IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太陽誘電株式会社の特許一覧

特許7476477セラミック原料粉末、積層セラミックコンデンサ、および積層セラミックコンデンサの製造方法
<>
  • 特許-セラミック原料粉末、積層セラミックコンデンサ、および積層セラミックコンデンサの製造方法 図1
  • 特許-セラミック原料粉末、積層セラミックコンデンサ、および積層セラミックコンデンサの製造方法 図2
  • 特許-セラミック原料粉末、積層セラミックコンデンサ、および積層セラミックコンデンサの製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】セラミック原料粉末、積層セラミックコンデンサ、および積層セラミックコンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20240423BHJP
   C01G 39/00 20060101ALI20240423BHJP
   C04B 35/468 20060101ALI20240423BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C01G23/00 C
C01G39/00 Z
C04B35/468 200
H01G4/30 311Z
H01G4/30 517
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018232703
(22)【出願日】2018-12-12
(65)【公開番号】P2020093952
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-11-30
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】谷口 克哉
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 剛
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】河本 充雄
【審判官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-347799(JP,A)
【文献】特開2016-139720(JP,A)
【文献】特開2017-028224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B35/00-35/84
C01G23/00-23/02
H01B 3/12
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト構造を主相とするセラミック原料粉末であって、
前記ペロブスカイト構造のBサイトに、4価よりも大きい価数を有することでドナーとして機能する元素および4価よりも小さい価数を有することでアクセプタとして機能する元素の両方が置換固溶し、
前記セラミック原料粉末の各粒子の幾何学的な重心では、(ドナーとして機能する元素の濃度)×(ドナーとして機能する元素の価数-4)<(アクセプタとして機能する元素の濃度)×(4-アクセプタとして機能する元素の価数)の関係が成立し、
前記セラミック原料粉末の各粒子の外縁では、(ドナーとして機能する元素の濃度)×(ドナーとして機能する元素の価数-4)>(アクセプタとして機能する元素の濃度)×(4-アクセプタとして機能する元素の価数)の関係が成立し、
(ドナーとして機能する元素の濃度)×(ドナーとして機能する元素の価数-4)は、前記外縁から前記重心にかけて徐々にまたは段階的に低下する勾配を有することを特徴とするセラミック原料粉末。
【請求項2】
前記ペロブスカイト構造の主相は、BaTiOであることを特徴とする請求項1記載のセラミック原料粉末。
【請求項3】
前記ドナーとして機能する元素は、Moであり、
前記アクセプタとして機能する元素は、Mnであることを特徴とする請求項1または2に記載のセラミック原料粉末。
【請求項4】
ペロブスカイト構造を主相とするセラミック原料粉末を含むグリーンシートを作成する工程と、
前記グリーンシートと、内部電極形成用導電ペーストと、を交互に積層することで積層体を形成する工程と、
前記積層体を焼成する工程と、を含み、
前記ペロブスカイト構造のBサイトには、4価よりも大きい価数を有することでドナーとして機能する元素および4価よりも小さい価数を有することでアクセプタとして機能する元素の両方が置換固溶され、
前記セラミック原料粉末の各粒子の幾何学的な重心では、(ドナーとして機能する元素の濃度)×(ドナーとして機能する元素の価数-4)<(アクセプタとして機能する元素の濃度)×(4-アクセプタとして機能する元素の価数)の関係が成立し、
前記セラミック原料粉末の各粒子の外縁では、(ドナーとして機能する元素の濃度)×(ドナーとして機能する元素の価数-4)>(アクセプタとして機能する元素の濃度)×(4-アクセプタとして機能する元素の価数)の関係が成立し、
(ドナーとして機能する元素の濃度)×(ドナーとして機能する元素の価数-4)は、前記外縁から前記重心にかけて徐々にまたは段階的に低下する勾配を有することを特徴とする積層セラミックコンデンサの製造方法。
【請求項5】
