(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】アルミニウム含有基材の表面を処理する方法
(51)【国際特許分類】
B05D 7/14 20060101AFI20240422BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240422BHJP
C23C 22/34 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
B05D7/14 101Z
B05D7/24 303A
B05D7/24 302Z
B05D7/24 302P
C23C22/34
(21)【出願番号】P 2021512926
(86)(22)【出願日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 EP2019073771
(87)【国際公開番号】W WO2020049132
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-08-15
(32)【優先日】2018-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517284496
【氏名又は名称】ケメタル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(73)【特許権者】
【識別番号】521006543
【氏名又は名称】ロデイア・オペラシヨン
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ゼブララ,ラルス
(72)【発明者】
【氏名】ケルファラー,ナウェル ソーアド
(72)【発明者】
【氏名】シェネ,アクセル
(72)【発明者】
【氏名】ラボー,マリー-ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ゴディ,ジローム
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-527467(JP,A)
【文献】特開平09-296121(JP,A)
【文献】特表2010-509470(JP,A)
【文献】特表2021-503543(JP,A)
【文献】特表2011-521100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00-7/26
C08G69/00-69/50
C09D1/00-10/00
101/00-201/10
C23C22/00-22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも1つの表面の処理方法であって、ここで前記表面が少なくとも部分的にアルミニウムおよび/またはアルミニウム合金でできており、該方法は、前記少なくとも1つの表面を酸性水性組成物(A)と接触させる工程(1)を少なくとも含み、前記酸性水性組成物(A)が、
(a)チタン化合物、ジルコニウム化合物、ハフニウム化合物およびそれらの混合物の群から選択される1種以上の金属化合物(M)と、
(b)制御されたラジカル重合によって調製される
1種以上の直鎖ポリマー(P)であって、各場合ともポリマー(P)のあらゆるモノマー単位の合計量に基づいて、
(m1)
前記ポリマー中に5~70モル%の量で存在する、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、
(m2)
前記ポリマー中に2~50モル%の量で存在する、ビニルホスホン酸、および
(m3)
前記ポリマー中に25~85モル%の量で存在する、(メタ)アクリル酸
を、これらの重合モノマー単位の形で含有する、
1種以上の直鎖ポリマー(P)
(但し、ポリマー(P)に存在するあらゆるモノマー単位の総計は、加算すると100モル%になる)
とを含み、
前記ポリマー(P)が前記酸性水性組成物(A)中に、前記酸性水性組成物(A)の合計質量に基づいて
200~
3500ppmの量で含まれる、方法。
【請求項2】
前記基材の表面全体がアルミニウム又はアルミニウム合金からなることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸性水性組成物(A)が0.5~6.5の範囲のpHを有することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記1種以上の金属化合物(M)が前記酸性水性組成物(A)中に、各場合とも金属としてのチタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムに基づいて50~5000ppmの範囲の濃度で含まれることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
成分(a)として存在する前記1種以上の金属化合物(M)が、チタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムの複合フッ化物であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記1種以上の直鎖ポリマー(P)が、(m1)N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、(m2)ビニルホスホン酸、および(m3)(メタ)アクリル酸の重合モノマー単位のみを含有するターポリマーであることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記1種以上の直鎖ポリマー(P)が、15,000~50,000g/molの範囲の数平均分子量を有することを特徴とする、請求項1から
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記酸性水性組成物(A)中の遊離フッ化物の濃度が1~250ppmの範囲であることを特徴とする、請求項1から
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
接触工程(1)の後に得られた前記基材の前記表面に、少なくとも1種のコーティング組成物を施与して、前記表面上にコーティング層を形成する追加のコーティング工程を含み、任意に、工程(1)の後、前記コーティング工程の前にすすぎ工程(2)を行う、請求項1から
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
(a)チタン化合物、ジルコニウム化合物、ハフニウム化合物およびそれらの混合物の群から選択される1種以上の金属化合物(M)と、
(b)制御されたラジカル重合によって調製される、
1種以上の直鎖ポリマー(P)であって、各場合ともポリマー(P)のあらゆるモノマー単位の合計量に基づいて、
(m1)
前記ポリマー中に5~70モル%の量で存在する、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、
(m2)
前記ポリマー中に2~50モル%の量で存在する、ビニルホスホン酸、および
(m3)
前記ポリマー中に25~85モル%の量で存在する、(メタ)アクリル酸
を、これらの重合モノマー単位の形で含有する、
1種以上の直鎖ポリマー(P)
(但し、ポリマー(P)に存在するあらゆるモノマー単位の総計は、加算すると100モル%になる)
とを含む酸性水性組成物(A)であって、
前記ポリマー(P)が前記酸性水性組成物(A)中に、前記酸性水性組成物(A)の合計質量に基づいて
200~
3500ppmの量で含まれる、酸性水性組成物(A)。
【請求項11】
請求項
10に記載の酸性水性組成物(A)を製造するためのマスターバッチであって、前記マスターバッチを水で希釈し、妥当な場合pH値を調整する、マスターバッチ。
【請求項12】
基材の少なくとも1つの表面を処理するための請求項
10に記載の酸性水性組成物(A)の使用方法であって、前記表面が少なくとも部分的にアルミニウムおよび/またはアルミニウム合金でできている、使用方法。
【請求項13】
前記使用方法が、前記表面に腐食保護を提供し、および/またはそのように処理された表面上に施与されたさらなるコーティングの接着性を向上させる、請求項
