(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】イオン源およびイオンビーム装置
(51)【国際特許分類】
H01J 27/16 20060101AFI20240422BHJP
H01J 37/08 20060101ALI20240422BHJP
H01J 37/248 20060101ALI20240422BHJP
H01J 37/04 20060101ALI20240422BHJP
H01J 37/317 20060101ALI20240422BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
H01J27/16
H01J37/08
H01J37/248
H01J37/04 Z
H01J37/317 D
H05H1/46 L
(21)【出願番号】P 2020208388
(22)【出願日】2020-12-16
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100161540
【氏名又は名称】吉田 良伸
(72)【発明者】
【氏名】柏木 健
(72)【発明者】
【氏名】笠原 春生
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-096840(JP,A)
【文献】特開平10-074600(JP,A)
【文献】特開昭63-094546(JP,A)
【文献】特開2013-089594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 27
H01J 37
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスが導入される真空容器と、
前記真空容器の外に配置され、前記真空容器内のプラズマ発生空間にプラズマを発生させるプラズマ発生用コイルと、
前記プラズマ発生用コイルにカップリング回路を介して高周波電圧を供給する高周波電源と、
前記プラズマ発生空間で発生したイオンを加速するための加速電極と、
前記加速電極に加速電圧を供給する加速電圧電源と、
整合回路と、
を含み、
前記プラズマ発生用コイルには、インピーダンス素子を介して前記加速電圧が供給され
、
前記高周波電源は、前記整合回路を介して、前記プラズマ発生用コイルに高周波電圧を供給し、
前記整合回路は、
前記プラズマ発生用コイルと並列に接続された第1可変コンデンサと、
前記プラズマ発生用コイルと直列に接続された第2可変コンデンサと、
前記第2可変コンデンサと並列に接続された第1抵抗と、
を含む、イオン源。
【請求項2】
請求項
1において、
前記カップリング回路は、
前記プラズマ発生用コイルの第1コイル端に接続された第1カップリングコンデンサと、
前記プラズマ発生用コイルの第2コイル端に接続された第2カップリングコンデンサと、
を含み、
前記整合回路は、
前記プラズマ発生用コイルと直列に接続された第3可変コンデンサと、
前記第3可変コンデンサと並列に接続された第2抵抗と、
を含み、
前記第2可変コンデンサは、前記第2カップリングコンデンサの一端に接続され、
前記第3可変コンデンサは、前記第1カップリングコンデンサの一端に接続されている、イオン源。
【請求項3】
請求項
2において、
前記第1カップリングコンデンサと並列に接続された第3抵抗と、
前記第2カップリングコンデンサと並列に接続された第4抵抗と、
を含む、イオン源。
【請求項4】
請求項1ないし
3のいずれか1項において、
前記プラズマ発生用コイルに前記加速電圧を分圧した電圧を供給する分圧回路を含む、イオン源。
【請求項5】
請求項1ないし
4のいずれか1項において、
前記プラズマ発生用コイルと前記真空容器との間に配置されたファラデーシールドを含み、
前記ファラデーシールドには、前記加速電圧が供給される、イオン源。
【請求項6】
ガスが導入される真空容器と、
前記真空容器の外に配置され、前記真空容器内のプラズマ発生空間にプラズマを発生させるプラズマ発生用コイルと、
前記プラズマ発生用コイルにカップリング回路を介して高周波電圧を供給する高周波電源と、
前記プラズマ発生空間で発生したイオンを加速するための加速電極と、
前記加速電極に加速電圧を供給する加速電圧電源と、
前記プラズマ発生用コイルに前記加速電圧を分圧した電圧を供給する分圧回路と、
を含み、
前記プラズマ発生用コイルには、インピーダンス素子を介して前記加速電圧が供給される、イオン源。
【請求項7】
ガスが導入される真空容器と、
前記真空容器の外に配置され、前記真空容器内のプラズマ発生空間にプラズマを発生させるプラズマ発生用コイルと、
前記プラズマ発生用コイルにカップリング回路を介して高周波電圧を供給する高周波電源と、
