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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】触媒及び脂肪酸異性化におけるその使用
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/40 20060101AFI20240422BHJP
   C07C 57/03 20060101ALI20240422BHJP
   C07C 51/353 20060101ALI20240422BHJP
   B01J 35/60 20240101ALI20240422BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20240422BHJP
   B01J 37/30 20060101ALI20240422BHJP
   B01J 35/63 20240101ALI20240422BHJP
   B01J 35/61 20240101ALI20240422BHJP
   C01B 39/38 20060101ALI20240422BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240422BHJP
【FI】
B01J29/40 Z
C07C57/03
C07C51/353
B01J35/60 G
B01J37/08
B01J37/30
B01J35/63
B01J35/61
C01B39/38
C07B61/00 300
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021516612
(86)(22)【出願日】2019-09-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 EP2019075475
(87)【国際公開番号】W WO2020064601
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】1815581.2
(32)【優先日】2018-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】523354897
【氏名又は名称】カーギル・バイオインダストリアル・ユーケイ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CARGILL BIOINDUSTRIAL UK LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】バスティアーン ウェルス
(72)【発明者】
【氏名】ソフィ クロード カトリーヌ ウィーデマン
(72)【発明者】
【氏名】タンニャ ファン ベルゲン-ブレンクマン
(72)【発明者】
【氏名】レムコ ベンジャミン ファン トリエット
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-525447(JP,A)
【文献】特表2016-527076(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0169636(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0191331(US,A1)
【文献】Catalysis Today ,2016年,vol.269,p.175-181,DOI:10.1016/j.cattod.2015.10.032
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07C 1/00-409/44
C01B 39/00-39/54
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロポア及びメソポアを含み、マイクロポアの体積(Vmicro)がマイクロポアとメソポアの全細孔体積(Vpore)の1%~50%である、不飽和脂肪酸の異性化触媒であり、
前記触媒がMFI型骨格のゼオライトであり、
前記触媒が少なくとも30,000の活性因子を有し、前記活性因子が式(I)に示されているように算出される異性化触媒:
活性因子=S external ×強いNH 取り込み (I)
ここで、
「S external 」は、窒素の物理吸着によって測定されたゼオライトのm /g単位での外部表面積であり、
「強いNH 取り込み」は、アンモニア温度プログラム脱着中に327℃~550℃の温度で触媒から脱着するNH のμmol/g単位での量である。
【請求項2】
前記触媒が、10員環構造を有するチャネルを含む、請求項に記載の触媒。
【請求項3】
前記触媒がZSM-5ゼオライトである、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
前記触媒が少なくとも80m/gのSexternalを有する、請求項1~のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項5】
前記触媒が少なくとも100μmol/gの強いNH取り込みを有する、請求項1~のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項6】
少なくとも15のシリカ/アルミナモル比(SAR)を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の不飽和脂肪酸の異性化触媒として使用するゼオライトの製造方法であって、以下の工程:
i)ゼオライトを、アルカリ性溶液に接触させる工程;
ii)前記ゼオライトを、酸性溶液に接触させる工程;及び
iii)前記ゼオライトをイオン交換材料に接触させる工程;
を含むゼオライトの構造を改変する方法を含む、不飽和脂肪酸の異性化触媒として使用するゼオライトの製造方法
【請求項8】
前記イオン交換材料がNHNOを含むイオン交換溶液である、請求項に記載の製造方法
【請求項9】
前記アルカリ性溶液及び/又は酸性溶液及び/又はイオン交換溶液が1M未満の濃度である、請求項に記載の製造方法
【請求項10】
前記方法が、さらに、以下の工程:
iv)前記ゼオライトを少なくとも400℃の温度で少なくとも2時間か焼する工程、を含む、請求項7~9のいずれか一項に記載の製造方法
【請求項11】
以下の工程:
i)不飽和脂肪酸を含む出発原料を、請求項1~6に記載のいずれか一項に記載の異性化触媒に接触させる工程、及び
ii)前記触媒を用いて、ある量の不飽和脂肪酸を異性化し、分岐脂肪酸を含む組成物を形成する工程、
を含む、分岐脂肪酸を製造する方法。
【請求項12】
ゼオライトが、出発材料中の脂肪酸の全質量を基準にして0.1~2.8質量%の濃度で使用される、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
分岐脂肪酸を含む前記組成物が、工程ii)の下での6.25時間の異性化反応の後に少なくとも20質量%の分岐脂肪酸を含む、請求項11~12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項11~13のいずれか一項に記載の製造方法を含む、分岐脂肪酸を含む組成物の製造方法
【請求項15】
分岐脂肪酸と請求項1~6のいずれか一項に記載の異性化触媒とを含む組成物。
【請求項16】
不飽和脂肪酸を含むフィードストックから分岐脂肪酸を製造するための、請求項1~6のいずれか一項に記載の異性化触媒の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異性化触媒としての使用に適した触媒、特にゼオライト触媒、ゼオライト触媒の製造方法、触媒を用いて脂肪酸又はそのアルキルエステルを異性化して分岐脂肪酸を製造する方法、分岐脂肪酸を含む組成物、さらには触媒の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸は、滑剤、ポリマー及び溶剤から化粧品やヘルスケアにわたる用途で、化学産業の多くの分野で使用されている汎用性の高い構成要素である。脂肪酸は、一般的に、植物又は動物由来のトリグリセリドの加水分解によって得られる。天然に存在するトリグリセリドは、グリセロールと、一般的には直鎖の、炭素原子数10~24の偶数カルボン酸とのエステルである。最も一般的なものは、炭素原子数12、14、16又は18の脂肪酸である。かかる脂肪酸は、飽和型のものであるか、又は不飽和型のもの、すなわち1つ以上の不飽和炭素二重結合を含むものであることができる。
