(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】診断方法、診断装置、及び診断プログラム
(51)【国際特許分類】
G01M 7/02 20060101AFI20240422BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20240422BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
G01M7/02 B
G01M99/00 Z
G01H17/00 Z
(21)【出願番号】P 2021152422
(22)【出願日】2021-09-17
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 達彦
(72)【発明者】
【氏名】西村 修
(72)【発明者】
【氏名】江波戸 明彦
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-248077(JP,A)
【文献】特開平03-174910(JP,A)
【文献】特開平05-256894(JP,A)
【文献】特開2008-203224(JP,A)
【文献】特開平09-329184(JP,A)
【文献】特開2019-203912(JP,A)
【文献】特表2019-531037(JP,A)
【文献】特開昭60-211326(JP,A)
【文献】特開平05-224718(JP,A)
【文献】特開昭53-135358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00-17/00
G01M 5/00- 7/08
13/00-13/045
99/00
G01N29/00-29/52
G10K15/00-15/12
H04R 3/00- 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LOGSS信号(Log Swept Sine信号)により生成される加速度指令に基づいて、診断対象となる機械構造物の位置を駆動部により変化させ、
前記加速度指令と、加速度計が計測した前記機械構造物の計測加速度と、に基づいてインパルス応答を算出し、
前記インパルス応答に基づいて、前記機械構造物に関連する線形特性及び非線形特性の少なくとも一方を解析し、
前記機械構造物に関連する前記線形特性及び前記非線形特性の少なくとも一方に基づいて、前記機械構造物を診断する、
ことを具備し、
前記機械構造物に関連する線形特性及び非線形特性の少なくとも一方を解析することは、前記インパルス応答を前記LOGSS信号のタップ長よりも短い対象区間ごとに高速フーリエ変換することにより、前記インパルス応答における前記機械構造物の前記線形特性及び前記非線形特性の少なくとも一方を評価することを備える、
診断方法。
【請求項2】
LOGSS信号(Log Swept Sine信号)により生成される加速度指令に基づいて、診断対象となる機械構造物の位置を駆動部により変化させ、
前記加速度指令と、加速度計が計測した前記機械構造物の計測加速度と、に基づいてインパルス応答を算出し、
前記インパルス応答に基づいて、前記機械構造物に関連する線形特性及び非線形特性の少なくとも一方を解析し、
前記機械構造物に関連する前記線形特性及び前記非線形特性の少なくとも一方に基づいて、前記機械構造物を診断する、
ことを具備し、
前記機械構造物に関連する線形特性及び非線形特性の少なくとも一方を解析することは、前記インパルス応答のピーク値の近傍に対応する時間から前記機械構造物の残留振動が収束する時間までの間における区間を対象区間として高速フーリエ変換することにより、前記インパルス応答における前記機械構造物の前記線形特性を評価することを備える、
診断方法。
【請求項3】
LOGSS信号(Log Swept Sine信号)により生成される加速度指令に基づいて、診断対象となる機械構造物の位置を駆動部により変化させ、
前記加速度指令と、加速度計が計測した前記機械構造物の計測加速度と、に基づいてインパルス応答を算出し、
前記インパルス応答に基づいて、前記機械構造物に関連する線形特性及び非線形特性の少なくとも一方を解析し、
前記機械構造物に関連する前記線形特性及び前記非線形特性の少なくとも一方に基づいて、前記機械構造物を診断する、
ことを具備し、
前記機械構造物を診断することは、
前記機械構造物の前記線形特性が前記機械構造物の共振周波数近傍で基準線形特性から変化しているか否かを判定し、
前記線形特性が前記基準線形特性から第1の閾値を超えて変化している場合には、前記機械構造物の線形バネ特性及び減衰特性の少なくとも一方が変化したと診断し、
前記線形特性が前記基準線形特性から第1の閾値以下変化している場合には、前記機械構造物の前記非線形特性の変化を判定する、
ことを備える、診断方法。
【請求項4】
前記線形特性が前記基準線形特性から前記第1の閾値以下変化しているとき、前記機械構造物の前記非線形特性のパワーが前記機械構造物の共振周波数近傍で前記機械構造物の基準非線形特性である第1の基準非線形特性から変化しているか否かを判定し、
前記非線形特性が前記第1の基準非線形特性から第2の閾値以下変化している場合には、前記機械構造物に異常がないと診断する、
請求項3に記載の診断方法。
【請求項5】
前記機械構造物の前記非線形特性が前記第1の基準非線形特性から前記第2の閾値を超えて変化しているとき、前記駆動部の近傍における非線形特性が前記駆動部近傍における基準非線形特性である第2の基準非線形特性から変化しているか否かを判定し、
前記駆動部の近傍における前記非線形特性が前記第2の基準非線形特性から第3の閾値を超えて変化している場合には、前記駆動部の摩擦特性が変化していると診断し、
前記駆動部の近傍における前記非線形特性が前記第2の基準非線形特性から前記第3の閾値以下変化している場合には、前記機械構造物の非線形バネ特性が変化したと診断する、
請求項4に記載の診断方法。
【請求項6】
前記機械構造物の前記非線形特性が前記第1の基準非線形特性から前記第2の閾値以下変化しているとき、前記駆動部の近傍における非線形特性が前記駆動部近傍における基準非線形特性である第3の基準非線形特性から変化しているか否かを判定し、
前記駆動部の近傍における前記非線形特性が前記第3の基準非線形特性から第4の閾値を超えて変化している場合には、前記駆動部の摩擦特性が変化したと診断し、
前記駆動部の近傍における前記非線形特性が前記第3の基準非線形特性から前記第4の閾値以下変化している場合には、前記機械構造物に異常がないと診断する、
請求項4に記載の診断方法。
【請求項7】
LOGSS信号(Log Swept Sine信号)により生成される加速度指令に基づいて、診断対象となる機械構造物の位置を駆動部により変化させ、
前記加速度指令と、加速度計が計測した前記機械構造物の計測加速度と、に基づいてインパルス応答を算出し、
前記インパルス応答に基づいて、前記機械構造物に関連する線形特性及び非線形特性の少なくとも一方を解析し、
前記機械構造物に関連する前記線形特性及び前記非線形特性の少なくとも一方に基づいて、前記機械構造物を診断する、
ことを具備し、
前記LOGSS信号と位相の遅れが生じないフィルタリングにより処理された後の前記加速度指令との信号レベルの差が閾値以上となることに基づいて、前記信号レベルの差が閾値以上となるタップ数以降の前記加速度指令の前記信号レベルを0とする、
診断方法。
【請求項8】
前記加速度指令の前記信号レベルが0にされたことに基づいて、前記機械構造物の速度指令を0に収束させる、
請求項7に記載の診断方法。
【請求項9】
前記LOGSS信号を位相の遅れが生じないフィルタリングにより処理し、前記処理後の信号に基づいて前記加速度指令を生成する、
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項10】
前記加速度指令に基づいて前記機械構造物の位置指令を算出し、前記位置指令に基づいて前記機械構造物を加振する
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項11】
前記加速度指令に基づいて前記機械構造物の位置指令を算出し、前記位置指令を位相の遅れが生じないフィルタリングにより処理し、前記処理後の前記位置指令に基づいて前記機械構造物の位置を変化させる、
請求項1乃至6のいずれか1
項に記載の診断方法。
【請求項12】
前記計測加速度は、前記機械構造物、及び、前記機械構造物と前記駆動部との間の位置の少なくとも一方において計測される、
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項13】
前記インパルス応答から算出したスペクトルグラムに基づいて、前記インパルス応答における前記機械構造物の前記線形特性及び前記非線形特性の少なくとも一方を評価する、 請求項3乃至8のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項14】
前記加速度指令は、第1の加速度指令と、前記第1の加速度指令とは異なる第2の加速度指令と、を含み、
前記インパルス応答は、前記第1の加速度指令に基づいて算出される第1のインパルス応答と、前記第2の加速度指令に基づいて算出される第2のインパルス応答と、を含み、 前記第1のインパルス応答及び前記第2のインパルス応答の両方に基づいて、前記機械構造物に関連する前記線形特性及び前記非線形特性の少なくとも一方を解析する、
請求項1または2に記載の診断方法。
【請求項15】
LOGSS信号(Log Swept Sine信号)により生成される加速度指令と、前記加速度指令により診断対象となる機械構造物の位置を変化させたときの計測加速度と、に基づいてインパルス応答を算出するインパルス応答算出部と、
前記インパルス応答に基づいて、前記機械構造物の線形特性及び非線形特性の少なくとも一方を解析するインパルス応答解析部と、
前記機械構造物の線形特性及び非線形特性の少なくとも一方に基づいて前記機械構造物を診断する診断部と、
を具備し、
前記インパルス応答解析部は、前記インパルス応答を前記LOGSS信号のタップ長よりも短い対象区間ごとに高速フーリエ変換することにより、前記インパルス応答における前記機械構造物の前記線形特性及び前記非線形特性の少なくとも一方を評価する、
診断装置。
【請求項16】
コンピュータに、
