(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】衝撃靭性に優れた制振ダンパー用鋼材及びこの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240422BHJP
C22C 38/14 20060101ALI20240422BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/14
C21D8/02 B
(21)【出願番号】P 2022536633
(86)(22)【出願日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 KR2020017541
(87)【国際公開番号】W WO2021125640
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-08-08
(31)【優先権主張番号】10-2019-0167746
(32)【優先日】2019-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョ,ジェ-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】カン,サン-ドク
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-177303(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102168225(CN,A)
【文献】特開平05-186851(JP,A)
【文献】特開2001-090252(JP,A)
【文献】特開2000-096138(JP,A)
【文献】特開2002-241897(JP,A)
【文献】特開平10-001741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.006%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.3%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.005~0.05%、N:0.005%以下、Ti:
0.02~0.05%、Nb:0.04~0.15%、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、降伏強度が80~120MPaであることを特徴とする制振ダンパー用鋼材。
【請求項2】
シャルピー衝撃遷移温度が-20℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の制振ダンパー用鋼材。
【請求項3】
微細組織としてフェライト単一組織を有することを特徴とする請求項1に記載の制振ダンパー用鋼材。
【請求項4】
前記フェライトの結晶粒の平均粒径は50~150μmの範囲であることを特徴とする請求項3に記載の制振ダンパー用鋼材。
【請求項5】
前記鋼材は、下記関係式1-1を満たすものであることを特徴とする請求項1に記載の制振ダンパー用鋼材。
[関係式1-1]
0.8≦Nb/Si
(前記関係式1-1中、前記Nb及びSiは各成分の重量%含量を意味する。)
【請求項6】
前記鋼材は、下記関係式1-2を満たすものであることを特徴とする請求項1に記載の制振ダンパー用鋼材。
[関係式1-2]
0.8≦Nb/Si≦150
(前記関係式1-2中、前記Nb及びSiは各成分の重量%含量を意味する。)
【請求項7】
前記鋼材は、下記関係式1-3を満たすものであることを特徴とする請求項1に記載の制振ダンパー用鋼材。
[関係式1-3]
0.8≦(Ti+Nb)/Si
(前記関係式1-3中、前記Ti、Nb及びSiは各成分の重量%含量を意味する。)
【請求項8】
重量%で、C:0.006%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.3%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.005~0.05%、N:0.005%以下、Ti:
0.02~0.05%、Nb:0.04~0.15%、残部はFe及びその他の不可避不純物からなる鋼スラブを加熱する段階と、
加熱された鋼スラブをAr3以上Ar3+110℃以下の温度範囲で仕上げ圧延する段階と、を含
