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特許7476535蒸着マスク、蒸着マスクの製造方法、および、表示装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】蒸着マスク、蒸着マスクの製造方法、および、表示装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/04 20060101AFI20240423BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20240423BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C23C14/04 A
H05B33/14 A
H05B33/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019524465
(86)(22)【出願日】2018-10-12
(86)【国際出願番号】 JP2018038126
(87)【国際公開番号】W WO2019074104
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2017199919
(32)【優先日】2017-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】西 剛広
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-041054(JP,A)
【文献】特開2015-168847(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/04
H10K 50/10
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板と、前記金属板に形成された複数のマスク孔とを含む蒸着マスクであって、
表面と、
前記表面とは反対側の面である裏面と、
各マスク孔を区画する内面と、を備え、
各マスク孔は、前記表面と前記裏面との間を貫通しており、
各マスク孔は、前記表面と対向する平面視において、前記表面に位置する大開口と、前記大開口の内側に位置する小開口と、を備え、各マスク孔の少なくとも一部は、前記大開口と前記小開口とを繋ぐ逆錘台筒状を有し、
各内面は、前記小開口から前記大開口に向けて拡開した段差面を備え、
前記段差面は2段の段差面であり、前記表面に直交する断面において2段の円弧状を有した孤状部を備え、前記孤状部は、第1円弧と前記第1円弧よりも前記裏面寄りに位置する第2円弧とを有し、
前記第1円弧の曲率半径は、前記第2円弧の曲率半径よりも小さく、
各マスク孔は、前記表面と対向する平面視において、前記表面に開口する主孔と、前記表面に開口し、前記主孔を挟む2つの補助窪みとを備え、各補助窪みは前記主孔に繋がり、
2つの前記補助窪みが並ぶ方向が第1方向であり、前記第1方向に直交する方向が第2方向であり、
前記表面と対向する平面視において、前記主孔は2n(nは2以上の整数)角形状を有し、前記補助窪みは、前記第2方向に沿って延びる矩形状を有し、
前記第1方向において、前記補助窪みの幅が前記主孔の幅よりも小さく、前記第2方向において、前記補助窪みの長さが前記主孔において前記補助窪みが繋がる辺の長さよりも長く、
前記大開口の縁は、前記主孔の縁と前記補助窪みの縁とを備え、
前記大開口の縁は、前記段差面の縁である第1部と、前記第1部以外の第2部とを備え、
前記第1部は、前記補助窪みの縁であり、
前記第2部は、前記主孔の縁であり、
前記断面において、前記補助窪みは、前記主孔よりも浅く、前記補助窪みが前記第1円弧を含み、前記主孔が前記第2円弧を含む
蒸着マスク。
【請求項2】
前記大開口の縁の前記第2部は、当該大開口と隣り合う他の前記大開口の前記第2部と合一した境界部を備え、当該境界部は、前記表面から窪んでいる
請求項1に記載の蒸着マスク。
【請求項3】
前記表面と対向する平面視において、前記境界部は、前記小開口の周囲のうち、互いに隣り合う前記小開口の間の距離が最も小さい部位を含む
請求項2に記載の蒸着マスク。
【請求項4】
前記大開口の縁における前記第1部は、当該大開口と隣り合う他の前記大開口の前記第1部と合一した境界部を備え、当該境界部は、前記表面から窪む形状を有する
請求項1に記載の蒸着マスク。
【請求項5】
前記小開口は、前記裏面に位置する
請求項1から4のいずれか一項に記載の蒸着マスク。
【請求項6】
各マスク孔は、前記裏面に位置し、前記裏面と対向する平面視において、前記大開口の内側に位置する裏面開口を有し、
各マスク孔は、前記段差面を含む大孔であって、前記主孔と前記補助窪みとを含む前記大孔と、前記大孔に繋がる小孔とを含み、前記小孔は、前記小開口と前記裏面開口とを繋ぐ錘台筒状を有し、
前記小孔の内面は、前記断面において円弧状を有し、
前記断面において、前記小孔の前記内面における曲率半径は、前記第1円弧の曲率半径よりも小さい
請求項1から4のいずれか一項に記載の蒸着マスク。
【請求項7】
金属板と、前記金属板に形成された複数のマスク孔とを含む蒸着マスクの製造方法であって、
金属板に複数のマスク孔を形成することにより蒸着マスクを形成することであって、
前記蒸着マスクは、
表面と、
前記表面とは反対側の面である裏面と、
各マスク孔を区画する内面と、を備え、
各マスク孔は、前記表面と前記裏面との間を貫通しており、
各マスク孔は、前記表面と対向する平面視において、前記表面に位置する大開口と、前記大開口の内側に位置する小開口と、を備え、各マスク孔の少なくとも一部は、前記大開口と前記小開口とを繋ぐ逆錘台筒状を有し、
各内面は、前記小開口から前記大開口に向けて拡開した段差面を備える、
蒸着マスクを形成すること、を含み、
前記段差面は2段の段差面であり、前記表面に直交する断面において2段の円弧状を有した孤状部を備え、前記孤状部は、第1円弧と前記第1円弧よりも前記裏面寄りに位置する第2円弧とを有し、
前記第1円弧の曲率半径は、前記第2円弧の曲率半径よりも小さく、
前記蒸着マスクを形成することは、前記金属板の前記表面にレジストマスクを形成すること、および、
前記レジストマスクを用いた一度のエッチングによって、前記段差面を形成すること、を含み、
前記レジストマスクは、前記金属板に接する面とは反対側の面であるレジスト表面と、前記段差面における前記第2円弧を形成するための第1パターンと、前記第1パターンとともに前記段差面を形成するための第2パターンであって、前記段差面における前記第1円弧を形成するための前記第2パターンとを含み、各第1パターンおよび各第2パターンは、前記レジストマスクの厚さ方向に沿って前記レジストマスクを貫通し、
前記レジスト表面と対向する平面視において、1つの前記第1パターンが2つの前記第2パターンに挟まれている
蒸着マスクの製造方法。
【請求項8】
金属板と、前記金属板に形成された複数のマスク孔とを含む蒸着マスクを用いた表示装置の製造方法であって、
金属板に複数のマスク孔を形成することにより蒸着マスクを形成することであって、
前記蒸着マスクは、表面と、前記表面とは反対側の面である裏面と、各マスク孔を区画する内面と、を備え、
各マスク孔は、前記表面と前記裏面との間を貫通しており、
各マスク孔は、前記表面と対向する平面視において、前記表面に位置する大開口と、前記大開口の内側に位置する小開口と、を備え、
各マスク孔の少なくとも一部は、前記大開口と前記小開口とを繋ぐ逆錘台筒状を有し、
各内面は、前記小開口から前記大開口に向けて拡開した段差面を備える、
蒸着マスクを形成することと、
前記蒸着マスクを用いた蒸着によって表示装置が有するパターンを形成することと、を含み、
前記段差面は2段の段差面であり、前記表面に直交する断面において2段の円弧状を有した孤状部を備え、前記孤状部は、第1円弧と前記第1円弧よりも前記裏面寄りに位置する第2円弧とを有し、
前記第1円弧の曲率半径は、前記第2円弧の曲率半径よりも小さく、
前記蒸着マスクを形成することは、前記金属板の前記表面にレジストマスクを形成すること、および、
前記レジストマスクを用いた一度のエッチングによって、前記段差面を形成すること、を含み、
