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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】ヒト神経成長因子に対する抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/22 20060101AFI20240422BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240422BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240422BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240422BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240422BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240422BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240422BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240422BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240422BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240422BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240422BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240422BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240422BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240422BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240422BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240422BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240422BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20240422BHJP
   A61P 9/06 20060101ALI20240422BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240422BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240422BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
C07K16/22
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12P21/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 N
A61P29/00
A61P19/02
A61P9/00
A61P11/00
A61P25/00
A61P3/00
A61P3/10
A61P31/12
A61P17/06
A61P9/06
A61K45/00
A61P35/00
G01N33/53 D
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022562916
(86)(22)【出願日】2021-04-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-31
(86)【国際出願番号】 CN2021087014
(87)【国際公開番号】W WO2021208927
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-10-14
(31)【優先権主張番号】202010305924.8
(32)【優先日】2020-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522225561
【氏名又は名称】チューハイ トリノマブ ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ウェイホン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、シアオリー
(72)【発明者】
【氏名】コン、ホイチェン
(72)【発明者】
【氏名】リャン、チュンラン
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-527989(JP,A)
【文献】特表2010-535509(JP,A)
【文献】特表2008-500274(JP,A)
【文献】特表2007-537703(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109929035(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/
C07K 16/
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)重鎖可変領域及び(b)軽鎖可変領域を含むヒト神経成長因子(NGF)に特異的に結合するヒト抗体又はその抗原結合断片であって、
前記(a)重鎖可変領域は、SEQ ID NO:1の配列からなるCDR1、SEQ
ID NO:2の配列からなるCDR2、及びSEQ ID NO:3の配列からなるCDR3を含み、
前記(b)軽鎖可変領域は、SEQ ID NO:4の配列からなるCDR1、SEQ
ID NO:5の配列からなるCDR2、及びSEQ ID NO:6の配列からなるCDR3を含む、ヒト神経成長因子(NGF)に特異的に結合するヒト抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
前記重鎖可変領域は、(1)請求項1に記載の重鎖CDRを含み、SEQ ID NO:7と少なくとも90%の同一性を有する配列、及び、(2)SEQ ID NO:7に示される配列を含む配列から選ばれる、請求項1に記載の抗NGF抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
前記軽鎖可変領域は、(1)請求項1又は2に記載の軽鎖CDRを含み、SEQ ID
NO:8と少なくとも90%の同一性を有する配列、及び、(2)SEQ ID NO:8に示される配列を含む配列とから選ばれる、請求項1又は2に記載の抗NGF抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
前記抗体は、ヒトモノクローナル抗体である、請求項1~3のいずれか1項に記載の単離抗NGF抗体又はその抗原結合断片。
【請求項5】
前記抗原結合断片は、Fab、Fab’-SH、Fv、scFv又は(Fab’)断片から選ばれる、請求項1~4のいずれか1項に記載の単離抗NGF抗体又はその抗原結
合断片。
【請求項6】
定常領域配列を含み、前記定常領域配列の少なくとも一部がヒトコンセンサス定常領域配列である、請求項1~5のいずれか1項に記載の単離抗NGFヒトモノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項7】
前記抗体の重鎖定常領域は、SEQ ID NO:9に示されるアミノ酸配列を含み、軽鎖定常領域は、SEQ ID NO:10に示されるアミノ酸配列を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の抗NGF抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸分子。
【請求項9】
請求項8に記載の核酸分子を含むベクターであって、発現ベクターである、ベクター。
【請求項10】
請求項9に記載のベクターを含む宿主細胞であって、
前記宿主細胞は、原核細胞又は真核細胞である、宿主細胞。
【請求項11】
前記宿主細胞は、大腸菌細胞、酵母細胞、哺乳類細胞、又は抗体又はその抗原結合断片の製造に適する他の細胞から選ばれる、請求項10に記載の宿主細胞。
【請求項12】
前記哺乳類細胞は、CHO細胞、HEK293細胞又はCOS細胞である、請求項11に記載の宿主細胞。
【請求項13】
ヒトNGF抗体又はその抗原結合断片の産生方法であって、
請求項1~7のいずれか1項に記載の抗NGF又はその抗原結合断片の発現に適する条件で請求項10の宿主細胞を培養すること、前記抗NGF抗体又はその抗原結合断片を単離すること、産生した抗体又はその抗原結合断片を収集することを含む、方法。
【請求項14】
請求項1~のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片、及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項15】
NGFに媒介される疾患又は障害の低減・寛解・阻害に使用される、請求項1~のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片であって、