み、前記仕上げ圧延された鋼材は、降伏強度が80~120MPaであることを特徴とする制振ダンパー用鋼材の製造方法。
【請求項9】
前記仕上げ圧延は、Ar3以上Tnr以下の温度範囲で行うものであることを特徴とする請求項8に記載の制振ダンパー用鋼材の製造方法。
【請求項10】
下記関係式1を満たすものであることを特徴とする請求項9に記載の制振ダンパー用鋼材の製造方法。
[関係式1]
50≦Tnr-Ar3
【請求項11】
前記仕上げ圧延の終了温度は890℃以上970℃以下であることを特徴とする請求項8に記載の制振ダンパー用鋼材の製造方法。
【請求項12】
前記仕上げ圧延後に冷却する段階をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載の制振ダンパー用鋼材の製造方法。
【請求項13】
前記冷却後に850℃以上900℃未満の温度範囲で10~30分間保持する段階をさらに含むことを特徴とする請求項12に記載の制振ダンパー用鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震から構造物の耐震性を確保するために使用される制振ダンパー用鋼材及びこの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、韓国内で主に使用されていた耐震設計では、柱や梁の構造物に使用される鋼材の降伏比を下げて地震の際に構造物の破壊に至る時点を遅らせる技術が主に使用されてきた。しかし、このような低降伏比鋼材を用いた耐震設計は、構造物に使用される鋼材の再使用が不可能であるだけでなく、構造物自体も安定性が確保されていないため、再建築しなければならないという問題があった。
【0003】
これにより、近年では耐震設計技術が発展し、制振または免震構造の実用化が進んでいる。すなわち、地震による構造物に加わるエネルギーを特定の部位に吸収させて耐震性能を確保する技術が多様に開発されている。
【0004】
このような地震エネルギーを吸収する装置としてダンパーが使用されている。ダンパー用鋼材の場合には極低降伏点の特性を有する。これは、従来の柱や梁の構造材よりも降伏点を下げることで、地震時に先に降伏を起こして地震による振動エネルギーを吸収し、他の構造材は弾性の範囲に保持させることにより構造物の変形を抑制するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】韓国公開特許第2012-002641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、地震から構造物の耐震性を確保するために使用される制振ダンパー用鋼材及びこの製造方法を提供することである。
【0007】
また、本発明のさらに他の目的は、低い降伏強度を有する制振ダンパー用鋼材及びこの製造方法を提供することであり、本発明のさらに他の目的は、低温衝撃靭性に優れた制振ダンパー用鋼材及びこの製造方法を提供することである。
【0008】
本発明の課題は、前述した内容に限定されない。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、誰でも本発明の明細書全般にわたる内容から本発明の更なる課題を理解する上で困難はない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の制振ダンパー用鋼材は、重量%で、C:0.006%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.3%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.005~0.05%、N:0.005%以下、Ti:48/14×N(重量%)~0.05%、Nb:0.04~0.15%、残部はFe及びその他の不可避不純物からなり、降伏強度が80~120MPaであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の制振ダンパー用鋼材の製造方法は、重量%で、C:0.006%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.3%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.005~0.05%、N:0.005%以下、Ti:48/14×N(重量%)~0.05%、Nb:0.04~0.15%、残部はFe及びその他の不可避不純物からなる鋼スラブを加熱する段階と、加熱された鋼スラブをAr3以上Ar3+110℃以下の温度範囲で仕上げ圧延する段階と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、地震から構造物の耐震性を確保するために使用される制振ダンパー用として好適に使用できる鋼材及びこの製造方法を提供することができる。
