(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】防汚塗料組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 143/04 20060101AFI20240422BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20240422BHJP
C09D 133/14 20060101ALI20240422BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240422BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20240422BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20240422BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
C09D143/04
C09D5/16
C09D133/14
C09D7/63
C09D7/65
B05D5/00 H
B05D7/24 303E
B05D7/24 302Y
B05D7/24 302P
(21)【出願番号】P 2023089669
(22)【出願日】2023-05-31
【審査請求日】2023-09-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 祥太郎
(72)【発明者】
【氏名】筏井 淳内
(72)【発明者】
【氏名】中村 柊也
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-248167(JP,A)
【文献】特開2020-7398(JP,A)
【文献】特許第3593817(JP,B2)
【文献】特開2022-65973(JP,A)
【文献】特表2016-501951(JP,A)
【文献】特開2003-226834(JP,A)
【文献】特表2005-520894(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109735955(CN,A)
【文献】特開2006-52284(JP,A)
【文献】特開2006-299132(JP,A)
【文献】特開昭63-151922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00- 7/26
C09D 1/00- 10/00
C09D101/00-201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリルエステル系重合体と水とを含有する防汚塗料組成物であり、
前記シリルエステル系重合体が、トリ
アルキルシリル基を有し、
前記シリルエステル系重合体が、下記式(a1)で表される重合性単量体(a1)に由来する構造単位(a-1)を有し、前記シリルエステル系重合体中の前記構造単位(a-1)の含有割合が、30質量%以上であり、
前記シリルエステル系重合体の含有割合が、前記防汚塗料組成物の固形分100質量%中、5~30質量%であり、
前記防汚塗料組成物中の揮発性有機化合物(VOC)の含有量が100g/L以下であり、かつ、前記防汚塗料組成物中には、オキシアルキレン単位が存在し、前記防汚塗料組成物について
13C-NMRにより測定されるトリ
アルキルシリル基(a)とオキシアルキレン単位(b)とのモル比((a):(b))が40.0:60.0~48.5:51.5である、
防汚塗料組成物。
【化1】
[式(a1)中、
R
1
は、水素原子またはメチル基であり、
R
2
は、それぞれ独立に炭素数1~20のアルキル基であり、
Xは、水素原子またはR
3
-O-C(=O)-で表される基であり、R
3
は、水素原子、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の有機基または(R
4
)
3
Si-で表されるシリル基であり、R
4
は、それぞれ独立に炭素数1~20のアルキル基である。]
【請求項2】
前記オキシアルキレン単位が、ポリ(オキシアルキレン)構造を構成している、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項3】
前記オキシアルキレン単位が、オキシエチレン単位およびオキシプロピレン単位から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項4】
前記シリルエステル系重合体中の前記構造単位(a-1)の含有割合が、30~80質量%である、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項5】
前記トリアルキルシリル基が、トリイソプロピルシリル基である、請求項
1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項6】
前記シリルエステル系重合体が、前記シリルエステル系重合体の水性エマルションとして配合されてなる、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項7】
前記防汚塗料組成物が、前記シリルエステル系重合体以外のバインダー成分を含有しないか、前記防汚塗料組成物における前記シリルエステル系重合体以外のバインダー成分の含有量が、前記シリルエステル系重合体100質量部に対して、50質量部以下である、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項8】
さらに亜酸化銅を含有する、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項9】
さらに有機防汚剤を含有する、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項10】
前記防汚塗料組成物における水の含有割合が、10~50質量%である、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜。
【請求項12】
基材と、
前記基材上に設けられた請求項11に記載の防汚塗膜と、
を有する、防汚基材。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物を基材に塗布するかまたは含浸させ、塗布体または含浸体を得る工程と、
前記塗布体または前記含浸体を乾燥する工程と、
を有する、防汚基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、防汚塗料組成物、防汚塗膜、防汚基材および防汚基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、防汚塗料組成物を構成する樹脂として、油性系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂および塩化ゴム系樹脂等の有機溶剤希釈型樹脂が用いられている。近年、環境の保全および塗装作業環境の改善という観点から、揮発性有機化合物(VOC)の含有量が少ない水系防汚塗料組成物の開発が進められている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2005/116155号
【文献】特開2003-277680号公報
【文献】特開2006-052284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水系防汚塗料組成物を設計するにあたり、樹脂の水系化には様々な手法があることが知られている。しかしながら、従来の水系防汚塗料組成物は、貯蔵安定性および防汚性を兼ね備えることは困難であった。本開示の課題は、貯蔵安定性に優れる水系防汚塗料組成物であって、防汚性に優れる塗膜を形成できる水系防汚塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、以下の組成を有する防汚塗料組成物により上記課題を解決できることを見出した。すなわち本開示の防汚塗料組成物は、一実施形態において、シリルエステル系重合体と水とを含有し、シリルエステル系重合体が、トリオルガノシリル基を有し、防汚塗料組成物中の揮発性有機化合物(VOC)の含有量が100g/L以下であり、かつ、防汚塗料組成物中には、オキシアルキレン単位が存在し、防汚塗料組成物について13C-NMR(核磁気共鳴分光法)により測定されるトリオルガノシリル基(a)とオキシアルキレン単位(b)とのモル比((a):(b))が40.0:60.0~48.5:51.5である、防汚塗料組成物である。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、貯蔵安定性に優れる水系防汚塗料組成物であって、防汚性に優れる塗膜を形成できる水系防汚塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本開示の一実施形態について詳細に説明する。
本明細書中で説明する各成分は、それぞれ1種または2種以上用いることができる。
「重合体」は、単独重合体および共重合体を包含する意味で用いる。
「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートを総称する語句である。(メタ)アクリル酸等についても同様である。
「ポリ(オキシアルキレン)」を、「ポリオキシアルキレン」とも記載する。例えば、「ポリ(オキシエチレン)」を、「ポリオキシエチレン」とも記載する。
【0008】
本開示において、数値範囲n1~n2は、n1以上n2以下を意味する。ここでn1およびn2は、n1<n2を満たす任意の数である。本開示において、ある要素について下限値および上限値がそれぞれ複数記載されている場合は、記載された上限値から任意に選ばれる値と、記載された下限値から任意に選ばれる値と、を組み合わせてなる数値範囲もまた、記載されているものとする。
【0009】
「XXに由来する構造単位」とは、XXをA1A2C=CA3A4(C=Cは重合性炭素-炭素二重結合であり、A1~A4はそれぞれ炭素原子に結合する原子または基である)と表すならば、例えば下記式で表される構造単位である。
【0010】
【0011】
[防汚塗料組成物]
