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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】塗布装置
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/22 20060101AFI20240422BHJP
   H01B 13/32 20060101ALI20240422BHJP
   B05C 3/04 20060101ALI20240422BHJP
   B05C 3/15 20060101ALI20240422BHJP
   B05C 11/00 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
H01B13/22 Z
H01B13/32
B05C3/04
B05C3/15
B05C11/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022068427
(22)【出願日】2022-04-18
(65)【公開番号】P2023158530
(43)【公開日】2023-10-30
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000238049
【氏名又は名称】冨士電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横田 敬
(72)【発明者】
【氏名】厚美 優真
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-213846(JP,A)
【文献】特開平09-106722(JP,A)
【文献】特開昭55-088872(JP,A)
【文献】特開2002-018345(JP,A)
【文献】実開平05-065016(JP,U)
【文献】実開昭55-028446(JP,U)
【文献】特開2000-231838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/22
H01B 13/32
B05C 3/04
B05C 3/15
B05C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥離剤を収容する塗布槽内で、電線を一方向に移動させ、前記電線の周囲に前記剥離剤を塗布する塗布装置であり、
前記剥離剤を収容するための収容部、前記電線を前記収容部内に導入するための入線部、および前記電線を前記収容部から取り出すための出線部、を有する前記塗布槽と、
前記電線の両側に位置するように前記収容部内に配置された、一対のインペラを有する第1攪拌部と、
前記第1攪拌部より前記出線部側、かつ前記電線の両側に位置するように前記収容部内に配置された、一対のインペラを有する、第2攪拌部と、
前記第2攪拌部より前記出線部側、かつ前記電線の両側に位置するように前記収容部内に配置された、一対のインペラを有する、第3攪拌部と、
前記第2攪拌部のインペラのトルクを測定するトルク測定部と、
前記トルク測定部で測定されたトルクに応じて、前記収容部内に希釈液を供給する希釈液供給部と、
を有し、
前記入線部から前記出線部に向かう方向を順方向、前記出線部から前記入線部に向かう方向を逆方向としたとき、前記第1攪拌部のインペラは上部が順方向に移動するように回転し、前記第2攪拌部および前記第3攪拌部のインペラは上部が逆方向に移動するように回転し、
前記第1攪拌部のインペラの回転速度は、前記第2攪拌部のインペラの回転速度および前記第3攪拌部のインペラの回転速度の和より遅い、塗布装置。
【請求項2】
請求項1の塗布装置において、
前記収容部の底面は、前記入線部側から前記第1攪拌部側に向かうにつれて、前記収容部の深さが深くなるように傾斜する第1傾斜面と、前記出線部側から前記第3攪拌部側に向かうにつれて、前記収容部の深さが深くなるように傾斜する第2傾斜面と、を有する、塗布装置。
【請求項3】
請求項2の塗布装置において、
前記収容部の底面は、前記第1傾斜面と前記第2傾斜面との間に、前記収容部の深さが一定になる平坦面をさらに有する、塗布装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
導体およびこれを被覆する絶縁層を有する電線と、当該電線を被覆する外被と、を有する電線ケーブルが多用されている。ただし、電線ケーブルを使用する際には、端部の外被を除去する必要があり、絶縁層と外被との構成材料が同一であると、外被の剥離性が低下し、作業効率が低下する。この場合、タルク等の剥離剤を電線(絶縁層)の表面に塗布した後、これを覆うように外被を形成することが一般的である。
