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特許74764484-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/377 20060101AFI20240423BHJP
   C07C 65/03 20060101ALI20240423BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240423BHJP
   C07C 51/15 20060101ALN20240423BHJP
【FI】
C07C51/377
C07C65/03 B
C07B61/00
C07C51/15
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021504100
(86)(22)【出願日】2020-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2020008837
(87)【国際公開番号】W WO2020179769
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2019040453
(32)【優先日】2019-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000243272
【氏名又は名称】本州化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】今井 涼太
(72)【発明者】
【氏名】芦田 一仁
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-17397(JP,A)
【文献】国際公開第2004/078693(WO,A1)
【文献】特開昭63-156746(JP,A)
【文献】井藤一良ほか,塩化アルミニウムによるアルキルベンゼンの脱アルキル,工業化学雑誌,1967年,第70巻, 第6号,p. 918-921,ISSN 2185-0860
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物と二酸化炭素を反応させて、下記一般式(2)で表される化合物を得る工程(I)に続き、一般式(2)で表される化合物を脱アルキル化する工程(II)を行うことを特徴とする、4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸の製造方法。
【化1】
(式中、Rは炭素原子数3~8の分岐鎖状のアルキル基または炭素数5~6の環状アルキル基を表し、Rは水素原子またはアルカリ金属を表し、 の置換位置はメチル基のパラ位であり、nは1を表す。)
【化2】
(式中、R、R、nは一般式(1)中の定義であり、 の置換位置はメチル基のパラ位であり、は水素原子またはアルカリ金属を表す。)
【請求項2】
工程(I)の反応溶媒として非プロトン性極性溶媒を使用することを特徴とする、請求項1記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール類にカルボキシル基を導入する工程を有する、新規な4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール類へのカルボキシル基の導入反応として、コルベシュミット反応が知られている。コルベシュミット反応は、アルカリ金属フェノキシドと二酸化炭素を用いる反応であり、反応条件として高温・高圧、具体的には、反応温度200℃程度、反応圧力数百から数千kPa程度が必要な場合が多い。このため、コルベシュミット反応は、専用の設備が必要とされている。また、コルベシュミット反応は、反応の選択率が低く、目的とするベンゼン環上の位置でのカルボキシル化を達成することが困難である場合が多い。特に、アルキル置換されたフェノール類は、置換基の立体的・電子的な要因から、目的とする位置選択性を発現させることが困難である。
一方、4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸は、医薬品原料や樹脂原料として有用であるにも関わらず、フェノール性水酸基のパラ位にカルボキシル基の導入を試みる場合、隣接するメチル基の存在により、カルボキシル化の選択率は低下するという問題がある。このカルボキシル基の導入において、反応選択性を高めるための様々な工夫が報告されてきた。
例えば、特許文献1には、m-クレゾールのカリウム塩を出発原料として、炭酸カリウム、一酸化炭素を235℃、8.5MPaで反応させることにより、4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸と4-メチルサリチル酸の混合物を、収率18mol%(対m-クレゾール)で得られることが記載されているものの、選択性に優れた反応とはいえない。
また、特許文献2には、m-クレゾールを出発原料として、触媒としてシクロデキストリンとエピクロロヒドリンの共重合物、銅粉末を使用して、水酸化ナトリウム水溶液中で四塩化炭素と反応させることにより、フェノール性水酸基のパラ位を高選択的にカルボキシル化できることが記載されている。しかしながら、使用する四塩化炭素がオゾン層破壊物質であることや、多量の水酸化ナトリウム水溶液を使用すること、さらには、触媒を原料と同量程度使用するといった反応条件は、工業的な製造方法としては実用性に欠ける。
さらに、特許文献3には、3、4-キシレノールを出発原料として、微生物のシュードモナス・プチダを使用して、フェノール性水酸基のパラ位のメチル基を酸化することにより、選択的に4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸を合成し得ることが記載されている。しかしながら、微生物の管理および反応、処理に専用の特殊設備が必要であるなど、工業的な製造方法としては実用的でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第3655744号明細書
【文献】国際公開第1985/03701号
【文献】特開平07-213295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述した事情を背景としてなされたものであって、工業化に適した、新規な4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記従来技術の問題点に鑑み鋭意検討した結果、脱離可能なアルキル基を有する一般式(1)で表される化合物と二酸化炭素を使用してコルベシュミット反応を行う工程(I)を、次いで、脱アルキル化する工程(II)を行うことにより、フェノール性水酸基のパラ位が高選択的にカルボキシル化された、4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸が得られることを見出し、工業化に適した温和な反応条件による本発明を完成した。
また、工程(I)の反応溶媒として非プロトン性極性溶媒を使用することにより、反応効率がより向上することを見出した。
【0006】
本発明は以下の通りである。
1.下記一般式(1)で表される化合物と二酸化炭素を反応させて、下記一般式(2)で表される化合物を得る工程(I)に続き、一般式(2)で表される化合物を脱アルキル化する工程(II)を行うことを特徴とする、4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸の製造方法。
【化1】
(式中、Rは炭素原子数3~8の分岐鎖状のアルキル基または炭素数5~6の環状アルキル基を表し、Rは水素原子またはアルカリ金属を表し、nは1~3の整数を表す。)
【化2】
