IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧

<>
  • 特許-工作機械の解析モデルの作成支援装置 図1
  • 特許-工作機械の解析モデルの作成支援装置 図2
  • 特許-工作機械の解析モデルの作成支援装置 図3
  • 特許-工作機械の解析モデルの作成支援装置 図4
  • 特許-工作機械の解析モデルの作成支援装置 図5
  • 特許-工作機械の解析モデルの作成支援装置 図6
  • 特許-工作機械の解析モデルの作成支援装置 図7
  • 特許-工作機械の解析モデルの作成支援装置 図8
  • 特許-工作機械の解析モデルの作成支援装置 図9
  • 特許-工作機械の解析モデルの作成支援装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】工作機械の解析モデルの作成支援装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/18 20060101AFI20240423BHJP
   G05B 19/4155 20060101ALI20240423BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20240423BHJP
   B23Q 17/12 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
G05B19/18 W
G05B19/4155 V
B23Q17/00 A
B23Q17/12
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019157844
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021036372
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 詩織
(72)【発明者】
【氏名】橋本 高明
(72)【発明者】
【氏名】松尾 優大
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-191618(JP,A)
【文献】特開2019-101680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18-19/416,19/42-19/46;
B23Q 15/00-15/28,17/00,17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械を構成する複数の構造体に対応する複数の構造体モデル要素と、前記複数の構造体モデル要素同士を支持しバネ要素及びダンパ要素を含む支持モデル要素と、を備える工作機械の解析モデルの作成支援装置であって、
実測値に基づいて得られた前記工作機械の振動の実動特性を記憶する実動特性記憶部と、
前記バネ要素のパラメータ及び前記ダンパ要素のパラメータを調整した場合に、前記バネ要素のパラメータ及び前記ダンパ要素のパラメータを調整した複数の前記解析モデルのそれぞれによる解析結果である振動の解析動特性を生成する解析動特性生成部と、
前記実動特性と少なくとも前記バネ要素のパラメータ調整した場合のそれぞれの前記解析動特性とにおける固有振動数の一致度を算出すると共に、前記実動特性と前記ダンパ要素のパラメータを調整した場合のそれぞれの前記解析動特性とにおける固有振動数の機械的コンプライアンスの一致度を算出する一致度算出部と、
前記実動特性、複数の前記解析動特性及び複数の前記固有振動数の一致度に基づいて、機械学習により前記固有振動数の一致度を高くするための少なくとも前記バネ要素のパラメータの調整量探索し、前記実動特性、複数の前記解析動特性及び複数の前記機械的コンプライアンスの一致度に基づいて、機械学習により前記機械的コンプライアンスの一致度を高くするための前記ダンパ要素のパラメータの調整量を探索し、前記バネ要素のパラメータ及び前記ダンパ要素のパラメータを決定するパラメータ決定部と、
を備える、工作機械の解析モデルの作成支援装置。
【請求項2】
前記支持モデル要素は、支持される前記構造体モデル要素の自由度が複数有するように前記複数の構造体モデル要素同士を支持する複数の前記バネ要素及び複数の前記ダンパ要素を含み、
前記解析動特性生成部は、複数の前記バネ要素のパラメータ及び複数の前記ダンパ要素のパラメータを調整した場合に、複数の前記バネ要素のパラメータ及び複数の前記ダンパ要素のパラメータを調整した複数の前記解析モデルのそれぞれによる解析結果である前記解析動特性を生成し、
前記一致度算出部は、
前記実動特性と少なくとも複数の前記バネ要素のパラメータ調整した場合のそれぞれの前記解析動特性とにおける前記固有振動数の一致度を算出すると共に、
前記実動特性と複数の前記ダンパ要素のパラメータを調整した場合のそれぞれの前記解析動特性とにおける前記機械的コンプライアンスの一致度を算出し、
前記パラメータ決定部は、
前記実動特性、複数の前記解析動特性及び複数の前記固有振動数の一致度に基づいて、機械学習により前記固有振動数の一致度を高くするための少なくとも複数の前記バネ要素のパラメータの調整量探索し、
前記実動特性、複数の前記解析動特性及び複数の前記機械的コンプライアンスの一致度に基づいて、機械学習により前記機械的コンプライアンスの一致度を高くするための複数の前記ダンパ要素のパラメータの調整量を探索し、
複数の前記バネ要素のパラメータ及び複数の前記ダンパ要素のパラメータを決定する、請求項1に記載の工作機械の解析モデルの作成支援装置。
【請求項3】
複数の前記構造体モデル要素は、3以上の前記構造体に対応する3以上の前記構造体モデル要素を含み、
前記支持モデル要素は、3以上の前記構造体モデル要素を構成する前記構造体モデル要素間を支持する複数の前記バネ要素及び複数の前記ダンパ要素を含み、
前記解析動特性生成部は、複数の前記バネ要素のパラメータ及び複数の前記ダンパ要素のパラメータを調整した場合に、複数の前記バネ要素のパラメータ及び複数の前記ダンパ要素のパラメータを調整した複数の前記解析モデルのそれぞれによる解析結果である前記解析動特性を生成し、
前記一致度算出部は、
前記実動特性と少なくとも複数の前記バネ要素のパラメータ調整した場合のそれぞれの前記解析動特性とにおける前記固有振動数の一致度を算出すると共に
前記実動特性と複数の前記ダンパ要素のパラメータを調整した場合のそれぞれの前記解析動特性とにおける前記機械的コンプライアンスの一致度を算出し、
前記パラメータ決定部は、
