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特許7476136情報処理装置、情報処理方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06N 20/00 20190101AFI20240422BHJP
【FI】
G06N20/00 130
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021072646
(22)【出願日】2021-04-22
(65)【公開番号】P2022167097
(43)【公開日】2022-11-04
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智之
【審査官】山本 俊介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-141895(JP,A)
【文献】山崎 悟史ほか,積算値と差分値を用いる回帰分析による収穫量推定-施設栽培イチゴへの基礎検討-,電子情報通信学会論文誌D,日本,電子情報通信学会,2018年10月01日,Vol.J101-D No.10,pp.1466-1470
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 3/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の変数を含む時系列データを記憶する記憶部と、
前記変数の時間微分値を算出する時間微分値算出部と、
前記変数の初期値からの変動を示す差分を算出する変動差分算出部と、
前記時間微分値と前記差分とを学習データとして用いる機械学習によって、線形回帰式の係数を推定する推定部と、
前記線形回帰式を出力する出力制御部と、
を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記学習データに含まれる前記時間微分値の総和は、前記差分の総和よりも大きい、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記変数に基づいて、非線形関数を生成する非線形関数生成部と、
前記非線形関数を基底関数として、前記線形回帰式を生成する回帰式生成部と、
を更に備える請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記1以上の変数は、従属変数及び独立変数の少なくとも一方を含む、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記線形回帰式の左辺は、前記従属変数の時間微分である、
請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記1以上の変数は、正規化されていない値を有する、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記変数の値は、前記変数が示す物理量毎に統一された単位により表される、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記記憶部は、複数の種類の前記時系列データを記憶し、
前記複数の種類の時系列データは、初期条件及び境界条件の少なくとも一方が異なる時系列データである、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項9】
1以上の変数を含む時系列データを記憶するステップと、
前記変数の時間微分値を算出するステップと、
前記変数の初期値からの変動を示す差分を算出するステップと、
前記時間微分値と前記差分とを学習データとして用いる機械学習によって、線形回帰式の係数を推定するステップと、
前記線形回帰式を出力するステップと、
を含む情報処理方法。
【請求項10】
コンピュータを、
1以上の変数を含む時系列データを記憶する記憶部と、
前記変数の時間微分値を算出する時間微分値算出部と、
前記変数の初期値からの変動を示す差分を算出する変動差分算出部と、
前記時間微分値と前記差分とを学習データとして用いる機械学習によって、線形回帰式の係数を推定する推定部と、
前記線形回帰式を出力する出力制御部、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は情報処理装置、情報処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