前記レジストマスクは、前記金属板に接する面とは反対側の面であるレジスト表面と、前記段差面における前記第2円弧を形成するための第1パターンと、前記第1パターンとともに前記段差面を形成するための第2パターンであって、前記段差面における前記第1円弧を形成するための前記第2パターンとを含み、各第1パターンおよび各第2パターンは、前記レジストマスクの厚さ方向に沿って前記レジストマスクを貫通し、
前記レジスト表面と対向する平面視において、1つの前記第1パターンが2つの前記第2パターンに挟まれている
表示装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着マスク、蒸着マスクの製造方法、および、蒸着マスクを用いた表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸着法を用いて製造される表示装置の1つとして有機ELディスプレイが知られている。有機ELディスプレイが備えるパターンは、蒸着工程において昇華された蒸着粒子の堆積物である。蒸着工程において用いられる蒸着マスクは表面と裏面とを含み、かつ、蒸着マスクを表面から裏面まで貫通する複数のマスク孔を有している。各マスク孔は、昇華された蒸着粒子が通る通路である。
【0003】
蒸着マスクの裏面は、蒸着工程においてパターンが形成される蒸着対象に接する面である。蒸着マスクの表面は、蒸着工程において蒸着源と対向する面である。各マスク孔は、表面に開口する表面開口と、裏面に開口する裏面開口とを含んでいる。表面開口は、表面から裏面に向けて先細る大孔に含まれ、裏面開口は、裏面から表面に向けて先細る小孔に含まれている。大孔と小孔とは、蒸着マスクの厚さ方向において、蒸着マスクの厚さにおける中央よりも裏面寄りの位置にて互いに接続される。大孔と小孔とが接続した部分が接続部である。蒸着マスクの厚さ方向に沿い、かつ、接続部を通る断面において、裏面と平行な直線が基準線である。この断面において、表面開口の縁と接続部とを通る直線が傾斜線である。そして、基準線と傾斜線とが形成する角度が、テーパー角度である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-88936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、蒸着源から蒸着マスクに向けて飛行する蒸着粒子の軌跡と、蒸着マスクの裏面とが形成する角度が、蒸着粒子の入射角度である。昇華された蒸着粒子が大孔を通過することが可能な入射角度の範囲、ひいては蒸着粒子がマスク孔を通過することが可能な入射角度の範囲は、上述したテーパー角度によって制約される。そこで、蒸着マスクには、蒸着粒子が大孔を通過することが可能な入射角度における制約を小さくすることが求められている。
【0006】
本発明は、蒸着粒子がマスク孔を通過することが可能な蒸着粒子の入射角度における制約を小さくすることを可能とした蒸着マスク、蒸着マスクの製造方法、および、表示装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための蒸着マスクは、金属板と、前記金属板に形成された複数のマスク孔とを含む蒸着マスクである。表面と、前記表面とは反対側の面である裏面と、各マスク孔を区画する内面と、を備える。各マスク孔は、前記表面と前記裏面との間を貫通しており、各マスク孔は、前記表面と対向する平面視において、前記表面に位置する大開口と、前記大開口の内側に位置する小開口と、を備える。各マスク孔の少なくとも一部は、前記大開口と前記小開口とを繋ぐ逆錘台筒状を有する。各内面は、前記小開口から前記大開口に向けて拡開した段差面を備える。
【0008】
上記課題を解決するための蒸着マスクの製造方法は、金属板と、前記金属板に形成された複数のマスク孔とを含む蒸着マスクの製造方法である。金属板に複数のマスク孔を形成することによって蒸着マスクを形成することであって、前記蒸着マスクは、表面と、前記表面とは反対側の面である裏面と、各マスク孔を区画する内面と、を備え、各マスク孔は、前記表面と前記裏面との間を貫通しており、各マスク孔は、前記表面と対向する平面視において、前記表面に位置する大開口と、前記大開口の内側に位置する小開口と、を備え、各マスク孔の少なくとも一部は、前記大開口と前記小開口とを繋ぐ逆錘台筒状を有し、各内面は、前記小開口から前記大開口に向けて拡開した段差面を備える、蒸着マスクを形成すること、を含む。
【0009】
上記課題を解決するための表示装置の製造方法は、金属板と、前記金属板に形成された複数のマスク孔とを含む蒸着マスクを用いた表示装置の製造方法である。金属板に複数のマスク孔を形成することにより蒸着マスクを形成することであって、前記蒸着マスクは、表面と、前記表面とは反対側の面である裏面と、各マスク孔を区画する内面と、を備え、各マスク孔は、前記表面と前記裏面との間を貫通しており、各マスク孔は、前記表面と対向する平面視において、前記表面に位置する大開口と、前記大開口の内側に位置する小開口と、を備え、各マスク孔の少なくとも一部は、前記大開口と前記小開口とを繋ぐ逆錘台筒状を有し、各内面は、前記小開口から前記大開口に向けて拡開した段差面を備える、蒸着マスクを形成することと、前記蒸着マスクを用いた蒸着によって表示装置が有するパターンを形成することと、を含む。
【0010】
上記構成によれば、拡開した段差面が大開口の縁を拡大するため、段差面を有しないマスク孔と比べて、テーパー角度を小さくすることが可能である。これにより、蒸着粒子がマスク孔を通過することが可能な蒸着粒子の入射角度における制約を小さくすることができる。
【0011】
上記蒸着マスクにおいて、前記大開口の縁は、前記段差面の縁である第1部と、前記第1部以外の第2部とを備え、前記大開口の縁における前記第2部は、当該大開口と隣り合う他の前記大開口の前記第2部と合一した境界部を備え、当該境界部は、前記表面から窪む形状を有してもよい。
【0012】
上記構成によれば、大開口の縁における境界部が、表面から窪む形状を有する。そのため、境界部を備えない構成と比べて、マスク孔の内面のうち段差部以外の領域によるテーパー角度も小さくすることができる。
【0013】
上記蒸着マスクにおいて、前記表面と対向する平面視において、前記境界部は、前記小開口の周囲のうち、互いに隣り合う前記小開口の間の距離が最も小さい部位を含んでもよい。
【0014】
上記構成によれば、互いに隣り合う小開口の間の距離が最も小さい部位では、境界部によるテーパー角度を得ることが可能であり、互いに隣り合う小開口の間の距離がより大きい部位では、段差面による小さいテーパー角度を得ることが可能である。したがって、互いに隣り合う小開口の距離を大きくする設計においても、小さいテーパー角度を実現することができる。
【0015】
上記蒸着マスクにおいて、前記大開口の縁は、前記段差面の縁である第1部と、前記第1部以外の第2部とを備え、前記大開口の縁における前記第1部は、当該大開口と隣り合う他の前記大開口の前記第1部と合一した境界部を備え、当該境界部は、前記表面から窪む形状を有してもよい。
【0016】
上記構成によれば、大開口の縁における境界部が、表面から窪む形状を有する。そのため、境界部を備えてない構成と比べて、テーパー角度を小さくすることができる。
【0017】
上記蒸着マスクにおいて、前記小開口は、前記裏面に位置してもよい。上記構成によれば、小開口が裏面に位置するため、大開口から小開口までの加工を表面側から行うことが可能である。
【0018】
上記蒸着マスクにおいて、前記段差面は複数の段を有し、各段は、前記表面に直交する断面において円弧状を有してもよい。上記構成は、ウェットエッチングによって各段を形成することに適している。
【0019】
上記課題を解決するための蒸着マスクは、金属板と、前記金属板に形成された複数のマスク孔とを含む蒸着マスクである。表面と、前記表面とは反対側の面である裏面と、を備える。各マスク孔は、前記表面と前記裏面との間を貫通しており、各マスク孔は、前記表面と対向する平面視において、前記表面に位置する大開口と、前記大開口の内側に位置する小開口と、を備え、各マスク孔の少なくとも一部は、前記大開口と前記小開口とを繋ぐ逆錘台筒状を有し、互いに隣り合う前記大開口は、前記表面から窪む補助窪みによって接続されている。
【0020】
