(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュールおよび光センサ
(51)【国際特許分類】
H10N 10/851 20230101AFI20240422BHJP
H10N 10/855 20230101ALI20240422BHJP
H10N 10/857 20230101ALI20240422BHJP
H10N 10/17 20230101ALI20240422BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
H10N10/851
H10N10/855
H10N10/857
H10N10/17 A
G01J1/02 R
G01J1/02 B
(21)【出願番号】P 2021529960
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2020024143
(87)【国際公開番号】W WO2021002221
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2019124225
(32)【優先日】2019-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】足立 真寛
(72)【発明者】
【氏名】山本 喜之
(72)【発明者】
【氏名】竹内 恒博
【審査官】柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/043478(WO,A1)
【文献】特開平08-056020(JP,A)
【文献】特開2015-079796(JP,A)
【文献】国際公開第2000/030975(WO,A1)
【文献】特開2001-348218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/851
H10N 10/855
H10N 10/857
H10N 10/17
G01J 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiとGeを構成元素とする半導体であるベース材料と、
前記構成元素と異なる元素であり、最外殻の内側に位置するd軌道またはf軌道に空軌道を有し、前記ベース材料の禁制帯内に第一の付加準位を形成する第一の添加元素と、
酸素と、
から構成されており、
前記酸素の含有割合は、6at%以下であり、
前記第一の添加元素は、Feである、熱電変換材料。
【請求項2】
SiとGeを構成元素とする半導体であるベース材料と、
前記構成元素と異なる元素であり、最外殻の内側に位置するd軌道またはf軌道に空軌道を有し、前記ベース材料の禁制帯内に第一の付加準位を形成する第一の添加元素と、
酸素と、
から構成されており、
前記酸素の含有割合は、6at%以下であり、
前記第一の添加元素は、AuまたはCuである、熱電変換材料。
【請求項3】
SiとGeを構成元素とする半導体であるベース材料と、
前記構成元素と異なる元素であり、最外殻の内側に位置するd軌道またはf軌道に空軌道を有し、前記ベース材料の禁制帯内に第一の付加準位を形成する第一の添加元素と、
前記構成元素および前記第一の添加元素の双方と異なる元素であり、前記ベース材料の禁制帯内に第二の付加準位を形成する第二の添加元素と、
酸素と、
から構成されており、
前記酸素の含有割合は、6at%以下であり
、
前記第二の添加元素の最外殻の電子数と前記構成元素のうち少なくとも1つの最外殻の電子数との差は、1であり、
前記第一の添加元素は、Feであり、
前記第二の添加元素は、Pである、熱電変換材料。
【請求項4】
SiとGeを構成元素とする半導体であるベース材料と、
前記構成元素と異なる元素であり、最外殻の内側に位置するd軌道またはf軌道に空軌道を有し、前記ベース材料の禁制帯内に第一の付加準位を形成する第一の添加元素と、
前記構成元素および前記第一の添加元素の双方と異なる元素であり、前記ベース材料の禁制帯内に第二の付加準位を形成する第二の添加元素と、
酸素と、
から構成されており、
前記酸素の含有割合は、6at%以下であり
、
前記第二の添加元素の最外殻の電子数と前記構成元素のうち少なくとも1つの最外殻の電子数との差は、1であり、
前記第一の添加元素は、AuまたはCuであり、
前記第二の添加元素は、Bである、熱電変換材料。
【請求項5】
前記熱電変換材料の組織中に、粒の直径が30nm以下である前記構成元素からなる結晶相を含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の熱電変換材料。
【請求項6】
熱電変換材料部と、
前記熱電変換材料部に接触して配置される第1電極と、
前記熱電変換材料部に接触し、前記第1電極と離れて配置される第2電極と、を備え、
前記熱電変換材料部を構成する材料は、導電型がp型またはn型となるように成分組成が調整された請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の熱電変換材料である、熱電変換素子。
【請求項7】
請求項6に記載の熱電変換素子を複数個含む、熱電変換モジュール。
【請求項8】
光エネルギーを吸収する吸収体と、
前記吸収体に接続される熱電変換材料部と、を備え、
前記熱電変換材料部を構成する材料は、導電型がp型またはn型となるように成分組成が調整された請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の熱電変換材料である、光センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュールおよび光センサに関するものである。
【0002】
本出願は、2019年7月3日出願の日本出願第2019-124225号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0003】
熱電変換材料として、Si、Ge、Auを積層した後に得られた積層体を熱処理し、SiGe(シリコンゲルマニウム)中にAuのナノ粒子を形成する技術が報告されている(例えば、非特許文献1)。熱電変換材料として、Si/GeBを用いる技術が報告されている(例えば、非特許文献2)。
【0004】
