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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04082 20160101AFI20240423BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20240423BHJP
   H01M 8/0438 20160101ALI20240423BHJP
   H01M 8/0432 20160101ALI20240423BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240423BHJP
【FI】
H01M8/04082
H01M8/04746
H01M8/0438
H01M8/0432
H01M8/10 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020024162
(22)【出願日】2020-02-17
(65)【公開番号】P2021128901
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福永 聡洋
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-352837(JP,A)
【文献】特開2008-159407(JP,A)
【文献】特開2003-151588(JP,A)
【文献】特開2012-109132(JP,A)
【文献】特開2009-21041(JP,A)
【文献】特開2014-154385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化剤ガスと燃料ガスとを反応させて発電する燃料電池と、
前記燃料ガスを貯留する貯槽と、
前記貯槽に貯留される前記燃料ガスの圧力を調整して前記燃料電池へ供給する第一噴射装置と、
前記燃料電池から排出される前記燃料ガスの圧力を調整する第二噴射装置と
前記第二噴射装置の下流側を前記第一噴射装置の下流側に繋げて前記燃料電池から排出される前記燃料ガスを前記燃料電池へ供給される前記燃料ガスに合流させる合流装置と、
前記第二噴射装置の噴射量を制御する制御部と、を備える燃料電池システム。
【請求項2】
前記第二噴射装置から前記合流装置へ流通する前記燃料ガスの逆流を妨げる逆止弁を備える請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記第二噴射装置から前記逆止弁へ流通する前記燃料ガスの第一圧力を測定する第一圧力計と、
前記逆止弁から前記合流装置へ流通する前記燃料ガスの第二圧力を測定する第二圧力計と、を備え、
前記制御部は、前記第一圧力と前記第二圧力との差圧に基づいて前記第二噴射装置の噴射量を制御する請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記合流装置から前記燃料電池へ流通する前記燃料ガスの第三圧力を測定する第三圧力計と、
前記第二噴射装置から前記合流装置へ流通する前記燃料ガスの第四圧力を測定する第四圧力計と、を備え、
前記制御部は、前記第三圧力と前記第四圧力との差圧に基づいて前記第二噴射装置の噴射量を制御する請求項1または2に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記燃料電池の温度を測定する温度計を備え、
前記制御部は、前記温度が閾値以下の場合には、前記第二噴射装置を制御して前記合流装置へ向かう前記燃料ガスの流通を停止させる請求項1から4のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記燃料電池から前記第二噴射装置へ流通する前記燃料ガスに含まれる水分を分離する気水分離器を備え、
前記制御部は、前記気水分離器が排水機能を喪失した場合には、前記第二噴射装置を制御して前記合流装置へ向かう前記燃料ガスの流通を停止させる請求項1から5のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池スタックから燃料ガス排出路に排出されたアノードオフガスの少なくとも一部を、燃料ガス循環路に通流させるポンプを備える燃料電池システムが知られている。燃料ガス循環路を流通するアノードオフガスは、インジェクターから燃料電池スタックへ向かって燃料ガス供給路を流通する水素ガスに混合されて燃料電池スタックへ再び供給される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-192033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の燃料電池システムは、燃料電池スタックのアノードオフガスを循環させるポンプを備えている。このポンプは、アノードオフガスを循環させるために相応の電力を消費する。このようなポンプの電力消費は、燃料電池システムの発電効率を低下させる。また、ポンプは、相応の搭載スペースを要する。このようなポンプの搭載スペースは、燃料電池システムの小型化を妨げる。
