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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/12 20060101AFI20240422BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20240422BHJP
   C08F 10/00 20060101ALI20240422BHJP
   C08F 4/6592 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
C08L23/12
C08L23/16
C08F10/00
C08F4/6592
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022555524
(86)(22)【出願日】2021-10-06
(86)【国際出願番号】 JP2021036930
(87)【国際公開番号】W WO2022075350
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2020169063
(32)【優先日】2020-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 昌太
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-218459(JP,A)
【文献】特開2019-189818(JP,A)
【文献】特表2008-539290(JP,A)
【文献】特表2005-508416(JP,A)
【文献】特開2008-163140(JP,A)
【文献】特開2012-162631(JP,A)
【文献】特開2001-348469(JP,A)
【文献】特開2018-172532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
C08F 10/00
C08F 4/6592
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が50,000以上である熱可塑性樹脂(A)25~99.99質量%と、下記の要件(b-1)~(b-3)を満たす、炭素数3以上のα-オレフィンから導かれる構造単位を含む共重合体(B)0.01~15質量%とを含有し、
前記熱可塑性樹脂(A)がポリプロピレンであり、
前記炭素数3以上のα-オレフィンがプロピレンであり、
前記共重合体(B)がエチレンとプロピレンとの共重合体である樹脂組成物:
(b-1)100℃における動粘度が10~5,000mm2/sであること。
(b-2)炭素数3以上のα-オレフィンから導かれる構造単位の含有率が60~85mol%の範囲にあること。
(b-3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が1,000~30,000であり、かつ分子量分布(Mw/Mn)が2.5以下であること。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法であって、
下記方法(α)を実施し、前記共重合体(B)であって、さらに下記要件(b-4)および(b-5)を満たす共重合体(B)を得る工程(1)、および
前記熱可塑性樹脂(A)および前記共重合体(B)ならびに任意に添加剤を溶融混練して樹脂組成物を得る工程(2)
を含む樹脂組成物の製造方法。
(b-4)H-NMRから測定されるメチル基指標が60~130%の範囲にあること。
(b-5)-100℃~150℃の温度範囲において、示差走査熱量測定(DSC)した際に、融解ピークが観測されないこと。
方法(α):下記式1で表される架橋メタロセン化合物(a)、ならびに、
有機アルミニウムオキシ化合物(b1)、および、前記架橋メタロセン化合物(a)と反応してイオン対を形成する化合物(b2)からなる群より選択される少なくとも1つの化合物(b)
を含む触媒系の存在下で、エチレンと炭素数3以上のα-オレフィンとを溶液重合する工程を含む方法
【化1】
[式1において、R、R、R、R、R、R、RおよびR12はそれぞれ独立して、水素原子、炭化水素基またはケイ素含有炭化水素基であり、隣接する複数の基は、互いに連結して環構造を形成していてもよく、
およびR11は、互いに同一の基であり、水素原子、炭化水素基またはケイ素含有炭化水素基であり、
およびR10は、互いに同一の基であり、水素原子、炭化水素基またはケイ素含有炭化水素基であり、
およびRは、炭素数2~3の炭化水素と結合して環構造を形成していてもよく、
10およびR11は、炭素数2~3の炭化水素と結合して環構造を形成していてもよく、
、R、R10およびR11は、同時に水素原子ではなく;
Yは、炭素原子またはケイ素原子であり;
13およびR14はそれぞれ独立して、アリール基であり;
Mは、Ti、ZrまたはHfであり;
Qは独立して、ハロゲン原子、炭化水素基、アニオン性配位子または孤立電子対に配位可能な中性配位子であり;
jは、1~4の整数である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な成形性を有し、成形体にブリード等が発生するのを抑制できる樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂は、押出成形により、フィルム、シート、繊維等の成形体として様々な用途に用いられている。押出成形にて良好な機械物性を持つ成形体を得るためには、メルトフローレート(MFR)の低い樹脂を使用することが一般的であるが、MFRの低い樹脂は、押出機内で、スクリューへの噛み込み不良や、樹脂の溶融不良、高押出トルクを原因とした吐出量の不安定化や押出速度の制限など、成形性に多くの問題を引き起こす。また、前記問題は樹脂の物性や形状のばらつき、押出機の仕様等にも応じて発生するため、近年、このような問題を解決するべく、成形性向上がより一層強く求められるようになっている。
【0003】
押出成形などの際の成形性を改善する一般的な方法としては、樹脂に成形助剤を添加して成形する方法が知られている。例えば、成形する熱可塑性樹脂に対して、オイル、ポリエチレンワックス等の成形助剤を適用して成形する方法が検討されている(例えば、特許文献1、および2)。
【0004】
また、液状ポリオレフィンを可塑剤として熱可塑性樹脂に配合することが試みられてきた。
しかし、液状ポリオレフィンは、ポリプロピレン等に対しては相容性が良好でないので、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂に液状ポリオレフィンを配合して成形すると、得られた成形体にブリード等が発生するなどの問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公平5-80492号公報
【文献】特表2003-528948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、相容性が良好で、成形体にブリード等が発生するなどの問題点が生じない樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、例えば、次の[1]~[5]に関する。
[1] ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が50,000以上である熱可塑性樹脂(A)25~99.99質量%と、下記の要件(b-1)~(b-3)を満たす、炭素数3以上のα-オレフィンから導かれる構造単位を含む共重合体(B)0.01~15質量%とを含有する樹脂組成物:(b-1)100℃における動粘度が10~5,000mm2/sであること。(b-2)炭素数3以上のα-オレフィンから導かれる構造単位の含有率が60~85mol%の範囲にあること。(b-3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が1,000~30,000であり、かつ分子量分布(Mw/Mn)が2.5以下であること。
[2] 前記熱可塑性樹脂(A)がポリオレフィンである[1]に記載の樹脂組成物。
[3] 前記炭素数3以上のα-オレフィンがプロピレンである[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[4] 前記熱可塑性樹脂(A)がポリプロピレンである[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5] 前記[1]に記載の樹脂組成物の製造方法であって、
下記方法(α)を実施し、前記共重合体(B)であって、さらに下記要件(b-4)および(b-5)を満たす共重合体(B)を得る工程(1)、および
前記熱可塑性樹脂(A)および前記共重合体(B)ならびに任意に添加剤を溶融混練して樹脂組成物を得る工程(2)
を含む樹脂組成物の製造方法。
(b-4)1H-NMRから測定されるメチル基指標が60~130%の範囲にあること。
(b-5)-100℃~150℃の温度範囲において、示差走査熱量測定(DSC)した際に、融解ピークが観測されないこと。
方法(α):下記式1で表される架橋メタロセン化合物(a)、ならびに、
有機アルミニウムオキシ化合物(b1)、および、前記架橋メタロセン化合物(a)と反応してイオン対を形成する化合物(b2)からなる群より選択される少なくとも1つの化合物(b)
を含む触媒系の存在下で、エチレンと炭素数3以上のα-オレフィンとを溶液重合する工程を含む方法。
【0008】
【化1】
[式1において、R1、R2、R3、R4、R5、R8、R9およびR12はそれぞれ独立して、水素原子、炭化水素基またはケイ素含有炭化水素基であり、隣接する複数の基は、互いに連結して環構造を形成していてもよく、
6およびR11は、互いに同一の基であり、水素原子、炭化水素基またはケイ素含有炭化水素基であり、
7およびR10は、互いに同一の基であり、水素原子、炭化水素基またはケイ素含有炭化水素基であり、
6およびR7は、炭素数2~3の炭化水素と結合して環構造を形成していてもよく、
10およびR11は、炭素数2~3の炭化水素と結合して環構造を形成していてもよく、
6、R7、R10およびR11は、同時に水素原子ではなく;
Yは、炭素原子またはケイ素原子であり;
13およびR14はそれぞれ独立して、アリール基であり;
Mは、Ti、ZrまたはHfであり;
Qは独立して、ハロゲン原子、炭化水素基、アニオン性配位子または孤立電子対に配位可能な中性配位子であり;
jは、1~4の整数である。]
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂組成物は、相容性が良好であり、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂が可塑剤となるα-オレフィン共重合体と優れた相容状態で混合されているので、ブリード等の問題点が生じない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る樹脂組成物は、下記の熱可塑性樹脂(A)と下記の共重合体(B)とを含有する。
【0011】
[熱可塑性樹脂(A)]