【0012】
また、本発明によると、低い降伏強度を有しながらも低温衝撃靭性に優れた鋼材及びこの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る鋼材の微細組織を示す光学写真を示したものである。
【
図2】本発明に係る鋼材において、Nbの添加量に応じた再結晶停止温度(Tnr)の変化を示すグラフである。
【
図3】本発明に係る鋼材において、フェライト結晶粒の大きさに応じた降伏強度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
地震から構造物の耐震性を確保するために使用される鋼材として、従来は純鉄に近い成分を使用し、且つ910~960℃の温度範囲で追加の熱処理を行う技術が知られていた。
【0015】
しかし、この従来技術は、熱間圧延後900℃以上の高温で追加の熱処理を行う必要があるため、Siが添加されていない極低降伏点鋼材の場合に過度なスケールが発生して不良を起こしたり、粗大なNbまたはTi析出物が形成されて衝撃靭性の劣化が発生するという問題があった。また、900℃以上の高温での熱処理工程が伴うため、製造コストの上昇を招くという問題もあった。
【0016】
そこで、本発明者らは、前述の問題点を解決するために鋭意検討した結果、鋼の組成と製造条件を最適化することにより、前述の問題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。特に、本発明によると、低い降伏強度を有しながらも低温衝撃靭性に優れた鋼材を効果的に提供することができる。
【0017】
本発明の制振ダンパー用鋼材は、重量%で、C:0.006%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.3%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.005~0.05%、N:0.005%以下、Ti:48/14×N(重量%)~0.05%、Nb:0.04~0.15%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、降伏強度が80~120MPaである。
【0018】
すなわち、本発明によると、降伏強度が80~120MPa程度と極めて低いながらも、衝撃遷移温度が-20℃以下である制振ダンパー用鋼材を効率的に提供することができる。以下、本発明の特徴の一つである鋼組成を構成する各合金成分を添加する理由及びこれらの適切な含量範囲についてまず説明する。
【0019】
C:0.006%以下
Cは固溶強化を引き起こし、自由な状態では転位に固着して降伏強度を高め、伸び率を下げる元素である。したがって、Cの含量は低ければ低いほど良く、低い降伏強度を確保する観点から、その含量は0.006%以下であってもよく、より好ましくは0.0045%以下であってもよい。但し、C含量の下限は0.001%であってもよく、より好ましくは0.002%であってもよい。
【0020】
Si:0.05%以下
SiはCと同様に固溶強化を引き起こす元素であって、降伏強度を高め、伸び率を下げる元素である。したがって、Siの含量は低ければ低いほど良く、低い降伏強度を確保する観点から、その含量は0.05%以下であってもよく、より好ましくは0.03%以下であってもよい。但し、Si含量の下限は0.0008%であってもよく、より好ましくは0.001%であってもよい。
【0021】
Mn:0.3%以下
MnはSiと同様に固溶強化を引き起こす元素であって、降伏強度を高め、伸び率を下げる元素である。Mnの含量は低ければ低いほど良く、低い降伏強度を確保する観点から、その含量は0.3%以下であってもよく、より好ましくは0.2%以下であってもよい。但し、Mn含量の下限は0.05%であってもよく、より好ましくは0.1%であってもよい。
【0022】
P:0.02%以下