上記構成によれば、大開口の縁の一部は、補助窪みとの接続を通じて、表面から窪む形状を有する。そのため、補助窪みを有しないマスク孔と比べて、テーパー角度を小さくすることが可能である。これにより、蒸着粒子がマスク孔を通過することが可能な蒸着粒子の入射角度における制約を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、蒸着粒子がマスク孔を通過することが可能な蒸着粒子の入射角度における制約を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】一実施形態におけるマスク装置の構造を示す平面図。
図2】蒸着マスクの第1例におけるマスク表面と対向する平面視における構造を示す平面図。
図3】蒸着マスクの第1例におけるマスク裏面と対向する平面視における構造を示す平面図。
図4図2のI-I線に沿う端面図。
図5図4の一部を拡大して示す端面図。
図6図2のII-II線に沿う端面図。
図7】蒸着マスクの第2例におけるマスク表面と対向する平面視における構造を示す平面図。
図8】蒸着マスクの第2例におけるマスク裏面と対向する平面視における構造を示す平面図。
図9図7のIII-III線に沿う端面図。
図10図7のIV-IV線に沿う端面図。
図11】(a)~(f)蒸着マスクの製造方法の一例を説明する工程図。
図12】蒸着マスクの第1例を製造するときに用いられる第1レジストマスクの構造を示す平面図。
図13】蒸着マスクの第2例を製造するときに用いられる第1レジストマスクの構造を示す平面図。
図14】実施例1の蒸着マスクにおける構造を示す端面図。
図15】比較例1の蒸着マスクにおける構造を示す端面図。
図16】実施例2の蒸着マスクにおける構造を示す端面図。
図17】比較例2の蒸着マスクにおける構造を示す端面図。
図18】蒸着マスクの変形例におけるマスク表面と対向する平面視における構造を示す平面図。
図19】蒸着マスクの変形例におけるマスク表面と対向する平面視における構造を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1から図17を参照して、蒸着マスク、蒸着マスクの製造方法、および、表示装置の製造方法の一実施形態を説明する。以下では、マスク装置の構成、蒸着マスクの構成、蒸着マスクの製造方法、および、実施例を順に説明する。
【0024】
[マスク装置の構成]
図1が示すように、マスク装置10は、メインフレーム20と、複数の蒸着マスク30とを備えている。メインフレーム20は、複数の蒸着マスク30を支持するための矩形枠状を有し、蒸着を行うための蒸着装置に取り付けられる。メインフレーム20は、蒸着マスク30と同数のメインフレーム孔21を有している。各メインフレーム孔21は、メインフレーム20のなかで1つの蒸着マスク30が位置する範囲のほぼ全体を貫通する孔である。蒸着マスク30は短冊板状を有し、複数のマスク部31と、複数のマスク部31を取り囲む外周部32とを備えている。各マスク部31は、複数のマスク孔31Hを有する。一方で、外周部32は、マスク孔31Hを有しない。
【0025】
蒸着マスク30は、マスクシート30Sから構成されている。マスクシート30Sは、単一の金属シートから構成されてもよいし、多層の金属シートから構成されてもよい。マスクシート30Sを構成する金属シートの形成材料は、鉄‐ニッケル系合金である。金属シートの形成材料は、例えば、30質量%以上のニッケルを含む鉄‐ニッケル系合金であることが好ましい。なかでも、36質量%のニッケルと64質量%の鉄との合金を主成分とする合金、すなわちインバーが、金属シートの形成材料であることがより好ましい。金属シートが36質量%のニッケルと64質量%の鉄との合金を主成分とするとき、金属シートの残余分として、例えば、クロム、マンガン、炭素、および、コバルトなどの添加物を含んでもよい。
【0026】
マスクシート30Sがインバーシートであるとき、マスクシート30Sの熱膨張係数は、例えば1.2×10-6/℃程度である。こうした熱膨張係数を有するマスクシート30Sによれば、マスク部31における熱膨張の度合いと、ガラス基板における熱膨張の度合いとが整合する。そのため、マスク装置10を用いた蒸着において、蒸着対象の一例としてガラス基板を用いることが好ましい。マスクシート30Sの厚さは、例えば、10μm以上50μm以下である。
【0027】
なお、図1に示される例では、各蒸着マスク30の全体がメインフレーム20の縁よりも内側に位置しているが、複数のマスク部31が並ぶ方向における蒸着マスク30の両端部が、メインフレーム20の縁よりも外側に位置してもよい。
【0028】
[蒸着マスクの構成]
図2から図10を参照して、蒸着マスク30の構成を説明する。以下では、蒸着マスク30の第1例における構成と、蒸着マスク30の第2例における構成とを説明する。なお、蒸着マスク30の第1例と蒸着マスク30の第2例との間では、マスク部31が含むマスク孔31Hの形状が異なっている。
【0029】
[第1例]
図2から図6を参照して、蒸着マスク30の第1例を説明する。図2は、マスク表面と対向する平面視におけるマスク部31の平面構造を示している。これに対して、図3は、マスク裏面と対向する平面視におけるマスク部31の平面構造を示している。図2および図3では、マスク表面またはマスク裏面のなかで、マスク孔31Hが位置する部分と、マスク孔31Hが位置しない部分とを区別しやすくする目的で、マスク孔31Hが位置しない部分にドットが付されている。
【0030】
図2が示すように、蒸着マスク30は、マスク表面30Fと、マスク表面30Fとは反対側の面であるマスク裏面とを備えている。マスク部31は、マスク表面30Fとマスク裏面30Rとの間を貫通する複数のマスク孔31Hを備えている。各マスク孔31Hは、マスク表面30Fと対向する平面視において、マスク表面30Fに位置する表面開口HFと、表面開口HFの内側に位置する中央開口HCと、を備えている。表面開口HFは大開口の一例であり、中央開口HCは小開口の一例である。マスク孔31Hを区画する内面は、表面開口HFと中央開口HCとを繋ぐ段差面を備えている。表面開口HFの縁Eは、段差面の縁である第1部E1と、第1部E1以外の第2部E2とを備えている。
【0031】
本実施形態において、複数のマスク孔31Hは、第1方向DR1と、第1方向DR1と直交する第2方向DR2とに沿って並んでいる。各マスク孔31Hは、第1方向DR1において互いに隣り合うマスク孔31H、および、第2方向DR2において互いに隣り合うマスク孔31Hの双方から離れている。各マスク孔31Hは1つの主孔31H1と、2つの補助窪み31H2とを備えている。各主孔31H1は、第1方向DR1において、2つの補助窪み31H2に挟まれている。言い換えれば、第1方向DR1において互いに隣り合う主孔31H1間には、2つの補助窪み31H2が位置している。
【0032】
各マスク孔31Hにおいて、主孔31H1と補助窪み31H2とが繋がる部分は、マスク表面30Fに対して窪んだ部分であり、かつ、主孔31H1を区画する面と、補助窪み31H2を区画する面とによって、表面開口HFの縁を拡大させる方向に、段差が形成されている。そのため、上述した表面開口HFの縁Eは、第2部E2の一例である主孔31H1の縁と、第1部E1の一例である補助窪み31H2の縁とから構成されている。
【0033】
マスク表面30Fと対向する平面視において、第1方向DR1において互いに隣り合う中央開口HC間の距離が第1距離D1であり、第2方向DR2において互いに隣り合う中央開口HC間の距離が第2距離D2である。第1距離D1は、第2距離D2とほぼ等しい。
【0034】
マスク表面30Fと対向する平面視において、表面開口HFはほぼ正八角形状を有している。表面開口HFにおいて、第1方向DR1に沿う長さの最大値と、第2方向DR2に沿う長さの最大値とはほぼ等しい。なお、マスク表面30Fと対向する平面視において、表面開口HFは、正八角形状以外の多角形状を有することができる。表面開口HFは、多角形状のなかでも2n(nは2以上の整数)角形状を有することが好ましい。なお、マスク表面30Fと対向する平面視において、表面開口HFにおける各角部や各辺は曲率を有してもよい。
【0035】