前記ペロブスカイト構造の主相は、BaTiOであることを特徴とする請求項4記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。
【請求項6】
前記ドナーとして機能する元素は、Moであり、
前記アクセプタとして機能する元素は、Mnであることを特徴とする請求項4または5に記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。
【請求項7】
複数の誘電体層と、
複数の内部電極層と、を備え、
前記複数の誘電体層と前記複数の内部電極層とは、交互に積層され、
前記複数の誘電体層は、請求項1~3のいずれか一項に記載のセラミック原料粉末を焼成することによって得られたものであることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック原料粉末、および積層セラミックコンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサは、誘電体層と内部電極層とが積層された構造を有している。誘電体層はセラミック原料粉末を焼結させることで形成されるため、積層セラミックコンデンサに所望の性能を持たせるためには、セラミック原料粉末が所定の特性を有していることが望まれる。例えば、誘電体層を薄層化しても十分な信頼性特性を得るためには、セラミック原料粉末に予め特定の元素を固溶させておくことが有効な手法であることが開示されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-108128号公報
【文献】特開2017-228737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、ドナー元素が固溶したチタン酸バリウムが用いられる。この技術では、ドナー作用により、積層セラミックコンデンサの寿命は向上する一方で、絶縁性低下が問題となり得る。特許文献2の技術では、ドナー元素に加えてアクセプタ元素が固溶したチタン酸バリウムが用いられる。しかしながら、この技術では、絶縁性低下を抑制できる一方で、ドナー元素の作用が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、ドナー作用およびアクセプタ作用の両方を得ることができるセラミック原料粉末、および積層セラミックコンデンサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るセラミック原料粉末は、ペロブスカイト構造を主相とするセラミック原料粉末であって、前記ペロブスカイト構造のBサイトに、ドナーとして機能する元素およびアクセプタとして機能する元素の両方が置換固溶し、前記セラミック原料粉末の各粒子の中心部では、(ドナーとして機能する元素の濃度)×(ドナーとして機能する元素の価数-4)<(アクセプタとして機能する元素の濃度)×(4-アクセプタとして機能する元素の価数)の関係が成立し、前記セラミック原料粉末の各粒子の外縁部では、(ドナーとして機能する元素の濃度)×(ドナーとして機能する元素の価数-4)>(アクセプタとして機能する元素の濃度)×(4-アクセプタとして機能する元素の価数)の関係が成立することを特徴とする。
【0007】
上記セラミック原料粉末において、前記ペロブスカイト構造の主相は、BaTiOとしてもよい。
【0008】
上記セラミック原料粉末において、前記ドナーとして機能する元素をMoとし、前記アクセプタとして機能する元素をMnとしてもよい。
【0009】
本発明に係る積層セラミックコンデンサの製造方法は、ペロブスカイト構造を主相とするセラミック原料粉末を含むグリーンシートを作成する工程と、前記グリーンシートと、内部電極形成用導電ペーストと、を交互に積層することで積層体を形成する工程と、前記積層体を焼成する工程と、を含み、前記ペロブスカイト構造のBサイトには、ドナーとして機能する元素およびアクセプタとして機能する元素の両方が置換固溶され、前記セラミック原料粉末の各粒子の中心部では、(ドナーとして機能する元素の濃度)×(ドナーとして機能する元素の価数-4)<(アクセプタとして機能する元素の濃度)×(4-アクセプタとして機能する元素の価数)の関係が成立し、前記セラミック原料粉末の各粒子の外縁部では、(ドナーとして機能する元素の濃度)×(ドナーとして機能する元素の価数-4)>(アクセプタとして機能する元素の濃度)×(4-アクセプタとして機能する元素の価数)の関係が成立することを特徴とする。
【0010】
上記積層セラミックコンデンサの製造方法において、前記ペロブスカイト構造の主相をBaTiOとしてもよい。
【0011】
上記積層セラミックコンデンサの製造方法において、前記ドナーとして機能する元素をMoとして、前記アクセプタとして機能する元素をMnとしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ドナー作用およびアクセプタ作用の両方を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
図2】(a)および(b)は、ドナーとして機能する元素およびアクセプタとして機能する元素の濃度勾配を例示する図である。