【0005】
そこで、本発明は、燃料電池スタックのアノードオフガスを発電に再利用することが可能であって、発電効率を向上可能であり、かつ小型化可能な燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するため本発明に係る燃料電池システムは、酸化剤ガスと燃料ガスとを反応させて発電する燃料電池と、前記燃料ガスを貯留する貯槽と、前記貯槽に貯留される前記燃料ガスの圧力を調整して前記燃料電池へ供給する第一噴射装置と、前記燃料電池から排出される前記燃料ガスの圧力を調整する第二噴射装置と、前記第二噴射装置の下流側を前記第一噴射装置の下流側に繋げて前記燃料電池から排出される前記燃料ガスを前記燃料電池へ供給される前記燃料ガスに合流させる合流装置と、前記第二噴射装置の噴射量を制御する制御部と、を備えている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、燃料電池スタックのアノードオフガスを発電に再利用することが可能であって、発電効率を向上可能であり、かつ小型化可能な燃料電池システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る燃料電池システムの構成図。
図2】本発明の実施形態に係る燃料電池システムが実行するアノードオフガス循環制御のアルゴリズムの一例を表現するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る燃料電池システムの実施形態について図1から図2を参照して説明する。なお、複数の図面中、同一または相当する構成には同一の符号を付す。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係る燃料電池システムの構成図である。
【0011】
図1に示すように、本実施形態に係る燃料電池システム1は、燃料ガスとしての水素ガスと酸化剤ガスとしての酸素ガス(空気に含まれる酸素ガス)とを反応させて発電する燃料電池3と、燃料電池3へ空気を供給する空気供給通路5と、燃料電池3から発電反応に使用された空気を排出する空気排出通路6と、水素ガスを貯蔵する貯槽7と、貯槽7から燃料電池3に水素ガスを供給する水素供給通路8と、燃料電池3から排出された水素ガスを水素供給通路8に送り込んで再び燃料電池3に供給する水素循環通路9と、燃料電池システム1の運転を制御する制御部11と、を備えている。
【0012】
燃料電池システム1は、燃料電池3で発電した電力を負荷101へ供給する。例えば、燃料電池システム1が車両に搭載される場合には、負荷101は、駆動輪を駆動させるモーター102を含む。モーター102は、インバーター103を介して燃料電池3に接続される。この車両が、燃料電池システム1に並列に接続される電池105を備えている場合には、負荷101が要求する電力は、燃料電池システム1と電池105とで分担される。このような車両では、制御部11は、燃料電池システム1と電池105との出力配分を演算できることが好ましい。また、電池105は、蓄電池、例えばリチウムイオン電池である。
【0013】
燃料電池3は、積層方向Lに沿って積層される多数の燃料電池セル15を備えている。燃料電池3は、燃料電池セル15を最小単位とし、積層された数十から数百の燃料電池セル15を備えている。積層される燃料電池セル15の数量は、燃料電池3に要求される発電能力による。複数の燃料電池セル15の積層体は、燃料電池スタックと呼ばれる。
【0014】
それぞれの燃料電池セル15は、アノード極16(燃料極)、固体高分子膜17(電解質)、カソード極18(空気極)を一体化した膜電極接合体19(Membrane Electrode Assembly、MEA)と、膜電極接合体19を表裏から挟む一対のセパレーター21、22と、を備えている。
【0015】
