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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】投射光学系および画像投射装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 17/08 20060101AFI20240422BHJP
   G02B 13/16 20060101ALI20240422BHJP
   G02B 13/18 20060101ALI20240422BHJP
   G03B 21/00 20060101ALI20240422BHJP
   G03B 21/28 20060101ALI20240422BHJP
   G03B 21/14 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
G02B17/08
G02B13/16
G02B13/18
G03B21/00 D
G03B21/28
G03B21/14 D
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020171907
(22)【出願日】2020-10-12
(65)【公開番号】P2022063574
(43)【公開日】2022-04-22
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】514274487
【氏名又は名称】リコーインダストリアルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127111
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 修一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】本多 章悟
(72)【発明者】
【氏名】宮 健二
【審査官】堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/012795(WO,A1)
【文献】特開2015-200829(JP,A)
【文献】特開2019-035873(JP,A)
【文献】特開2020-034690(JP,A)
【文献】特開2009-134254(JP,A)
【文献】特開2013-242594(JP,A)
【文献】米国特許第10025092(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00-17/08
G02B 21/02-21/04
G02B 25/00-25/04
G03B 21/00
G03B 21/28
G03B 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縮小側の画像表示素子の画像表示面に表示された画像を拡大側の被投射面上に拡大して投射する投射光学系であって、
前記縮小側から前記拡大側に向かって順に、第1屈折系、反射光学系、第2屈折系を配してなり、
前記第1屈折系は、前記縮小側から前記拡大側へ向かって順に、第1レンズ群、第2レンズ群を配してなり、
前記第1レンズ群は複数のレンズを有し、前記画像表示素子から射出した光線を第1の中間像として形成し、
前記第2レンズ群は1以上のレンズを有し、前記第1の中間像からの光線を第2の中間像として形成し、
前記反射光学系は、光学的パワーを持ち、前記第2の中間像からの光線を反射させる1枚のミラーを有し、
前記第2屈折系は、前記反射光学系で反射した光線を屈折させる光学的パワーを持つレンズを有し、
全系の焦点距離:fと、空気換算されたバックフォーカス:Bfが、条件:
(1) 1.5<Bf/f<25
を満足する投射光学系。
【請求項2】
請求項1記載の投射光学系であって、
前記画像表示面に最も近いレンズの縮小側面から前記ミラーの反射面までの前記レンズの光軸上における距離:LTTと、前記レンズの光軸から前記画像表示面の有効画像表示範囲内の位置までの前記有効画像表示領域の中心を介した最大距離:Yiが、条件:
(2) 5<LTT/Yi<25.0
を満足する投射光学系。
【請求項3】
請求項1または2記載の投射光学系であって、
前記第2屈折系が1枚のレンズで構成されている投射光学系。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか1項に記載の投射光学系であって、
前記第1屈折系、前記反射光学系、前記第2屈折系に含まれる全てのレンズが光軸を共有している投射光学系。
【請求項5】
請求項4記載の投射光学系であって、
