(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】電気光学デバイス
(51)【国際特許分類】
G02F 1/035 20060101AFI20240422BHJP
G02B 6/12 20060101ALI20240422BHJP
G02B 6/125 20060101ALI20240422BHJP
G02B 6/122 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
G02F1/035
G02B6/12 363
G02B6/12 371
G02B6/125 301
G02B6/122
(21)【出願番号】P 2022558521
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2021013931
(87)【国際公開番号】W WO2021201130
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-09-27
(31)【優先権主張番号】202010241133.3
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100108213
【氏名又は名称】阿部 豊隆
(74)【代理人】
【識別番号】100127177
【氏名又は名称】伊藤 貴子
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 健司
(72)【発明者】
【氏名】田家 裕
【審査官】林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0159690(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第00738907(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0028334(US,A1)
【文献】特開2014-006348(JP,A)
【文献】特開平10-048445(JP,A)
【文献】特開2001-242332(JP,A)
【文献】特表2023-511861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-1/335
G02B 6/12-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上の所定の領域に設けられており、
ニオブ酸リチウムから形成される光導波路膜であって、少なくとも互いに隣り合う第1及び第2の光導波路膜を有する光導波路膜と、
前記光導波路膜に隣接して形成されるバッファ層
であって、酸化ケイ素から形成されるバッファ層と、
前記光導波路膜に電界を印加する電極と、
前記基板上に形成された未透光の光導波路膜であって、平面視で前記光導波路膜と重ならないように前記基板上の前記所定の領域以外の領域に設けられる未透光の光導波路膜と、を備え、
前記未透光の光導波路膜は、少なくとも前記第1の光導波路膜と前記第2の光導波路膜との間に介在する
ことを特徴とする電気光学デバイス。
【請求項2】
前記光導波路膜は直線部を有し、その直線部の近傍に、前記未透光の光導波路膜を備えることを特徴とする請求項1に記載の電気光学デバイス。
【請求項3】
前記未透光の光導波路膜を複数有することを特徴とする請求項1又は2に記載の電気光学デバイス。
【請求項4】
前記未透光の光導波路膜は前記直線部に沿って設けられることを特徴とする請求項2に記載の電気光学デバイス。
【請求項5】
前記未透光の光導波路膜と前記光導波路膜との膜厚は略同一であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の電気光学デバイス。
【請求項6】
前記未透光の光導波路膜を複数備え、
複数の前記未透光の光導波路膜は、平面視で前記光導波路膜の幅方向において、複数の前記未透光の光導波路膜の間に前記光導波路膜を介在させるように設けられていることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の電気光学デバイス。
【請求項7】