前記NGFに媒介される障害又は疾患は、疼痛、関節炎、膠原血管病、脱髄疾患、気道炎症性疾患、神経系疾患、代謝性疾患、ウイルス感染関連疾患、不整脈、乾癬及び癌から選ばれる、請求項1~のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項16】
前記代謝性疾患は、糖尿病である、請求項15に記載のNGFに媒介される疾患又は障害の低減・寛解・阻害に使用される、抗体又はその抗原結合断片。
【請求項17】
NGFに媒介される障害又は疾患に関連する前記疼痛は、病態生理学的疼痛である、請求項15に記載のNGFに媒介される疾患又は障害の低減・寛解・阻害に使用される、抗体又はその抗原結合断片。
【請求項18】
第2治療剤と併用することでNGF関連障害又は疾患に関連する疼痛の低減・寛解・阻害に使用される、請求項1~のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片であって、
前記第2治療剤は、他のニューロトロピン、鎮痛剤、抗炎症剤、化学療法剤又は免疫療法剤から選ばれる、請求項1~のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項19】
サンプルにおけるNGF異常発現の検出方法であって、
前記サンプルを請求項1~のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片に接触させることを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、抗体の分野に関し、具体的には、NGFに特異的に結合する抗体、その製造方法及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
神経成長因子(NGF)は、最も早く発見されたニューロトロフィン(神経栄養因子)であり、脳、神経節、虹彩、心臓、脾臓、胎盤などの組織及び線維芽細胞、平滑筋、骨格筋、グリア細胞、シュワン細胞などに広く分布している。NGFは、ニューロトロフィン(NT)の1つであり、前記ニューロトロフィンは、脳由来神経栄養因子(BDNF)、NT-3、NT-4、NT-5をさらに含む、一連の構造関連タンパク質である(Wymanら、Gene Therapy(1999)、6:1648-1660)。NGFの活性は、2つの異なる膜結合受容体(チロシンキナーゼA(TrkA)受容体及びp75受容体)により媒介され、前記p75受容体は、構造という点で、腫瘍壊死因子受容体ファミリーにおける他のメンバーに関連する(Chaoら、Science 232:518-521、1986)。
【0003】
NGFは、様々な疾患又は障害、例えば、疼痛(RICHARDS、N.Br J Anaesth(2013)、111(1):46-51)、関節炎、膠原血管病、脱髄疾患、気道炎症性疾患(Hoyle、Cytokine Growth Factor Rev (2003)、14:551-8.、Lommatzsch、M.Ann NY Acad Sci (2003)、992:241-9)、神経系疾患、代謝性疾患(例えば、糖尿病)(Yasuda、H.Prog Neurobiol(2003)、 69 (4): 229-85)、ウイルス感染関連疾患(Garaci、E. PNAS(2003)、100 (15) 8927-8932)、不整脈(WO04/032852)、乾癬及び癌(Nakagawara、A.Cancer Lett(2001)、169(2):107-14)を媒介する。
【0004】
末梢組織炎症又は神経損傷は、病理・生理的な疼痛の原因である。NGFは、末梢ニューロン及び中枢ニューロンの機能を調節する役割を果たし、体内の疼痛シグナル伝達系と相互作用し、多くの種に対して、局所的又は全身的に投与した場合に痛覚過敏を引き起こすことが確認されている(Sarchielli、Expert Rev.Neurotherapeutics(2004)、4(1):115-127)。
【0005】
疼痛は、周囲環境から受け入れられ、神経系に伝達・解釈されるシグナルに基づく知覚であり(Millan、Prog.Neurobiol(1999).57:1-164)、重篤な疼痛は、人間の生活の質に影響を与え、社会に莫大な経済的負担をもたらす。従って、疼痛への治療は、臨床及び社会でよく見られる願望の1つである。しかしながら、疼痛への治療は、部分的にのみ有効であり、また、これらの治療において、多くの治療そのものは、多くの副作用を引き起こす。例えば、オピオイド類は、良い鎮痛作用を有するが、同時に腎臓の毒素でもあり、多量投与では胃腸刺激、潰瘍、出血や精神錯乱を招致し、長期的に使用すると、医薬品耐性及び依存性に伴う。
【0006】
疼痛の分野における巨大な臨床的なニーズやマーケットスペースという理由で、疼痛を治療するために疼痛経路の標的に対する新しい医薬品を開発することは、極めて重要・確実である。近年、NGFの急、慢性疼痛及び痛覚過敏における作用への認識は、継続的に強化すると共に、抗NGF拮抗剤は、疼痛治療研究の新しいホットスポットになった。多くのマウス抗NGF抗体及びヒト化抗NGF抗体が報告され、部分的な抗NGF抗体医薬品の臨床試験データは、積極的な結果を示したが、前記マウス抗NGF抗体、ヒト化抗NGF抗体は、免疫原性などの問題点がある。
【0007】
従って、当分野では、NGFに関連する疾患への予防又は治療に有用な組成物又は方法、例えば、疼痛に関連する疾患又は障害への予防又は治療に有用な組成物又は方法が、依然として必要であり、本願は、このようなニーズを満たすことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高親和性でNGFに特異的に結合し得る抗体又はその抗原結合断片、特にヒトNGFに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を提供する。好ましい実施形態にいて、本発明に提供の抗NGF抗体は、非ヒトNGF(非ヒト霊長類NGF及び/又はマウスNGFを含む)と交差反応を発生し得るヒト抗体である。別の実施形態において、本発明に記載のヒトNGFに特異的に結合するヒト抗体又はその抗原結合断片は、NGFを中和する中和抗体である。
【0009】
第1局面において、本発明は、ヒトNGFに特異的に結合するヒト抗体又はその抗原結合断片を提供し、これらは、ニューロトロフィン-3(NT-3)、ニューロトロフィン-4(NT-4)、脳由来神経栄養因子(BDNF)と交差反応を発生しない。これら抗体は、高親和性・高特異性でNGFに結合し、NGFの活性を中和できることを特徴とする。
【0010】
1つの具体的な実施形態において、前記抗NGF抗体及びその抗原断片は、表Iに示される抗体のVH領域配列から選ばれる1つ、2つ又は3つのCDR(好ましくは3つのCDR)を含む。別のいくつかの実施形態において、本発明に係る抗体は、表Iに示される抗体のVL領域配列から選ばれる1つ、2つ又は3つのCDR(好ましくは3つのCDR)を含む。いくつかの実施形態において、本発明に係る抗体は、表Iに示される抗体の6つのCDR領域配列を含む。1つの好ましい実施形態において、抗体のCDR配列は、表IIに示されるCDR配列である。
【0011】
いくつかの実施形態において、本発明に係る抗NGF抗体又はその抗原結合断片は、A)重鎖相補性決定領域(CDR)及びB)軽鎖相補性決定領域(CDR)を含み、前記A)重鎖相補性決定領域(CDR)は、下記のCDR1、CDR2及びCDR3を含み、(i)CDR1は、SEQ ID NO:1に示されるアミノ酸配列を含むか、或いは、前記配列に対して1つ又は複数、且つ5つ以下のアミノ酸のアミノ酸置換(例えば、保存的置換)、欠失又は挿入を含む配列を含み、(ii)CDR2は、SEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列を含むか、或いは、前記配列に対して1つ又は複数、且つ3つ以下のアミノ酸のアミノ酸置換(例えば、保存的置換)、欠失又は挿入を含む配列を含み、(iii)CDR3は、SEQ ID NO:3に示されるアミノ酸配列を含むか、或いは、前記配列に対して1つ又は複数、且つ5つ以下のアミノ酸のアミノ酸置換(例えば、保存的置換)、欠失又は挿入を含む前記配列を含む。B)軽鎖相補性決定領域(CDR)は、下記のCDR1、CDR2及びCDR3を含み、(i)CDR1は、SEQ ID NO:4に示されるアミノ酸配列を含むか、或いは、前記配列に対して1つ又は又は複数、且つ5つ以下のアミノ酸のアミノ酸置換(例えば、保存的置換)、欠失又は挿入を含む配列を含み、(ii)CDR2は、SEQ ID NO:5に示されるアミノ酸配列を含むか、或いは、前記配列に対して1つ又は又は複数、且つ2つ以下のアミノ酸のアミノ酸置換(例えば、保存的置換)、欠失又は挿入を含む配列を含み、(iii)CDR3は、SEQ ID NO:6に示されるアミノ酸配列を含むか、或いは、前記配列に対して1つ又は複数、且つ5つ以下のアミノ酸のアミノ酸置換(例えば、保存的置換)、欠失又は挿入を含む配列を含む。ここで、修飾したCDRを含む抗NGF抗体は、NGFに結合する能力を有したままである。
【0012】
いくつかの実施形態において、本発明に係る抗NGF抗体又はその抗原結合断片は、A)重鎖相補性決定領域(CDR)とB)軽鎖相補性決定領域(CDR)を含み、A)重鎖相補性決定領域(CDR)は、下記のCDR1、CDR2及びCDR3を含み、(i)CDR1は、SEQ ID NO:1に示されるアミノ酸配列からなり、(ii)CDR2は、SEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列からなり、(iii)CDR3は、SEQ ID NO:3に示されるアミノ酸配列からなり、B)軽鎖相補性決定領域(CDR)は、下記のCDR1、CDR2及びCDR3を含み、(i)CDR1は、SEQ ID NO:4に示されるアミノ酸配列からなり、(ii)CDR2は、SEQ ID NO:5に示されるアミノ酸配列からなり、(iii)CDR3は、SEQ ID NO:6に示されるアミノ酸配列からなる。
