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  • 特許-シキミ酸またはその誘導体の製造方法 図1
  • 特許-シキミ酸またはその誘導体の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】シキミ酸またはその誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/43 20060101AFI20240423BHJP
   C07C 62/32 20060101ALI20240423BHJP
   B01D 11/04 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C07C51/43
C07C62/32
B01D11/04 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019159036
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021038157
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】中島 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】橘 賢也
(72)【発明者】
【氏名】藤原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】猪俣 晴彦
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第02/006203(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/044773(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0149805(US,A1)
【文献】特開平10-287603(JP,A)
【文献】特開昭56-015694(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107652178(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0137895(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シキミ酸またはその誘導体を含有する原料液体をバイオマスから調製する原料液体調製工程と、
前記原料液体に乾燥剤を入れた後、前記原料液体を減圧下に置いて真空乾燥させることにより、前記原料液体の濃縮を進行させる乾燥工程と、
前記原料液体に抽出用溶媒を入れてシキミ酸またはその誘導体を抽出し、抽出液を得る抽出工程と、
前記抽出液の溶質を固体として得る析出工程と、
前記析出工程の後に設けられ、前記溶質を良溶媒に溶解させる再溶解処理を施し、溶液を得る工程と、
前記溶液に活性炭処理を施す工程と、
前記活性炭処理が施された前記溶液に対し、貧溶媒を添加する再沈殿処理を施し、沈殿を固体として回収する工程と、
を有し、
前記原料液体に対し、前記乾燥剤および前記抽出用溶媒を添加することにより、前記乾燥工程および前記抽出工程を同時に行い、
回収された前記固体は、粉末状をなしており、JIS P 8148:2001に規定されたISO白色度の試験方法に準じて測定されたISO白色度が70%以上であることを特徴とするシキミ酸またはその誘導体の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程は、前記原料液体を濃縮してなる濃縮液に、前記乾燥剤を入れ、前記濃縮液をさらに濃縮する処理を含み、
前記乾燥剤の添加量は、前記濃縮液100gに対して1~300gである請求項1に記載のシキミ酸またはその誘導体の製造方法。
【請求項3】
シキミ酸またはその誘導体を含有する原料液体をバイオマスから調製する原料液体調製工程と、
前記原料液体を真空乾燥させ、乾燥物を得る乾燥工程と、
前記乾燥物を良溶媒に溶解させる再溶解処理を施し、溶液を得る再溶解工程と、
前記溶液に活性炭処理を施す吸着工程と、
抽出用溶媒により、前記活性炭処理を施した前記溶液からシキミ酸またはその誘導体を液液抽出し、抽出液を得る抽出工程と、
前記抽出液の溶質を固体として回収する析出工程と、
を有し、
回収された前記固体は、粉末状をなしており、JIS P 8148:2001に規定されたISO白色度の試験方法に準じて測定されたISO白色度が70%以上であることを特徴とするシキミ酸またはその誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記析出工程の後に設けられ、前記溶質を良溶媒に溶解させる再溶解処理を施し、溶液を得る工程と、
前記溶液に活性炭処理を施す工程と、
前記活性炭処理が施された前記溶液に対し、貧溶媒を添加する再沈殿処理を施し、沈殿を固体として回収する工程と、
を有する請求項に記載のシキミ酸またはその誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記乾燥物は、液相の含有率が30質量%以下である請求項3または4に記載のシキミ酸またはその誘導体の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥工程の前に設けられ、前記原料液体に酸を添加する酸性化工程をさらに有する請求項1ないしのいずれか1項に記載のシキミ酸またはその誘導体の製造方法。
【請求項7】
前記析出工程は、前記抽出液に含まれる前記溶媒を蒸発させる工程である請求項1ないしのいずれか1項に記載のシキミ酸またはその誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シキミ酸またはその誘導体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族カルボン酸化合物のような環式化合物は、例えばエンジニアリングプラスチックのような樹脂や薬品の原料の他、香料や化粧料またはそれらの原料として用いられている。
【0003】
このような環式化合物は、従来、石油、天然ガスおよび石炭のような化石資源を原料として製造される。また、近年では、化石資源の枯渇や二酸化炭素濃度の増加に伴う地球温暖化への懸念から、バイオマス資源を原料とすることが試みられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、バイオマスから微生物発酵によりメタンを製造した後、触媒反応によってメタンからベンゼンを製造し、さらにこのベンゼンからベンゼン誘導体を製造する方法が開示されている。このようにして製造されたベンゼン誘導体は、芳香族ポリマーの原料として用いられるため、化石資源に依存しないポリマーを実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-123666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の方法は、ベンゼン誘導体の製造効率がまだ十分ではない。具体的には、バイオマスからメタンおよびベンゼンを経てベンゼン誘導体(例えばフタル酸等)を製造するため、投入する手間やエネルギーの割に、合成されるベンゼン誘導体の量が少ないという問題がある。
【0007】