前記第2屈折系を構成するレンズの1枚は、レンズ光軸から軸外に向かうにつれ、正または負のパワーが単調増加する形状の非球面を有する投射光学系。
【請求項6】
請求項4または5記載の投射光学系であって、
前記第2屈折系の射出側レンズ面の有効範囲における前記光軸からの光軸直交方向の最大距離:L1Dと、前記反射光学系内の前記ミラーの反射面における有効範囲における前記光軸からの前記光軸直交方向の最大距離:MDが、条件:
(3) 0.8<L1D/MD<2.0
を満足する投射光学系。
【請求項7】
請求項4ないし6の何れか1項に記載の投射光学系であって、
前記画像表示面に最も近いレンズの光軸から前記画像表示面の有効画像表示範囲内の位置までの前記有効画像表示領域の中心を介した最大距離:Yi、前記反射光学系内の前記ミラーの反射面の有効範囲における前記光軸からの最大距離:MDが、条件:
(4) 1.5<MD/Yi<8.0
を満足する投射光学系。
【請求項8】
請求項1ないし7の何れか1項に記載の投射光学系であって、
前記第1レンズ群の合成焦点距離:f1-1、全系の焦点距離:fが、条件:
(5) 5.0<|f1-1|/f
を満足する投射光学系。
【請求項9】
請求項1ないし8の何れか1項に記載の投射光学系であって、
前記第2レンズ群の合成焦点距離:f1―2、全系の焦点距離:fが、条件:
(6) 1.5<|f1-2|/f<7.0
を満足する投射光学系。
【請求項10】
請求項1ないし9の何れか1項に記載の投射光学系であって、
前記第1中間像に隣接して非球面レンズが配置されている投射光学系。
【請求項11】
請求項1ないし10の何れか1項に記載の投射光学系であって、
前記第2レンズ群は、1枚以上の非球面レンズと1枚以上の正レンズとにより構成されている投射光学系。
【請求項12】
請求項1ないし11の何れか1に記載の投射光学系を有する画像投射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は投射光学系および画像投射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
「画像投射装置」はプロジェクタ装置等として広く知られ、種々のものが提案されている。
画像投射装置に用いられ、画像表示素子に表示された画像を被投射面上に拡大画像として投射する投射光学系も種々のものが提案されているが、その1タイプとして、屈折光学系と屈折力を持つ反射光学系とを含み、画像表示素子側に配した屈折光学系から射出する結像光束を反射光学系により反射させて被投射面上に結像させるものが知られている(特許文献1等)。
【0003】
さらに、上記屈折光学系と反射光学系に加え、反射光学系の拡大側に「弱い屈折力をもつ第2の屈折光学系」を配するものを知られている(特許文献2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、縮小側に第1屈折系、拡大側に第2屈折系を配し、これら第1及び第2の屈折系の間に反射光学系を配する新規な投射光学系の実現を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の投射系は、縮小側の画像表示素子の画像表示面に表示された画像を拡大側の被投射面上に拡大して投射する投射光学系であって、前記縮小側から前記拡大側に向かって順に、第1屈折系、反射光学系、第2屈折系を配してなり、前記第1屈折系は、前記縮小側から前記拡大側へ向かって順に、第1レンズ群、第2レンズ群を配してなり、前記第1レンズ群は複数のレンズを有し、前記画像表示素子から射出した光線を第1の中間像として形成し、前記第2レンズ群は1以上のレンズを有し、前記第1の中間像からの光線を第2の中間像として形成し、前記反射光学系は、光学的パワーを持ち、前記第2の中間像からの光線を反射させる1枚のミラーを有し、前記第2屈折系は、前記反射光学系で反射した光線を屈折させる光学的パワーを持つレンズを有し、全系の焦点距離:fと、空気換算されたバックフォーカス:Bfが、条件:
(1) 1.5<Bf/f<25
を満足する。
【発明の効果】
【0006】
この発明によれば、縮小側に第1屈折系、拡大側に第2屈折系を配し、これらの屈折系の間に反射光学系を配する新規な投射光学系を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1の投射光学系のレンズ構成を説明するための図である。
図2】実施例2の投射光学系のレンズ構成を説明するための図である。
図3】実施例3の投射光学系のレンズ構成を説明するための図である。
図4】実施例4の投射光学系のレンズ構成を説明するための図である。
図5】実施例5の投射光学系のレンズ構成を説明するための図である。
図6】実施例6の投射光学系のレンズ構成を説明するための図である。
