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  • 特許-鍵盤装置および鍵のガイド方法 図1
  • 特許-鍵盤装置および鍵のガイド方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】鍵盤装置および鍵のガイド方法
(51)【国際特許分類】
   G10B 3/12 20060101AFI20240422BHJP
   G10H 1/34 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
G10B3/12 120
G10B3/12 113
G10H1/34
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020217520
(22)【出願日】2020-12-25
(65)【公開番号】P2022102659
(43)【公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000116068
【氏名又は名称】ローランド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】粕渕 政希
(72)【発明者】
【氏名】澤田 睦夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 仁
【審査官】毛利 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-240260(JP,A)
【文献】特開平6-266350(JP,A)
【文献】米国特許第6369309(US,B1)
【文献】特開2003-99062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10B 1/00 - 3/24
G10C 1/00 - 9/00
G10H 1/00 - 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵軸回りに変位し、下方に開口を有する空洞が形成される鍵と、その鍵の前記空洞に挿入されるガイド部を有し、前記鍵の被ガイド面と前記ガイド部との接触によって前記鍵の変位をガイドするガイド部材と、を備え、
前記鍵は、前記空洞内に形成されるストッパを備え、
前記ストッパは、前記鍵に接続され下方に延びる基部と、その基部の下端側に形成され、前記鍵軸と上下に並ぶ位置で変位するフックと、を備え、
前記ガイド部は、前記ガイド部の後面に形成され、前記フックが挿入される凹部を備え、
前記鍵の左右方向視において、前記フックは、前記被ガイド面と重なる位置、又は、前記被ガイド面と上下に並ぶ位置に形成されることを特徴とする鍵盤装置。
【請求項2】
前記凹部は、前記ガイド部材の下端まで延びる溝であることを特徴とする請求項1記載の鍵盤装置。
【請求項3】
前記ガイド部は、前記凹部を挟んで一対に形成される側壁を備え、
前記側壁の側面によって前記鍵の変位がガイドされることを特徴とする請求項2記載の鍵盤装置。
【請求項4】
前記ガイド部材は、ベース部と、そのベース部から上方に突出して前記鍵を支持し、前記鍵軸を構成する鍵軸部と、その鍵軸部よりも上方に突出する前記ガイド部と、を備え、
前記ベース部、前記鍵軸部、及び、前記ガイド部が樹脂材料を用いて一体に形成され
ることを特徴とする請求項2又は3に記載の鍵盤装置。
【請求項5】
前記ガイド部材は、前記ベース部および前記鍵軸部を上下に貫通し前記凹部に連なる貫通孔を備えることを特徴とする請求項4記載の鍵盤装置。
【請求項6】
前記鍵は、白鍵および黒鍵を備え、
前記ガイド部の左右方向における寸法は、前記白鍵の変位をガイドする前記ガイド部と、前記黒鍵の変位をガイドする前記ガイド部とで異なる寸法であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の鍵盤装置。
【請求項7】
前記白鍵の変位をガイドする前記ガイド部は、前記黒鍵の変位をガイドする前記ガイド部よりも左右方向における寸法が大きいことを特徴とする請求項6記載の鍵盤装置。
【請求項8】
前記白鍵に設けられる前記ストッパの前記基部は、前記黒鍵に設けられる前記ストッパの前記基部よりも左右方向における寸法が大きいことを特徴とする請求項7記載の鍵盤装置。
【請求項9】
前記鍵が所定の深さまで押鍵された第1状態と、その第1状態よりも深く押鍵された第2状態と、を検出するセンサを備え、
前記センサで前記第1状態が検出された時と前記第2状態が検出された時とで異なる楽音が生成され、
