(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】木質系耐火被覆用石こう組成物の調合方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20240423BHJP
B32B 21/04 20060101ALI20240423BHJP
B27K 3/18 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
E04B1/94 U
E04B1/94 R
E04B1/94 V
E04B1/94 E
B32B21/04
B27K3/18
(21)【出願番号】P 2020201799
(22)【出願日】2020-12-04
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】馬場 重彰
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達朗
(72)【発明者】
【氏名】池畠 由華
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-180443(JP,A)
【文献】特開平04-176950(JP,A)
【文献】特開平07-180270(JP,A)
【文献】特開昭52-007134(JP,A)
【文献】特開2020-176376(JP,A)
【文献】特開2017-002614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/94
B32B 21/04
B27K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷重支持部の外周に耐火被覆層を設けた建物の耐火構造
材であって、
当該耐火構造材は長さ3~10mの柱又は梁であり、
荷重を負担する木質の荷重支持部と、
荷重支持部の表面に設けられた水分遮断層と、
水分遮断層の外側に設けられたラス金網層と、
ラス金網層の外側に設けられた耐火被覆層と、
を備え、
耐火被覆層は、石膏と水と遅延
材を含む石こう組成物であって、
石膏:水:遅延材が重量比において、100:30~50:0.01~1.0であり、硬化開始時間が30分以上であって石こう硬化体の密度が1.2g/cm
3以上に調整され
た石こう組成物で充填形成されていること、を特徴とする耐火構造材。
【請求項2】
石こう組成物の組成は、さらに、石膏の重量100に対して、減水材を重量比3~10の範囲で含むことを特徴とする請求項1の記載の耐火構造材。
【請求項3】
耐火被覆層が60mm以上であって、耐火時間が2時間以上であることを特徴とする請求項
1または2に記載の耐火構造材。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の耐火構造材において、木質の荷重支持
部の表面に水分遮断層とラス金網層を形成し、その外周に60mm以上の隙間を開けて型枠を設け、該隙間に石膏と水と遅延
材を含む石こう組成物であって、
石膏:水:遅延材が重量比において、100:30~50:0.01~1.0であり、硬化開始時間が30分以上であって石こう硬化体の密度が1.2g/cm
3以上に調整された石こう組成物を充填して、硬化させて
耐火被覆層を形成して建物の耐火構造材を製造する方法。
【請求項5】
石こう組成物の組成は、さらに、石膏の重量100に対して、減水材を重量比3~10の範囲で含むことを特徴とする請求項4に記載の建物の耐火構造材を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質系構造材に対する耐火技術に関する。
【背景技術】
【0002】
木材は、なじみがある素材であって、古来より住宅などの建築に利用されてきており、戦後造林された森林資源も充実してきている。一方、木材は、可燃性材料であって、単木では品質にばらつきがあることなど建築材料としては使いにくい点がある。
集成材などにして、均一性の高い木質系素材も開発され、大型建築にも利用可能となっている。可燃性対策も各種検討されている。例えば、難燃薬剤を含浸させる方法や難燃材や耐火材で被覆する方法などがある。
一方、平成22年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行されたことに伴い、建築物への木材利用の機運が高まっている。
【0003】
可燃性対策に関する従来の提案をいくつか紹介する。
