(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】ワカサギ釣り用電動リール
(51)【国際特許分類】
A01K 89/017 20060101AFI20240422BHJP
A01K 89/00 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
A01K89/017
A01K89/00 B
A01K89/00 C
(21)【出願番号】P 2021117310
(22)【出願日】2021-07-15
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】張 永裕
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 幸則
【審査官】磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-030238(JP,A)
【文献】特開2004-081128(JP,A)
【文献】特開平06-303881(JP,A)
【文献】特開2000-004728(JP,A)
【文献】特開平07-000084(JP,A)
【文献】米国特許第04378652(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 89/00 - 89/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リール本体と、
前記リール本体に回転可能に支持され、釣糸が巻回されるスプールと、
前記スプールを正転駆動/逆転駆動する電動モータと、
前記電動モータの駆動を制御する制御部と、
を有するワカサギ釣り用電動リールにおいて、
前記制御部は、錘が装着された仕掛けの自由落下時の繰り出し速度を算出し、算出された繰り出し速度に基づいて最適な繰り出し速度を算出して前記電動モータを逆転駆動させることを特徴とするワカサギ釣り用電動リール。
【請求項2】
前記制御部は、前記スプールの回転数で特定される水深情報と、前記錘が所定の水深に到達した時間から、前記自由落下時の繰り出し速度を算出することを特徴とする請求項1に記載のワカサギ釣り用電動リール。
【請求項3】
前記制御部は、仕掛けが自由落下される毎に繰り出し速度を算出し、その自由落下後の前記電動モータの逆転駆動を、前記算出された繰り出し速度に基づいて最適な繰り出し速度を算出して制御することを特徴とする請求項1又は2に記載のワカサギ釣り用電動リール。
【請求項4】
前記電動モータの最適な繰り出し速度での逆転駆動は、仕掛けを落下した後、ワカサギがいる棚の手前の所定位置から行なうことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のワカサギ釣り用電動リール。
【請求項5】
前記棚の手前の所定位置で仕掛けを一旦停止させることを特徴とする請求項4に記載のワカサギ釣り用電動リール。
【請求項6】
前記最適な速度は、前記錘が装着された仕掛けの自由落下時の繰り出し速度以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のワカサギ釣り用電動リール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣糸が巻回されるスプールを電動モータにより回転駆動させるワカサギ釣り用電動リールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、結氷した湖の上で行なうワカサギの穴釣りやワカサギのボート釣り等においては、常時釣り竿を手で保持せずにリールに短い釣り竿を取り付け、台の上に載置した状態で
釣りを行なうことができるワカサギ釣り用電動リールが提案されている。例えば、特許文献1には、電動モータ(以下、モータとも称する)を正転及び逆転駆動して、誘い操作を自動で継続的に行えるワカサギ釣り用電動リールが開示されている。このようなワカサギ釣り用電動リールでは、遊泳層(ワカサギ等がいる層であり、以下、「棚」と称する)まで仕掛けを速やかに落下し、仕掛けが所定の棚に到達した際に、モータの回転を制御して上記した誘い操作を行なうことが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したワカサギ釣り用電動リールは、仕掛けを放出する際、及び、棚でワカサギの誘い操作(シャクリ操作)をする際、モータの回転を制御することで、釣糸の繰り出しが行うことができる。このようなモータによる釣糸の繰り出しに際しては、スプールの繰り出し速度(逆転速度)が実際の釣糸の繰り出し速度よりも速くなると、バックラッシュ現象が生じてしまう。
