(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】ポンプ装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/42 20060101AFI20240422BHJP
F16L 55/04 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
B60T8/42
F16L55/04
(21)【出願番号】P 2022566509
(86)(22)【出願日】2021-11-04
(86)【国際出願番号】 IB2021060207
(87)【国際公開番号】W WO2022118112
(87)【国際公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2020199551
(32)【優先日】2020-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(72)【発明者】
【氏名】坂本 貴紀
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/207385(WO,A1)
【文献】特開2016-124342(JP,A)
【文献】国際公開第2020/109919(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第2783930(EP,A2)
【文献】米国特許出願公開第2004/166004(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102013200370(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/42
F16L 55/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体(51)内に設けられ、ポンプ(60)から吐出されるブレーキ液の脈動を低減する脈動低減部(80)を備えるポンプ装置において、
前記脈動低減部(80)は、
前記基体(51)に設けられる円筒状の収容室(58)と、
前記収容室(58)を上流側領域と下流側領域とに分け、中央に穴部(83b)を有する固定部材(83)と、
前記上流側領域に備えられた、軸方向へ摺動可能な上流側可動部材(84)と、前記ブレーキ液が流入する流入開口(95b)と連通し、前記上流側可動部材(84)と前記収容室(58)の蓋部(82)との間に形成される流入開口側ダンパ部(81a)と、前記上流側可動部材(84)と前記固定部材(83)との間に形成される固定部材側ダンパ部(81b)と、
前記下流側領域に備えられた、軸方向へ移動可能な下流側可動部材(85)と、前記ブレーキ液が流出する流出開口(95c)と連通し、前記固定部材(83)と前記収容室(58)の底部(58a)との間に形成される流出開口側ダンパ部(81c)と、
前記流入開口側ダンパ部(81a)に備えられた、前記上流側可動部材(84)を前記固定部材(83)側へ付勢する流入開口側弾性体(92)と、
前記固定部材側ダンパ部(81b)に備えられた、前記上流側可動部材(84)を前記蓋部(82)側へ付勢する固定部材側弾性体(91)と、
前記流出開口側ダンパ部(81c)に備えられた、前記下流側可動部材(85)を前記固定部材(83)側へ付勢することにより前記固定部材(83)の穴部(83b)を閉塞可能な流出開口側弾性体(96)と、
前記収容室(58)の中心軸上に形成され、前記下流側可動部材(85)を貫通し、前記底部(58a)から前記固定部材側ダンパ部(81b)へ延びる円柱部(86d)を備えた円柱状部材(86)と、
を含み、
前記上流側可動部材(84)は、前記蓋部(82)側から押圧される弁部材(94)が着座することにより閉鎖可能に構成されるシート部(84d)を有する貫通孔(84b)を備え、
前記流入開口側ダンパ部(81a)に流入する前記ブレーキ液による圧力により前記上流側可動部材(84)が前記固定部材(83)側へ移動する過程において、前記弁部材(94)が前記円柱部(86d)に当接して前記シート部(84d)から離座することにより、前記貫通孔(84b)から前記ブレーキ液が流入して前記固定部材側ダンパ部(81b)の圧力が上昇し、
前記固定部材側ダンパ部(81b)の圧力上昇により、前記固定部材(83)に当接していた前記下流側可動部材(85)が前記底部(58a)側へ移動し、前記ブレーキ液が、前記流出開口側ダンパ部(81c)を通過し、前記流出開口(95c)から流出する、ポンプ装置。
【請求項5】
前記円柱状部材(86)は、前記下流側可動部材(85)の動きをガイドする、請求項1から4のいずれか1項に記載のポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキの液圧回路に備えられるポンプ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用のブレーキシステムとして、マスタシリンダとホイールシリンダとを連通させる主流路と、主流路のブレーキ液を逃がす副流路と、副流路の途中部にブレーキ液を供給する供給流路と、を有する液圧回路を備えているものがある。
【0003】
例えば、副流路のブレーキ液の流れにおける上流側端部は、主流路のうちの、込め弁を基準とするホイールシリンダ側の領域に接続されており、副流路の下流側端部は、主流路のうちの、込め弁を基準とするマスタシリンダ側の領域に接続されている。また、供給流路のブレーキ液の流れにおける上流側端部は、マスタシリンダに連通し、供給流路の下流側端部は、副流路のうちの、弛め弁を基準とする下流側の領域であって、且つ、その領域に設けられているポンプの吸込側に接続されている。また、主流路のうちの、副流路の下流側端部との接続部を基準とするマスタシリンダ側の領域に、第1切換弁が設けられており、供給流路の途中部に第2切換弁が設けられている。