特許文献1(特開2012-136939号公報)には、荷重支持部の外隅部に難燃化処理材を配置し、米松などの外周材を設けて、耐火性能を向上させる提案がなされている。
特許文献2(特開2006-218707号公報)には、内層集成材と外層集成材をエポキシ樹脂、イソシアネート樹脂、又はウレタン樹脂の接着剤で接合し、かつ内層集成材にレゾルシノール樹脂接着剤を用いた木質系構造材が提案されている。
特許文献3(特開2005-53195号公報)には、荷重支持層の外側にモルタルや金属などの不燃材を配置した複合木質構造材が提案されている。
特許文献4(特開2012-180700号公報)には、木質部の外側に発泡層と金属膜を複数層設ける技術が開示されている。
特許文献5(特開2017-2614号公報)には、荷重支持部と燃代層との隙間に流動状の石こうを上から流し込んで充填し、充填後に石こうが硬化することで燃止層を形成して燃代層の燃焼熱が燃止層に効果的に吸収されるようにした耐火性の木質柱が開示されている。
本出願人は、特許文献6(特開2018-135643号公報)として、荷重支持部と、荷重支持部の周囲に被覆された湿式の耐火被覆層と、耐火被覆層の外側に周設された仕上げ木材層とを備える木質耐火部材であって、ロックウールとセメント、水を主成分とする吹付けロックウール、または白セメント、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウムを主成分とする吹付けセラミック系耐火被覆材を湿式耐火被覆材とし、荷重支持部と耐火被覆層との間、および、耐火被覆層と仕上げ木材層との間に、水分遮断層を形成した木質耐火部材を提案している。
本出願人は、また、特許文献7(特開2019-78044号公報)として、木質荷重支持部と、木質荷重支持部の外側面に設けられる水分遮断層と、水分遮断層を被覆する発泡性耐火被覆層と、発泡性耐火被覆層の外側に設けられた仕上げ木材層とを備え、耐火被覆層に配置された連結部材に仕上げ木材層を固定した木質耐火部材を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-136939号公報
【文献】特開2006-218707号公報
【文献】特開2005-053195号公報
【文献】特開2012-180700号公報
【文献】特開2017-2614号公報
【文献】特開2018-135643号公報
【文献】特開2019-78044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者等は、木質の耐火構造材として、木質の荷重支持部の外周面に石こう層を設けた木質系の耐火構造材を研究し開発している。本発明は、耐火性を発揮する石こう組成と長大な柱や梁の外周に数センチの石こう層を形成する施工性に優れた石こう組成を明らかにすることと、その石こうを用いた耐火構造材を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の主な解決手段は次のとおりである。
1.荷重支持部の外周に耐火被覆層を設けた建物の耐火構造材であって、
当該耐火構造材は長さ3~10mの柱又は梁であり、
荷重を負担する木質の荷重支持部と、
荷重支持部の表面に設けられた水分遮断層と、
水分遮断層の外側に設けられたラス金網層と、
ラス金網層の外側に設けられた耐火被覆層と、
を備え、
耐火被覆層は、石膏と水と遅延材を含む石こう組成物であって、石膏:水:遅延材が重量比において、100:30~50:0.01~1.0であり、硬化開始時間が30分以上であって石こう硬化体の密度が1.2g/cm3以上に調整された石こう組成物で充填形成されていること、を特徴とする耐火構造材。
2.石こう組成物の組成は、さらに、石膏の重量100に対して、減水材を重量比3~10の範囲で含むことを特徴とする1.の記載の耐火構造材。
3.耐火被覆層が60mm以上であって、耐火時間が2時間以上であることを特徴とする1.または2.に記載の耐火構造材。
4.1.から3.のいずれかに記載の耐火構造材において、木質の荷重支持部の表面に水分遮断層とラス金網層を形成し、その外周に60mm以上の隙間を開けて型枠を設け、該隙間に石膏と水と遅延材を含む石こう組成物であって、石膏:水:遅延材が重量比において、100:30~50:0.01~1.0であり、硬化開始時間が30分以上であって石こう硬化体の密度が1.2g/cm3以上に調整された石こう組成物を充填して、硬化させて耐火被覆層を形成して建物の耐火構造材を製造する方法。