例えば、特許文献1には、電線の表面に、粉体状の剥離剤(タルク)を塗布する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-106722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、剥離剤が大気中に飛散しやすく、作業者の安全性や、コストの面で課題がある。そこで、タルクと水とを塗布装置内で混合し、電線を当該装置に通すことで、電線に剥離剤を塗布することも考えられる。しかしながら、湿式の剥離剤は、時間の経過とともに水(溶媒)が蒸発し、粘度が変化する。そのため上記塗布装置では、一定時間ごとに、作業者が水を追加する必要があり、作業が煩雑であり、粘度管理が非常に難しいと考えられる。
【0005】
また、上記塗布装置において、タルクと水とを十分に混合するため、複数のインペラを配置することも考えられるが、このようなインペラは、全て同一方向、かつ同一の回転数で回転するように制御することが一般的である。ただし、このような態様では、攪拌を十分に行えない領域が生じたり、インペラによって剥離剤が押し出され、塗布装置から剥離剤が溢れ出たりすることが、本発明者らの検討によって明らかとなった。
【0006】
本発明の主な目的は、煩雑な作業を行うことなく、剥離剤の粘度を一定に管理可能であり、さらには電線の周囲に剥離剤を均一に塗布可能な塗布装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため技術的検討を重ね、電線に湿式の剥離剤を塗布するための塗布装置において、電線の両側にインペラを配置すること、さらに3対のインペラ(攪拌部)を電線に沿って設置し、これらを独立して駆動させることで、剥離剤の攪拌を十分に行えることを見出した。また、当該攪拌部のインペラのトルクを測定し、当該トルクに応じて希釈液を供給することにより、剥離剤の粘度を一定に管理できることも見出した。
【0008】
すなわち本発明によれば、
剥離剤を収容する塗布槽内で、電線を一方向に移動させ、前記電線の周囲に前記剥離剤を塗布する塗布装置であり、
前記剥離剤を収容するための収容部、前記電線を前記収容部内に導入するための入線部、および前記電線を前記収容部から取り出すための出線部、を有する前記塗布槽と、
前記電線の両側に位置するように前記収容部内に配置された、一対のインペラを有する第1攪拌部と、
前記第1攪拌部より前記出線部側、かつ前記電線の両側に位置するように前記収容部内に配置された、一対のインペラを有する、第2攪拌部と、
前記第2攪拌部より前記出線部側、かつ前記電線の両側に位置するように前記収容部内に配置された、一対のインペラを有する、第3攪拌部と、
前記第2攪拌部のインペラのトルクを測定するトルク測定部と、
前記トルク測定部で測定されたトルクに応じて、前記収容部内に希釈液を供給する希釈液供給部と、
を有し、
前記入線部から前記出線部に向かう方向を順方向、前記出線部から前記入線部に向かう方向を逆方向としたとき、前記第1攪拌部のインペラは上部が順方向に移動するように回転し、前記第2攪拌部および前記第3攪拌部のインペラは上部が逆方向に移動するように回転し、
前記第1攪拌部のインペラの回転速度は、前記第2攪拌部のインペラの回転速度および前記第3攪拌部のインペラの回転速度の和より遅い、塗布装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の塗布装置によれば、煩雑な作業を行うことなく、剥離剤の粘度を一定に管理可能である。さらに、剥離剤の攪拌を装置内で十分に行うことができ、電線の周囲に剥離剤を均一に塗布可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る塗布装置の概略正面図である。
図2図1に示す塗布装置の塗布槽、第1攪拌部、第2攪拌部、および第3攪拌部の概略平面図である。
図3図2のB-B線における概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る塗布装置を例に、本発明の塗布装置について説明する。ただし、本発明の塗布装置は、以下に示す実施形態に限定されない。
【0012】
本実施形態の塗布装置について、図1図3を用いて説明する。図1は、当該塗布装置100の概略正面図であり、図2は、当該塗布装置の塗布槽110、第1攪拌部120、第2攪拌部130、および第3攪拌部140の概略平面図であり、図3は、図2のB-B線における概略断面図である。なお、図1では、塗布槽110内での電線1、第1攪拌部120、第2攪拌部130、および第3攪拌部140の位置を示すために、便宜上、これらを破線で示している。また、本明細書では、入線部112から出線部113に向かう方向(図1においてAで示す方向)を順方向、出線部113から入線部112に向かう方向を逆方向とする。
【0013】
