(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】脱気用中空糸膜モジュールの製造方法及び脱気用中空糸膜モジュール
(51)【国際特許分類】
B01D 63/02 20060101AFI20240423BHJP
B01D 19/00 20060101ALI20240423BHJP
B01D 63/00 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
B01D63/02
B01D19/00 H
B01D63/00 500
B01D63/00 510
(21)【出願番号】P 2021566805
(86)(22)【出願日】2020-08-17
(86)【国際出願番号】 JP2020031005
(87)【国際公開番号】W WO2021131145
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2019235301
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599109906
【氏名又は名称】住友電工ファインポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(72)【発明者】
【氏名】林 文弘
(72)【発明者】
【氏名】室谷 保彦
(72)【発明者】
【氏名】橋本 隆昌
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 良昌
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-189761(JP,A)
【文献】国際公開第2014/024961(WO,A1)
【文献】特開2012-045453(JP,A)
【文献】国際公開第1997/010893(WO,A1)
【文献】実開昭63-168003(JP,U)
【文献】特開2005-230814(JP,A)
【文献】特開2010-94579(JP,A)
【文献】特開2007-77323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
B01D 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン又は変性ポリテトラフルオロエチレンを主成分とする複数本の中空糸膜を有する中空糸膜束と、
上記中空糸膜束を収容する筐体と、
上記中空糸膜束の両端域又は一端域における中空糸膜外面及び筐体内面間がポッティング剤により充填されるポッティング部と
を備えて
おり、液体を上記中空糸膜に透過させて上記液体に溶存する気体を脱気する脱気用中空糸膜モジュールの製造方法であって、
シート状のスペーサを上記中空糸膜束の両端部又は一端部における中空糸膜間の隙間に配置する工程と、
上記配置されたスペーサが埋め込まれるように上記中空糸膜束の両端域又は一端域における中空糸膜外面及び筐体内面間にポッティング剤を充填する工程と
を備えており、
上記ポッティング剤が樹脂、ゴム又はエラストマーを主成分とし、
上記スペーサがネット、不織布、多孔質シート又はフィルムであ
り、
上記中空糸膜における平均外径が0.75mm以下、かつ平均内径が0.3mm以下であり、
上記脱気用中空糸膜モジュールにおける純水の溶存酸素の除去率が50%以上である脱気用中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項2】
上記スペーサが帯状体であり、
上記配置する工程が、
上記スペーサの片面に上記複数本の中空糸膜の両端部又は一端部のみを把持させながら、上記複数本の中空糸膜を並列に配置する工程と、
上記複数本の中空糸膜と上記複数本の中空糸膜の両端部又は一端部に配置されたスペーサとを巻きながら、ロール状の中空糸膜束を形成する工程と
を備えている請求項1に記載の
脱気用中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項3】
液体を中空糸膜に透過させて液体に溶存する気体を脱気する脱気用中空糸膜モジュールであって、
ポリテトラフルオロエチレン又は変性ポリテトラフルオロエチレンを主成分とする複数本の中空糸膜を有する中空糸膜束と、
上記中空糸膜束を収容する筐体と、
上記中空糸膜束の両端域又は一端域における中空糸膜外面及び筐体内面間がポッティング剤により充填されるポッティング部と、
上記中空糸膜束の両端部又は一端部における中空糸膜間の隙間に配置されるシート状のスペーサと
を備えており、
上記ポッティング剤が樹脂、ゴム又はエラストマーを主成分とし、
上記スペーサがネット、不織布、多孔質シート又はフィルムであり、かつポッティング部に埋め込まれて
おり、
上記中空糸膜における平均外径が0.75mm以下、かつ平均内径が0.3mm以下であり、
純水の溶存酸素の除去率が50%以上である脱気用中空糸膜モジュール。
【請求項4】
上記中空糸膜の平均外径に対する上記スペーサの厚さの割合が0.1以上1.0以下である請求項3に記載の
脱気用中空糸膜モジュール。
【請求項5】
上記スペーサの表面自由エネルギーが30mJ/m
2以上50mJ/m
2以下である請求項3又は請求項4に記載の
脱気用中空糸膜モジュール。
【請求項6】
上記スペーサがポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエーテルサルフォン、ポリビニルアルコール、セルロース、ポリエステル、アクリル樹脂又はこれらの組み合わせを主成分とする請求項3、請求項4又は請求項5に記載の
脱気用中空糸膜モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、中空糸膜モジュールの製造方法及び中空糸膜モジュールに関する。
本出願は、2019年12月25日出願の日本出願第2019-235301号に基づく優先権を主張し、上記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
