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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】記録条件の決定方法および記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
B41J2/01 213
B41J2/01 451
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019155539
(22)【出願日】2019-08-28
(65)【公開番号】P2021030652
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】藤田 徹
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-148989(JP,A)
【文献】特開平10-337864(JP,A)
【文献】特開2003-34063(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0210888(US,A1)
【文献】特開2011-11382(JP,A)
【文献】特開2017-170719(JP,A)
【文献】特開2010-269522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルを有する記録ヘッドを主走査方向に移動させながら前記ノズルから記録媒体へ液体のドットを吐出する主走査と、前記記録媒体を前記主走査方向と交差する副走査方向へ搬送する副走査と、により前記記録媒体への記録を行う記録装置による記録条件の決定方法であって、
前記記録媒体の一部領域に対して複数回の前記主走査を重ねて実行するオーバーラップ処理によってパッチを前記記録媒体へ記録する工程であって、前記記録装置が実行する一つの記録ジョブの中で、記録条件が異なる複数種類の前記オーバーラップ処理により前記副走査方向において異なる複数の位置に、前記主走査方向において一様な記録条件の前記パッチを記録するパッチ記録工程と、
前記パッチが記録される前記一部領域に対して前記副走査方向に隣り合う非オーバーラップ領域に、一回の主走査で一個の前記ノズルによって記録される少なくとも一つのラスターラインを記録する非オーバーラップ領域記録工程と、
記録された複数の前記パッチの中からパッチの選択を受け付ける選択受付工程と、
前記受け付けた選択にかかるパッチに対応する前記オーバーラップ処理の記録条件を、本記録の前記オーバーラップ処理の記録条件として決定する決定工程と、を備えることを特徴とする記録条件の決定方法。
【請求項2】
前記パッチ記録工程では、先に実行する前記主走査である先行主走査と前記先行主走査の次の前記主走査である後行主走査との間の前記副走査による前記記録媒体の搬送距離を異ならせることにより、前記パッチ毎の前記オーバーラップ処理の記録条件を異ならせる、ことを特徴とする請求項1に記載の記録条件の決定方法。
【請求項3】
前記パッチ記録工程では、前記主走査による前記記録ヘッドの移動速度を異ならせることにより、前記パッチ毎の前記オーバーラップ処理の記録条件を異ならせる、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の記録条件の決定方法。
【請求項4】
前記パッチ記録工程では、前記パッチの記録に使用する前記副走査方向における前記ノズルの範囲であるオーバーラップノズル範囲を異ならせることにより、前記パッチ毎の前記オーバーラップ処理の記録条件を異ならせる、ことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載の記録条件の決定方法。
【請求項5】
前記パッチ記録工程では、前記本記録のために指定された記録データに基づいて前記パッチを記録する、ことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかに記載の記録条件の決定方法。
【請求項6】
前記パッチ記録工程では、前記本記録のために指定された記録媒体へ前記パッチを記録する、ことを特徴とする請求項1~請求項5のいずれかに記載の記録条件の決定方法。
【請求項7】
選択受付工程では、前記パッチの位置関係に応じて選択対象のパッチを表示し、表示されたパッチの中からパッチの選択を受け付けることを特徴とする請求項1~請求項6のいずれかに記載の記録条件の決定方法。
【請求項8】
複数のノズルを有する記録ヘッドを主走査方向に移動させながら前記ノズルから記録媒体へ液体のドットを吐出する主走査と、前記記録媒体を前記主走査方向と交差する副走査方向へ搬送する副走査と、により前記記録媒体への記録を行う記録装置であって、
前記主走査および前記副走査を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記記録媒体の一部領域に対して複数回の前記主走査を重ねて実行するオーバーラップ処理によってパッチを前記記録媒体へ記録する場合に、前記記録装置が実行する一つの記録ジョブの中で、記録条件が異なる複数種類の前記オーバーラップ処理により前記副走査方向において異なる複数の位置に、前記主走査方向において一様な記録条件の前記パッチを記録させ、
前記パッチが記録される前記一部領域に対して前記副走査方向に隣り合う非オーバーラップ領域に、一回の主走査で一個の前記ノズルによって記録される少なくとも一つのラスターラインを記録させ、
記録された複数の前記パッチの中からパッチの選択を受け付け、
前記受け付けた選択にかかるパッチに対応する前記オーバーラップ処理の記録条件を、本記録の前記オーバーラップ処理の記録条件として決定する、ことを特徴とする記録装置。
【請求項9】
複数のノズルを有する記録ヘッドを主走査方向に移動させながら前記ノズルから記録媒体へ液体のドットを吐出する主走査と、前記記録媒体を前記主走査方向と交差する副走査方向へ搬送する副走査と、により前記記録媒体への記録を行う記録装置による記録条件の決定方法であって、
前記記録媒体の一部領域に対して複数回の前記主走査を重ねて実行するオーバーラップ処理によってパッチを前記記録媒体へ記録する工程であって、前記記録装置が実行する一つの記録ジョブの中で、記録条件が異なる複数種類の前記オーバーラップ処理により前記副走査方向において異なる複数の位置に前記パッチを記録するパッチ記録工程と、
前記パッチが記録される前記一部領域に対して前記副走査方向に隣り合う非オーバーラップ領域に、一回の主走査で一個の前記ノズルによって記録される少なくとも一つのラスターラインを記録する非オーバーラップ領域記録工程と、
記録された複数の前記パッチの中からパッチの選択を受け付ける選択受付工程と、
前記受け付けた選択にかかるパッチに対応する前記オーバーラップ処理の記録条件を、本記録の前記オーバーラップ処理の記録条件として決定する決定工程と、を備え、
前記パッチ記録工程では、先に実行する前記主走査である先行主走査と前記先行主走査の次の前記主走査である後行主走査との間の時間であるインターバル時間を異ならせることにより、前記パッチ毎の前記オーバーラップ処理の記録条件を異ならせる、ことを特徴とする記録条件の決定方法。
【請求項10】
複数のノズルを有する記録ヘッドを主走査方向に移動させながら前記ノズルから記録媒体へ液体のドットを吐出する主走査と、前記記録媒体を前記主走査方向と交差する副走査方向へ搬送する副走査と、により前記記録媒体への記録を行う記録装置であって、
前記主走査および前記副走査を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記記録媒体の一部領域に対して複数回の前記主走査を重ねて実行するオーバーラップ処理によってパッチを前記記録媒体へ記録する場合に、前記記録装置が実行する一つの記録ジョブの中で、記録条件が異なる複数種類の前記オーバーラップ処理により前記副走査方向において異なる複数の位置に前記パッチを記録させ、
前記パッチが記録される前記一部領域に対して前記副走査方向に隣り合う非オーバーラップ領域に、一回の主走査で一個の前記ノズルによって記録される少なくとも一つのラスターラインを記録させ、
記録された複数の前記パッチの中からパッチの選択を受け付け、
前記受け付けた選択にかかるパッチに対応する前記オーバーラップ処理の記録条件を、本記録の前記オーバーラップ処理の記録条件として決定し、