前記プラズマ発生空間で発生したイオンを加速するための加速電極と、
前記加速電極に加速電圧を供給する加速電圧電源と、
前記プラズマ発生用コイルと前記真空容器との間に配置されたファラデーシールドと、を含み、
前記プラズマ発生用コイルには、インピーダンス素子を介して前記加速電圧が供給さ
れ、
前記ファラデーシールドには、前記加速電圧が供給される、イオン源。
【請求項8】
請求項7において、
前記ファラデーシールドに前記加速電圧を分圧した電圧を供給する分圧回路を含む、イオン源。
【請求項9】
請求項7または8において、
前記プラズマ発生用コイルの電位は、前記ファラデーシールドの電位よりも低く、
前記ファラデーシールドの電位は、前記プラズマ
発生空間の電位よりも低い、イオン源。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載のイオン源を含む、イオンビーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン源およびイオンビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン源として、誘導結合プラズマイオン源が知られている。特許文献1に開示されているように、誘導結合プラズマイオン源は、集束イオンビーム装置のイオン源として用いることができる。
【0003】
誘導結合プラズマイオン源は、例えば、真空容器と、真空容器の外に配置されたプラズマ発生用コイルと、高周波電源と、を含む。高周波電源で生成された高周波電圧がプラズマ発生用コイルに印加されると、真空容器内のプラズマ発生空間にプラズマが生成される。プラズマには真空容器内のガスがイオン化されたイオンが含まれる。プラズマ発生空間から引出電圧によって引き出されたイオンは、加速電圧によって加速されてイオン源から放出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プラズマ発生空間には、イオンを加速するために、加速電圧が印加されている。そのため、プラズマ発生空間とプラズマ発生用コイルとの間には、高電圧が印加される。例えば、加速電圧が30kVの場合、プラズマ発生空間とプラズマ発生用コイルとの間には、30kVの電圧が印加される。したがって、このようなイオン源では、例えば、プラズマ発生用コイルとプラズマ発生空間との間に数mm~数十mm程度の厚みの絶縁体を挟むことで、絶縁を保っている。
【0006】
しかしながら、プラズマ発生空間とプラズマ発生用コイルとの間に絶縁体を挟むと、プラズマ発生空間とプラズマ発生用コイルとの間の距離が大きくなり、磁気的な結合が弱くなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るイオン源の一態様は、
ガスが導入される真空容器と、
前記真空容器の外に配置され、前記真空容器内のプラズマ発生空間にプラズマを発生させるプラズマ発生用コイルと、
前記プラズマ発生用コイルにカップリング回路を介して高周波電圧を供給する高周波電源と、
前記プラズマ発生空間で発生したイオンを加速するための加速電極と、
前記加速電極に加速電圧を供給する加速電圧電源と、
整合回路と、
を含み、
前記プラズマ発生用コイルには、インピーダンス素子を介して前記加速電圧が供給され、
前記高周波電源は、前記整合回路を介して、前記プラズマ発生用コイルに高周波電圧を供給し、
前記整合回路は、
前記プラズマ発生用コイルと並列に接続された第1可変コンデンサと、
前記プラズマ発生用コイルと直列に接続された第2可変コンデンサと、
前記第2可変コンデンサと並列に接続された第1抵抗と、
を含む。
本発明に係るイオン源の一態様は、
ガスが導入される真空容器と、
前記真空容器の外に配置され、前記真空容器内のプラズマ発生空間にプラズマを発生させるプラズマ発生用コイルと、
前記プラズマ発生用コイルにカップリング回路を介して高周波電圧を供給する高周波電源と、
前記プラズマ発生空間で発生したイオンを加速するための加速電極と、
前記加速電極に加速電圧を供給する加速電圧電源と、
前記プラズマ発生用コイルに前記加速電圧を分圧した電圧を供給する分圧回路と、
を含み、
前記プラズマ発生用コイルには、インピーダンス素子を介して前記加速電圧が供給される。
本発明に係るイオン源の一態様は、
ガスが導入される真空容器と、
前記真空容器の外に配置され、前記真空容器内のプラズマ発生空間にプラズマを発生させるプラズマ発生用コイルと、
前記プラズマ発生用コイルにカップリング回路を介して高周波電圧を供給する高周波電源と、
前記プラズマ発生空間で発生したイオンを加速するための加速電極と、
前記加速電極に加速電圧を供給する加速電圧電源と、
前記プラズマ発生用コイルと前記真空容器との間に配置されたファラデーシールドと、を含み、