液体中に溶存している酸素等の気体を除去する中空糸膜モジュールは、半導体製造工程、プリンタ、液晶封入工程、薬液製造工程等において用いられている。上記中空糸膜モジュールは、複数本の中空糸膜を束ねた状態で液出入口を備えた筐体内に収容してモジュール化が行われる。中空糸膜モジュールのモジュール化工程においては、複数本の中空糸膜の束を筐体内に収容するとともに、中空糸膜の束の端部側における各中空糸膜間及び中空糸膜と筐体との隙間にポッティング剤を充填して接着固定(ポッティング)を行うことで、ポッティング部を形成する。そして、モジュールの液入口と液出口との間を封止するとともに、このポッティング部によって中空糸膜同士を結束した状態にしている。
【0003】
中空糸膜モジュールを用いる濾過あるいは分離操作においては、圧力がかかる条件下で処理が行われることから、ポッティング剤としては、各中空糸膜間並びに中空糸膜及び筐体間で高い接着性が求められる。従来技術においては、中空糸膜の集束体の少なくとも一方の端部をポリオレフィン系樹脂と石油ワックスからなる混合物の溶融物中に浸漬し、この溶融物を冷却固化することで、モジュールの筐体と中空糸膜とが高い封止及び接着状態で固定された中空糸膜モジュールが提案されている(特開平10-118464号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様に係る中空糸膜モジュールの製造方法は、複数本の中空糸膜を有する中空糸膜束と、上記中空糸膜束を収容する筐体と、上記中空糸膜束の両端域又は一端域における中空糸膜外面及び筐体内面間がポッティング剤により充填されるポッティング部とを備えている中空糸膜モジュールの製造方法であって、シート状のスペーサを上記中空糸膜束の両端部又は一端部における中空糸膜間の隙間に配置する工程と、上記配置されたスペーサが埋め込まれるように上記中空糸膜束の両端域又は一端域における中空糸膜外面及び筐体内面間にポッティング剤を充填する工程とを備えており、上記ポッティング剤が樹脂、ゴム又はエラストマーを主成分とし、上記スペーサがネット、不織布、多孔質シート又はフィルムである。
【0006】
また、本開示の他の態様に係る中空糸膜モジュールは、複数本の中空糸膜を有する中空糸膜束と、上記中空糸膜束を収容する筐体と、上記中空糸膜束の両端域又は一端域における中空糸膜外面及び筐体内面間がポッティング剤により充填されるポッティング部と、上記中空糸膜束の両端部又は一端部における中空糸膜間の隙間に配置されるシート状のスペーサとを備えており、上記ポッティング剤が樹脂、ゴム又はエラストマーを主成分とし、上記スペーサがネット、不織布、多孔質シート又はフィルムであり、かつポッティング部に埋め込まれている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る中空糸膜モジュールを示す模式的縦断面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る中空糸膜を示す模式的斜視図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る中空糸膜モジュールの製造方法を説明するための中空糸膜及びスペーサの模式的斜視図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る中空糸膜モジュールの製造方法を説明するための中空糸膜束の模式的斜視図である。
【
図6】
図6は、他の実施形態に係るスペーサを示す模式的斜視図である。
【
図7】
図7は、他の実施形態に係るスペーサを示す模式的斜視図である。
【
図8】
図8は、他の実施形態に係るスペーサを示す模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
上述のように、中空糸膜束の端部をポッティング剤となる樹脂組成物等の溶融物中に浸漬し、この溶融物を冷却固化することによりポッティング部が形成される。中空糸膜束の中空糸膜間の隙間に上記ポッティング剤を充填させる手段としては、例えば一定間隔に穴を開けた上記樹脂組成物製のプレートに中空糸膜束を差し込んで固定した後に上記プレートを溶融して接着シールする方法や中空糸膜束の端部に樹脂組成物等の溶融物を流し込む方法が挙げられる。しかしながら、上記プレートを溶融する方法の場合、プレートに中空糸膜束を差し込む工程に時間を要するとともに、中空糸膜束の中空糸膜間の隙間に十分にポッティング剤が行き渡らないおそれがある。また、中空糸膜束の端部に樹脂組成物等の溶融物を流し込む方法の場合、中空糸膜間の隙間に十分にポッティング剤が行き渡らせるためには、腰のある太い中空糸膜のみが対象となる。従って、中空糸膜を高密度で充填しながら、ポッティング剤でより確実に接着させ、リークを抑制できる中空糸膜モジュールが求められている。
【0009】
本開示は、このような事情に基づいてなされたものであり、高密度で充填された中空糸膜の接着性及びリーク抑制効果に優れる中空糸膜モジュールの製造方法の提供を目的とする。
【0010】
[本開示の効果]
本開示によれば、高密度で充填された中空糸膜の接着性及びリーク抑制効果に優れる中空糸膜モジュールの製造方法を提供できる。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0012】
本開示の一態様に係る中空糸膜モジュールの製造方法は、複数本の中空糸膜を有する中空糸膜束と、上記中空糸膜束を収容する筐体と、上記中空糸膜束の両端域又は一端域における中空糸膜外面及び筐体内面間がポッティング剤により充填されるポッティング部とを備えている中空糸膜モジュールの製造方法であって、シート状のスペーサを上記中空糸膜束の両端部又は一端部における中空糸膜間の隙間に配置する工程と、上記配置されたスペーサが埋め込まれるように上記中空糸膜束の両端域又は一端域における中空糸膜外面及び筐体内面間にポッティング剤を充填する工程とを備えており、上記ポッティング剤が樹脂、ゴム又はエラストマーを主成分とし、上記スペーサがネット、不織布、多孔質シート又はフィルムである。
【0013】
当該中空糸膜モジュールの製造方法によれば、シート状のスペーサが上記中空糸膜束の両端部又は一端部における中空糸膜間の隙間に配置される。そして、配置されたスペーサが埋め込まれるように上記中空糸膜束の両端域又は一端域における中空糸膜外面及び筐体内面間にポッティング剤を充填する。また、上記スペーサがネット、不織布、多孔質シート又はフィルムであることで、ポッティング剤がスペーサを伝って流れやすくなる。そのため、中空糸膜モジュールにおける中空糸膜の接着性及びリーク抑制効果をより向上できる。従って、中空糸膜モジュールの製造方法は、高密度で充填された中空糸膜の接着性及びリーク抑制効果に優れる中空糸膜モジュールを製造できる。「埋め込まれる」とは、スペーサがポッティング剤によって囲まれていることをいう。
