(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
F25B 1/00 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
F25B1/00 311D
(21)【出願番号】P 2023508260
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2021012250
(87)【国際公開番号】W WO2022201361
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸子 晃平
(72)【発明者】
【氏名】有田 照平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 全秋
(72)【発明者】
【氏名】山口 広一
(72)【発明者】
【氏名】馬場 敦史
(72)【発明者】
【氏名】木口 行雄
【審査官】関口 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-026238(JP,A)
【文献】特開2019-190409(JP,A)
【文献】特開2013-155992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒が循環する主流路と、
前記主流路へ前記冷媒を吐出する圧縮機と、
前記冷媒を凝縮させる凝縮器と、
前記冷媒を蒸発させる蒸発器と、
前記凝縮器から前記蒸発器へ流れる前記冷媒の一部を前記凝縮器の下流で前記主流路から分流させる分岐路と、
前記分岐路を流れる前記冷媒の流量を調整する膨張弁と、
前記膨張弁を通過して前記分岐路を流れる前記冷媒と前記凝縮器の下流で前記主流路を流れる前記冷媒とで熱交換を行う過冷却熱交換器と、
前記過冷却熱交換器から流出する分流側の前記冷媒を前記圧縮機に注入するインジェクション流路と、
前記膨張弁の開度を調整するための判定条件を判定し、前記膨張弁の開度を目標値に応じて調整する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記判定条件の成否に応じて、前記圧縮機からの前記冷媒の吐出温度に対する第1の目標値もしくは前記インジェクション流路を流れる前記冷媒の過熱度に対する第2の目標値のいずれかを前記目標値とし
、
前記判定条件として、前記膨張弁の開度が所定開度以下であるか否かを判定する第1の判定条件、前記第1の目標値と前記吐出温度との差が所定差以上であるか否かもしくは前記吐出温度が前記第1の目標値よりも小さい所定閾値以下であるか否かを判定する第2の判定条件、前記圧縮機からの前記冷媒の吐出圧と前記圧縮機への前記冷媒の吸込圧により算出される圧縮比に対して、前記圧縮機の回転数が所定回転数以下であるか否かを判定する第3の判定条件のうちの少なくとも一つを判定し、
前記第1の判定条件、前記第2の判定条件、前記第3の判定条件の少なくとも一つが成立する場合、前記過熱度が前記第2の目標値となるように前記膨張弁の開度を調整する過熱度制御を行い、
前記第1の判定条件、前記第2の判定条件、前記第3の判定条件のいずれも成立しない場合、前記吐出温度が前記第1の目標値となるように前記膨張弁の開度を調整する吐出温度制御を行う
冷凍サイクル装置。
【請求項2】
前記第1の判定条件において、前記所定開度は、前記膨張弁の最大開度の10%である
請求項
1に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項3】
前記過熱度制御における前記膨張弁の開度の上限値は、前記吐出温度制御における前記膨張弁の開度の上限値よりも小さい
請求項
1に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項4】
前記過熱度制御における前記膨張弁の開度の上限値は、前記吐出温度制御における前記膨張弁の開度の上限値の50%以下である
請求項
3に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項5】
前記膨張弁が全閉よりも大きな開度で流量がゼロとなる弁構造を有する場合、前記過熱度制御における前記膨張弁の開度の下限値は、前記膨張弁を流れる前記冷媒の流量がゼロより大きな開度である
請求項
1に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項6】
前記圧縮機は、ロータリ圧縮機構を備える
請求項
1に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項7】
前記過冷却熱交換器に代えて、前記分岐路で分流されずに前記主流路を流れる前記冷媒を気液分離する気液分離器を備えるとともに、
前記気液分離器で分離された気相冷媒と前記膨張弁を通過して前記分岐路を流れる前記冷媒とを合流させて前記圧縮機に注入するインジェクション流路と、
前記インジェクション流路において、前記膨張弁を通過して前記分岐路を流れる前記冷媒に対し、前記気液分離器で分離された気相冷媒を合流させるか否かを切り換える開閉弁と、を備える
請求項1から