前記プラズマ発生用コイルには、インピーダンス素子を介して前記加速電圧が供給され、
前記ファラデーシールドには、前記加速電圧が供給される。
【0008】
このようなイオン源では、プラズマ発生用コイルにインピーダンス素子を介して加速電圧が供給されるため、プラズマ発生空間の電位とプラズマ発生用コイルの電位の差を小さ
くできる。これにより、プラズマ発生空間とプラズマ発生用コイルとの間の距離を小さくできる。したがって、このようなイオン源では、プラズマ発生空間とプラズマ発生用コイルとの間の磁気的な結合を強めることができる。
【0009】
本発明に係るイオンビーム装置の一態様は、
上記イオン源を含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係るイオン源の構成を示す図。
【
図2】第2実施形態に係るイオン源の構成を示す図。
【
図3】第3実施形態に係るイオン源の構成を示す図。
【
図4】第4実施形態に係るイオン源の構成を示す図。
【
図5】第5実施形態に係るイオン源の構成を示す図。
【
図6】第6実施形態に係るイオンビーム装置の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0012】
1. 第1実施形態
1.1. イオン源の構成
まず、第1実施形態に係るイオン源について図面を参照しながら説明する。
図1は、第1実施形態に係るイオン源100の構成を示す図である。
【0013】
イオン源100は、誘導結合プラズマイオン源である。イオン源100は、
図1に示すように、真空容器2と、プラズマ発生用コイル4と、ファラデーシールド6と、高周波(RF)電源10と、整合回路20と、カップリング回路30と、アノード40と、引出電極42と、レンズ電極44と、カソード46と、加速電圧電源50と、引出電圧電源52と、レンズ電圧電源54と、抵抗60と、を含む。
【0014】
真空容器2は、プラズマ発生空間3を有している。真空容器2内は、真空に維持されている。真空容器2内には、不図示のガス供給口からガスが導入される。プラズマ発生用コイル4に高周波(RF)電圧が印加されることによって、プラズマ発生空間3にプラズマが発生する。
【0015】
プラズマ発生用コイル4は、真空容器2の外に配置されている。プラズマ発生用コイル4は、真空容器2に巻き回されている。すなわち、プラズマ発生用コイル4の内側に、真空容器2が配置されている。プラズマ発生用コイル4は、高周波の磁界を真空容器2内のプラズマ発生空間3に発生させる。
【0016】
ファラデーシールド6は、真空容器2とプラズマ発生用コイル4との間に配置されている。ここで、プラズマ発生用コイル4が高周波の磁界を発生させると、高周波の磁界とともに、静電的な振動が生じる。この静電的な振動は、プラズマ発生空間3に発生するプラズマに影響を与えてしまう。そのため、イオン源100では、ファラデーシールド6によって、この静電的な振動を低減させ、静電的な振動がプラズマに与える影響を低減する。なお、プラズマ発生用コイル4が発生させる高周波の磁界は、ファラデーシールド6を通過する。ファラデーシールド6には、加速電圧Vaccが供給されている。
【0017】
高周波電源10は、プラズマ発生用コイル4に高周波電圧を供給する。高周波電源10
は、
図1に示すように、整合回路20およびカップリング回路30を介して、プラズマ発生用コイル4に高周波電圧を供給する。
【0018】
整合回路20は、高周波電源10とプラズマ発生用コイル4との間でインピーダンス整合を行う。整合回路20は、第1可変コンデンサ22と、第2可変コンデンサ24と、抵抗26と、を含む。第1可変コンデンサ22は、プラズマ発生用コイル4と並列に接続されている。第2可変コンデンサ24は、プラズマ発生用コイル4と直列に接続されている。第1可変コンデンサ22および第2可変コンデンサ24は、高周波電力の反射波が小さくなるように調整される。
【0019】
抵抗26は、第2可変コンデンサ24と並列に接続されている。抵抗26の抵抗値は、高周波電力の伝達に影響しない十分な大きさとする。
【0020】
カップリング回路30は、高周波電圧の直流成分を遮断し、交流成分を通過させる。カップリング回路30は、第1カップリングコンデンサ32と、第2カップリングコンデンサ34と、を含む。第1カップリングコンデンサ32は、プラズマ発生用コイル4の第1コイル端C1に接続され、第2カップリングコンデンサ34は、プラズマ発生用コイル4の第2コイル端C2に接続されている。第1カップリングコンデンサ32は、高周波電源10と第1コイル端C1とを結ぶ経路に設けられている。第2カップリングコンデンサ34は、高周波電源10と第2コイル端C2を結ぶ経路に設けられている。第2カップリングコンデンサ34と第2可変コンデンサ24は、直列に接続されている。