前記パッチは、先に実行する前記主走査である先行主走査と前記先行主走査の次の前記主走査である後行主走査との間の時間であるインターバル時間を異ならせることにより、前記パッチ毎の前記オーバーラップ処理の記録条件を異ならせて記録される、ことを特徴とする記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置による記録条件の決定方法および記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を記録媒体へ吐出することにより記録媒体へ画像を形成するインクジェットプリンターが知られている。また、インクジェットプリンターであって、記録媒体の搬送方向と交差する移動方向へのヘッドの移動により記録媒体へ形成する画像であるバンドとバンドとの境界でバンド同士を一部重ねるように記録する構成が開示されている(特許文献1参照)。バンド同士を一部重ねるように記録する処理を、オーバーラップ処理とも言う。オーバーラップ処理を行うことにより、前記境界に、ヘッドの移動方向に沿った白筋が生じることを防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013‐144415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
記録媒体においてオーバーラップ処理により記録された領域と、オーバーラップ処理を適用せずに記録された領域とで濃度等の画質が異なると、それら領域間の画質の違いが記録画像内の濃度ムラや絵柄のずれ等として視認される。そのため、このような画質の相違を目立たなくさせる適切なオーバーラップ処理を用いる必要がある。しかしながら、前記画質の相違を抑える適切なオーバーラップ処理の記録条件を選択することは、ユーザーにとって容易ではない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
複数のノズルを有する記録ヘッドを主走査方向に移動させながら前記ノズルから記録媒体へ液体のドットを吐出する主走査と、前記記録媒体を前記主走査方向と交差する副走査方向へ搬送する副走査と、により前記記録媒体への記録を行う記録装置による記録条件の決定方法であって、前記記録媒体の一部領域に対して複数回の前記主走査を重ねて実行するオーバーラップ処理によってパッチを前記記録媒体へ記録する工程であって、前記記録装置が実行する一つの記録ジョブの中で、記録条件が異なる複数種類の前記オーバーラップ処理により前記副走査方向において異なる複数の位置に前記パッチを記録するパッチ記録工程と、記録された複数の前記パッチの中からパッチの選択を受け付ける選択受付工程と、前記受け付けた選択にかかるパッチに対応する前記オーバーラップ処理の記録条件を、本記録の前記オーバーラップ処理の記録条件として決定する決定工程と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】装置構成を簡易的に示すブロック図。
図2】ノズル列を有する記録ヘッドと記録媒体との関係性を示す図。
図3】記録条件の決定方法を示すフローチャート。
図4】標準のOL処理を含む記録処理を説明するための図。
図5】パッチ毎に搬送量が異なるOL処理を説明するための図。
図6】ドット振分マスクの例を示す図。
図7】パッチ毎にOLノズル範囲が異なるOL処理を含む記録処理を説明するための図。
図8】UI画面の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、各図を参照しながら本発明の実施形態を説明する。各図は、本実施形態を説明するための例示に過ぎない。各図は例示であるため、比率が正確でなかったり、互いに整合していなかったり、一部が省略されていたりする場合がある。
【0008】
1.装置の概略説明:
図1は、本実施形態にかかる記録装置10の構成を簡易的に示している。記録装置10を、液体吐出装置、印刷装置、プリンター、等と記載してもよい。記録装置10は「記録条件の決定方法」を実行する。記録装置10は、制御部11、表示部13、操作受付部14、記録ヘッド15、搬送部16、キャリッジ20等を備える。制御部11は、プロセッサーとしてのCPU11a、ROM11b、RAM11c等を有する一つ又は複数のICや、その他の不揮発性メモリー等を含んで構成される。
【0009】
制御部11では、プロセッサーつまりCPU11aが、ROM11bや、その他のメモリー等に保存されたプログラムに従った演算処理を、RAM11c等をワークエリアとして用いて実行することにより、記録装置10の各部を制御する。制御部11は、例えば、プログラムの一種であるファームウェア12に従った処理を実行する。なお、プロセッサーは、一つのCPUに限られることなく、複数のCPUや、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェア回路により処理を行う構成としてもよいし、CPUとハードウェア回路とが協働して処理を行う構成としてもよい。
【0010】
表示部13は、視覚的情報を表示するための手段であり、例えば、液晶ディスプレイや、有機ELディスプレイ等により構成される。表示部13は、ディスプレイと、ディスプレイを駆動するための駆動回路とを含む構成であってもよい。操作受付部14は、ユーザーによる操作を受け付けるための手段であり、例えば、物理的なボタンや、タッチパネルや、キーボードや、マウス等によって実現される。むろん、タッチパネルは、表示部13の一機能として実現されるとしてもよい。表示部13および操作受付部14を含めて、記録装置10の操作パネルと呼ぶことができる。また、表示部13や操作受付部14は、記録装置10の一部であってもよいし、記録装置10に外付けされた周辺機器であってもよい。
【0011】
搬送部16は、記録媒体を搬送するための機構である。搬送部16は、知られているように、記録媒体を搬送方向の上流から下流へ搬送するためのローラーや、ローラーを回転させるためのモーター等を含んでいる。記録媒体としては、用紙や、布生地や、その他の素材による媒体が用いられる。記録媒体として布生地を用いる記録装置10を、捺染プリンターと呼ぶことができる。
【0012】
記録ヘッド15は、インクジェット方式により液体を吐出して記録を行う。記録ヘッド15は、図2に例示するように、液体を吐出可能なノズル17を複数備え、搬送部16が搬送する記録媒体30に対して各ノズル17から液体を吐出する。液体とは、記録媒体30への記録に使用可能な液体全般を指す。以下では、液体をインクと呼ぶ。ノズル17が吐出するインクの滴を、ドットと呼ぶ。ただし、以下の説明では、ノズル17によりドットが吐出される前の制御部11による画像処理の中でも、ドットという表現を適宜用いる。制御部11は、各ノズル17が個々に備える不図示の駆動素子への駆動電圧の印加を、ドットオン・オフを規定するドットデータに従って制御することで、ノズル17からドットを吐出させたり吐出させなかったりする。
【0013】
図2は、複数のノズル列を有する記録ヘッド15を示している。また、図2は、記録ヘッド15と記録媒体30との関係性を簡易的に示している。記録ヘッド15を、液体吐出ヘッド、印刷ヘッド、印字ヘッド、等と記載してもよい。記録ヘッド15は、所定の方向D1および方向D1の逆方向である方向D2へ移動可能なキャリッジ20に搭載されており、キャリッジ20とともに移動する。つまり、制御部11は、キャリッジ20へ移動のための動力を与えるキャリッジモーターの駆動を制御することにより、記録ヘッド15を方向D1や方向D2へ移動させる。図1,2では、キャリッジモーターもキャリッジ20の一部であるとして、記載を簡略化している。
【0014】
方向D1,D2のいずれか一方を、主走査のプラス方向や往路方向等と呼び、方向D1,D2の他方を、主走査のマイナス方向や復路方向等と呼んでもよい。方向D1,D2をまとめて主走査方向とも呼ぶ。搬送部16は、記録媒体30を方向D1,D2と交差する方向D3へ搬送する。方向D3を、副走査方向あるいは搬送方向とも呼ぶ。ここでいう交差とは、直交を意味するが、厳密な直交だけでなく実際の部品取り付け精度等に起因して生じる程度の誤差を含む意味であってもよい。
【0015】