特許文献1には、母材元素で構成される半導体材料からなる母材中に、母材元素と母材元素と異なる異種元素とを含むナノ粒子を含む熱電変換材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Hiroaki Takiguchi et al.、“Nano Structural and Thermoelectric Properties of SiGeAu Thin Films”、Japanese Journal of Applied Physics 50 (2011) 041301
【文献】Akinari Matoba et al.、“Crystallinity and Thermoelectric Properties of Si/GeB Multilayers Prepared with Si Buffer Layer and SiO2 Substrates”、Japanese Journal of Applied Physics 48 (2009) 061201
【発明の概要】
【0007】
本開示に従った熱電変換材料は、SiとGeを構成元素とする半導体であるベース材料と、構成元素と異なる元素であり、最外殻の内側に位置するd軌道またはf軌道に空軌道を有し、ベース材料の禁制帯内に第一の付加準位を形成する第一の添加元素と、酸素と、を含む。酸素の含有割合は、6at%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施の形態1に係る熱電変換材料の組織の状態を示す概略図である。
【
図2】
図2は、実施の形態1に係る熱電変換材料の温度とZTとの関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施の形態2に係る熱電変換材料の組織の状態を示す概略図である。
【
図4】
図4は、実施の形態2に係る熱電変換材料の温度とZTとの関係を示すグラフである。
【
図5】
図6は、本実施の形態における熱電変換素子であるπ型熱電変換素子(発電素子)の構造を示す概略図である。
【
図6】
図6は、発電モジュールの構造の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、赤外線センサの構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示が解決しようとする課題]
近年、石油などの化石燃料に代わるクリーンなエネルギーとして、再生可能エネルギーが注目されている。再生可能エネルギーには、太陽光、水力および風力を利用した発電のほか、温度差を利用した熱電変換による発電で得られるエネルギーが含まれる。熱電変換においては、熱が電気へと直接変換されるため、変換の際に余分な廃棄物が排出されない。熱電変換は、モータなどの駆動部を必要としないため、装置のメンテナンスが容易であるなどの特長がある。
【0010】
熱電変換を実施するための材料(熱電変換材料)を用いた温度差(熱エネルギー)の電気エネルギーへの変換効率ηは以下の式(1)で与えられる。
【0011】
η=ΔT/Th・(M-1)/(M+Tc/Th)・・・(1)
【0012】
ηは変換効率、ΔTはThとTcとの差、Thは高温側の温度、Tcは低温側の温度、Mは(1+ZT)1/2、ZT=α2ST/κ、ZTは無次元性能指数、αはゼーベック係数、Sは導電率、κは熱伝導率である。変換効率はZTの単調増加関数である。ZTを増大させることが、熱電変換材料の開発において重要である。
【0013】
非特許文献1、非特許文献2および特許文献1に開示の熱電変換材料よりも高い変換効率を有する熱電変換材料が求められている。ZTを増大させることができれば、熱電変換の効率を向上させることができる。
【0014】
そこで、熱電変換の効率を向上させた熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュールおよび光センサを提供することを目的の1つとする。
【0015】
[本開示の効果]
上記熱電変換材料によれば、熱電変換の効率を向上させることができる。
【0016】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示に係る熱電変換材料は、SiとGeを構成元素とする半導体であるベース材料と、構成元素と異なる元素であり、最外殻の内側に位置するd軌道またはf軌道に空軌道を有し、ベース材料の禁制帯内に第一の付加準位を形成する第一の添加元素と、酸素と、を含む。酸素の含有割合は、6at%以下である。
【0017】
上記熱電変換材料は、SiとGeを構成元素とする半導体であるベース材料を含む。このような半導体はバンドギャップが導電材料よりも大きいため、ゼーベック係数を大きくすることができる。その結果、上記ベース材料を採用することにより、無次元性能指数ZTを大きくすることができる。
【0018】
上記熱電変換材料は、第一の添加元素を含むことにより新規準位としてベース材料の禁制帯内に第一の付加準位を形成することができる。第一の添加元素は、最外殻の内側に位置するd軌道またはf軌道に空軌道を有するため、第一の付加準位のエネルギー幅を小さくすることができる。したがって、ゼーベック係数が大きいにも関わらず、導電性を上昇させることができる。上記熱電変換材料は、酸素を含み、酸素の含有割合は、6at%以下である。したがって、熱電変換材料に含まれる酸素が、構成元素または第一の添加元素と化合し、電気抵抗の高い酸化物を形成するおそれを低減することができる。その結果、熱電変換材料における導電性の低下を抑制することができる。以上より、上記熱電変換材料によると、熱電変換の効率を向上させることができる。なお、酸素の含有割合については、できるだけ低い方が良いが、エネルギーフィルタリング効果を発現させる観点からすると、0.01at%以上とすることが好ましい。そうすると、粒界で薄い酸化膜が形成されるので、この酸化膜によりゼーベック係数を大きくするエネルギーフィルタリング効果を得ることが期待できる。
【0019】
上記熱電変換材料において、熱電変換材料の組織中に、粒の直径が30nm以下である構成元素からなる結晶相を含んでもよい。結晶相はアモルファス相と比較して導電率が高いため、ZTが増大する。一方、結晶相の粒径が大きくなり過ぎると、熱伝導率が高くなる傾向がある。構成元素からなる結晶相の粒の直径を30nm以下とすることで、熱伝導率の上昇を抑制することができる。よって、このような熱電変換材料によると、導電率を向上させながら熱伝導率の上昇を抑制することができる。したがって、ZTを増大させて、より熱電変換の効率を向上させることができる。結晶相の粒の直径については、10nm以下としてもよい。このようにすることにより、さらに熱伝導率の上昇を抑制して、熱電変換の効率を向上させることができる。