LOGSS信号(Log Swept Sine信号)により生成される加速度指令に基づいて、診断対象となる機械構造物の位置を駆動部により変化させる機能、
前記加速度指令と、加速度計が計測した前記機械構造物の計測加速度と、に基づいてインパルス応答を算出する機能、
前記インパルス応答に基づいて、前記機械構造物の線形特性及び非線形特性の少なくとも一方を解析する機能、及び
前記機械構造物の線形特性及び非線形特性の少なくとも一方に基づいて前記機械構造物を診断する機能を実現させ、
前記機械構造物の線形特性及び非線形特性の少なくとも一方を解析する機能は、前記インパルス応答を前記LOGSS信号のタップ長よりも短い対象区間ごとに高速フーリエ変換することにより、前記インパルス応答における前記機械構造物の前記線形特性及び前記非線形特性の少なくとも一方を評価することを備える、
診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、診断方法、診断装置、及び診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
機械構造物では、駆動系の摩擦特性の変化や、構造物の接合の変化による剛性変化が経年劣化として生ずる。このような経年劣化に対応するため、例えば、摩擦部材の定期的な取り替え、機械構造物のハンマリングによる劣化評価等が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-118906号公報
【文献】国際公開第2006/011356号
【文献】特開2006-145515号公報
【文献】特開2014-85439号公報
【文献】特開2014-220589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、機械構造物の状態を把握できる診断方法、診断装置、及び診断プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の診断方法では、LOGSS信号(Log Swept Sine信号)により生成される加速度指令に基づいて、診断対象となる機械構造物の位置を駆動部により変化させる。加速度指令と、加速度計が計測した機械構造物の計測加速度と、に基づいてインパルス応答を算出する。インパルス応答に基づいて、機械構造物に関連する線形特性及び非線形特性の少なくとも一方を解析する。機械構造物に関連する線形特性及び非線形特性の少なくとも一方に基づいて、機械構造物を診断する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、実施形態に係る機械構造物の診断システムの一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、Log swept sine信号の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る機械構造物の診断システムにおいて使用される位置指令の第1の生成方法に関する処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、実施形態に係る機械構造物の診断システムにおいて使用される位置指令の第2の生成方法に関する処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、実施形態に係る機械構造物の診断システムにおいて使用される位置指令の第3の生成方法に関する処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6A】
図6Aは、実施形態に係る機械構造物の診断システムにおいて使用される位置指令の第1の生成方法において、(a)は生成される加速度指令を、(b)は生成される速度指令を、(c)は生成される第1の位置指令を、それぞれ説明する説明図である。
【
図6B】
図6Bは、実施形態に係る機械構造物の診断システムにおいて使用される位置指令の第3の生成方法において、(a)は生成される加速度指令を、(b)は生成される速度指令を、(c)は生成される第3の位置指令を、それぞれ説明する説明図である。
【
図6C】
図6Cは、
図6Bの位置指令の第3の生成方法において、(a)は生成される加速度指令の一部を、(b)は生成される速度指令の一部を、(c)は生成される第3の位置指令の一部を、それぞれ拡大して示す拡大図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係る機械構造物の診断システムにおいて、加速度指令と計測加速度とに基づいて算出される、機械構造物のインパルス応答の算出結果の一例である。
【
図8】
図8は、
図8のインパルス応答のうち非線形特性に関連する部分を拡大した拡大図である。
【
図8A】
図8Aは、所定の値を設定した式(3)に基づくLOGSS信号を示す図である。
【
図8D】
図8Dは、式(5-1)~式(5-3)で表されるLOGSS信号のスペクトルグラムにおける時間と周波数の関係を示す図である。
【
図8E】
図8Eは、
図8Dに示すスペクトルグラムとなるLOGSS信号において高調波歪みが発生したときのスペクトルグラムである。
【
図8F】
図8Fは、
図8Eに示すスペクトルグラムとなるLOGSS信号の応答曲線をLOGSS信号の逆特性により変換したインパルス応答である。
【
図8G】
図8Gは、
図8Fに示す歪み特性の発生時刻を式(6)に基づいて算出した結果を示す図である。
【
図8H】
図8Hは、
図8Fに示す歪み特性の、インパルス応答における発生時刻を式(7)に基づいて算出した結果を示す図である。
【
図9A】
図9Aは、実施形態に係る機械構造物の診断システムにおいて使用される、インパルス応答から機械構造物の応答特性におけるパワーを評価する第1のパワー評価方法に関する処理の一例を示すフローチャートである。
【
図10A】
図10Aは、実施形態に係る機械構造物の診断システムにおいて使用される、インパルス応答から機械構造物の応答特性におけるパワーを評価する第2のパワー評価方法に関する処理の一例を示すフローチャートである。
【
図11A】
図11Aは、実施形態に係る機械構造物の診断システムにおいて使用される、インパルス応答から機械構造物の応答特性におけるパワーを評価する第3のパワー評価方法に関する処理の一例を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、実施形態に係る機械構造物の診断システムが実行する第1の診断処理のフローチャートの一例である。
【
図13】
図13は、実施形態に係る機械構造物の診断システムが実行する第2の診断処理のフローチャートの一例である。
【
図14】
図14は、実施形態に係る機械構造物の診断システムが実行する第3の診断処理のフローチャートの一例である。
【
図15】
図15は、実施形態に係る機械構造物の診断方法の検証に用いる慣性系としての機械構造物の模式図である。
【
図16】
図16は、実施形態に係る機械構造物の診断方法の検証に用いる慣性系の伝達特性において、(a)は機械構造物の伝達特性を、(b)は制御系を含めた機械構造物の伝達特性を、それぞれ示す図である。
【
図17】
図17は、静摩擦を所定の値に設定した試験例1の慣性系を、実施形態に係る機械構造物の診断方法により評価した結果において、(a)は質点P1の評価結果を、(b)は質点P2の評価結果を、(c)は質点P3の評価結果を、それぞれ示す図である。
【
図18】
図18は、静摩擦を所定の値に設定した試験例2の慣性系を、実施形態に係る機械構造物の診断方法により評価した結果において、(a1)及び(a2)は質点P1の評価結果を、(b1)及び(b2)は質点P2の評価結果を、(c1)及び(c3)は質点P3の評価結果を、それぞれ示す図である。
【
図19A】
図19Aは、クーロン摩擦を所定の値に設定した試験例3の慣性系を、実施形態に係る機械構造物の診断方法により評価した結果において、(a)は質点P1の評価結果を、(b)は質点P2の評価結果を、(c)は質点P3の評価結果を、それぞれ示す図である。
【
図19B】
図19Bは、クーロン摩擦を所定の値に設定した試験例3の慣性系において、(a)は質点P1の線形特性と伝達特性との比較を、(b)は質点P2の線形特性と伝達特性との比較を、(c)は質点P3の線形特性と伝達特性との比較を、それぞれ示す図である。
【
図20】
図20は、クーロン摩擦を所定の値に設定した試験例4-1の慣性系を、実施形態に係る機械構造物の診断方法により評価した結果において、(a)は質点P1の評価結果を、(b)は質点P2の評価結果を、(c)は質点P3の評価結果を、それぞれ示す図である。
【
図21】
図21は、クーロン摩擦を所定の値に設定した試験例4-2の慣性系を、実施形態に係る機械構造物の診断方法により評価した結果において、(a1)及び(a2)は質点P1の評価結果を、(b1)及び(b2)は質点P2の評価結果を、(c1)及び(c2)は質点P3の評価結果を、それぞれ示す図である。
【
図22】
図22は、静摩擦を所定の値に設定した試験例5の慣性系を、実施形態に係る機械構造物の診断方法により評価した結果において、(a)は静摩擦として0.1[kg・m/s
2]を設定したときの評価結果を、(b)は静摩擦として0.2[kg・m/s
2]を設定したときの評価結果を、それぞれ示す図である。
【
図23】
図23は、非線形バネ特性を所定の値に設定した試験例6の慣性系を、実施形態に係る機械構造物の診断方法により評価した結果において、(a)は質点P1の評価結果を、(b)は質点P2の評価結果を、(c)は質点P3の評価結果を、それぞれ示す図である。
【
図24】
図24は、非線形バネ特性を所定の値に設定した試験例7の慣性系を、実施形態に係る機械構造物の診断方法により評価した結果において、(a1)及び(a2)は質点P1の評価結果を、(b1)及び(b2)が質点P2の評価結果を示し、(c1)及び(c2)が質点P3の評価結果を、それぞれ示す図である。
【
図25】
図25は、非線形バネ特性を所定の値に設定した試験例8の慣性系を、実施形態に係る機械構造物の診断方法により評価した結果において、(a)は質点P1の評価結果を、(b)は質点P2の評価結果を、(c)は質点P3の評価結果を、それぞれ示す図である。
【
図26】
