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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】電気光学デバイス
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/035 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
G02F1/035
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022558392
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2021013932
(87)【国際公開番号】W WO2021201131
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-09-27
(31)【優先権主張番号】202010241143.7
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100108213
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 豊隆
(74)【代理人】
【識別番号】100127177
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 貴子
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 健司
(72)【発明者】
【氏名】田家 裕
(72)【発明者】
【氏名】宮田 晋吾
【審査官】奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/039215(WO,A1)
【文献】特開2019-074595(JP,A)
【文献】特開2014-142411(JP,A)
【文献】特開2015-014715(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0106141(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00- 1/125
G02F 1/21- 7/00
G02B 6/12- 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に、リッジ状に形成された電気光学材料膜からなる光導波路と、
前記光導波路を覆うように設けられたバッファ層と、
前記光導波路上に前記バッファ層を介して設けられた上部電極と、を有し、
前記バッファ層は、前記光導波路上の前記上部電極側に、前記光導波路側に向かって湾曲した曲面状の凹みを有することを特徴とする電気光学デバイス。
【請求項2】
基板と、
前記基板上にリッジ状に形成された、電気光学材料膜からなり、互いに隣り合う第1及び第2の光導波路と、
前記第1及び第2の光導波路を覆うと共に、前記第1及び第2の光導波路間を埋めるバッファ層と、
前記バッファ層の上方に前記第1及び第2の光導波路と対向して設けられた第1及び第2電極と、を備え、
前記バッファ層は、前記第1及び第2の光導波路上の前記第1及び第2の電極側、前記第1及び第2の光導波路側に向かって湾曲した曲面状の凹みを有することを特徴とする電気光学デバイス。
【請求項3】
前記第1及び第2の光導波路と第1及び第2電極との間に設けられたバッファ層は、前記第1及び第2の光導波路上の前記第1及び第2の電極側に、前記第1及び第2の光導波路の上方全体にわたって形成された、前記第1及び第2の光導波路側に向かって湾曲した曲面状の凹みを有することを特徴とする請求項に記載の電気光学デバイス。
【請求項4】
前記第1及び第2の光導波路と第1及び第2電極との間に設けられたバッファ層は、第1のバッファ層及び第2のバッファ層を含み、前記第1のバッファ層及び前記第2のバッファ層はいずれも、前記第1及び第2の光導波路の上方全体にわたって形成された、前記第1及び第2の光導波路側に向かって湾曲した曲面状の凹みを有することを特徴とする請求項に記載の電気光学デバイス。
【請求項5】
前記バッファ層の凹み量は、1000~10000オングストロームであることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の電気光学デバイス。
