラリーを、負極集電体の片面又は表裏両面に塗布する。次いで、塗布したスラリーを乾燥させて、負極活物質含有層と負極集電体との積層体を得る。その後、この積層体にプレスを施す。このようにして、負極を作製する。
【0054】
或いは、負極は、次の方法により作製してもよい。まず、負極活物質、導電剤及び結着剤を混合して、混合物を得る。次いで、この混合物をペレット状に成形する。次いで、これらのペレットを負極集電体上に配置することにより、正極を得ることができる。
【0055】
(2)正極
正極は、正極集電体と、正極活物質含有層とを含むことができる。正極活物質含有層は、正極集電体の片側の主面又は表裏両側の主面に設けられ得る。正極活物質含有層は、正極活物質と、任意に導電剤及び結着剤を含むことができる。
【0056】
正極活物質としては、例えば、酸化物又は硫化物を用いることができる。正極は、正極活物質として、1種類の化合物を単独で含んでいてもよく、或いは2種類以上の化合物を組み合わせて含んでいてもよい。酸化物及び硫化物の例には、アルカリ金属又はアルカリ金属イオンを挿入及び脱離させることができる化合物を挙げることができる。
【0057】
このような化合物としては、例えば、二酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、リチウムマンガン複合酸化物(例えば、LikMn24又はLikMnO2;0<k≦1)、リチウムニッケル複合酸化物(例えば、LikNiO2;0<k≦1)、リチウムコバルト複合酸化物(例えば、LikCoO2;0<k≦1)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えば、LikNi1-jCoj2;0<k≦1、0<j<1)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えば、LikMnjCo1-j2;0<k≦1、0<j<1)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えば、LikMn2-j2Nij24;0<k≦1、0<j2<2)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(例えばLikFePO4;0<k≦1、LikFe1-jMnjPO4;0<k≦1、0<j<1、LikCoPO4;0<k≦1)、硫酸鉄(Fe2(SO4)3)、バナジウム酸化物(例えばV25)、及び、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LikNi1-j-iCojMni2;0<k≦1、0<j<1、0<i<1、j+i<1)が含まれる。
【0058】
上記のうち、正極活物質としてより好ましい化合物の例には、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(例えばLikMn24;0<k≦1)、リチウムニッケル複合酸化物(例えば、LikNiO2;0<k≦1)、リチウムコバルト複合酸化物(例えば、LikCoO2;0<k≦1)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えば、LikNi1-jCoj2;0<k≦1、0<j<1)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えば、LikMn2-j2Nij24;0<k≦1、0<j2<2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えば、LikMnjCo1-j2;0<k≦1、0<j<1)、リチウムリン酸鉄(例えばLikFePO4;0<k≦1)、及び、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LikNi1-j-iCojMni2;0<k≦1、0<j<1、0<i<1、j+i<1)が含まれる。これらの化合物を正極活物質に用いると、正極電位を高めることができる。
【0059】
正極活物質の一次粒子径は、100nm以上1μm以下であることが好ましい。一次粒子径が100nm以上の正極活物質は、工業生産上の取り扱いが容易である。一次粒子径が1μm以下の正極活物質は、リチウムイオンの固体内拡散をスムーズに進行させることが可能である。
【0060】
正極活物質の比表面積は、0.1m2/g以上10m2/g以下であることが好ましい。0.1m2/g以上の比表面積を有する正極活物質は、Liイオンの吸蔵・放出サイトを十分に確保できる。10m2/g以下の比表面積を有する正極活物質は、工業生産の上で取り扱い易く、かつ良好な充放電サイクル性能を確保できる。
【0061】
結着剤は、分散された正極活物質の間隙を埋め、また、正極活物質と正極集電体とを結着させるために配合される。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、ポリアクリル酸化合物、イミド化合物、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose;CMC)、及びCMCの塩が含まれる。これらの1つを結着剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて結着剤として用いてもよい。
【0062】
導電剤は、集電性能を高め、且つ、正極活物質と正極集電体との接触抵抗を抑えるために配合される。導電剤の例には、気相成長カーボン繊維(Vapor Grown Carbon Fiber;VGCF)、アセチレンブラックなどのカーボンブラック及び黒鉛のような炭素質物が含まれる。これらの1つを導電剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて導電剤として用いてもよい。また、導電剤を省略することもできる。
【0063】
正極活物質含有層において、正極活物質及び結着剤は、それぞれ、80質量%以上98質量%以下、及び2質量%以上20質量%以下の割合で配合することが好ましい。
【0064】
結着剤の量を2質量%以上にすることにより、十分な電極強度が得られる。また、結着剤は、絶縁体として機能し得る。そのため、結着剤の量を20質量%以下にすると、電極に含まれる絶縁体の量が減るため、内部抵抗を減少できる。
【0065】
導電剤を加える場合には、正極活物質、結着剤及び導電剤は、それぞれ、77質量%以上95質量%以下、2質量%以上20質量%以下、及び3質量%以上15質量%以下の割合で配合することが好ましい。
【0066】
導電剤の量を3質量%以上にすることにより、上述した効果を発揮することができる。また、導電剤の量を15質量%以下にすることにより、電解質と接触する導電剤の割合を低くすることができる。この割合が低いと、高温保存下において、電解質の分解を低減することができる。
【0067】
正極集電体は、チタン、アルミニウム及びステンレスなどの金属箔、又は、Mg、Ti、Zn、Ni、Cr、Mn、Fe、Cu及びSiから選択される1以上を含むアルミニウム合金箔であることが好ましい。集電体と電解質との反応による集電体の腐食を防止するために、集電体表面を異種元素で被覆してもよい。
【0068】
正極集電体の厚さは、5μm以上20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。
【0069】
また、正極集電体は、その表面に正極活物質含有層が設けられていない部分を含むことができる。この部分は、正極集電タブとして働くことができる。或いは、正極集電体とは別体の正極集電タブを正極に電気的に接続してもよい。
【0070】
正極は、例えば次の方法により作製することができる。まず、正極活物質、導電剤及び結着剤を溶媒に懸濁してスラリーを調製する。このスラリーを、正極集電体の片面又は表裏両面に塗布する。次いで、塗布したスラリーを乾燥させて、正極活物質含有層と正極集電体との積層体を得る。その後、この積層体にプレスを施す。このようにして、正極を作製する。
【0071】
或いは、正極は、次の方法により作製してもよい。まず、正極活物質、導電剤及び結着剤を混合して、混合物を得る。次いで、この混合物をペレット状に成形する。次いで、これらのペレットを正極集電体上に配置することにより、正極を得ることができる。
【0072】
(3)セパレータ
セパレータは、負極と正極との間に設けられ、負極と正極との電気的な接触を防ぐ。
【0073】
セパレータは、基本的には疎水性であることが好ましい。セパレータが疎水性であると、水分子はセパレータを通過し難いため、正極側から負極側への水分子の供給が妨げられる。従って、疎水性のセパレータを用いることで、負極での水分解をさらに良く抑制できる。
【0074】
疎水性セパレータの例としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンが挙げられる。好ましいセパレータとしては、ポリオレフィン多孔質フィルムを挙げることができる。セパレータの気孔率は60%以上にすることが好ましい。気孔率が60%以上の多孔質フィルムは、第2水系電解質の含浸性が良い。そのため、そのようなフィルムを第2水系電解質とともに用いた電池は、低温から高温まで高い出力性能を出すことができる。また、そのようなフィルムは、長期充電保存、フロート充電、又は過充電の際においても負極と反応せず、リチウム金属のデンドライト析出による負極と正極の短絡が発生しない。より好ましい気孔率の範囲は62%~80%である。
【0075】
また、セパレータとして、無機固体粒子と疎水性高分子とを含む膜、例えば、無機固体粒子と疎水性高分子との複合膜、或いはイオン交換膜を使用することもできる。無機固体粒子は、例えば、固体電解質の粒子であり得、上記膜は固体電解質膜であり得る。固体電解質膜は、例えば、固体電解質粒子を、疎水性高分子などの高分子材料を用いて膜状に成形した固体電解質複合膜であり得る。疎水性の無機固体粒子と疎水性高分子を用いて複合膜を形成することで、疎水性の複合膜セパレータを得ることができる。
【0076】
上記材料を含んだセパレータを使用することで疎水性を示すセパレータを得る一方で、セパレータは適度な親水性を有することが好ましい。セパレータが完全に疎水性であると、セパレータと水系電解質の濡れ性が低いため、キャリアイオン(リチウムイオンやナトリウムイオン等)がセパレータを透過できず、電池性能が低下する。
【0077】
セパレータが保持する第2水系電解質が第1化合物を含むことで、水系電解質に対する疎水性セパレータの濡れ性を、適度に向上させることができる。即ち、負極での水分解を抑制し、且つ電池性能を向上させることができる。第1化合物は、セパレータの水系電解質に対する濡れ性を向上させ、且つ負極側の第1水系電解質中の亜鉛イオン濃度を適正範囲内に保つ効果を有する。
【0078】
第1化合物としては、一分子中に親水部と疎水性部とを含んでいる有機化合物を用いることができる。親水部の具体例として、オキシエチレン基およびオキシアルキレン基などを挙げることができる。疎水性部の具体例として、アルキル基を挙げることができる。
【0079】
第1化合物は、例えば、疎水性部によりセパレータに吸着し、親水部で水系電解質に接し得る。具体的には、第1化合物の疎水性部は、疎水性材料からなるセパレータ、又はセパレータとしての複合膜が含む疎水性高分子や無機固体粒子に吸着し得る。これにより、セパレータの親水性が適度に向上するため、セパレータの水系電解質に対する濡れ性が向上する。
【0080】