5.石こう組成物の組成は、さらに、石膏の重量100に対して、減水材を重量比3~10の範囲で含むことを特徴とする4.に記載の建物の耐火構造材を製造する方法。
【発明の効果】
【0007】
1.本発明は、石膏、水、及び遅延材を含む石こうの組成を硬化開始時間30分以上、石こう硬化体の密度を1.2g/cm3以上に調整することにより、耐火性と良好な施工性を実現できる。
2.硬化開始時間30分以上、硬化体の密度1.2g/cm3以上の石こう組成は、重量比で石膏:水:遅延材(:減水材)=100:30~50:0.01~1.0(:3~10)が適切である。遅延材は、0.03~0.3重量%が好ましい。特に、遅延材の添加量は0.3重量%で可使時間の確保には十分であって、それ以上添加する必要性は小さい。
この発明によれば、耐火被覆層を形成する石こう硬化体を、石膏、水、遅延材に必要に応じて減水材を追加し、調合後に攪拌することで、硬化開始時間に影響を及ぼす水分量を攪拌過程で所定量に調整することが可能となる。この発明によって、目標とする密度、硬化開始時間を適宜設定できることとなる。
柱や梁などの構造材は、3m以上の長さがあって、薄い石こう層を設けることとなるので、準備時間など含めると硬化開始前のハンドリングできる時間として、製造現場として30分以上確保することが必要となる。
3.荷重支持部の外周に数センチの充填用の隙間を設けた型枠に、石こう組成物を充填して密度1.2g/cm3以上の石こう層を形成した耐火構造材を製造することができる。柱材や梁材を木質系の耐火構造部材として構築することで、木材を主要な荷重支持材として利用できる。水分遮断層を設けることにより、30~50%の水を含有する充填された石こう組成物からの水分が木質層に移行しないので、木質層の膨潤が防止され、石こうが水和硬化する水分量が局所的に変化して石こうの硬化及び材質のバラツキが発生することを防止することができる。
4.この発明によれば、石膏、水、及び遅延材を所定の重量比で調合し、攪拌後に充填して硬化させた石こう硬化体を形成して耐火被覆層を形成することで、必要な耐火性能を満足する密度を確保でき、かつ液状の石こうが硬化を始める時間の閾値30分以上を確保できる。よって、耐火被覆層を石こう硬化体で形成できるために、木質の荷重支持部の横断面が矩形状や円形状であっても木質の荷重支持部と耐火被覆層とが密着された木質系の耐火構造部材が実現可能である。本発明の耐火構造材は、2時間以上の耐火性能を発揮できる。
5.本発明の木質系耐火構造部材は、荷重支持部の表面に水分遮断層とラス金網層が設けられ、その外側に石こう組成物を充填して石こう層が形成される。水分遮断層が、荷重支持部である木質材へ水分が移行することを防止するとともに、石こう組成物中の水分濃度が保持されて硬化した石こう層が均一にできる。さらに、ラス金網によって石こうの付着を確保している。このラス金網は石こう層の表面にも設けることができ、表面側のラス金網層は石こう層が熱被ばくによって、干割れして脱落することを防止することができる。本発明は、最外層に燃代層となる木材層を必要としない耐火構造部材であるので、付着や火災に直接接する被ばく対策上、ラス金網を用いることは有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】木柱表面の対角位置に関する表面最高温度を示す図
【
図3】木柱表面の対辺位置に関する表面最高温度を示す図
【
図6】実験1の結果とチューニングした熱定数での解析結果との比較を示す図
【
図8】石こう密度(1.4g/cm
3)での木柱断面温度分布を示す図
【
図12】耐火試験 荷重支持部の表面温度変化を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
<発明の概略>
本発明は、木質系の耐火構造材の製造に用いる石こう系の組成物に関する発明である。
建築分野において、石こうは板体が一般的に耐火材料として用いられている。耐火性の観点から大型建築の構造材として木材の利用は困難であったが、石こうやモルタルなどの不燃材で木材を被覆して、耐火性を向上させる方法も提案されている。
火災による構造材の崩壊防止のため、積載荷重に応じて材料の許容温度がある。木造材では260℃程度になる。本発明者等は、木質系荷重支持部の周囲に石こう層を設けることにより、木材の温度を260℃以下に抑えることができる耐火構造材(
図1参照)を提案している。石膏は100℃で熱分解を始め、結晶水を放出するので、この現象を利用して、木材の温度上昇を抑制している。
