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特許7476388工具ホルダおよびそれを備えた工具保持構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】工具ホルダおよびそれを備えた工具保持構造
(51)【国際特許分類】
   B23B 31/20 20060101AFI20240422BHJP
   B23B 31/107 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
B23B31/20 F
B23B31/107 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023062605
(22)【出願日】2023-04-07
【審査請求日】2023-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】591028072
【氏名又は名称】株式会社日研工作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三▲角▼ 進
(72)【発明者】
【氏名】中井 英策
(72)【発明者】
【氏名】ステファン エッカーソル
【審査官】荻野 豪治
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/116912(US,A1)
【文献】米国特許第3444781(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2023/62623(US,A1)
【文献】特表2020-531302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/00 ー 31/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具のシャンク規格品におけるサイドロック用凹部を追加工し、この凹部を軸方向に長く、かつ中心軸線に向かって深くして、さらにそれぞれの公差を極小とした、追加工後の切削工具を固定把持するための工具ホルダにおいて、
後端から軸線方向前方へ延びる後部穴と、前記後部穴の前方端と接続し、軸線方向前方へ延びる中央部穴と、前記中央部穴の前方端と接続し、軸線方向前方へ延び、先端に向かうほど内径が大きくなるテーパ穴である前部穴と、軸線方向に対して直交して、外周面から前記中央部穴の内周面まで延びる第1貫通孔と、前記第1貫通孔と周方向に異なる位置に設けられ、前記外周面から前記中央部穴の内周面まで延び、前方から後方に傾斜して延びる第2貫通孔とを含むホルダ本体と、
前記中央部穴および前記前部穴に着脱可能に挿入され、先端領域に工具挿入穴が形成されるとともに、先端領域の外周面が先端に向かうほど外径が大きくなるテーパ形状のコレットであり、外周面から前記工具挿入穴にまで貫通するように設けられるキー溝と、前記第1貫通孔と対向する位置に設けられ、外周面を平坦に切り込んだ第1平坦部と、前記第2貫通孔と対向する位置に設けられ、軸線方向前方から軸線方向後方に向かうほど軸線から遠ざかるように、外周面を平坦に切り込んだ第2平坦部とを含むテーパ形状のコレットと、
前記第1貫通孔を貫通し、その先端が前記コレットの第1平坦部に当接する第1サイドロックボルトと、
前記第2貫通孔を貫通し、その先端が前記コレットの第2平坦部に当接する第2サイドロックボルトと、
前記コレットのキー溝に嵌合して、前記前部穴の内周面に当接し、かつ、前記工具挿入穴に挿入した追加工後の切削工具の後端部に設けられる前記サイドロック用凹部と当接するキーとを備える、工具ホルダ。
【請求項2】
前記コレットは、軸方向中央部を境界として後端側に位置する後端領域と、前端側に位置する前端領域とを含み、
前記前端領域には、前記キー溝が設けられる、請求項1に記載の工具ホルダ。
【請求項3】
前記コレットは、軸線方向に延びる複数のスリットが設けられ、
前記複数のスリットのうちの一つの軸線方向途中位置に、前記キー溝が設けられる、請求項1または2に記載の工具ホルダ。
【請求項4】
前記コレットは、前記キー溝と前記第1平坦部とが軸線方向において重なる位置に設けられる、請求項1または2に記載の工具ホルダ。
【請求項5】
前記第2サイドロックボルトは、前記第2貫通孔に貫通するボルト本体と、前記コレットの第2平坦部に当接する当接部とを含み、