【0004】
例えば、込め弁、弛め弁、ポンプ、第1切換弁、及び第2切換弁と、それらが組み込まれている基体と、それらの動作を司る制御器によって、液圧制御ユニットが構成される。液圧制御ユニットにおいて、込め弁、弛め弁、ポンプ、第1切換弁、及び第2切換弁の動作が制御されることで、液圧回路の液圧が制御される。
【0005】
特に、ブレーキシステムの入力部(例えばブレーキペダル等)におけるブレーキ操作の状態に関わらず、ホイールシリンダのブレーキ液の液圧を上昇させる必要が生じた際には、込め弁が開き、弛め弁が閉じ、第1切換弁が閉じ、且つ、第2切換弁が開いた状態で、ポンプが駆動される。
【0006】
ポンプが駆動されると、ブレーキ液に生じた脈動がブレーキシステムから車両のエンジンルームへと伝わっていき、騒音が発生する場合がある。この騒音は、使用者(ドライバー)が不快と感じる程の大きさになることもある。このため、ブレーキシステムの従来の液圧制御ユニットには、ポンプの駆動時に発生する脈動の低減を図ったものも提案されている。例えば、特許文献1に記載のブレーキシステムの液圧制御ユニットは、1つの液圧回路内に1つのポンプを備え、該ポンプの吐出側に、該ポンプから吐出されたブレーキ液の脈動を低減させる脈動低減部を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
昨今のブレーキシステムでは、車両へのブレーキシステムの搭載性の向上を目的として、倍力装置が小型化又は省略される場合がある。このようなブレーキシステムにおいては、ホイールシリンダのブレーキ液の液圧が不足することが多くなるため、ポンプの駆動回数が増加する。つまり、このようなブレーキシステムにおいては、ポンプの駆動時に発生する脈動に起因した騒音が、より発生しやすくなる。このため、近年、ポンプの駆動時に発生する脈動のさらなる低減が求められている。
【0009】
ポンプの駆動時に発生する脈動のさらなる低減を実現させるための構成として、特許文献1に記載のブレーキシステムの液圧制御ユニットの構成によれば、金属ダイアフラムを複数重ね合わせたパルセーションダンパを有する液圧制動装置が提案されている。しかしながら、同一の金属ダイアフラムを複数重ね合わせる構造では、ポンプモータの出力や回転速度の違いに基づく、その液圧制御ユニットの特性に起因する脈動に対応するには限界がある。
【0010】
本発明は、上述の課題を背景としてなされたものであり、ポンプの駆動時に発生する脈動に起因する騒音を低減することのできるブレーキシステムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明に係るポンプ装置は、
基体内に設けられ、ポンプから吐出されるブレーキ液の脈動を低減する脈動低減部を備えるポンプ装置において、
前記脈動低減部は、
前記基体に設けられる円筒状の収容室と、
前記収容室を上流側領域と下流側領域とに分け、中央に穴部を有する固定部材と、
前記上流側領域に備えられた、軸方向へ摺動可能な上流側可動部材と、前記ブレーキ液が流入する流入開口と連通し、前記上流側可動部材と前記収容室の蓋部との間に形成される流入開口側ダンパ部と、前記上流側可動部材と前記固定部材との間に形成される固定部材側ダンパ部と、
前記下流側領域に備えられた、軸方向へ移動可能な下流側可動部材と、前記ブレーキ液が流出する流出開口と連通し、前記固定部材と前記収容室の底部との間に形成される流出開口側ダンパ部と、
前記流入開口側ダンパ部に備えられた、前記上流側可動部材を前記固定部材側へ付勢する流入開口側弾性体と、
前記固定部材側ダンパ部に備えられた、前記上流側可動部材を前記蓋部側へ付勢する固定部材側弾性体と、
前記流出開口側ダンパ部に備えられた、前記下流側可動部材を前記固定部材側へ付勢することにより前記固定部材の穴部を閉塞可能な流出開口側弾性体と、
前記収容室の中心軸上に形成され、前記下流側可動部材を貫通し、前記底部から前記固定部材側ダンパ部へ延びる円柱部を備えた円柱状部材と、
を含み、
前記上流側可動部材は、前記蓋部側から押圧される弁部材が着座することにより閉鎖可能に構成されるシート部を有する貫通孔を備え、
前記流入開口側ダンパ部に流入する前記ブレーキ液による圧力により前記上流側可動部材が前記固定部材側へ移動する過程において、前記弁部材が前記円柱部に当接して前記シート部から離座することにより、前記貫通孔から前記ブレーキ液が流入して前記固定部材側ダンパ部の圧力が上昇し、
前記固定部材側ダンパ部の圧力上昇により、前記固定部材に当接していた前記下流側可動部材が前記底部側へ移動し、前記ブレーキ液が、前記流出開口側ダンパ部を通過し、前記流出開口から流出する様構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0012】