【請求項6】
前記バッファ層の凹み量は、1000~2000オングストロームであることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の電気光学デバイス。
【請求項7】
前記第1及び第2の光導波路はマッハツェンダー光導波路であることを特徴とする請求項2~のいずれか一項に記載の電気光学デバイス。
【請求項8】
前記基板は単結晶基板であり、
前記電気光学材料膜はニオブ酸リチウム膜であることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の電気光学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本発明は、光通信及び光計測分野において使用される電気光学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
[0002] インターネット利用の普及に伴い、通信トラフィックは著しく増大しており、光ファイバ通信は極めて重要になりつつある。光ファイバ通信は、電気信号を光信号に変換し、光ファイバを通して光信号を伝送する技術であり、広い帯域幅、低い損失、及びノイズへの耐性を有する。
【0003】
[0003] 光ファイバ通信はこのような利点を有しているため、様々な製品に適用され、その代表的なものとしては、例えば、光スイッチングデバイス又は光変調器を挙げることができる。特に、電気信号を光信号に変換するための方法としては、半導体レーザを使用する直接変調方式、及び光変調器を使用する外部変調方式が知られている。直接変調は光変調器が不要であるため、低コストであるが、高速変調という点では限界があり、このため、高速で長距離の用途には外部変調方式が使用されている。
【0004】
[0004] 光変調器としては、単結晶ニオブ酸リチウム基板の表面付近にTi(チタン)拡散により光導波路が形成されたマッハツェンダー型光変調器が実用化されている(例えば、特許文献1を参照)。変調速度が40Gb/s以上の高速の光変調器が市販で入手可能であるが、全長が約10cmもの長さであるという大きな欠点がある。マッハツェンダー型光変調器は、マッハツェンダー干渉計の構造を有する光導波路(マッハツェンダー光導波路)を使用する光変調器である。マッハツェンダー干渉計は、1つの光源から出た光を2つのビームに分け、この2つのビームに異なる経路を通過させた後、2つのビームを再結合させて干渉を起こさせるデバイスであり、マッハツェンダー干渉計を用いるマッハツェンダー型光変調器は、様々な変調光を発生させるために使用される。
【0005】
[0005] 対照的に、特許文献2は、ニオブ酸リチウム膜を使用したマッハツェンダー型光変調器を開示している。ニオブ酸リチウム膜を使用した光変調器は、ニオブ酸リチウム単結晶基板を使用した光変調器と比較して、大幅な小型化及び低駆動電圧化を実現する。図5は、特許文献2に記載されている従来の光変調器300の断面構造を示す。サファイア基板21上に、ニオブ酸リチウム膜からなる1対の光導波路22a及び22bが形成されており、光導波路22a及び22bの上方にバッファ層23を介して信号電極24a及び接地電極24bがそれぞれ配置されている。この光変調器300は、1つの信号電極24aを有するいわゆるシングル駆動型であり、信号電極24a及び接地電極24bは対称構造を有しており、これにより、光導波路22a及び22bに印加される電界は大きさが同じであり、極性が逆になっている。しかしながら、光導波路22a、22bの断面形状は矩形であり、光の伝搬損失が大きい。
【0006】
[0006] 特許文献3は、マッハツェンダー型光変調器の場合に光導波路を曲げる必要がある部分を開示している。曲げ部分の損失を防ぐために、光の閉じ込めをさらに強化することが必要であり、リッジ状の光導波路を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本特許第4485218号
【文献】特開2006-195383号
【文献】特開2007-328257号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