前記実動特性、複数の前記解析動特性及び複数の前記固有振動数の一致度に基づいて、機械学習により前記固有振動数の一致度を高くするための少なくとも複数の前記バネ要素のパラメータの調整量探索し、
前記実動特性、複数の前記解析動特性及び複数の前記機械的コンプライアンスの一致度に基づいて、機械学習により前記機械的コンプライアンスの一致度を高くするための複数の前記ダンパ要素のパラメータの調整量を探索し、
複数の前記バネ要素のパラメータ及び複数の前記ダンパ要素のパラメータを決定する、請求項1または2に記載の工作機械の解析モデルの作成支援装置。
【請求項4】
前記解析動特性生成部は、探索後の前記支持モデル要素のパラメータの調整量に応じて調整された前記支持モデル要素を用いて、前記解析動特性を繰り返し生成し、
前記一致度算出部は、前記実動特性と繰り返し生成された前記解析動特性との前記固有振動数の一致度及び前記機械的コンプライアンスの一致度を算出し、
前記パラメータ決定部は、繰り返し生成された前記解析動特性及び前記固有振動数の一致度及び前記機械的コンプライアンスの一致度に基づいて、繰り返し機械学習により前記支持モデル要素のパラメータの調整量を探索する、請求項1~の何れか1項に記載の工作機械の解析モデルの作成支援装置。
【請求項5】
前記実動特性記憶部は、実測値に基づいて得られた前記工作機械の振動の第一実動特性を記憶する第一実動特性記憶部を備え、
前記解析動特性生成部は、前記バネ要素のパラメータを調整した場合に、前記バネ要素のパラメータを調整した前記解析モデルのそれぞれによる解析結果である振動の第一解析動特性を生成する第一解析動特性生成部を備え、
前記一致度算出部は、前記第一実動特性とそれぞれの前記第一解析動特性との前記固有振動数の第一一致度を算出する第一一致度算出部を備え、
前記パラメータ決定部は、前記第一実動特性、複数の前記第一解析動特性及び複数の前記固有振動数の第一一致度に基づいて、機械学習により前記固有振動数の第一一致度を高くするための前記バネ要素のパラメータの調整量を探索し、前記バネ要素のパラメータを決定する第一パラメータ決定部を備える、請求項1~の何れか1項に記載の工作機械の解析モデルの作成支援装置。
【請求項6】
前記第一実動特性記憶部は、前記第一実動特性として、固有振動数とそれぞれの前記固有振動数における前記複数の構造体の動作モードとを含む実固有モードを記憶し、
前記第一解析動特性生成部は、前記バネ要素のパラメータを調整した場合に、複数の前記第一解析動特性として固有値解析結果の解析固有モードを生成し、
前記第一一致度算出部は、前記実固有モードとそれぞれの前記解析固有モードとの前記固有振動数の第一一致度として、対応する各動作モードにおける周波数一致度を算出し、
前記第一パラメータ決定部は、前記実固有モード、複数の前記解析固有モード及び複数の前記周波数一致度に基づいて、機械学習により前記周波数一致度を高くするための前記バネ要素のパラメータの調整量を探索し、前記バネ要素のパラメータを決定する、請求項に記載の工作機械の解析モデルの作成支援装置。
【請求項7】
前記実固有モードを構成する前記固有振動数は、加振付与時の実測値から得られた前記工作機械の周波数応答におけるピーク周波数であり、
前記実固有モードを構成する前記動作モードは、前記固有振動数における前記複数の構造体のそれぞれの加速度情報に基づいて特徴づけられた動作態様である、請求項に記載の工作機械の解析モデルの作成支援装置。
【請求項8】
前記実固有モードを構成する前記固有振動数は、実測値から得られた前記工作機械の周波数応答におけるピーク周波数であり、
前記実固有モードを構成する前記動作モードは、前記複数の構造体のそれぞれの加速度情報そのもの、又は、前記加速度情報の傾向である、請求項に記載の工作機械の解析モデルの作成支援装置。
【請求項9】
前記実動特性記憶部は、さらに、
実測値に基づいて得られた前記工作機械の振動の第二実動特性を記憶する第二実動特性記憶部を備え、
前記解析動特性生成部は、さらに、
前記バネ要素のパラメータが前記第一パラメータ決定部により決定された前記バネ要素のパラメータに基づいて設定された状態において、前記ダンパ要素のパラメータを調整した場合に、前記ダンパ要素のパラメータを調整した前記解析モデルのそれぞれによる解析結果である振動の第二解析動特性を生成する第二解析動特性生成部を備え、
前記一致度算出部は、さらに、
前記第二実動特性とそれぞれの前記第二解析動特性との前記機械的コンプライアンスの第二一致度を算出する第二一致度算出部を備え、
前記パラメータ決定部は、さらに、
前記第二実動特性、複数の前記第二解析動特性及び複数の前記機械的コンプライアンスの第二一致度に基づいて、機械学習により前記機械的コンプライアンスの第二一致度を高くするための前記ダンパ要素のパラメータの調整量を探索し、前記ダンパ要素のパラメータを決定する第二パラメータ決定部を備える、請求項に記載の工作機械の解析モデルの作成支援装置。
【請求項10】
前記第二実動特性記憶部は、前記第二実動特性として、前記工作機械の実周波数応答を記憶し、
前記第二解析動特性生成部は、前記ダンパ要素のパラメータを調整した場合に、複数の前記第二解析動特性としての解析周波数応答を生成し、
前記第二一致度算出部は、前記実周波数応答とそれぞれの前記解析周波数応答との前記機械的コンプライアンスの第二一致度として、対応する各共振周波数における応答一致度を算出し、
前記第二パラメータ決定部は、前記実周波数応答、複数の前記解析周波数応答及び複数の前記応答一致度に基づいて、機械学習により前記応答一致度を高くするための前記ダンパ要素のパラメータの調整量を探索し、前記ダンパ要素のパラメータを決定する、請求項に記載の工作機械の解析モデルの作成支援装置。
【請求項11】
前記解析動特性生成部は、前記支持モデル要素のパラメータ及び前記構造体モデル要素のパラメータを調整した場合に、前記解析モデルによる解析結果である前記解析動特性を生成し、
前記パラメータ決定部は、
前記実動特性、前記解析動特性前記固有振動数の一致度に基づいて、機械学習により前記固有振動数の一致度を高くするための前記バネ要素のパラメータの調整量及び前記構造体モデル要素のパラメータの調整量を探索し、
前記実動特性、複数の前記解析動特性及び複数の前記機械的コンプライアンスの一致度に基づいて、機械学習により前記機械的コンプライアンスの一致度を高くするための前記ダンパ要素のパラメータの調整量を探索し、
前記バネ要素のパラメータ、前記ダンパ要素のパラメータ及び前記構造体モデル要素のパラメータを決定する、請求項1-10の何れか1項に記載の工作機械の解析モデルの作成支援装置。
【請求項12】
前記構造体モデル要素は、剛体モデルである、請求項1-11の何れか1項に記載の工作機械の解析モデルの作成支援装置。
【請求項13】