ブレーキシステムにおいて、ポンプの駆動時に発生するブレーキ液の脈動に起因する騒音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態に係るブレーキシステムの、システム構成の例を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るブレーキシステムの液圧制御ユニットにおける、ポンプ及びダンパユニットの基体への搭載状態の例を示す部分断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る、ポンプが駆動していない状態における、脈動低減部の断面拡大図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る、ポンプ駆動開始後、上流側可動部材の移動途中の状態における脈動低減部の断面拡大図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る、ポンプ駆動開始後、ブレーキ液が流出開口より流出する状態における脈動低減部の断面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る液圧制御ユニットについて、図面を用いて説明する。尚、以下では、本発明に係る液圧制御ユニットを含むブレーキシステムが、四輪車に搭載されている場合について説明しているが、本発明に係る液圧制御ユニットを含むブレーキシステムは、四輪車以外の他の車両(二輪車、トラック、バス等)に搭載されてもよい。また、以下で説明する構成、動作等は、一例であり、本発明に係る液圧制御ユニットを含むブレーキシステムは、そのような構成、動作等である場合に限定されない。また、各図において、同一の又は類似する部材又は部分には、同一の符号を付している、又は、符号を付すことを省略している。また、細かい構造については、適宜図示を簡略化又は省略している。
【0015】
<ブレーキシステム1の構成及び動作>
本実施の形態に係るブレーキシステム1の構成及び動作について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るブレーキシステムのシステム構成の例を示す図である。
【0016】
図1に示されるように、ブレーキシステム1は、車両100に搭載され、マスタシリンダ11とホイールシリンダ12とを連通させる主流路13と、主流路13のブレーキ液を逃がす副流路14と、副流路14にブレーキ液を供給する供給流路15と、を有する液圧回路2を含む。液圧回路2には、ブレーキ液が充填されている。
【0017】
尚、本実施の形態に係るブレーキシステム1は、液圧回路2として2つの液圧回路2a,2bを備えている。液圧回路2aは、主流路13によって、マスタシリンダ11と車輪RL,FRのホイールシリンダ12とを連通させる液圧回路である。液圧回路2bは、主流路13によって、マスタシリンダ11と車輪FL,RRのホイールシリンダ12とを連通させる液圧回路である。これら液圧回路2a,2bは、連通するホイールシリンダ12が異なる以外、同様の構成となっている。
【0018】
マスタシリンダ11には、ブレーキシステム1の入力部の一例であるブレーキペダル16と連動して往復動するピストン(図示省略)が内蔵されている。ブレーキペダル16とマスタシリンダ11のピストンとの間には、倍力装置17が介在しており、ピストンには、使用者の踏力が倍力されて伝達される。ホイールシリンダ12は、ブレーキキャリパ18に設けられている。ホイールシリンダ12のブレーキ液の液圧が増加すると、ブレーキキャリパ18のブレーキパッド19がロータ20に押し付けられて、車輪が制動される。
【0019】
副流路14の上流側端部は、主流路13の第1途中部13aに接続され、副流路14の下流側端部は、主流路13において、第1途中部13aよりも上流側の、第2途中部13bに接続されている。また、供給流路15の上流側端部は、マスタシリンダ11に連通し、供給流路15の下流側端部は、副流路14の第3途中部14aに接続されている。
【0020】
主流路13のうちの、第2途中部13bと第1途中部13aとの間の領域には、込め弁(EV)31が設けられている。副流路14のうちの、第1途中部13aと第3途中部14aとの間の領域には、弛め弁(AV)32が設けられている。副流路14のうちの、弛め弁32と第3途中部14aとの間の領域には、アキュムレータ33が設けられている。込め弁31は、例えば、非通電状態で開き、通電状態で閉じる電磁弁である。弛め弁32は、例えば、非通電状態で閉じ、通電状態で開く電磁弁である。
【0021】
また、副流路14のうちの、第3途中部14aと第2途中部13bとの間の領域には、ポンプ60が設けられている。ポンプ60の吸込側は、第3途中部14aと連通している。ポンプ60の吐出側は、主流路13の第2途中部13bと連通している。副流路14の一部であるポンプ60の吐出側と第2途中部13bとの間の領域には、脈動低減部80が設けられている。
【0022】
脈動低減部80は、ポンプ60から吐出されたブレーキ液の脈動を減衰させる。詳しくは、ポンプ60の吐出側は脈動低減部80のブレーキ液が流入する流入開口95b(
図2参照)と接続され、脈動低減部80内に一時的に貯留されたブレーキ液が流出する流出開口95c(
図2参照)と主流路13の第2途中部13bが接続される。尚、以下の説明においては、ポンプ60の吐出側と流入開口95bとの間を構成する流路を第1吐出流路140a、流出開口95cと主流路13の第2途中部13bとの間を構成する流路を第2吐出流路140bと称することとする。
【0023】
主流路13のうちの、第2途中部13bを基準とするマスタシリンダ11側の領域には、第1切換弁(USV)35が設けられている。供給流路15には、第2切換弁(HSV)36と、ダンパユニット37と、が設けられている。ダンパユニット37は、供給流路15のうちの、第2切換弁36と副流路14の第3途中部14aとの間の領域に設けられている。第1切換弁35は、例えば、非通電状態で開き、通電状態で閉じる電磁弁である。第2切換弁36は、例えば、非通電状態で閉じ、通電状態で開く電磁弁である。
【0024】