前記第2状態を超える深さで押鍵された時に前記フックと前記凹部とが引っ掛かるように構成されることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の鍵盤装置。
【請求項10】
押鍵前の初期位置において、前記フックと前記鍵軸とが上下に並ぶ位置に形成されることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の鍵盤装置。
【請求項11】
鍵軸回りに変位し、下方に開口を有する空洞が形成される鍵と、その鍵の前記空洞に挿入されるガイド部を有し、前記鍵の被ガイド面と前記ガイド部との接触によって前記鍵の変位をガイドするガイド部材と、を備える鍵盤装置における鍵のガイド方法であって、
前記鍵が、前記空洞内に形成されるストッパを備え、
前記ストッパが、前記鍵に接続され下方に延びる基部と、その基部の下端側に形成され、前記鍵軸と上下に並ぶ位置で変位するフックと、を備え、
前記ガイド部が、前記ガイド部の後面に形成され、前記フックが挿入される凹部を備え、
前記鍵の左右方向視において、前記フックと重なる位置、又は、前記フックと上下に並ぶ位置に形成される前記被ガイド面によって前記鍵の変位をガイドすることを特徴とする鍵のガイド方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵盤装置に関し、特に、設計の自由度を向上できる鍵盤装置および鍵のガイド方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鍵盤装置の鍵が押鍵された時に、鍵の変位(搖動や回転)をガイド部材によってガイドする技術や、鍵軸からの鍵の脱落をストッパによって規制する技術が知られている。例えば、特許文献1には、前後に離隔して配置される一対のガイド部材(鍵ガイド14a,14b)によって鍵の変位をガイドする技術が記載されている。また、特許文献2には、鍵を鍵軸(回動支持部22)に押し付けるストッパ(弾性片13の上片133)により、押鍵時に鍵軸から鍵が脱落することを規制する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平09-006329号公報(例えば、段落0044、図1
【文献】特開平09-330084号公報(例えば、段落0026、図3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の技術のガイド部材は、鍵軸よりも鍵の前方側(演奏者側)に配置され、ストッパは、鍵軸よりも鍵の後方側に配置される。よって、これらのガイド部材およびストッパの各々が設けられる鍵盤装置の場合、鍵軸よりも前方側や後方側の領域において、他の部材の配置スペースに制約が生じ易くなる。よって、鍵盤装置の設計の自由度が低下するという問題点があった。
【0005】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、設計の自由度を向上できる鍵盤装置および鍵のガイド方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の鍵盤装置は、鍵軸回りに変位し、下方に開口を有する空洞が形成される鍵と、その鍵の前記空洞に挿入されるガイド部を有し、前記鍵の被ガイド面と前記ガイド部との接触によって前記鍵の変位をガイドするガイド部材と、を備え、前記鍵は、前記空洞内に形成されるストッパを備え、前記ストッパは、前記鍵に接続され下方に延びる基部と、その基部の下端側に形成され、前記鍵軸と上下に並ぶ位置で変位するフックと、を備え、前記ガイド部は、前記ガイド部の後面に形成され、前記フックが挿入される凹部を備え、前記鍵の左右方向視において、前記フックは、前記被ガイド面と重なる位置、又は、前記被ガイド面と上下に並ぶ位置に形成される。
【0007】
本発明の鍵のガイド方法は、鍵軸回りに変位し、下方に開口を有する空洞が形成される鍵と、その鍵の前記空洞に挿入されるガイド部を有し、前記鍵の被ガイド面と前記ガイド部との接触によって前記鍵の変位をガイドするガイド部材と、を備える鍵盤装置における鍵のガイド方法であって、前記鍵が、前記空洞内に形成されるストッパを備え、前記ストッパが、前記鍵に接続され下方に延びる基部と、その基部の下端側に形成され、前記鍵軸と上下に並ぶ位置で変位するフックと、を備え、前記ガイド部が、前記ガイド部の後面に形成され、前記フックが挿入される凹部を備え、前記鍵の左右方向視において、前記フックと重なる位置、又は、前記フックと上下に並ぶ位置に形成される前記被ガイド面によって前記鍵の変位をガイドする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態における鍵盤装置の斜視図である。