光の伝送方向に垂直する断面において、前記基板上に設けられた前記未透光の光導波路膜は、バッファ層に囲まれていることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の電気光学デバイス。
【請求項8】
前記第1及び第2の光導波路膜はマッハツェンダー光導波路であることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の電気光学デバイス。
【請求項9】
前記未透光の光導波路膜を複数備え、
前記未透光の光導波路膜は、少なくとも前記光導波路膜と前記基板の端部との間に形成されていることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の電気光学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本発明は、光通信及び光学計測分野において用いられる電気光学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
[0002] インターネット利用の普及に伴い、通信トラフィックは著しく増大しており、光ファイバ通信は極めて重要になりつつある。光ファイバ通信は、電気信号を光信号に変換し、光ファイバを通して光信号を伝送する技術であり、広い帯域幅、低い損失、及びノイズへの耐性を有する。
【0003】
[0003] 電気信号を光信号に変換するための方法として、半導体レーザを用いる直接変調システム、及び光変調器を用いる外部変調方法が知られている。直接変調は光変調器を必要とせず、それゆえ、低コストであるが、高速変調の点で限界を有し、それゆえ、高速及び長距離の用途では外部変調方法が用いられる。
【0004】
[0004] 特許文献1は、ニオブ酸リチウム膜を用いたマッハツェンダー光変調器を開示している。ニオブ酸リチウム膜(LN膜)を用いた光変調器は、ニオブ酸リチウム単結晶基板を用いた光変調器と比べて、サイズ及び駆動電圧の大幅な低減を達成する。
図5は、特許文献1において説明される従来の光変調器400の断面構造を示す。ニオブ酸リチウム膜の光導波路22a及び22bの対がサファイア基板21上に形成されており、信号電極24a及び接地電極24bがバッファ層23を通じて光導波路22a及び22bの上にそれぞれ配設されている。光変調器400は、1つの信号電極24aを有する、いわゆるシングルドライブ型のものであり、信号電極24a及び接地電極24bは対称構造を有し、これにより、光導波路22a及び22bに印加される電界は大きさが同じであり、極性が反対である。
【0005】
[0005] LN膜を用いた光導波路では、光の閉じ込めが、駆動電圧を低減するために非常に重要である。したがって、LN膜の品質及びLN膜のマイクロクラックに注意を払わなければならない。
【0006】
[0006] 例えば、低い屈折率を有する酸化ケイ素が、光導波路としてのLN膜に隣接したバッファ層として形成されるため、LN膜の熱膨張係数と酸化ケイ素の熱膨張係数との差によって生じる応力の影響が光導波路膜にクラックを生じさせ、これにより、光伝送損失を生じさせ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
[0008] 本発明は上述の問題に鑑みて完成されたものであり、その目的は、基板と、基板上の所定領域に設けられ、ニオブ酸リチウム又はニオブ酸タンタルから形成される光導波路膜と、光導波路膜に隣接して形成されるバッファ層と、光導波路膜に電界を印加するための電極と、を備え、所定領域外に未透光の光導波路膜を備えることを特徴とする、光伝送損失の少ない電気光学デバイスを提供することである。本発明の電気光学デバイスによれば、未透光の光導波路膜を備えることによって、バッファ層から光導波路膜に印加される応力を低減することができ、光導波路膜のクラックを抑制することができ、光伝送損失を低減することができる。
【0009】
[0009] 加えて、本発明の電気光学デバイスでは、光導波路膜は直線部を有し、その直線部の近傍に、未透光の光導波路膜を備えることが好ましい。その結果、光導波路膜のクラックの発生がさらに抑制され、これにより、光伝送損失を低減する。
【0010】
[0010] 加えて、本発明の電気光学デバイスでは、未透光の光導波路膜を複数有することが好ましい。それにより、未透光の光導波路膜は光導波路膜の設置位置に基づいて適切に設けられ、光導波路膜のクラックの発生をさらに抑制することができ、これにより、光伝送損失を低減する。