従って、第1化合物によるセパレータの水系電解質に対する濡れ性向上の効果は、第1化合物中の疎水部と親水部のバランスに影響を受ける。第1化合物中の疎水部と親水部のバランスの指標としては、HLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)値が挙げられる。HLB値は、界面活性剤における親水部の割合を表す指標で、次のとおり求められる:HLB値=20×[親水部の分子量/全体の分子量]。第1化合物としては、このHLB値が3以上10以下であるものが好ましい。HLB値を算出する方法の具体例を、後述する。
【0081】
第1化合物はまた、上述したとおり亜鉛イオンとの相互作用が強いため、セパレータ表面で水系電解質中の亜鉛イオンと複合体を形成することができる。従って、セパレータ表面に第1化合物と亜鉛イオンによる複合被膜が形成され、これにより亜鉛イオンはセパレータ内部を通過できず、負極側の第1水系電解質中の亜鉛イオン濃度が、適正な範囲内に保たれる。
【0082】
第1化合物としては、非イオン性界面活性剤を用いることがより好ましい。非イオン性界面活性剤の具体例として、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルエーテルからなる群より選択される1以上を挙げることができる。ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、例えば、C12H25O(CH2CH2O)Hで表され、0.89<n≦2.1である化合物を含む。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、例えば、C12H25O[(CH2CH(CH3)O)m・(CH2CH2O)n]Hで表され、添字nは0<n≦35、及び添字mは0<m≦40である化合物を含む。或いは、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、例えば、C4H9O(CH2CH2O)n[CH2CH(CH3)O]mHで表され、0<n≦35及び0<m≦28である化合物を含む。
【0083】
HLB値を算出する方法の具体例として、一例のポリオキシエチレンアルキルエーテルC12H25O(CH2CH2O)H、及び二つの例のポリオキシアルキレンアルキルエーテルC12H25O[(CH2CH(CH3)O)m・(CH2CH2O)n]H及びC4H9O(CH2CH2O)n[CH2CH(CH3)O]mHを第1化合物に用いた場合の計算方法を説明する。
【0084】
図1に示すポリオキシエチレンアルキルエーテルの化学式を用いて、当該化合物のHLB値の算出方法を説明する。ポリオキシエチレンアルキルエーテルの分子50の一端側を親水部51とみなし、他端側を疎水性部52とみなす。例えば、化学式C12H25O(CH2CH2O)Hで表す化合物については、化学式における最初の酸素およびオキシエチレン基を含む部分(-O(CH2CH2O)H)を親水部51とみなす。この部分の分子量を、HLB値を算出する上記計算式における「親水部の分子量」に用いる。化学式におけるアルキル基(C12H25-)を疎水性部52とみなす。親水部51と疎水性部52を含んだ化合物全体(分子50全体)の分子量を、HLB値を算出する上記計算式における「全体の分子量」に用いる。
【0085】
図2に示すポリオキシアルキレンアルキルエーテルの化学式を用いて、当該化合物のHLB値の算出方法を説明する。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの分子60の一端側を親水部61とみなし、他端側を疎水性部62とみなす。例えば、化学式C12H25O[(CH2CH(CH3)O)m・(CH2CH2O)n]Hで表す化合物については、化学式におけるオキシアルキレン基(-[(CH2CH(CH3)O)m・(CH2CH2O)n]H)中のエチレンオキシドユニットを含む端部(-(CH2CH2O)nH)を親水部61とみなす。この部分の分子量を、HLB値を算出する上記計算式における「親水部の分子量」に用いる。化学式におけるアルキル基(C12H25-)からオキシアルキレン基に含まれているプロピレンオキシドユニット(-O(CH2CH(CH3)O)m-)までの端部(C12H25-O(CH2CH(CH3)O)m-)を疎水性部62とみなす。親水部61と疎水性部62を含んだ化合物全体(分子60全体)の分子量を、HLB値を算出する上記計算式における「全体の分子量」に用いる。
【0086】
他の例のポリオキシアルキレンアルキルエーテルのHLB値の算出方法を、図3を参照して説明する。化学式C4H9O(CH2CH2O)n[CH2CH(CH3)O]mHで表すポリオキシアルキレンアルキルエーテルについては、分子70の両端を疎水性部72とみなし、それらの間の部分を親水部71とみなす。例えば、化学式における一端側のアルキル基(C4H9-)及び他端側のオキシプロピレン基を含む端部(-[CH2CH(CH3)O]mH)をそれぞれ疎水性部72と見なす。これらの間に在るオキシエチレン基(-(CH2CH2O)n-)の部分を親水部71と見なす。この親水部71の部分の分子量を、HLB値を算出する上記計算式における「親水部の分子量」に用いる。親水部71と疎水性部72を含んだ化合物全体(分子70全体)の分子量を、HLB値を算出する上記計算式における「全体の分子量」に用いる。
【0087】
第1化合物の分子量は、200以上4000以下の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは400以上3500以下の範囲内、さらに好ましくは1000以上3000以下の範囲内にあることが好ましい。第1化合物の分子量は、後述する方法により測定できる。
【0088】
第1化合物として、1種の化合物を単独で用いてもよい。或いは、2種以上の化合物を第1化合物として用いてもよい。1種の化合物を単独で第1化合物に用いた場合でも、上述した効果を発現させることができる。
【0089】
第1化合物には、第1化合物の原料であるアルコール、或いは副生成物であるポリエーテルポリオールが含まれていても良い。
【0090】
第1化合物は、例えば、電極群を作製する前に、次の前処理を行うことによって、疎水性セパレータに含有させることができる。第1化合物と電解質を含む水溶液にセパレータを含浸させる。ここで用いる水溶液には、例えば、第2水系電解質を用いる。
【0091】
上述した疎水性のセパレータには、例えば、第1化合物を電解質溶液に含有させ、この溶液を電池作製時にセパレータと電極との間に注入するだけでは、セパレータ内部にまで第1化合物を含有させることはできない。また、第1化合物を含有させた電解質溶液を電池作製時にセパレータと電極との間に注入し、この電池を減圧条件下に一定時間置く方法、つまり所謂真空含浸によっても、セパレータ内部にまで第1化合物を含有させることはできない。
【0092】
セパレータは、20μm以上100μm以下の厚さを有し、0.2g/cm3以上0.9g/cm3以下の密度を有することが好ましい。この範囲であると、機械的強度と電池抵抗の軽減のバランスを取ることができ、高出力で内部短絡が抑制された二次電池を提供することができる。また、高温環境下でのセパレータの熱収縮が少なく、良好な高温貯蔵性能を出すことが出来る。
【0093】
複合膜をセパレータとして用いる場合は、該複合膜の厚さは、内部短絡が生じにくいという観点からは、3μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、7μm以上であることが更に好ましい。また、複合膜の厚さは、イオン伝導性及びエネルギー密度を高めるという観点からは、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが更に好ましい。
【0094】
セパレータの透気係数は1×10-14以下であることが好ましい。透気係数が1×10-14より大きいと、負極側の第1水系電解質、セパレータ内の第2水系電解質、及び正極側の第3水系電解質とが混合されてしまい得る。セパレータの透気係数が大きく正負極間で水系電解質が行き来できると、浸透圧の小さい方の電極の水系電解質が液枯れを起こしやすくなるため好ましくない。加えて、透気係数が小さいセパレータの方が、高い疎水性を示す傾向がある。そのため、セパレータの透気係数が高い方が、第1化合物の吸着によりセパレータの水系電解質に対する濡れ性が向上する効果がえられやすい。
【0095】
透気係数が1×10-15以下であることがより好ましく、1×10-16以下であることがさらにより好ましい。このような透気係数を有するセパレータであることで、第1乃至第3水系電解質の混合を速度論的に十分抑制することができ、それによりクーロン効率が良くなるため好ましい。これは、セパレータ内で第2水系電解質が十分に染み渡り、セパレータにて電気抵抗は低くイオン伝導性が高くなることにより、レート性能がよくなるためである。水系電解質はセパレータ内でよく染み渡るが、第1乃至第3水系電解質が混ざるほどではない。透気係数の算出方法については、後述する。
【0096】
セパレータとしての複合膜に含まれる無機固体粒子としては、アルミナ、シリカ、ジルコニア、イットリア、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化バナジウムなどの酸化物系セラミックス、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸ランタン、炭酸セリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、石膏、硫酸バリウムなどの炭酸塩および硫酸塩、水酸燐灰石、リチウムリン酸塩、リン酸ジルコニウム、リン酸チタニウムなどのリン酸塩、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックスなどが例として挙げられる。以上に挙げた無機粒子は水和物の形態をとっていてもよい。
【0097】
無機固体粒子は、アルカリ金属イオンのイオン伝導性を有する固体電解質粒子を含むことが好ましい。具体的には、リチウムイオン及びナトリウムイオンに対するイオン伝導性を有する無機固体粒子がより好ましい。このような無機固体粒子を用いることで、リチウムイオン伝導性またはナトリウムイオン伝導性を有するセパレータを得ることができる。
【0098】
リチウムイオン伝導性を有する無機固体粒子としては、例えば、酸化物系固体電解質、又は硫化物系固体電解質を挙げることができる。酸化物系固体電解質としては、NASICON(Sodium (Na) Super Ionic Conductor)型構造を有し、一般式Li1+x32(PO43で表されるリチウムリン酸固体電解質を用いることが好ましい。上記一般式中のMは、例えば、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、及びカルシウム(Ca)からなる群より選択される1以上である。添字x3は、0≦x3≦2の範囲内にある。一般式LiMe2(PO43で表されるリチウムリン酸固体電解質のイオン伝導度は、例えば、1×10-7S/cm以上1×10-3S/cm以下である。
【0099】
NASICON型構造を有するリチウムリン酸固体電解質の具体例としては、Li1+xAlvMe2-v(PO4)3で表されMeはTi,Ge,Sr,Zr,Sn,及びCaからなる群より選択される1以上であり0≦x≦1及び0≦v≦1である化合物;Li1+x4Alx4Ti2-x4(PO4)3で表され0.1≦x4≦0.5であるLATP化合物;Li1+x3Alx3Ge2-x3(PO43で表され0≦x3≦2である化合物;及び、Li1+x3Alx3Zr2-x3(PO43で表され0≦x3≦2である化合物;Li1+v2+yAlv2Mα2-v2Siu3-u12で表されMαはTi及びGeからなる群より選択される1以上であり0<v2≦2、0≦u<3である化合物;Li1+2tZr1-tCat(PO43で表され0≦t<1である化合物を挙げることができる。Li1+2tZr1-tCat(PO43は、耐水性が高く、還元性及びコストが低いことから、無機固体電解質粒子として用いることが好ましい。