【0003】
炭素原子数10以上の直鎖飽和脂肪酸は室温で固体であり、そのため、多くの用途で加工することが困難である。不飽和長鎖脂肪酸、例えばオレイン酸は、室温で液体であるため、加工しやすいが、1つ以上の炭素二重結合が存在するために不安定である。分岐飽和脂肪酸は、多くの点で直鎖不飽和脂肪酸に似た特性を呈することができる。さらに、分岐飽和脂肪酸は、一般的に、不飽和脂肪酸よりも酸化的により安定である。そのため、分岐脂肪酸は、多くの用途で、直鎖脂肪酸よりも好ましい。分岐脂肪酸は、一般的に短く(例えばメチル、エチル又はプロピル)、任意の位置で炭素鎖骨格に結合されていることができる1つ以上のアルキル側基を有する。
【0004】
イソステアリン酸などの商業的に入手可能な分岐脂肪酸は、不飽和直鎖脂肪酸の触媒的又は熱的二量化の副生成物として得られる。イソステアリン酸は、典型的には、適切な触媒、一般的にはモンモリロナイトクレイの存在下でオレイン酸を加熱することにより、二量体、三量体、及びより高級のオリゴマー酸を生成させることによって製造される。しかし、重合する代わりに、オレイン酸の一部が転位して、蒸留により単離し水素化することのできる分岐単量体脂肪酸が生じる。この飽和分岐単量体脂肪酸は、様々な直鎖飽和酸及び主に分岐した飽和酸(単分岐及び多分岐の両方)の混合物であり、この混合物はイソステアリン酸として知られている。
【0005】
イソステアリン酸は、オレイン酸よりも優れた酸化安定性を示し、例えば滑剤エステルや化粧品用途などの幅広い用途領域で販売されている非常に有用な製品である。また、イソステアリン酸はイソステアリルアルコールを製造することにも使用されている。
【0006】
花王株式会社のEP0683150には、線状の微多孔構造を有し、1nm未満の平均細孔径を有するゼオライト触媒を使用して分岐脂肪酸を製造する方法が開示されている。これらの触媒は、微多孔性の結晶構造だけを有するために拡散が高度に制限されており、その結果、十分な転化率を得るためには、高い触媒担持量(例えば、実施例では、脂肪酸出発原料の質量を基準として4~8質量%)を必要とする。
【0007】
Akzo NobelのEP1490171には、MAS-5と呼ばれる酸性メソポーラスアルミノシリケート材料を使用した脂肪酸異性化方法が開示されている。MAS-5は、本開示の表1に示されているように、3.7nm(37Å)のシャープな細孔径分布を有し、このことはMAS-5がメソポーラスであることを示している。この材料のもっぱらメソポーラスな性質は、十分な変換を達成するために非常に高い触媒装填量(例えば、実施例1では10質量%)を使用する必要があることによって示されているように、不十分な触媒性能をもたらす。
【0008】
WO2011/136903には、フェリエライトゼオライト触媒と立体障害のあるルイス塩基との組み合わせを使用して分岐脂肪酸を製造する方法が開示されている。この例の触媒は、微多孔性の結晶構造だけを有し、その結果、拡散が制限されており、十分な変換を達成するためには、高い触媒装填量を必要とする。さらに、この触媒のフェリエライト構造は、実質的により多くの直鎖生成物をもたらす(すなわち、得られる混合生成物は、分岐基に対してより高い含有率の直鎖基を含む)。その結果、得られる異性化脂肪酸の特性が代替プロセスルートと比べて異なるため、この方法の生成物は、イソステアリン酸の既存の用途の多くに適していない。
【0009】
したがって、異性化によって分岐脂肪酸を製造するための改良された方法、及びかかる方法で使用するための改良された異性化触媒が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、脂肪酸又はそのアルキルエステルを異性化して分岐脂肪酸を製造する方法が、マイクロポア及びメソポアを含み、マイクロポアの体積(Vmicro)がマイクロポアとメソポアの全体積(Vpore)の1%~50%である改良された触媒を使用することによって改善できるという、本発明者らによる認識に一部基づいている。好ましくは、触媒はゼオライト又はゼオタイプ触媒である。この触媒は、脂肪酸又は脂肪酸のアルキルエステルの異性化に対して必ず活性でなければならず、便宜上、異性化触媒と呼ぶことができる。
【0011】
この触媒の使用は分岐脂肪酸の製造に改善を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、本発明は、マイクロポア及びメソポアを含み、マイクロポアの体積(Vmicro)が、マイクロポアとメソポアの全細孔体積(Vpore)の1%~50%である触媒を提供する。
【0013】
さらに、又は代わりに、本発明は、式(I):
活性因子=Sexternal×強いNH取り込み (I)
により示される活性因子が少なくとも30,000である触媒を提供する。
ここで、
「Sexternal」は、窒素の物理吸着によって測定された触媒のm/g単位での外部表面積であり、
「強いNH取り込み(strong NH3 uptake)」は、本開示における試験方法に定義されているとおりに測定される、アンモニア温度プログラム脱着(ammonia temperature programmed desorption)中に327℃~550℃の温度で触媒から脱着するNHのμmol/g単位での量である。
【0014】
本発明は、ゼオライトの構造を改変することにより好適なゼオライト触媒を製造する方法であって、以下の工程:
i)ゼオライトを、アルカリ性溶液、好ましくはNaOHを含むアルカリ性溶液に接触させる工程;
ii)ゼオライトを、酸性溶液、好ましくはHClを含む酸性溶液に接触させる工程;及び
iii)ゼオライトをイオン交換材料、好ましくは交換溶液、好ましくはNHNOを含む交換溶液に接触させる工程;
を含む方法を提供する。
【0015】
本発明は、不飽和脂肪酸を含む出発原料(又はフィードストック)から分岐脂肪酸を製造する方法であって、以下の工程:
i)不飽和脂肪酸を含む出発原料を触媒に接触させる工程;及び
ii)触媒を使用してある量の不飽和脂肪酸を異性化して、分岐脂肪酸を含む組成物を形成する工程;
を含む方法も提供する。ここで、触媒は、マイクロポア及びメソポアを含み、マイクロポアの体積(Vmicro)は、マイクロポア及びメソポアの全体積(Vpore)の1%~50%である。
【0016】
本発明はさらに、本開示に記載の方法によって得られる、好ましくは本開示に記載の方法によって得られた、分枝状脂肪酸を含む組成物を提供する。好適には、本発明は、分岐した脂肪酸を含む組成物を提供する。
【0017】
本発明は、不飽和脂肪酸を含むフィードストックから分岐脂肪酸を製造するためのマイクロポア及びメソポアを含む触媒の使用であって、マイクロポアの体積(Vmicro)がマイクロポアとメソポアの全体積(Vpore)の1%~50%である、マイクロポア及びメソポアを含む触媒の使用を提供する。
【0018】
本発明の任意の態様は、本開示に記載された特徴のいずれかを、その特徴が本発明のその態様に関して記載されているか否かにかかわらず含むことができる(例えば、その特徴は、本発明の別の態様、背景又は実施例において参照することができる)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示で使用される任意の上限又は下限の量又は範囲の限界を独立に組み合わせることができることが理解されるであろう。
【0020】
置換基中の炭素原子の数を記述する場合(例えば「C1~C6」)、その数は、任意の分岐基中に存在するものを含む、置換基中に存在する炭素原子の総数を意味することが理解されるであろう。さらに、例えば脂肪酸の炭素原子数を記述する場合、これは、カルボン酸の1つの炭素原子と任意の分岐基中に存在する炭素原子を含む炭素原子の総数を意味する。
【0021】
また、本開示における任意の脂肪酸への言及は、そのアルキルエステルへの言及も含まれる。したがって、本開示に記載されている不飽和脂肪酸のアルキルエステルも出発原料に使用することができる。アルキル部分は全炭素数の半分以下であることができるが、アルキル部分の炭素原子数は、通常は1~3、好ましくは1である。アルキルエステルの具体例としては、不飽和脂肪酸のメチルエステル、エチルエステル及びプロピルエステルなどが挙げられ、メチルエステルが好ましい。