前記当接部は、その向きが前記第2平坦部の向きに応じて変位可能となるように設けられている、請求項1または2に記載の工具ホルダ。
【請求項6】
前記コレットは、軸線方向後方の内周面において、引きボルトに係合する係合部を有する、請求項1または2に記載の工具ホルダ。
【請求項7】
請求項1または2に記載の工具ホルダと、
前記コレットの工具挿入穴に挿入される前記切削工具とを備え、
前記切削工具は、前記コレットのキー溝と対向する位置に設けられ、前記キーが嵌合する前記サイドロック用凹部を含む、工具保持構造。
【請求項8】
前記サイドロック用凹部の軸線方向の長さの公差は、0~+0.005の範囲内である、請求項7に記載の工具保持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工具ホルダおよびそれを備えた工具保持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、工作機械の主軸にエンドミルなどの切削工具を取り付ける場合には、コレットを用いることがある。このような技術を開示する文献として、たとえば、実公平2-3366号公報(特許文献1)および国際公開WO2014/103350号公報(特許文献2)などが知られている。
【0003】
特許文献1には、チャック筒の内周面に切削工具を把持するためのストレートコレットが嵌合されており、コレットの外周面に突出したキーと、チャック筒の内周面に設けられたキー溝とが係合することで、切削工具の回り止めを行うことが開示されている。
【0004】
特許文献2には、切削工具のシャンクに形成された凹部状の外嵌合部と、コレットに形成された嵌合孔部とに嵌合部材を貫通させることで、ホルダ本体に対する切削工具の相対回転と脱落とを阻止できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実公平2-3366号公報
【文献】国際公開WO2014/103350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の工具ホルダにおいてさらに改善すべき点があることを本発明者は見出した。つまり、昨今要請されている工作機械の高速化および高精密加工を満足するために、切削工具をさらに安定的に保持する必要がある。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、安定的に切削工具を保持することが可能な工具ホルダおよびそれを備えた工具保持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のため本発明の一態様に係る工具ホルダは、切削工具のシャンク規格品におけるサイドロック用凹部を追加工し、この凹部を軸方向に長く、かつ中心軸線に向かって深くして、さらにそれぞれの公差を極小とした、追加工後の切削工具を固定把持するための工具ホルダにおいて、後端から軸線方向前方へ延びる後部穴と、後部穴の前方端と接続し、軸線方向前方へ延びる中央部穴と、中央部穴の前方端と接続し、軸線方向前方へ延び、先端に向かうほど内径が大きくなるテーパ穴である前部穴と、軸線方向に対して直交して、外周面から中央部穴の内周面まで延びる第1貫通孔と、第1貫通孔と周方向に異なる位置に設けられ、外周面から中央部穴の内周面まで延び、前方から後方に傾斜して延びる第2貫通孔とを含むホルダ本体と、中央部穴および前部穴に着脱可能に挿入され、先端領域に工具挿入穴が形成されるとともに、先端領域の外周面が先端に向かうほど外径が大きくなるテーパ形状のコレットであり、外周面から工具挿入穴にまで貫通するように設けられるキー溝と、第1貫通孔と対向する位置に設けられ、外周面を平坦に切り込んだ第1平坦部と、第2貫通孔と対向する位置に設けられ、軸線方向前方から軸線方向後方に向かうほど軸線から遠ざかるように、外周面を平坦に切り込んだ第2平坦部とを含むテーパ形状のコレットと、第1貫通孔を貫通し、その先端がコレットの第1平坦部に当接する第1サイドロックボルトと、第2貫通孔を貫通し、その先端がコレットの第2平坦部に当接する第2サイドロックボルトと、コレットのキー溝に嵌合して、前部穴の内周面に当接し、かつ、工具挿入穴に挿入した追加工後の切削工具の後端部に設けられるサイドロック用凹部と当接するキーとを備える。
【0009】
