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  • 特許-回転機械の衝撃系異常の診断方法 図1
  • 特許-回転機械の衝撃系異常の診断方法 図2
  • 特許-回転機械の衝撃系異常の診断方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】回転機械の衝撃系異常の診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20240423BHJP
   G01M 13/00 20190101ALI20240423BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01M13/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021172714
(22)【出願日】2021-09-23
(65)【公開番号】P2023046366
(43)【公開日】2023-04-04
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】599064878
【氏名又は名称】陳山 鵬
(72)【発明者】
【氏名】陳山 鵬
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104316323(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0012247(US,A1)
【文献】特開昭58-063831(JP,A)
【文献】特開2020-143934(JP,A)
【文献】特開昭62-270820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
G01M 13/00 - 13/045
G01H 17/00
F16C 19/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械の衝撃系異常を診断するために、
診断対象物の振動加速度信号や音響信号を測定して計測信号を取得する第1工程と、
前記計測信号からノイズを除去して診断用波形を抽出する第2工程と、
前記診断用波形を用いて[式1]の「非周期性衝撃係数(Aperiodic Impact Coefficient:AIC)」あるいは[式2]の「周期性衝撃係数(Periodic Impact Coefficient:PIC)」を求める第3工程と、
前記診断用波形と前記AICあるいは前記PICを用いて、[式3]あるいは[式4]あるいは[式5]のγ*(「ガンマスター」、あるいは、「周期性衝撃度」とよぶ)を求める第4工程と、
前記PICが0(ゼロ)でない時に周期性衝撃振動周波数fを算出し、さらに前記診断用波形の包絡線スペクトルにおける最大値の処の周波数fPmaxを求める第5工程と、
前記γ、前記f、前記fPmaxを用いて回転機械の衝撃系異常有無の判定結果および衝撃系異常種類の識別結果を得る第6工程と、
前記判定結果と前記識別結果を表示する第7工程と、
を有することを特徴とする回転機械の衝撃系異常の診断方法。
【請求項5】
対象の回転機械の振動信号や音響信号を計測して計測信号を得るための信号取得部と、
前記計測信号からノイズを除去して診断用信号を得る信号処理部と、
請求項2、3,4に記載の方法を用いて回転機械の衝撃系異常有無および衝撃系異常種類を診断するための診断部と、
衝撃系異常有無および衝撃系異常種類の診断結果や信号情報等を表示するための表示部と、
を有することを特徴とし、請求項1に記載の回転機械の衝撃系異常の診断方法を有する回転機械の衝撃系異常診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機械診断装置や診断システムに提供できる、衝撃異常(軸受傷、歯車局所異常、ラビングなど)を高精度に検出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転機械に欠かせない最も重要な部品である軸受や歯車に生じた損傷を診断により早期に適時検出し、効果的なメンテナンスやリペアを行い、機器の重大なトラブルを未然に防ぐ必要がある。軸受の内部に早期な異常である剥離や傷が生じた場合、転動体が回転に伴って剥離や傷と衝突するから、衝撃的な異常振動(パルス状な振動波形)が発生する。同様に、歯車の歯に剥離や傷が存在する場合、さらに、回転部が静止部と接触する異常であるラビングの場合も、衝撃的な異常振動(パルス状な振動波形)が発生する。これらの異常状態を「衝撃系異常」と定義されている。
【0003】
従来、尖度(γ)が衝撃系異常診断に有効な特徴パラメータであると言われている。なぜならば、たとえば、軸受傷や歯車局所異常時に発生したパルス状な振動波形から計算された尖度(γ)は正常状態時の振動波形(パルス状な振動波形でない波形)から計算された尖度(γ)より大きくなるためである。
【0004】
また、衝撃系異常の検出には波高率(CF)という特徴パラメータも使われている。波高率(CF)は、振動波形のピーク値の実効値に対する比率で、クレスト・ファクタともいう。正常時にパルス状な衝撃ノイズがない場合、尖度が3程度、波高率が4~5程度に対し、衝撃系異常が発生すると尖度も波高率も正常時の数倍~数百倍に大きくなる。これらの点については特に関連性のある過去の先願文献は、たとえば、[特許文献1~9]がある。
【文献】特開2018-120406
【文献】特表2014-516154
【文献】特開2009-229089
【文献】特開2009-229089
【文献】特開2006-046955
【文献】特開2006-046945
【文献】特開2004-279056
【文献】特開平06-323899
【文献】特開昭62-270820
【0005】
しかし、尖度と波高率による衝撃系異常診断を行うときには、次のような欠点がある。