【0013】
いくつかの実施形態において、本発明に係る抗NGF抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域VHを含み、この重鎖可変領域VHは、SEQ ID NO:7に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、或いは、前記配列で構成し、前記VHを含む抗NGF抗体は、NGFに結合する能力を有する。いくつかの実施形態において、本発明に係る抗NGF抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域VHを含み、この重鎖可変領域VHは、表IIに示される抗体の3つの重鎖可変領域CDRを含み、SEQ ID NO:7に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有し、前記VHを含む抗NGF抗体は、NGFに結合する能力を有する。いくつかの実施形態において、抗NGF抗体の重鎖可変領域VHは、SEQ ID NO:7に示されるアミノ酸配列に比べて1つ又は複数の置換(例えば、保存的置換)、挿入又は欠失を有するアミノ酸配列を含み、前記VHを含む抗NGF抗体は、NGFに結合する能力を有する。
【0014】
いくつかの実施形態において、本発明に係る抗NGF抗体又はその抗原結合断片は、軽鎖可変領域VLを含み、この軽鎖可変領域VLは、SEQ ID NO:8に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、或いは、前記配列で構成し、前記VLを含む抗NGF抗体は、NGFに結合する能力を有する。いくつかの実施形態において、本発明に係る抗NGF抗体又はその抗原結合断片は、軽鎖可変領域VLを含み、この軽鎖可変領域VLは、表IIに示される抗体の軽鎖可変領域の3つのCDRを含み、SEQ ID NO:8に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有し、前記VLを含む抗NGF抗体は、NGFに結合する能力を有する。いくつかの実施形態において、抗NGF抗体の軽鎖可変領域VLは、SEQ ID NO:8に示されるアミノ酸配列に比べて1つ又は複数の置換(例えば、保存的置換)、挿入又は欠失を有するアミノ酸配列を含み、前記VHを含む抗NGF抗体は、NGFに結合する能力を有する。
【0015】
いくつかの実施形態において、本発明に係る抗NGF抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、
1)重鎖可変領域VHは、SEQ ID NO:7に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、或いは、前記配列で構成し、軽鎖可変領域VLは、SEQ ID NO:8に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、或いは、前記配列で構成し、又は
2)重鎖可変領域VHは、表IIに示される重鎖可変領域CDRを含み、SEQ ID NO:7に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有し、軽鎖可変領域VLは、表IIに示される軽鎖可変領域のCDRを含み、SEQ ID NO:8に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有し、前記VHとVLを含む抗NGF抗体は、NGFに結合する能力を有し、又は
3)重鎖可変領域VHは、SEQ ID NO:7に示されるアミノ酸配列に比べて1つ又は複数の置換(例えば、保存的置換)、挿入又は欠失を有するアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域VLは、SEQ ID NO:8に示されるアミノ酸配列に比べて1つ又は複数の置換(例えば、保存的置換)、挿入又は欠失を有するアミノ酸配列を含み、前記VH及びVLを含む抗NGF抗体は、NGFに結合する能力を有する。
【0016】
好ましい実施形態において、本発明は、重鎖可変領域VHがSEQ ID NO: 7に示されるアミノ酸配列を含むか、又はこのアミノ酸配列で構成し、軽鎖可変領域VLがSEQ ID NO: 8に示されるアミノ酸配列を含むか、又はこのアミノ酸配列で構成する、抗NGF抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0017】
いくつかの実施形態において、前記抗NGF抗体又はその抗原結合断片は、ヒト抗体生殖系列コンセンサス配列由来の重鎖定常領域配列及び/又は軽鎖定常領域配列をさらに含む。前記軽鎖定常領域は、好ましくはヒト由来のκ(CK)又はλ(Cλ)鎖定常領域である。重鎖定常領域は、γ、μ、α、δ、又はε鎖であってもよく、いくつかの実施形態において、前記重鎖定常領域は、ヒト由来のIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgM、IgD及びIgEアイソタイプである。各重鎖、軽鎖のタイプは、本分野で公知の配列を有する特定定常領域で表される。
【0018】
いくつかの実施形態において、前記定常領域は、好ましくはヒトIgG定常領域、例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4アイソタイプの定常領域である。いくつかの実施形態において、前記重鎖及び/又は軽鎖定常領域は、例えば、Sequences of Proteins of Immunological Interest、NIH Publication No.91-3242に記載のものであり、本発明では、これらの何れかの一種が利用可能である。
【0019】
好ましい実施形態において、本発明は、重鎖定常領域がヒトIgG4定常領域であり、重鎖定常領域配列がSEQ ID NO:9に示されるアミノ酸配列を含むが、又はこのアミノ酸配列で構成し、軽鎖定常領域がSEQ ID NO:10に示されるアミノ酸配列を含むか、又はこのアミノ酸配列で構成する、抗NGF抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0020】
なお、これらの定常領域ドメインの配列バリアント、例えば、1つ又は複数のアミノ酸修飾を含む配列バリアントを利用してもよく、ここでは、アミノ酸のサイトは、Kabatらの(1991)EUインデックスシステムにより標識される。
【0021】
いくつかの実施例において、前記抗体のグリコシル化を防止するために、例えば、ヒトIgG定常領域に対して修飾を行ってもよく、このような修飾は、N297A又はN297Q(Sazinsky、 PNAS(2008)、105(51):20167-20172)であってもよい。
【0022】
いくつかの実施例において、Fc受容体の相互作用を改変するために、例えば、ヒトIgG定常領域に対して修飾を行ってもよく、このような修飾は、L234A及び/又はL235E又はL235Aであってもよい。
【0023】
いくつかの実施例において、半減期を延長するために、例えば、ヒトIgG定常領域に対して修飾を行い、このような修飾は、R435Hであってもよい。
【0024】
いくつかの実施例において、鎖の交換を防止又は減少するために、例えば、ヒトIgG定常領域に対して修飾を行い、このような修飾はS228P(Angal、S.Mol Immunol(1993)、30:105-108)であってもい。
【0025】
いくつかの実施例において、FcRn結合を増強するために、例えば、ヒトIgG定常領域に対して修飾を行い、このような修飾は、M252Y、S254T、T256E (DallAcquaら、J.Biol.Chem (2006)、281(33):23514-23524;Zalevskyら、Nature Biotech(2010)、28(2):157-159)、M428L又はN434Sであってもよい。
【0026】
いくつかの実施例において、抗体依存性細胞毒性作用(ADCC)、及び/又は補体依存性細胞毒性作用(CDC)を改変するために、例えば、ヒトIgG定常領域に対して修飾を行い、このような修飾は、既知のものである(Natsumeら、Cancer Res(2008)、68(10):3863-72、Idusogieら、J.Immunol(2001)、166(4):2571-5、Mooreら、mAbs(2010、2(2):181-189、Lazarら、PNAS (2006)、103(11):4005-4010、Shieldsら、J.Biol.Chem.(2001)、276(9):6591-6604、Stavenhagen Cancer Res(2007)、67(18):8882-8890、Alegreら、J.Immunol(1992)148:3461-3468.、Kaneko、Niwaら、Biodrugs(2011)、25(1):1-11.を含むが、これらに限定されない)。
【0027】
いくつかの実施例において、T366W修飾によりヘテロダイマー化を誘導してもよく、ならびに、任意にさらに対応のCH3ドメインにおけるS354C及びY349C修飾により、ジスルフィド結合を導入することでヘテロダイマー化を誘導してもよい(Carter、Journal of Immunological Methods(2001)、248:7-15)。