【0022】
本発明において使用することができる化学物質の多くは天然資源から得られる。かかる化学物質は、典型的には、その天然起源に起因する化学種の混合物を含む。かかる混合物の存在により、本開示で定義される様々なパラメータは、平均値であることがあり、非整数であり得る。
【0023】
本開示において、記載されたゼオライトの物理的特性への言及は、別段の記載がない限り、適切なゼオタイプ材料の物理的特性も包含することが理解されるであろう。
【0024】
ゼオライトの細孔径を記述し、ゼオライトの細孔径をマイクロポア、メソポア及びマクロポアの3つのグループに分類するために、The IUPAC pore classification (IUPAC. Compendium of Chemical Terminology, 2nd Ed. compiled by A. D. McNaught and A. Wilkinson. Blackwell Scientific Publications, Oxford 1997)を使用した。円筒形を仮定すると、ゼオライトの細孔はそれらの直径によって表1のように分類される。
【0025】
【表1】
【0026】
本開示では、マイクロポア、メソポア及びマクロポアという表現は、表1に示すIUPACの細孔径の定義に従う。
【0027】
触媒
本発明の触媒は、マイクロポアとメソポアを含む構造を有する。より詳細には、本発明は、マイクロポア及びメソポアを含む触媒であって、マイクロポアの体積(Vmicro)がマイクロポアとメソポアの全細孔体積(Vpore)の1%~50%である触媒を提供する。有利には、触媒は、不飽和脂肪酸の二量化と触媒細孔構造内又は細孔入口でのコーク形成とを遅らせるのに十分小さい細孔(例えばマイクロポア)と、分岐鎖脂肪酸又はそれらのエステルが触媒の中から外に迅速に拡散するのに十分大きい細孔(例えばメソポア及び/又はマクロポア)とを有する。このように、この触媒は、使用時に望ましい形状選択性と望ましい生成物収率を提供するように最適化されている。
【0028】
触媒は、アルミノシリケート、好ましくは結晶性アルミノシリケートであることができる。好ましくは、触媒は一般式Mn+ x/n[AlO(SiOy(y>x)]・zH2Oを有し、ここで、MはIA族(すなわちアルカリ金属、水素も包含する)又はIIA族(すなわちアルカリ土類金属)の金属カチオンであり、nは金属の価数である。ゼオライトは、共有酸素原子を介して連なったSiO4及びAlO4四面体を含む微多孔性ネットワークを好ましくは含む。アルミニウムは、好ましくは3+の原子価を有し、その結果、AlO4四面体に過剰な負電荷がもたらされるが、これは、H又は他のカチオン(例えば、Na、NH 、Ca2+)によって補償できる。Mが水素の場合、材料はブレンステッド酸性であるのに対し、Mが例えばセシウムの場合、材料は塩基性である。加熱すると、ブレンステッド酸性ヒドロキシルが縮合して、ルイス酸サイトとして作用する共役不飽和Alを生じることがある。酸強度、酸サイトの密度及び分布、並びにブレンステッド酸性対ルイス酸性は、骨格アルミニウムのレベルにより影響され得る。
【0029】
触媒のシリカ(SiO)/アルミナ(Al)モル比(SAR)は、スチームの存在下又は不在下での制御されたか焼と、必要に応じて、その後の、触媒骨格から外れたアルミニウムの抽出によって変化させることができる。SARは、例えば、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウムを使用する化学処理によって変化させることができる。代わりに、反応物の化学量論を変化させることにより、製造段階における制限の範囲内でSARを制御することもできる。本発明において使用される触媒は、少なくとも3、好ましくは少なくとも5、より好ましくは少なくとも10、特に少なくとも15、望ましくは少なくとも20のSARを有することができる。ゼオライトは、最高で200、好ましくは最高で180、より好ましくは最高で140、特に好ましくは最高で100、望ましくは最高で90のSARを有することができる。ゼオライトは、3~200、より好ましくは10~140、特に好ましくは15~100の範囲内のSARを有することができる。SARは、原子吸光分光法によって決定することができる。
【0030】
最も好適には、触媒は、ゼオライト又はゼオタイプ材料から選択されたアルミノシリケート材料であることができる。そのため、好ましくは、触媒は、ゼオタイプ材料を含んでもよい。ゼオタイプ材料は、ゼオライトと同じ物理的特性、例えば結晶性、細孔構造及び酸性度などを提供することができるが、それらの結晶構造に他の原子を含むことができ、これは、多くの場合、同様の細孔分布を維持しながら酸性度を変える効果がある。これは、例えば、高い酸性度が所望の生成物の収率を低下させ得る場合など、いくつかの触媒反応において望ましい場合がある。ゼオタイプの例は、一般的にSAPO材料と呼ばれるシリコアルミノホスフェート材料であり、シリカ及びアルミナ四面体と同様にリン酸サイトをその構造に含む。ここで説明したゼオライトと同様の酸性度、拡散性及び細孔径特性を有する任意のゼオタイプを使用できることは理解されるだろう。さらに、ゼオタイプ材料とゼオライト材料の混合物は、最適な選択性及び生成物収率をもたらすように細孔のサイズ及び構造並びに酸性度を2つの材料間でバランスさせることができる、最適化された触媒を提供することができる。あるいは、触媒はゼオタイプ材料を含んでいなくてもよい。
【0031】
触媒は、階層型ゼオライト又はゼオタイプ材料であることができる。階層型ゼオライト又はゼオタイプ材料は、マイクロポアと1つ又は複数のタイプのより大きな細孔(メソポア及び/又はマクロポア)との組み合わせによって特徴付けられる。ゼオライト又はゼオタイプ材料によって触媒される反応は、マイクロポア内で起こり得る。より大きなメソポア及び/又はマクロポアを介したゼオライト又はゼオタイプ材料の外部表面へのマイクロポアの接続により拡散が増加することによって、全体的な反応速度を高めることができる。メソポア及び/又はマクロポアは、結晶内及び/又は結晶間にあることができる。
【0032】
好ましくは、触媒はゼオライトである。
【0033】
ゼオライトは、チャネル又は細孔を形成する環中の構成原子(一般にT原子と呼ばれる)の数によって分類することができる。好ましくは、ゼオライトは、10員環(すなわち、T10環)を有するチャネル又は細孔を含む。かかるゼオライトは、中細孔(medium pore)ゼオライトの部類に属し、そのため、好ましくは、触媒は中細孔ゼオライトである。中細孔ゼオライトの例としては、MFI、TON及びFER骨格タイプのものが挙げられる。好ましくは、ゼオライトは、ZSM-5、ZSM-22及びフェリエライトから選択され、より好ましくは、ZSM-5及びZSM-22から選択される。好適には、ゼオライトはペンタシル単位を含んでいてもよく、好ましくは、ゼオライトはペンタシルゼオライトである。最も好ましくは、ゼオライトは、ZSM-5構造を含む。ゼオライトは、ZSM-5ゼオライトであってもよい(すなわち、異性化触媒は、ZSM-5ゼオライトからなっていてもよい)。ゼオライトは、ベータゼオライト構造(BEA骨格タイプの一員)を含んでいなくてもよい。ゼオライトは、フェリエライトゼオライト構造(FER骨格タイプの一員)を含んでいなくてもよい。ゼオライトは、12員環(すなわち、T12環)を有するチャネル又は細孔を含んでいなくてもよく、かかる材料は最適化された生成物形状選択性を提供しない。
【0034】
上記記載から理解されるように、より好ましくは、ゼオライト触媒はMFIタイプのゼオライトであり、最も好ましくは、ゼオライトはZSM-5ゼオライトを含む。好適なZSM-5ゼオライトは、その内容が参照により本開示に援用される米国特許第3702886号明細書に開示されている方法に従って製造することができ、より好ましくは、ZSM-5ゼオライトは、以下に示す方法に従って修飾される。
【0035】
なお、触媒活性の観点から、ゼオライト中のカチオンがプロトンであることが好ましいが、カリウム型、アンモニウム型又は類似の型のゼオライトを、イオン交換やか焼などの適切な方法で部分的又は完全にプロトン型に変換した後に使用してもよい。
【0036】