(1)同じ衝撃異常状態において回転数が速くなると小さくなる傾向がある。
(2)異常の程度が反映しにくい。
(3)正常状態の時にもパルス状な衝撃ノイズの影響により大きくなるから、バラツキが大きく誤判定をもたらす場合もよくある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
負荷などの変動により衝撃的な振動を伴う回転機械における振動信号には正常状態時にもパルス状な振動波形(ノイズ)が発生するので、前述のように尖度と波高率は大きくなるから、尖度と波高率を用いてノイズか衝撃系異常かといった判定が難しい。よって、これまでに衝撃的な振動(ノイズ)を伴う回転機械の衝撃系異常検出は困難であり、設備診断領域における難題だといわれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の問題点を解決するために、本発明においては、衝撃系異常時に発生する周期性のある衝撃的な振動波形と非周期性の衝撃的な振動波形(衝撃的なノイズ)を区別できるγ(「ガンマスター」、あるいは「周期性衝撃度」とよぶ)を提案し、衝撃的な振動(ノイズ)を伴う回転機械においても衝撃系異常の検出精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、尖度と波高率はパルス状な振動波形があった時に大きくなるから、衝撃的なノイズに影響されて誤診断をもたらしやすいが、γは正常状態の時にも、振動波形に非周期性の衝撃的な波形(ノイズ)の時にも小さく、逆に衝撃系異常による周期性のある衝撃的な波形が存在していれば大きくなるから、衝撃系異常の検出精度が高い。
【発明を実施するための最良の形態・実施例】
【0009】
本発明の処理の流れは図1に示す。ここで、この流れに沿って本発明の最良の形態と実施例について説明する。
【0010】
「信号取得部」で信号計測と信号保存を行う。ここで、対象とする信号は、振動信号や音響信号であり、対象物の状態診断に用いられるものである。
【0011】
「信号処理部」においては、計測された信号からノイズを除去し、診断用波形(異常があった時の異常波形)を抽出する。ノイズ除去の方法としては、例えば、バンドパスフィルタ、統計情報フィルタ[参考文献1]などが用いられる。図2にハイパスフィルタによるノイズを除去して異常波形(軸受外輪傷)を抽出した例を示す。
【参考文献1】
P.CHEN and T.TOYOTA:Extraction Method of Failure Signal by Genetic Algorithm and the Application to Inspection and Diagnosis Robot,IEICE TRANSACTIONS on Fundamentals of Electronics,Communications and Computer Science VOL.E78-A,No.12,pp.1622-1626(1995)
【0012】
「診断部」においては、以下の諸項目を行う。
(1)非周期性衝撃振動波形の総パワーと周期性衝撃振動波形の総パワーの計算:
衝撃系異常が生じれば、図2のように周期的なパルス状の振動波形が発生する。ここで、[式1]ように「非周期性衝撃係数(Aperiodic lmpact Coefficient :AIC)」を定義する。すなわち、AICが大きければ大きいほど、衝撃系異常程度が小さく、衝撃系異常が全くなければ、周期性衝撃振動波形の総パワーが0(ゼロ)になるから、AICが無限大になるが、AICの最大値を一定な数値に設定することもできる。たとえば、図3(a)、(b)の場合、周期的な衝撃波形がないから、AICを100とする。また、AICが小さければ小さいほど、衝撃系異常による周期的なパルス状の振動波形が強い。たとえば、図3(c)の場合、軸受外輪傷による周期性のある衝撃的な波形が存在するので、AIC(=0.016)が小さくなる。
なお、[式2]のように、AICの逆数がPIC(「周期性衝撃係数(Periodic Impact Coefficient)」)であるが、PICの取り扱いに関する考え方はAICと同じであるから、以下はAICの例のみ示す。
【0013】
周期性のある衝撃的な振動波形は、図3(c)の矢印(↑)で示しているように、周期的な衝撃振動によるパルス状の波形間の時間t(周期性衝撃振動の時間間隔)がほぼ一定でである。周期性衝撃振動波形の総パワーは、図3(c)の矢印(↑)で示している各衝撃的な波形の最大値の総和(または、最大値の平均値)、あるいは最大値の2乗値の総和(または、2乗値の平均値)で計算される。非周期性衝撃振動波形の総パワーは、周期性衝撃振動波形以外の波形値の総和(または、平均値)、あるいは2乗値の総和(または、2乗値の平均値)で計算される。なお、図3(c)の下部の「衝撃的な波形の拡大図」で示すように周期的な衝撃振動波形が短時間で続くから、非周期性衝撃振動波形の総パワーを計算時にはその部分を除外する必要がある。
【0014】
(2)γとfの計算:
正常状態の時にもパルス状な衝撃ノイズの影響により尖度(γ)と波高率(CF)が大きくなり、尖度(γ)と波高率(CF)のバラツキが大きいから、より尖度(γ)あるいは波高率(CF)を用いて衝撃異常を診断する場合、誤判定がもたらされる場合もよくある。そこで、[式3]に示すように周期性のある衝撃的な振動の大きさを表す新たな特徴パラメータγ(「ガンマスター」、あるいは、「周期性衝撃度」とよぶ)を提案する。
また、周期的な衝撃振動の周波数f図3(c)に示す周期性衝撃振動の時間間隔t(sec.)を用いて、周期性衝撃振動周波数f=1/t(Hz)として算出できる。なお、[参考文献2]に示すように、fは衝撃系異常波形の包絡線スペクトルから求めることもできる。
【参考文献2】
陳山 鵬:回転機械設備の振動診断の基礎と応用、DETLLP出版、ISBN978-4-9908303-1-1、pp.102,2015.