前記構造体モデル要素は、弾性体モデルである、請求項1-11の何れか1項に記載の工作機械の解析モデルの作成支援装置。
【請求項14】
前記機械学習は、最適値を探索可能なアルゴリズムを適用する、請求項1-13の何れか1項に記載の工作機械の解析モデルの作成支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の解析モデルの作成支援装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、工作機械における工具を加振したときの振動を検出することにより、工作機械の動特性を算出することが記載されている。工作機械の動特性を得ることができれば、工作物の加工精度を良好にするための加工条件を決定することができたり、びびり振動等の原因を見つけることができたりする。
【0003】
特許文献2には、工作機械において加工中にびびり振動が検出された場合に、加工中に検出された振動加速度と構造体の固有振動数とに基づき、びびり振動の発生要因である振動源を推定する振動源推定装置が記載されている。
【0004】
ここで、工作機械の動特性は、例えば工具に力を付与した場合に、工具を含む工作機械の挙動を示すものである。そして、動特性は、構造体の質量、重心位置、構造体の支持構造におけるバネ定数(バネ要素のパラメータ)、減衰係数(ダンパ要素のパラメータ)等により表される。
【0005】
また、特許文献3には、工作機械の解析モデルを用いて、工作機械の振動状態の解析を行うことが記載されている。解析モデルの同定は、解析モデルによる解析結果と実際の結果とを比較することにより行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-005858号公報
【文献】特開2018-196909号公報
【文献】特開2015-188994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
振動解析の精度を高めるためには、解析モデルにおける質量、重心位置、バネ要素、ダンパ要素等のパラメータが高精度とする必要がある。しかしながら、解析モデルのパラメータを高精度にすることは容易ではない。
【0008】
本発明は、解析モデルのパラメータを容易に且つ高精度に決定することができる工作機械の解析モデルの作成支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明態様は、
工作機械を構成する複数の構造体に対応する複数の構造体モデル要素と、前記複数の構造体モデル要素同士を支持しバネ要素及びダンパ要素を含む支持モデル要素と、を備える工作機械の解析モデルの作成支援装置であって、
実測値に基づいて得られた前記工作機械の振動の実動特性を記憶する実動特性記憶部と、
前記バネ要素のパラメータ及び前記ダンパ要素のパラメータを調整した場合に、前記バネ要素のパラメータ及び前記ダンパ要素のパラメータを調整した複数の前記解析モデルのそれぞれによる解析結果である振動の解析動特性を生成する解析動特性生成部と、
前記実動特性と少なくとも前記バネ要素のパラメータ調整した場合のそれぞれの前記解析動特性とにおける固有振動数の一致度を算出すると共に、前記実動特性と前記ダンパ要素のパラメータを調整した場合のそれぞれの前記解析動特性とにおける固有振動数の機械的コンプライアンスの一致度を算出する一致度算出部と、
前記実動特性、複数の前記解析動特性及び複数の前記固有振動数の一致度に基づいて、機械学習により前記固有振動数の一致度を高くするための少なくとも前記バネ要素のパラメータの調整量探索し、前記実動特性、複数の前記解析動特性及び複数の前記機械的コンプライアンスの一致度に基づいて、機械学習により前記機械的コンプライアンスの一致度を高くするための前記ダンパ要素のパラメータの調整量を探索し、前記バネ要素のパラメータ及び前記ダンパ要素のパラメータを決定するパラメータ決定部と、
を備える、工作機械の解析モデルの作成支援装置にある。
【0010】
作成支援装置によれば、実動特性と解析動特性との一致度を高くするための支持モデル要素のパラメータの調整量を、機械学習により探索している。機械学習を行うにあたって、複数の情報を用いる必要がある。そこで、機械学習は、実動特性と、複数の解析動特性と、実動特性と複数の解析動特性のそれぞれとの一致度とを用いて行うようにしている。このように、蓄積された複数の解析動特性及び複数の一致度を用いて、機械学習により容易に且つ高速に支持モデル要素の最適なパラメータを決定することができる。決定されたパラメータは、高精度に、実際の支持要素のパラメータに一致させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】工作機械の一例の平面図である。
図2】工作機械の解析モデルの一例を示す図である。
図3】工作機械の実動特性としての周波数と機械的コンプライアンスの関係を示す図である。
図4】固有モードとしての固有振動数と動作モード、及び、機械的コンプライアンスの対応を示す表である。
図5】バネ要素を調整した場合の解析固有モードの固有振動数の変化態様を示しており、バネ要素を調整することによって、実固有モードと解析固有モードとの一致度を高めることができることを説明する図である。
図6】ダンパ要素を調整した場合の解析モデルによる機械的コンプライアンスの変化態様を示しており、ダンパ要素を調整することによって、実際の機械的コンプライアンスと解析モデルによる機械的コンプライアンスとの一致度を高めることができることを説明する図である。
図7】解析モデルの作成支援装置の機能ブロック図である。
図8】第一例の作成支援処理を示すフローチャートである。
図9】作成支援処理における実動特性生成処理を示すフローチャートである。
図10】第二例の作成支援処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1.工作機械1の構成)
工作機械1の構成について、図1を参照して説明する。図1に示すように、工作機械1は、工作物Wと工具Tとを相対的に移動させることにより、工作物Wを工具Tにより切削や研削等の加工を行う装置である。工作機械1は、例えば、マシニングセンタ、旋盤、フライス盤、歯車加工装置(ホブ盤、ギヤシェーパ機、ギヤスカイビング加工機等)等の切削を行う工作機械、研削を行う研削盤等である。
【0013】
図1には、工作機械1の一例として、マシニングセンタを例にあげる。なお、本発明における工作機械1は、マシニングセンタの他の上記工作機械にも適用可能である。工作機械1は、複数の構造体(10,20,30)により構成される。そして、工作機械1は、複数の構造体(10,20,30)の少なくとも1つを移動可能となるように、複数の構造体(10,20,30)同士を支持する構造を有する。