また、製造されるベンゼン誘導体の純度を高めることも求められている。特許文献1にはベンゼンを蒸留法等で精製することが開示されており、これによってベンゼン誘導体の純度を高めることが可能であるものの、その際には多くのエネルギーを消費する。
【0008】
本発明の目的は、固体で高純度のシキミ酸またはその誘導体を高い収率で製造可能な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、下記(1)~(7)の本発明により達成される。
(1) シキミ酸またはその誘導体を含有する原料液体をバイオマスから調製する原料液体調製工程と、
前記原料液体に乾燥剤を入れた後、前記原料液体を減圧下に置いて真空乾燥させることにより、前記原料液体の濃縮を進行させる乾燥工程と、
前記原料液体に抽出用溶媒を入れてシキミ酸またはその誘導体を抽出し、抽出液を得る抽出工程と、
前記抽出液の溶質を固体として得る析出工程と、
前記析出工程の後に設けられ、前記溶質を良溶媒に溶解させる再溶解処理を施し、溶液を得る工程と、
前記溶液に活性炭処理を施す工程と、
前記活性炭処理が施された前記溶液に対し、貧溶媒を添加する再沈殿処理を施し、沈殿を固体として回収する工程と、
を有し、
前記原料液体に対し、前記乾燥剤および前記抽出用溶媒を添加することにより、前記乾燥工程および前記抽出工程を同時に行い、
回収された前記固体は、粉末状をなしており、JIS P 8148:2001に規定されたISO白色度の試験方法に準じて測定されたISO白色度が70%以上であることを特徴とするシキミ酸またはその誘導体の製造方法。
(2) 前記乾燥工程は、前記原料液体を濃縮してなる濃縮液に、前記乾燥剤を入れ、前記濃縮液をさらに濃縮する処理を含み、
前記乾燥剤の添加量は、前記濃縮液100gに対して1~300gである上記(1)に記載のシキミ酸またはその誘導体の製造方法。
(3) シキミ酸またはその誘導体を含有する原料液体をバイオマスから調製する原料液体調製工程と、
前記原料液体を真空乾燥させ、乾燥物を得る乾燥工程と、
前記乾燥物を良溶媒に溶解させる再溶解処理を施し、溶液を得る再溶解工程と、
前記溶液に活性炭処理を施す吸着工程と、
抽出用溶媒により、前記活性炭処理を施した前記溶液からシキミ酸またはその誘導体を液液抽出し、抽出液を得る抽出工程と、
前記抽出液の溶質を固体として回収する析出工程と、
を有し、
回収された前記固体は、粉末状をなしており、JIS P 8148:2001に規定されたISO白色度の試験方法に準じて測定されたISO白色度が70%以上であることを特徴とするシキミ酸またはその誘導体の製造方法。
(4) 前記析出工程の後に設けられ、前記溶質を良溶媒に溶解させる再溶解処理を施し、溶液を得る工程と、
前記溶液に活性炭処理を施す工程と、
前記活性炭処理が施された前記溶液に対し、貧溶媒を添加する再沈殿処理を施し、沈殿を固体として回収する工程と、
を有する上記(3)に記載のシキミ酸またはその誘導体の製造方法。
【0011】
(5) 前記乾燥物は、液相の含有率が30質量%以下である上記(3)または(4)に記載のシキミ酸またはその誘導体の製造方法。
【0012】
(6) 前記乾燥工程の前に設けられ、前記原料液体に酸を添加する酸性化工程をさらに有する上記(1)ないし(5)のいずれかに記載のシキミ酸またはその誘導体の製造方法。
【0014】
(7) 前記析出工程は、前記抽出液に含まれる前記溶媒を蒸発させる工程である上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のシキミ酸またはその誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、固体で高純度のシキミ酸またはその誘導体を高い収率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の環式化合物またはその誘導体の製造方法の第1実施形態を説明するための工程図である。
図2】本発明の環式化合物またはその誘導体の製造方法の第2実施形態を説明するための工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の環式化合物またはその誘導体の製造方法について添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0020】
<環式化合物またはその誘導体の製造方法>
≪第1実施形態≫
まず、本発明の環式化合物またはその誘導体の製造方法の第1実施形態について説明する。
【0021】
図1は、本発明の環式化合物またはその誘導体の製造方法の第1実施形態を説明するための工程図である。
【0022】
本実施形態に係る環式化合物またはその誘導体の製造方法(以下、省略して「環式化合物の製造方法」という。)は、バイオマスから原料液体を調製する原料液体調製工程S01と、原料液体に酸を添加する酸性化工程S02と、環式化合物またはその誘導体を含有する原料液体を乾燥させ、乾燥物を得る乾燥工程S03と、溶媒により、乾燥物から環式化合物またはその誘導体を抽出し、抽出液を得る抽出工程S04と、抽出液の溶質を固体として回収する析出工程S05と、を有する。このような環式化合物の製造方法によれば、固体で高純度の環式化合物またはその誘導体を高い収率で製造することができる。
【0023】
以下、各工程について順次説明する。なお、以下の説明では、環式化合物またはその誘導体を省略して「環式化合物」ともいう。
【0024】
(原料液体調製工程S01)
特開2011-229544号公報に記載の方法でバイオマスから原料液体を調製する。
【0025】
(酸性化工程S02)
次に、必要に応じて、得られた原料液体に酸を添加する。これにより、後述する工程において固体を回収するとき、結晶性の高い固体を得ることができる。このため、環式化合物の純度が高い固体を高い収率で回収することができる。
【0026】
酸添加後の原料液体のpHは、特に限定されないが、1.0~6.5程度であるのが好ましく、1.5~5.0程度であるのがより好ましい。これにより、後述する工程において固体を回収するとき、装置等の劣化を最小限に抑えつつ、純度の高い固体を高い収率で回収することが可能である。すなわち、装置等の劣化の抑制と回収する固体の高純度化および高収率化とを両立させることができる。
【0027】
添加する酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、塩酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸等が挙げられる。これらの酸は、後述する乾燥工程において揮発除去されやすい。このため、原料液体の酸性化のために添加される酸として有用である。
【0028】
(乾燥工程S03)
次に、原料液体を乾燥させ、乾燥物を得る。
【0029】
原料液体を乾燥させる方法としては、例えば、煮沸乾燥法、噴霧乾燥法、伝熱乾燥法、赤外線乾燥法、温風乾燥法、真空乾燥法等が挙げられる。また、これらの乾燥法を含む複数種の乾燥法を組み合わせて適用するようにしてもよい。以下、代表的な4つの乾燥法について順次説明する。
【0030】
-煮沸乾燥法-
煮沸乾燥法(煮沸乾固法)は、例えばホットプレート等の加熱装置を用い、容器に入れた原料液体を加熱する。熱伝導で容器が加熱されると、原料液体中の溶媒が蒸発する。これにより、溶質が固体として析出する。溶媒の蒸発が進むと、固体が乾燥し、乾燥物が得られる。
【0031】
加熱温度は、溶媒が気化する温度以上に設定すればよいので、溶媒の種類に応じて異なるものの、例えば70~200℃程度であるのが好ましく、80~150℃程度であるのがより好ましい。これにより、環式化合物の変性や分解、着色等を抑制しつつ、溶媒を効率よく蒸発させることができる。