本開示の防汚塗料組成物(以下「本開示の組成物」ともいう)は、以下に説明するシリルエステル系重合体と、水と、を含有する。シリルエステル系重合体は、トリオルガノシリル基を有する。
【0012】
本開示の組成物における揮発性有機化合物(VOC)の含有量は、好ましくは100g/L以下、より好ましくは90g/L以下、さらに好ましくは80g/L以下、よりさらに好ましくは70g/L以下、特に好ましくは60g/L以下である。
【0013】
VOCとしては、例えば、有機溶剤が挙げられる。有機溶剤としては、例えば、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、エチルベンゼンおよびメシチレン等の芳香族炭化水素系溶剤;エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノールおよびイソブタノール等のアルコール系溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテルおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトンおよびシクロヘキサノン等のケトン系溶剤;ならびに酢酸エチル、酢酸ブチルおよびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤が挙げられる。
【0014】
本開示の組成物におけるVOCの含有量は、低いほど好ましいが、該含有量は、例えば1g/L以上でもよく、5g/L以上でもよく、10g/L以上でもよく、20g/L以上でもよく、30g/L以上でもよい。本開示の組成物におけるVOCの含有量は、例えば、1~100g/Lでもよい。
【0015】
本開示において、上記組成物中のVOCの含有量は、以下の組成物比重、固形分濃度および水分濃度の値を用いて、下記式(1)に基づき算出される。
VOCの含有量(g/L) =
組成物比重×1000×(100-固形分濃度-水分濃度)/100 ・・・(1)
【0016】
組成物比重(g/mL)は、23℃の温度条件下で、組成物を内容積100mLの比重カップに充満し、該組成物の質量を計量することで算出される値である。
固形分濃度(質量%)は、後述の実施例欄に記載の方法で算出される値である。本開示において、組成物の固形分とは、後述の実施例欄に記載の通り、組成物を108℃の恒温器中で3時間乾燥したときの加熱残分を意味する。同様に、各成分(例:水性分散体)の固形分とは、後述の実施例欄に記載の通り、各成分を108℃の恒温器中で3時間乾燥したときの加熱残分を意味する。
水分濃度(質量%)は、組成物100質量%中に含まれる水の量(質量%)であり、カールフィッシャー法に従い、水分測定装置(例えばCA-310、日東精工アナリテック株式会社製)を用いて測定される。
【0017】
本開示の組成物中には、トリオルガノシリル基が存在する。該トリオルガノシリル基は、例えば、シリルエステル系重合体が有するトリオルガノシリル基である。トリオルガノシリル基は、例えば、-SiR3で表されるシリル基であり、Rは、それぞれ独立に、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の有機基である。ただし、該有機基においてシリル基中のケイ素原子(Si)に結合している原子は、炭素原子(ケイ素結合炭素原子(Si-C))である。ヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の有機基としては、後述する具体例が挙げられる。トリオルガノシリル基は、好ましくはトリアルキルシリル基であり、より好ましくはトリイソプロピルシリル基である。
【0018】
本開示の組成物中には、オキシアルキレン単位が存在する。
本開示において、オキシアルキレン単位(アルキレンオキシ単位ともいう)とは、アルキレングリコールから導かれる、-O-A-で表される単位を意味する。該式中、Aは、アルカンジイル基を表す。アルカンジイル基の炭素数は、好ましくは2以上であり、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、さらに好ましくは6以下、特に好ましくは4以下であり、例えば2~10である。アルカンジイル基としては、具体的には、エタンジイル基およびプロパンジイル基が好ましい。すなわちオキシアルキレン単位としては、オキシエチレン単位およびオキシプロピレン単位が好ましい。
【0019】
オキシアルキレン単位は、好ましくは、繰り返し単位となっている。すなわち、本開示の組成物の固形分中には、ポリ(オキシアルキレン)構造が含まれることが好ましい。換言すると、オキシアルキレン単位は、ポリ(オキシアルキレン)構造を構成している。ポリ(オキシアルキレン)構造としては、具体的には、ポリ(オキシエチレン)構造およびポリ(オキシプロピレン)構造が挙げられる。
【0020】
組成物の固形分中のオキシアルキレン単位は、例えば、オキシアルキレン単位を有する界面活性剤を用いた乳化重合法により製造されたシリルエステル系重合体を用いることにより導入してもよく、オキシアルキレン単位を有する界面活性剤を組成物中に配合することにより導入してもよく、これらの方法を併用してもよい。オキシアルキレン単位を有する界面活性剤としては、例えば、ポリ(オキシアルキレン)構造を有する界面活性剤が挙げられ、具体例は後述する。上記界面活性剤(例えば、後述する反応性界面活性剤および非反応性界面活性剤)において、オキシアルキレン単位の繰返し単位数は、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは6以上、特に好ましくは8以上であり、好ましくは20以下、より好ましくは18以下、さらに好ましくは16以下、特に好ましくは14以下であり、例えば2以上20以下である。
【0021】
本発明者らは、本開示の組成物中に存在するオキシアルキレン単位の含有量を以下のとおり調整することにより、VOCが低くても、貯蔵安定性に優れるとともに、防汚性(特に動的防汚性)、耐クラック性および塗膜消耗度の安定性に優れる防汚塗膜を形成できることを見出した。
【0022】
本開示の組成物について13C-NMRにより測定されるトリオルガノシリル基(a)とオキシアルキレン単位(b)とのモル比((a):(b))は、好ましくは40.0:60.0~48.5:51.5、より好ましくは41.0:59.0~48.4:51.6、さらに好ましくは41.5:58.5~48.3:51.7、よりさらに好ましくは42.0:58.0~48.3:51.7、より一層さらに好ましくは43.0:57.0~48.3:51.7、特に好ましくは44.0:56.0~48.3:51.7、45.0:55.0~48.3:51.7、46.0:54.0~48.3:51.7、または47.0:53.0~48.3:51.7である。本発明者らは、オキシアルキレン単位のモル比が下限値以上の組成物は、VOCが低くても貯蔵安定性に優れることを見出した。また、本発明者らは、オキシアルキレン単位のモル比が上限値以下の組成物は、VOCが低くても、防汚性(特に動的防汚性)、耐クラック性および塗膜消耗度の安定性に優れる防汚塗膜を形成できることを見出した。トリオルガノシリル基は好ましくはトリアルキルシリル基、より好ましくはトリイソプロピルシリル基であり、オキシアルキレン単位は好ましくはオキシエチレン単位およびオキシプロピレン単位から選択される少なくとも1種である。
【0023】
本開示において動的防汚性とは、動的防汚性試験により評価される防汚性を意味する。動的防汚性試験とは、例えば、回転ローターを用いて水流を発生させ、その水流を試験板の防汚塗膜の表面に一定期間当てた後に、防汚性を評価する試験である。
本開示の組成物から形成された防汚塗膜において、後述するとおり適度な塗膜表面の更新と必要に応じて用いられる防汚剤の溶出とが起こり、継続的に防汚性が発揮される。本開示において塗膜消耗度の安定性とは、ある期間にわたって塗膜の消耗速度、すなわち消失速度が安定していることを意味する。塗膜の消耗速度が安定していない場合は、塗膜が予想外に早期に消失して防汚性が低下したり、あるいは防汚剤の溶出が不充分となり防汚性が低下したりする傾向にある。
【0024】
防汚塗料組成物に関する固体13C-NMRによる分析では、トリオルガノシリル基およびオキシアルキレン単位それぞれに特徴的なピークが見られることから、当該ピークの位置と当該ピークの積分比(面積比)とから、上記モル比が特定される。上記モル比は、具体的には、以下のようにして測定される。
【0025】
10gの防汚塗料組成物を遠沈管に入れ、40gの水を加えて攪拌した後に、18℃で遠心分離処理を行う。遠沈管内の上澄み液をオーブンで125℃、1気圧および1時間の条件で加熱乾燥する。得られた固形物を重クロロホルムで膨潤させながら、外径4mmのサンプルローターに詰めて、固体13C-NMRスペクトル(測定方法:双極子デカップリング-マジック角スピニング法、観測核:13C)を測定する。測定条件の詳細は、実施例欄に記載する。
(1)トリオルガノシリル基(a)のモル数
13C-NMRスペクトルにおいてトリオルガノシリル基中に含まれるケイ素結合炭素原子(Si-C)に帰属されるピークを選定し、当該ピークの積分比(面積比)からトリオルガノシリル基のモル数(相対値)を算出する。例えばトリオルガノシリル基中に含まれる複数のSi-Cにそれぞれ帰属されるピークが重複する場合は、上記面積比を重複したピークに帰属されるSi-Cの数で除してトリオルガノシリル基のモル数(相対値)を算出してもよい。例えばトリオルガノシリル基中の3つの有機基が同一である場合は、トリオルガノシリル基中に含まれるSi-Cに帰属されるピークの積分比(面積比)の3分の1をトリオルガノシリル基のモル数(相対値)として算出する。具体的にはトリオルガノシリル基がトリイソプロピルシリル基である場合は、12ppm付近にピークが観測され、当該ピークはイソプロピルシリル基中のメチン炭素のピークに相当する。このため、12ppm付近のピークの積分比(面積比)の3分の1をトリイソプロピルシリル基のモル数(相対値)として算出する。なお、ケミカルシフトは重クロロホルムに由来する三重線の中央のピークを77.23ppmとして補正する。
(2)オキシアルキレン単位(b)のモル数