触媒中の酸サイトの量(例えば、1グラム当たりの量)は、所定質量の触媒が分岐脂肪酸の生成を触媒する能力に大きな影響を及ぼすことができる。酸サイトの量は、アンモニア温度プログラム脱着(TPD)によって測定することができる。アンモニアTPDは、まず、触媒サンプルにアンモニアを吸着させ、次いで、サンプルから気相に戻るアンモニアの発生を、好ましくは自動化された化学吸着アナライザーを用いてモニターしながらサンプルを制御加熱することを含む。化学吸着分析装置は、Micromeritics TPD/TPR 2900装置であることができる。
【0037】
本発明で使用されるアンモニアTPD法は、触媒サンプルの表面にアンモニアを吸着させること、次いで、サンプルを約20℃(293K)の室温から550℃(823K)まで加熱し、サンプルからのアンモニアの発生を測定することを含む。20℃~550℃でサンプルから脱着したアンモニアの総量を「総NH取り込み(total NH3 uptake)」と呼ぶことにし、これは触媒中の酸サイトの総量を示す。総NH取り込みはμmol/g単位で測定される。触媒は、少なくとも100μmol/g、好ましくは少なくとも150μmol/g、より好ましくは少なくとも200μmol/g、望ましくは少なくとも250μmol/g、特に少なくとも300μmol/gの総NH取り込みを有することができる。触媒は、最高で1000μmol/g、好ましくは最高で900μmol/g、より好ましくは最高で800μmol/g、望ましくは最高で700μmol/gの総NH取り込みを有することができる。好ましくは、アンモニアTPD法は、本開示の試験方法に記載されているとおりである。
【0038】
本発明によれば、不飽和脂肪酸を異性化して分岐脂肪酸を生成する触媒の能力を向上させる酸サイトを触媒中に生成又は維持することが好ましく、触媒が異性化触媒として好適なものであるには、酸サイトの存在が望ましいと考えられる。本発明は、かかる酸サイトはアンモニアに対する親和性が高いことを認識したものであり、このことはそれらの酸サイトが「強」酸サイトであることを示している。強酸サイトの量は、ある最低温度(この場合では、327℃(600K)を選択)以上でのアンモニア脱着の量によって測定することができる。脱着の最低温度が高いほど、アンモニアが酸サイトにより強く保持されていることを示す。したがって、327℃~550℃でサンプルから脱着したアンモニアの量は、「強いNH取り込み」と呼び、触媒中の強酸サイトの量についての指標である。ゼオライト触媒及びゼオタイプ触媒は両方とも、弱酸性サイトと強酸サイトの両方が存在するものとしないものが知られており、本ケースでは強酸サイトを有する材料が好ましい。本ケースにおいて、好ましいゼオライト触媒は、少なくとも50μmol/g、好ましくは少なくとも100μmol/g、より好ましくは少なくとも150μmol/g、望ましくは少なくとも200μmol/g、特に少なくとも250μmol/gの強いNH取り込みを有することができる。さらに、好ましいゼオライト触媒は、最高で900μmol/g、好ましくは最高で800μmol/g、より好ましくは最高で700μmol/g、望ましくは最高で600μmol/gの強いNH取り込みを有することができる。酸性度が高すぎる材料は、使用時に、所望の生成物の収率が低くなる可能性がある。
【0039】
酸性度特性に加えて、本発明の異性化触媒の触媒活性に影響を及ぼし得る多くの物理的(組織又は構造的)特性、例えば、表面積及び細孔体積が存在する。触媒の表面積及び/又は細孔体積は、窒素物理吸着によって測定することができる。また、表面積及び/又は細孔体積は、BET(Brunauer-Emmett-Teller)理論に基づいて算出することができる。表面積は、ゼオライトの全表面積(Stotal)として計算されてもよく、次に、経験的t-プロット法を用いて、マイクロポア表面積(Smicro)、メソポア表面積(Smeso)及びマクロポア表面積(Smacro)に分割することができる。また、メソポア表面積とマクロポア表面積を組み合わせて外部表面積(Sexternal)とし、Stotal=Smicro+Sexternalとすることも可能である。好ましくは、比表面積はISO 9277に基づいて測定される。
【0040】
触媒は、少なくとも300m/g、好ましくは少なくとも400m/g、より好ましくは少なくとも450m/g、望ましくは少なくとも500m/gの表面積(Stotal)を有することができる。触媒は、最高で800m/g、好ましくは最高で700m/g、より好ましくは最高で650m/g、望ましくは最高で600m/gの表面積(Stotal)を有することができる。この表面積は、窒素物理吸着、好ましくはBET理論、より好ましくは経験的t-プロット法を用いて測定することができる。
【0041】
触媒は、少なくとも80m/g、好ましくは少なくとも120m/g、より好ましくは少なくとも140m/g、望ましくは少なくとも160m/gの外部表面積(Sexternal)を有することができる。ゼオライトは、最高で600m/g、好ましくは最高で500m/g、より好ましくは最高で400m/gの外部表面積(Sexternal)を有することができる。この外部表面積は、窒素物理吸着、好ましくはBET理論、より好ましくは経験的t-プロット法を用いて測定することができる。
【0042】
また、窒素物理吸着法及び経験的t-プロット法は、Vpore=Vmicro+Vmesoとなるように、マイクロポア体積(Vmicro)、メソポア体積(Vmeso)、及び全細孔体積(Vpore)を測定するために使用することができる。
【0043】
触媒は、少なくとも0.4cm/g、好ましくは少なくとも0.5cm/g、より好ましくは少なくとも0.6cm/g、望ましくは少なくとも0.7cm/gの全細孔体積(Vpore)を有することができる。触媒は、最高で2cm/g、好ましくは最高で1.8cm/g、より好ましくは最高で1.6cm/g、望ましくは最高で1.4cm/gの全細孔体積(Vpore)を有することができる。この全細孔体積は、窒素物理吸着、好ましくは経験的t-プロット法を用いて測定することができる。
【0044】
触媒は、少なくとも0.05cm/g、好ましくは少なくとも0.08cm/g、より好ましくは少なくとも0.1cm/gのマイクロポア体積(Vmicro)を有することができる。触媒は、最高で0.4cm/g、好ましくは最高で0.3cm/g、より好ましくは最高で0.2cm/gのマイクロポア体積(Vmicro)を有することができる。このマイクロポア体積は、窒素物理吸着、好ましくは経験的t-プロット法を用いて測定することができる。
【0045】
本発明の異性化触媒において、マイクロポア体積(Vmicro)は、マイクロポアとメソポアの全細孔体積(Vpore)の1%~50%である。さらに、この細孔特性の変化の度合いを%比で表すと、後述するように、修飾ゼオライトを未修飾ゼオライトと比較したときに、ゼオライト内で生じた構造修飾の量についての指標を与えることができる。マイクロポア体積(Vmicro)は、全細孔体積(Vpore)の少なくとも2%、好ましくは少なくとも4%、より好ましくは少なくとも6%、特に少なくとも8%であることができる。また、マイクロポア体積(Vmicro)は、全細孔体積(Vpore)の最高で45%、好ましくは最高で40%、より好ましくは最高で30%、特に最高で25%であることができる。
【0046】
脂肪酸(及び/又はそのアルキルエステル)を異性化して分岐脂肪酸を生成する反応において、分岐脂肪酸の高い生成率は、触媒の高い全表面積や、触媒の高い総NH取り込み特性とは直接相関しない。驚くべきことに、外部表面積(m/g単位でのSexternal)と強酸サイト密度(μmol/g単位での強いNH取り込み)といった特性を組み合わせて活性因子にした場合に、分岐脂肪酸のより高い生産量が得られることが判った。活性因子は、式(I)に示すように計算される。
活性因子=Sexternal×強いNH取り込み(I)
であり、ここで
「Sexternal」は、窒素の物理吸着によって測定されたゼオライトのm/g単位での外部表面積であり;
「強いNH取り込み」とは、アンモニア温度プログラム脱着の際に、327℃~550℃の温度でゼオライトから脱着するNHのμmol/g単位での量である。
【0047】
本発明の触媒は、少なくとも30,000、好ましくは少なくとも40,000、より好ましくは少なくとも50,000、特に少なくとも60,000、望ましくは少なくとも70,000、特に少なくとも80,000の式(I)に従う活性因子を有する。本発明の触媒は、最高で200,000、好ましくは最高で180,000、より好ましくは最高で160,000、特に最高で140,000の活性因子を有することができる。