【0020】
上記熱電変換材料において、構成元素および第一の添加元素の双方と異なる元素であり、ベース材料の禁制帯内に第二の付加準位を形成する第二の添加元素をさらに含んでもよい。第二の添加元素の最外殻の電子数と構成元素のうち少なくとも1つの最外殻の電子数との差は、1であってもよい。このようにすることにより、第二の添加元素によって形成される第二の付加準位によるアクセプタ準位またはドナー準位を形成してフェルミ準位を制御することができる。その結果、より確実にZTを増大させて、熱電変換の効率を向上させることができる。
【0021】
上記熱電変換材料において、第一の添加元素は、Feであってもよい。このようにすることにより、Feを第一の添加元素として、禁制帯内に新規準位となる第一の付加準位を形成することができる。また、Feによりフェルミ準位をある程度制御することができる。その結果、ZTを増大させて、熱電変換の効率を向上させることができる。
【0022】
上記熱電変換材料において、第一の添加元素は、AuまたはCuであってもよい。このようにすることにより、AuまたはCuを第一の添加元素として、禁制帯内に新規準位となる第一の付加準位を形成することができる。また、AuまたはCuによりフェルミ準位をある程度制御することができる。その結果、ZTを増大させて、熱電変換の効率を向上させることができる。
【0023】
上記熱電変換材料において、第一の添加元素は、Feであってもよい。第二の添加元素は、Pであってもよい。このようにすることにより、Feを第一の添加元素として、禁制帯内に新規準位となる第一の付加準位を形成することができる。また、Pを第二の添加元素とし、第二の添加元素によって形成される第二の付加準位によるドナー準位を形成してフェルミ準位を制御することができる。その結果、より確実にZTを増大させて、熱電変換の効率を向上させることができる。
【0024】
上記熱電変換材料において、第一の添加元素は、AuまたはCuであってもよい。第二の添加元素は、Bであってもよい。このようにすることにより、AuまたはCuを第一の添加元素として、禁制帯内に新規準位となる第一の付加準位を形成することができる。また、Bを第二の添加元素とし、第二の添加元素によって形成される第二の付加準位によるアクセプタ準位を形成してフェルミ準位を制御することができる。その結果、より確実にZTを増大させて、熱電変換の効率を向上させることができる。
【0025】
本開示の熱電変換素子は、熱電変換材料部と、熱電変換材料部に接触して配置される第1電極と、熱電変換材料部に接触し、第1電極と離れて配置される第2電極と、を備える。熱電変換材料部を構成する材料は、導電型がp型またはn型となるように成分組成が調整された上記本開示の熱電変換材料である。
【0026】
本開示の熱電変換素子は、熱電変換材料部を構成する材料が、導電型がp型またはn型となるように成分組成が調整された上記熱電変換特性に優れた熱電変換材料である。そのため、本開示の熱電変換素子によれば、変換効率に優れた熱電変換素子を提供することができる。
【0027】
本開示の熱電変換モジュールは、上記熱電変換素子を複数個含む。本開示の熱電変換モジュールによれば、熱電変換の効率に優れた本開示の熱電変換素子を複数個含むことにより、熱電変換の効率を向上させた熱電変換モジュールを得ることができる。
【0028】
本開示の光センサは、光エネルギーを吸収する吸収体と、吸収体に接続される熱電変換材料部と、を備える。熱電変換材料部を構成する材料は、導電型がp型またはn型となるように成分組成が調整された上記本開示の熱電変換材料である。
【0029】
本開示の光センサは、熱電変換材料部を構成する材料が、導電型がp型またはn型となるように成分組成が調整された上記熱電変換特性に優れた熱電変換材料である。そのため、高感度な光センサを提供することができる。
【0030】
[本開示の実施の形態の詳細]
次に、本開示の熱電変換材料の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰り返さない。
【0031】
(実施の形態1)
本開示の実施の形態1に係る熱電変換材料の構成について説明する。本開示の実施の形態1に係る熱電変換材料は、SiとGeを構成元素とする半導体であるベース材料と、構成元素と異なる元素であり、最外殻の内側に位置する(隣接する)d軌道またはf軌道に空軌道を有する第一の添加元素と、酸素と、を含む。ベース材料は、例えば、半導体であるSiGeである。具体的には、構成元素は、SiとGeである。第一の添加元素は、Feである。Feは、遷移金属である。Feにより形成される第一の付加準位は、SiGeの禁制帯内に存在する。このようにすることにより、ベース材料をSiGeとした場合に、Feを第一の添加元素として、禁制帯内に新規準位となる第一の付加準位を形成することができる。また、Feによりフェルミ準位をある程度制御することができる。また、酸素の含有割合は、6at%以下である。したがって、熱電変換材料に含まれる酸素が構成元素または第一の添加元素と化合し、電気抵抗の高い酸化物を形成するおそれを低減することができる。その結果、熱電変換材料における導電性の低下を抑制することができる。したがって、ZTを増大させて、熱電変換の効率を向上させることができる。なお、第一の添加元素として、Feの代わりにAuまたはCuを用いることもできる。このようにすることにより、禁制帯内に新基準位となる第一の付加準位を形成することができる。また、AuまたはCuによりフェルミ準位をある程度制御することができる。したがって、ZTを増大させて、熱電変換の効率を向上させることができる。
【0032】
実施の形態1に係る熱電変換材料は、以下の製造方法で製造することができる。まず、計量したSi、GeおよびFeの粉末をステンレス製のポットに入れる。この場合、それぞれの元素の含有割合が、Si65Ge25Fe10となるように調整する。また、ポットの内部には、水素の含有割合が4体積%以下である水素と窒素との混合ガスであるフォーミングガスを充填し、還元雰囲気とする。ここで、フォーミングガスの充填に際し、充填に用いる配管の内部の雰囲気をArガスで置換してフォーミングガスを充填する。この時、ポット内に含まれる酸素の量が大きく低減される。そして、メカニカルアロイングによりSiGeにFeの粉末が添加され、酸素の含有割合が調整されたアモルファスの粉体を得る。なお、第一の添加元素としてAuまたはCuを用いた場合でも、上記と同様にメカニカルアロイングによってSiGeにAuまたはCuの粉末が添加され、酸素の含有割合が調整されたアモルファスの粉体を得ることができる。