物理現象をモデル化する技術が従来から知られている。例えば、機械学習の一種である関数同定問題を応用し、時系列データから物理現象を記述する数理モデルを獲得する技術がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】S.L.Brunton,J.L.Proctor,J.N.Kutz,”Discovering governing equations from data by sparse identification of nonlinear dynamical systems”,Proc.Natl.Acad.Sci.,113 (2016),pp.3932-3937
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、物理現象のモデルの生成精度をより向上させることが難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の情報処理装置は、記憶部と時間微分値算出部と変動差分算出部と推定部と算出部と修正部と出力制御部とを備える。記憶部は、1以上の変数を含む時系列データを記憶する。時間微分値算出部は、前記変数の時間微分値を算出する。変動差分算出部は、前記変数の初期値からの変動を示す差分を算出する。推定部は、前記時間微分値と前記差分とを学習データとして用いる機械学習によって、線形回帰式の係数を推定する。出力制御部は、前記線形回帰式を出力する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】ある熱流体解析結果から得られた部品の温度変化の例を示す図。
図2】タイムステップ(Δt)について説明するための図。
図3】実施形態の情報処理装置の機能構成の例を示す図。
図4】実施形態のモデルの生成方法の例を示すフローチャート。
図5】熱流体解析対象のパワエレ機器の例を示す図。
図6】電子機器の部品構成の例を示す図。
図7】ヒートシンクの温度計測箇所の例を示す図。
図8】パワエレ機器のチップの数及び位置の例を示す図。
図9】実施形態の情報処理装置により生成されたモデルに入力される未知の入力データの例1を示す図。
図10】実施形態の情報処理装置により生成されたモデルによる予測結果の例1(入力データの例1が入力された場合)を示す図。
図11A】実施形態の情報処理装置により生成されたモデルに入力される未知の入力データの例2を示す図。
図11B】実施形態の情報処理装置により生成されたモデルに入力される未知の入力データの例2を示す図。
図12】実施形態の情報処理装置により生成されたモデルによる予測結果の例2(入力データの例2が入力された場合)を示す図。
図13】実施形態の情報処理装置のハードウェア構成の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に添付図面を参照して、情報処理装置、情報処理方法及びプログラムの実施形態を詳細に説明する。
【0008】
関数同定問題を発展させた非特許文献1では、真のモデルが非線形項の線形結合で表現できるという下記式(1)の仮定を置く。
【0009】
【数1】
【0010】
実施形態の情報処理装置においても、上記式(1)を採用し、真のモデルが非線形項の線形結合で表現できると仮定する。そして、実施形態の情報処理装置は、非線形関数の候補で構成された下記式(2)のライブラリの係数Ξを、機械学習技術を用いて推定する。
【0011】
【数2】
【0012】
実施形態の情報処理装置は、このライブラリで探索空間を定めることによって、学習に要する時間と、学習に必要なデータの大幅な削減とを達成する。
【0013】
以下の実施形態の説明では、物理現象のモデルとして、熱回路網のモデルを生成することを考える。下記式(3)により表される熱回路網法の節点方程式は、温度の時間変化を非線形項の線形結合として表現可能である。
【0014】
【数3】
【0015】
そこで、右辺に比例する基底関数の候補から成るライブラリを考えて、機械学習技術で係数を推定する方法が考えられる。具体的には、上記式(3)の右辺を下記式(4)のように表現して係数Ξを推定する。
【0016】
【数4】
【0017】
与えられた基底関数の係数Ξのほとんどはゼロである。したがって、機械学習技術の一種であるスパース推定技術を用いて係数推定することになる。
【0018】
係数を推定する際には、データへの当てはまり具合が指標の1つになる。一般的には、データへの当てはまり具合の指標としては、二乗和誤差が採用される。例えば二乗和誤差にL1ノルムの項を追加した式を損失関数にすると、下記式(5)のlassoというスパース推定技術になる。