図7】投射光学系の比較例のレンズ構成を説明するための図である。
図8】実施例1のデータを示す図である。
図9】実施例1の非球面データを示す図である。
図10】実施例1の収差図である。
図11】実施例2のデータを示す図である。
図12】実施例2の非球面データを示す図である。
図13】実施例2の収差図である。
図14】実施例3のデータを示す図である。
図15】実施例3の非球面データを示す図である。
図16】実施例3の収差図である。
図17】実施例4のデータを示す図である。
図18】実施例4の非球面データを示す図である。
図19】実施例4の収差図である。
図20】実施例5のデータを示す図である。
図21】実施例5の非球面データを示す図である。
図22】実施例5の収差図である。
図23】実施例6のデータを示す図である。
図24】実施例6の非球面データを示す図である。
図25】実施例6の収差図である。
図26】比較例のデータを示す図である。
図27】比較例の非球面データを示す図である。
図28】比較例の収差図である。
図29】画像投射装置の実施の1形態を説明するための図である。
図30】Yiを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態に即して説明する。
図1ないし図6に、この発明の投射光学系の実施の形態を6例示す。後述するように、これらは、図の順番に具体的な実施例1ないし6に対応する。
繁雑を避けるため、これらの図において符号を共通化する。
即ち、符号RIにより画像表示素子の「画像表示面」を、符号PRにより「色合成用のプリズム」を示す。符号RIF1により「第1屈折系」、符号RIF2により「第2屈折系」を示す。
また、符号LG1により「第1レンズ群」、符号LG2により「第2レンズ群」を示し、符号Mにより反射光学系の「ミラー」を、符号MI1により「第1中間像」、符号MI2により「第2中間像」をそれぞれ示し、符号Sにより[絞り]を示す。
図1において、符号AXは「光軸」を示す。
【0009】
図1ないし図6において、画像表示面RIを有する画像表示素子は、例えば液晶パネルやDMD(デジタルミラーデバイス)等であり、投射されるべき画像は、画像表示面RIに表示される。画像表示面RIの側(図で左方)が「縮小側」である。
図1ないし図6に示す実施の形態においては、カラー画像の表示が意図されている。画像表示面RIには、例えば「緑色画像成分」が表示され、緑色光で照明される。赤色画像成分を表示する赤色画像用の画像表示面、青色画像成分を表示する青色表示用の画像表示面は図示されていないが、色合成用プリズムPRに関して画像表示面RIと「光学的に等価な位置」に配置されている。
【0010】
縮小側の画像表示面RIからの画像光は、色合成用のプリズムPRにより図示されない他の2つの画像表示面からの画像光と合成されて「カラー画像光」となる。
カラー画像光は、第1屈折系RIF1を透過し、反射光学系のミラーMにより反射されて第2屈折系RIF2に入射し、第2屈折系RFI2を透過し、図示を省略されているスクリーン等の被投射面上に、拡大されたカラー画像として結像投射される。
即ち、この発明の投射光学系は、縮小側から拡大側に向かって順に、第1屈折系RIF1、反射光学系、第2屈折系RIF2を配してなり、第1屈折系RIF1は、縮小側から拡大側へ向かって順に、第1レンズ群LG1、第2レンズ群LG2を配してなる。
カラー画像光は、第1レンズ群LG1の作用により、第2レンズ群LG2の縮小側に第1中間像MI1を結像した後、第2レンズ群LG2に入射し、ミラーMの縮小側に第2中間像MI2を結像する。
【0011】
第1レンズ群LG1は複数のレンズを有し、画像表示面RIからの光線を第1の中間像MI1として形成する。第2レンズ群LG2は1以上のレンズを有し、第1の中間像MI1を結像した光線を第2の中間像MI2として形成する。
反射光学系は、光学的パワーを持ち、第2の中間像MI2からの光線を反射させる1枚のミラーMを有し、第2屈折系RIF2は、反射光学系で反射した光線を屈折させる光学的パワーを持つレンズを有する。
図1ないし図6に示す例では、ミラーMは「正のパワー」を有するが、ミラーMに代えて「負のパワーを持つミラー」を用いることも可能である。
【0012】
図1ないし図6において図示を省略されている被投射面に結像される「投射画像」は、第2の中間像MI2を物体とするミラーMと第2屈折系RIF2とによる像である。
反射光学系はミラーM以外の反射ミラーを有することもできる。
第2屈折系RIF2は、図1ないし図6に示す例では「1枚のレンズ」で構成されているが、2枚以上のレンズで構成されることもできる。
【0013】
この発明の投射用光学系は、全系の焦点距離:fと、空気換算されたバックフォーカス:Bfが、条件:
(1) 1.5<Bf/f<25