13C-NMRスペクトルにおいてオキシアルキレン単位中に含まれる炭素原子に帰属されるピークを選定し、当該ピークの積分比(面積比)からオキシアルキレン単位のモル数(相対値)を算出する。例えばオキシアルキレン単位中に含まれる複数の炭素原子にそれぞれ帰属されるピークが重複する場合は、上記面積比を重複したピークに帰属される炭素原子の数で除してオキシアルキレン単位のモル数(相対値)を算出してもよい。具体的にはオキシアルキレン単位がエチレングリコール構造またはプロピレングリコール構造である場合は、70~76ppm付近にピークが観測され、当該ピークは、エチレングリコール構造のメチレン炭素、またはプロピレングリコール構造のメチレン炭素とメチン炭素のピークに相当する。このため、70~76ppm付近のピークの積分比(面積比)の2分の1をオキシアルキレン単位のモル数(相対値)として算出する。なお、ケミカルシフトは重クロロホルムに由来する三重線の中央のピークを77.23ppmとして補正する。
(3)モル比((a):(b))の算出
上記(1)で得られたトリオルガノシリル基のモル数と、上記(2)で得られたオキシアルキレン単位のモル数とから、トリオルガノシリル基(a)とオキシアルキレン単位(b)とのモル比((a):(b))を算出する。
【0026】
<シリルエステル系重合体>
本開示の組成物は、シリルエステル系重合体を含有する。シリルエステル系重合体は、加水分解性樹脂の一種である。加水分解性樹脂は、海水で樹脂の加水分解が進行することで海水に溶解し、塗膜の自己研磨性を発揮する樹脂である。これにより、本開示の組成物から形成された防汚塗膜において、適度な塗膜表面の更新と必要に応じて用いられる防汚剤の溶出とが起こり、継続的に防汚性が発揮される。
【0027】
シリルエステル系重合体は、トリアルキルシリル基などのトリオルガノシリル基を有する。シリルエステル系重合体としては、例えば、下記式(a1)で表される重合性単量体(a1)に由来する構造単位(a-1)を有する重合体が挙げられる。シリルエステル系重合体中の構造単位(a-1)は、1種でもよく2種以上でもよい。
【0028】
【0029】
式(a1)中の各記号について以下に説明する。
R1は、水素原子またはメチル基であり、好ましくはメチル基である。
R2は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の有機基である。ただし、該有機基において式(a1)中のケイ素原子(Si)に結合している原子は、炭素原子である。上記有機基としては、例えば、酸素原子などのヘテロ原子が炭素原子と炭素原子との間に介在してもよい、直鎖または分岐アルキル基、シクロアルキル基およびアリール基が挙げられ、長期防汚性および耐クラック性に優れる塗膜を容易に形成できる等の観点から、好ましくは炭素数1~8の直鎖または分岐アルキル基であり、より好ましくは炭素数3~8の分岐アルキル基である。
【0030】
直鎖または分岐アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基および2-エチルヘキシル基が挙げられ、好ましくはイソプロピル基である。
【0031】
Xは、水素原子またはR3-O-C(=O)-で表される基であり、好ましくは水素原子である。R3は、水素原子、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の有機基または(R4)3Si-で表されるシリル基であり、好ましくはイソペンチル基である。R4は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の有機基である。ただし、該有機基においてシリル基中のケイ素原子(Si)に結合している原子は、炭素原子である。ヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の有機基としては、上述した具体例が挙げられる。
【0032】
重合性単量体(a1)としては、トリアルキルシリル(メタ)アクリレート、アルキルジアリールシリル(メタ)アクリレートおよびアリールジアルキルシリル(メタ)アクリレートが好ましく、トリアルキルシリル(メタ)アクリレートがより好ましい。トリアルキルシリル(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチルシリル(メタ)アクリレート、トリエチルシリル(メタ)アクリレート、トリプロピルシリル(メタ)アクリレート、トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレート、トリブチルシリル(メタ)アクリレート、トリイソブチルシリル(メタ)アクリレート、トリ-sec-ブチルシリル(メタ)アクリレート、トリ-2-エチルヘキシルシリル(メタ)アクリレートおよびブチルジイソプロピルシリル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの中でも、長期防汚性および耐クラック性にバランスよく優れる塗膜を容易に形成できる等の観点から、分岐アルキル基を持つトリアルキルシリル(メタ)アクリレートが好ましく、トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレートがより好ましく、トリイソプロピルシリルメタクリレートが特に好ましい。
【0033】
シリルエステル系重合体は、重合性単量体(a1)以外の、その他のエチレン性不飽和単量体(以下「重合性単量体(a2)」ともいう)に由来する構造単位(a-2)をさらに有することができる。シリルエステル系重合体中の構造単位(a-2)は、1種でもよく2種以上でもよい。
【0034】
重合性単量体(a2)としては、例えば、(メタ)アクリル酸およびそのエステルから選択される少なくとも1種のモノマー(以下「(メタ)アクリル系モノマー」ともいう)、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、マレイン酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸アミド、(メタ)アクリロニトリル、脂肪族カルボン酸金属(メタ)アクリレート、ならびに反応性界面活性剤が挙げられる。
【0035】
(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、
(メタ)アクリル酸;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートおよびステアリル(メタ)アクリレート等の、アルキル基の炭素数が1~18のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の、シクロアルキル基の炭素数が3~18のシクロアルキル(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートおよびフェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香環含有(メタ)アクリレート;
メトキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレートおよびエトキシブチル(メタ)アクリレート等の、アルコキシアルキル基の炭素数が2~18のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;
ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートおよび4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;ならびに
グリシジル(メタ)アクリレート;
が挙げられる。
(メタ)アクリル系モノマーは、1種または2種以上用いることができる。
【0036】
反応性界面活性剤(反応性乳化剤ともいう)とは、分子中にエチレン性不飽和結合などの重合性不飽和結合を有する界面活性剤をいう。反応性界面活性剤は、ポリ(オキシアルキレン)構造を有してもよい。1種または2種以上の反応性界面活性剤を用いてもよい。反応性界面活性剤としては、例えば、スルホン酸塩基または硫酸エステル塩基と重合性不飽和結合とポリ(オキシアルキレン)構造とを分子中に有するアニオン性界面活性剤、およびポリ(オキシアルキレン)構造と重合性不飽和結合とを分子中に有するノニオン性界面活性剤が挙げられる。塩としては、例えば、ナトリウム塩およびカリウム塩などのアルカリ金属塩、ならびにアンモニウム塩が挙げられる。反応性界面活性剤としては、具体的には、重合性不飽和結合を分子中に有するポリ(オキシアルキレン)多環フェニルエーテル硫酸エステル塩、および重合性不飽和結合を分子中に有するポリ(オキシアルキレン)多環フェニルエーテルが挙げられる。反応性界面活性剤の市販品としては、例えば、アクアロンシリーズ(第一工業製薬株式会社製)、アデカリアソープシリーズ(株式会社ADEKA製)、およびラテムルPDシリーズ(花王株式会社製)が挙げられる。
【0037】
上記アニオン性界面活性剤としては、例えば、
ポリ(オキシアルキレン)アルケニルエーテル硫酸エステル塩、
ポリ(オキシアルキレン)アリルアルキルエーテル硫酸エステル塩、
ポリ(オキシアルキレン)アルキルアリルフェニルエーテル硫酸エステル塩、
ポリ(オキシアルキレン)プロペニルアルキルエーテル硫酸エステル塩、
ポリ(オキシアルキレン)アルキルプロペニルアルキルエーテル硫酸エステル塩、
ポリ(オキシアルキレン)アルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル塩、
ポリ(オキシアルキレン)アリルオキシアルキルエーテル硫酸エステル塩、および
ポリ(オキシアルキレン)スチレン化プロペニルフェニルエーテル硫酸エステル塩、
が挙げられる。
【0038】
上記ノニオン性界面活性剤としては、例えば、
ポリ(オキシアルキレン)アルケニルエーテル、
ポリ(オキシアルキレン)アリルアルキルエーテル、
ポリ(オキシアルキレン)アルキルアリルフェニルエーテル、
ポリ(オキシアルキレン)プロペニルアルキルエーテル、
ポリ(オキシアルキレン)アルキルプロペニルアルキルエーテル、
ポリ(オキシアルキレン)アルキルプロペニルフェニルエーテル、
ポリ(オキシアルキレン)アリルオキシアルキルエーテル、および
ポリ(オキシアルキレン)スチレン化プロペニルフェニルエーテル、
が挙げられる。
【0039】