【0028】
いくつかの実施形態において、本発明に係る抗体は、前記いずれかの抗体と競合的にNGFに結合する抗体、及び前記抗体のいずれかと同様なNGFエピトープに結合する抗体も包含する。
【0029】
いくつかの実施形態において、少なくとも一部の抗NGF抗体のフレームワーク配列が、ヒトコンセンサスフレームワーク配列である。
【0030】
一実施形態において、本発明に係る抗NGF抗体は、完全な抗体、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA及びIgE抗体である。別の実施形態において、本発明に係る抗NGF抗体は、その抗原結合部分、例えば、Fab、Fab’-SH、Fv、scFv又は(Fab’)断片のみを包含する。一実施形態において、本発明に係る抗NGF抗体を修飾することで、ある特定の機能、例えば、残存のエフェクタ機能(Gluは、残存エフェクタ機能を取り除くことができる(Reddyら、2000))を取り除くという機能を実現することができる。
【0031】
いくつかの実施形態において、本発明に係る抗NGF抗体は、NGFを中和するための中和抗体である。
【0032】
第2局面において、本発明は、前記のいずれかの抗NGF抗体又はその断片をコードする核酸を提供する。一実施形態において、前記核酸を含むベクターを提供する。一実施形態において、ベクターは、発現ベクターである。
【0033】
第3局面において、本発明は、前記ベクター、又は、前記核酸或いは抗体を含む宿主細胞を提供する。一実施形態において、宿主細胞は、真核細胞である。別の実施形態において、宿主細胞は、哺乳類細胞、又は、抗体或いはその抗原結合断片の製造に適する他の細胞から選ばれ、前記哺乳類細胞は、例えば、CHO細胞、HEK293細胞又はCOS細胞である。別の実施形態において、宿主細胞は、原核細胞、例えば、大腸菌細胞、酵母細胞である。
【0034】
第4局面において、本発明は、抗NGF抗体又はその抗原結合断片の製造方法を提供し、前記方法は、前記抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸の発現に適する条件で前記宿主細胞を培養すること、及び、前記抗体又はその抗原結合断片を任意に単離することを含む。ある実施形態において、前記方法は、宿主細胞から抗NGF抗体又はその抗原結合断片を回収することをさらに含む。
【0035】
一実施形態において、本発明は、本発明の方法で製造される抗NGF抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0036】
第5局面において、本発明は、本明細書に記載の任意の抗NGF抗体又はその抗原結合断片を含む組成物を提供し、好ましくは前記組成物は、医薬組成物である。
【0037】
一実施形態において、前記組成物は、医薬ベクターをさらに含む。一実施形態において、組成物に含まれる抗NGF抗体及びその抗原結合断片をカップリング部分にカップリングさせる。一実施形態において、この医薬組成物は、薬学的に許容される担体、賦形剤、又は希釈剤をさらに含む。
【0038】
第6局面において、本発明は、被験体に治療有効量の本発明に係る抗NGF抗体、又は本発明に係る医薬組成物を投与することを含む、NGFに関連する疾患又は障害を治療するための方法を提供する。
【0039】
本発明は、さらに、被験体に治療有効量の本発明に係る抗NGF抗体、又は本発明に係る医薬組成物を投与することを含む、NGFに媒介される疾患又は障害に関連する症状を寛解・改善する方法に関する。
【0040】
1つの具体的な実施形態において、前記NGFに媒介される疾患又は障害は、NGFレベルの向上又はNGFに対する感度の向上に関する任意の医学疾患又は障害を含み、疼痛、関節炎、膠原血管病、脱髄疾患、気道炎症性疾患、神経系疾患、代謝性疾患(例えば、糖尿病)、ウイルス感染関連疾患、不整脈、乾癬及び癌を含むが、これらに限定されるものではない。
【0041】
一実施形態において、前記NGFに媒介される疾患又は障害は、疼痛関連障害、炎症性疼痛、手術後の切開部疼痛、神経性疼痛、骨折痛、痛風関節痛、火傷痛、癌痛、複合局所疼痛症候群、ヘルペス後神経痛、又は鎌状赤血球症に関連する疼痛である。一実施形態において、前記疼痛は、病理・生理的な疼痛である。
【0042】
さらに、前記方法は、NGFの活性を除去・阻害・低下することで、NGFに関連する任意の疾患又は障害を改善・低減・阻害・予防する、又は前記疾患に関連する症状、例えば、疼痛を低減させる。一実施形態において、本発明は、抗NGF拮抗剤、例えば、本発明に係る抗体又はその抗原結合断片を単独で投与することで、前記NGFに関連する疾患又は障害を治療する。別の実施形態において、本発明に開示の治療方法は、抗NGF抗体を第2治療剤と併用することで、NGFに関連する疾患又は障害を治療し、前記第2治療剤は、他のニューロトロピン、鎮痛剤、抗炎症剤、化学療法剤及び免疫療法剤から選ばれる。1つの具体的な実施形態において、第2治療剤は、他のニューロトロフィン、例えば、NT-3、NT-4又はBDNFである。
【0043】
一実施形態において、本発明は、被験体に治療有効量の本発明に係る抗NGF抗体、又は治療有効量の医薬組成物を投与することを含む、NGFに媒介される疼痛を寛解・改善する方法を提供する。
【0044】
第7局面において、本発明は、対象又はサンプルにおけるNGFを検出する方法を提供し、前記方法は、(a)対象又はサンプルを本明細書に記載の前記抗NGF抗体又はその断片のいずれかと接触させること、及び、(b)抗NGF抗体又はその断片とNGFとの複合体の形成を検出することを含む。1つの好ましい実施形態において、本発明に係る抗NGF抗体及びその抗原結合断片は、検出可能な標識をさらに含む。
【0045】
一実施形態において、本発明に提供の抗体は、改変又は異常なNGF発現に関連する疾患又は障害の検出、診断及びモニターに用いられる。
【0046】
第8局面において、本発明は、本明細書に記載の前記抗NGF抗体又はその断片のいずれかの、被験体のNGF関連疾患又は障害を治療する医薬品又はキットの製造における用途に関する。
【0047】
一実施形態において、本発明は、前記抗NGF抗体を含む組成物の、被験体のNGF関連疾患又は障害を治療する医薬品又はキットの製造における用途を提供する。
【0048】
別の実施形態において、本発明は、さらに、本明細書に記載の前記抗NGF抗体又はその断片のいずれか、又は前記抗NGF抗体を含む組成物の、NGFに媒介される疼痛を寛解・改善する医薬品の製造における用途に関する。
【0049】
別の実施形態において、本明細書に記載の抗NGF抗体又はその断片のいずれかは、医薬品として使用される。
【0050】
第9局面において、本発明は、本明細書に記載の抗体又は組成物を含むキット、例えば、診断キット、検出キット、治療キットなどを提供する。
【0051】
本発明は、さらに、本明細書に記載の前記いずれかの実施形態の任意の組み合わせを含む。本明細書に記載の前記いずれかの実施形態又はこれらの任意の組み合わせは、本明細書に記載の発明のいずれか及び全ての抗NGF抗体又はその断片、方法及び用途に適用する。
【発明の効果】
【0052】
発明の有益な効果
本発明は、NGFを特異的に識別・結合し得るヒト抗体及びその抗原結合断片を提供し、前記抗体及びその抗原結合断片は、NGFに対して中和作用を有し、NT-3、NT-4、BDNFと交差反応を発生しない。本発明に係る抗NGF抗体は、完全なヒト抗体であるので、NGFに関連する疾患又は障害を治療したり、NGFに関連する疼痛を寛解したりするとともに、被験体に対する免疫原性が低く、これによって、被験体に対して、抗NGF抗体に対応する免疫応答が起こることを回避させ、一般的な抗NGF抗体に関連する副作用を低下させる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】抗NGF抗体のサンプル(Ns006)に対する力価の検出結果である。
図2】抗体結合活性の検出結果である。
図3】抗体TRN1027の親和性曲線である。
図4】抗体TRN1027によるTF-1細胞増殖の阻害である。
図5】単回皮下投与のCFAによるマウス炎症性疼MWTに対する影響(n=9)である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
1.1 定義
以下、本発明を詳しく説明する前に、本発明は、本明細書に記載の特定の方法論、態様及び試薬に限定されないと理解すべきであり、これらは、変更可能であるためである。また、本明細書に使用される用語は、ただ具体的な実施形態を説明するために使用され、本発明の範囲を限定することを意図しておらず、本発明の範囲は、ただ添付の特許請求の範囲に限定されることも理解すべきである。特に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明の属する技術分野における当業者が一般に理解しているものと同じ意味を有する。
【0055】
本明細書を解釈するために、以下の定義が使用され、適切であれば、単数形で使用される用語は、複数形を含むこともでき、その逆も同様である。本明細書で使用される用語は、ただ特定実施形態を説明するために使用され、限定的であることを意図していないと理解すべきである。
【0056】
「約」という用語は、数値と組み合わせて使用される場合、指定された数値よりも5%小さい下限と、指定された数値よりも5%大きい上限とを有する範囲内の数値を包含することを意味する。
【0057】
「及び/又は」という用語は、選択肢のいずれか又は両方を意味すると理解すべきである。