当該塗布装置100は、剥離剤(図示せず)を収容する塗布槽110内で、電線1を順方向(図1においてAで示す方向)に移動させ、当該電線1の周囲に剥離剤を塗布する装置である。以下の説明において、剥離剤は、タルクおよび水の混合物とするが、これらに限定されず、他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0014】
塗布装置100は、塗布槽110、第1攪拌部120、第2攪拌部130、第3攪拌部140、トルク測定部150、および希釈液供給部160を有していればよく、本実施形態では、トルク測定部150で測定されたトルクに基づいて、希釈液供給部160で供給する希釈液の量を制御するための制御部170をさらに有する。以下、各構成について説明する。
【0015】
塗布槽110は、剥離剤を収容するための収容部111と、電線1を収容部111の外部から内部に導入するための入線部112と、電線1を収容部111の内部から外部に取り出すための出線部113と、を有していればよい。塗布槽110は、必要に応じて収容部111を覆うための蓋(図示せず)等、他の構成をさらに有していてもよい。
【0016】
塗布槽110における収容部111は、剥離剤を収容するための領域であり、本実施形態では、略直方体状の凹部である。ただし、収容部111の底面は、入線部112側から後述の第1攪拌部120側に向かうにつれて、収容部111の深さが深くなるように傾斜する第1傾斜面111aと、出線部113側から後述の第3攪拌部140側に向かうにつれて、収容部111の深さが深くなるように傾斜する第2傾斜面111bとを有する。さらに、収容部111の底面は、第1傾斜面111aと第2傾斜面111bとの間に、収容部111の深さが一定になる平坦面111cも有する。
収容部111の底面が第1傾斜面111aおよび第2傾斜面111bを有すると、後述の第1攪拌部120および第3攪拌部140によって剥離剤を攪拌しやすくなる。また、収容部111の隅に剥離剤が滞留し難くなる。一方、第2攪拌部130の下方が平坦な面(平坦面111c)であると、第2攪拌部130によって剥離剤を攪拌しやすくなる。
なお、収容部111の深さや、長さ(ケーブル1の長さ方向に平行な距離)、幅(ケーブル1の長さ方向と垂直な距離)は、後述の第1攪拌部120、第2攪拌部130、および第3攪拌部140のインペラの径や厚み、所望の剥離剤の量に合わせて適宜選択される。
【0017】
一方、塗布槽110が有する入線部112および出線部113は、収容部111と、外部とを連通可能な切り欠き、または貫通孔であればよく、本実施形態では、塗布槽110の互いに対向する2つの側壁111dに設けられた略円柱状の貫通孔を、入線部112および出線部113としている。なお、入線部112および出線部113の開口形状は、電線1の断面形状に合わせて適宜選択され、楕円形状や多角形状等であってもよい。また、入線部112の開口径および出線部113の開口径は、電線1の径より大きければよいが、過度に大きいと、剥離剤の塗布時に、入線部112や出線部113から剥離剤が漏れ出る可能性がある。したがって、入線部112の開口径および出線部113の開口径は、電線1の径と略同等であることが好ましい。なお、出線部113の開口径を調整することによって、電線1の周囲に塗布する剥離剤の厚みを調整できる。
【0018】
ここで、塗布槽110を構成する材料は特に制限されず、本実施形態では、入線部112および出線部113を配置する側壁111dを、弾性体で構成しており、その他の側壁や底板を金属で構成しているが、これらの材料に限定されない。ただし、入線部112および出線部113を弾性体からなる側壁111dに設けると、電線1を移動させる際に、電線1が当該側壁111dに接触しても傷つき難くなる。
【0019】
第1攪拌部120、第2攪拌部130、および第3攪拌部140は、収容部111内の剥離剤を攪拌するための構成である。第1攪拌部120、第2攪拌部130、および第3攪拌部140は、入線部112側から出線部113側にかけて、この順に配置されている。第1攪拌部120、第2攪拌部130、および第3攪拌部140の位置は、これら3つの攪拌部によって、収容部111内の剥離剤を効率よく攪拌可能であり、かつ入線部112から出線部113に向かう電線1と干渉しない位置であれば特に制限されない。本実施形態では、第1攪拌部120、第2攪拌部130、および第3攪拌部140を略等間隔に配置しているが、第1攪拌部120および第2攪拌部130との間隔、第2攪拌部130と第3攪拌部140との間隔が異なっていてもよい。
【0020】
第1攪拌部120は、電線1の両側に位置するように上述の収容部111内に配置された一対(2つ)のインペラと、これらを制御する1つのモータ(図示せず)とを少なくとも含んでいればよい。第1攪拌部120の2つのインペラは、それぞれ塗布槽110の互いに対向する側壁にそれぞれ取り付けられており、各インペラは、塗布槽110の外部に配置されたモータに接続されている。第1攪拌部120の2つのインペラは連動して回転し、その上部が順方向、すなわち図1においてAで示す方向に移動するように、回転方向が制御されている。