【0014】
ここで、「主成分」とは、質量換算で最も含有割合の大きい成分をいい、例えば含有割合が50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは95質量%以上の成分をいう。
【0015】
当該中空糸膜モジュールの製造方法は、上記スペーサが帯状体であり、上記配置する工程が、上記スペーサの片面に上記複数本の中空糸膜の両端部又は一端部のみを把持させながら、上記複数本の中空糸膜を並列に配置する工程と、上記複数本の中空糸膜と上記複数本の中空糸膜の両端部又は一端部に配置されたスペーサとを巻きながら、ロール状の中空糸膜束を形成する工程とを備えていることが好ましい。当該中空糸膜モジュールの製造方法は、上記スペーサの片面に上記複数本の中空糸膜の端部を並列に接着し、上記複数本の中空糸膜及び中空糸膜の両端部又は一端部に配置されたスペーサを巻きながら、ロール状の中空糸膜束が形成される。このようにポッティング剤との濡れ性が良好なスペーサが、ロール状の中空糸膜束に挿入されているので、スペーサによる毛細管現象により中空糸膜束の中空糸膜間の隙間に十分にポッティング剤を行き渡らせることができる。従って、中空糸膜モジュールの製造方法は、高密度で充填された中空糸膜の接着性及びリーク抑制効果に優れる中空糸膜モジュールを製造できる。
【0016】
本開示の他の態様に係る中空糸膜モジュールは、複数本の中空糸膜を有する中空糸膜束と、上記中空糸膜束を収容する筐体と、上記中空糸膜束の両端域又は一端域における中空糸膜外面及び筐体内面間がポッティング剤により充填されるポッティング部と、上記中空糸膜束の両端部又は一端部における中空糸膜間の隙間に配置されるシート状のスペーサとを備えており、上記ポッティング剤が樹脂、ゴム又はエラストマーを主成分とし、上記スペーサがネット、不織布、多孔質シート又はフィルムであり、かつポッティング部に埋め込まれている。
【0017】
中空糸膜モジュールによれば、上記中空糸膜束の両端域又は一端域における中空糸膜外面及び筐体内面間がポッティング剤により充填されるポッティング部を備えており、シート状のスペーサが上記ポッティング部に埋め込まれている。また、上記スペーサがネット、不織布、多孔質シート又はフィルムであることで、ポッティング剤がスペーサを伝って流れやすくなる。そのため、中空糸膜モジュールにおける中空糸膜の接着性及びリーク抑制効果をより向上できる。従って、中空糸膜モジュールは、被処理液のリーク抑制効果が高く、高密度で充填された中空糸膜の接着性及びリーク抑制効果に優れる。
【0018】
中空糸膜モジュールにおいては、上記中空糸膜の平均外径に対する上記スペーサの厚さの割合が0.1以上1.0以下であることが好ましい。中空糸膜モジュールは、上記中空糸膜の平均外径に対する上記スペーサの厚さの割合が上記範囲であることで、スペーサにおけるポッティング剤との濡れ性をより高めることができる。従って、中空糸膜モジュールにおける中空糸膜の接着性及びリーク抑制効果をより向上できる。
【0019】
上記スペーサの表面自由エネルギーが30mJ/m2以上50mJ/m2以下であることが好ましい。上記スペーサの表面自由エネルギーが30mJ/m2以上50mJ/m2以下であることで、上記スペーサは樹脂、ゴム又はエラストマーを主成分とするポッティング剤との濡れ性が良好である。このようにポッティング剤との濡れ性が良好なスペーサが、中空糸膜束の両端域又は一端域における中空糸膜外面及び筐体内面間がポッティング剤により充填されるポッティング部に埋め込まれているので、スペーサによる毛細管現象により中空糸膜束の中空糸膜間の隙間に十分にポッティング剤を行き渡らせることができる。
【0020】
中空糸膜モジュールにおいては、上記スペーサがポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエーテルサルフォン、ポリビニルアルコール、セルロース、ポリエステル、アクリル樹脂又はこれらの組み合わせを主成分とすることが好ましい。上記スペーサがポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエーテルサルフォン、ポリビニルアルコール、セルロース、ポリエステル、アクリル樹脂又はこれらの組み合わせを主成分とすることで、スペーサにおけるポッティング剤との濡れ性をより高めることができる。従って、中空糸膜モジュールにおける中空糸膜の接着性及びリーク抑制効果をより向上できる。
【0021】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の各実施形態に係る中空糸膜モジュールの製造方法及び中空糸膜モジュールについて図面を参照しつつ詳説する。
【0022】
<中空糸膜モジュールの製造方法>
[第1実施形態]
第1実施形態に係る中空糸膜モジュールの製造方法は、複数本の中空糸膜を有する中空糸膜束と、上記中空糸膜束を収容する筐体と、上記中空糸膜束の両端域又は一端域における中空糸膜外面及び筐体内面間がポッティング剤により充填されるポッティング部とを備えている中空糸膜モジュールの製造方法である。当該中空糸膜モジュールの製造方法により製造される中空糸膜モジュールは、濾過、脱気等、種々の膜分離用の用途に利用される。
【0023】
図1に、第1実施形態に係る中空糸膜モジュールの製造方法により製造される中空糸膜モジュールの例として、上記中空糸膜束の両端域がポッティング剤により充填されるポッティング部を備えている脱気用の中空糸膜モジュール3を示す。中空糸膜モジュール3は、中空糸膜束30を有する膜部材2を備える。中空糸膜束30は、一方向に引き揃えられる複数本の中空糸膜1を有する。膜部材2は、上記中空糸膜束30と複数本の中空糸膜1の一方の端部を固定する第1ポッティング部4と、複数本の中空糸膜1の他方の端部を固定する第2ポッティング部5とをさらに有する。
【0024】