大型の建物に用いられる木製の柱や梁は、積載荷重などの強度を満足するには、太さ50cm以上、長さ3~10m程度の角材や円柱材が必要で、その周囲に石こう被覆層を60mm以上形成する必要がある。
【0010】
水と混ぜて攪拌した流動性のある石こうは短時間に硬化していまい、狭く長い隙間に充填する建築構造材には向いていない。水を多く添加すると硬化開始時間が長くなることは知られているが、耐火性への影響は不明であった。
本発明は、耐火性に影響する石こうの密度を明らかにし、木質系荷重支持部の外周に形成する石こう層の施工性(充填作業などに要する可使時間)を満足できる石こうの検討を行った。
検討の結果、石こう密度は1.2g/cm3以上必要であり、石こうの硬化開始時間は30分以上必要であることが判明した。
本発明では、この密度と硬化開始時間を満足する石こうの組成を提案する。
その石こうの組成は、石膏:水:遅延材が重量比において、100:30~50、:0.01~1.0である。遅延材は、好ましくは0.03~0.3重量%である。さらに、減水材を重量比3~10の範囲で含むことが望ましい。
この石こう組成物を混合攪拌して、型枠で覆った木質系荷重支持部の隙間に充填して、硬化させて耐火構造材を製造する。3m以上の長さを有する柱や梁の表面に60~90mmの厚さにむらなく被覆するには、長時間流動性を確保する必要がある。
【0011】
例えば、500cm長、60cm角、石こう層65mmの柱を想定すると、充填石こう流動物が約900リットルとなり、準備する石こう流動物は約1m3となり、30分以内に充填するには、充填速度30リットル/分が必要になる。柱の全面にむらなく石こうを被覆する必要があるので、調合時間及び十分な作業時間が必要となる。さらに、混合装置に付着あるいは残存した石こう組成物が硬化する前に清掃して、次回に備える必要があることを考慮すると、調合後の硬化開始時間は、さらに長い時間が必要になる。
【0012】
なお用語について次のように使用する。
「石膏」は化合物名称として、「石こう」は硬化体を示す。「石こう組成物」は、「石膏、水、遅延材、減水材」などの石こう硬化体の組成を示す。「石こう組成物」を攪拌した流動物を「石こう流動物」という。
【0013】
<耐火構造材について>
本発明の耐火構造材は、木質系の荷重支持部の周囲に石こう層を形成して、耐火性を備えた柱や梁などの構造材である。
荷重支持部は、一本の樹木でも良いが、強度等の性質をそろえることができ、大きさも自由に設計できる集成材が適している。集成材を構成する樹種は、杉、桧、松、米桧、米松など一般に利用されている樹種を利用できる。
石こう層は、建築耐火基準をクリアする層厚を設ける。現状では、検討した結果、本発明では、2時間耐火をクリアするには、約60~80mm程度設けることが必要であることが判明した。
本発明では、耐火構造として、石こう層の外側に燃代層を設ける必要がない。ただし、鉄筋コンクリート柱のように外装材を設けることができることは、一般建築材と同様である。
また、本発明の耐火構造材では、荷重支持部の周囲に遮水材、付着材などを設けて、その外周に石こう層を形成することによって、荷重支持部へ水分が移行することを防止し、荷重支持部への石こうの付着性を高めることができる。
【0014】
<組成要素について>
1.石膏
石膏は、医療、建築・土木分野などで幅広く使用されている材料であって、半水石膏などの種類の石膏が使用できる。
石こうは加熱されると,結晶水の分解及び水分の蒸発による潜熱で吸熱効果が働き、約100℃~120℃の範囲で温度上昇が抑制される。
【0015】
2.水
水は、水道水、工業用水など通常の水を使用することができる。
【0016】
3.遅延材
遅延材は、石膏の硬化遅延のために使用される。アミノ酸、クエン酸、ホウ砂などを使用することができる。
【0017】
4.減水材
減水材は、石こう打設時の流動性向上のために使用される。ナフタレン、スルホン酸などを使用することができる。
【0018】
<試験例>
石膏、水、遅延材、減水材、遅延材を表1に示す組成に配合した石こうについて、硬化開始時間と密度を評価した。
使用した材料は次のとおりである。
石膏:半水石こうβ型 水;水道水
減水材:ナフタレン系減水材
遅延材:アミノ酸系遅延材
【0019】
【0020】
(1)調合例1、2は、水の比率が50重量%では、減水材を添加しても、硬化開始時間が20分以内と、充填施工には硬化が早すぎて不適当である。
(2)この試験した遅延材を0.1重量%以上添加しても、硬化開始時間の延長には影響しない。