マスク表面30Fと対向する平面視において、2つの補助窪み31H2は、互いにほぼ同じ形状を有し、かつ、ほぼ同じ大きさを有している。各補助窪み31H2は、第2方向DR2に沿って延びる矩形状を有している。なお、マスク表面30Fと対向する平面視において、2つの補助窪み31H2は、互いに異なる形状を有してもよいし、互いに異なる大きさを有してもよい。また、各補助窪み31H2の形状は、矩形状以外の形状でもよく、例えば、楕円状などでもよい。なお、マスク表面30Fと対向する平面視において、補助窪み31H2における各角部や各辺は曲率を有してもよい。
【0036】
図3が示すように、マスク裏面30Rと対向する平面視において、複数の裏面開口HRは、第1方向DR1と第2方向DR2とに沿って並んでいる。マスク裏面30Rと対向する平面視において、裏面開口HRは表面開口HFよりも小さく、また、各裏面開口HRの中心の位置は、その裏面開口HRが属するマスク孔31Hが含む主孔31H1の中心の位置とほぼ重なっている。各裏面開口HRはほぼ正八角形状を有し、各裏面開口HRの形状は、その裏面開口HRが属するマスク孔31Hにおける主孔31H1の縁の形状とほぼ相似である。
【0037】
図4は、図2におけるI-I線に沿う端面、すなわち、マスク表面30Fに直交し、かつ、第1方向DR1に沿って延びる平面に沿う端面における構造を示している。I-I線は、マスク表面30Fと対向する平面視において、第1方向DR1に沿って延び、かつ、第2方向DR2における表面開口HFの中央を通る直線である。
【0038】
図4が示すように、各マスク孔31Hは、マスク表面30Fに開口する表面開口HFと、表面開口HFよりも内側に位置する中央開口HCとを備えている。マスク孔31Hの一部は、表面開口HFと中央開口HCとを繋ぐ逆錘台筒状を有している。マスク孔31Hを区画する内面は、中央開口HCから表面開口HFに向けて拡開した段差面を備えている。中央開口HCから表面開口HFまでの間において、補助窪み31H2を区画する内面と、主孔31H1を区画する内面とが接続する部分が、接続部HCOである。
【0039】
各マスク孔31Hは、大孔HLと小孔HSとから構成されている。大孔HLは、表面開口HFを含む逆錘台筒状を有している。小孔HSは、裏面開口HRを含む錘台筒状を有している。小孔HSは大孔HLに繋がり、小孔HSと大孔HLとが接続する部分が中央開口HCである。大孔HLは、上述した主孔31H1と2つの補助窪み31H2とから構成されている。主孔31H1は、マスク表面30Fと中央開口HCとを繋ぐ孔である。大孔HLの内面は、マスク孔31Hの周方向における一部に、2段の段差面を備えている。2段の段差面は、上述したように、主孔31H1の内面の一部と、補助窪み31H2の内面とから構成される。中央開口HCと裏面開口HRとの間の距離が、ステップハイSHである。ステップハイは3μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。
【0040】
蒸着マスク30の厚さ方向に沿い、かつ、中央開口HCを通る断面において、マスク裏面30Rと平行な直線が基準線BLである。この断面において、中央開口HCの縁と、大孔HLの内面における一点とを結ぶ直線のなかで、基準線BLとともに形成する角度が最も大きくなる直線が傾斜線OLである。第1例において、傾斜線OLは、主孔31H1の内面と、表面開口HFの縁とを通る直線である。基準線BLと傾斜線OLとが形成する角度が、テーパー角度θである。なお、中央開口HCの縁と、接続部HCOとを結ぶ直線が、傾斜線OLであることもある。
【0041】
蒸着マスク30が備えるマスク孔31Hの加工には、通常ではウェットエッチングが用いられる。このウェットエッチングは、金属製のシートの表面から等方的に進むエッチングである。ウェットエッチングによって形成されるマスク孔31Hは、マスク表面30Fを底部とした例えば半円球面の一部であり、マスク孔31Hにおけるマスク表面30Fと平行な面に沿う断面積は、表面開口HFから遠ざかるほど急激に縮小する。こうしたマスク孔31Hが有するテーパー角度θは、シートの厚さが薄いほど小さく、シートの厚さによって概ね定められる。また、テーパー角度θを小さくするためにシートの厚さを薄くすることにも限りがある。この点で、上述した構成であれば、拡開した段差面が表面開口HFの縁Eを拡大するため、段差面を有しないマスク孔31Hと比べて、テーパー角度θを小さくすることが可能である。これにより、蒸着粒子がマスク孔31Hを通過することが可能な蒸着粒子の入射角度の大きさや、小さい入射角度を得たい位置など、これら入射角度における制約を小さくすることができる。
【0042】
図5は、マスク孔31Hの端面構造の一例を拡大して示している。なお、I-I線に沿う端面において、1つのマスク孔31Hを区画する側面のうちで、マスク孔31Hを挟んで第1方向DR1において互いに隣り合う部分は、互いにほぼ相同な形状を有している。そのため、以下では、2つの部分における一方のみを説明し、他方の説明を省略する。また、I-I線に沿う端面において、大孔HLを区画する側面を含むマスク要素は、蒸着マスク30の厚さ方向に平行であり、かつ、第1方向DR1におけるマスク要素の中央を通る直線に対して線対称の形状を有している。
【0043】
図5が示すように、段差面の各段は、マスク表面30Fに直交し、かつ、第1方向DR1に沿って延びる平面に沿う端面において、言い換えれば断面において、円弧状を有している。段差面は、ウェットエッチングによって各段を形成することに適した形状を有している。大孔HLの内面は、2段の円弧状を有した弧状部CAを備えている。弧状部CAは、第1円弧CA1と第2円弧CA2とから構成されている。第2円弧CA2は、第1円弧CA1よりもマスク裏面30R寄りに位置している。第1円弧CA1に接する第1曲率円CC1は、第1曲率中心C1を有している。第1曲率円CC1における曲率半径が、第1曲率半径RC1である。第2円弧CA2に接する第2曲率円CC2は、第2曲率中心C2を有している。第2曲率円CC2における曲率半径が、第2曲率半径RC2である。第1曲率中心C1および第2曲率中心C2は、弧状部CAに対するマスク孔31H側に位置している。第1曲率半径RC1は、第2曲率半径RC2よりも小さい。
【0044】
図6は、図2におけるII-II線に沿う端面、すなわち、マスク表面30Fに直交し、かつ、第2方向DR2に沿って延びる平面に沿う端面における構造を示している。II-II線は、マスク表面30Fと対向する平面視において、第2方向DR2に沿って延び、かつ、第1方向DR1における表面開口HFの中央を通る直線である。
【0045】
図6が示すように、マスク表面30Fに直交し、かつ、第2方向DR2に沿って延びる平面に沿う端面、言い換えれば断面において、大孔HLの内面、および、小孔HSの内面は、それぞれマスク孔31Hの外側に向けて張り出す円弧状を有している。
【0046】
こうした蒸着マスク30において、マスク表面30Fは、蒸着装置内において蒸着源と対向するための面であり、マスク裏面30Rは、蒸着装置内において、ガラス基板などの蒸着対象と接触するための面である。各マスク孔31Hは、蒸着源から昇華した蒸着粒子が通る通路であり、蒸着源から昇華した蒸着粒子は、表面開口HFから裏面開口HRに向けてマスク孔31H内を進む。マスク孔31Hにおいて、表面開口HFが裏面開口HRよりも大きいことによって、表面開口HFから入る蒸着粒子に対するシャドウ効果を抑えることが可能である。
【0047】
[第2例]
図7から図10を参照して、蒸着マスク30の第2例を説明する。
図7が示すように、蒸着マスク30は、複数のマスク孔31Hを備えている。各マスク孔31Hは、マスク表面30Fとマスク裏面30Rとの間を貫通している。マスク孔31Hは、マスク表面30Fと対向する平面視において、マスク表面30Fに位置する表面開口HFと、表面開口HFの内側に位置する中央開口HCとを備えている。表面開口HFは大開口の一例であり、中央開口HCは小開口の一例である。マスク孔31Hの一部は、表面開口HFと中央開口HCとを繋ぐ逆錘台筒状を有している。互いに隣り合う表面開口HFは、マスク表面30Fから窪む補助窪み31Cによって接続されている。
【0048】
各表面開口HFの縁Eは、その表面開口HFと隣り合う他の表面開口HFの縁Eと合一した境界部HBを備えている。境界部HBは、マスク表面30Fから窪む形状を有している。マスク表面30Fと対向する平面視において、境界部HBは、中央開口HCの周囲のうち、互いに隣り合う中央開口HCの間の距離が最も小さい部位を含む。上述したように、マスク表面30Fと対向する平面視において、第1方向DR1において互いに隣り合う中央開口HC間の距離が第1距離D1であり、第2方向DR2において互いに隣り合う中央開口HC間の距離が第2距離D2である。蒸着マスク30の第2例において、第1距離D1が第2距離D2よりも小さく、境界部HBは、第1方向DR1におけるマスク孔31H間に位置している。