【0021】
アノード40は、プラズマ発生空間3で発生したイオンを加速させるための加速電極である。アノード40には、加速電圧Vaccが印加される。アノード40は、プラズマ発生空間3に加速電圧Vaccを印加する。
【0022】
引出電極42は、プラズマ発生空間3で発生したイオンを引き出すための電極である。引出電極42には、引出電圧Vexが印加される。
【0023】
レンズ電極44は、引出電極42によって引き出されたイオンビームを集束させるための電界を発生させる。レンズ電極44には、レンズ電圧VLensが印加される。
【0024】
カソード46は、プラズマ発生空間3で発生したイオンを加速させるための電極である。アノード40とカソード46との間に加速電圧Vaccが印加される。カソード46は、例えば、グランドGに接続されている。
【0025】
加速電圧電源50は、加速電圧Vaccを発生させる。加速電圧電源50は、アノード40に加速電圧Vaccを供給する。引出電圧電源52は、引出電極42に引出電圧Vexを供給する。引出電圧Vexは、加速電圧Vaccを基準電圧とする引出電圧電源52によってバイアスされた電圧である。レンズ電圧電源54は、レンズ電極44にレンズ電圧VLensを供給する。
【0026】
抵抗60は、第2コイル端C2に接続されている。抵抗60は、第2コイル端C2と加速電圧電源50の出力との間に電気的に接続されている。なお、抵抗60は、第1コイル端C1に接続されていてもよい。
【0027】
抵抗60は、高周波に対して高いインピーダンスを有しているインピーダンス素子として機能する。抵抗60は、加速電圧Vaccに起因してプラズマ発生用コイル4に流れ込む電流を制限する。なお、インピーダンス素子として、チョークコイル等を用いてもよい。プラズマ発生用コイル4には、抵抗60を介して、加速電圧Vaccが供給される。
【0028】
1.2. 動作
次に、イオン源100の動作について説明する。以下では、加速電圧Vaccが30kVの場合について説明する。
【0029】
高周波電源10により生成された高周波電圧は、第1可変コンデンサ22および第2可変コンデンサ24を含む整合回路20を介して、第1カップリングコンデンサ32の一方の極および第2カップリングコンデンサ34の一方の極に印加される。
【0030】
ここで、第1カップリングコンデンサ32の他方の極は、第1コイル端C1に接続され、第2カップリングコンデンサ34の他方の極は、第2コイル端C2に接続されている。また、プラズマ発生用コイル4には、抵抗60を介して加速電圧Vaccが印加されている。そのため、プラズマ発生用コイル4の電位は、プラズマ発生空間3と近い電位、すなわち、30kV付近の電位となる。したがって、高周波電源10の出力端子とプラズマ発生用コイル4との間には、30kVの直流電圧が印加される。
【0031】
イオン源100では、第2可変コンデンサ24と第2カップリングコンデンサ34は、直列に接続されている。例えば、抵抗26が存在しない場合には、30kVの直流電圧は、第2可変コンデンサ24と第2カップリングコンデンサ34により分圧される。そのため、第2可変コンデンサ24には、高電圧が印加されてしまう。
【0032】
イオン源100は、第2可変コンデンサ24と並列に接続された抵抗26を含む。そのため、第2可変コンデンサ24に印加される直流成分は0Vとなり、高周波成分は第2可変コンデンサ24を通過する。したがって、30kVの直流成分は、第2カップリングコンデンサ34にのみに印加され、第2可変コンデンサ24に印加される直流成分は0Vとなる。このように、イオン源100では、抵抗26を用いて、第2可変コンデンサ24に高電圧が印加されることを防ぐことができる。なお、抵抗26の抵抗値は、高周波電力の伝達に影響しない十分な大きさとする。抵抗26は、例えば、10MΩとする。
【0033】
上述したように、プラズマ発生用コイル4には、抵抗60を介して加速電圧Vaccが印加されている。そのため、第1カップリングコンデンサ32および第2カップリングコンデンサ34には、30kVの直流電圧が印加される。したがって、プラズマ発生空間3の電位とプラズマ発生用コイル4の電位の差は、ほぼ0Vとなる。すなわち、プラズマ発生空間3とプラズマ発生用コイル4との間には、高電圧が印加されない。この結果、真空容器2とプラズマ発生用コイル4との間に、数mm~数十mm程度の厚みの絶縁体を挟む必要がなく、プラズマ発生空間3とプラズマ発生用コイル4との間の距離を小さくできる。
【0034】
同様に、ファラデーシールド6には、加速電圧Vaccが印加されている。そのため、プラズマ発生空間3の電位とファラデーシールド6の電位の差は、ほぼ0Vとなる。また、ファラデーシールド6の電位とプラズマ発生用コイル4の電位の差は、ほぼ0Vとなる。したがって、プラズマ発生空間3とファラデーシールド6との間の距離、およびファラデーシールド6とプラズマ発生用コイル4との間の距離を小さくできる。
