(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】揮発性有機化合物による模擬汚染土壌の作成方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/24 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
G01N33/24 Z
(21)【出願番号】P 2021010619
(22)【出願日】2021-01-26
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】須網 功二
(72)【発明者】
【氏名】樋口 雄一
(72)【発明者】
【氏名】高畑 陽
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-169162(JP,A)
【文献】特開2003-098054(JP,A)
【文献】特開2006-010708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00-33/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉した状態で揮発性有機化合物の揮発を抑制できる、遠心載荷が可能な遠沈管に、非汚染土壌試料と揮発性有機化合物による汚染水を投入する準備工程、
前記準備工程で作成した試料に遠心載荷を行う一次圧密工程、
上澄み液を除去し、沈殿上に濾材、支持材、載荷材をこの順に重ねる二次圧密準備工程、
前記二次圧密準備工程で作成した試料に遠心載荷を行う二次圧密工程、
を有することを特徴とする揮発性有機化合物による模擬汚染土壌の作成方法。
【請求項2】
前記非汚染土壌試料が、シルトまたは粘土であることを特徴とする請求項
1に記載の揮発性有機化合物による模擬汚染土壌の作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物による模擬汚染土壌の作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工場跡地の再開発などに伴い、揮発性有機化合物や重金属等による土壌汚染事例が顕在化している。
揮発性有機化合物のほとんどは、水より比重が重いため、帯水層の地下深部に浸透しやすい。そして、地盤中に粘土層やシルト層などの透水性の低い層(低透水層)が存在すると、揮発性有機化合物は、低透水層と帯水層との境界部に滞留したり、低透水層に浸透したりする。そして、低透水層に浸透した揮発性有機化合物は、帯水層に対して汚染物質の長期的な供給源となる。そのため、低透水層の汚染の浄化は重要である。
【0003】
土壌中に拡散した揮発性有機化合物を、非掘削(原位置)で浄化する技術として、土壌ガス吸引法、スパージング、揚水(循環)処理法、気液混合抽出法、化学分解法、微生物分解法などが行われている。
【0004】
ここで土質性状や、汚染物質の種類・濃度等の汚染状況は、汚染現場毎に異なる。そのため、実際の汚染現場にどの浄化技術を適用するか、どのような条件で実施するか等を検討するために、事前に適合性試験等の室内試験が行われている。室内試験に用いる供試体としては、汚染現場から採取した実汚染土壌、または、人工的に作成した模擬汚染土壌が用いられている。
実汚染土壌は、採取する位置、深さ等により、土質性状や汚染状況が異なり、同一条件の供試体を確保することが難しい。そのため、十分なパラメータスタディができないという欠点がある。
一方、模擬汚染土壌は、汚染現場近くの非汚染土壌や、汚染現場と同等の土質性状に調整した購入土に、汚染物質を混合・撹拌した後、実汚染土壌と同レベルまで密度を高めるため、ランマ―を用いて突固めたり、上載荷重を与えることにより作成することが多いが、その操作を行う際に土壌中の汚染物質である揮発性有機化合物が揮発するため、所定の汚染濃度を持つ土壌が作ることができなかったり、作成した模擬汚染土壌にばらつきが生じる問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
同等の汚染状況である供試体を再現性良く作成することができる揮発性有機化合物による模擬汚染土壌の作成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題を解決する手段は、以下の通りである。
1.密閉した状態で揮発性有機化合物の揮発を抑制できる、遠心載荷が可能な遠沈管に、非汚染土壌試料と揮発性有機化合物による汚染水を投入する準備工程、
前記準備工程で作成した試料に遠心載荷を行う一次圧密工程、
を有することを特徴とする揮発性有機化合物による模擬汚染土壌の作成方法。
2.さらに、上澄み液を除去し、沈殿上に濾材、支持材、載荷材をこの順に重ねる二次圧密準備工程、
前記二次圧密準備工程で作成した試料に遠心載荷を行う二次圧密工程、
を有することを特徴とする1.に記載の揮発性有機化合物による模擬汚染土壌の作成方法。