を満足する。
「バックフォーカス」は、第1レンズ群LG1における最も縮小側のレンズ(色合成用のプリズムPRの拡大側面に隣接するレンズの縮小側のレンズ面)から、画像表示面RIに至る距離である。前記レンズと画像表示面RIとの間に色合成用のプリズムPRが存在するので、プリズムPRを空気換算して得られる距離である。
上記の如く、第1レンズ群LG1と第2レンズ群LG2との間に第1の中間像MI1を形成することにより、第2レンズ群LG2の小型化が可能になる。また、第2レンズ群LG2により、第1レンズ群LG1における像面湾曲、歪曲収差等を補正した第2の中間像MI2を容易に形成でき、第1屈折系RIF1における収差補正量の低減が可能となり、第1屈折系RIF1全体のサイズの小型化も可能となる。
【0014】
さらに、反射光学系の拡大側に光学的パワーを持つ第2屈折系RIF2を配置することにより、第1屈折系RIF1および反射光学系における残存収差を第2屈折系RIF2で補正することができる。従って、第1屈折系RIF1および反射光学系における収差補正に対する要求度を緩和でき、これらの設計難度を低減できる。
そして、画像投射装置全体の容積の低減も可能であり、反射光学系における収差補正量も低減でき、ミラーMの小型化にも寄与可能である。
【0015】
条件(1)は、長いバックフォーカスと広角性を両立させる条件である。
条件(1)のパラメータ:Bf/fは、全系の焦点距離:fが小さくなるにつれて、また、バックフォーカス:Bfが大きくなるにつれて大きくなる。全系の焦点距離:fが小さくなるほど「広角」になり易い。
条件(1)の上限に近いほど、バックフォーカスが長く、広角な光学系となる。
【0016】
上限を超えると、バックフォーカスが長くなりすぎて、投射光学系を用いる画像投射装置の小型化が困難となる。あるいは、焦点距離:fが小さくなり、投射光学系の屈折力が大きくなりすぎて、収差の補正が難しくなる。
下限を超えると、長いバックフォーカスと広角とを実現することが困難である。
投射光学系は、上記条件(1)とともに、以下の条件:
(2) 5<LTT/Yi<25.0
(5) 5.0<|f1-1|/f
(6) 1.5<|f1-2|/f<7.0
の任意の1以上を満足することが好ましい。
条件(2)、(5)、(6)における記号の意味は以下の通りである。
「LTT」は、画像表示面RIに最も近いレンズの縮小側面からミラーMの反射面までの前記レンズの光軸AX上における距離である。
「Yi」は、画像表示面RIに最も近いレンズの光軸AXから画像表示面RIの有効画像表示範囲内の位置までの「有効画像表示領域の中心」を介した最大距離である。
「f1-1」は、第1レンズ群LG1の合成焦点距離である。
「f1―2」は、第2レンズ群LG2の合成焦点距離である。第2レンズ群は、前述の如く「1枚以上のレンズ」により構成されるので、第2レンズ群が1枚のレンズで構成される場合には、当該1枚のレンズの焦点距離が上に謂う「合成焦点距離である。
【0017】
条件(2)における「Yi」につき、図30を参照して説明する。
図30において、符号ERIは、画像表示面RIにおける「有効画像表示領域」を示している。投射光学系により投射される画像は、有効画像表示領域ERIに表示される。
有効画像表示領域ERIは矩形形状であり、その4隅を頂点A、頂点B、頂点C、頂点Dとする。また、有効画像表示領域ERIの中心CTから頂点A、B、C、Dに至る距離を、図の如く距離:a、b、c、dとする。さらに、頂点A、B、C、Dを通る、有効画像表示領域ERIの外接円を外接円CRとし、その半径を半径:Rとする。
【0018】
画像表示面RIに最も近いレンズの光軸AXと中心CTを結ぶ直線は、頂点A、Bを結ぶ直線と直交する。光軸AXと中心CTの距離を距離:Xとする。
【0019】
このとき、「画像表示面RIに最も近いレンズの光軸AXから有効画像表示範囲ERI内の位置までの有効画像表示領域の中心CTを介した最大距離:Yi」は、距離:Xと半径:Rの和:X+Rであり、この距離はまた、X+a=X+b=X+c=X+dである。
【0020】
画像表示面RIに最も近いレンズの「縮小側面」からミラーMの反射面までの前記レンズの光軸AX上における距離:LTTは、図1ないし図6に示すように投射光学系の全長に対応する。
【0021】
条件(2)の下限を超えると、表示された画像のサイズ(距離:Yiに対応する。)に対する投射光学系の全長:LTTが短くなり収差補正が難しくなり易い。
条件(2)の上限を超えると、収差補正には有利になるが、投射光学系のサイズの増大を招き易い。
【0022】
条件(5)の下限を超えると、投射光学系全系のパワーに相対的に第1レンズ群LG1のパワーが強くなりすぎて、特に歪曲収差が大きく発生し易く、良好な画質を達成することが難しくなる。