込め弁31と弛め弁32とアキュムレータ33とポンプ60と第1切換弁35と第2切換弁36とダンパユニット37と脈動低減部80とは、主流路13、副流路14、及び供給流路15を構成するための流路が内部に形成されている基体51に設けられている。各部材(込め弁31、弛め弁32、アキュムレータ33、ポンプ60、第1切換弁35、第2切換弁36、ダンパユニット37及び脈動低減部80)が、1つの基体51に纏めて設けられていてもよく、また、複数の基体51に分かれて設けられていてもよい。
【0025】
少なくとも、基体51と、基体51に設けられている各部材と、制御器(ECU)52と、によって、液圧制御ユニット50が構成される。液圧制御ユニット50において、込め弁31、弛め弁32、ポンプ60、第1切換弁35、及び第2切換弁36の動作が制御器52によって制御されることで、ホイールシリンダ12のブレーキ液の液圧が制御される。すなわち、制御器52は、込め弁31、弛め弁32、ポンプ60、第1切換弁35、及び第2切換弁36の動作を司るものである。
【0026】
制御器52は、1つであってもよく、また、複数に分かれていてもよい。また、制御器52は、基体51に取り付けられていてもよく、また、他の部材に取り付けられていてもよい。また、制御器52の一部又は全ては、例えば、マイコン、マイクロプロセッサユニット等で構成されてもよく、また、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
【0027】
制御器52は、例えば、周知の液圧制御動作(ABS制御動作、ESP制御動作等)に加えて、以下の液圧制御動作を実施する。込め弁31が開放され、弛め弁32が閉鎖され、第1切換弁35が開放され、且つ、第2切換弁36が閉鎖されている状態で、車両100のブレーキペダル16が操作された際に、ブレーキペダル16のポジションセンサの検出信号及び液圧回路2の液圧センサの検出信号から、液圧回路2の液圧の不足又は不足の可能性が検知されると、制御器52は、アクティブ増圧制御動作を開始する。
【0028】
アクティブ増圧制御動作において、制御器52は、込め弁31を開放状態のままにすることで、主流路13の第2途中部13bからホイールシリンダ12へのブレーキ液の流動を可能にする。また、制御器52は、弛め弁32を閉鎖状態のままにすることで、ホイールシリンダ12からアキュムレータ33へのブレーキ液の流動を制限する。また、制御器52は、第1切換弁35を閉鎖することで、マスタシリンダ11からポンプ60を介することなく主流路13の第2途中部13bに至る流路のブレーキ液の流動を制限する。また、制御器52は、第2切換弁36を開放することで、マスタシリンダ11からポンプ60を介して主流路13の第2途中部13bに至る流路のブレーキ液の流動を可能にする。また、制御器52は、ポンプ60を駆動させることで、ホイールシリンダ12のブレーキ液の液圧を上昇(増加)させる。
【0029】
液圧回路2の液圧の不足の解消又は回避が検知されると、制御器52は、第1切換弁35を開放させ、第2切換弁36を閉鎖させ、且つ、ポンプ60の駆動を停止することで、アクティブ増圧制御動作を終了する。
【0030】
ここで、ポンプ60が駆動されると、ブレーキ液に生じた脈動は、副流路14及び主流路13を通って、ホイールシリンダ12まで伝わっていくことがある。そして、この脈動はブレーキシステム1の液圧制御ユニット50を収容しているエンジンルームへも伝わっていき、騒音が発生する場合がある。この騒音は、使用者(ドライバー)が不快と感じる程の大きさになることもある。このため、ポンプ60の駆動時に発生する脈動の低減を図ることが重要である。
【0031】
そこで、本実施の形態に係るブレーキシステム1,つまり液圧制御ユニット50においては、ポンプ60から吐出されたブレーキ液は、脈動低減部80に流入する。そして、脈動低減部80に流入したブレーキ液は、該脈動低減部80において脈動が減衰された後、該脈動低減部80から下流側へ流れていくこととなる。このため、本実施の形態に係るブレーキシステム1、つまり液圧制御ユニット50は、ポンプ60の駆動時に発生する脈動を低減できる。
【0032】
尚、上述のアクティブ増圧制御においては、使用者がブレーキペダル16を操作し(踏み)、第2切換弁36が開いた状態でポンプ60が駆動される。このため、ブレーキ液に生じた脈動が供給流路15及びマスタシリンダ11を介してブレーキペダル16に伝搬することとなって、使用者に違和感を与えてしまう。このため、本実施の形態に係るブレーキシステム1、つまり液圧制御ユニット50は、
図1で示したようにダンパユニット37を備えていることが好ましい。ダンパユニット37によって、ポンプ60からブレーキペダル16へ伝播するブレーキ液の脈動を減衰できるからである。
【0033】
尚、ダンパユニット37は、倍力装置17が省略されたブレーキシステム1にダンパユニット37を設ける場合には、供給流路15のうちの、上流側端部と第2切換弁36との間の領域に設けられていてもよい。このような位置にダンパユニット37を設けることにより、使用者がブレーキペダル16を踏み込んだ際、ブレーキ液がダンパユニット37に流れ込むことができ、ブレーキペダル16に伝わる液圧回路2内のブレーキ液の反力が低減する。したがって、使用者がブレーキペダルを踏み込んだ際、倍力装置17を備えたブレーキシステム1と同様のブレーキペダル16の踏み込み量が得られる。このため、使用者は、倍力装置17が省略されたブレーキシステム1において、倍力装置17を備えたブレーキシステム1と同様の使用感を得ることができる。
【0034】
<ポンプ60及び脈動低減部80の基体51への搭載構成>
本実施の形態に係るブレーキシステム1の液圧制御ユニット50において、基体51へポンプ60及び脈動低減部80を搭載する際の構成の一例について説明する。