図2図1のII-II線における鍵盤装置の断面図である。
図3図2のIII-III線における鍵盤装置の部分拡大断面図である。
図4図2の状態から白鍵が押鍵された状態を示す鍵盤装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。まず、図1を参照して、鍵盤装置1の全体構成について説明する。図1は、一実施形態における鍵盤装置1の斜視図である。なお、図1の矢印U-D方向、F-B方向、L-R方向は、それぞれ鍵盤装置1の上下方向、前後方向、左右方向を示しており、以降の図においても同様とする。
【0010】
図1に示すように、鍵盤装置1は、複数の鍵2を備える鍵盤楽器(シンセサイザ)として構成される。鍵2は、幹音を演奏するための複数の白鍵2aと、派生音を演奏するための複数の黒鍵2bと、から構成され、それら複数の白鍵2a及び黒鍵2bが左右方向(矢印L-R方向)(スケール方向)に並べて設けられる。
【0011】
鍵2は、上面(矢印U側の面)が演奏者によって押下される押鍵面として構成される上板20を備える。上板20の左右の両端部からは、一対の側板21が下方(矢印D側)に延びており(側板21が左右一対に設けられる点については、図3参照)、それら上板20及び側板21の後端部分(矢印B側の端部)が後板22によって接続される。上板20、側板21、及び、後板22は、それぞれ樹脂材料を用いて板状に形成されており、鍵2には、下方に開口を有する空洞Sが形成される(図2及び図3参照)。空洞Sは、後述するガイド部52(図1参照)を挿入するための部位である。
【0012】
鍵盤装置1には、鍵2を支持するための底板3及びシャーシ4が設けられる。底板3は、合成樹脂や鋼板等を用いて板状に形成され、左右方向に延びる底板3の上面にシャーシ4が固定される。シャーシ4は、前後(矢印F-B方向)に所定間隔を隔てる一対の脚部40と、それら一対の脚部40の上端同士を前後に接続する支持部41と、を備える。
【0013】
シャーシ4の各部(脚部40及び支持部41)は、合成樹脂や鋼板等を用いて板状に形成され、シャーシ4は、左右方向視において支持部41と底板3との間に空間を有するコ字状(C字状)に形成される。支持部41の上面には、鍵2を変位可能に支持しつつ、その鍵2の変位をガイドするガイド部材5が固定される。
【0014】
ガイド部材5は、シャーシ4に固定されるベース部50を備える(図1の拡大部分参照)。ベース部50は、左右に延びる板状に形成され、ベース部50の上面からは鍵軸部51が上方に突出している。鍵軸部51の上端部は、上端に近づくに連れて先細りのテーパ状(山形)に形成され、この鍵軸部51に鍵2が支持される。
【0015】
鍵2の側板21の下面には山形の切欠き23(凹み)が形成され、この切欠き23が鍵軸部51に引っ掛けられる(載せられる)。これにより、鍵軸部51回りに鍵2が変位(搖動または回転)可能に支持される。
【0016】
鍵2の後板22からは、略円柱状の凸部24が後方に突出しており、凸部24には、コイルばね6(弾性体)の一端側のフックが引っ掛けられる。コイルばね6の他端側のフックは、シャーシ4の突出片42に引っ掛けられる。
【0017】
突出片42は、シャーシ4の脚部40の後面から後方側に突出しており、この突出片42と鍵2の凸部24とがコイルばね6で接続されるため、鍵2を押鍵して鍵軸部51回りに変位させた際には(図4参照)、このコイルばね6の弾性力による押鍵感触が演奏者に付与される。
【0018】
一方、鍵2を押鍵した後に離鍵した際には、コイルばね6の弾性力によって鍵2が鍵軸部51回りに変位して初期位置に復帰する。この初期位置に向けた鍵2の変位は、離鍵ストッパ25によって停止される。離鍵ストッパ25は、鍵2の下面から下方に延びつつ後方側に屈曲しており、シャーシ4の支持部41には、離鍵ストッパ25が挿入される挿入孔43が形成される。支持部41の下面(挿入孔43の縁部)には緩衝材44が固定されており、緩衝材44と離鍵ストッパ25の屈曲部分との接触によって離鍵時の鍵2の変位が規制される。
【0019】
次いで、図2図4を参照して、鍵盤装置1の詳細構成について説明するが、図1も適宜参照しながら説明する。図2は、図1のII-II線における鍵盤装置1の断面図であり、図3は、図2のIII-III線における鍵盤装置1の部分拡大断面図であり、図4は、図2の状態から鍵2が押鍵された状態を示す鍵盤装置1の部分拡大断面図である。なお、図2及び図4の拡大部分において符号51で示す位置は、鍵軸部51(図1参照)の頂、即ち、鍵2の搖動(回転)軸となる位置である。また、図2及び図4では、底板3の図示を省略しており、図3では、シャーシ4の図示を省略している。