反応性界面活性剤は、1種または2種以上用いることができる。例えば、反応性かつアニオン性界面活性剤と、反応性かつノニオン性界面活性剤と、を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
シリルエステル系重合体中の構造単位(a-1)の含有割合は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは45質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下であり、例えば30~80質量%である。
【0041】
シリルエステル系重合体中の構造単位(a-2)の含有割合は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは55質量%以下であり、例えば20~70質量%である。
【0042】
各構造単位の含有割合が上記範囲にあると、本開示の組成物から形成される防汚塗膜は、適度な加水分解性を有し、長期防汚性に優れる傾向にある。各構造単位の含有割合は、NMRにより測定される。
【0043】
シリルエステル系重合体は、1種または2種以上用いることができる。
シリルエステル系重合体の含有割合は、本開示の組成物の固形分100質量%中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下であり、例えば5~30質量%である。このような態様であると、塗膜表面の適度な自己研磨性を有する防汚塗膜を形成できる傾向にある。本開示において各成分の含有割合および含有量は、NMRおよびIR(赤外分光法)により測定される。該測定が困難である場合は、各成分の含有割合および含有量は、組成物調製時における各成分の仕込み量から算出できる。
【0044】
シリルエステル系重合体の製造方法としては、例えば、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法および懸濁重合法が挙げられる。これらの中でも、組成物中のVOCの含有量を100g/L以下に調整しやすいという観点から、乳化重合法が好ましい。すなわち、シリルエステル系重合体を形成するために用いられる重合性単量体の乳化重合により、直接、シリルエステル系重合体の水性エマルションを調製することが好ましい。乳化重合法としては、通常の乳化重合法の他、シード重合法、ミニエマルション重合法および析出重合法等が挙げられる。乳化重合の際には、重合性単量体の一部として、上述した反応性界面活性剤を用いてもよい。
【0045】
乳化重合法では、例えば、界面活性剤(乳化剤ともいう)が用いられる。界面活性剤は、反応性界面活性剤でもよく、非反応性界面活性剤でもよい。防汚塗膜における長期間にわたる防汚性および耐クラック性をより向上させるという観点から、界面活性剤は、反応性界面活性剤でもよい。反応性界面活性剤の詳細は上述したとおりであり、ここでの説明は省略する。非反応性界面活性剤(非反応性乳化剤ともいう)とは、分子中にエチレン性不飽和結合などの重合性不飽和結合を有しない界面活性剤をいう。
【0046】
非反応性界面活性剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤および両性界面活性剤が挙げられる。非反応性界面活性剤は、ポリ(オキシアルキレン)構造を有してもよい。1種または2種以上の非反応性界面活性剤を用いてもよい。例えば、アニオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤とを組み合わせて使用してもよい。
【0047】
非反応性のアニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシノニルフェニルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレングリコールエーテル硫酸塩およびジオクチルスルホコハク酸塩が挙げられる。非反応性のノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルおよびポリオキシアルキレンデシルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマーが挙げられる。非反応性のカチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩および第四級アンモニウム塩が挙げられる。
【0048】
界面活性剤の使用量は、一実施形態において、シリルエステル系重合体を形成するために用いられる、反応性界面活性剤以外の重合性単量体100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上、よりさらに好ましくは1.5質量部以上、特に好ましくは2質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは9質量部以下、さらに好ましくは8質量部以下であり、例えば0.1~10質量部である。上記界面活性剤は、反応性界面活性剤でもよく、非反応性界面活性剤でもよく、両者の組合せでもよい。ポリ(オキシアルキレン)構造を有する界面活性剤を用いて、上述したトリオルガノシリル基(a)とオキシアルキレン単位(b)とのモル比((a):(b))を調整してもよい。
【0049】
重合性単量体の重合時には、重合開始剤を用いてもよい。重合開始剤としては、各種ラジカル重合開始剤を用いることができる。1種または2種以上のラジカル重合開始剤を用いてもよい。なお、これらのラジカル重合開始剤は、重合反応における反応開始時にのみ反応系内に添加してもよく、また反応開始時と反応途中との両方で反応系内に添加してもよい。具体的には、2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)および4,4'-アゾビス-4-シアノ吉草酸等のアゾ系化合物;t-ブチルパーオキシオクトエート、t-ブチルパーオキシベンゾエートおよびジ-t-ブチルパーオキシド等の有機過酸化物;過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩;ならびに過酸化水素が挙げられる。重合開始剤の使用量は、シリルエステル系重合体を形成するために用いられる上記重合性単量体の合計100質量部に対して、例えば、0.1~20質量部である。
【0050】
重合性単量体の重合時には、連鎖移動剤を用いてもよい。1種または2種以上の連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤としては、例えば、α-メチルスチレンダイマー、チオフェノール、ジテルペン、ターピノーレン、γ-テルピネン;チオグリコール酸、チオグリコール酸2-エチルヘキシル、メルカプトプロピオン酸、メルカプトプロピオン酸2-エチルヘキシル、tert-ドデシルメルカプタンおよびn-ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、ブロモホルムおよびブロモトリクロロエタン等のハロゲン化物;ならびにイソプロパノールおよびグリセリン等の第2級アルコールが挙げられる。連鎖移動剤の使用量は、シリルエステル系重合体を形成するために用いられる上記重合性単量体の合計100質量部に対して、例えば、0.1~5質量部である。
【0051】
重合性単量体の重合時には、溶剤を用いてもよい。溶剤としては、水および有機溶剤が挙げられる。有機溶剤としては、例えば、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、エチルベンゼンおよびメシチレン等の芳香族炭化水素系溶剤;エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノールおよびイソブタノール等のアルコール系溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテルおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトンおよびシクロヘキサノン等のケトン系溶剤;ならびに酢酸エチル、酢酸ブチルおよびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤が挙げられる。
【0052】
本開示の組成物の製造では、組成物中のVOCの含有量を100g/L以下に調整しやすいという観点や、塗膜物性の観点から、シリルエステル系重合体の水性分散体を用いることが好ましく、シリルエステル系重合体の水性エマルションを用いることがより好ましく、シリルエステル系重合体の乳化重合物を用いることがさらに好ましい。シリルエステル系重合体の水性分散体中の固形分の含有割合は、分散体の安定性の観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下であり、例えば30~70質量%である。
【0053】
シリルエステル系重合体の水性分散体とは、水を含む分散媒(以下「水性媒体」ともいう)中にシリルエステル系重合体が分散された分散体である。水性媒体としては、水を含んでいれば特に制限されないが、水性媒体中の水の含有割合は、好ましくは70~100質量%、より好ましくは80~100質量%である。
【0054】
水性媒体には、水以外の媒体が含まれていてもよく、このような媒体としては、例えば、アセトン、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジアセトンアルコール、ジオキサン、エチレングリコール、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルおよびエチレングリコールモノヘキシルエーテルが挙げられる。これらは、1種または2種以上用いることができる。
【0055】
シリルエステル系重合体の水性エマルションは、上述したように、シリルエステル系重合体を形成するために用いられる重合性単量体の乳化重合により、調製できる。シリルエステル系重合体の水性エマルションは、具体的には、水中において、重合性単量体を乳化させ、重合させることにより、調製できる。重合温度は、好ましくは50~90℃、より好ましくは60~85℃である。
【0056】