[0007] 光変調器の小型化により光伝搬損失を低減するために、リッジ状のLN膜の光導波路において光導波路から漏れる光の吸収及び反射を低減し、層上の電極から光導波路に電界を効果的に印加することが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[0009] 本発明は、上述の問題を考慮して完成したものであり、本発明の目的は、基板と、基板上に、リッジ状に形成された電気光学材料膜からなる光導波路と、光導波路を覆うように設けられたバッファ層と、光導波路上にバッファ層を介して設けられた上部電極と、を有し、バッファ層は、光導波路上の上部電極側に凹みを有する電気光学デバイスを提供することである。
【0010】
[0010] 加えて、本発明の別の目的は、光伝搬損失の少ない電気光学デバイスであって、基板と、基板上にリッジ状に形成された電気光学材料膜からなり、互いに隣り合う第1及び第2の光導波路と、第1及び第2の光導波路を覆うように構成され、第1及び第2の光導波路間を埋めるバッファ層と、バッファ層の上方に第1及び第2の光導波路と対向して設けられた第1及び第2電極と、を備え、バッファ層は第1及び第2の光導波路上に凹みを有する、電気光学デバイスを提供することである。
【0011】
[0011] 加えて、本発明の別の目的は、基板と、基板上にリッジ状に形成された電気光学材料膜からなり、互いに隣り合う第1及び第2の光導波路と、第1及び第2の光導波路を覆い、第1及び第2の光導波路間を埋めるように構成されたバッファ層と、バッファ層の上方に第1及び第2の光導波路と対向して設けられた第1及び第2電極と、を備え、基板表面から光導波路上のバッファ層最上部までの距離は、基板表面から光導波路が形成されない部分上のバッファ層最上部までの距離よりも短い電気光学デバイスを提供することである。
【0012】
[0012] 加えて、本発明の電気光学デバイスでは、第1及び第2の光導波路と第1及び第2電極との間に設けられたバッファ層は、第1及び第2の光導波路で下に突の形状を有することが好ましい。
【0013】
[0013] 加えて、本発明の電気光学デバイスでは、第1及び第2の光導波路と第1及び第2電極との間に設けられたバッファ層は、第1及び第2の光導波路で下に湾曲していることが好ましい。
【0014】
[0014] 加えて、本発明の電気光学デバイスでは、第1及び第2の光導波路上のバッファ層の凹み量は、500オングストローム以上であることが好ましく、より好ましくは、1000オングストローム~10000オングストロームである。
【0015】
[0015] 加えて、本発明の電気光学デバイスでは、第1及び第2の光導波路はマッハツェンダー光導波路であることが好ましい。
【0016】
[0016] 加えて、本発明の電気光学デバイスでは、基板は単結晶基板であり、電気光学材料膜はニオブ酸リチウム膜であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
[0017] 本発明の電気光学デバイスによれば、光導波路に電界を効果的に印加することができ、これにより、光を光導波路に閉じ込め、光の伝搬損失を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1a】[0018]図1(a)は、本発明の第1の実施形態による光変調器100の平面図であり、図1(a)は光導波路のみを示す。
図1b】[0018]図1(b)は、本発明の第1の実施形態による光変調器100の平面図であり、図1(b)は進行波電極を含めた光変調器100の全体構成を示す。
図2】[0018]図2は、図1(b)の線A-A’に沿って得られた、光変調器100の概略的な断面図である。
図3】[0018]図3は、本発明の別の実施形態による光スイッチングデバイス200の平面図である。
図4】[0018]図4は、図3の線B-B’に沿って得られた、光スイッチングデバイス200の概略的な断面図である。
図5】[0018]図5は、従来の光変調器300の断面構造である。
図6】[0018]図6は、光変調器100の修正形態の断面構造である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[0019] 添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0020】
[0020] 図1(a)及び図1(b)は、本発明の第1の実施形態による光変調器(電気光学デバイス)100の平面図であり、図1(a)は光導波路のみを図示し、図1(b)は進行波電極を含めた光変調器100の全体を示している。
【0021】
