(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】磁性塗料、磁性シート、及び金属対応タグ
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20240423BHJP
C09D 5/23 20060101ALI20240423BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240423BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20240423BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20240423BHJP
C09D 167/00 20060101ALI20240423BHJP
C09D 153/02 20060101ALI20240423BHJP
H01F 1/06 20060101ALI20240423BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20240423BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/23
C09D7/61
C09D163/00
C09D175/04
C09D167/00
C09D153/02
H01F1/06
H01F1/147
H05K9/00 X
(21)【出願番号】P 2020004609
(22)【出願日】2020-01-15
【審査請求日】2022-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000224123
【氏名又は名称】藤倉化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001782
【氏名又は名称】弁理士法人ライトハウス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅 武
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-272608(JP,A)
【文献】特開2014-146698(JP,A)
【文献】特開2007-295558(JP,A)
【文献】特開2008-021991(JP,A)
【文献】特開2007-257614(JP,A)
【文献】特開2003-142871(JP,A)
【文献】国際公開第2008/136391(WO,A1)
【文献】特開2010-72957(JP,A)
【文献】特開2010-113849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00- 10/00
C09D101/00-201/10
H01F 1/12- 1/38
H01F 1/44
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性フィラー、及びバインダー樹脂を含む磁性塗料であって、
磁性フィラーがFe-Cr合金であり、
磁性フィラーとしてのFe-Cr合金とバインダーの固形分の質量比(Fe-Cr合金の質量/バインダーの固形分の質量)が70/30~95/5であり、
Fe-Cr合金の長径が1~200μmであり、
Fe-Cr合金の短径が1~100μmであり、
Fe-Cr合金のアスペクト比が5~40であり、
該磁性塗料から形成される磁性シートにおいて、860MHz~960MHzにおける複素比透磁率の損失係数tanδが0.3以下であり、実数部μ’が5以上7以下である磁性塗料。
【請求項2】
磁性フィラー、及びバインダー樹脂を含む磁性塗料であって、
磁性フィラーがFe-Cr合金であり、
磁性フィラー
としてのFe-Cr合金とバインダーの固形分の質量比(
Fe-Cr合金の質
量/バインダーの固形分の質量)が70/30~95/5であり、
Fe-Cr合金の長径が1~200μmであり、
Fe-Cr合金の短径が1~100μmであり、
Fe-Cr合金のアスペクト比が5~40であり、
バインダー樹脂が、スチレン-ブタジエンブロック共重合体のエポキシ化物であ
り、
該磁性塗料から形成される磁性シートにおいて、860MHz~960MHzにおける複素比透磁率の損失係数tanδが0.3以下であり、実数部μ’が5以上である磁性塗料。
【請求項3】
バインダー樹脂が、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、及びポリエステル樹脂からなる群より選ばれる1種以上のバインダー樹脂である、