また、それぞれの燃料電池セル15は、アノード極16に反応ガスとしての水素ガスを供給する水素ガス流通路28と、カソード極18に反応ガスとしての酸素ガスを含む空気を供給する空気流通路29と、を有している。水素ガス流通路28は、アノード極16とアノード極16に対面するセパレーター21との間に区画されている。空気流通路29は、カソード極18とカソード極18に対面するセパレーター22との間に区画されている。
【0016】
水素ガス流通路28を通じてそれぞれの燃料電池セル15に水素ガスが供給され、空気流通路29を通じてそれぞれの燃料電池セル15に空気が供給される。これら、水素ガスと空気に含まれる酸素ガスとが膜電極接合体19を挟んで反応してそれぞれの燃料電池セル15に電圧を生じさせる。それぞれの燃料電池セル15に生じた電圧の総和が燃料電池3の出力電圧である。
【0017】
空気供給通路5は、燃料電池3の空気流通路29の上流に接続されている。空気供給通路5は、燃料電池3へ空気を供給可能な圧縮機35と、圧縮機35で圧縮されて高温になった空気を冷却するインタークーラー36と、インタークーラー36の上流で空気供給通路5から分岐しインタークーラー36の下流で空気供給通路5に合流するバイパス回路37と、を備えている。
【0018】
圧縮機35は、インタークーラー36の上流側に配置されている。圧縮機35は、吸い込んだ空気を圧縮して空気供給通路5に送り込む。圧縮機35はターボ形である。
【0019】
インタークーラー36は、圧縮機35によって圧縮された空気の温度が燃料電池3に供給するには高温すぎる場合には、圧縮機35によって圧縮された空気を冷却する。
【0020】
インタークーラー36は、圧縮機35の下流側に配置されている。バイパス回路37は、圧縮機35から吐出されて燃料電池3へ向かう空気のうち、インタークーラー36を通過する空気の分配量と、インタークーラー36を通過せずに迂回する空気の分配量と、を変化させる。そうすることで、バイパス回路37は、燃料電池3に供給される空気の温度を、燃料電池セル15の発電反応が効率的に起きる適正な温度範囲に収まるよう調整する。バイパス回路37は、バイパス回路37を通過してインタークーラー36を迂回する空気の分配量を変化させ、その結果、インタークーラー36を通過する空気の分配量を変化させる迂回量調整弁39を備えている。
【0021】
空気排出通路6は、燃料電池3の空気流通路29の下流に接続されている。空気排出通路6は、背圧弁45を備えている。背圧弁45は、燃料電池3の下流側の圧力損失を変化させて燃料電池3に流れる空気の流量を変化させることができる。
【0022】
水素供給通路8は、燃料電池3の水素ガス流通路28の上流に接続されている。水素供給通路8は、貯槽7に貯留されている水素ガスの圧力を燃料電池3の燃料ガスとして適合する圧力に調整する第一インジェクター51(第一噴射装置)を備えている。貯槽7に貯留されている水素ガスは、第一インジェクター51によって降圧されて燃料電池3へ供給される。
【0023】
第一インジェクター51は、制御部11の制御によって目標圧力の水素ガスを燃料電池3へ所定の周期で間欠的に噴射する。この第一インジェクター51の噴射量の制御は、燃料電池3の水素ガス流通路28における水素ガスの圧力と空気流通路29における空気の圧力との差圧を所定の範囲内に維持するよう機能する。
【0024】
水素循環通路9は、燃料電池3の水素ガス流通路28の下流に接続されている。水素循環通路9は、燃料電池3から排出される未反応の水素ガスを含む排出ガス(以下、「アノードオフガス」と言う。)を水素供給通路8に流入させる。水素循環通路9は、水素供給通路8の第一インジェクター51よりも下流側で水素供給通路8に合流する。水素循環通路9は、アノードオフガスの圧力を調整する第二インジェクター52(第二噴射装置)と、第二インジェクター52の下流側を第一インジェクター51の下流側に繋げてアノードオフガスを燃料電池3へ供給される水素ガスに合流させるエジェクター53(合流装置)と、第二インジェクター52からエジェクター53へ流通する水素ガスの逆流を妨げる逆止弁55と、を備えている。
【0025】
第二インジェクター52内のバルブ(図示省略)が開くと、アノードオフガスが逆止弁55およびエジェクター53を介して水素供給通路8に送り込まれ、第一インジェクター51から流出する水素ガスと合流して再び燃料電池3に供給される。なお、第二インジェクター52に代えて、圧力調整弁や開閉弁などの弁を設けても良い。
【0026】