【0032】
加熱時間は、溶媒の蒸発の進行度合いに応じて適宜設定されるが、一例として10分~10時間程度であるのが好ましく、30分~6時間程度であるのがより好ましい。
【0033】
なお、加熱に伴う酸化を抑制するため、必要に応じて、非酸化性ガス下で加熱したり、非酸化性ガスを吹き付けながら加熱したりするようにしてもよい。
【0034】
このような煮沸乾燥法によれば、簡易的な装置を用いることができるので、製造コストの削減を図りやすいという利点がある。
【0035】
なお、得られた乾燥物は、必要に応じて、解砕または粉砕されるようにしてもよい。これにより、乾燥物の比表面積が大きくなるため、後述する抽出工程において環式化合物の抽出効率を高めることができる。
【0036】
-噴霧乾燥法-
噴霧乾燥法(スプレードライ法)は、例えば原料液体を乾燥室内のノズルで微粒化し、温風に接触させる(噴霧乾燥する)方法である。これにより、原料液体中の溶媒が蒸発するとともに、析出した溶質が粒子状に成形される。このため、取り扱いが容易な乾燥物が得られる。
【0037】
また、乾燥に先立って原料液体を微粒化することから、原料液体の比表面積が大きくなる。このため、短時間で均一な昇温が可能になり、溶質の変性や分解等を最小限に留めることができる。加えて、かかる乾燥物は、後述する抽出工程において環式化合物の抽出効率が高いものとなる。
【0038】
さらに、原料液体に対する熱伝導が温風を介したものであるため、昇温ムラが少なく、乾燥状態の均一化を図りやすいという利点もある。
また、原料液体の昇温効率が高く、エネルギー効率が高いという利点もある。
【0039】
なお、噴霧乾燥法で得られた乾燥物は、比較的粒径が揃った粒子となる。このため、その後の分級処理を省略したり、簡素化したりすることができ、製造コストを抑えつつ、流動性が高くて扱いやすい乾燥物を得ることができる。
【0040】
製造される粒子状の乾燥物の平均粒径は、特に限定されないが、5~300μm程度であるのが好ましく、10~200μm程度であるのがより好ましい。これにより、後述する工程において処理効率が高く、かつ、流動性等の観点から扱いやすい乾燥物が得られる。
【0041】
また、温風の入口温度は、溶媒の沸点に応じて適宜設定されるが、一例として30~200℃程度であるのが好ましく、40~150℃程度であるのがより好ましい。
【0042】
また、噴霧乾燥法では、閉空間で乾燥させることができるので、必要に応じて、窒素やアルゴンのような不活性ガス下で乾燥させることができる。これにより、乾燥物の酸化を抑制することができる。
【0043】
-伝熱乾燥法-
伝熱乾燥法(間接加熱乾燥法)は、例えば伝熱面を介して原料液体を間接的に加熱する方法である。これにより、伝熱面に接触した原料液体中の溶媒が蒸発し、乾燥物が得られる。
【0044】
伝熱面としては、例えばディスク、ドラム、シリンダー等の形状をした金属体が挙げられる。伝熱乾燥法では、これらの伝熱面に原料液体が散布されると、短時間で乾燥し、伝熱面上に乾燥物が得られる。この乾燥物は、スクレーパーでかき落され、塊状物または粒状物として回収される。
【0045】
また、乾燥に先立って原料液体を薄膜化することから、原料液体の比表面積が大きくなる。このため、短時間で均一な昇温が可能になり、溶質の変性や分解等を最小限に留めることができる。
【0046】
なお、伝熱面の温度は、溶媒の沸点に応じて適宜設定されるが、例えば70~200℃程度であるのが好ましく、80~150℃程度であるのがより好ましい。これにより、環式化合物の変性や分解、着色等を抑制しつつ、溶媒を効率よく蒸発させることができる。
【0047】
また、伝熱面を減圧下に置くようにしてもよい。これにより、溶媒の蒸発効率を高めるとともに、環式化合物の酸化や焦げ付き等を抑制することができる。
【0048】
加熱時間は、溶媒の蒸発の進行度合いに応じて適宜設定されるが、一例として10分~10時間程度であるのが好ましく、30分~6時間程度であるのがより好ましい。
【0049】
なお、得られた乾燥物は、必要に応じて、解砕または粉砕されるようにしてもよい。これにより、乾燥物の比表面積が大きくなるため、後述する抽出工程において環式化合物の抽出効率を高めることができる。
【0050】
-真空乾燥法-
真空乾燥法は、原料液体を密閉容器に入れ、密閉容器内を減圧することによって、原料液体と容器内との溶媒分圧差を大きくし、乾燥を促進させる方法である。これにより、原料液体を短時間で確実に乾燥させ、乾燥物を得ることができる。加えて、低分子の不純物成分を効率よく除去することができるので、最終的に得られる環式化合物の純度や白色度を高めることができる。
【0051】
また、真空乾燥法では、減圧下で処理されることから酸化や燃焼等が生じにくい。このため、環式化合物の酸化等の変性や焦げ付きによる着色等が抑制される。その結果、最終的に得られる環式化合物の純度や白色度を高めることができる。
【0052】
なお、真空乾燥法では、必要に応じて、原料液体を加熱するようにしてもよい。その場合の加熱温度は、溶媒の沸点に応じて適宜設定されるが、一例として30~200℃程度であるのが好ましく、40~150℃程度であるのがより好ましい。
【0053】
加熱時間は、溶媒の蒸発の進行度合いに応じて適宜設定されるが、一例として10分~24時間程度であるのが好ましく、30分~6時間程度であるのがより好ましい。
【0054】
真空乾燥における密閉容器内の圧力は、大気圧未満であれば特に限定されないが、一例として100Pa以下であるのが好ましく、20Pa以下であるのがより好ましい。これにより、特に効率よく乾燥させることができるので、加熱に伴う環式化合物の変性等を最小限に留めることができる。また、酸化による変性や着色についても最小限に抑えることができる。
【0055】
なお、得られた乾燥物は、必要に応じて、解砕または粉砕されるようにしてもよい。これにより、乾燥物の比表面積が大きくなるため、後述する抽出工程において環式化合物の抽出効率を高めることができる。
【0056】
以上、4つの乾燥法について説明したが、本工程は上記のような各種乾燥法のように多くの液相を除去する工程に限定されず、一部が残存するような工程であってもよい。すなわち、不完全な乾燥物を得る工程であってもよい。
【0057】
乾燥物における液相の含有率は、30質量%以下であるのが好ましく、1質量%以上20質量%以下であるのがより好ましい。これにより、乾燥に要する時間やエネルギーが抑えられるため、効率のよい処理が可能になる。
【0058】
また、液相の含有率を前記範囲内まで低下させることが可能であれば、上述した乾燥法に代えて、または乾燥法と併用するようにして、蒸留、吸着、抽出、膜分離、透析、逆浸透等の濃縮法を採用するようにしてもよい。濃縮法は、完全な乾燥を目的としないため、技術的な難易度や効率の観点において使いやすい。このため、より低コストかつ短時間で乾燥物を得ることができる。
【0059】
なお、濃縮法によって液相の含有率を前記範囲内まで低下させる場合、濃縮の進行に伴って濃縮効率が徐々に低下するおそれがある。このような問題を踏まえ、濃縮法を採用する際には、必要に応じて、濃縮の最中に減圧操作と常圧復帰操作とを繰り返す処理を施すようにしてもよい。これにより、気泡の収縮と膨張とが生じ、含まれる気泡の上昇、破裂が促されるため、気泡を効率よく消滅させることができる。その結果、濃縮効率の低下を抑えることができる。
【0060】