【0049】
こうした構成では、表面開口HFの縁Eにおける境界部HBが、マスク表面30Fから窪む形状を有する。そのため、境界部HBを備えない構成と比べて、補助窪み31C以外の領域でもテーパー角度θを小さくすることができる。また、互いに隣り合う中央開口HCの間の距離が最も小さい部位では、境界部HBによるテーパー角度θを得ることが可能であり、互いに隣り合う中央開口HCの間の距離がより大きい部位では、補助窪み31Cによる小さいテーパー角度θを得ることが可能である。したがって、互いに隣り合う中央開口HCの距離が大きい設計においても、小さいテーパー角度θを実現することができる。
【0050】
本実施形態において、複数のマスク孔31Hは、第1方向DR1と第2方向DR2とに沿って並び、かつ、マスク表面30Fと対向する平面視において第1方向DR1に沿って延びる形状を有している。マスク表面30Fと対向する平面視において、第2方向DR2において互いに隣り合うマスク孔31H間に補助窪み31Cが1つずつ位置している。各補助窪み31Cは、第2方向DR2においてその補助窪み31Cを挟む2つのマスク孔31Hに繋がっている。
【0051】
各マスク孔31Hでは、マスク表面30Fと対向する平面視において、境界部HBが、マスク孔31Hの周方向における一部に位置している。各マスク孔31Hは、2つの境界部HBを含んでいる。各境界部HBは、第2方向DR2に沿って延びる直線状を有し、2つの境界部HBは、第1方向DR1に沿って並んでいる。境界部HBは、マスク孔31Hの内側から見て、マスク表面30Fから窪む凹状である。
【0052】
マスク表面30Fと対向する平面視において、表面開口HFはほぼ八角形状を有している。表面開口HFにおいて、第1方向DR1に沿う長さの最大値は、第2方向DR2に沿う長さの最大値よりも大きい。なお、マスク表面30Fと対応する平面視において、表面開口HFは、第1例の表面開口HFと同様、八角形状以外の多角形状を有することができる。表面開口HFは、多角形状のなかでも2n(nは2以上の整数)角形状を有することが好ましい。なお、マスク表面30Fと対向する平面視において、表面開口HFにおける各角部や各辺は曲率を有してもよい。
【0053】
マスク表面30Fと対向する平面視において、複数の補助窪み31Cは、互いにほぼ同じ形状を有し、かつ、ほぼ同じ大きさを有している。各補助窪み31Cは、例えば、第1方向DR1に沿って延びる矩形状を有している。なお、マスク表面30Fと対向する平面視において、複数の補助窪み31Cは、互いに異なる形状を有してもよいし、互いに異なる大きさを有してもよい。また、各補助窪み31Cの形状は、上述した矩形状以外の形状でもよく、例えば、楕円状などでもよい。なお、マスク表面30Fと対向する平面視において、補助窪み31Cにおける各角部や各辺は曲率を有してもよい。
【0054】
図8が示すように、複数の裏面開口HRは、第1方向DR1と第2方向DR2とに沿って並んでいる。各裏面開口HRの中心の位置は、その裏面開口HRが属するマスク孔31Hが含む表面開口HFの中心の位置とほぼ重なっている。各裏面開口HRは、第1方向DR1に沿って延びるほぼ八角形状を有し、各裏面開口HRの形状は、その裏面開口HRが属するマスク孔31Hにおける表面開口HFの形状とほぼ相似である。
【0055】
図9は、図7におけるIII-III線に沿う端面、すなわち、マスク表面30Fに直交し、かつ、第1方向DR1に沿って延びる平面に沿う端面における構造を示している。III-III線は、マスク表面30Fと対向する平面視において、第1方向DR1に沿って延び、かつ、第2方向DR2における表面開口HFの中央を通る直線である。
【0056】
図9が示すように、各マスク孔31Hは、大孔HLと小孔HSとを含んでいる。大孔HLは、表面開口HFを含み、かつ、マスク表面30Fからマスク裏面30Rに向けて先細る逆錘台筒状を有している。小孔HSは、裏面開口HRを含み、かつ、マスク裏面30Rからマスク表面30Fに向けて先細る錘台筒状を有している。小孔HSは大孔HLに繋がり、小孔HSと大孔HLとが繋がる部分が中央開口HCである。また、第1方向DR1において互いに隣り合うマスク孔31Hは、マスク表面30Fから窪んだ境界部HBにおいて互いに繋がっている。そのため、境界部HBにおける厚さは、外周部32における厚さよりも薄い。
【0057】
図10は、図7におけるIV-IV線に沿う端面、すなわち、マスク表面30Fに直交し、かつ、第2方向DR2に沿って延びる平面に沿う端面における構造を示している。IV-IV線は、マスク表面30Fと対向する平面視において、第2方向DR2に沿って延び、かつ、第1方向DR1における表面開口HFの中央を通る直線である。
【0058】
図10が示すように、マスク表面30Fに直交し、かつ、第2方向DR2に沿って延びる平面に沿う端面では、互いに隣り合うマスク孔31H間に、1つの補助窪み31Cのみが位置する。この補助窪み31Cは、一方のマスク孔31Hの表面開口HFと、他方のマスク孔31Hの表面開口HFとに接続されている。すなわち、マスク孔31Hは、2段の段差面を有していない。互いに隣り合う2つのマスク孔31Hでは、各大孔HLの内面同士が、補助窪み31Cによって接続されている。マスク部31の一部における厚さは、補助窪み31Cの分だけ外周部32の厚さよりも薄い。
【0059】
各マスク孔31Hにおいて、蒸着マスク30の第1例と同様、傾斜線OLと基準線BLとが形成する角度がテーパー角度θである。蒸着マスク30の第2例において、傾斜線OLは、大孔HLの内面に沿って延びる直線である。すなわち、傾斜線OLは、大孔HLと小孔HSとの接続部である中央開口HCにおける接線方向に延びる直線である。
【0060】
[蒸着マスクの製造方法]
図11を参照して、蒸着マスク30の製造方法を説明する。
図11(a)から図11(f)が示すように、蒸着マスク30の製造方法では、まず、金属板の一例であるシート30S1が準備される(図11(a)参照)。次いで、シート30S1のマスク表面30Fに第1レジスト層PR1が形成され、かつ、シート30S1のマスク裏面30Rに第2レジスト層PR2が形成される(図11(b)参照)。そして、第1レジスト層PR1および第2レジスト層PR2に対する露光、および、現像が行われることによって、マスク表面30Fに第1レジストマスクRM1が形成され、かつ、マスク裏面30Rに第2レジストマスクRM2が形成される(図11(c)参照)。
【0061】
次に、第1レジストマスクRM1を覆う第1保護層PL1が形成された後に、シート30S1が第2レジストマスクRM2を用いてマスク裏面30Rからウェットエッチングされることによって、シート30S1に複数の小孔HSが形成される(図11(d)参照)。次いで、第1保護層PL1の除去と、第2レジストマスクRM2を覆う第2保護層PL2の形成とが行われた後に、シート30S1が第1レジストマスクRM1を用いてマスク表面30Fからウェットエッチングされることによって、シート30S1に複数の大孔HLが形成される(図11(e)参照)。シート30S1に対して複数の小孔HSを形成する工程と、複数の大孔HLを形成する工程とが、板形成工程およびマスク形成工程に含まれる。そして、第1レジストマスクRM1、第2レジストマスクRM2、および、第2保護層PL2がシート30S1から除去されることによって、蒸着マスク30が製造される(図11(f)参照)。なお、図11(d)では、第1レジストマスクRM1を剥離した後に、第2保護層PL2を形成してもよい。
【0062】
シート30S1を製造する方法には、電解または圧延が用いられ、これらによって得られたシート30S1の後処理として、研磨やアニールなどが適宜用いられる。シート30S1の製造に電解が用いられるときには、電解に用いられる電極の表面にシート30S1が形成され、その後、電極の表面からシート30S1が離型される。これにより、シート30S1が製造される。なお、電極の表面から離型されたシート30S1は、必要に応じてアニールされてもよい。シート30S1の製造に圧延が用いられるときには、シート30S1を製造するための母材が圧延され、その後、圧延された母材がアニールされることによって、シート30S1が得られる。なお、電解によって得られたシート30S1および圧延によって得られたシート30S1は、いずれも酸性エッチング液を用いたウェットエッチングによって薄く加工されてもよい。