【0011】
[0011] 加えて、本発明の電気光学デバイスでは、未透光の光導波路膜は直線部に沿って設けられることが好ましい。その結果、光導波路膜のクラックの発生がさらに抑制され、これにより、光伝送損失を低減する。
【0012】
[0012] 加えて、本発明の電気光学デバイスでは、光導波路膜と未透光の光導波路膜との膜厚は略同一であることが好ましい。その結果、光導波路膜のクラックの発生がさらに抑制され、これにより、光伝送損失を低減する。
【0013】
[0013] 加えて、本発明の電気光学デバイスでは、光の伝送方向に垂直する断面において、光導波路膜は、未透光の光導波路膜の間に介在することが好ましい。その結果、光導波路膜のクラックの発生がさらに抑制され、これにより、光伝送損失を低減する。
【0014】
[0014] 加えて、本発明の電気光学デバイスでは、光の伝送方向に垂直する断面において、基板上に設けられた未透光の光導波路膜は、バッファ層に囲まれていることが好ましい。その結果、未透光の光導波路膜及びその周囲のバッファ層の構造を光導波路膜及びその周囲のバッファ層の構造と一貫させることができ、バッファ層から光導波路膜に印加される応力がさらに低減され、これにより、光導波路膜上のクラックの発生を抑制し、光伝送損失を低減する。
【0015】
[0015] 加えて、本発明の電気光学デバイスでは、光導波路膜は互いに隣り合う第1の光導波路膜及び第2の光導波路膜を有し、未透光の光導波路膜は、少なくとも第1の光導波路膜と第2の光導波路膜との間に介在することが好ましい。その結果、バッファ層から光導波路膜に印加される応力をさらに低減することができ、光導波路膜上のクラックの発生を抑制することができ、光伝送損失を低減することができる。
【0016】
[0016] 加えて、本発明の電気光学デバイスでは、第1の光導波路膜及び第2の光導波路膜はマッハツェンダー光導波路であることが好ましい。その結果、高速の電気光学デバイスを実現することができる。
【0017】
[0017] 加えて、本発明の電気光学デバイスでは、未透光の光導波路膜は、少なくとも光導波路膜と基板の端部との間に形成されていることが好ましい。これにより、基板の端部からの応力が光導波路膜に印加されることを抑制し、光導波路膜のクラックの発生を抑制し、光伝送損失を低減することが可能である。
【発明の効果】
【0018】
[0018] 本発明の電気光学デバイスによれば、バッファ層から光導波路膜に印加される応力を低減することができ、光導波路膜のクラックの生成を抑制することができ、光伝送損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1a】[0019]
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係る光変調器100の平面図であり、
図1(a)は光導波路のみを示す。
【
図1b】[0019]
図1(b)は、本発明の第1の実施形態に係る光変調器100の平面図であり、
図1(b)は、進行波電極を含む光変調器100の全体構成を示す。
【
図2】[0019]
図2は、
図1(b)の線A-A’に沿って見た光変調器100の概略断面図である。
【
図3a】[0019]
図3(a)は、本発明の第2の実施形態に係る光変調器200の光導波路のみを示す平面図である。
【
図3b】[0019]
図3(b)は、
図3(a)の線A-A’に沿って見た光変調器200の概略断面図である。
【
図4a】[0019]
図4(a)は、本発明の第3の実施形態に係る光変調器300の光導波路のみを示す平面図である。
【
図4b】[0019]
図4(b)は、
図4(a)の線A-A’に沿って見た光変調器300の概略断面図である。
【
図5】[0019]
図5は従来の光変調器400の断面構造である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施形態の説明
[0020] 本発明の好ましい実施形態が添付の図面を参照して詳細に説明される。
【0021】
[0021]
図1(a)及び
図1(b)は、本発明の第1の実施形態に係る光変調器(電気光学デバイス)100の平面図であり、
図1(a)は光導波路のみを示し、