図2は、本発明の実施の形態に係るブレーキシステムの液圧制御ユニットにおける、ポンプ60及び脈動低減部80の基体への搭載状態の例を示す部分断面図である。
図2は、ポンプ60のピストン62を駆動する駆動軸57が取り外された状態を示している。このため、
図2では、駆動軸57及び該駆動軸57に形成された偏心部57aを想像線(二点鎖線)で図示している。
【0035】
図2に示されるように、基体51には、ポンプ60のピストン62を駆動する駆動軸57が設けられる駆動軸収容室59が形成されている。駆動軸収容室59は、基体51の外壁に形成されている有底穴である。また、基体51には、ポンプ60を収容するポンプ収容室53が形成されている。ポンプ収容室53は、基体51の外壁から駆動軸収容室59へ貫通する、円筒状で段付きの穴である。
【0036】
ポンプ収容室53に収容されるポンプ60は、シリンダ61及びピストン62等を備えている。シリンダ61は、シリンダ底部61bを有する円筒形状に形成されている。シリンダ61には、ピストン62の一端側が収容されている。そして、シリンダ61の内周面及びピストン62の前記一端で囲まれた空間がポンプ室63となる。このピストン62は、シリンダ61の軸方向に往復動自在となっている。また、ピストン62の他端側の端部である端部62aは、駆動軸収容室59内に突出している。更に、ピストン62のシリンダ61に収納されている部分には、環状のシリンダ側シール部材66が取り付けられている。このシリンダ側シール部材66により、ピストン62の外周面とシリンダ61の内周面との間でブレーキ液の漏出が防止されている。
【0037】
また、シリンダ61には、シリンダ底部61bとピストン62の間に、つまりポンプ室63にピストンスプリング67が収容されている。このピストンスプリング67により、ピストン62は、常時駆動軸収容室59側に付勢されている。これにより、ピストン62の端部62aは、駆動軸収容室59内の駆動軸57に形成された偏心部57aに当接している。偏心部57aは、その中心位置が駆動軸57の回転中心に対して偏心している。このため、駆動軸57が図示せぬ駆動源によって回転させられると、偏心部57aは、駆動軸57の回転中心に対して偏心回転運動することとなる。すなわち、偏心部57aが偏心回転運動することにより、該偏心部57aに端部62aが当接しているピストン62は、シリンダ61の軸方向に往復動することとなる。
【0038】
ピストン62のシリンダ61から突出している部分は、ポンプ収容室53の内周面に設けられたピストンガイド部材68によって摺動可能にガイドされている。また、ポンプ収容室53には、環状の駆動軸側シール部材69が、ピストンガイド部材68に隣接して取り付けられている。この駆動軸側シール部材69により、ピストン62の外周面から駆動軸収容室59側へのブレーキ液の漏出が防止されている。
【0039】
ピストン62には、軸方向に、シリンダ61のポンプ室63側に開口した有底穴62bが形成されている。ピストン62には、その外周面と有底穴62bとを連通する吸入口62cも形成されている。また、ピストン62には、有底穴62bの開口部を開閉自在に閉塞する図示せぬ吸込弁が設けられている。この吸込弁は、有底穴62bの開口部を閉塞するボール弁である吸込弁部材と、該吸込弁部材をシリンダ61側から付勢する、吸込弁スプリングと、を備えている。また、シリンダ61のピストン62側の端部には、ピストン62の吸入口62cの開口部を覆うように、円筒状のフィルタ70が取り付けられている。
【0040】
シリンダ底部61bには、ポンプ室63とシリンダ61の外部とを連通する連通孔61cが形成されている。この連通孔61cにおけるポンプ室63とは反対側の開口部側には、開口部側吐出弁64が設けられている。開口部側吐出弁64は、ボール弁である開口部側弁部材64aと、連通孔61cの開口端周縁に形成されて開口部側弁部材64aが着離座可能な開口部側弁座64bと、開口部側弁部材64aを開口部側弁座64bに着座させる方向に付勢する開口部側スプリング64cと、を備えている。この開口部側吐出弁64は、シリンダ61とカバー65との間に配置されている。
【0041】
詳しくは、カバー65は、例えば圧入により、シリンダ底部61b側に取り付けられている。このカバー65には、シリンダ底部61bの連通孔61cと対向する位置に開口部を有する有底穴65aが形成されている。そして、開口部側吐出弁64の開口部側スプリング64cは、有底穴65aに収容されている。また、有底穴65aの内径は、開口部側弁部材64aの外径よりも大きくなっている。このため、開口部側弁部材64aが開口部側弁座64bから離座した際、該開口部側弁部材64aは有底穴65a内に移動することとなる。すなわち、シリンダ61のポンプ室63内のブレーキ液の液圧が上昇し、該ブレーキ液が開口部側弁部材64aを押す力が開口部側スプリング64cの付勢力よりも大きくなった際、開口部側弁部材64aが開口部側弁座64bから離座し、ポンプ室63とカバー65の有底穴65aとが連通孔61cを介して連通することとなる。そして、ポンプ室63内のブレーキ液が有底穴65aに流入することとなる。カバー65には、吐出口65bとして、該カバー65の外部と有底穴65aとを連通する溝が形成されている。カバー65の有底穴65aに流入したブレーキ液は、該吐出口65bから、後述する吐出室54を通じ、ポンプ60の外部へ吐出される。
【0042】
このように構成されたポンプ60は、上述のように、基体51に形成されたポンプ収容室53に収容される。具体的には、シリンダ61の外周部に形成された環状の突出部61aがポンプ収容室53の段差部53aに当接する位置に圧入されることより、ポンプ60は基体51のポンプ収容室53内に固定される。