(式中、R、R、nは一般式(1)中の定義であり、Rは水素原子またはアルカリ金属を表す。)
2.工程(I)の反応溶媒として非プロトン性極性溶媒を使用することを特徴とする、1.記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明による4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸の製造方法は、従来公知のコルベシュミット反応に比べて、非常に温和な反応条件において反応が進行するため、高温高圧反応を行う専用設備や反応装置を必要としない点において、非常に有用である。
また、本発明の製造方法は、4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸を選択的に効率よく得ることができるため、工業的な製造方法としては非常に有利な方法である。
特に、工程(I)の反応溶媒として非プロトン性極性溶媒を使用することにより、反応効率がより向上するため、工業的にも有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の製造方法は、下記反応式に示される様に、一般式(1)で表される化合物と二酸化炭素を反応させて、下記一般式(2)で表される化合物を得る工程(I)を行い、続いて、一般式(2)で表される化合物を脱アルキル化する工程(II)を行う製造方法である。
【化3】
(反応式中、R、R、Rおよびnは、上記一般式(1)(2)中の定義と同じである。)
【0009】
<工程(I)について>
工程(I)の反応は、一般式(1)で表される化合物と二酸化炭素を反応させて、一般式(2)で表される化合物を得る工程である。
(一般式(1)で表される化合物)
本発明の製造方法は、一般式(1)で表される化合物を出発原料に用いる。
一般式(1)中のRは、炭素原子数3~8の分岐鎖状のアルキル基または炭素数5~6の環状アルキル基を表し、具体的には、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、1-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1-メチル-1-エチルプロピル基、1-メチルヘキシル基、1,1-ジメチルペンチル基、1-メチル-1-エチルブチル基、1-メチルヘプチル基、1,1-ジメチルヘキシル基、1-メチル-1-エチルペンチル基、1,1-ジメチル-3,3-ジメチルブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。これらの中でも、第三級アルキル基、具体的にはt-ブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,1-ジメチルブチル基、1-メチル-1-エチルプロピル基、1,1-ジメチルペンチル基、1-メチル-1-エチルブチル基、1,1-ジメチルヘキシル基、1-メチル-1-エチルペンチル基、1,1-ジメチル-3,3-ジメチルブチル基が好ましく、t-ブチル基または1,1-ジメチル-3,3-ジメチルブチル基がより好ましく、t-ブチル基が特に好ましい。コルベシュミット反応の配向性を考慮すると、一般式(1)中のRの置換位置は、水酸基のオルト位であることが好ましく、さらにメチル基のパラ位でもあることが、目的物である4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸を、高選択的に得る上でより好ましい。
一般式(1)中のRの数nは、1~3の整数を表し、nが2または3の場合には、Rは必ずしも同一の置換基である必要は無く、異種の置換基であってもよいが、導入の容易性や脱アルキル化の観点から同種の置換基であることが好ましい。脱アルキル化反応の容易性から、nは1であることが好ましい。
また、一般式(1)中のRは、水素原子またはアルカリ金属を表す。アルカリ金属としては、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウムが挙げられ、中でも、ナトリウムまたはカリウムが好ましく、カリウムが特に好ましい。
一般式(1)で表される化合物の好適な例としては、2-イソプロピル-5-メチルフェノール、2-(1-メチルプロピル)-5-メチルフェノール、2-t-ブチル-5-メチルフェノール、2-(1-メチルブチル)-5-メチルフェノール、2-(1,1-ジメチルプロピル)-5-メチルフェノール、2-(1-メチルペンチル)-5-メチルフェノール、2-(1,1-ジメチルブチル)-5-メチルフェノール、2-(1-メチル-1-エチルプロピル)-5-メチルフェノール、2-(1-メチルヘキシル)-5-メチルフェノール、2-(1,1-ジメチルペンチル)-5-メチルフェノール、2-(1-メチル-1-エチルブチル)-5-メチルフェノール、2-(1-メチルヘプチル)-5-メチルフェノール、2-(1,1-ジメチルヘキシル)-5-メチルフェノール、2-(1-メチル-1-エチルペンチル)-5-メチルフェノール、2-(1,1-ジメチル-3,3-ジメチルブチル)-5-メチルフェノール、2-シクロペンチル-5-メチルフェノール、2-シクロヘキシル-5-メチルフェノール、2,6-ジイソプロピル-3-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-3-メチルフェノール、2-イソプロピル-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-(1-メチルプロピル)-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-t-ブチル-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-(1-メチルブチル)-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-(1,1-ジメチルプロピル)-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-(1-メチルペンチル)-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-(1,1-ジメチルブチル)-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-(1-メチル-1-エチルプロピル)-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-(1-メチルヘキシル)-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-(1,1-ジメチルペンチル)-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-(1-メチル-1-エチルブチル)-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-(1-メチルヘプチル)-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-(1,1-ジメチルヘキシル)-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-(1-メチル-1-エチルペンチル)-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-(1,1-ジメチル-3,3-ジメチルブチル)-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-シクロペンチル-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