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(A)には特に制限はなく、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、環状オレフィン重合体、エチレン-プロピレン共重合体、環状オレフィン共重合体などのポリオレフィン;ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体などのスチレン系重合体およびその水素添加物;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチルなどのビニルカルボン酸重合体およびビニルカルボン酸エステル重合体;エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体;ポリカーボネート、ポリメタクリレート;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン66、ナイロンMXD6、全芳香族ポリアミド、半芳香族ポリアミドなどのポリアミド;ポリアセタール、およびこれら樹脂のブレンド物などが挙げられる。
【0012】
これら熱可塑性樹脂の中でも、ポリオレフィンが好ましく、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体がより好ましく、ポリプロピレンが特に好ましい。前記ポリプロピレンは、ポリプロピレンエラストマーであってもよい。
【0013】
熱可塑性樹脂(A)が前記ポリオレフィンである場合には、熱可塑性樹脂(A)と後述する共重合体(B)との相容性が特に優れ、機械物性の低下や表面へのブリードアウト等の無い、良好な樹脂組成物が得られる。
【0014】
熱可塑性樹脂(A)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が50,000以上である。前記重量平均分子量(Mw)は、好ましくは60,000~2,000,000、より好ましくは80,000~1,000,000である。熱可塑性樹脂(A)の前記重量平均分子量(Mw)が50,000以上であると、共重合体(B)との相容性に優れた樹脂組成物を得ることができる。
【0015】
熱可塑性樹脂(A)がポリプロピレンである場合、ポリプロピレンのMFR(JIS K 7210;230℃ 試験荷重2.16kgf)としては0.1~60g/10分の範囲が好ましく、0.3~20g/10分の範囲がより好ましく、0.3~10g/10分の範囲が特に好ましい。
【0016】
ポリプロピレンのMFRが前記範囲にある場合には、機械物性、耐熱性、耐薬品性などに優れた成形体を得ることができる。
〈熱可塑性樹脂(A)の含有量〉
本発明の樹脂組成物全体における熱可塑性樹脂(A)の含有量は、25~99.99質量%であり、好ましくは90~99.99質量%、さらに好ましくは96.2~99.8質量%、特に好ましくは97~99.4質量%、より好ましくは98~99.4質量%である。
【0017】
前記樹脂組成物全体における熱可塑性樹脂(A)の含有量が、前記下限値未満であると、熱可塑性樹脂(A)の特性が損なわれ、機械物性、耐熱性、耐薬品性などに優れた成形体が得られない場合がある。一方、前記樹脂組成物全体における熱可塑性樹脂(A)の含有量が、前記上限値を超えると、成形性が悪くなり、吐出量が不安定化する、押出速度が制限されるなどの問題が発生する場合がある。
【0018】
[共重合体(B)]
共重合体(B)は、炭素数3以上のα-オレフィンから導かれる構造単位を含む。共重合体(B)は後述する要件(b-1)~(b-3)を満たす。
【0019】
前記炭素数3以上のα-オレフィンの例としては、プロピレン,1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセンなどの直鎖状α-オレフィンや、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、8-メチル-1-ノネン、7-メチル-1-デセン、6-メチル-1-ウンデセン、6,8-ジメチル-1-デセンなどの分岐を有するα-オレフィンを挙げることができる。これらのα-オレフィンは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
前記炭素数3以上のα-オレフィンは、好ましくは炭素数3~20のα-オレフィンであり、より好ましくは炭素数3~8のα-オレフィンであり、特に好ましくはプロピレンである。
【0021】
<要件(b-1)>
共重合体(B)は、100℃における動粘度が10~5,000mm2/sである。
前記動粘度は、好ましくは10~3,500mm2/sであり、より好ましくは50~3500mm2/s、さらに好ましくは50~2,500mm2/s、特に好ましくは50~700mm2/sである。
【0022】
本発明において、100℃における動粘度は、ASTM D 445に基づいて測定される。
共重合体(B)の100℃における動粘度が10mm2/s未満では、一般的に用いられるプロセスオイル等の軟化剤と同様に流動性や揮発性の高い低分子量成分の含有量が多くなり、樹脂組成物またはその成形体からのブリードアウト量や揮発量が多くなる場合があるため好ましくない。共重合体(B)の100℃における動粘度が5,000mm2/sより高いと、流動性が悪化するため、共重合体(B)を熱可塑性樹脂(A)と混合した際に粘着性が増加、加工性が低下する場合があるため好ましくない。言い換えると、共重合体(B)の100℃における動粘度が前記範囲内であると、耐熱老化性や加工性に優れた樹脂組成物またはその成形体が得られるため好ましい。
【0023】
<要件(b-2)>
共重合体(B)は、炭素数3以上のα-オレフィンから導かれる構造単位の含有率が60~85mol%の範囲にある。
【0024】
前記含有率は、共重合体(B)に含まれる全構成単位に占める、炭素数3以上のα-オレフィンから導かれる構造単位のモル比を意味する。
共重合体(B)の炭素数3以上のα-オレフィンから導かれる構造単位の含有率は、好ましくは63~83mol%、より好ましくは67~80mol%である。
【0025】
本発明の樹脂組成物は、共重合体(B)の炭素数3以上のα-オレフィンから導かれる構造単位の含有率が60mol%という高含有率であることにより、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂(A)と共重合体(B)との相容性に優れ、ブリード等の問題点が生じない。また、共重合体(B)の炭素数3以上のα-オレフィンから導かれる構造単位の含有率が85mol%以下であることにより、結晶性が低くなるためポリオレフィン等の熱可塑性樹脂(A)と良好に相容する。
【0026】
共重合体(B)に含まれる、炭素数3以上のα-オレフィンから導かれる構造単位以外の構造単位の含有率は15~40mol%の範囲であり、好ましくは17~37mol%、より好ましくは20~33mol%である。
【0027】
共重合体(B)の一態様としては、エチレンと炭素数3以上のα-オレフィンとの共重合体を挙げることができる。
<要件(b-3)>
共重合体(B)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が1,000~30,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が2.5以下である。
【0028】
共重合体(B)は、前記重量平均分子量(Mw)が、好ましくは1,500~25,000であり、より好ましくは1,700~20,000である。
重量平均分子量が前記下限値より小さいと、共重合体(B)の樹脂組成物中での運動性が高くなるためブリードアウトが起こり易い。共重合体(B)の重量平均分子量が前記上限値より大きいと、十分な流動性改良効果を得られず、成形性が向上しない場合や、熱可塑性樹脂(A)との相容性が悪くなり、機械物性の低下やブリードアウトの原因となる場合がある。
【0029】
共重合体(B)は、前記分子量分布(Mw/Mn)が、好ましくは2.3以下であり、より好ましくは2.1以下である。
共重合体(B)の分子量分布が広く(Mw/Mnが大きく)なると、ブリードアウトや機械物性の低下の原因となり得る低分子量または高分子量の成分を多く含むことになり、好ましくない。
【0030】
共重合体(B)の重量平均分子量および分子量分布は、分子量既知の標準物質(単分散ポリスチレン)を用いて較正されたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することができる。
【0031】
共重合体(B)は、上記要件(b-1)~(b-3)に加えて、以下の要件(b-4)および(b-5)を満たしてもよい。要件(b-4)および(b-5)を満たす共重合体(B)は、たとえば後述する方法(α)により製造できる。
【0032】
<要件(b-4)>
共重合体(B)は、1H-NMRから測定されるメチル基指標が60~130%の範囲にある。
【0033】
前記メチル基指標は、好ましくは70~125%の範囲にあり、より好ましくは80~120%の範囲にある。
共重合体(B)が1H-NMRから測定されるメチル基指標が前記範囲であると、良好な機械物性を有する樹脂組成物を得ることができる。良好な機械物性を有する樹脂組成物が得られる理由としては、共重合体(B)中のメチル基によって熱可塑性樹脂(A)の分子との相互作用が高まるためだと考えられる。
【0034】
ここで、当該メチル基指標とは、共重合体(B)を重クロロホルム中に溶解させて1H-NMRを測定し、重クロロホルム中のCHCl3に基づく7.24ppmに現れる溶媒ピークをリファレンスとしたときにおける、0.50~2.20ppmの範囲内にあるピークの積分値に対する、0.50~1.15ppmの範囲内にあるピークの積分値の割合をいう。
【0035】
メチル基指標は、共重合体(B)中の分岐の割合を示す指標であるため、メチル基指標が上記の下限値以上であると、共重合体(B)の分岐が充分に存在することから、分子鎖同士が配向しにくく、分子運動性を有し、良好な流動性、柔軟性、軽量性が得られるため好ましい。一方で、共重合体(B)のメチル基指標が上記の上限値以下であると、共重合体(B)の側鎖が密に存在しすぎず、分子運動性が低下せず、良好な流動性や柔軟性、軽量性を保持できるため好ましい。
【0036】
メチル基指標が上記の上限値より大きいと、共重合体(B)の分岐構造が多くなるため、高温に晒された際に、分子鎖の分解が進みやすくなり、耐熱性が低下する懸念がある。言い換えると、共重合体(B)のメチル基指標が上記範囲内にあると、耐熱性を維持したまま、共重合体(B)が優れた分子運動性を示すようになり、良好な流動性や軽量性、柔軟性、耐熱性を示す樹脂組成物が得られ易くなると考えられるため好ましい。
【0037】
<要件(b-5)>
共重合体(B)は、-100℃~150℃の温度範囲で示差走査熱量測定(DSC)した際に、融解ピークが観測されない。
【0038】
示差走査熱量測定の詳細は次のとおりである。
示差走査熱量計(例:セイコーインスツルメント社X-DSC-7000)を用い、簡易密閉できるアルミサンプルパンに約8mgの共重合体の試料を入れてDSCセルに配置し、DSCセルを窒素雰囲気下にて室温から150℃まで10℃/分で昇温し、次いで、150℃で5分間保持した後、10℃/分で降温し、DSCセルを-100℃まで冷却する(降温過程)。次いで、-100℃で5分間保持した後、10℃/分で150℃まで昇温し、昇温過程で得られるエンタルピー曲線が極大値を示す温度を融点(Tm)とし、融解に伴う吸熱量の総和を融解熱量(ΔH)とする。融解ピークが観測されないか、融解熱量(ΔH)の値が1J/g以下の場合、融点(Tm)は観測されないとみなす。融点(Tm)および融解熱量(ΔH)の求め方は、JIS K7121を参照する。