Pは強度向上及び耐食性に有利な元素であるが、衝撃靭性を大きく阻害する恐れがある。したがって、Pの含量はできるだけ低く保持することが有利であるため、その含量は0.02%以下であってもよく、より好ましくは0.013%以下であってもよい。一方、上記P含量の下限は0%の場合が理想的である。但し、不可避に含まれる場合を勘案して、上記P含量の下限は0.001%であってもよい。
【0023】
S:0.01%以下
SはMnS等を形成して衝撃靭性を大きく阻害する元素であり、できるだけその含量を低く保持することが好ましいため、Sの含量は0.01%以下であってもよく、より好ましくは0.004%以下であってもよい。一方、S含量の下限は0%の場合が理想的である。但し、不可避に含まれる場合を勘案して、上記S含量の下限は0.002%であってもよい。
【0024】
Al:0.005~0.05%
Alは溶鋼を安価に脱酸できる元素であって、降伏強度を十分に下げ、衝撃靭性を確保するための観点から、Al含量の上限は0.05%であってもよく、より好ましくは0.035%以下であってもよい。また、最小限の脱酸性能を確保するための観点から、Al含量の下限は0.005%であってもよく、より好ましくは上記Al含量の下限は0.023%であってもよい。
【0025】
N:0.005%以下
Nは固溶強化を引き起こし、自由な状態では転位に固着して降伏強度を高め、伸び率を下げる元素である。Nの含量は低ければ低いほど良く、低い降伏強度を確保する観点から、その含量は0.005%以下であってもよく、より好ましくはN含量の上限は0.0035%であってもよい。一方、上記N含量の下限は0%の場合が理想的である。但し、不可避に含まれる場合を勘案して、上記N含量の下限は0.0001%であってもよい。
【0026】
Nb:0.04~0.15%
NbはTMCP鋼の製造において重要な元素であって、NbCまたはNbCNの形態で析出してCが転位に固着することを防止する非常に重要な元素である。また、高温で再加熱する時に固溶したNbは、オーステナイトの再結晶を抑制して組織が微細化する効果を奏する。
【0027】
一方、変形誘起析出物を導入するためには、広い未再結晶領域を確保することが必要であるが、
図2に示すように、Ar3とTnrとの間に50℃以上の温度領域を確保する観点からNbを0.04%以上添加することが好ましい。また、析出物の粗大化により衝撃靭性が劣化することを防止するために、Nbを0.15%以下添加することが好ましい。但し、より好ましくは、Nb含量の下限は0.07%でもよく、Nb含量の上限は0.1%であってもよい。
【0028】
具体的に、
図2では、本発明の鋼材について、Nbの添加量に応じた再結晶停止温度(Tnr)の変化をグラフで示している。すなわち、本発明のように炭素の含量を極低量に制御した極低炭素鋼の場合にはAr3が890℃程度と非常に高く、Ar3の変化が僅かである。
【0029】
したがって、
図2に示すように、Ar3の変化値を無視できるようになるため、Ar3を890℃程度に固定して表すことができ、Nbの含量を0.04~0.15%で添加する場合にのみ極低炭素鋼の再結晶停止温度(Tnr)が高く制御できるようになる。
【0030】
すなわち、本発明の一側面によると、Nbの含量を0.04~0.15%に調節することにより、極低炭素鋼のTnrとAr3との差を50℃以上に確保できるようになり、十分な範囲のAr3以上Tnr以下の温度領域で仕上げ圧延を行うことができる。これにより、変形誘起析出物が微細に発生し、Cを析出物として固着することができるようになる。
【0031】
Ti:48/14×N(重量%)~0.05%
Tiは、TiNの形態で析出することにより、Nが転位に固着することを防止する役割を果たす元素である。したがって、鋼中のNを適正範囲に固着させるためには、添加したNの含量(重量%)を考慮してTiを48/14×N(重量%)以上添加しなければならず(上記Nは、重量%で表した窒素(N)の含量を意味する)、より好ましくは0.02%以上添加しなければならない。一方、Tiが過度に添加される場合には、析出物が粗大化して衝撃靭性が劣化する恐れがあるため、衝撃靭性を確保する観点から、Tiを0.05%以下添加することができ、より好ましくは0.04%以下添加することができる。
【0032】