シリルエステル系重合体の水性エマルションは、シリルエステル系重合体を含む有機溶剤系溶液を乳化(例えば機械乳化)することにより調製することもできる。上記溶液を乳化する場合の乳化方法としては、自然乳化法、界面化学的乳化法、電気乳化法、毛管乳化法、転相乳化法、機械的乳化法および超音波乳化法等の従来公知の方法が挙げられ、界面活性剤を用いてもよい。ただし、この方法を用いた場合は、VOCの含有量を充分に低減できない場合がある。このため、VOCの含有量を100g/L以下にするという観点から、乳化重合により上記水性エマルションを調製することが好ましい。
【0057】
シリルエステル系重合体の水性エマルションに含まれるシリルエステル系重合体粒子のZ平均粒子径は、好ましくは500nm以下、より好ましくは400nm以下、さらに好ましくは300nm以下、よりさらに好ましくは250nm以下、特に好ましくは200nm以下であり、好ましくは50nm以上、より好ましくは80nm以上、さらに好ましくは100nm以上であり、例えば50~500nmである。Z平均粒子径が上限値以下かつ下限値以上のシリルエステル系重合体粒子を含む水性エマルションは、粒子の安定性および耐水性にバランスよく優れる傾向にある。Z平均粒子径は、粒子径測定装置(例えばMalvern社製Zetasizer Nano-ZS)を用いた動的光散乱法により25℃にて測定される。
【0058】
<防汚剤>
本開示の組成物は、防汚剤を含有することが好ましい。
防汚剤としては、例えば、無機系防汚剤および有機系防汚剤が挙げられる。
【0059】
無機系防汚剤としては、例えば、亜酸化銅、金属銅粉およびチオシアン酸第1銅(ロダン銅)等の銅または銅化合物(ただし、ピリチオン系化合物を除く)が挙げられ、好ましくは亜酸化銅およびチオシアン酸第1銅(ロダン銅)であり、より好ましくは亜酸化銅である。本開示の組成物は、亜酸化銅を含有していても、貯蔵安定性に優れる傾向にある。亜酸化銅のメジアン径(D50)は、1~30μmであることが好ましい。また、亜酸化銅は、表面処理されていてもよい。亜酸化銅の表面処理としては、グリセリン、ステアリン酸、ラウリン酸、ショ糖、レシチンおよび鉱物油等の表面処理剤による処理が、塗膜の防汚性や組成物の貯蔵時の長期安定性の観点から好ましい。
【0060】
メジアン径(D50)は、レーザー回折・散乱法により測定され、測定装置としてSALD-2200(株式会社島津製作所製)を用いることができる。測定方法の詳細は、以下のとおりである。試料分散機にヘキサメタリン酸ナトリウム(HMPNa)0.2質量%水溶液と数滴の中性洗剤(花王株式会社製、製品名:キュキュット)とを加え、超音波を作動させて該溶液を循環させる。その後、乳鉢に亜酸化銅を約100mg取り、上記中性洗剤を数滴加えて、亜酸化銅の2次凝集をほぐすために軽く分散させる。乳鉢で分散した試料に泡が立たないように水を加え試料分散機へ流し込む。試料分散機内で10分間循環・分散処理の後、上記測定装置を用いて体積基準の粒度分布測定を行う。粒度分布計算時の屈折率として「2.70-0.20i」を用い、粒度分布からメジアン径(D50)を得る。
【0061】
有機系防汚剤としては、例えば、銅ピリチオンおよびジンクピリチオン等の金属ピリチオン(ピリチオン系化合物);テトラメチルチウラムジサルフィド等のテトラアルキルチウラムジサルフィド;ジンクジメチルジチオカーバメート、ジンクエチレンビスジチオカーバメートおよびビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート等のカーバメート系化合物;2,4,6-トリフェニルマレイミド、2,3-ジクロロ-N-(2',6'-ジエチルフェニル)マレイミドおよび2,3-ジクロロ-N-(2'-エチル-6'-メチルフェニル)マレイミド等のマレイミド系化合物;2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル、N,N-ジメチルジクロロフェニル尿素、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(DCOIT)、2-メチルチオ-4-tert-ブチルアミノ-6-シクロプロピル-S-トリアジン、クロロメチル-n-オクチルジスルフィド、N',N'-ジメチル-N-フェニル-(N-フルオロジクロロメチルチオ)スルファミドおよびN',N'-ジメチル-N-トリル-(N-フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド;ピリジントリフェニルボランおよび4-イソプロピルピリジンジフェニルメチルボラン等のアミン・有機ボラン錯体;ならびに(+/-)-4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール(メデトミジン)が挙げられる。
【0062】
これらの有機系防汚剤の中でも、好ましくは銅ピリチオン、ジンクピリチオン、ジンクエチレンビスジチオカーバメート、2-メチルチオ-4-tert-ブチルアミノ-6-シクロプロピル-S-トリアジン、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(DCOIT)および(+/-)-4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール(メデトミジン)であり、より好ましくは銅ピリチオン、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(DCOIT)および(+/-)-4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール(メデトミジン)である。
【0063】
防汚剤は、1種または2種以上用いることができる。
本開示の組成物が防汚剤を含有する場合における防汚剤の含有割合は、本開示の組成物の固形分100質量%中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、5質量%以上でもよく、10質量%以上でもよく、15質量%以上でもよく、20質量%以上でもよく、25質量%以上でもよく、30質量%以上でもよく、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下であり、例えば0.01~80質量%である。
【0064】
<他の成分>
本開示の組成物は、必要により、他の成分として、シリルエステル系重合体以外のバインダー成分、顔料および添加剤から選択される少なくとも1種を含有してもよい。
【0065】
本開示の組成物は、防汚塗膜の防汚性、耐クラック性および強度などの物性をより向上させるという観点から、シリルエステル系重合体以外のバインダー成分をさらに含有してもよい。バインダー成分としては、例えば、(メタ)アクリル系重合体、ビニル系重合体(例えばポリビニルアルコール)、ポリエステル、テルペンフェノール樹脂、石油樹脂およびケトン樹脂が挙げられる。バインダー成分は、1種または2種以上用いることができる。
【0066】
本開示の組成物がシリルエステル系重合体以外のバインダー成分を含有する場合における該バインダー成分の含有量は、シリルエステル系重合体100質量部に対して、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。
【0067】
顔料としては、例えば、体質顔料および着色顔料が挙げられる。添加剤としては、例えば、界面活性剤、顔料分散剤、ロジン系化合物、消泡剤、増粘剤、沈降防止剤および造膜助剤が挙げられる。顔料は、1種または2種以上用いることができる。添加剤は、1種または2種以上用いることができる。
【0068】
体質顔料としては、例えば、酸化亜鉛、タルク、シリカ、マイカ、クレー、カリ長石、炭酸カルシウム、カオリン、アルミナホワイト、ホワイトカーボン、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウムおよび硫化亜鉛が挙げられる。本開示の組成物が体質顔料を含有する場合における体質顔料の含有割合は、本開示の組成物の固形分100質量%中、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下であり、例えば0.1~90質量%である。
【0069】
着色顔料としては、例えば、無機系顔料および有機系顔料が挙げられる。無機系顔料としては、例えば、カーボンブラック、弁柄、チタン白(酸化チタン)および黄色酸化鉄が挙げられる。有機系顔料としては、例えば、ナフトールレッドおよびフタロシアニンブルーが挙げられる。本開示の組成物が着色顔料を含有する場合における着色顔料の含有割合は、本開示の組成物の固形分100質量%中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下であり、例えば0.01~50質量%である。
【0070】
界面活性剤の詳細は上述したとおりであり、本欄での説明は省略する。ポリ(オキシアルキレン)構造を有する界面活性剤を用いて、本開示の組成物におけるトリオルガノシリル基(a)とオキシアルキレン単位(b)とのモル比((a):(b))を上述した範囲に調整してもよい。
【0071】
顔料分散剤としては、塗料組成物中の顔料を均一に湿潤分散させ、安定な分散体を調製することができる分散剤であることが好ましい。顔料分散剤は、ポリ(オキシアルキレン)構造を有してもよい。本開示の組成物が顔料分散剤を含有する場合における顔料分散剤の含有割合は、本開示の組成物の固形分100質量%中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは5質量%以下であり、例えば0.01~5質量%である。
【0072】
ロジン系化合物は、ロジンおよびその誘導体から選択される少なくとも1種である。ロジン系化合物は、例えば、塗膜の消耗速度の調整および長期防汚性の向上に寄与する。ロジン系化合物としては、例えば、ガムロジン、ウッドロジンおよびトール油ロジン等のロジン;水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジンおよびロジン金属塩等のロジン誘導体が挙げられる。金属塩としては、例えば、ナトリウム塩およびカリウム塩等のアルカリ金属塩、亜鉛塩、銅塩、アルミニウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩ならびにバリウム塩が挙げられる。これらの他、水添ロジン金属塩、不均化ロジン金属塩および重合ロジン金属塩も挙げられる。
【0073】