-シクロヘキシル-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2,6-ジイソプロピル-3-メチルフェノールのナトリウム塩、2,6-ジ-t-ブチル-3-メチルフェノールのナトリウム塩、2-イソプロピル-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-(1-メチルプロピル)-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-t-ブチル-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-(1-メチルブチル)-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-(1,1-ジメチルプロピル)-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-(1-メチルペンチル)-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-(1,1-ジメチルブチル)-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-(1-メチル-1-エチルプロピル)-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-(1-メチルヘキシル)-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-(1,1-ジメチルペンチル)-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-(1-メチル-1-エチルブチル)-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-(1-メチルヘプチル)-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-(1,1-ジメチルヘキシル)-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-(1-メチル-1-エチルペンチル)-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-(1,1-ジメチル-3,3-ジメチルブチル)-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-シクロペンチル-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-シクロヘキシル-5-メチルフェノールのカリウム塩、2,6-ジイソプロピル-3-メチルフェノールのカリウム塩、2,6-ジ-t-ブチル-3-メチルフェノールのカリウム塩等が挙げられる。これらの中でも、第3級アルキル基を有する2-t-ブチル-5-メチルフェノール、2-(1,1-ジメチルプロピル)-5-メチルフェノール、2-(1,1-ジメチルブチル)-5-メチルフェノール、2-(1-メチル-1-エチルプロピル)-5-メチルフェノール、2-(1,1-ジメチルペンチル)-5-メチルフェノール、2-(1-メチル-1-エチルブチル)-5-メチルフェノール、2-(1,1-ジメチルヘキシル)-5-メチルフェノール、2-(1-メチル-1-エチルペンチル)-5-メチルフェノール、2-(1,1-ジメチル-3,3-ジメチルブチル)-5-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-3-メチルフェノール、2-t-ブチル-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-(1,1-ジメチルプロピル)-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-(1,1-ジメチルブチル)-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-(1-メチル-1-エチルプロピル)-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-(1,1-ジメチルペンチル)-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-(1-メチル-1-エチルブチル)-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-(1,1-ジメチルヘキシル)-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-(1-メチル-1-エチルペンチル)-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-(1,1-ジメチル-3,3-ジメチルブチル)-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2,6-ジ-t-ブチル-3-メチルフェノールのナトリウム塩、2-t-ブチル-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-(1,1-ジメチルプロピル)-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-(1,1-ジメチルブチル)-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-(1-メチル-1-エチルプロピル)-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-(1,1-ジメチルペンチル)-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-(1-メチル-1-エチルブチル)-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-(1,1-ジメチルヘキシル)-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-(1-メチル-1-エチルペンチル)-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-(1,1-ジメチル-3,3-ジメチルブチル)-5-メチルフェノールのカリウム塩、2,6-ジ-t-ブチル-3-メチルフェノールのカリウム塩が好ましく、2-t-ブチル-5-メチルフェノール、2-(1,1-ジメチル-3,3-ジメチルブチル)-5-メチルフェノール、2-t-ブチル-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-(1,1-ジメチル-3,3-ジメチルブチル)-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-t-ブチル-5-メチルフェノールのカリウム塩、2-(1,1-ジメチル-3,3-ジメチルブチル)-5-メチルフェノールのカリウム塩がより好ましく、2-t-ブチル-5-メチルフェノール、2-t-ブチル-5-メチルフェノールのナトリウム塩、2-t-ブチル-5-メチルフェノールのカリウム塩が特に好ましい。
さらに、出発物質として、一般式(1)で表される化合物とその塩の混合物を使用する場合は、Rが水素である化合物1molに対して、Rがアルカリ金属である塩は1.0mol以上が好ましく、上限は2.0mol以下が好ましく、1.5mol以下がより好ましく、1.3mol以下がさらに好ましい。
【0010】
(二酸化炭素)