【0058】
本明細書で使用されるように、「含有する」又は「含む」という用語は、前記要素、整数、又はステップを含むが、任意の他の要素、整数、又はステップを排除するものではないことを意味する。本明細書では、「含有する」又は「含む」という用語が使用されるとき、特に断らない限り、前記要素、整数、又はステップからなる場合も含有する。例えば、ある具体的な配列を「含有する」抗体可変領域が言及されている場合、その具体的な配列からなる抗体可変領域も含有することを意味する。
【0059】
「神経成長因子」又は「NGF」という用語は、すべての哺乳類種(ヒトを含む)の天然配列NGFを指し、また、NGFの生物学的活性の少なくとも一部を保持する任意の形態、例えば、NGF変異体、NGFオルソログ、NGFパラログも含有する。
【0060】
「抗体」という用語は、本明細書で最も広い意味で使用され、多くの抗体構造物を包含し、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多特異的抗体(例えば、二重特異的抗体)及び抗体断片を含むが、これに限定されず、これらが所望の抗原結合活性を示すものであればよい。完全な抗体は、通常、少なくとも2本の全長重鎖及び2本の全長軽鎖を含むが、場合によって、少ない鎖を含んでもよく、例えば、ラクダに天然的に存在する抗体は、重鎖のみを含んでもよい。
【0061】
本明細書で使用されるように、「モノクローナル抗体」又は「mAb」とは、例えば、真核生物、原核生物又はファージクローンに由来する単一コピー又はクローン抗体を指し、即ち、一般的にわずかに存在する可能なバリアント抗体(例えば、天然の変異を含むか、或いは、モノクローナル抗体製品の製造プロセスに生成されるバリアント抗体を含む)を除き、前記集団を構成する各抗体は、同一であり、及び/又は、同一のエピトープに結合する。「モノクローナル」という修飾語は、抗体が実質的に同質の抗体群から得られることを表し、任意の特定の方法で抗体を産生する必要があると解釈すべきではない。モノクローナル抗体は、例えば、ハイブリドーマ技術、組換え技術、ファージディスプレイ技術、CDRグラフティングなどの合成技術、又は、これら技術或いは他の当分野で知られている技術の組み合わせにより産生されてもよい。
【0062】
「天然抗体」とは、異なる構造を持つ天然的に存在する免疫グロブリン分子を指す。「天然配列Fcドメイン」は、自然界で見出されたFcドメインのアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含む。天然配列ヒトFcドメインは、例えば、天然配列ヒトIgG1 Fcドメイン(非A及びAアロタイプ)、天然配列ヒトIgG2 Fcドメイン、天然配列ヒトIgG3 Fcドメイン、及び天然配列ヒトIgG4 Fcドメイン、及びその天然的に存在するバリアントを含む。
【0063】
「ヒト抗体」とは、ヒト又はヒト細胞により産生されるか、或いは、ヒト以外の由来から提供され、前記抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有し、ヒト抗体ライブラリー又は他のヒト抗体を利用し、配列をコードする抗体を指す。このようなヒト抗体の定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を明確に排除する。
【0064】
「中和抗体」という用語は、NGFの生物学的活性を低減・阻害し、例えば、NGFと1つ又は複数の受容体(好ましくはTrkA)との結合を低減・阻害する抗体又は抗体断片を指す。生物学的活性の低減は、部分的又は完全な低減であってもよい。抗体がNGFを中和する程度を抗体の中和効力と呼ぶ。当業者に知られている、及び/又は、本明細書に記載・言及されている1つ又は複数の検出を用い、抗体の中和効力を決定・測定することができ、前記検出は、競合的結合アッセイ、直接及び間接サンドイッチアッセイ、免疫沈殿アッセイ、及び酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を含むが、これらに限定されない。
【0065】
「抗NGF抗体」とは、NGFに結合するとともに、NGFの生物学的活性及び/又はNGFシグナルに媒介される下流経路を阻害し得る抗体を指す。抗NGF抗体は、NGFシグナルに媒介される下流経路、例えば、受容体とNGFとの結合、及び/又は、受容体のよるNGFに対する細胞反応への誘発を含むNGF生物学的活性を遮断・拮抗・阻害・低減する(有意に低減することを含む)抗体を含む。
【0066】
いくつかの実施形態において、本発明は、さらに、抗NGF抗体の断片を包含する。抗体断片の例示としては、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)、二重抗体、線状抗体、一本鎖抗体分子(例えば、scFv)、及び抗体断片で形成される多特異的抗体が含まれるが、これらに限定されない。
【0067】
NGFの「生物学的活性」とは、一般に、NGF受容体に結合する能力及び/又はNGF受容体のシグナル経路を活性化する能力を意味する。例えば、生物学的活性には、NGF受容体(例えば、p75及び/又はTrkA)に結合する能力、TrkA受容体のダイマー化及び/又はTrkAの自動リン酸化を促進する能力、NGF受容体のシグナル経路を活性化する能力、細胞の分化、増殖、生存、成長及びその他の細胞生理学的な改変を促進すること、マウスのE13.5三叉ニューロンの生存を促進する能力、及び手術後の疼痛を含む疼痛を媒介する能力のいずれか1つ又は複数が含まれる。
【0068】
各重鎖は、一つの重鎖可変領域(HCVR又はVH)と一つの重鎖定常領域とからなる。重鎖定常領域は、CH1、CH2及びCH3との3つのドメインからなる。各軽鎖は、一つの軽鎖可変領域(LCVR又はVL)と一つの軽鎖定常領域とからなる。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLからなる。VH及びVL領域は、さらに、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる比較的保存的な領域が散在する相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域に区分されてもよい。各VH及び各VLは、3つのCDRと4つのFRとからなり、アミノ末端からカルボキシル末端まで順にFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4が配列されている。
【0069】
「相補性決定領域」又は「CDR領域」又は「CDR」又は「超可変領域」は、抗体可変領域のうち、主に抗原エピトープとの結合を担うアミノ酸領域である。重鎖及び軽鎖のCDRは、通常、CDR1、CDR2及びCDR3と呼ばれ、N-末端から順に番号付けされる。
【0070】
特定のVH又はVLアミノ酸配列中のCDR配列を決定するための様々なスキームが当分野で知られている。Kabat相補性決定領域(CDR)は、配列の変異性に基づいて決定され、最も一般的であり(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、 National Institutes of Health、 Bethesda、 Md.(1991))、一方、Chothiaは、構造環の位置を指し(Chothiaら、(1987)J.Mol.Biol.196:901-917;Chothiaら(1989)Nature 342: 877-883)、AbM CDRは、Kabat CDRとChothia構造環との間の妥協であり、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアに使用されており、「接触性」(Contact)CDRは、入手可能な複雑な結晶構造の解析に基づいている。異なるCDR決定スキームによると、これらCDR中の各残基は、以下の通りである。
【0071】
【表1】
【0072】
抗体に関連する用語「バリアント」は、本明細書において、少なくとも1個、例えば、1~30個、又は1~20個、又は1~10個、例えば、1個、2個、3個、4個又は5個のアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入によってアミノ酸改変を有する目的抗体領域(例えば、重鎖可変領域又は軽鎖可変領域又は重鎖CDR領域又は軽鎖CDR領域)を含む抗体を意味し、ここで、バリアントは、改変前の抗体分子の生物学的特性を実質的に維持する。一態様において、本発明は、本明細書に記載の任意の抗体のバリアントを包含する。一実施形態において、抗体バリアントは、改変前の抗体の少なくとも60%、70%、80%、90%、又は100%の生物学的活性(例えば、抗原結合能)を維持する。抗体の重鎖可変領域又は軽鎖可変領域、又は各CDR領域は、単独又は組み合わせて改変させてもよいと理解される。いくつかの実施形態において、3つの重鎖CDRの1つ又は複数又はすべてのアミノ酸の改変は、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個又は10個を超えない。好ましくは、前記アミノ酸の改変は、アミノ酸置換、好ましくは保存的置換である。
【0073】
「保存的置換」という用語は、アミノ酸が同種類の別のアミノ酸で置換され、例えば、酸性アミノ酸が別の酸性アミノ酸に置換され、塩基性アミノ酸が別の塩基性アミノ酸に置換され、又は、中性アミノ酸が別の中性アミノ酸に置換されることを意味する。例示的な置換を以下の表に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