12に記載の使用方法。
【請求項14】
少なくとも1つの表面を含む基材であって、前記表面が少なくとも部分的にアルミニウムおよび/またはアルミニウム合金でできており、前記少なくとも1つの表面が、請求項1から
9のいずれか1項に記載の方法および/または請求項
10に記載の酸性組成物(A)によって処理されている、基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の少なくとも1つの表面の処理方法であって、ここで前記表面が少なくとも部分的にアルミニウムおよび/またはアルミニウム合金でできており、該方法は、前記表面を酸性水性組成物(A)と接触させる工程を少なくとも含み、前記酸性水性組成物(A)は、チタン化合物、ジルコニウム化合物およびハフニウム化合物の群から選択される1種以上の金属化合物(M)と、(m1)N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、(m2)ビニルホスホン酸、および(m3)(メタ)アクリル酸をこれらの重合モノマー単位の形で含有する1種以上の直鎖ポリマー(P)とを含み、酸性水性組成物(A)中に1種以上の直鎖ポリマー(P)が、酸性水性組成物の合計質量に基づいて50~5000ppmの量で含まれる方法に関するものであり、対応する酸性水性組成物(A)そのものに関するものであり、このような酸性水性組成物(A)を製造するためのマスターバッチに関するものであり、表面を処理するための酸性水性組成物(A)の使用方法に、およびそのように処理された表面を含む基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金から作られたアルミニウム材料は今日、ラッカーを塗る前に、防食および接着促進処理に通常は供され、これにはチタンおよび/またはジルコニウム複合フッ化物をベースとする水溶液、ホスホネートを含有する化合物をベースとするそのような溶液、または二工程法で両溶液の組み合わせが用いられる。この前処理には一般に、アルミニウム材料の酸洗いが先行する。
【0003】
このような前処理は、従来「アルミニウム仕上げ」と呼ばれており、特に屋内および屋外の場所におけるアルミニウムおよび/またはアルミニウム合金でできた建築構造物要素に使用される。通常、洗浄と酸洗いの組み合わせが好ましい。
【0004】
しかしながら、これにより生成される転換コーティング(単数または複数)は、特に、シリコン含有量が低いアルミニウム合金が使用される場合、いわゆる糸状腐食を十分に制限することができない。
【0005】
チタンおよび/またはジルコニウム複合フッ化物を単独で用いる、またはホスホネートを含有する化合物を単独で用いる現在の一工程の前処理では、満足のいく結果が得られない。
【0006】
EP1206977A2により教示されているような手法の二工程の変形は、アルミニウム表面を最初にチタンおよび/またはジルコニウム複合フッ化物を用いて処理し、次いで少なくとも1種の特定のホスホネートを用いて処理するが、それでも産業の期待には不十分である。
【0007】
WO2010/100187A1に教示されているアルミニウム合金を前処理するための方法も、二工程の方法である。ここでは、アルミニウム材料を最初にシランを含有する化合物と接触させ、次いで少なくとも1種のホスホン酸化合物を含有する水性組成物と接触させ、ポリシロキサンおよびホスホネートコーティングを連続的に形成する。前記方法の適用は糸状腐食の低減をもたらす一方で、このような二工程または複数工程の方法は、時間、エネルギーおよび労働の支出が増大することからより多くの費用を伴い、従って不利であるので回避すべきである。
【0008】
アルミニウム材料の数多くの適用、特にアルミニウムの仕上げの分野では、良好な防食特性の他に、粉体コーティングなどの上にコーティングを施与するときに十分な接着特性を達成することも望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】EP1206977A2
【文献】WO2010/100187A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
課題
従って、本発明の目的は、アルミニウムおよび/またはアルミニウム合金を含有する材料をコーティングする方法であって、先行技術の欠点を回避することができ、低コストで良好な防食性を提供するとともに、さらなるコーティングを上に施与するときに、いかなる接着特性に関しても欠点がない方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
解決方法
この目的は、本願の特許請求の範囲の主題、および本明細書に開示するその好ましい実施形態、すなわち本明細書に記載する主題によって解決された。
【0012】
よって本発明の第1の主題は、基材の少なくとも1つの表面の処理方法であり、ここで前記表面が少なくとも部分的にアルミニウムおよび/またはアルミニウム合金でできており、該方法は、前記表面を酸性水性組成物(A)と接触させる工程を少なくとも含み、前記酸性水性組成物(A)が、
(a)チタン化合物、ジルコニウム化合物、ハフニウム化合物およびそれらの混合物の群から選択される1種以上の金属化合物(M)と、
(b)制御されたラジカル重合によって調製される、
(m1)N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、
(m2)ビニルホスホン酸、および
(m3)(メタ)アクリル酸
を、これらの重合モノマー単位の形で含有する、
1種以上の直鎖ポリマー(P)
とを含み、
酸性水性組成物(A)中に前記ポリマー(P)が、酸性水性組成物(A)の合計質量に基づいて50~5000ppmの量で含まれる。
【0013】
本発明のさらなる主題は、酸性水性組成物(A)であり、前記酸性水性組成物(A)は、本発明の方法の上に定義した接触工程で使用される。
【0014】
本発明のさらなる主題はマスターバッチであり、このマスターバッチを水で希釈し、妥当な場合pH値を調整することによって、本発明の酸性水性組成物(A)を製造する。
【0015】
さらに本発明の主題は、基材の少なくとも1つの表面を処理するための本発明の酸性水性組成物(A)の使用方法であり、ここで前記表面が少なくとも部分的にアルミニウムおよび/またはアルミニウム合金でできており、好ましくは、表面に腐食保護が提供され、および/またはこのように処理された表面上に施与されるさらなるコーティングに向上した接着性が提供される。
【0016】
本発明のさらなる主題は、少なくとも1つの表面を含む基材であって、前記表面が少なくとも部分的にアルミニウムおよび/またはアルミニウム合金でできており、前記表面が本発明の方法によっておよび/または本発明の酸性組成物(A)によって処理されている。
【0017】
驚くべきことに、組成物(A)中に本発明により使用されるポリマー(P)が存在することにより、接触工程によって形成された転換コーティングの特性、特にさらなるコーティングのための接着促進剤としての役割を果たす能力を著しく改善できることが見出された。
【0018】
さらに驚くべきことに、成分(b)として本発明により使用されるポリマー(P)が、組成物(A)中の成分(a)として使用される金属化合物(M)と組み合わせて存在することにより、腐食性の表面下部分の移動および/または拡散が著しく低減されることも見出された。理論に縛られるものではないが、金属化合物(M)は、酸性環境下でアルミニウムまたはアルミニウム合金の表面をエッチングする傾向があり、その結果、アルミニウムまたはアルミニウム合金の表面付近でpH値の増加を伴うpH勾配が形成され、ポリマー(P)のモノマー単位(m2)中に存在するホスホン酸基からプロトンが部分的に解離すると考えられる。これにより、部分的に脱プロトン化されたホスホン酸基がアルミニウムの表面に付着し、金属表面への腐食性塩の移動や拡散を防止および/または低減するバリアー層が形成されることになる。特に、糸状腐食が著しく低減されることが見出された。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