【0100】
また、酸化物系固体電解質としては、上記リチウムリン酸固体電解質の他にも、LipPOqrで表され2.6≦p≦3.5、1.9≦q≦3.8、及び0.1≦r≦1.3であるアモルファス状のLIPON化合物(例えば、Li2.9PO3.30.46);ガーネット型構造のLa5+ssLa3-sMβ212で表されAはCa,Sr,及びBaからなる群より選択される1以上でMβはNb及びTaからなる群より選択される1以上であり0≦s≦0.5である化合物;Li3Mγ2-s212で表されMγはTa及びNbからなる群より選択される1以上でありLはZrを含み得0≦s≦0.5である化合物;Li7-3sAlsLa3Zr312で表され0≦s≦0.5である化合物;及びLi5+x3La3Mδ2-x3Zrx312で表されMδはNb及びTaから成る群より選択される1以上であり0≦x3≦2であるLLZ化合物(例えば、Li7La3Zr212)が挙げられる。固体電解質は、1種類であってもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。LIPONのイオン伝導度は、例えば、1×10-7S/cm以上5×10-6S/cm以下である。LLZのイオン伝導度は、例えば、1×10-7S/cm以上5×10-4S/cm以下である。
【0101】
また、ナトリウムイオンのイオン伝導性を有する無機固体粒子としては、ナトリウム含有固体電解質を用いてもよい。ナトリウム含有固体電解質は、ナトリウムイオンのイオン伝導性に優れている。ナトリウム含有固体電解質としては、β-アルミナ、ナトリウムリン硫化物、及びナトリウムリン酸化物などを挙げることができる。ナトリウムイオン含有固体電解質は、ガラスセラミックスの形態にあることが好ましい。
【0102】
無機固体粒子は、25℃において1×10-7S/cm以上のリチウムイオン伝導度を有する固体電解質であることが好ましい。リチウムイオン伝導度は、例えば、交流インピーダンス法により測定できる。詳細は、後述する。
【0103】
無機固体粒子の形状は特に限定されないが、例えば、球状、楕円形状、扁平形状、又は繊維状などにすることができる。
【0104】
無機固体粒子の平均粒子径は、15μm以下であることが好ましく、12μm以下であることがより好ましい。無機固体粒子の平均粒子径が小さいと、複合膜の緻密性を高めることができる。
【0105】
無機固体粒子の平均粒子径は、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。無機固体粒子の平均粒子径が大きいと、粒子同士の凝集が抑制される傾向にある。
【0106】
なお、無機固体粒子の平均粒子径は、レーザー回折式の粒度分布測定装置により求めた粒度分布において、体積積算値が50%となる粒径を意味している。この粒度分布測定を行う際の試料としては、無機固体粒子の濃度が0.01質量%乃至5質量%となるようにエタノールで希釈した分散液を用いる。
【0107】
複合膜において無機固体粒子は、単一の種類のものを用いてもよく、複数種類を混合して用いてもよい。
【0108】
複合膜において、無機固体粒子は主成分であることが好ましい。複合膜における無機固体粒子の割合は、複合膜のイオン伝導性を高めるという観点からは、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることが更に好ましい。複合膜における無機固体粒子の割合は、複合膜の膜強度を高めるという観点からは、98質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることが更に好ましい。複合膜における無機固体粒子の割合は、熱重量(TG)分析により算出できる。
【0109】
複合膜に含まれる疎水性高分子は、無機固体粒子同士の結着性を高める。疎水性高分子の重量平均分子量は、例えば、3000以上である。疎水性高分子の重量平均分子量が3000以上であると、無機固体粒子の結着性をより高められる。疎水性高分子の重量平均分子量は、3000以上5000000以下であることが好ましく、5000以上2000000以下であることがより好ましく、10000以上1000000以下であることが更に好ましい。疎水性高分子の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)により求めることができる。
【0110】
疎水性高分子の例は、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリアミン系、ポリエチレン系、シリコーン系及びポリスルフィド系などの高分子材料を含む。疎水性高分子は、単一のモノマーユニットからなる重合体(ポリマー)、複数のモノマーユニットからなる共重合体(コポリマー)、又はこれらの混合物であり得る。疎水性高分子は、酸素(O)、硫黄(S)、窒素(N)、及びフッ素(F)からなる群より選択される1以上を含む官能基を有する炭化水素で構成されるモノマーユニットを含んでいることが好ましい。疎水性高分子において、モノマーユニットで構成された部分が占める割合は70モル%以上であることが好ましい。以下、このモノマーユニットを、第1モノマーユニットと称する。また、共重合体において、第1モノマーユニット以外のものを、第2モノマーユニットと称する。第1モノマーユニットと第2モノマーユニットとの共重合体は、交互共重合体であってもよく、ランダム共重合体であってもよく、又は、ブロック共重合体であってもよい。
【0111】
疎水性高分子において、第1モノマーユニットで構成された部分が占める割合が70モル%より低いと、複合膜の遮水性が低下するおそれがある。疎水性高分子において、第1モノマーユニットで構成された部分の割合は、90モル%以上であることが好ましい。疎水性高分子は、第1モノマーユニットで構成された部分の割合が100モル%、すなわち、第1モノマーユニットのみからなる重合体であることが最も好ましい。
【0112】
第1モノマーユニットは、酸素(O)、硫黄(S)、窒素(N)、及びフッ素(F)からなる群より選択される1以上の元素を含む官能基を側鎖に有し、主鎖が炭素-炭素結合により構成された化合物であってもよい。炭化水素は、酸素(O)、硫黄(S)、窒素(N)、及びフッ素(F)からなる群より選択される1以上の元素を含む官能基を、1以上有していてもよい。第1モノマーユニットにおける上記官能基は、複合膜を通過するアルカリ金属イオンの伝導性を高める。
【0113】
第1モノマーユニットを構成する炭化水素は、酸素(O)、硫黄(S)、及び窒素(N)からなる群より選択される1以上を含む官能基を有することが好ましい。第1モノマーユニットが、このような官能基を有すると、複合膜におけるアルカリ金属イオンの伝導性がより高まり、内部抵抗が低まる傾向にある。
【0114】
第1モノマーユニットに含まれる官能基としては、ホルマール基、ブチラール基、カルボキシメチルエステル基、アセチル基、カルボニル基、水酸基及びフルオロ基からなる群より選択される1以上を含むことが好ましい。また、第1モノマーユニットは、カルボニル基及び水酸基の少なくとも一方を官能基に含むことがより好ましく、両方を含むことが更に好ましい。
【0115】
第1モノマーユニットは、下記式により表すことができる。
【0116】
【化1】
【0117】
上記式において、R1は、水素(H)、アルキル基、及びアミノ基からなる群より選択されることが好ましい。また、R2は、水酸基(-OH)、-OR1、-COOR1、-OCOR1、-OCH(R1)O-、-CN、-N(R13、及び-SO21からなる群より選択されることが好ましい。
【0118】
第1モノマーユニットとしては、例えば、ビニルホルマール、ビニルアルコール、酢酸ビニル、ビニルアセタール、ビニルブチラール、アクリル酸及びその誘導体、メタクリル酸及びその誘導体、アクリロニトリル、アクリルアミド及びその誘導体、スチレンスルホン酸、ポリフッ化ビニリデン、及びテトラフルオロエチレンからなる群より選択される1以上を挙げることができる。
【0119】
疎水性高分子は、ポリビニルホルマール、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリメタクリル酸メチル、ポリフッ化ビニリデン、及びポリテトラフルオロエチレンからなる群より選択される1以上を含むことが好ましい。
【0120】
以下に、疎水性高分子として用いることができる化合物の構造式の一例を記載する。
【0121】
ポリビニルホルマールの構造式は、以下の通りである。下記式において、aは、50以上80以下であり、bは0以上5以下であり、cは15以上50以下であることが好ましい。
【0122】
【化2】
【0123】
ポリビニルブチラールの構造式は、以下の通りである。下記式において、lは、50以上80以下であり、m2は0以上10以下であり、n2は10以上50以下であることが好ましい。
【0124】
【化3】
【0125】
ポリビニルアルコールの構造式は、以下の通りである。下記式において、n3は、70以上20000以下であることが好ましい。
【0126】
【化4】
【0127】
ポリメタクリル酸メチルの構造式は、以下の通りである。下記式において、n4は、30以上10000以下であることが好ましい。
【0128】
【化5】
【0129】
第2モノマーユニットとは、第1モノマーユニット以外の化合物、すなわち、酸素(O)、硫黄(S)、窒素(N)、及びフッ素(F)からなる群より選択される1以上を含む官能基を有さないか、又は、この官能基を有していても炭化水素ではないものである。第2モノマーユニットとしては、例えば、エチレンオキシド及びスチレンを挙げることができる。第2モノマーユニットからなる重合体としては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)及びポリスチレン(PS)を挙げることができる。
【0130】
第1モノマーユニット及び第2モノマーユニットに含まれる官能基の種類は、赤外線分光分析法(Fourier Transform Infrared Spectroscopy;FT-IR)により同定できる。また、第1モノマーユニットが炭化水素からなることは、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance;NMR)により判断できる。また、第1モノマーユニットと第2モノマーユニットとの共重合体において、第1モノマーユニットで構成された部分が占める割合は、NMRにより算出できる。
【0131】
疎水性高分子は、水系電解質を含有し得る。疎水性高分子が含有し得る水系電解質の割合は、その吸水率により把握できる。ここで、疎水性高分子の吸水率とは、23℃の温度の水中に24時間にわたって浸漬した後の疎水性高分子の質量M’から、浸漬する前の疎水性高分子の質量Mを減じて得られた値を、浸漬する前の疎水性高分子の質量Mで除した値([M’-M]/M×100)である。疎水性高分子の吸水率は、疎水性高分子の極性と関連していると考えられる。
【0132】
吸水率の高い疎水性高分子を用いると、複合膜のアルカリ金属イオン伝導性が高まる傾向にある。また、吸水率が高い疎水性高分子を用いると、無機固体粒子と、疎水性高分子との結着力が高まるため、複合膜の可撓性を高めることができる。疎水性高分子の吸水率は、0.01%以上であることが好ましく、0.5%以上であることより好ましく、2%以上であることが更に好ましい。
【0133】