6のいずれか一項に記載の冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インジェクション流路を備えた冷凍サイクル装置は、ガスインジェクションを採用するものと、液インジェクションを採用するものの二つに分けられる。ガスインジェクションは、冷凍サイクル装置のCOP(Coefficient Of Performance)や能力(以下、まとめて性能という)の向上を目的としている。液インジェクションは、高圧縮比運転などによって圧縮機が過熱状態となることへの対応、つまり圧縮機の冷却を目的としている。
【0003】
ここで、性能の向上と圧縮機の冷却を両立させる冷凍サイクルとして、ガスインジェクションと液インジェクションとを状況に応じて切り換える方法(以下、ハイブリッドインジェクションという)が知られている。従来のハイブリッドインジェクションでは、圧縮機の冷却が不要な条件において、過冷却熱交換器を用いて分流側冷媒を蒸発させて圧縮機へインジェクションする。これにより、主流側冷媒の過冷却度を増大させ、冷凍サイクル装置の性能を向上させる。圧縮機の冷却、換言すれば吐出温度の低下が必要な条件においては、過冷却熱交換器を介さないことで、液相冷媒を圧縮機へ直接インジェクションする。
【0004】
しかしながら、この方法では、ガスインジェクションを行う場合にのみ過冷却熱交換器が使用されるため、液インジェクションを行う場合には性能向上を図れない。また、ガスインジェクション制御の安定性が低い場合、インジェクションする冷媒の過熱度が不十分となり、液インジェクションと同様に圧縮機が冷却されてしまう。したがって、圧縮機が過剰に冷却されて液圧縮となることを抑止する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、これを踏まえてなされたものであり、その目的は、ハイブリッドインジェクションにおいてガスインジェクションと液インジェクションとを適切に切り換え、性能向上を図ることが可能な冷凍サイクル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、冷凍サイクル装置は、主流路と、圧縮機と、凝縮器と、蒸発器と、分岐路と、膨張弁と、過冷却熱交換器と、インジェクション流路と、制御部とを備える。前記主流路は、冷媒が循環する。前記圧縮機は、前記主流路へ前記冷媒を吐出する。前記凝縮器は、前記冷媒を凝縮させる。前記蒸発器は、前記冷媒を蒸発させる。前記分岐路は、前記凝縮器から前記蒸発器へ流れる前記冷媒の一部を前記凝縮器の下流で前記主流路から分流させる。前記膨張弁は、前記分岐路を流れる前記冷媒の流量を調整する。前記過冷却熱交換器は、前記膨張弁を通過して前記分岐路を流れる前記冷媒と前記凝縮器の下流で前記主流路を流れる前記冷媒とで熱交換を行う。前記インジェクション流路は、前記過冷却熱交換器から流出する分流側の前記冷媒を前記圧縮機に注入する。前記制御部は、前記膨張弁の開度を調整するための判定条件を判定し、前記膨張弁の開度を目標値に基づいて調整する。前記判定条件の成否に応じて、前記制御部は、前記圧縮機からの前記冷媒の吐出温度に対する第1の目標値もしくは前記インジェクション流路を流れる前記冷媒の過熱度に対する第2の目標値のいずれかを前記目標値とする。前記制御部は、前記判定条件として、前記膨張弁の開度が所定開度以下であるか否かを判定する第1の判定条件、前記第1の目標値と前記吐出温度との差が所定差以上であるか否かもしくは前記吐出温度が前記第1の目標値よりも小さい所定閾値以下であるか否かを判定する第2の判定条件、前記圧縮機からの前記冷媒の吐出圧と前記圧縮機への前記冷媒の吸込圧により算出される圧縮比に対して、前記圧縮機の回転数が所定回転数以下であるか否かを判定する第3の判定条件のうちの少なくとも一つを判定する。前記制御部は、前記第1の判定条件、前記第2の判定条件、前記第3の判定条件の少なくとも一つが成立する場合、前記過熱度が前記第2の目標値となるように前記膨張弁の開度を調整する過熱度制御を行う。前記制御部は、前記第1の判定条件、前記第2の判定条件、前記第3の判定条件のいずれも成立しない場合、前記吐出温度が前記第1の目標値となるように前記膨張弁の開度を調整する吐出温度制御を行う。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態に係る冷凍サイクル装置の冷凍サイクルを概略的に示す回路図である。
【
図2】第1の実施形態に係る冷凍サイクル装置におけるハイブリッドインジェクション処理時の制御フロー図である。
【
図3】第1の実施形態に係る冷凍サイクル装置におけるハイブリッドインジェクション処理での圧縮比と回転数の関係に応じた過熱度制御と吐出温度制御との切り換えの態様を示す図である。
【
図4】第1の実施形態に係る冷凍サイクル装置における過熱度制御での膨張弁(分岐路膨張弁)の開度の調整範囲を示す図である。
【
図5】第1の実施形態に係る冷凍サイクル装置における吐出温度制御での膨張弁(分岐路膨張弁)の開度の調整範囲を示す図である。
【
図6】第2の実施形態に係る冷凍サイクル装置の冷凍サイクルを概略的に示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る冷凍サイクル装置1の冷凍サイクルを概略的に示す回路図である。冷凍サイクル装置1は、冷却モードもしくは加熱モード、あるいは両モードでそれぞれ運転が可能であり、例えば空気調和機、水冷式熱源機、空冷式ヒートポンプチリングユニット、コンデンシングユニットなどとして適用可能である。
【0010】