【0039】
共重合体(B)の製造方法は特に限定されないが、特公平2-1163号公報、特公平2-7998号公報に記載されているようなバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなるバナジウム系触媒を用いる方法が挙げられる。また、高い重合活性で共重合体を製造する方法として特開昭61-221207号、特公平7-121969号公報、特許第2796376号公報に記載されているようなジルコノセンなどのメタロセン化合物と有機アルミニウムオキシ化合物(アルミノキサン)からなる触媒系を用いる方法等を用いてもよく、この方法は、得られる共重合体の塩素含量、およびα-オレフィンの2,1-挿入が低減できるため、より好ましい。
【0040】
バナジウム系触媒を用いる方法では、メタロセン系触媒を用いる方法に比較し、助触媒に塩素化合物をより多く使用するため、得られる共重合体(B)中に微量の塩素が残存する可能性が高い。一方、メタロセン系触媒を用いる方法では、実質的に塩素を残存させないため、塩素による樹脂組成物の劣化を防止できる点で好ましい。塩素含量は100ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましく、20ppm以下であることがさらに好ましく、5ppm以下であることが特に好ましい。塩素含量は種々の公知の方法で定量することができる。例えば、サーモフィッシャーサイエンティフィック社ICS-1600を用い、エチレン・α-オレフィン共重合体を、試料ボートに入れてAr/O2気流中、燃焼炉設定温度900℃にて燃焼分解し、このときの発生ガスを吸収液に吸収させ、イオンクロマトグラフ法にて定量する方法などがある。
【0041】
メタロセン系触媒を用いる方法としては、以下の方法(α)が挙げられる。
<方法(α)>
下記式1で表される架橋メタロセン化合物(a)、ならびに、
有機アルミニウムオキシ化合物(b1)、および、前記架橋メタロセン化合物(a)と反応してイオン対を形成する化合物(b2)からなる群より選択される少なくとも1つの化合物(b)
を含む触媒系の存在下で、エチレンと炭素数3以上のα-オレフィンとを溶液重合する工程を含む、方法(α)。
【0042】
【化2】
[式1において、R1、R2、R3、R4、R5、R8、R9およびR12はそれぞれ独立して、水素原子、炭化水素基またはケイ素含有炭化水素基であり、隣接する複数の基は、互いに連結して環構造を形成していてもよく、
6およびR11は、互いに同一の基であり、水素原子、炭化水素基またはケイ素含有炭化水素基であり、
7およびR10は、互いに同一の基であり、水素原子、炭化水素基またはケイ素含有炭化水素基であり、
6およびR7は、炭素数2~3の炭化水素と結合して環構造を形成していてもよく、
10およびR11は、炭素数2~3の炭化水素と結合して環構造を形成していてもよく、
6、R7、R10およびR11は、同時に水素原子ではなく;
Yは、炭素原子またはケイ素原子であり;
13およびR14はそれぞれ独立して、アリール基であり;
Mは、Ti、ZrまたはHfであり;
Qは独立して、ハロゲン原子、炭化水素基、アニオン性配位子または孤立電子対に配位可能な中性配位子であり;
jは、1~4の整数である。]
ここで、前記炭化水素基は、炭素数が1~20、好ましくは1~15、より好ましくは4~10であり、例えばアルキル基、アリール基等を意味し、アリール基は、炭素数が6~20、好ましくは6~15である。
【0043】
前記ケイ素含有炭化水素基の例としては、1~4個のケイ素原子を含む炭素原子数3~20のアルキル基またはアリール基が挙げられ、より詳細には、トリメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、トリフェニルシリル基等が挙げられる。
【0044】
式1で表される架橋メタロセン化合物において、シクロペンタジエニル基は置換されていても無置換でもよい。
式1で表される架橋メタロセン化合物において、
(i)シクロペンタジエニル基に結合した置換基(R1、R2、R3およびR4)のうち少なくとも1つが炭化水素基であることが好ましく、
(ii)置換基(R1、R2、R3およびR4)のうち少なくとも1つが炭素数4以上の炭化水素基であることがより好ましく、
(iii)シクロペンタジエニル基の3位に結合した置換基(R2またはR3)が炭素数4以上の炭化水素基(例えば、n-ブチル基)であることが最も好ましい。
【0045】
1、R2、R3およびR4のうち少なくとも2つが置換基である(すなわち、水素原子ではない)場合、上記の置換基は同一でも異なっていてもよく、少なくとも1つの置換基が炭素数4以上の炭化水素基であることが好ましい。
【0046】
式1で表されるメタロセン化合物において、フルオレニル基に結合したR6およびR11は同一であり、R7およびR10は同一であるが、R6、R7、R10およびR11は、同時には水素原子ではない。ポリ-α-オレフィンの高温溶液重合においては、重合活性を向上させるため、好ましくはR6もR11も水素原子ではなく、より好ましくはR6、R7、R10およびR11のいずれも水素原子ではない。例えば、フルオレニル基の2位および7位に結合したR6およびR11は、炭素数1~20の同一の炭化水素基であり、好ましくはすべてtert-ブチル基であり、R7およびR10は、炭素数1~20の同一の炭化水素基、好ましくはすべてtert-ブチル基である。
【0047】
シクロペンタジエニル基とフルオレニル基とを連結する主鎖部(結合部、Y)は、式1で表される前記架橋メタロセン化合物に立体的剛性を付与する構造架橋部としての、1個の炭素原子またはケイ素原子を含む2つの共有結合の架橋部である。架橋部中の架橋原子(Y)は、同一であっても異なっていてもよい2個のアリール基(R13およびR14)を有する。したがって、前記シクロペンタジエニル基と前記フルオレニル基とは、アリール基を含む共有結合架橋部によって結合されている。アリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、および置換アリール基(これは、フェニル基、ナフチル基またはアントラセニル基の1個以上の芳香族水素(sp2型水素)を置換基で置換して形成されたものである。)が挙げられる。前記置換アリール基が有する置換基の例としては、炭素数1~20の炭化水素基、炭素数1~20のケイ素含有炭化水素基、ハロゲン原子などが挙げられ、好ましくはフェニル基が挙げられる。式1で表される前記架橋メタロセン化合物において、好ましくは、製造容易性の観点からR13とR14とは同一である。
【0048】
式1で表される架橋メタロセン化合物において、Qは、好ましくは、ハロゲン原子または炭素数1~10の炭化水素基である。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素が挙げられ、炭素数1~10の炭化水素基としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、2-メチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、2,2-ジメチルプロピル、1,1-ジエチルプロピル、1-エチル-1-メチルプロピル、1,1,2,2-テトラメチルプロピル、sec-ブチル、tert-ブチル、1,1-ジメチルブチル、1,1,3-トリメチルブチル、ネオペンチル、シクロヘキシルメチル、シクロヘキシル、1-メチル-1-シクロヘキシルなどが挙げられる。また、jが2以上の整数の場合、Qは同一であっても異なっていてもよい。
【0049】
このような架橋メタロセン化合物(a)としては、
エチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)](η5-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、エチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)][η5-(3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、エチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、エチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)](オクタメチルオクタヒドロジベンフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、エチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)](ベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、エチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)](ジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、エチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)](オクタヒドロジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、エチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジフェニル-3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、エチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジメチル-3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、
エチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)](η5-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、エチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)][η5-(3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、エチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、エチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)](オクタメチルオクタヒドロジベンフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、エチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)](ベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、エチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)](ジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、エチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)](オクタヒドロジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、エチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジフェニル-3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、エチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジメチル-3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、
エチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)](η5-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、エチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)][η5-(3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、エチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、エチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)](オクタメチルオクタヒドロジベンフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、エチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)](ベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、エチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)](ジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、エチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)](オクタヒドロジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、エチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジフェニル-3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、エチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジメチル-3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、
ジフェニルメチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)](η5-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)][η5-(3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)](オクタメチルオクタヒドロジベンフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)](ベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)](ジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)](オクタヒドロジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジフェニル-3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジメチル-3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、
ジフェニルメチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)](η5-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)][η5-(3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)](オクタメチルオクタヒドロジベンフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)](ベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)](ジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)](オクタヒドロジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジフェニル-3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジメチル-3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、
ジフェニルメチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)](η5-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)][η5-(3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)](オクタメチルオクタヒドロジベンフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)](ベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)](ジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)](オクタヒドロジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジフェニル-3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジメチル-3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、
ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)](η5-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)][η5-(3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)](オクタメチルオクタヒドロジベンフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)](ベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)](ジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)](オクタヒドロジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジフェニル-3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジメチル-3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、
ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)](η5-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)][η5-(3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)](オクタメチルオクタヒドロジベンフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)](ベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)](ジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)](オクタヒドロジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジフェニル-3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-tert-ブチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジメチル-3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、
ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)](η5-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)][η5-(3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)](オクタメチルオクタヒドロジベンフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)](ベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)](ジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)](オクタヒドロジベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)](2,7-ジフェニル-3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジ(p-トリル)メチレン[η5-(3-n-ブチルシクロペンタジエニル)][η5-(2,7-ジメチル-3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド等が挙げられる。
【0050】
これらの化合物のジルコニウム原子をハフニウム原子に置き換えた化合物またはクロロ配位子をメチル基に置き換えた化合物などが例示されるが、架橋メタロセン化合物(a)はこれらの例示に限定されない。
【0051】
方法(α)における前記触媒系に使用される前記有機アルミニウムオキシ化合物(b1)としては、従来のアルミノキサンを使用できる。例えば、下記式2~5で表される直鎖状または環状のアルミノキサンを使用できる。前記有機アルミニウムオキシ化合物には、少量の有機アルミニウム化合物が含まれていてもよい。
【0052】
【化3】
式2~4において、Rは独立して炭素数1~10の炭化水素基であり、Rxは独立して炭素数2~20の炭化水素基であり、mおよびnは独立して2以上、好ましくは3以上、より好ましくは10~70、最も好ましくは10~50の整数である。
【0053】
【化4】