[0021] 図1(a)及び図1(b)に図示されているように、光変調器100は、基板1上に形成されたマッハツェンダー光導波路10であって、互いに平行に設けられた第1及び第2の光導波路10a、10bを有するマッハツェンダー光導波路10と、第1の光導波路10aに沿って設けられた第1電極7と、第2の光導波路10bに沿って設けられた第2電極8と、を含む。
【0022】
[0022] マッハツェンダー光導波路10は、例えば、マッハツェンダー干渉計の構造を有する光導波路である。マッハツェンダー光導波路10は、分波部10cで単一の入力光導波路10iから分岐した第1及び第2の光導波路10a、10bを有し、第1及び第2の光導波路10a、10bは、合波部10dで単一の出力光導波路10oに合体される。入力光Siは、分波部10cによって分波され、第1及び第2の光導波路10a、10bをそれぞれ通って進行し、その後、合波部10dで合波され、合波された光は、変調光Soとして出力光導波路10から出力される。
【0023】
[0023] 第1電極7は、平面図では第1の光導波路10aを覆い、第2電極8もまた、平面図では第2の光導波路10bを覆っている。すなわち、第1電極7は、バッファ層(後述する)を介して第1の光導波路10a上に形成され、第2電極8もまた、バッファ層を介して第2の光導波路10b上に形成されている。第1電極7は、例えば、AC信号に接続され、信号電極と呼ぶことができる。第2電極は、例えば、接地され、「接地」電極と呼ばれる場合がある。
【0024】
[0024] 電気信号(変調信号)は、第1電極7に入力される。第1の光導波路10a及び第2の光導波路10bは、電気光学効果を有するニオブ酸リチウムなどの材料からなるので、第1の光導波路10a及び第2の光導波路10bに印加された電界によって、第1の光導波路10a及び第2の光導波路10bの屈折率が、+△n及び-△nのように変化し、その結果、光導波路の対の間の位相差が変化する。この位相差の変化により変調された信号光が出力光導波路10oから出力される。
【0025】
[0025] 図2は、図1(b)の線A-A’に沿って得られた、光変調器100の概略的な断面図である。
【0026】
[0026] 図2に図示されているように、本実施形態の光変調器100は、基板1、導波路層2、バッファ層3、及び電極層4がこの順序で積層された多層構造を有する。基板1は、例えば、サファイア基板であり、基板1の表面にはニオブ酸リチウム膜からなる導波路層2が形成されている。導波路層2は、リッジ部分2rからなる第1及び第2の光導波路10a、10bを有する。第1及び第2の光導波路10a、10bの幅は、例えば、1μmとすることができる。
【0027】
[0027] バッファ層3は、第1及び第2の光導波路10a、10bを通って伝搬する光が第1電極7又は第2電極8によって吸収されることを防ぐために、導波路層2のリッジ部分2rの少なくとも上面に形成されている。したがって、バッファ層3は、単に光導波路と信号電極との間の中間層としての機能を果たすだけでよいし、バッファ層の材料は、材料が非金属である限り、幅広く選択することが可能である。例えば、バッファ層は、金属酸化物、金属窒化物、及び金属炭化物などの絶縁材料からなるセラミック層を使用してもよい。バッファ層の材料は、結晶質材料であってもよいし、又は非晶質材料であってもよい。バッファ層3は、導波路層2の屈折率よりも小さい屈折率を有する材料、例えば、Al23、SiO2、LaAlO3、LaYO3、ZnO、HfO2、MgO、Y23などで形成されることが好ましい。光導波路上に形成されたバッファ層の厚さは、約0.2μm~1.2μmとすることができる。本実施形態では、バッファ層3は、第1及び第2の光導波路10a、10bの上面を覆っているのみならず、さらに第1の光導波路10aと第2の光導波路10bとの間を埋めている。すなわち、平面図では、バッファ層3は、第1の光導波路10a及び第2の光導波路10bと重ならない領域にも形成されている。バッファ層3は、導波路層2の上面のうちリッジ部分2rが形成されていない領域全体を覆い、リッジ部分2rの側面もまたバッファ層3によって覆われている。
【0028】
[0028] 電極層4には、第1電極7及び第2電極8が設けられている。第1電極7は、第1の光導波路10a内を進行する光を変調するために、バッファ層3を介して第1の光導波路10aと対向し、第1の光導波路10aに対応するリッジ部分2rに重ねて設けられている。第2電極8は、第2の光導波路10b内を進行する光を変調するために、バッファ層3を介して第2の光導波路10bと対向し、第2の光導波路10bに対応するリッジ部分2rに重ねて設けられている。