【0021】
<解析確認について>
試験結果に基づいて、さらに、密度と硬化性能について解析を行った。
木柱端の対辺位置、木柱端の対角位置での最高温度を
図2、3に示す。
図2から対角温度が260℃以下となる石こうの密度は1.2g/cm
3以上、
図3から対辺温度が260℃以下となる石こう密度は約0.9以上となる。この解析によっても、石こう密度が1.2g/cm
3以上必要であることが明らかとなった。
【0022】
<解析について>
1.解析について
石こうで被覆した木柱の温度予測を熱伝導解析により実施し、石こう密度の相違が木柱表面温度に与える影響を検討する。検討方針は以下の通りとする。
(1)加熱実験を実施した石こう被覆60mmの試験体から、石こうの熱定数を計測する。その石こう被覆60mmの実験試験体の熱定数に基づき、解析対象の木柱の石こう厚さ65mmにおける熱定数を推定する。
(2)解析対象の木柱は、石こう被覆厚さを65mmとし、石こうの比重(密度1.2g/cm3)を計算変数として、石こうの密度と木材表面温度との関係を検討する。
(3)石こう厚さ65mm(密度1.33g/cm3)の実験結果(実験2)と、石こう厚さ65mmの計算結果(密度1.2g/cm3)とを比較し、解析の妥当性を検討する。
【0023】
2.熱伝導解析方法
2.1 熱伝導解析に使用した熱定数
木柱のサイズを□120mmとし、石こう厚さを60mmとした試験体に対して、石こうの熱定数をチューニングする。
計算で使用する木柱の熱定数は、熱伝導率を0.107W/mK、比熱を1.356kJ/kgK、密度を0.37g/cm
3とし、一定とした。また、木材の含水率を10%とした。
計算で使用する石こうの熱伝導率を
図4、比熱を
図5に示す。密度は、試験体から実測した1.22g/cm
3とした。
【0024】
2.2 試験結果に対する蒸発潜熱のチューニング
石こうは加熱されると、結晶水の分解及び水分の蒸発による潜熱で吸熱効果が働き、約100℃~120℃の範囲で温度上昇が抑制される。
そこで、石こうの潜熱量を水の蒸発潜熱で表現し、その蒸発潜熱量を変数としてパラメトリックスタディーを実施し、実験1の木柱表面温度が概ね一致するように検討した。
想定した石こうの蒸発潜熱量を質量比で20%とした場合の結果を
図6に示す。実験結果をチューニングしたこれらの熱定数を使用し、以降の解析を実施する。
【0025】
3.石こうの密度による木柱温度への影響
木柱(□120mm)および石こう厚さを65mmとし、上記の熱定数を使用して(石こうの密度以外)、石こうの密度を計算変数として熱伝導解析を実施する。なお、石っこうの厚さに基づく熱履歴の解析なので、木柱の大きさには関係しないので、120mm角の柱材を試験体とした。
木柱表面温度の時刻歴を
図7、石こうの密度と木柱表面の最高温度との関係を
図2、3に示す。また、熱伝導解析結果の一例として、石こうの密度が1.4g/cm
3の断面温度分布を
図8に示す。
図7に示すように、石こうの密度が大きくなるに従い、木柱表面の最高温度が低下する事が分かる。これは、主に以下の理由による。
・個体の熱伝導では熱伝導率λを比熱cと密度ρで除した熱拡散率(=λ/(ρc))が小さいほど熱を伝えにくい。よって、石こうの密度が大きい程、木材表面温度は低くなる。
・石こうでは結晶水を分解させるために熱量を必要とする。石こうの密度が大きいほどこの潜熱に大きな熱量を要するため、石こうの密度が大きい程、木材表面温度は低くなる。
【0026】
試験体の温度分布が示された
図8によると、表面温度が800℃あるいは1000℃になっても、荷重支持部の木材表面は260℃以下となっており、荷重支持部の損傷、劣化が生じず、十分な強度を保っており、耐火性があることがわかる。
【0027】
4.計算結果と実験結果との比較
実験2で、木柱□120mm、石こう厚さ65mmの載荷加熱実験を実施した。実験結果と解析結果の比較を
図2、3に示す。
解析結果は、実験結果と概ね一致している。
【実施例】
【0028】
図9に、柱材である耐火構造材の横断面例を示す。(a)は分解図、(b)は横断面を示している。
荷重を負担するスギの集成材からなる荷重支持部2と、荷重支持部2の外周面に設けられた水分遮断層3とラス金網5と、ラス金網5の外側に設けられた石こう層4と、石こう層4の表面側に設けられた第2ラス金網6と、石こう層4を貫通して一端が荷重支持部2の表面に接合し、他端が第2ラス金網6に接合する連結材7および表面塗装8から構成されている。