いくつかの実施形態において、抗体バリアントは、目的抗体配列領域において、親抗体と少なくとも80%、90%、95%、又は99%以上のアミノ酸同一性を有する。
【0076】
「単離された」抗体は、天然環境の成分から単離された抗体である。いくつかの実施形態において、抗体は、95%又は99%を超える純度まで精製され、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電焦点(IEF)、キャピラリー電気泳動)又はクロマトグラフィー(例えば、イオン交換又は逆相HPLC)により確定される。抗体の純度を評価する方法の概要について、例えば、Flatmanら、J.Chromatogr.B848:79-87(2007)を参照する。
【0077】
「単離された」核酸とは、その天然環境の成分から単離された核酸分子をいう。単離された核酸は、通常に該核酸分子を含む細胞内に含まれる核酸分子を含むが、該核酸分子は、染色体の外に存在するか、又はその天然の染色体位置と異なる染色体位置に存在する。
【0078】
「ベクター」という用語は、本明細書で使用される場合、それに連結された別の核酸を増殖させることができる核酸分子を意味する。この用語には、自己複製核酸構造としてのベクター、及びそれが導入された宿主細胞のゲノムに結合されたベクターが含まれる。いくつかのベクターは、それに作動可能に連結された核酸の発現を誘導し得る。本明細書では、このようなベクターを「発現ベクター」と呼ばれる。
【0079】
「宿主細胞」、「宿主細胞株」及び「宿主細胞培養物」という用語は、交換的に使用され、外因性核酸が導入された細胞を意味し、このような細胞の子孫を含む。宿主細胞は、継代の数に関係なく、一次形質転換細胞及びそれに由来する子孫を含む「形質転換体」及び「形質転換細胞」を含む。子孫は、核酸の含有量で親細胞と完全に同じではなく、突然変異を含んでもよい。本明細書では、最初に形質転換された細胞においてスクリーニング又は選択されたものと同じ機能又は生物学的活性を有する変異体の子孫が含まれる。
【0080】
抗体をコードするベクターをクローニング・発現するための適切な宿主細胞は、本明細書に記載の原核細胞又は真核細胞を含む。例えば、抗体は、特にグリコシル化及びFcエフェクタ機能を必要としない場合に、細菌で産生することができる。細菌における抗体断片及びポリペプチドの発現については、例えば、米国特許番号5,648,237、5,789,199及び5,840,523を参照し、また、Charlton、Methods in Molecular Biology、巻248(B.K.C.Lo、編集、Humana Press、Totowa、NJ、2003)、245~254頁、大腸菌における抗体断片の発現を記載している)を参照する。発現後、抗体は、可溶性画分中の細菌細胞ペーストから単離されてもよく、さらに精製されてもよい。
【0081】
一実施形態において、宿主細胞は真核のものである。別の実施形態において、宿主細胞は、酵母細胞、哺乳類細胞、又は、抗体又はその抗原結合断片の製造に適する他の細胞から選ばれる。例えば、糸状菌又は酵母のような真核微生物は、真菌および酵母株を含み、グリコシル化経路が「ヒト化」され、その結果、部分的又は完全なヒトグリコシル化パターンを有する抗体の産生を招致し、抗体をコードするベクターに関する適切なクローニング又は発現宿主である。Gerngross、Nat.Biotech.22:1409-1414(2004)、及びLiら、Nat.Biotech.24:210-215(2006)を参照する。グリコシル化抗体の発現に適する宿主細胞は、多細胞生物(無脊椎動物及び脊椎動物)に由来してもよい。また、脊椎動物細胞を宿主として用いることもできる。例えば、懸濁成長に適合するように改変された哺乳類細胞株を使用することができる。有用な哺乳類宿主細胞株の他の例示は、SV40で形質転換されたサル腎臓CV1系(COS-7)、ヒト胚腎臓系(Grahamら、J.Gen Virol.36:59(1977)に記載の293又は293細胞)などである。他の有用な哺乳類宿主細胞株は、DHFR-CHO細胞(Urlaubら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77 :216(1980))を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、及び、Y0、NS0やSp2/0などの骨髄腫細胞株を含む。抗体産生に適するいくつかの哺乳類宿主細胞株に関する概要については、Yazaki及びWu、Methods in Molecular Biology、巻248 (B.K.C.Lo、ed.、Humana Press、Totowa、NJ)、第255~268頁(2003)を参照する。
【0082】
対照ポリペプチド配列に対する「アミノ酸配列の同一性パーセント(%)」とは、配列の最大パーセント同一性を得るために配列をアラインメントし(必要に応じてギャップを導入する)、いずれかの保存的置換も配列同一性の部分とみなされず、その後、候補配列中のアミノ酸残基の、対照ポリペプチド配列中の同一アミノ酸残基に対するパーセントと定義される。アミノ酸配列の同一性パーセントを測定するために、配列アラインメントは、当該分野の様々な方法によって行うことができ、例えば、一般に入手可能なコンピュータソフトウェア、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN又はMEGALIGN(DNASTAR)ソフトウェアを使用することができる。当業者は、比較された配列全長について最大のアラインメントを得るために必要なアルゴリズムを含む、測定・アラインメントのための適切なパラメータを決定することができる。
配列の同一性パーセントが本願に記載されている場合、特に明記されていない限り、これらパーセントは、長い配列の全長に対して計算される。長い配列の全長に対する計算は、核酸配列とポリペプチド配列の両方に適用できる。
【0083】
「親和性」又は「結合親和性」は、結合対のメンバー(例えば、抗体と抗原と)の間の相互作用を反映する固有の結合親和性を意味する。分子Xの配合体Yに対する親和性は、通常に平衡解離定数(K)により表現され得る。平衡解離定数は、解離速度定数と結合速度定数と(それぞれkdis及びkon)の比である。親和性は、従来技術に知られている方法及び本明細書に記載されている方法を含む、当分野で知られている通常の方法によって測定することができる。
【0084】
本発明の一実施形態において、本発明に係る抗NGF抗体は、NGFに対する平衡解離定数(KD)が1×10-7M以下、1×10-8M以下、1×10-9M以下、1×10-10M以下、1×10-11M以下、1×10-12M以下、1×10-13M以下などである。
【0085】
「免疫複合体」とは、ベクターを含むが、これに限定されず、1つ又は複数の異種分子に結合する抗体を指す。
【0086】
「医薬組成物」という用語は、それに含まれる有効成分の生物学的活性を有効にする形で存在し、前記製剤を投与された被験体に対して許容できない毒性を有する追加の成分を含まない製剤を指す。
【0087】
本発明の別の態様は、NGF又はその免疫活性断片に結合する1つ又は複数のモノクローナル抗体を含む医薬組成物を提供する。本発明に提供の抗NGF抗体又は医薬組成物は、製剤中の適切な運搬担体、賦形剤及び他の試薬に統合され、併用することで、改善された移送、送達、耐性などを提供することが理解すべきである。
【0088】
「医薬担体」という用語は、治療剤と共に投与される希釈剤、アジュバント(例えば、フロイントアジュバント(完全及び不完全))、賦形剤、又は媒体を意味する。
【0089】
本発明に適用可能な医薬担体は、一般的なものであってもよく、「Handbook of Pharmaceutical Excipients」、第七版、R.C.Rowe、P.J.Seskey及びS.C.Owen、 Pharmaceutical Press、London、Chicagoに記載の医薬品製剤補助材料、並びに、「Remington’SpharmaceuticalSciences」、E.W.Martin、Mack Publishing Co、Easton、 PA出版、 第21版、2012、に記載の抗体の送達に適する組成物及び製剤を参照する。
【0090】
「有効量」という用語は、単回又は複数回の用量で投与された後、所望の効果の全て又は少なくとも一部を得るのに十分な量又は用量を意味し、「治療有効量」とは、被験体の症状の改善(例えば、1つ又は複数の症状の改善)及び/又は症状の進行の遅延などを含む、治療された被験体において所望の効果をもたらす量を意味する。疾患の予防有効量は、疾患の発症を予防・阻止・遅延させるのに十分な量である。有効量の決定が当業者の能力の範囲内であり、例えば、治療有効量は、関連する具体的な疾患、疾患の程度又は重篤度、各患者の応答、投与された具体的な抗体、投与モード、投与された製剤の生物学的利用特性、選択された投与スキーム、及び任意のコンパニオン療法の使用などに依存する。
【0091】
本明細書に使用する場合、「治療」とは、既存する症状、障害、病状や疾患の進行又は重篤度を遅延、中断、遮断、寛解、停止、低下又は逆転させることをいう。
【0092】
「被験体」又は「個体」という用語は、霊長類(例えば、ヒト及びサルなどの非ヒト霊長類)である。いくつかの実施形態において、個体又は被験体は、ヒトである。
【0093】
疼痛又は疼痛の1つ又は複数の症状の「寛解」は、抗NGF抗体を投与しない場合に比べて、疼痛の1つ又は複数の症状を軽減・改善することを意味する。「寛解」には、症状の持続時間を短縮・減少することも含まれる。
【0094】