【0035】
高周波電源10により生成された高周波電圧は、プラズマ発生用コイル4に印加され、真空容器2内のプラズマ発生空間3にプラズマが継続的に生成される。不図示のガス導入口から真空容器2内に導入されたガスは、プラズマによりイオン化される。生成されたイオンは引出電圧Vexによって引き出され、引き出されたイオンは加速電圧Vaccによって加速する。このようにして生成されたイオンビームは、レンズ電圧VLensが印加されたレンズ電極44がつくるレンズ(静電場)によって集束され、イオン源100から
放出される。
【0036】
1.3. 作用効果
イオン源100は、ガスが導入される真空容器2と、真空容器2の外に配置され、真空容器2内のプラズマ発生空間3にプラズマを発生させるプラズマ発生用コイル4と、プラズマ発生用コイル4にカップリング回路30を介して高周波電圧を供給する高周波電源10と、プラズマ発生空間3で発生したイオンを加速するための加速電極としてのアノード40と、アノード40に加速電圧Vaccを供給する加速電圧電源50と、を含む。また、プラズマ発生用コイル4には、抵抗60を介して加速電圧Vaccが供給される。
【0037】
このように、イオン源100では、プラズマ発生用コイル4に、抵抗60を介して加速電圧Vaccが供給されるため、プラズマ発生空間3の電位とプラズマ発生用コイル4の電位の差を小さくでき、プラズマ発生空間3とプラズマ発生用コイル4との間の距離を小さくできる。したがって、プラズマ発生空間3とプラズマ発生用コイル4との間の磁気的な結合を強めることができ、エネルギー伝達効率を高めることができる。この結果、高周波電源10の小型化が可能である。また、イオン源100では、エネルギー伝達効率を高めることができるため、プラズマ発生空間3以外への漏れ磁束を低減でき、装置の発熱を低減できる。
【0038】
イオン源100では、高周波電源10は、整合回路20を介して、プラズマ発生用コイル4に高周波電圧を供給する。また、整合回路20は、プラズマ発生用コイル4と並列に接続された第1可変コンデンサ22と、プラズマ発生用コイル4と直列に接続された第2可変コンデンサ24と、第2可変コンデンサ24と並列に接続された抵抗26と、を含む。このように、イオン源100では、抵抗26が第2可変コンデンサ24と並列に接続されているため、第2可変コンデンサ24に高電圧が印加されることを防ぐことができる。
【0039】
イオン源100では、ファラデーシールド6は、真空容器2とプラズマ発生用コイル4との間に配置され、ファラデーシールド6には、加速電圧Vaccが供給される。そのため、イオン源100では、プラズマ発生空間3の電位とファラデーシールド6の電位の差を小さくでき、かつ、ファラデーシールド6の電位とプラズマ発生用コイル4の電位の差を小さくできる。したがって、プラズマ発生空間3とファラデーシールド6との間の距離、およびファラデーシールド6とプラズマ発生用コイル4との間の距離を小さくできる。すなわち、イオン源100では、プラズマ発生空間3とプラズマ発生用コイル4との間の距離を小さくできる。
【0040】
1.4. 変形例
図1に示す例では、整合回路20は、第1可変コンデンサ22、第2可変コンデンサ24、および抵抗26を含んでいたが、整合回路20の構成はこれに限定されない。また、高周波電源10およびプラズマ発生用コイル4の条件によっては、イオン源100は、整合回路20を含まなくてもよい。
【0041】
2. 第2実施形態
2.1. イオン源の構成
次に、第2実施形態に係るイオン源について、図面を参照しながら説明する。
図2は、第2実施形態に係るイオン源200の構成を示す図である。以下、第2実施形態に係るイオン源200において、第1実施形態に係るイオン源100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0042】
上述した
図1に示すイオン源100では、プラズマ発生用コイル4に、抵抗60を介して加速電圧Vaccが印加されていた。これに対して、
図2に示すイオン源200は、分
圧回路210を含み、プラズマ発生用コイル4には、加速電圧Vaccを分圧回路210で分圧した電圧が印加される。このように、イオン源200では、分圧回路210によって、プラズマ発生用コイル4の電位を加速電圧VaccとグランドGとの間の所望の電位にできる。
【0043】
ここで、プラズマ発生用コイル4に加速電圧Vaccが供給されるとは、
図1に示すように、プラズマ発生用コイル4に、直接、加速電圧Vaccが印加される場合と、