第二インジェクター52も第一インジェクター51と同様に、制御部11の制御によって目標圧力の水素ガスをエジェクター53へ所定の周期で間欠的に噴射する。この第二インジェクター52の噴射量の制御は、逆止弁55の上流側の圧力(第二インジェクター52から逆止弁55までの流路の圧力)と下流側の圧力(逆止弁55からエジェクター53までの流路の圧力)との圧力差を変化させる。この圧力差が、逆止弁55のクラッキング圧より大きい場合には、逆止弁55が開放して水素循環通路9から水素供給通路8へアノードオフガスが送られる一方、この圧力差が、逆止弁55のクラッキング圧以下であれば、逆止弁55が閉鎖して水素循環通路9から水素供給通路8へのアノードオフガスの供給が妨げられる。
【0027】
エジェクター53は、水素供給通路8と水素循環通路9との合流部に配置されている。エジェクター53は、水素循環通路9の最下流に設けられ、かつ第一インジェクター51と燃料電池3との間の流路に設けられている。エジェクター53は、水素循環通路9を流通したアノードオフガスを、第一インジェクター51から燃料電池3へ向かって水素供給通路8を流通する水素ガスに混合する。エジェクター53は、第一インジェクター51から流れ込む水素ガスをノズル(図示省略)から高速に噴出させて負圧を生じさせ、この負圧によって水素循環通路9内のアノードオフガスを吸い込み、第一インジェクター51から流出する水素ガスに混合させる。また、エジェクター53は、混合流体の速度を減じて圧力を回復させるディフューザー(図示省略)を有している。
【0028】
また、水素循環通路9は、燃料電池3から第二インジェクター52へ流通するアノードオフガスに含まれる水分を分離する気水分離器57を備えている。気水分離器57は、燃料電池3から排出されるアノードオフガスに含まれる水分を分離し、水分が分離された、乾いたアノードオフガスを第二インジェクター52へ送る。気水分離器57は、アノードオフガスから分離した水分を貯留する。気水分離器57は、貯留した水分を適宜に排水する機能を有する排水弁58を備えている。
【0029】
さらに、水素循環通路9は、アノードオフガスを大気へ放出するパージ弁59を備えている。パージ弁59は、気水分離器57から第二インジェクター52へ向かう流路から分岐した箇所に設けられている。パージ弁59は、例えば逆止弁55を閉鎖して水素循環通路9から水素供給通路8へのアノードオフガスの供給を妨げている場合に、アノードオフガスを水素循環通路9から大気へ放出する。パージ弁59は、制御部11の制御によって開閉する、例えば電磁弁である。
【0030】
空気供給通路5から燃料電池3に供給される空気は、積層された複数の燃料電池セル15のそれぞれが有するカソード側の空気流通路29に分配される。分配された空気は、それぞれの膜電極接合体19のカソード側の面内を伝って流れた後、空気排出通路6へ排出される。
【0031】
水素供給通路8から燃料電池3に供給された水素ガスは、積層された複数の燃料電池セル15のそれぞれが有するアノード側の水素ガス流通路28に分配される。分配された水素ガスは、それぞれの膜電極接合体19のアノード側の面内を伝って流れた後、水素循環通路9へ排出される。
【0032】
制御部11は、信号線61を介して燃料電池3、圧縮機35、迂回量調整弁39、背圧弁45、第一インジェクター51、第二インジェクター52、気水分離器57、およびパージ弁59に接続されている。制御部11は、負荷101が要求する電力量(要求電力量、要求出力)に基づいて、これら燃料電池3、圧縮機35、迂回量調整弁39、背圧弁45、第一インジェクター51、第二インジェクター52、気水分離器57、およびパージ弁59の運転を制御し、または運転の指令を下す。制御部11は、負荷101の運転制御を含んでいても良い。負荷101が要求する電力量は、燃料電池システム1を含む上位システムの制御部から燃料電池システム1の制御部11へ送られる信号に含まれている。
【0033】
制御部11は、例えば中央処理装置(Central Processing Unit、CPU、図示省略)、中央処理装置で実行(処理)される各種演算プログラム、パラメータなどを記憶する補助記憶装置(例えば、Read Only Memory、ROM、図示省略)、プログラムの作業領域が動的に確保される主記憶装置(例えば、Random Access Memory、RAM、図示省略)を備えている。
【0034】
燃料電池システム1は、空気の吸気および排気と、水素ガスの受け入れ、供給、循環、および排気と、燃料電池3、圧縮機35、迂回量調整弁39、背圧弁45、第一インジェクター51、第二インジェクター52、気水分離器57、およびパージ弁59の運転制御と、に要する種々のセンサーを備えている。制御部11は、これら種々のセンサーから取得する情報に基づいて燃料電池システム1の運転を制御し、負荷101へ電力を供給する。