図1に示すように、冷凍サイクル装置1は、主たる要素として、圧縮機2、凝縮器3、膨張弁(以下、主流路膨張弁という)4、蒸発器5、過冷却熱交換器8、四方弁(図示省略)などを備えている。これらは、冷媒が循環する冷媒配管(以下、主流路という)6で接続されている。
【0011】
圧縮機2は、主たる要素として密閉容器、ロータリ圧縮機構、電動機構などを備え、主流路6へ高温・高圧の気相冷媒を吐出する。ロータリ圧縮機構は、例えばシリンダ、回転軸、ローラ、ベーンなどを備えている。
凝縮器3は、圧縮機2から吐出された高温・高圧の気相冷媒を空気などとの熱交換により凝縮し、高圧の液相冷媒に変化させる。
主流路膨張弁4は、凝縮器3で凝縮され、後述するように過冷却熱交換器8において熱交換された高圧の液相冷媒を減圧させ、低圧の気液二相冷媒に変化させる。
蒸発器5は、主流路膨張弁4を通過した気液二相冷媒を空気などとの熱交換により蒸発させ、低温・低圧の気相冷媒に変化させる。
【0012】
圧縮機2と凝縮器3の間の主流路6には、第1の検出部21と第2の検出部22が設けられている。第1の検出部21は、圧縮機2からの冷媒の吐出温度を検出しており、例えば検出素子が主流路6の配管内に配置されて圧縮機2から吐出された高温・高圧の気相冷媒の温度(以下、単に吐出温度という)を検出するセンサ(以下、吐出温度センサ21という)である。第2の検出部22は、圧縮機2からの冷媒の吐出圧力を検出しており、例えば検出素子が主流路6の配管内に配置されて圧縮機2から吐出された高温・高圧の気相冷媒の圧力(以下、単に吐出圧という)を検出するセンサ(以下、吐出圧センサ22という)である。また、圧縮機2と蒸発器5との間の主流路6には、第3の検出部23が設けられている。第3の検出部23は、圧縮機2に吸い込まれる冷媒の吸込圧力(以下、単に吸込圧という)を検出しており、例えば検出素子が主流路6の配管内に配置されて圧縮機2に吸い込まれる低温・低圧の気相冷媒の圧力を検出するセンサ(以下、吸込圧センサ23という)である。吐出温度センサ21は検出した吐出温度、吐出圧センサ22は検出した吐出圧、吸込圧センサ23は検出した吸込圧の各値を、有線もしくは無線を介してそれぞれ後述する制御部9に付与する。
【0013】
図1に示すように、主流路6は、凝縮器3と過冷却熱交換器8との間で分岐路61によって分岐された後、インジェクション流路62を介して圧縮機2にバイパスされている。分岐路61およびインジェクション流路62は、主流路6のバイパス流路である。分岐路61は、凝縮器3から蒸発器5へ流れる冷媒の一部を、凝縮器3の下流かつ過冷却熱交換器8の上流で主流路6から分流させる。
【0014】
分岐路61には、膨張弁(以下、分岐路膨張弁という)7および過冷却熱交換器8が配置されている。
分岐路膨張弁7は、分岐路61を流れる高圧の液相冷媒を減圧させ、低圧の気液二相冷媒に変化させる。また、分岐路膨張弁7は、その開度に応じて分岐路61を流れる該冷媒の流量を調整する。
【0015】
過冷却熱交換器8は、分岐路膨張弁7を通過して分岐路61を流れる低圧の気液二相冷媒と、凝縮器3の下流かつ主流路膨張弁4の上流で主流路6を流れる高圧の液相冷媒とで熱交換を行う。過冷却熱交換器8は、主流側流路8aと分流側流路8bを備えている。主流側流路8aは、主流路6に接続され、主流路6の一部を構成する。分流側流路8bは、分岐路61およびインジェクション流路62にそれぞれ接続され、分岐路61およびインジェクション流路62の一部、つまりバイパス流路の一部を構成する。これにより、主流側流路8aを流れる高圧の液相冷媒と分流側流路8bを流れる低圧の気液二相冷媒との間で熱交換がなされる。
【0016】
インジェクション流路62は、過冷却熱交換器8の分流側流路8bから流出する分流側の気液二相冷媒を圧縮機2に注入する流路である。本実施形態においては、インジェクション流路62から分流側の気液二相冷媒を圧縮機2に注入することで、後述するハイブリッドインジェクション処理が行われる。
【0017】
これらの構成要素に加えて、冷凍サイクル装置1は、その動作制御を行う制御部9を備えている。本実施形態において、制御部9は、圧縮機2、主流路膨張弁4、分岐路膨張弁7の動作をそれぞれ制御する。例えば、制御部9は、圧縮機2の運転開始および停止、回転数、周波数などを制御し、かかる制御に際して主流路膨張弁4および分岐路膨張弁7の開度をそれぞれ調整する。
【0018】
制御部9は、CPU、メモリ、記憶装置(不揮発メモリ)、入出力回路、タイマなどを含み、所定の演算処理を実行する。例えば、制御部9は、各種データを入出力回路により読み込み、記憶装置からメモリに読み出したプログラムを用いてCPUで演算処理し、処理結果に基づいて圧縮機2、主流路膨張弁4、および分岐路膨張弁7の動作制御を行う。その際、制御部9は、圧縮機2、主流路膨張弁4、および分岐路膨張弁7との間で制御信号やデータ信号を有線もしくは無線を介して送受信する。
図1に示す例では、制御部9は、圧縮機2、主流路膨張弁4、および分岐路膨張弁7とは独立して備えられているが、例えば圧縮機2、主流路膨張弁4、および分岐路膨張弁7がそれぞれ制御部を備えていてもよい。この場合、圧縮機2、主流路膨張弁4、および分岐路膨張弁7の各制御部相互間で制御信号やデータ信号を有線もしくは無線を介して送受信すればよい。また、冷凍サイクル装置1は、圧縮機2、主流路膨張弁4、および分岐路膨張弁7の各制御部を上位で制御する主制御部を備えていてもよい。
【0019】