中空糸膜モジュール3は、複数本の中空糸膜1を有する膜部材2を格納する筒状の筐体11を備える。この中空糸膜モジュール3は、液体を中空糸膜1に透過させて液体に溶存する気体を脱気するタイプである。中空糸膜モジュール3は、筒状の筐体11と、この筐体11の一方側の端部に装着され、気体ノズル9及び第1ポッティング部4が係合する係合構造が設けられた第1スリーブ12と、この第1スリーブ12の筐体11と反対側の端部を封止し、液体排出口8が設けられた第1キャップ13と、筐体11の他方側の端部に装着される第2スリーブ14と、この第2スリーブ14の筐体11と反対側の端部を封止し、液体供給口7が設けられた第2キャップ15とを有する構成とすることができる。
【0025】
中空糸膜モジュール3は、一方の端部の端面には被処理液が供給される液体供給口7を有し、他方の端部の端面には複数本の中空糸膜1を透過した液体が排出される液体排出口8を有する。筐体11の側面には、気体ノズル9が備えられている。液体供給口7から第2キャップ15内に供給された被処理液は、中空糸膜1を透過して筐体11内に供給される。そして、筐体11の他方の端部近傍の側面に設けられた液体排出口8から透過後の液体が排出される。また、図示しない真空ポンプにより気体ノズル9から吸気することで、中空糸膜1の外側が減圧される。そして、中空糸膜1を透過する液体に溶存する気体が、中空糸膜1の壁面から気体ノズル9に向けて吸引され、気体ノズル9の先端から排出される。
【0026】
(筐体)
中空糸膜モジュール3の筐体11の材質としては、例えばエチレンとα-オレフィンとの共重合体や、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレン(PE)系樹脂や、プロピレン単体の重合体、プロピレンとエチレンとの共重合体あるいはプロピレンとエチレンと他のα-オレフィンとの共重合体等のポリプロピレン(PP)系樹脂、エポキシ樹脂、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、スチレン‐ブタジエン共重合体(SBS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)等の樹脂などが挙げられ、これらは単体で用いられても良くあるいは混合物として利用しても良い。また、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム等の金属などを挙げることができる。
【0027】
(中空糸膜)
図2及び
図3に示す中空糸膜1は、分離膜として用いられる。中空糸膜1の素材、膜形状、膜形態等は、特に制限されず、例えば樹脂を主成分とするものを用いることができる。
【0028】
上記樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチルペンテン-1)などのポリオレフィン系樹脂、ポリジメチルシロキサンその共重合体などのシリコン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、変性ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ポリサルホン、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル等が挙げられる。これらの中でも機械的強度、耐薬品性、耐熱性、耐候性、不燃性等に優れ、多孔質性であるPTFEが好ましい。中空糸膜1は、例えばPTFE又は変性PTFEの粒子をチューブ状に成形後に延伸して多孔質化することで得ることができる。
【0029】
中空糸膜1は、主成分となる樹脂の他、本開示の所望の効果を害しない範囲で他の樹脂や添加剤を含有していてもよい。上記添加剤としては、例えば着色のための顔料や、耐摩耗性改良、低温流れ防止、空孔生成容易化のための無機充填剤、金属粉、金属酸化物粉、金属硫化物粉、潤滑剤などが挙げられる。
【0030】
中空糸膜1の平均外径D2の下限としては、特に限定されないが、0.1mmが好ましく、0.2mmがより好ましい。一方、中空糸膜1の平均外径D2の上限としては、1.0mmであり、0.75mmが好ましい。上記平均外径D2が上記下限に満たないと、圧力損失が大きくなるおそれがある。逆に、上記平均外径D2が上記上限を超えると、モジュールの筐体内に収められる膜面積が小さくなったり、耐圧強度が低くなり内圧による破裂や、外圧による座屈が生じたりするおそれがある。「平均外径」とは、任意の2点の外径の平均値をいう。
【0031】
中空糸膜1の平均内径D1の下限としては、特に限定されないが、0.05mmが好ましく、0.1mmがより好ましい。一方、中空糸膜1の平均内径D1の上限としては、0.5mmであり、0.3mmが好ましい。上記平均内径D1が上記下限に満たないと、圧力損失が大きくなるおそれがある。逆に、上記平均内径D1が上記上限を超えると、耐圧強度が低くなり、内圧による破裂や、外圧による座屈が生じるおそれがある。「平均内径」とは、任意の2点の内径の平均値をいう。
【0032】
中空糸膜1の平均厚さT1の下限としては、0.025mmが好ましく、0.05mmがより好ましい。一方、中空糸膜1の平均厚さT1の上限としては、0.5mmであり、0.3mmが好ましい。上記平均厚さT1が上記下限に満たないと、耐圧強度が低くなり、内圧による破裂や、外圧による座屈が生じるおそれがある。逆に、上記平均厚さT1が上記上限を超えると、気体透過性が低くなるおそれがある。「平均厚さ」とは、任意の10点の厚さの平均値をいう。
【0033】
中空糸膜束30は、複数本の中空糸膜をまとめた束であり、筐体11内に長手方向に沿って収容されている。
【0034】
(ポッティング部)
第1ポッティング部4及び第2ポッティング部5は、ポッティング剤により構成されている。上記中空糸膜束30の両端域における中空糸膜1外面及び筐体11内面間をポッティング剤により充填されている。より詳細には、第1ポッティング部4及び第2ポッティング部5は、中空糸膜束30の両端域において、中空糸膜束30の両端部を包埋すると共に、中空糸膜束30を筐体11の内面に固定している。第1ポッティング部4及び第2ポッティング部5は、外周部がポッティング剤のみによって構成された部分となり、その内側が、中空糸膜束30の中空糸膜1同士の隙間にポッティング剤が入り込んだ部分となる。また、第1ポッティング部4及び第2ポッティング部5には、後述するように、ポッティング剤を中空糸膜1の隙間に浸入させるためのスペーサ20が配置されている。第1ポッティング部4及び第2ポッティング部5は、中空糸膜束30の両端部をそれぞれ固定することで、複数の中空糸膜1を絡み合うことなく一方向に引き揃えた状態に固定する。