【0005】
このバックラッシュ現象は、実釣時に錘を軽いものに交換した際に起こり易い。すなわち、釣り人は、錘の重さに応じて釣糸繰り出し時のモータの回転速度の設定を適正値に変える必要があるが、このような設定変更操作は煩わしく、設定変更操作をしないと、軽い錘に変更した際にスプールが過回転となってバックラッシュし易くなる。また、棚でシャクリ操作をモータの制御で行なう際にも、適切な回転速度で制御しないと、バックラッシュが生じ易い。更に、錘の重さに適したモータの回転速度を設定しても、水流等の影響により、その設定速度ではバックラッシュが生じてしまうことがある。
【0006】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、錘の重さが分からなくても、最適な釣糸繰り出し速度に設定することが可能なワカサギ釣り用電動リールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明のワカサギ釣り用電動リールは、リール本体と、前記リール本体に回転可能に支持され、釣糸が巻回されるスプールと、前記スプールを正転駆動/逆転駆動する電動モータと、前記電動モータの駆動を制御する制御部と、を有し、前記制御部は、錘が装着された仕掛けの自由落下時の繰り出し速度を算出し、算出された繰り出し速度に基づいて最適な繰り出し速度を算出して前記電動モータを逆転駆動させることを特徴とする。
【0008】
上記した構成によれば、仕掛けを自由落下させた際の繰り出し速度は、バックラッシュが生じないことから、この繰り出し速度を算出する。そして、その後、電動モータの逆転駆動で仕掛けを繰り出す際には、算出された繰り出し速度に基づいて最適な速度で電動モータを制御するため、電動モータの逆転駆動で仕掛けを繰り出す際、仕掛けの錘の重さが分からなくても、バックラッシュが生じることはない。
【0009】
なお、上記した構成において、最適な繰り出し速度は、仕掛けを自由落下させた際の繰り出し速度に基づいて決定され、電動モータを逆転駆動させた際に、仕掛けが落下する速度である。例えば、仕掛けを自由落下させた際の繰り出し速度に対して、それ以下の繰り出し速度となるように電動モータの逆転駆動を制御することで、バックラッシュの発生を確実に防止することが可能となる。また、最適な繰り出し速度での電動モータの逆転駆動は、例えば、スプールをフリー回転可能な状態(クラッチOFF)で自由落下させ、所定の深さ(棚)になった後にクラッチON状態にして行う場合、或いは、自由落下させた後に一旦仕掛けを回収し、その次の仕掛け投入を電動モータで行なう場合等が考えられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、錘の重さが分からなくても、最適な釣糸繰り出し速度に設定することが可能なワカサギ釣り用電動リールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のワカサギ釣り用電動リールの一実施形態を示す斜視図。
【
図3】
図1のワカサギ釣り用電動リールの内部構造を示す断面図。
【
図4】
図1のワカサギ釣り用電動リールの制御系の概略構成を示すブロック図。
【
図5】水面から棚に至るまでの釣糸(仕掛け)の状態を概略的に示す図。
【
図6】
図1のワカサギ釣り用電動リールの制御の第1の形態例を示すフローチャート。
【
図7】
図1のワカサギ釣り用電動リールの制御の第2の形態例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係るワカサギ釣り用電動リール(以下、単に魚釣用リールとも称する)の一実施形態について具体的に説明する。
なお、本発明に係るワカサギ釣り用電動リールは、後述するようにリール本体に釣竿を直接に装着でき(竿装着部を有する)、電動モータの出力軸がスプールに対して動力伝達可能に係合される(電動モータの出力軸が例えばスプールの回転軸と直交した状態でスプールの側面に対して係脱可能に当て付けられることによって電動モータからスプールへの動力の伝達が継脱される)とともに、ギアによる変速を行なうことなく電動モータに対する印加電圧を制御することにより、回転速度、回転方向及びトルクが変えられるという特徴を備えている。
【0013】
最初に、
図1から
図3を参照して魚釣用リールの全体構成について説明する。
なお、以下の説明において、前後方向、左右方向は、