工程(I)の反応は、反応容器内に二酸化炭素ガスが存在する状態で行う。二酸化炭素ガスは、一般式(1)で表される化合物を有する反応容器内に、連続的に吹き込んでもよいし、断続的に吹き込んでもよいが、連続的に吹き込む方法が好ましい。また、二酸化炭素ガスは、一般式(1)で表される化合物を含有する反応液の液中に、吹き込んでもよいし、反応液と反応容器の空間部に吹き込んでもよい。反応時の圧力は、設備に合わせて常圧、加圧のいずれで実施しても良く、二酸化炭素圧力として大気圧~50.0kgf/cmの範囲内で行うことが好ましい。
【0011】
(反応溶媒)
工程(I)の反応に使用する反応溶媒として、非プロトン性極性溶媒を使用すると、反応効率がより向上するため好適である。この非プロトン性極性溶媒は、具体的には、例えば、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、炭酸プロピレン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、テトラメチル尿素等が挙げられる。中でも、一般式(1)で表されるアルカリ金属塩の存在下においても安定性に優れたものが好ましく、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドが好ましい。またこれらは任意に組み合わせて使用しても良い。非プロトン性極性溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが経済性の点から、通常、一般式(1)で表される化合物に対して0.1重量倍以上であり、0.5~100重量倍が好ましく、1~20重量倍がより好ましい。
これらの非プロトン性極性溶媒は、その他の溶媒と併用して使用してもよい。併用できる溶媒としては、反応に不活性であれば特に制限はないが、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、ヘキサン、シクロヘキサンなどの直鎖状・環状脂肪族炭化水素系溶媒のほか、反応に使用する一般式(1)で表される化合物を、溶媒として使用してもよい。また、一般式(1)で表される化合物の塩を得る際に、反応系内を脱水するために使用した溶媒(水と共沸する溶媒)が、反応系内に存在してもよい。さらに、これら非プロトン性極性溶媒と併用できる溶媒は、単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0012】
(反応条件)
工程(I)における反応温度は、20~100℃が好ましく、50~90℃がより好ましく、60~80℃が特に好ましい。反応圧力は、通常、常圧下で行われるが、加圧下で行ってもよい。反応時間は反応温度などの条件にもよるが、通常は1~50時間の範囲であるが、1~40時間の範囲が好ましく、1~30時間の範囲がより好ましい。さらに、工程(I)の反応は、反応溶媒として非プロトン性極性溶媒を使用して反応温度20℃~100℃、常圧条件下において反応を実施する、より好ましくは反応溶媒として非プロトン性極性溶媒を使用して反応温度50~90℃、常圧条件下において反応を実施する、特に好ましくは反応溶媒として非プロトン性極性溶媒を使用して反応温度60~80℃、常圧条件下において反応を実施すると、フェノール性水酸基のパラ位が高選択的にカルボキシ化されるため、目的とする一般式(2)で表される化合物を効率的に得る点において、好適な反応条件である。
工程(I)の反応は、反応系内に水が存在すると反応の進行が阻害されるため、反応系内は十分に脱水された状態であることが必要である。反応系内を脱水する方法としては、公知の方法に準じて行えばよく、例えば、トルエンや酢酸エチル等の水と共沸する溶媒を加えて、理論量の水を留出させた後に、この共沸溶媒を回収する方法が効率的かつ簡便である。また、他の例としては、別途調製した一般式(1)で表される化合物の無水の塩を使用する方法などが挙げられる。この場合、使用する反応溶媒は脱水されたものが好ましい。
【0013】
(反応後処理)
工程(I)の反応終了後、酸を添加することにより、得られた一般式(2)で表される化合物を結晶固体として析出させることができる。使用できる酸としては、ブレンステッド酸として定義される酸であればいずれでもよく、具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸や、シュウ酸、クエン酸、酢酸等の有機酸を挙げることができる。中でも、塩酸、硫酸が好ましい。また、これらの酸は任意に組み合わせて使用してもよい。
使用する酸の量は、工程(I)により得られた一般式(2)で表される化合物の量によって異なるが、出発原料である一般式(1)で表される化合物に対して、1mol倍以上が好ましく、ある程度過剰に加えても構わない。
酸の添加により析出した固体をろ過等により分離した後、水と溶媒を使用して洗浄することが好ましい。この際、使用できる溶媒としては、析出した固体と水に対する溶解度が小さく、分散させることができる溶媒が好ましい。具体的には、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、リグロイン、ケロシン等に代表される脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、クメン、ナフタレン等に代表される芳香族炭化水素が挙げられる。またこれらは任意に組み合わせて使用しても良い。
【0014】
(一般式(2)で表される化合物について)
本発明の製造方法における中間体は、一般式(2)で表される化合物である。
一般式(2)中のR、R、nに関する具体例や好適例は、上述の一般式(1)中のそれと同じである。また、一般式(2)中のRに関する具体例や好適例は、上述の一般式(1)中のRと同じである。ただし、一般式(2)において、RとRは同じであってもよいし、異なっていてもよいが、同じであることが効率的に好ましい。
一般式(2)で表される化合物の好適な例としては、5-イソプロピル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-(1-メチルプロピル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-(1-メチルブチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-(1,1-ジメチルプロピル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-(1-メチルペンチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-(1,1-ジメチルブチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-(1-メチル-1-エチルプロピル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-(1-メチルヘキシル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-(1,1-ジメチルペンチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-(1-メチル-1-エチルブチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-(1-メチルヘプチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-(1,1-ジメチルヘキシル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-(1-メチル-1-エチルペンチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