【0019】
【数5】
【0020】
この二乗和誤差は重み無しの加重和法なので、左辺の大きさの影響を強く受ける。左辺が温度勾配(温度の時間微分)であり、熱流体解析結果を学習する場合を想定する。熱流体解析を効率よく行うために、一般に、長さの異なる不定のタイムステップ(Δt)が採用される。つまり、温度変化が激しい時間帯はΔtを細かくして計算され、温度変化が緩やかな時間帯はΔtを大きくして計算される。
【0021】
図1は、ある熱流体解析結果から得られた部品の温度変化の例を示す図である。図1の部品Dの例では、例えば0.01sまでの温度変化が激しい時間帯は、タイムステップ(Δt)を細かくして計算され、例えば0.1s~1sまでの温度変化が緩やかな時間帯は、タイムステップ(Δt)を大きくして計算される。熱流体解析対象の温度変化は、図1のように、時間のオーダー(桁数)毎に、同じくらいのデータ点数となるように、タイムステップ(Δt)を不定にすることが多い。
【0022】
すると、温度勾配を差分法などで計算すると、その範囲は非常に広くなる。つまり、温度変化が激しい時間帯の温度勾配>>温度変化が緩やかな時間帯の温度勾配になり、係数推定は温度変化が激しい時間帯の影響を強く受ける。また、学習したモデルを設計のために用いる場合は超長期先予測を行う必要があるため、短期先の予測精度が高いだけでは不十分である。しかしながら,上述の式(3)は温度依存性をもつため、データを単純に間引いてΔtを大きくすることは望ましくない。
【0023】
図2は、タイムステップ(Δt)について説明するための図である。図2の例では、時刻t(0)から時刻t(5)までの温度T(0)~T(5)が示されている。例えば、図2の場合では、温度T(0)~T(5)から、単純に温度T(1)~T(4)を間引いて、タイムステップ(Δt)を大きくし、下記式(6)の前進差分、及び、下記式(7)の後進差分等をとることは望ましくない。
【0024】
【数6】
【0025】
【数7】
【0026】
そこで、実施形態の情報処理装置1では、初期温度からの変化量の式に現れる係数が上記式(4)の係数Ξと一致することに注目し、短期成分である温度の時間微分と、長期成分である初期温度からの変化量(差分)とを混合して、学習データとして用いる。
【0027】
以下、物理現象のモデルの生成精度をより向上させることができる実施形態の情報処理装置の動作例の詳細について説明する。
【0028】
[機能構成の例]
図3は実施形態の情報処理装置1の機能構成の例を示す図である。実施形態の情報処理装置1は、記憶部11と時間微分値算出部12と変動差分算出部13と非線形関数生成部14と回帰式生成部15と推定部16と出力制御部17とを備える。
【0029】
記憶部11は、従属変数及び独立変数の少なくとも一方を含む時系列データを記憶する。従属変数(目的変数)は、独立変数(説明変数)に依存して定まる変数である。独立変数は、従属変数の変化の要因を示す変数である。従属変数は、例えば電子部品及びヒートシンクなどの温度である。独立変数は、例えば、電子部品を冷却するファンの風の強さを示す風速、電子部品に流れる電流、及び、電子部品に入力される電圧等である。
【0030】
実施形態の情報処理装置1では、従属変数の値は、従属変数が示す物理量毎に統一された単位により表される。例えば、物理量が重さであれば、kgにより表された従属変数と、gにより表された従属変数とを混在させずに、kg又はgに統一する。同様に、独立変数の値は、独立変数が示す物理量毎に統一された単位により表される。
【0031】
なお、記憶部11は、複数の種類の時系列データを記憶してもよい。複数の種類の時系列データは、初期条件及び境界条件の少なくとも一方が異なっていてもよい。
【0032】
時間微分値算出部12は、時系列データに含まれる変数(従属変数又は独立変数)の時間微分値を算出する。時系列データに含まれる変数の時間微分値は、上記式(4)の形で表された学習データとして用いられる。
【0033】
変動差分算出部13は、時系列データに含まれる変数の初期値からの変動を示す差分を算出する。具体的には、変動差分算出部13は、上記式(4)の左辺を1次精度、例えば前進微分で離散化して、下記式(8)を算出する。
【0034】
【数8】
【0035】
ここで、上記式(8)中の上付き文字は時間を示す。変動差分算出部13は、上記式(8)を下記式(9)に変形することによって、変数の初期値からの変動を示す差分を算出する。
【0036】
【数9】
【0037】