請求項1に記載の磁性塗料。
【請求項4】
エポキシ樹脂が、スチレン-ブタジエンブロック共重合体のエポキシ化物である、
請求項3に記載の磁性塗料。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載の磁性塗料から形成される磁性シート。
【請求項6】
膜厚が50~500μmである、
請求項
5に記載の磁性シート。
【請求項7】
請求項
5又は
6に記載の磁性シートと、無線通信が可能なタグとを備える金属対応タグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UHF帯の電波に対応する磁性塗料、磁性シート、及び金属対応タグに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、商品の製造、販売、在庫管理の効率化のために、RFID(Radio Frequency Identification)タグリーダライタ(以下、「RFIDスキャナ」という)によって、RFIDタグに書き込まれている商品の識別情報を読み取る方法が用いられている。この方法では、情報の送受信がUHF帯の電波により行われるため、非接触で、比較的長い距離の情報の送受信が可能となる。
【0003】
しかしながら、RFIDタグは、金属や水分と近接していると情報の送受信ができないという問題がある。これは、UHF帯の電波が金属によって反射されること、また、UHF帯の電波が水分に吸収されることが原因と考えられている。
【0004】
この問題を解決するために、現在、金属製の商品(アルミパウチのお菓子など)や水分を多く含む商品(ペットボトルの水など)にRFIDタグを付す場合には、RFIDタグと商品の間に、絶縁体のスペーサーを設けることが行われている。
【0005】
しかし、絶縁体のスペーサーは数mmの厚みがあるため、RFIDタグがかさばって商品スペースが増加する、また、商品の見た目が悪くなるという問題が生じている。
【0006】
ところで、HF帯の電波に対応する磁気シールド塗料は以前から存在しており、これによれば、厚さ200μmの磁気シールド材を得ることができる(特許文献1参照)。しかしながら、この磁気シールド材はHF帯の電波にしか対応しておらず、UHF帯の電波には対応していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決することを目的としたものである。すなわち、本発明は、UHF帯の電波に対して優れた磁気シールド特性を有し、流通工程に支障のない磁性塗料、磁性シート、及び金属対応タグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、上記目的は[1]~[9]を提供することにより達成される。
[1]磁性フィラー、及びバインダー樹脂を含む磁性塗料であって、磁性フィラーがFe-Cr合金であり、該磁性塗料から形成される磁性シートにおいて、860MHz~960MHzにおける複素比透磁率の損失係数tanδが0.3以下であり、実数部μ’が5以上である磁性塗料;
[2]磁性フィラー、及びバインダー樹脂を含む磁性塗料であって、磁性フィラーがFe-Cr合金であり、磁性フィラーとバインダーの固形分の質量比(磁性フィラーの質量比/バインダーの固形分の質量)が70/30~95/5である磁性塗料;
[3]バインダー樹脂が、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、及びポリエステル樹脂からなる群より選ばれる1種以上のバインダー樹脂である、前記[1]又は[2]の磁性塗料;
[4]エポキシ樹脂が、スチレン-ブタジエンブロック共重合体のエポキシ化物である、前記[3]の磁性塗料;
[5]磁性フィラーとバインダーの固形分の質量比(磁性フィラーの質量/バインダーの固形分の質量)が70/30~95/5である、前記[1]、[3]、及び[4]の磁性塗料;
[6]磁性フィラーのアスペクト比が5~40である、前記[1]~[5]のいずれかの磁性塗料;
[7]前記[1]~[6]のいずれかの磁性塗料から形成される磁性シート;
[8]膜厚が50~500μmである、前記[7]の磁性シート;
[9]前記[7]又は[8]の磁性シートと、無線通信が可能なタグとを備える金属対応タグ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、UHF帯の電波に対して優れた磁気シールド特性を有し、流通工程に支障のない磁性塗料、磁性シート、及び金属対応タグを提供することができる。また、磁性塗料は、ラベルプリントにも用いることができるため、容易に金属対応タグを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に用いられる磁性フィラーの表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した写真である。