符号19は、記録ヘッド15におけるノズル17が開口するノズル面19を示している。図2では、ノズル面19における複数のノズル列の配置例を示している。記録ヘッド15は、記録装置10が搭載するインクカートリッジやインクタンク等と呼ばれる不図示の液体保持手段から各色のインクの供給を受けてノズル17から吐出する構成において、インク色毎のノズル列を備える。ノズル列は、ノズル17同士の方向D3に沿った間隔であるノズルピッチが一定とされた複数のノズル17であって、同色のインクを吐出する複数のノズル17により構成される。記録ヘッド15は、例えば、シアン(C)や、マゼンタ(M)や、イエロー(Y)や、ブラック(K)といった複数の色のインクを吐出する。
【0016】
図2の例では、記録ヘッド15は、Cインクを吐出する複数のノズル17によるノズル列18c、Mインクを吐出する複数のノズル17によるノズル列18m、Yインクを吐出する複数のノズル17によるノズル列18y、Kインクを吐出する複数のノズル17によるノズル列18kを備える。また、記録ヘッド15において、複数のノズル列18c,18m,18y,18kは、方向D1,D2に沿って並んでおり、方向D3において同じ位置に配設されている。図2の例では、複数のノズル列18c,18m,18y,18kそれぞれの長手方向は、方向D3と平行であるが、ノズル列の長手方向は、方向D3に対して傾いていてもよい。ノズル列の長手方向を、ノズル列方向とも呼ぶ。記録ヘッド15がインク色毎に有するノズル列の数は、図2に示したような1色につき1列ではなく、1色につき2列以上であってもよい。記録ヘッド15が吐出するインクの色はCMYKに限定されない。
【0017】
記録装置10は、記録ヘッド15を主走査方向に移動させながらノズル17から記録媒体30へドットを吐出する「主走査」と、記録媒体30を主走査方向と交差する副走査方向へ搬送する「副走査」とを交互に繰り返すことで、記録媒体30への記録を実現する。主走査をパスとも呼ぶ。
【0018】
これまでに説明した構成は、独立した一つの装置によって実現されるだけでなく、互いに通信可能に接続した情報処理装置とプリンターとによって実現されてもよい。情報処理装置とは、例えば、パーソナルコンピューター、スマートフォン、タブレット型端末、携帯電話機、サーバー或いはそれらと同程度の処理能力を有する装置である。つまり、制御部11等を含んだ記録制御装置としての情報処理装置と、記録ヘッド15やキャリッジ20や搬送部16等を含んだプリンターとによって、記録装置10が実現されてもよい。
【0019】
2.テスト記録:
図3は、制御部11がファームウェア12に従って実行する記録条件の決定方法を、フローチャートにより示している。図3のフローチャートは、ユーザーが操作受付部14を通じて記録装置10へ一回の「テスト記録」の実行を指示した場合に開始される。図3のフローチャートのうち、ステップS100~S130が一回のテスト記録に該当する。一回のテスト記録は、記録装置10が実行する一つの記録ジョブに該当する。記録ジョブを、プリントジョブと呼んでもよい。テスト記録は、記録すべき画像としてユーザーが任意に指定した記録画像を記録媒体30へ記録する別の記録ジョブである「本記録」よりも先に実行する記録処理である。テスト記録は、本記録において採用する最適なオーバーラップ処理を決定するために必要な記録処理である。オーバーラップ処理は、記録媒体30の一部領域に対して複数回の主走査を重ねて実行する処理である。以下、オーバーラップを「OL」と略す。
【0020】
ステップS100では、制御部11は、テスト記録に用いるテスト画像を表現した画像データである記録データを取得する。記録データは、例えば、各画素がRGB(レッド、グリーン、ブルー)毎の階調値を有するビットマップ形式のRGBデータである。あるいは、記録データは、各画素がCMYK毎の階調値を有するビットマップ形式のCMYKデータである。階調値は、例えば、0~255の256階調で表現される。記録データは、記録装置10がアクセス可能な記録装置10内外のメモリー等の記憶媒体に予め保存されており、制御部11は、記録データの保存先から記録データを取得する。
【0021】
テスト画像は、例えば、記録条件が異なる複数種類のOL処理により記録される複数のパッチの評価に適したものとして予め用意された、テスト記録に専用のパターン画像である。
あるいは、テスト画像は、本記録のために指定された記録データが表現する記録画像であってもよい。以下では、ステップS100に先んじて、ユーザーの操作受付部14の操作により、本記録のための記録データが指定されていると仮定する。そして、ステップS100では、制御部11は、本記録のために指定された記録データを、テスト記録のための記録データとして取得する。
【0022】
ステップS110では、制御部11は、記録データにハーフトーン処理を施す。ハーフトーン処理の具体的手法は特に問わず、例えば、ディザ法や誤差拡散法等を採用可能である。ハーフトーン処理により、記録データの各画素が有するCMYK毎の階調値が、記録ヘッド15が吐出可能なインク色毎のドットの吐出(ドットオン)又は非吐出(ドットオフ)を規定する情報へ変換される。ハーフトーン処理した後の記録データを、ドットデータと呼ぶ。ステップS100で取得した記録データが、RGBデータ等の、CMYKデータとは異なる表色系やフォーマットのデータである場合、制御部11は、記録データに対して必要に応じて色変換処理やフォーマット変換処理をしてCMYKデータとした上で、ハーフトーン処理を実行すればよい。
【0023】
上述したようにドットデータは、画素毎かつインク色毎にドットオン又はドットオフを規定するデータである。ただし、ドットデータは、ドットオフ、又は、複数サイズのドットのうちのいずれかのサイズのドットオンを規定したデータであってもよい。各ノズル17は、例えば、一滴あたりのサイズが相対的に異なる3種類のドットを吐出可能である。これら3種類のドットのうち、最もサイズが小さいドットを小ドットと呼び、小ドットの次にサイズが小さいドットを中ドットと呼び、最もサイズが大きいドットを大ドットと呼ぶ。このような状況において、ドットデータは、画素毎かつインク色毎にドットオフ、小ドットオン、中ドットオン、大ドットオンのいずれかを規定するデータであってもよい。
【0024】
ステップS120では、制御部11は、テスト画像内の複数の「パッチ」とOL処理の記録条件とを対応付ける。パッチとは、テスト画像を構成する一部の画像領域であり、OL処理により記録される画像領域である。ただし、パッチが記録媒体30に記録された結果についても便宜上、パッチと称して説明する。
【0025】
図4は、記録装置10によるOL処理を含む記録処理を説明するための図である。符号40は、ステップS100で取得した記録データを示している。記録データ40を構成する個々の矩形が各画素を表している。図4では、記録データ40と、方向D1,D2,D3との対応関係も併せて示している。図4を参照して説明するOL処理を、便宜上、標準のOL処理と呼ぶ。
【0026】
図4では、記録データ40の左に1つのノズル列18を記載することにより、記録データ40を構成する各画素とノズル列18を構成する各ノズル17との対応関係を併せて示している。ノズル列18は、ノズル列18c,18m,18y,18kのいずれか一つ、あるいは、ノズル列18c,18m,18y,18kを纏めて表現したもの、と解してよい。図4では、説明の便宜上、ノズル列18を構成する各ノズル17に、搬送方向D3の下流から上流に向かってノズル番号#1,#2,#3…#15を順に付記している。むろん、ノズル列18を構成するノズル17の数が15個であるのは例に過ぎない。
【0027】
ノズル列18の符号“18”とともに括弧書きで記載した符号P1は、記録データ40を記録するための1回目の主走査P1を表している。同様に、符号P2は、記録データ40を記録するための2回目の主走査P2を表し、符号P3は、記録データ40を記録するための3回目の主走査P3を表し、符号P4は、記録データ40を記録するための4回目の主走査P4を表している。つまり、図4では、ノズル列18を搬送方向D3に沿ってずらして複数箇所に記載することにより、記録データ40を記録するために複数回の主走査が実行される様子を示している。
【0028】