【0033】
次に、グローブボックス内を窒素ガスの雰囲気とした状態で、得られた粉体をダイに充填し、スパークプラズマ焼結(Spark Plasma Sintering)法により焼結体を形成する。この時の温度は、例えば600℃とすることができる。このようにして、アモルファス相中に構成元素の結晶相、本実施形態においてはSiGeの結晶相が存在する焼結体からなり、酸素の含有割合が6at%以下である熱電変換材料を製造する。酸素の含有割合については、例えば、SEM-EDX(Scanning Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray spectrometry)により測定することができる。具体的な酸素の含有割合の測定方法としては、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製のS-4300SEのSEMに取り付けたAMETEK社製のEDXシステムであるOCTANE PLUSにて、SEMの加速電圧を5.0kVとし、検出されたSi、Ge、Fe、O(酸素)の割合から、酸素の含有割合を算出することができる。
【0034】
図1は、実施の形態1における熱電変換材料の組織の状態を示す概略図である。
図1を参照して、熱電変換材料11の組織は、アモルファス相12と、結晶相13とを含む。アモルファス相12は、構成元素であるSiGeを主成分としている。ここで、主成分として含有されるSiGeの含有割合は、例えば50質量%以上、好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95%以上である。結晶相13は、構成元素であるSiGeからなる微結晶である。結晶相13は、アモルファス相12中に存在する。本実施形態においては、複数の粒状の結晶相13が、アモルファス相12中において、分散して存在する。結晶相13の粒の直径は、30nm以下である。結晶相13の粒の直径の測定については、熱電変換材料を撮影したTEM画像から観測することができる。具体的には、電界放出形透過電子顕微鏡(装置名:JEM-2100F(日本電子株式会社製))を用い、積層方向にFIB(Focused Ion Beam)で約100nmに薄片化した後に得た高分解TEM(Transmission Electron Microscopy)像を観察して、粒の直径を測定する。
【0035】
熱電変換材料11において、熱電変換材料の組織は、構成元素を主成分とするアモルファス相12を含み、構成元素の結晶相13は、アモルファス相12中に存在している。アモルファス相12を含む熱電変換材料は、熱伝導率を低くすることができる。よって、ZTを増大させることができる。また、アモルファス相12中に構成元素からなる結晶相13が存在することにより、熱電変換材料11の導電率を向上させることができる。よって、ZTを増大させることができる。また、結晶相13はアモルファス相12と比較して導電率が高いため、ZTが増大する。一方、結晶相13の粒の直径が大きくなり過ぎると、熱伝導率が高くなる傾向がある。構成元素からなる結晶相13の粒の直径を30nm以下とすることで、熱伝導率の上昇を抑制することができる。
【0036】
熱電変換材料に含まれる酸素が、構成元素であるSi、Geまたは第一の添加元素であるFeと化合し、比較的電気抵抗の高い酸化物を形成するおそれがある。特にアモルファス相12の構造および結晶相13の構造はそれぞれ酸素と結合して酸化物を形成しやすい。しかし、本開示の熱電変換材料は酸素の含有割合が6at%以下であり、酸素の含有割合が低い。したがって、熱電変換材料において、電気抵抗の高い酸化物を形成するおそれを低減することができる。その結果、熱電変換材料における導電性の低下を抑制することができる。よって、このような熱電変換材料11によると、導電率を向上させながら熱伝導率の上昇を抑制することができる。したがって、ZTを増大させて、より熱電変換の効率を向上させることができる。
【0037】
得られた熱電変換材料の温度とZTとの関係を導出した。
図2は、実施の形態1における熱電変換材料の温度とZTとの関係を示すグラフである。
図2において、横軸は温度(℃)を示し、縦軸はZTを示す。
図2は、酸素の含有割合が5at%の実施の形態1における熱電変換材料の場合のグラフである。
図2におけるZTは、真空中において、熱電変換材料の抵抗率、ゼーベック係数および熱伝導率を測定し、得られた測定結果からZTの値を導出した。また、
図2は、低温から高温へ加熱していく際に測定を行った場合の結果を示す。
【0038】
熱電特性については、熱電特性測定装置(オザワ科学株式会社製RZ2001i)で測定した。熱電特性の測定方法は、以下の通りである。まず、一対の石英治具に熱電変換材料を橋架するよう固定し、雰囲気を抵抗加熱炉で加熱する。石英治具の一方を中空にしておき、その中に窒素ガスを流すことで冷却し、熱電変換材料の一方の端部を冷却する。これにより、熱電変換材料に温度差を付与する。熱電変換材料については、白金-白金ロジウム系熱電対(R熱電対)を用いて、熱電変換材料の表面の2点間の温度差を測定する。熱電対に電圧計を繋げることで、2点間の温度差で発生した電圧を測定する。これにより、温度差に対する発生電圧を測定することが可能となり、これから材料のゼーベック係数を見積もることが可能となる。また、抵抗値は、4端子法で測定する。つまり、電圧計が繋がっている2つの白金線の外側に、2つの電線を接続する。その電線に電流を流し、内側の電圧計で、電圧降下量を測定する。このようにして、4端子法により、熱電変換材料の抵抗値を測定する。
【0039】
図2を参照して、常温から900℃までは温度を上昇させるに従い、ZTの値も大きくなっている。700℃ではZTの値が2以上となっており、高い値となっている。さらに700℃を超えても、ZTの値は大きくなり、800℃ではZTの値が2.5近くとなっている。なお、酸素の含有割合が6at%よりも大きいと、700℃を超えてからZTの値は大きくならない。したがって、本開示の熱電変換材料においては、できるだけ高温で使用することにより、高いZTの値で熱電変換を行うことができる。具体的には、800℃付近での使用により、ZTの値が2.5である熱電変換を行うことができ、熱電変換の効率をより向上させることができる。