図3】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0015】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。図1で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、積層チップ10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0016】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、卑金属材料を含む内部電極層12とが、交互に積層された積層体の構成を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層体において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じである。
【0017】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0018】
内部電極層12は、Ni(ニッケル),Cu(銅),Sn(スズ)等の卑金属を主成分とする。内部電極層12として、Pt(白金),Pd(パラジウム),Ag(銀),Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。
【0019】
誘電体層11は、例えば、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を主相とするセラミック材料を主成分とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO(チタン酸バリウム)、CaZrO(ジルコン酸カルシウム)、CaTiO(チタン酸カルシウム)、SrTiO(チタン酸ストロンチウム)、ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaSrTi1-zZr(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等を用いることができる。誘電体層11は、例えば、ペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主成分とするセラミック原材料粉末を焼成することによって得られる。
【0020】
積層セラミックコンデンサ100を小型大容量化するためには、誘電体層11を薄層化することが望まれる。しかしながら、誘電体層11を薄層化しようとすると、積層セラミックコンデンサ100の寿命特性が劣化し、信頼性が低下するおそれがある。
【0021】
ここで、信頼性低下について説明する。誘電体層11は、例えば、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を主相とするセラミック原料粉末を焼成によって焼結させることで形成することができる。したがって、焼成の際にセラミック原料粉末が還元雰囲気にさらされることにより、セラミック原料粉末のABOに酸素欠陥が生じる。積層セラミックコンデンサ100の使用時には誘電体層11に電圧が繰り返し印加されることになる。この際に酸素欠陥が移動することによって、障壁が破壊される。すなわち、ペロブスカイト構造中の酸素欠陥が、誘電体層11の信頼性低下の要因となっている。
【0022】
そこで、ドナーとして機能する元素がペロブスカイト構造のBサイトに含まれている(置換固溶している)ことが好ましい。例えば、ドナーとして機能する元素として、Mo(モリブデン)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、W(タングステン)などが挙げられる。ドナーとして機能する元素がBサイトに置換固溶することによって、ペロブスカイト構造中の酸素欠陥が抑制される。それにより、誘電体層11が長寿命化し、信頼性を向上させることができる。
【0023】
しかしながら、ドナーとして機能する元素がBサイトに置換固溶すると、絶縁性が低下するといった不具合が生じるおそれがある。そこで、ドナーとして機能する元素がBサイトに置換固溶するとともに、アクセプタとして機能する元素もBサイトに置換固溶していることが好ましい。例えば、アクセプタとして機能する元素として、Mn(マンガン)、Ni、Cu、Fe(鉄)、Cr(クロム)、Co(コバルト)、Zn(亜鉛)、Y(イットリウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホロミウム)、Er(エルビウム)などが挙げられる。アクセプタとして機能する元素がBサイトに置換固溶することによって、リーク電流が抑制されるといった作用が得られ、誘電体層11の絶縁性低下が抑制される。
【0024】
しかしながら、この場合、絶縁性低下を抑制できる一方で、ドナー作用が低下する。そこで、本実施形態では、ドナー作用およびアクセプタ作用を維持することができるセラミック原料粉末を用いて積層セラミックコンデンサ100を製造する手法について説明する。
【0025】
本実施形態においては、ペロブスカイト構造を有するセラミック原料粉末のBサイトにおいて、ドナーとして機能する元素およびアクセプタとして機能する元素の両方を固溶置換させ、それらの濃度勾配を制御する。
【0026】