むろん、ノズル列18を有する記録ヘッド15は実際には搬送方向D3の上流へ移動せず、主走査と主走査との間に搬送部16が記録媒体30を搬送方向D3の下流へ所定距離だけ搬送することにより、図4に示した各回の主走査P1,P2,P3,P4時のノズル列18と記録データ40との相対的な位置関係が実現される。図4の例によれば、各回の主走査P1,P2,P3,P4は互いにノズルピッチの12倍の距離だけ搬送方向D3に沿ってずれている。つまり図4の例では、主走査と主走査との間の1回の副走査により、記録媒体30は、ノズルピッチの12倍の距離だけ搬送される。図4の例によるノズルピッチの12倍の距離を、標準の搬送距離と呼び、符号FD1で表す。このような副走査によれば、主走査P1においてノズル番号#13~#15の3個のノズル17により記録される記録媒体30の一部領域は、主走査P2においてノズル番号#1~#3の3個のノズル17により記録される。同様に、主走査P2においてノズル番号#13~#15のノズル17により記録される記録媒体30の一部領域は、主走査P3においてノズル番号#1~#3のノズル17により記録され、主走査P3においてノズル番号#13~#15のノズル17により記録される記録媒体30の一部領域は、主走査P4においてノズル番号#1~#3のノズル17により記録される。
【0029】
記録データ40のうち、主走査P1により記録される領域を第1バンド41と呼ぶ。同様に、記録データ40のうち、主走査P2により記録される領域を第2バンド42と呼び、主走査P3により記録される領域を第3バンド43と呼び、主走査P4により記録される領域を第4バンド44と呼ぶ。そして、バンドとバンドとが重複する領域が、OL処理により記録されるOL領域である。本実施形態では、このようなOL領域を「パッチ」と称する。便宜上、記録データ40のうち、第1バンド41と第2バンド42とが重複する領域を第1パッチ45と呼び、第2バンド42と第3バンド43とが重複する領域を第2パッチ46と呼び、第3バンド43と第4バンド44とが重複する領域を第3パッチ47と呼ぶ。図4から解るように標準のOL処理では、第1パッチ45は、主走査P1におけるノズル番号#13~#15の各ノズル17および主走査P2におけるノズル番号#1~#3の各ノズル17により記録される画像である。同様に、第2パッチ46は、主走査P2におけるノズル番号#13~#15の各ノズル17および主走査P3におけるノズル番号#1~#3の各ノズル17により記録される画像であり、第3パッチ47は、主走査P3におけるノズル番号#13~#15の各ノズル17および主走査P4におけるノズル番号#1~#3の各ノズル17により記録される画像である。
【0030】
各回の主走査により記録される各バンドのうち、OL処理が適用されない領域を非OL領域と呼ぶ。図4では、領域の区別を解り易くするために、記録データ40のうち非OL領域には細かな黒点の装飾を施し、各パッチには斜線の装飾を施している。これら装飾は、記録データ40が表現するテスト画像の内容ではない。
【0031】
ノズル番号#1~#3やノズル番号#13~#15の各ノズル17のように、OL処理に使用するノズル17を、「OLノズル」と呼ぶ。また、ノズル列18において搬送方向D3にOLノズルが連続する範囲を、「OLノズル範囲」と呼ぶ。むろん、搬送方向D3におけるノズル列18の両端部それぞれ3個のノズル17をOLノズルとする構成は一例に過ぎない。OLノズルに該当しない各ノズル17を「非OLノズル」と呼ぶ。
図4および後述の図5,7では、各主走査においてOLノズルに該当する各ノズル17を、グレー色で塗ることにより、解りやすく示している。一方、図4,5,7に白色の丸で示す各ノズル17は、そのときの主走査における非OLノズルである。
【0032】
記録データ40のうち、非OL領域を構成する各画素行は、1つの画素行が1回の主走査で1個の非OLノズルにより記録される。画素行とは、画素が方向D1,D2と平行に連続して並んでなる領域であり、ラスターラインとも言う。記録データ40のうち、パッチを構成する各ラスターラインは、1つのラスターラインが2回の主走査に分けて計2個のノズル17により記録される。例えば、第1パッチ45内で最も搬送方向D3の下流に位置するラスターラインは、各画素が主走査P1におけるノズル番号#13のノズル17と主走査P2におけるノズル番号#1のノズル17とに振り分けて記録される。1つのラスターラインを3回以上の主走査に分けて記録するOL処理も当然考えられるが、本実施形態では、1つのラスターラインを2回の主走査に分けて記録するOL処理を想定して説明を続ける。
【0033】
ステップS120では、制御部11は、標準のOL処理における、搬送距離FD1や、ノズル列18を構成するノズル17の数や、OLノズルの位置及び数に基づいて、記録データ40内のOL領域、すなわちパッチを特定する。制御部11は、特定した各パッチと、OL処理の異なる記録条件とを、一対一で対応付ける。記録条件の具体例については、後の各実施例で説明する。
【0034】
ステップS130では、制御部11は、ステップS110において記録データから変換したドットデータを、各回の主走査に対応する纏まり単位で記録ヘッド15へ順次出力する。また、制御部11は、ドットデータとともに、主走査および副走査を制御するために必要な各種コマンドを、記録ヘッド15や、搬送部16や、キャリッジ20を移動させるキャリッジモーターへ出力する。コマンドには、例えば、1回の副走査による記録媒体30の搬送距離を搬送部16へ指示するコマンド、キャリッジ20の移動を制御するコマンド、使用すべき記録媒体30を搬送部16へ指示するコマンド、等が含まれる。これらコマンドは、パッチ毎の異なる記録条件のOL処理を具体的に実現させるためのコマンドでもある。
【0035】
ドットデータの出力処理において、制御部11は、ドットデータのうち同一バンド内の非OL領域の画素は全て、同一の主走査に割り当てて出力する。例えば、第1バンド41内の非OL領域の画素は、全てが主走査P1に割り当てられて出力される。一方、ドットデータのうちパッチの画素については、制御部11は、当該パッチを記録する2回の主走査へ振り分ける。例えば、第1パッチ45のドットデータは、各ラスターラインの一部の画素が主走査P1の各OLノズルに振り分けられて出力され、各ラスターラインの残りの画素が主走査P2の各OLノズルに振り分けられて出力される。パッチの画素に関する各主走査への振り分けは、後述するドット振分マスク50を用いて行われる。
【0036】
ステップS130によるドットデータおよびコマンドの出力処理の結果、主走査と副走査とが繰り返し実行され、ステップS100で取得した記録データが表現するテスト画像がドットデータに基づいて、前記コマンドにより指示された記録媒体30へ記録される。この場合、当然にドットデータのうち各パッチは、OL処理によって記録される。このようなテスト記録は、OL処理によってパッチを記録媒体30へ記録する工程であって、記録条件が異なる複数種類のOL処理により副走査方向において異なる複数の位置にパッチを記録するパッチ記録工程、を含んでいる。
【0037】
搬送部16は、前記コマンドにより指示された記録媒体30を搬送経路の上流から給紙して搬送する。ステップS100に先んじて、ユーザーの操作受付部14の操作により、本記録のための記録媒体30の種類が指定されていると仮定する。そして、ステップS130では、制御部11は、前記コマンドの一種として、前記指定されている記録媒体30の種類を指示するコマンドを出力する。これにより、本記録に使用するものとしてユーザーが指定した記録媒体30と同じ種類の記録媒体30が、テスト記録に使用される。
【0038】
3.第1実施例:
OL処理の記録条件は、パッチを記録するための主走査と主走査との間の副走査による記録媒体30の搬送距離の違いにより、パッチ毎に異ならせることができる。
【0039】
図5は、第1実施例によるパッチ毎に搬送距離を異ならせたOL処理を説明するための図である。
図6は、ドット振分マスク50を例示している。先に、ドット振分マスク50について簡単に説明する。ドット振分マスク50は「0」または「1」の値を格納した画素を縦横に配列させたマスクである。制御部11は、ステップS130のドットデータの出力処理において、ドット振分マスク50を、ドットデータ内のパッチに重畳する。ドット振分マスク50をドットデータ内のパッチに重畳したとき、ドット振分マスク50の画素とパッチの画素とが一対一で重なる。制御部11は、パッチ内の画素のうち、ドット振分マスク50における「0」と重なる位置の画素を先行主走査へ振り分け、ドット振分マスク50における「1」と重なる位置の画素を後行主走査へ振り分ける。
【0040】