【0040】
上記の実施の形態において、本開示の熱電変換材料について、最外殻の内側に位置するf軌道に空軌道を有する第一の添加元素を含むようにしてもよい。
【0041】
(実施の形態2)
次に、本開示の実施の形態2に係る熱電変換材料の構成について説明する。本開示の実施の形態2に係る熱電変換材料は、SiとGeを構成元素とする半導体であるベース材料と、構成元素と異なる元素であり、最外殻の内側に位置する(隣接する)d軌道またはf軌道に空軌道を有する第一の添加元素と、酸素と、を含む。ベース材料は、例えば、半導体であるSiGeである。具体的には、構成元素は、SiとGeである。第一の添加元素は、Feである。Feは、遷移金属である。Feにより形成される第一の付加準位は、SiGeの禁制帯内に存在する。このようにすることにより、ベース材料をSiGeとした場合に、Feを第一の添加元素として、禁制帯内に新規準位となる第一の付加準位を形成することができる。また、酸素の含有割合は、6at%以下である。したがって、熱電変換材料に含まれる酸素が構成元素または第一の添加元素と化合し、電気抵抗の高い酸化物を形成するおそれを低減することができる。その結果、熱電変換材料における導電性の低下を抑制することができる。なお、第一の添加元素として、Feの代わりにAuまたはCuを用いることもできる。このようにすることにより、禁制帯内に新基準位となる第一の付加準位を形成することができる。
【0042】
実施の形態2に係る熱電変換材料は、さらに第二の添加元素を含む。第二の添加元素は、構成元素および第一の添加元素の双方と異なる元素である。第二の添加元素の最外殻の電子数と構成元素の最外殻の電子数との差は、1である。本実施形態において、第二の添加元素は、Pである。Pにより形成される第二の付加準位は、SiGeの禁制帯に隣接する価電子帯または伝導帯のうちの第一の付加準位に近い方のエネルギーバンドである伝導帯と第一の付加準位との間に存在する。このようにすることにより、Pを第二の添加元素とし、第二の添加元素によって形成される第二の付加準位によるドナー準位を形成してフェルミ準位を制御することができる。その結果、より確実にZTを増大させて、熱電変換の効率を向上させることができる。なお、第一の添加元素としてAuまたはCuを用いた場合には、第二の添加元素として、Bを用いることができる。このようにすることにより、Bを第二の添加元素として、第二の添加元素によって形成される第二の付加準位によるアクセプタ準位を形成してフェルミ準位を制御することができる。その結果、より確実にZTを増大させて、熱電変換の効率を向上させることができる。
【0043】
実施の形態2に係る熱電変換材料は、以下の製造方法で製造することができる。まず、計量したSi、Ge、FeおよびPの粉末をステンレス製のポットに入れる。この場合、それぞれの元素の含有割合が、Si63Ge24P10Fe3となるように調整する。また、ポットの内部には、水素の含有割合が4体積%以下である水素と窒素との混合ガスであるフォーミングガスを充填し、還元雰囲気とする。ここで、フォーミングガスの充填に際し、充填に用いる配管の内部の雰囲気をArガスで置換してフォーミングガスを充填する。この時、ポット内に含まれる酸素の量が大きく低減される。そして、メカニカルアロイングによりSiGeにFeおよびPの粉末が添加され、酸素の含有割合が調整されたアモルファスの粉体を得る。なお、第一の添加元素としてAuまたはCuを用い、第二の添加元素としてBを用いた場合でも、上記と同様にメカニカルアロイングによってSiGeにAuまたはCuおよびBの粉末が添加され、酸素の含有割合が調整されたアモルファスの粉体を得ることができる。
【0044】
次に、グローブボックス内を窒素ガスの雰囲気とした状態で、得られた粉体をダイに充填し、スパークプラズマ焼結(Spark Plasma Sintering)法により焼結体を形成する。この時の温度は、例えば600℃とすることができる。このようにして、アモルファス相中に構成元素の結晶相、本実施形態においてはSiGeの結晶相が存在する焼結体からなり、酸素の含有割合が6at%以下である熱電変換材料を製造する。酸素の含有割合については、例えば、SEM-EDX(Scanning Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray spectrometry)により測定することができる。具体的な酸素の含有割合の測定方法としては、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製のS-4300SEのSEMに取り付けたAMETEK社製のEDXシステムであるOCTANE PLUSにて、SEMの加速電圧を5.0kVとし、検出されたSi、Ge、Fe、P、O(酸素)の割合から、酸素の含有割合を算出することができる。
【0045】
図3は、実施の形態2における熱電変換材料の組織の状態を示す概略図である。
図3を参照して、熱電変換材料1の組織は、
図1に示す場合と同様に、アモルファス相2と、結晶相3とを含む。アモルファス相2は、構成元素であるSiGeを主成分としている。ここで、主成分として含有されるSiGeの含有割合は、例えば50質量%以上、好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95%以上である。結晶相3は、構成元素であるSiGeからなる微結晶である。結晶相3は、アモルファス相2中に存在する。本実施形態においては、複数の粒状の結晶相3が、アモルファス相2中において、分散して存在する。結晶相3の粒の直径は、30nm以下である。結晶相3の粒の直径の測定については、熱電変換材料を撮影したTEM画像から観測することができる。具体的には、電界放出形透過電子顕微鏡(装置名:JEM-2100F(日本電子株式会社製))を用い、積層方向にFIB(Focused Ion Beam)で約100nmに薄片化した後に得た高分解TEM(Transmission Electron Microscopy)像を観察して、粒の直径を測定する。
【0046】