式5において、Rcは炭素数1~10の炭化水素基であり、Rdは独立して水素原子、ハロゲン原子または炭素数1~10の炭化水素基である。
【0054】
式2または式3において、Rは、従来「メチルアルミノキサン」と呼ばれている有機アルミニウムオキシ化合物のメチル基(Me)である。
前記メチルアルミノキサンは、容易に入手可能であり、かつ高い重合活性を有するので、ポリオレフィン重合における活性剤として一般的に使用されている。しかしながら、メチルアルミノキサンは、飽和炭化水素に溶解させ難いため、環境的に望ましくないトルエンまたはベンゼンのような芳香族炭化水素の溶液として使用されてきた。そのため、近年、飽和炭化水素に溶解させたアルミノキサンとして、式4で表されるメチルアルミノキサンの可撓性体(flexible body)が開発され、使用されている。式4で表されるこの修飾メチルアルミノキサンは、米国特許第4960878号明細書、米国特許第5041584号明細書に示されるように、トリメチルアルミニウムおよびトリメチルアルミニウム以外のアルキルアルミニウムを用いて調製され、例えば、トリメチルアルミニウムおよびトリイソブチルアルミニウムを用いて調製される。Rxがイソブチル基であるアルミノキサンは、飽和炭化水素溶液の形でMMAO、TMAOの商品名で市販されている。(Tosoh Finechem Corporation、Tosoh Research&Technology Review、Vol 47、55(2003)を参照のこと)。
【0055】
前記触媒系に含まれる(ii)前記架橋メタロセン化合物と反応してイオン対を形成する化合物(b2)(以下、必要に応じて「イオン性化合物」という。)としては、ルイス酸、イオン性化合物、ボラン、ボラン化合物、カルボラン化合物を使用でき、これらは韓国特許第10-0551147号公報、特開平1-501950号公報、特開平3-179005号公報、特開平3-179006号公報、特開平3-207703号公報、特開平3-207704号公報、米国特許第5321106号明細書等に記載されている。必要に応じて、ヘテロポリ化合物、イソポリ化合物等を使用でき、特開2004-51676号公報に記載のイオン性化合物を使用できる。前記イオン性化合物は、1種単独でまたは2種以上を混合して使用できる。より詳細には、ルイス酸の例としては、BR3で表される化合物(Rはフッ化物、置換されたもしくは無置換の炭素数1~20のアルキル基(メチル基など)、置換されたもしくは無置換の炭素数6~20のアリール基(フェニル基など)などである。)が挙げられ、例えばトリフルオロボロン、トリフェニルボロン、トリス(4-フルオロフェニル)ボロン、トリス(3,5-ジフルオロフェニル)ボロン、トリス(4-フルオロフェニル)ボロン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボロン、およびトリス(p-トリル)ボロンが挙げられる。前記イオン性化合物を用いると、有機アルミニウムオキシ化合物と比較して、その使用量およびスラッジ発生量が比較的少なく、経済的に有利である。本発明においては、前記イオン性化合物として、下記式6で表される化合物が使用されることが好ましい。
【0056】
【化5】
式6において、Re+は、H+、カルベニウムカチオン、オキソニウムカチオン、アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、シクロヘプチルトリエニルカチオン、または遷移金属を有するフェロセニウムカチオンであり、Rf~Riは、それぞれ独立に有機基、好ましくは炭素数1~20の炭化水素基、より好ましくはアリール基、例えばペンタフルオロフェニル基である。前記カルベニウムカチオンの例としては、トリス(メチルフェニル)カルベニウムカチオン、トリス(ジメチルフェニル)カルベニウムカチオンなどが挙げられ、前記アンモニウムカチオンの例としては、ジメチルアニリニウムカチオンなどが挙げられる。
【0057】
上記式6で表される化合物としては、好ましくはN,N-ジアルキルアニリニウム塩、具体的にはN,N-ジメチルアニリニウムテトラフェニルボレート、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、N,N-ジエチルアニリニウムテトラフェニルボレート、N,N-ジエチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、 N,N-ジエチルアニリニウムテトラキス(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、N,N-2,4,6-ペンタメチルアニリニウムテトラフェニルボレート、N,N-2,4,6-ペンタメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどが挙げられる。
【0058】
方法(α)に用いられる前記触媒系は、必要に応じて、さらに(c)有機アルミニウム化合物を含む。前記有機アルミニウム化合物は、前記架橋メタロセン化合物、前記有機アルミニウムオキシ化合物、前記イオン性化合物などを活性化する役割を果たす。前記有機アルミニウム化合物としては、好ましくは下記式7で表される有機アルミニウム、および下記式8で表される第1族金属とアルミニウムとの錯アルキル化物を使用できる。
【0059】
a mAl(ORb)npq …(式7)
式7において、Ra及びRbは、それぞれ独立に、炭素数1~15、好ましくは炭素数1~4の炭化水素基であり、Xはハロゲン原子であり、mは0<m≦3の整数であり、nは0≦n≦3の整数であり、pは0<p≦3の整数であり、qは0≦q<3の整数であり、m+n+p+q=3である。
【0060】
2AlRa 4 …(式8)
式8において、M2はLi、NaまたはKを表し、Raは炭素数1~15、好ましくは炭素数1~4の炭化水素基である。
【0061】
式7で表される有機アルミニウム化合物の例としては、入手容易なトリメチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどが挙げられる。式8で表される第1族金属とアルミニウムとのアルキル錯体化合物の例としては、LiAl(C25)4、LiAl(C715)4などが挙げられる。式7で表される化合物に類似する化合物を使用できる。例えば、(C25)2AlN(C25)Al(C25)2のように、少なくとも2つのアルミニウム化合物が窒素原子を介して結合した有機アルミニウム化合物を用いることができる。
【0062】
方法(α)において、式1で表される架橋メタロセン化合物(a)の量は、好ましくは全触媒組成物に対して5~50重量%である。そして、好ましくは、(i)有機アルミニウムオキシ化合物(b1)の量は、使用される架橋メタロセン化合物のモル数に対して50~500当量であり、(ii)前記架橋メタロセン化合物と反応してイオン対を形成する化合物(b2)の量は、使用される架橋メタロセン化合物のモル数に対して1~5当量であり、有機アルミニウム化合物(c)の量は、使用される架橋メタロセン化合物のモル数に対して5~100当量である。
【0063】
方法(α)で用いられる前記触媒系は、例えば以下の[1]~[4]を有していてもよい。
[1]式1で表される架橋メタロセン化合物(a)、および(i)有機アルミニウムオキシ化合物(b1)
[2]式1で表される架橋メタロセン化合物(a)、(i)有機アルミニウムオキシ化合物(b1)、および有機アルミニウム化合物(c)。
[3]式1で表される架橋メタロセン化合物(a)、(ii)前記架橋メタロセン化合物と反応してイオン対を形成する化合物(b2)、および有機アルミニウム化合物(c)。
[4]式1で表される架橋メタロセン化合物(a)、ならびに(i)有機アルミニウムオキシ化合物(b1)、および(ii)前記架橋メタロセン化合物と反応してイオン対を形成する化合物(b2)。
【0064】
式1で表される架橋メタロセン化合物(成分(a))、(i)有機アルミニウムオキシ化合物(成分(b1))、(ii)架橋メタロセン化合物と反応してイオン対を形成する化合物(b2)、および/または有機アルミニウム化合物(成分(c))は、出発原料モノマー(エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンとの混合物)に対して、任意の順序で導入されてもよい。例えば、成分(a)、(b)および/または(c)は、原料モノマーが充填されている重合反応器に、単独でまたは任意の順序で導入される。あるいは、必要に応じて、成分(a)、(b)および/または(c)のうち少なくとも2つの成分を混合した後、混合触媒組成物が、原料モノマーが充填された重合反応器に導入される。
【0065】
方法(α)において、前記共重合体(B)は、前記触媒系の下でのエチレンと炭素数3以上、たとえば炭素数3~20のα-オレフィンとの溶液重合によって調製される。炭素数3~20のα-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセンなどの直鎖状α-オレフィン、イソブチレン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテンなどの分岐状α-オレフィン、およびそれらの混合物のうちの1種以上を使用できる。好ましくは1種以上の炭素数3~6のα-オレフィンを使用でき、より好ましくはプロピレンを使用できる。前記溶液重合は、プロパン、ブタン、ヘキサンなどの不活性溶媒、またはオレフィン単量体そのものを媒体として使用することにより実施できる。方法(α)において、共重合の温度は、通常80~150℃、好ましくは90~120℃であり、共重合の圧力は、通常大気圧~500kgf/cm2、好ましくは大気圧~50kgf/cm2であり、これらは反応材料、反応条件などに応じて変動し得る。
【0066】
重合は回分式、半連続式または連続式で実施でき、好ましくは連続式で実施される。
〈その他の態様〉
共重合体(B)は、非変性体であってもよいし、あるいは、グラフト変性によって何らかの極性基を付与された変性体であってもよい。変性に利用される極性基を有するビニル化合物には、酸、酸無水物、エステル、アルコール、エポキシ、エーテル等の酸素含有基を有するビニル化合物、イソシアネート、アミド等の窒素含有基を有するビニル化合物、ビニルシラン等のケイ素含有基を有するビニル化合物などを使用することができる。また、共重合体(B)は、特開2020-97743号公報に記載のような方法を用いて、一部を塩素化した変性体であってもよい。
【0067】
この中でも、酸素含有基を有するビニル化合物が好ましく、具体的には、不飽和エポキシ単量体、不飽和カルボン酸及びその誘導体などが好ましい。不飽和エポキシ単量体としては、不飽和グリシジルエーテル、不飽和グリシジルエステル(例えば、グリシジルメタクリレート)などがある。前記不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ナジック酸 TM (エンドシス-ビシクロ[2,2,1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸)などがある。
【0068】
また、前記不飽和カルボン酸の誘導体としては、前記不飽和カルボン酸の酸ハライド化合物、アミド化合物、イミド化合物、酸無水物、及びエステル化合物などを挙げることができる。具体的には、塩化マレニル、マレイミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、グリシジルマレエートなどがある。
【0069】