条件(6)の下限を超えると、投射光学系全系のパワーに相対的に第2レンズ群LG2のパワーが強くなり過ぎて像面湾曲、コマ収差等の収差補正が難しくなり易い。
条件(6)の上限を超えると、第2レンズ群LG2のパワーが、投射光学系全系のパワーに相対的に弱くなり過ぎ、像面湾曲、コマ収差等の収差補正は容易になるが、歪曲収差の補正が難しくなり易い。
【0023】
第2屈折系RIF2は、前述の如く「2枚以上のレンズ」で構成することも可能であるが、図1ないし図6に示す例のように、1枚のレンズで構成することは、投射光学系の構造を簡略化でき、投射光学系のコンパクト化の面でも好ましい。
【0024】
投射光学系は、第1屈折系RIF1の光軸、第2屈折系RIF2の光軸が互いに偏芯した構成とすることも可能である。しかし、第1屈折系RIF1、反射光学系、第2屈折系RIF2に含まれる全てのレンズが光軸を共有するようにすることは、投射光学系の製造を容易にする点で好ましい。図1ないし図6に示す例でも、光軸(図1に符号AXで示している。)は、第1屈折系RIF1、反射光学系、第2屈折系RIF2に含まれる全てのレンズに共有されている。
【0025】
このように、光軸AXが、第1屈折系RIF1、反射光学系、第2屈折系RIF2に含まれる全てのレンズに共有される場合は、第2屈折系RIF2を構成するレンズの中の1枚は、レンズ光軸(即ち光軸AX)から軸外に向かうにつれ、正または負のパワーが単調増加する形状の非球面を有することが好ましい。
【0026】
第2屈折系RIF2に非球面形状を採用すると、像面湾曲や歪曲収差などの収差の効率的な補正が可能であり、レンズ光軸から軸外に向かうにつれて「正または負のパワーが単調に増加する」ようにすることにより、軸外で多く発生する、歪曲収差、像面湾曲をより効率良く補正することが可能となる。
【0027】
第1屈折系RIF1、反射光学系、第2屈折系RIF2に含まれる全てのレンズが光軸を共有する場合は、条件(1)と共に、又は条件(1)及び「条件(5)および/または(6)」と共に以下の条件(3)、(4)の少なくとも一方が満足されるのが好ましい。 (3) 0.8<L1D/MD<2.0
(4) 1.5<MD/Yi<8.0
条件(3)における「L1D」は、第2屈折系RIF2の射出側レンズ面の有効範囲における光軸AXからの光軸直交方向の最大距離である。
また「MD」は、ミラーMの反射面における有効範囲における前記光軸からの光軸直交方向の最大距離:MDである。
図1を例にとって説明すると、「L1D」は第2屈折系FIR2の射出側の面において、図1で「最も上方から射出する光線」の射出位置と光軸AXとの「光軸AXに直交する方向」の距離である。
また「MD」は、図1において、ミラーMの反射面の「図で最も下方に入射する光線」の入射位置と光軸AXとの「光軸AXに直交する方向」の距離である。
条件(4)における「Yi」は、先に図30を参照して説明した距離である。
【0028】
条件(3)の下限を超えると、ミラーMの反射面の有効範囲に対して第2屈折系RIF2の有効範囲が過小となり、反射面で補正しきれなかった像面湾曲、歪曲収差などの収差の補正が難しくなり易い。
条件(3)の上限を超えると、ミラーMの反射面の有効範囲に対して第2屈折系RIFの有効範囲が過大となり、像面湾曲、歪曲収差等の補正には有利となるが、投射光学系全体のコンパクト性を保つことが困難になり易い。
【0029】
条件(4)の下限を超えると、有効画像表示領域に関する前記距離:Yiに対して、ミラーMの反射面の有効範囲が過小となり、前記コンパクト性には有利となるが、反射面で補正できる収差量が小さくなり像面湾曲や歪曲収差の補正が難しくなり易い。
【0030】
条件(4)の上限を超えると、前記距離:Yiに対して、ミラーMの反射面の有効範囲が過大となり、像面湾曲や歪曲収差などの収差補正には有利となり良好な性能が得られるがミラーMが大きくなり、投射光学系全体のコンパクト性を保つことが困難になり易い。
【0031】
投射光学系は、第1中間像MI1に隣接して非球面レンズが配置されていることが好ましい。
第1中間像MI1に隣接して非球面レンズを配置することで、コマ収差を効率的に補正することができ、良好な性能を得ることが可能となる。
投射光学系の第2レンズ群LG2は、1枚以上の非球面レンズと1枚以上の正レンズとにより構成されていることが好ましい。
【0032】
第2レンズ群LG2は、全体として正パワーを有することが好ましいが、正レンズ1枚のみでは、コマ収差、像面湾曲等の良好な収差補正が容易ではない。1枚以上の非球面レンズと1枚以上の正レンズとを組み合わせることによって、諸収差のより効率的な補正が可能となる。
【0033】
上に説明した投射用光学系を用いることにより性能良好な画像投射装置を実現できる。
【0034】
「実施例」