熱電変換材料1において、熱電変換材料の組織は、構成元素を主成分とするアモルファス相2を含み、構成元素の結晶相3は、アモルファス相2中に存在している。アモルファス相2を含む熱電変換材料は、熱伝導率を低くすることができる。よって、ZTを増大させることができる。また、アモルファス相2中に構成元素からなる結晶相3が存在することにより、熱電変換材料1の導電率を向上させることができる。よって、ZTを増大させることができる。また、結晶相3はアモルファス相2と比較して導電率が高いため、ZTが増大する。一方、結晶相3の粒の直径が大きくなり過ぎると、熱伝導率が高くなる傾向がある。構成元素からなる結晶相3の粒の直径を30nm以下とすることで、熱伝導率の上昇を抑制することができる。
【0047】
熱電変換材料に含まれる酸素が構成元素であるSi、Geまたは第一の添加元素であるFeと化合し、比較的電気抵抗の高い酸化物を形成するおそれがある。特にアモルファス相2の構造および結晶相3の構造はそれぞれ酸素と結合して酸化物を形成しやすい。しかし、本開示の熱電変換材料は酸素の含有割合が6at%以下であり、酸素の含有割合が低い。したがって、熱電変換材料において、電気抵抗の高い酸化物を形成するおそれを低減することができる。その結果、熱電変換材料における導電性の低下を抑制することができる。よって、このような熱電変換材料1によると、導電率を向上させながら熱伝導率の上昇を抑制することができる。したがって、ZTを増大させて、より熱電変換の効率を向上させることができる。
【0048】
得られた熱電変換材料の温度とZTとの関係を導出した。
図4は、実施の形態2における熱電変換材料の温度とZTとの関係を示すグラフである。
図4において、横軸は温度(℃)を示し、縦軸はZTを示す。グラフの四角印で示すプロットに対するアイガイドを、
図4中の線6で示す。
図4は、酸素の含有割合が5at%の実施の形態2における熱電変換材料の場合のグラフである。
図4におけるZTは、真空中において、熱電変換材料の抵抗率、ゼーベック係数および熱伝導率を測定し、得られた測定結果からZTの値を導出した。また、
図4は、低温から高温へ加熱していく際に測定を行った場合の結果を示す。
【0049】
熱電特性については、熱電特性測定装置(オザワ科学株式会社製RZ2001i)で測定した。熱電特性の測定方法は、以下の通りである。まず、一対の石英治具に熱電変換材料を橋架するよう固定し、雰囲気を抵抗加熱炉で加熱する。石英治具の一方を中空にしておき、その中に窒素ガスを流すことで冷却し、熱電変換材料の一方の端部を冷却する。これにより、熱電変換材料に温度差を付与する。熱電変換材料については、白金-白金ロジウム系熱電対(R熱電対)を用いて、熱電変換材料の表面の2点間の温度差を測定する。熱電対に電圧計を繋げることで、2点間の温度差で発生した電圧を測定する。これにより、温度差に対する発生電圧を測定することが可能となり、これから材料のゼーベック係数を見積もることが可能となる。また、抵抗値は、4端子法で測定する。つまり、電圧計が繋がっている2つの白金線の外側に、2つの電線を接続する。その電線に電流を流し、内側の電圧計で、電圧降下量を測定する。このようにして、4端子法により、熱電変換材料の抵抗値を測定する。
【0050】
図4を参照して、常温から900℃までは温度を上昇させるに従い、ZTの値も大きくなっている。700℃ではZTの値が3以上となっており、非常に高い値となっている。さらに700℃を超えても、ZTの値は大きくなり、800℃ではZTの値が4以上となっている。なお、酸素の含有割合が6at%よりも大きいと、700℃を超えてからZTの値は大きくならない。したがって、本開示の熱電変換材料においては、できるだけ高温で使用することにより、高いZTの値で熱電変換を行うことができる。具体的には、800℃付近での使用により、ZTの値を4以上として熱電変換を行うことができ、熱電変換の効率をより向上させることができる。
【0051】
上記の実施の形態において、本開示の熱電変換材料について、最外殻の内側に位置するf軌道に空軌道を有する第一の添加元素を含むようにしてもよい。また、第二の添加元素を含まなくてもよい。以下の実施形態についても同様である。
【0052】
(実施の形態3)
次に、本開示に係る熱電変換材料を用いた熱電変換素子の一実施形態として、発電素子について説明する。
【0053】
図5は、本実施の形態における熱電変換素子であるπ型熱電変換素子(発電素子)21の構造を示す概略図である。
図5を参照して、π型熱電変換素子21は、第1熱電変換材料部であるp型熱電変換材料部22と、第2熱電変換材料部であるn型熱電変換材料部23と、高温側電極24と、第1低温側電極25と、第2低温側電極26と、配線27とを備えている。
【0054】
p型熱電変換材料部22を構成する材料は、例えば導電型がp型となるように成分組成が調整された実施の形態1または実施の形態2の熱電変換材料である。p型熱電変換材料部22を構成する実施の形態1または実施の形態2の熱電変換材料に、例えば多数キャリアであるp型キャリア(正孔)を生成させるp型不純物がドープされることにより、p型熱電変換材料部22の導電型はp型となっている。
【0055】
n型熱電変換材料部23を構成する材料は、例えば導電型がn型となるように成分組成が調整された実施の形態1または実施の形態2の熱電変換材料である。n型熱電変換材料部23を構成する実施の形態1または実施の形態2の熱電変換材料に、例えば多数キャリアであるn型キャリア(電子)を生成させるn型不純物がドープされることにより、n型熱電変換材料部23の導電型はn型となっている。
【0056】
p型熱電変換材料部22とn型熱電変換材料部23とは、間隔をおいて並べて配置される。高温側電極24は、p型熱電変換材料部22の一方の端部31からn型熱電変換材料部23の一方の端部32にまで延在するように配置される。高温側電極24は、p型熱電変換材料部22の一方の端部31およびn型熱電変換材料部23の一方の端部32の両方に接触するように配置される。高温側電極24は、p型熱電変換材料部22の一方の端部31とn型熱電変換材料部23の一方の端部32とを接続するように配置される。高温側電極24は、導電材料、例えば金属からなっている。高温側電極24は、p型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23にオーミック接触している。
【0057】