図2で示す方向であり、上下方向は、
図3で示す方向とする。
【0014】
魚釣用リール1は、リール本体2を備える。リール本体2は、その外郭を構成する筐体3を有する。筐体3は、例えばABS樹脂、ポリカーボーネートのような合成樹脂材料により形成される。
【0015】
前記筐体3は、やや湾曲した縦長(前後方向に長い)の箱体であり、全体として釣人が右手又は左手で掴むことができる程度の大きさを有する。
図3に示されるように、筐体3は、ロアケース3Aとトップカバー3Bとで構成される。
【0016】
前記トップカバー3Bは、ネジ止め或いは嵌め込み等の手段によりロアケース3Aに固定されて、ロアケース3Aとの間に電動モータ5を収容するためのモータ収容室を画定する。更に、リール本体2内、本実施形態ではロアケース3Aには、電動モータ5に電力を供給するための例えば乾電池や再充電可能なバッテリー7等を着脱自在に収容できる収容部Sを画定する内部電源ハウジング8が設けられる。
【0017】
なお、リール本体2、本実施形態ではロアケース3Aには、内部電源ハウジング8の収容部S(本実施形態では、収容部Sを含めてモータ5等を全体的に露出させるためのロアケース3Aの開口)を外部に対して閉じるためのカバー部材10が着脱自在に取り付けられるようになっている。
【0018】
前記筐体3の前方側の下面には、リール本体2の左右方向に、互いに離間して取り付けられる脚12を有する。脚12は、例えば筐体3よりも柔らかいゴム状弾性体で形成することが好ましく、ロアケース3Aの底壁に固定される。脚12は、例えば氷結した湖面上に据え付けられる釣用の台の上にリール本体2を置いた際、この台の上面に接触する接地部として機能する。
【0019】
なお、本実施形態の脚12には、左右それぞれの基端部分に嵌入されて前方に向けて延出する突出部13Aと、突出部13Aの先端を左右方向に連結し、台上に設置される連結部13Bとを備えた補助脚13が設けられている。補助脚13は、前記脚12に対して前後方向に摺動させることができ、連結部13Bの位置を調整できるようにしている。
このような補助脚13を設けておくことで、リール本体2を安定して載置することが可能となり、例えば、多数のワカサギが掛かった場合等、釣糸に大きな負荷が加わっても、リール本体2を安定した状態に維持することができる。
【0020】
前記筐体3の前端部には、合成樹脂製の支持台15がネジ止め等により固定されており、この支持台15は、釣竿80が装着可能な竿装着部としての竿受け部16と、スプール受け部18とを備える。
【0021】
前記竿受け部16は、筐体3の前端の左右方向の中央部に位置している。竿受け部16は、筐体3の前方に向けて開口する支持孔16aを有するとともに、スプールから繰り出される釣糸を案内する釣糸ガイド20を支持する。釣糸ガイド20は、竿受け部16の上方で前後方向に揺動可能に保持されており、通常は、
図3で示すように、前方に倒れた状態に付勢保持されている。また、支持台15のスプール受け部18は、トップカバー3Bの開口部3Cの下方で水平に配置されている。
【0022】
図3に示されるように、ロアケース3Aの前側の底壁には、軸支部21が設けられている。この軸支部21には、上下方向に延出するスプール軸23aが支持される。スプール軸23aは、ロアケース3Aの底壁から垂直に起立するとともに、スプール受け部18を貫通して上方に突出する。
【0023】
前記スプール軸23aの上方には、合成樹脂材又は金属材製のスプール23が回転可能に支持される。スプール23は、リール本体2の前部において、リール本体2の上面の前方側の左右方向の中央部に位置する。なお、スプール23の直ぐ後側には、筐体3の上面(トップカバー3B上)に位置して、各種の情報が表示される表示部(液晶表示装置)30が設けられる。
【0024】
前記スプール23は、釣糸が巻回される釣糸巻回胴部23Aと、一対のフランジ23B,23Cとを有しており、垂直に配置されるスプール軸23aを中心として回転する。フランジ23B,23Cは、釣糸巻回胴部23Aと同軸の円板状を成すとともに、釣糸巻回胴部23Aを間に挟んで上下方向に向かい合う。この場合、下側のフランジ23Cが前記スプール受け部18の上面に配置される。
【0025】
前記スプール軸23aは、釣糸巻回胴部23Aを同軸状に貫通して上側のフランジ23Bの上に突出する。スプール軸23aの上端には袋ナット25がねじ込まれる。袋ナット25は、スプール受け部18との間でスプール23を挟み込んでおり、これにより、スプール23がリール本体2の前部に回転自在に支持される。なお、スプール23は、トップカバー3Bの開口部3Cの内側に位置する。