【0029】
[0029] 導波路層2は、電気光学材料である限り、特に限定されないが、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)からなることが好ましい。これは、ニオブ酸リチウムが大きな電気光学定数を有しているため、光変調器などの光学デバイスの構成材料として適切であるからである。以下に、導波路層2がニオブ酸リチウム膜を使用して形成される場合の、本発明の構成について詳細に説明する。
【0030】
[0030] 基板1は、ニオブ酸リチウム膜の屈折率よりも屈折率が低い限り、特に限定されないが、ニオブ酸リチウム膜をエピタキシャル膜として形成することができる基板が好ましい。具体的には、基板1は、サファイア単結晶基板又はシリコン単結晶基板が好ましい。単結晶基板の結晶方位は特に限定されない。ニオブ酸リチウム膜は、様々な結晶方位を有する単結晶基板上にc軸配向のエピタキシャル膜として容易に形成することができる。c軸配向のニオブ酸リチウム膜は、3回対称の対称性を有しているので、下地の単結晶基板も同じ対称性を有していることが好ましい。このため、単結晶サファイア基板はc面を有していることが好ましく、単結晶シリコン基板は(111)面を有していることが好ましい。
【0031】
[0031] 「エピタキシャル膜」という用語は、本明細書で使用する場合、結晶方位が下地の基板又は下地の膜に対して位置合わせされている膜を指す。膜面をX-Y面とし、膜厚方向をZ軸としたとき、結晶がX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向に位置合わせされている。例えば、最初に2θ-θX線回析により配向位置でのピーク強度を測定し、次に極点を確認することにより、エピタキシャル膜の存在を確認することができる。
【0032】
[0032] 具体的には、第1に、2θ-θX線回折による測定では、目的とする面以外のすべてのピーク強度が、目的とする面の最大ピーク強度の10%以下、好ましくは5%以下でなければならない。例えば、c軸配向のエピタキシャルニオブ酸リチウム膜では、(00L)面以外のピーク強度は、(00L)面の最大ピーク強度の10%以下、好ましくは5%以下である。(00L)は、(001)、(002)などの等価な面を総称する表示である。
【0033】
[0033] 第2に、測定において、極点が観測されることが必要である。第1の配向位置でのピーク強度の確認の条件においては、一方向の配向性だけが示される。第1の条件が満たされたとしても、面内での結晶の配向が不均一である場合には、特定の角度でX線の強度が高まることはなく、極点を観測することができない。LiNbO3は三方晶系の結晶系を有するため、単結晶LiNbO3(014)の極点は3つとなる。ニオブ酸リチウム膜の場合、c軸を中心に180°回転させた結晶が対称的に結合した、いわゆる双晶の状態でエピタキシャル成長することが知られている。この場合、3つの極点が対称的に2つ結合されて6つの極点を形成する。ニオブ酸リチウム膜が(100)面の単結晶シリコン基板上に形成される場合には、基板は4回対称の対称性を有するため、4×3=12個の極点が観測される。本発明では、双晶の状態でエピタキシャル成長したニオブ酸リチウム膜もまた、エピタキシャル膜であると見なされる。
【0034】
[0034] ニオブ酸リチウム膜の組成はLixNbAyOzである。AはLi、Nb、及びO以外の元素を表示する。xは、0.5~1.2の範囲であり、好ましくは、0.9~1.05の範囲である。yは、0~0.5の範囲である。zは、1.5~4の範囲であり、好ましくは、2.5~3.5の範囲である。元素Aの例には、K、Na、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mo、W、Fe、Co、Ni、Zn、Sc、及びCeが単体で、又は組み合わせで含まれる。
【0035】
[0035] ニオブ酸リチウム膜の厚さは、2μm以下であることが好ましい。これは、厚さが2μmよりも厚くなると、高品質のニオブ酸リチウム膜を形成することが困難になるからである。ニオブ酸リチウム膜の厚さが薄すぎると、完全に光を閉じ込めることができず、基板又はバッファ層に光が漏れるため、導波することになる。したがって、ニオブ酸リチウム膜に電界を印加しても、光導波路(10a及び10b)の実効屈折率の変化が小さくなる可能性がある。このため、ニオブ酸リチウム膜は、使用される光の波長の少なくとも10分の1程度の厚さであることが好ましい。