本発明の意味における、特に本発明の方法、本発明の(本発明により使用される)組成物(A)および本発明のマスターバッチに関連する用語、「を含む(comprising)」とは、好ましくは「からなる(consisting of)」の意味を有する。この場合、例えば、本発明の組成物(A)に関して、その中の必須構成成分(成分(a)、(b)および水)に加えて、以下に述べる他の任意の成分(c)~(f)の1種以上が組成物中に含有されていてもよい。各場合ともあらゆる成分が、以下に述べる好ましい実施形態において存在することができる。本発明のさらなる主題についても同じことが当てはまる。
【0020】
本発明の方法
接触工程(工程(1))
本発明の方法は、表面が少なくとも部分的にアルミニウムおよび/またはアルミニウム合金でできている基材の少なくとも1つの表面を、酸性水性組成物(A)と接触させる少なくとも1つの工程を含む。この工程は、以下で工程(1)と呼ぶ。
【0021】
処理する表面は、酸性水性組成物(A)で処理する前に、酸性、アルカリ性またはpH中性の洗浄組成物によって洗浄、および/またはエッチングしてよい。工程(1)による処理手法、すなわち「接触」には、例えば、噴霧コーティングおよび/または浸漬コーティングの手法が含まれることが可能である。組成物(A)は、表面に溢れさせる(flooding)ことによって、またはロールコーティングによって、または拭うまたはブラシをかけるなど手動でも施与することができる。
【0022】
処理時間、すなわち、本発明による表面処理方法で使用する酸性水性組成物(A)と表面を接触させる期間は、好ましくは15秒~20分、より好ましくは30秒~10分、および最も好ましくは45秒~5分、例えば1~3分である。
【0023】
本発明の処理方法で使用する酸性水性組成物(A)の温度は、好ましくは5~50℃、より好ましくは15~40℃、および最も好ましくは25~35℃である。
【0024】
好ましくは、本発明の方法の工程(1)を行うことによって、基材の少なくとも1つの表面の少なくとも1つの領域に転換コーティング層が形成される。特に、接触工程(1)を行うことによってコーティングが好ましくは形成され、コーティングは好ましくはXRF(蛍光X線分光法)によって決定して、
金属として計算して、0.5~200、より好ましくは2~50、および最も好ましくは3~40mg/m2の、成分(a)として使用される少なくとも1種の金属化合物(M)、および/または
重合モノマー単位(m2)によりポリマー(P)中に必ず存在するリンとして計算して、0.01~50、より好ましくは0.05~40、および最も好ましくは0.1~20mg/m2の、成分(b)として使用される少なくとも1種のポリマー(P)、および/または
シリコンとして計算して、0.1~50、より好ましくは1~40、および最も好ましくは2~20mg/m2の、以下に記載する少なくとも1種の任意に存在する成分(c)、
のコーティング質量を有する。
【0025】
基材
本発明の方法は、基材の少なくとも1つの表面の処理方法であって、ここで前記表面が少なくとも部分的にアルミニウムおよび/またはアルミニウム合金でできており、該方法は、前記表面を酸性水性組成物(A)と接触させる工程を少なくとも含む。
【0026】
表面の少なくとも1つの領域は、好ましくは金属または非金属の基材上に堆積したアルミニウムおよび/またはアルミニウム合金でできている。表面は、異なる金属および/または合金を含む異なる領域からなることができる。しかし、基材の表面の少なくとも1つの領域は、アルミニウムおよび/またはアルミニウム合金である。好ましくは、基材の表面全体が、アルミニウムおよび/またはアルミニウム合金である。
【0027】
より好ましくは、基材はアルミニウムおよび/またはアルミニウム合金からなり、さらにより好ましくはアルミニウム合金からなる。
【0028】
アルミニウム合金の場合、前記合金は、合金の合計質量に基づいて50wt.%を超えるアルミニウムを含有する。本発明の方法は、50wt.%を超えるアルミニウムを含有するあらゆるアルミニウム合金、特にAA5005を含むがこれに限定されないアルミニウムマグネシウム合金、AA6060およびAA6063を含むがこれに限定されないアルミニウムマグネシウムシリコン合金、鋳造合金(例えばAlSi7Mg、AlSi9Mg、AlSi10Mg、AlSi11Mg、AlSi12Mg)、および鍛造合金(例えばAlSiMg)に、特に適している。しかし、該方法はいわゆるAA1000、AA2000、AA3000、AA4000、AA5000、AA6000、AA7000及びAA8000シリーズのあらゆる合金に主に適している。アルミニウム仕上げの分野では、AA5005を含むアルミニウムマグネシウム合金、およびAA6060、AA6063を含むアルミニウムマグネシウムシリコン合金がよく使われている。
【0029】
水性組成物(A)
本発明により使用される組成物(A)に関する「水性」という用語は、本発明の意味において、好ましくは、組成物(A)が、水を含む有機溶媒および無機溶媒のその合計含有量に基づいて、少なくとも50wt.%、好ましくは少なくとも60wt.%、より好ましくは少なくとも70wt.%、特に少なくとも80wt.%、最も好ましくは少なくとも90wt.%の水を含有する組成物であることを意味する。よって組成物(A)は、水の他に少なくとも1種の有機溶媒を含有してよい(ただし、存在する水の量よりも少ない量である)。
【0030】
用語「酸性」とは、組成物(A)が室温(23℃)で7未満のpH値を有することを意味する。酸性水性組成物のpH値は、好ましくは0.5~6.9の範囲、または0.5~6.5の範囲であり、より好ましくは2.0~6.0、さらにより好ましくは2.5~5.5、特に好ましくは3.0~5.0、および最も好ましくは3.1~4.5である。pHは、硝酸、アンモニア水および/または炭酸ナトリウムを使用して好ましくは調整することができる(以下参照:任意の成分(e))。
【0031】
酸性水性組成物(A)は、好ましくは浸漬被覆浴として使用する。しかし、工程(1)に関連して上記で概説したように、例えば噴霧コーティング、ロールコーティング、ブラシがけ、拭うなどのような、実質的に如何なる従来のコーティング手法によっても、アルミニウム含有表面に施与することができる。
【0032】
本発明で使用される酸性水性組成物(A)は、以下の詳細な説明で述べるように、イオンを含むさらなる成分を含んでよい。酸性水性組成物の原料成分の観点から本明細書を通して使用する「さらに含む」という用語は、「必須成分(a)、(b)(金属化合物(M)、およびポリマー(P)に加えて)」を意味する。従って、イオンを含むこのような「さらなる」化合物は、必須原料成分(a)および(b)とは異なる。
【0033】
本発明により使用される酸性水性組成物(A)は、好ましくは遊離フッ化物を含有する。これは、成分(a)の存在によって、すなわち、特にTi、Zrおよび/またはHfの複合フッ化物が成分(a)として(A)中に存在する場合に生じることがあるが、以下に記載する任意の成分(g)の存在によっても、または代わりに以下に記載する任意の成分(g)の存在によって、生じることがある。本発明による処理方法で使用される酸性水性組成物(A)中の遊離フッ化物(F-)の量は、好ましくは1~500ppmの範囲、より好ましくは2~250ppm、および最も好ましくは5~150ppmである。遊離フッ化物の含有量は、フッ化物電極によって決定する。
【0034】
本発明の組成物(A)中に存在するあらゆる成分の合計量は、加算すると100wt.-%となる。
【0035】
成分(a)としての金属化合物(M)
チタン化合物、ジルコニウム化合物、ハフニウム化合物およびそれらの混合物から選択される金属化合物(M)は、各場合とも組成物(A)中の金属としてのTi、Zr、Hfまたはそれらの組み合わせに基づいて、50~5000ppmの範囲、より好ましくは50~4500ppmの範囲、なおより好ましくは75~4000ppmの範囲、さらにより好ましくは100~3500ppmの範囲、および最も好ましくは150~3000ppmの範囲、例えば200~2500ppmまたは250~2000ppmのチタン、ジルコニウム、ハフニウムまたはこれら金属の混合物の金属濃度が達成されるような量で、加えることが好ましい。
【0036】
好ましくは、組成物(A)中の成分(a)の量は、成分(b)の量よりも多い。
【0037】
好ましくは、成分(a)は水溶性である。溶解度は、温度20℃および大気圧(1.013バール)で決定する。
【0038】