【
図2】本発明の磁性シートの膜厚方向の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面等を用いて本発明の実施の形態について説明をするが、本発明の趣旨に反しない限り、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0013】
(磁性塗料)
まず、本発明の磁性塗料について説明をする。本発明の磁性塗料は、少なくとも、以下に挙げる磁性フィラー、及びバインダー樹脂を含むものである。
【0014】
a)磁性フィラー
本発明の磁性フィラーの材質は、Fe-Cr合金である。Fe-Cr合金の磁性フィラーを用いることにより、本発明の磁性塗料から形成される磁性シートが、UHF帯の電波に対して優れた磁気シールド特性を有するものとなる。
【0015】
図1は、本発明の磁性フィラーの表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した写真である。写真にて示されるように、磁性フィラーの形状としては、偏平状又は針状のものを用いる。このような形状の磁性フィラーを用いることで、本発明の磁性塗料から形成される磁性シートの平面方向に磁性フィラーが配向しやすくなり、本発明の磁性塗料から形成される磁性シートが、UHF帯の電波に対して優れた磁気シールド特性を有するものとなる。なお、扁平状とは、例えば、球状や直方体等の立体形状のものを一方向で押し潰したような形状であり、板状、鱗片状、薄膜状等の形状も含む概念である。また、針状とは、一方向に直線状に延びる細長い形状をいう。
【0016】
磁性フィラーの厚さは、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、3μm以下であることがさらに好ましい。また、磁性フィラーの厚さは、0.5μm以上であることが好ましく、0.7μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましい。磁性フィラーの厚さが上記範囲内にあることで、本発明の磁性塗料から形成される磁性シートの平面方向に磁性フィラーが配向しやすくなり、本発明の磁性塗料から形成される磁性シートがUHF帯の電波に対して優れた磁気シールド特性を有するものとなる。
【0017】
また、磁性フィラーの長径は、200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。また、磁性フィラーの長径は、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。磁性フィラーの長径が上記範囲内にあることで、本発明の磁性塗料から形成される磁性シートの平面方向に磁性フィラーが配向しやすくなり、本発明の磁性塗料から形成される磁性シートがUHF帯の電波に対して優れた磁気シールド特性を有するものとなる。
【0018】
さらに、磁性フィラーの短径は、100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。また、磁性フィラーの短径は、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。磁性フィラーの短径が上記範囲内にあることで、本発明の磁性塗料から形成される磁性シートの平面方向に磁性フィラーが配向しやすくなり、本発明の磁性塗料から形成される磁性シートがUHF帯の電波に対して優れた磁気シールド特性を有するものとなる。
【0019】
磁性フィラーのアスペクト比は、40以下であることが好ましく、35以下であることがより好ましく、30以下であることがさらに好ましい。また、磁性フィラーのアスペクト比は、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、15以上であることがさらに好ましい。磁性フィラーのアスペクト比が上記範囲内にあることで、本発明の磁性塗料から形成される磁性シートの平面方向に磁性フィラーが配向しやすくなり、本発明の磁性塗料から形成される磁性シートがUHF帯の電波に対して優れた磁気シールド特性を有するものとなる。ここで、アスペクト比とは、磁性フィラーの長径を平均厚さで除したものをいう。
【0020】
b)バインダー樹脂
