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特許7476347車両ブレーキシステムおよびそのアキュムレータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】車両ブレーキシステムおよびそのアキュムレータ
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/14 20060101AFI20240422BHJP
   B60T 17/00 20060101ALI20240422BHJP
   F15B 1/24 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
B60T13/14
B60T17/00 D
F15B1/24
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022563391
(86)(22)【出願日】2021-04-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-01
(86)【国際出願番号】 IB2021053200
(87)【国際公開番号】W WO2021229322
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-10-19
(31)【優先権主張番号】202010313514.8
(32)【優先日】2020-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ウェンイン シオン
(72)【発明者】
【氏名】ハイ ジャン
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-040402(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/00-13/74
B60T 15/00-17/22
F15B 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アキュムレータ(40)を備える車両ブレーキシステムであって、前記アキュムレータ(40)は、
流体ポート(412)を画定する第1の端部を有するシリンダ体(410)と、
前記シリンダ体(410)の第2の端部に取り付けられ、前記シリンダ体(410)と共に、前記流体ポート(412)に流体連通するピストンキャビティ(430)を画定するエンドキャップ(450)と、
前記ピストンキャビティ(430)に収容され、その中で軸線方向に往復移動することができるピストン(440)であって、前記ピストン(440)と前記エンドキャップ(450)との間に弾性部品(460)が挟まれており、前記ピストンキャビティ(430)は、前記ピストン(440)によって、前記流体ポート(412)に流体連通する高圧側と、弾性部品(460)が位置する低圧側とに分割されている、ピストンと、
を備え、
前記アキュムレータ(40)は、前記ピストンキャビティ(430)の前記高圧側から前記ピストンキャビティ(430)の前記低圧側に漏出したブレーキ液を前記低圧側から離れる方向に誘導するように構成された排出口(499)をさらに備え、
前記排出口(499)は、漏出した前記ブレーキ液を、前記シリンダ体(410)の外側に位置する外部導管を介して、常圧環境にある容器に誘導するように構成されている、車両ブレーキシステム。
【請求項2】
前記外部導管は、剛性導管または軟性導管である、請求項記載の車両ブレーキシステム。
【請求項3】
アキュムレータ(40)を備える車両ブレーキシステムであって、前記アキュムレータ(40)は、
流体ポート(412)を画定する第1の端部を有するシリンダ体(410)と、
前記シリンダ体(410)の第2の端部に取り付けられ、前記シリンダ体(410)と共に、前記流体ポート(412)に流体連通するピストンキャビティ(430)を画定するエンドキャップ(450)と、
前記ピストンキャビティ(430)に収容され、その中で軸線方向に往復移動することができるピストン(440)であって、前記ピストン(440)と前記エンドキャップ(450)との間に弾性部品(460)が挟まれており、前記ピストンキャビティ(430)は、前記ピストン(440)によって、前記流体ポート(412)に流体連通する高圧側と、弾性部品(460)が位置する低圧側とに分割されている、ピストンと、