好ましくは、コレットは、軸線方向中央部を境界として後端側に位置する後端領域と、前端側に位置する前端領域とを含み、前端領域には、キー溝が設けられる。
【0010】
好ましくは、コレットは、軸線方向に延びる複数のスリットが設けられ、複数のスリットのうちの一つの軸線方向途中位置に、キー溝が設けられる。
【0011】
好ましくは、コレットは、キー溝と第1平坦部とが軸線方向において重なる位置に設けられる。
【0012】
好ましくは、第2サイドロックボルトは、第2貫通孔に貫通するボルト本体と、コレットの第2平坦部に当接する当接部とを含み、当接部は、その向きが第2平坦部の向きに応じて変位可能となるように設けられている。
【0013】
好ましくは、軸線方向後方の内周面において、引き上げクランプ用ボルトに係合する係合部を有する。
【0014】
本発明の一態様に係る工具保持構造は、上述した工具ホルダと、コレットの工具挿入穴に挿入される切削工具とを備え、切削工具は、コレットのキー溝と対向する位置に設けられ、キーが嵌合するサイドロック用凹部を含む。
【0015】
好ましくは、サイドロック用凹部の軸線方向長さの公差は、0~+0.005の範囲内である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、確実で安定的に切削工具を保持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態1に係る工具ホルダを示す側面図である。
図2図1の一部分を拡大した図である。
図3図1のIII-III線に沿う断面図である。
図4】コレットを取り出して示す図であり、(A)は縦断面図であり、(B)は平面図であり、(C)は図4(A)のIV-IV線に沿う断面図である。
図5】追加工後の切削工具の後端部を拡大して示す図であり、(A)は側面図であり、(B)は正面図である。
図6】追加工前の切削工具の後端部を拡大して示す図であり、(A)は側面図であり、(B)は正面図である。
図7】DIN規格のDIN1835 FormBを示す図であり、(A)はシャンク規格品の側面図および平面図であり、(B)はその規格表である。
図8】本発明の実施の形態2に係る工具ホルダを示す側面図である。
図9】コレットを取り出して示す図であり、(A)は縦断面図であり、(B)は平面図であり、(C)は図9(A)のIX-IX線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0019】
(実施の形態1)
図1図7を参照して、本発明の実施の形態1に係る工具ホルダについて説明する。なお、図1において、一点鎖線Oは軸線であり、矢印Tを軸線方向前方側(先端側ともいう)といい、矢印Tの逆向きを軸線方向後方側(後端側ともいう)という。また、図3は、図1のIII-III線に沿う断面図である。
【0020】
特に図1に示すように、本実施の形態に係る工具ホルダ1は、たとえばエンドミル、リーマなどの切削工具60をチャッキングするものであり、工作機械の主軸に取り付けられる。工具ホルダ1は、主な構成部品として、ホルダ本体10と、ホルダ本体10の軸線方向先端側に取り付けられるコレット20とを備える。これらを組み立てた状態の工具ホルダ1は、切削工具60を把持する。
【0021】
ホルダ本体10は、軸線方向後方から前方に向かって、後部穴11と、中央部穴12と、前部穴13とが形成される。後部穴11は、ホルダ本体10の後端から軸線方向前方へ延びる。後部穴11の後端領域には、図示しないブルスタッドが取り付けられる。後部穴11の先端領域には、複数の段差部11a,11bが設けられ、軸線方向前方に向かって段々と径が小さくなっている。後部穴11には、引きボルト18と、引きボルト18が後端側から脱落することを防止するための抜け止め部材19とが配置されている。
【0022】
引きボルト18は、後述するコレット20を後端側に引き上げてクランプするためのボルトである。引きボルト18は、その頭部18aを軸線方向後方側に、その軸部18bを軸線方向前方側にして、ホルダ本体10の軸線に沿って中央部穴12まで延びている。頭部18aは、後部穴11の段差部11bと対向する。先端側の段差部11bによって、引きボルト18は、前端方向への移動が規制される。軸部18bは、その先端部の外周に雄ネジが設けられ、後述するコレット20の後端部の引き穴26と螺合する。引きボルト18は、たとえばドローボルトであることが好ましい。
【0023】