図2に示すように、プラズマ発生用コイル4に、分圧回路210などを介して、加速電圧Vaccが印加される場合と、を含む。
【0044】
分圧回路210は、抵抗60と、抵抗212と、を含む。抵抗212は、プラズマ発生用コイル4の第2コイル端C2とグランドGとの間に電気的に接続されている。
【0045】
イオン源200は、さらに、分圧回路220を含む。ファラデーシールド6には、加速電圧Vaccを分圧回路220で分圧した電圧が供給される。
【0046】
分圧回路220は、抵抗222と、抵抗224と、を含む。抵抗222は、ファラデーシールド6と加速電圧電源50の出力との間に電気的に接続されている。抵抗224は、ファラデーシールド6とグランドGとの間に電気的に接続されている。
【0047】
2.2. 動作
次に、イオン源200の動作について説明する。以下、イオン源200の動作について、イオン源100の動作と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0048】
例えば、抵抗60を200MΩ、抵抗212を100MΩ、抵抗222を100MΩ、抵抗224を200MΩとし、加速電圧Vaccを30kVとする。この場合、分圧回路210によって30kVの加速電圧Vaccが分圧されて、プラズマ発生用コイル4に10kVの電圧が印加される。また、分圧回路220によって30kVの加速電圧Vaccが分圧されて、ファラデーシールド6には20kVの電圧が印加される。
【0049】
すなわち、プラズマ発生空間3の電位が30kV、ファラデーシールド6の電位が20kV、プラズマ発生用コイル4の電位が10kVとなる。そのため、第1カップリングコンデンサ32に印加される電圧および第2カップリングコンデンサ34に印加される電圧は、10kVとなる。
【0050】
2.3. 作用効果
イオン源200は、プラズマ発生用コイル4に加速電圧Vaccを分圧した電圧を供給する分圧回路210を含む。そのため、イオン源200では、プラズマ発生用コイル4の電位を加速電圧VaccとグランドGとの間の所望の電位にできる。したがって、イオン源200では、第1カップリングコンデンサ32に印加される電圧および第2カップリングコンデンサ34に印加される電圧を低減できる。これにより、第1カップリングコンデンサ32および第2カップリングコンデンサ34の耐圧を低くでき、第1カップリングコンデンサ32および第2カップリングコンデンサ34として、耐圧が低い部品を用いることができる。さらに、イオン源200では、配線の絶縁電圧を変更でき、設計の自由度を高めることができる。
【0051】
イオン源200では、ファラデーシールド6に加速電圧Vaccを分圧した電圧を供給する分圧回路220を含む。そのため、イオン源200では、ファラデーシールド6の電位を加速電圧VaccとグランドGとの間の所望の電位にできる。したがって、イオン源
200では、プラズマ発生用コイル4の電位をファラデーシールド6の電位よりも低くし、かつ、ファラデーシールド6の電位をプラズマ発生空間3の電位よりも低くできる。
【0052】
3. 第3実施形態
3.1. イオン源の構成
次に、第3実施形態に係るイオン源について、図面を参照しながら説明する。
図3は、第3実施形態に係るイオン源300の構成を示す図である。以下、第3実施形態に係るイオン源300において、第1実施形態に係るイオン源100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0053】
上述した
図1に示すイオン源100では、整合回路20は、第2カップリングコンデンサ34の一端に接続された第2可変コンデンサ24を有していた。
【0054】
これに対して、イオン源300では、
図3に示すように、整合回路20は、第2可変コンデンサ24に加えて、第1カップリングコンデンサ32の一端に接続された第3可変コンデンサ324を含む。
【0055】
整合回路20は、第1可変コンデンサ22と、第2可変コンデンサ24と、抵抗26と、第3可変コンデンサ324と、抵抗326と、を含む。
【0056】
第3可変コンデンサ324は、プラズマ発生用コイル4に直列に接続されている。第1可変コンデンサ22、第2可変コンデンサ24、および第3可変コンデンサ324は、高周波電力の反射波が小さくなるように調整される。
【0057】
抵抗326は、第3可変コンデンサ324と並列に接続されている。抵抗326の抵抗値は、高周波電力の伝達に影響しない十分な大きさとする。
【0058】
3.2. 動作
次に、イオン源300の動作について説明する。以下、イオン源300の動作について、イオン源100の動作と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0059】