これらの中では、不飽和ジカルボン酸及びその酸無水物がより好ましく、特にマレイン酸、ナジック酸 TM 及びこれらの酸無水物が特に好ましく用いられる。
なお、前記の極性基を有するビニル化合物又はその誘導体が、共重合体(B)にグラフトする位置は特に制限されず、この共重合体(B)の任意の炭素原子に不飽和カルボン酸又はその誘導体が結合していればよい。
【0070】
熱可塑性樹脂(A)が極性基を有する場合、共重合体(B)に前記極性基を付与することで、共重合体(B)と熱可塑性樹脂(A)との良好な相容性が得られ、樹脂組成物の機械物性の低下やブリードアウトを抑制できる。
【0071】
前記のような変性体である共重合体(B)は、従来公知の種々の方法、例えば、次のような方法を用いて調製できる。
(1)非変性の共重合体(B)を押出機、バッチ式反応機などで混合させて、極性基を有するビニル化合物又はその誘導体などを添加してグラフト共重合させる方法。
【0072】
(2)非変性の共重合体(B)を溶媒に溶解させて、極性基を有するビニル化合物又はその誘導体などを添加してグラフト共重合させる方法。
前記いずれの方法も、前記極性基を有するビニル化合物又はその誘導体のグラフトモノマーを効率よくグラフト共重合させるために、ラジカル開始剤の存在下でグラフト反応を行うことが好ましい。
【0073】
前記ラジカル開始剤として、例えば、有機ペルオキシド、アゾ化合物などが使用される。前記有機ペルオキシドとしては、ベンゾイルペルオキシド、ジクロルベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシドなどが挙げられ、前記アゾ化合物としては、アゾビスイソブチニトリル、ジメチルアゾイソブチレートなどがある。
【0074】
このようなラジカル開始剤としては、具体的には、ジクミルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,4-ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンなどのジアルキルペルオキシドが好ましく用いられる。
【0075】
これらのラジカル開始剤は、共重合体(B)100質量部に対して、通常は0.001~1質量部、好ましくは0.003~0.5質量部、さらに好ましくは0.05~0.3質量部の量で用いられる。
【0076】
前記のようなラジカル開始剤を用いたグラフト反応、あるいは、ラジカル開始剤を使用しないで行うグラフト反応における反応温度は、通常60~350℃、好ましくは120~300℃の範囲に設定される。
【0077】
このようにして得られる変性共重合体中の極性基を有するビニル化合物のグラフト量は、変性共重合体の質量を100質量%とした場合に、通常0.01~15質量%、好ましくは0.05~10質量%である。
【0078】
〈共重合体(B)の含有量〉
本発明の樹脂組成物全体における共重合体(B)の含有量は、0.01~15質量%であり、好ましくは0.1~13質量%、さらに好ましくは0.5~12質量%、特に好ましくは1~10質量%である。
【0079】
樹脂組成物全体における共重合体(B)の含有量が、前記下限値未満であると、共重合体(B)による流動性改良効果が十分に発現されない。一方、前記樹脂組成物全体における共重合体(B)の含有量が、前記上限値を超えると、樹脂組成物の機械強度低下やブリードアウトが起こる場合があるため好ましくない。言い換えると、共重合体(B)の含量が、前記範囲内にあると、ブリードアウトがなく、機械強度と成形性に優れた樹脂組成物が得られ易いため好ましい。記効果は、機械強度に優れる低MFRの熱可塑性樹脂(A)に対して、その特徴である機械強度を維持したまま、成形性を改良できるため、特に有用である。
【0080】
[その他の成分]
本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の安定剤、金属石鹸、充填剤、難燃剤、抗菌剤、防カビ剤、顔料等の添加剤を含有してもよい。
【0081】
前記安定剤としては、ンダードフェノール系化合物、フォスファイト系化合物、チオエーテル系化合物などの酸化防止剤;ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物などの紫外線吸収剤;ヒンダードアミン系化合物などの光安定剤が挙げられる。
【0082】
前記金属石鹸としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛などのステアリン酸塩等が挙げられる。
前記充填剤としては、ガラス繊維、シリカ繊維、金属繊維(ステンレス、アルミニウム、チタン、銅等)、天然繊維(木粉、木質繊維、竹、竹繊維、綿花、セルロース、ナノセルロース、羊毛、麦わら、麻、亜麻、ケナフ、カポック、ジュート、ラミー、サイザル麻、ヘネッケン、トウモロコシ、木の実の殻、木材パルプ、レーヨン、コットン等)、カーボンブラック、グラファイト、活性炭、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、グラフェンナノプレートレット、ナノポーラスカーボン、カーボン繊維、シリカ、ガラスビーズ、珪酸塩(珪酸カルシウム、タルク、クレー等)、金属酸化物(酸化鉄、酸化チタン、酸化マグネシウム、アルミナ等)、金属の炭酸塩(炭酸カルシウム、炭酸バリウム等)、硫酸塩(硫酸カルシウム、硫酸バリウム等)及び各種金属(マグネシウム、珪素、アルミニウム、チタン、銅等)粉末、マイカ、ガラスフレーク、軽石粉、軽石バルン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ドロマイト、チタン酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、アスベスト、モンモリロナイト、ベントナイト、硫化モリブデン、有機充填剤(リグニン、スターチなど)、及びその含有製品等が挙げられる。特にガラス繊維、シリカ繊維、金属繊維、天然繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボン繊維などの構造に異方性を有する充填剤は、混練時の剪断により充填剤が破断することで、異方性が低下し、その特徴が損なわれ易いが、共重合体(B)は、流動性改良効果にて混練時の剪断を低減し、異方性を維持し易くするため有用である。
【0083】
前記難燃剤としては、デブロムジフェニルエーテル、オクタブロムジフェニルエーテル等のハロゲン化ジフェニルエーテル、ハロゲン化ポリカーボネートなどのハロゲン化合物;三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、ピロアンチモン酸ソーダ、水酸化アルミニウムなどの無機化合物;リン系化合物などが挙げられる。また、ドリップ防止のため難燃助剤としてはテトラフルオロエチレン等の化合物を添加することができる。
【0084】
前記抗菌剤、防カビ剤としては、イミダゾール系化合物、チアゾール系化合物、ニトリル系化合物、ハロアルキル系化合物、ピリジン系化合物などの有機化合物;銀、銀系化合物、亜鉛系化合物、銅系化合物、チタン系化合物などの無機物質、無機化合物などが挙げられる。
【0085】
前記顔料としては、合成樹脂の着色に従来から用いられている顔料を使用できる。具体的には、アルミニウム、銀、金などの金属類;炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩;ZnO、TiO2などの酸化物;Al23・nH2O、Fe23・nH2Oなどの水酸化物;CaSO4、BaSO4などの硫酸塩;Bi(OH)2NO3などの硝酸塩;PbCl2などの塩化物;CaCrO4、BaCrO4などのクロム酸塩;CoCrO4などの亜クロム酸塩、マンガン酸塩および過マンガン酸塩;Cu(BO)2などの硼酸塩;Na227・6H2Oなどのウラン酸塩;K3Co(NO26・3H2Oなどの亜硝酸塩;SiO2などの珪酸塩;CuAsO3・Cu(OH)2などのひ酸塩および亜ひ酸塩;Cu(C2322・Cu(OH)2などの酢酸塩;(NH42MnO2(P272などの燐酸塩;アルミ酸塩、モリブデン酸塩、亜鉛酸塩、アンチモン酸塩、タングステン酸塩セレン化物、チタン酸塩、シアン化鉄塩、フタル酸塩、CaS、ZnS、CdS、黒鉛、カーボンブラックなどの無機顔料、コチニール・レーキ、マダー・レーキなどの天然有機顔料、ナフトール・グリーンY、ナフトール・グリーンBなどのニトロソ顔料;ナフトールエローS、ピグメント・クロリン2Gなどのニトロ顔料;パーマネント・レッド4R;ハンザエロー、ブリリアント・カーミン68、スカーレット2Rなどのアゾ顔料;マラカイン・グリーン、ローダミンBなどの塩基性染料レーキ、アシッドグリーンレーキ、エオシン・レーキなどの酸性染料レーキ、アリザリン・レーキ、プルプリン・レーキ、などの媒染染料レーキ、チオ・インジゴ・レッドB、インタンスレン・オレンジなどの建染染料顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン顔料などの有機顔料などが挙げられる。
【0086】
前記添加剤は、本発明の効果を損なわない範囲で任意の割合および任意の添加方法にて使用できる。
[樹脂組成物]
本発明にかかる樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)および共重合体(B)を必須成分とすることを特徴とする。また、発明の効果を損なわない範囲にて、上述のその他成分を含有することができる。
【0087】
本発明に係る樹脂組成物の組成や分子量については、本発明を損なわない範囲であれば特に限定されるものではないが、良好な成形性と機械物性を得る観点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により観測される分子量が5,000未満の成分の割合が樹脂組成物の成分全体に対して0.7~4.5%であることが好ましく、1.0~4.5%であることがより好ましく、1.2~4.5%であることが更に好ましく、1.3~3.0%であることが特に好ましい。分子量5,000未満の成分は、樹脂組成物の成形性を改善する反面、機械物性の低下やブリードアウト等の問題を引き起こす原因となり得る。樹脂組成物中の分子量5,000未満の成分の割合が前記範囲内にあると、機械物性の低下やブリードアウト等の問題を抑制したまま、成形性を改善する効果が得られ易いため好ましい。
【0088】
[樹脂組成物の製造方法]
本発明に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)、共重合体(B)及び必要に応じた添加剤を溶融混練することによって製造される。溶融混練する方法としては、1軸押出機や2軸押出機などを使用することができる。
【0089】
熱可塑性樹脂(A)に共重合体(B)を添加する方法については、発明の効果を損なわない範囲で種々の方法を使用することができる。例えば、熱可塑性樹脂(A)と共重合体(B)とをヘンシェルミキサーなどの高速ミキサーやタンブラーなどを用いてドライブレンドした後に溶融混練する方法や、熱可塑性樹脂(A)を溶融混練している際に、共重合体(B)を開放部から直接添加したり、サイドフィーダーや液体フィードポンプにより挿入したりすることで溶融混練する方法が挙げられる。
【0090】
溶融混練時の温度としては、熱可塑性樹脂(A)等が溶融する温度であれば特に制限はなく、例えば、熱可塑性樹脂(A)がポリプロピレンである場合には、通常、190~300℃の範囲、好ましくは200~250℃の範囲である。
【0091】
〈共重合体(B)含有マスターバッチを使用した製造方法〉