本発明のバインダー樹脂は、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、及びポリエステル樹脂からなる群より選ばれる1種以上のバインダー樹脂である。これらの樹脂の中でも、エポキシ樹脂が好ましく、さらに、スチレン-ブタジエンブロック共重合体のエポキシ化物が特に好ましい。これらの樹脂を用いることで、塗料が塗布面への密着性に優れたものとなる。また、これらの樹脂を用いることで、本発明の磁性塗料から形成される磁性シートが柔軟性に優れたものとなると同時に、UHF帯の電波に対して優れた磁気シールド特性を有するものとなる。
【0021】
エポキシ樹脂は、例えば、プレポリマーと硬化剤を混合することにより得ることができる。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エステル骨格を有する脂環式エポキシ樹脂、シクロヘキサン型エポキシ樹脂、シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、及びブタジエン構造を有するエポキシ樹脂などが挙げられる。中でも、本発明の磁性塗料から形成される磁性シートの平面方向に磁性フィラーが配向しやすくなり、本発明の磁性塗料から形成される磁性シートがUHF帯の電波に対して優れた磁気シールド特性を有するものとなりやすいという点で、ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂が好ましい。
【0022】
ウレタン樹脂は、ポリオールとポリイソシアネート化合物とを反応させることにより得られる。ウレタン樹脂としては、例えば、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタンが挙げられる。
【0023】
ポリエーテル系ポリウレタンは、ポリエーテルポリオールとポリイソシアネート化合物との反応物である。ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。
【0024】
ポリカーボネート系ポリウレタンは、ポリカーボネートポリオールとポリイソシアネート化合物との反応物である。ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ジオール(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、ネオペンチルグリコール等)と、カーボネート(ジメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、ホスゲン等)とを反応させて得られるポリカーボネートジオールなどが挙げられる。
【0025】
ポリエステル系ポリウレタンは、ポリエステルポリオールとポリイソシアネート化合物との反応物である。ポリエステルポリオールとしては、例えば、ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸等)と、多価アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等)とを反応させて得られるものなどが挙げられる。
【0026】
ポリイソシアネート化合物としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネートの3量体、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0027】
c)磁性フィラーとバインダーの固形分の質量比
本発明の磁性塗料は、磁性フィラーとバインダーの固形分の質量比(磁性フィラーの質量/バインダーの固形分の質量)が70/30以上であることが好ましく、75/25以上であることがより好ましく、80/20以上であることがさらに好ましい。また、磁性フィラーとバインダーの固形分の質量比(磁性フィラーの質量/バインダーの固形分の質量)は、95/5以下であることが好ましく、90/10以下であることがより好ましく、85/15以下であることがさらに好ましい。磁性フィラーとバインダーの固形分の質量比(磁性フィラーの質量/バインダーの固形分の質量)が上記範囲内にあることで、磁性塗料が取り扱い性に優れたものとなる。また、磁性フィラーとバインダーの固形分の質量比(磁性フィラーの質量/バインダーの固形分の質量)が上記範囲内にあることで、本発明の磁性塗料から形成される磁性シートが柔軟性に優れるとともに、UHF帯の電波に対して優れた磁気シールド特性を有するものとなる。
【0028】
d)溶媒