-(1,1-ジメチル-3,3-ジメチルブチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-シクロペンチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-シクロヘキシル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、3,5-ジイソプロピル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-イソプロピル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩、5-(1-メチルプロピル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩、5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩、5-(1-メチルブチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩、5-(1,1-ジメチルプロピル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩、5-(1-メチルペンチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩、5-(1,1-ジメチルブチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩、5-(1-メチル-1-エチルプロピル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩のナトリウム塩、5-(1-メチルヘキシル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩、5-(1,1-ジメチルペンチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩、5-(1-メチル-1-エチルブチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩、5-(1-メチルヘプチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩、5-(1,1-ジメチルヘキシル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩、5-(1-メチル-1-エチルペンチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩、5-(1,1-ジメチル-3,3-ジメチルブチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩、5-シクロペンチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩、5-シクロヘキシル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩、3,5-ジイソプロピル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩、5-イソプロピル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩、5-(1-メチルプロピル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩、5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩、5-(1-メチルブチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩、5-(1,1-ジメチルプロピル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩、5-(1-メチルペンチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩、5-(1,1-ジメチルブチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩、5-(1-メチル-1-エチルプロピル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩、5-(1-メチルヘキシル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩、5-(1,1-ジメチルペンチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩、5-(1-メチル-1-エチルブチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩、5-(1-メチルヘプチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩、5-(1,1-ジメチルヘキシル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩、5-(1-メチル-1-エチルペンチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩、5-(1,1-ジメチル-3,3-ジメチルブチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩、5-シクロペンチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩、5-シクロヘキシル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩、3,5-ジイソプロピル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩等が挙げられる。これらの中でも、5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-(1,1-ジメチルプロピル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-(1,1-ジメチルブチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-(1-メチル-1-エチルプロピル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-(1,1-ジメチルペンチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-(1-メチル-1-エチルブチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-(1,1-ジメチルヘキシル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-(1-メチル-1-エチルペンチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-(1,1-ジメチル-3,3-ジメチルブチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、3,5-ジブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩、5-(1,1-ジメチル-3,3-ジメチルブチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩、5-(1,1-ジメチルブチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩、5-(1,1-ジメチル-3,3-ジメチルブチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩、5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩、5-(1,1-ジメチル-3,3-ジメチルブチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩、5-(1,1-ジメチルブチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩、5-(1,1-ジメチル-3,3-ジメチルブチル)-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩が好ましく、5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸、5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のナトリウム塩、5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸のカリウム塩が特に好ましい。
【0015】
<工程(II)について>
工程(II)の反応は、工程(I)により得られた一般式(2)で表される化合物を、脱アルキル化する工程である。
(触媒)
工程(II)の反応は、触媒存在下において行うことができる。使用できる触媒としては、具体的に、例えば、硫酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸といったスルホン酸類、塩化アルミニウム(III)、三フッ化ホウ素、臭化鉄(III)といったルイス酸を挙げることができる。特に、塩化アルミニウム(III)存在下に反応を行うことにより、短時間で効率的に反応が進行するため好ましい。
使用する触媒量は、一般式(2)で表される化合物に対して0.01~5mol倍の中から選択することができ、使用する触媒がルイス酸の場合は、1~3mol倍が好ましく、2~3mol倍がより好ましい。使用する触媒がスルホン酸の場合は、0.1~1mol倍程度が好ましい。
【0016】
(反応溶媒)
工程(II)の反応は、スラリー状、溶液状のいずれでも実施することができる。使用できる反応溶媒としては、具体的には、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、リグロイン、ケロシン等に代表される脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、クメン、ナフタレン等に代表される芳香族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼンに代表される含ハロゲン溶媒等が挙げられる。
使用する反応溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、経済性の点から、通常、一般式(2)で表される化合物に対して0.1重量倍以上であり、0.5~100重量倍が好ましく、1~20重量倍がより好ましい。
【0017】
(反応条件)
工程(II)における反応温度は、使用する触媒や反応溶媒に応じて任意に選択することができる。例えば、ルイス酸触媒を使用する場合には、20~80℃であり、25~60℃が好ましく、30~50℃がより好ましい。スルホン酸触媒を使用する場合には、80~200℃であり、100~190℃が好ましく、120~180℃がより好ましい。
工程(II)における反応圧力は、常圧、減圧何れでもよい。生成する炭化水素ガスを効率的に反応系外に除去できる点において、減圧下において反応を行うことが好ましい。また、常圧下で反応を行う場合でも、不活性ガスを反応系内に少量流しながら反応を実施することにより、生成する炭化水素ガスを効率的に反応系外に除去できる効果が得られる。
工程(II)を実施する反応時間は、使用する触媒や反応溶媒に応じて1~24時間の範囲で、適宜反応の進行を確認しながら実施することができる。反応時間が短いと十分に反応が進行しない場合があり、また、反応時間が長時間になると目的外の反応が進行し、選択率が悪化する原因となる。
【0018】
(反応後処理)
工程(II)の反応において触媒を使用した場合は、反応終了後、使用した触媒に応じた後処理が必要である。触媒の種類に応じた後処理は、公知の方法に準じて行うことができる。
例えば、触媒として塩化アルミニウム(III)を使用した場合は、後処理に使用する水と無水塩化アルミニウムとの反応により生成した水酸化アルミニウムを、酸を使用して水に溶解させて、目的物と分離させる必要がある。使用できる酸としては、ブレンステッド酸として定義される酸であればいずれでもよく、具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸や、シュウ酸、クエン酸、酢酸等の有機酸を挙げることができる。特に、塩酸、硫酸が好ましい。またこれらは任意に組み合わせて使用してもよい。使用する酸の量としては、使用した塩化アルミニウム(III)に対して過剰量が好ましい。ここで、十分な酸を添加しないと目的物が析出しない。酸を添加する際に、反応溶媒に加えて溶媒を使用してもよい。使用できる溶媒としては、目的物の溶解度が小さい溶媒が好ましく、具体的には、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、リグロイン、ケロシン等に代表される脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、クメン、ナフタレン等に代表される芳香族炭化水素が挙げられる。またこれらは任意に組み合わせて使用しても良い。
使用した触媒の後処理後、目的物を単離するためには公知の方法を取ることができる。例えば、触媒の後処理後の液への貧溶媒の添加や溶媒の留去をすることや、上述のように触媒として塩化アルミニウム(III)を使用した場合は、酸を含む溶液と混合すること等によって目的物を析出させ、それを濾別することで、目的物の析出物を得ることができる。
得られた析出物は再結晶などの方法によりさらに精製することができる。再結晶による精製は、良溶媒と貧溶媒とを組み合わせて行うことが好ましい。良溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールといったアルコール系溶媒や、アセトン、メチルイソブチルケトンといったケトン系溶媒等を使用することができ、貧溶媒としては、例えば、水またはヘプタン、シクロヘキサン、トルエンといった炭化水素系溶媒等を使用することができる。
【0019】
<最終生成物:4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸>
本発明の製造方法によれば、目的とする4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸を、純度98.0%以上、好ましくは98.5%以上、より好ましくは99.0%以上のものとして、得ることができる。
【実施例
【0020】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例における原料転化率、反応選択率と純度は以下の方法により分析した。
[分析方法]
1.液体クロマトグラフィーの装置、分析条件、分析サンプル調製方法
装置:株式会社島津製作所製 ProminenceUFLC
ポンプ:LC-20AD
カラムオーブン:CTO-20A
検出器:SPD-20A