【0063】
電解に用いられる電解浴は、鉄イオン供給剤、ニッケルイオン供給剤、および、pH緩衝剤を含んでいる。また、電解浴は、応力緩和剤、Fe3+イオンマスク剤、および、錯化剤などを含んでもよい。電解浴は、電解に適したpHに調整された弱酸性の溶液である。鉄イオン供給剤には、例えば、硫酸第一鉄・7水和物、塩化第一鉄、および、スルファミン酸鉄などを用いることができる。ニッケルイオン供給剤には、例えば、硫酸ニッケル(II)、塩化ニッケル(II)、スルファミン酸ニッケル、および、臭化ニッケルなどを用いることができる。pH緩衝剤には、例えば、ホウ酸、および、マロン酸を用いることができる。マロン酸は、Fe3+イオンマスク剤としても機能する。応力緩和剤には、例えばサッカリンナトリウムなどを用いることができる。錯化剤には、例えば、リンゴ酸およびクエン酸などを用いることができる。電解に用いられる電解浴は、例えば、上述した添加剤を含む水溶液であり、電解浴のpHは、pH調整剤によって、例えば2以上3以下に調整される。なお、pH調整剤には、5%硫酸および炭酸ニッケルなどを用いることができる。
【0064】
電解に用いられる条件は、シート30S1の厚さ、および、シート30S1の組成比などを所望の値に調節するための条件であり、こうした条件には、電解浴の温度、電流密度、および、電解時間が含まれる。上述した電解浴に適用される陽極は、例えば、純鉄板およびニッケル板などである。電解浴に適用される陰極は、例えば、SUS304などのステンレス板である。電解浴の温度は、例えば、40℃以上60℃以下である。電流密度は、例えば、1A/dm以上4A/dm以下である。
【0065】
なお、シート30S1を形成するための圧延用の母材が形成されるとき、圧延用の母材を形成するための材料中に混入した酸素を除くために、例えば、粒状のアルミニウムや粒状のマグネシウムなどの脱酸剤が、母材を形成するための材料に混ぜられる。アルミニウムやマグネシウムは、酸化アルミニウムや酸化マグネシウムなどの金属酸化物として母材に含まれる。これら金属酸化物の大部分は、母材が圧延される前に、母材から取り除かれる。一方で、金属酸化物の一部分は、圧延の対象である母材に残る。電解を用いる蒸着マスク30の製造方法によれば、金属酸化物がマスクシート30Sに混ざることが抑えられる。
【0066】
シート30S1に複数のマスク孔31Hを形成するためのエッチングでは、エッチング液として、酸性のエッチング液を用いることができる。シート30S1がインバーから形成されるときには、エッチング液は、インバーをエッチングすることが可能なエッチング液であればよい。酸性のエッチング液は、例えば、過塩素酸第二鉄液、および、過塩素酸第二鉄液と塩化第二鉄液との混合液に対して、過塩素酸、塩酸、硫酸、蟻酸、および、酢酸のいずれかを混合した溶液である。マスク表面30Fをエッチングする方式には、ディップ式、スプレー式、および、スピン式のいずれかを用いることができる。
【0067】
図12および図13を参照して、第1レジストマスクRM1を説明する。図12は、蒸着マスク30の第1例を製造するときに形成される第1レジストマスクRM1を示し、図13は、蒸着マスク30の第2例を製造するときに形成される第1レジストマスクRM1を示している。
【0068】
図12が示すように、第1レジストマスクRM1は、レジスト表面RMFを含んでいる。レジスト表面RMFは、第1レジストマスクRM1のなかで、シート30S1に接する面とは反対側の面である。第1レジストマスクRM1は、複数の第1パターンRMaと、複数の第1補助パターンRMbとを有している。各第1パターンRMaおよび各第1補助パターンRMbは、第1レジストマスクRM1の厚さ方向に沿って第1レジストマスクRM1を貫通している。
【0069】
レジスト表面RMFと対向する平面視において、各第1パターンRMaは、ほぼ正八角形状を有している。各第1パターンRMaは、その第1パターンRMaによって形成される主孔31H1の第2部E2が区画する領域とほぼ相似な形状を有している。レジスト表面RMFと対向する平面視において、複数の第1パターンRMaは、第1方向DR1および第2方向DR2の各々に沿って並んでいる。
【0070】
レジスト表面RMFと対向する平面視において、各第1補助パターンRMbは、第2方向DR2に沿って延びる矩形状を有している。各第1補助パターンRMbは、その第1補助パターンRMbによって形成される補助窪み31H2の第1部E1が区画する領域とほぼ相似な形状を有している。レジスト表面RMFと対向する平面視において、第1方向DR1において互いに隣り合う2つの第1パターンRMaの間に2つの第1補助パターンRMbが位置している。
【0071】
こうした第1レジストマスクRM1を用いたエッチングによって、主孔31H1と、2つの補助窪み31H2とから構成される大孔HLを形成することができる。なお、複数の小孔HSを形成するときには、第2レジストマスクRM2として、レジスト表面RMFと対向する平面視において、複数のパターンが形成されたレジストマスクを用いる。第2レジストマスクRM2が有するパターンは、第1パターンRMaとほぼ相似であり、かつ、第1方向DR1および第2方向DR2の各々に沿って並んでいる。
【0072】
図13が示すように、第1レジストマスクRM1は、複数の第1パターンRMaと、複数の第1補助パターンRMbとを有している。各第1パターンRMaおよび各第1補助パターンRMbは、第1レジストマスクRM1の厚さ方向に沿って第1レジストマスクRM1を貫通している。
【0073】
レジスト表面RMFと対向する平面視において、各第1パターンRMaは、第1方向DR1に沿って延びるほぼ八角形状を有している。各第1パターンRMaは、その第1パターンRMaによって形成される表面開口HFが区画する領域とほぼ相似な形状を有している。レジスト表面RMFと対向する平面視において、複数の第1パターンRMaは、第1方向DR1および第2方向DR2に沿って並んでいる。
【0074】
レジスト表面RMFと対向する平面視において、各第1補助パターンRMbは、第1方向DR1に沿って延びる矩形状を有している。各第1補助パターンRMbは、その第1補助パターンRMbによって形成される補助窪み31Cが区画する領域とほぼ相似な形状を有している。レジスト表面RMFと対向する平面視において、第2方向DR2において互いに隣り合う2つの第1パターンRMaの間に1つの第1補助パターンRMbが位置している。
【0075】
こうした第1レジストマスクRM1を用いたエッチングによって、大孔HLと、第2方向DR2において互いに隣り合う2つの大孔HLに繋がる補助窪み31Cとを形成することができる。なお、複数の小孔HSを形成するときには、第2レジストマスクRM2として、レジスト表面RMFと対向する平面視において、複数のパターンが形成されたレジストマスクを用いる。第2レジストマスクRM2が有するパターンは、第1パターンRMaとほぼ相似であり、かつ、第1方向DR1および第2方向DR2の各々に沿って並んでいる。
【0076】
上述した蒸着マスク30を用いて表示装置を製造する方法では、まず、蒸着マスク30を搭載したマスク装置10を蒸着装置の真空槽内に取り付ける。このとき、ガラス基板などの蒸着対象とマスク裏面30Rとが対向するように、かつ、蒸着源とマスク表面30Fとが対向するように、マスク装置10を真空槽内に取り付ける。そして、蒸着装置の真空槽に蒸着対象を搬入し、蒸着源で蒸着物質を昇華させる。これによって、裏面開口HRに追従した形状を有するパターンが、裏面開口HRと対向する蒸着対象に形成される。蒸着物質は、例えば、表示装置の画素を構成する有機発光材料や、表示装置の画素回路を構成する画素電極材料などである。なお、マスク装置10が含む蒸着マスク30を用いた蒸着によって表示装置が有するパターンを形成する工程が、パターン形成工程である。
【0077】
[実施例]
30μmの厚さを有したインバー製のシート30S1を準備した。そして、シート30S1を用いて以下に説明する実施例1、実施例2、比較例1、および、比較例2の蒸着マスクを製造した。