本発明の磁性塗料は、溶媒として有機溶剤を用いることが好ましい。有機溶剤としては、例えば、トルエン、メチルエチルケトン、イソプロパノール、酢酸ブチル、酢酸エチル、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトールアセテート、キシレンなどが用いられる。中でも、乾燥性および塗布作業性の観点から、トルエン、メチルエチルケトン、イソプロパノールが好ましい。
【0029】
磁性塗料の溶媒の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましい。また、磁性塗料の溶媒の含有量は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましい。磁性塗料の溶媒の含有量が上記範囲内にあることで、磁性塗料が取り扱い性に優れたものとなる。また、磁性塗料の溶媒の含有量が上記範囲内にあることで、本発明の磁性塗料から形成される磁性シートが柔軟性に優れるとともに、UHF帯の電波に対して優れた磁気シールド特性を有するものとなる。
【0030】
e)その他
また、本発明の磁性塗料には、磁性フィラー、バインダー樹脂、有機溶剤の他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、分散剤、消泡剤、顔料、充填剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、などの任意の成分が含まれていてもよい。
【0031】
磁性塗料の粘度は、500dPa・s以下であることが好ましく、300dPa・s以下であることがより好ましい。また、磁性塗料の粘度は、1dPa・s以上であることが好ましく、5dPa・s以上であることがより好ましい。磁性塗料の粘度が上記範囲内にあることで、磁性塗料が取り扱い性に優れたものとなる。また、磁性塗料の溶媒の含有量が上記範囲内にあることで、本発明の磁性塗料から形成される磁性シートが柔軟性に優れるとともに、UHF帯の電波に対して優れた磁気シールド特性を有するものとなる。なお、磁性塗料の粘度は、有機溶剤の含有量を調整することなどにより、調整することができる。
【0032】
磁性塗料の不揮発分の含有量は、塗料の全量に対して、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。また、磁性塗料の不揮発分の含有量は、45質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。磁性塗料の不揮発分の含有量が上記範囲内にあることで、磁性塗料が取り扱い性に優れたものとなる。また、磁性塗料の溶媒の含有量が上記範囲内にあることで、本発明の磁性塗料から形成される磁性シートが柔軟性に優れるとともに、UHF帯の電波に対して優れた磁気シールド特性を有するものとなる。
【0033】
(磁性シート)
本発明の磁性シートは、上記の磁性塗料を、支持体上に塗布して乾燥させることで得られる。塗布に用いる支持体としては、後の工程において磁性塗料を乾燥させる際に、磁性シートを剥離できるものであれば、特に制限はされない。例えば、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンフィルム、テフロン(登録商標)フィルムなどのプラスチックフィルム、シリコン処理された剥離フィルム、離型処理が施された離型フィルム等が挙げられる。
【0034】
支持体への磁性塗料の塗布は、ロール・トゥ・ロール方式等の公知の方法により、支持体を搬送しながら行なうことが好ましい。磁性塗料の塗布方法としては、特に制限されず、例えば、カーテンコータ、グラビアコータ、ドクターブレード、ナイフコータ等のフィルム状支持体に塗料を塗布する公知の方法を用いることができる。
【0035】
磁性塗料の塗布後の乾燥方法は特に限定されない。例えば、常温で乾燥させる、熱風乾燥炉により乾燥させるなどの、公知の方法を用いることができる。ただし、磁性シートに含まれる磁性フィラーが緩やかに配向するためには、3℃/minの温度勾配で乾燥させることが好ましいと考えられる。
【0036】
図2は、本発明の磁性シートの膜厚方向の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した断面写真である。断面写真に示されるように、磁性シートに含まれる磁性フィラーは緩やかに配向しているため、本発明の磁性シートはUHF帯の電波に対して優れた磁気シールド特性を有するものとなる。
【0037】
磁性塗料は、乾燥後の磁性シートの膜厚が、500μm以下となるように塗布することが好ましく、300μm以下となるように塗布することが好ましい。また、乾燥後の磁性シートの膜厚が、50μm以上となるように塗布することが好ましく、100μm以上となるように塗布することがより好ましい。乾燥後の磁性シートの膜厚が上記範囲内にあることで、磁性シートがUHF帯の電波に対して優れた磁気シールド特性を有するものとなる。また、乾燥後の磁性シートの膜厚が上記範囲内にあることで、磁性シートをRFIDタグに付しても、商品の流通工程に支障をきたすことがなくなる。