【0035】
これら種々のセンサーは、例えば、燃料電池3の温度を測定する温度センサー62を含んでいる。
【0036】
また、これら種々のセンサーは、例えば、第二インジェクター52から逆止弁55へ流通する水素ガスの圧力(第一圧力Pa)を測定する逆止弁上流圧力センサー65(第一圧力センサー)と、逆止弁55からエジェクター53へ流通する水素ガスの圧力(第二圧力Pb)を測定する逆止弁下流圧力センサー66(第二圧力センサー)と、エジェクター53から燃料電池3へ流通する水素ガスの圧力(第三圧力Pc)を測定する水素ガス供給側圧力センサー67(第三圧力センサー)と、を含んでいる。
【0037】
さらに、これら種々のセンサーは、例えば、圧縮機35が吐出する空気の流量を測定する吐出流量センサー71と、圧縮機35の回転数を測定する回転数センサー72と、圧縮機35の吸込側の圧力を測定する吸込側圧力センサー73と、圧縮機35の吐出側の圧力を測定する吐出側圧力センサー75と、を含んでいる。
【0038】
また、制御部11は、例えば燃料電池3の暖機運転の際に、水素循環通路9を通じたアノードオフガスの循環を断ち、暖機運転の終了後には水素循環通路9を通じてアノードオフガスを燃料電池3に循環させるアノードオフガス循環制御機能81を有している。
【0039】
アノードオフガス循環制御機能81は、演算プログラムである。アノードオフガス循環制御機能81は、逆止弁上流圧力センサー65が測定する圧力Paと逆止弁下流圧力センサー66が測定する圧力Pbとの差圧(圧力Pa-圧力Pb)に基づいて第二インジェクター52の噴射量を制御する。
【0040】
ここで、逆止弁55のクラッキング圧力をCPとする。そして、アノードオフガス循環制御機能81は、アノードオフガスを循環させる場合には、第一圧力Paと第二圧力Pbとの差圧がクラッキング圧力CPより大きくなるよう第二インジェクター52の噴射量を制御する。また、アノードオフガス循環制御機能81は、アノードオフガスの循環を断つ場合には、第一圧力Paと第二圧力Pbとの差圧(圧力Pa-圧力Pb)がクラッキング圧力CP以下になるよう第二インジェクター52の噴射量を制御する。換言すると、アノードオフガス循環制御機能81は、アノードオフガスを循環させる場合には、[数1]の関係が満たされるよう第二インジェクター52の噴射量を制御する。また、アノードオフガス循環制御機能81は、アノードオフガスの循環を断つ場合には、[数2]の関係が満たされるよう第二インジェクター52の噴射量を制御する。なお、第二インジェクター52内のバルブを閉じて第二インジェクター52の噴射量を零値にすることで[数2]の関係は容易に満たされる。
【0041】
[数1]
(圧力Pa)-(圧力Pb)>(クラッキング圧力CP)
【0042】
[数2]
(圧力Pa)-(圧力Pb)≦(クラッキング圧力CP)
【0043】
なお、[数1]の関係が満たされるよう第二インジェクター52の噴射量を制御してアノードオフガスを循環させる制御、および[数2]の関係が満たされるよう第二インジェクター52の噴射量を制御してアノードオフガスの循環を断つ制御をアノードオフガス循環制御と呼ぶ。
【0044】
また、エジェクター53の仕様または実験値に基づいて、エジェクター53から燃料電池3へ流通する水素ガスの圧力Pcと逆止弁55からエジェクター53へ流通する水素ガスの圧力Pbとの関係が定まる場合には、アノードオフガス循環制御機能81は、エジェクター53から燃料電池3へ流通する水素ガスの圧力Pcと、第二インジェクター52から逆止弁55へ流通する水素ガスの圧力Paと、に基づいてアノードオフガス循環制御を実行できる。この場合には、燃料電池システム1は、逆止弁55からエジェクター53へ流通する水素ガスの圧力Pbを測定する逆止弁下流圧力センサー66を備えていなくても良い。この場合、エジェクター53から燃料電池3へ流通する水素ガスの圧力Pcと逆止弁55からエジェクター53へ流通する水素ガスの圧力Pbとの関係をΔP(ΔP=圧力Pc-圧力Pb)と定義すると、[数1]および[数2]における圧力Pbの代わりに、圧力PcからΔPを引いた差(圧力Pc-ΔP)が[数1]および[数2]に代入される。
【0045】
さらに、燃料電池システム1は、逆止弁55を備えていなくても良い。この場合には、アノードオフガス循環制御機能81は、逆止弁上流圧力センサー65および逆止弁下流圧力センサー66に代えて、第二インジェクター52からエジェクター53へ流通する水素ガスの圧力(第四圧力)を測定するエジェクター吸引圧力センサー(第四圧力センサー、図示省略)を備えていれば良い。アノードオフガス循環制御機能81は、水素ガス供給側圧力センサー67が測定する圧力Pcとエジェクター吸引圧力センサーが測定する圧力に基づいて第二インジェクター52の噴射量を制御する。