減圧操作における圧力は、特に限定されないが、0.1~100kPa程度であるのが好ましく、1~80kPa程度であるのがより好ましい。これにより、含まれる気泡を効率よく上昇させ、破裂させることができ、濃縮効率の低下を十分に抑えつつ、濃縮を促進させることができる。
【0061】
また、減圧操作の時間と常圧復帰操作の時間の比率は、気泡の発生の程度や濃縮速度に応じて適宜調整されるが、一例として、1:10~10:1程度であるのが好ましい。これにより、効率よく気泡を除去することができる。
【0062】
また、減圧操作の時間は、特に限定されないが、一例として1~10秒程度であるのが好ましい。これにより、効率よく気泡を除去することができる。
【0063】
(抽出工程S04)
次に、溶媒により、乾燥物から環式化合物を固液抽出し、抽出液を得る。
【0064】
固液抽出処理は、乾燥物中に含まれている環式化合物について、溶媒に対する溶解性を利用して選択的に抽出する処理である。すなわち、環式化合物を溶解させる溶媒を用い、抽出物として環式化合物の溶液を得る処理である。これにより、溶媒側に環式化合物を選択的に移行させ、不純物については乾燥物中に残存させることができる。その結果、純度の高い環式化合物が精製される。
【0065】
溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル、ヘキサン、クロロホルム、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0066】
固液抽出処理の温度は、特に限定されないが、5~80℃程度であるのが好ましく、10~50℃程度であるのがより好ましい。これにより、溶媒の溶解度を最適化することができるので、抽出される環式化合物の純度と、抽出率(抽出能力)と、を両立させることができる。
【0067】
すなわち、温度が前記下限値未満である場合、抽出率が低下するおそれがある。一方、温度が前記上限値を上回ると、不純物も移行しやすくなり、環式化合物の純度が低下するおそれがある。
【0068】
また、固液抽出処理の時間は、温度に応じて適宜設定されるが、例えば30分~10時間程度とされる。
なお、加圧下において加熱することにより、抽出率を高めることもできる。
【0069】
また、溶媒の量は、特に限定されないが、乾燥物1gに対して3~200g程度であるのが好ましく、10~50g程度であるのがより好ましい。これにより、溶媒の量が最適化される。すなわち、溶媒の量が前記下限値を下回ると、抽出物の溶解が飽和して、抽出しきれないおそれがある。一方、溶媒の量が前記上限値を上回ると、余剰の溶媒が生じて、無駄になるおそれがある。また、不純物の抽出量が多くなり、環式化合物の純度が低下するおそれがある。
【0070】
なお、乾燥工程において濃縮法を採用した場合には、乾燥工程と抽出工程とを同時に行うようにしてもよい。具体的には、原料液体またはある程度濃縮した濃縮液に対し、シリカゲルのような乾燥剤と、固液抽出用の溶媒と、を添加するようにすればよい。これにより、濃縮を進行させつつ、同時に固液抽出処理を施すことができる。
【0071】
乾燥剤の添加量は、液相の量に応じて適宜設定され、特に限定されないが、例えば濃縮液100gに対して1~300g程度とされるのが好ましい。
【0072】
(析出工程S05)
次に、環式化合物を含む抽出液の溶質を固体として析出させる。この析出処理は、抽出液を除去する処理であれば、いかなる処理であってもよい。
【0073】
具体的には、かかる析出工程は、抽出液に含まれる溶媒を蒸発させる工程(濃縮乾固)であるのが好ましい。このような処理によれば、加熱または減圧のような簡単な操作で、環式化合物を含む抽出液から固体を容易に析出させることができる。すなわち、抽出液に溶存している溶質の分離と乾燥とを同時に行うことができるので、高効率の処理が可能になる。
【0074】
このような蒸発処理には、例えば加熱方式、減圧方式、ガス吹付方式等が挙げられ、これらのうちの複数方式を組み合わせるようにしてもよい。
【0075】
このうち、抽出液を加熱して揮発させる方式が好ましく用いられる。加熱温度は、抽出液を揮発させ得る温度であり、かつ、環式化合物の融点を下回る温度であれば、特に限定されないが、例えば50~300℃程度であるのが好ましく、80~250℃程度であるのがより好ましい。これにより、環式化合物の変質を抑制しつつ、抽出液を効率よく除去することができる。
【0076】
また、溶媒を蒸発させる処理以外の方法で固体を析出させるようにしてもよい。
かかる方法としては、例えば、抽出液に溶存している環式化合物の溶解度を低下させる操作を行うことによって、環式化合物を選択的に析出させる晶析処理が挙げられる。晶析処理によれば、環式化合物の精製が図られるため、さらに高純度の環式化合物を析出させることが可能になる。
【0077】
晶析処理は、原料液体において特定の溶質を固体として析出させる処理であれば、いかなる方法であってもよい。
【0078】
具体的には、例えば、原料液体の温度を変化させ溶解度の温度依存性を利用して晶析する処理、加熱または減圧等の操作により原料液体から溶媒を揮発除去し晶析する処理、溶質の溶解度が低い溶媒を添加し溶解度の溶媒種依存性を利用して晶析する処理、原料溶液のpHを変化させ溶解度のpH応答性を利用して晶析する処理等が挙げられ、これらのうちの1種または複数種を組み合わせて用いられる。
【0079】
例えばpH応答性を利用して晶析する処理を用いる場合、環式化合物は一般に低pHにおいて水への溶解度が低下する。したがって、晶析処理においてpHを例えば1~4程度まで下げることにより、溶解度を低下させ、環式化合物を析出させることができる。
【0080】
このときの温度は、特に限定されないが、例えば15~80℃程度であるのが好ましく、20~60℃程度であるのがより好ましい。これにより、晶析処理の能力と収率とを両立することができる。
【0081】
また、晶析操作は、バッチ操作であっても連続操作であってもよい。
また、晶析操作には、公知の撹拌槽が用いられる。
【0082】
また、晶析を促進させるため、必要に応じて、析出させようとする固体の成分を含む種晶を添加するようにしてもよい。これにより、種晶が核となって晶析が促進され、晶析効率を高めるとともに、高純度化が図られやすくなる。
なお、晶析処理後には、固液分離処理によって、抽出液中の固体を分離すればよい。
【0083】
固液分離処理としては、例えば、ろ過分離、沈降分離、減圧脱水、加圧脱水等が挙げられるが、特に操作の容易さや分離の正確性の観点からろ過分離が好ましく用いられる。具体的には、遠心ろ過機を用いることができる。
また、固液分離操作は、バッチ操作であっても連続操作であってもよい。
【0084】
その後、必要に応じて、貧溶媒を用いて洗浄操作を行った後、乾燥させることにより、固体の環式化合物を回収することができる。
なお、上述した晶析操作に先立ち、濃縮処理を施すようにしてもよい。
【0085】
(その他の工程)
また、回収した固体の環式化合物は、追加的に設けられるその他の処理を行う工程に供されてもよい。
【0086】
その他の処理としては、例えば、再溶解処理、活性炭処理、再沈殿処理等が挙げられる。
【0087】
-再溶解処理-
再溶解処理は、回収した環式化合物を良溶媒に溶解させる処理である。これにより、環式化合物の溶液が調製される。
良溶媒としては、例えば、水、メタノール、ヘキサン、クロロホルム等が挙げられる。
【0088】
-活性炭処理-
次に、調製した溶液に活性炭処理を施す。これにより、溶液中の高分子成分が活性炭に吸着され、除去される。なお、活性炭に代えて、その他の吸着媒体を用いるようにしてもよいが、活性炭が好ましく用いられる。
【0089】