抜け止め部材19は、引きボルト18の後端側の段差部11a内に位置する。抜け止め部材19は、コレット20を取り外した場合において、引きボルト18の脱落を防止するためのものである。抜け止め部材19の外周面には、後部穴11に設けられる雌ネジと螺合する雄ネジが形成されている。抜け止め部材19の内周面には、自身を回転させるための六角穴19aと、六角穴19aの先端側に連なり、六角穴19aよりも内径形状が小さい貫通孔19bとが形成されている。貫通孔19bは、引きボルト18を回転させるための六角レンチを貫通させるためのものである。
【0024】
中央部穴12は、後部穴11の前方端と接続し、軸線方向前方へ延びる。中央部穴12の内径は後部穴11の内径よりも大きく、後部穴11と中央部穴12の境界には、境界壁面12aが形成される。境界壁面12aは軸線と同軸に位置する環状段差であり、軸線と直角な平坦面であり、軸線方向前方を向く壁である。
【0025】
前部穴13は、中央部穴12の前方端と接続し、軸線方向前方へ延び、先端に向かうほど内径が大きくなるテーパ穴である。これらの穴11,12,13は、ホルダ本体10の先端から後端まで延在する貫通孔を構成する。
【0026】
ホルダ本体10の外周には、外径方向へ突出した把持用のフランジ部14が形成されている。フランジ部14は、ホルダ本体10の先端部および後端部を除く軸線方向中央部に位置する。また、ホルダ本体10の後端部を含む軸線方向後端部領域には、フランジ部14から後端に向かうにつれて小径となるテーパシャンク部15が形成される。工具ホルダ1は、テーパシャンク部15で図示しない工作機械の主軸に装着される。
【0027】
ホルダ本体10のフランジ部14に形成される切欠き14aには、第1貫通孔16が形成される。第1貫通孔16は、軸線方向に対して直交する径方向に延びて、外周面から中央部穴12の内周面まで延びる。第1貫通孔16の内周面には、雌ネジが形成される。
【0028】
特に図3に示すように、第1貫通孔16と周方向に異なる位置には、第2貫通孔17が設けられる。具体的には、第2貫通孔17は、ホルダ本体10のうち軸線を挟んで第1貫通孔16と反対側の部位に形成される。第2貫通孔17は、切り欠き14aと軸線に関し対称位置にある切り欠き14bの内径側に形成され、第1貫通孔16と軸線方向同位置であって、軸線を中心として第1貫通孔16と周方向約180度異なる位置にある。
【0029】
図2に示すように、第2貫通孔17は、外周面から中央部穴12の内周面まで延び、前方から後方に傾斜して延びる。換言すると、第2貫通孔17は、その外径側が内径側よりも軸線方向先端側になるようにわずかに傾斜している。この傾斜角度は、ホルダ本体10の軸線直角方向に対して約5°であるか、後述する第1平坦面の傾斜角度に対応するように1°~10°の範囲内に設定されることが好ましい。
【0030】
上述したホルダ本体10の中央部穴12および前部穴13には、着脱可能にコレット20が挿入される。コレット20は、テーパ形状であり、後述する切削工具60を直接保持するものである。図4(A)~(C)を参照して、コレット20について詳細に説明する。
【0031】
コレット20は、軸線方向中央部を境界として後端側に位置する後端領域20Aと、前端側に位置する前端領域20Bとを含む。前端領域20Bの内周面21bは、切削工具60が挿入される工具挿入穴が形成され、切削工具60の後端部60aが位置する。図2に示すように、前端領域20Bの外周面21aは、先端に向かうほど外径が大きくなり、上述したホルダ本体10の前部穴13の内周面と当接する。なお、図4(A)に示すように、後端領域20Aの内径は、前端領域20Bの内径よりもやや大きく、その境界には、軸線と同軸に位置する微小な環状段差が設けられる。
【0032】
後端領域20Aは、その内径面が後端側に位置する第1領域27Aと、前端側に位置する第2領域27Bとを含む。第1領域27Aの内径は、第2領域27Bの内径よりも小さい。第1領域27Aの内径面は、上述した引きボルト18に係合する引き穴26を有する。具体的には、引き穴26は、引きボルト18の軸部16bの雄ネジが係合する雌ネジが形成されている。第1領域27Aと第2領域27Bの境界には、軸線方向前方を向く境界壁面28が形成される。第2領域27Bは、切削工具60の後端部60aが位置する。
【0033】