【0043】
ポンプ60がこのようにポンプ収容室53に収容された際、ポンプ60の外周面とポンプ収容室53の内周面との間に、ポンプ60の吐出口65bと連通する空間である吐出室54が形成される。吐出室54は、ポンプ60の吐出口65bと連通するように、ポンプ60の外周側に環状に形成された空間である。吐出室54は、後述のように、第1吐出流路140aに接続される。
【0044】
また、ポンプ60においては、シリンダ61の環状の突出部61aとカバー65との間の空間が仕切り部71によって2つの空間に仕切られている。そして、仕切り部71よりもカバー65側の空間が吐出室54となっている。本実施の形態では、仕切り部71に形成された環状溝にOリング(図示せず)が備えられている。
【0045】
尚、本実施の形態においては、ポンプ60がポンプ収容室53に収容された際、ポンプ60の外周面とポンプ収容室53の内周面との間に、ポンプ60の吸入口62cと連通する空間である環状流路56が形成される。すなわち、環状流路56は、ポンプ60の吸入口62cと連通するように、ポンプ60の外周側に環状に形成された空間である。環状流路56は、シリンダ61の環状の突出部61aと駆動軸側シール部材69との間に形成される。換言すると、環状流路56は、吸入口62cの開口部を覆うように設けられたフィルタ70の外周側に形成される。
【0046】
環状流路56は、基体51に形成された図示せぬ内部流路によって、
図1における副流路14の第3途中部14aに連通している。換言すると、環状流路56は、副流路14の一部を構成するものである。ポンプ60をポンプ収容室53に収容した際、ポンプ60の吸入口62cと第3途中部14aとが連通している必要がある。環状流路56を有することにより、ポンプ60をポンプ収容室53に収容する際、ポンプ60の吸入口62cと第3途中部14aとを連通させるための位置合わせが不要となる。このため、環状流路56を有することにより、液圧制御ユニット50の組立が容易になる。また、環状流路56を有することにより、ポンプ収容室53を基体51に加工する際、副流路14の一部も加工していることとなる。このため、基体51の加工コスト、すなわち液圧制御ユニット50の製造コストを削減することもできる。また、環状流路56を有することにより、ポンプ60の外周側の空間を副流路14として有効利用できるので、基体51つまり液圧制御ユニット50を小型化することもできる。
【0047】
収容室58は、脈動低減部80を収容する収容室であり、基体51の外壁に形成されている有底穴である。上述のように、ポンプ60の外周面側に形成された吐出室54は、吐出流路140の一部を構成する第1吐出流路140aに接続されている。吐出室54は、第1吐出流路140aを介して脈動低減部80の流入開口95bと接続されている。
図2においては、脈動低減部80の収容室58の軸に対して横方向からブレーキ液が流入するように構成される。そして収容室58の底部に位置する流出開口95cは第2吐出流路140bに接続されている。第2吐出流路140bは、基体51に形成された図示せぬ内部流路によって、
図1における主流路13の第2途中部13bと連通している。
【0048】
図2に示されるようにポンプ60及び脈動低減部80を基体51へ搭載した場合、ポンプ60が駆動されると、次のようにブレーキ液が流れる。
【0049】
図示せぬ駆動源によって駆動軸57が回転し、駆動軸57に形成された偏心部57aがピストン62の方へ寄っていくと、該ピストン62は、ピストンスプリング67の付勢力に抗してシリンダ61側へ押圧されていく。このため、ポンプ室63の圧力が高くなって開口部側弁部材64aが開口部側弁座64bから離座して開口部側吐出弁64が開く。これにより、ポンプ室63内のブレーキ液は、連通孔61c及びカバー65の有底穴65aを通って、吐出口65bから吐出室54へ吐出される。
【0050】
駆動軸57が更に回転し、駆動軸57に形成された偏心部57aがピストン62の方から離れる方向に回転し始めると、ピストン62は、ピストンスプリング67の付勢力により、シリンダ61から離れる方向へ移動していく。このため、ポンプ室63の圧力が低くなって開口部側弁部材64aが開口部側弁座64bに着座して開口部側吐出弁64が閉じるとともに、ピストン62の有底穴62bの開口部を開閉自在に閉塞する図示せぬ吸込弁が開く。これにより、環状流路56内のブレーキ液は、フィルタ70、吸入口62c及び有底穴62bを通ってポンプ室63内に流入する。
【0051】
駆動軸57が更に回転し、駆動軸57に形成された偏心部57aがピストン62の方へ再び寄っていくと、前述のようにピストン62がシリンダ61側へ押圧されていき、ポンプ室63内のブレーキ液が吐出口65bから吐出室54へ吐出される。このように、ピストン62がシリンダ61の軸方向に繰り返し往復動して、図示せぬ吸込弁及び開口部側吐出弁64が選択的に開閉されることで、液圧が上昇した、つまり昇圧されたブレーキ液が、吐出口65bから吐出室54へ吐出されていく。このため、ポンプ60で昇圧されたブレーキ液には、脈動が発生する。この脈動を伴ったブレーキ液が、第1吐出流路140aを介して脈動低減部80に流入する。
【0052】
<脈動低減部80の構成例及び作動>
以下、脈動低減部80の構成例及び作動について、
図3から
図5を参照しつつ説明する。上述の様に、脈動低減部80は、ポンプ60の駆動時に発生するブレーキ液の脈動を低減させ、該脈動に起因する騒音を低減するためのものである。
【0053】