【0035】
上記ポッティング剤は、樹脂、ゴム又はエラストマーを主成分とする。ポッティング剤としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、紫外線硬化型樹脂、フッ素含有樹脂、シリコン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂などが挙げられる。これらの中でもエポキシ樹脂、ウレタン樹脂は接着剤としての性能からより好ましい。
【0036】
図1に示すように、第1ポッティング部4及び第2ポッティング部5においては、ポッティング剤が中空糸膜1の内側には充填されておらず、中空糸膜1の外面及び中空糸膜束30と筐体11の内壁との間にのみ充填されている。すなわち、中空糸膜束30は、中空糸膜1の開口状態を保ったまま筐体11の内壁に固定される。
【0037】
以下、第1実施形態に係る中空糸膜モジュールの製造方法の各工程について詳述する。
【0038】
当該中空糸膜モジュールの製造方法は、シート状のスペーサを中空糸膜間の隙間に配置する工程と、上記配置されたスペーサが埋め込まれるように上記中空糸膜束の両端域又は一端域における中空糸膜外面及び筐体内面間にポッティング剤を充填する工程とを備えている。また、当該中空糸膜モジュールの製造方法は、さらにポッティング部の一部を切断する工程を備えていてもよい。
【0039】
(スペーサを配置する工程)
本工程では、上記ポッティング剤を上記中空糸膜1の隙間に浸入させるためのスペーサを上記中空糸膜束の両端部における中空糸膜間の隙間に配置する。第1実施形態においては、シート状のスペーサが帯状体である。
【0040】
第1実施形態において、さらに、本工程は上記スペーサの片面に上記複数本の中空糸膜の両端部又は一端部のみを把持させながら、上記複数本の中空糸膜を並列に配置する工程と、上記複数本の中空糸膜と上記複数本の中空糸膜の両端部又は一端部に配置されたスペーサとを巻きながら、ロール状の中空糸膜束を形成する工程とを備えることが好ましい。
【0041】
図4は、第1実施形態に係る中空糸膜モジュールの製造方法の一例を説明するための模式的斜視図である。
図4に示すように、始めに、ポッティング剤を上記中空糸膜1の隙間に浸入させるためのスペーサ20の片面に上記複数本の中空糸膜1の端部を並列に配置する。具体的には、平行に並べられた2枚のスペーサ20の片面それぞれに、一方向に引き揃えられた複数本の中空糸膜1の両端部を把持させながら、複数本の中空糸膜1を並列に配置する。
【0042】
スペーサ20の表面自由エネルギーの下限としては、30mJ/m2が好ましく、35J/m2がより好ましい。一方、上記表面自由エネルギーの上限としては、50mJ/m2が好ましく、45J/m2がより好ましい。上記表面自由エネルギーが上記下限に満たないと、ポッティング剤を十分に誘導できないおそれがある。逆に、上記表面自由エネルギーが上記上限を超えると、スペーサが大気中の水分を吸湿しポッティング剤に混入することで硬化を阻害して十分な強度やシール性が得られなかったり、使用時の流体で膨潤してポッティング剤に亀裂が生じることで十分なシール性が得られなくなるおそれがある。上記スペーサの表面自由エネルギーが30mJ/m2以上50mJ/m2以下であることで、樹脂、ゴム又はエラストマーを主成分とするポッティング剤との濡れ性が良好である。このようにポッティング剤との濡れ性が良好なスペーサが上記中空糸膜束の両端部又は一端部における中空糸膜間の隙間に配置されているので、スペーサによる毛細管現象により中空糸膜束の中空糸膜間の隙間に十分にポッティング剤を行き渡らせることができる。
なお、表面自由エネルギーは、以下の方法により求める。
室温25℃で表面張力γLが異なる4種類の液体の接触角θを測定し、cosθ vsγLのZismanプロットにより、cosθ=1になるγL値を固体の表面自由エネルギーγc[mJ/m2]とした。なお、水の表面張力γLは73[mN/m]であり、エタノールの表面張力γLは22[mN/m]であり、ヘキサデカンの表面張力γLは63[mN/m]であり、グリセリンの表面張力γLは28[mN/m]である。なお、表面張力[mN/m]と表面自由エネルギー[mJ/m2]とは等価で同じ値になる。
【0043】
上記スペーサ20がネット、不織布、多孔質シート又はフィルムである。上記スペーサがネット、不織布、多孔質シート又はフィルムであることで、流体がスペーサを伝って流入しやすくなる。従って、中空糸膜モジュールにおける中空糸膜の接着性及びリーク抑制効果をより向上できる。なお、「不織布」とは溶融押出などで成形された一本の繊維を垂らして積もらせた後にプレス融着することによって製造された材料をいう。「多孔質シート」とはフィルムを発泡又は延伸することによって製造された材料をいう。
【0044】
スペーサ20がポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエーテルサルフォン、ポリビニルアルコール、セルロース、ポリエステル、アクリル樹脂又はこれらの組み合わせを主成分とするとすることが好ましい。上記スペーサがポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエーテルサルフォン、ポリビニルアルコール、セルロース、ポリエステル、アクリル樹脂又はこれらの組み合わせを主成分とすることで、スペーサにおけるポッティング剤との濡れ性をより高めることができる。従って、中空糸膜モジュールにおける中空糸膜の接着性及びリーク抑制効果をより向上できる。
【0045】
上記中空糸膜の平均外径に対する上記スペーサの厚さの割合の下限としては、0.1が好ましく、0.2がより好ましい。一方、上記スペーサの厚さの割合の上限としては、1.0が好ましく、0.5がより好ましい。上記厚さの割合が上記下限に満たないと、剛性(硬さ)が低くなるので、中空糸膜を整列保持する機能が損なわれるおそれがある。逆に、上記厚さの割合が上記上限を超えると、剛性(硬さ)が高くなるので、中空糸膜が潰れてしまうおそれがある。上記中空糸膜の平均外径に対する上記スペーサの厚さの割合が上記範囲であることで、スペーサにおけるポッティング剤との濡れ性をより高めることができる。従って、中空糸膜モジュールにおける中空糸膜の接着性及びリーク抑制効果をより向上できる。