「疼痛」という用語は、急性及び慢性疼痛、及び任意の炎症性成分を有する疼痛を含むあらゆる病因学的なものを意味する。例えば、本明細書に使用する「疼痛」は、疼痛の傷害感及び感覚を含み、疼痛は、当分野で知られている疼痛スコア及びその他の方法で客観的及び主観的な評価を行うことができる。
【0095】
「痛覚過敏」という用語は、正常な傷害性又は不快な刺激に対して、生体の生じる強化された疼痛反応を指す。
【0096】
2 本発明の例示的な抗NGF抗体TRN1027の配列
【0097】
【表3】
【0098】
SEQ ID NO:9:
ASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPPCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK
SEQ ID NO:10:
GQPKAAPSVTLFPPSSEELQANKATLVCLISDFYPGAVTVAWKADSSPVKAGVETTTPSKQSNNKYAASSYLSLTPEQWKSHRSYSCQVTHEGSTVEKTVAPTECS
【0099】
【表4】

実施例
【0100】
以下、実施例を用い、本発明をさらに説明するが、実施例は、例示的に限定的ではないように説明され、当業者が様々な変更を行うことができることが理解すべきである。
【0101】
特に明確的に明記されていない限り、本発明の実施には、当分野における通常の化学的手法、生化学的手法、有機化学的手法、分子生物学的手法、微生物学的手法、組換えDNA技術、遺伝学的手法、免疫学的手法及び細胞生物学的手法が用いられる。これら方法の説明は、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第3版、2001);Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第2版、1989);Maniatisら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(1982);Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley及びSons、2008年7月更新);Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology、Greene Pub.Associates及びWiley-Interscience;Glover、DNA Cloning:A Practical Approach、vol.I&II(IRL Press、Oxford、1985);Anand、Techniques for the Analysis of Complex Genomes、(Academic Press、New York、1992);Transcription and Translation(B.Hames&S.Higgins、Eds.、1984);Perbal、A Practical Guide to Molecular Cloning(1984);Harlow及びLane、Antibodies、(Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、1998)Current Protocols in Immunology Q.E.Coligan、A.M.Kruisbeek、D.H.Margulies、E.M.Shevach及びW.Strober、eds.、1991);Annual Review of Immunology;並びにAdvances in Immunologyのような定期刊行物に掲載されている。
【0102】
以下の例示は、如何に本発明の方法及び組成物を準備・利用するかについて、当業者に完全な開示及び説明を提供するものであり、本発明の特許範囲を限定することを意図しているものではない。
【0103】
実施例1 ヒト抗NGF抗体の調製
1)PBMCの単離
多種の疾患を患っている患者にマウス神経成長因子(商品名:金路捷)を注射して30日間併用療法をした後(医者の指示に従う)、その末梢血液10mLをヘパリン含有抗凝固管に採取し、密度遠心分離法を利用し、血漿とPBMC細胞を単離した。具体的な操作は、以下の通りである。静脈血10mLを取り、400g、22℃で15分間遠心分離し、遠心分離後の上清である透明血漿層を吸引し、保存管に入れて-80℃で冷凍保存し、残りの部分を同じ量のRPMI1640培地と十分に混合し、リンパ球単離液Ficollを含む無菌遠心分離管にゆっくりと加え、液面の層別化を完全に維持し、2000rpmで20分間横型遠心分離し、毛細管で雲霧状層におけるPBMC細胞を吸引し、別の無菌遠心分離管に入れ、その体積の5倍以上のRPMI1640培地を加え、1500rpmで10分間遠心分離し、2回繰り返し洗浄し、細胞数をカウントした後、1×10/本、-80℃で凍結保存しておく。
【0104】
2)抗NGF抗体の力価検出
hNGF(Sino Biological)をpH9.6のリン酸塩で被覆し、緩衝液で2μg/mLに希釈し、0.1mL/ウェルで96ウェルプレートに加え、4℃で被覆して一晩放置し、ブロック液を用いて37℃で2時間ブロックした。段階希釈された血漿サンプル100μLを1次抗体として加えて、37℃で1時間インキュベートし、次に、HRP標識ヒツジ抗ヒトIgG(1:10000希釈)を2次抗体として加え、37℃で1時間インキュベートし、その後、100μL/ウェルの基質発色液TMBを加え、37℃で暗所に5分間放置した後、2M硫酸で反応を停止し、OD450値を読み取った。その結果、サンプルNs006は、高い吸光値があり(図1)、Ns006血清サンプルにおける抗NGF抗体は、力価が高く、hNGFに結合できることを示した。その後、Ns006サンプルとマークされたPBMCをフローソーティングに供した。
【0105】
3)フローサイトソーターによる単一プラズマ細胞の選別
上記の血清学的実験結果に基づいて、フローサイトメーター(BD、Facs Aria Sorp)により、Ns006サンプルのPBMCから単一プラズマ細胞を選別し、ゲーティングCD3/CD14/CD16/cd235a-CD19+CD20+/-CD38hi CD27hiを設定し、PBMCから特異的な細胞集団を選別した。さらに、hNGFタンパク質に対して特異的な記憶プラズマ細胞集団(>3%)を選別し、単一プラズマ細胞を選んで96ウェルPCRプレート(単細胞溶解液20μL/ウェル)に置き、ウェルごとに1つのプラズマ細胞が含まれるようにし、-80℃の冷蔵庫で保存しておく。
【0106】
4)単一プラズマ細胞からの抗体可変領域遺伝子の単離
まず、定常領域プライマー(CN107760690Bに開示のプライマー情報を参照)及びSuperscriptIII逆転写酵素(Invitrogen、Carlsbad、CA)を用い、実施例1のステップ3により得られた記憶プラズマ細胞から、cDNA第1鎖を逆転写合成した。次に、下記のPCR手順で抗体遺伝子を単離した。
第1サイクルのPCR:50μL系に、逆転写反応産物5μL、Taq酵素Mix 25μL、各サブタイプの重鎖及び軽鎖の抗体定常領域のプライマー25μMを加えた。反応条件は、以下の通りである。
95℃で5分間予備変性する。
サイクル条件:94℃で30s変性し、55℃で60sアニーリングさせ、72℃で90s伸長させるという35回のサイクルを繰り返す。
最後に72℃で7分間延長させ、反応産物を第2回PCR反応に用いた。
第2サイクルのPCR:50μL系に、第1回PCR反応産物3μL、Taq酵素Mix 25μL、各サブタイプの重鎖と軽鎖の抗体可変領域のプライマー20μMを加えた。反応条件は、以下の通りである。
95℃で5分間予備変性する。
サイクル条件:94℃で30s変性させ、58℃で60sアニーリングさせ(或いは、Lambda鎖に対して、64℃で60sアニーリングさせ)、72℃で90s伸長させるという35回のサイクルを繰り返す。
最後に72℃で7分間伸長させる。得られたPCR産物を1.2%アガロースゲル電気泳動により同定し、SEQ ID NO:7に示すような重鎖可変領域アミノ酸配列VHと、SEQ ID NO:8に示すような軽鎖可変領域アミノ酸配列VLとを有する可変領域遺伝子を得た。
【0107】
5)組換え抗体の発現ベクターの構築、発現及び精製
一実施形態において、上記同定により得られた抗体の可変領域遺伝子のPCR産物を、従来の方法でヒトIgG定常領域を含むpcDNA3.1+/C-(K)-DYKプラスミドにクローニングし、ヒト抗NGF抗体の発現ベクターを構築した後、発現ベクターを大腸菌DH5αコンピテント細菌に形質転換してベクター増幅を行い、ベクター(組換えプラスミド)を抽出した。得られた組換えプラスミドをHEK293細胞に共トランスフェクションした後、従来方法に従い、HEK293細胞を培養し、前記抗体を発現させた。培養物の上清を収集し、4000rpmで1時間遠心分離し、Protein Aアフィニティークロマトグラフィーで上清を精製した。精製した抗体の発現及び精製をSDS-PAGEにより検出した。SDS-PAGEの検出結果は、抗体の発現に成功したことを示し、前記抗体をTRN1027と命名し、その相対分子量は約180KD、その重鎖は、約55KD、軽鎖は、約30KDであった。
【0108】
実施例2 抗体の結合活性の検出