【0026】
図3に示されるように、竿受け部16の支持孔16aには釣竿80が嵌め込まれるようになっている。釣竿80は、例えば全長が15cm程度の短いものでよく、リール本体2の前端から前方に向けて水平に突き出る。
【0027】
釣竿80の外周面には、複数の釣糸ガイド(図示せず)が取り付けられる。これらの釣糸ガイドは、釣竿80の長手方向に間隔を存して一列に設けられる。スプール23から繰り出された釣糸(図示せず)は、リール本体2の釣糸ガイド20から釣竿80の釣糸ガイドを経由して釣竿80の先端に導かれた後、釣竿80の先端から例えば湖面に開けた孔を通じて水中へ導かれる。
【0028】
前記トップカバー3Bとロアケース3Aとの間に形成される前述したモータ収容室内の電動モータ5は、電気的制御により正逆回転可能になっており、ステータ及びロータを収容するモータハウジング(図示せず)と、このモータハウジングの前端から突出する金属製の出力軸5Aとを有する。電動モータ5は、出力軸5Aを筐体3の前後方向に沿わせた横置きの姿勢でスプール23の後方に設置される。
【0029】
前記モータ5の出力軸5Aは、スプール軸23aの直後に位置するとともに、このスプール軸23aと直交するような位置関係を保っている。出力軸5Aの前端部は、スプール23の下側のフランジ23Cの下方に位置する。
【0030】
前記出力軸5Aの外周には、円筒状のトルク伝達部材5Bが取り付けられる。トルク伝達部材5Bは、例えばスプール23よりも柔らかい合成樹脂材又はゴム状弾性体により形成される。
図3に示される状態では、トルク伝達部材5Bの外周面がスプール23の下側のフランジ23Cの下面に接している。
【0031】
前記電動モータ5のモータハウジング(したがって、電動モータ5)は、図示しないピボット軸を支点として、
図3に示される水平な第1の位置と、前方下方に傾斜する第2の位置(
図4の点線で示す位置)との間で揺動可能となっている。
【0032】
第1の位置では、
図3に示されるように電動モータ5の出力軸5Aが筐体3の前後方向に沿って水平に延びており、トルク伝達部材5Bの外周面がスプール23の下側のフランジ23Cの下面に当接する。このように当接することにより、フランジ23Cとトルク伝達部材5Bとの当接部分に摩擦抵抗が付与され、電動モータ5の出力軸5Aとスプール23との間が機械的に接続される(クラッチON)。
【0033】
この結果、摩擦抵抗により、スプール23の自由な回転が阻止される。この状態で更に電動モータ5が正逆回転駆動されると、出力軸5Aのトルクがトルク伝達部材5Bを介してスプール23に伝わり、スプール23が釣糸を巻き取る方向又は釣糸を繰り出す方向に回転する。すなわち、この構成において、電動モータ5は、その出力軸5Aがスプール23に対して動力伝達可能に係合されており、電動モータ5の正逆回転駆動によってスプール23が正逆回転され、スプール23に釣糸が巻き取られ、又はスプール23から釣糸が繰り出される。
【0034】
一方、第2の位置では、電動モータ5が傾動して出力軸5Aが前下がりとなって、トルク伝達部材5Bの外周面がスプール23の下側のフランジ23Cの下面から離れる。これにより、電動モータ5の出力軸5Aとスプール23との機械的な接続が解除され(クラッチOFF)、トルク伝達部材5Bとスプール23との間に摩擦抵抗が付与されなくなる。そのため、スプール23は、釣糸を巻き取る方向及び繰り出す方向の自由な回転が許容されるフリーな状態となる。
【0035】
なお、電動モータ5は、図示しない引っ張りコイルスプリングを介して常に第1の位置に向けて弾性的に付勢されている。したがって、モータ5が第1の位置にある限り、トルク伝達部材5Bの外周面がスプール23の下側のフランジ23Cの下面に弾性的に押し付けられる。
【0036】
また、電動モータ5(モータハウジング)の第1の位置と第2の位置との間の切り換えは、トップカバー3Bから突出して設けられる操作体28によって行なわれる。この操作体28は、リール本体2に対して左右方向に揺動可能に支持されており、
図1及び
図2に示す位置(左側)がクラッチON位置、反対位置(右側)がクラッチOFF位置となっている。操作体28の下端は、トルク伝達部材5Bと直接的、又は、間接的に係合しており、操作体をクラッチON位置からクラッチOFF位置に移動することにより、トルク伝達部材5Bとともに電動モータ5の出力軸5Aを下方に(第2の位置へ)に押し下げる。これにより、電動モータ5の出力軸5Aとスプール23との機械的な接続が解除される。また、操作体28をクラッチOFF位置からクラッチON位置に移動すると、前述した引っ張りコイルスプリングによる付勢力によって電動モータ5が第1の位置へ復帰する。