第1低温側電極25は、p型熱電変換材料部22の他方の端部33に接触して配置される。第1低温側電極25は、高温側電極24と離れて配置される。第1低温側電極25は、導電材料、例えば金属からなっている。第1低温側電極25は、p型熱電変換材料部22にオーミック接触している。
【0058】
第2低温側電極26は、n型熱電変換材料部23の他方の端部34に接触して配置される。第2低温側電極26は、高温側電極24および第1低温側電極25と離れて配置される。第2低温側電極26は、導電材料、例えば金属からなっている。第2低温側電極26は、n型熱電変換材料部23にオーミック接触している。
【0059】
配線27は、金属などの導電体からなる。配線27は、第1低温側電極25と第2低温側電極26とを電気的に接続する。
【0060】
π型熱電変換素子21において、例えばp型熱電変換材料部22の一方の端部31およびn型熱電変換材料部23の一方の端部32の側が高温、p型熱電変換材料部22の他方の端部33およびn型熱電変換材料部23の他方の端部34の側が低温、となるように温度差が形成されると、p型熱電変換材料部22においては、一方の端部31側から他方の端部33側に向けてp型キャリア(正孔)が移動する。このとき、n型熱電変換材料部23においては、一方の端部32側から他方の端部34側に向けてn型キャリア(電子)が移動する。その結果、配線27には、矢印Iの向きに電流が流れる。このようにして、π型熱電変換素子21において、温度差を利用した熱電変換による発電が達成される。すなわち、π型熱電変換素子21は発電素子である。
【0061】
p型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23を構成する材料として、例えば、ZTの値が増大した実施の形態1または実施の形態2の熱電変換材料が採用される。その結果、π型熱電変換素子21は高効率な発電素子となっている。
【0062】
上記実施の形態においては、本開示の熱電変換素子の一例としてπ型熱電変換素子について説明したが、本開示の熱電変換素子はこれに限られない。本開示の熱電変換素子は、例えばI型(ユニレグ型)熱電変換素子など、他の構造を有する熱電変換素子であってもよい。
【0063】
(実施の形態4)
π型熱電変換素子21を複数個電気的に接続することにより、熱電変換モジュールとしての発電モジュールを得ることができる。本実施の形態の熱電変換モジュールである発電モジュール41は、π型熱電変換素子21が直列に複数個接続された構造を有する。
【0064】
図6は、発電モジュールの構造の一例を示す図である。
図6を参照して、本実施の形態の発電モジュール41は、p型熱電変換材料部22と、n型熱電変換材料部23と、第1低温側電極25および第2低温側電極26に対応する低温側電極25、26と、高温側電極24と、低温側絶縁体基板28と、高温側絶縁体基板29とを備える。低温側絶縁体基板28および高温側絶縁体基板29は、アルミナなどのセラミックからなる。p型熱電変換材料部22とn型熱電変換材料部23とは、交互に並べて配置される。低温側電極25、26は、上述のπ型熱電変換素子21と同様にp型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23に接触して配置される。高温側電極24は、上述のπ型熱電変換素子21と同様にp型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23に接触して配置される。p型熱電変換材料部22は、一方の側に隣接するn型熱電変換材料部23と共通の高温側電極24により接続される。また、p型熱電変換材料部22は、上記一方の側とは異なる側に隣接するn型熱電変換材料部23と共通の低温側電極25、26により接続される。このようにして、全てのp型熱電変換材料部22とn型熱電変換材料部23とが直列に接続される。
【0065】
低温側絶縁体基板28は、板状の形状を有する低温側電極25、26のp型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23に接触する側とは反対側の主面側に配置される。低温側絶縁体基板28は、複数の(全ての)低温側電極25、26に対して1枚配置される。高温側絶縁体基板29は、板状の形状を有する高温側電極24のp型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23に接触する側とは反対側に配置される。高温側絶縁体基板29は、複数の(全ての)高温側電極24に対して1枚配置される。
【0066】
直列に接続されたp型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23のうち両端に位置するp型熱電変換材料部22またはn型熱電変換材料部23に接触する高温側電極24または低温側電極25、26に対して、配線27が接続される。そして、高温側絶縁体基板29側が高温、低温側絶縁体基板28側が低温となるように温度差が形成されると、直列に接続されたp型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23により、上記π型熱電変換素子21の場合と同様に矢印Iの向きに電流が流れる。このようにして、発電モジュール41において、温度差を利用した熱電変換による発電が達成される。
(実施の形態5)
【0067】
次に、本開示に係る熱電変換材料を用いた熱電変換素子の他の実施の形態として、光センサである赤外線センサについて説明する。
【0068】
図7は、赤外線センサ51の構造の一例を示す図である。
図7を参照して、赤外線センサ51は、隣接して配置されるp型熱電変換材料部52と、n型熱電変換材料部53とを備える。p型熱電変換材料部52とn型熱電変換材料部53とは、基板54上に形成される。
【0069】
赤外線センサ51は、基板54と、エッチングストップ層55と、n型熱電変換材料層56と、n+型オーミックコンタクト層57と、絶縁体層58と、p型熱電変換材料層59と、n側オーミックコンタクト電極61と、p側オーミックコンタクト電極62と、熱吸収用パッド63と、吸収体64と、保護膜65とを備えている。
【0070】
基板54は、二酸化珪素などの絶縁体からなる。基板54には、凹部66が形成されている。エッチングストップ層55は、基板54の表面を覆うように形成されている。エッチングストップ層55は、例えば窒化珪素などの絶縁体からなる。エッチングストップ層55と基板54の凹部66との間には空隙が形成される。