図26は、減衰係数を所定の値に設定した試験例9の慣性系を、実施形態に係る機械構造物の診断方法により評価した結果において、(a)は質点P1の評価結果を、(b)は質点P2の評価結果を、(c)は質点P3の評価結果を、それぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0008】
図1は、実施形態に係る機械構造物の診断システムの一例を示す概略図である。
図1の診断システム1は、診断対象となる機械構造物2の劣化状態等を診断する。診断装置3は、制御部4、接続部5、駆動部6、及び計測部7を具備する。
図1では、鉛直方向(矢印Z1及び矢印Z2で示す方向)及び鉛直方向に交差する(直交又は略直交する)水平方向(矢印XY1及び矢印XY2で示す方向)が規定される。制御部4は、診断装置3を全体的に制御する。制御部4は、インパルス応答算出部41、インパルス応答解析部42、診断部43、及び位置決め制御部44を備える。インパルス応答算出部41は、後述するように、機械構造物2に加えられる所定の振動等に対する機械構造物2のインパルス応答を算出する。インパルス応答解析部42は、インパルス応答算出部41により算出されたインパルス応答に基づいて、インパルス応答を解析する。診断部43は、インパルス応答の解析結果に基づいて、後述する所定の処理にしたがって、機械構造物2の劣化状態等を診断する。位置決め制御部44は、位置決め制御系として駆動部6を制御する。
【0009】
制御部4は、例えば、プロセッサ又は集積回路、及び、メモリ等の記憶媒体を備える。CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、マイコン、FPGA(Field Programmable Gate Array)、及びDSP(Digital Signal Processor)等のいずれかを含む。診断装置3では、制御部4は、集積回路等を1つのみ備えてもよく、集積回路等を複数備えていてもよい。診断装置3では、制御部4は、記憶媒体等に記憶されるプログラム等を実行することにより、処理を実行する。また、制御部4では、プロセッサによって実行されるプログラムは、インターネット等のネットワークを介して接続されたコンピュータ(サーバ)又はクラウド環境のサーバ等に格納されていてもよい。この場合、プロセッサは、ネットワーク経由でプログラムをダウンロードする。インパルス応答算出部41、インパルス応答解析部42の処理、及び診断部43の処理は、例えば、制御部4のCPU等により実現される。
【0010】
接続部5は、診断対象となる機械構造物2と診断装置3とを所定の方法により接続する。駆動部6は、制御部4から出力される制御指令に基づいて、駆動する。計測部7は、診断対象となる機械構造物2に関連する情報を計測する。機械構造物2に関連する情報は、例えば、機械構造物2の位置、機械構造物2の速度、又は機械構造物2の加速度等である。計測部7は、機械構造物2に関連する情報の経時的な変化を取得してもよい。
【0011】
なお、計測部7は、機械構造物2に取り付けられることで機械構造物2に関連する情報を取得してもよく、接続部5又は駆動部6に取り付けられることで機械構造物2に関連する情報を取得してもよい。また、計測部7は、機械構造物2、接続部5、及び駆動部6の少なくとも1つに取り付けられてもよい。機械構造物2の摩擦特性の変化を診断する場合、計測部7は駆動部6において機械構造物2に関連する情報を取得することが好ましい。
【0012】
診断システム1では、駆動部6が駆動されることにより、診断装置3が所定の振動等を機械構造物2に加える。制御部4の位置決め制御部44は、前述のように、位置決め制御系として機能することにより駆動部6を制御する。位置決め制御系では、例えば、位置決め対象に対する位置指令値が所定の方法により制御系にフィードバックされることにより、位置決め対象の位置が適切に制御される。
図1に示すように、例えば、駆動部6が水平方向に沿って矢印のように所定の範囲内を繰り返し移動する。これにより、診断対象となる機械構造物2が、駆動部6の動作に追随して診断装置3とともに揺れ動く。つまり、機械構造物2が、駆動部6により加振される。このようにして、制御部4が制御指令に基づいて駆動部6を駆動し、駆動部6の駆動に対応して機械構造物2の位置が変化する。そして、診断システム1では、制御部4が、駆動部6の制御指令に関する情報と機械構造物2に関連する情報とに基づいて、後述する所定の演算処理を実行する。これにより、診断システム1では、機械構造物2の劣化状態に関連する情報を取得することができる。
【0013】
駆動部6の制御指令に関する情報として、本実施形態では、制御部4が加速度指令を用いる。制御部4は、加速度指令を時間について二重積分し、後述する所定の演算処理を実行することで制御指令としての位置指令を生成する。また、機械構造物2に関連する情報として、本実施形態では、計測部7が計測する機械構造物2の実際の加速度(以下、計測加速度と呼ぶ。)を用いる。加速度指令と計測加速度とに基づいて、制御部4はインパルス応答を算出する。そして、制御部4は、算出したインパルス応答に基づいて所定の演算処理を実行することにより、機械構造物2の劣化状態に関する情報を取得できる。なお、計測部7の計測精度(例えば、SN比や分解能)が十分に高い場合、制御部4は機械構造物2の計測位置の2階微分を計測加速度としてもよい。
【0014】
次に、制御部4が駆動部6に出力する制御指令の詳細について説明する。本実施形態の診断装置3では、制御部4が、LOGSS(Log Swept Sine)信号に基づく指令を制御指令として駆動部6に出力する。
図2は、LOGSS信号の一例を示す。縦軸はレベルを任意の大きさで示し、横軸は時間を示す。
図2に示すように、LOGSS信号は、掃引波信号の一種であり、log関数上に周波数が掃引される信号である。LOGSS信号は、例えば、特許文献2に記載されている式に基づいて生成することができる。本実施形態では、制御部4がLOGSS信号に基づく指令を、駆動部6の加速度指令として用いる。そして、制御部4は、例えば加速度指令を時間について二重積分することにより、駆動部6の位置指令を生成する。制御部4は、位置指令を制御指令(位置決め制御系の指令値)として入力することにより、駆動部6の位置を制御する。LOGSS信号を加速度指令として用いて制御部4が前述したインパルス応答を算出すると、機械構造物2の応答の線形特性と機械構造物2の応答の非線形特性とが時間軸上においてそれぞれ分離される。診断システム1では、これらの分離された線形特性及び非線形特性を解析することにより、機械構造物2の劣化状態に関する情報を取得できる。
【0015】
本実施形態では、以下に示す3つの位置指令の生成方法のいずれかを用いて、制御部4が加速度指令から位置指令を生成する。
図3~5は、制御部4が位置指令を生成する処理を示すフローチャートの一例をそれぞれ示す。
図5は第1の位置指令の生成方法を示し、
図4は第2の位置指令の生成方法を示し、
図5は第3の位置指令の生成方法を示す。また、
図6Aは、制御部4が第1の位置指令の生成方法をそれぞれ実行する際に生成する、加速度指令、速度指令、及び位置指令である。
図6B及び
図6Cは、制御部4が第3の位置指令の生成方法をそれぞれ実行する際に生成する、加速度指令、速度指令、及び位置指令である。
図6A~6Cでは、(a)が加速度指令を示し、(b)が速度指令を示し、(c)が位置指令を示す。
図6A~6Cでは、縦軸が指令のレベルを示し、横軸が時間[s]を示す。なお、
図6A~6Cにおいて、縦軸の値は一例であり、これに限定されるものではない。例えば、対象とする機械構造物2に合わせて、指令のレベルを適宜変化させてもよい。
【0016】
図3に示すように、第1の位置指令の生成方法では、制御部4は、特許文献2に記載されている式に基づいてLOGSS信号を生成する(S31)。前述したように、診断システム1では機械構造物2のインパルス応答を算出するため、制御部4は生成した1回分のLOGSS信号を所定の回数分並べた信号を用いる。所定の回数は、例えば、2回以上であることが好ましい。所定の回数を増加させることで、計測ノイズの影響を抑制することができる。制御部4は、所定の回数分のLOGSS信号を、バンドパスフィルタによりまとめてフィルタリングする(S32)。
【0017】
このときのフィルタリングでは、位相の遅れを生じないフィルタリングを適用する。制御部4は、位相遅れの生じないフィルタリングとして、例えば、LOGSS信号を順方向にフィルタリングした後、フィルタリング後のLOGSS信号を逆順にしてフィルタリングを再度実行し、2回フィルタリングされた信号を再度逆順にする。例えば、フィルタリングでは、高周波成分をカットする。このようなフィルタリングを実行することにより、加速度指令から生成される位置指令の値が経時的に増加することを抑制できる。フィルタリングにおける上限周波数は、診断対象としての機械構造物2の診断周波数以上に設定することが好ましい。制御部4は、生成した加速度指令(
図6Aの(a)参照)を時間について二重積分することで(S33)、第1の位置指令の生成方法に基づく第1の位置指令(
図6Aの(c)参照)を生成する(S34)。
【0018】
図4に示すように、第2の位置指令の生成方法では、制御部4は第1の位置指令の生成方法と同様にして、位置指令を生成する。すなわち、第2の位置指令の生成方法において、処理S41~S43は、
図3に示す第1の位置指令の生成方法の処理S31~S33と同様である。その後、制御部4は、生成した位置指令に対してハイパスフィルタを用いたフィルタリングを適用する(S44)。このときのフィルタリングにおいても、前述したフィルタリングと同様に、位相の遅れを生じないフィルタリングを適用する。これにより、制御部4は、第2の位置指令の生成方法に基づく第2の位置指令を生成する(S45)。
【0019】
図5に示すように、第3の位置指令の生成方法では、制御部4は第1の位置指令の生成方法と同様にして1回分のLOGSS信号を生成する。制御部4は、生成した1回分のLOGSS信号を2回分並べたLOGSS信号を生成する(S51)。制御部4は、第1の加速度指令の生成方法と同様にして、2回分のLOGSS信号を、バンドパスフィルタによりまとめてフィルタリングする(S52)。制御部4は、2つめのLOGSS信号において、フィルタリング前の信号レベルとフィルタリング後の信号レベルを比較する(S53)。信号レベルの比較は、LOGSS信号の振幅を用いて、20×log