【0014】
そこで、図1に示す工作機械1は、例えば、工作物Wと工具Tとの相対的な位置を変更するために、相互に直交する3つの直進軸(X軸、Y軸及びZ軸)を駆動軸として有する。図1においては、工作機械1は、さらに、工作物Wと工具Tとの相対的な姿勢を変更するために、2つの回転軸(B軸及びC軸)を駆動軸として有する。
【0015】
本例では、工作機械1は、B軸(基準状態においてY軸回りの回転軸)及びC軸(基準状態においてZ軸回りの回転軸)を有する構成を例にあげたが、A軸(基準状態においてX軸回りの回転軸)及びB軸を有する構成としてもよいし、A軸及びC軸を有する構成としてもよい。つまり、工作機械1は、自由曲面を加工可能な5軸加工機(工具主軸(CT軸)を考慮すると6軸加工機となる)を適用可能である。また、工作機械1は、スカイビング加工を可能な専用加工機として、軸数を5軸加工機とは異なる構成を有する加工機を適用することもできる。
【0016】
工具Tは、工作物Wの加工に用いる回転工具である。例えば、工具Tは、エンドミル、スカイビングカッタ等である。本例において、工具Tは、スカイビング加工により工作物Wに歯車を創成する際に用いるスカイビングカッタを例に挙げて説明する。
【0017】
工作機械1は、マシニングセンタとして、横形マシニングセンタを例にあげるが、立形マシニングセンタ、門型マシニングセンタ等を適用することもできる。また、工作機械1は、工作物Wと工具Tとを相対的に移動させる構成は、適宜選択可能である。本例では、工作機械1は、工具TをY軸及びZ軸に移動可能とし、工作物WをX軸、B軸及びC軸に移動可能とする。
【0018】
工作機械1は、ベッド10と、工作物保持装置20と、工具保持装置30と、制御装置40とを備える。ベッド10は、例えば略矩形状に形成され、床面上に設置される。工作物保持装置20は、スライドテーブル21と、旋回テーブル22と、工作物主軸台23とを主に備える。スライドテーブル21は、ベッド10に対してX軸方向に移動可能に設けられる。具体的に、ベッド10には、X軸方向(図1上下方向)へ延びる一対のX軸ガイドレール11(支持部材)が設けられる。スライドテーブル21は、図示しないリニアモータ又はボールねじ機構等の駆動装置によって駆動されることにより、一対のX軸ガイドレール11に案内されながらX軸方向へ移動する。
【0019】
旋回テーブル22は、スライドテーブル21の上面に設置され、スライドテーブル21と一体的にX軸方向へ移動する。また、旋回テーブル22は、スライドテーブル21に対し、Y軸方向に平行な軸回りであるB軸の回転を可能に設けられる。旋回テーブル22には、旋回用の駆動装置(図示せず)が設けられ、旋回テーブル22は、旋回用の駆動装置に駆動されることでB軸回転する。
【0020】
工作物主軸台23は、旋回テーブル22に設置され、旋回テーブル22と一体的にB軸回転する。工作物主軸台23には、基準状態(B軸が基準位置のときの状態)において、Z軸に平行な軸回りであるC軸回転可能に保持された工作物主軸24が設けられる。そして、工作物主軸24には、工作物Wが着脱可能に装着される。工作物主軸台23には、工作物主軸24を回転させる工作物回転用の駆動装置(図示せず)と、工作物主軸24の回転角度を検出するエンコーダ等の検出器(図示せず)が設けられる。このように、工作物保持装置20は、工作物Wを、ベッド10に対して、X軸方向へ移動可能とし、且つ、B軸回転可能及びC軸回転可能に保持する。
【0021】
工具保持装置30は、コラム31と、サドル32と、工具主軸台33とを主に備える。コラム31は、ベッド10に対してZ軸方向に移動可能に設けられる。具体的に、ベッド10には、Z軸方向(図1左右方向)へ延びる一対のZ軸ガイドレール12が設けられる。コラム31は、図示しないリニアモータ又はボールねじ機構等の駆動装置に駆動されることにより、一対のZ軸ガイドレール12に案内されながらZ軸方向へ移動する。
【0022】
サドル32は、コラム31における工作物W側の側面であって、Z軸方向に直交する平面に配置される。このコラム31の当該面には、Y軸方向(図1紙面垂直方向)へ延びる一対のY軸ガイドレール34が設けられる。サドル32は、図示しないリニアモータ又はボールねじ機構等の駆動装置に駆動されることで、一対のY軸ガイドレール34に案内されながらY軸方向へ移動する。
【0023】
工具主軸台33は、サドル32に設置されると共に、サドル32と一体的にY軸方向へ移動する。工具主軸台33には、Z軸に平行な軸回り(CT軸)に回転可能に設けられた工具主軸35が設けられる。工具主軸35には、工具Tが着脱可能に装着される。工具主軸台33の内部には、工具主軸35を回転させる工具回転の駆動装置(図示せず)と、工具主軸35の回転角度を検出するエンコーダ等の検出器(図示せず)とが設けられる。このように、工具保持装置30は、工具Tを、工作物保持装置20に対して、Y軸方向及びZ軸方向に相対移動可能とし、且つ、CT軸回転可能に保持する。
【0024】
制御装置40は、工作機械1の各駆動装置の制御を行う。例えば、制御装置40は、工作機械1に設けられた各駆動装置を制御することにより、スライドテーブル21、コラム31及びサドル32の位置制御や旋回テーブル22の旋回制御、工作物主軸24及び工具主軸35の回転制御等を行う。
【0025】
工作機械1は、さらに、各構造体(10,20,30)における振動を検出するための加速度センサ51,52,53,54,55,56を備える。各加速度センサ51-56は、例えば、直交3軸のそれぞれの方向の加速度を検出することができるセンサを用いるとよい。ただし、各加速度センサ51-56は、1軸方向の加速度を検出するセンサを用いる場合には、それぞれの方向を検出できるように複数個配置してもよい。
【0026】
加速度センサ51は、ベッド10に設けられ、ベッド10の振動を検出する。加速度センサ52は、スライドテーブル21に設けられ、スライドテーブル21の振動を検出する。加速度センサ53は、旋回テーブル22に設けられ、旋回テーブル22の振動を検出する。加速度センサ54は、コラム31に設けられ、コラム31の振動を検出する。加速度センサ55は、サドル32に設けられ、サドル32の振動を検出する。加速度センサ56は、工具主軸台33に設けられ、工具主軸台33の振動を検出する。また、各加速度センサ51-56は、各構造体(10,20,30)に1個ずつとしてもよいし、複数個設けてもよい。
【0027】
(2.解析モデルMの一例)
解析モデルMの一例について、図2を参照して説明する。解析モデルMは、工作機械1を構成する複数の構造体(10,20,30)に対応する複数の構造体モデル要素と、複数の構造体モデル要素同士を支持する支持モデル要素とを備える。
