(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】層システム、このタイプの層システムを有するフローフィールドプレート、および燃料電池、電解槽、またはレドックスフロー電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0228 20160101AFI20240422BHJP
H01M 8/0206 20160101ALI20240422BHJP
H01M 8/0208 20160101ALI20240422BHJP
H01M 8/021 20160101ALI20240422BHJP
H01M 8/0215 20160101ALI20240422BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240422BHJP
H01M 8/18 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
H01M8/0228
H01M8/0206
H01M8/0208
H01M8/021
H01M8/0215
H01M8/10 101
H01M8/18
(21)【出願番号】P 2022556227
(86)(22)【出願日】2021-04-16
(86)【国際出願番号】 DE2021100347
(87)【国際公開番号】W WO2021223798
(87)【国際公開日】2021-11-11
【審査請求日】2022-09-16
(31)【優先権主張番号】102020112252.7
(32)【優先日】2020-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515009952
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Industriestr. 1-3, 91074 Herzogenaurach, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】モーリッツ ヴェーゲナー
(72)【発明者】
【氏名】ナズリム バージヴァン
(72)【発明者】
【氏名】エトガー シュルツ
(72)【発明者】
【氏名】ラディスラウス ドブレニツキ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン マーティン シュトゥンプフ
(72)【発明者】
【氏名】ロミーナ ベヒシュテット
(72)【発明者】
【氏名】ジヴァンシ ヴィヴェカナンサン
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-512148(JP,A)
【文献】特開2006-156386(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109560290(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106920977(CN,A)
【文献】特開2019-192436(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129599(WO,A1)
【文献】特開2006-172720(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/10
H01M 8/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物から作製される少なくとも1つのカバー層(1a)と、前記カバー層(1a)を支持する少なくとも1つの中間層(1b)と、前記中間層(1b)を支持する下部層(1c)と、を備える、金属基板(2a)を被覆してフローフィールドプレート(2、2’)を形成するための層システム(1)であって、
前記カバー層(1a)は、
75~85体積%の範囲のインジウム含有量を有する酸化インジウムスズから形成され
、
前記少なくとも1つの中間層(1b)は、窒化チタンおよび/または炭化チタンおよび/または炭窒化チタンおよび/または窒化チタンニオブおよび/または炭化チタンニオブおよび/または炭窒化チタンニオブおよび/または窒化クロムおよび/または炭化クロムおよび/または炭窒化クロムから形成され、
前記下部層(1c)は、チタンまたはチタン-ニオブ合金またはクロムから形成される、層システム(1)。
【請求項2】
前記酸化インジウムスズは、炭素、窒素、ホウ素、フッ素、水素、ケイ素、チタン、およびジルコニウムを含む群からの少なくとも1種の元素によってドープされる、請求項1に記載の層システム(1)。
【請求項3】
前記下部層(1c)は、1~300nmの範囲の層厚を有する、請求項
1に記載の層システム(1)。
【請求項4】
前記少なくとも1つの中間層(1b)は、0.1μm~3.0μmの範囲の層厚を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の層システム(1)。
【請求項5】
前記カバー層(1a)は、0.01μm~15μmの範囲の層厚を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の層システム(1)。
【請求項6】
前記カバー層(1a)は、最大35at%、特に0.1~10at%の範囲の、炭素、窒素、ホウ素、フッ素、水素、ケイ素、チタン、スズ、およびジルコニウムを含む群からの少なくとも1種の元素によってドープされている、請求項1から5のいずれか一項に記載の層システム(1)。
【請求項7】
金属基板(2a)と、請求項1から6のいずれか一項に記載の層システム(1)と、を備えるフローフィールドプレート(2、2’)であって、
金属基板(2a)、
下部層(1c)、