【0038】
本発明の磁性塗料から得られる磁性シートの860M~960MHzの周波数帯域における複素比透磁率の損失係数tanδ(μ’/μ”)は、0.3以下であることが好ましく、0.28以下であることがより好ましい。また、本発明の磁性塗料から得られる磁性シートの860M~960MHzの周波数帯域における複素比透磁率の損失係数tanδ(μ’/μ”)は、0.05以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましい。磁性シートの860M~960MHzの周波数帯域における複素比透磁率の損失係数tanδ(μ’/μ”)が上記範囲内にあることで、磁性シートがUHF帯の電波に対して優れた磁気シールド特性を有するものとなる。磁性シートの860M~960MHzの周波数帯域における複素比透磁率の損失係数tanδ(μ’/μ”)を上記範囲内とするためには、磁性フィラーの材質は、Fe-Cr合金であることが好ましい。また、磁性シートの860M~960MHzの周波数帯域における複素比透磁率の損失係数tanδ(μ’/μ”)を上記範囲内とするためには、磁性フィラーとバインダーの固形分の質量比(磁性フィラーの質量/バインダーの固形分の質量)が70/30以上であることが好ましく、75/25以上であることがより好ましく、80/20以上であることがさらに好ましい。さらに、磁性シートの860M~960MHzの周波数帯域における複素比透磁率の損失係数tanδ(μ’/μ”)を上記範囲内とするためには、磁性フィラーとバインダーの固形分の質量比(磁性フィラーの質量/バインダーの固形分の質量)が95/5以下であることが好ましく、90/10以下であることがより好ましく、85/15以下であることがさらに好ましい。
【0039】
本発明の磁性シートの860M~960MHzの周波数帯域における複素比透磁率の実数部μ’は、5.0以上であることが好ましく、5.2以上であることがより好ましい。また、本発明の磁性シートの860M~960MHzの周波数帯域における複素比透磁率の実数部μ’は、7.0以下であることが好ましく、6.0以下であることがより好ましい。磁性シートの860M~960MHzの周波数帯域における複素比透磁率の実数部μ’が上記範囲内にあることで、磁性シートがUHF帯の電波に対して優れた磁気シールド特性を有するものとなる。磁性シートの860M~960MHzの周波数帯域における複素比透磁率の実数部μ’を上記範囲内とするためには、磁性フィラーの材質は、Fe-Cr合金であることが好ましい。また、磁性シートの860M~960MHzの周波数帯域における複素比透磁率の実数部μ’を上記範囲内とするためには、磁性フィラーとバインダーの固形分の質量比(磁性フィラーの質量/バインダーの固形分の質量)が70/30以上であることが好ましく、75/25以上であることがより好ましく、80/20以上であることがさらに好ましい。さらに、磁性シートの860M~960MHzの周波数帯域における複素比透磁率の実数部μ’を上記範囲内とするためには、磁性フィラーとバインダーの固形分の質量比(磁性フィラーの質量/バインダーの固形分の質量)が95/5以下であることが好ましく、90/10以下であることがより好ましく、85/15以下であることがさらに好ましい。
【0040】
(金属対応タグ)
本発明の金属対応タグは、上記の磁性シートが、RFIDタグに隣接するように設置されているものをいう。そして、本発明の金属対応タグが、RFIDタグと金属製の商品の間に磁性シートが位置するように金属製の商品に備えられるることによって、RFIDスキャナがRFIDタグの情報を読み取ることが可能となる。RFIDタグの種類は特に制限されず、従来公知のものを用いることができる。また、上記の磁性塗料を予め商品のラベルにプリントしておき、その上にRFIDタグを設置することでも、RFIDスキャナがRFIDタグの情報を読み取ることが可能となる。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例等により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されない。
【0042】
実施例1~9、及び比較例1~4で得られた磁性シートにおいて、以下の方法で複素比透磁率を測定し、実施例1~9、及び比較例1~4で得られた金属対応タグにおいて、以下の方法で金属対応タグの読み取り評価実験を行った。