【0071】
n型熱電変換材料層56は、エッチングストップ層55の基板54とは反対側の主面上に形成される。n型熱電変換材料層56を構成する材料は、例えば導電型がn型となるように成分組成が調整された実施の形態1または実施の形態2の熱電変換材料である。n型熱電変換材料層56を構成する実施の形態1または実施の形態2の熱電変換材料に、例えば多数キャリアであるn型キャリア(電子)を生成させるn型不純物がドープされることにより、n型熱電変換材料層56の導電型はn型となっている。n+型オーミックコンタクト層57は、n型熱電変換材料層56のエッチングストップ層55とは反対側の主面上に形成される。n+型オーミックコンタクト層57は、例えば多数キャリアであるn型キャリア(電子)を生成させるn型不純物が、n型熱電変換材料層56よりも高濃度でドープされる。これにより、n+型オーミックコンタクト層57の導電型はn型となっている。
【0072】
n+型オーミックコンタクト層57のn型熱電変換材料層56とは反対側の主面の中央部に接触するように、n側オーミックコンタクト電極61が配置される。n側オーミックコンタクト電極61は、n+型オーミックコンタクト層57に対してオーミック接触可能な材料、例えば金属からなっている。n+型オーミックコンタクト層57のn型熱電変換材料層56とは反対側の主面上に、例えば二酸化珪素などの絶縁体からなる絶縁体層58が配置される。絶縁体層58は、n側オーミックコンタクト電極61から見てp型熱電変換材料部52側のn+型オーミックコンタクト層57の主面上に配置される。
【0073】
n+型オーミックコンタクト層57のn型熱電変換材料層56とは反対側の主面には、さらに保護膜65が配置される。保護膜65は、n側オーミックコンタクト電極61から見てp型熱電変換材料部52とは反対側のn+型オーミックコンタクト層57の主面上に配置される。n+型オーミックコンタクト層57のn型熱電変換材料層56とは反対側の主面上には、保護膜65を挟んで上記n側オーミックコンタクト電極61とは反対側に、他のn側オーミックコンタクト電極61が配置される。
【0074】
絶縁体層58のn+型オーミックコンタクト層57とは反対側の主面上に、p型熱電変換材料層59が配置される。p型熱電変換材料層59を構成する材料は、例えば導電型がp型となるように成分組成が調整された実施の形態1または実施の形態2の熱電変換材料である。p型熱電変換材料層59を構成する実施の形態1または実施の形態2の熱電変換材料に、例えば多数キャリアであるp型キャリア(正孔)を生成させるp型不純物がドープされることにより、p型熱電変換材料層59の導電型はp型となっている。
【0075】
p型熱電変換材料層59の絶縁体層58とは反対側の主面上の中央部には、保護膜65が配置される。p型熱電変換材料層59の絶縁体層58とは反対側の主面上には、保護膜65を挟む一対のp側オーミックコンタクト電極62が配置される。p側オーミックコンタクト電極62は、p型熱電変換材料層59に対してオーミック接触可能な材料、例えば金属からなっている。一対のp側オーミックコンタクト電極62のうち、n型熱電変換材料部53側のp側オーミックコンタクト電極62は、n側オーミックコンタクト電極61に接続されている。
【0076】
互いに接続されたp側オーミックコンタクト電極62およびn側オーミックコンタクト電極61のn+型オーミックコンタクト層57とは反対側の主面を覆うように、吸収体64が配置される。吸収体64は、例えばチタンからなる。n側オーミックコンタクト電極61に接続されない側のp側オーミックコンタクト電極62上に接触するように、熱吸収用パッド63が配置される。また、p側オーミックコンタクト電極62に接続されない側のn側オーミックコンタクト電極61上に接触するように、熱吸収用パッド63が配置される。熱吸収用パッド63を構成する材料としては、例えばAu(金)/Ti(チタン)が採用される。
【0077】
赤外線センサ51に赤外線が照射されると、吸収体64は赤外線のエネルギーを吸収する。その結果、吸収体64の温度が上昇する。一方、熱吸収用パッド63の温度上昇は抑制される。そのため、吸収体64と熱吸収用パッド63との間に温度差が形成される。そうすると、p型熱電変換材料層59においては、吸収体64側から熱吸収用パッド63側に向けてp型キャリア(正孔)が移動する。一方、n型熱電変換材料層56においては、吸収体64側から熱吸収用パッド63側に向けてn型キャリア(電子)が移動する。そして、n側オーミックコンタクト電極61およびp側オーミックコンタクト電極62からキャリアの移動の結果として生じする電流を取り出すことにより、赤外線が検出される。
【0078】
本実施の形態の赤外線センサ51においては、p型熱電変換材料層59およびn型熱電変換材料層56を構成する材料として、導電率を十分に高い値とすることによりZTの値が増大した実施の形態1または実施の形態2の熱電変換材料が採用される。その結果、赤外線センサ51は、高感度な赤外線センサとなっている。
【0079】
なお、上記の実施の形態においては、熱電変換材料に含まれるベース材料は、SiとGeを構成元素とする半導体であることとしたが、これに限らず、ベース材料は、SiGe系材料であってもよい。SiGe系材料とは、SiGe、およびSiGeにおいてSiおよびGeの少なくとも一方の一部が他の元素、例えばC、Sn等に置き換えられた材料を意味する。このようにすることによっても、熱電変換の効率を向上させることができる。
【0080】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0081】
1,11 熱電変換材料
2,12 アモルファス相
3,13 結晶相
6 線
21 π型熱電変換素子
22,52 p型熱電変換材料部
23,53 n型熱電変換材料部
24 高温側電極
25 第1低温側電極(低温側電極)
26 第2低温側電極(低温側電極)
27,42,43 配線
28 低温側絶縁体基板
29 高温側絶縁体基板
31,32,33,34 端部
41 熱電変換モジュール
51 赤外線センサ
54 基板
55 エッチングストップ層
56 n型熱電変換材料層
57 n+型オーミックコンタクト層
58 絶縁体層
59 p型熱電変換材料層
61 n側オーミックコンタクト電極
62 p側オーミックコンタクト電極
63 熱吸収用パッド
64 吸収体
65 保護膜
66 凹部
I 矢印