ロジン系化合物としては、ロジン中に含まれる成分であるロジン系樹脂酸およびその誘導体から選択される少なくとも1種を用いてもよい。ロジン系樹脂酸およびその誘導体としては、例えば、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、セコデヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチエン酸、テトラヒドロアビエチン酸、ピマル酸、イソピマル酸、レボピマル酸、パラストリン酸およびサンダラコピマル酸が挙げられる。
【0074】
本開示の組成物がロジン系化合物を含有する場合におけるロジン系化合物の含有割合は、本開示の組成物の固形分100質量%中、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下であり、例えば0.1~15質量%である。
【0075】
消泡剤としては、塗料組成物の製造時および塗装時に泡の発生を抑えることができる材料、または、塗料組成物中に発生した泡を破泡することができる材料であることが好ましい。消泡剤を用いることにより、例えば、塗膜中での気泡痕またはピンホールの発生を抑制でき、したがって塗膜の成膜性、防汚性および耐クラック性をより向上させることができる。消泡剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤、ポリマー系(非シリコーン系)消泡剤およびミネラルオイル系消泡剤が挙げられる。本開示の組成物が消泡剤を含有する場合における消泡剤の含有割合は、本開示の組成物の固形分100質量%中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下であり、例えば0.01~2質量%である。
【0076】
増粘剤としては、例えば、一般的に増粘剤として販売されている市販品を用いることができる。該市販品としては特に制限されず、例えば、アルカリ増粘型、ノニオン性会合型、アクリル型、ウレタン型、水溶性高分子型、ポリアミド型またはヒドロキシエチルセルロースなどの増粘剤が挙げられる。本開示の組成物が増粘剤を含有する場合における増粘剤の含有割合は、本開示の組成物の固形分100質量%中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下であり、例えば0.01~10質量%である。
【0077】
沈降防止剤としては、塗料組成物中の顔料の沈降を抑制し、塗料組成物の貯蔵安定性を向上させることができる材料が好ましい。沈降防止剤としては、例えば、水添ヒマシ油系揺変剤、アマイドワックス系揺変剤および酸化ポリエチレン系揺変剤等の有機系揺変剤;ならびに粘土鉱物(例:ベントナイト、スメクタイトおよびヘクトライト)および合成微粉シリカ等の無機系揺変剤が挙げられる。本開示の組成物が沈降防止剤を含有する場合における沈降防止剤の含有割合は、本開示の組成物の固形分100質量%中、好ましくは0.01~5質量%である。
【0078】
造膜助剤としては、例えば、アルコール類、グリコールエーテル類およびエステル類が挙げられ、具体的には、イソプロピルアルコール等の炭素数1~3のアルコールおよび2,2,4-トリメチルペンタンジオール、ベンジルアルコール等のアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロプレングリコールn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテルおよびエチレングリコールモノフェニルエーテル等のグリコールエーテル類;ならびに2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート等のエステル類が挙げられる。本開示の組成物が造膜助剤を含有する場合における造膜助剤の含有割合は、本開示の組成物の全量100質量%中、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは15質量%以下、より好ましくは5質量%以下であり、例えば0.1~15質量%である。
【0079】
<水>
本開示の組成物は、水系防汚塗料組成物である。本開示において「水系」の組成物とは、水を含有する組成物のことをいう。本開示の組成物における水の含有割合は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下であり、例えば10~50質量%である。
【0080】
本開示の組成物中の固形分の含有割合は、塗装作業性に優れた組成物にできる観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下であり、例えば50~90質量%である。
【0081】
<防汚塗料組成物の製造方法>
本開示の組成物は、公知の方法を適宜利用して製造でき、例えば、シリルエステル系重合体と、必要に応じて防汚剤および/または他の成分とを、一度にまたは任意の順序で攪拌容器に添加し、公知の攪拌・混合手段で各成分を混合して、水中に分散または溶解させて製造できる。本開示の組成物の製造において、塗料製造上の作業性の観点から、シリルエステル系重合体の水性分散体を用いることが好ましい。
【0082】
攪拌・混合手段としては、例えば、ペイントシェーカー、ハイスピードディスパー、サンドグラインドミル、バスケットミル、ボールミル、三本ロールミル、ロスミキサーまたはプラネタリーミキサーを用いる手段が挙げられる。
【0083】
本開示の組成物は、水系塗料であることから、環境や人体への悪影響が極めて少なく、また、貯蔵安定性にも優れる。本開示の組成物は、水系組成物でありながら、防汚性、耐クラック性および塗膜消耗度の安定性に優れる防汚塗膜を形成できる。具体的には、本開示の組成物は、耐クラック性に優れるとともに、水生生物の付着を長期に亘って抑制できる塗膜を、船舶を構成する部材等の基材の表面に形成できる。耐クラック性の向上は、クラックの発生による塗膜の表面粗度の増大および水流抵抗の増加を抑制し、例えば船舶の場合は燃費の低減にも寄与する。また、本開示の組成物を塗り重ねても塗膜のクラックや剥離が生じにくいことから、該組成物は、補修塗装にも好適である。
【0084】
[防汚塗料組成物の用途]
本開示の防汚塗膜は、本開示の組成物から形成される。本開示の防汚基材は、基材と、該基材上に設けられた本開示の防汚塗膜と、を有する。
【0085】
本開示の防汚基材の製造方法は、本開示の組成物を基材(目的物、被塗装物)に塗布するかまたは含浸させ、塗布体または含浸体を得る工程と、該塗布体または該含浸体を乾燥する工程とを有する。
【0086】
組成物の塗布には、例えば、エアスプレー、エアレススプレー、刷毛塗りおよびローラーコート等の公知の方法を用いることができる。
【0087】
上述の方法により塗布または含浸された本開示の組成物を、例えば、5~40℃の条件下で、好ましくは1~10日間程度、より好ましくは1~7日間程度放置することにより乾燥する。これにより、防汚塗膜を形成できる。なお、組成物の乾燥にあたっては、加熱下で送風しながら行ってもよい。
【0088】
あるいは、本開示の防汚基材は、仮の基材の表面に本開示の組成物から防汚塗膜を形成し、この防汚塗膜を仮の基材から剥がして防汚すべき基材に貼付することによっても製造できる。この際、接着剤層を介して基材上に防汚塗膜を貼付してもよい。
【0089】
基材の表面は、プライマー処理されていてもよい。基材の表面に、樹脂系塗料から形成された層を設けてもよい。樹脂系塗料としては、例えば、エポキシ樹脂系塗料、ビニル樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料およびウレタン樹脂系塗料が挙げられる。この場合の防汚塗膜が設けられる基材の表面とは、プライマー処理後の表面や、樹脂系塗料から形成された層の表面を意味する。
【0090】
基材は特に制限されないが、本開示の組成物は、船舶、漁業および水中構造物等の広範な産業分野において、基材を長期間にわたって防汚する等のために使用することが好ましい。基材としては、例えば、船舶を構成する部材(鋼板等の船体外板等)、水中構造物、漁業資材、工場および火力・原子力発電所等における海水等の給排水管、ダイバースーツ、水中メガネ、酸素ボンベ、水着ならびに魚雷が挙げられる。船舶としては、例えば、コンテナ船およびタンカー等の大型鋼船、漁船、FRP船、木船ならびにヨットが挙げられ、これらの新造船または修繕船のいずれでもよい。水中構造物としては、例えば、石油パイプライン、導水配管、循環水管、工場および火力・原子力発電所の給排水口、海底ケーブル、海水利用機器類(海水ポンプ等)、ならびにメガフロート、湾岸道路、海底トンネル、港湾設備および運河・水路等における各種水中土木工事用構造物が挙げられる。漁業資材としては、例えば、ロープ、漁網、漁具、浮き子およびブイが挙げられる。これらの中でも、船舶を構成する部材、水中構造物、漁業資材および給排水管が好ましく、船舶を構成する部材および水中構造物がより好ましく、船舶を構成する部材が特に好ましい。
【0091】
本開示の防汚基材を製造する際、基材が漁網や鋼板の場合には、基材表面に本開示の組成物を直接塗布してもよく、基材が漁網の場合には、その表面に本開示の組成物を含浸させてもよく、また、基材が鋼板の場合には、基材表面に防錆剤やプライマーなどの下地材を予め塗布して下地層を形成した後に、該下地層の表面に本開示の組成物を塗布してもよい。また、劣化した防汚塗膜を有する鋼板のように、本開示の防汚塗膜または従来の防汚塗膜が形成された基材の表面に、補修を目的として、本開示の防汚塗膜をさらに形成してもよい。
【0092】
本開示の防汚塗膜の厚さは、例えば、30~1,000μm程度であり、50μm以上でもよく、100μm以上でもよく、また、800μm以下でもよく、600μm以下でもよく、400μm以下でもよい。また、防汚塗膜を形成する場合には、1回の塗装で形成される防汚塗膜の厚さが、好ましくは10~300μm、より好ましくは30~200μmの厚さで、1回から複数回塗布する方法が挙げられる。
【0093】
本開示の防汚塗膜を有する船舶は、水生生物の付着を抑制できることに起因して、船舶速度の低下および燃費の増大を抑制できる。本開示の防汚塗膜を有する水中構造物は、長期間に亘って水生生物の付着を抑制できることに起因して、水中構造物の機能を長期間維持できる。本開示の防汚塗膜を有する漁網は、環境汚染の恐れが少ない上に、水生生物の付着を抑制できることに起因して、網目の閉塞を抑制できる。本開示の防汚塗膜をその内面に有する給排水管は、水生生物の付着および繁殖を抑制できることに起因して、給排水管の閉塞や流速の低下を抑制できる。