後端領域20Aの第1領域27Aには、外周面を平坦に切り込んだ第1平坦部24および第2平坦部25が形成される。第1平坦部24は、コレット20の後端縁から切り欠かれ、軸線と平行に延びている。図2に示すように、第1平坦部24は、上述した第1貫通孔16と対向する位置に設けられる。
【0034】
図4(B)に示すように、後端領域20Aの第2領域27Bの後端部から前端領域20Bの前端部には、軸線方向に延びるスリット23が設けられる。図4(C)に示すように、スリット23は、周方向に等間隔に複数設けられ、具体的には6つ設けられる。スリット23を押し縮めることによって、コレット20の径を小さくすることができる。
【0035】
図2に示すように、第2平坦部25は、上述した第2貫通孔17と対向する位置に設けられる。具体的には、第2平坦部25は、軸線Oを挟んで第1平坦部24と反対側の部位に形成される。第2平坦部25は、第1平坦部24と軸線方向同位置であって、軸線を中心として第1平坦部24と周方向約180度に異なる位置にある。
【0036】
第2平坦部25は、軸線に対して平行ではなく、前方から後方に向かうほど軸線から遠ざかるように傾斜する。第2平坦部25の傾斜角度は、軸線に対して約5°であるか、1°~10°の範囲内である。
【0037】
図4(A)に示すように、前端領域20Bには、キー溝22が設けられる。キー溝22は、外周面21aから内周面(工具挿入穴)21bにまで貫通するように設けられる。キー溝22には、キー50が貫通する。図2に示すように、キー50は、コレット20のキー溝22に嵌合して、前部穴13の内周面に当接し、かつ、工具挿入穴21bに挿入した切削工具60に設けられるサイドロック用凹部62と当接する。以下の説明において、サイドロック用凹部を単に凹部という。
【0038】
図2および図5に示すように、キー50は、立体形状であり、ホルダ本体10の前部穴13に当接する上面51と、切削工具60の凹部62に当接する下面52と、上面51と下面52とを繋げる側面53とを含む。上面51は、後方から前方に向かうほど軸線から遠ざかるように設けられている。つまり、上面51は、ホルダ本体10の前部穴13のテーパ穴の傾斜に沿うように設定されている。下面52は、軸線と平行に延びている。側面53は、上面51が軸線方向に傾斜して設けられるため、後方よりも前方の高さが大きい。下面52は、底面52aと、底面52aの軸線方向両端に連なる位置に設けられる一対の傾斜面52bとを含む。
【0039】
図4(B)に示すように、キー溝22は、複数のスリット23のうちの一つと径方向および周方向において同じ位置に設けられ、具体的にはそのスリット23の軸線方向途中位置に設けられる。キー溝22は、前端領域20Bの軸線方向中央位置に配置されることが好ましい。キー溝22と第1平坦部24とは、軸線方向において重なる位置に設けられる。
【0040】
特に図2に示すように、ホルダ本体10の第1貫通孔16には、第1サイドロックボルト30が貫通する。第1サイドロックボルト30の先端は、コレット20の第1平坦部24に当接する。第1サイドロックボルト30は、典型的にはボルトであり、軸部の外周面に雄ネジを有する。第1サイドロックボルト30は、第1貫通孔16の雌ネジに螺合して、締め付けられたり緩められたりする。
【0041】
第1サイドロックボルト30を締め付け回転させると、第1サイドロックボルト30の先端部が内径方向に侵入し、コレット20の第1平坦部24を押圧する。第1サイドロックボルト30によってサイドロックすることで、コレット20の回転方向の移動を阻止することができる。このように、サイドロック式のチャッキング構造で、コレット20の回り止めをすることができる。
【0042】
同図に示すように、ホルダ本体10の第2貫通孔17には、第2サイドロックボルト40が貫通する。第2サイドロックボルト40の先端は、コレット20の第2平坦部25に当接する。第2サイドロックボルト40は、第2貫通孔17に貫通するボルト本体41と、コレット20の第2平坦部25に当接する当接部42とを含む。
【0043】
ボルト本体41は、軸部の外周面に雄ネジを有する。当接部42は、その向きが第2平坦部25の向きに応じて変位可能となるように設けられている。具体的には、図3に示すように、当接部42は、ボルト本体41に球面で支持されているため、ボルト本体41の中心軸線回りに回転することができるとともに、ボルト本体41の中心軸線に対して傾斜することができる。
【0044】