吸水率の低い疎水性高分子を用いると、複合膜の強度を高められる。すなわち、疎水性高分子の吸水率が高すぎると、複合膜が水系電解質により膨潤することがある。また、疎水性高分子の吸水率が高すぎると、複合膜中の疎水性高分子が、水系電解質内に流出することがある。疎水性高分子の吸水率は、15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、7%以下であることが更に好ましく、3%以下であることが特に好ましい。
【0134】
複合膜における疎水性高分子の割合は、複合膜の可撓性を高めるという観点からは、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましい。また、疎水性高分子の割合が多い方が、複合膜の緻密度が高くなりやすい。
【0135】
また、複合膜における疎水性高分子の割合は、複合膜のキャリアイオン伝導性を高めるという観点からは、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましい。複合膜における疎水性高分子の割合は、熱重量(TG)分析により算出することができる。
【0136】
複合膜に含ませる疎水性高分子としては、単一の種類のものを用いてもよく、複数種類を混合して用いてもよい。
【0137】
複合膜は、無機固体粒子及び疎水性高分子の他に、可塑剤や電解質塩を含んでも良い。例えば、複合膜が電解質塩を含むと、複合膜のアルカリ金属イオン伝導性をより高めることができる。
【0138】
セパレータとして、上述した固体電解質及び上述した疎水性高分子材料を含む複合層と、多孔質自立膜とを備える複合固体電解質膜を用いてもよい。多孔質自立膜には、上述したポリエチレン又はポリプロピレンなどのポリオレフィン、或いは、セルロースからなる自立膜が含まれる。
【0139】
(4)水系電解質
実施形態に係る二次電池は、水系電解質を含む。水系電解質は、少なくとも部分的に電極群に保持され得る。水系電解質には、第1水系電解質、第2水系電解質、及び第3水系電解質が含まれる。第1水系電解質は、負極に保持される。第2水系電解質はセパレータに保持される。第3水系電解質は、正極に保持される。以下、特定されてない限りは、“水系電解質”は、第1水系電解質、第2水系電解質、及び第3水系電解質を含めた水系電解質全般を意味する。
【0140】
水系電解質は、少なくとも水系溶媒および電解質塩を含む。負極に含まれる第1水系電解質は、亜鉛イオンをさらに含む。第1水系電解質は、第1化合物をさらに含むことができる。セパレータに含まれる第2水系電解質は、第1化合物をさらに含む。第2水系電解質も、亜鉛イオンを含み得る。正極に含まれる第3水系電解質は、亜鉛イオン及び/又は第1化合物をさらに含むことができる。
【0141】
水系電解質は、例えば、液状である。液状水系電解質は、溶質としての電解質塩を水系溶媒に溶解することにより調製される水溶液である。水溶液では、溶質となる塩1molに対し、水系溶媒量が1mol以上であることが好ましく、3.5mol以上であることがさらに好ましい。
【0142】
水系溶媒としては、水を含む溶液を用いることができる。ここで、水を含む溶液とは、純水であってもよく、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。水系溶媒が含む水の割合は、例えば、50体積%以上の割合であり、好ましくは90体積%以上の割合である。
【0143】
水系電解質は、ゲル状電解質であってもよい。ゲル状電解質は、上述した液状水系電解質と、高分子化合物とを混合して複合化することにより調製される。高分子化合物としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、及びポリエチレンオキシド(PEO)等を挙げることができる。
【0144】
水系電解質に水が含まれていることは、GC-MS(ガスクロマトグラフィー-重量分析;Gas Chromatography-Mass Spectrometry)測定により確認できる。また、水系電解質中の塩濃度および水含有量は、例えばICP(誘導結合プラズマ;Inductively Coupled Plasma)発光分析などで測定することができる。水系電解質を規定量はかり取り、含まれる塩濃度を算出することで、モル濃度(mol/L)を算出できる。また水系電解質の比重を測定することで、溶質と溶媒のモル数を算出できる。
【0145】
電解質塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩又はこれらの混合物を用いることができる。
【0146】
リチウム塩として、例えば、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、水酸化リチウム(LiOH)、硫酸リチウム(Li2SO4)、硝酸リチウム(LiNO3)、酢酸リチウム(CH3COOLi)、シュウ酸リチウム(Li224)、炭酸リチウム(Li2CO3)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)(LiTFSI;LiN(SO2CF3)2)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI;LiN(SO2F)2)、及びリチウムビスオキサレートボラート(LiBOB:LiB[(OCO)2]2)などを用いることができる。
【0147】
ナトリウム塩としては、塩化ナトリウム(NaCl)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)、水酸化ナトリウム(NaOH)、硝酸ナトリウム(NaNO3)及びナトリウムトリフルオロメタンスルホニルアミド(NaTFSA)などを用いることができる。
【0148】
水系電解質におけるリチウムイオン又はナトリウムイオンのモル濃度は、3mol/L以上であることが好ましく、6mol/L以上であることが好ましく、12mol/L以上であることが好ましい。水系電解質中のリチウムイオン又はナトリウムイオンの濃度が高いと、負極における水系溶媒の電気分解が抑制されやすく、負極からの水素発生が少ない傾向にある。
【0149】
第1水系電解質は亜鉛イオンを含む。第1水系電解質が含む亜鉛イオンの濃度は0.001質量%以上0.5質量%以下の範囲内にある。亜鉛イオン濃度が過度に低いと、負極に形成される亜鉛含有被膜が薄すぎて、充分な水分解抑制効果が得られない。一方、第1水系電解質中の亜鉛イオン濃度が過度に高いと、亜鉛含有被膜が厚すぎて、負極活物質でのリチウムイオンの挿入脱離が妨げられ、充放電容量および効率の低下の要因となる。
【0150】
また、第2水系電解質は、同一分子内に疎水部と親水部を有する第1化合物を含む。第2水系電解質が含む第1化合物の濃度は、1質量%以上5質量%以下の範囲にある。上述したとおり第1化合物と亜鉛イオンとの相互作用によって複合体被膜が形成されることで、第1水系電解質中の亜鉛イオン濃度が0.001質量%以上0.5質量%以下の範囲内に保たれる。
【0151】
水系電解質は、さらに水溶性有機溶媒を含むことができる。水系電解質が含むことのできる水溶性有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(N-methyl-2-pyrrolidone;NMP)、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブタノール、エチレングリコール、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran;THF)、1,4-ジオキサン、アセトン、エチルメチルケトン、アセトニトリル(acetonitrile;AN)、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、トリエチルアミン、ピリジン、及びジメチルスルホキサイドからなる群より選択される少なくとも1以上を用いることができる。
【0152】
上述したとおり、正極および負極は、結着剤を含むことができる。結着剤として用いることのできる化合物には、上記水溶性有機溶媒との相性が優れないものがある。そのため、水溶性有機溶媒を含む水系電解質と接し得る電極(正極または負極)に用いる結着剤に留意する。セパレータが含むことのできる疎水性高分子やゲル状電解質が含む高分子化合物についても同様の理由から、水溶性有機溶媒を用いる場合に留意する。
【0153】
水系電解質のpHは、3以上14以下であることが好ましく、4以上13以下であることがより好ましい。pHは25℃で測定した値である。加えて、負極側の第1水系電解質のpHは、3以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、7以上であることが更に好ましい。第1水系電解質のpHが7以上であると、負極での水の電気分解に起因する水素発生反応の進行をよりよく抑制できる。正極側の第3水系電解質のpHは、0以上7以下の範囲内にあることが好ましく、0以上6以下の範囲内にあることがより好ましい。第3水系電解質のpHが7以下であると、正極での水の電気分解に起因する酸素発生反応の進行を抑制できる。
【0154】
(5)外装部材
正極、負極及び水系電解質が収容される外装部材には、金属製容器、ラミネートフィルム製容器、又は樹脂製容器を使用することができる。
【0155】
金属製容器としては、ニッケル、鉄、及びステンレスなどからなる金属缶で角形、円筒形の形状のものが使用できる。樹脂製容器としては、ポリエチレン又はポリプロピレンなどからなるものを用いることができる。
【0156】
樹脂製容器及び金属製容器のそれぞれの板厚は、0.05mm以上1mm以下の範囲内にあることが好ましい。板厚は、より好ましくは0.5mm以下であり、更に好ましくは0.3mm以下である。
【0157】
ラミネートフィルムとしては、例えば、金属層を樹脂層で被覆した多層フィルムなどを挙げることができる。金属層の例に、ステンレス箔、アルミニウム箔、及びアルミニウム合金箔が含まれる。樹脂層には、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、及びポリエチレンテレフタレート(PET)などの高分子を用いることができる。
ラミネートフィルムの厚さは、0.01mm以上0.5mm以下の範囲内にあることが好ましい。ラミネートフィルムの厚さは、より好ましくは0.2mm以下である。
【0158】
(6)負極端子
負極端子は、例えば、上述の負極活物質のアルカリ金属イオン挿入-脱離電位において電気化学的に安定であり、かつ導電性を有する材料から形成されることができる。具体的には、負極端子の材料としては、亜鉛、銅、ニッケル、ステンレス若しくはアルミニウム、又は、Mg,Ti,Zn,Mn,Fe,Cu,及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。負極端子の材料としては、亜鉛又は亜鉛合金を用いることが好ましい。負極端子は、負極集電体との接触抵抗を低減するために、負極集電体と同様の材料からなることが好ましい。
【0159】
(7)正極端子
正極端子は、例えば、リチウムの酸化-還元電位に対し3V以上4.5V以下の電位範囲(vs.Li/Li)において電気的に安定であり、且つ導電性を有する材料から形成することができる。正極端子の材料としては、チタン、アルミニウム、或いは、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。正極端子は、正極集電体との接触抵抗を低減するために、正極集電体と同様の材料から形成されることが好ましい。
【0160】
実施形態に係る二次電池は、角形、円筒形、扁平型、薄型、コイン型等の様々な形態で使用され得る。また二次電池は、バイポーラ構造を有する二次電池であってもよい。バイポーラ構造を有する二次電池には、複数直列のセルを1個のセルで作製できるという利点がある。