すなわち、本発明によると、Tiの含量を48/14×N(重量%)~0.05%に制御することにより、鋼中のNを析出物として固着させることができ、Nbの含量を0.04~0.15%に制御することにより、鋼中のCを析出物として固着させることができる。すなわち、本発明はTi及びNbの含量を最適化することにより、変形誘起析出物を適正な大きさに微細に形成することが可能となり、これにより、低い降伏強度を有しながらも低温衝撃靭性に優れた鋼材を提供することができる。
【0033】
具体的に、CまたはNが自由な状態になると、転位にCまたはNが固着して上部降伏点現象を起こし、これにより、降伏強度が120MPa以上となってしまう。また、フェライト単一組織において粗大な析出物が存在すると、衝撃靭性が劣化するようになる。
【0034】
ところで、圧延の際、変形誘起で析出する場合には、その大きさが微細であって、衝撃靭性が劣化することを抑制することができ、上部降伏点の発現を抑制して極低降伏点鋼材が得られる。これにより、本発明の一側面による鋼材は、降伏強度が80~120MPaの範囲であって、非常に低いながらもシャルピー衝撃遷移温度が-20℃以下であるものを提供することができる。
【0035】
一方、本発明によると、本発明の鋼スラブまたは鋼材の組成を特に限定するものではないが、下記関係式1-1を満たすことができる。
【0036】
[関係式1-1]
0.8≦Nb/Si
(上記関係式1-1中、上記Nb及びSiは各成分の重量%含量を意味する。)
【0037】
また、本発明によると、本発明の鋼スラブまたは鋼材の組成を特に限定するものではないが、下記関係式1-2を満たすことができる。
【0038】
[関係式1-2]
0.8≦Nb/Si≦150
(上記関係式1-2中、上記Nb及びSiは各成分の重量%含量を意味する。)
【0039】
本発明によると、上記関係式1-1及び1-2において、上記Nb/Siの値を0.8以上とすることで、降伏強度が120MPa以下である鋼材を製造することができる。また、上記関係式1-2において、上記Nb/Siの値を150以下とすることで、Nb析出物が微細に形成され、優れた衝撃靭性を得ることができる。
【0040】
なお、本発明の目的を達成するために、より好ましくは、上記Nb/Si値は3.33以上であってもよく、上記Nb/Si値は27.67以下であってもよい。一方、本発明の一側面によると、鋼スラブまたは鋼材の組成を特に限定するものではないが、下記関係式1-3を満たすことができる。
【0041】
[関係式1-3]
0.8≦(Ti+Nb)/Si
(上記関係式1-3中、上記Ti、Nb及びSiは各成分の重量%含量を意味する。)
【0042】
また、本発明によると、本発明の鋼スラブまたは鋼材の組成を特に限定するものではないが、下記関係式4を満たすことができる。
【0043】
[関係式1-4]
0.8≦(Ti+Nb)/Si≦200
(上記関係式1-4中、上記Ti、Nb及びSiは各成分の重量%含量を意味する。)
【0044】
一方、本発明によると、上記関係式1-3及び1-4において、(Ti+Nb)/Siの値を0.8以上とすることで、降伏強度が120MPa以下である鋼材を製造することができる。また、上記関係式1-4において、(Ti+Nb)/Siの値を200以下とすることで、Nb析出物が微細に形成され、優れた衝撃靭性を得ることができる。
【0045】
また、本発明によると、本発明の鋼スラブまたは鋼材の組成を特に限定するものではないが、下記関係式1-5を満たすことができる。
【0046】
[関係式1-5]
4≦(Ti+Nb)/Si≦200
(上記関係式1-5中、上記Ti、Nb及びSiは各成分の重量%含量を意味する。)
【0047】
また、本発明の目的を達成するために、より好ましくは、上記(Ti+Nb)/Siの値は4.33以上であってもよく、上記(Ti+Nb)/Siの値は130以下であってもよい。
【0048】
一方、本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるため、これを排除することができない。これらの不純物は、通常の製造過程における技術者であれば、誰でも分かるものであるため、本明細書ではその全ての内容を特に言及しない。
【0049】
本発明によると、上記制振ダンパー用鋼材は、降伏強度(YS)が80~120MPaであり、引張強度(TS)が230~350MPaであり、シャルピー衝撃遷移温度が-20℃以下であることができる。あるいは、より好ましくは、上記制振ダンパー用鋼材は、降伏強度(YS)が90~111MPaであり、引張強度(TS)が245~290MPaであり、シャルピー衝撃遷移温度が-37℃以下であることができる。