【0048】
ゼオライトの製造方法
好適な異性化ゼオライト触媒を製造する方法も提供される。本発明に係るゼオライトを得るために様々な方法を使用することができる。好適な方法は、直接合成と合成後修飾の2つのグループに大別される。合成後修飾法は、メソポア及び/又はマクロポアを導入して、ゼオライトの外表面から既存のマイクロポアへの拡散を増進させるのに好ましい。この方法は、出発原料として多種多様な既存のゼオライトを使用できるという利点もある。
【0049】
そのため、本発明は、以下の工程:
i)ゼオライトを、アルカリ性溶液、好ましくはNaOHを含むアルカリ性溶液に接触させる工程;
ii)ゼオライトを、酸性溶液、好ましくはHClを含む酸性溶液に接触させる工程;及び
iii)ゼオライトをイオン交換材料に接触させる工程;
を含む、ゼオライトの構造を修飾する方法を提供する。
【0050】
好適には、イオン交換材料は、イオン交換樹脂又はイオン交換溶液である。イオン交換溶液の使用が好ましく、好ましくは、イオン交換溶液はNHNOを含む。
【0051】
好ましくは、アルカリ性溶液及び/又は酸性溶液及び/又はイオン交換溶液は、1M(モル濃度)未満の濃度で使用される。アルカリ性溶液は、0.1M~2M、好ましくは0.2M~1.5M、より好ましくは0.3M~0.9Mの濃度であることができる。酸性溶液は、0.05M~0.5M、好ましくは0.05M~0.2Mの濃度であることができる。イオン交換溶液は0.05M~0.5M、好ましくは0.05M~0.2Mの濃度であることができる。酸性溶液は、HClと水からなることができる。イオン交換溶液はNHNOと水からなることができる。
【0052】
本方法は、好ましくは、
iv)ゼオライトを少なくとも400℃の温度で少なくとも2時間か焼する工程、
をさらに含む。
【0053】
本開示に記載のゼオライトは、本開示に記載の方法によって得ることができ、好ましくは、かかる方法、すなわち、既知のゼオライトを選択し、本発明に従う異性化触媒として好適なものにするために本方法に従って修飾することによって得られる。好ましくは、未修飾ゼオライトはZSM-5構造を含み、この構造は修飾ゼオライトにおいても維持される。好ましくは、本方法により得ることが可能な又は本方法により得られた修飾ゼオライトは、マイクロポア及びメソポアを含み、マイクロポア体積(Vmicro)が、マイクロポアとメソポアの全細孔体積(Vpore)の1%~50%である。
【0054】
ゼオライトを修飾する方法は、ゼオライトの外部表面積を増加させることを含んでもよい。この方法は、ゼオライトのメソポア体積を増加させることを含んでもよい。この方法は、ゼオライトのマイクロポア体積である全細孔体積の百分率(Vporeの百分率としてのVmicro)を減少させることを含んでいてもよい。
【0055】
分岐脂肪酸を製造する方法
本発明は、脂肪酸を含む出発原料(フィードストック)から分岐脂肪酸を製造する方法であって、以下の工程:
i)不飽和脂肪酸を含む出発原料を触媒に接触させる工程、及び
ii)触媒を用いて、ある量の不飽和脂肪酸を異性化し、分岐脂肪酸を含む組成物を形成する工程、
を含み、触媒がマイクロポア及びメソポアを含み、マイクロポアの体積(Vmicro)がマイクロポアとメソポアの全体積(Vpore)の1%~50%である方法を提供する。
【0056】
本発明において使用される出発原料(フィードストック)の原料は、好ましくは、例えばトリグリセリド油などの天然由来の材料であり、動物性(例えば獣脂)、より好ましくは植物由来のものであることができる。好適な脂肪酸としては、ヒマワリ脂肪酸、大豆脂肪酸、オリーブ脂肪酸、菜種脂肪酸、アマニ脂肪酸、綿実脂肪酸、ベニバナ脂肪酸、トール油脂肪酸及び獣脂オレインが挙げられる。オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、パルミトレイン酸、エルカ酸、エライジン酸などの比較的純粋な不飽和脂肪酸を単離して使用してもよいし、比較的粗な不飽和脂肪酸の混合物を採用してもよい。出発原料中の不飽和脂肪酸は、高オレイン酸ヒマワリ脂肪酸を含んでいてもよい。不飽和脂肪酸は、部分的に水素化されたものであってもよい。例えば、出発原料中の不飽和脂肪酸は、部分的に水素化されたオリーブ油又はオリーブ脂肪酸を含んでいてもよい。
【0057】
アルキルエステルは出発原料中に存在してもよい。アルキルエステルが出発原料に使用される場合、出発原料は、本開示に記載の不飽和脂肪酸の少なくとも1種のアルキルエステルを含む。アルキルエステルを含む出発原料中に材料の混合物が存在する場合、本開示に記載の不飽和脂肪酸のアルキルエステルの含有量は、出発原料の好ましくは50質量%超、より好ましくは80質量%超、特に90質量%超である。
【0058】
出発原料は、好適には、C12~C24不飽和脂肪酸、好ましくはC14~C22不飽和脂肪酸、より好ましくはC16~C22不飽和脂肪酸、特にC18又はC22不飽和脂肪酸、特にC18不飽和脂肪酸を含む。
【0059】
出発原料は、好適には、70質量%超、好ましくは80質量%超、より好ましくは90質量%超、特に95質量%超、とりわけ97質量%超の脂肪酸を含む。出発原料は、好適には、(i)70質量%超、好ましくは75質量%超、より好ましくは80~99質量%、特に85~97質量%、とりわけ90~95質量%の範囲内の不飽和脂肪酸;及び/又は(ii)30質量%未満、好ましくは25質量%未満、より好ましくは1~20質量%、特に3~15質量%、とりわけ5~10質量%の範囲内の飽和脂肪酸を含み、両方とも、存在する脂肪酸の全質量に基づく。
【0060】
不飽和脂肪酸成分は、少なくとも1つのエチレン性二重結合を含むが、2つ、あるいは3つの二重結合を含んでいてもよい。不飽和脂肪酸成分は、好適には、(i)50質量%超、好ましくは60質量%超、より好ましくは80~100質量%、特に85~98質量%、特に90~95質量%の範囲内の、1つの二重結合を有する脂肪酸;及び/又は(ii)50質量%未満、好ましくは40質量%未満、より好ましくは0~20質量%、特に2~15質量%、とりわけ5~10質量%の範囲内の、2つ又は3つ、好ましくは2つの二重結合を有する脂肪酸を含み、両方とも、存在する不飽和脂肪酸の全質量を基づく。
【0061】
好適には、工程ii)の触媒は、本開示に記載したとおりの異性化触媒である。好ましくは、触媒は、ゼオライト又はゼオタイプ材料である。最も好ましくは、ゼオライトを異性化触媒として使用することができる。
【0062】
触媒は、出発原料中の脂肪酸の全質量を基準として、少なくとも0.1質量%、好ましくは少なくとも0.2質量%、より好ましくは少なくとも0.6質量%、特に少なくとも0.8質量%の濃度(装填レベル)で使用することができる。触媒は、出発原料中の脂肪酸の全質量を基準として、最高で10質量%、好ましくは最高で8質量%、より好ましくは最高で6質量%、特に最高で4質量%、望ましくは最高で2.8質量%、とりわけ最高で2.4質量%、場合によっては最高で1.8質量%の濃度(装填レベル)で使用することができる。
【0063】
工程ii)における異性化反応は、少なくとも0.5時間、好ましくは少なくとも1時間、より好ましくは少なくとも2時間、特に少なくとも3時間、望ましくは少なくとも5時間、とりわけ少なくとも6.25時間(持続時間)行われる。工程ii)における異性化反応は、最長で15時間、好ましくは最長で12時間、より好ましくは最長で10時間、特に、最長で8時間実施することができる。
【0064】
工程ii)における異性化反応は、少なくとも180℃、好ましくは少なくとも210℃、より好ましくは少なくとも240℃、特に少なくとも250℃の温度で実施することができる。異性化反応は、最高で340℃、好ましくは最高で300℃、より好ましくは最高で280℃、特に、最高で270℃の温度で実施することができる。
【0065】
本方法は、閉鎖系、好ましくはバッチ系、例えばオートクレーブ内で実施することができ、その場合、系を加圧してもよい。好適な圧力は2~50kgf/cmである。反応混合物を、例えば窒素又は水素などのガスによりフラッシュ(パージ)しても、加圧してもよいが、その不活性な性質のために、窒素を使用するのが好ましい。閉鎖系の使用は、当該システムにおける水、アルコール、及び他の低沸点物質(触媒に含まれるものを含む)の気化を防ぐ。