時系列データに含まれる初期値からの変動を示す差分は、上記式(9)の形で学習データとして用いられる。
【0038】
非線形関数生成部14は、従属変数及び独立変数の少なくとも一方に基づいて、非線形関数を生成する。非線形関数生成部14は、例えば、位置iの温度Tと、位置jの温度Tとに基づいて、非線形関数を生成する。
【0039】
回帰式生成部15は、非線形関数生成部14により生成された非線形関数を基底関数とした線形回帰式を生成する。
【0040】
推定部16は、回帰式生成部15により生成された線形回帰式の係数を、時間微分値と差分とを学習データとして用いる機械学習によって推定する。具体的には、推定部16は、上記式(4)の形で表された学習データ、及び、上記式(9)の形で表された学習データの両方を用いて、機械学習によって線形回帰式の係数を推定する。
【0041】
上記式(4)の係数Ξと、上記式(9)の係数Ξとは同じである。上記式(6)のメリットは、非線形な基底関数、及び、長さの異なる不定なタイムステップ(Δt)を扱えることである。時系列データを、上記式(4)及び(9)の形に変形して混合し、学習データとして用いることで、短期成分と長期成分とを考慮した学習が可能になる。これにより、短期成分しか考慮しない場合に比べて、学習によって生成されるモデルによる長期先の予測精度をより向上させることができる。
【0042】
なお、仮に、短期成分しか考慮しない場合、モデルの長期先の予測精度が悪化する。逆に、仮に、長期成分しか考慮しない場合、モデルの短期先の予測精度が悪化し、短期先の予測が合わないので、モデルの長期先の予測精度も悪化する。
【0043】
なお、機械学習で用いられる最小二乗法は、重み調整を無視した加重和法なので、下記式(10)となるように、学習データを前処理することが、モデルの精度をより向上させるためには重要になる。
【0044】
【数10】
【0045】
ここで、iはデータ数、αは重みであり、α>1である。すなわち、学習データに含まれる変数の時間微分値の総和を、変数の初期値からの変動を示す差分の総和よりも大きくする。
【0046】
また、実施形態の例では、候補の基底関数は、例えば下記式(11)の右辺のように変数同士の足し算引き算を含み、それらの演算結果が物理的な意味を持つため、変数(従属変数及び独立変数)を正規化していると不都合が生じる。そのため、推定部16は、変数の正規化を必要としない機械学習方法によって、線形回帰式の係数を推定する。
【0047】
【数11】
【0048】
出力制御部17は、所定の収束条件を満たした場合、修正された係数により表された線形回帰式を出力する。所定の収束条件は、例えば機械学習処理の繰り返し回数等である。
【0049】
[モデルの生成方法の例]
図4は実施形態のモデルの生成方法の例を示すフローチャートである。はじめに、時間微分値算出部12は、時系列データに含まれる変数(従属変数又は独立変数)の時間微分値を算出する(ステップS1)。次に、変動差分算出部13は、時系列データに含まれる変数の初期値からの変動を示す差分を算出する(ステップS2)。
【0050】
次に、情報処理装置1は、モデルを機械学習する際に使用されるデータ(例えばハイパーパラメーター等)を初期化する(ステップS3)。
【0051】
次に、推定部16は、回帰式生成部15により生成された線形回帰式の係数を、ステップS1で算出された時間微分値と、ステップS2で算出された差分とを学習データとして用いる機械学習によって推定する(ステップS4)。具体的には、時系列データに含まれる変数の時間微分値は、上述の式(4)の形で学習データとして用いられ、時系列データに含まれる変数の初期値からの変動を示す差分は、上述の式(9)の形で学習データとして用いられる。
【0052】
ステップS4の推定処理に用いられる学習データは、例えば、学習データ全体の中から、ランダムに一部のデータが選択されてもよい。また例えば、ステップS4の推定処理に用いられる学習データは、学習データに含まれる未使用のデータから順番に選択されてもよい。
【0053】
次に、推定部16は、係数の推定処理の結果が、収束条件を満たしたか否かを判定する(ステップS5)。収束条件は、例えば係数の推定処理の実行回数である。
【0054】
収束条件を満たしていない場合(ステップS5,No)、処理はステップS4に戻る。収束条件を満たした場合(ステップS5,Yes)、出力制御部17が、モデルの性能評価指標を算出する(ステップS6)。次に、出力制御部17は、学習されたモデルが、収束条件を満たしたか否かを判定する(ステップS7)。収束条件は、例えばモデルの学習処理(ステップS4~S6)の実行回数である。また例えば、収束条件は、ステップS6の処理によって算出された性能評価指標が、所定の評価閾値より大きい場合である。収束条件を満たしていない場合(ステップS7,No)、ハイパーパラメーターを更新し(ステップS8)、ステップS4に戻る。