【0050】
以下では、本発明に係る鋼材を製造する方法について詳細に説明する。すなわち、本発明のさらに他の一側面は、重量%で、C:0.006%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.3%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.005~0.05%、N:0.005%以下、Ti:48/14×N(重量%)~0.05%、Nb:0.04~0.15%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む鋼スラブを加熱する段階と、加熱された鋼スラブをAr3以上Tnr以下の温度範囲で仕上げ圧延する段階と、を含む、制振ダンパー用鋼材の製造方法を提供する。
【0051】
一方、本発明の一側面によると、上記制振ダンパー用鋼材の製造方法は、前述した合金組成を有する鋼スラブを1050~1250℃の範囲で再加熱する段階と、再加熱された鋼スラブを粗圧延して粗圧延バー(bar)を得る段階と、上記粗圧延バーをAr3以上Tnr以下(あるいは、Ar3以上Ar3+110℃以下)の範囲で仕上げ圧延して熱延板材を得る段階と、を含むことができる。
【0052】
また、本発明によると、制振ダンパー用鋼材の製造方法は、上記仕上げ圧延後に冷却する段階をさらに含むことができる。すなわち、本発明の鋼材は、「スラブ加熱-粗圧延-仕上げ圧延-冷却」の工程を経て製造することができ、以下では各工程条件について詳細に説明する。
【0053】
[スラブ加熱]
本発明によると、前述した合金組成及び成分関係を満たす鋼スラブを準備した後、これを加熱することができ、このときに加熱温度は1050~1250℃の範囲で行うことができる。このとき、上記鋼スラブの組成については、前述しためっき鋼材の組成に関する説明を同様に適用できる。したがって、前述した関係式1-1~1-5に対する説明も同様に適用することができる。
【0054】
一方、鋳造中に形成されたTi及び/またはNbの炭窒化物を十分に固溶させるためには、鋼スラブの加熱温度を1050℃以上とすることが好ましい。但し、過度に高い温度に加熱する場合にはオーステナイトが粗大化する恐れがあり、粗圧延後の表面の温度が表層部の冷却開始温度に至るまで過度な時間がかかるため、鋼スラブの加熱を1250℃以下で行うことが好ましい。
【0055】
[粗圧延]
上記加熱された鋼スラブは、その形状を調整するために粗圧延を行い、鋼板として製造することができる。このような粗圧延の温度はオーステナイトの再結晶が停止する温度(Tnr)以上とすることができる。粗圧延により鋳造中に形成されたデンドライト等の鋳造組織を破壊する効果を得ることができ、且つ、オーステナイトの大きさを小さくする効果も得ることができる。
【0056】
[仕上げ圧延]
上記粗圧延された鋼板のオーステナイト組織に不均一な微細組織を導入するために仕上げ圧延を行うことができる。一方、未再結晶領域で圧延すると、Nbが変形誘起によって微細な析出を起こしてCを効果的に固着させるようになるため、仕上げ圧延の温度はフェライト変態開始温度(Ar3)以上Ar3+110℃以下の範囲であってもよく、より好ましくは、フェライト変態開始温度(Ar3)以上オーステナイトの再結晶停止温度(Tnr)以下とすることができる。
【0057】
すなわち、本発明によると、仕上げ圧延の温度は、Ar3以上Ar3+110℃の範囲であってもよい。具体的に、本発明者らは、炭素の含量を0.006%以下に極低量制御した極低炭素鋼の場合には、通常の回帰式でAr3を測定できないことを見出し、実験を通じてAr3値を測定した。また、本発明者らは、Nbが0.15%となる区間であるAr3+110℃までの温度範囲で仕上げ圧延を実施できることを見出した。
【0058】
本発明によると、上記仕上げ圧延をAr3以上で行うことにより、二相域圧延の問題を防止することができ、Ar3+110℃以下で行うことにより、2次スケールの成長を防止することができる。
【0059】
また、本発明によると、上記仕上げ圧延は、より好ましくは、Ar3+20℃以上Ar3+80℃以下の温度範囲で行うことができる。あるいは、本発明によると、上記仕上げ圧延の温度はAr3以上Tnr以下であってもよい。
【0060】
本発明によると、