【0066】
工程ii)の異性化反応は、水又は低級アルコールの存在下で実施してもよい。これは、出発原料の脱水又は脱アルコールによる酸無水物の生成を抑制するためである。出発原料の大部分が不飽和脂肪酸の場合は水を加えることが好ましく、出発原料の大部分が不飽和脂肪酸のアルキルエステルの場合は低級アルコールを加えることが好ましい。使用される低級アルコールは、好適には1~3個の炭素原子を含み、メタノール、エタノール及びプロパノールが特に好ましい。低級アルコールは、好ましくは、脂肪酸エステル出発原料のアルキル基と同じアルキル基を有する。
【0067】
異性化反応は、ルイス塩基の不在下で実施することができ、好ましくは、異性化反応混合物はルイス塩基を含まない。あるいは、異性化反応は、ルイス塩基の存在下で実施することができ、その場合、ルイス塩基は、アミン又はホスフィン、特に有機アミン又は有機ホスフィン、特にトリフェニルホスフィンであることができる。
【0068】
転化率、すなわち、異性化反応で反応する出発原料中の不飽和脂肪酸の質量%は、不飽和脂肪酸の初期質量を基準として、少なくとも20質量%、好ましくは少なくとも30質量%、より好ましくは少なくとも40質量%、特に少なくとも50質量%、望ましくは少なくとも60質量%であることができる。転化率は、最高で98質量%、好ましくは、最高で5質量%、特に、最高で90質量%であることができる。
【0069】
好ましくは、分岐脂肪酸を含む組成物は、6.25時間の異性化反応の後、少なくとも20質量%の分岐脂肪酸を含む。
【0070】
脂肪酸生成物を精製又は修飾するために、さらなる方法工程を採用してもよい。さらに、異性化触媒を除去してもよい。ここでは、かかるさらなる方法工程を説明する。
【0071】
分岐脂肪酸を含む組成物から、例えば真空蒸留などのさらなる工程で、オリゴマー脂肪酸を除去してもよい。この工程は、最高で230℃で実施することができる。この工程は、10mbar以下で実施することができる。後続の水素化工程(以下に記載)を採用する場合、オリゴマー脂肪酸を水素化の前に除去してもよい。
【0072】
異性化触媒は、例えば、濾過、好ましくはカートンデプスフィルター(carton depth filter)を備えた加圧ろ過ユニットを使用するろ過によって、組成物から分離され、好ましくは本開示に記載されているように再利用されてもよい。水素化工程(後述)を採用する場合は、水素化触媒を同様の方法で組成物から分離することができ、異なる触媒の回収、再利用、リサイクルを助けるために、好ましくは、異性化触媒を除去した後に水素化触媒を採用することができる。また、異性化触媒及び水素化触媒のうちの1つ以上を固定床配置で提供して、触媒分離の必要性を低減してもよい。
【0073】
工程ii)で製造された分岐脂肪酸を含む組成物は、必要に応じて、例えば、オートクレーブ内で、水素化触媒、特に金属水素化触媒を使用する方法などの既知の方法により水素化される。水素化用の触媒はよく知られており、均質又は不均質であることができる(すなわち、触媒は、典型的には液相中の反応物/生成物の流れ又は基質と比べて異なる相、典型的には固相に存在する)。有用な金属水素化触媒としては、ニッケル、銅、パラジウム、白金、モリブデン、鉄、ルテニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、亜鉛又はコバルトが挙げられ、特に亜鉛である。触媒の組み合わせを使用することもできる。バイメタル触媒、例えば、パラジウム-銅、パラジウム-鉛、ニッケル-クロマイトも使用できる。
【0074】
金属水素化触媒は、他の金属であってもなくてもよいプロモーターとともに使用することができる。プロモーターを有する典型的な金属触媒としては、例えば、プロモーターとして硫黄又は銅を有するニッケル、プロモーターとしてクロム又は亜鉛を有する銅、プロモーターとしてクロムを有する亜鉛、又はプロモーターとして銀又はビスマスを有するパラジウム・オン・カーボンが挙げられる。
【0075】
一実施形態において、水素により化学的に還元されて活性状態になったニッケル触媒を水素化触媒として使用することができる。担持型ニッケル水素化触媒の市販例としては、「Nysofact」、「Nysosel」及び「NI 5248 D」(Engelhard Corporationから)の商品名で入手可能なものが挙げられる。他の担持型ニッケル水素化触媒としては、「Pricat(商標) 9910」、「Pricat(商標) 9920」、「Pricat(商標) 9908」及び「Pricat(商標) 9936」(Johnson Mattheyから)の商品名で市販されているものがある。
【0076】
適切な金属水素化触媒は、本発明の水素化反応(スラリー相環境)において微細分散体として使用することができる。例えば、実施形態によっては、担持型ニッケル触媒の粒子が、硬化したトリアシルグリセリド、食用油又は獣脂を含む保護媒体に分散される。担持型ニッケル触媒は、約22質量%のニッケルレベルで保護媒体中に分散されていてもよい。
【0077】
水素化触媒は、固体担体に含浸されていてもよい。いくつかの有用な担体としては、カーボン、シリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア及びジルコニアが挙げられる。担持型触媒の例としては、カーボン又はアルミナ担体上のパラジウム、白金、ロジウム又はルテニウム;マグネシア、アルミナ又はジルコニア担体上のニッケル;硫酸バリウム担体上のパラジウム;あるいは、シリカ担体上の銅が挙げられる。水素化触媒は、担持されたニッケル又はスポンジニッケルタイプの触媒であることができる。実施形態によっては、触媒は、水素により化学的に還元されて活性状態になったニッケル(すなわち、還元ニッケル)であって、担体上に担持されたものを含む。担体は、多孔質シリカ(例えば、珪藻土(kieselguhr、infusorial、diatomaceous又はsiliceous earth))又はアルミナを含んでいてもよい。
【0078】
これらの触媒は、ニッケル1g当たりの高いニッケル表面積により特徴付けられる。
【0079】
水素化触媒は、組成物の質量を基準として、10質量%未満、好ましくは5質量%未満、より好ましくは3質量%未満、特に0.5~2質量%、特に0.8~1.2質量%の範囲内の濃度で好適に使用される。
【0080】
さらに、分岐脂肪酸を含む組成物は、必要に応じて、分岐脂肪酸と直鎖脂肪酸とを分離する処理にかけられてもよい。最終生成物組成物は、直鎖脂肪酸の画分を除去する分離工程の後に生成させることができる。すなわち組成物を精製することができる。しかしながら、組成物を精製する要件は、意図された最終用途に依存するであろう。分離工程は、溶媒に基づくプロセス(solvent-based process)、湿式分離プロセス(水及び界面活性剤を使用)、又は乾式分離プロセスを含むことができる。これらのプロセスのそれぞれは、直鎖脂肪酸の画分を除去して最終生成物組成物を生じさせることを可能にする。
【0081】
分岐脂肪酸を含む組成物
上記のとおりの方法によって得ることができ、好ましくは上述のようなプロセスによって得られる分岐脂肪酸を含む組成物が提供される。
【0082】
本組成物は、分岐脂肪酸と、本開示に記載のとおりの触媒とを含むことがある。触媒が本開示に記載されているゼオライト触媒である場合に、ゼオライト触媒の存在は、分岐脂肪酸組成物の下流用途に有害な影響を与えないことが分かった。しかし、より高純度の脂肪酸生成物を提供するために、上記のとおりの活性触媒除去工程によって触媒(ゼオライト)のレベルを低下させることが好ましい場合がある。
【0083】
好適には、本組成物は、少なくとも20質量%、好ましくは少なくとも30質量%、より好ましくは少なくとも35質量%、特に少なくとも40質量%、望ましくは少なくとも42質量%、とりわけ少なくとも44質量%の分岐脂肪酸、好ましくはC18分岐脂肪酸を含むことができる。本組成物は、最高で90質量%、好ましくは最高で80質量%、より好ましくは最高で70質量%の分岐脂肪酸、好ましくはC18分岐脂肪酸を含むことができる。
【0084】