成分(a)の含有量は、ICP-OES(誘導結合プラズマを用いた発光分光分析)によって監視および決定することができる。前記方法については、以下に詳細に説明する。
【0039】
特に好ましいチタン、ジルコニウムおよびハフニウム化合物は、これら金属の複合フッ化物である。用語「複合フッ化物」には、単一および複数のプロトン化された形および脱プロトン化された形が含まれる。このような複合フッ化物の混合物を使用することも可能である。特に、組成物(A)は、少なくとも2種の異なる複合フッ化物を含有し、最も好ましくは、少なくとも1種のチタンおよび少なくとも1種のジルコニウムの複合フッ化物を含有する。本発明の意味における複合フッ化物は、組成物(A)中のフッ化物イオンによって、例えば水の存在下でフッ化物アニオンがチタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムカチオンに配位することによって形成された、チタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムの錯体である。
【0040】
さらに、ジルコニウムは、例えばジルコニルニトレートおよびジルコニルアセテート;またはジルコニウムカルボネート若しくはジルコニルニトレートのようなジルコニル化合物の形で加えることもでき、後者が特に好ましい。チタンやハフニウムについても同じことが当てはまる。
【0041】
成分(b)としてのポリマー(P)
ポリマー(P)は、(m1)N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、(m2)ビニルホスホン酸、および(m3)(メタ)アクリル酸を、これらの重合モノマー単位の形で含有する直鎖ポリマー(P)である。少なくとも1種のポリマー(P)は、酸性水性組成物(A)中に、酸性水性組成物(A)の合計質量に基づいて50~5000ppmの量で存在する。
【0042】
ポリマー(P)は、好ましくは酸性組成物(A)中に溶解する。溶解度は、温度20℃および大気圧(1.013バール)で決定する。
【0043】
用語「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」および/または「メタクリル」を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」および/または「メタクリレート」を意味する。ポリマー(P)は、「(メタ)アクリルポリマー」であり、「アクリルモノマー」および/または「メタクリルモノマー」から形成されるが、モノマー(m2)の使用により非アクリルおよび非メタクリル単位も有する。好ましくは、(メタ)アクリルポリマーの骨格は、50モル%を超える、さらにより好ましくは75モル%を超える(メタ)アクリルモノマーから形成される。
【0044】
「重合モノマー単位」とは、それぞれのモノマーの重合によって生成される単位を意味する。例えば、ビニルホスホン酸(H2C=CH-P(=O)(OH)2)の重合モノマー単位は、H2C*-C*H-P(=O)(OH)2であり、アスタリスクは、ポリマー(P)のポリマー骨格を形成する、隣接する重合モノマー単位に結合した炭素原子を示す。
【0045】
ポリマー(P)は好ましくは、組成物(A)中に100~5000ppmの範囲、より好ましくは150~4500ppmの範囲、なおより好ましくは175~4000ppmの範囲、さらにより好ましくは200~3500ppmの範囲、および最も好ましくは225~3000ppmの範囲の量で存在し、例えば250~2000ppmまたは300~1500ppmである。
【0046】
ポリマー(P)は、直鎖ポリマーである。モノマー単位は、ポリマー(P)のポリマー骨格に沿って、統計的に、2つ以上のブロックで、または勾配として配置することができる。しかし、そのような配置は、組み合わせることもできる。
【0047】
ポリマー(P)は、制御されたラジカル重合によって調製する。ポリマー(P)は、具体的には、モノマー(m1)、(m2)および(m3)の制御されたラジカル重合によって調製し、前記重合は、連続的にまたはバッチ式で行う。好ましくは、本発明による処理方法で使用される1種以上のポリマー(P)は、モノマー(m1)、(m2)および(m3)の制御されたラジカル共重合によって得られるランダムコポリマー、すなわち、モノマー(m1)、(m2)および(m3)、遊離ラジカル源およびラジカル重合制御剤を接触させて得られるコポリマーである。
【0048】
本発明により使用されるポリマー(P)は、各モノマー単位(m1)、(m2)および(m3)の1種類のみを含有してよいが、異なる種類のモノマー単位(m1)および/または異なる種類のモノマー単位(m2)および/または異なる種類のモノマー単位(m3)を含んでもよい。ポリマー(P)は、好ましくは、(m1)、(m2)および(m3)以外のモノマーが使用されていない、すなわち、モノマー単位(m1)、(m2)および(m3)の1種のみでできているターポリマーである。
【0049】
好ましくは、ポリマー(P)は、好ましくはターポリマーであり、各場合ともポリマー(P)のあらゆるモノマー単位の合計量に基づいて、
- ポリマー中に5~70モル%、より好ましくは20~55モル%、さらにより好ましくは40~50モル%の量で存在する、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミドモノマー単位(m1)、
- ポリマー中に2~50モル%、より好ましくは3~35モル%、なおより好ましくは4~25モル%の量で存在する、ビニルホスホン酸モノマー単位(m2)、
- ポリマー中に25~85モル%、より好ましくは40~70モル%、特に45~60モル%の量で存在する、(メタ)アクリル酸モノマー単位(m3)
を含有し、ポリマー(P)に存在するあらゆるモノマー単位の総計は、加算すると100モル%になる。
【0050】
好ましくは、ポリマー(P)は、30~500の範囲、より好ましくは40~480、および最も好ましくは55~400の重合度を有する。
【0051】
好ましくは、ポリマー(P)は、好ましくは5,000~60,000g/molの範囲、より好ましくは10,000~50,000g/molの範囲または15,000~50,000g/molの範囲、より好ましくは10,000~47,000g/molの範囲、および最も好ましくは10,000~42,000g/molの範囲の数平均分子量Mnを有する。数平均および質量分子量(それぞれ)MnおよびMwは、以下に記載する方法で決定する。
【0052】
特に、組成物(A)の成分(b)は、10,000~42,000g/molの範囲の数平均分子量を有する(メタ)アクリル酸-N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド-ビニルホスホン酸-ターポリマーからなる群から選択されるポリマー(P)である。
【0053】
説明のための例として、本発明による特に有用なポリマー(P)は、2~10モル%のビニルホスホン酸、20~40モル%のN,N-ジメチル(メタ)アクリルアミドおよび20~70モル%の(メタ)アクリル酸からなり(ポリマー(P)中に存在するあらゆるモノマー単位を加算した総計は100モル%となる)、30000~50000の数平均分子量Mnおよび80000~150000の質量平均分子量Mwを有するモノマー混合物の制御されたラジカル重合によって得られるターポリマーである。このようなポリマーは、例えばWO98/58974A1に記載されている方法により、O-エチルS-(1-(メトキシカルボニル)エチル)キサンテートを以下に定義する制御剤として使用する、制御されたラジカル重合によって調製してよい。
【0054】
上に概説したように、ラジカル重合制御剤は、好ましくは本発明により使用されるポリマー(P)の調製に使用する。ここで、用語「ラジカル重合制御剤」(またはより簡潔には「制御剤」)とは、ラジカル重合反応において成長するポリマー鎖の寿命を延ばすことができ、且つ重合の際に、リビング性または制御性を与えることができる化合物を指す。この制御剤は通常では、専門用語RAFTまたはMADIXによって示される制御されたラジカル重合で使用される可逆的移動剤であり、これは通常では、例えばWO96/30421、WO98/01478、WO99/35178、WO98/58974、WO00/75207、WO01/42312、WO99/35177、WO99/31144、FR2794464またはWO02/26836に記載されているように、可逆的付加開裂移動プロセスを使用する。