【0037】
上記したように、操作体28は、電動モータ5の出力軸5Aとスプール23とを機械的に接続する状態(クラッチON)と、これらの接続を解除する状態(クラッチOFF)とに切り換えるように構成されている。すなわち、操作体28は、電動モータの動力をスプール23に伝えることができる動力伝達状態と、電動モータ5からスプール23への動力伝達が遮断される動力遮断状態とを切り換えるためのクラッチ機構としての機能を果たす。
なお、前記クラッチ機構は、操作体28の上記した操作以外にも、クラッチOFF状態で釣糸の繰り出しが所定量になった(仕掛けが設定した深さに到達した)ときに、クラッチOFFからクラッチONへ自動復帰するよう構成されている。例えば、ソレノイド等の駆動部材を設けておき、釣糸が所定量繰り出されたときに駆動部材を駆動して、前記操作体28をクラッチON位置に自動復帰させることが可能である。
【0038】
前記リール本体2には、電動モータ5のON/OFF、電動モータ5の駆動(スプール23の正転、逆転、寸動、停止)、各種のモードの設定等が行える操作ボタン(操作スイッチ)が複数、設けられている。例えば、本実施形態では、前記表示部30の下側にON/OFFボタン31と各種のモードを選択したり記憶するための設定ボタン32が並設されており、リール本体2の前方側の両側にモータ駆動ボタン33が配設されている。この場合、モータ駆動ボタン33は、右手でリール本体を掴んでも、左手でリール本体を掴んでも同様なモータ駆動操作が行なえるように構成されている。これらの操作ボタン31~33を操作(瞬時の押圧操作、長押し操作、同時操作等)することで、魚釣用リールの駆動が制御される。
なお、魚釣用リールを駆動するための操作ボタンの配設位置、配設個数、操作態様等については、図に示すような構成に限定されることはなく、種々、変形することが可能である。
【0039】
図4は、ワカサギ釣り用電動リールの制御系の概略構成を示すブロック図である。
図示のように、魚釣用リールの動作を制御する制御部40は、バス線50を通じて、スプール回転検知部41,クラッチ機構42、モータ駆動回路43,釣糸ガイド検知センサ45,表示部30,操作ボタン31~33,報音部46等の構要素との間で情報の送受信が行なわれる。
【0040】
制御部40は、魚釣用リールを制御する各種の動作プログラムや制御テーブルが格納されたROM、動作プログラムに従って表示部30の表示制御や電動モータ5の駆動制御等の各種の制御動作を実行するCPU、動作プログラムを実行する際に一時記憶部として機能するRAM、所定時間を計測するタイマ等を含んだマイクロコンピュータとして構成されている。
【0041】
前記スプール回転検知部41は、スプールから繰り出される釣糸の繰り出し量を検知する機能を備え、例えば、スプールに設置した磁石の磁界の変化を検知するセンサ(ホール素子等)で構成することが可能である。このスプール回転検知部41は、スプールの回転数(釣糸の繰り出し量)や回転方向、繰り出し糸長を検出し、スプールから繰り出される釣糸81(
図5参照)に装着された仕掛け82の水深位置を計測する機能を有する。
【0042】
前記クラッチ機構42は、上述したように、クラッチOFF状態で釣糸が繰り出されている際、スプール回転検知部41から、所定の量、釣糸が繰り出されたことが検知された際にクラッチONに自動復帰させる機能を有する。
【0043】
前記モータ駆動回路43は、例えば、電動モータ5をPWM駆動するPWM駆動回路によって構成される。PWM駆動回路は、PWMのデューティ比を変更することで、電動モータ5の回転速度を調整する機能を有する。本発明における電動モータ5は、後述するように、釣糸が繰り出された際、制御プログラムによって、棚の手前の所定位置から、ゆっくりと仕掛けを落下させるように駆動制御される。また、必要に応じて、棚内において、仕掛けを連続的、又は、断続的に上下動させるシャクリモードを実行するように駆動制御される。
【0044】
前記釣糸ガイドセンサ45は、釣糸の巻き取り時において、釣糸ガイド20が一定時間連続して、付勢力に抗して後方に倒れたことを検知した際、電動モータ5の巻き上げ駆動を停止する機能を有する。これにより、仕掛けがスプールに巻き付く等のトラブルを回避するようにしている。
【0045】