したがって、当接部42は、ボルト本体41に対して向きを自在に変更することができる。また、当接部42のボルト本体41への取り付けは、ユニバーサルなジョイントのように自由に向きを変えることができるものであればよい。当接部42は、ユニバーサルに可動するため、第2平坦部25の向きに応じて強固に固定することが可能となる。第1サイドロックボルト30に加えて第2サイドロックボルト40が設けられることで、よりコレット20の回転方向の移動を阻止することができ、更なる超切削に対応することができる。
【0045】
コレット20の工具挿入穴21bには、切削工具60が挿入される。図5に示すように、切削工具60は、シャンク部61と、切削加工を行う刃部63(刃の形状は図示せず)とが一体的に形成される。シャンク部61は、コレット20のキー溝22と対向する位置に設けられる凹部62を含む。
【0046】
凹部62は、軸線に直交する方向に切り欠かれている。キー50が嵌合する凹部62は、底面62aと、底面62aの前方端および後方端から軸線方向に連なる一対の傾斜面62bとを含む。凹部62には、上述したキー50が上方から当接する。具体的には、凹部62の底面62aにキー50の底面52aが密接し、凹部62の一対の傾斜面62bにキー50の傾斜面52bがそれぞれ密接する。
【0047】
本実施の形態の工具ホルダ1に用いられる切削工具60は、一般的にウエルドン(WELDON)シャンクと呼ばれる、たとえばDIN 1835-FormBなどの国際規格で規定された、すでにシャンク部分に凹部が設けられたものが挙げられる。本実施の形態の工具ホルダ1に用いられる切削工具60は、このシャンク規格品であるWELDONシャンクの凹部162を追加工したものである。
【0048】
図6および図7に示すように、シャンク規格品の切削工具160について説明する。図6および図7には、追加工前の切削工具160、つまりシャンク規格品が示されている。図7(A)は、シャンク規格品の側面図および正面図であり、図7(B)は、シャンクの規格表である。シャンク規格品は、切削工具160の後端部160aから凹部162の中央部までの軸方向長さeの公差が0~-1の範囲内であり、凹部162の軸方向長さbの公差が0~+0.05の範囲内であり、シャンク直径dから凹部162の深さ方向長さを差し引いた値hがh13であると定められている。h13は、はめ合い公差規格(ISO286-2、DIN7154、DIN7155)のはめ合い記号である。一例として挙げると、シャンク直径d=φ20の時のシャンク直径dから凹部162の深さ方向長さを差し引いた値hの公差h13は0~-0.33である。
【0049】
図6に示すように、切削工具160は、その外周面に凹部162が設けられている。凹部162は、底面162aと、底面162aの前方端および後方端から軸線方向に連なる一対の傾斜面162bとを含む。従来の切削工具160は、一例としてロックボルト170の先端部が凹部170の底面162aに当接することで固定把持される。
【0050】
しかし、この追加工前の公差の範囲では、b,hの公差が大きいため、2つのサイドロックボルト(第1サイドロックボルト30,第2サイドロックボルト40)を用いてコレット20を介してサイドロックしていても、超切削の際に、切削工具160が軸方向に動いてしまうという問題があることを発明者は鋭意研究の結果見出した。そこで、発明者は、上述した切削工具160の凹部162を追加工して、凹部62を軸方向に長く、かつ、中心軸線に向かって深くして、さらにそれぞれの公差を極小とした。具体的には、図5に示すように、凹部62の軸方向長さbの公差を0~+0.005の範囲内とし、シャンク直径dから凹部62の深さ方向長さを差し引いた値hの公差を0~-0.005の範囲内とした。なお、図5において、追加工前の凹部の形状を一点鎖線で示し、追加工後のhをHで表し、bをBで表し、eをEで表している。追加工後のH,Bの公差は、追加工前のh,bの公差よりも極小とした。なお、Eの公差がeの公差よりも極小となるかどうかは、製品によって異なる。
【0051】
本実施の形態の工具ホルダ1と切削工具60とを備えた工具保持構造は、切削工具60の凹部62の軸方向長さbの公差を0~+0.005の範囲内とし、シャンク直径dから凹部の深さ方向長さを差し引いた値hを0~-0.005の範囲内としたため、キー50の下面52が切削工具60の凹部62の底面に隙間なくしっかりと嵌まり込むため、超切削の際に切削工具60が軸方向に動くことを防止し、確実で安定的に切削工具を保持することが可能となる。