本発明に係る樹脂組成物の製造方法としては、共重合体(B)を、熱可塑性樹脂(A)と溶融混練して共重合体(B)含有マスターバッチを製造し、該共重合体(B)含有マスターバッチにさらに熱可塑性樹脂(A)を加えて、両者を溶融混練して、樹脂組成物を製造しても良い。
【0092】
共重合体(B)含有マスターバッチの製造に使用される熱可塑性樹脂(A)と、該マスターバッチを製造した後にさらに該マスターバッチに加えられる熱可塑性樹脂(A)とは、同じ樹脂であっても、異なる樹脂であっても構わない。
【0093】
共重合体(B)含有マスターバッチの製造方法は特に制限はないが、例えば共重合体(B)および熱可塑性樹脂(A)および必要に応じて添加剤を、1軸押出機、2軸押出機、プラストミル、ブラベンダー、ニーダー、ロールミキサー、バンバリーミキサーなどで溶融混練して製造する方法が挙げられる。この中でも、大量生産が容易である点、ペレット状のマスターバッチを得やすい点から1軸押出機または2軸押出機を使用する方法が好ましく、共重合体(B)の相容性を高め、ブリードアウトを抑制する観点から2軸押出機を使用する方法が特に好ましい。
【0094】
マスターバッチ製造における溶融混練時の温度としては、熱可塑性樹脂(A)等が溶融する温度であれば特に制限はなく、例えば、熱可塑性樹脂(A)がポリプロピレンである場合には、通常、190~300℃の範囲、好ましくは200~250℃の範囲である。
【0095】
本発明で用いられる共重合体(B)含有マスターバッチ中の共重合体(B)の配合量は、特に制限はないが、共重合体(B)含有マスターバッチに含有される熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、通常0.1~100質量部の範囲、好ましくは0.1~20質量部の範囲、より好ましくは0.5~10質量部の範囲、特に好ましくは、3~10質量部の範囲である。
【0096】
前記範囲の下限値以上の質量で共重合体(B)を配合すると、共重合体(B)により、熱可塑性樹脂(A)の成分が軟化および溶融し易くなり、共重合体(B)含有マスターバッチと、さらに加えられる熱可塑性樹脂(A)とを押出機にて溶融混練する際に、良好な流動性改良効果が得られるため好ましい。また、前記範囲の上限値以下の質量で共重合体(B)を配合すると、共重合体(B)のブリードアウトを抑制でき、べたつきのない共重合体(B)含有マスターバッチを得ることができるため好ましい。
【0097】
共重合体(B)含有マスターバッチと、該マスターバッチに加えられる熱可塑性樹脂(A)との溶融混練方法は、特に制限はなく、例えば上述した、共重合体(B)含有マスターバッチの製造方法における溶融混練方法と同様の方法を採用することができる。
【0098】
共重合体(B)含有マスターバッチと、該マスターバッチに加えられる熱可塑性樹脂(A)との量比としては、該マスターバッチに加えられる熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、共重合体(B)含有マスターバッチ1質量部~110質量部が好ましく、15質量部~110質量部がより好ましく、15質量部~50質量部が特に好ましい。共重合体(B)含有マスターバッチと、該マスターバッチに加えられる熱可塑性樹脂(A)との量比が前記範囲の下限値よりも小さいと、樹脂組成物中の共重合体(B)の含有量が少なくなり、成形性の改善効果が発現し難い場合がある。一方、共重合体(B)含有マスターバッチと、該マスターバッチに加えられる熱可塑性樹脂(A)との量比が前記範囲の上限値よりも大きいと、共重合体(B)の含有量が多くなり、機械物性の低下を引き起こしやすくなる。
【0099】
また、本発明に係る樹脂組成物を接着剤やコート剤として使用する場合には、熱可塑性樹脂(A)、共重合体(B)が溶解する各種有機溶剤等により混練を実施することもできる。
【0100】
[成形体]
前記樹脂組成物を用いて、前記樹脂組成物を含む成形体を得ることができる。前記成形体は、例えば、前記熱可塑性樹脂(A)と共重合体(B)とを溶融混練することにより得られる。この際、前述したように、共重合体(B)含有マスターバッチを製造して、該マスターバッチにさらに熱可塑性樹脂(A)を加えて、溶融混練してもよい。また、前記樹脂組成物を溶融混練した後、直ちに成形して成形体を得てもよい。
【0101】
成形方法としては、例えば、Tダイ成形、ブロー成形、射出成形、その他公知の成形方法が挙げられる。
例えば、熱可塑性樹脂(A)としてポリプロピレンを用いてTダイ押出成形等により、押出シートまたはフィルムを成形する場合には、通常170~300℃、好ましくは180~270℃、より好ましくは190~250℃の範囲で押出成形することにより成形体が得られる。また押出機より押出したフィルムを、例えばテンター法(縦横延伸、横縦延伸)、同時二軸延伸法、一軸延伸法により延伸することにより、延伸フィルムが得られる。
【0102】
また、熱可塑性樹脂(A)としてポリプロピレンを用いて押出ブロー成形で本発明の成形体を得る場合には、通常樹脂温度170~240℃の範囲でダイよりチューブ状パリソンとして押出し、次いで付与すべき形状の金型中にパリソンを保持した後、空気を吹き込み通常樹脂温度160~230℃の範囲で金型に着装し成形体が得られる。また押出ブロー成形する際には適切な倍率に延伸してもよい。
【0103】
また、熱可塑性樹脂(A)としてポリプロピレンを用いて射出成形する場合には、射出成形時のシリンダー温度は、通常180~400℃、好ましくは200~300℃、より好ましくは200~250℃の範囲であり、射出圧力は通常10~200MPa、好ましくは20~150MPaの範囲であり、金型温度は通常20~200℃、好ましくは20~80℃、より好ましくは20~60℃の範囲である。
【実施例
【0104】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これら実施例により何ら限定されるものではない。
以下の実施例および比較例において、各物性は、以下の方法により測定あるいは評価した。
【0105】
[動粘度]
動粘度は、ASTM D 445に基づき、100℃にて、キャノン社製全自動粘度計CAV-4を用いて測定を行った。
【0106】
[プロピレン含量]
α-オレフィン共重合体について、日本電子(株)製ECP500型核磁気共鳴装置を用い、溶媒としてオルトジクロロベンゼン/重ベンゼン(80/20容量%)混合溶媒,試料濃度55mg/0.6mL、測定温度120℃、観測核は13C(125MHz)、シーケンスはシングルパルスプロトンデカップリング、パルス幅は4.7μ秒(45°パルス)、繰り返し時間は5.5秒、積算回数は1万回以上、27.50ppmをケミカルシフトの基準値として測定を行った。
【0107】
プロピレン含量は、上記のようにして測定された13C-NMRスペクトルから、G.J.Ray(Macromolecules,10,773(1977))、J.C.Randall(Macro-molecules,15,353(1982))、K.Kimura(Polymer,25,4418(1984))らの報告に基づいて求めた。
【0108】
[重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)]
共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、下記の高速GPC測定装置を用いて測定を行った。標準物質として分子量既知の単分散ポリスチレンを用い校正を行った。得られた各分子量から分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
測定装置:東ソー社製HLC8320GPC
移動相:THF(和光純薬工業社製、安定剤不含有、液体クロマトグラフィー用グレード)
カラム:東ソー社製TSKgel Super MultiporeHZ-M 2本を直列連結した。
サンプル濃度:5mg/mL
移動相流速:0.35mL/分
測定温度:40℃
検量線用標準サンプル:東ソー社製PStQuick MP-M
また、比較例で用いたポリエチレンワックスの分子量は、下記の測定装置を用いて測定を行った。標準物質として分子量既知の単分散ポリスチレンを用い校正を行った。
測定装置:東ソー社製HLC―8321GPC/HT型
移動相:o―ジクロロベンゼン
カラム:東ソー社製TSKgel GMH6-HTを2本、TSKgel GMH6-HTLを2本直列に接続
サンプル濃度:0.1mg/mL
移動相流速:1.0mL/分
測定温度:140℃検量線用標準サンプル:東ソー社製単分散ポリスチレン #3 std set
[B値]
o-ジクロロベンゼン/ベンゼン-d6(4/1[vol/vol%])を測定溶媒とし、測定温度120℃、スペクトル幅250ppm、パルス繰り返し時間5.5秒、かつパルス幅4.7・sec(45°パルス)の測定条件下(100MHz、日本電子ECX400P)、または測定温度120℃、スペクトル幅250ppm、パルス繰り返し時間5.5秒、かつパルス幅5.0・sec(45°パルス)の測定条件下(125MHz、ブルカー・バイオスピンAVANCEIIIcryo-500)にて13C-NMRスペクトルを測定し、下記式(1)に基づきB値を算出した。ピークの帰属は前述の公知文献を参考にして行った。
【0109】
B=PO1-O2/(2×PO1×PO2) (1)
上記式(1)中、PO1は第1のオレフィン由来の構造単位の含有モル分率を示し、PO2は第2のオレフィン由来の構造単位の含有モル分率を示し、PO1-O2は、全dyad連鎖の「第1のオレフィン-第2のオレフィン」連鎖のモル分率を示す。
【0110】
[不飽和結合量]
o-ジクロロベンゼン-d4を測定溶媒とし、測定温度120℃、スペクトル幅20ppm、パルス繰り返し時間7.0秒、かつパルス幅6.15μsec(45°パルス)の測定条件下にて、1H-NMRスペクトル(400MHz、日本電子ECX400P)を測定した。ケミカルシフト基準には、溶媒ピーク(オルトジクロロベンゼン 7.1ppm)を用い、0~3ppmに観測されるメインピークと、4~6ppmに観測される不飽和結合由来のピークとの積分値の比率より、炭素原子1000個当たりの不飽和結合量(個/1000C)を算出した。
【0111】
[塩素含量]
サーモフィッシャーサイエンティフィック社ICS-1600を用い、共重合体の試料を、試料ボートに入れてAr/O2気流中、燃焼炉設定温度900℃にて燃焼分解した。このときの発生ガスを吸収液に吸収させ、イオンクロマトグラフ法にて含有塩素量を定量した。
【0112】
[密度]
密度は、JIS K7112(密度勾配管法)に準拠して、測定した。
[融点]
セイコーインスツルメント社X-DSC-7000を用い、簡易密閉できるアルミサンプルパンに約8mgの共重合体の試料を入れてDSCセルに配置し、DSCセルを窒素雰囲気下にて室温から150℃まで10℃/分で昇温し、次いで、150℃で5分間保持した後、10℃/分で降温し、DSCセルを-100℃まで冷却した(降温過程)。次いで、-100℃で5分間保持した後、10℃/分で150℃まで昇温し、昇温過程で得られるエンタルピー曲線が極大値を示す温度を融点(Tm)とし、融解に伴う吸熱量の総和を融解熱量(ΔH)とした。融解ピークが観測されないか、融解熱量(ΔH)の値が1J/g以下の場合、融点(Tm)は観測されないとみなした。融点(Tm)および融解熱量(ΔH)の求め方は、JIS K7121に基づいて行った。
【0113】
[メチル基指標]