3.前記非汚染土壌試料が、シルトまたは粘土であることを特徴とする1.または2.に記載の揮発性有機化合物による模擬汚染土壌の作成方法。
なお、1.2.の工程毎に、揮発防止のため、テフロン(登録商標)コーテイングパッキンを用いて速やかに密栓することが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の模擬汚染土壌の作成方法は、遠心装置を用い、混合する揮発性有機化合物の種類や濃度を変えることによって、汚染条件の異なる模擬汚染土壌を再現性良く作成することができる。本発明の模擬汚染土壌の作成方法は、一次圧密により土圧の小さな浅い地盤、二次圧密により土圧の大きな深い地盤と同等の圧力を加えることができる。非汚染土壌試料としてシルト、または粘土を用いることにより、低透水層の模擬汚染土壌を作成することができる。
本発明の作成方法は、同じ条件の汚染状況を有す汚染土壌を複数作成できるため、得られた模擬汚染土壌を浄化実験に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1で作成した模擬汚染土壌1、2の湿潤密度を示すグラフ。
【
図2】実施例2における模擬汚染土壌を作成時に投入する模擬汚染水濃度と模擬汚染土壌中の汚染物質の土壌含有量の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の模擬汚染土壌の作成方法を、その工程順に沿って説明する。
なお、模擬汚染土壌の作成にあたっては、揮発性有機化合物の揮発防止のため、必要時以外は可能な限り密栓することが好ましい。
・準備工程
まず、使用する遠心装置に応じた大きさの密閉した状態で揮発性有機化合物の揮発を抑制できる遠沈管に、非汚染土壌試料と揮発性有機化合物による汚染水を投入して混合し、必要に応じて振とう等を行い、試料を作成する。
汚染水と非汚染土壌試料との体積比は、非汚染土壌試料の全量が液面下となり、試料作成中における汚染物質の揮発を抑制するため、気相の容量を最小限にすることが好ましい。また、誤差を最小限とするために、土壌を先に計量して遠沈管に加え、揮発性有機塩素化合物を含む汚染水を一定量加えた後に速やかに密栓する。遠沈管は、揮発性有機化合物が吸着しないネジ口を持つガラス製であり、密栓後に揮発性有機塩素化合物の揮発を防ぐため、ネジ式のキャップには試料との接触面にテフロン(登録商標)コーティング(PTFE)を施している内蓋を用いる。
【0010】
非汚染土壌試料は、汚染現場で採取した浄化対象と同質の非汚染土壌や、汚染現場の土質性状等に応じて購入土を使用することができるが、遠心載荷時に材料が分離しないように必要に応じて粒度調整を行う必要がある。これらの中で、シルト、または粘土を用いることが、汚染現場での主たる浄化対象である低透水層を再現することができるため好ましい。
汚染水は、所望の汚染物質、濃度となるように、1つ以上の揮発性有機化合物を加えて作成する。揮発性有機化合物としては、例えば、テトラクロロエチレン(PCE)、トリクロロエチレン(TCE)、シス-1,2-ジクロロエチレン(cis-1,2-DCE)、トランス-1,2-ジクロロエチレン(trans-1,2-DCE)、1,1-ジクロロエチレン(1,1-DCE)、塩化ビニル(VC)、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、四塩化エタン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ベンゼンが挙げられる。揮発性有機化合物は、異なる2種以上を混合して用いることもできる。なお、予め土壌への吸着量を事前に検討して、水溶液に添加する揮発性有機化合物の量を決定する。
【0011】
・一次圧密工程
上記準備工程で作成した試料に、遠心装置を用いて遠心載荷を行う。
遠心装置は、密閉可能で揮発性有機化合物が吸着しない材質の遠沈管が使用できる遠心装置を使用する。遠心装置の回転数と回転半径を調整することにより、所望の大きさの遠心加速度を加えることができる。
この一次圧密工程は、自重による圧密であり、土圧の小さな浅い地盤での汚染土壌を再現した模擬汚染土壌を得ることができる。
【0012】
一次圧密工程を経た模擬汚染土壌に、さらに二次圧密を行うことにより、土圧の大きな深い地盤での汚染土壌を再現した模擬汚染土壌とすることができる。
・二次圧密準備工程
一次圧密工程後に、さらに、上澄み液を除去し、沈殿の上に濾材、支持材、載荷材をこの順に重ね、試料を作成する。
濾材は、土壌が通過せず、二次圧密時に分離する水が通過できるものであればよく、例えば、濾紙、メンブレンフィルター等を用いることができる。
支持材は、その上方に置かれる載荷材が、二次圧密工程で土壌試料中に沈降することなく、荷重を地表面に均一に伝達できる剛性があればよく、例えば、プラスチック製、金属製等の板状部材を用いることができる。また、支持材は、二次圧密時に分離する水が上方に逃げ出せるように溝や孔を有することが好ましい。