10(振幅の絶対値)[dB]により算出する。制御部4は、フィルタリング前の信号レベルとフィルタリング後の信号レベルとの比較に基づいて、互いのレベルが所定の閾値以上異なる点に対応するタップ数(暫定的なタップ数)を決定する。所定の閾値は、例えば10dB~20dB程度である。ここで、タップ数は、信号長をNタップとしたとき、何番目のタップであるかを示す番号である。一般的に、タップ数は、サンプリング周波数をfs[Hz]、着目時刻をta[s]としたときに、fs×taとして定義される。また、S53の処理の代わりに、前述の上限周波数を式(5-1)のfに代入することでtを求め、fs倍してタップ数を決定してもよい。
【0020】
制御部4は、フィルタリング後のLOGSS信号において、2つめのLOGSS信号に対応する部分を一階積分する。制御部4は、LOGSS信号を一階積分した結果に基づいて、前述した暫定的な設定時間以降において積分結果が0近傍となる点に対応するタップ数(終端タップ数)を決定する(S54)。制御部4は、2つめのLOGSS信号を終端タップ数までで打ち切る(S55)。すなわち、終端タップ以降のタップ値に0を代入する。制御部4は、打ち切った2つめのLOGSS信号を一回積分した信号が所定のタップで0に収束するように処理する(S56)。すなわち、速度指令を所定のタップで0に収束させる。例えば、制御部4は、終端タップ数でのLOGSS信号を一階積分した信号にサンプリング周波数を乗算し、乗算結果の-1倍をLOGSS信号の終端タップ数の次のタップの値とする。制御部4は、その後のLOGSS信号における振幅の値を0とする。制御部4は、一連の処理を適用した2つめのLOGSS信号を1回分のLOGSS信号として使用し、1回分のLOGSS信号を所定の回数分並べることで、加速度指令(
図6Cの(a)参照)を生成する(S57)。制御部4は、生成した加速度指令を時間について二重積分することで(S58)、第3の位置指令の生成方法に基づく第3の位置指令(
図6Cの(c)参照)を生成する(S59)。
【0021】
このような3つの位置指令の生成方法を用いることで、診断システム1では、加速度指令と計測部7が計測する計測加速度(加速度応答)とから、機械構造物2への伝達特性を算出できる。また、LOGSS信号を使用することにより、診断システム1では周波数が低域である領域のSN比を高くできる。そして、LOGSS信号を使用して加速度指令から位置指令を生成することにより、周波数が低域である位置指令の信号の振幅を大きくし、周波数の増加にともなって、位置指令の信号の振幅が徐々に低下する。これにより、機械構造物2において、低域から中域の振動を発生させやすい(励起させやすい)。すなわち、本実施形態の診断システム1では、入力信号の信号パワーが低域から中域において十分高いことに起因して、機械構造物2で着目する可能性が高い、低域から中域のシステム同定を精度よく実行できる。
【0022】
また、第2の位置指令及び第3の位置指令では、
図6B及び
図6Cに示すように、定値位置指令が生じる。定値位置指令は、ある時刻区間において位置指令の値が一定となる指令である。そのため、診断対象となる機械構造物2が静止した状態から動き出す。よって、機械構造物2の静摩擦特性についても診断することができる。また、第2の位置指令及び第3の位置指令は、第1の位置指令と比べて振幅を大きく変化させることができる。よって、第2の位置指令及び第3の位置指令では、SN比を高くすることができる。なお、加速度指令の振幅を小さくした場合、機械構造物2の摩擦特性の変化が非線形特性に表れやすくなる。これは、静摩擦及びクーロン摩擦が加速度指令とは無関係に一定値で生じるため、加速度指令の振幅が小さい場合、非線形特性の影響が相対的に大きくなることによる。したがって、機械構造物2の摩擦特性を診断する場合、適切なSN比を維持しつつ加速度指令の振幅をある程度小さくすることで、機械構造物2の非線形特性のパワー変化が確認しやすくなる。
【0023】
前述のような加速度指令から生成した位置指令を制御指令として、制御部4は機械構造物2の位置を制御する。計測部7は、機械構造物2の位置変化にともなう加速度を、加速度応答(計測加速度)として計測する。制御部4は、加速度指令及び加速度応答に基づいて、インパルス応答を算出する。加速度指令は、前述したように、1回分のLOGSS信号が所定回数分並べられた信号に基づいて生成される。そのため、位置指令も1回分の制御信号が所定回数分並べられた信号となり、機械構造物2は1回分の位置変化を複数回繰り返すように動く。制御部4は、このように動く機械構造物2の計測加速度において、2回目以降の加速度変化を、LOGSS信号における信号の長さを1回分として加算平均する。制御部4は、加算平均された信号を高速フーリエ変換(FFT)する。制御部4は、周波数領域において、加速度指令におけるLOGSS信号の逆特性をFFT処理後の信号に掛け合わせる。制御部4は、掛け合わせ処理を行った信号を逆高速フーリエ変換(逆FFT)することにより、インパルス応答を算出する。このとき、制御部4は、周波数領域での処理において、バンドパスフィルタによるフィルタリングよりにおける影響を適宜補正してもよい。
【0024】
図7は、前述のようにして算出された、診断システム1における機械構造物2のインパルス応答の一例である。
図7では、横軸が時間[s]を示し、縦軸がインパルス応答のレベルを示す。
図7に示すインパルス応答は、LOGSS信号に基づく加速度指令に対する機械構造物2の加速度応答から導出される、機械構造物のダイナミクス特性である。そのため、機械構造物2の線形特性が領域RAに現れ、機械構造物2の非線形特性(以下、歪み特性とも呼ぶ)が領域RBに現れる。領域RAは、インパルス応答のピーク値に対応する時間の少し前の時間から、機械構造物2の残留振動が生じる間の時間(数秒程度)に対応する。領域RBは、領域RA以外の領域において、機械構造物2の特性に応じて適宜設定される。本実施形態では、後述する歪み発生時刻の算出方法に基づいて設定される。
【0025】
なお、インパルス応答は離散フーリエ変換(DFT)に基づいて算出される特性であるため、入力される信号の繰返し性が予め仮定されている。そのため、前述した「インパルス応答のピーク値に対応する時間の少し前の時間」は、例えば機械構造物2の遅れ特性が短い場合、
図7の領域RCで示す区間を含む。また、
図8は、インパルス応答の非線形特性に相当する領域RBの拡大図である。
図8は、横軸が時間を示し、縦軸がインパルス応答のレベルを示す。インパルス応答は離散フーリエ変換(DFT)に基づいて算出される特性であるため、この例では、2次歪み81、4次歪み82、及び6次歪み83が
図8に示す順に現れる。
【0026】
ここで、歪み発生時刻の算出方法について説明する。例えば、LOGSS信号の周波数特性の定義式は、式(1)~式(3)で表される。なお、NはLOGSS信号長であり、qは任意の整数であり、N及びqは設定変数であり、jは虚数である。
【0027】
【0028】
式(1)~式(3)より、LOGSS信号は式(4)で表される。Reは実部を表し、IFFTは逆フーリエ変換を表す。
【0029】
【0030】
このとき、サンプリング周波数fsを4000Hz、LOGSS信号長Nを2
14、qを3/4とすると、式(3)の信号は、
図8Aのように表される。
図8Aに示す信号を(N-J)/2だけシフトした信号は、
図8Bのように表される。
図8A及び
図8Bでは、縦軸が指令のレベルを示し、横軸が時間[s]を示す。後述する実施例では、式(1)~(4)に基づいてLOGSS信号を生成し、(N-J)/2だけシフトした信号を加速度指令として用いる。なお、シフト量は前述の値に限定されず、例えば、
図8Bに示すように、0s(1tap)から0.1s(0.1×fs tap)のタップ値が小さくなるように設定されればよい。
【0031】
図8Cは、
図8Bに示すシフト後のLOGSS信号のスペクトルグラムを示す。縦軸は周波数[Hz]を示し、横軸は時間[s]を示す。
図8Cに示すスペクトルグラムにおいて、縦軸及び横軸を互いに対して入れ替えると、対数関数状に変化していることがわかる。すなわち、対数周波数が時間に比例し、周波数は時間の指数関数となる。したがって、LOGSS信号のスペクトルグラムにおける時間と周波数の関係は、式(5-1)~式(5-3)で表される。なお、t
offsetはオフセット時間であり、shiftは、前述したLOGSS信号のシフト量である。
【0032】
【0033】
図8Dは、式(5-1)~式(5-3)で表されるLOGSS信号のスペクトルグラムにおける時間と周波数の関係を示すグラフである。
図8Dでは、縦軸が周波数[Hz]を示し、横軸は時間[s]を示す。
【0034】
このとき、ダイナミクス特性がない状態で、LOGSS信号の高調波歪みが発生すると、
図8Eに示すグラフとなる。
図8Eは、
図8Dに示すスペクトルグラムとなるLOGSS信号において高調波歪みが発生したときのスペクトルグラムである。線91が式(5-1)~式(5-3)で表される基本波応答の曲線であり、線92が第2高調波応答の曲線(1次歪みの応答曲線)であり、線93が第3高調波応答の曲線(2次歪みの曲線)であり、線94が第4高調波応答の曲線(3次歪みの曲線)であり、線95が第5高調波応答の曲線(4次歪みの曲線)である。
【0035】
このようなLOGSS信号の高調波歪みが発生しているとき、測定された前述の応答の曲線をLOGSS信号の逆特性により変換すると、
図8Fに示すグラフとなる。
図8Fは、
図8Eに示すスペクトルグラムとなるLOGSS信号の応答曲線をLOGSS信号の逆特性により変換したインパルス応答を示す。縦軸が周波数[Hz]を示し、横軸は時間[s]を示す。線91A、線92A、線93A、線94A及び線95Aは、それぞれ線91~線95の応答曲線である。線91Aは、基本波応答に対応するインパルス応答である。線92Bは、第2高調波応答に対応するインパルス応答(一次歪みの歪み特性)である。線93Bは、第3高調波応答に対応するインパルス応答(二次歪みの歪み特性)である。線94Bは、第4高調波応答に対応するインパルス応答(三次歪みの歪み特性)である。線95Bは、第5高調波に対応するインパルス応答(四次歪みの歪み特性)である。このようにして算出される高調波応答に対応するインパルス応答は、時刻0よりも前の時刻の領域、すなわち負の時刻の領域(非因果方向の領域)に現われる。そして、高調波応答に対応するインパルス応答は、非因果方向の領域において、各次数の歪みに分離される。本実施形態では、LOGSS信号を入力信号として用いることで、各次数の歪みにインパルス応答を分離し、各次数の歪みの歪み特性を用いて各次数の歪みを解析できる。