以上のような構成を備えた冷凍サイクル装置1において、制御部9が行う冷凍サイクル装置1の運転制御、具体的には、運転状況に応じてガスインジェクションと液インジェクションを切り換えるハイブリッドインジェクションを行うための制御(以下、ハイブリッドインジェクション処理という)について、制御部9の制御フローに従って説明する。ガスインジェクションは、過冷却熱交換器8の分流側流路8bから流出する分流側の気液二相冷媒の過熱度を制御して冷凍サイクル装置1の性能向上などを図るための制御(以下、過熱度制御という)である。液インジェクションは、分流側の気液二相冷媒を注入して圧縮機2を冷却し、圧縮機2からの冷媒の吐出温度を低下させるための制御(以下、吐出温度制御という)である。
図2には、ハイブリッドインジェクション処理時における制御部9の制御フローを示す。
【0020】
ハイブリッドインジェクション処理にあたって、冷凍サイクル装置1は、運転を開始する(S101)。具体的には、制御部9が圧縮機2を起動し、主流路膨張弁4を開いて主流路6に冷媒を循環させる。冷凍サイクル装置1が運転されていることは、ハイブリッドインジェクション処理の前提条件である。冷凍サイクル装置1が運転開始されることをトリガーとして、制御部9は、ハイブリッドインジェクション処理を実行可能となる。したがって、冷凍サイクル装置1が運転されていない場合、ハイブリッドインジェクション処理は実行されない。
【0021】
冷凍サイクル装置1が運転された状態で、制御部9は、分岐路膨張弁7の開度を調整するための判定条件(以下、開度調整条件という)が成立しているか判定する。開度調整条件は、分岐路膨張弁7の開度をどのように調整するかの判定条件である。制御部9は、開度調整条件の成否に応じて、第1の目標値もしくは第2の目標値のいずれかを分岐路膨張弁7の開度調整の目標値とする。これにより、分岐路膨張弁7の開度が目標値、つまり第1の目標値もしくは第2の目標値に基づいて調整される。
【0022】
第1の目標値は、圧縮機2からの冷媒の吐出温度に対する目標値である。第2の目標値は、インジェクション流路62を流れる冷媒の過熱度(以下、単に過熱度という)に対する目標値である。これら第1および第2の目標値は、例えばCOP、圧縮機2の仕様や性能などに応じて予め設定された値である。これらの設定値は、例えば制御部9の記憶装置に保持され、開度調整条件の判定時にメモリに読み出されて目標値として設定される。
【0023】
本実施形態において、制御部9は、異なる三つの条件である第1、第2および第3の判定条件を、開度調整条件としてそれぞれ判定する。これら第1から第3の開度調整条件のいずれか一つでも成立する場合、開度調整条件が成立すると判定され、いずれも成立しない場合、開度調整条件が成立しないと判定される。例えば、第1から第3の開度調整条件のいずれかが成立する場合、制御部9は、開度調整条件が成立するものとして、第2の目標値に基づいて過熱度制御を行う。一方、第1から第3の開度調整条件のいずれも成立しない場合、制御部9は、開度調整条件が成立するものとして、第1の目標値に基づいて吐出温度制御を行う。
【0024】
図2に示すように、制御部9は、最初に第1の開度調整条件を判定する(S102)。第1の開度調整条件は、開度調整条件の第1の判定条件であり、分岐路膨張弁7の開度が所定開度以下であるか否かの判定条件である。所定開度は、過熱度制御と吐出温度制御とを切り換えることを要する分岐路膨張弁7の開度の値である。ここで、分岐路膨張弁7を含む膨張弁は、一般的に開度が0(ゼロ)以上であっても一定開度以下では流体(冷媒)が流れない特性を持つ場合がある。このため、かかる特性を考慮することで、過熱度制御と吐出温度制御とを適切に切り換えることが可能となる。かかる特性を考慮すれば、所定開度の値は、分岐路膨張弁7の最大開度の10%であることが望ましい。ただし、10%は、流体(冷媒)が流れなくなる開度の一般的な目安であり、例えばかかる開度が最大開度の5%や15%などの場合には、所定開度の値は5%や15%などとすればよい。所定開度の値は、例えば制御部9の記憶装置に保持され、第1の開度調整条件の判定時にメモリに読み出されてパラメータとして使用される。
【0025】
第1の開度調整条件の判定にあたって、制御部9は、分岐路膨張弁7から開度の現在値を取得し、所定開度と比較する。開度の現在値が所定開度以下である場合、制御部9は第1の開度調整条件が成立すると判定する(S102のYes)。一方、開度の現在値が所定開度を超えている場合、制御部9は第1の開度調整条件が成立しないと判定する(S102のNo)。
【0026】
第1の開度調整条件が成立しない場合(S102のNo)、制御部9は、第2の開度調整条件を判定する(S103)。第2の開度調整条件は、開度調整条件の第2の判定条件である。第2の開度調整条件は、第1の目標値と吐出温度との差が所定差以上であるか否かの判定条件である。あるいは、第2の開度調整条件は、吐出温度が所定閾値以下であるか否かの判定条件である。所定差は、過熱度制御と吐出温度制御とを切り換えることを要する第1の目標値と吐出温度との温度差、つまり吐出温度の制御目標値と実測値(現在値)との温度差の値である。所定閾値は、過熱度制御と吐出温度制御とを切り換えることを要する吐出温度の値である。吐出温度の実測値が第1の目標値に対して十分低い場合、例えば分岐路61およびインジェクション流路62を流れて圧縮機2に注入される冷媒量が過大である、換言すれば吐出温度制御(液インジェクション)が過剰であると判断し得る。この点を考慮し、所定閾値は第1の目標値よりも小さな値とされる。これにより、第1の目標値に対して吐出温度の実測値が一定温度(第1の目標値と所定閾値との差)低下した場合、吐出温度制御から過熱度制御へ切り換えることが可能となる。所定差あるいは所定閾値の値は、例えば制御部9の記憶装置に保持され、第2の開度調整条件の判定時にメモリに読み出されてパラメータとして使用される。