カラム:HALO C18
オーブン温度:50℃
流量:0.7ml/min
移動相:(A)アセトニトリル、(B)0.1wt%リン酸水
グラジエント条件:(A)体積%(分析開始からの時間)
20%(0min)→40%(5min)→100%(5min)→100%(2min)
試料注入量:3μl
検出波長:280nmおよび254nm
<反応液分析>
50mlメスフラスコに反応液を精秤。水(10ml)、85%リン酸(1滴)の順に添加し、アセトニトリルで秤線に合わせる。ただし、AlCl3を含む場合はシリンジフィルターでろ過する。
<結晶分析>
50mlメスフラスコに結晶を精秤し、アセトニトリルで秤線に合わせる。
2.反応選択率の算出方法
「反応選択率(%)」=(反応液中の目的物量)÷(反応液中の目的物と副生成物の合計量)×100
なお、上記式中の「反応液中の目的物量」と「反応液中の目的物と副生成物の合計量」は、液体クロマトグラフィー測定により得られた数値から絶対検量線法を用いて算出した。
【0021】
<絶対検量線法について>
予め上記分析メソッドにおいて各濃度(濃度:1、 2、 10、 30mg/50mlの4種類)から算出した検量線を、原料、目的物、不純物の分をそれぞれ作成した。反応液(結晶)をサンプリングし、50mlメスフラスコを用いて、アセトニトリルにより希釈した液を調製した。分析により得た面積値から検量線を用いて希釈後の濃度を算出し、反応液(結晶)中に含まれる各組成の重量を算出することで、下記の原料転化率および選択率を導いた。
【0022】
<参考例1(2-t-ブチル-5-メチルフェノールのカリウム塩の合成)>
ナスフラスコに2-t-ブチル-5-メチルフェノール70.0g(0.43mol)、48.8%水酸化カリウム水溶液53.9g(0.47mol)を仕込み、ロータリーエバポレーターで温度180℃、圧力1.2kPaで2時間以上かけて系内の水分を十分に留去した。得られた固体を乾燥した窒素ガス雰囲気下で乳鉢により粉砕し、白色粉末として2-t-ブチル-5-メチルフェノールのカリウム塩を86.1g得た。
【0023】
本発明の一般式(1)における置換基「R」が存在することによる、工程(I)の反応選択性について、実施例1と比較例1において検証を行った。
<実施例1>
四つ口フラスコに参考例1で得た2-t-ブチル-5-メチルフェノールのカリウム塩12.1g(0.06mol)、2-t-ブチル-5-メチルフェノール88.2g(0.54mol)を仕込み、温度70℃まで昇温し、二酸化炭素を液面に吹き込みながら撹拌し、5時間反応を行った。得られた反応終了液の組成を液体クロマトグラフィーによる絶対検量線法にて解析した結果、反応における5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸の選択率は19%であった。
【0024】
<比較例1>
参考例1と同様の方法で得たm-クレゾールのカリウム塩13.3g(0.09mol)、軽油50.0gをオートクレーブに仕込み、二酸化炭素を吹き込みながら170~200℃で5時間反応を行った。得られた反応終了液の組成を液体クロマトグラフィーによる絶対検量線法にて解析した結果、主生成物として4-メチルサリチル酸を収率42.1%で得た。このときの4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸の選択率は0%であった。
【0025】
<反応選択性に関する考察>
上記実施例1の結果により、出発原料として2-t-ブチル-5-メチルフェノールを用いたコルベシュミット反応では、従来のコルベシュミット反応温度より極めて低い温度(実施例1は70℃)において、フェノール性水酸基のパラ位にカルボキシル基が選択的に導入された5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸が得られることが確認された。
これに対して、比較例1の結果より、出発原料としてm-クレゾール(3-メチルフェノール)を用いてコルベシュミット反応を行うと、従来と同様の170~200℃の高温条件下においても、フェノール性水酸基のパラ位にカルボキシル基が導入された4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸は全く得ることができず、フェノール性水酸基のオルト位にカルボキシル基が導入された4-メチルサリチル酸のみが得られることが確認された。
実施例1と比較例1の結果より、本発明の一般式(1)で表される化合物において、アルキル基Rが存在することにより、従来のコルベシュミット反応温度より極めて低い反応温度において、フェノール性水酸基のパラ位にカルボキシル基を選択的に導入し得ることが明らかとなった。
【0026】
続いて、工程(I)の反応効率向上について、以下検討を行った。
<実施例2>
ナスフラスコに2-t-ブチル-5-メチルフェノール50.0g(0.30mol)、48.8%水酸化カリウム水溶液38.9g(0.34mol)を仕込み、ロータリーエバポレーターで温度180℃、圧力1.2kPaで2時間以上かけて系内の水分を十分に留去した。得られた固体を乾燥した窒素ガス雰囲気下で乳鉢により粉砕し、白色粉末として2-t-ブチル-5-メチルフェノールのカリウム塩を59.4g得た。
次いで、四つ口フラスコに、合成した2-t-ブチル-5-メチルフェノールのカリウム塩12.0g(0.06mol)、モレキュラーシーブ4A(ナカライテスク株式会社製)で脱水したジメチルホルムアミド100.1gを仕込み、温度70℃まで昇温し、二酸化炭素を液面に吹き込みながら撹拌し16時間反応を行った。得られた反応終了液の組成を液体クロマトグラフィーによる絶対検量線法にて解析した結果、反応における5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸の選択率は94%であった。
【0027】
<実施例3>
四つ口フラスコに2-t-ブチル-5-メチルフェノール102.5g(0.62mol)、48.8%水酸化カリウム水溶液78.9g(0.69mol)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン204.8g、トルエン153.7gを仕込み、ディーン・スターク装置を備え付けた。次いで撹拌下に温度90℃以上で5時間かけて反応を行い系内の水を十分に留出させた。次いでディーン・スターク装置を留出管に挿げ替え、温度135℃にて系内のトルエンを回収した(トルエン回収率87%)。
回収終了後、系内を70℃まで冷却して、二酸化炭素を液面に吹き込みながら撹拌し26時間反応を行った。得られた反応終了液に撹拌下で水361.3g、35%塩酸水75.9g、シクロヘキサン128.1gを加えると固体が析出した。析出した固体をろ過し、シクロヘキサン160.0gと水160.0gを用いて洗浄・乾燥することで純度95.8%の白色結晶64.1gを得た。転化した2-t-ブチル-5-メチルフェノールに対する収率は73%であり、得られた反応終了液の組成を液体クロマトグラフィーによる絶対検量線法にて解析した結果、反応における5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸の選択率は86%であった。
NMRおよびLC-MSの結果、得られた白色固体は、下記化学構造を有する目的の反応中間体であることを確認した。
【化4】
融点:149.6℃(示差走査熱量測定法による)
分子量:208.26
プロトンNMRの同定結果(400MHz、溶媒:DMSO-d6、内部標準:テトラメチルシラン)
化学シフト(シグナル形状、プロトン数):1.33ppm(s, 9H)、2.41ppm(s,3H)、6.65ppm(s,1H)、7.76ppm(s,1H)、9.99(s,1H、-OH)、12.20(s,1H、-COOH).