図3はポンプ60が駆動していない状態における、脈動低減部80を示す。脈動低減部80を収容する円筒形状の収容室58は、基体51に形成されている。脈動低減部80は、ブレーキ液が流入する流入開口95bと、ブレーキ液が流出する流出開口95cとを備える。また、脈動低減部80は、脈動低減部80内を、流入開口95b側である上流側領域と、流出開口95c側である下流側領域とに分ける固定部材83を備える。
【0054】
収容室58を形成する円筒形状は、小径部58b及び大径部58dを備える段付き形状となっている。収容室58の開口部58eを塞ぐ蓋部82側に大径部58dが形成され、収容室58の開口部58eとは反対側の底部58a側に小径部58bが形成されている。小径部58bと大径部58dとの間には、底部58aと平行に、換言すれば、脈動低減部80の長手方向の軸線Axcに直交する方向に、段部58cが形成されている。流入開口95bは、大径部58dに形成されている。流出開口95cは、底部58aの、後述するダンパ部材90よりも半径方向外側に形成されている。
【0055】
固定部材83は、中央部に円筒形状の穴部83bを有する固定部材ディスク部83aを備える。穴部83bは、固定部材ディスク部83aから上流側領域へ延びる円筒として形成されている。また、固定部材83は、固定部材ディスク部83aの外周部から底部58a側へ延びる固定部材外側円筒部83dを備える。固定部材ディスク部83aと穴部83bと固定部材外側円筒部83dとは、一体に形成される。固定部材83は、収容室58の小径部58bに、圧入、あるいは溶接等、適宜の方法により固定される。その際、固定部材外側円筒部83dが小径部58bに当接する様に配置される。
【0056】
また、脈動低減部80は、底部58aの中心部から上流側領域へ延びる円柱状部材86を備える。円柱状部材86は、該円柱状部材86を底部58aに固定する円柱状部材固定部86bと、円柱状部材固定部86bから上流側領域へ延びる円柱部86dとを備える。円柱部86dは穴部83bの内径よりも小径であり、先端部が穴部83bの下端よりも蓋部82側へ位置する様に配置される。また円柱状部材固定部86bは、円柱部86dがつながる円盤形状部分と、円盤形状部分の外径部から底部58aとは反対側へ延びる円筒形状部分とからなる。当該円盤形状部分と円筒形状部分は、底部58aに形成された凹部58fに挿入された状態で、溶接等適宜の方法で固定される。この様な構成とすることにより、円柱状部材86の位置決めが容易となる。
【0057】
大径部58dの、流入開口95bよりも固定部材83側には、ディスク形状をなし、収容室58の軸線Axc方向へ摺動可能な上流側可動部材84が備えられる。上流側可動部材84の、大径部58dに面する側面には、摺動部材84aが取り付けられている。上流側可動部材84が移動する際には、摺動部材84aが大径部58dに対し摺動する。摺動を滑らかにするため、摺動部材84aの素材として、例えばPTFEを採用することができる。
【0058】
上流側可動部材84は、収容室58の軸線Axc方向に貫通する貫通孔84bを中央部に備える。貫通孔84bは、蓋部82側に、弁部材94が着座可能なシート部84dを備える。弁部材94は、蓋部82の上流側可動部材84側の表面である蓋部内面82aと弁部材94の間に設けられる弁スプリング93によって、所定のセット力でシート部84dへ押圧されている。貫通孔84bの半径方向外側には、上流側可動部材84を、収容室58の軸線Axc方向に貫通する、貫通孔84bよりも小径の上流側オリフィス84cが複数形成されている。
【0059】
本実施形態においては、収容室58における、上流側可動部材84と蓋部82の間の領域を流入開口側ダンパ部81a、上流側可動部材84と固定部材83の間の領域を固定部材側ダンパ部81b、固定部材83と底部58aの間の領域を流出開口側ダンパ部81cと称する。すなわち、収容室58において、流入開口側ダンパ部81aと固定部材側ダンパ部81bが収容室58の上流側領域をなし、また、流出開口側ダンパ部81cが収容室58の下流側領域をなす。
【0060】
流入開口側ダンパ部81aには、上流側可動部材84を固定部材83側へ付勢する弾性体である流入開口側弾性体92が備えられる。固定部材側ダンパ部81bには、上流側可動部材84を蓋部82側へ付勢する弾性体である固定部材側弾性体91が備えられる。
【0061】
流入開口側弾性体92として、コイルスプリングを用いることができる。流入開口側弾性体92は、弁スプリング93及び上流側オリフィス84cよりも円周方向外側に配置される。
【0062】
固定部材側弾性体91は、円筒形のクッション部材とすることができる。クッション部材の材料としては、例えば、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)および/またはシリコン等の材料を使用することができる。固定部材側弾性体91は、内径部が穴部83bの外径部に接する様に配置される。換言すれば、固定部材側弾性体91は、穴部83bにガイドされる。
【0063】
弾性体としてクッション部材が用いられる場合、クッション部材は1つの材料により形成されても良いし、複数の材料により形成されても良い。例えば、反発弾性率の比較的低いEPDMを反発弾性率の比較的高いシリコンにより挟むようにして構成されても良い。材料の組合せによって、ブレーキ液のポンプの性能に起因して発生する固有の脈動周波数に合わせて、クッション部材の反発弾性率を調整することが可能となる。
【0064】