【0036】
[0036] スパッタ法、CVD法、又はゾルゲル法などの膜形成方法によって、ニオブ酸リチウム膜を形成することが望ましい。ニオブ酸リチウム膜のc軸が単結晶基板の主面に垂直に配向されている場合、c軸に平行に電界が印加され、これにより、電界の強度に比例して光学屈折率が変化する。単結晶基板がサファイアである場合、ニオブ酸リチウム膜は、エピタキシャル成長によって、サファイア単結晶基板上に直接形成される。単結晶基板がシリコンである場合、ニオブ酸リチウム膜は、エピタキシャル成長によって、基板上に形成されたクラッド層(図示せず)上に形成される。クラッド層(図示せず)は、ニオブ酸リチウム膜の屈折率よりも屈折率が低く、当然エピタキシャル成長に適した材料からなる。例えば、Y23からなるクラッド層(図示せず)であれば、高品質のニオブ酸リチウム膜を形成することができる。
【0037】
[0037] ニオブ酸リチウム膜の形成方法として、ニオブ酸リチウム単結晶基板を薄く研磨する方法又はスライスする方法が知られている。この方法は、単結晶と同じ特性を得ることができるという点で有利であり、本発明に適用することが可能である。
【0038】
[0038] この実施形態では、バッファ層3は、第1の光導波路10a及び第2の光導波路10bの上方に凹みを有する。具体的には、第1及び第2の光導波路10a、10bと第1及び第2電極7、8との間に設けられたバッファ層3は、第1及び第2の光導波路10a、10bで下に突の形状を有する。すなわち、第1及び第2の光導波路10a、10bと第1及び第2電極7、8との間に設けられたバッファ層3は、第1及び第2の光導波路10a、10bで下に湾曲している。光導波路10a、10b上の電極7、8は、このようなバッファ層3を介して光導波路10a、10bに更に近付くことが可能であり、光導波路に電界を効果的に印加することができ、これにより、光を光導波路10a、10bに閉じ込め、光の伝搬損失を抑えることができる。
【0039】
[0039] 図2に図示されているように、第1及び第2の光導波路10a、10b上のバッファ層3の凹み量Rは、500オングストローム以上であり、好ましくは、1000オングストローム~10000オングストロームであり、より好ましくは、1000オングストローム~2000オングストロームである。本明細書では、凹み量Rは、バッファ層3の上面の最上端から上面の最下端(くぼみの最下端)までの距離である。バッファ層3の凹み量Rと、光の伝搬損失との間の関係を検証するために、本発明の発明者は、以下の実験を行った。具体的には、サンプル1~3及び比較例は、リッジ状の光導波路上のバッファ層の凹みの量が異なっている以外は同じ構造を有する電気光学デバイスである。
【0040】
【表1】
【0041】
[0041] 凹み量Rが1000オングストロームを超えるとき、特に、1000オングストローム~2000オングストロームであるときに、光伝搬損失が低くなっていることが表からわかる。伝搬損失の低減に関しては、原因は完全には明らかにされていないが、凹みにより、光導波路に電界がより効果的に印加されるようになったと推定することができる。加えて、この凹みにより、光導波路から上方に漏れる光が反射され、戻されて、互いに作用し合うのを防ぐことが可能である。したがって、信号光から漏れる光が散乱、反射し、信号光に悪影響を及ぼすのを防ぐことが可能である。凹み量Rが0オングストロームであるとき、すなわち、凹みが形成されてないとき、光の伝搬損失が比較的大きくなっている。これは、光導波路から上方に漏れる光が反射され、戻されて、互いに作用し合い、信号光から漏れる光が散乱、反射して、信号光に悪影響を及ぼすという事実が原因である可能性がある。加えて、製造の容易さの観点から見ると、凹み量Rは10000オングストローム以下であることが好ましい。
【0042】
[0042] 加えて、本実施形態では、基板1の表面(上面)から、光導波路10a、10b上のバッファ層3の最上部分までの距離は、基板1の表面(上面)から、バッファ層3の最上部分のうち光導波路が形成されていない部分(すなわち、光導波路10a、10bの間と、光導波路10a、10b以外の部分)までの距離よりも短い。この配置を用いると、光導波路10a、10b上の電極7、8を、光導波路10a、10bに更に近付けることも可能であり、光導波路に電界を効果的に印加することができ、これにより、光を光導波路10a、10bに閉じ込め、光の伝搬損失を抑えることができる。