溶液に活性炭を添加し、撹拌する。活性炭を用いることにより、溶液の溶質について脱色することもできる。
【0090】
なお、活性炭処理の温度は、30~150℃程度であるのが好ましい。また、活性炭処理の時間は、特に限定されないが、10分~10時間程度であるのが好ましい。
【0091】
また、溶液100gに対する活性炭の添加量は、特に限定されないが、0.01~3gであるのが好ましく、0.1~1gであるのがより好ましい。これにより、溶質までが活性炭に吸着されてしまうのを抑制しつつ、十分な脱色作用を享受することができる。
【0092】
なお、活性炭処理は必要に応じて行えばよく、省略されてもよい。また、活性炭処理の順序は、本実施形態に限定されず、例えば乾燥工程の前であってもよく、抽出工程と析出工程との間であってもよい。
また、処理後の活性炭は、ろ過等の固液分離によって除去される。
【0093】
-再沈殿処理-
再沈殿処理は、調製した溶液に対し、環式化合物の貧溶媒を添加して、環式化合物の沈殿を得る処理である。すなわち、溶液に貧溶媒を添加して、環式化合物の溶解度を下げ、固体として析出させる処理である。これにより、環式化合物を選択的に沈殿させることができるため、高純度化を図ることができる。
【0094】
析出させた固体は、固液分離処理によって分離した後、乾燥させることによって固体の環式化合物として回収される。
【0095】
貧溶媒としては、水と混和しかつ水よりもシキミ酸の溶解度が低い溶媒であれば、特に限定されないが、例えば、エタノール、アセトニトリル、アセトン、イソプロパノール、酢酸エチル等が挙げられる。
【0096】
≪第2実施形態≫
次に、本発明の環式化合物またはその誘導体の製造方法の第2実施形態について説明する。
【0097】
図2は、本発明の環式化合物またはその誘導体の製造方法の第2実施形態を説明するための工程図である。なお、図2で用いている符号のうち、図1と同じ符号の工程は、第1実施形態で説明した工程と同様であることを示している。
【0098】
以下、第2実施形態について説明するが、以下の説明では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
【0099】
本実施形態に係る環式化合物またはその誘導体の製造方法は、バイオマスから原料液体を調製する原料液体調製工程S01と、原料液体に酸を添加する酸性化工程S02と、環式化合物またはその誘導体を含有する原料液体を乾燥させ、乾燥物を得る乾燥工程S03と、乾燥物を再溶解し、溶液を得る再溶解工程S06と、溶液に吸着処理を施し、処理液を得る吸着工程S07と、処理液から環式化合物またはその誘導体を抽出し、抽出液を得る抽出工程S08と、抽出液の溶質を固体として回収する析出工程S05と、を有している。このような環式化合物の製造方法によれば、固体で高純度の環式化合物またはその誘導体を高い収率で製造することができる。
【0100】
以下、各工程について順次説明する。なお、以下の説明では、環式化合物またはその誘導体を省略して「環式化合物」ともいう。
【0101】
(原料液体調製工程S01)
まず、第1実施形態と同様にして、原料液体を調製する。
【0102】
(酸性化工程S02)
次に、必要に応じて、第1実施形態と同様にして、得られた原料液体に酸を添加する。
【0103】
(乾燥工程S03)
次に、第1実施形態と同様にして、原料液体を乾燥させ、乾燥物を得る。
【0104】
(再溶解工程S06)
次に、必要に応じて、乾燥物を良溶媒に溶解する処理を施す。これにより、環式化合物の溶液が調製される。
良溶媒としては、例えば、水、メタノール、ヘキサン、クロロホルム等が挙げられる。
【0105】
(吸着工程S07)
次に、調製した溶液に活性炭処理等の吸着処理を施す。この活性炭処理は、第1実施形態に係る活性炭処理と同様である。これにより、溶液中の高分子成分が活性炭に吸着され、除去される。なお、活性炭に代えて、その他の吸着媒体を用いるようにしてもよいが、活性炭が好ましく用いられる。
【0106】
なお、本工程は必要に応じて行えばよく、省略されてもよい。また、本工程の順序は、本実施形態における順序に限定されず、例えば乾燥工程の前であってもよく、抽出工程と析出工程との間であってもよく、双方であってもよい。
【0107】
また、処理後の活性炭は、ろ過等の固液分離によって除去される。これにより、不純物等の少なくとも一部が除去された環式化合物の溶液が得られる。
【0108】
(抽出工程S04)
次に、有機溶媒により、溶液、すなわち乾燥工程S03で得られた乾燥物を再溶解処理および吸着処理に供した結果、乾燥物が溶解してなる液体から環式化合物の液液抽出処理を施し、抽出液を得る。
【0109】
液液抽出処理は、溶液中に含まれている環式化合物および無機塩等の不純物について、有機溶媒に対する溶解性の違いを利用して、環式化合物を選択的に抽出する処理である。すなわち、環式化合物を溶解させる有機溶媒を用い、抽出物として環式化合物の溶液を得る処理である。これにより、有機溶媒側に環式化合物を選択的に移行させ、無機塩等の不純物については、当初の溶液中に含まれていた溶媒中に残存させることができる。その結果、純度の高い環式化合物が精製される。
【0110】
有機溶媒としては、例えば、n-ブタノール、イソブタノール、イソ-n-ペンタノール、イソペンチルアルコール、n-ヘキサノール、2-ヘキサノール、クロロホルム、ヘキサン、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、四塩化炭素等が挙げられる。
【0111】
なお、この抽出工程では、上述した液液抽出処理に代えて、第1実施形態と同様の固液抽出処理を施すようにしてもよい。その場合、吸着工程S07で得られた溶液を、一度、固体化するために第2の乾燥工程を行うようにしてもよい。その第2の乾燥工程は、第1実施形態に係る乾燥工程と同様にして行えばよい。
【0112】
(析出工程S05)
次に、第1実施形態と同様にして、環式化合物を含む抽出液の溶質を析出させ、必要に応じて、洗浄、乾燥を経ることにより、固体の環式化合物を回収することができる。
【0113】
その後、必要に応じて、第1実施形態と同様の、その他の工程を行うようにしてもよい。
【0114】
<環式化合物またはその誘導体>
次に、本発明の環式化合物またはその誘導体の実施形態について説明する。
【0115】
本実施形態に係る環式化合物またはその誘導体は、例えば下記式(1)で表される化合物である。
【0116】
【化1】
[式(1)中、環Aは、飽和環、部分飽和環もしくは芳香環の5員環、飽和環、部分飽和環もしくは芳香環の6員環、または、5員環もしくは6員環を含む縮合環であり、Xは単結合または1つ以上の炭素数を含む結合であり、Yは水素原子またはアルキル基、R~R(環Aが5員環の場合はR~R)は、独立して、水素原子、水酸基、アミノ基、アルコキシ基、カルボキシル基またはカルボニル基である。]
【0117】
なお、環式化合物の誘導体とは、上記式(1)で表される化合物、上記式(1)で表される化合物から誘導される化合物、および、上記式(1)で表される化合物の塩のうちのいずれか、またはこれらの2種以上が混在したものである。
【0118】
上記式(1)で表される化合物から誘導される化合物としては、上記式(1)で表される化合物のエステル、酸無水物、アミド、酸ハロゲン化物等が挙げられる。なお、エステルには、例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル等が挙げられる。
【0119】