【0078】
[実施例1]
第2レジスト層PR2の露光および現像により、マスク裏面30Rと対向する平面視において、ほぼ正八角形状を有する複数のパターンを、第1方向DR1および第2方向DR2のそれぞれに沿って並ぶように形成した。第1レジスト層PR1の露光および現像により、レジスト表面RMFと対向する平面視において、ほぼ八角形状を有する複数の第1パターンRMaを、第1方向DR1および第2方向DR2のそれぞれに沿って並ぶように形成した。また、レジスト表面RMFと対向する平面視において、第2方向DR2に沿って延びる矩形状を有した複数の第1補助パターンRMbを、第1方向DR1に沿って並ぶ2つの第1パターンRMaの間に2つずつ並ぶように形成した。これにより、第1レジストマスクRM1および第2レジストマスクRM2を得た。
【0079】
第1レジストマスクRM1および第2レジストマスクRM2を用いて、複数のマスク孔31Hをシート30S1に形成した。これにより、上述した蒸着マスク30の第1例に対応する実施例1の蒸着マスク30を得た。実施例1の蒸着マスク30において、大孔HLの形状、および、各部における寸法は以下に記載の通りであった。
【0080】
すなわち、図14が示すように、大孔HLの内面は、2段の円弧状を有することが認められた。また、マスク表面30Fに直交し、かつ、第1方向DR1に沿って延びる平面に沿う端面において、第1方向DR1において1つの大孔HLを含む幅、言い換えれば大孔HLのピッチを第1幅W1に設定し、第1方向DR1における裏面開口HRの幅を第2幅W2に設定した。そして、裏面開口HR間の幅を第3幅W3に設定した。
【0081】
マスク表面30Fと対向する平面視において、1辺の長さが2.8mmである正方形状の測定領域をマスク部31に設定し、以下の13箇所における第1幅W1、第2幅W2、第3幅W3、テーパー角度θ、および、ステップハイSHを測定した。すなわち、測定領域において、測定領域の中心を測定点に設定し、測定領域の中心を通り、かつ、第1方向DR1に沿って延びる直線において、測定領域の中心を挟む2つの測定点を設定した。また、測定領域の中心を通り、かつ、第2方向DR2に沿って延びる直線において、測定領域の中心を挟む2つの測定点を設定した。さらに、測定領域の中心を通る2本の対角線の各々において、測定領域の中心に対する一方側に2つの測定点を設定し、かつ、測定領域の中心に対する他方側に2つの測定点を設定した。なお、各測定点が位置する直線状において、2つの測定点間の距離を同じ値に設定した。また以下では、13の測定点におけるテーパー角度θの平均値を各実施例および各比較例におけるテーパー角度θに設定した。さらに、以下では、13の測定点におけるステップハイSHの平均値を各実施例および各比較例におけるステップハイSHに設定した。
【0082】
実施例1の蒸着マスク30において、第1幅W1が140μmであり、第2幅W2が75μmであり、第3幅W3が65μmであり、テーパー角度θが36°であり、ステップハイSHが0.5μmであることが認められた。また、大孔HLが、中央開口HCから表面開口HFに向けて拡開する段差面を有すること、および、主孔31H1と、第1方向DR1において主孔31H1を挟む2つの補助窪み31H2を含むことが認められた。なお、同一の測定点において、マスク表面30Fに直交し、かつ、第2方向DR2に沿って延びる平面に沿う端面では、テーパー角度θが、57°であることが認められた。
【0083】
[比較例1]
第1レジストマスクRM1が複数の第1パターンRMaのみを有すること以外は、上述した実施例1と同様の方法を用いて比較例1の蒸着マスク40を製造した。
【0084】
図15が示すように、比較例1の蒸着マスク40において、第1幅W1、第2幅W2、第3幅W3、および、ステップハイSHの各々は、実施例1の蒸着マスク30と同じ値であることが認められた。これに対して、比較例1の蒸着マスク40では、テーパー角度θが55°であることが認められた。なお、各値を測定するときの条件を、実施例1と同じ条件に設定した。また、各マスク孔の内面が円弧状を有する一方で、段差面を有しないことが認められた。なお、同一の測定点において、マスク表面30Fに直交し、かつ、第2方向DR2に沿って延びる平面に沿う端面では、テーパー角度θが、57°であることが認められた。
【0085】
[実施例2]
第1レジストマスクRM1が有する第1パターンRMaおよび第1補助パターンRMbを以下のように変更した以外は、実施例1と同様の方法を用いて実施例2の蒸着マスク30を製造した。すなわち、レジスト表面RMFと対向する平面視において、第1方向DR1に沿って延びるほぼ八角形状を有する複数の第1パターンRMaを、第1方向DR1および第2方向DR2のそれぞれに沿って並ぶように第1レジストマスクRM1に形成した。また、レジスト表面RMFと対向する平面視において、第1方向DR1に沿って延びる矩形状を有する第1補助パターンRMbを、第2方向DR2において互いに隣り合う第1パターンRMaの間に1つずつ形成した。なお、実施例2の蒸着マスク30は、上述した蒸着マスク30の第2例に対応する蒸着マスクである。
【0086】
図16が示すように、マスク表面30Fに直交し、かつ、第2方向DR2に沿って延びる平面に沿う断面において、第2方向DR2において1つの大孔HLを含む幅、言い換えれば大孔HLのピッチを第4幅W4に設定し、第2方向DR2における裏面開口HRの幅を第5幅W5に設定した。そして、裏面開口HR間の幅を第6幅W6に設定した。
【0087】
実施例2の蒸着マスク30において、第4幅W4が140μmであり、第5幅W5が90μmであり、第6幅が50μmであり、テーパー角度θが36°であり、ステップハイSHが0.6μmであることが認められた。なお、各値を測定するときの条件を、実施例1と同じ条件に設定した。また、マスク表面30Fと対向する平面視において、第2方向DR2において隣り合う2つの表面開口HFの間に、各表面開口HFに繋がる補助窪み31Cが形成されていることが認められた。なお、同一の測定点において、マスク表面30Fに直交し、かつ、第1方向DR1に沿って延びる平面に沿う端面では、テーパー角度θが33°であることが認められた。
【0088】
[比較例2]
第1レジストマスクRM1が複数の第1パターンRMaのみを有すること以外は、上述した実施例2と同様の方法を用いて比較例2の蒸着マスク50を製造した。
【0089】
図17が示すように、比較例2の蒸着マスク50において、第4幅W4、第5幅W5、第6幅W6、および、ステップハイSHの各々は、実施例2の蒸着マスク30と同じ値であることが認められた。これに対して、比較例2の蒸着マスク50では、テーパー角度θが58°であることが認められた。なお、各値を測定するときの条件を、実施例1と同じ条件に設定した。また、マスク表面と対向する平面視において、複数の表面開口が並ぶことが認められる一方で、2つの表面開口の間に位置する補助窪みは認められなかった。なお、同一の測定点において、マスク表面30Fに直交し、かつ、第1方向DR1に沿って延びる平面に沿う端面では、テーパー角度θが、32°であることが認められた。
【0090】
[評価]
上述したように、大孔HLが主孔31H1と補助窪み31H2とを備える蒸着マスク30によれば、補助窪みを有しない蒸着マスク40と比べて、テーパー角度θを小さくすることが可能であることが認められた。また、2つの大孔HLの間に補助窪み31Cが位置する蒸着マスク30によれば、補助窪み31Cが位置しない蒸着マスク50と比べて、テーパー角度θを小さくすることが可能であることが認められた。すなわち、蒸着マスク30によれば、テーパー角度θを小さくすることによって、蒸着粒子がマスク孔31Hを通過することが可能な蒸着粒子の入射角度における制約を小さくすることができることが認められた。
【0091】
上述した実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)拡開した段差面が表面開口HFの縁Eを拡大するため、段差面を有しないマスク孔31Hと比べて、テーパー角度θを小さくすることが可能である。これにより、蒸着粒子がマスク孔31Hを通過することが可能な蒸着粒子の入射角度における制約を小さくすることができる。
【0092】
(2)段差面が表面と直交する断面において円弧状を有するため、ウェットエッチングによって各段を形成することに適している。