【0046】
次に、
図5に示すように、複数本の中空糸膜1と上記複数本の中空糸膜1の両端部に配置されたスペーサ20とを端から巻きながら、ロール状の中空糸膜束30を形成する。このように、第1実施形態においては、複数本の中空糸膜1が、両端部にスペーサ20を介しながら、ロール状に巻かれて中空糸膜束30が形成される。
【0047】
(ポッティング剤を充填する工程)
上記配置する工程後、本工程では、上記中空糸膜束30の両端域又は一端域において、配置されたスペーサ20を埋め込むように、中空糸膜1外面並びに中空糸膜1と筐体11内面と間にポッティング剤を充填する。第1実施形態においては、ロール状に巻かれた中空糸膜束30の両端部が、スペーサ20を埋め込むようにポッティング剤により筐体11内に固定される。
【0048】
中空糸膜束30の両端部をポッティング剤により固定する方法としては、例えば中空糸膜束の下方から樹脂を注入する静置ポッティング法などが挙げられる。静置ポッティングとは、液状の未硬化樹脂を定量ポンプや樹脂の自重により自然流動させ中空糸膜間に浸透させる方法である。具体的には、溶融させたポッティング剤が注入されたポッティング用カップに筐体11内の開口部に配置された中空糸膜束30の両端部を挿入し、溶融させたポッティング剤に中空糸膜束30の両端部を浸漬する。ポッティング剤は、電動又は流体圧アクチュエータを駆動してポッティング用カップに注入してもよい。このようにして、溶融させたポッティング剤に浸漬してこの溶融させたポッティング剤を中空糸膜1の端部間の隙間へ毛細管現象により充填させる当該中空糸膜モジュールの製造方法は、スペーサが配置されているので、毛細管現象による中空糸膜1の端部間の隙間への充填をより促進できる。
【0049】
次に、溶融させたポッティング剤が毛細管現象により中空糸膜1の隙間に充填された状態で上記ポッティング剤が硬化するまで放置する。
【0050】
(切断する工程)
所要の時間が経過することによって、ポッティング剤が硬化したら、硬化領域の末端部から所定の長さの部分を中空糸膜束30とともに切断することにより、第1ポッティング部4及び第2ポッティング部5が形成される。このように、中空糸膜1の両端部の開口状態が保たれた、
図1に示すような断面構造を有する中空糸膜モジュール3を製造することができる。
【0051】
第1実施形態に係る中空糸膜モジュールの製造方法によれば、シート状のスペーサが上記中空糸膜束の両端部又は一端部における中空糸膜間の隙間に配置される。そして、配置されたスペーサが埋め込まれるように上記中空糸膜束の両端域又は一端域における中空糸膜外面及び筐体内面間にポッティング剤を充填する。また、上記スペーサがネット、不織布、多孔質シート又はフィルムであることで、ポッティング剤がスペーサを伝って流れやすくなる。そのため、中空糸膜モジュールにおける中空糸膜の接着性及びリーク抑制効果をより向上できる。また、第1実施形態に係る中空糸膜モジュールの製造方法は、上記帯状体であるスペーサの片面に上記複数本の中空糸膜の両端部を把持させながら並列に配置し、上記複数本の中空糸膜と中空糸膜の両端部に配置されたスペーサとを巻きながら、ロール状の中空糸膜束が形成される。このようにポッティング剤との濡れ性が良好なスペーサが、ロール状の中空糸膜束に挿入されているので、スペーサによる毛細管現象により中空糸膜束の中空糸膜間の隙間に十分にポッティング剤を行き渡らせることができる。従って、高密度で充填された中空糸膜の接着性及びリーク抑制効果に優れる中空糸膜モジュールを得ることができる。
【0052】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る中空糸膜モジュールの製造方法は、第1実施形態と同様、複数本の中空糸膜を有する中空糸膜束と、上記中空糸膜束を収容する筐体と、上記中空糸膜束の両端域又は一端域における中空糸膜外面及び筐体内面間がポッティング剤により充填されるポッティング部とを備えている中空糸膜モジュールの製造方法である。第2実施形態に係る中空糸膜モジュールの製造方法では、第1実施形態に係る中空糸膜モジュールの製造方法と異なる形状のシート状のスペーサを中空糸膜束の両端部又は一端部における中空糸膜間の隙間に配置する。第2実施形態に係る中空糸膜モジュールの製造方法は、第1実施形態と同様、スペーサを中空糸膜間の隙間に配置する工程と、上記配置されたスペーサが埋め込まれるように上記中空糸膜束の両端域又は一端域における中空糸膜外面及び筐体内面間にポッティング剤を充填する工程とを備えている。また、第2実施形態に係る中空糸膜モジュールの製造方法は、第1実施形態と同様、切断する工程を備えていてもよい。なお、第2実施形態に係る中空糸膜モジュールの製造方法の工程において、第1実施形態と重複する工程については、詳細な説明を省略する。
【0053】
(スペーサを配置する工程)
本工程では、上記ポッティング剤を上記中空糸膜1の隙間に浸入させるためのシート状のスペーサを上記中空糸膜束の両端部又は一端部における中空糸膜間の隙間に配置する。第2実施形態に係る中空糸膜モジュールの製造方法においては、第2実施形態において上述したようなスペーサが空糸膜束の両端部又は一端部における中空糸膜間の隙間に挿入される。
図6、
図7及び
図8は、第2実施形態に係るシート状のスペーサの例を示す模式的斜視図である。
図6に示す膜部材31においては、中空糸膜束41の一端部における中空糸膜1の隙間に板状のスペーサ25が挿入されている。
図7に示す膜部材32においては、中空糸膜束41の一端部における中空糸膜1の隙間に波板状のスペーサ26が挿入されている。また、
図8に示す膜部材33においては、中空糸膜束41の一端部における中空糸膜1の隙間に平面視において交差するように配置されているシート状のスペーサ27が挿入されている。
【0054】
(ポッティング剤を充填する工程)
本工程では、上記配置されたスペーサが埋め込まれるように上記中空糸膜束の両端域又は一端域における中空糸膜外面及び筐体内面間にポッティング剤を充填する。これにより、上記配置されたスペーサが埋め込まれるとともに、中空糸膜束の両端部又は一端部が上記ポッティング剤で筐体内に固定される。
【0055】