図2に示すように、本発明は、十分な未結晶領域で仕上げ圧延を行うために、下記関係式1または関係式2を満たすことが好ましい。このとき、下記関係式の単位は50[℃]≦Tnr[℃]-Ar3[℃]≦110[℃]である。
【0061】
[関係式1]
50≦Tnr-Ar3
[関係式2]
50≦Tnr-Ar3≦110
【0062】
具体的に、本発明のような炭素の含量を0.006%以下に極低量含む極低炭素鋼の場合には、高温Torsion実験を通じて温度による応力が変曲する地点によってAr3及びTnrを測定することができる。そこで、本発明者らは、前述した実験を通じて、炭素の含量が0.006%以下に制御された極低炭素鋼の場合、フェライトの変態開始温度であるAr3が890℃程度と非常に高いことを確認し、Nbの含量を特定量に制御する場合にのみAr3とTnrとの間の温度区間が十分に確保できることを見出した。
【0063】
したがって、本発明に係る製造方法によると、未再結晶領域で仕上げ圧延を十分に行うことができるため、降伏強度が低く、低温衝撃靭性に優れるといった所望の物性を有する鋼材を効率的に得ることができる。また、本発明の一側面によると、特定の鋼組成を有する鋼スラブを仕上げ圧延する際に、仕上げ圧延の終了温度をAr3以上で行うことにより低い降伏強度を有する鋼材を得ることができる。
【0064】
また、本発明によると、仕上げ圧延の終了温度を890℃以上980℃以下に制御することにより、本発明で目的とする物性を有する鋼材を効果的に得ることができる。さらに、本発明の一側面によると、上記仕上げ圧延の終了温度は、より好ましくは890℃以上970℃以下であってもよい。
【0065】
[冷却]
本発明によると、必要に応じて、上記仕上げ圧延後に冷却する段階を含んでもよく、上記冷却は空冷であってもよい。また、本発明のさらに他の一側面によると、上記冷却(空冷)する段階の後に、選択的に900℃未満の温度で熱処理する段階をさらに含むことができる。
【0066】
特に、本発明によると、上記熱処理する段階は、厚いスケールの形成を避けるために、850℃以上900℃未満の範囲で保持するものであってもよく、より好ましくは、860℃以上895℃以下の範囲で保持するものであってもよく、また上記熱処理する段階は前述の温度範囲で10~30分間保持するものであってもよい。
【0067】
一方、従来技術では、低い降伏強度等の物性を確保するためには、圧延終了後に900℃以上という高温での追加熱処理工程を行う必要があった。これに対し、本発明の一側面によると、上記仕上げ圧延後900℃以上の熱処理を行わなくてもよい。すなわち、本発明によると、前述した900℃以上という高温での追加熱処理工程がなくても、圧延のみで、低い降伏強度を有しながらも低温衝撃靭性に優れた鋼材を効果的に製造することができる。あるいは、圧延終了後に追加の熱処理段階を含んだとしても、850℃以上900℃未満の温度範囲での熱処理だけでも優れた物性を有する鋼材を製造することができる。
【0068】
前述した900℃以上という高温での追加熱処理工程は、通常高い製造コストが伴うため、900℃以上という高温での追加熱処理工程がなくても、所望の物性を有する鋼材を製造することが可能な本発明によると、製造コストを画期的に低減することができる。
【0069】
一方、本発明によると、前述した組成及び製造方法により製造される鋼材は、フェライト単一組織(フェライトを面積分率で、100%含む)を有することができ、本発明から製造された鋼材の微細組織を光学顕微鏡を介して撮影した光学写真を
図1に示す。
【0070】
また、本発明によると、本発明から製造された鋼材は、フェライト結晶粒の平均粒径が50~150μmの範囲であってもよく、より好ましくは60~120μmの範囲であってもよく、最も好ましくは65~115μmの範囲であってもよい。
【0071】
なお、本明細書において、上記結晶粒の平均粒径とは、結晶粒の中心を貫通する最も長い長さを粒径として描かれる球状の粒子を仮定したとき、上記粒径を測定した値に対する平均値を意味する。すなわち、本発明によると、上記フェライト結晶粒の平均粒径を50μm以上とすることで、鋼材の降伏強度を120MPa以下に制御することができ、フェライト結晶粒の平均粒径を150μm以下とすることで、鋼材の降伏強度を80MPa以上に制御することができる。
【0072】
フェライト結晶粒の平均粒径の変化に応じた鋼材の降伏強度の変化量を
図3に示しており、