【0015】
また、γは[式4]に示すように、波高率CFとAIC、PICを用いて算出してもよい。更に、[式5]に示すように、衝撃的な波形の大きさを表す指標(特徴パラメータ値)があれば、AIC、PICを用いてγを算出することもできる。
【0016】
図3にγ、CF、AIC、γ([式3]で算出)、fの例を示す。図3の例で分かるように、尖度γと波高率CFはパルス状な衝撃振動波形があった時に大きくなる(図3(b)、(c))から、衝撃的なノイズに影響され、衝撃系異常の誤診断をもたらしやすい。すなわち、図3(a)の場合、正常状態時の尖度(γ)と波高率(CF)はそれぞれ、3.6、4.7であるが、パルス状な衝撃ノイズがあった場合、衝撃的な異常が発生していないにも関わらず、図3(b)のように、尖度(γ)と波高率(CF)はそれぞれ111.9、569.5で、かなり大きくなり、衝撃系異常が発生した時の値(それそれ、97.5と13.3)との区別が難しい。一方、γは、正常の時にも、振動波形に非周期性の衝撃的な波形(ノイズ)があった時にも小さく、逆に異常状態による周期性のある衝撃的な波形が存在していれば大きくなるから、衝撃系異常の検出精度が高い。すなわち、図3(a)の正常時のγが0.036で、図3(b)の振動波形に非周期性の衝撃的な波形(ノイズ)の時のγも小さい(1.9<10)。一方、図3(c)のように、衝撃的な異常の発生による周期性のある衝撃的な振動の場合、γがかなり大きく(6093.7>>10)なる。よって、、γが衝撃系異常の識別に有効である。
【0017】
(3)γとfを用いて衝撃系異常の有無の判定、異常種類の識別:
γとfを用いて、衝撃系異常の有無の判定および異常種類の識別を、次のような手順で行う。
1)γが小さければ(10以下)、衝撃系異常が発生した可能性が小さいが、もし診断用波形の包絡線スペクトルにおける最大値の処の周波数が軸受異常時のパス周波数[参考文献2]か、回転周波数に一致すれば、衝撃系異常が発生したと判定し、そうでなければ、衝撃系異常が発生していないと判定する。なお、診断用波形の包絡線スペクトルにおける最大値の処の周波数fPmaxが軸受異常時のパス周波数に一致すれば、軸受異常の発生と、回転周波数に一致すれば、歯車局所異常かラビングの発生と判定できる。
2)γが大きければ(10以上)、しかもfが0(ゼロ)でなければ、衝撃系異常が発生した可能性が大きい。fを軸受異常時のパス周波数[参考文献2]および回転周波数と照らして衝撃系異常種類を判別する。たとえば、図3(c)の場合、f=87Hzは診断対象軸受の外輪傷のパス周波数に一致するため、軸受外輪傷が発生したと判定できる。fが回転周波数に一致すれば、歯車局所異常かラビングの発生と判定できる。
3)γが大きく(10以上)、しかもfが0(ゼロ)であれば、1)と同じように、もし診断用波形の包絡線スペクトルにおける最大値の処の周波数fPmaxが軸受異常時のパス周波数[参考文献2]か、回転周波数に一致すれば、衝撃系異常が発生した可能性があり、そうでなければ、衝撃系異常が発生していないと判定する。
上記のように、特にノイズが除去しにくく、γを用いて衝撃系異常診断の精度が低下する場合も考慮して、診断用波形の包絡線スペクトルにおける最大値の処の周波数fPmaxを常に求めて、軸受異常時のパス周波数および回転周波数と照らして衝撃系異常の有無と異常種類を診断する必要がある。
【0018】
「表示部」では、(1)時系列波形、(2)時系列波形のスペクトル、(3)γ、f、fPmax等の値、(4)衝撃系異常の有無、(5)異常種類等、を表示する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】回転機械の衝撃系異常診断システムの処理流れ図である。
図2】計測対象の回転機械(軸受)および測定信号からノイズを除去して診断用波形(異常波形)を抽出する例である。
図3】各種の波形において求めた各特徴パラメータの値の例である。
図1
図2
図3