上述したように、高周波電源10により生成された高周波電圧をプラズマ発生用コイル4に印加して、プラズマ発生用コイル4が高周波の磁界を発生させると、高周波の磁界とともに、静電的な振動が生じる。整合回路20に、第3可変コンデンサ324を追加することによって、この静電的な振動の中心を調整できる。例えば、第2可変コンデンサ24および第3可変コンデンサ324を調整することで、プラズマ発生用コイル4の第1コイル端C1における静電的な振動と、プラズマ発生用コイル4の第2コイル端C2における静電的な振動と、を相殺することができる。これにより、静電的な振動が、真空容器2内に発生するプラズマに与える影響を低減できる。そのため、イオン源300では、ファラデーシールド6を用いなくてもよい。
【0060】
4. 第4実施形態
4.1. イオン源の構成
次に、第4実施形態に係るイオン源について、図面を参照しながら説明する。
図4は、第4実施形態に係るイオン源400の構成を示す図である。以下、第4実施形態に係るイオン源400において、第1実施形態に係るイオン源100、第2実施形態に係るイオン源200、および第3実施形態に係るイオン源300の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0061】
イオン源400は、
図4に示すように、プラズマ発生用コイル4に加速電圧Vaccを分圧した電圧を供給する分圧回路410を含む。
【0062】
分圧回路410は、抵抗26と、抵抗326と、抵抗402と、抵抗404と、抵抗60と、を含む。抵抗402は、第1カップリングコンデンサ32と並列に接続されている。抵抗404は、第2カップリングコンデンサ34と並列に接続されている。
【0063】
4.2. 動作
次に、イオン源400の動作について説明する。以下、イオン源400の動作について、イオン源100、イオン源200、およびイオン源300の動作と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0064】
例えば、抵抗26を200MΩ、抵抗326を200MΩ、抵抗402を200MΩ、抵抗404を200MΩ、抵抗60を100MΩ、加速電圧Vaccを30kVとする。
【0065】
この場合、分圧回路410によって30kVの加速電圧Vaccが分圧されて、プラズマ発生用コイル4に20kVの電圧が印加される。また、第1カップリングコンデンサ32に10kVの電圧が印加され、第2カップリングコンデンサ34に10kVの電圧が印加される。また、第2可変コンデンサ24に10kVの電圧が印加され、第3可変コンデンサ324に10kVの電圧が印加される。
【0066】
このように、イオン源400では、上述したイオン源200と同様に、第1カップリングコンデンサ32に印加される電圧および第2カップリングコンデンサ34に印加される電圧を低減できる。したがって、イオン源400では、イオン源200と同様の作用効果を奏することができる。
【0067】
5. 第5実施形態
5.1. イオン源の構成
次に、第5実施形態に係るイオン源について、図面を参照しながら説明する。
図5は、第5実施形態に係るイオン源500の構成を示す図である。以下、第5実施形態に係るイオン源500において、第4実施形態に係るイオン源400の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0068】
上述した
図4に示すイオン源400では、カップリングコンデンサおよび当該カップリングコンデンサと並列に接続された抵抗の組を1段設けていたが、イオン源500では、
図5に示すように、当該組を2段設けている。
【0069】
イオン源500では、
図5に示すように、カップリング回路30は、第1カップリングコンデンサ32と、第2カップリングコンデンサ34と、第3カップリングコンデンサ532と、第4カップリングコンデンサ534と、を含む。また、イオン源500では、分圧回路410は、抵抗26と、抵抗326と、抵抗402と、抵抗404と、抵抗502と、抵抗504と、抵抗60と、を含む。
【0070】
第3カップリングコンデンサ532は、第1カップリングコンデンサ32と直列に接続されている。第4カップリングコンデンサ534は、第2カップリングコンデンサ34と直列に接続されている。第3カップリングコンデンサ532は、プラズマ発生用コイル4の第1コイル端C1に接続されている。第4カップリングコンデンサ534は、プラズマ発生用コイル4の第2コイル端C2に接続されている。
【0071】
抵抗502は、第3カップリングコンデンサ532と並列に接続されている。抵抗50
4は、第4カップリングコンデンサ534と並列に接続されている。
【0072】
5.2. 動作