先行主走査とは、パッチを記録するための2回の主走査のうち先に実行される主走査であり、後行主走査とは、パッチを記録するための2回の主走査のうち後に実行される主走査である。第1パッチ45に注目すると、第1パッチ45を記録するための主走査P1および主走査P2のうち、主走査P1が先行主走査に該当し、主走査P2が後行主走査に該当する。同様に、第2パッチ46に注目すると、主走査P2が先行主走査に該当し、主走査P3が後行主走査に該当する。第3パッチ47に注目すると、主走査P3が先行主走査に該当し、主走査P4が後行主走査に該当する。
【0041】
ドット振分マスク50は、画素行内の「0」の比率が搬送方向D3の下流の画素行ほど高く、逆に、画素行内の「1」の比率が搬送方向D3の上流の画素行ほど高くなっている。ドット振分マスク50の特性によれば、パッチ内の画素のうち、先行主走査により記録されるバンドの非OL領域に近い位置の画素は、高い比率で先行主走査へ振り分けられ、後行主走査により記録されるバンドの非OL領域に近い位置の画素は、高い比率で後行主走査へ振り分けられる。
【0042】
ドット振分マスク50の画素行内の「0」と「1」との比率の合計は、画素行毎に100%である。図4に示した第1パッチ45、第2パッチ46、第3パッチ47が夫々3つのラスターラインからなることに倣い、図6では、ドット振分マスク50は3つの画素行からなる構成としている。ドット振分マスク50では、搬送方向D3の下流の画素行における「0」と「1」との比率は75%対25%であり、「0」の方が多い。また、ドット振分マスク50の3つの画素行のうち、中央の画素行における「0」と「1」との比率は50%対50%であり、搬送方向D3の上流の画素行における「0」と「1」との比率は25%対75%である。
【0043】
図5では、図4と同様に、ノズル列18を搬送方向D3に沿ってずらして複数箇所に記載することにより、複数回の主走査P1,P2,P3,P4が実行される様子を示している。図5において、主走査P1と主走査P2との間の副走査による記録媒体30の搬送距離は、図4と同様に搬送距離FD1である。しかしながら、図5において、主走査P2と主走査P3との間の記録媒体30の搬送距離は搬送距離FD2であり、主走査P3と主走査P4との間の記録媒体30の搬送距離は搬送距離FD3である。
【0044】
図4で説明した標準のOL処理によれば、副走査の度に記録媒体30を搬送距離FD1だけ搬送することにより、先行主走査でノズル番号#13~#15の各ノズル17であるOLノズルで記録した領域を、後行主走査でノズル番号#1~#3の各ノズル17であるOLノズルで記録する位置へ送ることができる。
【0045】
搬送距離FD2は、搬送距離FD1よりも短い。図5の例では、搬送距離FD2は、ノズルピッチの11倍の距離である。搬送距離FD3は、搬送距離FD1よりも長い。図5の例では、搬送距離FD3は、ノズルピッチの13倍の距離である。第1実施例では、制御部11は、ステップS120において、各パッチに対して、このような異なる搬送距離を対応付ける。一例として、制御部11は、第1パッチ45に搬送距離FD1を対応付け、第2パッチ46に搬送距離FD2を対応付け、第3パッチ47に搬送距離FD3を対応付ける。そして、ステップS130では、制御部11は、このように各パッチに対応付けた異なる搬送距離を搬送部16へ指示するコマンドを、上述の各種コマンドの一種として出力する。この結果、制御部11からのコマンドを受けた搬送部16は、パッチを含むバンドを記録するための先行主走査と次の後行主走査との間の副走査として、当該パッチに対応付けられた搬送距離に従った記録媒体30の搬送を実行する。
【0046】
図5では、更に、主走査P1,P2,P3,P4毎に示したノズル列18が重なる位置に対応させて、記録媒体30に記録されたパッチ45‐1,46‐1,47‐1を示している。第1パッチ45‐1は、記録データ40内の一部領域のデータである第1パッチ45がステップS130を経てOL処理により記録媒体30へ記録された結果である。第2パッチ46‐1は、記録データ40内の第2パッチ46がOL処理により記録媒体30へ記録された結果であり、第3パッチ47‐1は、記録データ40内の第3パッチ47がOL処理により記録媒体30へ記録された結果である。図5では、記録データ40内のうちの非OL領域の記録結果は、第2パッチ46‐1に含まれる部分を除いて図示を省略している。
【0047】
第1パッチ45‐1は、搬送方向D3に並んだ3つのラスターラインRL1,RL2,RL3によって構成されている。ラスターラインRL1,RL2,RL3等は、記録データ40内のパッチを構成する各ラスターラインが記録媒体30へ記録された結果であるが、図5に関しては、このような記録結果についてもラスターラインと称する。これまでの説明から解るように、第1パッチ45‐1は、主走査P1におけるノズル番号#13~#15の各ノズル17によるインク吐出と、標準の搬送距離である搬送距離FD1による記録媒体30の搬送と、主走査P2におけるノズル番号#1~#3の各ノズル17によるインク吐出と、によって記録媒体30上に再現された画像である。また、記録データ40内の第1パッチ45は、ドット振分マスク50によって、各画素が主走査P1と主走査P2とに振り分けられている。
【0048】
従って、第1パッチ45‐1を構成するラスターラインRL1は、ドットデータの状態でこれを構成していた画素のうち75%の画素が主走査P1のノズル番号#13のノズル17に振り分けられ、残りの25%の画素が主走査P2のノズル番号#1のノズル17に振り分けられた結果記録された画像である。また、ラスターラインRL2は、ドットデータの状態でこれを構成していた画素のうち50%の画素が主走査P1のノズル番号#14のノズル17に振り分けられ、残りの50%の画素が主走査P2のノズル番号#2のノズル17に振り分けられた結果記録された画像である。また、ラスターラインRL3は、ドットデータの状態でこれを構成していた画素のうち25%の画素が主走査P1のノズル番号#15のノズル17に振り分けられ、残りの75%の画素が主走査P2のノズル番号#3のノズル17に振り分けられた結果記録された画像である。図5では、各ラスターラインの隣に、先行主走査に振り分けた画素の比率と後行主走査に振り分けた画素の比率とを括弧書きで記している。
【0049】
一方、第2パッチ46‐1は、搬送方向D3に並んだ4つのラスターラインRL4,RL5,RL6,RL7によって構成されている。第2パッチ46‐1は、主走査P2におけるノズル番号#12~#15の各ノズル17によるインク吐出と、搬送距離FD2による記録媒体30の搬送と、主走査P3におけるノズル番号#1~#4の各ノズル17によるインク吐出と、によって記録媒体30上に再現された画像である。記録データ40内の第2パッチ46は、ドット振分マスク50によって、各画素が主走査P2と主走査P3とに振り分けられている。
【0050】
搬送距離FD2は、搬送距離FD1よりもノズルピッチ1つ分短い。そのため、主走査P2において非OLノズルであるノズル番号#12のノズル17によって記録された記録媒体30上の位置が、主走査P3において、OLノズルであるノズル番号#1のノズル17によって重ねて記録される。非OLノズルであるノズル番号#12のノズル17に対しては、記録データ40内の非OL領域に含まれる1つのラスターラインを構成する全画素が割り当てられている。一方、OLノズルであるノズル番号#1のノズル17に対しては、記録データ40内のパッチに含まれる1つのラスターラインを構成する画素のうち25%の画素が、ドット振分マスク50により振り分けられている。従って、結果的にラスターラインRL4を記録することになる、主走査P2におけるノズル番号#12のノズル17および主走査P3におけるノズル番号#1のノズル17に対する、画素の振り分け比率の合計は、100%+25%=125%となる。
【0051】
OLノズルであるノズル番号#13のノズル17に対しては、記録データ40内のパッチに含まれる1つのラスターラインを構成する画素のうち75%の画素が、ドット振分マスク50により振り分けられている。そして、OLノズルであるノズル番号#2のノズル17に対しては、記録データ40内のパッチに含まれる1つのラスターラインを構成する画素のうち50%の画素が、ドット振分マスク50により振り分けられている。従って、結果的にラスターラインRL5を記録することになる、主走査P2におけるノズル番号#13のノズル17および主走査P3におけるノズル番号#2のノズル17に対する、画素の振り分け比率の合計は、75%+50%=125%となる。
【0052】
同様に、結果的にラスターラインRL6を記録することになる、主走査P2におけるノズル番号#14のノズル17および主走査P3におけるノズル番号#3のノズル17に対する、画素の振り分け比率の合計は、50%+75%=125%となる。
