(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】減速装置、及び、駆動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240422BHJP
F16H 37/06 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
F16H1/32 A
F16H37/06 Z
(21)【出願番号】P 2020162115
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 真哉
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-198087(JP,U)
【文献】特開2002-310244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 37/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列に配置された複数の減速機ユニットと、
複数の前記減速機ユニットの各出力側から動力を受けて回転する出力回転体と、を備え、
各前記減速機ユニットは、
周壁の内周に内歯が配置されたケーシングと、
前記内歯と噛み合って入力回転を減速する減速機構部と、を有し、
隣接する少なくとも二つの前記減速機ユニットは、前記ケーシングの周壁の外面同士が接して配置され、
相互に接する二つの前記周壁の接触部の少なくとも一方の肉厚は、同じ前記周壁の周上の他の部位の肉厚よりも薄くなっている減速装置。
【請求項2】
前記周壁が接する二つの前記ケーシングの接触部は、いずれも同じ前記周壁の周上の他の部位の肉厚よりも薄くなっている請求項1に記載の減速装置。
【請求項3】
前記周壁が接する二つの前記ケーシングの接触部の合計の肉厚は、当該二つのケーシングの周壁の他の部位の肉厚以下の肉厚とされている請求項2に記載の減速装置。
【請求項4】
前記減速機構部は、前記内歯と噛み合う外歯歯車を有し、
前記ケーシングの前記周壁同士が接する二つの前記減速機ユニットは、前記接触部の内側に位置される各前記周壁の前記内歯の噛み合い領域に対し、二つの前記減速機ユニットの対応する前記外歯歯車が同タイミングで噛み合う請求項1~3のいずれか1項に記載の減速装置。
【請求項5】
すべての前記減速機ユニットの前記減速機構部は、同サイズ・同形状の共通部品によって構成されている請求項1~4のいずれか1項に記載の減速装置。
【請求項6】
並列に配置された三つの減速機ユニットと、
三つの前記減速機ユニットの各出力側から動力を受けて回転する出力回転体と、を備え、
各前記減速機ユニットは、
周壁の内周に内歯が配置されたケーシングと、
前記内歯と噛み合って入力回転を減速する減速機構部と、を有し、
各前記減速機ユニットの前記ケーシングの周壁は、残余の二つの前記減速機ユニットの前記ケーシングの各周壁と接して配置され、
相互に接する前記ケーシング同士の接触部の少なくとも一方は、同じ前記周壁の周上の他の部位の肉厚よりも薄くなっている減速装置。
【請求項7】
三つの前記減速機ユニットの前記ケーシング同士の三箇所の接触部は、軸方向視が直線状の平坦面によって構成されるとともに、隣接するもの同士が軸方向視で120°の交差角を成すように配置されている請求項6に記載の減速装置。
【請求項8】
各前記減速機ユニットの出力部にはピニオンギヤが設けられ、
前記出力回転体は、すべての前記減速機ユニットの前記ピニオンギヤと噛み合うリングギヤを備えている請求項1~7のいずれか1項に記載の減速装置。
【請求項9】
減速装置と、
前記減速装置に駆動力を伝達する駆動源と、を備え、
前記減速装置は、
並列に配置され前記駆動源から動力を伝達される複数の減速機ユニットと、
複数の前記減速機ユニットの各出力側から動力を受けて回転する出力回転体と、を備え、
各前記減速機ユニットは、
周壁の内周に内歯が配置されたケーシングと、
前記内歯と噛み合って入力回転を減速する減速機構部と、を有し、
隣接する少なくとも二つの前記減速機ユニットは、前記ケーシングの周壁の外面同士が接して配置され、