【0028】
図2において、各構造体モデル要素は、図1に示す工作機械1の各構造体(10,20,30)に対応し、それぞれ同一の符号を付す。なお、図2における各構造体モデル要素の形状は、一例であり、剛体モデル、弾性体モデルの何れかを適用できる。弾性体モデルの場合、構造体モデル要素(10,20,30)を、実際の構造体(10,20,30)の形状に合わせた形状としてもよいし、異なる形状としてもよい。また、剛体モデルの場合、各構造体モデル要素の形状は、振動解析には特定する必要はない。
【0029】
また、構造体モデル要素(10,20,30)を剛体モデルとした場合のパラメータは、質量、重心位置及び慣性モーメントを含む。また、支持モデル要素は、バネ要素Sを含んでおり、さらにバネ要素Sのパラメータを含む。バネ要素Sのパラメータには、バネ定数、並びに、バネ要素Sの位置及び方向を含む。さらに、支持モデル要素は、ダンパ要素Dを含んでおり、ダンパ要素Dのパラメータを含む。ダンパ要素Dのパラメータには、減衰係数、並びに、ダンパ要素Dの位置及び方向を含む。また、構造体モデル要素(10,20,30)を弾性体モデルとした場合のパラメータは、さらに、ヤング率及び密度を含む。
【0030】
また、構造体モデル要素(10,20,30)が剛体モデルである場合には、構造体モデル要素(10,20,30)のそれぞれは、6自由度(X軸並進、Y軸並進、Z軸並進、X軸回りの回転、Y軸回りの回転、Z軸回りの回転)を有する。一方、構造体モデル要素(10,20,30)が弾性体モデルである場合には、構造体モデル要素(10,20,30)のそれぞれは、9自由度(X軸並進、Y軸並進、Z軸並進、X軸回りの回転、Y軸回りの回転、Z軸回りの回転、X軸回りの捻れ、Y軸回りの捻れ、Z軸回りの捻れ)を有する。
【0031】
構造体モデル要素(10,20,30)が剛体モデルである場合には、解析演算が少なくなる。構造体モデル要素(10,20,30)が弾性体モデルである場合には、解析演算が多くなるが、実際の構造体に近い解析を行うことにより高精度な解析が可能となる。
【0032】
(3.解析モデルMの作成支援装置の概要)
解析モデルMは、上述したように、それぞれの構造体モデル要素(10,20,30)のパラメータ、支持モデル要素S,Dのパラメータに関する情報を含んでおり、これらの情報が重要な要素である。つまり、解析モデルMは、質量マトリックス、剛性マトリックス、減衰マトリックスにより表される。
【0033】
特に、解析モデルMを用いた解析による動特性が実際の工作機械1の動特性と同一となるように、解析モデルMのパラメータが決定されることが必要である。そこで、解析モデルMの作成支援装置は、実際の工作機械1の動特性と同一の動特性となるように、解析モデルMのパラメータを決定する。
【0034】
作成支援装置は、工作機械1の実際の動特性(実動特性)と解析モデルMによる解析結果である動特性(解析動特性)との一致度を高めるように、機械学習により解析モデルMのパラメータの調整を繰り返すことにより、パラメータを決定する。つまり、一致度が所定の範囲内に含まれない場合には、機械学習により解析モデルMのパラメータの調整量を決定し、調整後の解析モデルMによる解析動特性との一致度が所定の範囲内に含まれるか否かを判定する。再び、一致度が所定の範囲内に含まれない場合には、今回調整したパラメータの情報を機械学習のデータセットに追加して、再び、解析モデルMのパラメータの調整量を決定する。
【0035】
つまり、一致度が所定の範囲内に含まれるまで、機械学習のデータセットを追加していきながら、パラメータの調整、解析モデルMによる解析、一致度の判定を繰り返し行うことで、早期に最適なパラメータを導き出すことができる。
【0036】
(4.動特性)
動特性について、図3及び図4を参照して説明する。図3は、工作機械1において、ハンマリング試験のインパルスハンマにより工具Tに加振力を付与した場合における実際の動特性(実動特性)を示す。つまり、動特性は、周波数と、工作機械1の機械的コンプライアンスとの関係を表す。
【0037】
図2に示すように、工作機械1は、複数の構造体(10,20,30)を備えており、さらに複数の構造体(10,20,30)のそれぞれが例えば6自由度(X軸並進、Y軸並進、Z軸並進、X軸回りの回転、Y軸回りの回転、Z軸回りの回転)を有する。従って、例えば、工作機械1が6個の構造体により構成される場合、合計で36自由度を有する。そして、工作機械1は、各自由度に対応する固有振動数(共振周波数)を有する。
【0038】
つまり、それぞれの固有振動数において、複数の構造体(10,20,30)の動作モードが異なる。図4には、固有振動数(共振周波数)と、動作モードと、機械的コンプライアンスの関係を示す。図4に示すように、例えば、固有振動数f1においては、コラム31がY軸回りの揺動を行う動作モードであり、機械的コンプライアンスはC1となる。固有振動数f2においては、サドル32がX軸回りの揺動を行う動作モードであり、機械的コンプライアンスはC2となる。固有振動数f3においては、コラム31がZ軸回りの揺動を行う動作モードであり、機械的コンプライアンスはC3となる。
【0039】
このように、固有振動数f1-f5のそれぞれには、対応する動作モードが存在する。そして、上述において、作成支援装置は、実動特性と解析動特性との一致度が所定の範囲内となるようにしている。つまり、実動特性の動作モードと解析動特性の動作モードとが同一のモード同士において、固有振動数(共振周波数)及び機械的コンプライアンスが所定の範囲内となるようにすることが目的である。
【0040】
ただし、上述したように、工作機械1は、例えば、36個の固有振動数を有しているため、全ての動作モードにおいて固有振動数及び機械的コンプライアンスを所定の範囲内にすることは困難である。そこで、複数の固有振動数を全体として評価した上で、各動作モードにおける固有振動数及び機械的コンプライアンスが近似する状態(一致度が高い状態)となるように、解析モデルMのパラメータが決定される。
【0041】
(5.解析モデルMのパラメータの調整方法の概要)
解析モデルMのパラメータの調整方法の概要について、図5及び図6を参照して説明する。解析モデルMのパラメータとして、バネ要素Sのパラメータ、ダンパ要素Dのパラメータ、構造体モデル要素のパラメータが存在する。
【0042】
図5には、太実線にて実動特性を示し、細実線にてパラメータ調整前の解析動特性を示し、細一点鎖線にてパラメータ調整後の解析動特性を示す。実動特性における固有振動数(共振周波数)faの動作モードに対応する解析動特性の固有振動数がfb1であるとする。このとき、バネ要素Sのパラメータを調整することにより、解析動特性の固有振動数がfb1からfb2へ移動させることができる。