前記表示部30には、例えば、釣り人によって設定可能なモードの種別の表示、実際に設定したモード表示、釣糸の繰り出し量(計測された水深)や速度、時間等が表示される。また、前記報音部46からは、各種のアラーム音、例えば、操作ボタンを押圧する毎に報知する操作音、所定の水深(指定棚、指定棚の手前の所定の位置等)になったことを報知するアラーム音等が報音される。
【0046】
なお、前記制御部40は、外部装置48からの情報を取得して各種の動作を制御する構成であっても良い。例えば、魚釣用リールと有線又は無線接続される水深計測装置や魚群探知機等から、棚の高さ情報を取得し、取得した棚情報を基に電動モータ5を駆動制御しても良い。
【0047】
次に、上記した構成の魚釣用リール1を用いてワカサギを釣る場合の制御動作、特に、仕掛けを投入して、仕掛けを指示棚に送り込む制御動作について
図5から
図7を参照して説明する。
【0048】
ワカサギは、所定の棚内で群れて回遊する性質がある。通常、棚に向けて仕掛けを投入する場合、クラッチOFFにして仕掛けを自由落下させ、棚に到達したらクラッチONにする操作が成される。この場合、仕掛けは、クラッチOFFによる自由落下で行なっても良いし、スプールを任意の速度で釣糸繰り出し方向に回転(電動モータの逆転駆動)させて行っても良い。
【0049】
以下、
図5及び
図6を参照して、第1の制御の形態例について説明する。
一例として、ワカサギが群れている棚Dは、水面Pから10mの深さHであるとする(
図5参照)。この場合、魚釣用リール1に装着した釣竿80の先端から落下する釣糸81の先端に仕掛け82が締結されており、その先端に錘83が装着されている。
【0050】
図6のフローチャートに示すように、最初に棚設定(指示棚;10m)を行なう(ステップS1)。この棚情報は、魚群探知機等の外部装置48からの情報、ドーム船であれば船頭からの指示棚情報、或いは、釣り人の経験等によって設定され、釣り人が前記操作ボタン31~33の何れかを押圧して入力する。或いは、外部装置48と連動して、自動設定される構成であっても良い。
【0051】
次に、クラッチOFFになったことが検知されると、仕掛け(釣糸)は自由落下して所定の繰り出し速度で繰り出される(ステップS2;Yes)。そして、この仕掛けの繰り出し最中に、その仕掛けの繰り出し速度の算出及び最適な繰り出し速度の算出処理が行われる(ステップS3)。
【0052】
このステップS3の処理の仕方については、例えば、水深を計測(スプールの回転数×スプール直径×3.14)しながら、一定の深さ(距離)の水深情報を検出するとともに、その水深に到達した時間を制御部のタイマで計測し、水深情報と時間情報から、その仕掛けの自由落下時の繰り出し速度を算出することができる。また、最適な繰り出し速度については、算出された自由落下時の繰り出し速度に基づいて決定され、電動モータを逆転駆動した際に、バックラッシュが生じない範囲で決定される。
【0053】
この最適な繰り出し速度は、予め格納されている制御テーブルに基づいて決定することが可能である。或いは、自由落下時に算出した繰り出し速度以下となるように設定しておけば、スプールが過回転するようなことはなく、バックラッシュの発生を確実に防止することができる。なお、この最適な繰り出し速度については、一定値であっても良いし、シャクリモードなどを行なう際には、バックラッシュが生じない範囲で可変されるものであっても良い。
【0054】
そして、制御部は、仕掛けが設定された棚に到達したことを検知したときに、クラッチONにする(ステップS4;Yes)。クラッチONになることで仕掛けは停止(一旦停止)する(ステップS5)。なお、「仕掛け」が設定された棚に到達した、と記載したが、仕掛けが棚に到達するのは、仕掛けに装着された「錘」が棚に到達するものであっても良い。
【0055】
引き続いて、その棚内において各種の誘いモードが行なわれる(ステップS6)。この誘いモードでは、電動モータは正転駆動、逆転駆動が継続的、又は、断続的に繰り返されるが、逆転駆動時には、上記の算出した最適な繰り出し速度(又はそれ以下の速度)となるように制御される(ステップS6)。
【0056】
この誘いモードは、ワカサギが掛かかる等、電動モータが正転駆動されて仕掛けの回収が行なわれるまでは繰り返される(ステップS7;No、ステップS6)。また、仕掛けの回収操作が行なわれた場合(ステップS7;Yes)は、再び上記したステップS2に戻る。
【0057】