【0021】
また、第2攪拌部130も、電線1の両側に位置するように上述の収容部111内に配置された一対(2つ)のインペラと、これらを制御する1つのモータ(図示せず)とを少なくとも含んでいればよい。第2攪拌部130のインペラも、それぞれ塗布槽110の互いに対向する側壁にそれぞれ取り付けられており、塗布槽110の外部に配置されたモータに接続されている。第2攪拌部130の2つのインペラは連動して回転し、その上部が逆方向、すなわち図1においてAで示す方向と反対方向に移動するように回転方向が制御されている。
【0022】
さらに、第3攪拌部140も、電線1の両側に位置するように上述の収容部111内に配置された一対(2つ)のインペラと、これらを制御する1つのモータ(図示せず)とを少なくとも含んでいればよい。第3攪拌部140のインペラも、それぞれ塗布槽110の互いに対向する側壁にそれぞれ取り付けられており、塗布槽110の外部に配置されたモータに接続されている。第3攪拌部140の2つのインペラは連動して回転し、その上部が逆方向、すなわち図1においてAで示す方向と反対方向に移動するように回転方向が制御されている。
【0023】
なお、本実施形態の第1攪拌部120、第2攪拌部130、および第3攪拌部140が有する各インペラの大きさは同じであり、これらが有する羽根の形状や羽根の数も同一である。つまり、各インペラは、同一の攪拌性能を有する。ただし、インペラの回転方向に合わせて、羽根の向きは調整されている。各インペラが有する羽根の形状や数は特に制限されず、剥離剤の粘度や、剥離剤の種類等に合わせて適宜選択される。
【0024】
また、トルク測定部150は、上記第2攪拌部130のインペラのトルクを測定するための構成であり、上位インペラのトルクを測定可能であれば、その種類は特に制限されない。例えば、公知のトルクメータ等であってもよい。当該トルク測定部150は、常時第2攪拌部130のインペラのトルクを測定してもよく、一定時間ごとに、トルクを測定してもよい。本実施形態では、トルク測定部150が制御部170と接続されており、測定したトルクを制御部170に出力する。トルク測定部150はさらに測定したトルクを作業者に表示するための表示部(図示せず)等を備えていてもよい。
【0025】
希釈液供給部160は、トルク測定部150で測定された第2攪拌部130のインペラのトルクに応じて、収容部111内に希釈液を供給するための構成である。希釈液供給部160は、希釈液を送液するための配管と、希釈液を収容部111内に供給するためのノズル(図示せず)と、配管とノズルとの間に配置された、バルブ(図示せず)とを有していればよい。また、希釈液供給部160が有するノズルの数は特に制限されず、各攪拌部(第1攪拌部120、第2攪拌部130、および第3攪拌部140)の上部に3つ配置されていてもよく、いずれか1つの攪拌部の上部に1つのみ配置されていてもよい。バルブは、上記制御部170から信号を受信して、所望のタイミングで、所望の時間のみ閉状態から開状態となるように制御されていてもよい。また、上記制御部170からの信号に合わせて、希釈液の供給量を調整するように、制御されていてもよい。このようなバルブは、公知のバルブと同様とすることができる。なお、希釈液供給部160から供給する希釈液は、剥離剤の粘度を調整可能であれば特に制限されず、純水であってもよく、純水と他の液体との混合液等であってもよい。当該希釈液は好ましくは純水である。
【0026】
制御部170は、上述のトルク測定部150で測定された第2攪拌部130のインペラのトルクに基づいて、希釈液の供給タイミングやその量を算出し、希釈液供給部160のバルブに伝達し、これを開閉可能であればよく、例えば所定のプログラムが組み込まれたコンピュータ等とすることができる。
【0027】
以下、第1攪拌部120、第2攪拌部130、および第3攪拌部140のインペラの回転について説明する。
上述のように、第1攪拌部120のインペラは、その上部が順方向に移動するように回転し、第2攪拌部130および第3攪拌部140のインペラは、その上部が逆方向に移動するように回転する。つまり、第1攪拌部120のインペラは、剥離剤を主に入線部112側から出線部113側に送り出すように回転することで、入線部112側から剥離剤が溢れることを抑制する。一方、第2攪拌部130および第3攪拌部140のインペラは、剥離剤を主に出線部113側から入線部112側に送り出すように回転することで、出線部113側から剥離剤が溢れることを抑制する。ここで、第1攪拌部120、第2攪拌部130、および第3攪拌部140を駆動させずに、電線1のみを収容部111内で移動させると、剥離剤は、入線部112側から出線部113側に移動する。そのため、第1攪拌部120によって剥離剤を入線部112側から出線部113側に送り出す力と、第2攪拌部130および第3攪拌部140によって、剥離剤を出線部113側から入線部112側に送り出す力とが同一であると、剥離剤が出線部113側に偏りやすくなり、出線部113側から剥離剤が溢れやすくなる。そこで、本実施形態では、第1攪拌部120のインペラの回転速度が、第2攪拌部130のインペラの回転速度および第3攪拌部140のインペラの回転速度の和より遅くなるように、モータによって各インペラの回転速度を制御し、収容部111内での剥離剤の偏りを抑制している。