【0027】
第2の開度調整条件の判定にあたって、制御部9は、吐出温度センサ21から吐出温度の現在値を取得して第1の目標値との温度差を算出し、算出した値を所定差と比較する。温度差が所定差以上である場合、制御部9は第2の開度調整条件が成立すると判定する(S103のYes)。一方、温度差が所定差未満である場合、制御部9は第2の開度調整条件が成立しないと判定する(S103のNo)。あるいはこれに代えて、制御部9は、吐出温度センサ21から取得した吐出温度の現在値を所定閾値と比較する。吐出温度が所定閾値以下である場合、制御部9は第2の開度調整条件が成立すると判定する(S103のYes)。一方、吐出温度が所定閾値を超えている場合、制御部9は第2の開度調整条件が成立しないと判定する(S103のNo)。
【0028】
第2の開度調整条件が成立しない場合(S103のNo)、制御部9は、第3の開度調整条件を判定する(S104)。第3の開度調整条件は、開度調整条件の第3の判定条件であり、圧縮機2における圧縮比に対して回転数が所定回数以下であるか否かの判定条件である。圧縮比は、圧縮機2からの冷媒の吐出圧と圧縮機2への冷媒の吸込圧により算出される。所定回転数は、過熱度制御と吐出温度制御とを切り換えることを要する圧縮比に対する回転数の値である。吐出温度の変化は、圧縮比と回転数に大きく依存する。このため、第3の開度調整条件の成否に応じて過熱度制御と吐出温度制御との切り換えを可能とする。所定回転数の値は、例えば制御部9の記憶装置に保持され、第3の開度調整条件の判定時にメモリに読み出されてパラメータとして使用される。なお、圧縮比は、圧縮機2の吐出圧と吸込圧ではなく、例えば冷媒の凝縮温度と蒸発温度、外気温度と冷媒の蒸発温度などを用いて算出してもよい。
【0029】
第3の開度調整条件の判定にあたって、制御部9は、吐出圧センサ22から吐出圧の現在値を取得するとともに、吸込圧センサ23から吸込圧の現在値を取得して圧縮比を算出する。次いで、制御部9は、算出した圧縮比に対する回転数を所定回転数と比較する。
図3には、圧縮機2における圧縮比と回転数の関係に応じた過熱度制御と吐出温度制御との切り換えの態様を示す。
図3に示すように、圧縮比(CR)と回転数(N)との関係は、一次関数N=a・CR+b(a,bは所定定数)なる算出式で表される。
図3に示す例では、かかる一次関数の軌跡を境に過熱度制御領域と吐出温度制御領域とが分けられる。なお、上記一次関数は、圧縮比(CR)と回転数(N)との関係を表す一例であり、両者の関係はこのような一次関数に限定されない。本実施形態では一例として、
図3に準じて圧縮比に対する回転数が所定回転数以下である領域では過熱度制御となり、圧縮比に対する回転数が所定回転数を超える領域では吐出温度制御がなされる。また、圧縮比が所定の限界値を超えると回転数に関わらず吐出温度制御となり、回転数が所定の限界値を超えると圧縮比に関わらず過熱度制御となる。
【0030】
したがって、圧縮比に対する回転数が所定回転数以下である場合、制御部9は第3の開度調整条件が成立すると判定する(S104のYes)。一方、圧縮比に対する回転数が所定回転数を超えている場合、制御部9は第3の開度調整条件が成立しないと判定する(S104のNo)。
【0031】
S102において第1の開度調整条件が成立する場合(S102のYes)、S103において第2の開度調整条件が成立する場合(S103のYes)、およびS104において第3の開度調整条件が成立する場合(S104のYes)のいずれかの場合、制御部9は、開度調整条件が成立すると判定する。一方、S102において第1の開度調整条件が成立しない場合(S102のNo)、かつS103において第2の開度調整条件が成立しない場合(S103のNo)、かつS104において第3の開度調整条件が成立しない場合(S104のNo)、制御部9は、開度調整条件が成立しないと判定する。なお、
図2に示す制御フローでは、第1の開度調整条件、第2の開度調整条件、第3の開度調整条件の順で判定を行っているが、これら各条件の判定順は特に問わない。
【0032】
S102からS104において開度調整条件が成立する場合、制御部9は、第2の目標値を分岐路膨張弁7の開度調整の目標値とする(S105)。例えば、制御部9は、記憶装置に保持された第2の目標値をメモリに読み出し、目標値として設定する。
【0033】
そして、制御部9は、過熱度が第2の目標値となるように分岐路膨張弁7の開度を調整する過熱度制御(ガスインジェクション)を行う(S106)。例えば、開度調整条件の判定前において過熱度制御が行われていれば、過熱度制御が継続される。これに対し、開度調整条件の判定前において吐出温度制御が行われていれば、吐出温度制御から過熱度制御に切り換わる。制御部9は、例えば過冷却熱交換器8の分流側流路8bに流入する冷媒と分流側流路8bから流出する冷媒の温度差により過熱度を算出する。分流側流路8bに流入する冷媒の温度は、例えば過冷却熱交換器8の分流側流路8bの上流でインジェクション流路62の配管内に検出素子が配置された温度センサ(図示省略)によって検出される。分流側流路8bから流出する冷媒の温度は、例えば過冷却熱交換器8の分流側流路8bの下流でインジェクション流路62の配管内に検出素子が配置された温度センサ(図示省略)によって検出される。