【0094】
[本開示の態様]
本開示は、例えば以下の[1]~[13]に関する。
[1]シリルエステル系重合体と水とを含有する防汚塗料組成物であり、前記シリルエステル系重合体が、トリオルガノシリル基を有し、前記防汚塗料組成物中の揮発性有機化合物(VOC)の含有量が100g/L以下であり、かつ、前記防汚塗料組成物中には、オキシアルキレン単位が存在し、前記防汚塗料組成物について
13C-NMRにより測定されるトリオルガノシリル基(a)とオキシアルキレン単位(b)とのモル比((a):(b))が40.0:60.0~48.5:51.5である、防汚塗料組成物。
[2]前記オキシアルキレン単位が、ポリ(オキシアルキレン)構造を構成している、前記[1]に記載の防汚塗料組成物。
[3]前記オキシアルキレン単位が、オキシエチレン単位およびオキシプロピレン単位から選択される少なくとも1種である、前記[1]または[2]に記載の防汚塗料組成物。
[4]前記シリルエステル系重合体が、下記式(a1)で表される重合性単量体(a1)に由来する構造単位(a-1)を有する、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物。
【化3】
[式(a1)中、R
1は、水素原子またはメチル基であり、R
2は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の有機基であり、ただし、該有機基において式(a1)中のケイ素原子(Si)に結合している原子は、炭素原子であり、Xは、水素原子またはR
3-O-C(=O)-で表される基であり、R
3は、水素原子、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の有機基または(R
4)
3Si-で表されるシリル基であり、R
4は、それぞれ独立に、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1~20の1価の有機基であり、ただし、該有機基において前記シリル基中のケイ素原子(Si)に結合している原子は、炭素原子である。]
[5]前記トリオルガノシリル基が、トリアルキルシリル基である、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物。
[6]前記トリアルキルシリル基が、トリイソプロピルシリル基である、前記[5]に記載の防汚塗料組成物。
[7]前記シリルエステル系重合体の含有割合が、前記防汚塗料組成物の固形分100質量%中、5~30質量%である、前記[1]~[6]のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物。
[8]さらに亜酸化銅を含有する、前記[1]~[7]のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物。
[9]さらに有機防汚剤を含有する、前記[1]~[8]のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物。
[10]前記防汚塗料組成物における水の含有割合が、10~50質量%である、前記[1]~[9]のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物。
[11]前記[1]~[10]のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜。
[12]基材と、前記基材上に設けられた前記[11]に記載の防汚塗膜と、を有する、防汚基材。
[13]前記[1]~[10]のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物を基材に塗布するかまたは含浸させ、塗布体または含浸体を得る工程と、前記塗布体または前記含浸体を乾燥する工程と、を有する、防汚基材の製造方法。
【実施例】
【0095】
以下、実施例および比較例に基づき本開示の防汚塗料組成物をさらに具体的に説明するが、本開示の防汚塗料組成物は以下の実施例に何ら限定されない。以下の実施例および比較例において、「部」は「質量部」を示す。
【0096】
[固形分濃度]
組成物および各成分の固形分とは、組成物および各成分をそれぞれ108℃の恒温器中で3時間乾燥したときの加熱残分を意味する。加熱残分は、具体的には、試料1.0gを平底皿に量り採り、質量既知の針金を使って均一に広げ、恒温器内で、1気圧かつ108℃の条件で3時間乾燥させて得られる試料の残渣である。加熱残分の量から、組成物および各成分の固形分の含有割合(固形分濃度)(質量%)を算出した。
【0097】
[製造例1]
反応操作は、窒素気流下で行った。
攪拌機および窒素導入管を備えるフラスコに、418.5部の脱イオン水、450部のトリイソプロピルシリルメタクリレート、270部のメチルメタクリレート、180部のブチルアクリレート、13.5部のポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム(反応性界面活性剤)、および45部のポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル(反応性界面活性剤)を仕込み、よく攪拌してプレエマルションを調製した。
【0098】
滴下ロート 2つ、攪拌機、窒素導入管、温度計および還流冷却器を備えるフラスコに、135部の上記プレエマルション、および315部の脱イオン水を仕込んだ。このフラスコを内温78℃になるまで加熱し、45部の2%過硫酸アンモニウム水溶液を添加し、内温78±2℃を40分間維持した。次に同温度を維持しつつ滴下ロートから、1215部の上記プレエマルションを2.5時間かけて、270部の0.5%過硫酸アンモニウム水溶液を3時間かけて滴下し、滴下終了から2時間同温度を維持した。その後、フラスコの内容物を室温まで冷却した後、3.6部の28%アンモニア水、および91.4部の脱イオン水を加え、フラスコの内容物を120メッシュの網でろ過して、乳化重合物1を得た。得られた乳化重合物1の固形分濃度は45質量%であった。乳化重合物1におけるZ平均粒子径は、140~180nmの範囲にあった。
【0099】
[製造例2~11]
界面活性剤の種類および使用量(反応性界面活性剤以外の重合性単量体100部に対する使用量)を表1に記載したとおりに変更したこと以外は製造例1と同様にして、乳化重合物2~11を得た。表1中の重合性単量体等について記載された各数値は、質量部を表す。
【0100】
上記製造例で用いた界面活性剤を以下に記載する。
アクアロンAR-10(反応性のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム、第一工業製薬株式会社製)
アクアロンAR-20(反応性のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム、第一工業製薬株式会社製)
アクアロンAN-10(反応性のノニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル、第一工業製薬株式会社製)
アクアロンAN-20(反応性のノニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル、第一工業製薬株式会社製)
ハイテノールLA-16(非反応性のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸アンモニウム、第一工業製薬株式会社製)
モノゲンY-100(非反応性のアニオン性界面活性剤、ラウリル硫酸ナトリウム、第一工業製薬株式会社製)
ネオゲンS-20F(非反応性のアニオン性界面活性剤、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、第一工業製薬株式会社製)
ノイゲンXL-400D(非反応性のノニオン性界面活性剤、ポリオキシアルキレン分岐デシルエーテル、第一工業製薬株式会社製)
【0101】
[製造例12]
各反応は、常圧、窒素雰囲気下で行った。攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管および滴下ロートを備える反応容器に、428.6部のキシレンと50部のトリイソプロピルシリルメタクリレート(TIPSMA)とを仕込み、攪拌機で攪拌しながら、反応容器内の液温が85℃になるまで加熱した。反応容器内の液温を85±5℃に維持しながら、450部のTIPSMA、200部の2-メトキシエチルメタクリレート、240部のメチルメタクリレート、60部のブチルアクリレートおよび20部の2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)からなる混合物を、滴下ロートを用いて3時間かけて反応容器内に滴下した。
【0102】
滴下終了後、反応容器内の反応液を85℃で1時間、85~95℃で1時間攪拌した。その後、95℃を保ちながら反応液に1部のAIBNを30分毎に4回添加し、105℃まで液温を上昇させ重合反応を完結し、重合体溶液を得た。
【0103】
ポリエチレン容器に、2,400部の上記重合体溶液、185部のノイゲンXL-400D(第一工業製薬株式会社製、固形分濃度65質量%)および1,300部の脱イオン水を仕込み、5,000rpm条件下で20分間の分散処理を行った。次いで、得られた混合物を高圧ホモジナイザー(スターバースト HJP-25005、株式会社スギノマシン製)を用いて150MPaの圧力で5パス分散処理した。得られた分散体に固形分濃度が45質量%になるまで脱イオン水を添加して希釈した。このようにして、乳化物1を得た。乳化物1におけるZ平均粒子径は、350nmであった。
【0104】
【0105】
[防汚塗料組成物の調製]
[実施例1]
防汚塗料組成物を以下のようにして調製した。