図3から確認できるように、フェライト結晶粒の平均粒径を50~150μmの範囲に制御することによって、本発明で目標とする範囲である80~120MPaの低い降伏強度が得られる。
【0073】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。但し、下記の実施例は、例示を通じて本発明を説明するためのものであり、本発明の権利範囲を制限するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項、及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるためである。
【0074】
(実施例)
下記表1の合金組成及び性質を有する鋼スラブを準備した。このとき、下記表1において、各成分の含量は重量%であり、残りはFe及びその他の不可避不純物を含む。
【0075】
すなわち、下記表1に記載の鋼スラブ(残部はFe)において、発明鋼A~Dは、本発明で定義する合金組成の範囲と一致する例であり、比較鋼E~Hは、本発明で定義する合金組成の範囲を外れる例である。一方、表1に記載の鋼スラブについて、極低炭素鋼として高温Torsion実験を通じて温度による応力が変曲する地点からAr3及びTnrを実験的に測定した値を示した。
【0076】
準備された鋼スラブを1050~1250℃の温度範囲で再加熱した後、下記表2に記載の条件で粗圧延、仕上げ圧延した後、冷却(空冷)の工程を経て鋼材を製造した。また、下記表2に記載のように、必要な場合には、上記冷却(空冷)後に900℃未満の温度範囲で追加の熱処理を行った。
【0077】
【表1】
(上記表1において、Ti*は48/14×N(重量%)の値を示す。)
【0078】
【0079】
上記表2に記載されたそれぞれの条件で鋼材を製造し、このように製造された鋼材について、微細組織の状態、結晶粒の平均粒径、降伏強度(YS)、引張強度(TS)及びシャルピー衝撃遷移温度を測定した結果を下記の表3に示した。このとき、微細組織は走査電子顕微鏡(SEM)で撮影して確認し、結晶粒の平均粒径はライン測定法を用いて測定し、引張試験機を使用して降伏が起こる点を降伏強度とし、ネッキングが発生するときの強度を引張強度とした。シャルピー衝撃遷移温度は、シャルピー衝撃試験機を用いて衝撃吸収エネルギーを測定し、延性から脆性に破断が遷移するときの温度を示した。
【0080】
【0081】
上記表3において、実施例1-1、1-2、2-1、2-2、3-1、3-2、4-1及び4-2は、本発明の鋼組成及び製造条件を全て満たす場合であって、微細組織としてフェライト単一組織を有することを確認し、このようなフェライト結晶粒の平均粒径が全て50~150μmの範囲であり、鋼材の物性が全て降伏強度80~120MPa及びシャルピー衝撃遷移温度-20℃以下を満たしている。
【0082】
一方、比較例1~4は、本発明の鋼組成は満たしているものの、製造条件が本発明から外れている場合である。これらのうち、比較例1、2及び4は、仕上げ圧延の終了温度がAr3未満(すなわち、890℃未満)の場合であり、比較例3は、仕上げ圧延の終了温度が過度に高い場合である。このような比較例1~4の場合には、仕上げ圧延時にNbの変形誘起析出が効果的に起こらないため、上部降伏点が発現して降伏強度が全て120MPaを超えている。
【0083】
なお、比較例5は、Cが本発明で規定する含量の上限を超えており、フェライト結晶粒の平均粒径が50μm以下であって、降伏強度が120MPaを超えている。
【0084】
比較例6は、固溶強化元素であるSiが本発明で規定する含量の上限を超えており、フェライト結晶粒の平均粒径は50~150μmの範囲であるものの、降伏強度が120MPaを超えている。
【0085】
比較例7は、Nbを過剰に添加した場合であって、粗大な析出物の形成により衝撃靭性が劣化し、シャルピー衝撃遷移温度が-20℃を上回っている。
【0086】
比較例8は、本発明の製造条件を全て満たしているものの、Tiの含量が本発明で規定する上限を超える場合であって、粗大な析出物の生成によりシャルピー衝撃遷移温度が-20℃を上回っている。
【0087】
比較例9は、本発明の製造条件を全て満たしているものの、Tiの含量が本発明で規定する下限に達していない場合であって、Tiの含量が不足して自由N(Free N)を窒化物として析出させるには不足しており、降伏点現象が発現し、降伏強度が120MPaを超えている。