なお、耐火構造材である柱材の上下端は、スラブや梁に挿入されるので、石こう層は設けられない。
なお、荷重支持部に熱電対を取り付けた耐火構造材1を用いて、加熱試験を行い耐火性能を確認を行った。
【0029】
なお、連結材7は、荷重支持部2の表面に直に接合する必要はなく、表面側のラス金網6を支えることができる接合強度を得ることができれば水分遮断層3を介して設けることもできる。
また、ラス金網6は付着層に、第2ラス金網は第2付着層に該当する。連結材7には乾燥した石こうが用いられ、水分遮断層3はキシラデコール コンゾランによって形成されている。
【0030】
本実施例の柱材の仕様は次のとおりである。
全長:3300mm、縦横:250mm角、
荷重支持部;120mm角、(なお、本実施例では、耐火性能を確認するためのものであるので、荷重支持部の大きさは120mm角で十分であるとした)
耐火被覆層:石こう層厚65mm(石こう100重量部、水45重量部、減水材3重量部、遅延材0.1重量部)、石こう密度1.33g/cm3
連結材:50mm角、65mm長、
水分遮断層:キシラデコール コンゾラン(塗布量250g/m2)、
付着層(第2付着層):ラス金網、
表面塗装:キシラデコールインテリアファイントップコート(塗布量500g/m2)
【0031】
図10に本実施例の製造工程を示す。
第1工程:荷重支持部2を準備し、外周面にキシラデコール コンゾランを250g/m
2塗布して、水分遮断層3を形成する。
なお、試験用に荷重支持部の一部に溝を切って、熱電対を設置したのちに水分遮断層を形成する。
第2工程:ラス網を荷重支持部2の表面にステープラーで取り付けて付着層を形成する。
第3工程:荷重支持部2の表面に接着剤で連結材7を取り付ける。この場合、部分的にラス金網を切除して連結材を荷重支持部に接着する。
第4工程:連結材7の外端に第2のラス金網6とその外周に型枠9を設置する。第2ラス金網は型枠9内面に連結材部分を切除して仮接着してある。連結材7は型枠用のスペーサとしても機能する。
第5工程:石こうを充填して硬化させて耐火被覆層4を形成し、型枠9を脱型する。
第6工程:脱型後の表面にキシラデコールインテリアファイントップコートを塗布量500g/m
2を塗布して、表面塗装8を形成して仕上げ層とする。
【0032】
<耐火試験>
この実施例で作成した柱材を試験体として、耐火試験を行った。耐火試験は、(一般財団)建材試験センターの防耐火性能試験・評価業務方法書の規定に準じて行った。
加熱炉の加熱温度変化を
図11に示す。
加熱は、120分間の間に1000℃以上に達するように加熱し、その後480分まで放熱した。加熱温度は実線表記、放熱中の温度は点線で表記した。
試験体の温度は、荷重支持部である木材の角部と辺央部を測定した。複数個所測定したが、同様の結果であったので、それぞれ1か所の温度変化を
図12に示す。
【0033】
30分後加熱温度は800℃以上となっているが、試験体の角部の温度は100℃であり、さらに120分にかけて加熱温度は1100℃以上に達するが、試験体の温度は100℃を維持している。その後試験体の角部の温度は300分で約200℃に達して、その後緩やかに低下して150℃となった。
試験体の辺央部の温度は、30分後に100℃、120分でも100℃を維持し、その後上昇して330分で約175℃に達し、その後緩やかに低下して、150℃となった。
特に、加熱30分で試験体の温度が100℃に達すると、その後しばらく100℃であって、加熱後120分以上を維持していることは、石こうの断熱と石こうに含まれる結晶水が蒸発する気化熱によって、試験体の表面温度の上昇が防止されていることが確認された。
加熱後の試験体の表面には、浅いひびがみられたが、石こうは剥落しておらず、切断した切断面には、荷重支持部に達するひび割れは観察されなかった。切断面観察でも、荷重支持部は炭化していなかった。
この結果、この試験体は、十分に2時間耐火を満足することを確認することができた。
なお、石こう層を70mmとした試験体でも同様の耐火試験を行った結果、試験体の100℃維持時間が延びることと、試験体の最高温度が角部も辺央部も175℃以下に抑えられることが、確認できている。
【符号の説明】
【0034】
1・・・・・・耐火構造材
2・・・・・・荷重支持部
3・・・・・・水分遮断層
4・・・・・・石こう層
41・・・・湿式耐火被覆材
5・・・・・・付着層
6・・・・・・第2付着層(第2金網層)
7・・・・・・連結材(スペーサ)
71・・・・・乾式耐火被覆材
8・・・・・・表面塗装
9・・・・・・型枠