ポッティング剤が硬化したら、第1実施形態と同様に切断する工程を行うことで、中空糸膜1の両端部の開口状態が保たれた中空糸膜モジュールを製造することができる。
図6に示すように、膜部材31の一端部における第1ポッティング部4においては、スペーサ25がポッティング剤により埋め込まれている。また、
図7に示すように、膜部材32の第1ポッティング部4においてはスペーサ26がポッティング剤によって埋め込まれ、
図8に示すように、膜部材33の第1ポッティング部4においてはスペーサ27がポッティング剤により埋め込まれている。なお、第2実施形態に係る中空糸膜モジュールの製造方法に用いるシート状スペーサの形状はこれらに限定されず、当該中空糸膜モジュールの製造方法の効果を奏する形状であれば、種々の形状を採用することができる。
【0056】
第2実施形態に係る中空糸膜モジュールの製造方法によれば、第1実施形態と同様、シート状のスペーサが上記中空糸膜束の両端部又は一端部における中空糸膜間の隙間に配置される。そして、配置されたスペーサが埋め込まれるように上記中空糸膜束の両端域又は一端域における中空糸膜外面及び筐体内面間にポッティング剤を充填する。また、上記スペーサがネット、不織布、多孔質シート又はフィルムであることで、ポッティング剤がスペーサを伝って流れやすくなる。そのため、中空糸膜モジュールにおける中空糸膜の接着性及びリーク抑制効果をより向上できる。従って、高密度で充填された中空糸膜の接着性及びリーク抑制効果に優れる中空糸膜モジュールを得ることができる。
上記スペーサを用いずに、例えば公報実開昭62-155852号公報に記載のすだれ巻きのように、横糸で中空糸膜チューブを束ねる方式は、横糸周りの中空糸膜の流体の流れが悪くなるおそれがある。また、上記横糸で中空糸膜チューブを束ねる方式は、上記横糸自体が中空糸膜を変形させるおそれがある。上記横糸は細くかつ高強度である必要がある一方、中空糸膜が潰れないように柔らかな素材である必要がある。従って、上記横糸おいては、使用できる素材が限られ、例えば化学的に不安定なポリウレタンなどでは分解、溶出が生じるおそれがありため、採用することは困難である。第2実施形態に係る中空糸膜モジュールの製造方法によれば、複数本の中空糸膜の両端部又は一端部のみを把持させながらロール状の中空糸膜束を形成するので、上記のような課題が生じない。
従って、当該中空糸膜モジュールの製造方法は、高密度で充填された中空糸膜の接着性及びリーク抑制効果に優れる中空糸膜モジュールを製造できる。
【0057】
<中空糸膜モジュール>
本開示の他の一態様に係る中空糸膜モジュールは、膜分離用の中空糸膜モジュールである。当該中空糸膜モジュールは、複数本の中空糸膜を有する中空糸膜束と、上記中空糸膜束を収容する筐体と、上記中空糸膜束の両端域又は一端域における中空糸膜外面及び筐体内面間がポッティング剤により充填されるポッティング部と、上記中空糸膜束の両端部又は一端部における中空糸膜間の隙間に配置されるシート状のスペーサとを備えている。また、上記ポッティング剤が樹脂、ゴム又はエラストマーを主成分とし、上記スペーサがネット、不織布、多孔質シート又はフィルムであり、かつポッティング部に埋め込まれている。
【0058】
上述したように、当該中空糸膜モジュールの主要な構成は上述の通りである。
【0059】
中空糸膜モジュールによれば、上記中空糸膜束の両端域又は一端域における中空糸膜外面及び筐体内面間がポッティング剤により充填されるポッティング部を備えており、シート状のスペーサが上記ポッティング部に埋め込まれている。また、上記スペーサがネット、不織布、多孔質シート又はフィルムであることで、ポッティング剤がスペーサを伝って流れやすくなる。そのため、中空糸膜モジュールにおける中空糸膜の接着性及びリーク抑制効果をより向上できる。従って、中空糸膜モジュールは、被処理液のリーク抑制効果が高く、高密度で充填された中空糸膜の接着性及びリーク抑制効果に優れる。
【0060】
中空糸膜モジュールは、インクジェットプリンター、脱気装置、濾過装置等内に中空糸膜モジュールが配置された一体型のタイプと、筐体と分離膜がそれぞれ独立していて、分離膜を筐体に挿入して使用する交換可能なカートリッジタイプのいずれのタイプにおいても使用することができる。
【0061】
当該中空糸モジュールは、濾過、脱気等、種々の膜分離用の用途に利用される。従って、当該中空糸モジュールは、濾過、脱気等の用途に応じて中空糸膜が透過させる対象物が異なる。例えば当該中空糸モジュールを濾過モジュールとして用いる場合、被処理液中の溶媒を透過させる一方、被処理液に含まれる一定粒径以上の不純物の透過を阻止する。また、当該中空糸モジュールを脱気モジュールとして用いる場合、中空糸膜は、液体又は気体のいずれかを透過させる。当該中空糸モジュールは、どのような分野の用途にも適用することができる。例えば、河川水、湖水の濾過や原子力発電、火力発電用水の濾過、復水の濾過、水の除菌、廃液の濾過回収等の水処理用途、食品の濾過、有機溶剤の濾過や分離、液体の脱ガス、酸素、二酸化炭素、窒素、水素等の気体の選択的透過による特定の気体の富化機能など、種々の用途に利用できる。
【0062】
中空糸膜モジュールは、高密度で充填された中空糸膜の接着性及びリーク抑制効果に優れる。このような中空糸膜モジュールは、特に脱気性能が優れ、半導体製造工程、プリンタ、液晶封入工程、薬液製造工程、油圧機器、分析装置のサンプル、人工血管、人工心肺等の脱気装置に好適に用いられる。
【0063】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0064】
上記実施形態においては、複数本の直線状の中空糸膜を束ねて中空糸膜束を形成し、中空糸膜束の両端域がポッティング剤により充填されたポッティング部を備えていたが、中空糸膜束の一端域がポッティング剤により充填されたポッティング部を備えていてもよい。中空糸膜束の一端域がポッティング剤により充填された形態としては、例えば複数本の中空糸膜を2つに折曲げて、一方の端部を略U字形のループ状に束ねて中空糸膜束を形成し、この中空糸膜束の開口部側にポッティング部を設けた中空糸膜モジュールが挙げられる。
【0065】