【0161】
以下、実施形態に係る二次電池の詳細を、図4及び図5を参照しながら説明する。図4は、実施形態に係る二次電池の一例を概略的に示す断面図である。図5は、図4に示す二次電池のV-V線に沿った断面図である。
【0162】
電極群1は、矩形筒状の金属製容器からなる外装部材2内に収納されている。電極群1は、負極3とセパレータ4と正極5とを含む。電極群1は、正極5を及び負極3の間にセパレータ4を介在させて偏平形状となるように渦巻き状に捲回した構造を有する。水系電解質(図示しない)は、電極群1に保持されている。詳細には、第1水系電解質(図示しない)は負極3に保持されており、第2水系電解質(図示しない)はセパレータ4に保持されており、第3水系電解質(図示しない)は正極5に保持されている。図4に示すように、電極群1の端面に位置する負極3の端部の複数箇所それぞれに帯状の負極リード16が電気的に接続されている。また、この端面に位置する正極5の端部の複数箇所それぞれに帯状の正極リード17が電気的に接続されている。この複数ある負極リード16は、図5に示すとおり一つに束ねられた状態で負極端子6と接続されている。また、図示しないが正極リード17も同様に、一つに束ねられた状態で正極端子7と電気的に接続されている。
【0163】
金属製の封口板10は、金属製の外装部材2の開口部に溶接等により固定されている。負極端子6及び正極端子7は、それぞれ、封口板10に設けられた取出穴から外部に引き出されている。封口板10の各取出穴の内周面には、負極端子6及び正極端子7との接触による短絡を回避するために、それぞれ負極ガスケット8及び正極ガスケット9が配置されている。負極ガスケット8及び正極ガスケット9を配置することで、二次電池100の気密性を維持できる。
【0164】
封口板10には制御弁11(安全弁)が配置されている。水系溶媒の電気分解により発生したガスに起因して電池セルにおける内圧が高まった場合には、制御弁11から発生ガスを外部へと放散できる。制御弁11としては、例えば内圧が設定値よりも高くなった場合に作動し、内圧が低下すると封止栓として機能する復帰式のものを使用することができる。或いは、一度作動すると封止栓としての機能が回復しない非復帰式の制御弁を使用してもよい。図4では、制御弁11が封口板10の中央に配置されているが、制御弁11の位置は封口板10の端部であってもよい。制御弁11は省略してもよい。
【0165】
また、封口板10には注液口18が設けられている。水系電解質は、この注液口18を介して注液され得る。注液口18は、水系電解質が注液された後、封止栓19により塞がれ得る。注液口18及び封止栓19は省略してもよい。
【0166】
図6は、実施形態に係る二次電池の他の例を概略的に示す部分切欠斜視図である。図7は、図6に示す二次電池のB部を拡大した断面図である。図6及び図7は、容器として、ラミネートフィルム製外装部材を用いた二次電池100の一例を示している。
【0167】
図6及び図7に示す二次電池100は、図6及び図7に示す電極群1と、図6に示す外装部材2と、図示しない水系電解質とを具備する。電極群1及び水系電解質は、外装部材2内に収納されている。水系電解質は、電極群1に保持されている。詳細には、第1水系電解質(図示しない)は負極3に保持されており、第2水系電解質(図示しない)はセパレータ4に保持されており、第3水系電解質(図示しない)は正極5に保持されている。
【0168】
外装部材2は、2つの樹脂層とこれらの間に介在した金属層とを含むラミネートフィルムからなる。
【0169】
電極群1は、図7に示すように、積層型の電極群である。積層型の電極群1は、負極3と正極5とをその間にセパレータ4を介在させながら交互に積層した構造を有している。
【0170】
電極群1は、複数の負極3を含んでいる。複数の負極3は、それぞれが、負極集電体3aと、負極集電体3aの両面に担持された負極活物質含有層3bとを備えている。また、電極群1は、複数の正極5を含んでいる。複数の正極5は、それぞれが、正極集電体5aと、正極集電体5aの両面に担持された正極活物質含有層5bとを備えている。
【0171】
各負極3の負極集電体3aは、その一辺において、いずれの表面にも負極活物質含有層3bが担持されていない部分3cを含む。この部分3cは、負極集電タブとして働く。図7に示すように、負極集電タブとして働く部分3cは、正極5と重なっていない。また、複数の負極集電タブ(部分3c)は、帯状の負極端子6に電気的に接続されている。帯状の負極端子6の先端は、外装部材2の外部に引き出されている。
【0172】
また、図示しないが、各正極5の正極集電体5aは、その一辺において、いずれの表面にも正極活物質含有層5bが担持されていない部分を含む。この部分は、正極集電タブとして働く。正極集電タブは、負極集電タブ(部分3c)と同様に、負極3と重なっていない。また、正極集電タブは、負極集電タブ(部分3c)に対し電極群1の反対側に位置する。正極集電タブは、帯状の正極端子7に電気的に接続されている。帯状の正極端子7の先端は、負極端子6とは反対側に位置し、外装部材2の外部に引き出されている。
【0173】
図8は、実施形態に係る二次電池の更に他の例を概略的に示す断面図である。
【0174】
図8に示す二次電池100は、負極3、セパレータ4、正極5、第1水系電解質13、第2水系電解質(図示しない)、第3水系電解質15、及び外装部材2を具備している。負極3は、負極集電体3aと、負極集電体3aの両面の一部に設けられた負極活物質含有層3bとを含んでいる。負極集電体3aは、負極活物質含有層3bで被覆されていない部分3cを含んでいる。この部分3cは、負極集電タブとして働く。正極5は、正極集電体5aと、正極集電体5aの両面の一部に設けられた正極活物質含有層5bとを含んでいる。正極集電体5aは、正極活物質含有層5bで被覆されていない部分5cを含んでいる。この部分5cは、正極集電タブとして働く。
【0175】
負極3は、負極集電タブとして働く部分3cが外部に突出した状態で外装部材2に収容されている。正極5は、正極集電タブとして働く部分5cが外部に突出した状態で外装部材2に収容されている。
【0176】
第1水系電解質13は、その一部が負極3に保持される状態(図示しない)で外装部材2に収容されている。第2水系電解質は、セパレータ4に保持されている(図示しない)。第3水系電解質15は、その一部が正極5に保持される状態(図示しない)で外装部材2に収容されている。図8では一例として、第1水系電解質13及び第3水系電解質15が液体の場合を示している。
【0177】
セパレータ4は、図8に示すように、外装部材2の内部から外部に向かって延出していてもよく、外装部材2の内部に備えられていても良い。
【0178】
(水系電解質の測定)
以下に、水系電解質の性質を測定する方法を説明する。
【0179】
測定対象の水系電解質が、例えば、作製済みの電池に含まれている場合、次のようにして水系電解質を抽出する。電池を放電後、電池を解体して電極群を取り出す。電極群が含む負極、セパレータ、及び正極にそれぞれ含まれている第1水系電解質、第2水系電解質、及び第3水系電解質を各々抽出して、測定試料を得る。
【0180】
<亜鉛イオン濃度の測定>
水系電解質が含む亜鉛イオンの濃度は、ICP発光分光法により測定することができる。水系電解質を規定量はかり取り、含まれる亜鉛イオン濃度を算出することで、モル濃度(mol/L)を算出できる。
【0181】
<水溶性有機溶媒および第1化合物の測定>
水系電解質中の水溶性有機溶媒および第1化合物の同定および定量は、液体クロマトグラフィー/質量分析(Liquid Chromatography - Mass Spectrometry;LC/MS)分析により行うことができる。
【0182】
先に説明したとおり電解質を抽出する。抽出した電解質をLC/MSで分析することで、電解質中の成分、例えば、有機溶媒、及び第1化合物などを同定、定量できる。
【0183】
<第1化合物の分子量の測定>
第1化合物の分子量は、MALDI-TOF-MS(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization Time-of-Flight Mass Spectrometry)分析により測定できる。装置としては、例えば、日本電子社(JEOL)製JMS-S3000 Spiral TOFを用いることができる。データ解析には、例えば、日本電子社製MS Tornado Analysisを用いることができる。質量構成の外部標準には、ポリメタクリル酸メチル(サイズ排除クロマトグラフィー用分子量標準)が用いられる。
【0184】
測定により得られるMALDI-MSスペクトルにおけるピークトップの位置の値を、分子量として記録する。
【0185】
<水系電解質のpHの測定方法>
水系電解質のpHの測定方法は、次の通りである。二次電池を解体して取り出した電極群の各電極およびセパレータに含まれている電解質(第1乃至第3水系電解質)をそれぞれ抽出し、液量を測定後、pHメータでpH値を測定する。pH測定は、例えば以下のように行う。この測定には、例えば(株)堀場製作所製のF-74を使用する。まず、pH4.0、7.0及び9.0の標準液を用意する。次に、これら標準液を用いて、F-74の校正を行う。測定対象の電解質(電解液)を適量調製したものを容器に入れ、pHを測定する。pHの測定後に、F-74のセンサー部を洗浄する。別の測定対象を測定する際は、上述した手順、即ち、校正、測定及び洗浄をその都度実施する。
【0186】
<非イオン性界面活性剤におけるポリオキシアルキレンユニット比の算出>
第1化合物としての非イオン性界面活性剤のオキシエチレン基やオキシアルキレン基に含まれている各種ポリオキシアルキレンユニットの比率は、プロトン核磁気共鳴(1H NMR)分光測定に基づいて、以下の方法で算出できる。1H NMR測定に供する試料としては、例えば、電池から抽出した液状の電解質をそのまま用いることができる。
【0187】
電解質の1H NMRスペクトルを測定する。得られたスペクトル中のピークは、化学シフト、および分離パターンなどから、アルキレンオキシドユニット毎に帰属できる。アルキレンオキシドユニットに帰属されたピークの積分比を算出し、この値からアルキレンオキシドの比率を求める。例えば、化学式C12H25O[(CH2CH(CH3)O)m・(CH2CH2O)n]Hで表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含む試料を測定して得られる1H NMRスペクトルに現れる各ピークは、アルキル基(C12H25-)、プロピレンオキシドユニット(-(CH2CH(CH3)O)-)、又はエチレンオキシドユニット(-(CH2CH2O)-)に帰属できるピークを含む。それぞれの帰属ピークの積分比を算出することで、添字m及びnの比を求めることができる。
【0188】
(セパレータの測定)
以下に、セパレータに対する測定を行う方法を説明する。
【0189】
測定対象のセパレータが、例えば、作製済みの電池に含まれている場合、次のようにしてセパレータを取り出す。電池を放電後、電池を解体して電極群を取り出す。セパレータを電極群から分離する。セパレータは、純水で両面を洗い流した後、純水に浸漬させて48時間以上放置する。その後、さらに純水で両面を洗い流し、100℃の真空乾燥炉にて48時間以上乾燥させた後に、各種測定を行う。
【0190】
<セパレータの透気係数の測定方法>
セパレータの透気係数(m)は、以下のようにして算出する。透気係数KTの算出では、例えば、厚さL(m)のセパレータを測定対象とする場合、測定面積A(m)の範囲に、粘性係数σ(Pa・s)の気体を透過させる。この際、投入される気体の圧力p(Pa)が互いに対して異なる複数の条件で、気体を透過させ、複数の条件のそれぞれにおいて、セパレータを透過した気体量Q(m/s)を測定する。そして、測定結果から、圧力pに対する気体量Qをプロットし、傾きであるdQ/dpを求める。そして、厚さL、測定面積A、粘性係数σ及び傾きdQ/dpから、式(1)のようにして、透気係数KTが算出される。