ステップS2に戻ると、再度、上記したステップS3~ステップS6の処理が繰り返される。すなわち、釣り人が仕掛けを回収して錘を変更しても、仕掛けが自由落下する毎に、その仕掛けの繰り出し速度、及び、最適な繰り出し速度の算出処理を実行して電動モータの逆転駆動を制御するので、釣り人は、別途、落下速度の変更操作をしなくても、そのままの状態で、バックラッシュの発生を防止することができる。また、設定ミス(錘を変更したのに、その錘の重量に合った設定をしない等)によるバックラッシュの発生も防止することができる。
【0058】
また、上記した処理において、2回目以降の仕掛け投入で、電動モータの逆転駆動で仕掛けを落下させる場合(ステップS7;Yes、ステップS2;No)、算出された最適な繰り出し速度となるように制御される(ステップS8)ので、バックラッシュが生じることはない。そして、仕掛けが棚に到達した後は、上記したステップS6による最適な繰り出し速度(又はそれ以下の速度)で各種の誘いモードが行なわれる(ステップS9;Yes、ステップS6)。
【0059】
なお、棚設定した後(ステップS1)、いきなりクラッチON状態で、電動リールの逆転駆動で仕掛けの繰り出しが行なわれることもあり得る。このような操作では、自由落下による繰り出し速度の算出が行なわれるまでは、逆転駆動速度を遅くなるように制御しても良い。或いは、最初の仕掛けの落下については、クラッチOFFで行なうことをマニュアル等で明示しておいても良い。
【0060】
以上のように、仕掛けの自由落下中にその繰り出し速度を算出し、その後の電動モータの逆転駆動では、自動で最適な繰り出し速度に制御するので、バックラッシュが生じないようにすることができる。また、餌、釣針、重さを含む釣糸(仕掛け)全体の自由落下速度を算出するので、例えば、錘の変更、水流等、様々な状況変化があっても、常に、バックラッシュを生じさせない最適な状態で仕掛けを繰り出すことが可能となる。
【0061】
ところで、ワカサギは回遊魚であり、仕掛けを落下させて、そのままの速度で棚に落下させると、その棚内に群れているワカサギは異常を察知して逃げる可能性がある。このような場合、棚に向けて仕掛けを短時間で落下させると共に、棚に群れているワカサギが異常を察知して逃げないように、棚の手前の所定位置から釣糸の繰り出し速度が低下するように電動モータ5の逆転駆動を制御することが好ましい。
以下、
図5及び
図7を参照して、第2の制御の形態例について説明する。
【0062】
一例として、ワカサギが群れている棚Dは、水面Pから10mの深さHであるとする(
図5参照)。この場合、魚釣用リール1に装着した釣竿80の先端から落下する釣糸81の先端に仕掛け82が締結されており、その先端に錘83が装着されている。ここでは、棚Dの手前の所定位置D1から電動モータの逆転駆動を低速制御するようにしている。
なお、棚Dから所定位置D1までの距離H1は任意であるが、所定位置D1までの仕掛けの落下がワカサギに察知できない程度の距離とされる。
具体的に検証したところ、50cm~100cmの範囲にすることが好ましい(以下の説明では50cmとする)が、この距離H1については、釣り場の状況等に応じてユーザが自由に設定するようにしても良い。或いは、ユーザが設定しない場合であれば、あらかじめ50cm~100cmの範囲内で設定しておくことも可能である。
【0063】
図7のフローチャートに示すように、最初に棚設定(指示棚;10m)を行なう(ステップS11)。この棚情報は、魚群探知機等の外部装置48からの情報、ドーム船であれば船頭からの指示棚情報、或いは、釣り人の経験等によって設定され、釣り人が前記操作ボタン31~33の何れかを押圧して入力する。或いは、外部装置48と連動して、自動設定される構成であっても良い。
【0064】
次に、クラッチOFFになったことが検知されると、仕掛け(釣糸)は自由落下して所定の繰り出し速度で繰り出され(ステップS12;Yes)、この仕掛けの繰り出し最中に、
図6のフローチャートのステップS3と同様、仕掛けの繰り出し速度の算出及び最適な繰り出し速度の算出処理が行われる(ステップS13)。そして、制御部は、仕掛けが、設定された棚の手前の所定位置(ここでは9m50cm)になることを検知し、仕掛けがその位置に達したときに、クラッチONにする(ステップS14;Yes、ステップS15)。クラッチONになることで仕掛けが停止(一旦停止)するので、棚に群れているワカサギは、仕掛けが落下してくるのを察知することがなく、逃げるようなことはない。
【0065】