【0043】
(複素比透磁率の測定方法)
磁性シートに対して、RFインピーダンスマテリアルアナライザー装置(アジデントテクノロジー株式会社製、E-4991A)を用いて、1MHz~1GHzの周波数帯域における複素比透磁率の実数部μ’、虚部μ”、及び損失係数tanδ(μ’/μ”)を測定した。
【0044】
(金属対応タグの読み取り評価実験)
磁性シートがRFIDタグとステンレス片(SUS304製)の間に位置するように、ステンレス片(SUS304製)に金属対応タグを設置した。そして、RFIDスキャナを用いて、0.5m離れた位置から、金属対応タグ中のRFIDタグの情報の読み取りが可能か否かを確認した。RFIDスキャナと金属対応タグの距離を3.5mまで離していき、金属対応タグ中のRFIDタグの情報の読み取りが可能であった距離の最大値を金属対応タグの読み取り評価結果として記録した。ただし、0.5m離れた位置からの金属対応タグ中のRFIDタグの情報の読み取りが不可能であった場合は、金属対応タグの読み取り評価結果を0mとした。
【0045】
(実施例1)
磁性フィラーとしてFe-Cr合金(山陽特殊製鋼株式会社製、「FKTE231」)85.0質量部、バインダー樹脂としてスチレン-ブタジエンブロック共重合体のエポキシ化物(株式会社ダイセル製、「エポフレンド AT501」)4.5質量部、有機溶剤としてトルエン10.2質量部、分散剤としてリン酸ポリエステル系分散剤(ビックケミ-ジャパン株式会社製、「BYK-111」)0.2質量部、消泡剤として非シリコーン系消泡剤(ビックケミ-ジャパン株式会社製、「BYK-1752」)0.1質量部を混合し、磁性塗料を得た。
【0046】
得られた磁性塗料を、ドクターブレード法によってテフロン(登録商標)シート上に塗布し、60℃で30分間乾燥させることで磁性シートを得た。得られた磁性シートの膜厚は200μmであった。
【0047】
得られた磁性シートを、RFIDタグ(エイリアンテクノロジー社製、「ALN-9835」)の裏面に両面テープを用いて貼付して、金属対応タグを得た。
【0048】
得られた磁性シートの複素比透磁率、及び得られた金属対応タグの読み取り評価結果を表1に示す。
【0049】
(実施例2)
磁性フィラーとしてFe-Cr合金(山陽特殊製鋼株式会社製、「FKTE231」)55.2質量部、バインダー樹脂としてスチレン-ブタジエンブロック共重合体のエポキシ化物(株式会社ダイセル製、「エポフレンド AT501」)9.9質量部、有機溶剤としてトルエン22.6質量部、分散剤としてリン酸ポリエステル系分散剤(ビックケミ-ジャパン株式会社製、「BYK-111」)0.4質量部、及び消泡剤として非シリコーン系消泡剤(ビックケミ-ジャパン株式会社製、「BYK-1752」)0.2質量部を混合し、磁性塗料を得た。
【0050】
得られた磁性塗料を用いて、実施例1と同様の方法で磁性シート、及び金属対応タグを作製した。得られた磁性シートの複素比透磁率、及び得られた金属対応タグの読み取り評価結果を表1に示す。
【0051】
(実施例3)
磁性フィラーとしてFe-Cr合金(山陽特殊製鋼株式会社製、「FKTE231」)41.1質量部、バインダー樹脂としてスチレン-ブタジエンブロック共重合体のエポキシ化物(株式会社ダイセル製、「エポフレンド AT501」)17.6質量部、有機溶剤としてトルエン40.2質量部、分散剤としてリン酸ポリエステル系分散剤(ビックケミ-ジャパン株式会社製、「BYK-111」)0.8質量部、及び消泡剤として非シリコーン系消泡剤(ビックケミ-ジャパン株式会社製、「BYK-1752」)0.4質量部を混合し、磁性塗料を得た。
【0052】
得られた磁性塗料を用いて、実施例1と同様の方法で磁性シート、及び金属対応タグを作製した。得られた磁性シートの複素比透磁率、及び得られた金属対応タグの読み取り評価結果を表1に示す。
【0053】
(実施例4)
バインダー樹脂として、株式会社ダイセル製のスチレン-ブタジエンブロック共重合体のエポキシ化物「エポフレンド CT310」を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で磁性塗料を得た。
【0054】
得られた磁性塗料を用いて、実施例1と同様の方法で磁性シート、及び金属対応タグを作製した。得られた磁性シートの複素比透磁率、及び得られた金属対応タグの読み取り評価結果を表1に示す。
【0055】
(実施例5)
バインダー樹脂として、株式会社ダイセル製のスチレン-ブタジエンブロック共重合体のエポキシ化物「エポフレンド CT310」を用いたこと以外は、実施例2と同様の方法で磁性塗料を得た。
【0056】