本実施形態においては、ドナーとして機能する元素の濃度およびアクセプタとして機能する元素の濃度について、セラミック原料粉末の外縁部における関係と中心部における関係とを規定する。具体的には、セラミック原料粉末の外縁部をドナーリッチにし、中心部をアクセプタリッチにする。
【0027】
なお、ドナー作用およびアクセプタ作用は、置換固溶する元素の濃度のみならず、母結晶のペロブスカイト構造のBサイトの価数(+4)と、置換固溶元素の価数との関係からも影響を受ける。例えば、ドナーとして機能する元素については、+5価の元素(例えば、V(バナジウム))と、+6価の元素(例えば、Mo)とでは、同じ濃度では、価数の大きい+6価の元素の方が強いドナー作用を有している。同様に、アクセプタとして機能する元素については、+3価の元素(例えば、Fe)と+2価の元素(例えば、Mn)とでは、同じ濃度では、価数の小さい+2価の元素の方が強いアクセプタ作用を有している。したがって、セラミック原料粉末の外縁部をドナーリッチにし、中心部をアクセプタリッチにするためには、Bサイトの価数(+4価)に対する相対価数も考慮することが好ましい。
【0028】
そこで、本実施形態においては、セラミック原料粉末について、下記式(1)および下記式(2)の関係を満たすように、ドナーとして機能する元素およびアクセプタとして機能する元素の置換固溶量を規定する。
・中心部:(ドナーとして機能する元素の濃度)×(ドナーとして機能する元素の価数-4)<(アクセプタとして機能する元素の濃度)×(4-アクセプタとして機能する元素の価数) (1)
・外縁部:(ドナーとして機能する元素の濃度)×(ドナーとして機能する元素の価数-4)>(アクセプタとして機能する元素の濃度)×(4-アクセプタとして機能する元素の価数) (2)
【0029】
これらの関係を満たすセラミック原料粉末を用いて積層セラミックコンデンサを作製することで、セラミック原料粉末において、焼成/熱処理雰囲気による還元/酸化の影響を受け易い外縁部のドナー作用を十分に高くすることができ、酸素欠陥量を低減することができる。また、セラミック原料粉末中心部において、アクセプタ作用を十分に高くすることができ、絶縁性向上効果も得られる。したがって、ドナー作用およびアクセプタ作用の両方を得ることができる。その結果、寿命と絶縁性のバランスの良い、信頼性に優れた積層セラミックコンデンサの製造が可能となる。
【0030】
(ドナーとして機能する元素の濃度)×(ドナーとして機能する元素の価数-4)を値Aとし、(アクセプタとして機能する元素の濃度)×(4-アクセプタとして機能する元素の価数)を値Bとする。例えば、図2(a)で例示するように、セラミック原料粉末は、ペロブスカイト構造のBサイトにおいて、値Aが粒子外縁部から粒子中心部にかけて徐々にまたは段階的に低下する勾配を有し、値Bが濃度勾配を持たずに略均一な分布を有している。例えば、ドナーとして機能する元素の濃度は、外縁部>中心部を満たしている。なお、図2(a)において、点線は、セラミック原料粉末の粒子を模式的に表したものである。横軸は、当該粒子中の位置を表す。第1縦軸(左軸)は値Aを表し、第2縦軸(右軸)は値Bを表す。
【0031】
なお、セラミック原料粉末について、中心部と外縁部とで上記式(1)および上記式(2)の関係を満たせばよい。したがって、例えば、図2(b)で例示するように、値Aの勾配において、外縁部から中心部に向かって低下する途中で極大値を有していてもよい。
【0032】
式(1)および式(2)の関係は、ドナーとして機能する元素として2種類以上を添加する場合にも適用可能であり、アクセプタとして機能する元素として2種類以上を添加する場合にも適用可能である。この場合においては、2種類以上の元素の濃度に応じた加重平均を、ドナーとして機能する元素の濃度およびアクセプタとして機能する元素の濃度として用いることができる。
【0033】
なお、粒子の中心部は、例えば、幾何学的な重心と定義することができる。
【0034】
ここで、セラミック原料粉末にドナーとして機能する元素およびアクセプタとして機能する元素を置換固溶させる理由について説明する。例えば、セラミック原料粉末と、ドナーとして機能する元素の酸化物およびアクセプタとして機能する元素の酸化物とを混合しておき、焼成工程において各元素を拡散させることで、上記式(1)および上記式(2)の関係を実現することが考えられる。しかしながら、各粒子の外縁部のドナー濃度を高くすることは可能であっても、粒子の中心部まで各元素を拡散させることは困難である。以上の理由により、セラミック原料粉末に、ドナーとして機能する元素およびアクセプタとして機能する元素を置換固溶させているのである。
【0035】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。図3は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0036】
(セラミック原料粉末の作製工程)