日本電子(株)製EX270型核磁気共鳴装置を用い、溶媒として重クロロホルム,試料濃度として55mg/0.6mL、測定温度として室温、観測核として1H(270MHz)、シーケンスとしてシングルパルス、パルス幅として6.5μ秒(45°パルス)、繰り返し時間として5.5秒、積算回数としては16回、ケミカルシフトの基準値として重クロロホルム中のCHCl3に基づく溶媒ピークの7.24ppmを用いて測定した。
【0114】
上記のようにして測定された1H-NMRスペクトルから得られたスペクトルにおける、0.50~2.20ppmの範囲内にあるピークの積分値に対する、0.50~1.15ppmの範囲内にあるピークの積分値の割合をメチル基指標とした。ここで、0.50~2.20ppmの範囲内にはα-オレフィン(共)重合体に基づくピークがほぼ含まれる。この範囲のうち、メチル基に基づくピークは、0.50~1.15ppmの範囲内に含まれる可能性が高い。
熱可塑性樹脂(A)
熱可塑性樹脂(A)としてプライムポリマー(株)製ポリプロピレンF113G(以下、熱可塑性樹脂()という)を使用した。
共重合体(B)およびその他の共重合体
共重合体(B)として下記製造方法で製造した共重合体(-1)を使用した。その他の共重合体として下記製造方法で製造した共重合体(-2)および(-3)を使用した。
〔共重合体(-1)の製造方法〕
充分に窒素置換した内容積1Lのガラス製重合器にデカン250mLを装入し、系内の温度を130℃に昇温した後、エチレンを15L/hr、プロピレンを85L/hr、水素を100L/hrの流量で連続的に重合器内に供給し、撹拌回転数600rpmで撹拌した。次にトリイソブチルアルミニウム0.2mmolを重合器に装入し、次いでMMAO2.022mmolと[メチルフェニルメチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-2,7-ジ-t-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド0.00670mmolをトルエン中で15分以上予備混合したものを重合器に装入することにより重合を開始した。その後、エチレン、プロピレン、水素の連続的供給を継続し、130℃で15分間重合を行った。少量のイソブチルアルコールを系内に添加することにより重合を停止した後、未反応のモノマーをパージした。得られたポリマー溶液を、0.2mol/lの塩酸100mLで3回、次いで蒸留水100mLで3回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られたポリマーを80℃の減圧下で一晩乾燥し、プロピレン-エチレン共重合体(共重合体(-1))0.83 gを得た。水添操作後の不飽和結合量は0.1個/1000C未満、塩素含量は0.1ppm未満であった。得られた共重合体のプロピレン含有量は70.0mol%、Mwは4,235、Mw/Mnは1.7、B値は1.2、100℃動粘度は100mm2/s、1H-NMRから測定されるメチル基指標は83%であった。
〔共重合体(-2)の製造方法〕
充分に窒素置換した内容積1Lのガラス製重合器にデカン250mLを装入し、系内の温度を130℃に昇温した後、エチレンを25L/hr、プロピレンを75L/hr、水素を100L/hrの流量で連続的に重合器内に供給し、撹拌回転数600rpmで撹拌した。次にトリイソブチルアルミニウム0.2mmolを重合器に装入し、次いでMMAO1.213mmolと[メチルフェニルメチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-2,7-ジ-t-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド0.00402mmolをトルエン中で15分以上予備混合したものを重合器に装入することにより重合を開始した。その後、エチレン、プロピレン、水素の連続的供給を継続し、130℃で15分間重合を行った。少量のイソブチルアルコールを系内に添加することにより重合を停止した後、未反応のモノマーをパージした。得られたポリマー溶液を、0.2mol/lの塩酸100mLで3回、次いで蒸留水100mLで3回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られたポリマーを80℃の減圧下で一晩乾燥し、プロピレン-エチレン共重合体(共重合体(-2))0.77 gを得た。水添操作後の不飽和結合量は0.1個/1000C未満、塩素含量は0.1ppm未満であった。得られた共重合体のプロピレン含有量は51.2mol%、Mwは4,172、Mw/Mnは1.7、B値は1.2、100℃動粘度は102mm2/s、1H-NMRから測定されるメチル基指標は54%であった。
〔共重合体(-3)の製造方法〕
充分に窒素置換した内容積1Lのガラス製重合器にデカン250mLを装入し、系内の温度を130℃に昇温した後、エチレンを7 L/hr、プロピレンを93L/hr、水素を100L/hrの流量で連続的に重合器内に供給し、撹拌回転数600rpmで撹拌した。次にトリイソブチルアルミニウム0.2mmolを重合器に装入し、次いでMMAO4.332mmolと[メチルフェニルメチレン(η5-シクロペンタジエニル)(η5-2,7-ジ-t-ブチルフルオレニル)]ジルコニウムジクロリド0.0144mmolをトルエン中で15分以上予備混合したものを重合器に装入することにより重合を開始した。その後、エチレン、プロピレン、水素の連続的供給を継続し、130℃で15分間重合を行った。少量のイソブチルアルコールを系内に添加することにより重合を停止した後、未反応のモノマーをパージした。得られたポリマー溶液を、0.2mol/lの塩酸100mLで3回、次いで蒸留水100mLで3回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られたポリマーを80℃の減圧下で一晩乾燥し、プロピレン-エチレン共重合体(共重合体(-3))0.87gを得た。水添操作後の不飽和結合量は0.1個/1000C未満、塩素含量は0.1ppm未満であった。得られた共重合体のプロピレン含有量は86.0mol%、Mwは4,208、Mw/Mnは1.7、B値は1.2、100℃動粘度は104mm2/s、1H-NMRから測定されるメチル基指標は118%であった。
【0115】
得られたポリマーは白濁を呈したグリース状の流動性を有さない半固体状であり、取り扱い性の著しく劣るものであった。そのため、共重合体(-3)は、本願発明で求められる熱可塑性樹脂の可塑剤としては充分な性能を有していないことが明らかであると思われるので、以下に記載する比較例において、共重合体(-3)を用いた検討は行わなかった。
【0116】
得られた共重合体(-1)、(-2)および(-3)の物性値を表1に示す。表1において、プロピレンから導かれる構造単位の含有率を「プロピレン含量」と表記している。
【0117】
【表1】
ポリエチレンワックス
ポリエチレンワックスとして、下記製造方法で製造したポリエチレンワックスを使用した。
【0118】
〔ポリエチレンワックスの製造方法〕
1.触媒の調製
内容積1.5リットルのガラス製オートクレーブにおいて、市販の無水塩化マグネシウム 25gをヘキサン500mlで懸濁させた。これを30℃に保ち撹拌しながらエタノール 92mlを1時間で滴下し、さらに1時間反応させた。反応終了後、ジエチルアルミニウムモノクロリド93mlを1時間で滴下し、さらに1時間反応させた。反応終了後、四塩化チタン90mlを滴下し、反応容器を80℃に昇温して1時間反応させた。反応終了後、固体部をデカンテーションにより遊離のチタンが検出されなくなるまでヘキサンで洗浄した。洗浄後の前記固体をヘキサン懸濁液としてチタン濃度を滴定により定量し、以下の実験に供した。
【0119】
2.ポリエチレンワックスの製造
充分に窒素置換した内容積2リットルのステンレス製オートクレーブにヘキサン930mlおよびプロピレン70mlを装入し、水素を0.1MPa(ゲージ圧)となるまで導入した。次いで、系内の温度を170℃に昇温した後、トリエチルアルミニウム0.1ミリモル、エチルアルミニウムセスキクロリド0.4ミリモル、前記得られた固体のヘキサン懸濁液を、チタン成分の量が原子換算で0.008ミリモルとなるようにエチレンで圧入することにより重合を開始した。その後、エチレンのみを連続的に供給することにより全圧を2.9MPa(ゲージ圧)に保ち、170℃で40分間重合を行った。
【0120】
少量のエタノールを系内に添加することにより重合を停止した後、未反応のエチレンおよびプロピレンをパージした。得られたポリマー溶液を、100℃減圧下で一晩乾燥しポリエチレンワックスを得た。得られたポリエチレンワックスは密度926kg/m3、重量平均分子量(Mw):10,270、分子量分布(Mw/Mn):2.8、融点:109℃であった。
〔実施例1および実施例2〕
[Tダイフィルム成形]
20mmφ単軸押出機(株式会社東洋精機製作所製、D2020)に、ダイス幅150mmのTダイを取り付け、回転数25rpm、シリンダー温度、ダイス温度を205℃に設定して、熱可塑性樹脂()をホッパーより投入した。別途ホッパーの吐出口に延長ノズルを設置したプランジャー型定量ポンプより共重合体(-1)を表2に示す配合量となるよう連続フィードし、押出フィルム成形を行い、50μm厚のフィルムを得た。
〔比較例1〕
共重合体(B)を配合しなかった以外は実施例1と同様にして50μm厚のフィルムを得た。
〔比較例2〕
実施例1の共重合体(-1)を共重合体(-2)に変更した以外は実施例1と同様にして50μm厚のフィルムを得た。
〔比較例3〕
フィルム成形前に予め表2に示す配合で熱可塑性樹脂()とポリエチレンワックスをドライブレンドし、共重合体(B)を配合せずに実施例1と同様の方法にて50μm厚のフィルムを得た。
【0121】
前記実施例および比較例で得られた樹脂組成物またはフィルムにつき、押出トルク、吐出量、引張破壊強度、引張破壊伸び、引張抗張積の測定およびフィルム外観の評価を下記方法により行った。結果を表2に示す。
【0122】
[押出トルク]
ホッパーより樹脂を投入し、押出機を前記の成形条件に設定してから10分後より1分間、押出機が示すトルクの値を計測し、その平均値より求めた。本値が小さいと、成形時に押出トルクが増加側に振れた際も、装置能力の上限値に達し難くなるため、成形時の吐出量のムラを軽減し易くなる。また、本値が小さいと、押出機のスクリュー回転数を上げた際に装置能力の上限値に達し難くなるため、吐出量の調整が容易になる。
【0123】
[吐出量]
ホッパーより樹脂を投入し、押出機を前記の成形条件に設定してから10分後より1分間に成形されたフィルムの質量を計量し、その値より1時間あたりの吐出量を求めた。
【0124】
[引張破壊強度、引張破壊伸び、引張抗張積]
JIS K7127に準じて、フィルムの機械方向について測定を行い、フィルムが破断した強度および伸びの値を求め、それぞれ引張破壊強度、引張破壊伸びとした。また、引張破壊強度および引張破壊伸びの積の値を引張抗張積とした。この値が大きい程、得られたフィルムが破断し難いことを表し、特にこの値が30,000MPa・%以上であると、破断に強いフィルムであることを表す。
【0125】
[フィルム外観]
得られたフィルムの外観を、目視による表面の観察および触感により評価した。フィルム表面に、触れた際にべたつくオイル状の物質が浮き出したことが確認されたフィルムを「ブリードあり」と評価し、フィルム表面に、触れた際にべたつくオイル状の物質が浮き出したことが確認されなかったフィルムを「ブリードなし」と評価した。
【0126】
【表2】