【0043】
また、バネ要素Sのパラメータに合わせて、構造体モデル要素のパラメータを調整することにより、解析動特性の固有振動数を、fb1からfb2へ移動させることができる。つまり、バネ要素Sのパラメータを調整すること、又は、バネ要素Sのパラメータ及び構造体モデル要素のパラメータを調整することにより、対応する動作モードの固有振動数の一致度を高めることができる。
【0044】
次に、図6には、太実線にて実動特性を示し、細実線にてパラメータ調整前の解析動特性を示し、細一点鎖線にてパラメータ調整後の解析動特性を示す。実動特性における固有振動数(共振周波数)faの動作モードに対応する解析動特性の固有振動数がfb2であるとする。そして、実動特性における機械的コンプライアンスはCaであり、解析動特性における機械的コンプライアンスは、Cb1である。
【0045】
このとき、ダンパ要素Dのパラメータを調整することにより、解析動特性の固有振動数をfb2からほとんど移動させることなく、機械的コンプライアンスをCb1からCb2へ移動させることができる。従って、図6の細破線にて示すように、ダンパ要素Dのパラメータを調整することにより、対応する動作モードの機械的コンプライアンスの一致度を高めることができる。
【0046】
つまり、最初にバネ要素Sのパラメータを調整し、その後にダンパ要素Dのパラメータを調整することにより、実動特性と解析動特性について、固有振動数fa,fb2の一致度及び機械的コンプライアンスCa,Cb2の一致度を高めることができる。
【0047】
(6.解析モデルMの作成支援装置100の構成)
(6-1.作成支援装置100の全体構成)
解析モデルMの作成支援装置100の構成について、図7を参照して説明する。作成支援装置100は、実動特性生成部110、実動特性記憶部120、解析モデル記憶部130、解析動特性生成部140、一致度算出部150、パラメータ決定部160を備える。
【0048】
実動特性生成部110は、ハンマリング試験等の力センサ60から得られる力と加速度センサ51-56による実測値とに基づいて、工作機械1の実動特性を生成する。実動特性は、例えば、図3に示すような、周波数と機械的コンプライアンスとの関係である。詳細には、実動特性生成部110は、実動特性として、固有モード(固有振動数と動作モード)、及び、共振周波数における機械的コンプライアンスを生成する。そして、実動特性記憶部120は、生成された実動特性を記憶する。
【0049】
解析モデル記憶部130は、図2に示すような解析モデルMを記憶する。記憶される解析モデルMは、複数の構造体モデル要素と支持モデル要素とを含み、剛体モデルの場合、構造体モデル要素のパラメータ(質量、重心位置及び慣性モーメント)、バネ要素Sのパラメータ(バネ定数、位置及び方向)、ダンパ要素Dのパラメータ(減衰係数、位置及び方向)を含む。なお、弾性体モデルの場合、構造体モデル要素のパラメータは、さらに、ヤング率及び密度を含む。
【0050】
解析動特性生成部140は、解析モデルMによる解析結果である解析動特性を生成する。さらに、解析動特性生成部140は、解析モデルMのパラメータを調整した場合に、調整後の解析モデルMによる解析結果である解析動特性を生成する。つまり、解析動特性生成部140は、解析モデルMのパラメータを調整した複数の解析モデルMのそれぞれによる解析動特性を生成する。換言すると、解析動特性生成部140は、後述のパラメータ決定部160による探索後の解析モデルMのパラメータの調整量に応じて調整された支持モデル要素を用いて、解析動特性を繰り返し生成する。
【0051】
一致度算出部150は、実動特性とそれぞれの解析動特性との一致度を算出する。つまり、一致度算出部150は、実動特性と繰り返し生成された解析動特性との一致度を算出する。ここで、工作機械1の実動特性には複数の動作モードを含むため、ここでの一致度とは、複数の動作モード全体としての一致度とする。つまり、一致度算出部150が算出する一致度とは、まず個々の動作モードにおける動特性の一致度を算出し、個々の一致度を複合的に評価することにより決定される。
【0052】
パラメータ決定部160は、実動特性、複数の解析動特性及び複数の一致度に基づいて、機械学習により一致度を高くするための解析モデルMのパラメータの調整量を探索し、解析モデルMのパラメータを決定する。つまり、パラメータ決定部160は、繰り返し生成された解析動特性及び一致度に基づいて、繰り返し機械学習により解析モデルMのパラメータの調整量を探索する。そして、パラメータ決定部160は、探索した結果であるパラメータの調整量に基づいて、解析モデル記憶部130に記憶されている解析モデルMのパラメータを変更する。
【0053】
ここで、決定すべき解析モデルMのパラメータは、支持モデル要素であるバネ要素S及びダンパ要素Dのパラメータを含む。詳細には、決定すべきバネ要素Sのパラメータとしては、バネ要素Sのバネ定数のみとしてもよいし、バネ定数に加えてバネ要素Sの位置を含めてもよい。また、決定すべきダンパ要素Dのパラメータとしては、ダンパ要素Dの減衰係数のみとしてもよいし、減衰係数に加えてダンパ要素Dの位置を含めてもよい。また、決定すべき解析モデルMのパラメータは、支持モデル要素S,Dのパラメータに加えて構造体モデル要素のパラメータとしてもよい。構造体モデル要素のパラメータとしては、構造体モデル要素の質量のみとしてもよいし、質量に加えて構造体モデル要素の重心の位置を含めてもよい。
【0054】
また、パラメータ決定部160における機械学習は、最適値を探索可能なアルゴリズムを適用する。当該アルゴリズムには、例えば、ベイズ推論、最尤推定、MAP推定(正則化)等を適用できる。
【0055】
(6-2.作成支援装置100における第一段階要素に関する構成)
作成支援装置100は、上述において図5に示したように、最初に、バネ要素Sのパラメータを調整すること、又は、バネ要素Sのパラメータ及び構造体モデル要素のパラメータを調整することにより、対応する動作モードの固有振動数の一致度を高めている。そこで、まず、第一段階要素として、バネ要素Sのパラメータの調整を行うことに関する作成支援装置100の構成について、図7を参照して説明する。
【0056】
実動特性記憶部120は、実動特性生成部110により生成された工作機械1の第一実動特性を記憶する第一実動特性記憶部121を備える。第一実動特性とは、固有振動数とそれぞれの固有振動数における複数の構造体の動作モードとを含む実固有モードである。実固有モードを構成する固有振動数は、加振付与時の実測値から得られた工作機械1の周波数応答におけるピーク周波数である。