流出開口側ダンパ部81cには、収容室58の軸線Axc方向に移動可能な下流側可動部材85が備えられている。下流側可動部材85は、中央部に穴を有する下流側可動部材ディスク部85aと、下流側可動部材ディスク部85aの中央の穴の内径部から底部58a側へ延びる下流側可動部材円筒部85bとを有する。また、下流側可動部材85は、下流側可動部材ディスク部85aの外周部から底部58a側向かい、底部58aに近づくにつれ直径が大きくなる下流側可動部材拡径部85cを備える。下流側可動部材ディスク部85aと下流側可動部材円筒部85bと下流側可動部材拡径部85cとは、一体に形成される。
【0065】
尚、円柱部86dは、下流側可動部材円筒部85bの内部を挿通している。換言すれば、円柱部86dは下流側可動部材85の動きをガイドする。
【0066】
下流側可動部材ディスク部85aと円柱状部材固定部86bの間には、下流側可動部材85を固定部材83側へ付勢するコイルスプリングである、流出開口側弾性体96が配置されている。
図3に示される様に、流出開口側弾性体96は、下流側可動部材円筒部85bの外周側に配置され、下流側可動部材円筒部85bにガイドされる。
【0067】
下流側可動部材ディスク部85aと底部58aの間であって、流出開口側弾性体96の円周方向外側には、ダンパ部材90が備えられる。ダンパ部材90は、外周部が下流側可動部材拡径部85cと接する様に配置され、下流側可動部材拡径部85cにガイドされる。ダンパ部材90に対しても、上述の固定部材側弾性体91と同様の条件の弾性体を用いることが可能である。
【0068】
図3における状態、すなわちポンプ60が駆動していない状態においては、上流側可動部材84は、固定部材側弾性体91から蓋部82方向への付勢力を受ける一方、弁スプリング93及び流入開口側弾性体92から固定部材83側への付勢力を受ける。その結果、上流側可動部材84が、大径部58dにおいて、段部58cと流入開口95bの間に位置する様に、各弾性体の付勢力は調整されている。また、この状態において、弁部材94と円柱部86dは当接していない。また、下流側可動部材85の下流側可動部材ディスク部85aは、流出開口側弾性体96とダンパ部材90から受ける付勢力により、固定部材83の固定部材ディスク部83aに当接し、穴部83bを閉塞している。
【0069】
ポンプ60が駆動を開始すると、流入開口95bからブレーキ液が流入し、流入開口側ダンパ部81aの圧力が上昇する。流入開口側ダンパ部81aの圧力が上昇すると、弁部材94がシート部84dに着座した状態で、弁部材94と上流側可動部材84とが固定部材83側へ移動する。
【0070】
そして、弁部材94が、円柱状部材86の円柱部86dに当接するが、上流側可動部材84は移動を継続する。よって、このタイミングで弁部材94がシート部84dから離座する。その後、上流側可動部材84は段部58cに当接することで移動が終了する。すなわち、弁部材94の移動量よりも上流側可動部材84の移動量の方が大きくなる様に、予め各部材の寸法が設定されている。
【0071】
図4は、弁部材94が、円柱部86dに当接しているが、まだシート部84dにも当接している状態を示す。この状態を経た後、上流側可動部材84がさらに移動し、段部58cに当接する。
【0072】
弁部材94と上流側可動部材84とが上昇することにより、固定部材側ダンパ部81bの圧力も上昇する。そして、弁部材94がシート部84dから離座することにより、ブレーキ液が貫通孔84bを通じて流入開口側ダンパ部81aから固定部材側ダンパ部81bへ流れるため、固定部材側ダンパ部81bの圧力はさらに上昇する。そして、固定部材側ダンパ部81bの圧力上昇は、下流側可動部材85へ作用し、流出開口側弾性体96とダンパ部材90の付勢力に抗して、下流側可動部材85を底部58a側へ移動させる。
【0073】
図5は、下流側可動部材85が底部58a側へ移動した状態を示す。下流側可動部材85が底部58a側へ移動することにより、ブレーキ液が、固定部材側ダンパ部81bから流出開口側ダンパ部81cへ流出する。流出開口側ダンパ部81cへ流出したブレーキ液は、流出開口95cから脈動低減部80の外部へ流出する。
【0074】
本実施形態において、ポンプ60の駆動直後であって、弁部材94がシート部84dに着座している状態においても、流入開口側ダンパ部81aのブレーキ液は、上流側可動部材84に形成されている上流側オリフィス84cを通じて少しずつ固定部材側ダンパ部81bへ流出している。よって、弁部材94がシート部84dから離座した後、固定部材側ダンパ部81b内の圧力が急激に上昇することを防ぐことができる。
【0075】
また、各弾性体の作用により、上流側可動部材84と下流側可動部材85の急な動きが妨げられ、ブレーキ液の流れを穏やかにすることができる。
【0076】
また、ダンパ部材90が流出開口側弾性体96に対する抵抗として機能するため、下流側可動部材85が移動する際の動きを安定させることができる。
【0077】
以上、説明した様に、本発明によれば、各弾性体及び、オリフィスの作用により、上流側可動部材84と下流側可動部材85の急な動きが妨げられ、また、ブレーキ液の急な流れが妨げられる。これにより、脈動低減部80内のブレーキ液の流れを穏やかになり、ブレーキ液の圧力脈動を低減することができる。その結果、ポンプ60の駆動時に発生する脈動に起因する騒音を低減することができる。
【符号の説明】
【0078】
51:基体、58:収容室、58a:底部、60:ポンプ、80:脈動低減部、81a:流入開口側ダンパ部、81b:固定部材側ダンパ部、81c:流出開口側ダンパ部、82:蓋部、83:固定部材、83b:穴部、84:上流側可動部材、84b:貫通孔、84c:上流側オリフィス、84d:シート部、85:下流側可動部材、86:円柱状部材、86d:円柱部、90:ダンパ部材、91:固定部材側弾性体、92:流入開口側弾性体、94:弁部材、95b:流入開口、95c:流出開口、96:流出開口側弾性体