【0028】
<実施例4>
四つ口フラスコに2-t-ブチル-5-メチルフェノール20.0g(0.12mol)、48.8%水酸化カリウム水溶液15.4g(0.13mol)、N-メチル-2-ピロリドン60.0g、トルエン45.1gを仕込み、ディーン・スターク装置を備え付けた。次いで撹拌下に温度100℃以上で3.5時間かけて反応を行い系内の水を十分に留出させた。次いでディーン・スターク装置を留出管に挿げ替え、温度135℃にて系内のトルエンを回収した(トルエン回収率87%)。
回収終了後、系内を70℃まで冷却して、二酸化炭素を液面に吹き込みながら撹拌し13時間反応を行った。得られた反応終了液の組成を液体クロマトグラフィーによる絶対検量線法にて解析した結果、反応における5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸の選択率は91%であった。
【0029】
<実施例5>
四つ口フラスコに参考例1で得た2-t-ブチル-5-メチルフェノールのカリウム塩24.1g(0.12mol)、2-t-ブチル-5-メチルフェノール19.6g(0.12mol)、モレキュラーシーブ4A(ナカライテスク株式会社製)で脱水したジメチルホルムアミド48.4gを仕込み、温度70℃まで昇温し、二酸化炭素を液面に吹き込みながら撹拌し5時間反応を行った。得られた反応終了液の組成を液体クロマトグラフィーによる絶対検量線法にて解析した結果、反応における5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸の選択率は91%であった。
【0030】
<実施例6>
四つ口フラスコに参考例1で得た2-t-ブチル-5-メチルフェノールのカリウム塩20.3g(0.10mol)、モレキュラーシーブ4A(ナカライテスク株式会社製)で脱水したジメチルスルホキシド40.5gを仕込み、温度70℃まで昇温し、二酸化炭素を液面に吹き込みながら撹拌し23時間反応を行った。得られた反応終了液の組成を液体クロマトグラフィーによる絶対検量線法にて解析した結果、反応における5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸の選択率は99%であった。
【0031】
<比較例2>
参考例1と同様の方法で得たm-クレゾールのカリウム塩12.0g(0.08mol)、モレキュラーシーブ4A(ナカライテスク株式会社製)で脱水したジメチルホルムアミド100.0gを仕込み、二酸化炭素を吹き込みながら90℃で7時間反応を行った。得られた反応終了液の組成を液体クロマトグラフィーによる絶対検量線法にて解析した結果、4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸の選択率は38%であった。また、4-メチルサリチル酸の選択率は62%であり、原料転化率は32%であった。
【0032】
<反応効率向上検討に関する考察>
上記実施例2~6の結果により、出発原料として2-t-ブチル-5-メチルフェノールを用いて、かつ、非プロトン性極性溶媒中においてコルベシュミット反応を行うと、従来のコルベシュミット反応温度より極めて低い温度において、フェノール性水酸基のパラ位にカルボキシル基が選択的に導入された5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸を選択率は80%以上と高選択率において得られることが確認された。
これに対して、比較例2の結果より、出発原料としてm-クレゾール(3-メチルフェノール)を用いて、かつ、非プロトン性極性溶媒中においてコルベシュミット反応を行うと、フェノール性水酸基のパラ位にカルボキシル基が導入された4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸が生成するものの、その選択率は38%と低いものであることが確認された。フェノール性水酸基のオルト位にカルボキシル基が導入された4-メチルサリチル酸の選択率は62%と、パラ位の選択性を大きく上回るものであり、しかも、原料転化率は32%と低く、目的とする4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸を得る製造方法としては、全く実用的ではないことが明らかとなった。
【0033】
本発明の工程(II)を行った。
<実施例7:工程(II)>
4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸の合成
上記実施例3で得られた中間体5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸64.1g(0.31mol)をトルエン638.8gに溶解させ、無水塩化アルミニウム(III)122.8g(0.92mol)を添加し40℃で16時間反応させた。そこに氷浴下で水462.3gを加えると橙色のゲル状反応液となる。次いで35%塩酸水63.8gを添加することで薄茶色の固体として粗目的物が析出する。析出した粗目的物をろ過によって回収し、メタノールと水による精製を行うことによって白色結晶として純度99.5%の4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸を得た。5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸に対する収率82%であった。
【0034】
上記実施例1~7に具体的に示すように、本発明の製造方法によれば、従来公知のコルベシュミット反応に比べて、非常に温和な反応条件において4-ヒドロキシ-2-メチル安息香酸を選択的に効率よく得ることができるため、工業的な製造方法としては非常に有利な方法であることが明らかとなった。
しかも、本発明の工程(I)の反応溶媒として、非プロトン性極性溶媒を使用することにより、反応効率がより向上するため、工業的な製造方法として非常に有用であることも確認された。