【0191】
【数1】
【0192】
透気係数KTの算出方法の一例では、それぞれに直径10mmの孔が開いた一対のステンレス板でセパレータを挟み込む。そして、一方のステンレス板の孔から空気を圧力pで送り込む。そして、他方のステンレス板の孔から漏れる空気の気体量Qを測定する。したがって、孔の面積(25πmm)が測定面積Aとして用いられ、粘性係数σとしては0.000018Pa・sが用いられる。また、気体量Qは、100秒の間に孔から漏れる量δ(m)を測定し、測定された量δを100で割ることにより算出する。
【0193】
そして、圧力pが互いに対して少なくとも1000Pa離れる4点で、前述のようにして圧力pに対する気体量Qを測定する。例えば、圧力pが1000Pa、2500Pa、4000Pa及び6000Paとなる4点のそれぞれで、圧力pに対する気体量Qを測定する。そして、測定した4点について圧力pに対する気体量Qをプロットし、直線フィッティング(最小二乗法)によって圧力pに対する気体量Qの傾き(dQ/dp)を算出する。そして、算出した傾き(dQ/dp)に(σ・L)/Aを乗算することにより、透気係数KTを算出する。
【0194】
セパレータにおいて任意の複数箇所で、透気係数を測定する。任意の複数箇所の中で透気係数が最も低い値になる箇所での値を、セパレータの透気係数とする。
【0195】
<無機固体粒子のリチウムイオン伝導度の測定方法>
交流インピーダンス法による無機固体粒子のリチウムイオン伝導度の測定を説明する。先ず、錠剤成形器を用いて無機固体粒子を成形して、圧粉体を得る。この圧粉体の両面に金(Au)を蒸着して、測定試料を得る。インピーダンス測定装置を用いて、測定試料の交流インピーダンスを測定する。測定装置としては、例えば、ソーラトロン社製周波数応答アナライザ1260型を用いることができる。測定に際しては、測定周波数を5Hz乃至32MHzとし、測定温度を25℃とし、アルゴン雰囲気下で行う。
【0196】
次いで、測定された交流インピーダンスに基づいて、複素インピーダンスプロットを作成する。複素インピーダンスプロットは、横軸を実数成分として、縦軸に虚数成分をプロットしたものである。以下の式(2)により、無機固体粒子のイオン伝導度σLiを算出する。なお、下記式において、ZLiは複素インピーダンスプロットの円弧の直径から算出される抵抗値であり、Sは面積であり、dは厚みである。
【0197】
【数2】
【0198】
第1実施形態に係る二次電池は、チタン含有酸化物を含む負極と、正極と、負極と正極との間のセパレータと、水系電解質を具備する。水系電解質は、負極に保持される第1水系電解質と、セパレータに保持される第2水系電解質と、正極に保持される第3水系電解質とを含む。負極における第1水系電解質は、亜鉛イオンを0.001質量%以上0.5質量%以下含む。セパレータにおける第2水系電解質は、同一分子内に疎水部と親水部とを有する第1化合物を1質量%以上5質量%以下含む。該二次電池では、負極にて水の電気分解が抑制されるため、優れた充放電効率および優れた放電容量を示す。
【0199】
[第2実施形態]
第2実施形態によると、組電池が提供される。該組電池は、第1実施形態に係る二次電池を複数個具備している。
【0200】
実施形態に係る組電池において、各単電池は、電気的に直列若しくは並列に接続して配置してもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて配置してもよい。
【0201】
次に、組電池の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0202】
図9は、実施形態に係る組電池の一例を概略的に示す斜視図である。図9に示す組電池200は、5つの単電池100a~100eと、4つのバスバー21と、正極側リード22と、負極側リード23とを具備している。5つの単電池100a~100eのそれぞれは、第1実施形態に係る二次電池である。
【0203】
バスバー21は、例えば、1つの単電池100aの負極端子6と、隣に位置する単電池100bの正極端子7とを接続している。このようにして、5つの単電池100は、4つのバスバー21により直列に接続されている。すなわち、図9の組電池200は、5直列の組電池である。例を図示しないが、電気的に並列に接続されている複数の単電池を含む組電池では、例えば、複数の負極端子同士がバスバーにより接続されるとともに複数の正極端子同士がバスバーにより接続されることで、複数の単電池が電気的に接続され得る。
【0204】
5つの単電池100a~100eのうち少なくとも1つの電池の正極端子7は、外部接続用の正極側リード22に電気的に接続されている。また、5つの単電池100a~100eうち少なくとも1つの電池の負極端子6は、外部接続用の負極側リード23に電気的に接続されている。
【0205】
実施形態に係る組電池は、実施形態に係る二次電池を具備する。そのため、当該組電池は、優れた充放電効率および優れた放電容量を示すことができる。
【0206】
[第3実施形態]
第3実施形態によると、第1実施形態に係る二次電池を含む電池パックが提供される。この電池パックは、第2実施形態に係る組電池を具備することができる。この電池パックは、第2実施形態に係る組電池の代わりに、単一の第1実施形態に係る二次電池を具備していてもよい。
【0207】
係る電池パックは、保護回路を更に具備することができる。保護回路は、二次電池の充放電を制御する機能を有する。或いは、電池パックを電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を、電池パックの保護回路として使用してもよい。
【0208】
また、電池パックは、通電用の外部端子を更に具備することもできる。通電用の外部端子は、外部に二次電池からの電流を出力するため、及び/又は二次電池に外部からの電流を入力するためのものである。言い換えれば、電池パックを電源として使用する際、電流が通電用の外部端子を通して外部に供給される。また、電池パックを充電する際、充電電流(自動車などの動力の回生エネルギーを含む)は通電用の外部端子を通して電池パックに供給される。
【0209】
次に、実施形態に係る電池パックの一例について、図面を参照しながら説明する。
【0210】
図10は実施形態に係る電池パックの一例を概略的に示す斜視図である。
【0211】
電池パック300は、例えば、図6及び図7に示す二次電池からなる組電池を備える。電池パック300は、筐体310と、筐体310内に収容された組電池200とを含む。組電池200は、複数(例えば5個)の二次電池100が電気的に直列に接続されたものである。二次電池100は、厚さ方向に積層されている。筐体310は、上部及び4つの側面それぞれに開口部320を有している。二次電池100の負極端子6及び正極端子7が突出している側面が、筐体310の開口部320に露出している。組電池200の出力用正極端子332は、帯状をなし、一端が二次電池100のいずれかの正極端子7と電気的に接続され、かつ他端が筐体310の開口部320から突出して筐体310の上部から突き出ている。一方、組電池200の出力用負極端子333は、帯状をなし、一端が二次電池100いずれかの負極端子6と電気的に接続され、かつ他端が筐体310の開口部320から突出して筐体310の上部から突き出ている。
【0212】
係る電池パックの別の例を図11及び図12を参照して詳細に説明する。図11は、実施形態に係る電池パックの他の例を概略的に示す分解斜視図である。図12は、図11に示す電池パックの電気回路の一例を示すブロック図である。
【0213】
図11及び図12に示す電池パック300は、収容容器31と、蓋32と、保護シート33と、組電池200と、プリント配線基板34と、配線35と、図示しない絶縁板とを備えている。
【0214】
図11に示す収容容器31は、長方形の底面を有する有底角型容器である。収容容器31は、保護シート33と、組電池200と、プリント配線基板34と、配線35とを収容可能に構成されている。蓋32は、矩形型の形状を有する。蓋32は、収容容器31を覆うことにより、上記組電池200等を収容する。収容容器31及び蓋32には、図示していないが、外部機器等へと接続するための開口部又は接続端子等が設けられている。
【0215】
組電池200は、複数の単電池100と、正極側リード22と、負極側リード23と、粘着テープ24とを備えている。
【0216】
複数の単電池100の少なくとも1つは、実施形態に係る二次電池である。複数の単電池100の各々は、図12に示すように電気的に直列に接続されている。複数の単電池100は、電気的に並列に接続されていてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されていてもよい。複数の単電池100を並列接続すると、直列接続した場合と比較して、電池容量が増大する。
【0217】
粘着テープ24は、複数の単電池100を締結している。粘着テープ24の代わりに、熱収縮テープを用いて複数の単電池100を固定してもよい。この場合、組電池200の両側面に保護シート33を配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて複数の単電池100を結束させる。
【0218】
正極側リード22の一端は、組電池200に接続されている。正極側リード22の一端は、1以上の単電池100の正極と電気的に接続されている。負極側リード23の一端は、組電池200に接続されている。負極側リード23の一端は、1以上の単電池100の負極と電気的に接続されている。
【0219】
プリント配線基板34は、収容容器31の内側面のうち、一方の短辺方向の面に沿って設置されている。プリント配線基板34は、正極側コネクタ342と、負極側コネクタ343と、サーミスタ345と、保護回路346と、配線342a及び343aと、通電用の外部端子350と、プラス側配線(正側配線)348aと、マイナス側配線(負側配線)348bとを備えている。プリント配線基板34の一方の主面は、組電池200の一側面と向き合っている。プリント配線基板34と組電池200との間には、図示しない絶縁板が介在している。
【0220】
正極側コネクタ342に、正極側リード22の他端22aが電気的に接続されている。負極側コネクタ343に、負極側リード23の他端23aが電気的に接続されている。
【0221】
サーミスタ345は、プリント配線基板34の一方の主面に固定されている。サーミスタ345は、単電池100の各々の温度を検出し、その検出信号を保護回路346に送信する。
【0222】
通電用の外部端子350は、プリント配線基板34の他方の主面に固定されている。通電用の外部端子350は、電池パック300の外部に存在する機器と電気的に接続されている。通電用の外部端子350は、正側端子352と負側端子353とを含む。
【0223】
保護回路346は、プリント配線基板34の他方の主面に固定されている。保護回路346は、プラス側配線348aを介して正側端子352と接続されている。保護回路346は、マイナス側配線348bを介して負側端子353と接続されている。また、保護回路346は、配線342aを介して正極側コネクタ342に電気的に接続されている。保護回路346は、配線343aを介して負極側コネクタ343に電気的に接続されている。更に、保護回路346は、複数の単電池100の各々と配線35を介して電気的に接続されている。
【0224】