まず、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を主相とし、上記式(1)および上記式(2)を満たすように、Bサイトにドナーとして機能する元素およびアクセプタとして機能する元素の両方が置換固溶したセラミック原料粉末を用意する。当該セラミック原料粉末の合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相合成法、ゾル-ゲル合成法、水熱合成法等が知られている。例えば、BaTiOのTiサイトにMoおよびMnを置換固溶させる場合には、BaTiOの合成時に、BaCO、TiOおよびMnCOの混合分散粉にてMn固溶BaTiOを作製したのち、Mo化合物を添加し、粒成長させればよい。例えば、セラミック原料粉末の平均粒子径は、誘電体層11の薄層化の観点から、好ましくは50~150nmである。
【0037】
得られたセラミック原料粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、希土類元素(Y(イットリウム),Sm(サマリウム),Eu(ユウロピウム),Gd(ガドリニウム),Tb(テルビウム),Dy(ジスプロシウム),Ho(ホロミウム),Er(エルビウム),Tm(ツリウム)およびYb(イッテルビウム))の酸化物、並びに、Co(コバルト),Ni,Li(リチウム),B(ホウ素),Na(ナトリウム),K(カリウム)およびSi(シリコン)の酸化物もしくはガラスが挙げられる。
【0038】
例えば、セラミック原料粉末に添加化合物を含む化合物を湿式混合し、乾燥および粉砕してセラミック材料を調製する。例えば、上記のようにして得られたセラミック材料について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。以上の工程により、誘電体層の主成分となるセラミック材料が得られる。
【0039】
(積層工程)
次に、得られたセラミック材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に例えば厚み3μm~10μmの帯状の誘電体グリーンシートを塗工して乾燥させる。
【0040】
次に、誘電体グリーンシートの表面に、有機バインダを含む内部電極形成用の金属導電ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷することで、極性の異なる一対の外部電極に交互に引き出される内部電極層パターンを配置する。金属導電ペーストには、共材としてセラミック粒子を添加する。セラミック粒子の主成分は、特に限定するものではないが、誘電体層11の主成分セラミックと同じであることが好ましい。例えば、平均粒子径が50nm以下のBaTiOを均一に分散させてもよい。
【0041】
その後、内部電極層パターンが印刷された誘電体グリーンシートを所定の大きさに打ち抜いて、打ち抜かれた誘電体グリーンシートを、基材を剥離した状態で、内部電極層12と誘電体層11とが互い違いになるように、かつ内部電極層12が誘電体層11の長さ方向両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極20a,20bに交互に引き出されるように、所定層数(例えば100~500層)だけ積層する。積層した誘電体グリーンシートの上下に、カバー層13を形成するためのカバーシートを圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットする。
【0042】
得られたセラミック積層体をN雰囲気中で脱バインダした後に、セラミック積層体の両端面から各側面にかけて、外部電極20a,20bの主成分金属を含む金属フィラー、共材、バインダ、溶剤などを含み、外部電極20a,20bの下地層となる金属ペーストを塗布し、乾燥させる。
【0043】
(焼成工程)
このようにして得られた成型体を、250~500℃のN雰囲気中で脱バインダ処理した後に、酸素分圧10-5~10-8atmの還元雰囲気中で1100~1300℃で10分~2時間焼成することで、成型体の各粒子が焼結する。このようにして、セラミック積層体が得られる。
【0044】
(再酸化処理工程)
その後、Nガス雰囲気中で600℃~1000℃で再酸化処理を行う。この工程により、酸素欠陥濃度が減少する。
【0045】
(外部電極形成工程)
その後、外部電極20a,20bの下地層上に、めっき処理により、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行う。以上の行程により、積層セラミックコンデンサ100が完成する。
【0046】
本実施形態に係る製造方法によれば、上記式(1)および上記式(2)の関係を満たすセラミック原料粉末を用いている。これらの関係を満たすセラミック原料粉末を用いて積層セラミックコンデンサ100を作製することで、セラミック原料粉末において、焼成/熱処理雰囲気による還元/酸化の影響を受け易い外縁部のドナー作用を十分に高くすることができ、酸素欠陥量を低減することができる。また、セラミック原料粉末中心部において、アクセプタ作用を十分に高くすることができ、絶縁性向上効果も得られる。したがって、ドナー作用およびアクセプタ作用の両方を得ることができる。その結果、寿命と絶縁性のバランスの良い、信頼性に優れた積層セラミックコンデンサ100の製造が可能となる。
【0047】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0048】
10 積層チップ
11 誘電体層
12 内部電極層
13 カバー層
20a,20b 外部電極
100 積層セラミックコンデンサ
図1
図2
図3