【0020】
図2及び図3に示すように、ガイド部材5のガイド部52は、鍵軸部51よりも上方側に突出する略直方体状の突起であり、上述した鍵2の空洞Sに挿入される。左右一対の側板21の各々の内面からは、ガイド部52の側面に向けて突起26が突出している。この左右一対の突起26の対向間隔は、ガイド部52の左右方向寸法と略同一に形成されているため、突起26とガイド部52との接触によって鍵2の左右の変位が規制される。よって、図2及び図4に示すように、鍵2が押鍵されて鍵軸部51回りに変位した際には、突起26とガイド部52との接触(摺動)によって鍵2の変位をガイドできる。
【0021】
図3に示すように、白鍵2aの変位をガイドするガイド部52の左右方向における寸法L1は、黒鍵2bの変位をガイドするガイド部52の左右方向における寸法L2よりも大きく形成される。これに伴い、白鍵2aの一対の突起26同士の対向間隔も、黒鍵2bの一対の突起26同士の対向間隔よりも広く形成される。よって、白鍵2aの変位をガイドするガイド部52に対しては、黒鍵2bを装着できないように構成されている。これにより、誤った位置に黒鍵2bが組み付けられることを抑制できるので、鍵2の組み付け作業の作業性を向上できる。
【0022】
また、白鍵2aをガイドするガイド部52の左右方向寸法L1を大きく形成する(ガイド幅を広く確保する)ことにより、白鍵2aの押鍵時に良好な演奏感を付与できる。即ち、図1に示すように、白鍵2aは、鍵軸部51側の幅狭部(黒鍵2bに隣合う部位)と、その幅狭部の前端に接続され、幅狭部よりも左右方向寸法の大きい幅広部(黒鍵2bよりも前方側の部位)とから構成されるため、幅広部が押鍵された際には、白鍵2aにローリングが生じ易くなる。ローリングとは、押鍵時に白鍵2aが前後方向の軸回りに回転する(傾く)ことである。これに対し、白鍵2aをガイドするガイド部52の左右方向寸法L1を大きく確保することにより、白鍵2aのローリングを規制し易くできるので、良好な演奏感を付与できる。
【0023】
また、図2及び図4に示すように、鍵軸部51回りの鍵2の変位は、前部ガイド45によってもガイドされる。前部ガイド45は、シャーシ4の支持部41から上方に突出しており、一対の側板21の間に挿入される。これにより、一対の側板21の内面と前部ガイド45との接触(摺動)によって鍵2の左右の変位が規制されるので、鍵軸部51回りの鍵2の変位を前部ガイド45によってガイドできる。
【0024】
前部ガイド45が鍵2の前後方向中央よりも前方側に設けられ、ガイド部52が鍵軸部51の近傍(左右方向視で重なる位置)に設けられるため、鍵2の変位を前後に離れた2点でガイドできる。よって、鍵軸部51回りの鍵2の変位を安定してガイドできる。
【0025】
鍵2が押鍵された際には、鍵2の下方に配置されたスイッチ7が鍵2によって押し込まれる(図4参照)。このスイッチ7のオン/オフ動作によって鍵2の押鍵情報(ノート情報)が検出され、その検出結果に基づく楽音信号が外部に出力される。
【0026】
また、鍵2の下方には、シャーシ4の支持部41に固定される緩衝材46,47が設けられるため、鍵2によってスイッチ7が押し込まれた押鍵の終端位置では、スイッチ7及び緩衝材46,47の各々に鍵2が接触した状態となる。緩衝材46(又は緩衝材47)と支持部41との間には、図示しない感圧センサが設けられているため、鍵2によって緩衝材46が押し込まれた時の圧力が感圧センサで検出される。
【0027】
そして、本実施形態では、鍵2が所定の深さで押鍵されたことがスイッチ7で検出された場合(スイッチ7がオンになった時)には、通常の楽音を生成する一方、それよりも深く(強く)押鍵されたことが感圧センサで検出された場合(感圧センサで所定の圧力が検出された場合)には、通常とは異なる楽音を生成するように構成されている。通常と異なる楽音とは、例えば、異なる音色の楽音や、効果(音量の変化やビブラート)を付与した楽音である。
【0028】
このように、鍵2の押鍵が所定の深さ(強さ)で押鍵された時(第1状態)と、それよりも深く(強く)押鍵された時(第2状態)とで異なる楽音を生成する構成の場合、押鍵の終端位置から更に鍵2が押し込まれる演奏が行われる。押鍵の終端位置で鍵2の変位を規制するスイッチ7及び緩衝材46,47は、それぞれ鍵軸部51よりも前方側に位置しているため、コイルばね6の弾性力を超える力で鍵2が押鍵されると、スイッチ7や緩衝材46,47を支点にして鍵2が鍵軸部51から浮き上がることがある。鍵2が鍵軸部51から浮き上がると、その分、スイッチ7や感圧センサを押し込む力が弱まるため、鍵2の押鍵が所定の深さで押鍵された時と、それよりも深く押鍵された時とを精度良く検出(判別)することができない。そこで、本実施形態では、この鍵2の浮き上がりをストッパ27によって規制する構成を採用している。