相互に接する二つの前記周壁の接触部の少なくとも一方の肉厚は、同じ前記周壁の周上の他の部位の肉厚よりも薄くなっている駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速装置、及び、減速機を用いる駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットや工作機械等においては、モーター等の駆動源の回転を減速するために減速装置が用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の減速装置は、ケーシングの内周に内歯が形成され、ケーシングの内側に内歯と噛み合って動作する減速機構部が収容されている。減速機構部の入力側には駆動源の動力を受けて回転する入力回転体が接続され、減速機構部の出力側には、減速機構部で減速された動力を外部に出力する出力回転体が接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、既存の減速装置では対応の難しい大トルク容量の減速装置が求められることがある。この対策として、複数の減速機ユニットを並列に配置し、各減速機ユニットの出力軸の回転を共通の出力回転体に出力することが考えられている。この場合、各減速機ユニットから出力されたトルクは合算されて出力回転体に出力される。
しかし、上記の構造では、複数の減速機ユニットのケーシングが並列に配置されることになるため、装置全体が大型化してしまう。
【0006】
本発明は、複数の減速機ユニットを備える構造でありながら装置全体の小型化を図ることができる減速装置、及び、駆動装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る減速装置は、並列に配置された複数の減速機ユニットと、複数の前記減速機ユニットの各出力側から動力を受けて回転する出力回転体と、を備え、各前記減速機ユニットは、周壁の内周に内歯が配置されたケーシングと、前記内歯と噛み合って入力回転を減速する減速機構部と、を有し、隣接する少なくとも二つの前記減速機ユニットは、前記ケーシングの周壁の外面同士が接して配置され、相互に接する二つの前記周壁の接触部の少なくとも一方の肉厚は、同じ前記周壁の周上の他の部位の肉厚よりも薄くなっている。
【0008】
前記周壁が接する二つの前記ケーシングの接触部は、いずれも同じ前記周壁の周上の他の部位の肉厚よりも薄くしても良い。
【0009】
前記周壁が接する二つの前記ケーシングの接触部の合計の肉厚は、当該二つのケーシングの周壁の他の部位の肉厚以下の肉厚とすることが望ましい。
【0010】
前記減速機構部は、前記内歯と噛み合う外歯歯車を有し、前記ケーシングの前記周壁同士が接する二つの前記減速機ユニットは、前記接触部の内側に位置される各前記周壁の前記内歯の噛み合い領域に対し、二つの前記減速機ユニットの対応する前記外歯歯車が同タイミングで噛み合うようにしても良い。
【0011】
すべての前記減速機ユニットの前記減速機構部は、同サイズ・同形状の共通部品によって構成されることが望ましい。
【0012】
本発明の他の態様に係る減速装置は、並列に配置された三つの減速機ユニットと、三つの前記減速機ユニットの各出力側から動力を受けて回転する出力回転体と、を備え、各前記減速機ユニットは、周壁の内周に内歯が配置されたケーシングと、前記内歯と噛み合って入力回転を減速する減速機構部と、を有し、各前記減速機ユニットの前記ケーシングの周壁は、残余の二つの前記減速機ユニットの前記ケーシングの各周壁と接して配置され、相互に接する前記ケーシング同士の接触部の少なくとも一方は、同じ前記周壁の周上の他の部位の肉厚よりも薄くなっている。
【0013】
三つの前記減速機ユニットの前記ケーシング同士の三箇所の接触部は、軸方向視が直線状の平坦面によって構成されるとともに、隣接するもの同士が軸方向視で120°の交差角を成すように配置されるようにしても良い。
【0014】
各前記減速機ユニットの出力部にはピニオンギヤが設けられ、前記出力回転体は、すべての前記減速機ユニットの前記ピニオンギヤと噛み合うリングギヤを備えた構成であっても良い。
【0015】
本発明の一の態様に係る駆動装置は、減速装置と、前記減速装置に駆動力を伝達する駆動源と、を備え、前記減速装置は、並列に配置され前記駆動源から動力を伝達される複数の減速機ユニットと、複数の前記減速機ユニットの各出力側から動力を受けて回転する出力回転体と、を備え、各前記減速機ユニットは、周壁の内周に内歯が配置されたケーシングと、前記内歯と噛み合って入力回転を減速する減速機構部と、を有し、隣接する少なくとも二つの前記減速機ユニットは、前記ケーシングの周壁の外面同士が接して配置され、相互に接する二つの前記周壁の接触部の少なくとも一方の肉厚は、同じ前記周壁の周上の他の部位の肉厚よりも薄くなっている。
【発明の効果】
【0016】
上述の減速装置は、相互に接する二つのケーシングの周壁の接触部の少なくとも一方の肉厚が、同じ周壁の周上の他の部位の肉厚よりも薄くなっている。このため、均一厚みのケーシングの周壁同士をそのまま接触させて配置する場合に比較して、複数の減速機ユニットのケーシングを接合した接合体のサイズを小型化することができる。したがって、上述の減速装置では、複数の減速機ユニットを備える構造でありながら装置全体の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態の減速装置の