中間層(複数可)(1b)、
カバー層(1a)、の順序のフローフィールドプレート(2、2’)の構造を有する、フローフィールドプレート(2、2’)。
【請求項8】
前記金属基板(2a)は、鋼から形成されている、請求項7に記載のフローフィールドプレート(2、2’)。
【請求項9】
請求項7または8に記載の少なくとも1つのフローフィールドプレート(2、2’)を備える燃料電池(10
)。
【請求項10】
少なくとも1つの高分子電解質膜(7)を備える、請求項9に記載の燃料電池(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物から作製される少なくとも1つのカバー層を備える、金属基板を被覆してフローフィールドプレートを形成するための層システムに関する。本発明はさらに、金属基板およびそのような層システムを備えるフローフィールドプレートに関する。さらに、本発明は、少なくとも1つのそのようなフローフィールドプレートを備える燃料電池、電解槽、またはレドックスフロー電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池または電解槽のためのフローフィールドプレートは、独国特許第10058337(A1)号からすでに公知であり、このフローフィールドプレートでは、金属酸化物から作製される導電性かつ耐食性の保護被覆が、金属シートの少なくとも片面に形成されている。金属酸化物は、特に、スズ、亜鉛、およびインジウムを含む群からの元素または合金の酸化物から形成される。
【0003】
米国特許出願第2018/0053948(A1)号には、固体高分子形燃料電池用のセパレータが記載されている。フェライト系ステンレス鋼から作製されるセパレータは、酸化インジウムスズ被覆を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、フローフィールドプレートのための改良された層システムを提供することと、そのようなフローフィールドプレートを提供することと、である。さらに、本発明の目的は、少なくとも1つのそのようなフローフィールドプレートを有する燃料電池、電解槽、またはレドックスフロー電池を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本目的は、金属基板を被覆してフローフィールドプレートを形成するための層システムにおいて達成され、金属酸化物から作製される少なくとも1つのカバー層と、カバー層を支持する少なくとも1つの中間層と、中間層(複数可)を支持する下部層と、を備える層システムが形成され、カバー層は、酸化インジウムスズ(ITO)から形成され、酸化インジウムスズは、任意選択で、炭素、窒素、ホウ素、フッ素、水素、ケイ素、チタン、スズ、およびジルコニウムを含む群からの少なくとも1種の元素によってドープされ、少なくとも1つの中間層は、窒化チタンおよび/または炭化チタンおよび/または炭窒化チタンおよび/または窒化チタンニオブ(TiNbN)および/または炭化チタンニオブ(TiNbC)および/または炭窒化チタンニオブ(TiNbCN)および/または窒化クロム(CrN)および/または炭化クロム(CrC)および/または炭窒化クロム(CrCN)から形成され、下部層は、チタン(Ti)またはチタン-ニオブ合金(TiNb)またはクロム(Cr)から形成される。
【0006】
この層システムは、高い長期安定性と同時に高い導電性を有し、低コストであり、貴金属を使用しないことを特徴とする。さらに、この層システムでは、フローフィールドプレートの金属基材または金属基板に対して優れた耐食性が確保される。
【0007】
この層システムは、PVDまたはCVDプロセス(PVD:物理的気相成長:physical vapor deposition、CVD:化学的気相成長:chemical vapor deposition)によって製造されることが好ましい。
【0008】
この場合、70~90体積%の範囲内のインジウム含有量を有する酸化インジウムスズから作製されるカバー層が特に好ましい。75~85体積%の範囲のインジウム含有量が、高い導電性を有し、特に好ましい。
【0009】
下部層は、特に、金属基板と少なくとも1つの中間層との間の接着促進材として使用される。さらに、下部層は、導電性酸化物を形成しており、したがってフローフィールドプレートの金属基板にガルバニック腐食防止を提供する。下部層は、好ましくは、1nm~300nmの範囲の層厚を有する。
【0010】
特に、中間層もまた、下部層とカバー層との間の接着促進材として使用される。さらに、少なくとも1つの中間層もまた、導電性酸化物を形成しており、したがって下部層およびフローフィールドプレートの金属基板にガルバニック腐食防止を提供する。また、少なくとも1つの中間層は、水素に対する障壁を提供し、したがって水素が金属基板の方向に浸透して金属基板を損傷させることがない。個々の中間層の層厚は、好ましくは0.1~3.0μmの範囲内で選択される。ただし、2層以上の中間層が存在してもよい。
【0011】
カバー層は、下部層および中間層(複数可)を機械的に保護し、かつ腐食性攻撃から保護する。カバー層は、特に、0.01~15μmの範囲、特に0.1~3μmの範囲の層厚を有する。
【0012】
下部層と、少なくとも1つの中間層と、カバー層と、を備える本発明による層システムは、好ましくは、0.1~20μmの範囲の総厚を有する。
【0013】
さらに、カバー層が、最大35at%、特に0.1~10at%の範囲、特に好ましくは1~5at%の範囲の、炭素、窒素、ホウ素、フッ素、水素、ケイ素、チタン、スズ、およびジルコニウムを含む群からの少なくとも1種の元素によってドープされているならば、有用であることが判明している。この場合、1種のドーピング元素または複数種のドーピング元素は、酸化インジウムスズの酸化物結晶格子に組み込まれる。