【0055】
収束条件を満たした場合(ステップS7,Yes)、出力制御部17が、モデルを出力する(ステップS9)。
【0056】
[効果の説明]
次に、実施形態の情報処理装置1により生成されたモデルの精度について説明する。
【0057】
図5は熱流体解析対象のパワエレ機器100の例を示す図である。パワエレ機器100は、ヒートシンク101及び電子機器102を備える。ヒートシンク101は、電子機器102を冷却する。ヒートシンク101には、ファンから風が送られる。電子機器102は、パワエレ機器100の動作を制御する。パワエレ機器100は、例えばパワーモジュールである。
【0058】
実施形態の情報処理装置1は、例えば、パワエレ機器100を対象とした熱流体解析を60節点の温度履歴を含む時系列データを用いて、上述の機械学習を行うことによって、例えば、数百万節点の熱流体解析を60節点で表現するモデルを生成する。
【0059】
図6は電子機器102の部品構成の例を示す図である。電子機器102は、チップ103、接合部材104、部品105、部品106、部品107、接合部材108及び部品109を備える。
【0060】
図7はヒートシンク101の温度計測箇所(節点)の例を示す図である。ヒートシンク101の温度履歴は、節点121~127等を含む複数の節点で計測される。
【0061】
図8は、パワエレ機器100のチップ103の数及び位置の例を示す図である。パワエレ機器100では、例えば1番目から12番目のチップ103が、図8のような配置で搭載される。1番目から12番目の位置にあるチップ103を、それぞれチップ_1~チップ_12と表す。
【0062】
以下に説明する実施形態の情報処理装置1により生成されたモデルの有効性の検証例では、入力データを73変数(チップ_1~チップ_12のチップ発熱量、ヒートシンクに風を送付するファンの風速、及び、60箇所(節点)の初期温度)とし、出力データを60変数(60箇所の温度)としている。また、学習データは、12回の熱流体解析結果である。学習データの範囲は、発熱量が1~69W、ファンの風速が1.0~2.0m/sである。評価データ(学習データには含まれていない未知の入力データ)の範囲は、発熱量が0~80W、ファンの風速が1.5~3.5m/sである。
【0063】
図9は実施形態の情報処理装置1により生成されたモデルに入力される未知の入力データの例1を示す図である。vは、ヒートシンク101に送られる風の速度(風速)を示す。Q1~Q12は、チップ_1~チップ_12の発熱量を示す。
【0064】
図10は実施形態の情報処理装置1により生成されたモデルによる予測結果の例1(入力データの例1が入力された場合)を示す図である。図10の例では、チップ_1、チップ_6及びチップ_12のそれぞれに含まれる節点、並びに、ヒートシンク101の節点122及び127の温度変化の予測結果を示す。点線は、モデルによる予測結果を示す。実線は、熱流体解析の結果(正解)を示す。チップ_1の温度変化の予測結果が示すように、実施形態の情報処理装置1により生成されたモデルは、計測開始直後の急な温度上昇も、その後の定常値も高精度に予測できていることがわかる。また、時定数のオーダーが数桁異なる計測対象に、節点が含まれている場合でも、問題なく予測できていることがわかる。
【0065】
図11A及び11Bは実施形態の情報処理装置1により生成されたモデルの入力データの例2を示す図である。入力データの例2は、発熱量を一定とせず、図11Bのように変動させた場合を示す。
【0066】
図12は実施形態の情報処理装置1により生成されたモデルによる予測結果の例2(入力データの例2が入力された場合)を示す図である。実施形態の情報処理装置1により生成されたモデルは、図12に示すように、発熱量を変動させた場合でも、チップ_1、チップ_6及びチップ_12のそれぞれに含まれる節点、並びに、ヒートシンク101の節点122及び127の温度変化を高精度に予測できていることがわかる。
【0067】
以上説明したように、実施形態の情報処理装置1では、記憶部11は、1以上の変数を含む時系列データを記憶する。時間微分値算出部12は、変数の時間微分値を算出する。変動差分算出部13は、変数の初期値からの変動を示す差分を算出する。推定部16は、時間微分値と差分とを学習データとして用いる機械学習によって、線形回帰式の係数を推定する。そして、出力制御部17は、線形回帰式を出力する。