図2のI-I線に沿う断面図。
【
図3】実施形態の減速機ユニットの
図2のIII-III線に沿う断面図。
【
図4】実施形態の二つの減速機ユニットの
図2のIV-IV線に沿う断面図。
【
図5】他の実施形態の減速装置の
図2に対応する図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下で説明する各実施形態と変形例においては、共通部分に同一符号を付し、重複する説明を一部省略するものとする。
【0019】
最初に
図1~
図4に示す実施形態について説明する。
図1は、本実施形態の減速装置100の断面図であり、
図2は、
図1のII矢視図である。
図1に示す断面図は、
図2のI-I線に沿う断面に対応する。
減速装置100は、入力側に駆動源である複数のモータ2が組み付けられる。減速装置100は、複数のモータ2とともに駆動装置1を構成している。駆動装置1は、例えば、産業用ロボットや工作機械等の駆動部に用いられる。
【0020】
本実施形態の減速装置100は、並列に配置された三つ(複数)の減速機ユニット10と、三つの減速機ユニット10の後述する第2キャリアブロック13Bから動力を受けて回転する出力回転体3と、を備えている。三つの減速機ユニット10は同一構造とされている。各減速機ユニット10は、略円筒状の周壁11aを有するケーシング11を備えている。ケーシング11の周壁11aの外面には、ケーシング11の中心軸線c1と平行に延びる二つの平坦面4が形成されている。ケーシング11の周壁11aの二つの平坦面4は、軸方向視で(ケーシング11の中心軸線c1に沿う方向から見て)120°の交差角を成すように形成されている。ケーシング11の周壁11aの各平坦面4の形成される部位の径方向の肉厚は、同じ周壁11aの周上の他の部位の肉厚よりも薄くなっている。
【0021】
一の減速機ユニット10のケーシング11は、残余の二つの減速機ユニット10のケーシング11に対し、平坦面4同士を面接触させた状態で組み付けられている。本実施形態では、平坦面4が形成されている部位が、ケーシング11の周壁11aの外面同士が接する接触部を構成している。平坦面4で周壁11a同士を接触させた三つのケーシング11は、三箇所の接触部(平坦面4)が軸方向視で120°の交差角を成している。本実施形態の場合、三箇所の接触部(平坦面4)が三つの減速機ユニット10の中心位置Cにおいて相互に接している。
【0022】
上述のように組み付けられた三つの減速機ユニット10は、各ケーシング11の軸方向の一端側が円筒状の共通の出力側ケース5に固定されている。出力側ケース5は、産業用ロボットや工作機械等のベース部材に固定設置されている。出力側ケース5の内周面には、軸受6を介してリングギヤ7が回転可能に支持されている。リングギヤ7の軸方向外側の端部には、円板状の出力プレート8が一体に固定されている。出力プレート8は、産業用ロボットや工作機械等の駆動対象部(被駆動部)に接続される。各減速機ユニット10の第2キャリアブロック13B(出力部)には、ピニオンギヤ30が同軸に取り付けられている。リングギヤ7の内周面には、各ピニオンギヤ30と噛み合う内歯7aが形成されている。三つの減速機ユニット10の各第2キャリアブロック13Bから出力されたトルクは、ピニオンギヤ30とリングギヤ7の噛み合い部を通して出力回転体3に合成トルクとして伝達される。本実施形態では、リングギヤ7と出力プレート8が出力回転体3を構成している。
【0023】
また、三つの減速機ユニット10の各ケーシング11の軸方向の他端側には、端部カバー31が取り付けられている。端部カバー31には、各減速機ユニット10に駆動力を伝達するモータ2が取り付けられている。各モータ2の回転軸2aには、対応する減速機ユニット10の後述するクランク軸14に動力を伝達するための入力ギヤ33が取り付けられている。
【0024】
図3は、減速機ユニット10の
図2のIII-III線沿う断面図である。
減速機ユニット10は、周壁11aを有するケーシング11と、周壁11aの内周側に回転可能に保持された第1キャリアブロック13A及び第2キャリアブロック13Bと、第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bに回転可能に支持された複数(例えば、三つ)のクランク軸14と、各クランク軸14の二つの偏心部14a,14bとともに偏心回転する第1揺動歯車15A及び第2揺動歯車15Bと、を備えている。
【0025】