図1(b)は、進行波電極を含む光変調器100の全体を示す。
【0022】
[0022]
図1(a)及び
図1(b)に示されるように、光変調器100は、基板1上に形成されており、互いに平行に設けられた第1及び第2の光導波路10a、10bを有するマッハツェンダー光導波路10、第1の光導波路10aに沿って設けられた第1の電極7、並びに第2の光導波路10bに沿って設けられた第2の電極8を含む。
【0023】
[0023] マッハツェンダー光導波路10は、例えば、マッハツェンダー干渉計の構造を有する光導波路である。マッハツェンダー光導波路10は、分波部10cにおいて単一の入力光導波路10iから分岐させられる第1及び第2の光導波路10a、10bを有し、第1及び第2の光導波路10a、10bは合波部10dにおいて単一の出力光導波路10oに組み合わせられる。入力光Siは分波部10cによって分波され、それぞれ第1及び第2の光導波路10a、10bを通って進行し、その後、合波部10dにおいて合波され、合波された光は変調光Soとして出力光導波路10oから出力される。
【0024】
[0024] 第1の電極7は平面図において第1の光導波路10aを覆っており、第2の電極8も平面図において第2の光導波路10bを覆っている。すなわち、第1の電極7は(後述されることになる)バッファ層を介して第1の光導波路10a上に形成されており、第2の電極8もバッファ層を介して第2の光導波路10b上に形成されている。第1の電極7は、例えば、AC信号に接続されており、信号電極と称され得る。第2の電極は、例えば、接地されており、「接地」電極と称され得る。
【0025】
[0025] 電気信号(変調信号)は第1の電極7に入力される。第1及び第2の光導波路10a及び10bは、電気光学効果を有するニオブ酸リチウムなどの材料で作製されており、これにより、第1及び第2の光導波路10a及び10bの屈折率は、第1及び第2の光導波路10a及び10bに印加される電界によって+Δn及び-Δnのように変化させられ、その結果、光導波路の対の間の位相差が変化する。位相差の変化によって変調された信号光は出力光導波路10oから出力される。
【0026】
[0026] 加えて、第1及び第2の光導波路10a及び10bが設けられた領域(所定の領域)以外の領域内には、基板1上に形成された未透光の光導波路10x、10y、及び10zも設けられている。ここで、未透光の光導波路10x、10y、及び10zは、実際の動作において光を伝送しない光導波路であり得る。すなわち、入力光Siは未透光の光導波路10x、10y、10z内を伝搬せず、これにより、未透光の光導波路10x、10y、10zは、それらに電界を印加するための電極を設けられる必要がない。
図1(a)において、未透光の光導波路10x、10y、及び10zは、例えば、第1及び第2の光導波路10a、10bの直線部分に沿って設けられており、複数の(3本の)光導波路が設けられている。具体的には、未透光の光導波路10yは第1及び第2の光導波路10a、10bの間に介在している。未透光の光導波路10x及び10yは、それらの間に第1の光導波路10aを介在させて設けられている。未透光の光導波路10y及び10zは、それらの間に第2の光導波路10bを介在させて設けられている。未透光の光導波路10x、10y、及び10zは全て、第1及び第2の光導波路10a、10bの延長方向に沿って延び得る。
【0027】
[0027]
図2は、
図1(b)の線A-A’に沿って見た光変調器100の概略断面図である。
【0028】
[0028]
図2に示されるように、本実施形態の光変調器100は、基板1、導波路層2、バッファ層3、及び電極層4を、この順序で積層されて含む多層構造を有する。基板1は、例えば、サファイア基板であり、ニオブ酸リチウム膜又はニオブ酸タンタルで作製された導波路層2が基板1の表面上に形成されている。導波路層2は第1及び第2の光導波路10a、10bを有する。第1及び第2の光導波路10a、10bの幅は、例えば、1μmであり得る。
【0029】