【0055】
好ましくは、ポリマー(P)を調製するために使用するラジカル重合制御剤は、チオカルボニルチオ基-S(C=S)-を含む化合物である。よって例えば、ラジカル重合制御剤は、少なくとも1つのキサンテート基(-SC=S-O-官能基を有する)、例えば、1つまたは2つのキサンテートを含む化合物でよい。一実施形態によれば、化合物はいくつかのキサンテートを含む。他の種類の制御剤を想定してもよい(例えば、ATRP(原子移動ラジカル重合)またはNMP(ニトロキシド媒介重合)で使用される種類)。通常は制御剤は、確実にラジカル重合を制御する基、特にチオカルボニルチオ基-S(C=S)-を有する非ポリマー化合物である。より具体的な変形によれば、ラジカル重合制御剤は、ポリマー、有利にはオリゴマーであり、チオカルボニルチオ-S(C=S)-基、例えばキサンテート-SC=S-O-基を有し、通常は、チオカルボニルチオ-S(C=S)-基、例えばキサンテートを有する制御剤の存在下におけるラジカル重合モノマーにより得られる。
【0056】
適した制御剤は、例えば、以下の式(A):
【化1】
を有してよく、
式中:
Zは、水素、塩素、シアノ基、ジアルキル-またはジアリールホスホナトラジカル、ジアルキル―ホスフィナトまたはジアリール-ホスフィナトラジカルまたは以下の任意に置換されたラジカルのうちの任意:アルキルラジカル、アリールラジカル、複素環ラジカル、アルキルチオラジカル、アリールチオラジカル、アルコキシラジカル、アリールオキシラジカル、アミノラジカル、ヒドラジンラジカル、アルコキシカルボニルラジカル、アリールオキシカルボニルラジカル、アシルオキシまたはカルボキシルラジカル、アロイルオキシラジカル、カルバモイルラジカル、ポリマー鎖ラジカルを表し、および
R
1は、以下の任意に置換されたラジカルのうちの任意:アルキルラジカル、アシルラジカル、アリールラジカル、アラルキルラジカル、アルケニルラジカルまたはアルキニルラジカル、または飽和若しくは不飽和若しくは芳香族の、任意に置換された炭素環若しくは複素環、または好ましくは親水性または水分散性のポリマー鎖ラジカルを表す。
【0057】
基R1またはZは、これらが置換されている場合、任意に置換されたフェニル基、任意に置換された芳香族基、飽和若しくは不飽和炭素環、飽和若しくは不飽和複素環、または以下から選択される基:アルコキシカルボニルまたはアリールオキシカルボニル(-COOR)、カルボキシル(-COOH)、アシルオキシ(-O2CR)、カルバモイル(-CONR2)、シアノ(-CN)、アルキルカルボニル、アルキルアリールカルボニル、アリールカルボニル、アリールアルキルカルボニル、フタルイミド、マレイミド、スクシンイミド、アミジノ、グアニジモ、ヒドロキシル(-OH)、アミノ(-NR2)、ハロゲン、パーフルオロアルキルCnF2n+1、アリル、エポキシ、アルコキシ(-OR)、S-アルキル、S-アリール、親水性またはイオン性の基、例えばカルボン酸のアルカリ金属塩、スルホン酸のアルカリ金属塩、ポリアルキレンオキシド(PEO、PPO)鎖、カチオン性置換基(第4級アンモニウム塩)で、置換されてよく、Rはアルキル基またはアリール基、またはポリマー鎖を表す。
【0058】
あるいは基R1は両親媒性であってよく、すなわち、親水性および親油性の両方の性質を有してよい。R1は疎水性でないことが好ましい。
【0059】
R1は、通常は置換されたまたは非置換の、好ましくは置換されたアルキル基でよい。それにもかかわらず、式(A)の制御剤は、他の種類の基R1、特に環またはポリマー鎖ラジカルを含んでよい。任意に置換されたアルキル、アシル、アリール、アラルキルまたはアルキン(alkyne)基は、一般に1~20個の炭素原子、好ましくは1~12個、およびより優先的には1~9個の炭素原子を有する。それらは、直鎖または分岐状でよい。それらは、特にエステルの形態で酸素原子、硫黄原子または窒素原子で置換されてもよい。アルキルラジカルの中で、特にメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、イソプロピル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシルまたはドデシルラジカルが挙げられる。アルキン基は好ましくは、2~10個の炭素原子のラジカルであり、少なくとも1種のアセチレン性不飽和、例えばアセチレニルラジカルを有する。アシル基は好ましくは、カルボニル基を伴う1~20個の炭素原子を有するラジカルである。アリールラジカルの中で、ニトロまたはヒドロキシル官能基で任意に置換されたフェニルラジカルが、特に挙げられる。アラルキルラジカルの中で、特にニトロまたはヒドロキシル官能基で任意に置換されたベンジルまたはフェネチルラジカルが、特に挙げられる。R1またはZがポリマー鎖ラジカルである場合、このポリマー鎖は、ラジカルまたはイオン性重合から得るか、または重縮合から得てよい。
【0060】
有利には、制御剤は、キサンテート-S(C=S)O-、トリチオカーボネート、ジチオカルバメートまたはジチオカルバゼート官能基を有する化合物から、例えば、式-S(C=S)OCH2CH3のO-エチルキサンテート官能基を有する化合物から選択される。キサンテート、特にO-エチルキサンテート-S(C=S)OCH2CH3官能基を有するもの、例えばO-エチルS-(1-(メトキシカルボニル)エチル)キサンテート(CH3CH(CO2CH3))S(C=S)OEtなどは、非常に特に有利であることが証明されている。
【0061】
組成物(A)のさらなる任意の成分-成分(c)
本発明により使用される酸性水性組成物(A)は、イオンを含むさらなる成分を含んでよい。以下に記載する任意の成分(c)~(f)は互いに異なり、これら任意の成分が組成物(A)中に存在する場合、必須成分(a)、(b)および水とも異なる。
【0062】
好ましくは、本発明により使用される酸性水性組成物(A)は、少なくとも1種の成分(c)、すなわちランタノイドを含む元素周期表の、第1~第3の下位群(銅、亜鉛およびスカンジウム群)および第5~第8の下位群(バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルトおよびニッケル群)および元素周期表の第2の主群(アルカリ土類金属群)、リチウム、ビスマスおよびスズの金属のカチオンの群から選択される少なくとも1種類の金属カチオンをさらに含む。前述の金属カチオンは一般にその水溶性化合物の形で、好ましくはその水溶性塩として導入される。
【0063】
より好ましくは、さらなる金属カチオン(単数または複数)は、セリウムおよび他のランタノイド、クロム、鉄、カルシウム、コバルト、銅、マグネシウム、マンガン、モリブデン、ニッケル、ニオブ、タンタル、イットリウム、バナジウム、リチウム、ビスマス、亜鉛およびスズのカチオンからなる群から選択される。
【0064】
さらなる金属カチオンとして最も好ましいのは、マンガン、リチウムおよび亜鉛のカチオンである。この中でも、酸化状態が+IIのマンガンカチオンまたはリチウムカチオンが最も好ましい。特に、驚くべきことに、リチウムイオンを使用すると、糸状腐食がさらに低減されることが見出されている。あるいは、組成物の成分(c)は、金属(単数または複数)として計算して1~400ppmの範囲、より好ましくは2~300ppm、および最も好ましくは4~75ppmの濃度を有する、モリブデンおよび/またはバナジウムのカチオン、好ましくはモリブデンのカチオンを含む。
【0065】
一般的に、この見出し下におけるさらなる金属カチオンの合計濃度は、金属として計算して1~5000ppmの範囲でよい。好ましくは、成分(c)の濃度は、各場合とも金属(単数または複数)として計算して1~950ppmの範囲、より好ましくは5~700ppmの範囲、さらにより好ましくは15~500ppmの範囲、および最も好ましくは17~350ppmの範囲である。
【0066】
組成物(A)のさらなる任意の成分-成分(d)