本組成物は、少なくとも1質量%、好ましくは少なくとも2質量%、より好ましくは少なくとも5質量%、特に少なくとも10質量%、とりわけ少なくとも12質量%の、ダイマー酸及びトリマー酸などのオリゴマー脂肪酸を含むことができる。本組成物は、最高で30質量%、好ましくは最高で25質量%、より好ましくは最高で20質量%のオリゴマー脂肪酸を含むことができる。あるいは、本組成物は、5質量%未満、好ましくは2質量%未満、より好ましくは1質量%未満のオリゴマー脂肪酸を含むことができる。
【0085】
最終生成物組成物は、好ましくは、(i)145~210mgKOH/g、より好ましくは160~205mgKOH/g、特に175~200mgKOH/g、特に185~195mgKOH/gの範囲内の酸価(本開示に記載のとおりに測定される)、及び/又は、(ii)165~220mgKOH/g、より好ましくは175~210mgKOH/g、特に185~200mgKOH/g、特に190~195mgKOH/gの範囲内のケン化価(本開示に記載のとおりに測定される)、及び/又は、(iii)10g/100g未満、より好ましくは5g/100g未満、特に1.0~3g/100g、とりわけ1.5~2g/100gの不ケン化物含量(unsaponifiable content)(本開示に記載のとおりに測定される)、及び/又は、(iv)5gヨウ素/100g未満、より好ましくは3gヨウ素/100g未満、特に1~2gヨウ素/100g、とりわけ1gヨウ素/100gのヨウ素価(本開示に記載のとおりに測定される)、及び/又は、(v)-10~25℃、より好ましくは-5~20℃、特に0~10℃、とりわけ3~6℃の範囲内にある曇点(本開示に記載のとおりに測定される)、及び/又は、(vii)200ハーゼン(Hazen)単位未満、より好ましくは150ハーゼン単位未満、特に100ハーゼン単位未満、特に75ハーゼン単位未満の色(本開示に記載のとおりの測定される)を有する。
【0086】
典型的な最終生成物の組成を以下に示す。
【0087】
【表2】
【0088】
異性化触媒の使用
本発明は、不飽和脂肪酸を含むフィードストックから分岐脂肪酸を製造するための、マイクロポア及びメソポアを含み、マイクロポアの体積(Vmicro)がマイクロポアとメソポアの全体積(Vpore)の1%~50%である触媒の使用を提供する。
【0089】
触媒は、好ましくは、本開示に記載のゼオライトである。
【0090】
本開示に記載された特徴のいずれか又は全て、及び/又は本開示に記載された任意の方法又はプロセスの工程のいずれか又は全ては、本発明の任意の態様において任意の組み合わせで使用することができる。
【実施例
【0091】
本発明を、以下の非限定的な実施例によって説明する。全ての部数及び百分率は、別段の記載がない限り、質量に基づく。
【0092】
全ての試験及び物理的性質は、本開示に別段の記載がない限り、又は参照した試験方法及び手順に別段の記載がない限り、大気圧及び室温(すなわち、約20℃)で決定されたものであることが理解されるであろう。
【0093】
試験方法
本開示では、以下の試験方法を採用した。
(i)酸価
酸価は、A.O.C.S.(アメリカ油化学会(The American Oil Chemists’Society))の公定法Te 1a-64(1997年に再承認)を用いて測定し、サンプル1g中の遊離脂肪酸を中和するのに必要な水酸化カリウムのミリグラム数として表される。
【0094】
(ii)ケン化価
ケン化価は、A.O.C.S.公定法Tl 1a-64(1997)を用いて測定し、所定の条件下でサンプル1gと反応する水酸化カリウムのミリグラム数として定義したものである。
【0095】
(iii)不ケン化価(Unsaponifiable Value)
A.O.C.S.公定法Ca6b-53(1989)を用いて不ケン化価を測定した。
【0096】
(iv)ヨウ素価
ヨウ素価は、A.O.C.S.公定法Tg 1-64(1993)のウィイス(Wijs)法により測定し、所定の試験条件下でサンプル100gに吸収されたヨウ素のグラム数で表した。
【0097】
(v)曇点
A.O.C.S.公定法(Cc 6-25)に従って曇点を測定した。
【0098】
(vi)凝固点
A.O.C.S.公定法(Cc 12-59)に従って凝固点を測定した。
【0099】
(vii)色
色はISO 2211(1973)のハーゼン単位(Pt-Coスケール)での色の決定方法を用いて測定した。
【0100】
(viii)脂肪酸組成
脂肪酸組成(鎖長、飽和/不飽和、直鎖/分岐)は、ISO 5508:1990(E)の動植物油脂-脂肪酸のメチルエステルのガスクロマトグラフィーによる分析(Analysis by gas chromatography of methyl esters of fatty acids)の方法を用いて、ガスクロマトグラフィーにより測定した。分析は、組成分析を簡略化するために、実験室規模で水素添加後に行われた。
【0101】
(ix)ゼオライトの細孔体積及び表面積
以下のゼオライト特性は、Quantachrome Autosorb 6B自動吸着分析装置を用いて、低温窒素物理吸着法で測定した。
【0102】
これらの測定の前に、サンプルを、真空中、350℃で約16時間脱気した。
【0103】
- 比表面積は、ISO 9277に基づいて測定した。全表面積(Stotal)は、BET(Brunauer-Emmett-Teller)理論に基づいて決定した。マイクロポア表面積(Smicro)は、経験的t-プロット法に基づいて、窒素の物理吸着データから算出した。外部表面積(Sexternal)、すなわちメソポア+マクロポアの表面積の合計は、全表面積から計算されたマイクロポアの表面積を差し引くことで得られる。
【0104】
- 全細孔体積(Vpore)は、窒素物理吸着により測定した。マイクロポア体積(Vmicro)は、経験的t-プロット法に基づいて窒素物理吸着データから算出した。メソポア体積(Vmeso)は、全細孔体積から計算されたマイクロポア体積を差し引くことで得られる。すなわち、(Vmeso)=(Vpore)-(Vmicro
【0105】
(x)ゼオライトの酸サイト
ゼオライト中の酸サイトの測定は、アンモニア温度プログラム脱着(TPD)によって行った。使用した装置は、Micromeritics Instrument Corporationにより供給された自動化学吸着分析器モデルTPD/TPR 2900であった。測定前のサンプルの前処理は以下を含む:
1.ヘリウム下で550℃まで加熱して乾燥させる工程、
2.ヘリウム下で200℃(473K)まで冷却する工程、
3.200℃(473K)でアンモニアを吸着し、物理吸着したアンモニアを同じ温度で脱着させる工程。
【0106】
測定手順は以下のとおりである。
1.サンプルをヘリウム中で室温から550℃(823K)まで10K・min-1のランプレートで加熱し、サンプルをヘリウム中で200℃(473K)まで冷却する前にサンプルを流動ヘリウム中で823Kで30分間保持する。
2.その後、サンプルをアンモニアで10分間、ヘリウムで10分間フラッシュする。この手順を3回繰り返す。3回目のフラッシングの後、安定したベースラインが得られるまでサンプルを一定に保つ。
3.最後に、473~823Kの温度範囲でアンモニアの脱着をモニターする(ランプレート10K・min-1)。
【0107】
測定された量は
A.総NH取り込み - 550℃(823K)までに脱着した全てのNH - 酸サイトの総量についての指標を与える。
B.強いNH取り込み - 327℃(600K)~550℃(823K)で脱着したNH - 強酸サイトの量についての指標を与える。
600Kよりも低い温度で脱着したアンモニアは、弱酸サイトに吸着したと考えられる。327℃(600K)~550℃(823K)の温度で脱着したアンモニアは強酸サイトに吸着したと考えられ、アンモニアを脱着させるのに必要な温度がより高い。
【0108】
ゼオライトサンプル
表2に示す特性を有する3種類の市販のZSM-5タイプのゼオライトを得た。
【0109】
【表3】
【0110】
これらのゼオライト触媒のシリカ/アルミナ比(SAR)値と結晶サイズはサプライヤーによって公表されている。
【0111】
実施例1:ゼオライトAの修飾-アルカリ及び酸処理