上記式(1)で表される化合物の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0120】
また、このような環式化合物は、バイオマス由来であって、粉末状をなしているものが好ましく用いられる。これにより、環境負荷が少なく、取り扱いが容易な化成品または化成品原料を得ることができる。
【0121】
また、かかる環式化合物は、JIS P 8148:2001に規定されたISO白色度の試験方法に準じて測定されたISO白色度が70%以上であることが好ましく、80%以上であるのがより好ましい。このような環式化合物は、バイオマス由来であっても不純物が少ない化成品または化成品原料となる。特に、淡色の化成品を製造する場合等には、原料の色が化成品に移行するのを防ぐことが求められる。このような場合に、ISO白色度が前記範囲内である環式化合物を用いることにより、呈色不良が発生しにくく、高品質な化成品を得ることができる。
【0122】
なお、ISO白色度は、分光色彩白度計(例えば日本電色工業(株)製PF7000R)を用い、JIS P 8148:2001の「ISO白色度(拡散青色光反射率)の測定方法」に準拠して測定される。
【0123】
ここで、式(1)で表される化合物についてさらに説明する。
飽和環、部分飽和環もしくは芳香環の5員環としては、例えば、フラン構造、チオフェン構造、ピロール構造、ピロリジン構造、テトラヒドロフラン構造、2,3-ジヒドロフラン構造、ピラゾール構造、イミダゾール構造、オキサゾール構造、イソオキサゾール構造、チアゾール構造、イソチアゾール構造等が挙げられる。
【0124】
飽和環の6員環としては、例えば、シクロヘキサン構造のような炭化水素系飽和環、ピペリジン構造、ピペラジン構造、トリアジナン構造、テトラジナン構造、ペンタジナン構造、キヌクリジン構造のような含窒素飽和環、テトラヒドロピラン構造、モルホリン構造のような含酸素飽和環、テトラヒドロチオピラン構造のような含硫黄飽和環等が挙げられる。
【0125】
部分飽和環の6員環としては、シクロヘキセン構造、シクロヘキサジエン構造のような炭化水素系部分飽和環、ピペリジン構造のような含窒素部分飽和環、ピラン構造のような含酸素部分飽和環、チアジン構造のような含硫黄部分飽和環等が挙げられる。
【0126】
芳香環の6員環としては、ベンゼン構造のような炭化水素系芳香環、ピリジン構造、ピリダジン構造、ピリミジン構造、ピラジン構造、トリアジン構造、テトラジン構造、ペンタジン構造のような含窒素芳香環(含窒素不飽和環)等が挙げられる。
【0127】
縮合環としては、例えば6員環と5員環との縮合環、2つの6員環の縮合環等が挙げられる。このうち、6員環と5員環との縮合環としては、例えば、インドール、インドレニン、インドリン、イソインドール、イソインドレニン、イソインドリン、イソドリジン、プリン、インドリジジンのようなインドール系構造が挙げられる。また、2つの6員環の縮合環としては、例えば、キノリン、イソキノリン、キノリジジン、キノキサリン、シンノリン、キナゾリン、フタラジン、ナフチリジン、プテリジンのようなキノリン系構造が挙げられる。
【0128】
Xは、単結合または1つ以上の炭素数を含む結合である。
Xが単結合である場合、環Aの環構成原子に対して酸素原子が直接結合している。
【0129】
一方、1つ以上の炭素数を含む結合としては、例えば、炭素数1~4の炭化水素基、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、カルボニル基、ビニリデン基等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせたものとされる。
【0130】
このうち、炭素数1~4の炭化水素基は、直鎖または分枝鎖のいずれであってもよく、飽和または不飽和のいずれであってもよい。なお、炭化水素基の水素原子は、炭素数1~2のアルキル基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、ハロゲン原子等の置換基で置換されていてもよい。
【0131】
なお、Xには、上述した結合に加え、任意の原子または原子団が含まれていてもよい。例えば、Xは、カルボニル基および1つ以上の炭素数を含む結合を含む原子団であってもよい。
【0132】
Yは、水素原子またはアルキル基である。アルキル基の炭素数は好ましくは1~12とされ、より好ましくは1~4とされる。
【0133】
環Aが6員環である場合、R~Rは、独立して、水素原子、水酸基、アミノ基、アルコキシ基、カルボキシル基またはカルボニル基である。また、環Aが5員環である場合、R~Rは、独立して、水素原子、水酸基、アミノ基、アルコキシ基、カルボキシル基またはカルボニル基である。
【0134】
なお、環Aが6員環である場合のR~Rのいずれか、または、環Aが5員環である場合のR~Rのいずれか、がカルボニル基である場合、環Aの環構成原子が炭素原子であり、かつ、その炭素原子と酸素原子との間が二重結合になっている構造を指して、カルボニル基という。
【0135】
環式化合物の具体例としては、例えば、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘミメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、メロファン酸、プレーニト酸、ピロメリット酸、フェニル酢酸、ヒドロキシフェニル酢酸、フェニル酪酸(フェニルラクテート)、ヒドロキシフェニル酪酸、フェニルピルビン酸、ヒドロキシフェニルピルビン酸、フェニル乳酸、ヒドロキシフェニル乳酸、アントラニル酸、ヒドロアトロパ酸、アトロパ酸、ヒドロケイ皮酸(クマル酸)、ケイ皮酸、サリチル酸(2-ヒドロキシ安息香酸)、m-サリチル酸(3-ヒドロキシ安息香酸)、p-サリチル酸(4-ヒドロキシ安息香酸)、メトキシ安息香酸、アミノ安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、ピロカテク酸(2,3-ジヒドロキシ安息香酸)、β-レソルシル酸(2,4-ジヒドロキシ安息香酸)、ゲンチジン酸(2,5-ジヒドロキシ安息香酸)、γ-レソルシル酸(2,6-ジヒドロキシ安息香酸)、プロトカテク酸(3,4-ジヒドロキシ安息香酸)、α-レソルシル酸(3,5-ジヒドロキシ安息香酸)、トリヒドロキシ安息香酸、バニリン酸(4-ヒドロキシ-3-メトキシ安息香酸)、イソバニリン酸(3-ヒドロキシ-4-メトキシ安息香酸)、ベラトルム酸、没食子酸、シリング酸、アサロン酸、マンデル酸、バニルマンデル酸、アニス酸、ホモプロトカテク酸、ホモバニリン酸、ホモイソバニリン酸、ホモベラトルム酸、ホモフタル酸、ホモイソフタル酸、ホモテレフタル酸、フタロン酸、イソフタロン酸、テレフタロン酸、アトロラクチン酸、トロパ酸、メリロト酸、フロレト酸、ジヒドロカフェー酸、ヒドロフェルラ酸、ヒドロイソフェルラ酸、ウンベル酸、カフェー酸(コーヒー酸)、フェルラ酸、イソフェルラ酸、シナピン酸、シリンガ酸、デヒドロキナ酸、デヒドロシキミ酸、シキミ酸、コリスミ酸、L-トリプトファン、L-チロシン、プレフェン酸、アロゲン酸、L-フェニルアラニン等が挙げられる。
【0136】
また、環式化合物の別の具体例としては、フラボノイド、リグナン、カルコン、スチルベノイド、アルカロイド、クルクミノイド、テルペノイド、サポニン、各種配糖体、各種ポリフェノール系芳香族化合物のようなポリフェノール類の他、アミノ酸、ビタミン等が挙げられる。
【0137】