を備え、
前記アキュムレータ(40)は、前記ピストンキャビティ(430)の前記高圧側から前記ピストンキャビティ(430)の前記低圧側に漏出したブレーキ液を前記低圧側から離れる方向に誘導するように構成された排出口(499)をさらに備え、
前記排出口(499)は、前記低圧側に漏出した前記ブレーキ液を、前記シリンダ体(410)の外側に位置する外部導管を介して、かつ/または前記シリンダ体(410)の内部に延びる内部導管を介して、前記流体ポート(412)から排出された前記ブレーキ液の流れに合流させるように構成されている、車両ブレーキシステム。
【請求項4】
前記排出口(499)は、漏出した前記ブレーキ液が前記低圧側から流出することを許容するものの、前記ブレーキ液が前記低圧側に流入することを許容しない逆止弁を備える、請求項記載の車両ブレーキシステム。
【請求項5】
前記逆止弁の開弁圧はほぼ0である、請求項記載の車両ブレーキシステム。
【請求項6】
アキュムレータ(40)を備える車両ブレーキシステムであって、前記アキュムレータ(40)は、
流体ポート(412)を画定する第1の端部を有するシリンダ体(410)と、
前記シリンダ体(410)の第2の端部に取り付けられ、前記シリンダ体(410)と共に、前記流体ポート(412)に流体連通するピストンキャビティ(430)を画定するエンドキャップ(450)と、
前記ピストンキャビティ(430)に収容され、その中で軸線方向に往復移動することができるピストン(440)であって、前記ピストン(440)と前記エンドキャップ(450)との間に弾性部品(460)が挟まれており、前記ピストンキャビティ(430)は、前記ピストン(440)によって、前記流体ポート(412)に流体連通する高圧側と、弾性部品(460)が位置する低圧側とに分割されている、ピストンと、
を備え、
前記アキュムレータ(40)は、前記ピストンキャビティ(430)の前記高圧側から前記ピストンキャビティ(430)の前記低圧側に漏出したブレーキ液を前記低圧側から離れる方向に誘導するように構成された排出口(499)をさらに備え、
前記アキュムレータ(40)の前記エンドキャップ(450)は、中実部品である、車両ブレーキシステム。
【請求項7】
アキュムレータ(40)を備える車両ブレーキシステムであって、前記アキュムレータ(40)は、
流体ポート(412)を画定する第1の端部を有するシリンダ体(410)と、
前記シリンダ体(410)の第2の端部に取り付けられ、前記シリンダ体(410)と共に、前記流体ポート(412)に流体連通するピストンキャビティ(430)を画定するエンドキャップ(450)と、
前記ピストンキャビティ(430)に収容され、その中で軸線方向に往復移動することができるピストン(440)であって、前記ピストン(440)と前記エンドキャップ(450)との間に弾性部品(460)が挟まれており、前記ピストンキャビティ(430)は、前記ピストン(440)によって、前記流体ポート(412)に流体連通する高圧側と、弾性部品(460)が位置する低圧側とに分割されている、ピストンと、
を備え、
前記アキュムレータ(40)は、前記ピストンキャビティ(430)の前記高圧側から前記ピストンキャビティ(430)の前記低圧側に漏出したブレーキ液を前記低圧側から離れる方向に誘導するように構成された排出口(499)をさらに備え、
前記高圧側および前記低圧側の付近に配置された、前記ピストン(440)と前記シリンダ体(410)との間の第1のガイドリング(480)および第2のガイドリング(490)をさらに備える、車両ブレーキシステム。
【請求項8】
前記第1のガイドリング(480)および前記第2のガイドリング(490)は、開口を有する環状部材である、請求項記載の車両ブレーキシステム。
【請求項9】
前記第1のガイドリング(480)および前記第2のガイドリング(490)のうちの一方は、前記ピストン(440)の前記シリンダ体(410)に面する外面に形成された環状溝に嵌合し、前記第1のガイドリングおよび前記第2のガイドリングのうちの他方は、前記ピストン(440)の前記シリンダ体(410)に面する外面に形成された環状溝に嵌合するかまたは前記シリンダ体(410)のピストン(440)に面する内面に形成された環状溝に嵌合する、請求項記載の車両ブレーキシステム。