保護シート33は、収容容器31の長辺方向の両方の内側面と、組電池200を介してプリント配線基板34と向き合う短辺方向の内側面とに配置されている。保護シート33は、例えば、樹脂又はゴムからなる。
【0225】
保護回路346は、複数の単電池100の充放電を制御する。また、保護回路346は、サーミスタ345から送信される検出信号、又は、個々の単電池100若しくは組電池200から送信される検出信号に基づいて、保護回路346と外部機器への通電用の外部端子350(正側端子352、負側端子353)との電気的な接続を遮断する。
【0226】
サーミスタ345から送信される検出信号としては、例えば、単電池100の温度が所定の温度以上であることを検出した信号を挙げることができる。個々の単電池100若しくは組電池200から送信される検出信号としては、例えば、単電池100の過充電、過放電及び過電流を検出した信号を挙げることができる。個々の単電池100について過充電等を検出する場合、電池電圧を検出してもよく、正極電位又は負極電位を検出してもよい。後者の場合、参照極として用いるリチウム電極を個々の単電池100に挿入する。
【0227】
なお、保護回路346としては、電池パック300を電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を用いてもよい。
【0228】
また、この電池パック300は、上述したように通電用の外部端子350を備えている。したがって、この電池パック300は、通電用の外部端子350を介して、組電池200からの電流を外部機器に出力するとともに、外部機器からの電流を、組電池200に入力することができる。言い換えると、電池パック300を電源として使用する際には、組電池200からの電流が、通電用の外部端子350を通して外部機器に供給される。また、電池パック300を充電する際には、外部機器からの充電電流が、通電用の外部端子350を通して電池パック300に供給される。この電池パック300を車載用電池として用いた場合、外部機器からの充電電流として、車両の動力の回生エネルギーを用いることができる。
【0229】
なお、電池パック300は、複数の組電池200を備えていてもよい。この場合、複数の組電池200は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されてもよい。また、プリント配線基板34及び配線35は省略してもよい。この場合、正極側リード22及び負極側リード23を通電用の外部端子の正側端子と負側端子としてそれぞれ用いてもよい。
【0230】
このような電池パックは、例えば大電流を取り出したときにサイクル性能が優れていることが要求される用途に用いられる。この電池パックは、具体的には、例えば、電子機器の電源、定置用電池、各種車両の車載用電池として用いられる。電子機器としては、例えば、デジタルカメラを挙げることができる。この電池パックは、車載用電池として特に好適に用いられる。
【0231】
第3実施形態に係る電池パックは、第1実施形態に係る二次電池又は第2実施形態に係る組電池を備えている。そのため、当該電池パックは、優れた充放電効率および優れた放電容量を示すことができる。
【0232】
[第4実施形態]
第4実施形態によると、第3実施形態に係る電池パックを含む車両が提供される。
【0233】
係る車両において、電池パックは、例えば、車両の動力の回生エネルギーを回収するものである。車両は、この車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構(Regenerator:再生器)を含んでいてもよい。
【0234】
実施形態に係る車両の例としては、例えば、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車、及び鉄道用車両が挙げられる。
【0235】
実施形態に係る車両における電池パックの搭載位置は、特には限定されない。例えば、電池パックを自動車に搭載する場合、電池パックは、車両のエンジンルーム、車体後方又は座席の下に搭載することができる。
【0236】
実施形態に係る車両は、複数の電池パックを搭載してもよい。この場合、それぞれの電池パックが含む電池同士は、電気的に直列に接続されてもよく、電気的に並列に接続されてもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。例えば、各電池パックが組電池を含む場合は、組電池同士が電気的に直列に接続されてもよく、又は電気的に並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。或いは、各電池パックが単一の電池を含む場合は、それぞれの電池同士が電気的に直列に接続されてもよく、電気的に並列に接続されてもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。
【0237】
次に、実施形態に係る車両の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0238】
図13は、実施形態に係る車両の一例を概略的に示す部分透過図である。
【0239】
図13に示す車両400は、車両本体40と、第3実施形態に係る電池パック300とを含んでいる。図13に示す例では、車両400は、四輪の自動車である。
【0240】
この車両400は、複数の電池パック300を搭載してもよい。この場合、電池パック300が含む電池(例えば、単電池または組電池)は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されてもよい。
【0241】
図13では、電池パック300が車両本体40の前方に位置するエンジンルーム内に搭載されている例を図示している。上述したとおり、電池パック300は、例えば、車両本体40の後方又は座席の下に搭載してもよい。この電池パック300は、車両400の電源として用いることができる。また、この電池パック300は、車両400の動力の回生エネルギーを回収することができる。
【0242】
第4実施形態に係る車両は、第3実施形態に係る電池パックを搭載している。したがって、当該車両は、走行性能に優れる。
【0243】
[第5実施形態]
第5実施形態によると、第3実施形態に係る電池パックを含む定置用電源が提供される。
【0244】
係る定置用電源は、第3実施形態に係る電池パックの代わりに、第2実施形態に係る組電池又は第1実施形態に係る二次電池を搭載していてもよい。実施形態に係る定置用電源は、高効率および高容量を実現できる。
【0245】
図14は、実施形態に係る定置用電源を含むシステムの一例を示すブロック図である。図14は、実施形態に係る電池パック300A、300Bの使用例として、定置用電源112、123への適用例を示す図である。図14に示す一例では、定置用電源112,123が用いられるシステム110が示される。システム110は、発電所111、定置用電源112、需要家側電力系統113及びエネルギー管理システム(EMS)115を備える。また、システム110には、電力網116及び通信網117が形成され、発電所111、定置用電源112、需要家側電力系統113及びEMS115は、電力網116及び通信網117を介して、接続される。EMS115は、電力網116及び通信網117を活用して、システム110全体を安定化させる制御を行う。
【0246】
発電所111は、火力及び原子力等の燃料源によって、大容量の電力を生成する。発電所111からは、電力網116等を通して電力が供給される。また、定置用電源112には、電池パック300Aが搭載される。電池パック300Aは、発電所111から供給される電力等を蓄電できる。また、定置用電源112は、電池パック300Aに蓄電された電力を、電力網116等を通して供給できる。システム110には、電力変換装置118が設けられる。電力変換装置118は、コンバータ、インバータ及び変圧器等を含む。したがって、電力変換装置118は、直流と交流との間の変換、互いに対して周波数が異なる交流の間の変換、及び、変圧(昇圧及び降圧)等を行うことができる。このため、電力変換装置118は、発電所111からの電力を、電池パック300Aへ蓄電可能な電力に変換できる。
【0247】
需要家側電力系統113には、工場用の電力系統、ビル用の電力系統、及び、家庭用の電力系統等が、含まれる。需要家側電力系統113は、需要家側EMS121、電力変換装置122及び定置用電源123を備える。定置用電源123には、電池パック300Bが搭載される。需要家側EMS121は、需要家側電力系統113を安定化させる制御を行う。
【0248】
需要家側電力系統113には、発電所111からの電力、及び、電池パック300Aからの電力が、電力網116を通して供給される。電池パック300Bは、需要家側電力系統113に供給された電力を蓄電できる。また、電力変換装置122は、電力変換装置118と同様に、コンバータ、インバータ及び変圧器等を含む。したがって、電力変換装置122は、直流と交流との間の変換、互いに対して周波数が異なる交流の間の変換、及び、変圧(昇圧及び降圧)等を行うことができる。このため、電力変換装置122は、需要家側電力系統113に供給された電力を、電池パック300Bへ蓄電可能な電力に変換できる。
【0249】
なお、電池パック300Bに蓄電された電力は、例えば、電気自動車等の車両の充電等に用いることができる。また、システム110には、自然エネルギー源が設けられてもよい。この場合、自然エネルギー源は、風力及び太陽光等の自然エネルギーによって、電力を生成する。そして、発電所111に加えて自然エネルギー源からも、電力網116を通して、電力が供給される。
【0250】
[実施例]
以下に実施例を説明するが、実施形態は、以下に記載される実施例に限定されるものではない。
【0251】
(実施例1)
<正極の作製>
正極活物質としてLiMn、導電剤としてアセチレンブラック、結着剤としてPVDF、及び、溶媒としてNMPを混合して、スラリーを調製した。このスラリーにおける正極活物質、導電剤、及び結着剤の質量比は100:5:10とした。このスラリーを、厚さ20μmのTi箔の片面上に塗布した。その後、溶媒を留去して積層体を得た。次いで、この積層体を圧延した。その後、この積層体を乾燥させることで正極を得た。
【0252】
<負極の作製>
負極活物質としてLiTi12、導電剤としてグラファイト、結着剤としてPVdF、及び溶媒としてNMPを混合してスラリーを調製した。このスラリーにおける負極活物質、導電剤、及び結着剤の質量比は100:10:10とした。このスラリーを、厚さ30μmのZn箔の片面上に塗布した。その後、溶媒を留去して積層体を得た。次いで、この積層体を圧延した。その後、この積層体を乾燥させることで負極を得た。
【0253】
<第1及び第3水系電解質の調製>
塩化リチウム12mol/L水溶液に、第1化合物、および塩化亜鉛を添加することで、負極側に含ませる第1水系電解質を調製した。第1化合物には、図2に示す化学式にて添字mが40、添字nが10であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル(以下、“化合物A”と呼ぶ)を用いた。具体的には、第1水系電解質として化合物Aを1質量%、及び亜鉛イオンを0.0033質量%含有する、12mol/L塩化リチウム水溶液を調製した。
【0254】
正極側に含ませる第3水系電解質として、第1水系電解質と同様の、化合物Aを1質量%及び亜鉛イオンを0.0033質量%含有する12mol/L塩化リチウム水溶液を調製した。
【0255】
<セパレータの前処理>
塩化リチウム12mol/L水溶液(99質量部)に、第1化合物として化合物A(1質量部)を添加することで、セパレータに含ませる第2水系電解質を調製した。つまり、化合物Aを1質量%含有する塩化リチウム12mol/L水溶液を第2水系電解質として得た。