【0046】
ところで、エジェクター53の吸込流量(第二インジェクター52からエジェクター53へ流通する水素ガスの流量)は、第一インジェクター51からエジェクター53へ供給される水素ガスの供給圧力によって決まる。エジェクター53は、この吸込流量が、保証流量範囲内に収まっている場合に、第二インジェクター52側の水素ガスを安定して吸い込むことができる。換言すると、エジェクター53は、第二インジェクター52からエジェクター53へ吸い込まれる水素ガスの吸込流量が保証流量範囲内に収まっている場合には(保証流量下限値≦吸込流量≦保証流量上限値)、第二インジェクター52側から水素ガスを確実に吸い込み、この吸込流量がある保証流量範囲から外れている場合には(保証流量下限値>吸込流量、吸込流量>保証流量上限値)、第二インジェクター52側から水素ガスを安定して吸い込めない。そこで、第四圧力とエジェクター53の吸込流量との相関関係を、予め実験または試験によって予め取得し、保証流量範囲に対応する保証圧力範囲を明らかにしておく。そして、アノードオフガス循環制御は、アノードオフガスを循環させる場合には、第四圧力が保証圧力範囲内に収まるように第二インジェクター52の開度を制御する(保証圧力下限値≦第四圧力≦保証圧力上限値)。また、アノードオフガス循環制御は、アノードオフガスを循環させない場合には、第二インジェクター52を全閉させる。
【0047】
また、燃料電池システム1は、パージ弁59の開閉を制御することで、アノードオフガス循環制御を行うこともできる。
【0048】
図2は、本発明の実施形態に係る燃料電池システムが実行するアノードオフガス循環制御のアルゴリズムの一例を表現するフローチャートである。
【0049】
図2に示すように、本実施形態に係る燃料電池システム1の制御部11は、燃料電池3が起動すると、アノードオフガス循環制御を開始する。制御部11は、温度センサー62から燃料電池3の温度を取得する(ステップS1)。
【0050】
次いで、アノードオフガス循環制御機能81は、燃料電池3の温度が予め設定される温度閾値以下か否かを判断する(ステップS2)。ステップS2の判断が肯定される場合、つまり燃料電池3の温度が予め設定される温度閾値以下の場合には(ステップS2 Yes)、アノードオフガス循環制御機能81は、アノードオフガス循環制御によって第二インジェクター52の噴射量を制御してアノードオフガスの循環を断ち(ステップS3)、ステップS1へ戻り、処理を継続する。この場合、制御部11は、[数2]の関係が満たされるよう第二インジェクター52の噴射量を制御し、かつパージ弁59を開いてアノードオフガスを大気へ排気する。
【0051】
低温環境下において低負荷運転を継続させると、燃料電池3の温度が低下する。また、低温環境下における起動直後の燃料電池3は、十分に暖まっていない。そして、低温な燃料電池3に湿気を帯びたアノードオフガスを循環させると、燃料電池3内の水素ガス流通路28にフラッディングが生じる虞がある。このフラッディングは、水素ガス流通路28の圧力損失を増加させて水素ガスの流通を阻害し、燃料電池3の出力を低下させる。そこで、温度閾値は、例えば、湿気を帯びたアノードオフガスを燃料電池3に循環させることで、燃料電池3内の水素ガス流通路28にフラッディングを生じさせることのない温度に設定される。
【0052】
一方、ステップS2の判断が否定される場合、つまり燃料電池3の温度が予め設定される温度閾値より大きい場合には(ステップS2 No)、アノードオフガス循環制御機能81は、アノードオフガス循環制御によって第二インジェクター52の噴射量を制御してアノードオフガスを循環させて(ステップS4)、ステップS2へ戻り、処理を継続する。この場合、制御部11は、[数1]の関係が満たされるよう第二インジェクター52の噴射量を制御する。
【0053】
また、例えば、気水分離器57の排水弁58の作動不良によって、気水分離器57の排水機能が低下または喪失した場合には、気水分離器57から液体の水(液水)が水素循環通路9に流入する虞がある。そして、気水分離器57から水素循環通路9に液水が流れ込む状態でアノードオフガスを循環させると、燃料電池3内の水素ガス流通路28にフラッディングが生じる。そこで、アノードオフガス循環制御機能81は、気水分離器57の排水機能が低下または喪失した場合には、第二インジェクター52を制御してエジェクター53へ向かう水素ガスの流通を停止させる。