【0029】
図2及び図3に示すように、ストッパ27は、鍵2の上板20の下面に接続される基部27aと、その基部27aの下端から前方側に突出するフック27b(図2の拡大部分参照)と、を備え、樹脂材料を用いて鍵2と一体的に形成される。基部27aは、上板20の左右方向における中央部分から下方に延びており(図3参照)、基部27aとガイド部材5のガイド部52とが前後に対面するように構成される。
【0030】
ガイド部52の後面には、上下に延びる溝状の凹部53が形成されており、この凹部53にストッパ27のフック27bが挿入される。これにより、上述した鍵2の浮き上がりをフック27bと凹部53の上端部(凹部53の上端面)との引っ掛かりによって規制できる。これにより、上述したような鍵2の押鍵の深さに応じて異なる楽音を生成する場合においても、押鍵の終端位置(図4の状態)から更に鍵2が押し込まれた時に鍵軸部51から鍵2が浮き上がることを抑制できる。よって、鍵2がどの程度の深さ(強さ)で押鍵されているかをスイッチ7や感圧センサで精度良く検出できるので、演奏者に良好な演奏感を付与できる。
【0031】
このように、ガイド部材5に形成された凹部53と、フック27bと引っ掛かりによって鍵2の浮き上がりを規制することにより、鍵2の浮き上がりを規制する機能と、鍵2の変位をガイドする機能とをガイド部材5に持たせることができる。
【0032】
この場合、例えば、フック27bよりも前方側に突起26を形成し、その突起26とガイド部52との接触によって鍵2の変位をガイドすることも可能である。しかしながら、そのような構成では、フック27bを引っ掛けるための凹部53と、突起26を摺動させるためのガイド面とを前後で離れた位置に形成する(ガイド部52の側面を前後に長く確保する)必要があるため、ガイド部52が大型化する。
【0033】
これに対して本実施形態では、突起26とフック27bとが左右方向視で重なる位置に形成される。即ち、ガイド部52の側面に接触する突起26の先端面(鍵2の被ガイド面)が、左右方向視でフック27bと重なる(上下に並ぶ)位置に形成されるので(図2参照)、フック27bを引っ掛けるための凹部53と、突起26を摺動させるためのガイド面とを近接した位置に形成できる。これにより、ガイド部52の前後方向寸法を小さくできるので、ガイド部材5を小型化できる。そして、このように小型化されたガイド部材5に対し、鍵軸部51と上下に並ぶ位置で変位するフック27bが引っ掛けられるため、鍵軸部51よりも前方側や後方側の領域において、他の部材の配置スペースに制約が生じることを抑制できる。よって、鍵盤装置1の設計の自由度を向上できる。
【0034】
図2及び図4に示すように、鍵2が押鍵された際には、ストッパ27も鍵軸部51回りに変位するが、押鍵途中のストローク領域では、フック27bと凹部53の上端部とが接触していないことが好ましい。これは、そのような接触が押鍵途中で生じると、良好な演奏感を付与できなくなると共に、凹部53との接触による荷重でフック27bが破損し易くなるためである。
【0035】
一方、押鍵の終端位置(図4の状態)では、フック27bが凹部53の上端部に接触するか、若しくは、フック27bと凹部53の上端部との間に極僅かな隙間が形成されることが好ましい。これは、押鍵の終端位置でフック27bと凹部53の上端部との間に大きな隙間が形成されていると、鍵軸部51から鍵2が浮き上がった時にフック27bと凹部53の上端部とが接触(衝突)するため、演奏者に良好な演奏感を付与できないためである。
【0036】
この場合、上述した通り、押鍵時にはフック27bも鍵軸部51回りに変位するため、例えば、フック27bを鍵軸部51よりも後方側に配置すると、押鍵時にフック27bが前方斜め上側に向けて円弧状の軌跡を描いて変位する。このように変位させる構成の場合、上下方向におけるフック27bの変位量が大きくなるため、押鍵途中にフック27bと凹部53の上端部とが接触し易くなる。
【0037】
また、各部品の寸法公差や組み付け誤差の積み重なりにより、押鍵前の初期位置におけるフック27bと凹部53との隙間にはバラつきが生じる。よって、フック27bを上下に大きく変位させる構成の場合、押鍵途中におけるフック27bと凹部53の上端部との接触を抑制するためには、かかる隙間を押鍵前の初期位置において大きく確保する必要がある。これに伴い、その隙間が押鍵の終端位置においても大きく形成され易くなるため、押鍵の終端位置から鍵2が更に押鍵された時に、フック27bと凹部53の上端部とが接触(衝突)し、演奏者に良好な演奏感を付与することができない。