【0036】
また、前述のようにして歪み特性を分離することにより、各次数の歪み特性は異なる時刻領域に分離される。このとき、各次数の歪み特性の発生時刻(-t(num))[s]は、式(6)で表される。ここで、numは歪みの次数である。例えば、前述のように設定した場合、
図8Fに示す歪み特性の発生時刻は
図8Gのようになる。
図8Gにおいて、横軸は歪み次数であり、縦軸は時刻[s]である。
【0037】
【0038】
そして、基本波応答に対応するインパルス応答を基準とした各次数の歪み特性の発生時刻に基づいて、導出されたインパルス応答における歪み発生時刻は、離散フーリエ変換の繰り返し性から、式(7)で表される。ここで、t
aは、ダイナミクス特性の遅れ時間(「無駄時間」とも呼ばれる。)であり、因果率を満たす因果方向の1波目の立ち上がり時刻に相当する。例えば、前述のように設定した場合、インパルス応答の歪み発生時刻は
図8Hのようになる。
図8Hにおいて、横軸は歪み次数であり、縦軸は時刻[s]である。
【0039】
【0040】
なお、位置決め制御系の制御帯域(すなわち機械構造物2に加える振動の加振帯域)がfc0[Hz]であるとすると、機械構造物2の線形特性として生じる応答において、SN比が高い周波数帯域はfc0[Hz]までである。一方で、機械構造物2の非線形応答は、
図8Eに示すように整数倍の周波数(倍長周波数)をもつ高調波により生じる。例えば、一次歪みの場合、駆動部6の加振周波数をfa[Hz]とすると、診断システム1は、2fa[Hz]に励起される非線形応答に基づいて一次歪みを評価する。すなわち、歪み特性の次数をnumとすると、各歪み特性においてSN比が高い周波数帯域は、(num+1)×fc0[Hz]までである。よって、位置決め制御系の制御帯域fc0が低い場合であっても、診断システム1は、周波数(num+1)×fc0[Hz]まで、高いSN比を維持したまま、歪み特性を評価することができる。
【0041】
制御部4は、算出されたインパルス応答に含まれる線形特性及び非線形特性に基づいて、線形特性のパワー及び非線形特性のパワーを評価する。本実施形態では、以下に示す3つの評価方法のいずれかを用いて、制御部4はパワー評価を実行する。
図9A、
図10A、及び
図11Aは、制御部4が実行するパワー評価方法のフローチャートの一例をそれぞれ示す。
図9Aは第1のパワー評価方法を示し、
図10Aは第2のパワー評価方法を示し、
図11Aは第3のパワー評価方法を示す。また、
図9B、
図10B、及び
図11Bは、それぞれのパワー評価方法における評価区間の一例を示す。
【0042】
図9Aに示すように、第1のパワー評価方法では、制御部4は、LOGSS信号のタップ長N(=2
a)よりも短いタップの区間幅2
b(b<a)を対象区間として、インパルス応答に対してFFTを実行する(S91)。
図9Bに示すように、例えば、制御部4は、線形特性が現れる領域RAに対して、タップの区間幅2
bにおけるFFTを実行する。制御部4は、非線形特性が現れる領域RBに対して、タップの区間幅2
bにおけるFFTを実行する。領域RBは、式(7)により算出される、評価対象となる歪み次数の発生時刻を含む。具体的には、制御部4は、変換対象となるインパルス応答を、あらかじめ設定されたタップの区間幅2
bにより切り出す。制御部4は、切り出されたインパルス応答のそれぞれに対してFFTを実行する。制御部4は、FFTが適用されたインパルス応答の対象領域における周波数ごとのパワーを評価する(S92)。
【0043】
図10Aに示すように、第2のパワー評価方法では、制御部4は、インパルス応答のピーク値に対応する時間の少し前の時間から残留振動が収束する時間までの区間以外の区間におけるインパルス応答の値を0として設定する(S101)。制御部4は、インパルス応答全体に対してFFTを実行する(S102)。すなわち、第2のパワー評価方法では、機械構造物2の線形特性が現れる領域のみを変換対象としてFFTが実行される。
図10Bに示すように、例えば、制御部4は、線形特性が現れる領域RA及び領域RCに対して、FFTを実行する。すなわち、制御部4は、式(7)により算出される、一次歪みの発生時刻より後の(一次歪みが収束した後の)時刻の領域に対して、FFTを実行する。残留振動が生じる時間の終端時間は、例えば、20×log
10(インパルス応答の振幅の絶対値)でインパルス応答をプロットしたときに、ピークのパワー値から60dB低下した点に対応する時間である。具体的な処理としては、制御部4は、変換対象となるインパルス応答において、あらかじめ設定された線形特性以外の領域におけるインパルス応答の値を0とする。制御部4は、所定の領域のインパルス応答の値が0に置き換えられたインパルス応答に対して、FFTを実行する。制御部4は、FFTが適用されたインパルス応答の周波数ごとのパワーを評価する(S103)。これにより、制御部4は、変換対象となるインパルス応答における線形特性部分を評価することができる。
【0044】
図11Aに示すように、第3のパワー評価方法では、制御部4は、インパルス応答のスペクトルグラムにおけるパワー平均を算出する。具体的には、制御部4は、変換対象となるインパルス応答のスペクトルグラムを所定の方法により算出する(S111)。スペクトルグラムの算出方法は、公知の方法を適宜使用することができる。スペクトルグラムを算出した後、制御部4は、あらかじめ設定された対象区間に対応するスペクトルグラムを用いて、周波数ごとのパワー平均を算出する(S112)。あらかじめ設定された対象区間は、例えば、解析対象とする歪み次数に対応する、前述した歪みの発生時刻を挟む区間である。制御部4は、パワー平均に基づいて対象区間を評価する(S113)。
図11Bに示すように、例えば、2次歪みに対応する区間11B1、3次歪及び4次歪みに対応する区間11B2、並びに、5次歪み及び6次歪みに対応する区間11B3ごとにパワー平均を算出する。パワー平均の算出方法は、公知の方法を適宜使用することができる。
【0045】
例えばスペクトルグラムの区間s1~s2[s]を評価する場合、スペクトルグラムpower(f,t)[dB]が刻み幅dtで算出されているとすると、パワー平均POWERは式(8)及び式(9)で表される。
【0046】
【0047】
ここで、t(1)=s1であり、t(r)=s2である。また、dtは式(10)を満たす。
【0048】
【0049】
スペクトルグラムを利用した歪み特性の評価は、機械学習を用いて実行されてもよい。ある一例の機械学習では、異常データとして、機械構造物2の状態が異常であると診断システム1により判定された場合のスペクトルグラムデータを用い、正常データとして、機械構造物2の状態が異常ではない、すなわち正常であると診断システム1により判定された場合のスペクトルグラムデータを用いる。そして、異常データ及び正常データに基づいて、画像に関する機械学習が実行される。画像に関する機械学習では、例えば、CNN(Convolutional Neural Network)が利用される。診断システム1は、前述の画像に関する機械学習の実行結果により生成された識別器の識別結果に基づいて、診断対象としての機械構造物2の劣化状態を診断する。
【0050】
なお、第1のパワー評価方法において、対象区間として評価に十分な区間幅を確保できる場合、第3のパワー評価方法と第1のパワー評価方法において得られる結果は同等である。しかしながら、例えば変換区間対象が各歪の非線形特性に対応するインパルス応答の部分である場合、第1のパワー評価方法では必要周波数分解能を満たす十分な区間幅を確保できない可能性が高い。この場合に、第3のパワー評価方法を用いてインパルス応答を評価することで、機械構造物2の非線形特性を適切に評価することができる。
【0051】
次に、診断システム1が診断対象となる機械構造物2を診断するときに実行する処理について説明する。本実施形態の診断システム1では、3つの診断方法のいずれかを用いて、診断システム1は機械構造物2の劣化状態を評価する。
図12~14は、診断システム1が実行する診断処理のフローチャートの一例をそれぞれ示す。
図12は第1の診断方法を示し、
図13は第2の診断方法を示し、
図14は第3の診断方法を示す。
【0052】
図12に示すように、第1の診断方法では、前述した第1の位置指令の生成方法により、制御部4が位置指令を生成する(S121)。生成された位置指令に基づいて、制御部4は機械構造物2を制御するとともに、前述した方法によりインパルス応答を算出する(S122)。制御部4は、算出されたインパルス応答を、前述した方法により評価する(S122)。制御部4は、インパルス応答の評価結果における線形特性成分の変化が、機械構造物2の共振周波数近傍で生じているか否かを判定する(S123)。線形特性成分の変化は、例えば、あらかじめ取得した、基準となる機械構造物2の線形特性(基準線形特性)と比較することにより判定する。
【0053】
ある一例では、線形特性が基準線形特性から閾値を超えて変化しているか否かを判定する。減衰特性の場合、診断システム1が「振動レベルが基準線形特性としての基準振動レベルと比べて√2倍以上大きくなること」を異常と判定するとき、上記第2のパワー評価方法の増加の閾値は3dBである。また、診断システム1が「振動レベルが基準線形特性としての基準振動レベルと比べて2倍以上大きくなること」を異常と判定するとき、上記第2のパワー評価方法の増加の閾値は6dBである。線形バネ特性の場合、共振周波数の変化の閾値は、数10Hz程度である。
【0054】
共振周波数近傍で変化が生じている場合(S123-Yes)、制御部4は、機械構造物2の共振構造に関連する線形バネ特性や構造減衰特性が変化していると判定する(S124)。共振周波数近傍で変化が生じていない場合(S123-No)、制御部4は非線形特性(歪み特性)のパワー変化が共振周波数近傍で生じているか否かを判定する(S125)。非線形特性成分の変化は、例えば、あらかじめ取得した、基準となる機械構造物2の非線形特性(第1の基準非線形特性)と比較することにより判定する。例えば、非線形特性が第1の基準非線形特性から閾値を超えて変化しているか否かを判定する。
【0055】
例えば、診断システム1が「振動レベルが基準非線形特性としての基準振動レベルと比べて√2倍以上大きくなること」を異常と判定するとき、第1のパワー評価方法又は第3のパワー評価方法の増加の閾値は3dBである。また、診断システム1が「振動レベルが基準非線形特性としての基準振動レベルと比べて2倍以上大きくなること」を異常と判定するとき、上記第1もしくは第3のパワー評価方法の増加の閾値は6dBである。