このうち、フラボノイドとしては、例えば、オーランチニジン、シアニジン、デルフィニジン、ヨーロピニジン、ルテオリニジン、ペラルゴニジン、マルビジン、ペオニジン、ペチュニジン、ロシニジンのようなアントシアニジン、プロシアニジンのようなアントシアニン、ナリンゲニン、エリオシトリン、ピノセムブリン、エリオジクチオールのようなフラバノン、カテキンのようなフラバン、アピゲニン、ルテオリン、バイカレイン、クリシンのようなフラボン、ケルセチン、ケンプフェロールのようなフラボノール、イソフラボン、イソフラバン、イソフラバンジオール、ゲニステインのようなイソフラボノイドの他、ネオフラボノイド、ビフラボノイド、オーロン、プレニル化フラボノイド、O-メチル化フラボノイド等が挙げられる。
【0138】
また、リグナンとしては、例えば、ピノレシノール、ラリシレシノール、セコイソラリシレシノール、マタイレシノール、ヒドロキシマタイレシノール、シリンガレシノール、セサミン、アルクチゲニン、セサミノール、ポドフィロトキシン、ステガナシン等が挙げられる。
【0139】
さらに、スチルベノイドとしては、例えば、ピセアタンノール、ピノシルビン、プテロスチルベン、レスベラトロール、4’-メトキシレスベラトロール、ピノスチルベン、ピシアタノールのようなアグリコン、α-ビニフェリン、アンペロプシンA、アンペロプシンE、ジプトインドネシンC-カワン、ジプトインドネシンF-ダマールブア、ε-ビニフェリン、フレクスオソールA、グネチンH、ヘムスレヤノールD、ホペアフェノール、ジプトインドネシンB、バチカノールBのようなオリゴマー等が挙げられる。
【0140】
また、クルクミノイドとしては、例えば、クルクミン、ショウガオール等が挙げられる。
【0141】
さらに、テルペノイドとしては、例えば、ルテイン、ビタミンA、ビタミンE、βカロテンのようなカロテノイドの他、シトステロールのようなステロイド等が挙げられる。
【0142】
また、各種配糖体としては、例えば、サリシン、β-グルコガリン、サリチル酸グルコシド、サリドロシド、ガストロジン、ポプリン、フロリジン、アルブチンのようなフェノール配糖体、エスクリンのようなクマリン配糖体、ヘスペリジン、ルチンのようなフラボノイド配糖体、アストリンギン、ピセイド、ジプトインドネシンAのようなスチルベノイド配糖体等が挙げられる。
【0143】
さらに、各種ポリフェノール系芳香族化合物としては、例えば、チロソール、ヒドロキシチロソール、エスクレチン、フロレチン、ロスマリン酸、サルビアン酸A、レチクリン、パラクマリルアルコール、コニフェリルアルコール、カフェイルアルコール等が挙げられる。
【0144】
また、アミノ酸としては、例えば、フェニルアラニン、チロシン等が挙げられる。
さらに、ビタミンとしては、例えば、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE等が挙げられる。
【0145】
また、環式化合物のさらに別の具体例としては、芳香族化合物、脂環式化合物、脂肪族化合物、複素環式化合物等が挙げられる。
【0146】
このうち、芳香族化合物としては、例えば、バニリン、2-フェニルエタノール、フェニル酢酸、シンナミックアルコール、イソオイゲノール、フェルラ酸、4-アミノ安息香酸、アネトール、エストラゴール、アントラニル酸メチル、桂皮酸メチル、桂皮酸エチル、フェニルアセトアルデヒド、シンナミックアルデヒド、酢酸シンナミル、レゾルシン、4-ビニルフェノール、4-ビニル-2-メトキシフェノール、3,4-ジヒドロキシスチレン、ドーパミン、レボドパ、ハイドロキノン、クマリン、7-ヒドロキシクマリン、4-ヒドロキシクマリン、キシアメンマイシンA等が挙げられる。
【0147】
また、脂環式化合物としては、例えば、カルベオール、ペリラアルコール、ボルネオール、ジャスモン酸メチル、1,8-シネオール、L-メントン、バレンセン、ヌートカトン、α-ピネン、カンフェン、L-カルボン、ペリラアルデヒド、ミルテナール、酢酸L-メンチル、β-イオノン等が挙げられる。
【0148】
さらに、脂肪族化合物としては、例えば、シス-3-ヘキセノール、酢酸シス-3-ヘキセニル、アセトイン、ネロール、ファルネソール、アルギニン、ムコン酸等が挙げられる。
【0149】
また、複素環式化合物としては、例えば、ナイアシン、ナイアシンアミド、マルトール、インドール等が挙げられる。このうち、インドールとしては、例えば5,6-ジヒドロキシインドールが挙げられる。
【0150】
一方、環式化合物の誘導体としては、例えば、上述した化合物のエステル、酸無水物、アミド、酸ハロゲン化物、塩等、または、環式化合物から誘導される全ての化合物が挙げられる。
【0151】
なお、環式化合物またはその誘導体の分子量は、特に限定されないが、120~1000であるのが好ましく、130~800であるのがより好ましい。
【0152】
また、上記式(1)で表される環式化合物の環Aが、環構成原子が全て炭素原子である飽和環または部分飽和環の5員環である場合、R~RおよびXが結合する環Aの炭素原子のうち、1つ以上が不斉炭素原子であるのが好ましい。また、上記式(1)で表される環式化合物の環Aが、環構成原子が全て炭素原子である飽和環または部分飽和環の6員環である場合、R~RおよびXが結合する環Aの炭素原子のうち、1つ以上が不斉炭素原子であるのが好ましい。
【0153】
このような場合、環式化合物は立体異性体となる。この場合、本実施形態によれば、特定の立体異性体を高純度に含み、かつ、それ以外の立体異性体の含有率が低い環式化合物を高い収率で製造することが可能になる。その結果、不要な立体異性体の除去に伴う複雑な工程が必要なくなるので、製造コストの低コスト化を図ることができる。
【0154】
また、上記式(1)で表される環式化合物においてXが結合する環Aの炭素原子をCとし、Rが結合する環Aの炭素原子をCとし、Rが結合する環Aの炭素原子をCとし、Rが結合する環Aの炭素原子をCとし、Rが結合する環Aの炭素原子をCとし、Rが結合する環Aの炭素原子をCとしたとき、これらの炭素原子が不斉炭素原子である組み合わせが、下記(a)~(h)からなる群から選択される1種であることが好ましい。
【0155】
(a)C
(b)C
(c)C
(d)C
(e)CおよびC
(f)CおよびC
(g)C、CおよびC
(h)C、CおよびC
【0156】
なお、下記式(2)は、上記式(1)で表される環式化合物に対し、上記C~Cの表示を追記した式である。
【0157】
【化2】
[式(2)中、環Aは、飽和環、部分飽和環もしくは芳香環の5員環、飽和環、部分飽和環もしくは芳香環の6員環、または、5員環もしくは6員環を含む縮合環であり、Xは単結合または1つ以上の炭素数を含む結合であり、Yは水素原子またはアルキル基、R~R(環Aが5員環の場合はR~R)は、独立して、水素原子、水酸基、アミノ基、アルコキシ基、カルボキシル基またはカルボニル基である。また、C~Cは、それぞれ、環Aの環構成原子としての炭素原子である。]
【0158】
なお、環式化合物およびその誘導体は、上記式(2)で表される化合物であって、特に、3-デヒドロキネート、3-デヒドロシキミ酸、シキミ酸、コリスミ酸またはプレフェン酸であるのが好ましい。これらの化合物は、多くの分野で利用される化合物であって、その構造は以下の式で表される。
【0159】
・3-デヒドロキネート
【0160】
【化3】
【0161】
・3-デヒドロシキミ酸
【0162】
【化4】
【0163】
・シキミ酸
【0164】
【化5】
【0165】
・コリスミ酸
【0166】
【化6】
【0167】
・プレフェン酸
【0168】
【化7】
【0169】