【0038】
これに対して本実施形態では、押鍵前の初期位置において、フック27bと鍵軸部51の頂とが左右方向視で上下に並ぶ位置に形成される。即ち、左右方向視において、押鍵前の初期位置から終端位置にかけて鍵軸部51と上下に並ぶ位置でフック27bを変位させる構成であるため、フック27bを鍵軸部51よりも後方側に配置する場合に比べ、フック27bの上下方向における変位量を小さくできる。よって、押鍵前の初期位置でフック27bと凹部53の上端部との隙間を小さくしても、押鍵途中でフック27bが凹部53の上端部に接触することを抑制できる。また、フック27bと凹部53の上端部との隙間を押鍵の終端位置においても小さくできるので、押鍵の終端位置から更に鍵2が押鍵され、フック27bと凹部53の上端部とが接触(衝突)しても、その接触による演奏感の悪化を抑制できる。
【0039】
ここで、白鍵2aは、黒鍵2bよりも前方側に長く形成されるため、白鍵2aの演奏時には、黒鍵2bの演奏時に比べてスイッチ7(緩衝材46,47)から離れた前方側で押鍵されることが多い。押鍵される位置(力点)がスイッチ7(支点)から離れていると、スイッチ7を支点にして鍵2が鍵軸部51から浮き上がった時に、フック27bと凹部53の上端部との接触部分(作用点)に作用する荷重が大きくなる。そして、この荷重は、ストッパ27の基部27aに作用する。つまり、白鍵2aのストッパ27の基部27aには、黒鍵2bに比べて押鍵時に作用する荷重が大きくなり易い。
【0040】
これに対して本実施形態では、上述した通り、白鍵2aをガイドするガイド部52の左右方向寸法L1(図3参照)が大きく確保されているため、その分、白鍵2aのストッパ27の基部27a(フック27b)の左右方向寸法L3を、黒鍵2bの基部27a(フック27b)よりも大きく形成できる。これにより、白鍵2aに設けられるストッパ27(基部27a)の剛性を確保できるので、白鍵2aの押鍵時にフック27bが凹部53の上端部に接触しても、ストッパ27が破損することを抑制できる。
【0041】
このように、本実施形態では、ガイド部52に形成された凹部53にフック27bを引っ掛けているが、例えば、単にフック27bを引っ掛けることを目的とするのであれば、ガイド部52の後面に穴(溝状ではなく、フック27bを取り囲む凹み)を形成する構成でも良い。これに対し、本実施形態では、凹部53を上下に延びる溝状に形成すると共に、凹部53に連なる貫通孔54をガイド部材5に形成している。これは、ガイド部52にアンダーカットが生じないように構成するためである。
【0042】
即ち、図1に示すように、ガイド部52は、複数の鍵2毎に設けられているが、それら複数のガイド部52は、ベース部50及び鍵軸部51と共に樹脂材料を用いて一体成形されており、部品点数の低減を可能にしている。この一体成形は、ガイド部材5を上下から挟み込む上型および下型によって行われるが、例えば、図1の拡大部分に示す貫通孔54が形成されていない構成であると、凹部53がアンダーカットになるため、上型および下型に加え、凹部53を形成するためのスライドコア(中子)が必要になる。よって、ガイド部材5を成形するための金型が複雑化する。
【0043】
これに対して本実施形態では、ベース部50及び鍵軸部51を上下に貫通して凹部53に連なる貫通孔54が形成される。貫通孔54の左右方向寸法は、凹部53の左右方向寸法と同一であり(図3参照)、貫通孔54の前後方向寸法は、凹部53の前後方向寸法よりも大きく形成されている(図2参照)。そして、凹部53の凹みに沿って(段差が生じないように)貫通孔54が上下に延びているため、それらの凹部53及び貫通孔54を形成するためのスライドコアを不要にできる(凹部53及び貫通孔54に対応する凸部を下型に形成することで、凹部53及び貫通孔54を形成できる)。よって、ガイド部材5を成形するための金型コストを低減できる。
【0044】
また、凹部53が上下に延びる溝状に形成されているため、凹部53を挟んだ左右の両側には、上下に延びる一対の側壁55が形成される。この上下に延びる側壁55を利用して鍵2(突起26)の変位をガイドしているため、例えば、一対の側壁55を省略する構成に比べ、鍵2の変位をガイドするガイド面を広く確保できる。よって、鍵2の変位を安定してガイドできる。
【0045】
ここで、図2を参照して、ガイド部材5に対して鍵2を着脱する方法について説明する。鍵2をガイド部材5に組み付ける際には、鍵2の一対の側板21(突起26)の間にガイド部52を挿入しつつ、鍵軸部51の後方側から(矢印F方向に)、切欠き23を鍵軸部51の頂に滑らせるように嵌め込む。
【0046】