【0034】
図4には、分岐路膨張弁7の開度と冷媒通過流量の関係によって、過熱度制御における分岐路膨張弁7の開度の調整範囲を示す。
図4に横軸で示す開度は、分岐路膨張弁7の最大開度に対する開度比率(%)である。分岐路膨張弁7は、仕様として最大開度の100%から0%までの範囲で開閉可能である。
図4に横軸で示す開度は、横軸で示す開度比率の分岐路膨張弁7を通過する冷媒の流量である。
【0035】
図4に示すように、過熱度制御にあたって、制御部9は、分岐路膨張弁7の開度を制御可能な全範囲ではなく、所定範囲内で調整する。
図4に示す例では、最大開度の10%程度を下限とし、最大開度の50%程度を上限とする範囲内で、制御部9は分岐路膨張弁7の開度を調整する。この場合、分岐路膨張弁7の開度の上限値は、後述する吐出温度制御(液インジェクション)における開度の上限値(最大開度の100%)よりも小さい。具体的には、過熱度制御(ガスインジェクション)における分岐路膨張弁7の開度の上限値は、吐出温度制御(液インジェクション)における開度の上限値の50%以下であればよい。また、分岐路膨張弁7の開度の下限値は、分岐路膨張弁7を流れる冷媒の流量が0(ゼロ)より大きな最小開度である。
図4に示す例では、一般的な膨張弁において流体(冷媒)が流れなくなる開度の目安として、分岐路膨張弁7の開度の下限値を最大開度の10%程度としている。
【0036】
分岐路膨張弁7の開度の上限値を最大開度の50%程度とすることで、例えばガスインジェクション時に過熱度制御が安定せずにハンチングしているような場合であっても、分岐路膨張弁7の開度が最大開度まで開くことはない。したがって、圧縮機2に注入される冷媒の流量(インジェクション流量)が大きくなり、圧縮機2を過剰冷却してしまうことで生じる液圧縮を防止できる。また、分岐路膨張弁7の開度の下限値を最大開度の10%程度とすることで、開度が一定開度以下では冷媒が流れない特性を分岐路膨張弁7が持つ場合であっても、インジェクション流量が0(ゼロ)となることを抑制可能となる。分岐路膨張弁7の開度の下限値を設定しない場合、例えば冷媒が流れない一定開度以下の範囲で冷媒の過熱度が第2の目標値と同等となると、インジェクション流量が0(ゼロ)となる状態で安定してしまう。この場合、ガスインジェクションされている場合と比べて、冷凍サイクル装置1の性能低下を招きやすい。しかしながら、分岐路膨張弁7の開度の下限値を最大開度の10%程度とすることで、インジェクション流量が0(ゼロ)となることを抑制でき、冷凍サイクル装置1の性能向上を確実に図ることが可能となる。
【0037】
S102からS104において開度調整条件が成立しない場合、制御部9は、第1の目標値を分岐路膨張弁7の開度調整の目標値とする(S107)。例えば、制御部9は、記憶装置に保持された第1の目標値をメモリに読み出し、目標値として設定する。
【0038】
そして、制御部9は、吐出温度が第1の目標値となるように分岐路膨張弁7の開度を調整する吐出温度制御(液インジェクション)を行う(S108)。例えば、開度調整条件の判定前において吐出温度制御が行われていれば、吐出温度制御が継続される。これに対し、開度調整条件の判定前において過熱度制御が行われていれば、過熱度制御から吐出温度制御に切り換わる。これにより、主流路6のバイパス流路、つまり分岐路61およびインジェクション流路62から圧縮機2に注入される冷媒の乾き度を低下させ、圧縮機2の冷却効果が高められる。その結果、圧縮機2からの冷媒の吐出温度の上昇を抑制しながら冷凍サイクル装置1の運転を継続させることができる。
【0039】
図5には、分岐路膨張弁7の開度と冷媒通過流量の関係によって、吐出温度制御における分岐路膨張弁7の開度の調整範囲を示す。
図5に横軸で示す開度および縦軸に示す流量の定義は、
図4と同様である。
図5に示すように、吐出温度制御にあたって、制御部9は、分岐路膨張弁7の開度を仕様上で制御可能な全範囲に亘って調整する。すなわち過熱度制御と異なり、分岐路膨張弁7の開度は、最大開度の0%(全閉状態)を下限とし、最大開度の100%(全開状態)を上限とする範囲内で調整される。
【0040】
過熱度制御もしくは吐出温度制御が行われると、つまりいずれかの制御が継続されるかいずれかの制御に切り換えられると、制御部9は、冷凍サイクル装置1の運転停止条件を判定する(S109)。運転停止条件は、冷凍サイクル装置1を運転停止させるか否かの判定条件であり、例えば、制御部9が冷凍サイクル装置1の運転停止を示す信号を受信したか否かなどに応じて判定される。運転停止を示す信号は、例えば冷凍サイクル装置1の設定部(図示省略)からユーザ等が運転停止を選択することで発信される。設定部は、例えば操作用のパネル、スイッチ、ボタン、表示用のディスプレイなどで構成されている。
【0041】
運転停止条件が成立しない場合、制御部9は、開度調整条件として第1の開度調整条件を再び判定し(S102)、判定結果に応じて以降の処理(S103~S108)を選択的に繰り返す。
これに対し、運転停止条件が成立する場合、制御部9は、冷凍サイクル装置1の運転を停止する(S110)。