また、ノズル番号#4のノズル17は、非OLノズルである。従って、結果的にラスターラインRL7を記録することになる、主走査P2におけるノズル番号#15のノズル17および主走査P3におけるノズル番号#4のノズル17に対する、画素の振り分け比率の合計は、25%+100%=125%となる。
このように、ステップS120において搬送距離FD1よりも短い搬送距離FD2が対応付けられた第2パッチ46は、搬送距離FD1が対応付けられた第1パッチ45と比較して、各ラスターラインが多くのドットで記録され易く、記録結果としての第2パッチ46‐1は、第1パッチ45‐1よりも濃くなり易い。
【0053】
第3パッチ47‐1は、搬送方向D3に並んだ4つのラスターラインRL8,RL9,RL10,RL11によって構成されている。第3パッチ47‐1は、主走査P3におけるノズル番号#13~#15の各ノズル17によるインク吐出と、搬送距離FD3による記録媒体30の搬送と、主走査P4におけるノズル番号#1~#3の各ノズル17によるインク吐出と、によって記録媒体30上に再現された画像である。記録データ40内の第3パッチ47は、ドット振分マスク50によって、各画素が主走査P3と主走査P4とに振り分けられている。
【0054】
搬送距離FD3は、搬送距離FD1よりもノズルピッチ1つ分長い。そのため、主走査P3においてOLノズルであるノズル番号#14のノズル17によって記録された記録媒体30上の位置が、主走査P4において、OLノズルであるノズル番号#1のノズル17によって重ねて記録される。これは、主走査P3においてOLノズルであるノズル番号#13のノズル17によって記録された記録媒体30上の位置が、主走査P4において重ねて記録されないことを意味する。OLノズルであるノズル番号#13のノズル17に対しては、記録データ40内のパッチに含まれる1つのラスターラインを構成する画素のうち75%の画素が、ドット振分マスク50により振り分けられている。従って、結果的に単独でラスターラインRL8を記録することになる、主走査P3におけるノズル番号#13のノズル17に対する画素の振り分け比率75%が、ラスターラインRL8の記録に関する画素の振り分け比率の合計となる。
【0055】
OLノズルであるノズル番号#14のノズル17に対しては、記録データ40内のパッチに含まれる1つのラスターラインを構成する画素のうち50%の画素が、ドット振分マスク50により振り分けられている。そして、OLノズルであるノズル番号#1のノズル17に対しては、記録データ40内のパッチに含まれる1つのラスターラインを構成する画素のうち25%の画素が、ドット振分マスク50により振り分けられている。従って、結果的にラスターラインRL9を記録することになる、主走査P3におけるノズル番号#14のノズル17および主走査P4におけるノズル番号#1のノズル17に対する、画素の振り分け比率の合計は、50%+25%=75%となる。
【0056】
同様に、結果的にラスターラインRL10を記録することになる、主走査P3におけるノズル番号#15のノズル17および主走査P4におけるノズル番号#2のノズル17に対する、画素の振り分け比率の合計は、25%+50%=75%となる。
また、結果的に単独でラスターラインRL11を記録することになる、主走査P4におけるノズル番号#3のノズル17に対する画素の振り分け比率75%が、ラスターラインRL11の記録に関する画素の振り分け比率の合計となる。
このように、ステップS120において搬送距離FD1よりも長い搬送距離FD3が対応付けられた第3パッチ47は、搬送距離FD1が対応付けられた第1パッチ45と比較して、各ラスターラインが少ないドットで記録され易く、記録結果としての第3パッチ47‐1は、第1パッチ45‐1よりも薄くなり易い。
【0057】
4.第2実施例:
OL処理の記録条件は、主走査と主走査との間の時間であるインターバル時間の相違により、パッチ毎に異ならせることができる。
第2実施例および後述の第3実施例については、標準のOL処理を前提とし、それに対して補うべき説明を以下にする。
【0058】
インターバル時間は、例えば、先行主走査が終了してから後行主走査を開始するまでの時間と定義できる。インターバル時間は、先行主走査によって記録媒体30へ吐出されたドットを後行主走査が実行される前に乾燥させる乾燥時間である。インターバル時間は、搬送部16が実行する1回の副走査に要する時間以上に設定されている。乾燥時間の違いは、OL処理で記録されるパッチの画質の違いとなって表れる。
【0059】
第2実施例では、制御部11は、ステップS120において、各パッチに対して、異なるインターバル時間を対応付ける。制御部11は、第1パッチ45に第1インターバル時間を対応付け、第2パッチ46に第2インターバル時間を対応付け、第3パッチ47に第3インターバル時間を対応付ける。例えば、第1インターバル時間<第2インターバル時間<第3インターバル時間、である。
【0060】
そして、ステップS130では、制御部11は、このように各パッチに対応付けた異なるインターバル時間をキャリッジモーターおよび記録ヘッド15へ指示するコマンドを、上述の各種コマンドの一種として出力する。この結果、制御部11からのコマンドを受けたキャリッジモーターおよび記録ヘッド15は、あるパッチを含むバンドを記録するための先行主走査の終了後、当該パッチに対応付けられたインターバル時間が経過したタイミングで、キャリッジ20の移動と記録ヘッド15の駆動とを開始することにより次の主走査を開始する。
【0061】
5.第3実施例:
OL処理の記録条件は、主走査による記録ヘッド15の移動速度の相違により、パッチ毎に異ならせることができる。記録ヘッド15の移動速度とは、キャリッジ20の移動速度と同義である。記録ヘッド15の移動速度の違いは、OL処理で記録されるパッチの画質の違いとなって表れる。
【0062】
第3実施例では、制御部11は、ステップS120において、記録データ40を記録するための複数回の主走査の夫々についてキャリッジ20の移動速度を設定する。このとき、制御部11は、少なくとも一部の主走査について他の主走査と異なる移動速度を設定することにより、先行主走査の移動速度と後行主走査の移動速度との組み合わせが、パッチ毎に異なるようにする。言い換えると、第3実施例のステップS120では、制御部11は、パッチ毎に、先行主走査の移動速度と後行主走査の移動速度との組み合わせを異ならせて対応付ける。
【0063】
例えば、制御部11は、主走査P1に対して第1移動速度を設定し、主走査P2に対して第1移動速度を設定し、主走査P3に対して第2移動速度を設定し、主走査P4に対して第2移動速度を設定する。第1移動速度<第2移動速度、であるとする。この場合、記録データ40内の第1パッチ45は、第1移動速度の主走査P1と、同じ第1移動速度の主走査P2とにより記録されることになる。また、第2パッチ46は、第1移動速度の主走査P2と、第1移動速度より速い第2移動速度の主走査P3とにより記録されることになる。また、第3パッチ47は、第2移動速度の主走査P3と、同じ第2移動速度の主走査P4とにより記録されることになる。
【0064】
ステップS130では、制御部11は、このように各回の主走査に対して設定したキャリッジ20の移動速度をキャリッジモーターおよび記録ヘッド15へ指示するコマンドを、上述の各種コマンドの一種として出力する。この結果、制御部11からのコマンドを受けたキャリッジモーターおよび記録ヘッド15は、各回の主走査を、主走査に対して設定された移動速度にて実行する。記録ヘッド15は、1画素の記録に要するノズル17の駆動時間、言い換えると単位時間あたりのノズル17の駆動頻度の設定を、キャリッジ20の移動速度に応じて変更する。これにより、キャリッジ20の移動速度に拘わらず各回の主走査期間において主走査方向に所定の解像度でドットを記録できるようにする。
【0065】
6.第4実施例:
OL処理の記録条件は、パッチの記録に使用するOLノズル範囲の相違により、パッチ毎に異ならせることができる。これまでの説明では、ノズル列18におけるOLノズル範囲は固定されていた。これに対して、第4実施例では、OLノズル範囲を可変とする。また、第4実施例や上述の第1実施例は、標準のOL処理と異なり、副走査毎の記録媒体30の搬送距離が一定ではない。
【0066】