得られた磁性塗料を用いて、実施例1と同様の方法で磁性シート、及び金属対応タグを作製した。得られた磁性シートの複素比透磁率、及び得られた金属対応タグの読み取り評価結果を表1に示す。
【0057】
(実施例6)
バインダー樹脂として、株式会社ダイセル製のスチレン-ブタジエンブロック共重合体のエポキシ化物「エポフレンド CT310」を用いたこと以外は、実施例3と同様の方法で磁性塗料を得た。
【0058】
得られた磁性塗料を用いて、実施例1と同様の方法で磁性シート、及び金属対応タグを作製した。得られた磁性シートの複素比透磁率、及び得られた金属対応タグの読み取り評価結果を表1に示す。
【0059】
(実施例7)
バインダー樹脂としてポリエステル系ポリウレタン(荒川化学工業株式会社製、「ユリアーノ2456」、重量平均分子量30000)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で磁性塗料を得た。
【0060】
得られた磁性塗料を用いて、実施例1と同様の方法で磁性シート、及び金属対応タグを作製した。得られた磁性シートの複素比透磁率、及び得られた金属対応タグの読み取り評価結果を表1に示す。
【0061】
(実施例8)
バインダー樹脂としてポリエステル系ポリウレタン(荒川化学工業株式会社製、「ユリアーノ2456」、重量平均分子量30000)を用いたこと以外は、実施例2と同様の方法で磁性塗料を得た。
【0062】
得られた磁性塗料を用いて、実施例1と同様の方法で磁性シート、及び金属対応タグを作製した。得られた磁性シートの複素比透磁率、及び得られた金属対応タグの読み取り評価結果を表1に示す。
【0063】
(実施例9)
バインダー樹脂としてポリエステル系ポリウレタン(荒川化学工業株式会社製、「ユリアーノ2456」、重量平均分子量30000)を用いたこと以外は、実施例3と同様の方法で磁性塗料を得た。
【0064】
得られた磁性塗料を用いて、実施例1と同様の方法で磁性シート、及び金属対応タグを作製した。得られた磁性シートの複素比透磁率、及び得られた金属対応タグの読み取り評価結果を表1に示す。
【0065】
(比較例1)
磁性フィラーとしてセンダスト(山陽特殊製鋼株式会社製、「FME3D-AH」)38.3質量部、バインダー樹脂としてポリエステル系ポリウレタン(荒川化学工業株式会社製、「ユリアーノ2456」、重量平均分子量30000)23.0質量部、有機溶剤としてトルエン38.3質量部、分散剤としてリン酸ポリエステル系分散剤(ビックケミ-ジャパン株式会社製、「BYK-111」)0.3質量部、消泡剤として非シリコーン系消泡剤(ビックケミ-ジャパン株式会社製、「BYK-1752」)0.2質量部を混合し、磁性塗料を得た。
【0066】
得られた磁性塗料を用いて、実施例1と同様の方法で磁性シート、及び金属対応タグを作製した。得られた磁性シートの複素比透磁率、及び得られた金属対応タグの読み取り評価結果を表1に示す。
【0067】
(比較例2)
磁性フィラーとしてFe-Cr合金(山陽特殊製鋼株式会社製、「FKTE231」)30.9質量部、バインダー樹脂としてスチレン-ブタジエンブロック共重合体のエポキシ化物(株式会社ダイセル製、「エポフレンド AT501」)20.6質量部、有機溶剤としてトルエン47.1質量部、分散剤としてリン酸ポリエステル系分散剤(ビックケミ-ジャパン株式会社製、「BYK-111」)0.9質量部、消泡剤として非シリコーン系消泡剤(ビックケミ-ジャパン株式会社製、「BYK-1752」)0.5質量部を混合し、磁性塗料を得た。
【0068】
得られた磁性塗料を用いて、実施例1と同様の方法で磁性シート、及び金属対応タグを作製した。得られた磁性シートの複素比透磁率、及び得られた金属対応タグの読み取り評価結果を表1に示す。
【0069】
(比較例3)
バインダー樹脂として、株式会社ダイセル製のスチレン-ブタジエンブロック共重合体のエポキシ化物「エポフレンド CT310」を用いたこと以外は、比較例2と同様の方法で磁性塗料を得た。
【0070】
得られた磁性塗料を用いて、実施例1と同様の方法で磁性シート、及び金属対応タグを作製した。得られた磁性シートの複素比透磁率、及び得られた金属対応タグの読み取り評価結果を表1に示す。
【0071】
(比較例4)
バインダー樹脂として、荒川化学工業株式会社製のポリエステル系ポリウレタン「ユリアーノ2456」(重量平均分子量30000)を用いたこと以外は、比較例2と同様の方法で磁性塗料を得た。
【0072】
得られた磁性塗料を用いて、実施例1と同様の方法で磁性シート、及び金属対応タグを作製した。得られた磁性シートの複素比透磁率、及び得られた金属対応タグの読み取り評価結果を表1に示す。
【0073】