180mlの0.7M NaOH溶液を、撹拌機を備えた丸底フラスコ内で65℃まで加熱した。6gのゼオライトAを加えた。2時間のこのアルカリ処理の後、反応器を氷-水混合物に浸すことにより反応混合物を急冷した。混合物を4000rpmで10分間遠心分離することによって、溶液からゼオライトを分離し、続いてpHが中性になるまで蒸留水により洗浄し、乾燥させた。乾燥したゼオライトを65℃で5時間、0.1M HCl溶液により2回酸洗浄した。混合物を4000rpmで10分間遠心分離することによりゼオライトを分離し、続いて、pHが中性になるまで蒸留水で洗浄し、乾燥させた。乾燥したゼオライトを0.1Mイオン交換溶液NHNOにより6時間、16時間、6時間及び16時間の4サイクルで処理した。各サイクルの後、ゼオライトをろ過によって単離し、フレッシュなイオン交換溶液中に再懸濁させた。その後、このゼオライトを蒸留水でpHが中性になるまで洗浄し、乾燥させた。このゼオライトを、使用前に500℃で5時間か焼した。
【0112】
このようにして得られた修飾触媒を「ゼオライトMod A」と呼ぶ。
【0113】
実施例2:ゼオライトMod Aによる脂肪酸の異性化
25gの高オレイン酸ヒマワリ脂肪酸(質量基準で4%のC16:0、2.6%のC18:0、81.4%のC18:1及び9.7%のC18:2脂肪酸を含む)、0.25gのゼオライトMod A(実施例1から)及び0.4gの水を50mlオートクレーブに装入した。25gの脂肪酸中の0.25gのゼオライトは、出発原料中の脂肪酸の全質量を基準として1質量%のゼオライトに相当する。反応混合物を窒素で3回フラッシュし、窒素で1バールに加圧した。反応混合物を260℃まで加熱した。5.5時間後、反応混合物を80℃まで冷却し、ろ紙を用いてろ過した。得られた濾液を分析したところ、以下の組成を有していた。
【0114】
【表4】
【0115】
比較例3:ゼオライトA(未修飾)による脂肪酸の異性化
実施例2との比較のために、25gの高オレインヒマワリ脂肪酸、0.25gのゼオライトA(未修飾)及び0.4gの水を50mlオートクレーブに装入した。反応混合物を窒素で3回フラッシュし、窒素で1バールに加圧した。反応混合物を260℃まで加熱した。5.5時間後、反応混合物を80℃まで冷却し、ろ紙を用いてろ過した。得られた濾液を分析したところ、以下の組成を有していた。
【0116】
【表5】
【0117】
実施例4:ゼオライトBの修飾-アルカリ及び酸処理
撹拌機を備えた丸底フラスコ内で450mlの0.8M NaOH水溶液を65℃まで加熱した。15gのゼオライトBを加えた。30分後、反応器を氷-水混合物に浸すことにより反応混合物を急冷した。混合物を4000rpmで10分間遠心分離することにより、ゼオライトを溶液から分離し、続いて、pHが中性になるまで蒸留水により洗浄し、乾燥させた。乾燥したゼオライトを、65℃で5時間、0.1M HCl溶液により2回酸洗浄した(1g/100ml)。混合物を4000rpmで10分間遠心分離することにより、ゼオライトを溶液から分離し、続いて、pHが中性になるまで蒸留水により洗浄し、乾燥させた。乾燥したゼオライトを0.1M NHNOにより6時間、16時間、6時間及び16時間の4サイクルで処理した。各サイクルの後、ゼオライトをろ過によって単離し、フレッシュなイオン交換溶液中に再懸濁させた。その後、このゼオライトを蒸留水によりpHが中性になるまで洗浄し、乾燥させた。このゼオライトは、使用前に500℃で5時間か焼した。
【0118】
得られた修飾触媒を「ゼオライトMod B」と呼ぶ。
【0119】
実施例5:ゼオライトMod Bによる脂肪酸の異性化
25gの高オレインヒマワリ脂肪酸、0.25gのゼオライトMod B(実施例4から)及び0.4gの水を50mlオートクレーブに装入した。反応混合物を窒素で3回フラッシュし、窒素で1バールに加圧した。反応混合物を260℃まで加熱した。6時間後、反応混合物を80℃まで冷却し、ろ紙を用いてろ過した。得られた濾液を分析したところ、以下の組成を有していた。
【0120】
【表6】
【0121】
比較例6:ゼオライトB(未修飾)による脂肪酸の異性化
実施例5との比較のために、25gの高オレインヒマワリ脂肪酸、0.25gのゼオライトB(未修飾)及び0.4gの水を50mlオートクレーブに装入した。反応混合物を窒素で3回フラッシュし、窒素で1バールに加圧した。反応混合物を260℃まで加熱した。4時間後、反応混合物を80℃まで冷却し、ろ紙を用いてろ過した。得られた濾液を分析したところ、以下の組成を有していた。
【0122】
【表7】
【0123】
実施例7:ゼオライトCの修飾-アルカリ及び酸処理
撹拌機を備えた丸底フラスコ内で450mlの0.3M NaOH水溶液を65℃まで加熱した。15gのゼオライトCを加えた。30分後、反応器を氷-水混合物に浸すことにより反応混合物を急冷した。混合物を4000rpmで10分間遠心分離することにより、ゼオライトを溶液から分離し、続いて、pHが中性になるまで蒸留水で洗浄し、乾燥させた。乾燥したゼオライトを、65℃で5時間、0.1M HCl溶液により2回酸洗浄した(1g/100ml)。混合物を4000rpmで10分間遠心分離することにより、ゼオライトを溶液から分離し、続いて、pHが中性になるまで蒸留水により洗浄し、乾燥させた。乾燥したゼオライトを0.1M NHNOにより時間、16時間、6時間及び16時間の4サイクルで処理した。各サイクルの後、ゼオライトをろ過によって単離し、フレッシュなイオン交換溶液中に再懸濁させた。その後、このゼオライトを蒸留水によりpHが中性になるまで洗浄し、乾燥させた。このゼオライトを、使用前に500℃で5時間か焼した。
【0124】
得られた修飾触媒をゼオライトMod Cと呼ぶ。
【0125】
例8:ゼオライトMod Cによる脂肪酸の異性化
25gの高オレインヒマワリ脂肪酸、0.25gのゼオライトMod C(実施例7から)及び0.4gの水を50mlオートクレーブに装入した。反応混合物を窒素で3回フラッシュし、窒素で1バールに加圧した。反応混合物を260℃まで加熱した。6.25時間後、反応混合物を80℃まで冷却し、ろ紙を用いてろ過した。得られた濾液を分析したところ、以下の組成を有していた。
【0126】
【表8】
【0127】
比較例9:ゼオライトC(未修飾)による脂肪酸の異性化
25gの高オレイン酸ヒマワリ脂肪酸、0.25gのゼオライトC(未修飾)及び0.4gの水を50mlのオートクレーブに装填した。反応混合物を窒素で3回フラッシュし、窒素で1バールに加圧した。反応混合物を260℃まで加熱した。6.25時間後、反応混合物を80℃まで冷却し、ろ紙を用いてろ過した。結果として得られた濾液を分析したところ、以下の組成を有していた。
【0128】
【表9】
【0129】
実施例10:ゼオライトの特性評価と性能
実施例で使用した未修飾及び修飾ゼオライトを、本開示に記載の試験方法を用いて分析した。その結果を以下に示す。
【0130】
【表10】
【0131】
表3では、全細孔体積(Vpore)は窒素の物理吸着によって測定されたものであり、全細孔体積(Vpore)は経験的t-プロット法によって算出されたマイクロポア体積(Vmicro)とメソポア体積(Vmeso)の合計である。最後の列では、マイクロポア体積である全細孔体積の百分率(Vporeの百分率としてのVmicro)が、未修飾のサンプルと比較して修飾ゼオライトで著しく低いことが示されている。この低い%比は、修飾ゼオライトの各々で生じた細孔構造の著しい改変を示している。修飾ゼオライトの各々で、全細孔体積の50%未満がマイクロポアに存在する。
【0132】
【表11】
【0133】
表4から分かるように、未修飾ゼオライトは全て、Sexternalと強いNH取り込みの積として計算される活性因子が30,000未満である。修飾ゼオライトは全て30,000以上の活性因子を有する。
【0134】
【表12】
【0135】
表5から、修飾ゼオライトのVmicroの百分率としてのVporeの減少及び活性因子の増加が、分岐脂肪酸の生成増大と相関していることが分かる。
【0136】
修飾ゼオライトの異性化反応時間を、生成物中の分岐脂肪酸の最終濃度が同様(46~51質量%)になるように変化させた。修飾触媒の反応時間は5.5時間(mod.A)、6.0時間(mod.B)及び6.25時間(mod.C)であり、未修飾触媒の反応時間は、ゼオライトBを除いて、修飾触媒と一致するように選択した。ゼオライトBの場合、時間は、6.0時間ではなく4.0時間であった。しかし、この未修飾触媒の活性は明らかに低く、反応時間をかなり長くしても上記の転化率範囲に達しなかった。
【0137】
本発明は、単に例として記載された上記の実施形態の詳細に限定されるものではないことが理解されるべきである。多くの変更が可能である。