【0043】
[0043] 図3は、本発明の別の実施形態による光スイッチングデバイス200の平面図である。図4は、図3の線B-B’に沿って得られた、光スイッチングデバイス200の概略的な断面図である。光スイッチングデバイス200は、基板1上に形成された第1及び第2の光導波路310a、310bと、第1の光導波路310aに沿って設けられた膜状ヒータ(膜電極34)307と、膜状ヒータに通電するための配線309a、309bと、を含む。膜状ヒータ(膜電極34)307は、平面図では第1の光導波路310aと重なるように、第1の光導波路310aの真上に設けられている。図4に図示されているように、本実施形態による光スイッチングデバイス200は、基板31、導波路層32、バッファ層33、及び膜電極層34がこの順序で積層された多層構造を有する。基板31は、例えば、シリコン基板であり、基板31の表面にはニオブ酸リチウム膜からなる導波路層32が形成されている。導波路層32は、リッジ部分32rによってそれぞれ形成された第1の光導波路310a及び第2の光導波路310bを有する。
【0044】
[0044] 光スイッチングデバイス200は、第1の実施形態の光変調器100と同じリッジ状のニオブ酸リチウム膜を使用し、光導波路がバッファ層に埋め込まれた構造を有する。光スイッチングデバイス200には電極層4がなく、代わりに、膜状ヒータ(膜電極34)307が使用されている。すなわち、膜状ヒータ307は、光導波路310a及び310b(この実施形態では光導波路310a)の一部の上層に形成されており、膜状ヒータ307に電流を流すことによって光導波路310aに加熱することができる。
【0045】
[0045] 光スイッチングデバイス200では、膜状ヒータ307のスイッチがオンの状態では、光導波路310aを通過する光の位相がシフトされ、光はもう一方の光導波路310bと合波されることにより、光を切り替える。光スイッチングデバイス200では、バッファ層33が膜状ヒータ307側に凹みを有するようにすることによって、光の伝搬損失を低減することもまた可能であり、これにより、性能が優れた光スイッチングデバイス200を得ることが可能である。
【0046】
[0046] 加えて、膜状ヒータに使用される材料として、MnNiCo系酸化物などの感熱材料を使用することが可能であるし、又は白金ヒータを使用することが可能である。
【0047】
[0047] 図面及び実施形態に関連して本発明を具体的に上記で説明してきたが、上記の説明は、いかなる形でも本発明を限定するものではないと理解することができる。例えば、光変調器100の上記の説明では、第1電極は信号電極として使用され、第2電極は接地電極として使用されている。しかしながら、これに限定されるのではなく、第1及び第2電極は、光導波路に電界を印加する任意の電極とすることができる。さらに、図6に示されているように、隣り合う第1の光導波路10a及び第2の光導波路10bの上方のバッファ層3の凹みを全体として形成することができる。すなわち、光導波路10a及び10b全体にわたって、1つの凹みを形成することができる。加えて、バッファ層3は、バッファ層3a及びバッファ層3bで構成してもよく、この構成では、バッファ層3bは光導波路10a及び10bと同じ層に形成され、バッファ層3aは、光導波路10a及び10b、並びにバッファ層3bの上に形成されている。バッファ層3a及びバッファ層3bは両方とも、光導波路10a及び10b全体にわたって凹みを有していてもよい。当業者は、本発明の本質的な趣旨及び範囲から逸脱することなく、必要に応じて本発明に修正及び変更を行うことができ、これらの修正及び変更は本発明の範囲内にある。
【符号の説明】
【0048】
[0048]
100 光変調器
1 基板
2 導波路層
2r リッジ部分
3 バッファ層
4 電極層
7 第1電極
8 第2電極
10 マッハツェンダー光導波路
10a 第1の光導波路
10b 第2の光導波路
10c 分波部
10d 合波部
10i 入力光導波路
10o 出力光導波路
200 光スイッチングデバイス
31 基板
32 導波路層
32r リッジ部分
33 バッファ層
34 膜電極層
307 膜状ヒータ
309a、309b 配線
310a、310b 第1及び第2の光導波路
図1a
図1b
図2
図3
図4
図5
図6