[0029] バッファ層3は、第1及び第2の光導波路10a、10bを通って伝搬する光が第1の電極7又は第2の電極8によって吸収されることを防止するために、少なくとも、導波路層2の第1及び第2の光導波路10a及び10bの上面上に形成されている。したがって、バッファ層3は光導波路と信号電極との間の中間層として機能するだけでよく、バッファ層の材料は、それが非金属である限り、幅広く選択することができる。例えば、バッファ層には、金属酸化物、金属窒化物、及び金属炭化物などの絶縁材料で作製されたセラミック層を用い得る。バッファ層の材料は結晶質材料又は非晶質材料であり得る。バッファ層3は、好ましくは、Al2O3、SiO2、LaAlO3、LaYO3、ZnO、HfO2、MgO、Y2O3などの、導波路層2よりも低い屈折率を有する材料で形成されている。光導波路上に形成されたバッファ層の厚さは約0.2μm~1.2μmであり得る。本実施形態では、バッファ層3は第1及び第2の光導波路10a、10bの上面を覆うだけでなく、第1及び第2の光導波路10a、10bの間にも埋められている。すなわち、バッファ層3は、平面図において第1及び第2の光導波路10a及び10bと重なり合わない領域内にも形成されている。バッファ層3は、導波路層2が形成されていない基板1を覆っており、第1及び第2の光導波路10a、10bの側面もバッファ層3で覆われており、これにより、第1及び第2の光導波路10a及び10bの側面の粗さに起因する散乱損失を防止することができる。
【0030】
[0030] 電極層4には、第1の電極7及び第2の電極8が設けられている。第1の電極7は、第1の光導波路10aの内部を進行する光を変調するために、バッファ層3を通して第1の光導波路10aと対向し、第1の光導波路10aに対応する導波路層2と重なり合うように設けられている。第2の電極8は、第2の光導波路10bの内部を進行する光を変調するために、バッファ層3を通して第2の光導波路10bと対向し、第2の光導波路10bに対応する導波路層2と重なり合うように設けられている。
【0031】
[0031]
図2に示されるように、未透光の光導波路10x、第1の光導波路10a、未透光の光導波路10y、第2の光導波路10b、及び未透光の光導波路10zは光の伝送方向と垂直に順次に配置されている。第1の電極7及び第2の電極8はバッファ層3を通じて第1の光導波路10a及び第2の光導波路10b上に設けられている。未透光の光導波路10x、未透光の光導波路10y、及び未透光の光導波路10zの上にはバッファ層3が設けられているが、電極は設けられていない。これは、未透光の光導波路10x、10y、及び10zは実際の動作においてダミー光導波路として機能するのみであり、光信号を実際に伝送しないためである。
図2に示されるように、基板1上に設けられた未透光の光導波路10x、10y、及び10zはバッファ層3に囲まれており、第1及び第2の光導波路10a、10bと未透光の光導波路10x、10y、及び10zとの膜厚は略同一である。それゆえ、未透光の光導波路10x、10y、10z及びそれらの上のバッファ層3の構造は第1及び第2の光導波路10a、10b及びそれらの上のバッファ層3のものと実質的に同じであり、これは、バッファ層3から光導波路10a、10bに印加される応力を低減し、光導波路10a、10bのクラックの発生を抑制することができ、これにより、信頼性を改善し、光伝送損失を低減する。
【0032】
[0032] 導波路層2は、電気光学材料である限り、特に限定されないが、好ましくは、ニオブ酸リチウム又はニオブ酸タンタルで作製される。これは、ニオブ酸リチウム又はニオブ酸タンタルは大きい電気光学定数を有し、それゆえ、光変調器などの光学デバイスの構成材料として適しているためである。
【0033】
[0033] 基板1は、それが、ニオブ酸リチウム膜又はニオブ酸タンタル膜よりも低い屈折率を有する限り、特に材料を限定されないが、基板1は、好ましくは、ニオブ酸リチウム膜又はニオブ酸タンタル膜がエピタキシャル膜として形成され得る基板である。具体的には、基板1は、好ましくは、サファイア単結晶基板又はシリコン単結晶基板である。単結晶基板の結晶方位は特に限定されない。
【0034】
[0034] ニオブ酸リチウム膜又はニオブ酸タンタル膜は、好ましくは、2μm以下の膜厚を有する。これは、2μmよりも大きい膜厚を有する高品質ニオブ酸リチウム膜は形成が困難であるためである。他方で、過度に小さい膜厚を有する光導波路膜は光を完全に閉じ込めることができず、光が基板又はバッファ層へ漏れて、そこから導光され得る。光導波路膜に電界を印加しても、光導波路(1a、1b)の実効屈折率の変化を低下させ得る。したがって、光導波路膜は、好ましくは、用いられることになる光の波長の少なくともおよそ10分の1である膜厚を有する。