【0052】
本実施の形態の工具ホルダ1は、コレット20を介して切削工具60をホルダ本体10に支持するものである。具体的には、切削工具60とコレット20とは、キー50および引きボルト18の2箇所で係合されている。さらに、コレット20とホルダ本体10とは、第1サイドロックボルト30および第2サイドロックボルト40の2箇所で係合されている。これにより、工具ホルダ1を用いて超切削を行った場合であっても、切削工具60を確実に安定して保持することが可能である。
【0053】
(実施の形態2)
図8は、本発明の実施の形態2に係る工具ホルダを示す側面図であり、図9は、その工具ホルダに用いられるコレットを示す図である。図8および図9を参照して、実施の形態2に係る工具ホルダ1Aについて説明する。実施の形態1は、引きボルト18でコレット20を引き上げ固定するものであったが、実施の形態2は、引きボルト18を設けずに、コレット20Aを先端部に設けられる締付ナット70Aで固定する点で異なる。以下において、実施の形態1で示した構造との相違点のみ詳細に説明する。
【0054】
図8に示すように、ホルダ本体10のフランジ部14よりも前方側には、外径の大きい後方領域10aと、段差部10cを境界として、前方領域10aよりも外径の小さい前方領域10bとが設けられる。後方領域10aには、第1貫通孔16Aおよび第2貫通孔17Aが設けられる。すなわち、第1貫通孔16Aおよび第2貫通孔17Aは、フランジ部14よりも先端部側に設けられる。後方領域10bの外周面には、後述する締付ナット70Aと螺合する溝が形成されている。
【0055】
図9に示すように、本実施の形態のコレット20Aは、その内周面21bにおいて、実施の形態1の引き穴26が設けられておらず、切削工具60の外周面に沿うようにストレートに延びている。図8に示すように、切削工具60がコレット20Aに把持されている状態では、切削工具60の後端部60aは、第1平坦部24および第2平坦部25の径方向位置に位置する。コレット20Aは、ホルダ本体10の先端縁よりも前方に突出する部分に凹部21cが設けられる。
【0056】
図8に示すように、コレット20Aの凹部21cには、締付ナット70Aが取り付けられている。締付ナット70Aは、筒状であり、立壁部71Aと、立壁部71Aからホルダ本体10の先端部10aに沿って延びる側壁部72Aとを含む。立壁71Aの内周面は、コレット20Aの凹部21cに嵌め合わされ、側壁部72Aの内周面は、ホルダ本体10の先端部の外周面に螺合される。締付ナット70Aにより、コレット20Aを強固にホルダ本体10に固定することができる。
【0057】
なお、本実施の形態の工具ホルダ1は、切削工具60とコレット20とは、キー50および引きボルト18の2箇所で係合され、コレット20とホルダ本体10とは、第1サイドロックボルト30および第2サイドロックボルト40の2箇所で係合されているとして説明したが、切削工具60とコレット20とは少なくともキー50を介して係合されていればよい。
【0058】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、工作機械において有利に利用される。
【符号の説明】
【0060】
1 工具ホルダ、10 ホルダ本体、11 後部穴、12 中央部穴、13 前部穴、16 第1貫通孔、17 第2貫通孔、18 引きボルト、20 コレット、20A 後端領域、20B 前端領域、21b 工具挿入穴(内周面)、22 キー溝、23 スリット、24 第1平坦部、25 第2平坦部、30 第1サイドロックボルト、40 第2サイドロックボルト、41 ボルト本体、42 当接部、50 キー、60 切削工具、60a 後端部、62 サイドロック用凹部(凹部)。
【要約】
【課題】安定的に切削工具を保持することが可能な工具ホルダおよびそれを備えた工具保持構造を提供すること。
【解決手段】工具ホルダ(1)は、ホルダ本体(10)と、テーパ形状のコレット(20)と、第1サイドロックボルト(30)と、第2サイドロックボルト(40)と、コレット(20)のキー溝(22)に嵌合して、前部穴(13)の内周面に当接し、かつ、コレット(20)の工具挿入穴(21b)に挿入した切削工具(60)の後端部に設けられる凹部(62)と当接するキー(50)とを備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9