【0056】
共振周波数近傍で非線形特性のパワーが変化していない場合(S125-No)、制御部4は機械構造物2に異常が生じていないと判定する(S126)。共振周波数近傍で非線形特性のパワーが変化している場合(S125-Yes)、制御部4は、駆動系の近傍に配置される部材において、歪み特性のパワー変化が広帯域な領域に対して生じているか否かを判定する(S127)。非線形特性成分の変化は、例えば、あらかじめ取得した、基準となる機械構造物2の非線形特性(第2の基準非線形特性)と比較することにより判定する。例えば、非線形特性が第2の基準非線形特性から閾値を超えて変化しているか否かを判定する。
【0057】
例えば、診断システム1が「振動レベルが基準非線形特性としての基準振動レベルと比べて√2倍以上広帯域な領域にて大きくなること」を異常と判定するとき、上記第1もしくは第3のパワー評価方法の増加の閾値は3dBである。また、診断システム1が「振動レベルが基準非線形特性としての基準振動レベルと比べて2倍以上広帯域な領域にて大きくなること」を異常と判定するとき、第1のパワー評価方法又は第3のパワー評価方法の増加の閾値は6dBである。
【0058】
非線形特性のパワー変化が広帯域な領域に対して生じている場合(S127-Yes)、制御部4は駆動系の摩擦特性が変化していると判定する(S128)。歪み特性のパワー変化が広帯域な領域に対して生じていない場合(S127-No)、制御部4は、共振機構の非線形バネ特性が変化している判定する(S129)。以上のようにして、制御部4は第1の診断方法を実行することにより、機械構造物2の状態を診断する。なお、非線形バネ特性の変化は、共振機構の取り付け剛性の変化などに対応する。
【0059】
なお、共振機構の共振周波数は、機械構造物2全体の連成振動により決定される。そのため、駆動部6の摩擦特性及び/又は共振機構の取り付け剛性の変化(非線形バネ特性)により、共振機構の共振周波数は変化する。ここで、共振機構の共振周波数は、歪み特性がピークをもつ周波数に対応する。例えば、後述する実施例のうち、非線形バネ特性を適用した実施例では、共振機構の共振周波数が、非線形バネ特性を適用していない場合の共振周波数である178Hzから、歪み特性のピークに対応する周波数である182Hzへと変化する。本実施形態では、前述の変化があった場合でも診断システム1が診断処理を実行可能とするため、例えば
図12の処理S125において、診断システム1は、非線形特性のパワー変化を共振周波数の「近傍」で判断する。前述の共振周波数の変化は、機械構造物2全体の質量に対する着目する共振構造物の質量の比率が大きくなるにつれて、大きくなる。
【0060】
図13に示すように、第2の診断方法では、前述した第2の位置指令の生成方法又は第3の位置指令の生成方法により、制御部4が位置指令を生成する。第2の診断方法において、処理S1301~S1305、S1309~S1311は、
図9に示す第1の診断方法の処理S121~S125、S127~S129と同様である。第2の診断方法では、共振周波数近傍で非線形特性のパワーが変化していない場合に(S1305-No)、制御部4は、駆動系の近傍に配置される部材において、非線形特性に変化があるか否かをさらに判定する(S1306)。非線形特性の変化は、例えば、あらかじめ取得した、基準となる機械構造物2の非線形特性(第3の基準非線形特性)と比較することにより判定する。例えば、非線形特性が第3の基準非線形特性から閾値を超えて変化しているか否かを判定する。
【0061】
例えば、診断システム1が「振動レベルが基準非線形特性としての基準振動レベルと比べて√2倍以上大きくなること」を異常と判定するとき、第1のパワー評価方法もしくは第3のパワー評価方法の増加の閾値は3dBである。また、診断システム1が「振動レベルが基準非線形特性としての基準振動レベルと比べて2倍以上大きくなること」を異常と判定するとき、第1のパワー評価方法又は第3のパワー評価方法の増加の閾値は6dBである。
【0062】
非線形特性に変化がある場合(S1306-Yes)、制御部4は駆動系の摩擦特性に変化が生じていると判断する(S1307)。非線形特性に変化がない場合(S1306-No)、制御部4は機械構造物2に異常が生じていないと判定する(S1308)。
【0063】
図14に示すように、第3の診断方法では、前述した第1の位置指令の生成方法及び第2の位置指令の生成方法、又は、第1の位置指令の生成方法及び第3の位置指令の生成方法を組み合わせて使用する(S1401)。すなわち、第1の位置指令の生成方法による位置指令に基づいて、制御部4は機械構造物2を制御するとともに、前述した方法により第1のインパルス応答を算出及び評価する(S1402)。続いて、第2の位置指令又は第3の位置指令の生成方法による位置指令に基づいて、制御部4は機械構造物2を制御するとともに、前述した方法により第2のインパルス応答を算出及び評価する(S1402)。
【0064】
制御部4は、第1のインパルス応答の評価結果における線形特性の変化が、機械構造物2の共振周波数近傍で生じているか否かを判定する(S1403)。共振周波数近傍で変化が生じている場合(S1403-Yes)、制御部4は、機械構造物2の共振構造に関連する線形バネ特性や構造減衰特性が変化していると判定する(S1404)。共振周波数近傍で変化が生じていない場合(S1403-No)、制御部4は非線形特性(歪み特性)のパワー変化が共振周波数近傍で生じているか否かを判定する(S1405)。共振周波数近傍で非線形特性のパワーが変化していない場合(S1405-No)、制御部4は、駆動系の近傍に配置される部材において、第2のインパルス応答の評価結果における歪み特性に変化があるか否かをさらに判定する(S1406)。歪み特性に変化がある場合(S1406-Yes)、制御部4は駆動系の摩擦特性に変化が生じていると判断する(S1407)。歪み特性に変化がない場合、制御部4は機械構造物2に異常が生じていないと判定する(S1408)。
【0065】
共振周波数近傍で非線形特性のパワーが変化している場合(S1405-Yes)、制御部4は、駆動系の近傍に配置される部材において、第1のインパルス応答の評価結果における歪み特性のパワー変化が広帯域な領域に対して生じているか否かを判定する(S1409)。歪み特性のパワー変化が広帯域な領域に対して生じていない場合(S1409-No)、制御部4は、共振機構の非線形バネ特性が変化している判定する(S1410)。歪み特性のパワー変化が広帯域な領域に対して生じている場合(S1409-Yes)、制御部4は、駆動系の近傍に配置される部材の歪み特性の変化について、第2のインパルス応答の評価結果が、第1のインパルス応答の評価結果よりも大きい変化を示しているか否かを判定する(S1411)。第2のインパルス応答の評価結果が大きい変化を示している場合(S1411-Yes)、制御部4は駆動系の摩擦特性のうち静摩擦が変化していると診断する(S1407)。第2のインパルス応答の評価結果が大きい変化を示していない場合(S1411-No)、制御部4は、駆動系の摩擦特性のうちクーロン摩擦が変化していると診断する(S1412)。
【0066】
このように、第1の位置指令の生成方法で生成される位置指令は、経時的に位置指令の値が増加する。そのため、制御部4がこの位置指令を制御指令として機械構造物2を制御する場合、機械構造物2は停止状態となることがない。したがって、前述した第1の診断方法では駆動系の静摩擦特性について評価することはできない。一方、第2の位置指令又は第3の位置指令の生成方法で生成される位置指令では、機械構造物2の停止状態が発生する。したがって、前述した第2の診断方法では駆動系の静摩擦特性について評価することができる。さらに、第1の位置指令及び第2の位置指令、又は、第1の位置指令及び第3の位置指令を組み合わせる第3の診断方法では、駆動系の静摩擦及びクーロン摩擦のいずれが変化しているかを区別することができる。
【0067】
本実施形態の診断方法では、LOGSS信号(Log Swept Sine信号)により生成される加速度指令に基づいて、診断対象となる機械構造物2の位置を駆動部6により変化させる。加速度指令と、加速度計が計測した機械構造物の計測加速度と、に基づいてインパルス応答を算出する。インパルス応答に基づいて、機械構造物2に関連する線形特性及び非線形特性の少なくとも一方を解析する。機械構造物に関連する線形特性及び非線形特性の少なくとも一方に基づいて、機械構造物を診断する。これにより、機械構造物の状態として機械構造物の劣化状態の兆候を把握することができる。
【0068】
なお、本診断方法により得られる、摩擦特性の変化や、非線形バネ特性の変化を鑑み、事前に構築した摩擦特性や非線形バネ特性などを考慮に入れた機械構造物のシミュレータの対応するパラメータを調整し、装置の状態に合わせたシミュレータを構築すること、および、対応パラメータの変化率を把握することで劣化状態の兆候を把握することも本特許の範囲とする。
【0069】
実施形態等に記載された手法は、コンピュータに実行させることができるプログラム(ソフトウエア)として、例えば、磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等の記憶媒体に格納して頒布され得る。記憶媒体は、頒布用に限らず、計算機内部あるいはネットワークを介して接続される機器に設けられた磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶媒体を含む。また、実施形態に記載された手法は、通信媒体により伝送して頒布され得る。媒体側に格納されるプログラムには、コンピュータに実行させるソフトウエアをコンピュータ内に構成させる設定プログラムをも含む。ソフトウエアには、実行プログラムのみならずテーブル、データ構造も含む。本システムを実現するコンピュータは、記憶媒体に記録されたプログラムを読み込むとともに、ソフトウエアにより動作が制御されることで、前述の処理を実行する。ソフトウエアは、コンピュータが設定プログラムにより構築してもよい。プログラムは、例えば、実施形態の診断システムから得られるパラメータ等に基づいて構成されるシミュレータ等である。
【0070】