【請求項10】
前記第1のガイドリングと前記第2のガイドリングとの間に軸線方向で配置された密閉部材(470)をさらに備え、前記ピストン(440)の外面に、密閉部材(470)を収容するための密閉溝(475)が形成されている、請求項からまでのいずれか1項記載の車両ブレーキシステム。
【請求項11】
前記排出口(499)は、前記シリンダ体(410)および前記エンドキャップ(450)のうちの少なくとも一方に形成されている、請求項1から10までのいずれか1項記載の車両ブレーキシステム。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか1項記載の車両ブレーキシステムに使用される前記アキュムレータ(40)であるアキュムレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ブレーキシステムおよび当該車両ブレーキシステムのためのアキュムレータに関する。
【0002】
背景技術
一般に車両には、車両に安全な制動を提供するための車両ブレーキシステムが取り付けられている。車両ブレーキシステムは、主に、ブレーキ回路と、ブレーキ回路にブレーキ液を提供するブレーキマスタシリンダとを備える。ブレーキ回路は、電磁制御弁、アキュムレータおよびポンプなどの液圧部品を含み、車輪にあるブレーキホイールシリンダへのブレーキ圧力の伝達を実現かつ制御する。アキュムレータは、ブレーキ回路のエネルギー貯蔵装置であり、必要に応じて、ブレーキ液を充填してシステムにエネルギーを貯蔵したり、ブレーキ液を排出してエネルギーを解放したりする。
【0003】
アキュムレータは、シリンダ体と、シリンダ体内で軸線方向に往復運動するピストンとを備える。ピストンとシリンダ体との間には、一般に、誘導作用を果たす2つのガイドリングと、2つのガイドリング間で密閉作用を果たす密閉部材が配置されている。ピストンがシリンダ体内で軸線方向に運動すると、ガイドリングおよび密閉部材は、共にシリンダ体の内面に対して往復して摺動する。
【0004】
一方、硬質材料のガイドリングは、往復移動時に、摺動かつ接触するシリンダ体内面に擦り傷またはその他の摩擦欠陥を引き起こす可能性があり、このときに弾性材料の密閉部材がこの擦り傷領域と接触するように移動すると、ピストン外面とシリンダ体内面とをうまく密閉できなくなり、ブレーキ液の漏出を引き起こす可能性がある。他方、密閉部材の経年劣化、摩耗もブレーキ液の漏出につながる可能性がある。漏出したブレーキ液がある程度蓄積すると、ピストンの運動に影響が及ぶだけでなく、アキュムレータの性能が低下し、ひいては、アキュムレータエンドキャップが破裂する危険性が生じる。
【0005】
上述した技術的な問題を解決することが望ましい。
【0006】
発明の概要
本願の目的は、アキュムレータ内部の漏出したブレーキ液によるアキュムレータひいてはホイールブレーキシステムに対する影響を軽減し、さらには排除することである。
【0007】
本願の上記の目的は、アキュムレータを備える車両ブレーキシステムであって、アキュムレータは、
流体ポートを画定する第1の端部を有するシリンダ体と、
シリンダ体の第2の端部に取り付けられ、シリンダ体と共に、流体ポートに流体連通するピストンキャビティを画定するエンドキャップと、
ピストンキャビティに収容され、その中で軸線方向に往復移動することができるピストンであって、ピストンとエンドキャップとの間に弾性部品が挟まれており、ピストンキャビティは、ピストンによって、流体ポートに流体連通する高圧側と、弾性部品が位置する低圧側とに分割されている、ピストンと、
を備える、車両ブレーキシステムによって達成される。
【0008】
本願は、上記の車両ブレーキシステムに使用されるアキュムレータであるアキュムレータにも関する。
【0009】
本願の車両ブレーキシステムによれば、漏出したブレーキ液をピストンキャビティから離れる方向に誘導する排出口を配置することによって、アキュムレータ内の避けられないブレーキ液の漏出現象によってもたらされるアキュムレータへの悪影響が解決される。排出口の配置により、アキュムレータのシリンダ体とピストンとの間の漏出したブレーキ液をピストンキャビティから適時完全に排出するという技術的な目的が実現され、ブレーキ液の漏出がアキュムレータひいてはブレーキシステムに与える影響が最大限に軽減され、さらには、排除される。