すなわち、冷凍サイクル装置1が運転されている間、一連のハイブリッドインジェクション処理が繰り返される。そして、冷凍サイクル装置1が運転停止されると、一連のハイブリッドインジェクション処理も終了する。
【0042】
このように本実施形態によれば、冷凍サイクル装置1の運転状況に応じて過熱度制御と吐出温度制御とを適宜切り換え、ガスインジェクションもしくは液インジェクションを選択的に行うことができる。
【0043】
例えば、次のような過熱度制御と吐出温度制御の切り換えが可能となる。冷凍サイクル装置1が運転開始されると、圧縮機2からの冷媒の吐出温度が上昇する。本実施形態では、第1の目標値と吐出温度との差が所定差未満となりもしくは吐出温度が第1の目標値よりも小さい所定閾値を超えて吐出温度制御(液インジェクション)が行われる場合、例えば分岐路膨張弁7の開度が拡大される。これにより、圧縮機2に注入される冷媒の乾き度を低下させ、圧縮機2の冷却効果を高めることができ、吐出温度の上昇を抑制しながら冷凍サイクル装置1の運転を継続させることができる。このとき、分岐路膨張弁7の開度は、吐出温度が第1の目標値となるように調整される。逆に、分岐路膨張弁7の開度が絞られると、インジェクション流量が減少し、圧縮機2に注入される冷媒の乾き度が上昇し、吐出温度も上昇する。したがって、本実施形態では、圧縮機2の圧縮比に対して回転数が所定回数を超えている場合、吐出温度が第1の目標値となるように吐出温度制御し、液インジェクションを行うことを可能としている。
【0044】
これに対し、第1の目標値と吐出温度との差が所定差以上である場合、もしくは吐出温度が第1の目標値よりも小さい所定閾値以下である場合、過熱度制御(ガスインジェクション)が行われる。この場合、仮に吐出温度制御を行うと、分岐路膨張弁7の開度がいずれ全閉となってインジェクション流量が0(ゼロ)となり、主流路6を流れる冷媒に対する過冷却熱交換器8での過冷却度の増大効果が得られなくなる。このため、冷凍サイクル装置1の性能向上が図れなくなるおそれがある。
【0045】
したがって、条件によらず冷凍サイクル装置1の性能向上を図るためには、常に過冷却熱交換器8での熱交換を行う必要がある。例えば、吐出温度の目標値を下げることでインジェクション流量が0(ゼロ)より大きくなるため、過冷却度の増大効果を得ることは可能となるが、吐出温度を目標値としながら分岐路膨張弁7の開度を調整し続けると、液バック運転による液圧縮が生じるなど、冷凍サイクル装置1の性能低下を招くおそれがある。特に、過熱度が第2の目標値よりも小さい状態あるいは冷凍サイクルの安定性が低い状態などにおいて過熱度制御が安定しない場合などに、仮に分岐路膨張弁7の開度が最大となると、液バック運転による液圧縮が生じて圧縮機2に不具合が生じるおそれがある。
【0046】
これを考慮し、本実施形態では、第1の目標値と吐出温度との差が所定差以上である場合、もしくは吐出温度が第1の目標値よりも小さい所定閾値以下である場合、上述のとおり過熱度制御を行う。加えて、分岐路膨張弁7の開度が所定開度以下である場合、圧縮機2における圧縮比に対して回転数が所定回数以下である場合においても、過熱度制御を行う。その際、液バック運転を抑止するとともに過冷却度の増大効果を得るべく、過冷却熱交換器8で熱交換されて圧縮機2に注入される冷媒の乾き度が確実に1以上である状態、換言すれば該冷媒の過熱度をとった状態とする。このため、過熱度制御では、過熱度が第2の目標値となるように分岐路膨張弁7の開度を調整し、ガスインジェクションを行う。
【0047】
また、本実施形態では、過熱度制御における分岐路膨張弁7の開度は、最大開度の10%程度を下限とし、最大開度の50%程度を上限とする範囲内で調整されている。具体的には、過熱度制御における分岐路膨張弁7の開度の上限値は、吐出温度制御における開度の上限値(最大開度の100%程度)の50%以下とすることができる。これにより、過熱度制御により圧縮機2が過剰冷却されずに済み、液圧縮を抑止できる。
【0048】
したがって、本実施形態によれば、ハイブリッドインジェクションにおいてガスインジェクションと液インジェクションとを適切に切り換えでき、冷凍サイクル装置1の性能向上を図ることができる。ひいては、ハイブリッドインジェクション処理時における冷凍サイクル装置1の運転制御の安定性を向上できるとともに、圧縮機2の信頼性を高めることができる。
【0049】
なお、
図2に示すハイブリッドインジェクション処理では、開度調整条件として第1から第3の開度調整条件の三つを用いているが、開度調整条件として判定される条件の数は二つ以下であってもよいし、四つ以上であってもよい。開度調整条件として適用する条件の数に関わらず、判定した条件のうち少なくとも一つが成立すれば、その他の条件の成否とは関係なく開度調整条件が成立すると判定すればよい。例えば、所定の開度調整条件が一定時間以上継続することなどを判定条件として加えてもよい。開度調整条件の数が多いほど、過熱度制御と吐出温度制御とをより適切に切り換えることが可能となる。
【0050】
ここで、上述したハイブリッドインジェクション処理を行うことが可能な冷凍サイクル装置の構成は、
図1に示す冷凍サイクル装置1には限定されない。例えば、
図6に示すような冷凍サイクルを備えた冷凍サイクル装置1bであっても、同様にハイブリッドインジェクション処理を行うことが可能であり、冷凍サイクル装置1と同様の作用効果を奏することが可能である。以下では、