【0014】
この場合、ドーピングは、カバー層の層厚にわたって一様に存在してもよい。あるいは、ドーピング元素(複数可)の量は、勾配層が形成されるように、カバー層の自由表面の方向に増加してもよい。1種のドーピング元素または複数種のドーピング元素は、カバー層の自由表面のみに埋め込まれた様態で存在してもよい。
【0015】
カバー層に炭素および/またはケイ素をドープすることが特に好ましい。特に、水素は、カバー層中に微量でのみ存在する。
【0016】
特に、金属基板、好ましくは鋼、特にオーステナイト鋼またはオーステナイトステンレス鋼から作製される金属基板を被覆するための以下の層システムは、フローフィールドプレートを形成するために有利であることが判明している。
【0017】
実施例1:
下部層:TiNbまたはTi 層厚:100nm
中間層:TiNbN 層厚:300nm
カバー層:インジウム含有量80体積%の酸化インジウムスズ
層厚:100nm
【0018】
実施例2:
下部層:TiNbまたはTi 層厚:100nm
中間層:TiNbCN 層厚:300nm
カバー層:インジウム含有量80体積%の酸化インジウムスズ
層厚:100nm
【0019】
実施例3:
下部層:TiNbまたはTi 層厚:100nm
1.中間層:TiNbN 層厚:200nm
2.中間層:TiNbCN 層厚:200nm
カバー層:インジウム含有量90体積%の酸化インジウムスズ
層厚:100nm
【0020】
実施例4:
下部層:TiNbまたはTi 層厚:100nm
1.中間層:TiNbCN 層厚:200nm
2.中間層:TiNbN 層厚:200nm
カバー層:インジウム含有量80体積%の酸化インジウムスズ
層厚:100nm
【0021】
実施例5:
下部層:TiNbまたはTi 層厚:100nm
中間層:TiN 層厚:300nm
カバー層:インジウム含有量80体積%の酸化インジウムスズ
層厚:100nm
【0022】
実施例6:
下部層:TiNbまたはTi 層厚:100nm
中間層:TiCおよび/またはTiNbC 層厚:300nm
カバー層:インジウム含有量80体積%の酸化インジウムスズ
層厚:100nm
【0023】
実施例7:
下部層:TiNbまたはTi 層厚:100nm
中間層:TiCN 層厚:300nm
カバー層:インジウム含有量80体積%の酸化インジウムスズ
層厚:100nm
【0024】
実施例8:
下部層:Cr 層厚:100nm
中間層:CrNおよび/またはCrCN 層厚:300nm
カバー層:インジウム含有量80体積%の酸化インジウムスズ
層厚:100nm
【0025】
実施例9:
下部層:Cr 層厚:100nm
中間層:CrCおよび/またはCrCN 層厚:300nm
カバー層:インジウム含有量80体積%の酸化インジウムスズ
層厚:100nm
【0026】
本発明の目的は、金属基板と、本発明による層システムと、を備えるフローフィールドプレートであって、
金属基板、
下部層、
中間層(複数可)、
カバー層、の順序のフローフィールドプレートの構造を有する、フローフィールドプレート、において達成される。
【0027】
好ましくは、このフローフィールドプレートは、好ましくは鋼から作製される、特にオーステナイト鋼またはステンレス鋼から作製される、金属基板または金属キャリアプレートを有するフローフィールドプレートである。キャリアプレートは、1つ以上の部品で構成することができる。
【0028】
図1~
図3は、本発明による層システム、層システムを使用して形成されたフローフィールドプレート、および燃料電池を、一例として説明することを目的としている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】層システムを有するフローフィールドプレートを示す図である。
【
図2】複数の燃料電池を備える燃料電池システムの概略図である。
【
図3】一例として示した層システムの断面の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、層システム1を有するフローフィールドプレート2を示しており、層システム1は、オーステナイト鋼から作製される金属基板2aまたは金属キャリアプレートを有する。フローフィールドプレート2は、開口部4を有する流入領域3aと、更なる開口部4’を有する出口領域3bと、を有し、これらの開口部は、燃料電池にプロセスガスを供給し、燃料電池から反応生成物を除去するために使用される。さらにフローフィールドプレート2は、高分子電解質膜7と接触するように設けられたガス分配構造体5を両側に有する(
図2を参照)。
【0031】
図2は、複数の燃料電池10を備えた燃料電池システム100を概略的に示している。各燃料電池10は、フローフィールドプレート2、2’の両側に隣接する高分子電解質膜7を備える。
図1と同じ参照符号は、同一の要素を示している。
【0032】
図3は、
図1による層システム1の断面を示している。図から理解できるように、カバー層1a、中間層1b、および下部層1cが存在する。下部層1cは、フローフィールドプレート2の基板2aに面する、層システム1の側面Bに配置されている。カバー層1aは、フローフィールドプレート2の基板2aとは反対の、層システム1の側面Aに配置されている。あるいは、層システム1はまた、複数の中間層1bを有してもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 層システム
1a カバー層
1b 中間層(複数可)
1c 下部層
2、2’ フローフィールドプレート
2a 金属基板
3a 流入領域
3b 出口領域
4,4’ 開口部
5 ガス分配構造体
7 高分子電解質膜
10 燃料電池
100 燃料電池システム
A 基板2aとは反対の、層システム1の側面
B 基板2aに面する、層システム1の側面