第1キャリアブロック13Aは、孔空き円板状に形成されている。第2キャリアブロック13Bは、孔空き円板状の基板部13Baと、当該基板部13Baの端面から第1キャリアブロック13Aの方向に向かって延びる複数(例えば、三つ)の支柱部13Bbと、を有する。第2キャリアブロック13Bは、支柱部13Bbの端面が第1キャリアブロック13Aの端面に突き合わされ、各支柱部13Bbが第1キャリアブロック13Aにボルト16によって締結固定されている。
【0026】
第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bの基板部13Baとの間には、軸方向の隙間が確保されている。この隙間には、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bが配置されている。
なお、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bには、第2キャリアブロック13Bの各支柱部13Bbが貫通する逃げ孔19が形成されている。逃げ孔19は、各支柱部13Bbが第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの旋回動作を妨げないように、支柱部13Bbに対して充分に大きい内径に形成されている。
【0027】
ケーシング11の周壁11aは、第1キャリアブロック13Aの外周面と、第2キャリアブロック13Bの基板部13Baの外周面とに跨って配置されている。周壁11aの軸方向の両端部は、第1キャリアブロック13Aと、第2キャリアブロック13Bの基板部13Baとに軸受け12A,12Bを介して回転可能に支持されている。また、周壁11aの軸方向の中央領域(第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの外周面に対向する領域)の内周面には、ケーシング11の中心軸線c1と平行に延びる複数のピン溝35が形成されている。各ピン溝35には、略円柱状の内歯ピン20が回転可能に保持されている。周壁11aの内周面に取り付けられた複数の内歯ピン20は、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの各外周面に対向している。
本実施形態では、ピン溝35に保持された内歯ピン20がケーシング11の内歯を構成している。
【0028】
第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bは、ケーシング11の内径よりも若干小さい外径に形成されている。第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの各外周面には、ケーシング11の内周側に配置された複数の内歯ピン20に噛み合い状態で接触する外歯15Aa,15Baが形成されている。第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの各外周面に形成された外歯15Aa,15Baの歯数は、内歯ピン20の数よりも僅かに少なく(例えば、一つ少なく)設定されている。
【0029】
複数のクランク軸14は、第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bの中心軸線c1を中心とした同一円周上に配置されている。各クランク軸14は、軸受21を介して第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bとに回転可能に支持されている。各クランク軸14の偏心部14a,14bは、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bを夫々貫通している。各偏心部14a,14bは、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bに夫々形成された支持孔22に偏心部軸受23を介して回転可能に係合されている。なお、各クランク軸14の二つの偏心部14a,14bは、クランク軸14の軸線回りに位相が180°ずれるように偏心している。
【0030】
複数のクランク軸14が外力(モータ2の駆動力)を受けて一方向に回転すると、クランク軸14の偏心部14a,14bが所定の半径で同方向に旋回し、それに伴って第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bが同じ半径で同方向に旋回する。このとき、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの各外歯15Aa,15Baが、ケーシング11の内周に保持された複数の内歯ピン20と噛み合うように接触する。