以上のような環式化合物またはその誘導体の用途としては、特に限定されないが、例えば、香料組成物、化粧料組成物、医薬品、農薬、化学薬品、電気・電子部品用材料、合成繊維、樹脂、食品添加物等の各種化成品が挙げられる。また、環式化合物またはその誘導体は、各種化成品の原料としても用いられる。この原料としては、例えば、香料原料、化粧料原料、医薬品原料、農薬原料、化学薬品原料、電気・電子部品用原料、合成繊維原料、樹脂原料、食品添加物原料等が挙げられる。なお、原料とは、化成品の合成に用いられる中間体のことをいう。
【0170】
以上、本発明の環式化合物またはその誘導体の製造方法を実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0171】
例えば、本発明の環式化合物またはその誘導体の製造方法は、前記実施形態に任意の工程が付加されたものであってもよい。
【実施例
【0172】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.環式化合物の製造
(実施例1)
[1]まず、バイオマスに前処理を施し、混合糖を得た。
【0173】
[2]次に、増殖させた形質転換体を、混合糖と反応させ、培養液を得た。得られた培養液を遠心分離し、上清液(原料液体)を得た。
【0174】
[3]次に、得られた原料液体に酢酸を添加した。
[4]次に、得られた原料液体を噴霧乾燥法(スプレードライ法)により乾燥させ、粒子状の乾燥物を得た。なお、加熱温度は、温風の入口温度を120℃、出口温度を80℃とした。また、原料液体の供給量は、0.64kg/hとした。
【0175】
[5]次に、得られた乾燥物からメタノールを用いて環式化合物を固液抽出した。これにより、抽出液を得た。なお、固液抽出処理の温度は30℃、時間は2時間、溶媒の量は乾燥物1gに対して20gとした。
【0176】
[6]次に、得られた抽出液を加熱して濃縮し、含まれる溶媒を蒸発させた。これにより、固体のシキミ酸(環式化合物)を析出させ、回収した。
【0177】
[7]次に、回収した固体のシキミ酸を純水に再溶解させた。なお、再溶解に使用した純水の量は、固体のシキミ酸1gに対して5gとした。
【0178】
[8]次に、得られた再溶解液に活性炭を添加し、活性炭処理を施した。なお、活性炭は、再溶解液100gに対して0.4g使用した。
【0179】
[9]次に、活性炭処理を施した再溶解液に貧溶媒としてエタノールを添加した。これにより、固体のシキミ酸(環式化合物)を析出させた。その後、析出物をろ過により固液分離し、エタノールを用いて洗浄後、析出物を乾燥させ、回収した。
【0180】
(実施例2~14)
製造条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてシキミ酸(環式化合物)を得た。
【0181】
なお、表1の実施例8における「濃縮晶析」とは、濃縮処理と、冷却晶析処理と、を順次行って固体のシキミ酸を析出させる処理のことである。
また、真空乾燥法における密閉容器内の圧力は、1Paとした。
【0182】
(実施例15)
[1]まず、バイオマスに前処理を施し、混合糖を得た。
[2]次に、増殖させた形質転換体を、混合糖と反応させ、培養液を得た。得られた培養液を遠心分離し、上清液(原料液体)を得た。
【0183】
[3]次に、得られた原料液体に酢酸を添加した。
[4]次に、得られた原料液体を噴霧乾燥法(スプレードライ法)により乾燥させ、粒子状の乾燥物を得た。
【0184】
[5]次に、乾燥物を純水に再溶解させた。なお、再溶解に使用した純水の量は、乾燥物1gに対して5gとした。
【0185】
[6]次に、得られた再溶解液に活性炭を添加し、活性炭処理を施した。なお、活性炭は、再溶解液100gに対して0.4g使用した。
【0186】
[7]次に、有機溶媒として1-ブタノールを用い、再溶解液に対して液液抽出処理を施した。これにより、1-ブタノールを溶媒とする溶液を得た。
[8]次に、濃縮乾固により、溶質を析出させ、析出物を回収した。
【0187】
(実施例16~18)
製造条件を表2に示すように変更した以外は、実施例15と同様にしてシキミ酸(環式化合物)を得た。
【0188】
(実施例19)
[1]まず、実施例15と同様にして再溶解液に活性炭処理を施した。
[2]次に、再溶解液を再び噴霧乾燥させ、粒子状の乾燥物を得た。なお、加熱温度は、温風の入口温度を120℃、出口温度を80℃とした。また、原料液体の供給量は、0.64kg/hとした。
【0189】
[3]次に、得られた乾燥物からメタノールを用いて環式化合物を固液抽出した。これにより、抽出液を得た。なお、固液抽出処理の温度は30℃、時間は2時間、溶媒の量は乾燥物1gに対して20gとした。
【0190】
[4]次に、得られた抽出液を加熱して濃縮し、含まれる溶媒を蒸発させた。これにより、固体のシキミ酸(環式化合物)を析出させ、回収した。
【0191】
(実施例20~22)
製造条件を表2に示すように変更した以外は、実施例19と同様にしてシキミ酸(環式化合物)を得た。
【0192】
(比較例)
[1]まず、バイオマスから微生物発酵によりメタンを製造した。
【0193】
[2]次に、メタンを原料とし、ゼオライトにモリブデンおよび鉄を担持した触媒による反応を経て、ベンゼンを製造した。その後、蒸留によりベンゼンを精製した。
[3]次に、ベンゼンからシキミ酸を合成した。
【0194】
(参考例)
市販されているシキミ酸の試薬を用意した。
【0195】
2.環式化合物の評価
2.1 純度の測定
各実施例および比較例で得られた環式化合物について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、シキミ酸の純度を測定した。なお、純度は、回収した固体の全質量に対するシキミ酸の質量の割合(単位:質量%)とした。
また、測定条件は、以下の通りである。
【0196】
<シキミ酸のHPLC分析条件>
カラム:COSMOSIL 5C18-AR-II(φ4.6mm×250mm)ナカライテスク社製
移動相:水/メタノール/過塩素酸=4/1/0.0075(vol/vol/vol)イソクラティック溶出
流量:1mL/min
カラム温度:40℃
検出方法:フォトダイオードアレイ(PDA)検出器(210nm)
測定結果を表1、2に示す。
【0197】
2.2 収率の評価
各実施例および比較例で得られた環式化合物について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)と質量測定により、シキミ酸の収率を測定した。なお、収率は、原料液体中のシキミ酸の量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により算出し、回収した固体の質量とシキミ酸の純度から回収量を算出し、原料液体中のシキミ酸の量に対する回収したシキミ酸の割合(単位:%)とした。
測定結果を表1、2に示す。
【0198】
2.3 白色度の評価
各実施例および比較例で得られた環式化合物ならびに参考例の市販試薬について、分光色彩白度計により、ISO白色度を測定した。
測定結果を表1、2に示す。
【0199】
【表1】
【0200】
【表2】
【0201】
表1、2から明らかなように、各実施例では、高い純度の環式化合物を高い収率で回収することができた。
【0202】
なお、シキミ酸に代えて、環式化合物の一例である4-ヒドロキシ安息香酸の製造(回収)も行ったところ、表1、2に示す結果と同様の傾向が認められた。
【符号の説明】
【0203】
S01 原料液体調製工程
S02 酸性化工程
S03 乾燥工程
S04 抽出工程
S05 析出工程
S06 再溶解工程
S07 吸着工程
図1
図2