【0010】
図面の説明では、図面と共に以下に記載される詳細な説明から、本願の前述の態様および他の態様がより完全に理解され得る。説明を明確にし、要旨を強調するために、各図面は原寸に比例して描かれておらず、本願の要旨に関係のない部分は省略されることがあるが、本願の理解に影響を与えないことに留意されたい。例えば、本願の車両ブレーキシステムは、本願の要旨に関連しないため、図面に示されていない多くの構成要素をさらに含むことがあり、図面に示されている構成要素は、車両ブレーキシステムのすべての実施形態に存在しなければならないわけでもない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本願の第1の実施例による、車両ブレーキシステムの一部分を示す簡略化された液圧回路図である。
図2】本願の第2の実施例による、車両ブレーキシステムの一部分を示す簡略化された液圧回路図である。
図3図1の車両ブレーキシステムでの使用に適したアキュムレータの一部分を示す断面図である。
【0012】
発明を実施するための形態
本願の各図面において、構造的に同一であるかまたは機能的に類似している部品または特徴は、図面において同じ参照番号で示されている。
【0013】
図1に示すように、本願の第1の実施例による車両ブレーキシステムは、ブレーキマスタシリンダ10と、ブレーキ液を貯蔵するブレーキ液リザーバ20と、当該ブレーキマスタシリンダ10と動作可能に連結されたブレーキペダル30と、を備える。ブレーキマスタシリンダ10は、ブレーキ液リザーバ20と選択的に流体連通して、そこからブレーキ液を収容し、ブレーキマスタシリンダ10とブレーキペダル30との間にブレーキブースタ(図示せず)を接続することができる。ブレーキペダル30を作動させるかまたは押下することで、ブレーキマスタシリンダ10は、ブレーキブースタからブレーキアシストを得て、ブレーキマスタシリンダ10内のブレーキ液を加圧かつ供給することができる。この部分は、本願の要旨ではないので、ここでは詳しく説明しない。
【0014】
図1に車両ブレーキシステムの対角二回路式ブレーキシステムが示され、図には、左後輪および右前輪のブレーキ回路部分が示されている。
【0015】
図示されたブレーキ回路において、車両ブレーキシステムは、ブレーキラインを備える。ブレーキラインは、ブレーキマスタシリンダ10の液出口を起点とした主ブレーキラインL1と、常開制御弁15を通った後に主ブレーキラインL1によって分岐または形成される第1の副ブレーキラインL11および第2の副ブレーキラインL12と、を備える。第1の副ブレーキラインL11および第2の副ブレーキラインL12には、第1の常開制御弁25および第2の常開制御弁35がそれぞれ設けられ、第1の常開制御弁25は、左後輪ブレーキホイールシリンダ26を制御するように配置され、第2の常開制御弁35は、右前輪ブレーキホイールシリンダ36を制御するように配置されている。本願では、常開制御弁25および35は、2位置電磁弁として構成され得、当該電磁弁は、電子制御装置、例えば車両の中央電子制御装置(ECU)の制御により、流体の流れを許容する開放状態と流体の流れを禁止する遮断状態とに切り替えられる。「常開制御弁」とは、給電されていない状況では常に開放状態にあり、給電されたときに遮断状態に切り替わる弁を指す。
【0016】
図1に示されるブレーキ回路において、車両ブレーキシステムは、解放ラインをさらに備える。解放ラインは、左後輪のブレーキホイールシリンダ26を起点とする第1の副解放回路L21および右前輪のブレーキホイールシリンダ36を起点とする第2の副解放回路L22を備える。第1の副解放回路L21および第1の副解放回路L22には、常閉制御弁45、55がそれぞれ配置されている。それぞれの常閉制御弁45、55を通った後、第1の副解放回路L21および第1の副解放回路L22は、主解放回路L2に収束される。主解放回路L2上に、アキュムレータ40、およびブレーキ液の流れ方向に沿ってアキュムレータ40の下流側に位置するポンプ50が配置されている。ポンプ50の液出口は、主ブレーキラインL1に通じており、ここで主解放回路L2が主ブレーキラインL1に流体的に接続されている。常開制御弁と同様に、「常閉制御弁」とは、給電されていない状況では常に遮断状態にあり、給電されたときに開放状態に切り替わると弁を指す。本願における各制御弁の状態および切り替えならびに/またはブレーキペダル30の状態はいずれも、車両のECUによって監視または制御され得る。