ガイド部52の後面(凹部53が非形成となっている領域)が鍵軸部51の頂から上方に延び、切欠き23の頂部よりもフック27bが前方側に突出しているため、切欠き23を鍵軸部51に滑らせている間は、フック27bがガイド部52の後面(凹部53よりも上方側の面)に接触する。この接触時には、ストッパ27の基部27aが後方側に湾曲した(弾性変形した)状態となる。そして、切欠き23と鍵軸部51との頂がほぼ一致した時に、フック27bが凹部53に挿入され、弾性変形した基部27aが元の状態に戻る。これにより、ガイド部材5への鍵2の組み付けが完了する。
【0047】
一方、鍵2をガイド部材5から取り外す際には、鍵2を後方側(矢印B側)に向けて押し込み、鍵軸部51の頂に沿って切欠き23を滑らせる。この時、鍵軸部51の傾斜に沿う切欠き23の摺動によって鍵2が上方に変位するため、フック27bと凹部53の上端部とが接触する。この接触時においても、ストッパ27の基部27aが弾性変形した状態となる。そして、凹部53からフック27bが外れると、弾性変形した基部27aが元の状態に戻るようになっている。
【0048】
このように、本実施形態では、ストッパ27の基部27aの弾性変形を利用して、ガイド部材5に対する鍵2の着脱を可能にしている。よって、かかる弾性変形を生じさせ易くするために、基部27aの前後方向における寸法L4は、基部27aの左右方向における寸法L3(図3参照)よりも小さく形成されている。これにより、基部27aが弾性変形し易くなるので、ガイド部材5に対する鍵2の着脱を容易にできる。
【0049】
以上、上記実施形態に基づき説明をしたが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0050】
上記実施形態では、鍵盤装置1がシンセサイザとして構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。上記実施形態の技術思想は、他の電子楽器(例えば、電子ピアノや電子オルガン)においても適用できる。よって、例えば、スイッチ7のオン/オフのみよって楽音を生成する鍵盤装置1に上記実施形態の構成を適用しても良い。
【0051】
上記実施形態では、鍵2の押鍵が所定の深さで押鍵された第1状態と、それよりも深く押鍵された第2状態とを2つのセンサ(スイッチ7及び感圧センサ)によって検出する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、1又は3以上のセンサによって第1状態および第2状態を検出する構成でも良い。例えば、1つのセンサで第1状態および第2状態を検出する場合には、所定の圧力が感圧センサで検出された場合と、それよりも高い圧力が感圧センサで検出された場合とで異なる楽音を生成すれば良い。
【0052】
上記実施形態では、鍵2の押鍵が所定の深さで押鍵された第1状態と、それよりも深く押鍵された第2状態との2つの状態を検出する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、第2状態よりも深く(強く)押鍵された第3状態や、その第3状態よりも深く押鍵された第4状態を検出し、それらの状態に応じて異なる楽音を生成する構成でも良い。
【0053】
上記実施形態では、鍵2の側板21の内面に突起26を形成する場合、即ち、突起26の先端面が「鍵2の被ガイド面」である場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、突起26を省略し、ガイド部52の側面によって側板21の内面を直接ガイドする構成でも良い。この構成の場合には、側板21の内面のうち、押鍵時にガイド部52の側面と摺動する部位(押鍵前の初期位置においてガイド部52の側面に接触する部位)が「鍵2の被ガイド面」に相当する。
【0054】
上記実施形態では、ストッパ27の基部27aの下端側から前方側に向けてフック27bが突出する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、基部27aから左右の両側(又は左右のいずれか一方)にフック27bが突出する構成でも良い。この場合には、基部27aを通すことが可能な上下に延びる凹み(ガイド部52の後面に形成される凹みであって、凹部53よりも左右方向寸法が小さいもの)を凹部53の上端部に連なるように形成し、左右に突出するフック27bを凹部53の上端部に引っ掛けるように構成すれば良い。この構成によれば、上記実施形態に比べ、ストッパ27(基部27a)とガイド部52とを近付けて配置できるので、他の部材の配置スペースに制約が生じることをより効果的に抑制できる。
【0055】