【0035】
[0035] 本発明の発明者は、未透光の光導波路膜と光の伝搬損失との間の関係を検証するために以下の実験を行った。それらのうち、サンプル1は、未透光の光導波路膜を有する電気光学デバイスである。サンプル2は、未透光の光導波路膜が設けられていないことを除いて、サンプル1と同じ構造を有する電気光学デバイスである。
【0036】
【0037】
[0037] 表から、未透光の光導波路膜が設けられているときには、光導波路膜上のマイクロクラックは存在せず、光の伝搬損失は小さいことが窺える。未透光の光導波路膜(ダミー光導波路膜)が設けられていないときには、マイクロクラックが光導波路膜上に出現し、「無光」の問題が生じる。したがって、第1の実施形態の光変調器100によれば、バッファ層3から光導波路10a、10bに印加される応力を低減することができ、光導波路10a、10bのクラックの発生を抑制することができ、これにより、信頼性を改善し、光伝送損失を低減する。
【0038】
[0038]
図3(a)は、本発明の第2の実施形態に係る光変調器200の光導波路のみを示す平面図である。
図3(b)は、
図3(a)の線A-A’に沿って見た光変調器200の概略断面図である。
図3(a)及び
図3(b)に示されるように、第2の実施形態に係る光変調器200は、マッハツェンダー光導波路10が直線部及び曲線部の組み合わせによって構築されていることを特徴とする。より具体的には、マッハツェンダー光導波路10は、互いに平行に設けられた第1~第3の直線部10e
1、10e
2、10e
3、第1及び第2の直線部10e
1及び10e
2を接続する第1の曲線部10f
1、並びに第2及び第3の直線部10e
2及び10e
3を接続する第2の曲線部分10f
2を有する。
【0039】
[0039] 本実施形態に係る光変調器200において、
図3(a)における線A-A’に沿って見たマッハツェンダー光導波路10のそれぞれの直線部10e
1の断面構造が
図3(b)に示されている。さらに、第1の電極7は、バッファ層3を通じて第1~第3の直線部10e
1、10e
2、及び10e
3において第1の光導波路10aを覆っている。加えて、第2の電極8は、バッファ層3を通じて第1~第3の直線部10e
1、10e
2、及び10e
3において第2の光導波路10bを覆っている。第1の電極7及び第2の電極8は、好ましくは、全ての第1~第3の直線部10e
1、10e
2、及び10e
3を各々覆っているが、例えば、第1の直線部10e
1のみを各々覆っていてもよい。
【0040】
[0040] 本実施形態では、入力光Siは、第1の直線部10e1の一方の端部に入力され、第1の直線部10e1の一方の端部からその他方の端部に向かって進行し、第1の曲線部10f1においてUターンし、第1の直線部10e1内のものと反対の方向に第2の直線部10e2の一方の端部からその他方の端部に向かって進行し、第2の曲線部10f2においてUターンし、第1の直線部10e1内のものと同じ方向に第3の直線部10e3の一方の端部からその他方の端部に向かって進行する。
【0041】
[0041] 光変調器はデバイスの長さが長いという問題を有する。しかし、図示のように光導波路を折り曲げることによって、デバイスの長さを大幅に短くすることができ、優れた効果を得ることができる。特に、ニオブ酸リチウム膜で形成された光導波路は、たとえ、その曲率半径が、例えば、約50μmに低減されても、損失が小さいという特徴があり、それゆえ、本実施形態のために適している。
【0042】
[0042] 加えて、本実施形態では、第1及び第2の光導波路10a、10bが設けられた領域(所定の領域)以外の領域内に、基板1上に形成された未透光の光導波路10j、10kも設けられている。未透光の光導波路10jは(
図3(b)に示されるように)第1の直線部10e
1と基板1の端部との間に形成されている。好ましくは、未透光の光導波路10jは第1の直線部10e
1に沿って形成されている。加えて、
図3(a)に示される未透光の光導波路10jは連続的に形成されているが、これに限定されず、断続的に形成されていてもよい。例えば、未透光の光導波路10jは島形パターンで形成されていてもよく、個々の島形パターンは直線に沿って配置されていてもよい。同様に、未透光の光導波路10kは、好ましくは、第3の直線部10e