なお、各クランク軸14の一端部は、第1キャリアブロック13Aを貫通して第1キャリアブロック13Aの軸方向外側に突出している。第1キャリアブロック13Aから突出した各クランク軸14の端部にはクランク軸歯車28が取り付けられている。各クランク軸歯車28は、モータ2の入力ギヤ33に噛み合っている。入力ギヤ33はモータ2の駆動力を受けて回転する。
【0031】
本実施形態の減速装置10では、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの各外歯15Aa,15Baの歯数が、ケーシング11側の内歯ピン20の数よりも僅かに少なく設定されている。このため、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bが一旋回する間に、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bがケーシング11側の内歯ピン20から回転方向の反力を受け、旋回方向と逆方向に所定のピッチ分だけ自転する。この結果、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bにクランク軸14を介して係合された第1,第2キャリアブロック13A,13Bが、第1,第2揺動歯車15A,15Bとともに同方向に同ピッチで回転する。この結果、クランク軸14の回転は減速されて第1,第2キャリアブロック13A,13の回転として出力される。なお、本実施形態では、各クランク軸14の偏心部14a,14bが軸線回りに180°ずれるように偏心しているため、第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bの旋回位相は180°ずれることになる。
また、本実施形態では、第1,第2揺動歯車15A,15B、クランク軸14、第1,第2キャリアブロック13A,13B等が偏心揺動式の減速機構部を構成している。
【0032】
図4は、
図2に示す二つの減速機ユニット10のIV-IV線に沿う断面図である。
隣接する二つの減速機ユニット10のケーシング11の平坦面4同士の接触部は、内歯ピン20を保持する領域での径方向の最小肉厚t1が次のように設定されている。すなわち、平坦面4同士の接触部の径方向の最小肉厚t1は、二つのケーシング11の接触部の最小肉厚部分の合計肉厚が、一のケーシング11の周壁11aの他の部位の径方向の肉厚以下となるように設定されている。
【0033】
また、
図4に示すようにケーシング11の周壁11a同士が接する二つの減速機ユニット10は、各周壁11aの平坦面4(接触部)の径方向内側に位置される内歯ピン20(内歯)の噛み合い領域に対し、二つの減速機ユニット10の第1,第2揺動歯車15A,15B(外歯歯車)が同タイミングで噛み合うように設定されている。
【0034】
つまり、一方の減速機ユニット10の第1揺動歯車15Aが平坦面4(接触部)の内側の内歯ピン20(内歯)の噛み合い領域に噛み合うときには、他方の減速機ユニット10の第1揺動歯車15Aが平坦面4(接触部)の内側の内歯ピン20(内歯)に同タイミングで噛み合う。また、一方の減速機ユニット10の第2揺動歯車15Bが平坦面4(接触部)の内側の内歯ピン20(内歯)の噛み合い領域に噛み合うときには、他方の減速機ユニット10の第2揺動歯車15Bが平坦面4(接触部)の内側の内歯ピン20(内歯)に同タイミングで噛み合う。したがって、二つの減速機ユニット10が駆動されるときには、第1,第2揺動歯車15A,15Bから各周壁11aの薄肉部分(平坦面4の形成されている部分)に作用する径方向外側への押圧力が隣接するもの同士で相互に打ち消される。
【0035】
上述の減速装置100を採用した駆動装置1は、三つのモータ2が駆動されると、各モータ2の動力が、入力ギヤ33とクランク軸歯車28の噛み合い部を通して、対応する減速機ユニット10のクランク軸14に入力される。こうして各減速機ユニット10のクランク軸14が回転すると、クランク軸14の偏心部14a,14bの旋回とともに第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bが揺動回転する。第1揺動歯車15Aと第2揺動歯車15Bはケーシング11の内歯ピン20と噛み合いつつ、揺動回転方向と逆向きに所定ピッチで自転する。このとき、第1キャリアブロック13Aと第2キャリアブロック13Bは、クランク軸14を通して第1,第2揺動歯車15A,15Bと一体に回転する。こうして減速された各減速機ユニット10の回転は、ピニオンギヤ30からリングギヤ7に伝達され、出力プレート8から駆動対象部(被駆動部)に伝達される。各モータ2の駆動力は、三つの減速機ユニット10と、各ピニオンギヤ30とリングギヤ7との噛み合い部で増幅されて駆動対象部を回転させる。