上記実施形態では、押鍵前の初期位置において、フック27bと鍵軸部51とが上下に並ぶ(上下方向視において、鍵軸とフック27bとが重なる)位置に形成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、押鍵前の初期位置や押鍵途中において、フック27bが鍵軸部51の頂よりも後方側に位置する(押鍵の終端位置に達する前の押鍵途中において、フック27bを鍵軸部51の頂よりも後方側で変位させる)構成でも良い。
【0056】
即ち、少なくとも押鍵の終端位置において、フック27bが鍵軸部51と上下に並ぶ位置に形成される(上下方向視において、鍵軸とフック27bとが重なる)構成であれば、鍵軸部51よりも前方側や後方側の領域で、他の部材の配置スペースに制約が生じることを抑制できる。なお、上記実施形態の鍵軸部51は、貫通孔54が形成されることによって左右に断続的に形成されているが、それら複数の鍵軸部51の頂同士を左右に結ぶ仮想的な直線が鍵2の「鍵軸(搖動軸)」である。よって、上記実施形態では、フック27bと鍵軸部51の頂とは上下に並ぶ位置に形成されていないが、フック27bと「鍵軸」とは上下に並ぶ位置に形成されるものである。
【0057】
上記実施形態では、ガイド部材5のベース部50、鍵軸部51、及び、ガイド部52が一体に形成される(1部品である)場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、鍵軸部51やガイド部52を別部品とする構成でも良い。
【0058】
上記実施形態では、シャーシ4とガイド部材5とが別部品である場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、ガイド部材5の一部または全部をシャーシ4の一部(シャーシ4側の部品)として構成しても良い。よって、例えば、図2に示す前部ガイド45のような形態でガイド部(ガイド部52に相当するもの)を上方に突出させ、その突出先端部分を後方側に折り曲げることでフック27bを引っ掛ける構成でも良い。また、例えば、鍵軸部51に相当する部位をシャーシ4から突出させる構成でも良い。これらの構成の場合には、必要に応じてベース部50(鍵軸部やガイド部をシャーシに固定するためのもの)を省略すれば良い。
【0059】
上記実施形態では、凹部53がガイド部材5の下端まで延びる溝(凹部53に連なる貫通孔54が形成される構成)であり、凹部53を挟んだ左右両側に一対の側壁55が形成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、貫通孔54を省略して凹部53を単に凹み(孔)として形成したり、一対の側壁55を省略したりする構成でも良い。また、凹部53は、上下に延びる溝状の貫通孔(ガイド部52を前後に貫通するもの)であっても良い。即ち、フック27bを引っ掛けることができる凹み又は凸をガイド部52に設ける構成であれば、上記の形態に限定されるものではない。
【0060】
上記実施形態では、貫通孔54の左右方向寸法が凹部53の左右方向寸法と同一であり、貫通孔54の前後方向寸法が凹部53の前後方向寸法よりも大きく形成される(凹部53と貫通孔54との境界部分に段差が生じない)場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。貫通孔54の左右および前後の各寸法が、凹部53の左右および前後の各寸法以上に設定される構成であれば、凹部53と貫通孔54との境界部分に段差が生じていても、凹部53及び貫通孔54を下型によって(スライドコアを不要にして)形成できる。
【0061】
上記実施形態では、白鍵2aをガイドするガイド部52の左右方向寸法L1が、黒鍵2bをガイドするガイド部52の左右方向寸法L2よりも大きく形成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、白鍵2aをガイドするガイド部52の左右方向寸法L1が、黒鍵2bをガイドするガイド部52の左右方向寸法L2よりも小さい構成や、それらの左右方向寸法L1,L2を同一にする構成でも良い。
【0062】
上記実施形態では、緩衝材44,46,47の材質の例示を省略したが、緩衝材44,46,47は、フェルトや発泡ウレタン等、公知のものを用いれば良い。
【符号の説明】
【0063】
1 鍵盤装置
2 鍵
2a 白鍵(鍵)
2b 黒鍵(鍵)
26 突起(鍵の被ガイド面を構成する部位)
27 ストッパ
27a 基部
27b フック
5 ガイド部材
50 ベース部
51 鍵軸部(鍵軸)
52 ガイド部
53 凹部
54 貫通孔
55 側壁
7 スイッチ(センサ)
S 空洞
図1
図2
図3
図4