【0057】
実固有モードを構成する動作モードの一例は、固有振動数における複数の構造体のそれぞれの加速度情報に基づいて特徴づけられた動作態様である。例えば、図4に示したような動作モードである。また、動作モードの他の例は、複数の構造体のそれぞれの加速度情報そのものである。また、動作モードの他の例は、複数の構造体のそれぞれの加速度情報の傾向である。このように、動作モードとしては、図4に示すような動作を説明する分類分けとしてもよいし、加速度情報に関する数値としてもよい。
【0058】
解析動特性生成部140は、バネ要素Sのパラメータを調整した場合に、バネ要素Sのパラメータを調整した解析モデルMのそれぞれによる解析結果である第一解析動特性を生成する第一解析動特性生成部141を備える。特に、第一解析動特性生成部141は、バネ要素Sのパラメータを調整した場合に、複数の第一解析動特性として固有値解析結果の解析固有モードを生成する。
【0059】
一致度算出部150は、第一実動特性とそれぞれの第一解析動特性との第一一致度を算出する第一一致度算出部151を備える。第一一致度算出部151は、実固有モードとそれぞれの解析固有モードとの第一一致度として、対応する各動作モードにおける周波数一致度を算出する。
【0060】
パラメータ決定部160は、バネ要素Sのパラメータを決定する第一パラメータ決定部161を備える。第一パラメータ決定部161は、第一実動特性、複数の第一解析動特性及び複数の第一一致度に基づいて、機械学習により第一一致度を高くするためのバネ要素Sのパラメータの調整量を探索し、バネ要素Sのパラメータを決定する。第一パラメータ決定部161は、特に、実固有モード、複数の解析固有モード及び複数の周波数一致度に基づいて、機械学習により周波数一致度を高くするためのバネ要素Sのパラメータの調整量を探索し、バネ要素Sのパラメータを決定する。
【0061】
また、第一パラメータ決定部161は、バネ要素Sのパラメータの決定の際に、構造体モデル要素のパラメータの決定を行うようにしてもよい。この場合、第一パラメータ決定部161は、機械学習により第一一致度を高くするためのバネ要素Sの調整量及び構造体モデル要素のパラメータの調整量を探索し、バネ要素S及び構造体モデル要素のパラメータを決定する。
【0062】
(6-3.作成支援装置100における第二段階要素に関する構成)
作成支援装置100は、上述において図6に示したように、バネ要素Sのパラメータの調整後において、ダンパ要素Dのパラメータを調整することにより、機械的コンプライアンスの一致度を高めている。そこで、第二段階要素として、ダンパ要素Dのパラメータの調整を行うことに関する作成支援装置100の構成について、図7を参照して説明する。
【0063】
実動特性記憶部120は、さらに、実動特性生成部110により生成された工作機械1の第二実動特性を記憶する第二実動特性記憶部122を備える。第二実動特性記憶部122は、第二実動特性として、工作機械1の実周波数応答を記憶する。詳細には、第二実動特性は、実周波数応答における共振周波数と、その共振周波数における機械的コンプライアンスとを含む。
【0064】
解析動特性生成部140は、さらに、第二解析動特性生成部142を備える。第二解析動特性生成部142は、バネ要素Sのパラメータが第一パラメータ決定部161により決定されたバネ要素Sのパラメータに基づいて設定された状態において、ダンパ要素Dのパラメータを調整した場合に、ダンパ要素Dのパラメータを調整した解析モデルMのそれぞれによる解析結果である第二解析動特性を生成する。特に、第二解析動特性生成部142は、ダンパ要素Dのパラメータを調整した場合に、複数の第二解析動特性として、周波数応答解析結果である解析周波数応答を生成する。
【0065】
一致度算出部150は、さらに、第二実動特性とそれぞれの第二解析動特性との第二一致度を算出する第二一致度算出部152を備える。第二一致度算出部152は、実周波数応答とそれぞれの解析周波数応答との一致度として、対応する各共振周波数における応答一致度を算出する。
【0066】
パラメータ決定部160は、さらに、ダンパ要素Dのパラメータを決定する第二パラメータ決定部162を備える。第二パラメータ決定部162は、第二実動特性、複数の第二解析動特性及び複数の第二一致度に基づいて、機械学習により第二一致度を高くするためのダンパ要素Dのパラメータの調整量を探索し、ダンパ要素Dのパラメータを決定する。第二パラメータ決定部162は、実周波数応答、複数の解析周波数応答及び複数の応答一致度に基づいて、機械学習により応答一致度を高くするためのダンパ要素Dのパラメータの調整量を探索し、ダンパ要素Dのパラメータを決定する。
【0067】
(7.作成支援処理の第一例)
作成支援装置100による作成支援処理の第一例について、図8及び図9を参照して説明する。実動特性生成部110が実動特性の生成を行う(ステップS1)。そして、生成された実動特性のうち第一実動特性は、第一実動特性記憶部121に記憶される。また、生成された実動特性のうち第二実動特性は、第二実動特性記憶部122に記憶される。
【0068】
実動特性生成処理については、図9に示すように、力センサ60により力を取得すると共に、加速度センサ51-56により各加速度を取得する(ステップS21)。続いて、取得した力と加速度とに基づいて、周波数応答解析を行う(ステップS22)。続いて、周波数応答解析結果に基づいて固有モードを取得し、記憶する(ステップS23)。固有モードには、固有振動数と動作モードが含まれる。続いて、共振周波数における機械的コンプライアンスを取得し、記憶する(ステップS24)。
【0069】
図8に戻り、作成支援処理について説明を続ける。実動特性の生成に続いて、第一解析動特性生成部141が、解析モデル記憶部130に現在記憶されている解析モデルMを用いて固有値解析を行うことにより、第一解析動特性を生成する(ステップS2)。ここで、初期に解析モデル記憶部130に記憶されている解析モデルMのパラメータは、例えば、軸受のカタログ値等を用いることができる。
【0070】
続いて、第一一致度算出部151が、第一実動特性と第一解析動特性との一致度(第一一致度)を算出する(ステップS3)。第一一致度が所定値内でない場合(ステップS4:No)、すなわち一致度が低い場合には、第一パラメータ決定部161が、機械学習によりバネ要素Sのパラメータの調整量を探索する(ステップS5)。続いて、第一パラメータ決定部161は、一旦、バネ要素Sのパラメータの調整量を決定し、解析モデル記憶部130に記憶されている解析モデルMのパラメータを変更する(ステップS6)。
【0071】