【0093】
(3)表面開口HFの縁Eの一部は、補助窪み31Cとの接続を通じて、マスク表面30Fから窪む形状を有する。そのため、補助窪み31Cを有しないマスク孔31Hと比べて、テーパー角度θを小さくすることが可能である。これにより、蒸着粒子がマスク孔31Hを通過することが可能な蒸着粒子の入射角度における制約を小さくすることができる。
【0094】
(4)表面開口HFの縁Eにおける境界部HBが、マスク表面30Fから窪む形状を有する。そのため、境界部HBを備えない構成と比べて、補助窪み31C以外の領域でもテーパー角度θを小さくすることができる。
【0095】
(5)互いに隣り合う中央開口HCの間の距離が最も小さい部位では、境界部HBによるテーパー角度θを得ることが可能であり、互いに隣り合う中央開口HCの間の距離がより大きい部位では、補助窪み31Cによる小さいテーパー角度θを得ることが可能である。したがって、互いに隣り合う中央開口HCの距離を大きくする設計においても、小さいテーパー角度θを実現することができる。
【0096】
なお、上述した実施形態は、以下のように適宜変更して実施することができる。
[第1例の変形例]
図18が示すように、表面開口HFの縁Eにおける第2部E2は、その表面開口HFと隣り合う他の表面開口HFの第2部E2と合一した境界部HBを備え、境界部HBが、マスク表面30Fから窪む形状を有してもよい。すなわち、蒸着マスク30の第1例においても、マスク孔31Hが、蒸着マスク30の第2例が有する境界部HBと同等の境界部HBを有してもよい。こうした構成によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
【0097】
(6)表面開口HFの縁Eにおける境界部HBが、マスク表面30Fから窪む形状を有するため、境界部HBを備えない構成と比べて、段差面以外の領域でも、テーパー角度θを小さくすることが可能である。
【0098】
・マスク孔31Hが境界部HBを備える構成では、マスク表面30Fと対向する平面視において、境界部HBが、中央開口HCの周囲のうち、互いに隣り合う中央開口HCの間の距離が最も小さい部位を含んでもよい。すなわち、蒸着マスク30の第1例においても、例えば、蒸着マスク30の第2例と同様、第1距離D1が第2距離D2よりも小さく、かつ、第1方向DR1において互いに隣り合う2つのマスク孔31Hによって境界部HBが形成されてもよい。こうした構成によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
【0099】
(7)互いに隣り合う中央開口HCの間の距離が最も小さい領域では、境界部HBによる小さいテーパー角度θを得ることが可能であり、互いに隣り合う中央開口HCの間の距離がより大きい部位では、段差面による小さいテーパー角度θを得ることが可能である。したがって、互いに隣り合う中央開口HCの間の距離が大きい設計においても、小さいテーパー角度θを実現することが可能となる。
【0100】
図19が示すように、表面開口HFの縁Eにおける第1部E1は、その表面開口HFと隣り合う他の表面開口HFの第1部E1と合一した境界部HBを備え、境界部HBが、マスク表面30Fから窪む形状を有してもよい。すなわち、例えば、1つの表面開口HFが含む補助窪み31H2の縁と、この表面開口HFと第1方向DR1において隣り合う他の表面開口HFが含む補助窪み31H2の縁とが合一することによって、境界部HBが形成されてもよい。言い換えれば、蒸着マスク30の第2例における境界部HBが、第1方向DR1において互いに隣り合う2つの補助窪み31H2間に適用されてもよい。こうした構成によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
【0101】
(8)表面開口HFの縁Eにおける境界部HBが、マスク表面30Fから窪む形状を有する。そのため、境界部HBを備えない構成と比べて、テーパー角度θを小さくすることが可能である。
【0102】
・各マスク孔31Hは、マスク表面30Fと対向する平面視において、第2方向DR2において互いに隣り合うマスク孔31H間に位置する窪みを有してもよい。こうした構成では、各マスク孔31Hは、1つの窪みを有してもよいし、第2方向DR2において表面開口HFを挟む2つの窪みを有してもよい。こうした構成によれば、第2方向DR2において、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0103】
・マスク孔31Hの内面は、表面開口HFの全周にわたる段差面を有することも可能である。表面開口HFの全周にわたる段差面を形成するときには、第1パターンRMaの全周にわたる第1補助パターンを第1レジストマスクRM1に形成し、表面開口HFの全周にわたる環状の補助窪みを形成する。
【0104】
・中央開口HCは、マスク裏面30Rに位置してもよい。言い換えれば、各マスク孔31Hは、表面開口HFと裏面開口HRとを備える一方で、中央開口HCを備えない構成でもよい。この場合には、表面開口HFが大開口の一例であり、裏面開口HRが小開口の一例である。つまり、各マスク孔31Hは、大孔HLの内面を備える一方で、小孔HSの内面を備えない構成でもよい。なお、こうした構成では、裏面開口HRの縁と、大孔HLの内面における一点とを結ぶ直線のなかで、基準線BLとともに形成する角度が最も大きくなる直線が傾斜線OLである。こうした構成によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
【0105】
(9)小開口の一例である裏面開口HRがマスク裏面30Rに位置するため、表面開口HFから裏面開口HRまでの加工をマスク表面30F側のみから行うことが可能である。
【0106】
[第2例の変形例]
・各マスク孔31Hは、境界部HBを備えなくてもよい。言い換えれば、マスク表面30Fと対向する平面視において、第1方向DR1において互いに隣り合うマスク孔31Hは、互いから離れていてもよい。
【0107】
・第1方向DR1におけるマスク孔31H間の距離と、第2方向DR2におけるマスク孔31H間の距離とが互いに等しくてもよい。
【0108】
・中央開口HCは、マスク裏面30Rに位置してもよい。言い換えれば、各マスク孔31Hは、表面開口HFと裏面開口HRとを備える一方で、中央開口HCを備えない構成でもよい。この場合には、表面開口HFが大開口の一例であり、裏面開口HRが小開口の一例である。つまり、各マスク孔31Hは、大孔HLの内面を備える一方で、小孔HSの内面を備えない構成でもよい。なお、こうした構成では、裏面開口HRの縁と、大孔HLの内面における一点とを結ぶ直線のなかで、基準線BLとともに形成する角度が最も大きくなる直線が傾斜線OLである。こうした構成によれば、上述した(9)に準じた効果を得ることはできる。
【0109】
[他の変形例]
・蒸着マスク30は、少なくとも1つのマスク部と、マスク部を取り囲む矩形枠状を有したマスクフレームとを備え、マスク部がマスクフレームに接合された構成でもよい。こうした構成では、複数のマスク孔が、マスク部に形成される。
【0110】
・シート30S1に対してレーザー光線を照射することによって、シート30S1に複数のマスク孔31Hを形成してもよい。
【符号の説明】
【0111】
10…マスク装置、20…メインフレーム、21…メインフレーム孔、30,40,50…蒸着マスク、30F…マスク表面、30R…マスク裏面、30S…マスクシート、30S1…シート、31…マスク部、31C,31H2…補助窪み、31H…マスク孔、31H1…主孔、32…外周部、C1…第1曲率中心、C2…第2曲率中心、CA…弧状部、CA1…第1円弧、CA2…第2円弧、CC1…第1曲率円、CC2…第2曲率円、E…縁、E1…第1部、E2…第2部、HB…境界部、HC…中央開口、HCO…接続部、HF…表面開口、HL…大孔、HR…裏面開口、HS…小孔、PL1…第1保護層、PL2…第2保護層、PR1…第1レジスト層、PR2…第2レジスト層、RC1…第1曲率半径、RC2…第2曲率半径、RM1…第1レジストマスク、RM2…第2レジストマスク、RMa…第1パターン、RMb…第1補助パターン、RMF…レジスト表面、SH…ステップハイ。
図1
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