【0068】
これにより実施形態の情報処理装置1によれば、物理現象のモデルの生成精度をより向上させることができる。
【0069】
なお、上述の実施形態では、情報処理装置1が、熱モデルの線形回帰式を生成する場合について述べたが、他の物理現象(例えば、電気抵抗、物理的な変形量)のモデルの線形回帰式を生成するようにしてもよい。
【0070】
最後に実施形態の情報処理装置1のハードウェア構成の例について説明する。
【0071】
[ハードウェア構成の例]
図12は実施形態の情報処理装置1のハードウェア構成の例を示す図である。
【0072】
実施形態の情報処理装置1は、制御装置201、主記憶装置202、補助記憶装置203、表示装置204、入力装置205及び通信装置206を備える。制御装置201、主記憶装置202、補助記憶装置203、表示装置204、入力装置205及び通信装置206は、バス210を介して接続されている。
【0073】
制御装置201は、補助記憶装置203から主記憶装置202に読み出されたプログラムを実行する。主記憶装置202は、ROM及びRAM等のメモリである。補助記憶装置203は、HDD(Hard Disk Drive)及びメモリカード等である。
【0074】
表示装置204は、表示情報を表示する。表示装置204は、例えば液晶ディスプレイ等である。入力装置205は、情報処理装置1を操作するためのインタフェースである。入力装置205は、例えばキーボードやマウス等である。情報処理装置1がスマートフォン及びタブレット型端末等のスマートデバイスの場合、表示装置204及び入力装置205は、例えばタッチパネルである。
【0075】
通信装置206は、他の装置等と通信するためのインタフェースである。
【0076】
実施形態の情報処理装置1で実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、メモリカード、CD-R及びDVD等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記録されてコンピュータ・プログラム・プロダクトとして提供される。
【0077】
また実施形態の情報処理装置1で実行されるプログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また実施形態の情報処理装置1で実行されるプログラムをダウンロードさせずにインターネット等のネットワーク経由で提供するように構成してもよい。
【0078】
また実施形態の情報処理装置1のプログラムを、ROM等に予め組み込んで提供するように構成してもよい。
【0079】
実施形態の情報処理装置1で実行されるプログラムは、上述した機能ブロック(図3)のうち、プログラムによっても実現可能な機能ブロックを含むモジュール構成となっている。当該各機能ブロックは、実際のハードウェアとしては、制御装置201が記憶媒体からプログラムを読み出して実行することにより、上記各機能ブロックが主記憶装置202上にロードされる。すなわち上記各機能ブロックは主記憶装置202上に生成される。
【0080】
なお上述した各機能ブロックの一部又は全部をソフトウェアにより実現せずに、IC(Integrated Circuit)等のハードウェアにより実現してもよい。
【0081】
また複数のプロセッサを用いて各機能を実現する場合、各プロセッサは、各機能のうち1つを実現してもよいし、各機能のうち2以上を実現してもよい。
【0082】
また実施形態の情報処理装置1の動作形態は任意でよい。実施形態の情報処理装置1を、例えばネットワーク上のクラウドシステムとして動作させてもよい。
【0083】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0084】
1 情報処理装置
11 記憶部
12 時間微分値算出部
13 変動差分算出部
14 非線形関数生成部
15 回帰式生成部
16 推定部
17 出力制御部
100 パワエレ機器
101 ヒートシンク
102 電子機器
103 チップ
104 接合部材
105 部品
106 部品
107 部品
108 接合部材
109 部品
201 制御装置
202 主記憶装置
203 補助記憶装置
204 表示装置
205 入力装置
206 通信装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13