3と基板1の端部との間に形成されている。好ましくは、未透光の光導波路10kは第3の直線部10e
3に沿って配置されている。加えて、
図3(a)に示される未透光の光導波路10kは連続的に形成されているが、これに限定されず、断続的に形成されていてもよい。例えば、未透光の光導波路10kは島形パターンとして形成されていてもよく、個々の島形パターンは直線に沿って配置されていてもよい。未透光の光導波路10j、10kの断面構造は、
図2に示される未透光の光導波路10x、10y、及び10zと同じ構造であり得る。第2の実施形態の光変調器200によれば、第1の実施形態の光変調器100と同じ効果を得ることが可能であり、バッファ層3から光導波路10a、10b(第1の直線部10e
1及び第3の直線部10e
3)に印加される応力を低減し、光導波路10a、10bのクラックの発生を抑制することが可能であり、これにより、信頼性を改善し、光伝送損失を低減する。加えて、基板の端部は、特に、外部応力を受けやすいため、未透光の光導波路10j、10kを基板の端部の近くに配置することによって、光導波路10a、10bのクラックの発生をさらに抑制することが可能であり、これにより、信頼性を改善し、光伝送損失を低減する。
【0043】
[0043]
図4(a)は、本発明の第3の実施形態に係る光変調器300の光導波路のみを示す平面図である。
図4(b)は、
図4(a)の線A-A’に沿って見た光変調器300の概略断面図である。第3の実施形態の光変調器300は、それが、第1の直線部10e
1と第2の直線部10e
2との間に設けられた未透光の光導波路10p、及び第2の直線部10e
2と第3の直線部10e
3との間に設けられた未透光の光導波路10qをさらに含むという点で、第2の実施形態の光変調器200とは異なる。具体的には、未透光の光導波路10j及び未透光の光導波路10pは、それらの間に第1の直線部10e
1を介在させて互いに向かい合うように配置されている。未透光の光導波路10p及び未透光の光導波路10qは、それらの間に第2の直線部10e
2を介在させて互いに向かい合うように配置されている。未透光の光導波路10q及び未透光の光導波路10kは、それらの間に第3の直線部分10e
3を介在させて互いに向かい合うように配置されている。
図4(b)に、未透光の光導波路10j、10pの断面構造が示されている。第3の実施形態の光変調器300によれば、第1の実施形態の光変調器100と同じ効果を得ることが可能であり、バッファ層3から光導波路10a、10b(第1~第3の直線部10e
1、10e
2、10e
3)に印加される応力を低減し、光導波路10a、10b(第1~第3の直線部10e
1、10e
2、10e
3)のクラックの発生を抑制することが可能であり、これにより、信頼性を改善し、光伝送損失を低減する。本発明は以上において図面及び実施形態と併せて具体的に説明されたが、上述の説明は本発明をいかなる形態でも限定しないことが理解され得る。例えば、上述の説明では、第1の電極は信号電極として用いられ、第2の電極は接地電極として用いられている。しかし、それはこれに限定されず、第1及び第2の電極は、電界を光導波路に印加する任意の電極であり得る。加えて、上述の説明では、未透光の光導波路は光導波路の直線部の近傍に設けられているが、それはこれに限定されず、未透光の光導波路はまた、光導波路の屈曲部又は曲線部に設けられていてもよい。
【0044】
[0044] 当業者は、本発明の本質的な趣旨及び範囲から逸脱することなく、必要に応じて本発明に対して修正及び変更を行うことができ、これらの修正及び変更は本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
[0045] 1 基板
2 導波路層
3 バッファ層
4 電極層
7 第1の電極
8 第2の電極
10 マッハツェンダー光導波路
10a 第1の光導波路
10b 第2の光導波路
10c 分波部
10d 合波部
10i 入力光導波路
10o 出力光導波路
10e1 マッハツェンダー光導波路の第1の直線部
10e2 マッハツェンダー光導波路の第2の直線部
10e3 マッハツェンダー光導波路の第3の直線部
10f1 マッハツェンダー光導波路の第1の曲線部
10f2 マッハツェンダー光導波路の第2の曲線部