ただし、第1攪拌部120のインペラの回転速度に対して、第2攪拌部130のインペラの回転速度および第3攪拌部140のインペラの回転速度の和が過度に大きいと、入線部112側に剥離剤が偏ることがある。したがって、第1攪拌部120のインペラの回転速度を1としたとき、第2攪拌部130のインペラの回転速度および第3攪拌部140のインペラの回転速度の和が、1.1倍~1.3倍程度になるように調整することが好ましい。
【0028】
また、第2攪拌部130のインペラの回転速度、および第3攪拌部140のインペラの回転速度は、同一であってもよく、異なっていてもよく、収容部110の長さに応じて適宜調整すればよい。これらが異なる場合、第2攪拌部130のインペラの回転速度、および第3攪拌部140のインペラの回転速度のうち、いずれが速くてもよい。
【0029】
(塗布装置の使用方法)
上述の塗布装置100は、以下のように使用することができる。
まず、収容部111内に、所定の量のタルクおよび水を投入し、第1攪拌部120、第2攪拌部130、および第3攪拌部140によって、これらを攪拌する。このとき、各攪拌部のインペラの回転方向および回転速度は、上述のように設定する。そして、タルクおよび水が均一に攪拌されたことを確認した時点で、電線1の一端を入線部112から塗布層110の収容部111内に挿入し、当該電線1を出線部113から一定の速度で引き出す。これにより、電線1の周囲に連続的に、所望の量の剥離剤が塗布される。なお、電線1への剥離剤の塗布中も、上記第1攪拌部120、第2攪拌部130、および第3攪拌部140による剥離剤の攪拌は継続させる。さらに、トルク測定部150に、第2攪拌部130のインペラのトルクを常時、または一定時間毎に測定させ、その値を制御部170に出力させる。そして、制御部170において、第2攪拌部130のインペラのトルクと、閾値との差等を演算させ、演算結果に基づいて、希釈液供給部160のバルブの開閉やその開き量を調整させる。ただし、バルブの開き量は作業者の裁量で手動調整してもよい。このような使用方法によれば、希釈剤が適量供給され、収容部111内の剥離剤の粘度が常時一定の範囲に維持される。
【0030】
なお、出線部113から引き出された電線1は、そのまま外被を形成するための装置に送り出してもよく、剥離剤を乾燥させた後、ローラ等に巻き取ってもよい。
【0031】
(その他)
上述の説明では、電線1を1本のみ、収容部111中で移動させる場合を例に説明したが、電線1を2本以上同時に収容部111中で移動させてもよい。この場合、複数の出線部113を設け、1つの出線部113に1本ずつ電線1を挿通してもよい。入線部112についても同様である。
【0032】
(本発明の塗布装置の効果)
前述のように、各種装置では、複数のインペラが同一方向にかつ同一の回転数で回転するように制御されることが一般的であり、湿式の剥離剤を塗布する塗布装置においても、このような構成を採用することが考えられた。しかしながら、湿式の剥離剤を塗布する塗布装置において、このようにインペラを駆動させると、塗布装置から剥離剤が溢れたり、剥離剤が一か所に滞留したりすることが明らかとなった。そこで、本発明の塗布装置では、それぞれ1対のインペラを有する3つの攪拌部(第1攪拌部、第2攪拌部、および第3攪拌部)を独立して駆動させ、各攪拌部のインペラの回転方向および攪拌速度を制御する。これにより、塗布槽(収容部)内で剥離剤を効率よく攪拌することができるだけでなく、塗布槽(収容部)から剥離剤が溢れたりすることも抑制可能である。さらに、塗布槽(収容部)内で剥離剤に偏りが生じ難く、電線に均一に剥離剤を塗布することが可能となる。
【0033】
また、本発明の塗布装置では、トルク測定部によって、第2攪拌部のインペラのトルクを監視し、当該トルクに応じて、希釈液供給部から希釈液を供給する。したがって、煩雑な工程を行うことなく、塗布槽(収容部)内の剥離剤の粘度を常時一定の範囲に収めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の塗布装置によれば、電線の周囲に効率よく、剥離剤を塗布できる。したがって、電線ケーブル等の製造分野等において、非常に有用である。
【符号の説明】
【0035】
1 電線
100 塗布装置
110 塗布槽
111 収容部
112 入線部
113 出線部
120 第1攪拌部
130 第2攪拌部
140 第3攪拌部
150 トルク測定部
160 希釈液供給部
170 制御部
図1
図2
図3