【0036】
以上のように、本実施形態の減速装置100は、隣接する減速機ユニット10のケーシング11において、相互に接する二つの周壁11aの接触部(平坦面4部分)の肉厚が、同じ周壁11aの周上の他の部位の肉厚よりも薄くなっている。このため、均一厚みのケーシングの周壁同士をそのまま接触させる場合に比較して、複数のケーシング11を接合した接合体のサイズ(径方向のサイズ)を小型化することができる。したがって、本実施形態の減速装置100を採用した場合には、装置全体の小型化を図ることができる。
【0037】
さらに、本実施形態の減速装置100は、隣接する二つのケーシング11の接触部(平坦面4部分)において互いの周壁11aの強度を補強することができるため、接触部の肉厚が薄くなってもケーシング11の接合体全体の強度の低下を抑制することができる。
【0038】
なお、本実施形態では、相互に接する二つのケーシング11の周壁11aに平坦面4が形成され、平坦面4同士が接触しているが、接触部は必ずしも平坦面4である必要はない。例えば、一方のケーシング11の周壁11aにのみ凹形状の接触部を形成し、その凹形状の接触部に他方のケーシング11の周壁11a凸状の外周面を接触させるようにしても良い。
ただし、本実施形態のように、二つのケーシング11の周壁11aの両接触部を周壁11aの周上の他の部位の肉厚よりも薄く形成した場合には、両ケーシング11の周壁11aの剛性低下を抑制しつつケーシング11の接合体のサイズを小型化することができる。特に、本実施形態のように、両ケーシング11の接触部を平坦面4によって形成し、両ケーシング11の薄肉部の形状を同じにした場合には、両ケーシング11の周壁11aの剛性低下をより抑制することができる。
【0039】
さらに、本実施形態の減速装置100では、周壁11aが接する二つのケーシング11の接触部の合計の肉厚が、二つのケーシング11の周壁11aの他の部位の肉厚以下とされている。このため、ケーシング11の接合体のサイズ(径方向のサイズ)をより小型化することができる。
【0040】
また、本実施形態の減速装置100は、相互に接する二つのケーシング11において、平坦面4(接触部)の径方向内側に位置される内歯ピン20(内歯)の噛み合い領域に対し、対応する第1揺動歯車15A及び第2揺動歯車15B(外歯歯車)が同タイミングで噛み合うように設定されている。このため、第1,第2揺動歯車15A,15Bからケーシング11の接触部(平坦面4)の存在する領域に作用する径方向外側への押圧力を相互に相殺することができる。したがって、本実施形態の減速装置100を採用した場合には、ケーシング11の変形を抑制しつつ装置全体の小型化を図ることができる。
【0041】
また、本実施形態の減速装置100は、各減速機ユニット10の減速機構部が同サイズ・同形状の共通部品によって構成されているため、減速装置100で必要とする構成部品の種類を削減することができる。
【0042】
さらに、本実施形態の減速装置100は、三つの減速機ユニット10を備え、各減速機ユニット10のケーシング11の周壁11aが、残余の二つの減速機ユニット10のケーシング11の各周壁11aに接して配置されている。そして、相互に接するケーシング11同士の接触部(平坦面4)が、同じ周壁11aの周上の他の部位の肉厚よりも薄くなっている。このため、本実施形態の減速装置100を採用した場合には、三つのケーシング11の三箇所の接触部の各合計肉厚を薄くし、かつ、三つのケーシング11の周壁11aに囲まれたデッドスペースを少なくして、ケーシング11の接合体のサイズをより小型化することができる。
【0043】
特に、本実施形態の減速装置100においては、各ケーシング11の周壁11aに120°の交差角を持つように二つの平坦面4が形成され、その平坦面4が他のケーシング11との接触部とされている。このため、各ケーシング11の接触部は、径方向の最小肉厚を同じに設定することができるた。したがって、本実施形態の減速装置100を採用した場合には、一部のケーシング11の部分的な強度の低下を抑制しつつ、効率良くケーシング11の接合体の小型化を図ることができる。
【0044】
また、本実施形態の減速装置100では、各減速機ユニット10の出力部(第2キャリアブロック13B)に伝達された回転がピニオンギヤ30を介してリングギヤ7に出力される。このため、本実施形態の減速装置100を採用した場合には、各減速機ユニット10で減速された回転を、ピニオンギヤ30とリングギヤ7でさらに減速して(トルクを増幅して)出力回転体3に出力することができる。
【0045】
(他の実施形態)
図5は、他の実施形態の減速装置200の
図1のII矢視図に相当する図である。