好ましくは、本発明により使用される酸性水性組成物(A)は、少なくとも1種の成分(d)、すなわち少なくとも1種のpH値調整物質、より好ましくは硝酸、硫酸、メタンスルホン酸、酢酸、アンモニア水、水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムからなる群から選択されるものをさらに含み、ここで硝酸、アンモニア水および炭酸ナトリウムが好ましい。酸性水性組成物(A)のpH値に応じて、上記化合物は、完全にまたは部分的に脱プロトン化された形であるか、またはプロトン化された形であることが可能である。
【0067】
組成物(A)のさらなる任意の成分-成分(e)
好ましくは、本発明により使用される酸性水性組成物(A)は、少なくとも1種の成分(e)、すなわち少なくとも1種の水溶性フッ素化合物をさらに含む。このような水溶性フッ素化合物の例として、フッ化物およびフッ化水素酸が挙げられる。特に、成分(e)は、成分(a)が組成物(A)中にチタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムの複合フッ化物の形で存在しない場合に、組成物(A)中に存在する。
【0068】
組成物(A)のさらなる任意の成分-成分(f)
好ましくは、本発明により使用される酸性水性組成物(A)は、少なくとも1種の成分(f)、すなわち、(A)中に存在する如何なる他の成分にも包含されない少なくとも1種のさらなるイオンをさらに含む。このようなさらなるイオンの例として、ナトリウムイオンおよび/またはアンモニウムイオン、ホスフェートおよび/またはホスホネート、ならびにニトレートが挙げられる。しかし、硫黄を含む化合物、特にサルフェートは避けるべきである。従って、酸性水性組成物(A)中の硫黄含有化合物の量は、(硫黄として計算して)100ppm未満であることが好ましい。
【0069】
本発明の方法の任意のさらなる工程
工程(1)の前に、以下の任意の工程の1つ以上を、この順序で行うことができる:
工程(A-1): 基材の表面を洗浄し、および任意にその後すすぐ工程、
工程(B-1): 基材の表面を酸性の酸洗、すなわちエッチングに供し、その後基材の表面をすすぐ工程、
工程(C-1): 基材の表面を、少なくとも1種の鉱酸を含む水性組成物(前記水性組成物は組成物(A)とは異なる)か、あるいは水性アルカリ組成物またはpH中性の水性組成物と接触させる工程、および
工程(D-1): 工程(C-1)および/または工程(B-1)による接触の後に得られた基材の表面をすすぐ工程。
【0070】
代替として、工程(A-1)および工程(B-1)を一工程で行ってよく、これが好ましい。好ましくは、工程(A-1)および(B-1)の両方を行う。
【0071】
任意の工程(C-1)は、基材の表面から酸化アルミニウム、望ましくない合金成分、スキン、ブラシ塵などを除去し、それによって、本発明による方法の工程(1)におけるその後の転換処理のために表面を活性化する役割を果たす。
【0072】
好ましくは、工程(C-1)の組成物の少なくとも1種の鉱酸は、硫酸および/または硝酸、より好ましくは硫酸である。少なくとも1種の鉱酸の含有量は、好ましくは1.5~50g/lの範囲、より好ましくは2~20g/lの範囲、および最も好ましくは3~10g/lの範囲である。工程(C-1)で使用する組成物は、好ましくは、チタン化合物、ジルコニウム化合物、ハフニウム化合物、およびそれらの混合物の群から選択される1種以上の金属化合物(M)をさらに含む。工程(C-1)では、工程(1)で使用する組成物(A)の成分(a)として記載したものと同じ金属化合物(M)を同じ量で使用することができる。部品の処理において、工程(C-1)の組成物による処理の時間は、好ましくは30秒~10分の範囲、より好ましくは40秒~6分の範囲、および最も好ましくは45秒~4分の範囲である。処理温度は、好ましくは20~55℃の範囲、より好ましくは25~50℃の範囲、および最も好ましくは30~45℃の範囲である。コイルの処理では、処理時間は好ましくは3秒から1分の範囲、最も好ましくは5秒から20秒の範囲である。
【0073】
すすぎ工程(D-1)および工程(A-1)の一部である任意のすすぎは、好ましくは脱イオン水または水道水を使用して行う。好ましくは、工程(D-1)は脱イオン水を使用して行う。
【0074】
本発明の方法の必須の工程(1)を行った後、以下の任意の工程の1つ以上をこの順序で行うことができる:
工程(2): 工程(1)による接触の後に得られた基材の表面をすすぐ工程、
工程(3): 工程(1)の後または任意の工程(2)の後に得られた基材の表面を、 組成物(A)と同じまたは異なる酸性水性組成物(B)と接触させる工程、
工程(4): 工程(3)による接触の後に得られた基材の表面をすすぐ工程、および
工程(5): 工程(1)による接触の後、工程(2)のすすぎの後、工程(3)による接触の後、または工程(4)のすすぎの後に得られた基材の表面を乾燥する工程。
【0075】
本発明による方法の工程(1)の後、工程(1)による接触の後に得られた基材の表面を、好ましくは脱イオン水または水道水ですすぐことができる(任意の工程(2))。本発明による方法の任意の工程(3)の後、任意の工程(3)による接触後に得られた基材の表面を、好ましくは水ですすぐことができる(任意の工程(4))。
【0076】
すすぎ工程(2)および(4)は、工程(1)で使用する組成物(A)に、および任意に、任意の工程(3)で使用する組成物にも存在する過剰な成分、例えばポリマー(P)および/または破壊性イオンなどを基材から除去するために行ってよい。
【0077】
好ましい一実施形態では、すすぎ工程(2)は、工程(1)の後に行う。別の好ましい実施形態では、すすぎ工程(2)を行わない。両方の実施形態において、追加の乾燥工程(5)を好ましくは行う。
【0078】
本発明による方法の任意の工程(3)で施与する水性組成物(B)は、例えば、工程(1)で使用するものとは別の組成物、すなわち、工程(1)で使用する組成物(A)とは異なる組成物であってよいが、必ずしもそうである必要はなく、すなわち、組成物(A)と同一であることが可能である。
【0079】
好ましくは、任意の工程(3)で施与する水性組成物(B)は、
(m1)N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、
(m2)ビニルホスホン酸、および
(m3)(メタ)アクリル酸
を、これらの重合モノマー単位の形で含有し、制御されたラジカル重合によって調製される1種以上の直鎖ポリマー(P)、すなわち、工程(1)で使用する組成物(A)の成分(b)として使用されるのと同じポリマー(P)を含有する。好ましくは、工程(1)および工程(3)で使用するポリマー(P)は同一である。しかしながら、好ましくは、組成物(B)は、チタン化合物、ジルコニウム化合物、ハフニウム化合物およびそれらの混合物の群から選択される如何なる金属化合物(M)も含まず、すなわち、組成物(A)中に存在する成分(a)を含有しない。これは、基材としてのアルミニウムプロファイルおよびシートの場合に特に有利であり、防食性およびラッカー接着値の顕著なさらなる改善をもたらす。
【0080】
本発明により使用される基材の表面は、さらなる、すなわち後続のコーティングによってコーティングすることができる。よって本発明の方法は、少なくとも1つのさらなる任意の工程、すなわち、
工程(6): 工程(1)の後または任意の工程(2)~(5)のいずれかの後に得られた基材の表面に、少なくとも1種のコーティング組成物を施与して、表面上にコーティング層を形成する工程
を含有してよい。
【0081】
工程(6)で使用するコーティング組成物は、好ましくは組成物(A)および(B)とは異なり、好ましくはバインダーとして適した少なくとも1種のポリマーを含み、前記ポリマーは、好ましくはポリマー(P)とは異なる。ポリマー(P)とは異なるこのようなポリマーの例として、特にポリエステルが挙げられる。
【0082】
好ましくは、工程(6)を行う。好ましくは、工程(6)で使用するコーティング組成物は、粉体コーティング組成物である。このような工程では、如何なる従来の粉体コーティング組成物も使用することができる。市販製品の例として、Interpon(登録商標)D2525(AkzoNobel社)およびCorro-coat(登録商標)PE-SDF(ChemRez Technologies社)が挙げられる。
【0083】