【0054】
以上のように、本実施形態に係る燃料電池システム1は、燃料電池3から排出される水素ガスの圧力を調整する第二インジェクター52と、第二インジェクター52の下流側を第一インジェクター51の下流側に繋げて燃料電池3から排出される水素ガスを燃料電池3へ供給される水素ガスに合流させるエジェクター53と、を備えている。したがって、燃料電池システム1は、従来の燃料電池システムのようにポンプを用いることなく、アノードオフガスを燃料電池3へ循環可能である。換言すると、燃料電池システム1は、一般的にポンプに比べて省電力かつコンパクトな燃料噴射装置または弁を用いてアノードオフガスを燃料電池3へ循環可能である。そのため、燃料電池システム1は、従来の燃料電池システムのような発電効率の低下を抑制し、かつ容易に小型化できる。
【0055】
また、本実施形態に係る燃料電池システム1は、第二インジェクター52からエジェクター53へ流通する水素ガスの逆流を妨げる逆止弁55を備えている。そのため、燃料電池システム1は、電力を消費することなく水素循環通路9における水素ガスの逆流を防止できる。また、燃料電池システム1は、ポンプを備える従来の燃料電池システムに比べて、第二インジェクター52または弁と逆止弁55とを備える簡易な構成によって、燃料電池3へのアノードオフガスの循環と循環停止とを切り替え可能であり、かつ水素循環通路9での水素ガスの逆流を防止可能である。さらに、燃料電池システム1は、第二インジェクター52または弁と逆止弁55とによって、水素循環通路9における水素ガスの逆流防止機能のロバスト性を向上できる。
【0056】
さらに、本実施形態に係る燃料電池システム1は、逆止弁上流圧力センサー65が測定する圧力Paと逆止弁下流圧力センサー66が測定する圧力Pbとの差圧(圧力Pa-圧力Pb)に基づいて第二インジェクター52の噴射量を制御する。そのため、燃料電池システム1は、極めて容易に燃料電池3へのアノードオフガスの循環と循環停止とを切り替え可能である。なお、燃料電池システム1は、エジェクター53から燃料電池3へ流通する水素ガスの圧力Pcと、第二インジェクター52から逆止弁55へ流通する水素ガスの圧力Paと、に基づいて第二インジェクター52の噴射量を制御することもできる。また、燃料電池システム1は、水素ガス供給側圧力センサー67が測定する圧力Pcとエジェクター吸引圧力センサーが測定する圧力とに基づいて第二インジェクター52の噴射量を制御することもできる。
【0057】
また、本実施形態に係る燃料電池システム1は、燃料電池3の温度が温度閾値以下の場合には、第二インジェクター52または弁を制御してエジェクター53へ向かう水素ガスの流通を停止させる。そのため、燃料電池システム1は、低温環境下における燃料電池3の起動時や低負荷運転時に、燃料電池3の温度低下にともなうフラッディングの発生を容易に防止できる。
【0058】
さらに、本実施形態に係る燃料電池システム1は、気水分離器57が排水機能を喪失した場合には、第二インジェクター52または弁を制御してエジェクター53へ向かう水素ガスの流通を停止させる。そのため、燃料電池システム1は、気水分離器57が排水機能を喪失した場合であってもフラッディングの発生を容易に防止できる。
【0059】
したがって、本発明に係る燃料電池システム1によれば、燃料電池3のアノードオフガスを発電に再利用することが可能であって、発電効率を向上可能であり、かつ小型化可能である。
【符号の説明】
【0060】
1…燃料電池システム、3…燃料電池、5…空気供給通路、6…空気排出通路、7…貯槽、8…水素供給通路、9…水素循環通路、11…制御部、15…燃料電池セル、16…アノード極、17…固体高分子膜、18…カソード極、19…膜電極接合体、21、22…セパレーター、28…水素ガス流通路、29…空気流通路、35…圧縮機、36…インタークーラー、37…バイパス回路、39…迂回量調整弁、45…背圧弁、51…第一インジェクター、52…第二インジェクター、53…エジェクター、55…逆止弁、57…気水分離器、58…排水弁、59…パージ弁、61…信号線、62…温度センサー、65…逆止弁上流圧力センサー、66…逆止弁下流圧力センサー、67…水素ガス供給側圧力センサー、71…吐出流量センサー、72…回転数センサー、73…吸込側圧力センサー、75…吐出側圧力センサー、81…アノードオフガス循環制御機能、101…負荷、102…モーター、103…インバーター、105…電池。
図1
図2