図7は、第4実施例のOL処理を含む記録処理を説明するための図である。図7の見方は、図4の見方と同様である。図7に関しては、主に図4との違いを説明する。
第4実施例では、制御部11は、ステップS120において、記録データ40を記録するための複数回の主走査の夫々について、先行主走査として使用するOLノズル範囲や後行主走査として使用するOLノズル範囲を決定する。ここでは、ノズル番号#1~#3のノズル17を第1ノズル群(#1~#3)と称し、ノズル番号#13~#15のノズル17を第2ノズル群(#13~#15)と称する。また、ノズル番号#4~#6のノズル17を第3ノズル群(#4~#6)と称し、ノズル番号#10~#12のノズル17を第4ノズル群(#10~#12)と称する。
【0067】
例えば、制御部11は、主走査P1を先行主走査としてパッチを記録するためのOLノズル範囲を、第4ノズル群(#10~#12)に決定し、主走査P2を後行主走査としてパッチを記録するためのOLノズル範囲を、第1ノズル群(#1~#3)に決定する。また、制御部11は、主走査P2を先行主走査としてパッチを記録するためのOLノズル範囲を、第2ノズル群(#13~#15)に決定し、主走査P3を後行主走査としてパッチを記録するためのOLノズル範囲を、第1ノズル群(#1~#3)に決定する。また、制御部11は、主走査P3を先行主走査としてパッチを記録するためのOLノズル範囲を、第2ノズル群(#13~#15)に決定し、主走査P4を後行主走査としてパッチを記録するためのOLノズル範囲を、第3ノズル群(#4~#6)に決定する。
【0068】
このような主走査の夫々についてのOLノズル範囲の決定は、パッチを記録するための先行主走査および後行主走査におけるOLノズル範囲の組み合わせを、パッチ毎に異ならせて対応付ける処理と言える。図7では、×を付したノズル17は、そのときの主走査において記録に使用されない不使用ノズルである。制御部11は、ステップS130のドットデータの出力処理において、不使用ノズルに対してはドットデータを出力しない。
【0069】
第3ノズル群(#4~#6)がOLノズル範囲とされる主走査では、ノズル列18において第3ノズル群よりも端の第1ノズル群(#1~#3)は不使用ノズルとなる。また、第4ノズル群(#10~#12)がOLノズル範囲とされる主走査では、ノズル列18において第4ノズル群よりも端の第2ノズル群(#13~#15)は不使用ノズルとなる。
【0070】
このように主走査の夫々についてOLノズル範囲を決定した制御部11は、ステップS120では、各回の副走査による搬送距離も併せて決定する。図7の例によれば、制御部11は、主走査P1の第4ノズル群(#10~#12)と主走査P2の第1ノズル群(#1~#3)とによって第1パッチ45を記録するために、主走査P1と主走査P2との間の副走査の搬送距離として搬送距離FD4を決定する。同様に、制御部11は、主走査P2と主走査P3とによって第2パッチ46を記録するために、主走査P2と主走査P3との間の副走査の搬送距離として搬送距離FD1を決定する。また、主走査P3と主走査P4とによって第3パッチ47を記録するために、主走査P3と主走査P4との間の副走査の搬送距離として搬送距離FD4を決定する。図7の例では、搬送距離FD4は、ノズルピッチの9倍の距離である。制御部11は、主走査の夫々に対して決定したOLノズル範囲や、OLノズル範囲に応じて決定した副走査毎の搬送距離等に基づいて、記録データ40内のOL領域すなわちパッチを特定する。
【0071】
ステップS130では、制御部11は、ドットデータのうちパッチを構成する画素については、当該パッチを記録するために上述のように主走査毎に決定したOLノズル範囲の各ノズル17へ、各主走査のタイミングで振り分けて出力する。また、制御部11は、主走査毎のOLノズル範囲に応じて上述のように決定した副走査毎の搬送距離を、コマンドとして搬送部16へ指示する。この結果、図7に示したようなOL処理を含むテスト記録が記録媒体30に対して実行される。各ノズル17によるインク吐出の特性は均一ではない。そのため、パッチを記録するためのOLノズル範囲をパッチ毎に異ならせることにより、記録媒体30に記録された各パッチの画質に違いが生じる。
【0072】
7.第5実施例:
第1~第4実施例を組み合わせた構成も当然に本実施形態に含まれる。
つまり、制御部11は、OL処理の記録条件の具体的な項目である、副走査の搬送距離、インターバル時間、記録ヘッド15の移動速度、OLノズル範囲のうちの2種類以上の項目をパッチ毎に異ならせて、複数のパッチを記録する一回のテスト記録を実行してもよい。
【0073】
8.パッチの選択及び記録条件の決定:
図3のフローチャートの続きを説明する。
制御部11は、記録された複数のパッチの中からパッチの選択を受け付ける(ステップS140)。ステップS140は、選択受付工程に該当する。
【0074】
図8は、パッチの選択を受け付けるためのユーザーインターフェイス(UI)画面70の例を示している。テスト記録の後、制御部11は、表示部13にUI画面70を表示させる。UI画面70には、画質が良好なパッチを選択すべき旨のメッセージや、テスト画像71が表示される。テスト画像71は、ステップS100で取得した記録データが表現する画像であり、図4図7の例に従えば、記録データ40を表示部13に描画させた結果である。また、制御部11は、UI画面70のテスト画像71内に、ユーザーが各パッチを認識し易いように、各パッチに該当する領域を示す複数の枠を表示したり、それら各パッチを識別するための符号や文字列を表示したりしてもよい。
【0075】
図8の例では、テスト画像71内には、3個のパッチを示す3個の枠と、これら3個のパッチを示す符号A,B,Cとが表示されている。これまでの例によると、パッチAは、第1パッチ45に該当する。同様に、パッチBは第2パッチ46に該当し、パッチCは第3パッチ47に該当する。むろん、一回のテスト記録によって搬送方向D3に沿って異なる位置に記録されるパッチの数は3より多くてもよい。
【0076】
ユーザーは、記録装置10によって出力された記録媒体30におけるテスト画像の記録結果を視認して最も画質が良好なパッチを選び、この選んだパッチをUI画面70内で選択する操作を、操作受付部14を通じて行う。ユーザーは、記録結果における画質が最も良好なパッチを選択する操作として、例えば、当該パッチに対応するテスト画像71内の1つのパッチの表示をクリックしたりタッチしたりする。画質が良好なパッチとは、パッチではない領域つまり非OL領域との濃度差や絵柄のずれ等の画質差が少ないパッチである。なお、UI画面70は、テスト記録の結果からユーザーが所望のパッチを選択する操作を受け付けるためのUI画面であればよく、デザインは図8に示した態様に限定されない。
【0077】
ステップS150では、制御部11は、ステップS140で付けた選択にかかるパッチに対応するOL処理の記録条件を、本記録のOL処理の記録条件として決定する。ステップS150は、決定工程に該当する。例えば、ステップS140では、制御部11は、UI画面70のテスト画像71内におけるパッチBの選択を受け付けたとする。この場合、制御部11は、パッチB、つまり第2パッチ46にステップS120で対応付けたOL処理の記録条件を、本記録に採用するOL処理の記録条件として決定し、決定した記録条件を記憶する。すなわち、ステップS120において、第2パッチ46に対応付けた、搬送距離や、インターバル時間や、記録ヘッド15の移動速度や、OLノズル範囲を、OL処理の記録条件として記憶する。
【0078】
なお、OL処理の記録条件の各種項目のうち、テスト記録においてパッチ毎に異ならせていない項目については、テスト記録、本記録のいずれにおいても所定のデフォルト設定が自動的に採用される。搬送距離のデフォルト設定は搬送距離FD1であり、OLノズル範囲のデフォルト設定は第1ノズル群および第2ノズル群である。また、例えば、インターバル時間のデフォルト設定は第2インターバル時間であり、記録ヘッド15の移動速度のデフォルト設定は第1移動速度である。制御部11は、過去の回のテスト記録に基づいて決定したOL処理の記録条件を記憶済みである場合には、その記録条件に対して、今回のテスト記録に基づいて決定したOL処理の記録条件を上書きすればよい。以上で、図3のフローチャートが終了する。
【0079】