【0256】
セパレータとして、無機固体粒子と疎水性高分子からなる膜を準備した。当該セパレータは、無機固体粒子としてLi1.3Al0.3Ti1.7(PO(LATP)固体電解質を含み、疎水性高分子としてポリビニルブチラールを含んでいた。このセパレータを、先に調製した第2水系電解質に入れ、終夜含浸させた。
【0257】
<評価用セルの作製>
プラスチック板上に、負極リードを固定し、その上に負極を固定した。ここで、負極の集電体(Zn箔)側を負極リードと接触させた。別のプラスチック板上に正極リードを固定し、その上に正極を固定した。ここで、正極の集電体(Ti箔)側を正極リードと接触させた。負極活物質含有層の上に、第1水系電解質を滴下し、その上に上記の前処理をしたセパレータ(LATP固体電解質膜)を置き、密着させた。同じセパレータの負極と密着させた面とは逆側の面に、第3水系電解質を滴下し、その上に正極を置いて正極活物質含有層を密着させ、さらにプラスチック板同士をねじで固定した。その後、24時間待機した。このようにして、評価用セルを得た。
【0258】
(実施例2)
第1水系電解質および第3水系電解質の組成を次のとおり変更したことを除いて、実施例1にて記載したのと同様の方法により評価用セルを作製した。第1及び第3水系電解質として、化合物Aは含ませず、且つ、亜鉛イオンの含有量を0.001質量%に変更した12mol/L塩化リチウム水溶液を調製した。
【0259】
(実施例3)
負極集電体をアルミニウム箔に変更し、第1水系電解質、第2水系電解質、及び第3水系電解質の組成をそれぞれ次のとおり変更したことを除いて、実施例1にて記載したのと同様の方法により評価用セルを作製した。
【0260】
第1水系電解質および第3水系電解質には、第1化合物を含ませず、亜鉛イオンの含有量を0.5質量%に変更し、尚且つ、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を10体積%含ませた12mol/L塩化リチウム水溶液を用いた。第2水系電解質には、第1化合物として図3に示す化学式にて添字mが28、添字nが35であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル(以下、“化合物B”と呼ぶ)を5質量%含有する12mol/L水溶液を用いた。
【0261】
(比較例1)
第2水系電解質を用いず、セパレータの前処理をしないことを除いて、実施例1にて記載したのと同様の方法により評価用セルを作製した。
【0262】
具体的には、次のとおり評価用セルを作製した。負極活物質含有層の上に、第1水系電解質を滴下した後、前処理をしていないLATP固体電解質膜をセパレータとしてその上に置き、密着させた。同じセパレータの負極と密着させた面とは逆側の面に、第3水系電解質を滴下した。セパレータの上に正極を置いて正極活物質含有層を密着させ、さらにプラスチック板同士をねじで固定した。その後、24時間待機した。
【0263】
(比較例2)
第2水系電解質を用いてセパレータの前処理をする代わりに、セル組立後にセパレータへの第1及び第3水系電解質の真空含浸をしたことを除いて、実施例1にて記載したのと同様の方法により評価用セルを作製した。
【0264】
具体的には、次のとおり評価用セルを作製した。負極活物質含有層の上に、第1水系電解質を滴下した後、前処理をしていないLATP固体電解質膜をセパレータとしてその上に置き、密着させた。同じセパレータの負極と密着させた面とは逆側の面に、第3水系電解質を滴下した。セパレータの上に正極を置いて正極活物質含有層を密着させ、さらにプラスチック板同士をねじで固定した。次いで、組み上げたセルを、真空減圧下24時間静置した。24時間後にセルを真空減圧下より取り出し、評価用セルを得た。
【0265】
(比較例3)
負極集電体をアルミニウム箔に変更し、第1水系電解質および第3水系電解質における亜鉛イオンの含有量を0質量%に変更したことを除いて、実施例1にて記載したのと同様の方法により評価用セルを作製した。
【0266】
(比較例4)
負極集電体をアルミニウム箔に変更し、第1水系電解質および第3水系電解質における亜鉛イオンの含有量を1質量%に変更したことを除いて、実施例1にて記載したのと同様の方法により評価用セルを作製した。
【0267】
実施例1-3及び比較例1-4の作製条件を表及び表にまとめる。表には、負極作製の詳細をまとめる。表には、セパレータの作製の詳細をまとめる。具体的には、表には、負極集電体の材料、負極側の電解液(第1水系電解質)に含ませた第1化合物、第1化合物の含有量(濃度)、及び負極側の電解液における亜鉛イオン(Zn2+)の濃度を示す。表には、セパレータ用の電解液(第2水系電解質)に含ませた第1化合物およびその含有量(濃度)、並びにセパレータに第2水系電解質を含浸させた手段を示す。
【0268】
【表1】
【0269】
【表2】
【0270】
<セル評価>
各例において作製した評価用セルについて、定電流充放電試験を行った。
【0271】
<定電流充放電試験>
充電及び放電のいずれも0.5Cレートで行った。また、充電時は、電流値が0.25Cになるまで、充電時間が132分間になるまで、又は、充電容量が170mAh/gになるまでの3条件のうち、いずれか早い条件を終止条件とした。放電時は、放電開始から132分後を終止条件とした。
【0272】
上記充電を1回行い、上記放電を1回行うことを充放電の1サイクルとし、充放電を20サイクル繰り返した。各充放電サイクルにおける充電容量および放電容量をそれぞれ測定した。得られた結果から、下記式(3)に従って充放電効率をサイクル毎に算出した。
【0273】
【数3】
【0274】
上記定電流充放電試験の結果を下記表に示す。
【0275】
【表3】
【0276】
中、「充放電効率」の列には、上述の定電流充放電試験により測定された、5サイクル目から20サイクル目の充放電効率の平均値を百分率で示している。「放電容量」の列には、上述の定電流充放電試験により測定された、5サイクル目から20サイクル目における放電容量の平均値を示している。「N/A」は“適用不可”(Not Applicable)を意味し、評価用セルが作動しなかったことを示している。
【0277】
表1が示すとおり、実施例1-3で作製した評価用セルでは、優れた充放電効率および放電容量を達成することができた。これに対し、比較例1及び2では、評価用セルが作動しなかった。比較例1及び2では、セパレータへの第2水系電解質の含浸が不十分であったため、評価用セルが作動できなかったと推測される。
【0278】
比較例3及び4では評価用セルが作動したものの、5サイクル目以降の充放電効率および放電容量が実施例1-3の評価用セルと比較して低かった。比較例3では、評価用セルに亜鉛を全く含んでいなかったため、水の分解反応を抑制できず自己放電が生じていたものと考えられる。比較例4では、第1水系電解質中の亜鉛イオン濃度が高かったことから過剰な亜鉛含有被膜が負極上に形成された結果、負極でのリチウムイオンの挿入脱離が妨げられ、電池性能が劣化したものと考えられる。
【0279】
以上のとおり、負極側の水系電解質として亜鉛イオンを0.001質量%以上0.5質量%以下含んだ第1水系電解質を含ませ、第1化合物を1質量%以上5質量%以下含んだ第2水系電解質をセパレータに含ませることで、優れた充放電効率および放電容量を達成することができる。
【0280】
以上述べた少なくとも1つの実施形態および実施例によると、二次電池が提供される。二次電池は、チタン含有酸化物を含む負極と、正極と、負極と正極との間に位置するセパレータと、負極に保持される第1水系電解質と、セパレータに保持される第2水系電解質と、正極に保持される第3水系電解質とを具備する。第1水系電解質は、亜鉛イオンを0.001質量%以上0.5質量%以下含む。第2水系電解質は、分子内に疎水部と親水部とを有する第1化合物を、1質量%以上5質量%以下含む。この二次電池は、負極における水の電気分解を抑制することができるため、優れた充放電効率および放電容量を示す。また、優れた充放電効率および放電容量を示す電池パックを提供することができ、さらに、この電池パックが搭載された車両および定置用電源を提供することができる。
【0281】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下、本願出願の当初の特許請求の範囲を付記する。
[1] チタン含有酸化物を含む負極と、
正極と、
前記負極と前記正極との間に位置するセパレータと、
前記負極に保持され亜鉛イオンを0.001質量%以上0.5質量%以下含む第1水系電解質と、
前記セパレータに保持され疎水部と親水部とを有する第1化合物を1質量%以上5質量%以下含む第2水系電解質と、
前記正極に保持される第3水系電解質と、
を具備する二次電池。
[2] 前記第1化合物は、非イオン性界面活性剤である、[1]に記載の二次電池。
[3] 前記非イオン性界面活性剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含む、[2]に記載の二次電池。
[4] 前記非イオン性界面活性剤は、200以上4000以下の範囲内の分子量を有する[2]又は[3]に記載の二次電池。
[5] 前記セパレータは疎水性である、[1]から[4]の何れか1つに記載の二次電池。
[6] 前記セパレータはリチウムイオン伝導性を有する、[1]から[5]の何れか1つに記載の二次電池。
[7] 前記セパレータは、無機固体粒子と疎水性高分子とを含んだ膜を含む、[5]又は[6]に記載の二次電池。
[8] [1]から[7]の何れか1つに記載の二次電池を具備した電池パック。
[9] 通電用の外部端子と、保護回路とを更に含む、[8]に記載の電池パック。
[10] 複数の前記二次電池を具備し、前記複数の二次電池が、直列、並列、又は直列及び並列を組み合わせて電気的に接続されている、[8]又は[9]に記載の電池パック。
[11] [8]から[10]の何れか1つに記載の電池パックを具備した車両。
[12] 前記車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構を含む、[11]に記載の車両。
[13] [8]から[10]の何れか1つに記載の電池パックを具備した定置用電源。
【符号の説明】
【0282】
1…電極群、2…外装部材、3…負極、3a…負極集電体、3b…負極活物質含有層、4…セパレータ、5…正極、5a…正極集電体、5b…正極活物質含有層、6…負極端子、7…正極端子、8…負極ガスケット、9…正極ガスケット、10…封口板、11…制御弁、13…第1水系電解質、15…第3水系電解質、16…負極リード、17…正極リード、18…注液口、19…封止栓、21…バスバー、22…正極側リード、23…負極側リード、24…粘着テープ、31…収容容器、32…蓋、33…保護シート、34…プリント配線基板、35…配線、40…車両本体、100…二次電池、110…システム、111…発電所、112…定置用電源、113…需要家側電力系統、115…エネルギー管理システム、116…電力網、117…通信網、118…電力変換装置、121…需要家側EMS、122…電力変換装置、123…定置用電源、200…組電池、300…電池パック、300A…電池パック、300B…電池パック、310…筐体、320…開口部、332…出力用正極端子、333…出力用負極端子、342…正極側コネクタ、343…負極側コネクタ、345…サーミスタ、346…保護回路、342a…配線、343a…配線、350…通電用の外部端子、352…正側端子、353…負側端子、348a…プラス側配線、348b…マイナス側配線、400…車両。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14