具体的には、実施形態の診断方法により取得した、摩擦特性の変化及び又は非線形バネ特性の変化に基づいて、機械構造物のシミュレータにおけるパラメータを調整することで、機械構造物の状態に対応したシミュレータを構築してもよい。また、実施形態の診断方法により取得した、摩擦特性の変化率及び又は非線形バネ特性の変化率に基づいて、機械構造物2の劣化状態の兆候を把握してもよい。すなわち、デジタルツインに関連する技術として、本実施形態の診断方法を用いてもよい。
【実施例】
【0071】
次に、所定の慣性系を用いて、前述した実施形態の診断方法を、シミュレーションにより検証する。シミュレーションは、所定の慣性系を再現できる一般的なソフトウェア等を使用して行った。
図15は、実施形態に係る機械構造物の診断方法の検証に用いる慣性系の模式図である。
図15に示す慣性系では、質点P1、質点P2及び質点P3がX軸方向に沿って順に配置される。質点P1は、質点P1をX軸方向に移動させるアクチュエータと接続され、壁Wとバネ及びダンパーにより接続される。質点P1と質点P2との間がバネ及びダンパーで接続され、質点P2と質点P3との間がバネ及びダンパーで接続される。
図15に示す慣性系では、すべてのバネのバネ特性を線形バネ特性とした(線形バネ特性を試験する第1の慣性系)。
【0072】
質点P1が接続されるアクチュエータは、制御部4によりフィードバック制御される。制御部4は、質点P1の速度及び位置に基づいてアクチュエータをフィードバック制御し、位置指令として前述の第1の位置指令~第3の位置指令のいずれかを使用する。また、式(1)~(3)で示されるLOGSS信号では、サンプリング周波数fsを4000Hzに設定し、LOGSS信号長Nを2
14に設定し、qを3/4に設定した。(
図8H参照)アクチュエータは、アクチュエータ特性として一次遅れが導入されている。
図15に示す慣性系の運動方程式は式(11)~(13)のように表される。
【0073】
【0074】
ここで、xiは質点Piの位置座標、miは質点Piの質量、kiは質点iの壁W側に接続されたバネのバネ定数、ciは質点iの壁W側に接続されたダンパーの定数である(i=1,2,3)。本実施例では、m1=0.2[kg]、m2=0.15[kg]、m3=0.05[kg]とした。質点iの壁W側に接続されたバネの周期fiは、f1=60[Hz]、f2=70[Hz]、f3=150[Hz]とした。質点iの壁W側に接続されたダンパーの減衰係数ζiは、ζ1=0.2、ζ2=0.2、ζ3=0.01とした。fは制御部4から入力される位置指令に対応する力である。
【0075】
図16は、
図15に示す慣性系の伝達特性である。縦軸はgain[dB]を示し、横軸は周波数[Hz]を対数で示す。
図16において、(a)が機械構造物の伝達特性であり、(b)が制御系を含めた機械構造物の伝達特性である。
図16に示すように、本慣性系における共振特性は、二慣性系の位相が同相である場合に37.0Hzであり、二慣性系の位相がずれている場合に95.8Hzであり、三慣性系が共振している場合177.8Hzである。本実施例では、アクチュエータに接続された質点P1(駆動系)の摩擦特性として、静摩擦fs及びクーロン摩擦(動摩擦)fcのそれぞれを変更することで、実施形態の診断システム1が静摩擦及びクーロン摩擦のそれぞれを評価できるか否かを試験できる。また、加速度の計測点は各質点である。
【0076】
また、共振構造のバネ特性が非線形バネ特性となる場合を試験するため、
図15に示す慣性系において、共振構造のバネ特性(バネ定数k
3)を式(14)で示される非線形バネ特性とした慣性系を用いた(非線形バネ特性を試験する第2の慣性系)。
【0077】
【0078】
ここで、α2は非線形バネ特性の2次の項の係数の次数であり、α3は非線形バネ特性の3次の項の係数の次数である。したがって、試験例6で用いた慣性系の運動方程式は式(15)~(17)のように表される。
【0079】
【0080】
以下、試験例1~試験例9について説明する。試験例1~試験例9の試験条件は、表1及び表2に示す通りである。
【0081】
【0082】
【0083】
<試験例1>
試験例1では、第1の慣性系を用い、駆動系の静摩擦特性を変化させた。試験例1では、位置指令として第3の位置指令を用い、パワー評価方法として第1のパワー評価方法を用いた。第1のパワー評価方法おける区間幅は1.024秒(FFT点数 212、サンプリング周波数4000Hz)に対応するタップとした。第1のパワー評価方法において、非線形特性(歪み特性)を評価する区間として、インパルス応答の2.90秒~3.92秒の区間を用いた。
【0084】
図17は、それぞれ試験例1における各質点の評価結果を示す。縦軸はパワースペクトラム[dB]を示し、横軸は周波数[Hz]を示す。
図17は、(a)が質点P1の評価結果を示し、(b)が質点P2の評価結果を示し、(c)が質点P3の評価結果を示す。
図17の線β1-1は静摩擦として0.1[kg・m/s
2]を設定したときの非線形特性(歪み特性)に対応する評価結果を示し、
図14の線β1-2は静摩擦として0.2[kg・m/s
2]を設定したときの非線形特性(歪み特性)に対応する評価結果を示す。なお、クーロン摩擦はともに、0.02[kg・m/s
2]を設定している。
図17からわかるように、静摩擦を0.1[kg・m/s
2]から0.2[kg・m/s
2]に変化させたことにともない、質点P1(駆動系)の非線形特性(歪み特性)が変化していることが確認された。
【0085】
<試験例2>
試験例2では、第1の慣性系を用い、駆動系の静摩擦特性を変化させた。試験例2では、位置指令として第3の位置指令を用い、パワー評価方法として第3のパワー評価方法を用いた。第3のパワー評価方法において、非線形特性を評価する区間として、2次歪み特性に対してはインパルス応答の3.65~3.80秒の区間を用い、4次歪み特性に対してはインパルス応答の3.55~3.65秒の区間を用い、6次歪み特性に対してはインパルス応答の3.40~3.50秒の区間を用いた。
【0086】
図18は、それぞれ試験例2における各質点の評価結果を示す。縦軸はパワースペクトラムデンシティ[dB]を示し、横軸は周波数[Hz]を示す。
図18の上段は静摩擦として0.1[kg・m/s
2]を設定したときの評価結果を示し、
図18の下段は静摩擦として0.2[kg・m/s
2]を設定したときの評価結果を示す。なお、クーロン摩擦はともに、0.02[kg・m/s
2]を設定した。
図18では、(a1)及び(a2)が質点P1の評価結果を示し、(b1)及び(b2)が質点P2の評価結果を示し、(c1)及び(c3)が質点P3の評価結果を示す。2次歪み特性に対応する評価結果を線β21で示し、4次歪み特性に対応する評価結果を線β22で示し、6次歪み特性に対応する評価結果を線β23で示す。
図18からわかるように、静摩擦を0.1[kg・m/s
2]から0.2[kg・m/s
2]に変化させたことにともない、質点P1(駆動系)の非線形特性が変化していることが確認された。特に、試験例2では、共振構造に対応する177Hz近傍の周波数帯域において、広帯域(170~250Hz)に2次歪みの変化が明確に確認できた。
【0087】
<試験例3>
試験例3では、駆動系のクーロン摩擦特性を設定したこと、算出したインパルス応答の全区間(0秒~4.10秒)を用いてパワー評価をしたこと、及び、線形特性を評価する区間としてインパルス応答の0秒~1.02秒の区間を用いたこと以外は、試験例1と同様の条件において試験を実施した。
【0088】
図19A及び
図19Bは試験例3における各質点の評価結果を示す。縦軸はパワースペクトラム[dB]を示し、横軸は周波数[Hz]を(
図19Bでは対数で)示す。
図19A及び
図19Bのいずれも、(a)が質点P1の評価結果を示し、(b)が質点P2の評価結果を示し、(c)が質点P3の評価結果を示す。
図19A及び
図19Bはクーロン摩擦として0.06[kg・m/s
2]を設定したときの評価結果を示す。なお、静摩擦はともに、0.1[kg・m/s
2]を設定した。線形特性に対応する評価結果を線α3で示し、非線形特性(歪み特性)に対応する評価結果を線β3で示す。インパルス応答の全区間に対応する評価結果を線γ3で示す。また、
図16に示した慣性系の伝達特性を線ε3で示す。
【0089】
図19Aに示すように、実施形態の診断方法を用いることで、質点P2及び質点P3において、共振特性のうち三慣性系が共振している場合(177.8Hz)の励起成分を、線形成分(線α3)と摩擦特性により生じる非線形成分(線β3)とに分離できることがわかる。インパルス応答の全区間を評価した場合、線γで示すように非線形特性の影響がパワー評価結果に大きく反映される。一方、線形成分(線α3)を分離することにより、非線形成分(線β3)に影響されることなく適切に線形成分(線α3)を評価することができる。また、
図19Bに示すように、実施形態の診断方法は、摩擦特性の影響が大きい場合であっても(クーロン摩擦が0.06[kg・m/s
2]である場合)、機械構造物の伝達特性を高い精度で推定可能なことが確認できた。このように、実施形態の診断方法では、非線形成分の影響を除外することで、機械構造物の劣化状態への線形成分の影響を適切に評価できる。また、実施形態の診断方法では、非線形成分のパワー変化をモニタリング(経時的に追跡)することで、機械構造物の劣化状態への摩擦特性の変化の影響を適切に評価できる。
【0090】
<試験例4-1、4-2>
試験例4-1では、駆動系のクーロン摩擦特性を変化させたこと以外は、試験例1と同様の条件において試験を実施した。試験例4-2では、駆動系のクーロン摩擦特性を変化したこと以外は、試験例2と同様の条件において試験を実施した。
【0091】
図20は試験例4-1における各質点の評価結果を示す。縦軸はパワースペクトラム[dB]を示し、横軸は周波数[Hz]を示す。
図20では、(a)が質点P1の評価結果を示し、(b)が質点P2の評価結果を示し、(c)が質点P3の評価結果を示す。
図20の線β411はクーロン摩擦として0.02[kg・m/s
2]を設定したときの非線形特性(歪み特性)に対応する評価結果を示し、
図20の線β412はクーロン摩擦として0.06[kg・m/s
2]を設定したときの非線形特性(歪み特性)に対応する評価結果を示す。なお、静摩擦は0.1[kg・m/s
2]を設定した。
【0092】
また、
図21は試験例4-2における各質点の評価結果を示す。縦軸はパワースペクトラムデンシティ[dB]を示し、横軸は周波数[Hz]を示す。