【0017】
任意選択で、図1に示されるように、過圧保護を提供するために、各常開制御弁15、25、35に、逆止弁14、24、34を並列に接続することができる。
【0018】
図1に示される車両ブレーキシステムでは、ブレーキペダル30が作動すると、例えば、運転者が車両運転中にブレーキペダル30を踏むと、圧力差によりブースタがアシストを生成し、ブレーキマスタシリンダ10は、ブースタからの増大した力を受けてブレーキ圧力を生成し、内部のブレーキ液が加圧されて液出口から主ブレーキラインL1へと排出される。主ブレーキラインL1に流入したブレーキ液は、開放状態にある常開制御弁15および開放状態にある常開制御弁25を順次通って、左後輪のブレーキホイールシリンダ26に流入し、左後輪にブレーキ力を提供する。同様に、主ブレーキラインL1に流入したブレーキ液は、開放状態にある常開制御弁15および開放状態にある常開制御弁35を順次通って、右前輪のブレーキホイールシリンダ36に流入し、ブレーキペダル30が解放されたとき、またはその他の理由によりブレーキホイールシリンダ内のブレーキ圧力を下げる必要があるときに、右前輪にブレーキ力を提供する。電子制御装置、例えば車両ECUの制御下で、常閉制御弁45および55は、遮断状態から開放状態に切り替わり、副ブレーキラインL11およびL12上の常開制御弁45および55は、開放状態から遮断状態に切り替わり、これによりブレーキホイールシリンダ26および36内のブレーキ液は、副解放ラインL21およびL22に流入し、すでに切り替えられている開放状態にある常閉制御弁45および55を通る。流れが常閉制御弁45および55を通ると、副解放ラインL21およびL22内のブレーキ液が主解放ラインL2内に収束し、アキュムレータ40内に流入し、貯蔵される。モータ70が起動すると、ポンプ50が起動し、アキュムレータ40内の加圧されたブレーキ液が排出され、逆止弁60が開き、ポンプ50に圧送される。その後、ブレーキ液は、ポンプ50によって主ブレーキラインL1に圧送され、常開制御弁15を通ってブレーキマスタシリンダ10に戻される。
【0019】
上記は、本第1の実施例の車両ブレーキシステムのうちの1つのブレーキ回路の動作原理であり、当業者であれば理解できるように、左前輪のブレーキホイールシリンダおよび右後輪のブレーキホイールシリンダから構成される別のブレーキ回路は、左後輪ブレーキホイールシリンダおよび右前輪ブレーキホイールシリンダから構成されるブレーキ回路について上述したものと同様であることから、ここでは説明を繰り返さない。
【0020】
図1の実施例で分かるように、車両ブレーキシステムは、アキュムレータ40およびブレーキ液リザーバ20を流体連通させる排出ラインL3をさらに備える。排出ラインL3は、アキュムレータ40内の漏出したブレーキ液を常圧環境にあるブレーキ液リザーバ20に誘導するように構成されている。アキュムレータ40内のブレーキ液の漏出が避けられない状況では、漏出したブレーキ液を適時に排出するための排出ラインL3を配置することは非常に有利であり、これにより、漏れたブレーキ液をアキュムレータから適時に排出することができ、アキュムレータの機能実行および特性が損なわれることはない。
【0021】
図2は、本願の第2の実施例による車両ブレーキシステムの一部分の液圧回路図である。本実施例は、図1の第1の実施例とは異なり、本実施例の排出ラインL3は、アキュムレータ40内の漏出したブレーキ液を、アキュムレータ40からポンプ50に排出されるブレーキ液の流れの中に誘導するように構成されている。ポンプ50の作動によって発生する負圧下では、アキュムレータ40内の加圧されたブレーキ液が排出され、アキュムレータ40内の漏出したブレーキ液がこの負圧環境下に導入される。この負圧環境によって、アキュムレータ40内の漏出したブレーキ液をより完全に排出することができる。
【0022】