上記実施形態においては、中空糸膜モジュールが、液体を中空糸膜に透過させて液体に溶存する気体を脱気する液体透過型の中空糸膜モジュールであったが、気体を中空糸膜に透過させて液体に溶存する気体を脱気する気体透過型の中空糸膜モジュールであってもよい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例によって本開示をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
<中空糸膜モジュール試験No.1から試験No.4>
試験No.1から試験No.4の中空糸膜モジュールを作製した。中空糸膜束としては、PTFEファインパウダー(AGC社製「CD123」に0.8kGyのγ線を照射)を原料とした。
[成形工程]
得られたPTFEの粉末を下記の条件でチューブ状に成形した。チューブ状に成型する方法としては、例えば「フッ素樹脂ハンドブック(里川孝臣著、日刊工業新聞社)」に記載のペースト押出法やラム押出法を用いることができる。本実施例においては、上記ペースト押出法を用いた。PTFEの粉末に液状潤滑剤(「ソルベントナフサ」、富士フィルム和光純薬社製)を23質量部混合して、予備成型機で円筒状に押し固めた後に、押出機を用いてとぐろ状に押し出すことにより成形した。シリンダー及びダイス温度は50℃とした。試験例No.1,2,3,4は、シリンダー径40mm、マンドレル径10mm、ダイス径1.0mm、コアピン径は0.5mmの押出機を用いた。
[乾燥工程]
乾燥工程では、200℃の熱風循環恒温槽で液体潤滑剤を乾燥させた。
[焼結工程]
上記チューブ状成形品を連続延伸焼結機により、PTFE又は変性PTFEの融点以上である炉温度420℃で加熱し、延伸倍率0.9倍で焼結して、半透明の無孔質チューブを得た。
[徐冷工程]
上記半透明の無孔質チューブをとぐろに巻いた状態で、熱風循環恒温槽に入れ350℃で5分間以上加熱し、連続して300℃以下まで-1℃/分以下の冷却速度で徐冷した。
[延伸工程]
延伸工程では、得られた無孔質チューブ状成形品を以下の条件で延伸し、多孔質化チューブ状成形品を得た。引張試験機(島津製作所製の恒温槽付きオートグラフAG500)にて、チャック幅20mm、延伸速度500mm/分、170℃で6倍に延伸を行った。なお、平均外径と平均内径は任意の2点を測定して平均値を求め、平均厚さは、任意の2点における(平均外径-平均内径)/2の数式より求めた。
上記方法で作成した長さ100mmの中空糸膜を用いた。試験No.1から試験No.4で用いた中空糸膜の平均外径及び平均内径の測定結果及びを表1に示す。
【0068】
次に、中空糸膜束の中空糸膜間の隙間にスペーサを配置した。試験No.1から試験No.4で用いたスペーサの形態、材質、自由エネルギー、厚さ及び配置部位を表1に示す。
【0069】
次に、内径12mm長さ90mmの円筒形の透明エポキシ樹脂製の筐体に、
図4の方法でロール状にした中空糸束(中空糸の本数:288本)を挿入することより、スペーサが埋め込まれるように中空糸膜束にポッティング剤を充填し、筐体に配置した。ポッティング剤としては、硬化剤にエポキシ硬化剤三菱ガス化学社製「ガスカミンG-240」を用い、エポキシ樹脂主剤には三菱ケミカル社製「jER811」を用いた。充填高さは、モジュール筐体の端から20mmの位置になるように充填量を調整した。充填及び硬化後、モジュール筐体の端10mmを切除した。試験No.1から試験No.4で用いた筐体の材料及び形状を表1に示す。
【0070】
[評価]
上記試験No.1から試験No.4の中空糸膜モジュールについて、リーク評価、中空糸機能評価及びCT解析による横断面観察を実施した。
【0071】
(リーク評価)
上記試験No.1から試験No.4の中空糸膜モジュールについて、下記の手順でリーク評価を実施した。
具体的には、中空糸モジュールを水につけ、真空ポンプにより気体ノズルからゲージ圧-95から-100kPaの範囲で真空引きを行った。筐体内に水が侵入した場合にリーク有と判定した。
【0072】
(中空糸機能評価)
上記試験No.1から試験No.4の中空糸膜モジュールについて、下記の手順で中空糸機能評価を実施した。
空気のバブリングによって酸素を溶解し、溶存酸素濃度を約7ppmに調整した純水を5ml/分の流量で流し、真空ポンプにより気体ノズルからゲージ圧-85kPaで吸気しながら、純水の脱気を行った。中空糸膜モジュールの透過前後における純水の溶存酸素濃度を測定し、下記式により溶存酸素の除去率を求めた。
溶存酸素の除去率(%)=
(透過前における溶存酸素濃度-透過後における溶存酸素濃度)/透過前における溶存酸素濃度
評価結果については、2段階評価を行い、溶存酸素が50%以上除去できている場合に良好とし、除去率が50%未満の場合を不具合有とした。
【0073】
(CT解析による横断面観察)
上記試験No.1から試験No.4の中空糸膜モジュールについて、下記の手順でCT解析による横断面観察を実施し、封止剤の吸い上がりを評価した。具体的には、島津製作所製X線非破壊検査装置(SMX-225CT)を用いボクセルサイズ66umの分解能で撮影し、得られたデータよりモジュール内部をボリュームグラフィックス社製のmyVGL3.0を用いて分析した。上記封止剤の吸い上がりが無い場合は、中空糸膜の接着性が良好である。
【0074】
試験No.1から試験No.4の中空糸膜モジュールのリーク評価、中空糸機能評価及びCT解析による横断面観察の評価結果を表1に示す。
【0075】
【0076】
上記表1に示すように、中空糸膜束の両端にスペーサを備える試験No.1及び試験No.2の中空糸膜モジュールは、リーク評価、中空糸機能評価で良好な結果が得られた。一方、スペーサを備えていない試験No.3の中空糸膜モジュールは、リークが生じ、中空糸膜としての機能が得られなかった。また、スペーサを中空糸膜全長に配置した試験No.4の中空糸膜モジュールは、封止剤が中空糸膜全体に吸い上げられており、中空糸膜としての機能が得られなかった。
【0077】
以上のように、当該中空糸膜モジュールの製造方法は、中空糸膜の接着性及びリーク抑制効果に優れる中空糸膜モジュールを製造できることが示された。
【符号の説明】
【0078】
1 中空糸膜
2、31、32、33 膜部材
3 中空糸膜モジュール
4 第1ポッティング部
5 第2ポッティング部
7 液体供給口
8 液体排出口
9 気体ノズル
11 筐体
12 第1スリーブ
13 第1キャップ
14 第2スリーブ
15 第2キャップ
20、25、26、27 スペーサ
30、41 中空糸膜束