本実施形態の減速装置200は、各減速機ユニット210の構成が上記の実施形態のものと異なっている。上記の実施形態の各減速機ユニット10は、ケーシング11の周壁11aの内周側にピン溝35が形成され、そのピン溝35に内歯ピン20が保持されている。そして、第1,第2揺動歯車15A,15B、クランク軸14、第1,第2キャリアブロック13A,13B等によって偏心揺動式の減速機構部が構成されている。これに対し、本実施形態の各減速機ユニット210は、ケーシング11の周壁11aの内周面に内歯40が形成され、内歯40と噛み合って入力回転を減速する減速機構部が遊星歯車機構によって構成されている。
【0046】
減速機ユニット210の減速機構部は、図示しないモータの回転軸に連結されたサンギヤ41と、サンギヤ41とケーシング11の内歯40に噛み合う複数の(例えば、三つの)プラネタリギヤ42(外歯歯車)と、ケーシング11に回転可能に支持されたキャリア43と、を備え、複数のプラネタリギヤ42がキャリア43のキャリアピン44に回転可能に支持されている。キャリア43には図示しないピニオンギヤが同軸に結合され、ピニオンギヤは上記の実施形態と同様に出力回転体である図示しないリングギヤに噛み合っている。
【0047】
本実施形態の減速機構部の場合、モータからサンギヤ41に回転が入力されると、プラネタリギヤ42がサンギヤ41とケーシング11の内歯40に噛み合って自転しつつ、所定の減速比に減速されて公転する。これにより、プラネタリギヤ42を支持するキャリア43が所定の減速比に減速されて回転し、その回転がピニオンギヤとリングギヤの噛み合い部を通して被駆動部に伝達される。
【0048】
本実施形態の減速装置200の場合も、上記の実施形態と同様に三つの減速機ユニット210が並列に配置されている。各減速機ユニット210のケーシング11の周壁11aの外面には、接触部である二つの平坦面4が形成されている。各平坦面4は隣接する減速機ユニット210の対応する平坦面4と面接触している。周壁11a上の二つの平坦面4は、上記の実施形態と同様に120°の交差角を成すように形成されている。ケーシング11の周壁11aの平坦面4の形成されている部位(接触部)は、同じ周壁11aの周上の他の部位の肉厚よりも薄くなっている。各ケーシング11の周壁11aに関しては上記の実施形態と同様の構成とされている。
【0049】
また、本実施形態の減速装置200では、相互に接する二つのケーシング11において、平坦面4(接触部)の径方向内側に位置される内歯40の噛み合い領域に対し、対応するプラネタリギヤ42(外歯歯車)が同タイミングで噛み合うように設定されている。また、本実施形態の場合も、三つの減速機ユニット210の構成部品は同サイズ・同形状の共通部品が用いられている。
【0050】
以上のように本実施形態の減速装置200は、減速機構部の構成こそ異なるものの、ケーシング11の周壁11aに関しての構成は上記の実施形態のものと同様とされている。このため、本実施形態の減速装置200の場合も、上記の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0051】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
例えば、減速装置を構成する減速機ユニットの数は三つに限るものでなく、
図6,
図7に示す各変形例の減速装置100のように四つ以上の減速機ユニット10によって構成しても良い。この場合も、各減速機ユニット10のケーシング11の周壁11aには、隣接する減速機ユニット10のケーシング11と接する接触部として二つの平坦面4を形成することが望ましい。各周壁11aに形成する二つの平坦面4は、減速機ユニット10の数をnとしたときに、二つの平坦面4が軸方向視で360°/nの角度を成すように形成することが望ましい。このように設定した場合には、各ケーシング11の周壁11aの接触部の肉厚や形状が同じになる。この結果、ケーシング11の接合体の強度が全体でほぼ均一になるとともに、ケーシング11の接合体全体もより小型化することが可能になる。なお、減速装置を構成する減速機ユニットの数は二つであっても良い。
【符号の説明】
【0052】
1…駆動装置、2…モータ(駆動源)、3…出力回転体、4…平坦面、7…リングギヤ、10,210…減速機ユニット、11…ケーシング、13A…第1キャリアブロック(減速機構部)、13B…第2キャリアブロック(減速機構部)、14…クランク軸(減速機構部)、15A…第1揺動歯車(外歯歯車、減速機構部)、15B…第2揺動歯車(外歯歯車、減速機構部)、20…内歯ピン(内歯)、30…ピニオンギヤ、40…内歯、42…プラネタリギヤ(外歯歯車)、100,200…減速装置。