任意選択で、図2に示されるように、アキュムレータ40の排出口には逆止弁42が配置され、この逆止弁の開弁圧は0に設定され、すなわちアキュムレータ40内の漏出したブレーキ液の排出の妨げにならないように設定されている。しかし、この逆止弁の配置により、事故時にブレーキ液がアキュムレータに逆流する可能性を排除できることは有利である。
【0023】
図3は、図1および図2の車両ブレーキシステムに使用するのに適したアキュムレータ40の一部分を示す断面図を示している。
【0024】
アキュムレータ40は、シリンダ体410を備え、シリンダ体410は、図示のように一体に形成されてもよいし、別々に形成された後に密閉して一緒に取り付けられもよい、側部414および第1の端部416を備える。第1の端部416は、ブレーキ液がアキュムレータ40に出入りすることを許容する流体ポート412を画定する。シリンダキャップまたはプラグ450は、シリンダ体410の第2の端部に密封して取り付けられている。シリンダ体410およびシリンダキャップ450は共に、ピストンキャビティ430を画定し、ピストン440は、ピストンキャビティ430に収容され、その中で軸線方向Zに沿って往復移動し得る。
【0025】
ピストンキャビティ430の場合、ピストン440のシリンダ体410の流体ポート412に近い一方の側を高圧側と呼び、それとは逆に、弾性部品460が位置する一方の側を低圧側と呼ぶ。弾性部品460は、ピストンキャビティ430の低圧側において、ピストン440とエンドキャップ450との間に挟まれている。弾性部品460は、ばねまたは任意の他の形態の弾性部品とすることができる。
【0026】
図3において、弾性部品460の一方の端部はピストン440に接触し、他方の端部はエンドキャップ450に接触する。エンドキャップ450は、中実基部452と、中実基部452からピストンキャビティ430に向かって突出する突起454と、を備える中実部品である。弾性部品460は、エンドキャップ450の突起454にそれぞれ嵌着されて、弾性部品460の位置を安定させ、固定する。図示しない一構造において、同様に弾性部品460を安定させ、固定する目的で、弾性部品460の少なくとも一部分を収容するための、ピストン440の低圧側端面からピストン440の内部に向かって延び、その内部に終端する凹部が、ピストン440に形成されてもよい。
【0027】
ブレーキシリンダ体からのブレーキ液がアキュムレータ40の流体ポート412を通ってピストンキャビティ430に流入すると、ブレーキ液はピストンキャビティ430の高圧側に到達し、ブレーキ液によってピストン440が弾性部品460の弾性力に抗して低圧側に向かって移動し、弾性部品460は、アキュムレーション動作を完了する。車両ブレーキシステムのポンプ50が起動すると、ピストンキャビティ430の高圧側に位置するブレーキ液が流体ポート412を通ってアキュムレータ40から圧送され、弾性部品460は、ピストンの高圧側に向かって移動し、エネルギーを解放する。
【0028】
アキュムレータ40は、ピストンキャビティ430の高圧側および低圧側の付近でピストン440にそれぞれ配置された第1のガイドリング480および第2のガイドリング490をさらに備え、これらは、ピストン440がピストンキャビティ430内で軸線方向に移動するときに誘導作用を果たす。第1のガイドリング480と第2のガイドリング490との間には、軸線方向Zに沿って密閉部材470が配置されている。
【0029】
図3の構造において、ピストン440の外面に、第1のガイドリング480、第2のガイドリング490および密閉部材470を取り付けるのに適した環状溝485、495、475が形成されている。図示の実施例において、第1のガイドリング480および第2のガイドリング490は、ピストン440がピストンキャビティ430に取り付けられる前にピストン440の対応する環状溝485および495に嵌合できるように、開口を有する環状部材として形成されている。密閉部材470は、当業者に公知の密閉部品、例えば0リングであり得る。同様に、ピストン440がピストンキャビティ430に取り付けられる前に、密閉部材470は、環状溝475に嵌着され係合される。上記の構造を図3に示したが、当業者であれば理解できるように、第1のガイドリング480および第2のガイドリング490と密閉部材470とは、図3に示された構成とは異なる構成を有していてもよく、例えば、第1のガイドリング480および第2のガイドリング490のうちの一方は、ピストンキャビティ430に面するシリンダ体410に形成された内面に適合するように設計され、かつピストン440の軸線方向移動中に密閉部材470の往復軸線方向移動に干渉しないように設計され得る。これにより、密閉部材470の摩耗をある程度減少させることができ、その結果、ブレーキ液の漏出を減少させることができる。