抗体TRN1027のhNGFへの結合活性をELISA試験により検出した。具体的には、2μg/mLのhNGFを抗原として、pH9.6の炭酸塩緩衝液で希釈して、96ウェルプレートに被覆し、4℃で一晩放置し、ブロック液で37℃で2時間ブロックした。ブロック液で抗体TRN1027を二倍希釈し、10μg/mLから12個の勾配で3倍希釈し、その後、各勾配の抗体TRN1027を96ウェルプレートに加え、37℃で1時間インキュベートした。PBST緩衝液で洗浄し、LHRP標識ヒツジ抗ヒトIgG(1:10000)を100μ/ウェルで加え、37℃で1時間インキュベートした。PBST緩衝液で洗浄し、暗所に置き、TMB発色液を100μL/ウェルで加え、37℃で5分間放置し、HSOで反応を停止した。波長450nmで検出し、結果を算出・分析した。本実験において、従来技術に開示の良好な効果を示す抗NGF抗体であるタネズマブ(Tanezumab)(CAS番号880266-57-9、CN102746399Bが開示され、E3とも呼ばれる)を陽性対照とした。
【0109】
その結果(図2参照)、E3がhNGFに結合した場合、EC50は、2.96ng/mLであり、一方、本願のヒト抗NGF抗体TRN1027がhNGFに結合した場合、EC50は1.067ng/mLであり、ヒト抗NGF抗体TRN1027が、強い結合活性を有することを示している。
【0110】
実施例3 抗体の結合親和性
抗体と抗原決定基との間の結合力は抗体親和性と呼ばれ、抗体分子と抗原決定基との結合能力を示す。本実施例において、表面プラズモン共鳴分析(BIACORE3000)を用いて、抗体TRN1027の抗原結合親和性を検出した。アミノ結合方法を用いて抗ヒトIgG(Fc)抗体をCM5センサーチップ(GE)の表面に固定して、抗NGF抗体をリガンドとして捕獲し、捕獲レベルを400RU程度に達し、異なる濃度のhNGFタンパク質を分析物として検出流路に流し、抗原と抗体の結合及び結合した複合体の解離に対してリアルタイムでモニタリングを行った。Biacore X100 Evaluation Software(2.0.1)を用いて動力学解析(解離定数(KD)の計算)を行った。
【0111】
その結果、図3に示すように、TRN1027の解離定数は1.68E-11Mまで低く、抗体TRN1027が抗原hNGFと強い結合親和性を有することを示している。
【0112】
実施例4 抗体の中和活性
本実施例において、抗NGF抗体のNGF依存性TrkA受容体に媒介される細胞増殖活性を阻害する能力をTF-1細胞(ヒト赤血球白血病細胞)で検出した(Cheva1ierら、Blood (1994)、83(6):1479-1485)。NGFは、TrkAに結合することができ、TrkAは、NGFの高親和性受容体であり、NGFに結合すると二量体となり、細胞内ドメインであるチロシンキナーゼ領域を活性化し、対応するチロシンリン酸化を引き起こし、それによって、下流のシグナル伝達系を活性化し、標的細胞を調節する機能を実行させて、TF-1細胞の増殖を誘導した。
【0113】
成長対数期のTF-1細胞(ATCC、CRL-2003TM)を37℃、5%COに置いて24時間飢餓培養した。基礎培地で濃度32ng/mLのNGF溶液を調製し、25μL/1ウェルの量で96ウェルプレートに加え、次に、基礎培地で濃度6μg/mLの本発明に係る抗体の溶液を調製し、これを出発濃度とし、その後、3倍希釈して8つの濃度勾配を得た。96ウェルプレートにそれぞれヒト抗NGF抗体の段階希釈溶液25μLを加え、37℃で30分間インキュベートした。96ウェルプレートの各ウェルに24時間飢餓培養した密度6×10/mLのTF-1細胞50μLを加え、hNGFの終濃度を8ng/mL、細胞の終密度を3×10/mLとした。さらに72時間培養した後、MTS試薬を加え、37℃で2時間インキュベートし、検出した。吸光値から抗体TRN1027のEC50を算出し、抗体濃度に対するシグナルの依存性を解析し、E3抗体を対照とした。
【0114】
その結果(図4)、抗体TRN1027及び対照E3抗体の用量反応曲線は、典型的なS型用量-効果反応曲線であることを示す。計算した結果、抗体TRN1027及び対照群では、NGFシグナルをブロックするEC50は、それぞれ3.01ng/mL、14.35ng/mLであった。本発明に係る抗体は、NGFに誘導されるTF-1細胞の増殖を阻害し、より優れた中和活性を有することを示している。
【0115】
また、本実施例において、PC-12細胞を用い、抗体TRN1027の中和活性を検出した。PC-12細胞株は、NGFに対する可逆的なニューロン発現反応を有する、移植可能なラットクロム親和性細胞腫に由来する。この細胞株は、NGF受容体TrkAを高発現し、生理的レベルのNGFに誘導された後、PC-12細胞は、交感ニューロンの特性を持つ細胞に分化し、成長因子関連機構の解析やニューロン分化の研究によく用いられている。
【0116】
まず、PC-12細胞の基礎培地で濃度32ng/mLのNGF溶液を調製し、96ウェル平底細胞培養プレートに25μL/1ウェルの量を添加した。次に、基礎培地で濃度6μg/mLの本発明に係る抗体の溶液を調製し、これを出発濃度とし、その後、3倍希釈して8つの濃度勾配を得た。96ウェルプレートにそれぞれ本発明に係るヒトNGF抗体の段階希釈溶液25μLを加え、37℃で30分間インキュベートした。その後、96ウェルプレートの各ウェルに密度2×10/mLのPC-12細胞50μLを加え、48時間培養し続けた。CellTiter-Glo化学発光細胞活性検出キットを用いて検出し、結果を算出した。
【0117】
NGFは、TrkAに結合することで、PC-12細胞の分化及びシナプス形成を促進し、PC-12細胞内の代謝活動能を増強する。光シグナルは、系中のATP量に比例し、ATPは、生細胞の数に正相関し、そのため、ATP含有量を検出することで細胞の活性を検出することができる。計算の結果、抗体TRN1027及びE3抗体の用量反応曲線は、典型的なS型用-効果反応曲線であり、そのEC50は、それぞれ8.826ng/mL、32.21ng/mLであった。本発明に係る抗体は、より高い中和活性を有し、NGFを中和して受容体TrkAへのNGFの結合をブロックすることができ、NGFに誘導されるPC-12細胞分化を阻害することを示す。
【0118】
実施例5 抗体とBDNF、NT-3、NT-4との交差反応
本発明は、ELISAにより、抗体TRN1027の他のニューロトロフィンに対する交差反応性を確定した。hBDNF、hNT-3、hNT-4(Absin)のそれぞれを抗原とし、200μg/ウェルで96ウェルプレートに被覆し、4℃で一晩放置し、その後、ブロック液で常温で2時間ブロックした。濃度の逓減した抗体TRN1027(範囲:10μg/ml~0μg/ml)を100μl/ウェルで加え、37℃で1時間インキュベートした。ヤギ抗ヒトIgG-HRP(1:10000)及び基質発色液TMBで抗体TRN1027を検出した。450nm~630nmの2波長でOD値を検出した。
【0119】
その結果、各濃度の抗体TRN1027は、いずれもhBDNF、hNT-3、hNT-4に結合しないから、NGF抗体は、BDNF、NT-3、NT-4と交差反応しないことが明らかになった。NT-3、NT-4、BDNFは、いずれも神経栄養ファミリーに属し、アミノ酸配列、空間構造及び生物機能において、NGFと高い同一性を有する。本発明者らは、本発明に係る抗NGF抗体が、他の神経栄養因子の生物学的活性を干渉せず、NGFのみに特異的に結合し、この特徴は、この抗体の臨床応用において、より直接的な治療効果を示すことができると考える。
【0120】
実施例6 抗体の抗痛覚過敏活性
抗体TRN1027の疼痛調節に対する役割を評価するために、以下の実験を行った。
【0121】
マウス(C57BL/6N、雄)を選び、VonFrey(IITC)繊維でマウスの左後足底の機械的離脱閾値(MWT:Mechanical Withdrawal Threshold)を3回測定し、3回の平均値を基礎疼痛閾値とした。翌日(1日目)、ブランク対照群を除き、他の各群のマウスは、左後足底皮内にCFA(3mg/ml)30μlを注射して炎症を起こした。24時間後(2日目)に同様の方法でマウスの左後足のMWTを3回検出し、平均値を投与前の疼痛閾値とした。MWTが大きすぎる動物、又は、小さすぎる動物を排除し、45匹の動物を選んでMWT値によって5群(n=9)に平均的に分け、その後、PBS又は被験物を皮下注射した。第1群は、ブランク対照群で、PBSを投与し、第2群は、モデル対照群で、PBSを投与し、第3群、第4群、第5群は、それぞれ10mg/kgの被験物TRN1027、E3、陰性対照抗体を投与し、投与後24時間(3日目)、48時間(4日目)、72時間(5日目)の疼痛閾値を測定し、投与後の疼痛閾値の上昇率を算出した。
疼痛閾値上昇率%=(MWT投与群-MWTモデル群)/MWTモデル群×100%
【0122】
単回皮下注射投与24時間後、TRN1027群、E3群及び陰性対照群のマウスのMWT値は、有意差を認めなかった。投与48時間後までに、TRN1027群、E3群のマウスのMWT値は、モデル群より有意に高く(P<0.01~0.001)、疼痛閾値の上昇率は、それぞれ28.77%、26.03%であった。投与72時間後、TRN1027及びE3群マウスのMWTは、モデル群と比較して統計学的有意差があり(P<0.01~0.001)、疼痛閾値の上昇率は、20%を超えた。一方、陰性対照抗体群のMWT値は、モデル群よりやや高かったが、統計学的有意差がなかった(P>0.05)(図5、表5)。従って、抗体TRN1027が、CFAに起因する炎症反応に対して、明らかに疼痛を寛解・治療する効果を有すること、即ち、本発明に係るヒト抗NGF抗体が、抗痛覚過敏活性を有することを示す。
【0123】
【表5】
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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