好ましくは、本発明の方法は、追加のコーティング工程としての前記工程(6)を含み、接触工程(1)の後に得られた基材の表面、すなわち工程(1)を行ったことによって転換コーティング層を有する基材の表面に、粉体コーティング組成物などの少なくとも1種のコーティング組成物を施与して、表面上にコーティング層を形成する。ここで任意に、工程(1)の後、前記コーティング工程(6)の前にすすぎ工程(2)を行う。前記任意のすすぎ工程(2)が行われるか否かにかかわらず、コーティング工程(6)の前に乾燥工程(5)を順番に行うことが好ましい。
【0084】
工程(6)によりさらなるコーティングを施与する前に、処理された表面を好ましくはすすいで、過剰ポリマー(P)および任意に存在する不要なイオンを除去する。
【0085】
後続のコーティングは、本発明による処理方法において処理された金属表面にウェットオンウェットで施与することができる。しかし、如何なるさらなるコーティングを施与する前にも、本発明により処理した金属表面を乾燥させることも可能である。
【0086】
本発明による処理方法で処理された表面は、その後カソード電着コーティング組成物でコーティングしてよい。好ましくは、カソード電着コーティング組成物は、エポキシ樹脂および/またはポリ(メタ)アクリレート、および妥当な場合ブロック化ポリイソシアネートおよび/またはアミノプラスト樹脂などの架橋剤を含む。
【0087】
しかしながら、特に、本発明による処理方法で処理された表面は、その後工程(6)において、粉体コーティング組成物でコーティングされる。
【0088】
本発明の組成物
本発明のさらなる主題は酸性水性組成物(A)であり、前記酸性水性組成物(A)は、
(a)チタン化合物、ジルコニウム化合物、ハフニウム化合物およびそれらの混合物の群から選択される1種以上の金属化合物(M)と、
(b)制御されたラジカル重合によって調製される、
(m1)N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、
(m2)ビニルホスホン酸、および
(m3)(メタ)アクリル酸
を、これらの重合モノマー単位の形で含有する、
1種以上の直鎖ポリマー(P)
とを含み、
前記ポリマー(P)は酸性水性組成物(A)中に、酸性水性組成物(A)の合計質量に基づいて50~5000ppmの量で含まれ、
すなわち、本発明の方法の接触工程である工程(1)で使用する組成物(A)である。
【0089】
本明細書において上述した、本発明の方法、および前記方法の接触工程(1)で使用する本発明により使用される組成物(A)、およびそこに含有される成分、特に成分(a)、(b)および水だけでなく、任意の成分(c)~(f)に関連するあらゆる好ましい実施形態は、本発明による酸性水性組成物(A)そのものの好ましい実施形態でもある。
【0090】
本発明のマスターバッチ
本発明のさらなる主題はマスターバッチであり、このマスターバッチを水で希釈し、妥当な場合pH値を調整することによって、本発明の酸性水性組成物(A)を製造する。
【0091】
本明細書において上述した、本発明の方法、および前記方法の接触工程(1)で使用する本発明により使用される組成物(A)、およびそこに含有される成分、特に成分(a)、(b)および水だけでなく、任意の成分(c)~(f)、および本明細書において上述した、本発明による酸性水性組成物(A)そのものに関連するあらゆる好ましい実施形態は、本発明のマスターバッチの好ましい実施形態でもある。
【0092】
本発明による酸性水性組成物(A)を製造するためにマスターバッチを使用する場合、マスターバッチは通常は、製造する酸性水性組成物(A)の原料成分、すなわち成分(a)および(b)を所望の割合で、しかしより高い濃度で含有する。このようなマスターバッチは、好ましくは、上記で開示した原料成分の濃度に水で希釈して、酸性水性組成物(A)を形成する。必要に応じて、マスターバッチを希釈した後に酸性水性組成物のpH値を調整してよい。
【0093】
無論、マスターバッチを希釈した水に如何なる任意の成分をさらに加えることも、またはマスターバッチを水で希釈した後に如何なる任意の成分を加えることも、可能である。しかし、マスターバッチにはあらゆる必要な成分がすでに含有されていることが好ましい。
【0094】
好ましくは、マスターバッチを水および/または水溶液で、1:5,000~1:10、より好ましくは1:1,000~1:10の割合で、最も好ましくは1:300~1:10、およびさらにより好ましくは1:150~1:50の割合で希釈する。
【0095】
本発明の使用方法
本発明のさらなる主題は、基材の少なくとも1つの表面を処理するための本発明の酸性水性組成物(A)の使用方法であって、ここで前記表面が少なくとも部分的にアルミニウムおよび/またはアルミニウム合金でできている。
【0096】
好ましくは、前記使用方法は、表面に腐食保護を提供し、および/またはこのように処理された表面上に施与されるさらなるコーティングの接着性を向上させる。
【0097】
本明細書において上述した、本発明の方法、および前記方法の接触工程(1)で使用する本発明により使用される組成物(A)、およびそこに含有される成分、特に成分(a)、(b)および水だけでなく、任意の成分(c)~(f)、および本明細書において上述した、本発明による酸性水性組成物(A)そのもの、および本発明のマスターバッチに関連するあらゆる好ましい実施形態は、本発明の使用方法の好ましい実施形態でもある。
【0098】
本発明の基材
本発明のさらなる主題は、少なくとも1つの表面を含む基材であって、前記表面が少なくとも部分的にアルミニウムおよび/またはアルミニウム合金でできており、前記表面が本発明の方法に従っておよび/または本発明の酸性組成物(A)によって処理されている基材である。
【0099】
本明細書において上述した、本発明の方法、および前記方法の接触工程(1)で使用する本発明により使用される組成物(A)、およびそこに含有される成分、特に成分(a)、(b)および水だけでなく、任意の成分(c)~(f)、および本明細書において上述した、本発明による酸性水性組成物(A)そのもの、本発明のマスターバッチおよび本発明の使用方法に関連するあらゆる好ましい実施形態は、本発明の基材の好ましい実施形態でもある。
【0100】
特に、基材は、少なくとも部分的にアルミニウムおよび/またはアルミニウム合金でできている箔、シート、キャストまたはプロファイルである。
【0101】
試験方法
1.平均分子量MwおよびMnの決定
数平均および質量平均分子量(MnおよびMw)は、それぞれ以下のプロトコルによって測定する。試料を、MALS検出器を備えたSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)によって分析する。約90%の回収質量を得るために、0.1875mL/gに等しい選択されたdn/dC値で、絶対モル質量を得る。ポリマー試料を移動相に溶解し、得られた溶液をミリポアフィルター0.45μmでろ過する。溶出条件は以下のものである。移動相:H2O100体積%。0.1M NaCl、25mM NaH2PO4、25mM Na2HPO4;100ppm NaN3;流速:1mL/分;カラム:Varian Aquagel OH混合H、8μm、3*30cm;検出:RI(濃度検出器Agilent)+MALLS(MultiAngleレーザー光散乱)Mini Dawn Tristar+290nmのUV;試料濃度:移動相で約0.5wt%;注入ループ:100μL。
【0102】
2.ICP-OES
分析する試料の或る特定の元素、例えば、成分(a)に存在する、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムの量は、DIN EN ISO11885(日付:2009年9月1日)による誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP-OES)を使用して決定する。高周波電界により生成したアルゴンプラズマ中で試料を熱励起に供し、電子遷移により放出される光を対応する波長のスペクトル線として可視化し、光学系を使用して分析する。放出される光の強度と、問題の元素、例えばチタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムの濃度との間には直線関係がある。実装前に、既知の元素標準(参照標準)を使用して、分析する特定の試料の関数として較正測定を行う。この較正は、未知の溶液の濃度、例えばチタン、ジルコニウムおよびハフニウムの量の濃度を決定するために使用することができる。