以下、図1ないし図6に実施の形態を示した投射光学系の具体的な実施例を挙げる。以下の実施例において、長さの次元を持つ量の単位は、特に断らない限り「mm」である。
【0035】
「実施例1」
実施例1は、図1にレンズ構成を示した実施形態の具体的な実施例である。
実施例1における焦点距離:f、F値:Fno、画角:ω(単位:度)、バックフォーカス:Bfは、以下の通りである。
f=4.6 Fno=2.6 ω=69.6 Bf=26.1
実施例1に関するデータを図8に示す。
図8において、最上行における「i」は、縮小側から数えた面の番号(面番号)で、面の中には、画像表示面RI(i=0)、絞りS(i=12)、およびスクリーン等の被投射面(i=IMG)を含む。
また、「R」は面番号iの面の曲率半径、「D」は面番号:iとi+1の面の面間隔を示す。また「j」は縮小側から数えたレンズの番号であるが、色合成用のプリズム「PR」、ミラー「MR」を含む。「Nd」は、前記レンズ、プリズムの材質のd線に対する屈折率、「νd」は前記材質のd線に対するアッベ数である。
【0036】
また、図8の左から3列目における「※印」は、当該面番号の面が「非球面」であることを示す。非球面を持つレンズ面において曲率半径:Rは「近軸曲率半径」である。
以下の実施例において「非球面」は、周知の次式で表す。
Z=(h/R)/[1+√(1―(1+K)(h/R)]+ΣEi・h(n=3~20)
この式において、「Z」は非球面量、「R」は近軸曲率半径、「h」は非球面における光軸からの距離であり、「K」は円錐定数、「En(n=3~20)」は3次ないし20次の非球面係数である。
【0037】
「非球面データ」
実施例1における非球面のデータを図9に示す。図9において、最上の行は、非球面を有するレンズ面の面番号を示す。
実施例1の投射光学系の条件(1)ないし(6)に関連した量の値は、以下の通りである。
Bf= 26.1
f= 4.6
LTT=289.4
Yi= 12.5
L1D=109.9
MD= 64.3
f1-1=-43
f1-2=23.0 。
【0038】
「条件式のパラメータの値」
条件(1)ないし(6)のパラメータの値は以下の通りである。
(1) 5.6
(2) 23.2
(3) 1.7
(4) 5.1
(5) 9.2
(6) 4.9 。
【0039】
実施例1の投射光学系に関する収差図を図10に示す。図10において、(a)は球面収差図、(b)は非点収差図、(c)は歪曲収差図、(d)はコマ収差図である。球面収差、およびコマ収差図は、波長:R=620nm、G=550nm、B=450nmの3波長の光について示されている。非点収差図における実線は「サジタル光線」、破線は「メリディオナル光線」を表す。各収差とも良好に補正され、実施例1の投射光学系は良好な性能を有する。
【0040】
「実施例2」
実施例2は、図2にレンズ構成を示した実施形態の具体的な実施例である。
実施例2における焦点距離:f、F値:Fno、画角:ω(単位:度)、バックフォーカス:Bfは、以下の通りである。
f=4.6 Fno=2.0 ω=69.9 Bf=35.1
実施例2に関するデータを図8に倣って図11に示す。
「非球面データ」
実施例2における非球面のデータを図9に倣って図12に示す。
実施例2の投射光学系の条件(1)ないし(6)に関連した量の値は、以下の通りである。
Bf= 35.1
f= 4.6
LTT=265.0
Yi= 12.5
L1D= 75.0
MD= 66.5
f1-1=-114
f1-2=23.3 。
【0041】
「条件式のパラメータの値」
条件(1)ないし(6)のパラメータの値は以下の通りである。
(1) 7.6
(2) 21.2
(3) 1.1
(4) 5.3
(5) 24.6
(6) 5.0 。
【0042】
実施例2の投射光学系に関する収差図を図10に倣って図13に示す。各収差とも良好に補正され、実施例2の投射光学系は良好な性能を有する。
【0043】
「実施例3」
実施例3は、図3にレンズ構成を示した実施形態の具体的な実施例である。
実施例3における焦点距離:f、F値:Fno、画角:ω(単位:度)、バックフォーカス:Bfは、以下の通りである。
f=4.1 Fno=1.6 ω=73.2 Bf=26.7
実施例3に関するデータを図8に倣って図14に示す。
「非球面データ」
実施例3における非球面のデータを図9に倣って図15に示す。
実施例3の投射光学系の条件(1)ないし(6)に関連した量の値は、以下の通りである。
Bf= 26.7
f= 4.1
LTT=270.0
Yi= 13.2
L1D= 80.0
MD= 69.1
f1-1=-365
f1-2=23.6 。
【0044】
「条件式のパラメータの値」
条件(1)ないし(6)のパラメータの値は以下の通りである。
(1) 6.6