図6に示す冷凍サイクルを備えた冷凍サイクル装置1bを第2の実施形態として説明する。なお、第2の実施形態における冷凍サイクル装置1bの基本的な構成は、
図1に示す第1の実施形態の冷凍サイクル装置1と同様である。したがって、以下では、冷凍サイクル装置1とは異なる構成について詳述する。冷凍サイクル装置1と同一もしくは類似の構成については、図面上で同一符号を付して説明を省略もしくは簡略化する。
【0051】
(第2の実施形態)
図6は、本実施形態に係る冷凍サイクル装置1bの冷凍サイクルを概略的に示す回路図である。
図6に示すように、冷凍サイクル装置1bは、冷凍サイクル装置1の主たる要素と同様に、圧縮機2、凝縮器3、膨張弁(以下、第1の主流路膨張弁という)4、蒸発器5、四方弁(図示省略)、第1の検出部(吐出温度センサ)21、第2の検出部(吐出圧センサ)22、第3の検出部(吸込圧センサ)23、制御部9などを備えている。加えて、冷凍サイクル装置1bは、膨張弁(以下、第2の主流路膨張弁という)10、気液分離器11を備えている。これらは、冷媒が循環する冷媒配管(主流路)6で接続されている。
【0052】
第2の主流路膨張弁10は、凝縮器3で凝縮された高圧の液相冷媒を減圧させ、低圧の気液二相冷媒に変化させる。なお、本実施形態において、第1の主流路膨張弁4は、第2の主流路膨張弁10で減圧されて気液分離器11で気相冷媒と分離された液相冷媒をさらに減圧させ、より低圧の気液二相冷媒に変化させる。第1の主流路膨張弁4および第2の主流路膨張弁10は、いずれも制御部9によって動作制御される。
【0053】
気液分離器11は、冷凍サイクル装置1の過冷却熱交換器8に代えて、冷凍サイクル装置1bに備えられている。気液分離器11は、分岐路61で分流されずに主流路6を流れる冷媒、つまり第2の主流路膨張弁10で減圧された低圧の気液二相冷媒を気相冷媒と液相冷媒に分離させる。気液分離器11で分離された液相冷媒は、第1の主流路膨張弁4で減圧されて蒸発器5に導かれる。
【0054】
主流路6は、凝縮器3と第2の主流路膨張弁10との間で分岐路61によって分岐された後、インジェクション流路62を介して圧縮機2にバイパスされている。分岐路61は、凝縮器3から蒸発器5へ流れる冷媒の一部を、凝縮器3の下流かつ第2の主流路膨張弁10の上流で主流路6から分流させる。分岐路61には、膨張弁(分岐路膨張弁)7が配置されている。
【0055】
インジェクション流路62は、気液分離器11で分離された気相冷媒と、分岐路膨張弁7を通過した気液二相冷媒とを適宜混合させて圧縮機2に注入する流路である。すなわち、インジェクション流路62は、途中の合流点63で分岐路61と合流し、圧縮機2に接続されている。本実施形態においては、インジェクション流路62で適宜混合された気液二相冷媒を圧縮機2に注入することで、ハイブリッドインジェクション処理が行われる。
【0056】
インジェクション流路62には、開閉弁12が設けられている。開閉弁12は、気液分離器11の下流、かつ分岐路61との合流点63の上流に配置されている。開閉弁12は、インジェクション流路62において、分岐路膨張弁7を通過して分岐路61を流れる気液二相冷媒に対し、気液分離器11で分離された気相冷媒を合流させるか否かを切り換える。開閉弁12は、例えば電磁弁であり、インジェクション流路62における気液分離器11で分離された気相冷媒の流れを遮断もしくは遮断解除する。本実施形態において、開閉弁12は制御部9によって開閉制御される。
【0057】
以上のような構成を備えた冷凍サイクル装置1bにおいても、制御部9は、冷凍サイクル装置1と同様に、
図2に示す制御フローに従ってハイブリッドインジェクション処理を行う。
その際、
図2に示すS106において、過熱度が第2の目標値となるように分岐路膨張弁7の開度を調整する過熱度制御(ガスインジェクション)を行う際、制御部9は開閉弁12を開閉(一例として全開)する。制御部9は、例えばインジェクション流路62において合流点63を通過する前後の冷媒の温度差により過熱度を算出する。合流点63を通過する前の冷媒温度は、例えば合流点の上流でインジェクション流路62の配管内に検出素子が配置された温度センサ(図示省略)によって検出される。合流点63を通過した後前の冷媒温度は、例えば合流点の下流でインジェクション流路62の配管内に検出素子が配置された温度センサ(図示省略)によって検出される。
【0058】
これに対し、
図2に示すS108において、吐出温度が第1の目標値となるように分岐路膨張弁7の開度を調整する吐出温度制御(液インジェクション)を行う際、制御部9は開閉弁12を開閉(一例として全閉)する。
【0059】
以上、本発明の各実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
1,1b…冷凍サイクル装置、2…圧縮機、3…凝縮器、4…膨張弁(主流路膨張弁、第1の主流路膨張弁)、5…蒸発器、6…冷媒配管(主流路)、7…膨張弁(分岐路膨張弁)、8…過冷却熱交換器、8a…主流側流路、8b…分流側流路、9…制御部、10…膨張弁(第2の主流路膨張弁)、11…気液分離器、12…開閉弁(電磁弁)、21…第1の検出部(吐出温度センサ)、22…第2の検出部(吐出圧センサ)、23…第3の検出部(吸込圧センサ)、61…分岐路、62… インジェクション流路、63…合流点。