載荷材は、二次圧密時の上載荷重である。載荷材としては、粒状であることが、荷重(圧力)の調整が容易であり、また、二次圧密時に分離する水が上方に逃げ出せるため好ましい。また、比重が大きければ、少ない量で載荷することが可能である。このような載荷材としては、例えば、金属球等が挙げられ、鉛球が好ましい。
これらの材は、揮発性有機化合物の揮発を防ぐため、蓋を開封した後に速やかに順に設置して密栓をすることが望ましい。
【0013】
・二次圧密工程
上記二次圧密準備工程で作成した試料に、遠心装置を用いて遠心載荷を行う。
二次圧密工程は、一次圧密工程と同じ遠心装置を用いて実施する。密閉可能で、揮発性有機化合物が吸着しない材質の遠沈管が使用できる遠心装置を使用する。回転数と回転半径を調整することにより、所望の大きさの遠心加速度を加えることができる。
二次圧密工程は、載荷材による圧力が加わる載荷圧密であり、土圧の大きな深い地盤での汚染土壌を再現することができる。
【0014】
その後、上記二次圧密準備工程で設置した載荷材、支持材、濾材を揮発性有機化合物が揮発しないようにすばやく取り除き、必要に応じて、二次圧密工程で分離した上澄み液を除去することにより、土圧の大きな深い地盤に揮発性有機化合物が含浸している状態の汚染土壌を再現した模擬汚染土壌を得ることができる。
【0015】
本発明の作成方法により、所望の土質、汚染状況、密度を考慮した模擬汚染土壌を、再現性良く得ることができる。本発明の作成方法により、所望の汚染状況を再現した多数の模擬汚染土壌を得ることができるため、この模擬汚染土壌を供試体として、様々に条件を振った多数の浄化実験を行うことができ、より好適な方法、条件等の検討を行うことができる。
【実施例】
【0016】
「実施例1」
・準備工程
予め秤量した50ml容遠沈管(材質:硼珪酸ガラス、サイズ直径35mm×長さ105mm)に、土壌試料(市販の黒ぼく土、0.425mmふるい通過試料)20gと、蒸留水40mlとを投入し、撹拌・混合(縦回転振とう機を用いて10rpmで24時間以上振とう)を行った(n=10)。材料投入後は、揮発防止のためテフロン(登録商標)コーテイングパッキン(PTFE)を施したキャップを用いて速やかに密栓した。
・一次圧密工程
高速冷却遠心装置(日立工機株式会社製、CR22G2)を用いて、3000rpmで15分遠心載荷し、模擬汚染土壌1を得た。
次いで、上澄みを除去し、沈殿(模擬汚染土壌1)の重さと高さ(体積)から、模擬汚染土壌1の湿潤密度を算出した。
【0017】
・二次圧密準備工程
沈殿物(模擬汚染土壌1)の上に、濾材(孔径0.45μmのメンブレンフィルター)、支持材(穴を開けたテフロン(登録商標)コーテイングパッキン)、載荷材(直径約3mmの鉛粒、総荷重約150g)をこの順に重ねた。載荷材として比重の大きい鉛玉を用いることによって少ない量で載荷が可能とした。
載荷材、支持材、濾材の設置は、揮発防止のため速やかに行い、テフロン(登録商標)コーテイングパッキン(PTFE)を施したキャップを用いて速やかに密栓した。
・二次圧密工程
一次圧密工程と同じ高速冷却遠心装置を用いて、2500rpmで10分遠心載荷し、模擬汚染土壌2を得た。
次いで、載荷材、支持材、濾材を取り除き、上澄みを除去し、除去後の沈殿(模擬汚染土壌2)の重さと高さ(体積)から、模擬汚染土壌2の湿潤密度を算出した。
載荷材、支持材、濾材の撤去、上澄みを除去、及びコルクボーラーによる土壌採取は、揮発防止のため速やかに行った。
【0018】
模擬汚染土壌1、2の湿潤密度を
図1に示す。
模擬汚染土壌1の湿潤密度の標準偏差は0.0067、模擬汚染土壌2の湿潤密度の標準偏差は0.0127であり、圧密状態がほぼ同様である模擬汚染土壌を得ることができた。二次圧密後の模擬汚染土壌2は、一次圧密後の模擬汚染土壌1よりも高密度となっており、一次圧密で浅い地盤、二次圧密で深い地盤の汚染土壌を再現することができた。
【0019】
「実施例2」
蒸留水に代えて模擬汚染水を用いた以外は、実施例1と同様にして二次圧密まで行なった。試験は、汚染物質として、塩化ビニル(VC)シス-1,2-ジクロロエチレン(cis-1,2-DCE)、トリクロロエチレン(TCE)を用い、異なる3種類の濃度条件で行い、各条件n=2とした。
二次圧密工程後、載荷材、支持材、濾材を取り除き、上澄みを除去し、コルクボーラーを用いてサンプルを採取した。このサンプルからメタノール15mlを用いて汚染物質を抽出し、模擬汚染土壌中の含有量を求めた。
【0020】
結果を表1に示す。また、添加した模擬汚染水の濃度と汚染物質の模擬汚染土壌含有量の関係を
図2に示す。
【0021】
【0022】
同じ条件で作成することで、汚染物質濃度がほぼ同一の模擬汚染土壌を得られることが確認できた。また、
図2に示すとおり、模擬汚染水中の汚染物質濃度と、得られた模擬汚染土壌からの汚染物質抽出量とは、高い相関を示し、模擬汚染水の濃度を調整することにより、様々な汚染濃度の模擬汚染土壌を作成できることが確かめられた。