次に、電動モータを低速で逆転駆動して仕掛けを棚内に落とし込む(ステップS16)。この棚の手前の所定位置からの落下は、ステップS13で算出された最適な繰り出し速度以下(自由落下する繰り出し速度よりも低速)となっていれば良く、ワカサギが驚かないような速度に設定されていれば良い。具体的には、10gの錘を締結してフリー落下する仕掛けの繰り出し速度(落下速度)よりも、遅くなるように設定しておくことで、ワカサギが逃げ難くなる。なお、上記したステップS15では、仕掛けを一旦停止させることなく、クラッチONと同時に電動モータを低速で逆転駆動して徐々に落下させるようにしても良い。
【0066】
以上のように、電動モータの低速駆動によって仕掛けが棚に到達すると(ステップS16、ステップS17;Yes)、その後は、誘いモード(しゃくり操作)が行なわれる(ステップS18)。この誘いモードについては、
図6のフローチャートのステップS6と同様、電動モータは正転駆動、逆転駆動が継続的、又は、断続的に繰り返されるが、逆転駆動時には、算出した最適な繰り出し速度(又はそれ以下の速度)となるように制御される。
【0067】
この誘いモードは、ワカサギが掛かかる等、電動モータが正転駆動されて仕掛けの回収が行なわれるまでは繰り返される(ステップS19;No、ステップS18)。また、仕掛けの回収操作が行なわれた場合(ステップS19;Yes)は、再び上記したステップS12に戻る。
【0068】
ステップS12に戻ると、再度、上記したステップS13~ステップS17の処理が繰り返される。すなわち、仕掛けを自由落下する毎に、その仕掛けの繰り出し速度、及び、最適な繰り出し速度の算出処理を実行して電動モータの逆転駆動を制御するので、釣り人は、別途、落下速度の変更操作をしなくても、そのままの状態で、バックラッシュの発生を防止することができる。また、設定ミス(錘を変更したのに、その錘の重量に合った設定をしない等)によるバックラッシュの発生も防止することができる。
【0069】
また、上記した処理において、2回目以降の仕掛け投入で、電動モータの逆転駆動で仕掛けを落下させる場合は、
図6のフローチャートのステップS8、ステップS9と同様、算出された最適な繰り出し速度となるように制御される(ステップS20、ステップS21)ので、バックラッシュが生じることはない。
【0070】
上述した本実施形態の構成によれば、釣り人が錘の重さに応じて電動モータの逆転駆動の速度を設定しなくても、バックラッシュを生じさせることなく、仕掛けを繰り出すことが可能となる。特に、釣り人は、錘を変更した際、その錘の重さを把握しなくても、自動で最適な逆転駆動速度に制御されるので、設定ミスや設定のし忘れ等の問題が生じることがない。また、水流等の影響により、仕掛けの落下状態が変化しても、最適な落下速度に変更されるので、環境等の影響を受けることもない。
【0071】
上記した
図6及び
図7のフローチャートのステップS3及びステップS13における算出処理については一例である。仕掛けの自由落下の算出方法については、落下しているときの速度が検出できれば、その算出方法については適宜変形することができる。例えば、釣糸に一定距離毎にマーキングを付与しておき、リール本体にこのマーキングの通過を検知するセンサを設けておけば、自由落下速度やモータ逆転駆動時における落下速度を検出することが可能である。また、最適な繰り出し速度の算出方法については、錘の重さ毎に適切値を定めておき、使用している錘の重さ情報によって自動で設定しても良い。この場合、錘の重さが不明であっても、例えば、重さ情報が特定された錘が装着された仕掛けが自由落下して所定の水深に達した際の時間を記憶しておき、重さが不明な錘が装着された仕掛けが自由落下して前記所定の水深に達した際の時間を、前記記憶されている時間と比較することで、不明な錘の重さを特定することも可能である。
【0072】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上記視した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。
本発明の魚釣用リールは、上記したような、仕掛けの棚への送り込み制御が行われる機能を備えていれば良く、それ以外の各種の機能、例えば、誘い機能、電動モータの巻き上げ機能、船べり停止機能、バックラッシュ防止機能等、様々な機能を別途、備えていても良い。また、リール本体2の形状、大きさ、表示部の表示態様、操作ボタンの配置、操作方法等は限定されることなく、種々、変形することが可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 魚釣用リール(ワカサギ釣り用電動リール)
2 リール本体
3 筐体
3A ロアケース
3B トップカバー
5 電動モータ
23 スプール
40 制御部
80 釣竿
81 釣糸