制御部11は、ユーザーからの指示に応じて、本記録、つまりテスト記録ではない通常の記録を実行する場合、その時点で記憶しているOL処理の記録条件を採用して、本記録のための記録データに基づく記録画像の記録を実行する。これにより、ユーザーは、本記録の記録結果として、非OL領域とOL領域との画質差が無いか殆ど無い良好な記録結果を得ることができる。
【0080】
なお、本実施形態は、記録ヘッド15が往路方向の主走査と復路方向の主走査とを組み合わせた双方向記録を実行する構成であってもよいし、いずれか一方の方向のみの主走査による単方向記録を実行する構成であってもよい。
【0081】
9.まとめ:
このように本実施形態によれば、複数のノズル17を有する記録ヘッド15を主走査方向に移動させながらノズル17から記録媒体30へ液体のドットを吐出する主走査と、記録媒体30を主走査方向と交差する副走査方向へ搬送する副走査と、により記録媒体30への記録を行う記録装置10による記録条件の決定方法は、記録媒体30の一部領域に対して複数回の主走査を重ねて実行するOL処理によってパッチを記録媒体30へ記録する工程であって、記録装置10が実行する一つの記録ジョブの中で、記録条件が異なる複数種類のOL処理により副走査方向において異なる複数の位置にパッチを記録するパッチ記録工程と、記録された複数のパッチの中からパッチの選択を受け付ける選択受付工程と、受け付けた選択にかかるパッチに対応するOL処理の記録条件を、本記録のOL処理の記録条件として決定する決定工程と、を備える。
【0082】
前記構成によれば、パッチ記録工程の結果、記録媒体30に、記録条件が異なる複数種類のOL処理による複数のパッチが、副走査方向に並んで記録される。従って、ユーザーは、記録された複数のパッチを容易に見比べて画質が良好なパッチを選択し、本記録に採用すべき適切なOL処理の記録条件を記録装置10に決定させることができる。また、記録条件が異なる複数種類のOL処理をテストするために消費する記録媒体30の量を節約することができる。また、一回の記録ジョブで記録条件が異なる複数種類のOL処理をテストすることができるため、ユーザーは、本記録に採用すべき適切なOL処理を決定するまでに、テスト記録としてのジョブを記録装置10に繰り返し実行させる必要が無い。
【0083】
また、第1実施例によれば、パッチ記録工程では、先行主走査と後行主走査との間の副走査による記録媒体30の搬送距離を異ならせることにより、パッチ毎のOL処理の記録条件を異ならせる。
前記構成によれば、パッチを記録するための先行主走査と後行主走査との間の記録媒体30の搬送距離をパッチ毎に異ならせることにより、OL処理の記録条件が異なる複数のパッチを副走査方向に並べて記録することができる。
【0084】
また、第2実施例によれば、パッチ記録工程では、先行主走査と後行主走査との間の時間であるインターバル時間を異ならせることにより、パッチ毎のOL処理の記録条件を異ならせる。
前記構成によれば、先行主走査と後行主走査との間のインターバル時間をパッチ毎に異ならせることにより、OL処理の記録条件が異なる複数のパッチを副走査方向に並べて記録することができる。
【0085】
また、第3実施例によれば、パッチ記録工程では、主走査による記録ヘッド15の移動速度を異ならせることにより、パッチ毎のOL処理の記録条件を異ならせる。
前記構成によれば、先行主走査および後行主走査の記録ヘッド15の移動速度の組み合わせをパッチ毎に異ならせることにより、OL処理の記録条件が異なる複数のパッチを副走査方向に並べて記録することができる。
【0086】
また、第4実施例によれば、パッチ記録工程では、パッチの記録に使用する副走査方向におけるノズルの範囲であるOLノズル範囲を異ならせることにより、パッチ毎のOL処理の記録条件を異ならせる。
前記構成によれば、先行主走査および後行主走査のOLノズル範囲の組み合わせをパッチ毎に異ならせることにより、OL処理の記録条件が異なる複数のパッチを副走査方向に並べて記録することができる。
【0087】
本記録による記録画像の内容は、例えば、写真画、線画、塗り潰し絵など、様々であり、また、色使いも、比較的薄かったり濃かったりする。そして、このような記録画像の内容の違いにより、適切なOL処理の仕方も異なる。このような観点から、本実施形態の一つは、パッチ記録工程では、本記録のために指定された記録データに基づいてパッチを記録する。
前記構成によれば、パッチ記録工程では、本記録に使用する記録データと同じ記録データに基づいてパッチを記録するため、本記録に採用すべき適切なOL処理の記録条件を、ユーザーによるパッチの選択に従って決定することができる。
【0088】
吐出されたドットの定着や浸透の状態は、記録媒体30の種類や表面状態によって異なる。そのため、記録媒体30の種類や表面状態の違いにより、適切なOL処理の仕方も異なる。ここで言う、表面状態とは、記録媒体30に対して事前に行われた糊付け等の表面処理の違いや有無を指す。このような観点から、本実施形態の一つは、パッチ記録工程では、本記録のために指定された記録媒体30へパッチを記録する。
前記構成によれば、パッチ記録工程では、本記録に使用する記録媒体30と同じ記録媒体30へパッチを記録するため、本記録に採用すべき適切なOL処理の記録条件を、ユーザーによるパッチの選択に従って決定することができる。
ただし、本実施形態では、本記録に使用する記録媒体30が高価である等の理由で、本記録に使用する記録媒体30と種類や状態が類似した別の記録媒体30を、テスト記録に使用することも可能である。
【0089】
制御部11は、各パッチを主走査方向に沿って複数の小領域に分割することにより、テスト記録において、より多くのパッチを一回の記録ジョブで記録媒体30へ記録することができる。例えば、これまでに図示したような副走査方向において離れて記録される3つのパッチを夫々主走査方向に沿って3つの小領域へ分割すれば、計9個のパッチを記録することができる。この場合、制御部11は、主走査方向において位置が異なる各パッチについても、OL処理の記録条件を異ならせる。制御部11は、例えば、主走査方向において位置が異なるパッチ毎に、「0」、「1」の配列や比率が互いに異なるドット振分マスク50を適用して先行主走査と後行主走査とへの画素の振り分けをすればよい。あるいは、制御部11は、主走査方向において位置が異なるパッチ毎に、記録に使用するドットサイズを異ならせたり、ドット吐出のために各ノズル17の駆動素子へ印加する駆動電圧を異ならせたりしてもよい。
【0090】
つまり、パッチ記録工程は、記録条件が異なる複数種類のOL処理により副走査方向において異なる複数の位置および主走査方向において異なる複数の位置にパッチを記録する、としてもよい。一つの記録ジョブにおいて、記録条件が互いに異なるOL処理で記録する複数のパッチを記録媒体30に2次元状に配置することにより、記録媒体30の消費を節約しつつ、より多くのパッチの中からユーザーに画質良好なパッチを選択させることができる。
【0091】
本実施形態は、記録条件の決定方法に限らず、この方法を実行する装置や、この方法をハードウェアと協働して実現させるプログラム(ファームウェア12)や、プログラムを記憶したメモリーを提供する。
複数のノズル17を有する記録ヘッド15を主走査方向に移動させながらノズル17から記録媒体30へ液体のドットを吐出する主走査と、記録媒体30を主走査方向と交差する副走査方向へ搬送する副走査と、により記録媒体30への記録を行う記録装置10は、主走査および副走査を制御する制御部11を備え、制御部11は、記録媒体30の一部領域に対して複数回の主走査を重ねて実行するOL処理によってパッチを記録媒体30へ記録する場合に、記録装置10が実行する一つの記録ジョブの中で、記録条件が異なる複数種類のOL処理により副走査方向において異なる複数の位置にパッチを記録させ、記録された複数のパッチの中からパッチの選択を受け付け、受け付けた選択にかかるパッチに対応するOL処理の記録条件を、本記録のOL処理の記録条件として決定する。
【符号の説明】
【0092】
10…記録装置、11…制御部、12…ファームウェア、13…表示部、14…操作受付部、15…記録ヘッド、16…搬送部、17…ノズル、18,18c,18m,18y,18k…ノズル列、19…ノズル面、20…キャリッジ、30…記録媒体、40…記録データ、41…第1バンド、42…第2バンド、43…第3バンド、44…第4バンド、45…第1パッチ、46…第2パッチ、47…第3パッチ、50…ドット振分マスク、70…UI画面、71…テスト画像
図1
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図8