そして、ステップS2から繰り返し実行する。従って、第一一致度が所定値内になるまでの間、機械学習によるバネ要素Sのパラメータの探索が、何度も繰り返し実行される。固有値解析を繰り返し実行することにより、機械学習のデータセットが逐次増加して、増加したデータセットに基づいて機械学習が行われる。従って、上記の繰り返し処理を何度か実行することにより、第一一致度が所定内となるようなバネ要素Sのパラメータを探索することができる。
【0072】
そして、第一一致度が所定値内である場合(ステップS4:Yes)、すなわち一致度が高い場合には、第一パラメータ決定部161が、バネ要素Sのパラメータを現在の調整された値に決定する(ステップS7)。続いて、第一パラメータ決定部161が、解析モデル記憶部130に記憶されている解析モデルMのパラメータを、決定されたバネ要素Sのパラメータに変更する(ステップS8)。
【0073】
以上までにおいて、解析モデルMのバネ要素Sのパラメータが最適値に設定されている。従って、解析モデルMの固有振動数は、実際の工作機械1の固有振動数に近似している。
【0074】
続いて、第二解析動特性生成部142が、変更後の解析モデルMにより周波数応答解析を行うことにより、第二解析動特性を生成する(ステップS9)。続いて、第二一致度算出部152が、第二実動特性と第二解析動特性との一致度(第二一致度)を算出する(ステップS10)。第二一致度が所定値内でない場合(ステップS11:No)、すなわち一致度が低い場合には、第二パラメータ決定部162が、機械学習によりダンパ要素Dのパラメータの調整量を探索する(ステップS12)。続いて、第二パラメータ決定部162は、一旦ダンパ要素Dのパラメータの調整量を決定し、解析モデル記憶部130に記憶されている解析モデルMのパラメータを変更する(ステップS13)。
【0075】
そして、ステップS9から繰り返し実行する。従って、第二一致度が所定値内になるまでの間、機械学習によるダンパ要素Dのパラメータの探索が、何度も繰り返し実行される。周波数応答解析を繰り返し実行することにより、機械学習のデータセットが逐次増加して、増加したデータセットに基づいて機械学習が行われる。従って、上記の繰り返し処理を何度が実行することにより、第二一致度が所定内となるようなダンパ要素Dのパラメータを探索することができる。
【0076】
そして、第二一致度が所定値内である場合(ステップS11:Yes)、すなわち一致度が高い場合には、第二パラメータ決定部162が、ダンパ要素Dのパラメータを現在の調整された値に決定する(ステップS14)。続いて、第二パラメータ決定部162が、解析モデル記憶部130に記憶されている解析モデルMのパラメータを、決定されたダンパ要素Dのパラメータに変更する(ステップS15)。
【0077】
従って、解析モデルMのダンパ要素Dのパラメータも最適値に設定される。従って、解析モデルMの固有振動数は、実際の工作機械1の固有振動数に近似しており、且つ、解析モデルMの機械的コンプライアンスも、実際の工作機械1の機械的コンプライアンスに近似する。
【0078】
以上より、作成支援装置100によれば、実動特性と解析動特性との一致度を高くするための支持モデル要素S,Dのパラメータの調整量を、機械学習により探索している。機械学習を行うにあたって、複数の情報を用いる必要がある。そこで、機械学習は、実動特性と、複数の解析動特性と、実動特性と複数の解析動特性のそれぞれとの一致度とを用いて行うようにしている。このように、蓄積された複数の解析動特性及び複数の一致度を用いて、機械学習により容易に且つ高速に支持モデル要素S,Dの最適なパラメータを決定することができる。決定されたパラメータは、高精度に、実際の支持要素のパラメータに一致させることができる。
【0079】
(8.作成支援処理の第二例)
作成支援装置100による作成支援処理の第二例について、図10を参照して説明する。ここで、図8に示す作成支援処理の第一例と同一処理については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0080】
作成支援処理の第二例は、第一例に対して、ステップS35及びステップS37が相違する。ステップS3において、第一一致度算出部151が、第一実動特性と第一解析動特性との一致度を算出する。続いて、第一一致度が所定値内でない場合(ステップS4:No)、すなわち一致度が低い場合には、第一パラメータ決定部161が、機械学習によりバネ要素Sのパラメータの調整量及び構造体のパラメータの調整量を同時に探索する(ステップS35)。構造体のパラメータとは、構造体の質量、重心位置等である。
【0081】
続いて、第一パラメータ決定部161は、一旦、バネ要素Sのパラメータの調整量及び構造体のパラメータの調整量を決定し、解析モデル記憶部130に記憶されている解析モデルMのパラメータを変更する(ステップS6)。そして、ステップS2から繰り返し実行する。
【0082】
第一一致度が所定値内である場合(ステップS4:Yes)、すなわち一致度が高い場合には、第一パラメータ決定部161が、バネ要素Sのパラメータ及び構造体のパラメータを現在の調整された値に決定する(ステップS37)。続いて、第一パラメータ決定部161が、解析モデル記憶部130に記憶されている解析モデルMのパラメータを、決定されたバネ要素Sのパラメータ及び構造体のパラメータに変更する(ステップS8)。
【0083】
このように、作成支援処理の第二例においては、バネ要素S及びダンパ要素Dのパラメータに加えて、構造体のパラメータも最適値にすることができる。なお、構造体のパラメータが既知である場合には、作成支援処理の第一例を適用し、構造体のパラメータが未知である場合に、作成支援処理の第二例を適用すればよい。また、一部の構造体のパラメータが未知である場合も、同様に、作成支援処理の第二例を適用するとよい。
【符号の説明】
【0084】
1:工作機械、10、20,30:構造体、51,52,53,54,55,56:加速度センサ、100:作成支援装置、110:実動特性生成部、120:実動特性記憶部、121:第一実動特性記憶部、122:第二実動特性記憶部、130:解析モデル記憶部、140:解析動特性生成部、141:第一解析動特性生成部、142:第二解析動特性生成部、150:一致度算出部、151:第一一致度算出部、152:第二一致度算出部、160:パラメータ決定部、161:第一パラメータ決定部、162:第二パラメータ決定部、T:工具、W:工作物、M:解析モデル、S,D:支持モデル要素、S:バネ要素、D:ダンパ要素、fa,fb1,fb2:固有振動数、Ca,Cb1,Cb2:機械的コンプライアンス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10