次に、イオン源500の動作について説明する。以下、イオン源500の動作について、イオン源400の動作と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0073】
例えば、抵抗26を200MΩ、抵抗326を200MΩ、抵抗402を200MΩ、抵抗404を200MΩ、抵抗502を200MΩ、抵抗504を200MΩ、抵抗60を100MΩとし、加速電圧Vaccを30kVとする。
【0074】
この場合、分圧回路410によって30kVの加速電圧Vaccが分圧されて、プラズマ発生用コイル4に22.5kVの電圧が印加される。また、第3カップリングコンデンサ532に7.5kVの電圧が印加され、第4カップリングコンデンサ534に7.5kVの電圧が印加される。また、第1カップリングコンデンサ32に7.5kVの電圧が印加され、第2カップリングコンデンサ34に7.5kVの電圧が印加される。また、第2可変コンデンサ24に7.5kVの電圧が印加され、第3可変コンデンサ324に7.5kVの電圧が印加される。
【0075】
この結果、整合回路20と第1カップリングコンデンサ32および第2カップリングコンデンサ34との間の配線501には、7.5kVの電圧が印加される。このように、イオン源500では、配線501に印加される電圧を低減できる。
【0076】
なお、
図5に示す例では、カップリングコンデンサおよび当該カップリングコンデンサと並列に接続された抵抗の組を2段設ける場合について説明したが、当該組の段数は特に限定されず、3段以上であってもよい。このようにカップリングコンデンサと抵抗の組の段数を増やすことで、各素子に印加される電圧をより低減できる。
【0077】
6. 第6実施形態
次に、第6実施形態に係るイオンビーム装置について説明する。
図6は、第6実施形態に係るイオンビーム装置600の構成を示す図である。
【0078】
イオンビーム装置600は、例えば、集束イオンビームを利用して、試料を加工し、試料を観察する集束イオンビーム装置である。イオンビーム装置600は、本発明に係るイオン源を含む。ここでは、イオンビーム装置600がイオン源100を含む場合について説明する。
【0079】
イオンビーム装置600は、
図6に示すように、イオン源100と、集束レンズ602と、ブランキング電極604と、対物レンズ絞り606と、対物レンズ608と、偏向板610と、検出器612と、ガス供給装置614と、を含む。
【0080】
イオン源100から放出されたイオンビームは、集束レンズ602および対物レンズ608で集束される。また、対物レンズ絞り606では、不要なイオンビームがカットされる。これにより、集束イオンビームが形成され、形成された集束イオンビームが試料Sに照射される。
【0081】
イオンビームをブランキング電極604で偏向させることで、イオンビームを遮断できる。また、偏向板610で集束イオンビームを2次元的に偏向させることで、集束イオンビームで試料Sを走査できる。これにより、試料Sを加工できる。さらに、集束イオンビームが試料Sに照射されることによって発生した2次電子を検出器612で検出すること
で、走査イオン像(SIM像)を取得できる。
【0082】
また、ガス供給装置614で化合物ガスを試料Sの表面に供給し、イオンビームと化合物ガスを反応させることによって、選択的な成膜を行うことができる。
【0083】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態および変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0084】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0085】
2…真空容器、3…プラズマ発生空間、4…プラズマ発生用コイル、6…ファラデーシールド、10…高周波電源、20…整合回路、22…第1可変コンデンサ、24…第2可変コンデンサ、26…抵抗、30…カップリング回路、32…第1カップリングコンデンサ、34…第2カップリングコンデンサ、40…アノード、42…引出電極、44…レンズ電極、46…カソード、50…加速電圧電源、52…引出電圧電源、54…レンズ電圧電源、60…抵抗、100…イオン源、200…イオン源、210…分圧回路、212…抵抗、220…分圧回路、222…抵抗、224…抵抗、300…イオン源、324…第3可変コンデンサ、326…抵抗、400…イオン源、402…抵抗、404…抵抗、410…分圧回路、500…イオン源、501…配線、502…抵抗、504…抵抗、532…第3カップリングコンデンサ、534…第4カップリングコンデンサ、600…イオンビーム装置、602…集束レンズ、604…ブランキング電極、606…対物レンズ絞り、608…対物レンズ、610…偏向板、612…検出器、614…ガス供給装置