図21の上段はクーロン摩擦として0.02[kg・m/s
2]を設定したときの評価結果を示し、
図21の下段はクーロン摩擦として0.06[kg・m/s
2]を設定したときの評価結果を示す。
図21では、(a1)及び(a2)が質点P1の評価結果を示し、(b1)及び(b2)が質点P2の評価結果を示し、(c1)及び(c3)が質点P3の評価結果を示す。2次歪み特性に対応する評価結果を線β421で示し、4次歪み特性に対応する評価結果を線β422で示し、6次歪み特性に対応する評価結果を線β423で示す。
【0093】
試験例4-1、4-2のいずれにおいても、クーロン摩擦を0.02[kg・m/s2]から0.06[kg・m/s2]に変化させたことにともない、共振構造の共振周波数(177.8Hz)の近傍において、質点P3の非線形特性のパワーが10dB程度増加していることがわかる。また、質点P2においても、質点P3のパワーの増加量に対応して非線形特性(歪み特性)のパワーの増加が確認される。したがって、例えば質点P3にスペースの関係等から加速度計を取り付けられない場合であっても、質点P2の加速度を計測することにより、間接的に質点P3の共振構造の共振周波数の近傍における摩擦特性に起因するパワー変化を測定することができる。さらに、試験例4-2において、質点P1では、共振構造の共振周波数を含むブロードな帯域(本例では80Hz~200Hz)において非線形特性(歪み特性)のパワー変化が確認できる。
【0094】
以上の試験例1~4から、静摩擦に関しては、共振構造部(質点P3)と共振構造部よりも壁W側に接続された部分(質点P2)とにおいて、非線形特性(歪み特性)の共振周波数の近傍におけるパワーは変化せず、駆動系の歪み特性が共振構造の共振周波数近傍において広帯域に変化する。よって、静摩擦特性が変化する場合、駆動系の非線形特性(歪み特性)のパワーのみが共振構造の共振周波数近傍において広帯域に変化する。クーロン摩擦に関しては、共振構造部と共振構造部よりも壁W側に接続された部分とにおいて、非線形特性(歪み特性)の共振周波数の近傍におけるパワーが変化するだけでなく、駆動系の非線形特性(歪み特性)も広帯域に(共振構造の共振周波数を含む広帯域にわたって)変化する。したがって、
図13に示す第2の診断方法における摩擦特性に関するフローの妥当性が確認された。
【0095】
<試験例5>
試験例5では、位置指令として第1の位置指令を用いたこと以外は、試験例2と同様の条件において試験を実施した。
【0096】
図22は、試験例5における質点P1の評価結果を示す。縦軸はパワースペクトラムデンシティ[dB]を示し、横軸は周波数[Hz]を示す。
図22では、(a)が静摩擦として0.1[kg・m/s
2]を設定したときの評価結果を示し、(b)が静摩擦として0.2[kg・m/s
2]を設定したときの評価結果を示す。なお、クーロン摩擦はともに、0.02[kg・m/s
2]を設定した。2次歪み特性に対応する評価結果を線β51で示し、4次歪み特性に対応する評価結果を線β52で示し、6次歪み特性に対応する評価結果を線β53で示す。
図22からわかるように、静摩擦を0.1[kg・m/s
2]から0.2[kg・m/s
2]に変化させても、評価結果に変化がないことが確認された。
【0097】
一方で、試験例としての記載は割愛するが、静摩擦の替わりにクーロン摩擦を変化させたこと以外は試験例5と同様の条件で試験を実施すると、試験例4と同様の評価結果が得られた。よって、第1の位置指令と第3の位置指令のそれぞれの組み合わせによる判定を実行することで、静摩擦及びクーロン摩擦の評価を適切に実行することができる。したがって、
図14に示す第3の診断方法における摩擦特性に関するフローの妥当性が確認された。
【0098】
<試験例6>
試験例6では、第2の慣性系を用いたこと、位置指令として第1の位置指令を用いたこと、静摩擦及びクーロン摩擦特性を設定していないこと以外は、試験例1と同様の条件において試験を実施した。
【0099】
図23は、それぞれ試験例6における各質点の評価結果を示す。縦軸はパワースペクトラム[dB]を示し、横軸は周波数[Hz]を示す。
図23では、(a)が質点P1の評価結果を示し、(b)が質点P2の評価結果を示し、(c)が質点P3の評価結果を示す。
図23の線β6-1はα
2として1.9を設定したときの非線形特性(歪み特性)に対応する評価結果を示し、
図23の線β6-2はα
2として2.0を設定したときの非線形特性(歪み特性)に対応する評価結果を示す。また試験例6では、α
3は0.0に設定した。このように設定することで、試験例6では、共振構造物の取り付け剛性の非線形変化を模擬する。
【0100】
図23からわかるように、非線形バネ特性のα
2を2.0から1.9に変化させたことにともない、共振構造の共振周波数(177.8Hz)の近傍において、質点P2及び質点P3の非線形特性(歪み特性)が変化していることが確認された。
【0101】
<試験例7>
試験例7では、第2の慣性系を用いたこと、静摩擦及びクーロン摩擦を設定していないこと、位置指令として第1の位置指令を用いたこと、非線形バネ特性を変化させたこと以外は、試験例2と同様において試験を実施した。
【0102】
図24は、試験例7における各質点の評価結果を示す。縦軸はパワースペクトラムデンシティ[dB]を示し、横軸は周波数[Hz]を示す。
図24の上段は非線形バネ特性のα
2として2.0を設定したときの評価結果を示し、
図24の下段は非線形バネ特性のα
2として1.8を設定したときの評価結果を示す。
図24では、(a1)及び(a2)が質点P1の評価結果を示し、(b1)及び(b2)が質点P2の評価結果を示し、(c1)及び(c2)が質点P3の評価結果を示す。2次歪み特性に対応する評価結果を線β71で示し、4次歪み特性に対応する評価結果を線β72で示し、6次歪み特性に対応する評価結果を線β73で示す。
【0103】
図24からわかるように、非線形バネ特性のα
2を2.0から1.8に変化させたことにともない、共振構造の共振周波数(177.8Hz)の近傍において、質点P2及び質点P3の非線形特性(線β71~β73)が10dB程度変化していることが確認された。特に、4次歪み(線β72)が大きく変化していることが確認された。
【0104】
<試験例8>
試験例8では、第2の慣性系を用いた。試験例8では、位置指令として第1の位置指令を用い、パワー評価方法として第2のパワー評価方法を用いた。ここで、非線形バネ特性のα2として2.0を設定し、非線形バネ特性のα3として0.0を設定した。第2のパワー評価方法において、線形特性を評価する区間として、インパルス応答の0~0.8秒の区間及び3.996秒~4.096秒の区間を用いた。
【0105】
図25は、試験例8における各質点の評価結果を示す。縦軸はパワースペクトラム[dB]を示し、横軸は周波数[Hz]を対数で示す。
図25では、(a)が質点P1の評価結果を示し、(b)が質点P2の評価結果を示し、(c)が質点P3の評価結果を示す。線形特性に対応する評価結果を線α8で示し、
図16に示した慣性系の伝達特性を線ε8で示す。
図25からわかるように、実施例の診断方法は非線形特性が強い条件(非線形バネ特性α
2が2.0の場合)においても、線形特性を適切に分離することができる。換言すると、実施例の診断方法によれば、非線形特性(歪み特性)を適切に分離できることが確認された。
【0106】
以上の試験例6~8から、非線形特性(歪み特性)の成分のパワーをモニタリングすることにより、機械構造物の非線形バネ特性の変化を確認できることがわかった。このようなモニタリングを実施することにより、例えば、共振構造部のバネ剛性における非線形特性の比率(寄与)を確認することで、共振構造の締結部の劣化状態等を診断できる。したがって、
図12~14に示す第1の診断方法~第3の診断方法における非線形ばね特性に関するフローの妥当性が確認された。なお、試験例6~8の結果は、第2の位置指令及び第3の位置指令を用いた場合においても同様の結果となる。
【0107】
<試験例9>
試験例9では、第2の慣性系を用い、共振構造の減衰係数ζを変化させた。試験例9では、位置指令として第1の位置指令を用い、パワー評価方法として第2のパワー評価方法を用いた。ここで、非線形バネ特性のα2として2.0を設定し、非線形バネ特性のα3として0.0を設定した。第2のパワー評価方法において、線形特性を評価する区間として、インパルス応答の0~0.8秒の区間及び3.996秒~4.096秒の区間の区間を用いた。
【0108】
図26は、試験例9における各質点の評価結果を示す。縦軸はパワースペクトラム[dB]を示し、横軸は周波数[Hz]を対数で示す。
図26では、(a)が質点P1の評価結果を示し、(b)が質点P2の評価結果を示し、(c)が質点P3の評価結果を示す。
図26の線α9-1は減衰係数ζとして0.01を設定したときの評価結果を示し、
図26の線α9-2は減衰係数ζとして0.05を設定したときの評価結果を示す。
【0109】
減衰係数ζを0.01から0.05に変化させたことにともない、質点P2及び質点P3のいずれにおいても、共振構造の共振周波数(177.8Hz)の近傍においてピークが変化した。よって、共振構造物の減衰係数が変化する場合、線形特性の成分も変化することがわかる。したがって、本実施形態の診断方法により、線形特性の成分と非線形特性の成分とを分離することで、共振構造物の劣化状態の診断を適切に実施することができる。
【0110】
これらの少なくとも一つの実施形態の診断方法は、LOGSS(Log Swept Sine)信号により生成される加速度指令に基づいて、診断対象となる機械構造物2の位置を駆動部6により変化させる。加速度指令と、加速度計が計測した機械構造物2の計測加速度と、に基づいてインパルス応答を算出する。インパルス応答に基づいて、機械構造物2に関連する線形特性及び非線形特性の少なくとも一方を解析する。機械構造物2に関連する線形特性及び非線形特性の少なくとも一方に基づいて、機械構造物2を診断する。これにより、機械構造物の状態を把握できる診断方法、診断装置、及び診断プログラムを提供することができる。
【0111】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0112】
1…診断システム1、2…機械構造物、3…診断装置、4…制御部、41…インパルス応答算出部、42…インパルス応答解析部、43…診断部、5…接続部、6…駆動部、7…計測部。