【0030】
しかし、ピストン440の高圧側から、相対的に移動するピストン440の外面とピストンキャビティ430の内面との間の空間を通して、ピストン440の低圧側へとブレーキ液が漏出することは不可避である。
【0031】
漏出したブレーキ液がアキュムレータ40の性能を損なう問題を解決するために、漏出したブレーキ液を適時に排出する方法を使用することができる。このため、本願のアキュムレータ40は、ピストン440の高圧側から漏出したブレーキ液を低圧側へ排出するように構成された排出口499を備える。
【0032】
図1の車両用ブレーキシステムの第1の実施例によれば、漏出したブレーキ液は、常圧環境にある容器、例えば、ブレーキ液リザーバまたは他の任意の容器に排出される。この場合、排出口499は、図3に示されるように、シリンダ体410を貫通してアキュムレータ40の外側まで延びている。使用時には、排出口499に外部管路が接続され、外部管路の他方の端部は常圧環境にある容器に通じている。外部管路は、当該技術分野において一般的に使用される任意の適切な管路、例えば、剛性金属硬質導管、好ましくは、携帯性および柔軟性の利点を提供できる非金属可撓性導管であってもよい。
【0033】
任意選択で、図2の車両ブレーキシステムの第2の実施例によれば、漏出したブレーキ液は負圧環境中に排出される。このため、排出口499は、アキュムレータ40のシリンダ体410の内部に形成された内部導管および/または上述したようなアキュムレータ40のシリンダ体410の外部に位置する外部導管を通じて主解放ラインL2に接続し、アキュムレータ40が高圧ブレーキ液を排出したときに、ピストン440の低圧側に漏出したブレーキ液がポンプ50に一緒に送り込まれるように構成されてもよい。本実施例では、図2に示されるような逆止弁42は、低圧側のブレーキ液の排出を許容しつつ、当該低圧側のブレーキ液のピストンキャビティ430への流入を禁止するために必要である。このような状況では、図示しないが、上述した排出口400は、シリンダ体410を貫通せず、シリンダ体410内部の流体通路を介して流体ポート412に接続される方法を使用してもよい。
【0034】
本願は、排出口499の数量、形状、サイズおよび配置を制限するものではない。
【0035】
任意選択で、エンドキャップ450が、ピストンキャビティ430、具体的にはピストン440の低圧側の少なくとも一部分を画定し、排出口499をエンドキャップ450の適切な位置に配置するようにことも可能である。またピストン440の低圧側に漏出したブレーキ液をシリンダ体410の外側に誘導できる限り、アキュムレータ40の排出口499は、シリンダ体410とエンドキャップ450との両方を通ってさらに延びてもよい。
【0036】
本願によれば、排出口499が配置されることによって、アキュムレータ40のエンドキャップ450は、通気性部材を配置するための貫通孔を加工する必要がなくなり、エンドキャップ450の加工製造コストを下げ、エンドキャップ450内に高価な通気性部材を配置する必要がなくなる。
【0037】
本願の車両ブレーキシステムを、図面の具体的な実施例を参照して詳しく上述した。本願のアキュムレータは、アキュムレータで漏出が発生する状況を完全に回避できない状況において、漏出したブレーキ液をアキュムレータから適時に排出するように誘導するという目的を実現し、アキュムレータの性能を損なうブレーキ液の漏出という技術的な問題を回避し、ひいては、排除することができる。漏出したブレーキ液は常圧環境に誘導されるかまたは負圧環境に誘導され、これにより漏出したブレーキ液をより完全に排出することができる。
【0038】
当業者はまた、本願が、図面に示され、上述された特定の実施例に限定されず、本願の主旨および範囲から逸脱することなく、様々な置換、変更および修正が考案され得ることも理解すべきである。
図1
図2
図3