(2) 20.5
(3) 1.2
(4) 5.2
(5) 90.0
(6) 6.3 。
【0045】
実施例3の投射光学系に関する収差図を図10に倣って図16に示す。各収差とも良好に補正され、実施例3の投射光学系は良好な性能を有する。
【0046】
「実施例4」
実施例4は、図4にレンズ構成を示した実施形態の具体的な実施例である。
実施例4における焦点距離:f、F値:Fno、画角:ω(単位:度)、バックフォーカス:Bfは、以下の通りである。
f=3.9 Fno=2.6 ω=72.8 Bf=77.8
実施例4に関するデータを図8に倣って図17に示す。
「非球面データ」
実施例4における非球面のデータを図9に倣って図18に示す。
実施例4の投射光学系の条件(1)ないし(6)に関連した量の値は、以下の通りである。
Bf= 77.8
f= 3.9
LTT=280.0
Yi= 12.5
L1D= 79.6
MD= 70.0
f1-1=-1311.5
f1-2=20.3 。
【0047】
「条件式のパラメータの値」
条件(1)ないし(6)のパラメータの値は以下の通りである。
(1) 19.7
(2) 22.4
(3) 1.1
(4) 5.6
(5) 332.9
(6) 5.2 。
【0048】
実施例4の投射光学系に関する収差図を図10に倣って図19に示す。各収差とも良好に補正され、実施例4の投射光学系は良好な性能を有する。
【0049】
「実施例5」
実施例5は、図5にレンズ構成を示した実施形態の具体的な実施例である。
実施例5における焦点距離:f、F値:Fno、画角:ω(単位:度)、バックフォーカス:Bfは、以下の通りである。
f=4.2 Fno=2.4 ω=72.3 Bf=32.5
実施例5に関するデータを図8に倣って図20に示す。
「非球面データ」
実施例5における非球面のデータを図9に倣って図21に示す。
実施例5の投射光学系の条件(1)ないし(6)に関連した量の値は、以下の通りである。
Bf= 32.5
f= 4.2
LTT=195.0
Yi= 13.0
L1D= 78.2
MD= 59.5
f1-1=-253
f1-2=15.7 。
【0050】
「条件式のパラメータの値」
条件(1)ないし(6)のパラメータの値は以下の通りである。
(1) 7.7
(2) 15.0
(3) 1.3
(4) 4.6
(5) 60.1
(6) 3.7 。
【0051】
実施例5の投射光学系に関する収差図を図10に倣って図22に示す。各収差とも良好に補正され、実施例5の投射光学系は良好な性能を有する。
【0052】
「実施例6」
実施例6は、図6にレンズ構成を示した実施形態の具体的な実施例である。
実施例6における焦点距離:f、F値:Fno、画角:ω(単位:度)、バックフォーカス:Bfは、以下の通りである。
f=4.3 Fno=2.4 ω=72.1 Bf=30.5
実施例6に関するデータを図8に倣って図23に示す。
「非球面データ」
実施例6における非球面のデータを図9に倣って図24に示す。
実施例5の投射光学系の条件(1)ないし(6)に関連した量の値は、以下の通りである。
Bf= 30.5
f= 4.3
LTT=195.0
Yi= 13.2
L1D= 85.0
MD= 48.9
f1-1=2060
f1-2=18.2 。
【0053】
「条件式のパラメータの値」
条件(1)ないし(6)のパラメータの値は以下の通りである。
(1) 7.1
(2) 14.8
(3) 1.7
(4) 3.7
(5) 481.4
(6) 4.3 。
【0054】
実施例6の投射光学系に関する収差図を図10に倣って図25に示す。各収差とも良好に補正され、実施例6の投射光学系は良好な性能を有する。
【0055】
「比較例」
上に説明した如く、この発明の投射光学系の特徴の一端は、反射光学系の拡大側に「光学的パワーを持つレンズを有する第2屈折系」を有する点にある。
第2屈折系の存在により、収差の補正が容易になり、投射光学系の性能を高めることができる。
第2屈折系が無い投射光学系を1比較例として以下に示す。
図7に、比較例のレンズ構成を、図1ないし図6に倣って示す。図1ないし図6におけると同様、符号RIは「画像表示面」、符号PRは色合成用のプリズム、符号RIF1は「第1屈折系」、符号Mは反射光学系の「ミラー」を示す。また、符号MI1は「第1中間像」、符号MI2は第2中間像をそれぞれ示し、符号Sは[絞り]を示す。
比較例の投射光学系は、第1屈折系RIF1と反射光学系のミラーMで構成され、第1屈折系RIF1は、第1レンズ群LG1と第2レンズ群LG2とにより構成されている。
【0056】
色合成用のプリズムPRから射出するカラー画像光は、第1レンズ群LG1の作用により、第2レンズ群LG2の縮小側に第1中間像MI1を結像した後、第2レンズ群LG2に入射し、ミラーMの縮小側に第2中間像MI2を結像する。