【0103】
3. DIN EN ISO2409(06-2013)によるクロスカット試験
クロスカット試験は、基材上のコーティングの接着強度を確認するために、DIN EN ISO2409(06-2013)により、使用する。カッター間隔は2mmである。評価は、0(非常に良好な接着)から5(非常に悪い接着)の範囲の特徴的なクロスカット値に基づいて行う。クロスカット試験は、湿潤接着を測定するために、試料を沸騰水中で2時間保管した後に行ってもよい。さらに、クロスカット試験は、項目7に記載の耐逆衝撃性試験(ASTM D2794、1993年)の実施後に行ってもよい(落下高さ50cm)。さらに、クロスカット試験は、試料を沸騰水中で2時間保管した後、項目7に記載の耐逆衝撃性試験(ASTM D2794、1993年)の実施後に行ってもよい(落下高さ50cm)。
【0104】
4. DIN EN ISO9227(09-2012)による酢酸塩噴霧(AASS)ミスト試験
酢酸塩噴霧ミスト試験は、基材上のコーティングの耐食性を決定するために使用する。DIN EN ISO9227(09-2012)により、分析する試料は、5%塩溶液が連続してミストがけされるチャンバー内にあり、塩溶液は、pHを制御して(pH3.1)、35℃の温度で1008時間の間、酢酸と混合する。噴霧ミストが分析する試料に堆積し、試料は塩水の腐食性膜で覆われる。酢酸塩噴霧ミスト試験のさらに前に、調査用試料のコーティングがブレードの切り込みで基材まで刻み目を入れられている場合、基材は酢酸塩噴霧ミスト試験の間に刻み目が入れられた線に沿って腐食するので、試料はその膜下腐食のレベルについてDIN EN ISO4628-8(03-2013)により調査することができる。腐食の進行過程の結果として、コーティングは試験の間、多かれ少なかれ浸食される。浸食の程度[mm]は、コーティングの耐性の尺度である。AASS試験を実施した後、試料をさらに調査して、DIN EN ISO4628-2(01-2004)により、その膨れの程度を評価することができる。評価は、0(低い膨れ)から5(非常に重篤な膨れ)の範囲で膨れの大きさおよび量に関する特徴的な値を使用して行い、膨れの頻度および大きさの両方について決定する。
【0105】
5. DIN EN3665(08-1997)による糸状腐食(FFC)
糸状腐食の決定は、基材上のコーティングの耐食性を確認するために使用する。この決定は、DIN EN3665(08-1997)により、1008時間の持続期間にわたって行う。この時間の過程で、問題のコーティングは、コーティングに対して誘発した損傷の線から始まり、線または糸の形をした腐食によって浸食する。[mm]単位の最長の糸長さを、DIN EN3665(08-1997)(方法3)により測定する。
【0106】
6. 屈曲試験
EN ISO1519(04-2011)により、Erichsen社の円筒マンドリル屈曲装置266Sを使用し、5mmのマンドリルを使用してマンドリル屈曲試験を行う。
【0107】
7. 耐逆衝撃性(reverse impact)
コーティング剤の耐衝撃性の決定は、ASTM D2794(1993年)またはDIN EN ISO6272-2(11-2011)により、衝撃試験機(25cmまたは50cmの落下高さ)によって行う。試験は、直径15.9mmのおもりを使用して、20インチ-ポンド(25cmの場合)または40インチ-ポンド(50cmの場合)で行う。
【実施例】
【0108】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するが、その範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0109】
1. 酸性水性組成物(A)
1.1 成分(b)(P)としてポリマー(P)を使用したが、これは、2~10モル%のビニルホスホン酸、20~40モル%のN,N-ジメチル(メタ)アクリルアミドおよび20~70モル%の(メタ)アクリル酸(ポリマー(P)中に存在するあらゆるモノマー単位を加算した総計は100モル%となる)からなるモノマー混合物の制御されたラジカル重合によって得られ、30000~50000の数平均分子量Mn、および80000~150000の質量平均分子量Mwを有するターポリマーであった。ポリマー(P)は、制御剤としてO-エチルS-(1-(メトキシカルボニル)エチル)キサンテートを使用する制御されたラジカル重合によって調製した。
【0110】
1.2 脱イオン水5リットルおよび市販の製品Gardobond(登録商標)X4707(Chemetall GmbH社から入手可能)15g/Lをビーカーに入れた。前記製品は、成分(a)としてチタン化合物およびジルコニウム化合物の群から選択される1種以上の金属化合物(M)を含有する酸性水溶液である。
【0111】
本発明の酸性組成物(A)2つ、すなわちA1およびA2を調製した。上記Gardobond(登録商標)X4707製品に、酸性水性組成物(A)の合計質量に基づいて、1000ppm(A1)または1500ppm(A2)の量で、項目1.1に記載のポリマー(P)を加えたものであった。
【0112】
1.3 2つの比較用酸性水性組成物(CA1)および(CA2)を、項目1.1および1.2に概説したのと同様に調製したが、唯一の違いは、ポリマー(P)を(A1)または(A2)に加えず、代わりに市販のポリ(メタ)アクリル酸を1000ppm(CA1)または1500ppm(CA2)の量で加えたことであった。ポリ(メタ)アクリル酸は、BASF SE社からSokolan(登録商標)PA25Xの商品名で入手可能である。
【0113】
2. 本発明の方法
2.1 2種類の異なる基材、すなわちアルミニウムマグネシウム合金AA5005(基材T1)およびアルミニウムプロファイルAA6060(基材T2)を使用した。
【0114】
洗浄工程(A-1)で、これら基材を市販のGardoclean(登録商標)T5281またはGardoclean(登録商標)T5287(Chemetall GmbH社)を使用して洗浄し(60℃、10分)、その後エッチング工程(B-1)にかけた。エッチングは、市販の製品Gardoclean(登録商標)T5491(Chemetall GmbH社)およびGardobond(登録商標)H7269(Chemetall GmbH社)(90秒、エッチング率>1.0g/m3)を使用して行った。(A-1)および(B-1)の実施の間に、水道水で2回すすいだ(各回30秒)。
【0115】
エッチング工程(B-1)の実施後、水道水ですすいで(30秒)から、脱イオン水によるすすぎ(30秒)を行った。
【0116】
2.2 項目2.1で概説した工程の実行後、接触工程(1)を行った。すなわち、基材上に転換コーティング層を形成するために、基材の表面を、本発明の酸性組成物(A1)または(A2)と、または比較組成物(CA1)または(CA2)と接触させた。接触工程は45秒間行った。
【0117】
前記接触工程(1)を行った後得られた、接触工程を行ったことにより転換コーティング層を有する基材を、脱イオン水を用いたすすぎ工程(2)に供した(代替1)、またはこのようなすすぎ工程を行わなかった(代替2)。
【0118】
代替1および代替2の両方に続き、乾燥工程(5)を行った(80℃で10分)。その後、基材上に粉体コーティング層を施与した(工程(6))。2つの市販の粉体コーティング組成物、すなわち製品Corro-coat(登録商標)PE-SDF(ChemRez Technologies社)または製品Interpon(登録商標)D2525(AkzoNobel社)を使用した。得られたこれらコーティングの乾燥層の厚さは、60~120μmの範囲であった。
【0119】
3. コーティングした基材の特性
3.1 項目2に記載した本発明の方法により得られた、コーティングした基材の複数の特性を調査した。これらの特性は、本明細書中に前述した試験方法により決定した。結果を以下の表1a、2aおよび2bに示す。
【0120】
3.2 代替1(接触工程後にすすぎ工程)
【0121】
【0122】
3.3 代替2(接触工程後にすすぎ工程なし)
【0123】