ポリエチレン容器内で、14.5部の脱イオン水、1.0部のDISPERBYK-194N(湿潤分散剤、顔料親和性基を有するコポリマーの溶液、ビックケミー・ジャパン株式会社製)を、ペイントシェーカーを用いて各成分が均一に分散または溶解するまで混合した。その後、ポリエチレン容器にさらに、14.0部のFC-1タルク(体質顔料、タルク、株式会社 福岡タルク工業所製)、34.0部のNC-301(無機系防汚剤、亜酸化銅、エヌシー・テック株式会社製)、1.5部のCopper Omadine Powder(有機系防汚剤、銅ピリチオン、ロンザジャパン株式会社製)、1.0部のTODA COLOR NM-50(着色顔料、赤色弁柄、戸田ピグメント株式会社製)、0.3部のBYK-018(消泡剤、破泡性ポリシロキサンと疎水性粒子との混合物、ビックケミー・ジャパン株式会社製)および150部のガラスビーズを添加して、ペイントシェーカーを用いて1時間攪拌し、これらの成分を分散させて、混合物を得た。
【0106】
分散後、混合物から濾過網(目開き:80メッシュ)でガラスビーズを除いた濾液に、26.7部の乳化重合物1(製造例1、シリルエステル系重合体)、3.0部のキョーワノールM(造膜助剤、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート、KHネオケム株式会社製)、4.0部のディスパロン AQ-002(増粘剤、アクリル系重合物、楠本化成株式会社)を添加して、ディスパーを用いて10分間分散させて防汚塗料組成物を得た。
【0107】
[実施例2~6および比較例1~9]
各成分の種類および配合量を表2に示したように変更したこと以外は実施例1と同様にして、防汚塗料組成物を調製した。表2中の各成分について記載された各数値は、質量部を表す。ただし、比較例2~5では、良好に塗料化できなかったことから、後述する動的防汚性等の評価は行えなかった。上述した成分以外で表2に記載した成分の詳細は、以下のとおりである。
Selektope(有機系防汚剤、メデトミジン、I-Tech AB製)
ノイゲンXL-400D(非反応性のノニオン性界面活性剤、ポリオキシアルキレン分岐デシルエーテル、第一工業製薬株式会社製)
【0108】
<揮発性有機化合物(VOC)の含有量>
実施例または比較例の各防汚塗料組成物中のVOCの含有量は、組成物比重、固形分濃度および水分濃度の値を用いて、下記式(1)に基づき算出した。組成物比重、固形分濃度および水分濃度の意味は、それぞれ上述したとおりである。
VOCの含有量(g/L) =
組成物比重×1000×(100-固形分濃度-水分濃度)/100 ・・・(1)
【0109】
<モル比(トリオルガノシリル基(a):オキシアルキレン単位(b))>
(前処理)
・水可溶分の抽出方法
実施例および比較例で得られた各防汚塗料組成物10gを遠沈管にとり、約40gの水を入れてよく攪拌した後に、遠心分離(2,100xg、18℃、30分間)を行った。上澄み液をオーブンで加熱乾燥(125℃、1気圧、1時間)した。得られた固形物を重クロロホルムで膨潤させながら、外径4mmのサンプルローターに詰め固体NMRスペクトルを測定した。
(測定)
・固体NMRの測定条件
以下の条件で、固体13C-NMRスペクトルを測定した。
装置 :AVANCEIII400(ブルカー・ジャパン社製)
測定方法 :DD-MAS法(双極子デカップリング-マジック角スピニング法)
観測核 :13C
観測周波数:100.6MHz
データポイント数:7138
遅延時間 :40秒(30度パルス)
積算回数 :4096回
測定温度 :常温
試料回転数:8,000Hz
(解析方法)
(1)トリオルガノシリル基(a)のモル数
13C-NMRスペクトルで12ppm付近にピークが観測された。12ppm付近のピークは、イソプロピルシリル基中のメチン炭素のピークに相当する。このため、12ppm付近のピークの積分比(面積比)の3分の1をトリイソプロピルシリル基のモル数(相対値)として算出した。なお、ケミカルシフトは重クロロホルムに由来する三重線の中央のピークを77.23ppmとして補正した。
(2)オキシアルキレン単位(b)のモル数
13C-NMRスペクトルで70~76ppm付近にピークが観測された。70~76ppm付近のピークは、エチレングリコール構造のメチレン炭素、またはプロピレングリコール構造のメチレン炭素とメチン炭素のピークに相当する。このため、70~76ppm付近のピークの積分比(面積比)の2分の1をオキシアルキレン単位のモル数(相対値)として算出した。なお、ケミカルシフトは重クロロホルムに由来する三重線の中央のピークを77.23ppmとして補正した。
(3)モル比((a):(b))の算出
上記(1)で得られたトリオルガノシリル基(本例ではトリイソプロピルシリル基)のモル数と、上記(2)で得られたオキシアルキレン単位のモル数とから、トリオルガノシリル基(a)とオキシアルキレン単位(b)とのモル比((a):(b))を算出した。
【0110】
[防汚塗料組成物および防汚塗膜の物性評価]
<防汚塗料組成物の貯蔵安定性>
実施例または比較例の各防汚塗料組成物を23℃で1週間貯蔵した後、該組成物の状態を目視で確認し、下記評価基準に基づき評価した。
【0111】
(貯蔵安定性の評価基準)
良好:皮張りおよびブツの発生が無く、塗料としての不具合は認められない。
NG:皮張りおよび/またはブツの発生が認められ、塗料としての不具合が認められる。
【0112】
<防汚塗膜の動的防汚性>
縦300mm、横100mm、厚さ2.3mmのサイズを有するサンドブラスト処理鋼板、エポキシ系防食塗料(商品名「バンノー1500」、中国塗料株式会社製)、およびエポキシ系バインダー塗料(商品名「CMP AC-EP」、中国塗料株式会社製)をそれぞれ準備した。
【0113】
サンドブラスト処理鋼板上に、アプリケーターを用いて、エポキシ系防食塗料を乾燥膜厚が150μmになるように塗布し乾燥させて硬化塗膜を形成した。次いで、該硬化塗膜上に、エポキシ系バインダー塗料を乾燥膜厚が100μmになるように塗布し23℃で1日間乾燥させて、硬化塗膜を形成した。次いで、エポキシ系バインダー塗料の硬化塗膜の表面に、アプリケーターを用いて、実施例または比較例の各防汚塗料組成物を乾燥膜厚が150μmになるように塗布し23℃で7日間乾燥させて、防汚塗膜を形成した。このようにして、試験板を作製した。得られた試験板を広島県呉沖にて海水に浸漬し、回転ローターを用いて毎時15ノット程度となるよう水流を発生させ、その水流を試験板の防汚塗膜の表面に12ヶ月間当て、試験板の防汚塗膜の表面に占める水生生物が付着した領域の面積(以下「付着面積」ともいう)の割合を目視観察にて評価した。
【0114】
(動的防汚性試験の評価基準)
5 :付着面積の割合が5%未満である。
4 :付着面積の割合が5%以上20%未満である。
3 :付着面積の割合が20%以上40%未満である。
2 :付着面積の割合が40%以上60%未満である。
1 :付着面積の割合が60%以上である。
【0115】
<塗膜消耗度と傾きαの算出>
縦50mm、横50mm、厚さ1.5mmのサイズを有する硬質塩化ビニル板を準備した。硬質塩化ビニル板上に、アプリケーターを用いて、実施例または比較例の各防汚塗料組成物を乾燥膜厚が150μmになるように塗布し23℃で7日間乾燥させて、防汚塗膜を形成した。このようにして、試験板を作製した。
【0116】
得られた試験板を恒温槽に設置した回転ドラムに取り付け、該回転ドラムを海水に浸漬して、海水温度30℃の条件下、周速15ノットで回転させ、3ヶ月後および6ヶ月後の防汚塗膜の消耗度(膜厚減少量、試験板を回転ドラムに取り付けた時の防汚塗膜の膜厚に対する減少量)を測定した。塗膜の消耗度は、一定であることが好ましく、具体的には「6ヶ月後の塗膜減少量/3ヶ月後の塗膜減少量」によって算出される傾きαについて、下記評価基準に基づいて塗膜の消耗度を評価した。α=2.0であることが好ましい。傾きが大きい(α≫2.0)場合は消耗度が高すぎるため、最終的に塗膜が消失し、防汚性が不良となる傾向にある。傾きが小さい(α≪2.0)場合は消耗度が低すぎるため、防汚剤の溶出が不充分となり、防汚性が不良となる傾向にある。
【0117】
(消耗度試験の評価基準)
5 :α=1.8以上2.2未満である。
4 :α=1.6以上1.8未満、または2.2以上2.4未満である。
3 :α=1.4以上1.6未満、または2.4以上2.6未満である。
2 :α=1.2以上1.4未満、または2.6以上2.8未満である。
1 :α=1.0以上1.2未満、または2.8以上3.0未満である。
【0118】
<防汚塗膜の耐クラック性>
縦150mm、横70mm、厚さ2.3mmのサイズを有するサンドブラスト処理鋼板、エポキシ系防食塗料(商品名「バンノー1500」、中国塗料株式会社製)、およびエポキシ系バインダー塗料(商品名「CMP AC-EP」、中国塗料株式会社製)をそれぞれ準備した。
【0119】
サンドブラスト処理鋼板上に、アプリケーターを用いて、エポキシ系防食塗料を乾燥膜厚が150μmになるように塗布し乾燥させて硬化塗膜を形成した。次いで、該硬化塗膜上に、エポキシ系バインダー塗料を乾燥膜厚が100μmになるように塗布し23℃で24時間乾燥させて、硬化塗膜を形成した。次いで、エポキシ系バインダー塗料の硬化塗膜の表面に、アプリケーターを用いて、実施例または比較例の各防汚塗料組成物を乾燥膜厚が200μmになるように塗布し23℃で7日間乾燥させて、防汚塗膜を形成した。このようにして、試験板を作製した。得られた試験板を50℃の人工海水に浸漬し、1ヶ月毎に塗膜外観を調査し、これを4ヶ月間実施した。人工海水は1週間ごとに新鮮なものと入れ替えた。下記評価基準に基づいて防汚塗膜の耐クラック性を評価した。
【0120】
(耐クラック性の評価基準)
5 :全く異常がない。
4 :塗膜表面全面積の10%未満にクラックの発生が認められる。
3 :塗膜表面全面積の10%以上20%未満にクラックの発生が認められる。
2 :塗膜表面全面積の20%以上40%未満にクラックの発生が認められる。
1 :塗膜表面全面積の40%以上にクラックの発生が認められる。
【0121】
【要約】
【課題】貯蔵安定性に優れる水系防汚塗料組成物であって、防汚性に優れる塗膜を形成できる水系防汚塗料組成物を提供する。
【解決手段】シリルエステル系重合体と水とを含有する防汚塗料組成物であり、シリルエステル系重合体が、トリオルガノシリル基を有し、防汚塗料組成物中の揮発性有機化合物(VOC)の含有量が100g/L以下であり、かつ、防汚塗料組成物中には、オキシアルキレン単位が存在し、防汚塗料組成物について13C-NMRにより測定されるトリオルガノシリル基(a)とオキシアルキレン単位(b)とのモル比((a):(b))が40.0:60.0~48.5:51.5である、防汚塗料組成物。
【選択図】なし