第2中間像MI2を結像したカラー画像光は、ミラーMにより反射され、図示を省略された被投射面上にカラーの投射画像として結像する。
【0057】
この比較例は、図2に示す実施例2のレンズ構成から第2屈折系を除いた部分、即ち、第1屈折系RIF1とミラーMとにおける第1レンズ群LG1、第2レンズ群LG2のレンズ構成(レンズ構成枚数およびレンズ形状)を同一としたものである。第1レンズ群LG1および第2レンズ群LG2は勿論、光軸を共有している。
比較例における焦点距離:f、F値:Fno、画角:ω(単位:度)、バックフォーカス:Bfは、以下の通りである。
f=4.6 Fno=2.0 ω=69.9 Bf=37.1
図26に、比較例のデータを図8に倣って示し、非球面データを図9に倣って図27に示す。この発明の投射光学系の条件(1)ないし(6)に関連した量の値は、比較例においては以下の通りである。
Bf= 37.1
f= 4.6
LTT=330.7
Yi= 12.5
L1D= 0.0
MD= 71.0
f1-1=-137
f1-2=25.8 。
【0058】
「条件式のパラメータの値」
条件(1)ないし(6)のパラメータの値は以下の通りである。
【0059】
(1) 8.0
(2) 26.5
(3)
(4) 5.7
(5) 29.6
(6) 5.6 。
【0060】
比較例においては、条件(2)のパラメータは、条件(2)の上限値を超えており、条件(2)を満足していない。また、第2屈折系が無いので、条件(3)は存在しない。
【0061】
比較例の収差図を、図10に倣って図28に示す。
図28に示す比較例の収差図と、図13に示す実施例2の収差図を対比すると明らかなように、球面収差(a)、非点収差(b)は、両者共に良好に補正されている。しかし、歪曲収差(c)およびコマ収差(d)についてみると、比較例の投射光学系に対して実施例2の投射光学系は顕著に改善されていることが分かる。
即ち、第2屈折系を有することにより、球面収差、非点収差、歪曲収差、コマ収差が、何れも、バランスよく良好に補正され、投射光学系の性能を高めることが分かる。
【0062】
以上、この発明の投射光学系につき、好ましい実施例と1比較例を示した。
【0063】
図29は、この発明の投射光学系を用いる画像投射装置(プロジェクタ装置)の実施の1形態を説明図的に示している。
プロジェクタ装置本体のケーシング1内には、投射光学系PLと、液晶パネル等の「画像表示素子」を用いる画像生成装置ISR、ISB、ISGと、色合成用のプリズムPRが装荷されている。
【0064】
画像生成装置ISRは、投射されるべきカラー画像の「赤色成分画像」を画像表示素子の画像表示面に表示し「赤色成分画像光LR」を生成してプリズムPRに向けて放射する。
【0065】
画像生成装置ISGは、カラー画像の「緑色成分画像」を画像表示素子の画像表示面に表示し「緑色成分画像光LG」を生成してプリズムPRに向けて放射する。
【0066】
画像生成装置ISBは、カラー画像の「青色成分画像」を画像表示素子の画像表示面に表示し「青色成分画像光LB」を生成してプリズムPRに向けて放射する。
【0067】
色合成のプリズムPRは、赤色成分画像光LR、緑色成分画像光LG、青色成分画像光LBを合成して「カラー画像光IML」とし、投射用ズームレンズPLに入射させる。
【0068】
投射用ズームレンズPLは、入射してくるカラー画像光IMLを、投射用結像光PRLとして、図示を省略された被投射面(スクリーン)に向けて投射する。
【0069】
投射用光学系PLとしては、実施例1ないし実施例6等、上述のものを用いることができる。
【0070】
以上、発明の好ましい実施の形態について説明したが、この発明は上述した特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定していない限り、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
この発明の実施の形態に記載された効果は、発明から生じる好適な効果を列挙したに過ぎず、発明による効果は「実施の形態に記載されたもの」に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0071】
RI 画像表示面
PR 色合成用のプリズム
RIF1 第1屈折系
LG1 第1レンズ群
LG2 第2レンズ群
M 反射光学系のミラー
RIF2 第2屈折系
MI1 第1中間像
MI2 第2中間像
AX 光軸
【先行技術文献】
【特許文献】
【0072】
【文献】特願2014-80509号公報
【文献】特許第4396769号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30